以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
なお、以下の説明において、医療用器具の手元側を「基端側」、生体内へ挿入される側を「先端側」と称す。
図1〜3に示す第1実施形態に係る医療用器具10は、例えばPTCA用のバルーンカテーテルや、ステントを縮径状態で狭窄部まで搬送し、狭窄部にて拡径、留置して狭窄部を拡張維持するためのバルーンカテーテル等のバルーンが、生体管腔内で拡張した状態で収縮不能となった際に、バルーンを傷つけて収縮させて、バルーンカテーテルを生体内から回収可能とするための器具である。
医療用器具10は、生体管腔内へ挿入可能な長尺なシャフト20と、シャフト20の先端に固着された誘導部30と、シャフト20(または誘導部30)内に収容可能であってバルーンカテーテルのバルーンを傷つけるための鋭利部40と、鋭利部40を移動させるための移動用バルーン50と、バルーンカテーテルを誘導部30内で固定するための固定用バルーン60と、シャフト20内に配置される内管70と、シャフト20の基端側に設けられるハブ80とを備えている。
シャフト20は、内部に内管70を収容可能なシャフトルーメン23が形成された管体である。シャフトルーメン23は、シャフト20の先端部において誘導部30の内周面側の通路31で開口している。また、シャフト20は、先端部に、移動用バルーン50および鋭利部40を収容可能な収容部21を有している。収容部21は、シャフト20の最先端面で、鋭利部40を突出可能な大きさの先端開口部22で開口しており、かつ誘導部30の通路31内に開口している。先端開口部22は、収容部21の内径よりも小さく、移動用バルーン50の抜け落ちを抑制するとともに、鋭利部40が直線的に突出するように誘導する役割を果たす。
シャフト20の軸線X方向の長さは、特に限定されず、適用する対象となるバルーンカテーテルに応じて適宜設定されることが好ましいが、例えば、1400〜1500mmである。シャフト20の外径は、特に限定されないが、例えば、1.5〜2.3mmである。
シャフト20の材料は、ある程度の可撓性を有する材料により形成されることが好ましく、そのような材料としては、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオレフィン、熱可塑性フッ素樹脂等である。
また、シャフト20が、複数層で構成されたり、線状体や網状体からなる補強層が設けられてもよい。
誘導部30は、シャフト20の先端に固着されており、軸線Xと直交する断面がC字状となる部材であり、先端側から基端側へ貫通する通路31が形成されるとともに、周方向に非連続となるように先端側から基端側へわたってスリット32が形成されている。スリット32は、誘導部30において固定用バルーン60が設けられる位置に対して反対側の位置(周方向に180度ずれた位置)とは異なる位置(周方向に90度ずれた位置)に形成される。なお、スリット32は、常に開いている形態でなくてもよく、例えば、必要なときにのみ弾性的に変形して開くことが可能な形態でもよい。
誘導部30の軸線Xに沿う方向の長さは、特に限定されないが、例えば10〜50mmである。誘導部30の内径は、特に限定されないが、例えば、0.9〜1.0mmである。誘導部30の外径は、特に限定されないが、例えば、1.5〜2.3mmである。スリット32の幅は、適用する対象となるバルーンカテーテルのシャフトが通過可能である必要があり、バルーンカテーテルに応じて適宜設定されることが好ましいが、例えば、0.4〜0.8mmである。
誘導部30の材料は、バルーンカテーテルを通路31内に収容してバルーンカテーテルに沿ってシャフト20の先端を目的の位置まで誘導することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオレフィン、熱可塑性フッ素樹脂等である。
鋭利部40は、先端部が鋭利な針状の部材であり、移動用バルーン50に固着されている。なお、鋭利部40は、針状ではなく、刃で形成されてもよい。また、鋭利部40の鋭利な部位は、バルーンカテーテルのバルーンを傷つけることが可能な程度に鋭利であればよい。鋭利部40は、移動用バルーン50が収縮された状態において移動用バルーン50とともに収容部21に収容された保護状態となり、移動用バルーン50が拡張することで、先端開口部22を通って収容部21から先端方向へ突出した突出状態となることが可能である(図8参照)。鋭利部40の軸線X方向への長さは、特に限定されないが、例えば、8〜12mmである。鋭利部40の最大外径は、特に限定されないが、例えば0.2mm程度である。なお、保護状態において、鋭利部40は収容部21に完全に収容されて先端開口部22から外部へ全く突出していないことが好ましいが、突出状態における突出量よりも小さければ、鋭利部40が先端開口部22から多少突出してもよい。
