以下、本発明の電動機制御装置および電動機制御方法の好適な実施の形態につき、図面を用いて説明する。
一般に、電動機(モータ)は、電力を駆動力に変換して、力行運転するものであるが、そのままの構造で、駆動力を電力に逆変換して回生運転することが可能である。また、発電機(ジェネレーター)は、駆動力を電力に変換して発電するものであるが、そのままの構造で、電力を駆動力に逆変換して力行運転することが可能である。
すなわち、電動機と発電機は、基本的に同一構造であり、どちらも力行運転と回生運転が可能である。この明細書では、電動機と発電機の双方の機能を持つ回転電機を、単に電動機と呼ぶ。
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1に係る電動機制御装置を図1から図6に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態1における電動機制御装置のシステム構成図である。説明の都合上、この図1では、インバータ回路に直流電力を供給するとともに、回生電力で充電されるバッテリ等の直流電源および制御対象の3相同期電動機を含んで図示している。
図1において、電動機制御装置80は、電力開閉器50を介して直流母線1a、1bにより直流電源90と接続され、駆動電力および回生電力を直流電源90と授受する。また、電動機制御装置80は、交流母線2aにより電動機10と接続され、駆動電力および回生電力を電動機10と授受する。また、電動機10は、電動機10の回転角を検出する回転角センサ30を備えている。
なお、電動機10は、負荷を回転駆動するとともに、負荷の回転エネルギーを電気エネルギーとして回生可能な電動機である。従って、この電動機10としては、永久磁石3相交流同期モータや3相ブラシレスモータが使用される。
電動機制御装置80は、インバータ回路20とスイッチング制御部60を備えて構成されている。インバータ回路20は、電源入力側の直流母線1a、1b間に接続されたコンデンサ21、インバータ回路20の直流母線電圧を検出する電圧検出回路24、複数のスイッチング素子で構成され直流/交流の電力変換をする電力変換回路25、および交流母線2aに流れる電動機10の電流値を検出する電動機電流検出回路26を備えている。
電力変換回路25内のスイッチング素子は、例えば、図1に示すようなMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、あるいは、MOSFET以外にも、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などが用いられる。
電力変換回路25は、一般的によく知られている6つのスイッチング素子をフルブリッジ接続したインバータである。すなわち、図1に示すように、U相用のスイッチング素子31、32、V相用のスイッチング素子33、34、およびW相用のスイッチング素子35、36は、それぞれ互いに直列に接続され、直流電源90に並列に接続されている。
また、スイッチング素子31、32の中点は、電動機10のU相の入力と接続され、スイッチング素子33、34の中点は、電動機10のV相の入力と接続され、スイッチング素子35、36の中点は、電動機10のW相の入力と接続されている。
ここで、直流電源の正極側(直流母線1a)に接続されるスイッチング素子31、33、35を、上段側スイッチング素子と称し、直流電源の負極側(直流母線1b)に接続されるスイッチング素子32、34、36を、下段側スイッチング素子と称す。
なお、各MOSFETには、直流電源の負極側から正極側へ向かう方向(下段側から上段側へ向かう方向)を順方向として、並列にフリーホイールダイオード(FWD)が備えられている。
電力開閉器50は、直流電源90と電動機制御装置80の電力授受を制御するものである。電力開閉器50は、電動機10が回生運転時に直流電源90の電圧があらかじめ設定された値以上になった場合、直流電源90の消耗等により直流電源90の電圧があらかじめ設定された値以下となった場合、直流電源90に流れる電流があらかじめ決められた値以上になった場合、あるいは車両の故障や衝突が検出された場合などに、図示しない上位のシステムにより開放状態に制御される。
なお、電力開閉器50は、スイッチング制御部60により制御される構成としても、何ら問題ない。
インバータ回路20のコンデンサ21は、直流母線電圧のリップルを抑制する働き、インバータ回路20の電源インピーダンスを低下させてインバータ回路20の交流電流駆動能力を向上させる働き、サージ電圧を吸収する働き、などがある。
電圧検出回路24は、直流母線電圧を分圧抵抗等によりスイッチング制御部60で読み込める電圧に分圧し、スイッチング制御部60に直流母線電圧情報を出力する。
電動機電流検出回路26は、交流母線2aを流れる電動機電流値を検出するものであり、電流値を電圧に変換してスイッチング制御部60に出力する。図1では、シャント抵抗により電流値を検出する構成を示している。なお、電動機電流検出回路26は、ホール素子等を用いた電流センサとしてもよい。
回転角センサ30は、レゾルバやエンコーダ等により電動機10のロータ回転角を検出するものである。この検出されたロータ回転角は、スイッチング制御部60に出力される。なお、ロータ回転角θmは、電動機10の永久磁石の極対数を基に、電気角θeに換算される。
スイッチング制御部60は、電動機制御装置全体の制御を司るものであり、マイクロコントローラや駆動回路等から構成される。図2は、本発明の実施の形態1におけるスイッチング制御部60の機能ブロック図である。スイッチング制御部60は、電流指令生成部61、三相二相変換部62、電流制御部63、二相三相変換部64、デューティ変換部65、PWM信号生成部66、3相短絡処理指令生成部67、電源側異常判定部68、および相電流位相算出部69で構成される。
まず、電流指令生成部61は、電動機10が発生すべきトルク指令値Trq*が、図示しないスイッチング制御部60の上位の制御装置あるいは制御プログラムから入力される。そして、電流指令生成部61は、このトルク指令値Trq*に対して、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*を決定する。
ここで、d軸は、電動機の磁極位置(磁束)の方向、q軸は、電気的にd軸に直交する方向を示しており、d−q軸座標系を構成する。磁石を有する電動機のロータが回転すると、d−q軸座標系も回転するものである。
