JP6198717B2 - 末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法及びそのキット - Google Patents
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Description
CTCをがん患者の末梢血から検出することを考えると、高濃度の血球細胞群の中からそれらの濃度に対して1000,000,000分の1の割合程度の非常に低濃度の細胞を検出することになる。このため、数え落としや患者の検体間のコンタミネーションが大きな誤診断につながる。CTC計測としては、Cell Searchシステム(米国製)を用いて行われている例がある。この技術は、特許文献1に開示されているように、核染色とサイトケラチン染色を行い、CD326抗体磁気ビーズを反応させて磁場を利用して浮上させた細胞に、レーザービームを走査することで蛍光イメージを取得し、人間がその画像をみてCTCと判断する方法である。次にCTC−chipと呼ばれる技術がある。この技術は、特許文献2に開示されているように、名刺サイズのシリコンウエハーに8万本の微小ポストを形成したチップに血液を通し、抗EpCAM抗体をコーティングした8万本の微小ポストの全数画像認識により吸着したCTCを識別計数する方法である。特許文献3は、特許文献1の方法で検出されたCTCを回収し、蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(fluorescence in situ hybridization;以下、FISH法と称することがある)法によりCTCの遺伝子解析を行う方法を開示している。特許文献4と特許文献9には、使い捨てチップを用いるフローサイトメーターの技術を記載している。この技術によってコンタミネーションフリーの測定が可能となっている。特許文献5は、フローセルを含む送液系が固定である従来方式のフローサイトメーターの技術内容を記載している。特許文献6は、特許文献1の方法で検出されたCTCを回収し、FISH法によりCTCのIGF−1R遺伝子の異常を評価するための方法を開示している。特許文献8には、マイクロフィルターを用いて細胞サイズによりCTCを濃縮する方法を記載している。非特許文献1は、がん細胞のみに感染するウイルスを用い、そのウイルスによってがん細胞に蛍光タンパクであるGFPを発現させて、蛍光顕微鏡で検出する方式を開示している。非特許文献3には、上皮細胞由来の腫瘍において上皮間葉転換(以下、EMTと称することがある)が起こることで、がん細胞が遊離しやすくなり、他の場所に移動しやすくなるということが示されている。このEMTは1980年代初めにElizabeth Hayらが提唱した、上皮細胞が間葉系様細胞に形態変化する現象である。このEMTの進行が、がんの転移に関係しているということを記載している。非特許文献2は、上皮細胞由来のCTCにおいてもEMTが生じていることが示されている。非特許文献7は、電気泳動によるタンパク質解析によって培養細胞のEMTについて知見を記載している。これによると細胞周期によって、サイトケラチンとビメンチンの発現量の比率が変化せず一定であるということである。この発現の比率は、電気泳動による結果なので多数の細胞の集団平均の結果として求められている。
非特許文献4は、ベクトン・ディッキンソン社製のCPT Vacutainer tubesを利用して、前立腺癌由来CTCを白血球群から分離して濃縮する方法が記載されている。非特許文献5は米国CYTOTRACK社のCYTOTRACKシステムを開示しており、この方法は、検出の前に特別な濃縮工程がなく、蛍光抗体ラベル後にディスク上にCTCを含む細胞群を分布させて固定したあとに、コンパクトディスク方式でレーザー走査して、ディスク上のCTCを検出する方式をとっている。非特許文献6に記載の方法は、EpCAMを利用してCTCを磁気濃縮する方法と特許文献4の装置技術を利用してCTCを検出する技術である。
第1の課題は、以下の上皮間葉転換を起こしたCTCのEpCAMによる検出に関する問題である。
特許文献1に開示されている方法は、EpCAMを利用したCTC濃縮方法を採用している。しかしながら、非特許文献2に報告されているように、上皮性がん細胞由来のCTCは上皮間葉転換(EMT)を起こすことが報告されている。上皮間葉転換を起こすと、集団を形成している癌細胞が単細胞で遊走することが可能になり、がんが転移しやすくなると考えられている。そして、EMTによりEpCAM発現が低下するため、EpCAMを利用してCTCを濃縮して検出する方法では、EMTが進行した悪性度の高く転移しやすいCTCほど検出が困難である。
現在、患者の末梢血に含まれるCTCの検出される数(密度)と患者の予後との相関により、CTCの数(密度)が多いほどがんが進行していると判断されている。しかしながら、非特許文献2で示されたように、がん転移が起こっている患者は初期のがん患者よりEMTが発生しているCTCの比率が多いということが示されている。従って患者の予後は、CTCの数(密度)以外に、EMTが生じているCTCの割合が関係していることが考えられる。すなわち、個々のCTCのEMTに関する評価が重要と考えられる。CTCのEMTの有無の評価方法は、非特許文献2に記載されているように、サイトケラチン(CK)とビメンチン(Vimentin)の2重の蛍光染色を行い、蛍光顕微鏡画像により、CTCがCKの他にVimentinも蛍光染色されているかどうかで、EMTの有無を判断している。この報告によれば、初期のがん患者の70%以上のCTCでEMTが生じており、そして転移がん患者のCTCの100%でEMTが発生していることを報告している。しかしながら、がん患者のCTCは70%以上でEMTが生じているので、EMTが生じているCTCの割合に基づいて、がん転移が起こっているか否かどうか判断することは困難である。なぜならば、CTCの検出数はそもそも7mLの末梢血中のCTC数は10個程度であるのが一般的で、ポアッソン分布による統計誤差を考えると、10個程度のCTC計数値にはそれ自体に±30%程度の誤差を含んでいる。この±30%の精度で、EMTが生じているCTC数の割合が70%(初期がん患者)から100%(がん転移患者)までの変動を議論することは不可能である。
すなわち、初期のがん患者においても末梢循環腫瘍細胞の70%でEMTが生じているため、末梢循環腫瘍細胞におけるEMTの発生の割合から、癌の進行度又は癌の悪性度を評価することは非常に困難であった。また、非特許文献7に記載されているEMTの評価方法は、細胞数が少ないので末梢循環腫瘍細胞に適用することは不可能である。
本発明の目的は、癌の転移、癌の進行度、又は癌の悪性度を正確に判断できる評価方法を提供することである。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
