以下、車両の制動制御装置を具体化した一実施形態を図1〜図10に従って説明する。なお、以下における本明細書中の説明においては、車両の進行方向(前進方向)を前方(車両前方)として説明する。
図1には、本実施形態の車両の制動制御装置である制御装置100を備える車両が図示されている。図1に示すように、車両には、同車両に制動力を付与する制動装置10が設けられている。この制動装置10は、運転者によるブレーキペダル11の操作力に応じた液圧を発生する液圧発生装置20と、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRに対する制動力を個別に調整することのできるブレーキアクチュエータ30とを有している。また、車両には、各車輪FL,FR,RL,RRに個別対応するブレーキ機構12a,12b,12c,12dが設けられている。そして、運転者がブレーキペダル11を操作する場合、ブレーキ機構12a〜12dのシリンダ内には液圧発生装置20で発生している液圧に応じた量のブレーキ液が供給され、ブレーキ機構12a〜12dは、そのシリンダ内で発生している液圧(「ホイールシリンダ圧」ともいう。)に応じた制動力を車輪FL,FR,RL,RRに付与する。
また、図1及び図2に示すように、車両には、車輪40(FL,FR,RL,RR)を車体41に懸架するサスペンション42a,42b,42c,42dが設けられている。こうしたサスペンション42a〜42dは、車重を支えて衝撃を吸収するダンパ45と、ダンパ45の振動を減衰するショックアブソーバ46とを有している。
次に、図3を参照して、制動装置10について説明する。
図3に示すように、制動装置10の液圧発生装置20には、運転者によるブレーキペダル11の操作力を倍力するブースタ21と、ブースタ21によって倍力された操作力に応じたブレーキ液圧(「マスタシリンダ圧」ともいう。)が内部で発生するマスタシリンダ22とが設けられている。そして、運転者によってブレーキ操作が行われている場合、各ブレーキ機構12a〜12dのシリンダ内には、マスタシリンダ圧に応じた量のブレーキ液が供給される。
ブレーキアクチュエータ30には、右前輪用のブレーキ機構12b及び左後輪用のブレーキ機構12cに接続される第1の液圧回路31と、左前輪用のブレーキ機構12a及び右後輪用のブレーキ機構12dに接続される第2の液圧回路32とが設けられている。そして、第1の液圧回路31には右前輪用の経路33b及び左後輪用の経路33cが設けられるとともに、第2の液圧回路32には左前輪用の経路33a及び右後輪用の経路33dが設けられている。こうした経路33a〜33dには、ブレーキ機構12a〜12dのシリンダ内のホイールシリンダ圧の増圧を規制する際に動作する常開型の電磁弁である増圧弁34a,34b,34c,34dと、ホイールシリンダ圧を減圧させる際に動作する常閉型の電磁弁である減圧弁35a,35b,35c,35dとが設けられている。
また、液圧回路31,32には、ブレーキ機構12a〜12dのシリンダ内から減圧弁35a〜35dを介して流出したブレーキ液が一時貯留されるリザーバ361,362と、リザーバ361,362内に一時貯留されているブレーキ液を吸引して液圧回路31,32におけるマスタシリンダ22側に吐出するためのポンプ371,372とが設けられている。これら各ポンプ371,372は、同一の駆動モータ38の駆動によって動作する。
次に、図3を参照して、制御装置100について説明する。
図3に示すように、制御装置100の入力側インターフェースには、ブレーキペダル11の操作の有無を検出するブレーキスイッチSW1と、車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度VWを検出する車輪速度センサSE1,SE2,SE3,SE4とが電気的に接続されている。また、入力側インターフェースには、車両の前後方向の加速度である前後加速度Gxを検出する前後加速度センサSE5が電気的に接続されている。一方、制御装置100の出力側インターフェースには、各弁34a〜34d,35a〜35d及び駆動モータ38などが電気的に接続されている。そして、制御装置100は、各種センサSE1〜SE5及びブレーキスイッチSW1によって検出される各種情報に基づき、各弁34a〜34d,35a〜35d及び駆動モータ38(すなわち、ポンプ371,372)を制御する。
こうした制御装置100は、CPU、ROM及びRAMなどで構成されるマイクロコンピュータを有している。ROMには、CPUが実行する各種制御処理、各種マップ及び各種閾値などが予め記憶されている。また、RAMには、車両のイグニッションスイッチが「オン」である間に適宜書き換えられる各種の情報(車両の車体速度VSなど)が記憶される。
そして、制御装置100は、運転者によるブレーキ操作時に、所定の開始条件が成立すると、後輪RL,RRに対する制動力の増大を制限する前後制動力配分制御(以下、「EBD制御」ともいう。)を実施する。例えば、EBD制御が実施されると、後輪RL,RR用の増圧弁34c,34dが閉弁される。なお、EBDとは、「Electronic Brake force Distribution」の略記である。
また、制御装置100は、運転者によるブレーキ操作時に、所定の開始条件が成立すると、車輪に対する制動力を調整するアンチロックブレーキ制御(以下、「ABS制御」ともいう。)を実施する。例えば、制御装置100は、前輪FL,FRに対しては左右独立方式のABS制御を実施し、後輪RL,RRに対してはセレクトロー方式などに代表される左右共通のABS制御を実施する。なお、前輪FL,FRに対して実施されるABS制御のことを「前輪用ABS制御」ともいい、後輪RL,RRに対して実施されるABS制御のことを「後輪用ABS制御」ともいう。
ABS制御とは、車輪に対する制動力を調整することにより、車輪のスリップや横滑りを発生させにくくし、車両制動時における車両挙動の安定性を維持するための制御である。すなわち、ABS制御の実施時にあっては、車輪に対する制動力を減少させる減少モード、車輪に対する制動力を保持させる保持モード及び車輪に対する制動力を増大させる増大モードを含む制御サイクルが繰り返されることとなる。ただし、制動力の変動態様によっては、一つの制御サイクルに保持モードが含まれないこともある。
減少モードでは、増圧弁34a〜34dが閉弁される一方で、減圧弁35a〜35dが開弁される。そして、この状態でポンプ371,372が動作するため、ホイールシリンダ圧が減圧される。また、保持モードでは、増圧弁34a〜34d及び減圧弁35a〜35dの双方が閉弁されるため、ホイールシリンダ圧が保圧される。また、増圧モードでは、増圧弁34a〜34dが開弁される一方で、減圧弁35a〜35dが閉弁される。そして、この状態でポンプ371,372が動作するため、ホイールシリンダ圧が増圧される。増圧弁34a〜34dを動作させる場合、PWM(Pulse Width Modulation)制御が行われる。そのため、増圧弁34a〜34dのソレノイドに流す制御信号のデューティ比を変更することにより、増圧モード時におけるホイールシリンダ圧の増圧速度、すなわち車輪に対する制動力の増大速度を調整することができる。