鋭利部40の材料は、バルーンカテーテルのバルーンを傷つけることが可能であれば、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼、チタン、Co−Cr合金等である。
移動用バルーン50は、鋭利部40を移動させるためのバルーンであり、収容部21内に収容される袋状の部材である。移動用バルーン50の先端面には、鋭利部40の基端部が固着されている。移動用バルーン50は、基端部が接続用管体51に連通しており、接続用管体51を介して固定用バルーン60と連通している。移動用バルーン50は、基端側の軸線Xに沿って約30〜50%程度の範囲の外周面が、収容部21の内壁面に対して接着剤53により接着されており、収縮した状態において、先端側の部位が基端側の部位の内側へ収容され、先端に固着された鋭利部40が基端方向へ移動して収容部21内に収容された保護状態となる。
接続用管体51は、内部の流路が融着により閉鎖された閉鎖部52を有している。閉鎖部52は、例えば5〜10atm程度で融着した部位が剥がれ、流路が開通するように構成されている。
固定用バルーン60は、バルーンカテーテルを誘導部30内で固定するために拡張および収縮可能な管体である。固定用バルーン60は、誘導部30の通路31の内周面に設けられ、先端側が接続用管体51と連通するように接続用管体51に接合され、基端側が内管70と連通するように内管70に接合されている。固定用バルーン60は、拡張用流体が内部に流入出することで、誘導部30の内周面側から誘導部30の中心軸Yへ向かう方向に沿って拡張および収縮可能である。
内管70は、シャフト20のシャフトルーメン23内に配置され、内部に拡張用流体が流通するための拡張用ルーメン71が形成されている。内管70の先端は、固定用バルーン60と連通するように、固定用バルーン60に接合されている。
移動用バルーン50および固定用バルーン60は、ある程度の可撓性を有する材料により形成されることが好ましく、そのような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。
接続用管体51は、移動用バルーン50および固定用バルーン60と同一の材料によって一体的に形成される。なお、接続用管体51は、移動用バルーン50および固定用バルーン60と異なる材料によって形成されてもよい。
内管70は、固定用バルーン60と同一の材料によって形成される。なお、内管70が設けられなくてもよく、シャフト20のシャフトルーメン23が、拡張用ルーメン71として機能してもよい。
固定用バルーン60の内側壁面には、接続用管体51と連通する部位から内管70と連通する部位まで延びる流路確保用管体61が固着されている。流路確保用管体61は、壁面に複数の開口部が形成されて、網状に形成されている。流路確保用管体61が設けられることで、固定用バルーン60が収縮した状態であっても、内管70と接続用管体51との間の流路が閉鎖されずに確実に確保される。
ハブ80は、シャフト20の基端側に設けられており、内管70の拡張用ルーメン71と連通して拡張用流体を流入出させる基端開口部81を備えている。基端開口部81の内周面は、流体を流入出させるためのシリンジやインデフレータを液密に取り付け可能なルアーテーパ形状で形成されている。
次に、第1実施形態に係る医療用器具10の使用方法について説明する。ここでは、図4に示すように、ラピッドエクスチェンジ型(Rapid exchange type)のバルーンカテーテル200のバルーン250を生体管腔内で拡張させた後に、バルーン250が収縮不能となった場合を例として説明する。
まず、バルーンカテーテル200について説明する。ラピッドエクスチェンジ型のバルーンカテーテル200は、基端側からハブ210、基端シャフト220、中間シャフト230、先端シャフト240、バルーン250および内管シャフト260を備えている。
ハブ210には、金属または一部の樹脂など比較的剛性の高い材質からなる基端シャフト220が、流体を流通可能に連通して接合されている。
基端シャフト220の先端側には、中間シャフト230が流体を流通可能に連通して設けられている。中間シャフト230の先端側には樹脂などの材質からなる比較的剛性の低い先端シャフト240が流体を流通可能に連通して設けられている。先端シャフト240の先端側には、バルーン250の基端部が流体を流通可能に連通して設けられている。