[1](a)末梢循環腫瘍細胞を含む可能性のある被検試料と、上皮系細胞に発現するマーカーと特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された上皮結合成分及び間葉系細胞に発現するマーカーと特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された間葉結合成分とを接触させる工程、(b)末梢循環腫瘍細胞に結合した上皮結合成分の蛍光又は発光信号及び間葉結合成分の蛍光又は発光信号を、個々の細胞について検出する工程、及び(c)上皮結合成分の信号量(E)及び間葉結合成分の信号量(M)から、末梢循環腫瘍細胞の上皮間葉転換の進行度を決定する工程、を含むことを特徴とする、末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法、
[2]前記工程(a)の前又は後に、(d)被検試料中の赤血球及び/又は白血球を除去する工程を更に含む、[1]に記載の末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法、
[3]前記工程(a)において、末梢循環腫瘍細胞を含む可能性のある被検試料と、白血球に発現するマーカーと特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された白血球結合成分を接触させることを含む、[1]又は[2]に記載の末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法、
[4]前記検出工程(b)において、蛍光又は発光信号をフローサイトメーター又はイメージアナライザーにより検出する、[1]〜[3]のいずれかに記載の末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法、
[5]前記工程(c)における進行度が、式(1)
P=M/(E+M) (1)、
式(2)
P=E/(E+M) (2)、
式(3)
P=Log[M/(E+M)] (3)、及び
式(4)
P=Log[E/(E+M)] (4)
(各式中、Pは進行度、Eは上皮結合成分の信号量、Mは間葉結合成分の信号量である)
からなる群から選択される式で表される、[1]〜[4]のいずれかに記載の末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法、
[6](e)前記上皮結合成分を標識している蛍光物質が結合した粒子及び前記間葉結合抗体を標識している蛍光物質が結合した粒子の測定によって、上皮間葉転換が開始していない状態(0)と上皮間葉転換が終了した状態(1)との基準を設定する工程、を更に含む、[1]〜[5]のいずれかに記載の末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法、
[7]前記工程(e)を工程(b)及び(c)と同時に行う、[6]に記載の末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法、
[8]前記上皮結合成分がサイトケラチン、EpCAM、又はE−カドヘリンに特異的に結合する抗体又はアプタマーであり、そして間葉結合成分がビメンチン、又はN−カドヘリンに特異的に結合する抗体又はアプタマーである、[1]〜[7]のいずれかに記載の末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法、
[9](a)上皮系細胞に発現するマーカーに特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された上皮結合抗体、及び(b)間葉系細胞に発現するマーカーに特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された間葉結合抗体、を含む末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出キット、
[10](c)白血球に発現するマーカーと特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された白血球結合抗体;及び/又は(d)前記上皮結合抗体を標識している蛍光物質又は発光酵素が結合した粒子、及び(e)前記間葉結合抗体を標識している蛍光物質又は発光酵素が結合した粒子、を更に含む[9]に記載の末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出キット、
[11]前記上皮結合抗体がサイトケラチン、EpCAM、又はE−カドヘリンに特異的に結合する抗体であり、そして間葉結合抗体がビメンチン、又はN−カドヘリンに特異的に結合する抗体である、[9]又は[10]に記載の末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出キット、
[12]上皮系細胞に発現するマーカーに特異的に結合する上皮結合抗体及び/又は間葉系細胞に発現するマーカーに特異的に結合する間葉結合抗体の、末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出キットの製造のための使用、
[13]前記上皮結合抗体がサイトケラチン、EpCAM、又はE−カドヘリンに対する抗体であり、そして前記間葉結合抗体が、ビメンチン、又はN−カドヘリンに対する抗体である、[12]に記載の使用、
[14](a)末梢循環腫瘍細胞に結合した上皮結合成分の蛍光又は発光信号量、及び末梢循環腫瘍細胞に結合した間葉結合成分の蛍光又は発光信号量を細胞単位で受信する手段、(b)前記受信した上皮結合成分の信号量(E)及び間葉結合成分の信号量(M)から、末梢循環腫瘍細胞の上皮間葉転換の進行度を細胞単位で決定する手段、を含むことを特徴とする、末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出装置、
[15] 前記手段(b)における進行度が、式(1)
P=M/(E+M) (1)、
式(2)
P=E/(E+M) (2)、
式(3)
P=Log[M/(E+M)] (3)、及び
式(4)
P=Log[E/(E+M)] (4)
(各式中、Pは進行度、Eは上皮結合成分の信号量、Mは間葉結合成分の信号量である)
からなる群から選択される式で表される、[14]に記載の末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出装置、
[16]前記上皮結合成分がサイトケラチンEpCAM、又はE−カドヘリンに特異的に結合する抗体であり、そして間葉結合成分がビメンチン又はN−カドヘリンに特異的に結合する抗体である、[14]又は[15]に記載の末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出装置、