ところで、図4に示すように、運転者によるブレーキ操作時などのような車両制動時にあっては、前輪FL,FRのサスペンション42a,42bの収縮及び後輪RL,RRのサスペンション42c,42dの伸長と、前輪FL,FRのサスペンション42a,42bの伸長及び後輪RL,RRのサスペンション42c,42dの収縮とが繰り返される。すなわち、車両制動時には、車両がピッチングしやすい。そして、こうした車両のピッチングの運動方程式は、以下に示す関係式(式1)で表すことができる。
関係式(式1)において、「I」は車両のピッチング方向(回転方向)の慣性モーメントであり、「θ」は、車両のピッチング角であって、ピッチングしていない場合よりも車両の前部が下方に位置するときに正となる。また、「Cf」は前輪FL,FR用のサスペンション42a,42bのショックアブソーバ46における減衰係数であり、「Cr」は後輪RL,RR用のサスペンション42c,42dのショックアブソーバ46における減衰係数である。また、「Kf」は前輪FL,FR用のサスペンション42a,42bのダンパ45におけるバネ係数であり、「Kr」は後輪RL,RR用のサスペンション42c,42dのダンパ45における減衰係数である。また、「Lf」は車両重心Aから前輪FL,FRの軸までの距離であり、「Lr」は車両重心Aから後輪RL,RRの軸までの距離であり、「Lf」と「Lr」との和がホイールベース長である。また、「H」は車両重心Aの高さである。そして、「F」は、車両に付与されている制動力であり、車両重量に車両の車体減速度DVSを乗算した積である。
図5(a),(b)に示すように、車両制動の開始前では、前輪の接地荷重Wf及び後輪の接地荷重Wrの双方は、制動開始前の値Wsである。そして、車両制動の開始によって制動力Fが大きくなり、車体減速度DVSが徐々に大きくなると、前輪の接地荷重Wfは、制動開始前の値Wsから次第に大きくなる。一方、後輪の接地荷重Wrは、制動開始前の値Wsから次第に小さくなる。そして、第1のタイミングt11以降で車体減速度DVSが一定になると、前輪の接地荷重Wf及び後輪の接地荷重Wrは変動するものの、こうした変動がショックアブソーバ46によって減衰される。そのため、接地荷重Wf,Wrの変動幅は徐々に狭くなり、最終的には、前輪の接地荷重Wf及び後輪の接地荷重Wrは、そのときの車体減速度DVSに応じた値に収束される。
なお、前輪の接地荷重Wfが収束する値を「前輪荷重収束値WfA」といい、後輪の接地荷重Wrが収束する値を「後輪荷重収束値WrA」ともいう。前輪荷重収束値WfAは車体減速度DVSが大きいほど大きくなり、後輪荷重収束値WrAは車体減速度DVSが大きいほど小さくなる。そして、前輪の接地荷重Wfから前輪荷重収束値WfAを減じた差である前輪荷重変動量ΔWfは、以下に示す関係式(式2)で表すことができる。また、後輪の接地荷重Wrから後輪荷重収束値WrAを減じた差である後輪荷重変動量ΔWrは、以下に示す関係式(式3)で表すことができる。
図5(a),(b)における第1のタイミングt11以降のように、車体減速度DVSが一定である場合にあっては、車両に対する入力である制動力Fが一定であると見なすことができるため、車両のピッチング角θの変動を、関係式(式1)に用いて求めることができる。そして、ピッチング角θを関係式(式2)に代入することにより、前輪荷重変動量ΔWf、すなわち前輪の接地荷重Wfの変動を予測することができる。同様に、ピッチング角θを関係式(式3)に代入することにより、後輪荷重変動量ΔWr、すなわち後輪の接地荷重Wrの変動を予測することができる。
すなわち、第1のタイミングt11以降では、前輪の接地荷重Wfは、前輪荷重収束値WfAを上回ってオーバーシュートし、第2のタイミングt12で前輪の接地荷重Wfは最大となる。また、後輪の接地荷重Wrは、後輪荷重収束値WrAを下回ってアンダーシュートし、第2のタイミングt12で後輪の接地荷重Wrは最小となる。こうした第2のタイミングt12における前輪の接地荷重Wfのことを「前輪荷重最大値Wf_max」といい、後輪の接地荷重Wrのことを「後輪荷重最小値Wr_min」という。
第2のタイミングt12以降では、前輪の接地荷重Wfが徐々に小さくなる一方で、後輪の接地荷重Wrが徐々に大きくなる。そして、第3のタイミングt13では、前輪の接地荷重Wfは前輪荷重収束値WfAを下回ってアンダーシュートする一方、後輪の接地荷重Wrは後輪荷重収束値WrAを上回ってオーバーシュートする。すると、その後の第4のタイミングt14で、前輪の接地荷重Wfは、第2のタイミングt12以降で最小となる一方、後輪の接地荷重Wrは、第2のタイミングt12以降で最大となる。こうした第4のタイミングt14における前輪の接地荷重Wfのことを「前輪荷重最小値Wf_min」といい、後輪の接地荷重Wrのことを「後輪荷重最大値Wr_max」という。
その後、第5のタイミングt15以降では、前輪の接地荷重Wfが前輪荷重収束値WfAを上回ったり、下回ったりするものの、その変動幅は、第1のタイミングt11から第2のタイミングt12までの初期期間での変動幅と比較して狭くなる。同様に、第5のタイミングt15以降では、後輪の接地荷重Wrが後輪荷重収束値WrAを上回ったり、下回ったりするものの、その変動幅は、上記の初期期間での変動幅と比較して狭くなる。つまり、初期期間における前輪の接地荷重Wf及び後輪の接地荷重Wrの変動幅が大きい。
そのため、車両制動時における車両挙動の安定性の低下を抑制した上で車両の減速度を大きくするためには、初期期間にあっては、そのときの接地荷重Wf,Wrを加味して前輪FL,FRに対する制動力及び後輪RL,RRに対する制動力を調整することが好ましい。すなわち、車輪の接地荷重が大きい場合には、接地荷重が小さい場合と比較して、制動力を大きくしても車輪のスリップ傾向が大きくなりにくい。反対に、車輪の接地荷重が小さい場合には、接地荷重が大きい場合と比較して、車輪のスリップ傾向が大きくなりやすい。よって、接地荷重が大きい車輪に対する制動力を大きくしやすくする一方で、接地荷重が小さい車輪に対する制動力を大きくしにくくすることにより、車両挙動の安定性の低下を抑制した上で車両の減速度を大きくすることができる。
そこで、本実施形態では、車両制動時にあっては、そのときの車体減速度DVSに基づいて前輪の接地荷重Wfの変動を予測し、同前輪荷重最大値Wf_maxから前輪荷重収束値WfAを減じた差が大きいほど、前輪の接地荷重Wfの変動幅が大きいと予測できるため、前輪用ABS制御の開始条件が厳しくされる。これにより、車体減速度DVSが大きく、前輪荷重最大値Wf_maxが大きいときほど、前輪用ABS制御の開始が遅延されたり、前輪用ABS制御が実施されなかったりする。その結果、前輪の接地荷重Wfが前輪荷重収束値WfAを上回っていると予測される期間にあっては、前輪FL,FRに対する制動力の大きい状態の継続時間が長くなる。したがって、車両の減速度が大きくなりやすい。