三相二相変換部62は、電動機電流検出回路26からU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwが入力され、回転角センサ30から電気角θeが入力される。そして、三相二相変換部62は、座標変換により、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを、d軸電流検出値Idおよびq軸電流検出値Iqに変換する。
なお、本実施の形態1では、電動機電流検出回路26で検出される電流は、3つの相電流Iu、Iv、Iwであるが、2つの相電流が分かれば、残りの相電流は求めることができる。従って、電動機電流検出回路26は、相電流Iu、Iv、Iwのうち、2つの相電流を検出する構成としてもよい。
電流制御部63は、電流指令生成部61からd軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*が入力され、三相二相変換部62からd軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqが入力される。そして、電流制御部63は、d軸電流指令値Id*とd軸電流検出値Idとのd軸電流偏差、q軸電流指令値Iq*とq軸電流検出値Iqとのq軸電流偏差を演算する。さらに、電流制御部63は、それぞれの電流偏差に対して、比例・積分制御演算によって、d軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*を算出する。
二相三相変換部64は、電流制御部63からd軸電圧指令値Vd*、q軸電圧指令値Vq*が入力され、回転角センサ30から電気角θeが入力される。そして、二相三相変換部64は、これらの入力に基づいて、静止座標系の3相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を演算する。
デューティ変換部65は、二相三相変換部64から3相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*が入力され、電圧検出回路24から直流母線電圧Vpnが入力される。そして、デューティ変換部65は、これらの入力に基づいて、デューティ指令値Du、Dv、Dwを算出する。
電源側異常判定部68は、電圧検出回路24から直流母線電圧Vpnが入力される。そして、電源側異常判定部68は、直流母線電圧Vpnに基づいて、電源側異常状態であるか否かを判定し、電源側異常判定結果Errを生成する。
相電流位相算出部69は、電動機電流検出回路26からU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwが入力される。そして、相電流位相算出部69は、これらの入力に基づいて、相電流の位相を算出する。
なお、本実施の形態1では、相電流の位相として、U相の相電流位相θuを算出する。また、本実施の形態1では、3つの相電流Iu、Iv、Iwが入力される構成としたが、2つの相電流が分かれば、残りの相電流は求めることができる。そこで、相電流Iu、Iv、Iwのうち、2つの相電流が入力される構成としてもよい。
3相短絡処理指令生成部67は、三相二相変換部62からd軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqが入力され、電源側異常判定部68から電源側異常判定結果Errが入力され、相電流位相算出部69からU相の相電流位相θuが入力される。そして、3相短絡処理指令生成部67は、これらの入力に基づいて、3相短絡処理指令S3PSを生成する。
より具体的には、3相短絡処理指令生成部67は、電源側異常判定結果Errが電源側正常状態である場合には、3相短絡処理指令S3PSとして、3相短絡不実施指令を生成する。一方、3相短絡処理指令生成部67は、電源側異常判定結果Errが電源側異常状態である場合には、d軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iq、U相の相電流位相θuに基づいて、3相短絡処理指令S3PSとして、3相短絡実施指令を生成する。
PWM信号生成部66は、デューティ変換部65から各相のデューティ指令値Du、Dv、Dwが入力され、3相短絡処理指令生成部67から3相短絡処理指令S3PSが入力される。そして、PWM信号生成部66は、これらの入力に基づいて、電力変換回路25の各スイッチング素子へのオンオフ制御信号を演算し、電力変換回路25へオンオフ制御信号(UH,UL,VH,VL,WH,WL)を出力する。
より具体的には、PWM信号生成部66は、3相短絡処理指令S3PSが3相短絡不実施指令である場合には、各相のデューティ指令値Du、Dv、Dwに応じた各スイッチング素子へのオンオフ制御信号を出力する。
一方、PWM信号生成部66は、3相短絡処理指令S3PSが3相短絡実施指令である場合には、電力変換回路25の上段側スイッチング素子の全てもしくは下段側スイッチング素子の全て、のどちらか一方をオンする3相短絡状態となるように、各スイッチング素子へのオンオフ制御信号を出力する。
電力変換回路25のスイッチング素子31〜36は、それぞれ、スイッチング制御部60から入力される制御信号(UH,UL,VH,VL,WH,WL)により、オンオフ動作する。この結果、電力変換回路25は、直流電力を交流電力に変換し、電動機10に供給するとともに、電動機10が回生状態において発生する回生電力を、直流電源90に充電する。
本実施の形態1に係る電動機制御装置の技術的特徴は、スイッチング制御部60内に3相短絡処理指令生成部67および相電流位相算出部69を有し、電源側異常状態である場合に、d軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iq、U相の相電流位相θuに基づいて3相短絡実施指令を生成し、3相短絡処理を実施できる構成を備える点にある。
この構成により、本実施の形態1に係る電動機制御装置は、後述するように、インバータが直流電源から切り離された場合のコンデンサ端子間電圧の上昇を抑制するために3相短絡処理を実施する場合において、3相短絡処理実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなるようなタイミングで、3相短絡処理を開始することができる。