[17]細胞を計測する方法において、個々の細胞に発現している複数の分子の数量を細胞単位で評価し、それらの複数の分子の数量を用いて個々の細胞が有する特性量を定量化し表示することを特徴とする細胞評価方法、
[18]個々の細胞で計測する複数の分子の量は、上皮系細胞に発現するマーカーの量(E)と間葉系細胞に発現するマーカーの量(M)であって、細胞の特性量とは上皮間葉転換の進行度であってEとMの式で指数化した量である[17]に記載の細胞評価方法、
[19]細胞を計測する細胞評価装置において、個々の細胞に発現している複数の分子の数量を細胞単位で評価し、それらの複数の分子の数量を用いて個々の細胞が有する特性量を定量化し表示することを特徴とする細胞評価装置、又は
[20]個々の細胞で計測する複数の分子の量は、上皮系細胞に発現するマーカーの量(E)と間葉系細胞に発現するマーカーの量(M)であって、細胞の特性量とは上皮間葉転換の進行度であってEとMの式で指数化した量である[19]に記載の細胞評価装置、
に関する。
本発明の末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法は(a)末梢循環腫瘍細胞を含む可能性のある被検試料と、上皮系細胞に発現するマーカーと特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された上皮結合成分及び間葉系細胞に発現するマーカーと特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された間葉結合成分とを接触させる工程、(b)末梢循環腫瘍細胞に結合した上皮結合成分の蛍光又は発光信号及び間葉結合成分の蛍光又は発光信号を個々の細胞について検出する工程、及び(c)上皮結合成分の信号量(E)及び間葉結合成分の信号量(M)から、末梢循環腫瘍細胞の上皮間葉転換の進行度を決定する工程、を含む。
本発明の末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出方法は、更に前記工程(a)の前又は後に、(d)被検試料中の赤血球及び/又は白血球を除去する工程を含んでもよい。
本発明の検出方法における接触工程(a)は、末梢循環腫瘍細胞を含む可能性のある被検試料と、上皮系細胞に発現するマーカーと特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された上皮結合成分及び間葉系細胞に発現するマーカーと特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された間葉結合成分とを接触させるものである。
上皮系細胞に発現するマーカー(以下、上皮系細胞マーカーと称する)は、末梢循環腫瘍細胞に発現される限り、特に限定されるものではなく、例えば上皮系細胞の表面タンパク質又は糖を挙げることができる。より具体的には、サイトケラチン、EpCAM、E−カドヘリンを上皮系細胞マーカーとして用いることができるが、特にはサイトケラチンが好ましい。サイトケラチンとしては、CK1、CK4、CK5、CK8、CK10、CK14、CK15、CK16、CK18、及びCK19からなる群から選択される少なくとも1つのサイトケラチンを用いることができるが、好ましくはこれらの2つ以上の組み合わせを用いることが好ましい。また、サイトケラチンとEpCAMとE−カドヘリンを共通の蛍光標識を行って、それら発現量の合計を上皮系細胞に発現するマーカーの発現量とすることも可能である。組合せは自由であるが、サイトケラチンを含むのが好ましい。
前記上皮系細胞マーカーに、特異的に結合する上皮結合成分は、上皮系細胞マーカーに結合することができる限り、特に限定されるものではなく、例えば抗体、抗体フラグメント、抗原、DNA、RNA、受容体、受容体に対するリガンド、酵素、酵素に対するリガンド、酵素アナログ、酵素アナログの元となる酵素の基質、レクチン、又は糖を挙げることができる。具体的には、前記上皮系細胞マーカーがタンパク質の場合、抗体、抗体フラグメント、受容体に対するリガンド、酵素に対するリガンド、DNA(例えば、アプタマー)、又はRNAを用いることができる。また、前記上皮系細胞マーカーが糖の場合、抗体、抗体フラグメント、又はレクチンを挙げることができる。
間葉系細胞に発現するマーカー(以下、間葉系細胞マーカーと称する)は、末梢循環腫瘍細胞に発現される限り、特に限定されるものではなく、例えば間葉系細胞の表面タンパク質又は糖を挙げることができる。より具体的には、ビメンチン、ツイスト(Twist)、又はN−カドヘリンを間葉系細胞マーカーとして用いることができる。また、ビメンチンとツイストとN−カドヘリンを共通の蛍光色で標識を行って、それら発現量の合計を間葉系細胞に発現するマーカーの発現量とすることも可能である。組合せは自由であるが、ビメンチンを含むことがのぞましい。
前記間葉系細胞マーカーに、特異的に結合する間葉結合成分は、間葉系細胞マーカーに結合することができる限り、特に限定されるものではなく、例えば抗体、抗体フラグメント、抗原、DNA、RNA、受容体、受容体に対するリガンド、酵素、酵素に対するリガンド、酵素アナログ、酵素アナログの元となる酵素の基質、レクチン、又は糖を挙げることができる。具体的には、前記間葉系細胞マーカーがタンパク質の場合、抗体、抗体フラグメント、受容体に対するリガンド、酵素に対するリガンド、DNA(例えば、アプタマー)、又はRNAを用いることができる。また、前記間葉系細胞マーカーが糖の場合、抗体、抗体フラグメント、又はレクチンを挙げることができる。
前記上皮結合成分又は間葉結合成分として用いる抗体は、特に限定されないが、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、又はそれらの抗体の抗原結合部位を有する抗体フラグメントなどを挙げることができる。抗体フラグメントとしては、例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、又はFv等を挙げることができる。これらの抗体フラグメントは、例えば、抗体を常法によりタンパク質分解酵素(例えば、ペプシン又はパパイン等)によって消化し、続いて、常法のタンパク質の分離精製の方法により精製することにより、得ることができる。
前記上皮結合成分及び間葉結合成分は、蛍光標識又は発光酵素標識されているものが好ましい。蛍光標識に用いる蛍光物質は、特に限定されるものではないが、例えば、AMCA、Alexa Flour 350、Murina Blue、Cascade Blue、Cascade Yellow、Pacific Blue、Alexa Flour 405、Alexa Flour 488、Qdot(R)605、FITC、PE/RD1、ECD/PE−TexasRed、PC5/SPRD/PE−Cy5、PC5.5/PE−Cy5.5、PE Alexa Flour 750、PC7/PE−Cy7、TRITC、Cy3、Texas Red、Alexa Flour 647、Alexa Flour 700、Cy5、Cy5.5、APC、APC7/APC−Cy7、APC Alexa Flour 750、を挙げることができる。