また、前輪用ABS制御の実施によって、同前輪用ABS制御における最初の減少モードは図5における第1のタイミングt11から第3のタイミングt13間での間で開始される。すると、同前輪用ABS制御における最初の増大モードは、図5における第3のタイミングt13から第5のタイミングt15までの間、すなわち前輪の接地荷重Wfが前輪荷重収束値WfAを下回っているときに実施される可能性がある。そのため、最初の増大モードでは、前輪荷重収束値WfAから前輪荷重最小値Wf_minを減じた差が大きいほど前輪FL,FRに対する制動力の増大速度が小さくされる。これにより、前輪の接地荷重Wfが小さくなっていると予測される期間にあっては、前輪FL,FRに対する制動力が大きくなりにくくなる。したがって、前輪用ABS制御の実施時における車両挙動の安定性の低下が抑制される。
また、本実施形態では、車両制動時にあっては、そのときの車体減速度DVSに基づいて後輪の接地荷重Wrの変動を予測し、後輪荷重収束値WrAから後輪荷重最小値Wr_minが大きいほど、上記EBD制御の開始条件が緩くされる。これにより、車体減速度DVSが大きく、後輪荷重最小値Wr_minが小さいときほど、EBD制御が早期に開始される。その結果、後輪の接地荷重Wrが後輪荷重収束値WrAを下回っていると予測される期間にあっては、後輪RL,RRに対する制動力が増大されにくくなる。したがって、車両制動時における車両挙動の安定性の低下が抑制される。
ただし、EBD制御の実施によって後輪RL,RRに対する制動力の増大が制限されている場合であっても、後輪用ABS制御の開始条件が成立すると、後輪用ABS制御が実施される。後輪用ABS制御における最初の減少モードは、図5における第1のタイミングt11から第3のタイミングt13までの間、すなわち後輪の接地荷重Wrが小さいときに開始されることがある。この場合、後輪用ABS制御における最初の増大モードは、図5における第3のタイミングt13から第5のタイミングt15までの間、すなわち後輪の接地荷重Wrが後輪荷重収束値WrAを上回っているときに開始される可能性がある。そのため、最初の増大モードでは、後輪荷重最大値Wr_maxが大きく、後輪荷重最大値Wr_maxから後輪荷重収束値WrAを減じた差が大きいほど、後輪RL,RRに対する制動力の増大速度が大きくされる。これにより、後輪の接地荷重Wrが大きくなっていると予測される期間にあっては、後輪RL,RRに対する制動力が大きくなりやすくなる。したがって、後輪用ABS制御の実施時では、車両の減速度が大きくなりやすい。
次に、図6〜図9に示すフローチャートを参照し、運転者によるブレーキ操作時に制御装置100が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、この処理ルーチンは、ブレーキ操作が検知されているときに予め設定された所定の制御周期毎に実行される。
図6に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置100は、車輪速度センサSE1〜SE4からの信号に基づいて車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度VWを演算する(ステップS11)。続いて、制御装置100は、演算した各車輪FL,FR,RL,RRの車輪速度VWのうち、少なくとも一つの車輪の車輪速度VWに基づいて車両の車体速度VSを演算する(ステップS12)。なお、ここで演算される車体速度VSは、車両の前後方向への移動速度を車輪の回転速度に変換した値である。
そして、制御装置100は、演算した車体速度VSを時間微分して車両の車体減速度DVSを求める(ステップS13)。続いて、制御装置100は、各車輪FL,FR,RL,RRのスリップ量Slp(=VS−VW)を演算する(ステップS14)。そして、制御装置100は、図7を用いて後述する制動制御の準備処理(ステップS15)、図8を用いて後述する前輪制動制御処理(ステップS16)及び図9を用いて後述する後輪制動制御処理(ステップS17)を実行し、本処理ルーチンを一旦終了する。
次に、図7に示すフローチャートを参照し、上記ステップS15の制動制御の準備処理ルーチンについて説明する。
図7に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置100は、上記ステップS13で演算した車体減速度DVSに基づき、前輪の接地荷重Wfの変動を予測する(ステップS21)。このとき、車体減速度DVSが大きいほど、前輪の接地荷重Wfの変動幅が大きくなるように接地荷重Wfの変動態様が予測される(図5(b)参照)。この点で、本実施形態では、制御装置100により、「前輪荷重変動予測部」の一例が構成される。続いて、制御装置100は、前輪荷重収束値WfAを、車体減速度DVSが大きいほど大きく演算する(ステップS22)。例えば、前輪荷重収束値WfAは、上記制動開始前の値Ws(図5参照)と、車体減速度DVSに係数「Ga」を乗じた積との和(=Ws+DVS×Ga)としてもよい。この点で、本実施形態では、制御装置100により、車両制動に応じて変動する前輪の接地荷重Wfが収束する値である前輪荷重収束値WfAを、車体減速度DVSが大きいほど大きく演算する「前輪荷重収束値演算部」の一例が構成される。
そして、制御装置100は、前輪荷重最大値Wf_maxを演算する(ステップS23)。例えば、制御装置100は、車両のピッチング角θが最大となるときの前輪荷重変動量ΔWfを上記関係式(式2)を用いて演算し、この前輪荷重変動量ΔWfと前輪荷重収束値WfAとの和を前輪荷重最大値Wf_maxとすることができる。この点で、本実施形態では、制御装置100により、前輪荷重変動予測部による予測結果に基づき、前輪荷重最大値Wf_maxを求める「前輪最大値取得部」の一例が構成される。
続いて、制御装置100は、前輪荷重最小値Wf_minを演算する(ステップS24)。例えば、制御装置100は、車両のピッチング角θが最小となるときの前輪荷重変動量ΔWfを上記関係式(式2)を用いて演算し、この前輪荷重変動量ΔWfと前輪荷重収束値WfAとの和を前輪荷重最小値Wf_minとすることができる。この点で、本実施形態では、制御装置100により、前輪荷重変動予測部による予測結果に基づき、変動する前輪の接地荷重Wfが前輪荷重最大値Wf_maxになった以降における前輪の接地荷重の最小値である前輪荷重最小値Wf_minを求める「前輪最小値取得部」の一例が構成される。
そして、制御装置100は、演算した前輪荷重最大値Wf_maxから前輪荷重収束値WfAを減じた差を第11の差ΔWf11とし(ステップS25)、演算した前輪荷重収束値WfAから前輪荷重最小値Wf_minを減じた差を第12の差ΔWf12とする(ステップS26)。続いて、制御装置100は、予め設定された開始判定基準値SlpThFBと補正値XAとの和を開始判定値SlpThFとする(ステップS27)。例えば、開始判定基準値SlpThFBは、前輪荷重最大値Wf_maxが前輪荷重収束値WfAと等しいと想定した場合の前輪用ABS制御の開始基準値であり、補正値XAは、ステップS25で演算した第11の差ΔWf11が大きいほど大きくされる。そのため、開始判定値SlpThFは、第11の差ΔWf11が大きいほど大きくされる。この点で、本実施形態では、制御装置100により、第11の差ΔWf11が大きいほど、前輪用ABS制御の開始条件を厳しくする「ABS制御部」の一例が構成される。
