JP2020006897A - 車両のブレーキ制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 スリップ率速度に基づいてABS制御を開始する方式のブレーキ制御装置において、スリップ率閾値を精度よく設定できるようにする。【解決手段】 ブレーキECUは、制動力をスリップ率で除算した値をブレーキングスティフネスBSに設定し、制動力の変化速度をブレーキングスティフネスBSで除算した値に基づいて、スリップ率閾値を設定する。ブレーキECUは、荷重増加量の大きい側の前輪を基準車輪として、基準車輪のブレーキングスティフネスBSの変化量ΔBSを荷重の前後方向移動による成分ΔBSLonと荷重の左右方向移動による成分ΔBSLatとに分け、このΔBSLonとΔBSLatとを使って、残りの3車輪のブレーキングスティフネスBSを補正する。【選択図】 図12
Description
本発明は、制動時の車輪のロックを防止する制御であるABS制御を実施する車両のブレーキ制御装置に関する。
従来から、制動時に車輪が路面をスリップしないように車輪のロックを防止するシステムであるABS(Antilock Brake System)が知られている。このABSで実施される制動力制御は、ABS制御と呼ばれている。ABS制御は、ブレーキ制御装置(以下、ブレーキECUと呼ぶ)にて実施される。一般に、ブレーキECUは、車輪のスリップ率を検知し、スリップ率がABS開始閾値を上回った場合にABS制御を開始する。ABS制御が開始されると、スリップ率が目標スリップ率に維持されるように、ブレーキキャリパに設けられたホイールシリンダの油圧が制御される。目標スリップ率は、例えば、摩擦係数μが最大になると推定される値(μピークスリップ率と呼ぶ)に設定される。
例えば、特許文献1に提案された装置では、ABS制御を開始するタイミングを決めるためのABS開始閾値として、スリップ率に加えて、スリップ率速度(スリップ率の変化する速度、つまり、スリップ率の単位時間当たりの変化量)を採用している。この装置では、スリップ率速度が予め設定されたスリップ率速度閾値を超えたときに、ABS制御を開始する。
図7は、タイヤと路面との間に発生する摩擦の度合いを表す摩擦係数μと、車輪のスリップ率Sとの関係を表すグラフ(μ−S特性図)である。μ−S特性に示すように、摩擦係数μは、制動開始当初ではスリップ率Sの増加にほぼ比例して増加する。この摩擦係数μがスリップ率Sにほぼ比例して増加する領域を、線形上昇領域と呼ぶ。
スリップ率Sが線形上昇領域を超えて更に増加した場合には、スリップ率Sと摩擦係数μとの関係が非線形になる。この領域を非線形領域と呼ぶ。スリップ率Sが非線形領域を増加していくと、その途中で摩擦係数μが最大となる。摩擦係数μが最大となるときのスリップ率をμピークスリップ率Speakと呼ぶ。非線形領域においては、μピークスリップ率Speakを挟んで、左側が非線形上昇領域であり、右側が非線形減少領域である。
スリップ率は、線形上昇領域から非線形領域に進入すると、その増加速度(スリップ率速度と呼ぶ)が急に速くなる。
そこで、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えた瞬間のスリップ率を取得すれば、そのスリップ率に基づいて、μピークスリップ率を推定することができると考えることができる。例えば、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えた瞬間のスリップ率に、所定値を加算した値を目標スリップ率に設定すれば、μピークスリップ率に近い目標スリップ率を設定することができる。
しかし、上述した特許文献1に提案された装置は、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたときにABS制御を開始するものの、スリップ率速度閾値が一定値に固定されているため、ABS制御の開始タイミングが適正とならない。
例えば、ドライバーが素早いブレーキペダル操作を行った場合には、それに応じた速い速度で制動力が変化し、スリップ率速度も制動力の変化する速度にあわせて変化する。このため、特許文献1に提案された装置では、ABS制御が開始されるときのスリップ率にバラツキが生じてしまう。これにより、例えば、目標スリップ率を適正値(μピークスリップ率に近い値)に設定することができず、ABS制御を良好に実施することができないおそれがある。
そこで、本願の発明者は、線形上昇領域における車輪のスリップ率と制動力との関係を表すブレーキングスティフネスを使ってスリップ率速度閾値を演算し、その演算されたスリップ率速度閾値に基づいてABS制御を開始するタイミングを決定する手法を考えた。この手法では、ABS制御を開始する前のスリップ率が低い段階でブレーキングスティフネスが演算される。この手法を採用すれば、目標スリップ率を適正値(μピークスリップ率に近い値)に設定することができる。
しかし、ブレーキングスティフネスは、車両の荷重移動によって変化する。このため、ABS制御を良好に実施するには、ブレーキングスティフネスの演算後に荷重移動が発生した場合に、そのブレーキングスティフネスを補正する必要がある。制動によって荷重が増加した前輪では、スリップ率と制動力との関係が線形上昇領域内に入っていると考えられるため、最初にブレーキングスティフネスを演算した方法で、荷重増加後のブレーキングスティフネスを算出することができる。一方、荷重が低下した後輪では、スリップ率と制動力との関係が非線形領域内に入っているおそれがあるため、最初にブレーキングスティフネスを演算した方法では、スリップ率速度閾値を演算するために適したブレーキングスティフネスを求めることができない。
更に、車両が旋回運動をした場合には、荷重移動は前後方向だけでなく、左右方向にも生じる。このため、スリップ率速度閾値を精度よく設定することが難しい。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、スリップ率速度に基づいてABS制御を開始する方式のブレーキ制御装置において、スリップ率速度閾値を精度よく設定できるようにすることを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の車両のブレーキ制御装置の特徴は、
車輪のスリップ率、および、前記スリップ率の変化する速度であるスリップ率速度を検出するスリップ検出手段(40,10)と、
前記スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたときに、前記車輪のスリップ率が目標スリップ率に追従するように車輪の制動力を調整する制御であるABS制御を開始するABS制御手段(10)と、
車輪のスリップ率が所定の低スリップ率範囲に入っているという状況における前記車輪のスリップ率と車輪の制動力との関係を表すブレーキングスティフネスを取得するブレーキングスティフネス取得手段(S17)と、
前記ブレーキングスティフネスと、現時点における前記車輪の制動力の変化速度とに基づいて、前記スリップ率速度閾値を演算するスリップ率速度閾値演算手段(S21,S14)と、
前記ブレーキングスティフネス取得手段によって前記ブレーキングスティフネスが取得された後、予め設定された補正条件が成立したタイミング(S15:Yes)で前記ブレーキングスティフネスを補正するブレーキングスティフネス補正手段(S100)とを備えた車両のブレーキ制御装置であって、
前記ブレーキングスティフネス補正手段は、
左右前輪のうち荷重の増加傾向の大きい側の車輪である第1車輪について、現時点における前記制動力と前記スリップ率とを取得して、その取得した前記制動力と前記スリップ率とに基づいて前記ブレーキングスティフネスを演算することにより、前記ブレーキングスティフネス取得手段によって取得された前記ブレーキングスティフネスを補正する第1車輪ブレーキングスティフネス補正手段(S101)と、
前記第1車輪以外の車輪である第2車輪について、前記第1車輪のブレーキングスティフネスの補正による前記ブレーキングスティフネスの変化量(ΔBS)と、車両の減速運動による前後方向の荷重移動量と車両の旋回運動による左右方向の荷重移動量とのバランス(nyx)に応じた配分比とに基づいて、前記ブレーキングスティフネス取得手段によって取得されたブレーキングスティフネスを補正する第2車輪ブレーキングスティフネス補正手段(S112〜S115,S122〜125)と
を備えたことにある。
車輪のスリップ率、および、前記スリップ率の変化する速度であるスリップ率速度を検出するスリップ検出手段(40,10)と、
前記スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたときに、前記車輪のスリップ率が目標スリップ率に追従するように車輪の制動力を調整する制御であるABS制御を開始するABS制御手段(10)と、
車輪のスリップ率が所定の低スリップ率範囲に入っているという状況における前記車輪のスリップ率と車輪の制動力との関係を表すブレーキングスティフネスを取得するブレーキングスティフネス取得手段(S17)と、
前記ブレーキングスティフネスと、現時点における前記車輪の制動力の変化速度とに基づいて、前記スリップ率速度閾値を演算するスリップ率速度閾値演算手段(S21,S14)と、
前記ブレーキングスティフネス取得手段によって前記ブレーキングスティフネスが取得された後、予め設定された補正条件が成立したタイミング(S15:Yes)で前記ブレーキングスティフネスを補正するブレーキングスティフネス補正手段(S100)とを備えた車両のブレーキ制御装置であって、
前記ブレーキングスティフネス補正手段は、
左右前輪のうち荷重の増加傾向の大きい側の車輪である第1車輪について、現時点における前記制動力と前記スリップ率とを取得して、その取得した前記制動力と前記スリップ率とに基づいて前記ブレーキングスティフネスを演算することにより、前記ブレーキングスティフネス取得手段によって取得された前記ブレーキングスティフネスを補正する第1車輪ブレーキングスティフネス補正手段(S101)と、
前記第1車輪以外の車輪である第2車輪について、前記第1車輪のブレーキングスティフネスの補正による前記ブレーキングスティフネスの変化量(ΔBS)と、車両の減速運動による前後方向の荷重移動量と車両の旋回運動による左右方向の荷重移動量とのバランス(nyx)に応じた配分比とに基づいて、前記ブレーキングスティフネス取得手段によって取得されたブレーキングスティフネスを補正する第2車輪ブレーキングスティフネス補正手段(S112〜S115,S122〜125)と
を備えたことにある。
本発明の車両のブレーキ制御装置においては、スリップ検出手段が、車輪のスリップ率、および、スリップ率の変化する速度であるスリップ率速度を検出する。そして、ABS制御手段が、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたときに、車輪のスリップ率が目標スリップ率に追従するように車輪の制動力(車輪に付与する制動力)を調整する制御であるABS制御を開始する。
ブレーキ制御装置は、ABS制御を良好に実施するための手段として、ブレーキングスティフネス演算手段、スリップ率速度閾値演算手段、および、ブレーキングスティフネス補正手段を備えている。