また、発光酵素も特に限定されるものではないが、ルシフェラーゼを挙げることができる。ルシフェラーゼの由来も特に限定されるものではなく、ホタル由来、細菌由来のルシフェラーゼを挙げることができる。発光酵素はその酵素に特異的な基質と反応することによって発光する。従って後述のイメージアナライザーによる解析で用いることが望ましい。発光酵素の基質は、それぞれの発光酵素に特異的なものを用いればよく、適宜選択することが可能であるが、ルシフェラーゼの場合、それぞれのルシフェラーゼに基質特異性を有するルシフェリンを用いることができる。
本発明の接触工程(a)においては、末梢循環腫瘍細胞を含む可能性のある被検試料と、白血球に発現するマーカーと特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された白血球結合成分を接触させることを含んでもよい。
白血球に発現するマーカーを蛍光染色することにより、末梢循環腫瘍細胞と白血球とを、後述の検出工程において、フローサイトメーター又はイメージアナライザーで確実に分別することが可能であり、末梢循環腫瘍細胞の検出の確度を挙げることができるからである。
白血球に発現するマーカーは、白血球に特異的に発現しているマーカーであれば、特に限定されるものではないが、例えばCD45、CD2、CD3、CD4、CD5、CD8、CD10、CD11b、CD14、CD15、CD16、CD19、CD20、CD24、CD25、CD27、CD29、CD33、CD36、CD38、CD41、CD45、CD45RA、CD45RO、CD56、CD66b、CD66e、CD69、又はCD124を挙げることができ、特にはCD45が好ましい。CD45マーカーは、ほとんどの白血球に存在しているからである。また、マーカーと特異的に結合する白血球結合成分も、特に限定されるものではないが、例えば抗体、抗体フラグメント、抗原、DNA、RNA、受容体、受容体に対するリガンド、酵素、酵素に対するリガンド、酵素アナログ、酵素アナログの元となる酵素の基質、レクチン、又は糖を挙げることができるが、抗体又は抗体フラグメントが好ましい。
白血球結合成分として、抗体を用いる場合は、限定されるものではないが、前記「(抗体又は抗体フラグメント)」に記載のものを用いることが可能である。また、白血球結合成分を標識する蛍光標識又は発光酵素標識は、限定されるものはないが、前記「(蛍光標識又は発光酵素標識)」の欄に記載のものを用いることができる。
更に、本発明の末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出方法においては、被検試料中の細胞を核染色してもよい。核染色を行うことによって、末梢循環腫瘍細を膜断片などと区別して的確に区別することができるからである。
本発明の末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出方法において、用いる被検試料としては、癌の疑いのある患者の被検試料であれば特に限定されるものではない。すなわち、末梢循環腫瘍細胞を含む可能性のある被検試料であれば限定されない。具体的には、末梢循環腫瘍細胞を含む可能性のある生体由来の液体試料であり、例えば、血液、尿、リンパ液、組織液、髄液、腹水、胸水を挙げることができる。採血で簡単に採取できるという点から末梢血がのぞましい。
また、被検試料を採取される対象の癌は、上皮性腫瘍であり、この種の癌としては、膀胱癌、乳癌、大腸癌、直腸癌、腎臓癌、肝臓癌、肺癌、小細胞肺癌、食道癌、胆嚢癌、卵巣癌、膵臓癌、胃癌、子宮頸部癌、甲状腺癌、前立腺癌、扁平上皮癌、皮膚癌、十二指腸癌、腟癌、又は脳腫瘍を挙げることができる。
本発明において検出される末梢循環腫瘍細胞は、特に限定されるものではないが、上皮性癌由来のものが好ましく、上皮間葉転換(EMT)を起こすものが好ましい。末梢循環腫瘍細胞の癌細胞の半減期は1〜2.4時間との報告もあり、多くはアポトーシスで死滅する。従って、血液細胞109個/mLに対して、数個〜数十個程度しか存在しない。
検出工程(b)において、末梢循環腫瘍細胞に結合した上皮結合成分の蛍光又は発光信号及び間葉結合成分の蛍光又は発光信号を検出するものである。
個別の末梢循環腫瘍細胞について、上皮系細胞マーカー及び間葉系細胞マーカーに結合した蛍光又は発光信号を測定する。上皮系細胞マーカーの蛍光又は発光信号が一定の閾値以上有することが、末梢循環腫瘍細胞として検出するための条件である。
特に、使い捨てマイクロ流路チップを用いたフローサイトメーターは、検体間のクロスコンタミネーションを防止することができる点で好ましい。また、低密度のCTCの蛍光信号を個々に高速で行うことができる。従って、特許文献4や特許文献9に開示した様に、使い捨てマイクロ流路チップによりコンタミネーションフリーを実現するフローサイトメーターにより計測を行うことが好ましい。フローサイトメーターの場合は、蛍光染色した細胞が測定対象となる。さらにその測定データは細胞単位の蛍光強度であるために、細胞単位の上皮間葉転換の進行度の定量化に、その信号強度を用いることができる点が、次のイメージアナライザーの場合とは異なる点である。
イマージアナライザーは、蛍光染色した細胞または自発光する様に染色した細胞が測定対象であり、細胞の蛍光強度分布又は発光強度分布発光信を計測する。イメージアナライザーはフローサイトメーターとは異なり、その測定データは一定範囲に複数個の細胞を含む光強度分布イメージである。細胞単位の信号定量化には画像認識による細胞輪郭抽出機能が必要である。具体的には、細胞輪郭の内側の上皮結合成分の蛍光強度分布の積分量と間葉結合成分の蛍光強度分布の積分量とを求める。次の工程の上皮間葉転換の進行度の定量化を行う場合は、上記の積分量が必要である。
進行度決定工程(c)は、上皮結合成分の信号量(E)及び間葉結合成分の信号量(M)によって、末梢循環腫瘍細胞の上皮間葉転換の進行度を定量化するものである。
上皮結合成分の信号量(E)は、上皮系細胞マーカーの末梢循環腫瘍細胞における発現量を表し、そして間葉結合成分の信号量(M)は間葉系細胞マーカーの末梢循環腫瘍細胞における発現量を表す。従って、上皮間葉転換の進行度を上皮系細胞マーカーの発現量と、間葉系細胞マーカーの発現量とを用いて定量化することに対応する。
EMT進行度は、上皮結合成分の信号量(E)及び間葉結合成分の信号量(M)を用いて、信号量Eが信号量Mに割合が変化する指数で示すものであれば、特に限定されるものではない。信号量Eが信号量Mに割合が多いほど数値が多くなる指数を、本明細書においてEMTインデックス(P)と称する。例えば「M/(E+M)」がのぞましい。
従って、EMTインデックス(P)としては、
式(1)
P=M/(E+M) (1)