そして、制御装置100は、予め設定された増大速度基準値VBPFBから補正値ZFを減じた差を、前輪用ABS制御における最初の増大モード時の制動力の増大速度VBPFFとする(ステップS28)。例えば、増大速度基準値VBPFBは、前輪荷重最小値Wf_minが前輪荷重収束値WfAと等しいと想定した場合の制動力の増大速度であり、2回目以降の増大モードでの制動力の増大速度である。また、補正値ZFは、ステップS26で演算した第12の差ΔWf12が大きいほど大きくされる。そのため、増大速度VBPFFは、第12の差ΔWf12が小さいほど小さくされる。
続いて、制御装置100は、上記ステップS13で演算した車体減速度DVSに基づき、後輪の接地荷重Wrの変動を予測する(ステップS29)。このとき、車体減速度DVSが大きいほど、後輪の接地荷重Wrの変動幅が大きくなるように接地荷重Wrの変動態様が予測される(図5(b)参照)。この点で、本実施形態では、制御装置100により、「後輪荷重変動予測部」の一例が構成される。そして、制御装置100は、後輪荷重収束値WrAを、車体減速度DVSが大きいほど小さく演算する(ステップS30)。例えば、後輪荷重収束値WrAは、上記制動開始前の値Ws(図5参照)から、車体減速度DVSに係数「Ga」を乗じた積を減じた差(=Ws−DVS×Ga)としてもよい。この点で、本実施形態では、制御装置100により、車両制動に応じて変動する後輪の接地荷重Wrが収束する値である後輪荷重収束値WrAを、車体減速度DVSが大きいほど小さく演算する「後輪荷重収束値演算部」の一例が構成される。
続いて、制御装置100は、後輪荷重最小値Wr_minを演算する(ステップS31)。例えば、制御装置100は、車両のピッチング角θが最大となるときの後輪荷重変動量ΔWrを上記関係式(式3)を用いて演算し、この後輪荷重変動量ΔWrと後輪荷重収束値WrAとの和を後輪荷重最小値Wr_minとすることができる。この点で、本実施形態では、制御装置100により、後輪荷重変動予測部による予測結果に基づき、後輪荷重最小値Wr_minを求める「後輪最小値取得部」の一例が構成される。
そして、制御装置100は、後輪荷重最大値Wr_maxを演算する(ステップS32)。例えば、制御装置100は、車両のピッチング角θが最小となるときの後輪荷重変動量ΔWrを上記関係式(式3)を用いて演算し、この後輪荷重変動量ΔWrと後輪荷重収束値WrAとの和を後輪荷重最大値Wr_maxとすることができる。この点で、本実施形態では、制御装置100により、後輪荷重変動予測部による予測結果に基づき、変動する後輪の接地荷重Wrが後輪荷重最小値Wr_minになった以降における後輪の接地荷重の最大値である後輪荷重最大値Wr_maxを求める「後輪最大値取得部」の一例が構成される。
そして、制御装置100は、演算した後輪荷重収束値WrAから後輪荷重最小値Wr_minを減じた差を第21の差ΔWr21とし(ステップS33)、演算した後輪荷重最大値Wr_maxから後輪荷重収束値WrAを減じた差を第22の差ΔWr22とする(ステップS34)。続いて、制御装置100は、予め設定された開始判定基準値DVSThBから補正値YAを減じた差を、EBD制御の開始判定値DVSThとする(ステップS35)。例えば、開始判定基準値DVSThBは、後輪荷重最小値Wr_minが後輪荷重収束値WrAと等しいと想定した場合のEBD制御の開始基準値であり、補正値YAは、ステップS33で演算した第21の差ΔWr21が大きいほど大きくされる。そのため、開始判定値DVSThは、第21の差ΔWr21が大きいほど小さくされる。この点で、本実施形態では、制御装置100により、第21の差ΔWr21が大きいほど、EBD制御の開始条件を緩くする「EBD制御部」の一例が構成される。
そして、制御装置100は、予め設定された増大速度基準値VBPRBと補正値ZRとの和を、後輪用ABS制御における最初の増大モード時の制動力の増大速度VBPRFとする(ステップS36)。例えば、増大速度基準値VBPRBは、後輪荷重最大値Wr_maxが後輪荷重収束値WrAと等しいと想定した場合の制動力の増大速度であり、2回目以降の増大モードでの制動力の増大速度である。また、補正値ZRは、ステップS34で演算した第22の差ΔWr22が大きいほど大きくされる。そのため、増大速度VBPRFは、第22の差ΔWr22が大きいほど大きくされる。その後、制御装置100は、本処理ルーチンを終了する。
次に、図8に示すフローチャートを参照し、上記ステップS16の前輪制動制御処理ルーチンについて説明する。なお、本実施形態では、前輪FL,FRに対しては独立方式のABS制御が採用されている。そのため、実際には、この処理ルーチンは、左前輪FLに対する制動制御を実施する場合と、右前輪FRに対する制動制御を実施する場合とでそれぞれ実行される。
図8に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置100は、前輪用ABS実施フラグFLG1がオフであるか否かを判定する(ステップS41)。この前輪用ABS実施フラグFLG1は、前輪用ABS制御が実施されているときにはオンにされ、前輪用ABS制御が実施されていないときにはオフにされるフラグである。前輪用ABS実施フラグFLG1がオフである場合(ステップS41:YES)、制御装置100は、前輪のスリップ量Slpが、上記ステップS27で決定した前輪用ABS制御の開始判定値SlpThF以上であるか否かを判定する(ステップS42)。すなわち、ステップS42では、前輪用ABS制御の開始条件が成立したか否かが判定される。そして、前輪のスリップ量Slpが開始判定値SlpThF未満である場合(ステップS42:NO)、制御装置100は、本処理ルーチンを終了する。
一方、前輪のスリップ量Slpが開始判定値SlpThF以上である場合(ステップS42:YES)、制御装置100は、前輪用ABS実施フラグFLG1をオンとし(ステップS43)、前輪用ABS制御を実施する(ステップS44)。例えば、左前輪FLのスリップ量Slpが開始判定値SlpThF以上になった場合、制御装置100は、左前輪FLに対する制動力を調整すべく左前輪用ABS制御を実施する。
続いて、制御装置100は、実施中の前輪用ABS制御の制御サイクルが、同ABS制御の最初の制御サイクルであるか否かを判定する(ステップS45)。現在の制御サイクルが最初の制御サイクルである場合(ステップS45:YES)、制御装置100は、前輪に対する制動力の増大速度を、上記ステップS28で決定した増大速度VBPFFとし(ステップS46)、本処理ルーチンを終了する。一方、現在の制御サイクルが最初の制御サイクルではない場合(ステップS45:NO)、制御装置100は、前輪に対する制動力の増大速度を、上記増大速度基準値VBPFB(上記ステップS27参照)とし、(ステップS47)、本処理ルーチンを終了する。
