JP6210973B2 - シート状構造物の輸送用液体組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、シート状構造物の輸送に用いる輸送用液体組成物、および該輸送用液体組成物を用いる輸送方法に関する。
近年の心臓病に対する治療の革新的進歩にかかわらず、重症心不全に対する治療体系は未だ確立されていない。心不全の治療法としては、βブロッカーやACE阻害剤による内科治療が行われるが、これらの治療が奏功しないほど重症化した心不全には、補助人工心臓や心臓移植などの置換型治療、つまり外科治療が行われる。
このような外科治療の対象となる重症心不全には、進行した弁膜症や高度の心筋虚血に起因するもの、急性心筋梗塞やその合併症、急性心筋炎、虚血性心筋症(ICM)、拡張型心筋症(DCM)などによる慢性心不全やその急性憎悪など、多種多様の原因がある。
これらの原因と重症度に応じて弁形成術や置換術、冠動脈バイパス術、左室形成術、機械的補助循環などが適用される。
この中で、ICMやDCMによる高度の左室機能低下から心不全を来たしたものについては、心臓移植や人工心臓による置換型治療のみが有効な治療法とされてきた。しかしながら、これら重症心不全患者に対する置換型治療は、慢性的なドナー不足、継続的な免疫抑制の必要性、合併症の発症など解決すべき問題が多く、すべての重症心不全に対する普遍的な治療法とは言い難い。
その一方、最近、重症心不全治療の解決策として新しい再生医療の展開が不可欠と考えられている。
重症心筋梗塞等においては、心筋細胞が機能不全に陥り、さらに線維芽細胞の増殖、間質の線維化が進行し心不全を呈するようになる。心不全の進行に伴い、心筋細胞は傷害されてアポトーシスに陥るが、心筋細胞は殆ど細胞分裂をおこさないため、心筋細胞数は減少し心機能の低下もさらに進む。
このような重症心不全患者に対する心機能回復には細胞移植法が有用とされ、既に自己骨格筋芽細胞による臨床応用が開始されている。
近年、その一例として、組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いることによって、成体の心筋以外の部分に由来する細胞を含む心臓に適用可能な三次元に構成された細胞培養物と、その製造方法が提供された(特許文献1)。
また、皮膚細胞や角膜細胞などにおいても、シート状に形成された細胞培養物を用いた移植法の臨床応用が開始されている。このようなシート状の細胞培養物を臨床使用する場合、実際に細胞培養物を製造した場所から、例えば術場などに無菌的に輸送して使用する必要がある。そこで、例えばシート状の培養角膜上皮シートや細胞培養物などの膜組織を安定的に輸送するための、種々の方法や器具が開発されている(特許文献2〜4)。
特表2007−528755号公報 特開2003−70460号公報 特許第4749155号公報 特開2002−335950号公報
シート状細胞培養物、特に再生医療に用いるための移植用シート状細胞培養物は、細胞のバイアビリティが高いことが直接治療効果に影響するため、輸送の間細胞を生存させ続けることが必要である。
本発明者は、実際の臨床現場においては、移植用のシート状細胞培養物などは同一施設内または隣接の施設などで製造され、術場に無菌的に輸送されることが多いところ、従来の輸送手段には、例えば施設内の移動や1〜2時間程度の輸送など、ちょっとした輸送に適した簡便な輸送手段がないという課題に直面した。したがって、本発明の目的は、シートの形状を保ったまま簡便な輸送を可能にするという課題を解決し、シート状の構造物を安定的に輸送することが可能な輸送用液体組成物および該輸送用液体組成物を用いた輸送方法を提供することにある。
本発明者は、前記の課題を解決するために研究する中で、ある程度の粘度を有する流体中に保持して輸送すると、調製や取り回しも簡便である上に揺動による影響も効果的に抑制できることを見出し、鋭意研究を続けた結果本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、以下に関する。
1)シート状構造物の輸送用液体組成物であって、液体組成物が粘性液体である、前記液体組成物。
2)粘性液体が、生体液体に許容される程度の粘度を有する生体適合性の液体である、1)に記載の液体組成物。
3)粘度が、25℃で1〜3mPa・sである、1)〜2)のいずれかに記載の液体組成物。