内管シャフト260は、先端シャフト240及びバルーン250の内部を同軸状に貫通している。内管シャフト260の先端部は先端チップ261となっており、先端チップ261はバルーン250の先端部より先端側へ延在している。先端チップ261は、バルーン250の先端部に液密を保った状態で接合されている。内管シャフト260の基端部は、中間シャフト230から先端シャフト240にかけての一部分に設けられたガイドワイヤ開口部262まで延長され、液密を保った状態で接合されている。ガイドワイヤ270は、先端チップ261の先端チップ開口部263を入口とし、ガイドワイヤ開口部202を出口として、内管シャフト260内に挿入可能である。
次に、バルーン250が収縮不能となるメカニズムについて説明する。血管内にバルーンカテーテル200を挿入する前後に、バルーンカテーテル200を引っ張ったり、曲げたりすることにより、バルーン250を拡張するための流体が流通するルーメンが狭くなることがあり、バルーン250が収縮不能となることがある。
例えば、バルーン250は、通常、包装から開封した時点では保護シースにより覆われている。保護シースを外す際にバルーン250と先端シャフト240とが融着されている部分が誤って延伸されると、先端シャフト240の拡張用流体が流通するルーメンが狭くなる。ルーメンが狭くなると、バルーン250を生体管腔内の目的の位置で拡張することができたとしても、バルーン250内の液体を排出できるとは限らず、バルーン250を収縮できなくなる虞がある。
また、バルーン250を目的の位置で拡張させた後に、基端側から基端シャフト220を引っ張るなどの動作によって、バルーン250と先端シャフト240との融着部のみならず、先端シャフト240と内管シャフト260とが融着されている部位や、内部にルーメンが形成されているいずれかの部位で延伸が生じ、拡張用流体が流通するルーメンが狭くなってバルーン250を収縮できなくなる虞がある。
次に、第1実施形態に係る医療用器具10により、バルーン250を収縮させる方法について説明する。
図5に示すように、バルーンカテーテル200を血管内に挿入して、バルーン250を狭窄部などの目的部位で拡張させた後に、バルーン250が収縮不能となった際に、第1実施形態に係る医療用器具10を用いる。
まず、医療用器具10を準備する。医療用器具10は、図1〜3に示すように、移動用バルーン50および固定用バルーン60が収縮し、鋭利部40が収容部21に収容された保護状態にあり、閉鎖部52が融着されて接続用管体51内の流路が閉鎖されている。
次に、バルーンカテーテル200の生体内に挿入されていない基端シャフト220を、医療用器具10の誘導部30のスリット32から、通路31内へ収容する。このとき、誘導部30がシャフト20よりも軸線Xに沿う方向の長さが短いため、バルーンカテーテル200を、スリット32を介して通路31へ容易に収容可能である。また、基端シャフト220をスリット32から誘導部30の通路31へ収容できるため、バルーンカテーテル200の基端シャフト220を切断して軸方向から挿入するように収容する必要がなく、作業性が高い。なお、ガイドワイヤ270は、通路31内へ収容する必要はない。次に、シャフト20の先端部および誘導部30を血管内に挿入し、シャフト20の基端側を把持して押し進める。この際、誘導部30の内側の通路31に基端シャフト220が収容されているため、医療用器具10がバルーンカテーテル200に沿って先端方向へ誘導される。また、ガイドワイヤ270は通路31内に収容されていないため、基端シャフト220およびガイドワイヤ270が干渉し難くなり、医療用器具10を押し進めやすい。なお、誘導部30内に、基端シャフト220に加えてガイドワイヤ270を収容することも可能である。
誘導部30が、基端シャフト220および中間シャフト230を過ぎてガイドワイヤ開口部262まで到達すると、ガイドワイヤ270がガイドワイヤ開口部262から導出されているため、スリット32にガイドワイヤ270を通しつつ、図5に示すように、誘導部30をガイドワイヤ開口部262よりも先端側へ移動させる。このように、誘導部30にスリット32が形成されていることで、ラピッドエクスチェンジ型のバルーンカテーテル200であっても、誘導部30内にガイドワイヤ270を収容することなしに、ガイドワイヤ開口部262よりも先端側へ誘導部30を移動させることができる。この後、さらにシャフト20を押し込み、図6に示すように、シャフト20の先端をバルーン250の基端側に配置する。