すなわち、前輪用ABS制御の実施中において、最初の増大モード時にあっては、2回目以降の増大モード時よりも、増圧弁のソレノイドに流される制御信号のデューティ比が小さくされる。
その一方で、上記ステップS41において、前輪用ABS実施フラグFLG1がオンである場合(NO)、制御装置100は、実施中の前輪用ABS制御の終了条件が成立しているか否かを判定する(ステップS48)。終了条件としては、ブレーキ操作が解消されたことや車両が停止していることなどを挙げることができる。終了条件が成立していない場合(ステップS48:NO)、制御装置100は、その処理を前述したステップS44に移行する。一方、終了条件が成立している場合(ステップS48:YES)、制御装置100は、前輪用ABS実施フラグFLG1をオフとし(ステップS49)、その後、本処理ルーチンを終了する。
次に、図9に示すフローチャートを参照し、上記ステップS17の後輪制動制御処理ルーチンについて説明する。なお、本実施形態では、後輪RL,RRに対してはセレクトロー方式のABS制御が採用されている。
図9に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置100は、EBD実施フラグFLG2がオフであるか否かを判定する(ステップS61)。このEBD実施フラグFLG2は、EBD制御が実施されているときにはオンにされ、EBD制御が実施されていないときにはオフにされるフラグである。EBD実施フラグFLG2がオフである場合(ステップS61:YES)、制御装置100は、上記ステップS13で演算した車体減速度DVSが、上記ステップS35で決定したEBD制御の開始判定値DVSTh以上であるか否かを判定する(ステップS62)。すなわち、ステップS62では、EBD制御の開始条件が成立したか否かが判定される。車体減速度DVSが開始判定値DVSTh未満である場合(ステップS62:NO)、制御装置100は、その処理を後述するステップS67に移行する。
一方、車体減速度DVSが開始判定値DVSTh以上である場合(ステップS62:YES)、制御装置100は、EBD実施フラグFLG2をオンとする(ステップS63)。そして、制御装置100は、EBD制御を実施し(ステップS64)、その処理を後述するステップS67に移行する。
その一方で、ステップS61において、EBD実施フラグFLG2がオンである場合(NO)、EBD制御の終了条件が成立しているか否かを判定する(ステップS65)。例えば、EBD制御の終了条件としては、ブレーキ操作が解消されていること、車両が停止していることや後輪用ABS制御が実施されていることなどを挙げることができる。終了条件が成立していない場合(ステップS65:NO)、制御装置100は、その処理を前述したステップS64に移行する。一方、終了条件が成立している場合(ステップS65:YES)、制御装置100は、EBD実施フラグFLG2をオフとし(ステップS66)、その処理を次のステップS67に移行する。
ステップS67において、制御装置100は、後輪用ABS実施フラグFLG3がオフであるか否かを判定する。この後輪用ABS実施フラグFLG3は、後輪用ABS制御が実施されているときにはオンにされ、後輪用ABS制御が実施されていないときにはオフにされるフラグである。後輪用ABS実施フラグFLG3がオフである場合(ステップS67:YES)、制御装置100は、左後輪RLのスリップ量Slp及び右後輪RRのスリップ量Slpの少なくとも一方が後輪用ABS制御の開始判定値SlpThR以上であるか否かを判定する(ステップS68)。すなわち、ステップS68では、後輪用ABS制御の開始条件が成立したか否かが判定される。そして、左後輪RLのスリップ量Slp及び右後輪RRのスリップ量Slpの双方が開始判定値SlpThR未満である場合(ステップS68:NO)、制御装置100は、本処理ルーチンを終了する。
一方、左後輪RLのスリップ量Slp及び右後輪RRのスリップ量Slpの少なくとも一方が開始判定値SlpThR以上である場合(ステップS68:YES)、制御装置100は、後輪用ABS実施フラグFLG3をオンとする(ステップS69)。そして、制御装置100は、後輪用ABS制御を実施し(ステップS70)、その処理を後述するステップS73に移行する。
その一方で、上記ステップS67において、後輪用ABS実施フラグFLG3がオンである場合(NO)、制御装置100は、実施中の後輪用ABS制御の終了条件が成立しているか否かを判定する(ステップS71)。終了条件としては、ブレーキ操作が解消されたことや車両が停止していることなどを挙げることができる。終了条件が成立していない場合(ステップS71:NO)、制御装置100は、その処理を前述したステップS70に移行する。一方、終了条件が成立している場合(ステップS71:YES)、制御装置100は、後輪用ABS実施フラグFLG3をオフとし(ステップS72)、その後、本処理ルーチンを終了する。
ステップS73において、制御装置100は、実施中の後輪用ABS制御の制御サイクルが、同ABS制御の最初の制御サイクルであるか否かを判定する。現在の制御サイクルが最初の制御サイクルである場合(ステップS73:YES)、制御装置100は、後輪RL,RRに対する制動力の増大速度を、上記ステップS36で決定した増大速度VBPRFとし(ステップS74)、本処理ルーチンを終了する。一方、現在の制御サイクルが最初の制御サイクルではない場合(ステップS73:NO)、制御装置100は、後輪RL,RRに対する制動力の増大速度を、上記増大速度基準値VBPRB(上記ステップS36参照)とし、(ステップS75)、本処理ルーチンを終了する。
すなわち、後輪用ABS制御の実施中において、最初の増大モード時にあっては、2回目以降の増大モード時よりも、増圧弁のソレノイドに流される制御信号のデューティ比が大きくされる。
次に、図10に示すタイミングチャートを参照し、運転者によるブレーキ操作時における作用について説明する。なお、ここでは、前輪FL,FRの接地荷重や後輪RL,RRの接地荷重の変動を加味することなく制動制御を行う場合を比較例として説明するものとする。そして、図10(a),(b)では、比較例の場合の車輪速度を「車輪速度VWC」と図示している。
図10(a),(b),(c),(d),(e)に示すように、車両走行中の第1のタイミングt21で運転者によるブレーキ操作が開始されると、車輪FL,FR,RL,RRに対する制動力BPF,BPRが増大される。すると、車両全体の制動力の増大に合わせ、車両の車体速度VSが徐々に低下する。第1のタイミングt21から第4のタイミングt24までの期間では、運転者によるブレーキ操作量が徐々に大きくなっている。そのため、車両の車体減速度DVSは徐々に大きくなる。また、車両制動時にあっては、前輪FL,FRに対する接地荷重Wfが大きくなりやすく、後輪RL,RRに対する接地荷重Wrが小さくなりやすい。