以下に、本実施の形態1に係る電動機制御装置の特徴である3相短絡処理指令生成部67および相電流位相算出部69の動作について、詳細に説明する。
まず、相電流位相算出部69は、電動機電流検出回路26から入力されたU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwに基づいて、U相の相電流位相θuを算出し、3相短絡処理指令生成部67に出力する。
具体的には、相電流位相算出部69は、U相の相電流位相θuを、以下の方法で求める。U相の相電流Iuは、相電流の振幅をAとおくと、正弦関数sinによりA・sin(θu)と表記できる。相電流の振幅Aと、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwとの関係は、下式(1)で表記できる。
従って、U相の相電流位相θuと、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwとの関係は、下式(2)が成り立つ。
上式(2)を満たすθuは、一意に決まる。従って、相電流位相算出部69は、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwに基づいて、上式(2)より、U相の相電流位相θuを算出する。
電源側異常判定部68は、電圧検出回路24から入力された直流母線電圧値Vpnに基づいて、回生電力を直流電源90に回生することが不可か否かを判定する。さらに、電源側異常判定部68は、この判定結果を電源側異常判定結果Errとして、3相短絡処理指令生成部67に出力する。
具体的には、電源側異常判定部68は、直流母線電圧Vpnがあらかじめ定められた所定値以上である場合に、回生電力を直流電源90に回生不可である電源側異常状態と判定する。一方、電源側異常判定部68は、それ以外の場合には、電源側正常状態と判定する。
これにより、電源側異常判定部68は、以下の2ケースで例示されるような、回生電力を直流電源90に回生できない場合に、電源側異常状態と判定できる。
・電力開閉器50が開放状態中に電動機10が回生動作することで、回生電力がコンデンサ21に蓄電され、コンデンサ21の両端電圧、すなわち直流母線電圧が通常動作ではなりえない高電圧状態となっている場合
・電力開閉器50が導通状態であっても、直流電源90が通常動作ではなり得ない高電圧状態である場合
電源側異常判定結果Errが電源側正常状態である場合には、何ら問題なく、電動機10を力行運転および回生運転できる状態である。そこで、この場合には、3相短絡処理指令生成部67は、3相短絡処理指令S3PSとして、3相短絡不実施指令を生成し、PWM信号生成部66に対して出力する。
PWM信号生成部66は、3相短絡処理指令S3PSが3相短絡不実施指令である場合には、インバータ駆動で広く一般的に実施される三角波比較方式などにより、各相のデューティ指令値Du、Dv、Dwに応じた各スイッチング素子へのオンオフ制御信号を出力する。三角波比較方式は、公知であるので、詳細な説明は省略する。
一方、電源側異常判定結果Errが電源側異常状態である場合には、直流電源90に回生電力を回生できない状態である。そこで、この場合には、3相短絡処理指令生成部67は、後述する方法で、3相短絡処理指令S3PSとして3相短絡実施指令を生成し、PWM信号生成部66に対して出力する。
PWM信号生成部66は、3相短絡処理指令S3PSが3相短絡実施指令である場合には、上段側スイッチング素子31、33、35をオンし、下段側スイッチング素子32、34、36をオフするように、電力変換回路25へオンオフ制御信号を出力する。
なお、3相短絡するスイッチング素子は、上段側スイッチング素子31、33、35ではなく、下段側スイッチング素子32、34、36としてもなんら問題ない。すなわち、PWM信号生成部66は、上段側スイッチング素子31、33、35をオフし、下段側スイッチング素子32、34、36をオンするように、電力変換回路25へオンオフ制御信号を出力するようにしてもよい。
上述の動作により、電動機を回生運転中にインバータが直流電源と切り離された場合など、回生電力を直流電源90に回生できない場合には、インバータの上段側スイッチング素子31、33、35の全てもしくは下段側スイッチング素子32、34、36の全てをオンし、電動機の各相を互いに短絡させる3相短絡処理を実施することとなる。この結果、コンデンサ21に電力が過大に回生されて、コンデンサ端子間電圧が過大に上昇することを防止できる。
ここで、本実施の形態1における3相短絡処理指令生成部67は、3相短絡実施指令を生成する場合に、3相短絡処理実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなるようなタイミングで、3相短絡実施指令を生成できることを特徴としている。
そこで、以下に、電源側異常判定結果Errが電源側異常状態である場合、すなわち、3相短絡処理指令生成部67にて3相短絡実施指令を生成する場合の、3相短絡処理指令S3PSの生成方法を詳述する。まず、3相短絡処理実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなる3相短絡開始タイミングについて説明する。
3相短絡処理実施後の相電流は、3相短絡前に流れていた電流(以下、短絡前電流と呼ぶ)と、3相短絡後に電動機の誘起電圧によって流れる短絡電流(以下、誘起電圧電流と呼ぶ)との和となる。電動機の電気角速度をω、短絡前電流の振幅をA、誘起電圧電流の振幅をB、短絡前電流と誘起電圧電流との位相差をε、短絡前電流の減衰時定数をτとおき、時刻T0で3相短絡を開始したとすると、3相短絡後の時刻tでの各相の相電流は、下式(3)となる。
なお、ここでは、数式を簡素化するため、U相の短絡前電流の位相オフセットを0とした場合として、上式(3)を記述している。
相電流絶対値が最も大きくなるのは、短絡前電流が減衰していない3相短絡実施直後付近となる。従って、上式(3)での短絡前電流の減衰を無視して近似した下式(4)により、相電流絶対値の最大値を見積もることが可能である。
上式(4)から、各相の相電流の最大値、最小値は、下式(5)のようになる。
上式(5)から、各相の相電流絶対値の最大値は、下式(6)のようになる。