ブレーキングスティフネス演算手段は、車輪のスリップ率が所定の低スリップ率範囲に入っているという状況における車輪のスリップ率と車輪の制動力との関係を表すブレーキングスティフネスを取得する。この低スリップ率範囲は、車輪のスリップ率と車輪の制動力とが線形の関係を有するとみなすことができる範囲に設定されていればよい。車輪の制動力は、車輪に付与される制動力であって、例えば、油圧式のブレーキ装置であれば、ホイールシリンダの油圧を検出し、その検出した油圧から推定することができる。
スリップ率速度閾値演算手段は、ブレーキングスティフネスと、現時点における車輪の制動力の変化速度とに基づいて、スリップ率速度閾値を演算する。これにより、ドライバーのブレーキペダル操作速度に応じたスリップ率速度閾値を設定することができる。
車両の減速運動および旋回運動によって荷重移動が発生する。また、荷重の変化によってブレーキングスティフネスは変化する。従って、ブレーキングスティフネス取得手段によって取得されたブレーキングスティフネスを補正する必要がある。そこで、ブレーキングスティフネス補正手段は、ブレーキングスティフネス取得手段によってブレーキングスティフネスが取得された後、予め設定された補正条件が成立したタイミングでブレーキングスティフネスを補正する。この補正条件は、例えば、ブレーキングスティフネスを取得後に所定量以上の荷重移動が発生していると推定される条件とすればよい。
この場合、ブレーキングスティフネス取得手段によってブレーキングスティフネスが取得された後、荷重が増加した車輪については、車輪のスリップ率と制動力との関係は線形領域に入っていると考えられ、現時点における制動力とスリップ率とに基づいてブレーキングスティフネスを精度よく演算することができる。一方、荷重が低下した車輪については、車輪のスリップ率と制動力との関係が非線形領域に入っているおそれがあるため、適正なブレーキングスティフネスを演算できないおそれがある。
そこで、ブレーキングスティフネス補正手段は、第1車輪ブレーキングスティフネス補正手段と第2車輪ブレーキングスティフネス補正手段とを備えている。第1車輪ブレーキングスティフネス補正手段は、左右前輪のうち荷重の増加傾向の大きい側の車輪である第1車輪について、現時点における制動力とスリップ率とを取得して、その取得した制動力とスリップ率とに基づいてブレーキングスティフネスを演算することにより、ブレーキングスティフネス取得手段によって取得されたブレーキングスティフネスを補正する。従って、現時点における制動力とスリップ率とに基づいて演算されたブレーキングスティフネスが、補正されたブレーキングスティフネスとなる。
車両の減速運動によって荷重が前輪に移動し、車両の旋回運動によって荷重が旋回外輪に移動する。また、車輪の荷重が増加するとスリップ率の増加する速度(スリップ率速度)が低下する。従って、例えば、スリップ率速度が予め設定された閾値よりも低下した前輪が検出されたときに補正条件が成立したと判定するとよい。この場合、その補正条件が成立した前輪を第1車輪とするとよい。また、車輪に働く荷重を検出して、ブレーキングスティフネス取得後の荷重の増加量が閾値を超えた前輪が検出されたときに補正条件が成立したと判定し、この補正条件が成立した前輪を第1車輪とするようにしてもよい。
第2車輪ブレーキングスティフネス補正手段は、第1車輪以外の車輪である第2車輪について、第1車輪のブレーキングスティフネスの補正によるブレーキングスティフネスの変化量と、車両の減速運動による前後方向の荷重移動量と車両の旋回運動による左右方向の荷重移動量とのバランスに応じた配分比とに基づいて、ブレーキングスティフネス取得手段によって取得されたブレーキングスティフネスを補正する。例えば、「車両の減速運動による前後方向の荷重移動量と車両の旋回運動による左右方向の荷重移動量とのバランス」は、「車体の前後方向の加速度の変化量と左右方向の加速度の変化量とのバランス」に相当するため、上記の加速度の変化量を検出して配分比を決定するとよい。
これにより、第1車輪のブレーキングスティフネスの増加分を、車体の前後方向成分と左右方向成分とに分けることができ、ブレーキングスティフネスの車体の前後方向増加成分と左右方向増加成分とを用いて、第2車輪のブレーキングスティフネスを適正に補正することができる。例えば、第1車輪のブレーキングスティフネスの前後方向の増加分だけ、後輪のブレーキングスティフネスの前後方向成分を減らすように、また、第1車輪のブレーキングスティフネスの左右方向の増加分だけ、第1車輪に対して左右反対となる車輪のブレーキングスティフネスの左右方向成分を減らすように補正するとよい。スリップ率速度閾値演算手段は、補正されたブレーキングスティフネスと現時点における車輪の制動力の変化速度とに基づいて、スリップ率速度閾値を演算する。
従って、本発明によれば、スリップ率速度閾値を精度よく設定することができ、この結果、ABS制御を良好に実施することができる。
尚、例えば、ブレーキングスティフネス取得手段は、車輪のスリップ率が所定の設定低スリップ率を超えたタイミングにて、車輪のスリップ率と車輪の制動力とを取得し、車輪の制動力を車輪のスリップ率で除算して得られる値に基づいてブレーキングスティフネスを決定するように構成されるとよい。
また、例えば、スリップ率速度閾値演算手段は、車輪の制動力の変化速度をブレーキングスティフネスで除算して得られる値に基づいてスリップ率速度閾値を決定するように構成されるとよい。
また、例えば、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたときのスリップ率を取得し、その取得したスリップ率に基づいて目標スリップ率を設定する目標スリップ率設定手段を備えているとよい。
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
以下、本発明の実施形態に係る車両のブレーキ制御装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る車両のブレーキ制御装置1の概略構成を表す。ブレーキ制御装置1は、4輪の車両に適用され、ブレーキECU10と、油圧式摩擦ブレーキ機構20と、ブレーキアクチュエータ30と、車輪速センサ40と、ブレーキストロークセンサ50と、加速度センサ60とを備えている。ブレーキECU10は、図示しないCAN(Controller Area Network)を介して他のECU(例えば、エンジンECU等)と相互に情報を送信可能及び受信可能に接続されている。尚、ECUは、マイクロコンピュータを主要部として備える電気制御装置(Electric Control Unit)であり、本明細書において、マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェースI/F等を含む。CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。
油圧式摩擦ブレーキ機構20は、左前輪WHFL、右前輪WHFR、左後輪WHRL、右後輪WHRRにそれぞれ設けられる。以下、左前輪WHFL、右前輪WHFR、左後輪WHRL、右後輪WHRRを特定する必要がない場合には、それらを左右前後輪WH、あるいは、単に、車輪WHと総称する。また、左前輪WHFLおよび右前輪WHFRについては、それらを前輪WHF*と総称し、左後輪WHRLおよび右後輪WHRRについては、それらを後輪WHR*と総称する。
油圧式摩擦ブレーキ機構20は、車輪WHに固定されるブレーキディスク21と、車体に固定されるブレーキキャリパ22とを備え、ブレーキアクチュエータ30から供給される作動油の油圧によってブレーキキャリパ22に内蔵されたホイールシリンダ23を作動させることによりブレーキパッドをブレーキディスク21に押し付けて摩擦制動力を発生させる。
ブレーキアクチュエータ30は、ホイールシリンダ23に供給する油圧を、各車輪WHごとに独立して調整する公知のアクチュエータである。このブレーキアクチュエータ30は、例えば、ブレーキペダルの踏力によって作動油を加圧するマスタシリンダからホイールシリンダ23に油圧を供給する踏力油圧回路に加え、ブレーキペダル踏力を用いず制御油圧を各ホイールシリンダ23に独立して供給する制御油圧回路を備えている。制御油圧回路には、昇圧ポンプおよびアキュムレータを有し高圧の油圧を発生する動力油圧発生装置と、動力油圧発生装置の出力する油圧を調整してホイールシリンダ23に供給する制御弁群を備えている。この制御弁群は、動力油圧発生装置の出力する油圧を目標油圧に調整するリニア制御弁、常開式電磁弁であってABS制御における保持モードにおいて閉弁されるABS保持弁、および、常閉式電磁弁であってABS制御における減圧モードにおいて開弁されてホイールシリンダ23とリザーバーとを連通させてホイールシリンダ23を減圧させるABS減圧弁などを備えている。ABS保持弁およびABS減圧弁は、リニア制御弁よりも下流側に設けられ、各ホイールシリンダ23の個々の油圧回路に設けられる。尚、ブレーキアクチュエータ30は、種々の形式のものが知られているため、それらの任意のものを採用することができる。
ブレーキアクチュエータ30は、ホイールシリンダ23の油圧、マスタシリンダの油圧、および、動力油圧発生装置の出力する油圧をそれぞれ検出する油圧センサを備え、各油圧センサの検出信号をブレーキECU10に送信する。
車輪速センサ40は、前後左右輪WHにそれぞれ設けられ、車輪WHの回転速度(車輪速)を表す信号をブレーキECU10に送信する。ブレーキECU10は、4輪の車輪速を用いて、車両の走行速度である車体速を演算する。車体速の演算方式は、種々知られている任意の方式を採用すればよい。演算された車体速を表す情報は、図示しないCANを介して、各種のECUに送信される。ブレーキECU10は、後述するように、車輪速と車体速とに基づいて、車輪WHのスリップ率を演算する。
ブレーキストロークセンサ50は、ブレーキペダルの踏み込み量(操作量)であるペダルストロークを検出し、検出したブレーキペダルストロークを表す信号をブレーキECU10に送信する。
加速度センサ60は、車体の前後方向の加速度である前後加速度Gx、および、車体の横方向(左右方向)の加速度である横加速度Gyを検出し、検出した前後加速度Gx、および、横加速度Gyを表す信号をブレーキECU10に送信する。また、前後加速度Gx、および、横加速度Gyは、その符号(正負)によって、その方向が特定される。
ブレーキECU10は、ブレーキペダルストロークに基づいて、ドライバーの要求する制動力である要求制動力を決定し、その要求制動力が油圧式摩擦ブレーキ機構20によって発生するように、ブレーキアクチュエータ30の作動を制御する。
<ABS制御の概要>
次に、ブレーキECU10の実施するABS制御について説明する。ABS制御は、各車輪ごとに実施される。ABS制御は、油圧式摩擦ブレーキ機構20の作動によって車輪WHがロックするおそれが検出されたときに開始され、スリップ率が、目標スリップ率近傍の範囲に維持されるように、ドライバーのブレーキペダル操作とは無関係に、車輪WHに付与する制動力を調整する制御である。制動力の調整にあたっては、例えば、ブレーキアクチュエータ30に設けられたABS保持弁、および、ABS減圧弁の開閉制御によってホイールシリンダ23の油圧が調整される。
