JP6204136B2 - ケイ酸質肥料および水稲の育苗方法 - Google Patents
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しかし、軽量気泡コンクリート粉末肥料を、水稲育苗培土の肥料として単独で施用した場合、施用後の培土のpHが、水稲育苗の最適なpHである4.5〜5.5の範囲を超えてしまうという問題がある。
この問題を解消するために、軽量気泡コンクリート粉末肥料に酸性材料を加えることが知られている。
他の例として、pH(5%スラリー)が3.0〜8.0である粒状のシリカ(シリカゲルまたはシリカゾル)を、イネ科植物の苗床の土壌に混和する技術が、知られている(特許文献2)。
本発明の目的は、容易にかつ低コストで製造することができ、また、成分組成にムラが少なく、均一性に優れており、さらに、少量の配合でも水稲等の作物の生育の健全化の効果が大きいケイ酸質肥料、および、該ケイ酸質肥料を用いた水稲の育苗方法を提供することである。
[1] ケイ酸カルシウム水和物を主成分として含む、多孔質でかつ粉粒状のケイ酸質材料(例えば、軽量気泡コンクリートの廃材の粉砕物)と、粉粒状の酸性材料(例えば、硫酸第一鉄・1水和物の市販品)を混合してなることを特徴とするケイ酸質肥料。
[2] 上記酸性材料が、硫酸塩、硝酸塩および塩化物から選ばれる一種以上からなる、上記[1]に記載のケイ酸質肥料。
[3] 上記ケイ酸質材料が、軽量気泡コンクリートからなる、上記[1]または[2]に記載のケイ酸質肥料。
[4] 上記ケイ酸質材料と上記酸性材料の合計量中の上記酸性材料の割合が、5〜70質量%である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のケイ酸質肥料。
[5] 上記[1]〜[4]のいずれかに記載のケイ酸質肥料を、水稲育苗培土に施用することを特徴とする水稲の育苗方法。
[6] 上記ケイ酸質肥料の施用後の水稲育苗培土のpHが4.5〜5.5の範囲内となるように、上記ケイ酸質肥料を構成する上記ケイ酸質材料および上記酸性材料の質量比、および、上記ケイ酸質肥料の施用量を定める、上記[5]に記載の水稲の育苗方法。
また、本発明のケイ酸質肥料は、2種の粉粒状の材料を含むので、例えば粉粒状の材料と液状の材料を用いる場合に比べて、成分組成にムラが少なく、均一性に優れている。このため、本発明のケイ酸質肥料を施用した場合における水稲等の作物の生育の健全化の効果を、作物全体に均等に与えることができる。
さらに、本発明において、酸性材料として、硫酸第一鉄等を用いる場合、例えばシリカゲルからなる酸性材料を用いる場合に比べて、材料費が安価であり、低コストで本発明のケイ酸質肥料を製造することができる。
まず、本発明のケイ酸質肥料を構成する2つの必須材料の一方である、多孔質でかつ粉粒状のケイ酸質材料について説明する。
ケイ酸質材料の主成分であるケイ酸カルシウム水和物の例としては、トバモライト、ゾノトライト、CSHゲル、フォシャジャイト、ジャイロライト、ヒレブランダイト等が挙げられる。
このうち、トバモライトは、結晶性のケイ酸カルシウム水和物であり、Ca5・(Si6O18H2)・4H2O(板状の形態)、Ca5・(Si6O18H2)(板状の形態)、Ca5・(Si6O18H2)・8H2O(繊維状の形態)等の化学組成を有するものである。
ゾノトライトは、結晶性のケイ酸カルシウム水和物であり、Ca6・(Si6O17)・(OH)2(繊維状の形態)等の化学組成を有するものである。
CSHゲルは、αCaO・βSiO2・γH2O(ただし、α/β=0.7〜2.3、γ/β=1.2〜2.7である。)、例えば、3CaO・2SiO2・3H2Oの化学組成を有するケイ酸カルシウム水和物である。
中でも、トバモライトは、後述する軽量気泡コンクリート(ALC)の主成分であり、ALCの廃材の利用の促進に関わる観点から、本発明において好ましく用いられる。
本発明で用いるケイ酸質材料の空隙率(多孔質である粉粒体の体積に占める、該粉粒体の内部の空隙の割合)は、肥料としての効果(ケイ酸供給能)の向上、および、肥料としての使い易さの観点から、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上である。
なお、本明細書中、空隙率とは、粒体(例えば、軽量気泡コンクリートからなる粒体)の体積全体中に占めるすべての空隙の体積の総和の割合をいう。ここで、空隙とは、粒体の外部の空間と連通する連続的な空隙と、粒体の外部の空間と連通せずに粒体の内部にのみ形成される非連続的な空隙の両方を意味する。
本発明で用いるケイ酸質材料の粒度分布は、ケイ酸溶出能を高める等の観点から、好ましくは、3mm以下の粒度を有する粒体を70質量%以上の割合で含むものであり、より好ましくは、1〜2mmの粒度を有する粒体を70質量%以上の割合で含むものである。