上式(6)でのUVW全相での相電流絶対値の最大値が最小となるようなT0が、3相短絡処理実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなる3相短絡開始タイミングとなる。ここで、U相を例にとると、
は、下式(7)のように変換できる。なお、数式簡素化のため、下式(7)では、ωT0をαと置き換えている。
V相、W相に関しても、U相と同様に、
を、下式(8)のように変換できる。
ここで、X、Yは、α(=ωT0)とは無関係である。このため、
も、αとは無関係であり、3相短絡処理開始タイミングによって変化しないものである。上式(6)〜(8)により、UVW全相での相電流絶対値の最大値が最小となるのは、
の3つの絶対値の最大値が最小となる場合である。
図3は、本発明の実施の形態1において、120°ずつ位相がずれた3つのSin関数の絶対値の最大値が最小となる関係を示す説明図である。図3から明らかなように、下式(9)を満たす場合が、3つの絶対値の最大値が最小となるである。
すなわち、3相短絡処理は、下式(10)をみたすタイミングで開始されることで、3相短絡処理実施後の相電流絶対値の最大値を極力小さくすることができる。
図4は、本発明の実施の形態1において、3相短絡処理前後の電流振幅および位相差を示す回転座標系dq座標での電流ベクトル図である。上式(10)におけるA、B、εを説明するために、3相短絡処理前後の電流に関して、d−q軸座標系での電流ベクトル図で示したこの図4を用いて説明する。
図4(a)は、3相短絡処理前に流れる回生制御中の電流を、d−q軸座標系での電流ベクトル図で示したものである。3相短絡処理前は、電動機10が発生すべきトルク指令値Trq*に対して決定されるd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*に基づき、電流制御が行われている。従って、この電流制御により、d軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*と等しい電流が電動機10に流れている。
回生動作の場合には、負のq軸電流が流れている。また、電動機の回転速度が高い動作領域では、永久磁石の磁束を等価的に減じる弱め界磁制御が実施されることが一般的であり、この場合も負のd軸電流が流れている。
図4(b)は、3相短絡処理後に電動機の誘起電圧により流れる短絡電流をd−q軸座標系での電流ベクトル図で示したものである。3相短絡処理後は、電動機の誘起電圧Emを打ち消すように短絡電流Isが流れる。
より詳細には、短絡電流Isのd軸成分をIsd、q軸成分をIsq、d軸上で作用するd軸リアクタンスをLd、q軸上で作用するq軸リアクタンスをLq、電機子巻線抵抗をR、d−q軸座標系でd軸成分として現れる電機子鎖交磁束数をφとおくと、図4(b)に示すように、電動機の誘起電圧ベクトルEm=ωφ、q軸電流によって生成される磁束による電圧ベクトルωLqIsq、d軸電流によって生成される磁束による電圧ベクトルωLdIsd、電機子巻線抵抗で発生する電圧ベクトルRIs、の合成電圧ベクトルが0ベクトルとなるような短絡電流Isが流れる。短絡前電流と誘起電圧電流との位相差εは、電流ベクトルIとIsの角度となる。
ここで、本実施の形態1に係る発明では、数式を簡単化するため、リアクタンス成分ωLd、ωLqに比べ小さい電機子巻線抵抗Rを無視して近似する。この場合、3相短絡処理後に電動機の誘起電圧により流れる短絡電流の電流ベクトル図は、図4(c)のようになる。電動機の誘起電圧ベクトルEm=ωφを打ち消すように、d軸負方向に、下式(11)に示す短絡電流Isが流れる。
以上より、上式(10)におけるA、B、εは、下式(12)のように求めることができる。
上式(12)を用いることにより、上式(10)は、下式(13)のように展開される。
以上の説明にて、U相の相電流位相θuが、上式(13)に示される電流位相ωT0となるタイミングで3相短絡処理を開始すると、3相短絡実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなることを示した。上式(13)におけるd軸リアクタンスLd、電機子鎖交磁束数φは、電動機10によって決まる既知の値である。
すなわち、3相短絡開始タイミングの電流位相ωT0は、d軸電流Id、q軸電流Iqが分かれば求めることができる。ここで、d軸電流Id、q軸電流Iqは、3相同期電動機の駆動制御および回生制御に用いられるパラメータに相当する。
従って、3相短絡処理指令生成部67は、3相短絡実施指令を生成する場合、三相二相変換部62から入力されたd軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqと、相電流位相算出部69から入力されたU相の相電流位相θuとに基づいて、3相短絡実施指令を生成することで、3相短絡実施後の相電流絶対値の最大値を極力小さくすることができる。
図5は、本発明の実施の形態1に係る3相短絡処理指令生成部67による一連処理を示すフローチャートである。この図5のフローチャートを用いて、3相短絡処理指令生成部67の詳細な処理について説明する。
最初のステップS101(以下、「ステップ」を省略し、単に記号「S」で示す)において、3相短絡処理指令生成部67は、3相短絡実施中であるか否かを判断する。そして、3相短絡実施中である場合(S101:YES)には、S105の処理に移行し、3相短絡処理指令生成部67は、3相短絡状態を継続するように、3相短絡処理指令S3PSとして3相短絡実施指令を生成する。
一方、3相短絡実施中でない場合(S101:NO)には、3相短絡処理指令生成部67は、S102の処理へ移行する。そして、S102において、3相短絡処理指令生成部67は、電源側異常判定結果Errが電源側異常状態であるか否かを判断し、電源側異常判定結果Errが電源側異常状態である場合(S102:YES)には、S103の処理へ移行する。
一方、3相短絡処理指令生成部67は、電源側異常判定結果Errが電源側異常状態でない場合(S102:NO)には、3相短絡処理を実施する必要がない状態であるため、S106の処理に移行し、3相短絡処理指令S3PSとして3相短絡不実施指令を生成する。
S103に進んだ場合には、3相短絡処理指令生成部67は、三相二相変換部62から入力されたd軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqから、上式(13)を用いて、3相短絡処理を開始するU相の電流位相ωT0を算出し、S104の処理へ移行する。