次に、ブレーキECU10の実施するABS制御について説明する。ABS制御は、各車輪ごとに実施される。ABS制御は、油圧式摩擦ブレーキ機構20の作動によって車輪WHがロックするおそれが検出されたときに開始され、スリップ率が、目標スリップ率近傍の範囲に維持されるように、ドライバーのブレーキペダル操作とは無関係に、車輪WHに付与する制動力を調整する制御である。制動力の調整にあたっては、例えば、ブレーキアクチュエータ30に設けられたABS保持弁、および、ABS減圧弁の開閉制御によってホイールシリンダ23の油圧が調整される。
こうしたABS制御については、従来から知られている手法を採用することができる。ABS制御においては、目標スリップ率をμピークスリップ率に近い値に設定することが重要である。μピークスリップ率は、最も高い摩擦係数μが得られるスリップ率である。μピークスリップ率は、路面状態等によって変化する。従って、μピークスリップ率を正しく推定することが重要となる。
図7のμ−S特性に示されるように、摩擦係数μは、制動開始当初ではスリップ率Sの増加にほぼ比例して増加する。この摩擦係数μがスリップ率Sにほぼ比例して増加する領域が線形上昇領域である。摩擦係数μは、制動力が摩擦力を上回っている場合、その差がゼロになるまで上昇する。
スリップ率Sが線形上昇領域を超えて更に増加した場合には、スリップ率Sと摩擦係数μとの関係が非線形になる。スリップ率は、線形上昇領域から非線形上昇領域に進入すると、その増加速度(スリップ率速度)が急に速くなる。このスリップ率が急に速くなるポイントから、更にスリップ率が増加したポイントに摩擦係数μが最大となるμピークμpeakが表れる(μピークスリップ率Speakが存在する)。従って、スリップ率が急に速くなるポイントを見つけることで、そのポイントを基準としてμピークスリップ率Speakを推定することができる。
図8は、横軸を摩擦係数μ、縦軸をスリップ率Sにて表した特性図である。横軸は、タイヤトルクとみなすことができる。ブレーキ操作によって車輪の制動力が増加すると、それに伴ってスリップ率Sが増加する。そして、ポイントP1において、スリップ率Sが急に増加する。このポイントP1を基準として、スリップ率が所定値Spだけ増加したポイントP2に、μピークスリップ率Speakが存在すると推定することができる。従って、スリップ率Sが急に増加するポイントP1を見つけることで、μピークスリップ率Speakを推定することができる。
そこで、ブレーキECU10は、スリップ率速度を常時検出する。スリップ率速度は、スリップ率の変化する速度であって、単位時間当たりのスリップ率の変化量である。ブレーキECU10は、スリップ率速度が予め設定した閾値(スリップ率速度閾値)を超えたタイミングを検出する。このタイミングが、図8におけるポイントP1が検出されるタイミングである。ブレーキECU10は、このポイントP1が検出されたタイミングで、ポイントP1におけるスリップ率S1に所定値Spを加算した値(S1+Sp)を目標スリップ率Stargetに設定して、ABS制御を開始する。この所定値Spは、目標スリップ率Stargetがμピークスリップ率Speakに近い値となるように、実験等によって設定された値である。
スリップ率速度は、ドライバーのブレーキペダル操作速度によって変化する。例えば、ドライバーが素早いブレーキペダル操作を行った場合には、それに応じた速い速度で制動力が変化し、スリップ率速度も制動力の変化する速度にあわせて速くなる。このため、スリップ率速度閾値を一定値に固定してしまうと、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えるタイミングにばらつきが生じる。つまり、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えた瞬間におけるスリップ率が、ドライバーのペダル操作の速さに応じてばらついてしまう。このため、目標スリップ率が適正に設定されないおそれがある。
そこで、本実施形態においては、線形上昇領域における車輪のスリップ率と制動力との関係を表すブレーキングスティフネスBSを使って、スリップ率速度閾値を演算し、その演算されたスリップ率速度閾値を使って、ABS制御を開始するタイミングを決定する。ABS制御は、検知されたスリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたタイミングにて開始される。
図9は、車輪のスリップ率と制動力(タイヤ力)との関係を表す特性図である。ブレーキングスティフネスBSは、スリップ率と制動力とが線形の関係を有すると見做すことができる線形上昇領域(低スリップ率範囲)における、スリップ率に対する制動力の比、つまり、図9における制動力の傾きを表す。例えば、線形上昇領域において任意の点(SL,FxL)を通る特性であれば、ブレーキングスティフネスBSは、次式(1)によって演算することができる。
BS=FxL/SL ・・・(1)
BS=FxL/SL ・・・(1)
式(1)から、スリップ率Sは、制動力FxとブレーキングスティフネスBSとを使って、次式(2)のように表すことができる。
S=Fx/BS ・・・(2)
S=Fx/BS ・・・(2)
低スリップ率範囲では、スリップ率Sと制動力Fxとが線形の関係を有すると見做すことができるため、制動力Fxの変化する速度である制動力速度dFx/dtと、スリップ率速度dS/dtとは、一対一に対応する。従って、制動力速度dFx/dtがわかれば、それに対応したスリップ率速度閾値を設定することによって、ABS制御を開始するときのスリップ率がばらつかないようにすることができる。
本実施形態においては、次式(3)に示すように、制動力速度dFx/dtをブレーキングスティフネスBSで除算してスリップ率速度基準値dSref/dtが算出される。
dSref/dt=(dFx/dt)/BS ・・・(3)
そして、このスリップ率速度基準値dSref/dtに基づいて、ABS制御の開始タイミングを決定するスリップ率速度閾値が設定される。
dSref/dt=(dFx/dt)/BS ・・・(3)
そして、このスリップ率速度基準値dSref/dtに基づいて、ABS制御の開始タイミングを決定するスリップ率速度閾値が設定される。
ABS制御は、スリップ率速度がスリップ率速度基準値dSref/dtから急に増加するタイミングで開始するとよい。そのようにするために、スリップ率速度閾値は、スリップ率速度基準値dSref/dtに、所定値dSnを加算した値(dSref/dt+dSn)に設定される。以下、この所定値dSnをスリップ率速度ノイズオフセット値dSnと呼ぶ。
スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたタイミングで目標スリップ率が演算され、それと同時に、ABS制御が開始される。目標スリップ率は、ABS制御が開始されるとき(スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたとき)のスリップ率Sに、予め設定された値Sp(μピークスリップ率オフセットと呼ぶ)を加算した値に設定される。
このように、ブレーキングスティフネスBSおよび制動力速度dFx/dtを考慮してスリップ率速度閾値を設定することにより、ドライバーのブレーキペダル操作速度によって、ABS制御が開始されるときのスリップ率がばらついてしまうことを抑制することができる。その結果、目標スリップ率をμピークスリップ率Speakに近い値に設定することができる。
ブレーキングスティフネスBSは、各車輪別々に、ブレーキングスティフネスBSの演算条件が成立した時(制動開始当初の低スリップ率時)において演算される。一方、ABS制御は、ブレーキングスティフネスBSが演算された後、実際に、スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたことが検出されたタイミングで開始される。このため、ブレーキングスティフネスBSが演算されてからABS制御が開始されるまでのあいだに、制動力によって車両の荷重移動が発生した場合には、ブレーキングスティフネスBSが変化する。
制動時には、車両の荷重は前方に移動する。また、旋回時には、車両の荷重は旋回外側に移動する。このため、旋回しながら制動した場合には、旋回外側の前輪に最も荷重が移動する。図10は、荷重変化が発生した場合の、車輪のスリップ率Sと制動力Fxとの関係を表す。図示するように、荷重増加に伴ってブレーキングスティフネスBSは増加する。
ABS制御は、できるだけ最新のブレーキングスティフネスBSを用いて演算されたスリップ率速度閾値にて開始タイミングが決定されることが好ましい。そこで、本実施形態においては、制動開始当初に演算されたブレーキングスティフネスBSを補正する補正処理が行われる。この場合、現時点における制動力Fxcとスリップ率Scとを再度検出し、上記式(1)に示すように、制動力Fxcをスリップ率Scで除算することにより最新のブレーキングスティフネスBSを再取得する方法が考えられる。
ただし、荷重が増加した車輪については、スリップ率と制動力との関係は線形領域に入っている(非線形領域に入っていない)と考えられるため、上記のように、現時点の制動力をスリップ率で除算することによりブレーキングスティフネスBSを精度よく算出することができる。一方、荷重が低下した車輪については、スリップ率と制動力との関係が非線形領域に入っているおそれがあるため、上記のように算出したブレーキングスティフネスBSを、スリップ率速度閾値を決める適正なブレーキングスティフネスBSとして採用することができない。
そこで、本実施形態においては、左右前輪のうち荷重の増加量の大きい側の車輪(基準車輪と呼ぶ)については、現時点における制動力とスリップ率とを使って、上記式(1)により、制動力をスリップ率で除算することにより最新のブレーキングスティフネスBSを再演算する。一方、その他の車輪(基準車輪以外の3輪)については、基準車輪のブレーキングスティフネスBSの変化量ΔBS(今回再演算したブレーキングスティフネスBSと、制動開始当初に演算したブレーキングスティフネスBSとの差)を、後述する配分比を使って配分することにより、制動当初に演算したブレーキングスティフネスBSを補正する。
ここで、ブレーキングスティフネスBSの補正方法について説明する。車両が左方向に旋回し、かつ、ブレーキ制動が行われる場合について考える。この場合、図11に示すように、旋回外側前輪である右前輪WHFRの荷重WFRは、直進定速走行時の荷重WFに、前後方向の荷重移動分である前後荷重移動量ΔWLonと、左右方向の荷重移動量ΔWLatとを加算した値に変化する(次式(4))。左前輪WHFLの荷重WFLは、直進定速走行時の荷重WFに、前後方向の荷重移動分である前後荷重移動量ΔWLonを加算し、左右方向の荷重移動量ΔWLatを減算した値に変化する(次式(5))。また、右後輪WHRRの荷重WRRは、直進定速走行時の荷重WRから、前後方向の荷重移動分である前後荷重移動量ΔWLonを減算し、左右方向の荷重移動量ΔWLatを加算した値に変化する(次式(6))。左後輪WHRLの荷重WRLは、直進定速走行時の荷重WRから、前後方向の荷重移動分である前後荷重移動量ΔWLonと、左右方向の荷重移動量ΔWLatとを減算した値に変化する(次式(7))。