4)液体組成物が、粘度を高粘度から低粘度に変化させる、または低粘度から高粘度に変化させることができるものである、1)〜3)のいずれかに記載の液体組成物。
5)シート状構造物が、シート状細胞培養物である、1)〜4)のいずれかに記載の液体組成物。
6)シート状構造物を輸送する方法であって、粘性液体中で該粘性液体の粘性によってシート状構造物を保持させて輸送することを含む、前記方法
本発明によれば、シート状構造物を、しわ、よれ、破損などを生じることなく輸送することができる。またセッティングも簡便で、取り扱いも容易であるため、特に短時間の輸送において有利に用いることができる。さらにシート状細胞培養物や移植用のシート状構造物を扱う場合であっても、細胞毒性や生体適合性などを考慮して性質にあった液を選択することによって、輸送直後に輸送したシート状構造物を使用することも可能となる。このことは移植用シート状細胞培養物など、短時間の輸送機会が多く、生体適合性などの点で取り扱いに制限がある上に、脆弱なために取り扱いに注意を必要とするようなシートを扱う場合に特に有利である。
図1は、回転振とう前の、各濃度のフィブリノーゲンゲル水溶液中のシート状骨格筋芽細胞培養物の様子を表す写真である。 図2は、回転振とう後の、各濃度のフィブリノーゲンゲル水溶液中のシート状骨格筋芽細胞培養物の様子を表す写真である。図1と比較してみると分かるとおり、フィブリノーゲンゲルを入れていないもの(0mg/mL)は、振とうによる揺動のため、シート状骨格筋芽細胞培養物が破損しているが、10〜40mg/mLのフィブリノーゲンゲル水溶液では、振とう後もシート形状を保ったまま、破損やよれ、しわも観察されなかった。しかしながら50mg/mLのフィブリノーゲンゲル水溶液になると、シート状骨格筋芽細胞培養物はシート形状を保つことができずに崩壊してしまったことが観察される。
本発明は、粘性液体である、シート状構造物の輸送用液体組成物に関する。
本発明において、「輸送用液体組成物」とは、液体組成物中に輸送対象を保持した状態で輸送対象ごと液体組成物を輸送することにより、輸送対象を目的場所に輸送するための液体組成物を意味する。
輸送対象は容器内の液体組成物中に保持された状態で輸送される。液体組成物が入れられる容器は特に限定されないが、開放部分を有する開放系の容器であってもよいし、密封された状態で液体組成物が液密となるように構成された容器であってもよい。
輸送対象は特に限定されないが、数分から数十分、または数時間から数日を輸送時間として輸送される。輸送時間の内、短時間の輸送とは数分から数時間、好ましくは数分から数十分にかけての輸送である。輸送対象はシート状構造物のシート状構造が保持されるような条件で輸送される。輸送対象を保持した液体組成物や液体組成物が入れられた容器に対して大きな外力がかからないように輸送される。
本発明において、液体組成物は粘性液体である。「粘性液体」とは、純水よりも高い粘度を有する液体をいう。
本発明において、粘性液体はある粘度を有する。「粘度」とは、ずり速度に垂直な平面において、速度方向に単位面積あたりにつき生じる応力の大きさのことをいい、その測定方法はJISZ8803などに規定されている。粘度は温度によって変化するが、本明細書においては、特に明記のない限り20℃での粘度を意味する。
本発明において液体組成物は、該液体組成物中にシート状構造物を保持した状態で輸送されるため、輸送対象のシート状構造を破壊するものであってはならない。シート状構造物のシート状構造を破壊しない程度の粘性を有する液性組成物は、シート状構造物の素材、組成、シート状構造などを勘案することにより適切な液体組成物を適宜選択することができる。例えばシート状細胞培養物であれば、細胞が細胞間接着力によりシート状構造を形成しているため、例えばトリプシンなどの細胞間接着力を弱める物質を含むことはできない。
本発明の液体組成物は、上記条件を満たす粘性液体であればいかなるものでも用い得、これに限定するものではないが例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類、ミネラルオイルなどの油状液体、フィブリノーゲン、ラミニン、コラーゲン、ゼラチンなどのタンパク質溶液などの高分子溶液などが挙げられる。本発明の液体組成物は、粘性液体であるため、シート状構造物を輸送する際の揺動を好適に抑制することができ、その結果シート状構造物がよれ、しわ、破損などを生じるのを防ぐことができる。