ここで、比較例の場合にあっては、EBD制御の開始を決定するためのEBD制御の開始判定値DVSThは、開始判定基準値DVSThBに固定されている。この場合、第3のタイミングt23で車両の車体減速度DVSが開始判定基準値DVSThBに達するため、この第3のタイミングt23からEBD制御が開始される。
これに対し、本実施形態では、EBD制御の開始判定値DVSThは、後輪RL,RRの接地荷重Wrが小さくなりやすいほど小さくされる(ステップS35)。上述したように、開始判定基準値DVSThBは、後輪RL,RRの接地荷重Wrが、その時点の車体減速度DVSに応じた後輪荷重収束値WrAと等しいと想定した場合の値である。そのため、開始判定値DVSThは、その時点の車体減速度DVSに基づいて求めた後輪荷重最小値Wr_min及び後輪荷重収束値WrAを用いて決定されるため、開始判定基準値DVSThBよりも小さくなる。その結果、本実施形態では、第3のタイミングt23よりも早い第2のタイミングt22で、車体減速度DVSが、その時点で求められた後輪荷重最小値Wr_min及び後輪荷重収束値WrAに基づいて決定されたEBD制御の開始判定値DVSThに達し、EBD制御が開始される。すなわち、第2のタイミングt22からは、後輪RL,RRに対する制動力BPRが大きくなりにくくなる。
第4のタイミングt24以降にあっては、運転者によるブレーキ操作量がほぼ一定となるため、車両の車体減速度DVSもまたほぼ一定となる。そして、このように車体減速度DVSがほぼ一定となると、車両がピッチングし、前輪FL,FRの接地荷重Wf及び後輪RL,RRの接地荷重Wrが変動することとなる。ただし、こうした接地荷重Wf,Wrの変動は永続的に続くわけではなく、その変動幅が次第に小さくなる。そして、前輪FL,FRの接地荷重Wfは車体減速度DVSに応じた前輪荷重収束値WfAに収束され、後輪RL,RRの接地荷重Wrは車体減速度DVSに応じた後輪荷重収束値WrAに収束される。
また、制動初期にあっては、車輪FL.FR,RL,RRの車輪速度VW(VWA)は、車体速度VSと同じように低下する。しかし、車輪FL,FR,RL,RRに対する制動力BPF,BPRが大きくなって車輪FL,FR,RL,RRがスリップ傾向を示すようになると、車輪FL,FR,RL,RRのスリップ量Slpが徐々に大きくなる。
すなわち、図10(a)に示すように、前輪FL,FRのスリップ量Slpは、第4のタイミングt24あたりから大きくなり始める。比較例にあっては、前輪用ABS制御の開始条件の一つである開始判定値SlpThFが、前輪荷重最大値Wf_maxの大きさに拘わらず開始判定基準値SlpThFB(図7参照)で固定されている。そのため、比較例では、前輪FL,FRのスリップ量Slpが開始判定基準値SlpThFBに達する第5のタイミングt25から前輪用ABS制御が開始される。すなわち、比較例では、図10(e)に示すように前輪FL,FRの接地荷重Wfがまだ大きくなる可能性があるにも拘わらず、第5のタイミングt25から前輪FL,FRに対する制動力BPFの減少が開始される。
これに対し、本実施形態では、前輪用ABS制御の開始判定値SlpThFは、前輪荷重最大値Wf_maxから前輪荷重収束値WfAを減じた第11の差ΔWf11が大きいほど大きくされる(ステップS27)。すなわち、開始判定値SlpThFは、開始判定基準値SlpThFBよりも大きい。そのため、第5のタイミングt25では、前輪FL,FRのスリップ量Slpが未だ開始判定値SlpThF未満であり、その後の第6のタイミングt26で前輪FL,FRのスリップ量Slpが開始判定値SlpThFに達し(ステップS42:YES)、前輪用ABS制御が開始される。これにより、前輪FL,FRの接地荷重Wfが前輪荷重収束値WfAよりも大きい状況下では、前輪FL,FRに対する制動力BPFの大きい状態が維持されやすくなる。
ここで、車両の走行する路面のμ値(摩擦係数)が小さい場合、運転者によるブレーキ操作量が多くても、車両の車体減速度DVSが大きくなりにくい。そのため、路面のμ値が小さい場合には、路面のμ値が大きい場合と比較して、上記第11の差ΔWf11が大きくなりにくい分、前輪用ABS制御の開始判定値SlpThFが大きくなりにくい。その結果、路面のμ値が小さい場合には、前輪用ABS制御が比較的早期に開始されるようになり、車両制動時における車両挙動の安定性の低下が抑制される。
また、本実施形態のように前輪荷重最大値Wf_maxに応じて前輪用ABS制御の開始判定値SlpThFを可変とした場合、前輪FL,FRの接地荷重Wfが前輪荷重収束値WfAを下回っているときに同前輪用ABS制御における最初の増大モードが開始されることがある。そのため、本実施形態では、最初の増大モードにおける前輪FL,FRに対する制動力BPFの増大速度が、2回目以降の増大モード時よりも小さくされる(ステップS28,S46)。これにより、前輪FL,FRの接地荷重Wfが前輪荷重収束値WfAよりも小さい状況下にあっては、前輪FL,FRに対する制動力BPFが大きくなりにくくなる。
なお、前輪用ABS制御の実施中であっても、最初の制御サイクルが終了される第7のタイミングt27以降にあっては、比較例の場合と同じように前輪FL,FRに対する制動力BPFが調整されるようになる。すなわち、2回目以降の増大モードでは、前輪FL,FRに対する制動力BPFの増大速度が増大速度基準値VBPFBとされる(ステップS47)。
また、図10(b),(d)に示すように、比較例の場合にあっては、EBD制御の実施中における後輪RL,RRに対する制動力BPRが比較的大きいため、第2のタイミングt22を経過した以降から、後輪RL,RRのスリップ量Slpが徐々に大きくなる。そして、第5のタイミングt25で、後輪RL,RRのスリップ量Slpが後輪用ABS制御の開始判定値SlpThRに達し、後輪用ABS制御が開始される。
これに対し、本実施形態では、比較例の場合よりも、EBD制御が早期に開始される分、同EBD制御の実施中における後輪RL,RRに対する制動力BPRが比較的小さいため、後輪RL,RRのスリップ量Slpは第5のタイミングt25を経過したあたりから徐々に大きくなる。そして、その後の第6のタイミングt26で、後輪RL,RRのスリップ量Slpが後輪用ABS制御の開始判定値SlpThRに達し(ステップS68:YES)、後輪用ABS制御が開始される。
すなわち、本実施形態では、後輪荷重収束値WrAから後輪荷重最小値Wr_minを減じた第21の差ΔWr21に応じてEBD制御の開始判定値DVSThを可変としたことにより、後輪用ABS制御の開始タイミングが、比較例の場合よりも遅延されることがある。そして、このように後輪用ABS制御の開始タイミングを遅らせることにより、同後輪用ABS制御における最初の増大モードは、後輪RL,RRの接地荷重Wrが後輪荷重収束値WrAを上回っているときに開始されることがある。そのため、本実施形態では、最初の増大モードにおける後輪RL,RRに対する制動力BPRの増大速度が、後輪荷重最大値Wr_maxから後輪荷重収束値WrAを減じた第22の差ΔWr22が大きいほど大きくされる(ステップS36,S74)。すなわち、最初の増大モードにおける後輪RL,RRに対する制動力BPRの増大速度は、2回目以降の増大モード時よりも大きくされる。これにより、後輪RL,RRの接地荷重Wrが大きい状況下にあっては、後輪RL,RRに対する制動力BPRが大きくなりやすくなる。