WFR=WF+ΔWLon+ΔWLat ・・・(4)
WFL=WF+ΔWLon−ΔWLat ・・・(5)
WRR=WR−ΔWLon+ΔWLat ・・・(6)
WRL=WR−ΔWLon−ΔWLat ・・・(7)
WFR=WF+ΔWLon+ΔWLat ・・・(4)
WFL=WF+ΔWLon−ΔWLat ・・・(5)
WRR=WR−ΔWLon+ΔWLat ・・・(6)
WRL=WR−ΔWLon−ΔWLat ・・・(7)
従って、左右前後輪のうち右前輪WHFRの荷重移動量が最も大きくなる。右前輪WHFRにおける荷重移動量ΔWFRは、次式(8)のように表すことができる。
ΔWFR=ΔWLon+ΔWLat
=(M・|Gx|・H/L)+(M・|Gy|・H・φf/D) ・・・(8)
ここで、Mは車両の重量、Hは車両の重心高、Lは車両のホイールベース、Dは車両のトレッド、φfはロール剛性配分比を表す。
ΔWFR=ΔWLon+ΔWLat
=(M・|Gx|・H/L)+(M・|Gy|・H・φf/D) ・・・(8)
ここで、Mは車両の重量、Hは車両の重心高、Lは車両のホイールベース、Dは車両のトレッド、φfはロール剛性配分比を表す。
重量Mおよび重心高Hに依存しない形で、前後方向の荷重移動量ΔWLonと左右方向の荷重移動量ΔWLatとの比を表現することができる。
荷重移動前後左右比nyxを、次式(9)のように定義する。
ΔWLat/ΔWLon=nyx ・・・(9)
荷重移動前後左右比nyxは、次式(10)のように表すことができる。
nyx=(M・|Gy|・H・φf/D)/(M・|Gx|・H/L)
=(|Gy/Gx|)・(L・φf/D) ・・・(10)
荷重移動前後左右比nyxを、次式(9)のように定義する。
ΔWLat/ΔWLon=nyx ・・・(9)
荷重移動前後左右比nyxは、次式(10)のように表すことができる。
nyx=(M・|Gy|・H・φf/D)/(M・|Gx|・H/L)
=(|Gy/Gx|)・(L・φf/D) ・・・(10)
従って、左右方向の荷重移動量ΔWLatは、次式(11)のように表すことができる。
ΔWLat=ΔWFR・(nyx/(1+nyx)) ・・・(11)
また、前後方向の荷重移動量ΔWLatは、次式(12)のように表すことができる。
ΔWlon=ΔWFR−ΔWLat ・・・(12)
ΔWLat=ΔWFR・(nyx/(1+nyx)) ・・・(11)
また、前後方向の荷重移動量ΔWLatは、次式(12)のように表すことができる。
ΔWlon=ΔWFR−ΔWLat ・・・(12)
これにより、左右前後輪のうちの1輪(この例では、右前輪WHFR)の荷重移動量ΔWFRから、他の車輪の荷重移動量を、前後方向と左右方向の成分に分けて算出することができる。従って、最も荷重移動量の多い右前輪WHFRのブレーキングスティフネスBSの変化量(ΔBS)を算出すれば、上述した荷重移動量の比を使って、変化量ΔBSを、左右方向と前後方向の成分に分けて他の3輪に配分することにより、他の3輪のブレーキングスティフネスBSの変化量を求めることができる。
例えば、荷重増加量の最も大きい右前輪のブレーキングスティフネスBSが、当初の演算値からΔBSだけ増加した場合を考える。この場合、右車輪WHFRのブレーキングスティフネス増加量ΔBSは、左右方向の荷重移動による増加成分であるΔBSLatと、前後方向の荷重移動による増加成分であるΔBSLonとに分けて、次式(13)、(14)のように計算することができる。
ΔBSLat=ΔBS・(nyx/(1+nyx)) ・・・(13)
ΔBSLon=ΔBS−ΔBSLat ・・・(14)
ΔBSLat=ΔBS・(nyx/(1+nyx)) ・・・(13)
ΔBSLon=ΔBS−ΔBSLat ・・・(14)
従って、他の車輪のブレーキングスティフネスBSについては、右前輪WHFRのブレーキングスティフネス増加量ΔBSFR(=ΔBSLon+ΔBSLat)を、図12に示すように、荷重移動量の比で配分することにより、その変化量を算出することができる。この場合、左前輪WHFLのブレーキングスティフネスBSFLの変化量ΔBSFLは、次式(15)により計算でき、右後輪WHRRのブレーキングスティフネスBSRRの変化量ΔBSRRは、次式(16)により計算でき、左後輪WHRLのブレーキングスティフネスBSRLの変化量ΔBSRLは、次式(17)により計算できる。
ΔBSFL=ΔBSLon−ΔBSLat ・・・(15)
ΔBSRR=−ΔBSLon+ΔBSLat ・・・(16)
ΔBSRL=−ΔBSLon−ΔBSLat ・・・(17)
ΔBSFL=ΔBSLon−ΔBSLat ・・・(15)
ΔBSRR=−ΔBSLon+ΔBSLat ・・・(16)
ΔBSRL=−ΔBSLon−ΔBSLat ・・・(17)
従って、最も荷重増加量の多い車輪のブレーキングスティフネスBSの変化量ΔBSを使って、他の車輪のブレーキングスティフネスBSの補正量を算出することができる。
これにより、ブレーキングスティフネスBSは、左右前後輪の全てにおいて前後方向および左右方向の荷重移動に対応した適切な値に補正することができる。
尚、荷重移動量の演算にあたっては、上記の説明では、定速直進走行から旋回および制動が開始されるものとして説明しているため、前後加速度|Gx|、および、横加速後|Gy|をそのまま用いているが、実際には、ブレーキングスティフネスBSが演算された時点から、そのブレーキングスティフネスBSを補正する時点までの前後加速度Gxの変化量|ΔGx|、および、横加速後Gyの変化量|ΔGy|が用いられる。
また、荷重移動前後左右比として、nyx(=ΔWLat/ΔWLon)に代えて、nxy(=ΔWLon/ΔWLat)を用いることもできる。この場合、nxy=(|Gx/Gy|)・(D/L・φf)と表される。従って、ブレーキングスティフネスBSの変化量(ΔBS)の前後方向成分は、ΔBSLon=ΔBS・nxy にて演算でき、左右方向成分は、ΔBSLat=ΔBS−ΔBSLon にて演算できる。
<目標スリップ率設定ルーチン>
次に、ブレーキECU10の実施する具体的な処理について説明する。図2は、ブレーキECUの実施する目標スリップ率設定ルーチンを表す。本実施形態におけるブレーキECU10の実施する特徴的な処理は、ABS制御で用いる目標スリップ率の設定処理(ABS制御を開始するタイミングの設定処理と表現することもできる)である。ABS制御中において行われるホイールシリンダ23の油圧制御については、従来から知られている種々の手法を採用できるため、ここでは、その説明を省略する。
次に、ブレーキECU10の実施する具体的な処理について説明する。図2は、ブレーキECUの実施する目標スリップ率設定ルーチンを表す。本実施形態におけるブレーキECU10の実施する特徴的な処理は、ABS制御で用いる目標スリップ率の設定処理(ABS制御を開始するタイミングの設定処理と表現することもできる)である。ABS制御中において行われるホイールシリンダ23の油圧制御については、従来から知られている種々の手法を採用できるため、ここでは、その説明を省略する。
目標スリップ率設定ルーチンは、所定の短い演算周期で繰り返し実施される。ブレーキECU10は、目標スリップ率設定ルーチンとは別に、所定の短い演算周期にて左右前後輪WHのスリップ率を個々に演算している。スリップ率は、((車体速−車輪速)/車体速)にて演算することができる。
尚、目標スリップ率設定ルーチンにおいては、左右前後輪WHについてそれぞれの制御パラメータ等が演算される。そのため、符号の末尾に付された「**」は、その値が、左右前後輪WHについてそれぞれ設定される値であることを表している。また、左右前輪WHF*についてそれぞれ設定される値を表す場合には、符号の末尾に「F*」が付され、左右後輪WHR*についてそれぞれ設定される値を表す場合には、符号の末尾に「R*」が付される。また、左前輪WHFLについて設定される値を表す場合には、符号の末尾に「FL」が付され、右前輪WHFRについて設定される値を表す場合には、符号の末尾に「FR」が付され、左後輪WHRLについて設定される値を表す場合には、符号の末尾に「RL」が付され、右後輪WHRRについて設定される値を表す場合には、符号の末尾に「RR」が付される。
目標スリップ率設定ルーチンを4回繰り返すことによって、左右前後輪(4輪)の制御パラメータ等が演算される。例えば、左前輪WHFLについて目標スリップ率設定ルーチンが実施され(**=FL)、その次に、右前輪WHFLについて目標スリップ率設定ルーチンが実施され(**=FR)、その次に、左後輪WHRLについて目標スリップ率設定ルーチンが実施され(**=RL)、その次に、右後輪WHRLについて目標スリップ率設定ルーチンが実施される(**=RR)。従って、図中における「**」は、所定の演算周期で、順番に「FL」,「FR」,「RL」,「RR」・・・というように切り替わるものと考えればよい。但し、その順番は、上記順番に限るものではない。また、後輪WHR*について目標スリップ率設定ルーチンが実施される場合には、「F*」と表されている制御パラメータ等についての演算処理、および、判定処理はスキップされる。
目標スリップ率設定ルーチンが起動すると、ブレーキECU10は、ステップS11において、BS検知フラグFlagBS**が「1」であるか否かについて判定する。BS検知フラグFlagBS**は、低スリップ率でのブレーキングスティフネスBS**を検知済みであるか否かを表すフラグ信号である。BS検知フラグFlagBS**は、「1」により低スリップ率でのブレーキングスティフネスBS**が検知済みであることを表し、「0」により、低スリップ率でのブレーキングスティフネスBS**が検知済みでないことを表す。目標スリップ率設定ルーチンの起動時においては、BS検知フラグFlagBS**は「0」に設定されている。
目標スリップ率設定ルーチンの起動直後においては、BS検知フラグFlagBS**は「0」に設定されている。このため、ブレーキECU10は、その処理をステップS12に進めて、現時点において検出されているスリップ率Sc**が低スリップ率SL**より大きいか否かについて判定する。このステップS12で用いられる低スリップ率SL**は、予め設定されたゼロよりも大きなスリップ率の値であって、低スリップ率範囲(スリップ率と制動力とが線形の関係を有する線形上昇領域)に入る値である。
目標スリップ率設定ルーチンの起動直後においては、車輪WHのスリップが発生していないため、「No」と判定される。この場合、ブレーキECU10は、その処理をステップS13に進めて、現時点におけるスリップ率Sc**の速度(スリップ率速度dSc**/dtと呼ぶ)を用いて、そのスリップ率速度dSc**/dtの値を、スリップ率速度基準値dSref**/dtに設定する(dSref**/dt←dSc**/dt)。スリップ率速度dSc**/dtは、ブレーキECU10によって短い周期で演算されており、ステップS13においては、最新のスリップ率速度dSc**/dtの値がスリップ率速度基準値dSref**/dtに設定される。