本明細書中、粒度の値は、篩の目開き寸法に対応する値である。
また、本明細書中、「粉粒状」とは、粉状の材料(0.1mm未満の粒度を有するもの;粉体)の集合体、粒状の材料(0.1mm以上の粒度を有するもの;粒体)の集合体、または、粉状の材料および粒状の材料を含む集合体の形態を有することを意味する。また、「粉粒体」とは、粉体の集合体、粒体の集合体、または、粉体および粒体を含む集合体を意味する。
軽量気泡コンクリートの廃材を粉砕した後、必要に応じて、篩等の分級手段を用いて分級することによって、所望の粒度を有する多孔質でかつ粉粒状のケイ酸質材料を得ることができる。
軽量気泡コンクリートは、Ca5・(Si6O18H2)・4H2Oの化学式で表されるトバモライト、および、未反応の珪石からなるものであり、80体積%程度の空隙率を有する。
軽量気泡コンクリート中のトバモライトの割合は、コンクリートの内部の空隙部分を除く固相の全体を100体積%として、65〜80体積%程度である。
酸性材料を構成する材料の例としては、塩化カリウム、塩化鉄、塩化アンモニウムなどの塩化物や、硝酸カリウム、硝酸アンモニウムなどの硝酸塩や、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウム、硫酸鉄などの硫酸塩などが挙げられる。
作物の生育に悪影響を与えないために肥料中の塩化物の含量に制限があること、および、硝酸イオン中の窒素は肥料の三要素の中の一つであり、培土に施用する肥料の量に影響を与えることから、酸性材料の中でも、硫酸塩が好ましい。
硫酸塩の中でも、アンモニウムイオン中の窒素は肥料の三要素の中の一つであり、培土に施用する肥料の量に影響を与えることから、硫酸鉄、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウムが好ましい。
硫酸鉄としては、特に限定されるものではなく、硫酸第一鉄(FeSO4)無水和物、硫酸第一鉄1水和物、硫酸第一鉄7水和物、硫酸第二鉄(Fe2(SO4)3)無水和物、硫酸第二鉄9水和物などが挙げられる。
硫酸カルシウムとしては、特に限定されるものではなく、硫酸カルシウム無水和物、硫酸カルシウム半水和物、硫酸カルシウム2水和物などが挙げられる。
硫酸マグネシウムとしては、特に限定されるものではなく、硫酸マグネシウム無水和物、硫酸マグネシウム1水和物、硫酸マグネシウム7水和物などが挙げられる。
本発明で用いる酸性材料の例である硫酸鉄、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウムなどは、入手容易な市販品を使用することができる。
本発明で用いる酸性材料の粒度は、ケイ酸溶出能を高める等の観点から、好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下である。
本発明で用いる酸性材料の粒度分布は、ケイ酸溶出能を高める等の観点から、好ましくは、3mm以下の粒度を有する粒体を80質量%以上の割合で含むものであり、より好ましくは、2mm以下の粒度を有する粒体を70質量%以上の割合で含むものであり、特に好ましくは、1〜2mmの粒度を有する粒体を70質量%以上の割合で含むものである。
この場合、ケイ酸質肥料の施用後の水稲育苗培土のpHが4.5〜5.5の範囲内となるように、ケイ酸質肥料を構成するケイ酸質材料および酸性材料の質量比、および、ケイ酸質肥料の施用量を定めればよい。
例えば、ケイ酸質材料(例えば、軽量気泡コンクリートの廃材を粉砕してなる粉粒状の材料)と酸性材料(例えば、1〜2mmの粒度を有する硫酸第一鉄の水和物の市販品であって、硫酸第一鉄の水和物の含有率が80質量%以上のもの)を、質量比が3:1となるように混合して、ケイ酸質肥料を得た後、このケイ酸質肥料を、水稲育苗培土100質量部当たり2質量部の量で施用することによって、水稲育苗培土のpHを4.5〜5.5の範囲内に調整することができる。
水稲育苗培土100質量部に対して、軽量気泡コンクリートの廃材を粉砕してなる粉粒状の材料(以下、ALC粉粒体という。)を1.5質量部の添加量で添加して混合し、均一な組成を有するpH調整前の混合物を得た。この混合物のpHは、5.7であった。
なお、ALC粉粒体としては、1〜2mmの粒度を有する粒体を70質量%以上の割合で含むものを用いた。
[実験例2]
ALC粉粒体(実験例1と同じもの)と硫酸第一鉄・1水和物の市販品(粒度:1〜2mm、商品名:硫酸鉄・1水塩(Dタイプ)、製造元:富士チタン工業株式会社)を、質量比が86:14となるように混合して、ケイ酸質肥料を得た後、このケイ酸質肥料を、水稲育苗培土100質量部当たり1.75質量部の添加量で添加して混合し、均一な組成を有するpH調整後の混合物を得た。この混合物のpHは、5.6であった。