本発明の輸送対象であるシート状構造物は、シート形状を有する物体であればとくに限定されない。シート形状とはほぼ平板でほぼ平面的な構造を意味する。シート状構造物とはシート形状を少なくとも一部に有する物体であればよい。シート状構造物としては例えば、シート状細胞培養物などの、生体由来材料からなる平板状の膜状組織(薄膜状の組織)や、プラスチック、紙、織布、不織布、金属、高分子、脂質といった種々の材質のフィルム等が含まれる。これらのうち、液中で難分解性のもの、液中で難崩壊性のものなどが好ましい。シート状構造物の外形(外周)は多角形や円形などであってもよい。またシート状構造物の幅、厚み、直径などは一様であってもなくてもよい。本発明におけるシート状構造物は、1枚のみの単層状態であってもよいし、2枚以上を重ねた積層状態でもよい。後者の場合、積層の各層は互いに連結していても、連結していなくてもよく、連結している場合は、重なり合っている部分が全て連結していても、部分的に連結していてもよい。また、積層の各層は少なくとも一部が重なっていればよい。シート状構造物は輸送の際の揺動を抑制することによりシート形状を保持したまま(シート形状が壊れることなく)輸送される。
本発明の輸送対象であるシート状構造物は、好ましくは生体に移植する目的で用いられるものである。その場合、使用前に洗浄する工程を省略できる、などの点から、本発明の液体組成物は、好ましくは生体適合性の液体である。
また、生体に移植するシート状構造物としては、好ましくは生体由来材料からなる平板状の膜状組織である。そのため、本発明の液体組成物は、好ましくは生体液体に許容される程度の粘度を有するものである。
本発明において、「生体液体に許容される程度の粘度」とは、生体液体、すなわち例えば血液やリンパ液などの体液が有し得る粘度を意味する。例えば血液の粘度(比粘度)は一般的に4.5程度であり、血漿のみの場合は1.7〜2.0程度である。したがって、本発明の液体組成物は、典型的には1.5〜5.0程度の粘度である。
本発明の好ましい一態様において、本発明の輸送対象であるシート状構造物は、生体内、例えば生体内の臓器表面に移植されるものである。したがって、本発明に特に好ましい液体組成物としては、適度な粘度を有し、生体適合性があり、臓器表面への移植において有利に用いられるものである。かかる液体組成物としては、例えばフィブリノーゲン、ラミニン、コラーゲン、ゼラチンなどの細胞接着性タンパク質の水溶液が挙げられる。中でも好ましくはフィブリノーゲン水溶液である。フィブリノーゲン水溶液(フィブリノーゲンゲル)としては、例えば10〜40mg/mLのフィブリノーゲン水溶液が特に好ましい。10〜40mg/mLのフィブリノーゲン水溶液は25℃においてその粘度が約1〜3mPa・sである。
本発明の液体組成物は、ある程度の粘度を有しているため、保持するシート状構造物を輸送する際に揺動を好適に抑制できる。しかしながら逆に粘度が高ければ高いほど、シート状構造物の輸送の際の揺動を抑制する代わりにシート状構造物に対して大きなずり応力を生じることとなる。特に脆弱なシート状構造物を輸送する際には、大きすぎるずり応力は逆にシート状構造物の破損を招来することとなる。したがって本発明の好ましい一態様において、液体組成物の粘度が1〜3mPa・sである。粘度が1mPa・sよりも小さいと揺動を抑制しきれずによれやしわを生じたり、シート状構造物が容器壁面に衝突することによって破損を生じたりする結果となる。逆に3mPa・sよりも大きい場合、液体組成物とシート状構造物との間に生じる摩擦力が大きくなり、シート状構造物が破損しやすくなる。特にシート状構造物がシート状細胞培養物であり、液体組成物が高分子溶液である場合、シートを構成する細胞に高分子溶液がからみつくことによって、より破損を生じやすくなると考えられる。
本発明のシート状構造物は、輸送の後使用されるものである。特に脆弱なシート状構造物を輸送する場合、輸送時はある程度の粘度を有していた方がよいが、輸送後に液体組成物から取り出すなどといった取り回しの際には、粘度が低い方が破損のリスクが減少する場合がある。したがって、本発明の液体組成物は、その粘度が高粘度から低粘度に変化するものであってもよい。また、逆に、取り出し時に液体組成物をゲル化するなどによりシート状構造物の破損を避けることがあり得る。したがって、液体組成物の粘度が低粘度から高粘度に変化するものであってもよい。