続いて、ブレーキECU10は、ステップS14において、スリップ率速度基準値dSref**/dtにスリップ率速度ノイズオフセット値dSnを加算した値((dSref**/dt)+dSn)を算出し、現時点のスリップ率速度dSc**/dtが、値((dSref**/dt)+dSn)よりも大きいか否かについて判定する。この値((dSref**/dt)+dSn)は、後述する処理から分かるように、ABS制御を開始するか否かを判定するための閾値(スリップ率速度閾値)である。従って、ステップS14には、スリップ率速度閾値を演算する処理が含まれている。
この場合、スリップ率速度基準値dSref**/dtは、ステップS13の処理によって、現時点のスリップ率速度dSc**/dtと等しい値に設定されているため、ステップS14においては、「No」と判定される。この場合、ブレーキECU10は、その処理をステップS15に進める。このステップS15の判定処理は、左前輪WHFLおよび右前輪WHFRについての目標スリップ率設定ルーチンの実行時において実施されるのであって、左右後輪WHR*についての目標スリップ率設定ルーチンの実行時においてはスキップされて、そのまま目標スリップ率設定ルーチンが一旦終了される。
ブレーキECU10は、ステップS15において、演算対象となっている前輪WHF*のスリップ率速度基準値dSrefF*/dtからスリップ率速度ノイズオフセット値dSnを減算した値((dSrefF*/dt)−dSn)を演算し、前輪WHF*の現時点のスリップ率速度dScF*/dtが、値((dSrefF*/dt)−dSn)よりも小さいか否かについて判定する。この時点では、スリップ率速度基準値dSref**/dtが現時点のスリップ率速度dSc**/dtと等しい値に設定されているため、ステップS14においては、「No」と判定され、目標スリップ率設定ルーチンが一旦終了される。
ブレーキECU10は、所定の短い演算周期で演算対象となる車輪を順番に切り替えながら目標スリップ率設定ルーチンを繰り返す。従って、スリップ率dSc**が低スリップ率SL**より大きくなっていない期間においては、上述した処理が繰り返される。そして、ステップS12において、スリップ率Sc**が低スリップ率SL**より大きくなると、ステップS12の判定が「Yes」となり、ブレーキECU10は、その処理をステップS16に進める。
ブレーキECU10は、ステップS16において、現時点のスリップ率Sc**の値を低スリップ率SL**の値に設定し(SL**←Sc**)、現時点の制動力Fxc**の値を低スリップ率時制動力FxL**の値に設定する(FxL**←Fxc**)。低スリップ率時制動力FxL**は、スリップ率Sc**が低スリップ率SL**より大きいと判定されたときの車輪の制動力である。本実施形態においては、ブレーキECU10は、制動力の大きさを、ホイールシリンダ23の油圧によって推定する。従って、低スリップ率時制動力FxL**は、スリップ率Sc**が低スリップ率SL**より大きいと判定されたときの、ホイールシリンダ23の油圧(油圧センサによって検出された値)によって推定された値である。
尚、ステップS12において、現時点のスリップ率Sc**が低スリップ率SL**より大きいと判定された瞬間においては、その直前まで、スリップ率Sc**が低スリップ率SL**以下であると判定されているため、現時点のスリップ率Sc**は、低スリップ率SL**よりも僅かに大きい値であって、低スリップ率範囲(線形上昇領域)に存在する値とみなすことができる。換言すれば、低スリップ率SL**は、ステップS12において「Yes」と判定されたときのスリップ率Sc**が必ず低スリップ率範囲に存在する値となるような低い値に設定されている。
ブレーキECU10は、ステップS16の処理を実施すると、続いて、ステップS17において、ブレーキングスティフネスBS**を演算する。ブレーキングスティフネスBS**は、スリップ率と制動力との関係を表す値であって、次式(18)に示すように、低スリップ率時制動力FxL**を低スリップ率SL**で除算することによって算出される。
BS**=FxL**/SL** ・・・(18)
BS**=FxL**/SL** ・・・(18)
続いて、ブレーキECU10は、ステップS18において、当該車輪WH**のBS検知フラグFlagBS**を「1」に設定する。これにより、低スリップ率でのブレーキングスティフネスBS**が「検知済み」とされる。
続いて、ブレーキECU10は、ステップS19において、上記のように算出した低スリップ率でのブレーキングスティフネスBS**の値を、初回ブレーキングスティフネスBSfirst**として記憶する(BSfirst**←BS**)。この初回ブレーキングスティフネスBSfirst**は、後述するブレーキングスティフネスBS**の補正処理に利用される。
続いて、ブレーキECU10は、ステップS20において、加速度センサ60により検出される現時点の前後加速度Gxと横加速度Gyとを読み込み、前後加速度Gxの値を低スリップ率時前後加速度GxTmp**の値として記憶し、横加速度Gyの値を低スリップ率時横加速度GyTmp**の値として記憶する(GxTmp**←Gx,GyTmp**←Gy)。
続いて、ブレーキECU10は、ステップS21において、次式(19)に示すように、スリップ率速度基準値dSref**/dtを演算する。
dSref**/dt=(dFxc**/dt)/BS** ・・・(19)
dFxc**/dtは、現時点における制動力Fxc**の変化する速度、即ち、制動力速度を表す。例えば、ブレーキECU10は、直近の所定期間における制動力Fxc**を記憶し、この制動力Fxc**の単位時間あたりの変化量に基づいて制動力速度dFxc**/dtを演算する。このようにして、スリップ率速度基準値dSref**/dtは、現時点における制動力速度dFxc**/dtをブレーキングスティフネスBS**で除算することにより算出される。また、式(19)におけるBS**は、ステップS17において演算されたブレーキングスティフネスBS**であるが、後述するように、BS補正処理によって補正された場合には、補正されたブレーキングスティフネスBS**が用いられる。
dSref**/dt=(dFxc**/dt)/BS** ・・・(19)
dFxc**/dtは、現時点における制動力Fxc**の変化する速度、即ち、制動力速度を表す。例えば、ブレーキECU10は、直近の所定期間における制動力Fxc**を記憶し、この制動力Fxc**の単位時間あたりの変化量に基づいて制動力速度dFxc**/dtを演算する。このようにして、スリップ率速度基準値dSref**/dtは、現時点における制動力速度dFxc**/dtをブレーキングスティフネスBS**で除算することにより算出される。また、式(19)におけるBS**は、ステップS17において演算されたブレーキングスティフネスBS**であるが、後述するように、BS補正処理によって補正された場合には、補正されたブレーキングスティフネスBS**が用いられる。
スリップ率速度基準値dSref**/dtは、目標スリップ率設定ルーチンの起動直後にステップS13にて演算されるが、その後、このステップS21の演算処理によって変更される。従って、ステップS21の演算処理が実施された以降においては、ステップS14、および、後述するステップS15における判定処理は、上記の式(19)で算出されたスリップ率速度基準値dSref**/dtが用いられる。
続いて、ブレーキECU10は、ステップS14において、ステップS21で演算されたスリップ率速度基準値dSref**/dtにスリップ率速度ノイズオフセット値dSnを加算した値((dSref**/dt)+dSn)を算出し、現時点のスリップ率速度dSc**/dtが、値((dSref**/dt)+dSn)よりも大きいか否かについて判定する。現時点のスリップ率速度dSc**/dtが、値((dSref**/dt)+dSn)以下である場合(S14:No)には、ブレーキECU10は、その処理をステップS15に進める。
ブレーキECU10は、ステップS15において、本ルーチンにおける演算対象となっている前輪WHF*のスリップ率速度dScF*/dtが、値((dSrefF*/dt)−dSn)よりも小さいか否かについて判定する。この判定処理は、ブレーキングスティフネスBS**の補正条件が成立したか否かについて判定する処理である。ブレーキECU10は、ブレーキングスティフネスBS**の補正条件が成立しない場合(S15:No)、目標スリップ率設定ルーチンを一旦終了する。
ブレーキECU10は、こうした処理を繰り返し、ブレーキングスティフネスBSの補正条件が成立せずに(S15:No)、現時点のスリップ率速度dSc**/dtが、値((dSref**/dt)+dSn)よりも大きくなったと判定した場合(S14:Yes)、その処理をステップS22に進める。
ブレーキECU10は、ステップS22において、目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**が「0」であるか否かについて判定する。目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**は、目標スリップ率Starget**が設定されているか否かを表すフラグ信号であって、「1」により目標スリップ率Starget**が設定済みであることを表し、「0」により目標スリップ率Starget**が設定されていないことを表す。
目標スリップ率設定ルーチンの起動時においては、目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**は「0」に設定されている。従って、ブレーキECU10は、ステップS22において、「Yes」と判定し、その処理をステップS23に進める。ブレーキECU10は、ステップS23において、目標スリップ率Starget**を演算する。目標スリップ率Starget**は、次式(20)に示すように、現時点のスリップ率Sc**にμピークスリップ率オフセットSpを加算して算出される。
Starget**=Sc**+Sp ・・・(20)
Starget**=Sc**+Sp ・・・(20)
こうして目標スリップ率Starget**が算出されると、ブレーキECU10は、当該車輪WH**のABS制御を開始する。ABS制御が開始されると、スリップ率Sc**が目標スリップ率Starget**に追従するように、ブレーキアクチュエータ30の作動が制御される。
ブレーキECU10は、目標スリップ率Starget**を算出してABS制御を開始すると、ステップS24において、当該車輪WH**の目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**を「1」に設定する。これにより、目標スリップ率Starget**が設定済みとされる。