なお、後輪用ABS制御の実施中であっても、最初の制御サイクルが終了される第7のタイミングt27以降にあっては、比較例の場合と同じように後輪RL,RRに対する制動力BPRが調整されるようになる。すなわち、2回目以降の増大モードでは、後輪RL,RRに対する制動力BPRの増大速度が増大速度基準値VBPRBとされる(ステップS75)。
以上、上記構成及び作用によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)車両制動時にあっては、前輪荷重最大値Wf_maxから前輪荷重収束値WfAを減じた第11の差ΔWf11が大きいほど、前輪用ABS制御の開始条件が厳しくされる。すなわち、車体減速度DVSが大きく、前輪FL,FRの接地荷重Wfが大きく変動する場合ほど、前輪用ABS制御の開始が遅延される。また、状況によっては、前輪用ABS制御の開始条件を厳しくすることにより、前輪用ABS制御が実施されないこともある。これにより、前輪の接地荷重Wfが前輪荷重収束値WfAを上回っているときには、前輪FL,FRに対する制動力BPFが大きい状態が継続されやすくなる。その結果、車両の減速度を大きくすることができる。
一方、車体減速度DVSが小さく、前輪FL,FRの接地荷重Wfがあまり変動しない場合には、第11の差ΔWf11が大きくなりにくいため、前輪用ABS制御が比較的早期に開始されるようになる。例えば、車両に対する制動力が大きくても、車両の走行する路面のμ値が小さいときなどでは、車体減速度DVSがあまり大きくならないため、前輪用ABS制御が比較的早期に開始される。すると、前輪FL,FRに対する制動力BPFの減少が早期に開始されるため、前輪FL,FRのスリップや横滑りが生じにくくなる分、車両挙動の安定性が低下しにくくなる。
すなわち、本実施形態では、前輪用ABS制御の開始タイミングを、車両の走行する路面のμ値に応じた適切な値に決定することができるともいえる。したがって、車両制動時において、車両挙動の安定性の低下を抑制した上で車両の減速度を大きくすることができる。
(2)また、前輪用ABS制御が実施されている場合、同前輪用ABS制御における最初の増大モードでの前輪FL,FRに対する制動力の増大速度が、前輪荷重収束値WfAから前輪荷重最小値Wf_minを減じた第12の差ΔWf12が大きいほど小さくされる。これにより、前輪FL,FRの接地荷重Wfが前輪荷重収束値WfAを下回っている期間では、前輪FL,FRに対する制動力BPFが大きくなりにくくなる。したがって、前輪用ABS制御の実施中における車両挙動の安定性の低下を抑制することができる。
(3)本実施形態では、後輪RR,RLの接地荷重Wrが小さくなり、後輪荷重収束値WrAから後輪荷重最小値Wr_minを減じた第21の差ΔWr21が大きくなる場合ほど、EBD制御の開始条件が成立しやすくなる。その結果、EBD制御が早期に開始されるようになり、後輪RL,RRに対する制動力BPRが大きくなりにくい。反対に、後輪RR,RLの接地荷重Wrが小さくなりにくく、上記第21の差ΔWr21が小さい場合ほど、EBD制御の開始条件が成立しにくくなる。その結果、EBD制御の開始が遅延されたり、EBD制御が実施されなかったりし、後輪RL,RRに対する制動力BPRが大きくなりやすい。このように後輪RL,RRの接地荷重Wrの変動態様に基づいてEBD制御の開始タイミングを可変とすることにより、後輪RR,RLに対する制動力BPRが適切に調整される分、車両制動時において、車両挙動の安定性の低下を抑制した上で車両の減速度を大きくすることができる。
(4)また、後輪用ABS制御が実施されている場合、同後輪用ABS制御における最初の増大モードでの後輪RL,RRに対する制動力BPRの増大速度が、後輪荷重最大値Wr_maxから後輪荷重収束値WrAを減じた第22の差ΔWr22が大きいほど大きくされる。これにより、後輪RL,RRに対する接地荷重Wrが比較的大きい場合には、後輪RL,RRに対する制動力BPRが大きくなりやすくなる。したがって、後輪用ABS制御の実施に伴う車両の減速度の低下を抑制することができる。
(5)本実施形態では、車体減速度DVSに基づき前輪FL,FRの接地荷重Wfの変動態様及び後輪RL,RRの接地荷重Wfの変動態様を予測し、予測結果に基づき前輪に対する制動制御の態様及び後輪に対する制動制御の態様が制御される。その結果、車両のピッチング状態を検出するための専用のセンサを用いることなく、車輪に対する制動力を、同車輪のそのときの接地荷重の大きさに応じて適切に調整することができる。
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・前輪FL,FRの接地荷重Wfが増大しているときには、後輪RL,RRの接地荷重Wrが減少している。そのため、後輪荷重最大値Wr_maxと前輪荷重最小値Wf_minとの間には相関があるということができ、後輪荷重最大値Wr_maxは前輪荷重最小値Wf_minが小さいほど大きくなりやすい。すなわち、後輪荷重最大値Wr_maxから後輪荷重収束値WrAを減じた第22の差ΔWr22は、前輪荷重収束値WfAから前輪荷重最小値Wf_minを減じた第12の差ΔWf12が大きいほど大きくなる。そこで、後輪用ABS制御が実施されている場合、同後輪用ABS制御における最初の増大モードでの後輪RL,RRに対する制動力BPRの増大速度を、第12の差ΔWf12が大きいほど大きくするようにしてもよい。このような制御構成を採用しても、後輪RL,RRの接地荷重Wrが大きいときには、後輪RL,RRに対する制動力BPRが大きくなりやすくなる。そのため、上記(4)と同等の効果を得ることができる。
また、上記第12の差ΔWf12は、前輪荷重最大値Wf_maxから前輪荷重収束値WfAを減じた第11の差ΔWf11が大きいほど大きくなる。そのため、後輪用ABS制御が実施されている場合、同後輪用ABS制御における最初の増大モードでの後輪RL,RRに対する制動力BPRの増大速度を、第11の差ΔWf11が大きいほど大きくするようにしてもよい。この場合であっても、上記(4)と同等の効果を得ることができる。
・車体減速度DVSがほぼ一定となると後輪RL,RRの接地荷重Wrの変動幅が徐々に狭くなり、接地荷重Wrは車体減速度DVSに応じた後輪荷重収束値WrAに収束される。すなわち、後輪用ABS制御が実施されている最中にあっては、最初の制御サイクル以降でも後輪RL,RRの接地荷重Wrがまだ変動していることがある。そのため、後輪用ABS制御の実施中においては、最初の制御サイクルから所定回目(例えば、3回目)の制御サイクルが経過するまで間では、増大モードでの後輪RL,RRに対する制動力BPRの増大速度を、上記増大速度基準値VBPRBよりも大きくするようにしてもよい。また、増大モードでの後輪RL,RRに対する制動力BPRの増大速度を、制御サイクルが次のサイクルに変わる毎に小さくするようにしてもよい。