ALC粉粒体と硫酸第一鉄・1水和物の市販品(以上、実験例1〜2と同じもの)を、質量比が75:25となるように混合して、ケイ酸質肥料を得た後、このケイ酸質肥料を、水稲育苗培土100質量部当たり2質量部の添加量で添加して混合し、均一な組成を有するpH調整後の混合物を得た。この混合物のpHは、5.4であった。
[実験例4]
ALC粉粒体と硫酸第一鉄・1水和物の市販品(以上、実験例1〜2と同じもの)を、質量比が60:40となるように混合して、ケイ酸質肥料を得た後、このケイ酸質肥料を、水稲育苗培土100質量部当たり2.5質量部の添加量で添加して混合し、均一な組成を有するpH調整後の混合物を得た。この混合物のpHは、5.0であった。
以上から、ALC粉粒体と硫酸第一鉄・1水和物の市販品の合計量中の硫酸第一鉄・1水和物の市販品の量の割合が25〜40重量%となるように混合したケイ酸質肥料を、水稲育苗培土100質量部当たり2〜2.5質量部の添加量で添加した場合、添加後の混合物のpHは、水稲育苗の最適なpHである4.5〜5.5の数値範囲内に収まることがわかる。
水稲育苗培土のみからなる培土を用いて、水稲を育苗したところ、苗1本当たりの地上部の乾物質量は、8.4mgであった。また、苗の地上部のケイ酸の含有率は、3.4質量%であった。
[応用実験例2]
水稲育苗培土のみからなる培土に代えて、水稲育苗培土100質量部に対して、ALC粉粒体(実験例1と同じもの)を1.5質量部の添加量で添加し、かつ、硫酸第一鉄・1水和物の市販品(実験例2と同じもの)を0.5質量部の添加量で添加してなる培地を用いた以外は、応用実験例1と同様にして実験した。
その結果、苗1本当たりの地上部の乾物質量は、9.4mgであった。また、苗の地上部のケイ酸の含有率は、6.2質量%であった。
水稲育苗培土のみからなる培土に代えて、水稲育苗培土100質量部に対して、ALC粉粒体(実験例1と同じもの)を1.5質量部の添加量で添加し、かつ、硫酸カルシウムの市販品(主成分:硫酸カルシウム無水和物、粒度:3mm以下)を2.0質量部の添加量で添加してなる培土を用いた以外は、応用実験例1と同様にして育苗した。
その結果、苗1本当たりの地上部の乾物質量は、9.0mgであった。また、苗の地上部のケイ酸の含有率は、6.1質量%であった。
水稲育苗培土のみからなる培土に代えて、水稲育苗培土100質量部に対して、シリカゲル(可溶性ケイ酸:90%)を2.5質量部の添加量で添加してなる培地を用いた以外は、応用実験例1と同様にして実験した。
その結果、苗1本当たりの地上部の乾物質量は、9.3mgであった。また、苗の地上部のケイ酸の含有率は、6.0質量%であった。
また、本発明のケイ酸質肥料を用いた場合(応用実験例2〜3)には、ケイ酸質肥料としてコストが高いシリカゲルを用いた場合(応用実験例4)に比べて、苗1本当たりの地上部の乾物質量、および、苗の地上部のケイ酸の含有率がほぼ同等であることがわかる。
Claims (6)
- ケイ酸カルシウム水和物を主成分として含む、多孔質でかつ粉粒状のケイ酸質材料と、粉粒状の酸性材料を混合してなり、かつ、液状の材料を含まないケイ酸質肥料であって、
上記ケイ酸質材料は、軽量気泡コンクリートであって、3mm以下の粒度を有する粒体を70質量%以上の割合で含むものであり、
上記酸性材料は、硫酸第一鉄であって、2mm以下の粒度を有する粒体を70質量%以上の割合で含むものであることを特徴とするケイ酸質肥料。 - 上記ケイ酸質材料は、1〜2mmの粒度を有する粒体を70質量%以上の割合で含むものであり、かつ、上記酸性材料は、1〜2mmの粒度を有する粒体を70質量%以上の割合で含むものである請求項1に記載のケイ酸質肥料。
- 上記ケイ酸質材料と上記酸性材料の合計量中の上記酸性材料の割合が、20〜50質量%である請求項1又は2に記載のケイ酸質肥料。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載のケイ酸質肥料を製造するための方法であって、
上記ケイ酸質材料と上記酸性材料を、液状の材料を加えずに混合することのみによって、上記ケイ酸質肥料を得ることを特徴とするケイ酸質肥料の製造方法。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載のケイ酸質肥料を、水稲育苗培土に施用することを特徴とする水稲の育苗方法。
- 上記ケイ酸質肥料の施用後の水稲育苗培土のpHが4.5〜5.5の範囲内となるように、上記ケイ酸質肥料を構成する上記ケイ酸質材料および上記酸性材料の質量比、および、上記ケイ酸質肥料の施用量を定める請求項5に記載の水稲の育苗方法。
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