ブレーキECU10は、ステップS24の処理を実施すると、目標スリップ率設定ルーチンを一旦終了する。ブレーキECU10は、所定の演算周期で、演算対象となる車輪を切り替えながら目標スリップ率設定ルーチンを繰り返す。この時点では、目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**が「1」に設定されている車輪については、ステップS23の判定は「No」となり、目標スリップ率Starget**は、変更されない。つまり、スリップ率速度dSc**/dtが、値((dSref**/dt)+dSn)を超えたと最初に判定されたタイミング(S14:Yes)で、目標スリップ率Starget**が算出されてABS制御が開始され、その後は、その目標スリップ率Starget**を使って、ABS制御が継続される。従って、値((dSref**/dt)+dSn)は、ABS制御を開始するか否かを判定するための閾値、つまり、スリップ率速度閾値である。以下、値((dSref**/dt)+dSn)をスリップ率速度閾値と呼ぶこともある。尚、ABS制御が開始された後は、ブレーキングスティフネスBS**は補正されないようになっている。
次に、ABS制御が開始される前(つまり、スリップ率速度dSc**/dtがスリップ率速度閾値((dSref**/dt)+dSn)よりも大ききなる前)に、ブレーキングスティフネスBSの補正条件が成立した場合(S15:Yes)について説明する。
ブレーキECU10は、ABS制御が開始される前に、ブレーキングスティフネスBSの補正条件が成立した場合、つまり、演算対象となる前輪WHF*のスリップ率速度dScF*/dtが、値((dSrefF*/dt)−dSn)よりも小さくなるとステップS100のBS補正処理(図3)を実施する。
制動時には、車両の荷重が前方に移動し、旋回時には、車両の荷重が旋回外側に移動する。荷重が増加した車輪では、スリップ率速度(dSc/dt)が低下する。従って、ステップS15の判定処理は、所定の荷重増加が発生したか否かについて判定する処理である。この場合、所定の荷重増加が発生したと判定された(S15:Yes)車輪、つまり、現時点において目標スリップ率設定ルーチンで演算対象となっている前輪WHF*が、荷重増加量(=荷重増加傾向)の大きい側の前輪となる。
荷重が変化した場合には、ブレーキングスティフネスBSも変化する。そこで、前輪WHF*においてスリップ率速度の低下が検出されたとき(荷重増加が検出されたとき)、4輪のブレーキングスティフネスBS**の補正処理が行われる。
荷重が増加した車輪においては、スリップ率と制動力との関係は線形領域に入っていると考えられ、現時点の制動力をスリップ率で除算することによりブレーキングスティフネスBSを精度よく算出することができる。一方、荷重が低下した車輪については、スリップ率と制動力との関係が非線形領域に入っているおそれがあるため、そのように算出したブレーキングスティフネスBSを、スリップ率速度閾値を決める適正なブレーキングスティフネスBSとして採用することができない。
そこで、BS補正処理では、左右前輪のうち荷重の増加量の大きい側の車輪(現時点において目標スリップ率設定ルーチンで演算対象となっている前輪WHF*:以下、基準車輪と呼ぶ)については、現時点における制動力とスリップ率とを再度検出して、現時点の制動力をスリップ率で除算することにより最新のブレーキングスティフネスBSが再演算される。それと同時に(今回の目標スリップ率設定ルーチン内で)、基準車輪以外の車輪については、基準車輪のブレーキングスティフネスBSの補正量(ブレーキングスティフネスBSの変化量)に基づいて以下のようにブレーキングスティフネスBSが演算される。基準車輪は、本発明における第1車輪に相当する。
<BS補正ルーチン>
図3は、目標スリップ率設定ルーチンに組み込まれたBS補正処理(BS補正ルーチン)を表すフローチャートである。BS補正ルーチンが開始されると、ブレーキECU10は、ステップS101において、基準車輪WHF*のブレーキングスティフネスBSFLを再演算する。基準車輪WHF*のブレーキングスティフネスBSF*は、次式(21)に示すように、現時点における基準車輪WHF*の制動力FxcF*を、現時点の基準車輪WHF*のスリップ率ScF*で除算することにより算出される。
BSF*=FxcF*/ScF* ・・・(21)
従って、最新の基準車輪WHF*のブレーキングスティフネスBSF*が演算される。このブレーキングスティフネスBSF*は、基準車輪WHF*における補正された後のブレーキングスティフネスBSを表す。
図3は、目標スリップ率設定ルーチンに組み込まれたBS補正処理(BS補正ルーチン)を表すフローチャートである。BS補正ルーチンが開始されると、ブレーキECU10は、ステップS101において、基準車輪WHF*のブレーキングスティフネスBSFLを再演算する。基準車輪WHF*のブレーキングスティフネスBSF*は、次式(21)に示すように、現時点における基準車輪WHF*の制動力FxcF*を、現時点の基準車輪WHF*のスリップ率ScF*で除算することにより算出される。
BSF*=FxcF*/ScF* ・・・(21)
従って、最新の基準車輪WHF*のブレーキングスティフネスBSF*が演算される。このブレーキングスティフネスBSF*は、基準車輪WHF*における補正された後のブレーキングスティフネスBSを表す。
更に、ブレーキECU10は、基準車輪WHF*のブレーキングスティフネスBSF*の変化量ΔBSF*についても演算する。変化量ΔBSF*は、次式(22)に示すように、今回演算した基準車輪WHF*のブレーキングスティフネスBSF*と、ステップS19で記憶した初回ブレーキングスティフネスBSfirstF*との差分値(BSFL−BSfirstF*)により求められる。
ΔBSF*=BSF*−BSfirstF* ・・・(22)
ΔBSF*=BSF*−BSfirstF* ・・・(22)
続いて、ブレーキECU10は、ステップS102において、加速度センサ60により検出される現時点の前後加速度Gxと横加速度Gyとを読み込み、基準車輪WHF*における前後加速度差分値ΔGxF*と横加速度差分値ΔGyF*とを演算する。
前後加速度差分値ΔGxF*は、次式(23)に示すように、ステップS20で記憶した基準車輪WHF*の低スリップ率時前後加速度GxTmpF*から現時点の前後加速度Gx(検出値)を減算することによって算出される。また、横加速度差分値ΔGyF*は、次式(24)に示すように、ステップS20で記憶した基準車輪WHF*の低スリップ率時横加速度GyTmpF*から現時点の横加速度Gy(検出値)を減算することによって算出される。
ΔGxF*=GxTmpF*−Gx ・・・(23)
ΔGyF*=GyTmpF*−Gy ・・・(24)
ΔGxF*=GxTmpF*−Gx ・・・(23)
ΔGyF*=GyTmpF*−Gy ・・・(24)
続いて、ブレーキECU10は、ステップS103において、基準車輪WHF*が左前輪WHFLであるか否か、つまり、現時点において目標スリップ率設定ルーチンで演算対象となっている前輪WHF*が左前輪WHFLであるか否かについて判定する。
ブレーキECU10は、基準車輪WHF*が左前輪WHFLである場合(S103:Yes)、その処理をステップS110に進めて、左前輪WHFLを基準車輪としたブレーキングスティフネスBSの補正処理(左前輪基準BS補正処理)を実施する。一方、基準車輪WHF*が右前輪WHFRである場合(S103:No)、その処理をステップS120に進めて、右前輪WHFRを基準車輪としたブレーキングスティフネスBSの補正処理(右前輪基準BS補正処理)を実施する。
<左前輪基準BS補正ルーチン>
次に、ステップS110の左前輪基準BS補正処理について説明する。図4は、左前輪基準BS補正処理(左前輪基準BS補正ルーチン)を表すフローチャートである。左前輪基準BS補正ルーチンが開始されると、ブレーキECU10は、ステップS111において、ステップS102で算出した前後加速度差分値ΔGxFLが正の値であるか否かについて判定する。車両の減速度が増加した場合(ステップS17でブレーキングスティフネスBSFLを最初に演算したときに比べて車両の減速度が増加した場合)には、「Yes」と判定される。この場合には、車両の荷重は左方だけでなく前方にも移動している。
次に、ステップS110の左前輪基準BS補正処理について説明する。図4は、左前輪基準BS補正処理(左前輪基準BS補正ルーチン)を表すフローチャートである。左前輪基準BS補正ルーチンが開始されると、ブレーキECU10は、ステップS111において、ステップS102で算出した前後加速度差分値ΔGxFLが正の値であるか否かについて判定する。車両の減速度が増加した場合(ステップS17でブレーキングスティフネスBSFLを最初に演算したときに比べて車両の減速度が増加した場合)には、「Yes」と判定される。この場合には、車両の荷重は左方だけでなく前方にも移動している。
前後加速度差分値ΔGxFLが正の値である場合(S111:Yes)、ブレーキECU10は、その処理をステップS112に進める。ブレーキECU10は、ステップS112において、荷重移動前後左右比nyxを演算する。荷重移動前後左右比nyxは、前後荷重移動量に対する左右荷重移動量の比(左右荷重移動量/前後荷重移動量)を表すもので、次式(25)に示すように算出される。
nyx=(|ΔGyFL/ΔGxFL|)・(L・φf/D) ・・・(25)
φfは、ロール剛性配分比を表す予め設定された値である。Dは車両のトレッド、Lは車両のホイールベースである。
nyx=(|ΔGyFL/ΔGxFL|)・(L・φf/D) ・・・(25)
φfは、ロール剛性配分比を表す予め設定された値である。Dは車両のトレッド、Lは車両のホイールベースである。
続いて、ブレーキECU10は、ステップS113において、左右方向の荷重移動による基準車輪WHFLのブレーキングスティフネスBSの変化成分であるBS左右変化量ΔBSLatFL、および、前後方向の荷重移動による左前輪WHFLのブレーキングスティフネスBSの変化成分であるBS前後変化量ΔBSLonFLを演算する。BS左右変化量ΔBSLatFLは、次式(26)に示すように算出され、BS前後変化量ΔBSLonFLは次式(27)に示すように算出される。
ΔBSLatFL=ΔBSFL・(nyx/(1+nyx)) ・・・(26)
ΔBSLonFL=ΔBSFL−ΔBSLatFL ・・・(27)
ΔBSLatFL=ΔBSFL・(nyx/(1+nyx)) ・・・(26)
ΔBSLonFL=ΔBSFL−ΔBSLatFL ・・・(27)
また、前後加速度差分値ΔGxFLが正の値でない場合(S111:No)、ブレーキECU10は、その処理をステップS114に進める。例えば、車両の減速度が減少した場合(ステップS18でブレーキングスティフネスBSFLを演算したときに比べて車両の減速度が減少した場合)には、ステップS111において「No」と判定され、ステップS114の処理が実施される。
ブレーキECU10は、ステップS114において、BS左右変化量ΔBSLatFLおよびBS前後変化量ΔBSLonFLを演算する。BS左右変化量ΔBSLatFLは、次式(28)のように算出される。
ΔBSLatFL=ΔBSFL ・・・(28)
BS前後変化量ΔBSLonFLは、次式(29)に示すように算出される。
ΔBSLonFL=0 ・・・(29)
従って、ステップS102において演算された基準車輪WHFLのブレーキングスティフネスBSFLの変化量が、そのままBS左右変化量ΔBSLatFLに設定され、BS前後変化量ΔBSLonFLはゼロに設定される。