を挙げることができる。
Pは値の上限と下限が0から1の範囲で規格化されているメリットがある。これに対して例えば、Pとして「M/E」で定義した場合を考えると、この量はゼロから無限大まで変化するが、Eの値がゼロに近いほどすなわち測定の検出限界に近い不正確な測定データほど大きくなるという結果となるので、診断用の指数としては適さない。また、EMTの進行度を示す指数としては、次の式で定義することもできる。
式(2)
P=E/(E+M) (2)
この場合は、値1がEMTが発生していないことを対応する。同様にこのPの値も上限と下限が決っているというメリットがある。また、このPを対数スケールで示しても良い。
P=[(CTCのVimentin発現量)/((CTCのCK発現量)+(CTCのVimentin発現量))]
このPは、EMTが発生していない場合はゼロであって、Vimentin発現量が増大すると1に近づく量であり、EMTの進行度を示す量として下限値がゼロで上限値が1に規格化した量である。そのため診断基準を異なる装置による結果に対して共通に設定する指数として都合が良い。
このEMTインデックスの計測は、実際の手順は以下の様に行う。すなわちCKを抗CK抗体FITCラベルで染色し、その蛍光を波長範囲が510nmから550nmで検出した信号強度をFL1とし、Vimentinを抗Vimentin抗体PEラベルで染色し、その蛍光を波長範囲が550nmから600nmで検出した信号強度をFL2とすると、EMTインデックス=[A(FL2/(FL1+FL2))+B]という式で表すことができる。但し、AとBは装置定数である。AはFL1とFL2の蛍光検出感度の個体差に依存する装置定数、Bは蛍光信号ゼロレベルで決まる装置定数である。これらの定数の設定方法は、Vimentin発現量ゼロで値がゼロ、CK発現量ゼロでVimentinのみが発現している細胞計測で値が1、となる様にAとBを設定する。以上において、それぞれの蛍光ラベルの種類は上記の種類に限定するものではない。
サイトケラチンのみが発現し、ビメンチンが発現していない「100%CK(FITC)」の蛍光信号値の標準直線を求めるために、FITCによる単染色した細胞を測定することが必要である。しかしながら、この様なサンプルを患者の検体の他に準備するのに時間がかかるので、FITCを結合させた粒子をフローサイトメーターで測定して標準直線を求めてもよい。また、同様にビメンチンのみが発現し、サイトケラチンが発現していない「100%Vimentin(PE)」の標準直線を求める方法も同様に、PEを結合させた粒子をフローサイトメーターで測定してもよい。この様な単一の蛍光スペクトルのみを有する2種類の標準粒子を検体のCTCと同時に測定すると、EMTインデックスの下限と上限についての標準設定と測定対象のCTCのEMTインデックス値評価を同時に実施することができる。これによってEMTインデックスの評価における装置の個体差を確実に補正することができる。この補正は、EMTインデックスに対する診断閾値を、異なる複数の装置で得られた結果に対して共通に適用する場合に重要である。
図3(A)の散布図に記載した100%CK(FITC)のラインは、FITCの蛍光スペクトルで決まるFL1とFL2の比率で決まるラインであり、FITCの蛍光のみを有する粒子や細胞のデータはこのライン上に分布する。100%Vimentin(PE)のラインは、同様にPEの蛍光のみを有する粒子や細胞のデータがこのライン上に分布する。この2種類のデータのEMTインデックス値がそれぞれゼロと1になるようにAとBを決定する。
上皮間葉転換は、上皮系細胞が間葉系細胞に転換することによって細胞間の接着性が薄れる。このEMTは癌細胞の場合はがん組織から遊離して転移する能力につながるため悪性度が進行するものであると考えられる。ここで、前記上皮結合成分の信号量(E)が多い場合は癌の進行度が低く、間葉結合成分の信号量(M)が多い場合は癌の進行度が高いものである。ここで、上皮結合成分の信号量(E)は、上皮系細胞マーカーの発現量を表し、そして間葉結合成分の信号量(M)は間葉系細胞マーカーの発現量を表す。
非特許文献2では、初期のがん患者の70%以上のCTCでEMTが生じており、そして転移がん患者のCTCの100%でEMTが発生していることは示しているが、1つの細胞において、上皮系細胞マーカー(例えば、サイトケラチン)の発現量及び間葉系細胞マーカー(ビメンチン)の発現量が変動することによって、癌の進行度が変化することは示していない。
本発明の末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出方法においては、前記EMTインデックスを用いることによって、上皮結合成分の信号量(E)及び間葉結合成分の信号量(M)の比率によって、末梢循環腫瘍細胞の悪性度、癌の転移の予測、又は癌の進行度を判断することができる。更には、前記比率によって、癌摘出後のがん転移の発生の予測、又は癌の進行度のモニタリング、抗癌剤の治療効果のモニタリングを行うことができる。
本発明の末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出方法においては、(d)被検試料中の赤血球及び/又は白血球を除去する工程を更に含むことができる。除去工程(d)は、本発明の検出方法おいて、必須の工程ではないが、末梢循環腫瘍細胞が、血液細胞109個/mLに対して、数個〜数十個程度しか存在しないため、接触工程(a)の前、又は後に赤血球及び/又は白血球を除去することが好ましく、特には接触工程(a)の前に除去工程(d)を行うことが好ましい。接触工程(a)の前に、除去工程(d)を行うことにより、効率よく上皮系細胞マーカー、及び間葉系細胞マーカー等の蛍光染色等を行うことができるからである。
赤血球の除去方法としては、特に限定されるものではないが、赤血球除去用塩化アンモニウム溶液、又は市販されている赤血球除去用の緩衝液(buffer)を用いることができる。
また、白血球の除去方法としては、限定されるものではないが、白血球の表面マーカーに対する抗体磁気ビーズと磁場を利用した白血球のネガティブセレクションを挙げることができる。この方法は、EpCAMに依存しないCTC濃縮法である点で好ましい。
本発明の末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出方法においては、上皮結合成分を標識している蛍光物質が結合した粒子及び前記間葉結合抗体を標識している蛍光物質が結合した粒子の測定によって、上皮間葉転換が開始していない状態(0)と上皮間葉転換が終了した状態(1)との基準を設定する工程、を更に含むことができる。「上皮結合成分を標識している蛍光物質が結合した粒子」は、前記のFITCを結合させた粒子に相当し、「間葉結合抗体を標識している蛍光物質が結合した粒子」は前記のPEを結合させた粒子に相当するが、蛍光物質はFITC又はPEに限定されるものはなく、例えば前記「(蛍光標識又は発光酵素標識)」に記載の蛍光物質を用いることができる。また、粒子もフローサイトメーター又はイメージアナライザーで用いることのできる限り、特に限定されるものではなく、細胞、又はサイズが均一なビーズを挙げることができる。