次に、ハブ80の基端開口部81に、シリンジまたはインデフレータを取り付ける。この後、シリンジまたはインデフレータから拡張用流体を供給すると、図7に示すように、拡張用流体がハブ80を介して内管70の拡張用ルーメン71を通り、固定用バルーン60に流入して固定用バルーン60が拡張する。このとき、接続用管体51の流路が閉鎖部52により融着されているため、移動用バルーン50内には拡張用流体が流入しない。固定用バルーン60が拡張すると、固定用バルーン60がバルーンカテーテル200の先端シャフト240を誘導部30の内壁面との間に挟んで押圧する。なお、スリット32は、誘導部30において固定用バルーン60が設けられる位置に対して反対側の位置とは異なる位置に形成されているため(図2を参照)、固定用バルーン60により押圧されたバルーンカテーテル200が、スリット32を介して誘導部30の外へ脱落することなく、バルーンカテーテル200を良好に固定できる。
この後、シリンジまたはインデフレータから拡張用流体を供給し続けると、固定用バルーン60内の圧力が上昇し、所定圧力を超えた時点で閉鎖部52が剥がれて接続用管体51の流路が開通する。これにより、図8に示すように、拡張用流体が接続用管体51を介して移動用バルーン50内に流入して、移動用バルーン50が拡張する。移動用バルーン50が拡張すると、移動用バルーン50の先端側の部位が基端側の部位の内側から表裏を反転させるようにして先端方向へ移動し、移動用バルーン50の先端面に固着されている鋭利部40が先端方向へ移動して、収容部21から先端開口部22を介してシャフト20の外部へ突出した突出状態となる。これにより、鋭利部40の先端がバルーン250を傷つけ、バルーン250が破裂して収縮する。このとき、固定用バルーン60によってバルーンカテーテル200が誘導部30に固定されているため、鋭利部40を正確に位置決めして正確な位置へ突出させることができ、鋭利部40が意図しない方向へ突出せず、操作の確実性が向上するとともに安全性が向上する。また、固定用バルーン60によってバルーンカテーテル200を誘導部30に固定することで、鋭利部40によりバルーン250を傷つける際に、鋭利部40がバルーン250から反力を受けても逃げず、バルーン250を確実に傷つけて収縮させることができる。
この後、シリンジまたはインデフレータにより拡張用流体を吸引すると、図9に示すように、固定用バルーン60から拡張用流体が拡張用ルーメン71を介して排出されて固定用バルーン60が収縮し、バルーンカテーテル200の固定が解除される。さらに、図10に示すように、移動用バルーン50から拡張用流体が接続用管体51の流路、固定用バルーン60および拡張用ルーメン71を介して排出されると、移動用バルーン50が収縮する。移動用バルーン50が収縮すると、移動用バルーン50の先端側の部位が基端側の部位の内側へ収容され、移動用バルーン50の先端面に固着された鋭利部40が、基端方向へ移動して収容部21内に収容された保護状態となる。このとき、固定用バルーン60が収縮されていたとしても、固定用バルーン60の内部に設けられる流路確保用管体61により固定用バルーン60内での流路が確保されて、移動用バルーン50内の拡張用流体を排出することができる。
この後、医療用器具10、バルーンカテーテル200およびガイドワイヤ270を牽引して生体内から抜去し、手技が完了する。なお、医療用器具10、バルーンカテーテル200およびガイドワイヤ270は、同時に抜去しても、別々に抜去してもよい。医療用器具10をバルーンカテーテル200およびガイドワイヤ270よりも先に抜去する際には、誘導部30をバルーン250の近傍まで到達させた際と同様に、ガイドワイヤ開口部262から導出されているガイドワイヤ270をスリット32に通しつつ、誘導部30をガイドワイヤ開口部262よりも基端側へ移動させる。
以上のように、第1実施形態に係る医療用器具10によれば、誘導部30が非連続となるようにスリット32が形成されているため、スリット32からバルーンカテーテル200を誘導部30の通路31へ収容してシャフト20を押し込むことで、通路31内でバルーンカテーテル200を滑らせつつ鋭利部40をバルーン250の近傍まで移動させ、拡張した状態から収縮できなくなったバルーン250を鋭利部40によって傷つけて収縮させることができる。