・後輪用ABS制御における最初の増大モードでの後輪RL,RRに対する制動力BPRの増大速度を、後輪RL,RRの接地荷重Wrの変動態様によらず一定値としてもよい。この場合、最初の増大モードでの後輪RL,RRに対する制動力BPRの増大速度を、2回目以降の増大モード時と同等としてもよい。
・前輪FL,FRの接地荷重Wfが増大しているときには、後輪RL,RRの接地荷重Wrが減少している。そのため、後輪荷重最小値Wr_minと前輪荷重最大値Wf_maxとの間には相関があるということができ、後輪荷重最小値Wr_minは前輪荷重最大値Wf_maxが大きいほど小さくなりやすい。すなわち、後輪荷重収束値WrAから後輪荷重最小値Wr_minを減じた第21の差ΔWr21は、前輪荷重最大値Wf_maxから前輪荷重収束値WfAを減じた第11の差ΔWf11が大きいほど大きくなる。そこで、EBD制御の開始判定値DVSThを、第11の差ΔWf11が大きいほど小さくするようにしてもよい。この場合であっても、EBD制御の開始タイミングを、第21の差ΔWr21が大きいほど早めることができる。したがって、上記(3)と同等の効果を得ることができる。
また、第11の差ΔWf11と第12の差ΔWf12との間には相関がある。そのため、EBD制御の開始タイミングを、第12の差ΔWf12に応じて決定するようにしてもよい。この場合であっても、上記(3)と同等の効果を得ることができる。
・前輪FL,FRの接地荷重Wfの予測結果に基づいて前輪用ABS制御の開始タイミングを決定しているのであれば、EBD制御の開始タイミングを、後輪RL,RRの接地荷重Wrの予測結果によらず決定するようにしてもよい。この場合であっても、上記(1)と同等の効果を得ることができる。
・制御装置100は、前輪FL,FRの接地荷重Wfの予測結果に基づいて前輪用ABS制御の開始タイミングを決定するのであれば、EBD制御を実施しなくてもよい。この場合、後輪用ABS制御を、後輪荷重収束値WrAから後輪荷重最小値Wr_minを減じた第21の差ΔWr21が大きいほど早期に開始させるようにしてもよい。例えば、後輪用ABS制御の開始判定値SlpThRを第21の差ΔWr21が大きいほど小さくすることにより、こうした制御構成を実現させることができる。
この構成によれば、後輪RL,RRの接地荷重Wrが小さくなりやすい場合ほど、後輪用ABS制御が早期に開始されるようになる。これにより、車両挙動の安定性の低下が抑制される。反対に、後輪RL,RRの接地荷重Wrが小さくなりにくい場合ほど、後輪用ABS制御の開始が遅延されるようになる。これにより、後輪RL,RRに対する制動力BPRの大きい状態が継続されやすくなり、車両の減速度が大きくなりやすくなる。このように後輪RL,RRの接地荷重Wrの変動態様に基づいて後輪用ABS制御の開始タイミングを可変とすることにより、車両制動時において、車両挙動の安定性の低下を抑制した上で車両の減速度を大きくすることができる。
なお、この場合であっても、後輪用ABS制御における最初の増大モードでの制動力BPRの増大速度を、後輪荷重最大値Wr_maxから後輪荷重収束値WrAを減じた第22の差ΔWr22が大きいほど大きくするようにしてもよい。
・前輪荷重最小値Wf_minと前輪荷重最大値Wf_maxとの間には相関があり、前輪荷重最小値Wf_minは前輪荷重最大値Wf_maxが大きいほど小さくなりやすい。そこで、前輪用ABS制御が実施されている場合、同前輪用ABS制御における最初の増大モードでの前輪FL,FRに対する制動力BPFの増大速度を、前輪荷重最大値Wf_maxから前輪荷重収束値WfAを減じた第11の差ΔWf11が大きいほど小さくするようにしてもよい。この場合であっても、最初の増大モードでの前輪FL,FRに対する制動力BPFの増大速度を前輪荷重収束値WfAから前輪荷重最小値Wf_minを減じた第12の差ΔWf12に基づいて決定する場合と同様の効果を得ることができる。
・車体減速度DVSがほぼ一定となると前輪FL,FRの接地荷重Wfの変動幅が徐々に狭くなり、接地荷重Wfは車体減速度DVSに応じた前輪荷重収束値WfAに収束される。すなわち、前輪用ABS制御が実施されている最中にあっては、最初の制御サイクル以降でも前輪FL,FRの接地荷重Wfがまだ変動していることがある。そのため、前輪用ABS制御の実施中においては、最初の制御サイクルから所定回目(例えば、3回目)の制御サイクルが経過するまで間では、増大モードでの前輪FL,FRに対する制動力BPFの増大速度を、上記増大速度基準値VBPFBよりも小さくするようにしてもよい。また、増大モードでの前輪FL,FRに対する制動力BPFの増大速度を、制御サイクルが次のサイクルに変わる毎に大きくするようにしてもよい。
・前輪FL,FRの接地荷重Wfの予測結果に基づいて前輪用ABS制御の開始タイミングを決定するのであれば、同前輪用ABS制御における最初の増大モードでの前輪FL,FRに対する制動力BPFの増大速度を、前輪FL,FRの接地荷重Wfの変動態様によらず決定するようにしてもよい。例えば、最初の増大モードでの前輪FL,FRに対する制動力BPRの増大速度を、2回目以降の増大モードでの制動力BPFの増大速度と同等としてもよい。この場合であっても、上記(1)と同等の効果を得ることができる。
・車両に、自動的に制動力を付与することのできるブレーキアクチュエータが搭載されているものもある。この場合、ブレーキアクチュエータの作動に伴う自動制動時に、前輪用ABS制御が実施されることがある。この場合であっても、同前輪用ABS制御の開始条件を、前輪荷重最大値Wf_maxから前輪荷重収束値WfAを減じた第11の差ΔWf11が大きいほど厳しくするようにしてもよい。また、こうした自動制動時に実施されるEBD制御の開始条件を、後輪荷重収束値WrAから後輪荷重最小値Wr_minを減じた第21の差ΔWr21が大きいほど緩和するようにしてもよい。
・EBD制御は、後輪RL,RRに対する制動力BPRの増大を制限するのであれば、同制動力BPRを保持する制御以外の他の制御であってもよい。例えば、EBD制御は、後輪RL,RRに対する制動力BPRの増大速度を、EBD制御の開始以前よりも小さくする制御であってもよい。
・前輪FL,FRの接地荷重Wfの変動、前輪荷重収束値WfA、後輪RL,RRの接地荷重Wfの変動及び後輪荷重収束値WrAを予測するに際し、車体速度VSを時間微分した車体減速度DVSの代わりに、前後加速度センサSE5によって検出された前後加速度Gxを用いてもよい。
・サスペンションとしては、ショックアブソーバ46における減衰係数を変更することのできるものもある。この場合、上記関係式(式1)における減衰係数を、そのときのショックアブソーバ46の減衰特性に応じた値に決定することが好ましい。
・制動装置は、液圧式の制動装置に限らず、電動式の制動装置であってもよい。