本発明の末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出方法において、基準設定工程(e)は、独立して行ってもよく、検出工程(b)において粒子の検出を同時に行い、そして進行度決定工程(c)において基準の設定を同時に行ってもよい。同時に行う場合は、末梢循環腫瘍細胞と区別するために、粒径が均一で細胞より小さいビーズを用いるのがのぞましい。
図3は、CTC計測において、従来のCTC計数の他にCTCの悪性度の評価結果を診断に利用するための閾値の設定方法を示した図である。
前記接触工程(a)、及び検出工程(b)によって、CTCの検出及びCTCの計数を行い、更に進行度決定工程(c)によって、EMTインデックスを計算し、個々の末梢循環腫瘍細胞において、上皮間葉転換の進行度を決定する。そして、「EMTインデックスが一定以上の末梢循環腫瘍細胞の数が、予め設定した数値(閾値)より上である場合」、又は「EMTインデックスの平均値が予め設定した数値(閾値)より上である場合」に、例えば「癌の転移の可能性が高い」と判断することができる。また、設定値(閾値)以下である場合に、例えば「癌の転移の可能性が低い」と判断することができる。また同様に、設定値(閾値:カットオフ値)を超えた場合、「悪性度が高い」、「癌が進行している」、「抗癌剤の効果が少ない」などと判断することができ、逆に設定値(閾値:カットオフ値)以下の場合、「悪性度が低い」、「癌が進行していない」、「抗癌剤の効果が高い」などと判断することができる。設定値(閾値:カットオフ値)は、それぞれの判断において、適宜設定することが可能である。
本発明の末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出キットは、(a)上皮系細胞に発現するマーカーに特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された上皮結合抗体、及び(b)間葉系細胞に発現するマーカーに特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された間葉結合抗体を含む。また、本発明の末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出キットは、(c)白血球に発現するマーカーと特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された白血球結合抗体;及び/又は(d)前記上皮結合抗体を標識している蛍光物質又は発光酵素が結合した粒子、及び(e)前記間葉結合抗体を標識している蛍光物質又は発光酵素が結合した粒子、を更に含むことができる。
本発明の検出キットは、前記末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出方法に用いることのできるものである。従って、本発明の悪性度の検出方法による癌の転移の検出(診断)方法、癌の進行度の検出(診断)方法、又は癌の治療効果のモニタリング方法(特には、抗癌剤の治療効果のモニタリング方法)にも使用することが可能であり、それらのキットとして、用いることができる。
上皮結合抗体(a)は、本発明の検出方法における上皮系細胞マーカーに特異的に結合することのできる抗体である。上皮系細胞マーカーとしては、前記の「(上皮系細胞マーカー)」の欄に記載のものを挙げることができ、特にはサイトケラチン、EpCAM、又はE−カドヘリンである。
抗体としては、前記の上皮系細胞マーカーに結合することのできる限り、特に限定されないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、又はそれらの抗体の抗原結合部位を有する抗体フラグメントなどを挙げることができる。抗体フラグメントとしては、例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、又はFv等を挙げることができる。これらの抗体フラグメントは、例えば、抗体を常法によりタンパク質分解酵素(例えば、ペプシン又はパパイン等)によって消化し、続いて、常法のタンパク質の分離精製の方法により精製することにより、得ることができる。
間葉結合抗体(b)は、本発明の検出方法における間葉系細胞マーカーに特異的に結合することのできる抗体である。間葉系細胞マーカーとしては、前記の「(間葉系細胞マーカー)」の欄に記載のものを挙げることができ、特にはビメンチン又はN−カドヘリンである。
抗体としては、前記の間葉系細胞マーカーに結合することのできる限り、特に限定されないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、又はそれらの抗体の抗原結合部位を有する抗体フラグメントなどを挙げることができる。抗体フラグメントとしては、例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、又はFv等を挙げることができる。これらの抗体フラグメントは、例えば、抗体を常法によりタンパク質分解酵素(例えば、ペプシン又はパパイン等)によって消化し、続いて、常法のタンパク質の分離精製の方法により精製することにより、得ることができる。
白血球結合抗体(c)は、本発明の検出方法における白血球マーカーに特異的に結合することのできる抗体である。白血球マーカーとしては、前記の「(白血球の蛍光又は発光染色)」の欄に記載のマーカーを挙げることができ、特にはCD45である。
抗体としては、前記の白血球マーカーに結合することのできる限り、特に限定されないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体、又はそれらの抗体の抗原結合部位を有する抗体フラグメントなどを挙げることができる。抗体フラグメントとしては、例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、又はFv等を挙げることができる。これらの抗体フラグメントは、例えば、抗体を常法によりタンパク質分解酵素(例えば、ペプシン又はパパイン等)によって消化し、続いて、常法のタンパク質の分離精製の方法により精製することにより、得ることができる。
前記上皮結合抗体(a)、間葉結合抗体(b)及び白血球結合抗体(c)は、蛍光標識又は発光酵素標識されたものであり、発光物質及び発光酵素は、通常当分野で用いられているものを制限なく使用することができるが、例えば、前記「(蛍光標識又は発光酵素標識)」の欄に記載された蛍光物質、及び発光酵素を用いることができる。