粘度の低下は、物理的および/または化学的な方法によって行われてよい。これに限定するものではないが、例えば温度を上昇または低下させることによって粘度を低下させる方法、溶液の希釈によって粘度を低下させる方法、酵素などを添加することによって高分子化合物を分解して粘度を低下させる方法、電解質を加えることにより粘度を低下させる方法、pHを上昇または低下させることにより粘度を低下させる方法などが挙げられる。
また粘度の増加も、物理的および/または化学的な方法によって行われてよい。これに限定するものではないが、温度を上昇または低下させることにより粘度を増加させる方法、pHを上昇または低下させることにより粘度を増加させる方法、液体組成物に粘度の高い高分子水溶液を追加することにより粘度を増加させる方法、輸送対象を保持する液体組成物に対して反応性を有する液体を加えることにより粘度を増加させる方法、などが挙げられる。
上述の通り、本発明の輸送対象であるシート状構造物は、本発明の液体組成物中に保持される。したがってシート状構造物を液体組成物中に保持させる際には、粘度がやや低い方が好ましいも場合あるし、粘度がやや高い場合が好ましい場合もある。したがって特に好ましい態様において、本発明の液体組成物は、可逆的に粘度を変化させることができるものである。かかる組成物としては、例えば温度変化により粘度を変化させられる物などが挙げられ、具体的には例えばフィブリノーゲン、ゼラチンなどが挙げられる。
本発明の一態様において、輸送対象のシート状構造物は、好ましくはシート状細胞培養物である。本発明において、シート状細胞培養物とは、細胞が互いに連結してシート状になったものをいい、典型的には1の細胞層からなるものであるが、2以上の細胞層から構成されるものも含む。細胞同士は、直接および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であればとくに限定されないが、例えば、細胞由来の細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、とくに、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。
本発明におけるシート状細胞培養物は、上記の構造を形成し得る任意の細胞から構成される。かかる細胞としては、これに限定するものではないが、例えば筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞)、心筋細胞、線維芽細胞、間葉系幹細胞、滑膜細胞、胚性幹細胞、上皮細胞(例えば、角膜上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞)、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、歯根膜細胞、皮膚細胞などが挙げられる。移植における有用性、通常の輸送方法による輸送の困難性、シートの脆弱性などの点から、好ましくは筋芽細胞、特に好ましくは骨格筋芽細胞のシート状培養物の輸送において特に有利に本発明の液体組成物を用いることができる。
細胞は、細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、とくに限定されないが、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどが含まれる。また、シート状細胞培養物の形成に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いることもできる。本発明の好ましい態様において、細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の比率(純度)は、細胞培養物製造終了時において、例えば骨格筋芽細胞の場合、65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
本発明におけるシート状細胞培養物は、スキャフォールド(細胞培養時の足場)に細胞を播種し、培養することによって得られるシート形状の培養組織などでもよいが、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。したがって、シート状細胞培養物は、好ましくは生体に由来しないスキャフォルドを含まない。