ここで、U相の電流位相ωT0は、整数nに応じて複数算出できるが、3相短絡処理指令生成部67は、0から2πの範囲の位相をωT0として算出する。すなわち、電流位相ωT0として、6個の位相が算出されることとなる。
次に、S104において、3相短絡処理指令生成部67は、相電流位相算出部69から入力されたU相の相電流位相θuが、S103で算出した電流位相ωT0の近傍であるか否かを判断する。
そして、U相の相電流位相θuが電流位相ωT0の近傍である場合(S104:YES)には、3相短絡実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなる3相短絡開始タイミングである。そこで、この場合には、S105の処理に移行し、3相短絡処理指令生成部67は、3相短絡処理指令S3PSとして3相短絡実施指令を生成する。
一方、U相の相電流位相θuが電流位相ωT0の近傍でない場合(S104:NO)には、3相短絡実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなる3相短絡開始タイミングでない。そこで、この場合には、S106の処理に移行し、3相短絡処理指令生成部67は、3相短絡処理指令S3PSとして3相短絡不実施指令を生成する。
以上の図5のフローチャートに従って3相短絡処理を実行することにより、電源側異常判定結果Errが電源側異常状態である場合、すなわち、3相短絡処理指令生成部67にて3相短絡実施指令を生成する場合に、3相短絡処理実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなるようなタイミングで、3相短絡実施指令を生成することができる。すなわち、3相短絡処理を実施する場合に、3相短絡実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなるタイミングで、3相短絡処理を開始することができる。
以上のように、実施の形態1によれば、3相短絡処理を実施する場合に、3相短絡実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなる3相短絡開始タイミングを、d軸電流、q軸電流、相電流の位相に基づいて判断できる構成を備えている。換言すると、相電流の位相が3相同期電動機の駆動制御および回生制御に用いられるパラメータによりあらかじめ規定される特定の電流位相となったタイミングで、3相短絡処理を開始させる構成を備えている。この結果、3相短絡処理を実施した場合の相電流の上昇を、極力抑制することができる。
また、電源側異常状態と判定されたときに3相短絡処理を実施する構成としている。この結果、インバータが直流電源から切り離された場合のコンデンサ端子間電圧の上昇を抑制するために3相短絡処理を実施する場合においても、電動機の相電流の上昇を極力抑制することができる。
すなわち、実施の形態1によれば、インバータが直流電源から切り離された場合のコンデンサ端子間電圧の上昇、および電動機の各相に流れる相電流の上昇を抑制できる。この結果、インバータや電動機の破壊を防止する電動機制御装置を、小型、低コストで実現することができる。
なお、上述した実施の形態1では、3相短絡処理指令生成部67にて3相短絡実施指令を生成する場合に、三相二相変換部62から入力されたd軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqと、相電流位相算出部69から入力されたU相の相電流位相θuとに基づく図2の構成について説明した。しかしながら、本発明は、このような図2の構成に限定されるものではない。
図6は、本発明の実施の形態1における、先の図2とは異なる構成によるスイッチング制御部60の機能ブロック図である。図6に示すように、3相短絡処理指令生成部67は、d軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqの代わりに、電流指令生成部61からd軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*を入力し、3相短絡実施指令を生成する構成としてもよい。
この図6の構成を採用することで、電動機電流検出回路26により検出される相電流Iu、Iv、Iwにノイズが重畳する場合にも、3相短絡処理指令生成部67は、ノイズの影響を受けずに、3相短絡実施指令を生成することができる。
また、実施の形態1では、3相短絡処理指令生成部67にてU相の電流位相ωT0を算出する処理として、上式(13)での整数nに応じて、0から2πの範囲で6個の位相を算出する処理とする場合について説明した。しかしながら、本発明は、このような場合に限定されるものではなく、3相短絡処理指令生成部67は、例えば、0から2πの範囲で、該当する1個の位相のみを算出する処理を実行するようにしてもよい。
このような処理を採用した場合には、3相短絡処理指令生成部67は、6個の位相を算出する場合と比較して、比較的簡単な処理で、3相短絡処理を開始するタイミングを判断することができる。
また、実施の形態1では、3相短絡処理指令生成部67にてU相の電流位相ωT0を算出する処理として、上式(13)を用いる場合について説明した。しかしながら、本発明は、このような場合に限定されるものではなく、本質的に同等の算出方法であれば、特に、上式(13)に限定されるものではない。
例えば、短絡前電流の振幅A、誘起電圧電流の振幅B、短絡前電流と誘起電圧電流の位相差εを、上式(12)を用いて算出した後、これらの算出結果に基づいて上式(10)により3相短絡処理を開始するタイミングのU相の電流位相ωT0を算出する処理としても、なんら問題ない。
言い換えると、d軸電流値およびq軸電流値から算出した3相短絡処理前後の相電流の位相差と、3相短絡処理前後の相電流の振幅とに基づいて、U相の電流位相ωT0を算出する処理としてもなんら問題ない。
また、実施の形態1では、相電流位相算出部69にてU相の相電流位相θuを算出し、3相短絡処理指令生成部67に出力する構成について説明した。しかしながら、相電流位相算出部69は、このような構成に限定されるものではなく、相電流の位相を出力する構成であればよい。