本発明のキットは、キットに含まれる上皮結合抗体(a)が標識されている蛍光物質又は発光酵素で結合した粒子を含むことができる。この粒子は、図3に記載の上皮系細胞マーカーのみが発現している末梢循環腫瘍細胞の標準直線(100%CK(FITC))を決定するために使用するものである。従って、上皮結合抗体(a)がFITCで標識されている場合、粒子もFITCで標識する。
本発明のキットは、キットに含まれる間葉結合抗体(b)が標識されている蛍光物質又は発光酵素で結合した粒子を含むことができる。この粒子は、図3に記載の間葉系細胞マーカーのみが発現している末梢循環腫瘍細胞の標準直線(100%ビメンチン(PE))を決定するために使用するものである。従って、間葉結合抗体(b)がPEで標識されている場合、粒子もPEで標識する。
本発明の検出キットは、前記の蛍光物質又は発光酵素で結合した粒子の使用方法、及び/又はEMTインデックスの計算方法を示した使用説明書を含むことができる。
前記上皮系細胞に発現するマーカーに特異的に結合する上皮結合抗体(a)は、末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出キットの製造のために使用することができる。また、間葉系細胞に発現するマーカーに特異的に結合する間葉結合抗体(b)は、末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出キットの製造のために使用することができる。上皮結合抗体(a)及び間葉結合抗体(b)は、前記のものを用いることができる。更に、白血球結合抗体(c)は、末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出キットの製造のために使用することができる。
前記上皮結合抗体を標識している蛍光物質又は発光酵素が結合した粒子、及び間葉結合抗体を標識している蛍光物質又は発光酵素が結合した粒子も、末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出キットの製造のために使用することができる。
本発明の末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出装置は、(a)末梢循環腫瘍細胞に結合した上皮結合成分の蛍光又は発光信号量、及び末梢循環腫瘍細胞に結合した間葉結合成分の蛍光又は発光信号量を受信する手段、(b)前記受信した上皮結合成分の信号量(E)及び間葉結合成分の信号量(M)の比率を計算し、末梢循環腫瘍細胞の上皮間葉転換の進行度を決定する手段、を含む。
(受信手段)
本発明の検出装置は、前記本発明の末梢循環腫瘍細胞の悪性度の検出方法に用いることのできるものであり、上皮結合成分の蛍光又は発光信号量、及び間葉結合成分の蛍光又は発光信号量を受信する手段を有する。前記手段としては、具体的には、蛍光検出器又は発光検出器を挙げることができる。
進行度決定手段は、受信した上皮結合成分の信号量(E)及び間葉結合成分の信号量(M)からEMTインデックスを計算することのできる工程を含む。例えばEMTインデックスの計算は、EとMの測定終了後に予めプログラムの組み込まれたコンピュータで行うことができる。
前記EMTインデックスの定義式は、上皮結合成分の信号量(E)及び間葉結合成分の信号量(M)の割合を示すものであれば、特に限定されるものではないが、例えば「M/(E+M)」、「E/(E+M)」、「Log[M/(E+M)]」、「Log[E/(E+M)]」、などを挙げることができる。
例えば、式(1)
P=M/(E+M) (1)、
式(2)
P=E/(E+M) (2)、
式(3)
P=Log[M/(E+M)] (3)、又は
式(4)
P=Log[E/(E+M)] (4)
(各式中、Pは進行度、Eは上皮結合成分の信号量、Mは間葉結合成分の信号量である)で表すこともできる。
本実施例では、本発明の検出方法の確立のため、ボランティアの抹消血に肺がん由来の細胞株であるA549をCTCとして混入させ、A549細胞のサイトケラチンと、ビメンチンを検出し、EMTインデックスを計算した。
A549細胞100個を混入した末梢血4mLにLysing bufferを45mL加えて混合し、20分氷上で放置し、赤血球を破壊した。ImmunoTOKUI(オンチップバイオテクノロジーズ社製)を、0.5%BSAと2mM EDTAを含むPBSバッファーで20倍に希釈した溶液(以下、T−bufferと称する)0.1mLを加えて遠心し、上清を吸引し、細胞ペレットを得る。得られた細胞ペレットを200μLのT−bufferで再懸濁し、更に100μLのFc Blocking Reagentを加え、4℃で15分インキュベートする。インキュベート後、T−bufferを200μL加え、細胞懸濁液とした。
チューブをマグネットに近づけ、10秒程度ビーズがチューブの壁に完全にトラップされるのを待ち、上澄みを回収した。500μLのT−bufferをビーズに加え、撹拌した。600×g、5分遠心して上澄みを取り除き、純水で1xにしたBD Lyse/Fix bufferを10mL加えた。チューブを上下にさせて緩やかに攪拌させて20分常温で放置した。固定後、600×g、5分遠心し、再度2mLのT−bufferで洗浄した。
エッペンチューブを600×g、5分遠心後、Alexa700蛍光標識CD45抗体、PE蛍光標識ビメンチン抗体、及びFITC蛍光標識サイトケラチン抗体を、それぞれ4μL及びT−buffer26μLを加えた合計30uLの抗体反応液で再懸濁して4℃で反応させた。1mLのT−bufferを加え600×g、5分遠心した後、200μLのT−bufferに細胞を再度懸濁し、Alexa700蛍光標識CD45抗体、PE蛍光標識ビメンチン抗体、及びFITC蛍光標識サイトケラチン抗体で染色されたサンプルを得た。
前記サンプルを、フローサイトメーターにアプライし、FL1でFITC蛍光標識サイトケラチン抗体、FL2でPE蛍光標識ビメンチン抗体、FL3で核染色剤である7−AAD、FL4でAlexa700蛍光標識CD45抗体を検出し、以下の手順に従ってEMTインデックスを測定した。
本実施例では、実施例1で用いたEMTインデックス=[A(FL2/(FL1+FL2))+B]の式におけるフローサイトメーターの装置定数A及びBの決定の方法を説明する。
サイトケラチンのみが発現し、ビメンチンが発現していない「100%CK(FITC)」の蛍光信号値の標準直線を求めるために、FITCを結合させた粒子をフローサイトメーターで測定した。また、ビメンチンのみが発現し、サイトケラチンが発現していない「100%Vimentin(PE)」の標準直線を求めるために、PEを結合させた粒子をフローサイトメーターで測定した。
サイトケラチンのみが発現し、ビメンチンが発現していない「100%CK(FITC)」の蛍光信号値の標準直線を求めるために、FITCを結合させた粒径3μmの粒子をフローサイトメーターで測定して標準直線を求めた。また、「100%Vimentin(PE)」の標準直線を求めるために、PEを結合させた粒径3μmの粒子をフローサイトメーターで測定した。以上の2種類のデータのEMTインデックスの値が、0と1になるように、AとBを設定した。以下図2を用いて説明する。