シート状細胞培養物は、任意の既知の手法によって製造されたものであってよい。
本発明の一側面において、上記の液体組成物を用いて、シート状構造物を輸送する方法が提供される。すなわち、シート状構造物を輸送する方法であって、粘性液体中で該粘性液体の粘性によってシート状構造物を保持させて輸送することを含む、前記方法が提供される。
本発明の方法において、輸送用液体組成物として用いられる粘性液体は容器外で調製されたものであってもよいし、シート状構造物を輸送するために使用される容器中で調製されてもよい。輸送対象であるシート状構造物の特性に応じて、例えば滅菌状態で調製されたり、温度を低下させた状態で調製される。調製された液体組成物は通常、使用されるまで静置した状態で保持される。
輸送用液体組成物にシート状構造物を保持させる工程では、容器等の内部に保持された液体組成物中に、輸送対象であるシート状構造物を配置した状態を供する。ある容器中にすでに保持されたシート状構造物に対して、別の容器で調製された液体組成物を流し込んでもよいし、すでに用意された液体組成物にシート状構成物を持ち込むこともできる。ある容器中で液体組成物中に保持されたシート状構成物は引き続き滅菌条件下や温度を低下させた条件下で行われる。
本発明の方法は、一態様において、シート状構造物が保持された液体組成物の粘度を変化させることを含んでよい。粘度の変化には粘度の低下および粘度の増加を含み得る。例えば、粘度の低い状態でシート状構造物を保持させた後、粘度を変化させて好適な保持条件としたり、保持された状態から粘度を変化させてシート状構造物を液体組成物から取出しやすくすることができる。
以下の実施例に基づいて、本発明を具体的な態様を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
例1.フィブリノーゲンゲル溶液の粘度による骨格筋芽細胞培養物の揺動抑制効果
1mLのハンクス緩衝液にそれぞれ10、20、30、40および50mgのフィブリノーゲンゲルを添加したものおよびフィブリノーゲンゲルを添加しない1mLのハンクス緩衝液を、シート状骨格筋芽細胞培養物と共にディッシュ(セルシード社製の3.5cm Upcell(登録商標))に入れ、100rpmの速度で4時間回転振とうした。回転前の状態を図1に、回転後の状態を図2に示す。なお、10〜40mg/mLのフィブリノーゲンゲルの粘度は、25℃において約1〜3mPa・sである。
図から分かるとおり、10〜40mg/mLのフィブリノーゲンゲル溶液中に保持されたシート状細胞培養物は、回転振とう後であってもきれいな形状を保ち、よれやしわもほとんどなく、破損も見られなかった。それに対しフィブリノーゲンゲルを加えなかったものは揺動を抑制しきれず破損が生じていることが分かる。50mg/mLのフィブリノーゲンゲル溶液の場合、細胞が完全に分離して、シート状構造を保つことができなかった。
本発明によれば、シート状構造物、特に脆弱なシート状構造物を輸送する際に、シート状構造物のシート状構造や細胞のバイアビリティを保ちながら効果的に揺動を抑制することが可能となる。また、またセッティングも簡便で、取り扱いも容易であるため、特に短時間の輸送において有利に用いることができる。さらに、粘性液体の種類を選択することにより、輸送後の取り扱いをより簡便にすることも可能となる。

Claims (4)

  1. シート状構造物の輸送用液体組成物であって、液体組成物が、前記シート状構造物を容器内の前記粘性液体中に保持された状態で輸送する粘性液体であり、前記粘性液体が、25℃で1〜3mPa・sの粘度を有する生体適合性の液体であり、シート状構造物が、シート状細胞培養物である、前記液体組成物。
  2. 液体組成物が、粘度を高粘度から低粘度に変化させる、または低粘度から高粘度に変化させることができるものである、請求項1に記載の液体組成物。
  3. シート状構造物が、積層状態のものである、請求項1または2に記載の液体組成物。
  4. シート状構造物を輸送する方法であって、粘性液体中で該粘性液体の粘性によってシート状構造物を保持させて輸送することを含み、粘性液体が、25℃で1〜3mPa・sの粘度を有する生体適合性の液体であり、シート状構造物が、シート状細胞培養物である、前記方法。
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