例えば、相電流位相算出部69は、U相の相電流位相θuの代わりに、V相の相電流位相θvやW相の相電流位相θwを算出し、3相短絡処理指令生成部67に出力する構成としてもよい。この場合には、3相短絡処理指令生成部67は、U相の電流位相ωT0を算出した方法と同様の方法で、それぞれ対応するV相、W相の電流位相を算出することが可能であり、同様の効果を得ることができる。
また、実施の形態1では、相電流位相算出部69にてU相の相電流位相θuを算出する処理として、上式(2)によりU相の相電流位相θuを算出する構成について説明した。しかしながら、相電流位相算出部69は、このような構成に限定されるものではない。
例えば、相電流位相算出部69は、U相の相電流Iuが増加状態であるか減少状態であるかを、前回値との比較で判定し、その判定に基づいて、U相の相電流位相θuの範囲を下式(14)のように算出し、上式(2)および下式(14)を満たすものを、U相の相電流位相θuとして算出する処理を実行することもできる。
また、実施の形態1では、スイッチング制御部60の電源側異常判定部68が、電圧検出回路24から入力された直流母線電圧情報をもとに電源側異常状態であるか否かを判定する構成について説明した。しかしながら、電源側異常判定部68は、このような構成に限定されるものではない。
電源側異常判定部68は、その他の構成として、例えば、図示しない車両ECUなど外部の制御装置から電力開閉器50の開放状態が通信され、電力開閉器50が開放状態である場合に、電源側異常状態と判定してもよい。
また、電力変換回路25のスイッチング素子は、どのような素子を用いてもよいが、例えば、ワイドバンドギャップ半導体を用いることができる。ワイドバンドギャップ半導体としては、例えば、炭化珪素、窒化ガリウム系材料、ダイヤモンド等により形成されたものが挙げられる。
このようなワイドバンドギャップ半導体によって形成されたスイッチング素子で構成されたワイドバンドギャップインバータは、従来のSi(シリコン)によって形成されたスイッチング素子で構成されたSiインバータと比較して、高耐電圧、低損失であり、高周波駆動が可能である特徴がある。
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2に係る電動機制御装置を図7から図9に基づいて詳細に説明する。本実施の形態2に係る電動機制御装置は、先の実施の形態1の図1に示すシステム構成と同様に、インバータ回路20とスイッチング制御部60で構成されている。ただし、本実施の形態2は、先の実施の形態1と比較して、スイッチング制御部60の機能ブロック構成が異なっている。そこで、この相違点を中心に、以下に説明する。
図7は、本発明の実施の形態2におけるスイッチング制御部60の機能ブロック図である。図7に示すように、本実施の形態2に係るスイッチング制御部60の機能ブロックにおいては、先の実施の形態1における図2に示した機能ブロック図と比較すると、角速度演算部70がさらに付加されている。
また、角速度演算部70が付加されたことに伴って、3相短絡処理指令生成部67での3相短絡処理指令生成方法が、先の実施の形態1と異なる。その他の構成や動作は、先の実施の形態1と同じであるので、先の実施の形態1と同一または相当する部分については、説明を省略し、先の実施の形態1と異なるスイッチング制御部60について、詳細に説明する。
図7に示したスイッチング制御部60は、電流指令生成部61、三相二相変換部62、電流制御部63、二相三相変換部64、デューティ変換部65、PWM信号生成部66、3相短絡処理指令生成部67、電源側異常判定部68、相電流位相算出部69、および角速度演算部70で構成される。
ここで、電流指令生成部61、三相二相変換部62、電流制御部63、二相三相変換部64、デューティ変換部65、PWM信号生成部66、電源側異常判定部68、相電流位相算出部69は、先の実施の形態1と同一であるので、説明を省略する。
本実施の形態2で新たに付加された角速度演算部70は、回転角センサ30から電気角θeが入力され、電気角θeを時間微分することにより、電気角速度ωを算出する。
3相短絡処理指令生成部67は、三相二相変換部62からd軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqが入力され、電源側異常判定部68から電源側異常判定結果Errが入力され、相電流位相算出部69からU相の相電流位相θuが入力され、さらに、角速度演算部70から電気角速度ωが入力される。そして、3相短絡処理指令生成部67は、これらの入力に基づいて3相短絡処理指令S3PSを生成する。
より具体的には、3相短絡処理指令生成部67は、電源側異常判定結果Errが電源側正常状態である場合には、3相短絡処理指令S3PSとして、3相短絡不実施指令を生成する。一方、3相短絡処理指令生成部67は、電源側異常判定結果Errが電源側異常状態である場合には、d軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iq、U相の相電流位相θu、電気角速度ωに基づいて、3相短絡処理指令S3PSとして、3相短絡実施指令を生成する。
本実施の形態2に係る電動機制御装置の技術的特徴は、スイッチング制御部60内に3相短絡処理指令生成部67、相電流位相算出部69、および角速度演算部70を有し、電源側異常状態である場合に、d軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iq、U相の相電流位相θu、電気角速度ωに基づいて3相短絡実施指令を生成し、3相短絡処理を実施できる構成を備える点にある。
この構成により、本実施の形態2に係る電動機制御装置は、後述するように、インバータが直流電源から切り離された場合のコンデンサ端子間電圧の上昇を抑制するために3相短絡処理を実施する場合において、3相短絡処理実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなるようなタイミングで、3相短絡処理を開始することができる。
以下に、本実施の形態2に係る電動機制御装置の特徴である3相短絡処理指令生成部67の動作について、詳細に説明する。なお、相電流位相算出部69の動作は、先の実施の形態1と同じであるので、説明を省略する。