図2(A)に、EMTインデックス値と蛍光信号値との関係を示した。図2の「100%CK(FITC)」がFITCを結合させた粒子の測定値から得られたFITC(サイトケラチン)が100%の場合の標準直線であり、「100%Vimentin(PE)」が、PEを結合させた粒子から得られたPE(ビメンチン)が100%の場合の標準直線である。サイトケラチン及びビメンチンが単独で発現している場合は、いずれかの標準直線に一致する。
すなわち、サイトケラチンの蛍光ラベルがFITCであるので、EMTが生じておらずサイトケラチンが100%の場合は、CTCのデータはFITCの蛍光スペクトルに対応する標準直線(100%CK(FITC))上に分布する。この標準直線上の場合、EMTインデックス値は0(ゼロ)である。これに対し、ビメンチンが100%の場合は、CTCのデータはPEの蛍光スペクトルに対応する標準直線(100%Vimentin(PE))上に分布する。この標準直線上が、EMTインデックス値が1となる。
図3(B)はPEを結合させた粒子のデータ及びFITCを結合させた粒子データのヒストグラムであり、それぞれの最頻値が1と0(ゼロ)となるように装置定数A及びBを初期設定した。このため異なる装置間でのEMTインデックス分布の比較が可能である。通常のフローサイトメーターの蛍光信号強度の生データの比較は、装置変動等により異なる装置間では行わないのが普通である。しかしながら、医療診断用としては異なる装置間で比較が可能な指数が必要である。上記のEMTインデックスがこれを満足する。
本実施例では、A549細胞又はA549細胞以外の癌細胞を用いて、本発明による検出の回収率を検討した。
A549細胞を用いるか、又はA549細胞に代えて、KATO−III細胞、PC−9細胞、PC−14細胞を用いたことを除いて、実施例1の操作を繰り返して、EMTインデックス値を計算し、それぞれの細胞の検出率も同時に計算した。
図4に示すように、それぞれの細胞の検出率は、KATO−IIIは約100%、A549は89%、PC−9は75%、PC−14は100%であった。ここで、EpCAMが発現していないPC−14の検出効率が100%であることで、EMTが進行した転移がんのCTCの検出にも有効であることが示された。
個々の細胞の蛍光信号強度を計測する装置において、複数の信号強度と装置定数からなる特定の細胞特性(本発明ではCTCのEMTの進行度)を示すアナログ量を求め、装置定数を補正した量の評価を実現した。つまり異なる装置間の個々の細胞レベルの測定結果の比較を可能としたのである。個々の細胞レベルのアナログ情報を、医療診断に使用するために使用する方法を実現したと表現することもできる。従来のフローサイトメーターは、ある信号強度範囲で検出した細胞個数が診断用の情報となっている。この従来の情報は、個々の細胞内のアナログ情報ではなく、検出した個数のみが情報である。つまり従来のフローサイトメーターでは個々の細胞の特徴を示すアナログ量を表現することが不可能であったのである。本発明は、患者の検体中に含まれる個々の細胞単位のアナログ量を医療診断に用いるための方法を実現したとも言える。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
Claims (8)
- (a)末梢循環腫瘍細胞を含む可能性のある被検試料と、上皮系細胞に発現するマーカーと特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された上皮結合成分及び間葉系細胞に発現するマーカーと特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された間葉結合成分とを接触させる工程、
(b)末梢循環腫瘍細胞に結合した上皮結合成分の蛍光又は発光信号及び間葉結合成分の蛍光又は発光信号を、個々の細胞について検出する工程、及び
(c)上皮結合成分の信号量(E)及び間葉結合成分の信号量(M)から、個々の末梢循環腫瘍細胞の上皮間葉転換の進行度を決定する工程、
を含むことを特徴とする、末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法。 - 前記工程(a)の前又は後に、
(d)被検試料中の赤血球及び/又は白血球を除去する工程を更に含む、請求項1に記載の末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法。 - 前記工程(a)において、末梢循環腫瘍細胞を含む可能性のある被検試料と、白血球に発現するマーカーと特異的に結合する蛍光標識又は発光酵素標識された白血球結合成分を接触させることを含む、請求項1又は2に記載の末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法。
- 前記検出工程(b)において、蛍光又は発光信号をフローサイトメーター又はイメージアナライザーにより検出する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法。
- 前記工程(c)における進行度が、式(1)
P=M/(E+M) (1)、
式(2)
P=E/(E+M) (2)、
式(3)
P=Log[M/(E+M)] (3)、及び
式(4)
P=Log[E/(E+M)] (4)
(各式中、Pは進行度、Eは上皮結合成分の信号量、Mは間葉結合成分の信号量である)
からなる群から選択される式で表される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法。 - (e)前記上皮結合成分を標識している蛍光物質が結合した粒子及び前記間葉結合抗体を標識している蛍光物質が結合した粒子の測定によって、上皮間葉転換が開始していない状態(0)と上皮間葉転換が終了した状態(1)との基準を設定する工程、を更に含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法。
- 前記工程(e)を、工程(b)及び(c)と同時に行う、請求項6に記載の末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法。
- 前記上皮結合成分がサイトケラチン、EpCAM、又はE−カドヘリンに特異的に結合する抗体又はアプタマーであり、そして間葉結合成分がビメンチン、又はN−カドヘリンに特異的に結合する抗体又はアプタマーである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の末梢循環腫瘍細胞単位の悪性度の検出方法。
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