ΔBSLatFL=ΔBSFL ・・・(28)
BS前後変化量ΔBSLonFLは、次式(29)に示すように算出される。
ΔBSLonFL=0 ・・・(29)
従って、ステップS102において演算された基準車輪WHFLのブレーキングスティフネスBSFLの変化量が、そのままBS左右変化量ΔBSLatFLに設定され、BS前後変化量ΔBSLonFLはゼロに設定される。
ブレーキECU10は、ステップS113あるいはステップS114においてBS左右変化量ΔBSLatFLおよびBS前後変化量ΔBSLonFLを演算すると、その処理をステップS115に進める。ブレーキECU10は、ステップS115において、右前輪WHFRのブレーキングスティフネスBSFR、左後輪WHRLのブレーキングスティフネスBSRL、右後輪WHRRのブレーキングスティフネスBSRRを演算する。このステップS115の処理も、左前輪WHFLを演算対象とした目標スリップ率設定ルーチン内で実施される。
右前輪WHFRのブレーキングスティフネスBSFRは、次式(30)に示すように、右前輪WHFRの初回ブレーキングスティフネスBSfirstFRにBS前後変化量ΔBSLonFLを加算し、更に、BS左右変化量ΔBSLatFLを減算して算出される。
BSFR=BSfirstFR+ΔBSLonFL−ΔBSLatFL ・・・(30)
左後輪WHRLのブレーキングスティフネスBSRLは、次式(31)に示すように、左後輪WHRLの初回ブレーキングスティフネスBSfirstRLからBS前後変化量ΔBSLonFLを減算し、更に、BS左右変化量ΔBSLatFLを加算して算出される。
BSRL=BSfirstRL−ΔBSLonFL+ΔBSadjLatFL ・・・(31)
右後輪WHRRのブレーキングスティフネスBSRRは、次式(32)に示すように、右後輪WHRRの初回ブレーキングスティフネスBSfirstRRからBS前後変化量ΔBSLonFLを減算し、更に、BS左右変化量ΔBSLatFLを減算して算出される。
BSRR=BSfirstRR−ΔBSLonFL−ΔBSLatFL ・・・(32)
BSFR=BSfirstFR+ΔBSLonFL−ΔBSLatFL ・・・(30)
左後輪WHRLのブレーキングスティフネスBSRLは、次式(31)に示すように、左後輪WHRLの初回ブレーキングスティフネスBSfirstRLからBS前後変化量ΔBSLonFLを減算し、更に、BS左右変化量ΔBSLatFLを加算して算出される。
BSRL=BSfirstRL−ΔBSLonFL+ΔBSadjLatFL ・・・(31)
右後輪WHRRのブレーキングスティフネスBSRRは、次式(32)に示すように、右後輪WHRRの初回ブレーキングスティフネスBSfirstRRからBS前後変化量ΔBSLonFLを減算し、更に、BS左右変化量ΔBSLatFLを減算して算出される。
BSRR=BSfirstRR−ΔBSLonFL−ΔBSLatFL ・・・(32)
このようにして演算されたブレーキングスティフネスBS**が、補正されたブレーキングスティフネスBS**である。尚、この演算時に、初回ブレーキングスティフネスBSfirst**が記憶されていない車輪が存在している場合には、ブレーキECU10は、その車輪については上記のBS補正演算を実施しない
ブレーキECU10は、ステップS115の処理を実施すると、左前輪基準BS補正ルーチンを抜け、メインルーチン(目標スリップ率設定ルーチン)に戻る。この場合、目標スリップ率設定ルーチンは、一旦終了される。そして、左前輪の次の順番の車輪を演算対象とした目標スリップ率設定ルーチンが再開される。この目標スリップ率設定ルーチンが再開されるときには、補正された後のブレーキングスティフネスBSを使った目標スリップ率設定ルーチンが実施される。
<右前輪基準BS補正ルーチン>
次に、ステップS120の右前輪基準BS補正処理について説明する。図5は、右前輪基準BS補正処理(右前輪基準BS補正ルーチン)を表すフローチャートである。右前輪基準BS補正ルーチンは、上述した左前輪基準BS補正ルーチンにおける基準車輪を右前輪WHFRとしたもので、考え方は左前輪基準BS補正ルーチンと同じである。右前輪基準BS補正ルーチンが開始されると、ブレーキECU10は、ステップS121において、ステップS102で算出した前後加速度差分値ΔGxFRが正の値であるか否かについて判定する。車両の減速度が増加した場合(ステップS17でブレーキングスティフネスBSFRを演算したときに比べて車両の減速度が増加した場合)には、「Yes」と判定される。この場合には、車両の荷重は右方だけでなく前方にも移動している。
次に、ステップS120の右前輪基準BS補正処理について説明する。図5は、右前輪基準BS補正処理(右前輪基準BS補正ルーチン)を表すフローチャートである。右前輪基準BS補正ルーチンは、上述した左前輪基準BS補正ルーチンにおける基準車輪を右前輪WHFRとしたもので、考え方は左前輪基準BS補正ルーチンと同じである。右前輪基準BS補正ルーチンが開始されると、ブレーキECU10は、ステップS121において、ステップS102で算出した前後加速度差分値ΔGxFRが正の値であるか否かについて判定する。車両の減速度が増加した場合(ステップS17でブレーキングスティフネスBSFRを演算したときに比べて車両の減速度が増加した場合)には、「Yes」と判定される。この場合には、車両の荷重は右方だけでなく前方にも移動している。
前後加速度差分値ΔGxFRが正の値である場合(S121:Yes)、ブレーキECU10は、その処理をステップS122に進めて、荷重移動前後左右比nyxを演算する。荷重移動前後左右比nyxは、次式(33)に示すように算出される。
nyx=(|ΔGyFR/ΔGxFR|)・(L・φf/D) ・・・(33)
nyx=(|ΔGyFR/ΔGxFR|)・(L・φf/D) ・・・(33)
続いて、ブレーキECU10は、ステップS123において、左右方向の荷重移動による基準車輪WHFRのブレーキングスティフネスBSの変化成分であるBS左右変化量ΔBSLatFR、および、前後方向の荷重移動による基準車輪WHFRのブレーキングスティフネスBSの変化成分であるBS前後変化量ΔBSLonFRを演算する。BS左右変化量ΔBSLatFRは、次式(34)に示すように算出され、BS前後変化量ΔBSLonFRは次式(35)に示すように算出される。
ΔBSLatFR=ΔBSFR・(nyx/(1+nyx)) ・・・(34)
ΔBSLonFR=ΔBSFR−ΔBSLatFR ・・・(35)
ΔBSLatFR=ΔBSFR・(nyx/(1+nyx)) ・・・(34)
ΔBSLonFR=ΔBSFR−ΔBSLatFR ・・・(35)
また、前後加速度差分値ΔGxFRが正の値でない場合(S121:No)、ブレーキECU10は、その処理をステップS124に進める。例えば、車両の減速度が減少した場合(ステップS17でブレーキングスティフネスBSFLを演算したときに比べて車両の減速度が減少した場合)には、ステップS121において「No」と判定され、ステップS124の処理が実施される。
ブレーキECU10は、ステップS124において、BS左右変化量ΔBSLatFRおよびBS前後変化量ΔBSLonFRを演算する。BS左右変化量ΔBSLatFRは、次式(36)のように算出され、BS前後変化量ΔBSLonFRは、次式(37)に示すように算出される。
ΔBSLatFR=ΔBSFR ・・・(36)
ΔBSLonFR=0 ・・・(37)
ΔBSLatFR=ΔBSFR ・・・(36)
ΔBSLonFR=0 ・・・(37)
ブレーキECU10は、ステップS123あるいはステップS124においてBS左右変化量ΔBSLatFRおよびBS前後変化量ΔBSLonFRを演算すると、その処理をステップS125に進めて、左前輪WHFLのブレーキングスティフネスBSFL、左後輪WHRLのブレーキングスティフネスBSRL、右後輪WHRRのブレーキングスティフネスBSRRを演算する。このステップS125の処理も、右前輪WHFRを演算対象とした目標スリップ率設定ルーチン内で実施される。
左前輪WHFLのブレーキングスティフネスBSFLは、次式(38)に示すように算出され、左後輪WHRLのブレーキングスティフネスBSRLは、次式(39)に示すように算出され、右後輪WHRRのブレーキングスティフネスBSRRは、次式(40)に示すように算出される。
BSFL=BSfirstFL+ΔBSLonFR−ΔBSLatFR ・・・(38)
BSRL=BSfirstRL−ΔBSLonFR−ΔBSLatFR ・・・(39)
BSRR=BSfirstRR−ΔBSLonFR+ΔBSLatFR ・・・(40)
BSFL=BSfirstFL+ΔBSLonFR−ΔBSLatFR ・・・(38)
BSRL=BSfirstRL−ΔBSLonFR−ΔBSLatFR ・・・(39)
BSRR=BSfirstRR−ΔBSLonFR+ΔBSLatFR ・・・(40)
このようにして演算されたブレーキングスティフネスBS**が、補正されたブレーキングスティフネスBS**である。尚、この演算時に、初回ブレーキングスティフネスBSfirst**が記憶されていない車輪が存在している場合には、ブレーキECU10は、その車輪については上記のBS補正演算を実施しない
ブレーキECU10は、ステップS125の処理を実施すると、右前輪基準BS補正ルーチンを抜け、メインルーチン(目標スリップ率設定ルーチン)に戻る。この場合、目標スリップ率設定ルーチンは、一旦終了される。そして、右前輪の次の順番の車輪を演算対象とした目標スリップ率設定ルーチンが再開される。この目標スリップ率設定ルーチンが再開されるときには、補正された後のブレーキングスティフネスBSを使った目標スリップ率設定ルーチンが実施される。
ABS制御は、予め設定された終了条件が成立するまで継続される。終了条件は、例えば、ブレーキペダル操作に応じて設定されるドライバーの要求制動力が、ブレーキアクチュエータ30によって発生している制動力以下となること等、車輪WHがロックするおそれがなくなったと判断できる条件に設定されている。また、ABS制御が終了した場合には、目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**およびBS検知フラグFlagBS**は、リセットされる(「1」から「0」に切り替えられる)。
<フラグ設定ルーチン>
ブレーキECU10は、上記の目標スリップ率設定ルーチン(図2)と並行して、図6に示すフラグ設定ルーチンを所定の短い演算周期にて実施する。ABS制御においては、一旦、目標スリップ率Starget**が設定されると、その目標スリップ率Starget**を継続的に使ってスリップ率が制御される。フラグ設定ルーチンは、ABS制御が実施されている途中で、上述したBS検知フラグFlagBS**および目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**をリセットすることにより、目標スリップ率設定ルーチンで目標スリップ率Starget**が再演算されるようにするための処理である。