また、3相短絡処理指令生成部67の動作において、先の実施の形態1と異なるのは、3相短絡実施指令を生成する場合に算出する3相短絡処理実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなるようなタイミングの算出方法である。従って、以下では、先の実施の形態1と重複する説明は省略し、電源側異常判定結果Errが電源側異常状態である場合、すなわち、3相短絡処理指令生成部67にて3相短絡実施指令を生成する場合、の3相短絡処理指令S3PSの生成方法について、詳述する。
まず、3相短絡処理実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなる3相短絡開始タイミングを説明する。
実施の形態1で説明したように、電動機の電気角速度をω、短絡前電流の振幅をA、誘起電圧電流の振幅をB、短絡前電流と誘起電圧電流の位相差をε、3相短絡を開始する時刻をT0とおくと、上式(10)と同様の下式(15)を満たすタイミングT0で3相短絡を開始すると、3相短絡処理実施後の相電流絶対値の最大値を極力小さくすることができる。
ここで、上式(15)におけるA、B、εを説明するために、3相短絡処理前後の電流に関して、d−q軸座標系での電流ベクトル図で示した先の図4を流用して説明する。
図4(a)は、3相短絡処理前に流れる回生制御中の電流を、d−q軸座標系での電流ベクトル図で示したものである。3相短絡処理前は、電動機10が発生すべきトルク指令値Trq*に対して決定されるd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*に基づき、電流制御が行われている。従って、この電流制御により、d軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*と等しい電流が電動機10に流れている。
回生動作の場合には、負のq軸電流が流れている。また、電動機の回転速度が高い動作領域では、永久磁石の磁束を等価的に減じる弱め界磁制御が実施されることが一般的であり、この場合も負のd軸電流が流れている。
図4(b)は、3相短絡処理後に電動機の誘起電圧により流れる短絡電流をd−q軸座標系での電流ベクトル図で示したものである。3相短絡処理後は、電動機の誘起電圧Emを打ち消すように短絡電流Isが流れる。
より詳細には、短絡電流Isのd軸成分をIsd、q軸成分をIsq、d軸上で作用するd軸リアクタンスをLd、q軸上で作用するq軸リアクタンスをLq、電機子巻線抵抗をR、d−q軸座標系でd軸成分として現れる電機子鎖交磁束数をφとおくと、図4(b)に示すように、電動機の誘起電圧ベクトルEm=ωφ、q軸電流によって生成される磁束による電圧ベクトルωLqIsq、d軸電流によって生成される磁束による電圧ベクトルωLdIsd、電機子巻線抵抗で発生する電圧ベクトルRIs、の合成電圧ベクトルが0ベクトルとなるような短絡電流Isが流れる。短絡前電流と誘起電圧電流との位相差εは、電流ベクトルIとIsの角度となる。
図4(b)を参照して、Isd、Isqには、下式(16)の関係が成り立つ。
上式(16)および図4(b)より、上式(10)におけるA、B、εは、下式(17)のように求めることができる。
以上の説明にて、U相の相電流位相θuが、上式(10)に示される電流位相ωT0となるタイミングで3相短絡処理を開始すると、3相短絡実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなることを示した。上式(10)におけるA、B、εは、上式(17)より算出でき、また、上式(17)におけるd軸リアクタンスLd、q軸リアクタンスLq、電機子鎖交磁束数φ、電機子巻線抵抗Rは電動機10によって決まる既知の値である。
すなわち、上式(10)および上式(17)により、3相短絡開始タイミングの電流位相ωT0は、d軸電流Id、q軸電流Iq、電気角速度ωが分かれば求めることができる。ここで、d軸電流Id、q軸電流Iq、電気角速度ωは、3相同期電動機の駆動制御および回生制御に用いられるパラメータに相当する。
従って、3相短絡処理指令生成部67は、3相短絡実施指令を生成する場合、三相二相変換部62から入力されたd軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqと、相電流位相算出部69から入力されたU相の相電流位相θuと、角速度演算部70から入力された電気角速度ωとに基づいて、3相短絡実施指令を生成することで、3相短絡実施後の相電流絶対値の最大値を極力小さくすることができる。
図8は、本発明の実施の形態2に係る3相短絡処理指令生成部67による一連処理を示すフローチャートである。この図8のフローチャートを用いて、3相短絡処理指令生成部67の詳細な処理について説明する。
最初のステップS201(以下、「ステップ」を省略し、単に記号「S」で示す)において、3相短絡処理指令生成部67は、3相短絡実施中であるか否かを判断する。そして、3相短絡実施中である場合(S201:YES)には、S206の処理に移行し、3相短絡処理指令生成部67は、3相短絡状態を継続するように、3相短絡処理指令S3PSとして3相短絡実施指令を生成する。
一方、3相短絡実施中でない場合(S201:NO)には、3相短絡処理指令生成部67は、S202の処理へ移行する。そして、S202において、3相短絡処理指令生成部67は、電源側異常判定結果Errが電源側異常状態であるか否かを判断し、電源側異常判定結果Errが電源側異常状態である場合(S202:YES)には、S203の処理へ移行する。
一方、3相短絡処理指令生成部67は、電源側異常判定結果Errが電源側異常状態でない場合(S202:NO)には、3相短絡処理を実施する必要がない状態であるため、S207の処理に移行し、3相短絡処理指令S3PSとして3相短絡不実施指令を生成する。
S203に進んだ場合には、3相短絡処理指令生成部67は、三相二相変換部62から入力されたd軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqと、角速度演算部70から入力された電気角速度ωとから、上式(17)を用いて、短絡前電流の振幅A、誘起電圧電流の振幅B、短絡前電流と誘起電圧電流の位相差εを算出し、S204の処理へ移行する。
次に、S204において、3相短絡処理指令生成部67は、S203で算出された短絡前電流の振幅A、誘起電圧電流の振幅B、短絡前電流と誘起電圧電流の位相差εから、上式(10)を用いて、3相短絡処理を開始するU相の電流位相ωT0を算出し、S205の処理へ移行する。