ブレーキECU10は、上記の目標スリップ率設定ルーチン(図2)と並行して、図6に示すフラグ設定ルーチンを所定の短い演算周期にて実施する。ABS制御においては、一旦、目標スリップ率Starget**が設定されると、その目標スリップ率Starget**を継続的に使ってスリップ率が制御される。フラグ設定ルーチンは、ABS制御が実施されている途中で、上述したBS検知フラグFlagBS**および目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**をリセットすることにより、目標スリップ率設定ルーチンで目標スリップ率Starget**が再演算されるようにするための処理である。
フラグ設定ルーチンが開始されると、ブレーキECU10は、ステップS31において、目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**が「1」に設定されているか否かについて判定する。つまり、ABS制御が実施されているか否かについて判定する。目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**が「0」に設定されている場合(S31:No)、ブレーキECU10は、フラグ設定ルーチンを一旦終了する。ブレーキECU10は、こうした処理を繰り返し、目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**が「1」に設定されていると判定した場合、その処理をステップS32に進める。
ブレーキECU10は、ステップS32において、リセット判定閾値Sreset**を演算する。リセット判定閾値Sressetは、次式(41)に示すように、現時点における目標スリップ率Starget**から予め設定された設定値Sdownだけ減算した値に設定される。
Sreset**=Starget**−Sdown ・・・(41)
Sreset**=Starget**−Sdown ・・・(41)
続いて、ブレーキECU10は、ステップS33において、現時点におけるスリップ率Sc**がリセット判定閾値Sreset**よりも小さいか否かについて判定する。スリップ率Sc**がリセット判定閾値Sreset**以上である場合(S33:No)、ブレーキECU10は、フラグ設定ルーチンを一旦終了する。
ブレーキECU10は、こうした処理を繰り返し、現時点におけるスリップ率Sc**がリセット判定閾値Sreset**よりも小さくなったことを検知すると(S33:Yes)、その処理をステップS34に進める。
ブレーキECU10は、ステップS34において、BS検知フラグFlagBS**および目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**をリセットする。つまり、BS検知フラグFlagBS**および目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**をそれぞれ「0」に設定する。ブレーキECU10は、ステップS34の処理を実施すると、フラグ設定ルーチンを一旦終了する。
BS検知フラグFlagBS**および目標スリップ率検知フラグFlagSlipDetec**がリセットされると、目標スリップ率設定ルーチン(図2)においては、ステップS11で「No」と判定される。従って、上述したステップS12からの処理が再開される。これにより、新たなブレーキングスティフネスBS**が演算され(S17)、そのブレーキングスティフネスBS**と現時点の制動力速度dFxc**/dtとに基づいて、スリップ率速度基準値dSref**/dtが演算される(S21)。こうして、ABS制御の実施中において、目標スリップ率Starget**が更新される。
以上説明した本実施形態のブレーキ制御装置1によれば、以下の作用効果を奏する。
1.制動力の変化速度dFxc**/dtをブレーキングスティフネスBS**で除算してスリップ率速度基準値dSref**/dtが算出され、このスリップ率速度基準値dSref**/dtにスリップ率速度ノイズオフセット値dSnを加算した値がスリップ率速度閾値に設定される。そして、スリップ率速度dSc**/dtがスリップ率速度閾値(dSref**/dt+dSn)を超えたときに、ABS制御が開始される。従って、ABS制御が開始されるときのスリップ率のバラツキを低減することができる。つまり、ドライバーのブレーキペダル操作速度によって、ABS制御が開始されるときのスリップ率がばらついてしまうことを抑制することができる。これにより、ABS制御を良好に実施することができる。
1.制動力の変化速度dFxc**/dtをブレーキングスティフネスBS**で除算してスリップ率速度基準値dSref**/dtが算出され、このスリップ率速度基準値dSref**/dtにスリップ率速度ノイズオフセット値dSnを加算した値がスリップ率速度閾値に設定される。そして、スリップ率速度dSc**/dtがスリップ率速度閾値(dSref**/dt+dSn)を超えたときに、ABS制御が開始される。従って、ABS制御が開始されるときのスリップ率のバラツキを低減することができる。つまり、ドライバーのブレーキペダル操作速度によって、ABS制御が開始されるときのスリップ率がばらついてしまうことを抑制することができる。これにより、ABS制御を良好に実施することができる。
2.スリップ率速度dSc**/dtがスリップ率速度閾値(dSref**/dt+dSn)を超えたとき、そのときのスリップ率Sc**にμピークスリップ率オフセットSpを加算して目標スリップ率Starget**(=Sc**+Sp)が算出される。従って、μピークスリップ率に近い適正な目標スリップ率Starget**を設定することができ、一層良好なABS制御を実施することができる。
3.ブレーキングスティフネスBS**が演算された後、前輪WHF*のスリップ率速度dScF*/dtが所定値(dSrefF*/dt−dSn)よりも低下したときに、4輪のブレーキングスティフネスBS**が補正される。従って、荷重移動後のブレーキングスティフネスBS**を再度取得することができる。そして、補正されたブレーキングスティフネスBS**と現時点の車輪の制動力の変化速度dFxc**/dtとに基づいて、スリップ率速度閾値が再演算される。従って、一層適正なスリップ率速度閾値を演算することができる。
4.ブレーキングスティフネスBS**の補正に際して、荷重増加量の大きい側の前輪である基準車輪については、現時点におけるFxcF*とスリップ率ScF*とに基づいて新たなブレーキングスティフネスBSF*が演算される。一方、基準車輪以外の3車輪については、基準車輪のブレーキングスティフネスBSF*の補正によるブレーキングスティフネスの変化量ΔBSF*と、車両の減速運動による前後方向の加速度変化量|ΔGx|と車両の旋回運動による左右方向の加速度変化量|ΔGy|とのバランスに応じた配分比とに基づいて、最初に取得されたブレーキングスティフネスBS**が補正される。これにより、一層適正なスリップ率速度閾値を演算することができ、この結果、ABS制御を良好に実施することができる。
5.ABS制御が開始された後に、予め設定されたリセット条件(Sc**<(Starget**−Sdown))が成立した場合には、再度、ブレーキングスティフネスBS**が演算され、そのブレーキングスティフネスBS**と制動力の変化速度dFxc**/dtとに基づいてスリップ率速度閾値(dSref**/dt+dSn)が算出される。そして、スリップ率速度dSc**/dtがスリップ率速度閾値(dSref**/dt+dSn)を超えたときの、スリップ率Sc**に基づいて目標スリップ率Starget**が再設定される。従って、目標スリップ率Starget**を適正に更新することができる。
以上、本実施形態に係るブレーキ制御装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、ABS制御中に、リセット条件が成立した場合に目標スリップ率を再設定する構成であるが、必ずしもそのようにする必要は無い。つまり、フラグ設定ルーチンを実施しない構成であってもよい。
また、本実施形態においては、ブレーキングスティフネスBSの補正条件は、スリップ率速度が閾値よりも低下すること(S16:Yes)であり、その補正条件が成立した前輪が基準車輪(第1車輪)に設定されるが、必ずしも、そのようにする必要はない。例えば、荷重センサにより車輪に働く荷重を検出して、ブレーキングスティフネス取得後の荷重の増加量が閾値を超えた前輪が検出されたときに補正条件が成立したと判定し、この補正条件が成立した前輪を基準車輪(第1車輪)とするようにしてもよい。
1…ブレーキ制御装置、10…ブレーキECU、20…油圧式摩擦ブレーキ機構、30…ブレーキアクチュエータ、40…車輪速センサ、50…ブレーキストロークセンサ、60…加速度センサ、BS…ブレーキングスティフネス、Sc…スリップ率、dSc/dt…スリップ率速度、Sp…ピークスリップ率オフセット、Starget…目標スリップ率、Fxc…制動力、dFxc/dt…制動力速度、WH…車輪、μ…摩擦係数、nyx…荷重移動前後左右比、Gx…前後加速度、Gy…横加速度。
Claims (1)
- 車輪のスリップ率、および、前記スリップ率の変化する速度であるスリップ率速度を検出するスリップ検出手段と、
前記スリップ率速度がスリップ率速度閾値を超えたときに、前記車輪のスリップ率が目標スリップ率に追従するように車輪の制動力を調整する制御であるABS制御を開始するABS制御手段と、
車輪のスリップ率が所定の低スリップ率範囲に入っているという状況における前記車輪のスリップ率と車輪の制動力との関係を表すブレーキングスティフネスを取得するブレーキングスティフネス取得手段と、
前記ブレーキングスティフネスと、現時点における前記車輪の制動力の変化速度とに基づいて、前記スリップ率速度閾値を演算するスリップ率速度閾値演算手段と、
前記ブレーキングスティフネス取得手段によって前記ブレーキングスティフネスが取得された後、予め設定された補正条件が成立したタイミングで前記ブレーキングスティフネスを補正するブレーキングスティフネス補正手段と
を備えた車両のブレーキ制御装置であって、
前記ブレーキングスティフネス補正手段は、
左右前輪のうち荷重の増加傾向の大きい側の車輪である第1車輪について、現時点における前記制動力と前記スリップ率とを取得して、その取得した前記制動力と前記スリップ率とに基づいて前記ブレーキングスティフネスを演算することにより、前記ブレーキングスティフネス取得手段によって取得された前記ブレーキングスティフネスを補正する第1車輪ブレーキングスティフネス補正手段と、
前記第1車輪以外の車輪である第2車輪について、前記第1車輪のブレーキングスティフネスの補正による前記ブレーキングスティフネスの変化量と、車両の減速運動による前後方向の荷重移動量と車両の旋回運動による左右方向の荷重移動量とのバランスに応じた配分比とに基づいて、前記ブレーキングスティフネス取得手段によって取得されたブレーキングスティフネスを補正する第2車輪ブレーキングスティフネス補正手段と
を備えた車両のブレーキ制御装置。
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