ここで、U相の電流位相ωT0は、整数nに応じて複数算出できるが、3相短絡処理指令生成部67は、0から2πの範囲の位相をωT0として算出する。すなわち、電流位相ωT0として、6個の位相が算出されることとなる。
次に、S205において、3相短絡処理指令生成部67は、相電流位相算出部69から入力されたU相の相電流位相θuが、S204で算出した電流位相ωT0の近傍であるか否かを判断する。
そして、U相の相電流位相θuが電流位相ωT0の近傍である場合(S205:YES)には、3相短絡実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなる3相短絡開始タイミングである。そこで、この場合には、S206の処理に移行し、3相短絡処理指令生成部67は、3相短絡処理指令S3PSとして3相短絡実施指令を生成する。
一方、U相の相電流位相θuが電流位相ωT0の近傍でない場合(S205:NO)には、3相短絡実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなる3相短絡開始タイミングでない。そこで、この場合には、S207の処理に移行し、3相短絡処理指令生成部67は、3相短絡処理指令S3PSとして3相短絡不実施指令を生成する。
以上の図8のフローチャートに従って3相短絡処理を実行することにより、電源側異常判定結果Errが電源側異常状態である場合、すなわち、3相短絡処理指令生成部67にて3相短絡実施指令を生成する場合に、3相短絡処理実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなるようなタイミングで、3相短絡実施指令を生成することができる。すなわち、3相短絡処理を実施する場合に、3相短絡実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなるタイミングで、3相短絡処理を開始することができる。
以上のように、実施の形態2によれば、3相短絡処理を実施する場合に、3相短絡実施後の相電流絶対値の最大値が極力小さくなる3相短絡開始タイミングを、d軸電流、q軸電流、相電流の位相、電動機の回転角速度に基づいて判断できる構成を備えている。この結果、3相短絡処理を実施した場合の相電流の上昇を、極力抑制することができる。
また、電源側異常状態と判定されたときに3相短絡処理を実施する構成としている。この結果、インバータが直流電源から切り離された場合のコンデンサ端子間電圧の上昇を抑制するために3相短絡処理を実施する場合においても、電動機の相電流の上昇を極力抑制することができる。
すなわち、実施の形態2によれば、インバータが直流電源から切り離された場合のコンデンサ端子間電圧の上昇、および電動機の各相に流れる相電流の上昇を抑制できる。この結果、インバータや電動機の破壊を防止する電動機制御装置を、小型、低コストで実現することができる。
特に、実施の形態2によれば、数式を簡素化するために電機子巻線抵抗Rを無視する近似により短絡電流Isを求める方法の実施の形態1に比較して、電機子巻線抵抗Rを無視せずに短絡電流Isを求めている。この結果、本実施の形態2に係る電動機制御装置は、先の実施の形態1に係る電動機制御装置と比較して、より正確に3相短絡開始タイミングを算出でき、3相短絡処理を実施した場合の相電流の上昇を、より抑制することができる。
なお、上述した実施の形態2では、3相短絡処理指令生成部67にて3相短絡実施指令を生成する場合に、三相二相変換部62から入力されたd軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqと、相電流位相算出部69から入力されたU相の相電流位相θuと、角速度演算部70から入力された電気角速度ωとに基づく図7の構成について説明した。しかしながら、本発明は、このような図7の構成に限定されるものではない。
図9は、本発明の実施の形態2における、先の図7とは異なる構成によるスイッチング制御部60の機能ブロック図である。図9に示すように、3相短絡処理指令生成部67は、d軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqの代わりに、電流指令生成部61からd軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*を入力し、3相短絡実施指令を生成する構成としてもよい。
この図9の構成を採用することで、電動機電流検出回路26により検出される相電流Iu、Iv、Iwにノイズが重畳する場合にも、3相短絡処理指令生成部67は、ノイズの影響を受けずに、3相短絡実施指令を生成することができる。
また、実施の形態2では、3相短絡処理指令生成部67にてU相の電流位相ωT0を算出する処理として、上式(10)での整数nに応じて、0から2πの範囲で6個の位相を算出する処理とする場合について説明した。しかしながら、本発明は、このような場合に限定されるものではなく、3相短絡処理指令生成部67は、例えば、0から2πの範囲で、該当する1個の位相のみを算出する処理を実行するようにしてもよい。
このような処理を採用した場合には、3相短絡処理指令生成部67は、6個の位相を算出する場合と比較して、比較的簡単な処理で、3相短絡処理を開始するタイミングを判断することができる。
なお、上述した実施の形態1、2は、あくまで一例であり、本発明が適用できるものであれば、実地の形態1、2に何ら限定されない。例えば、実施の形態1、2では、直流電源90と電動機制御装置80を直接接続していた。しかしながら、直流電源90と電動機制御装置80との間に昇圧や降圧を行うDC/DCコンバータを配置する構成としてもよい。また、交流電源の交流電力を直流電力に変換する整流器や、AC/DCコンバータを介して交流電源と接続される構成としてもよい。
また、実施の形態1、2では、電気自動車への適用を例として説明したが、エンジンと電動機を併用するハイブリット車両に適用してもよい。さらには、本発明に係る電動機制御装置は、その適用対象が車両に限定されるものでもない。
上述したように、本発明は、実施の形態1、2に限定されるものではなく、種々の設計変更を行うことが可能であり、その発明の範囲内において、各実施の形態1、2を自由に組み合わせたり、各実施の形態1、2を適宜、変形、省略したりすることが可能である。