また、鋭利部40がバルーン250を傷つけ可能な突出状態と、鋭利部40の突出量が突出状態よりも低減された保護状態との間を移行可能であるため、保護状態で鋭利部40をバルーン250の近傍まで移動させた後、バルーン250を傷つける際にのみ突出状態としてバルーン250を傷つけることができ、安全性が向上する。
また、シャフト20または誘導部30が、鋭利部40を突出可能に収容する収容部21を有し、鋭利部40が収容部21内に収容されて保護状態となり、鋭利部40が収容部21から突出することで突出状態となるため、保護状態において鋭利部40を収容部21に収容して安全性を確保しつつ、突出状態において鋭利部40を突出させることで、バルーンを容易に傷つけて収縮させることができる。
また、医療用器具10が、収容部112内に配置されてシャフト20の軸線X方向に沿って拡張および収縮可能であるとともに鋭利部40が連結され、収縮した状態で鋭利部40を収容部21に収容した保護状態とし、拡張することで鋭利部40を先端方向へ移動させて突出状態とすることが可能な移動用バルーン50を有するため、移動用バルーン50への流体の供給および排出により、保護状態および突出状態の間を移行させることが容易である。なお、移動用バルーン50は、必ずしも設けられなくてもよい。例えば、図10に示すように、収容部21を移動可能なガスケット90を設け、収容部21内に流入出する拡張用流体によりガスケット90を移動させることで、ガスケット90に固着された鋭利部40を移動させることもできる。
また、医療用器具10が、誘導部30の内周面側から当該誘導部30の中心軸Yへ向かう方向に沿って拡張および収縮可能であり、拡張することでバルーンカテーテル200を誘導部30に固定可能な固定用バルーン60を有するため、固定用バルーン60によってバルーンカテーテル200を誘導部30に固定することで、確実にバルーン250を傷つけられる位置に鋭利部40を正確に位置決め可能となるため、鋭利部40が意図しない方向へ移動せず、操作の確実性が向上するとともに安全性が向上する。また、固定用バルーン60によってバルーンカテーテル200を誘導部30に固定することで、鋭利部40によりバルーン250を傷つける際に、鋭利部40がバルーン250から反力を受けても逃げず、バルーン250を確実に傷つけて収縮させることができる。
また、誘導部30が、シャフト20よりも軸線Xに沿う方向の長さが短いため、誘導部30のスリット32からバルーンカテーテル200を誘導部30の通路31へ容易に収容可能であり、操作性が向上する。
<第2実施形態>
図11〜13に示す第2実施形態に係る医療用器具100は、移動用バルーン50および固定用バルーン60が設けられず、かつ保護部130が設けられる点で、第1実施形態に係る医療用器具100と異なる。なお、第1実施形態と同様の機能を有する部位には、同一の符号を付し、重複を避けるため、説明を省略する。
医療用器具100は、生体管腔内へ挿入可能な長尺なシャフト110と、シャフト110の先端に固着された誘導部30と、シャフト110(または誘導部30)の先端面に固定される鋭利部120と、鋭利部120から生体組織を保護する保護部130と、保護部130を先端方向に付勢する弾性部材140と、保護部130を操作するための操作ワイヤ150(操作部材)と、シャフト110の基端側に設けられるハブ160とを備えている。
シャフト110は、内部に操作ワイヤ150を進退移動可能に収容するシャフトルーメン111が形成された管体である。シャフトルーメン111は、先端がシャフト110の先端部に形成される収容部112と連通し、基端がハブ160の基端開口部161と連通している。
収容部112は、保護部130および弾性部材140を収容しており、シャフト110の最先端面にて、保護部130が突出および収納可能な大きさの先端開口部113で開口している。先端開口部113は、軸線Xと直交する断面において長方形に形成されており、断面積が収容部112よりも小さい。
鋭利部120は、シャフト110または誘導部30の先端面に固着されている。鋭利部120は、先端部の内側、すなわち誘導部30の中心軸Yに近い側の縁に鋭利な刃121が形成されており、かつ中心軸Yに近い側が先端方向へ突出して形成されている。なお、鋭利部120は、針状であってもよい。鋭利部120の長さは、特に限定されないが、例えば、3.0〜5.0mmである。
保護部130は、板状の部材であり、軸線Xに沿って延びて配置される。保護部130が収容部112から先端開口部113を介して先端方向へ突出すると、保護部130が鋭利部40を覆い、鋭利部40の突出量(保護部130よりも先端方向に突出する長さ)が短くなって保護状態となる。なお、保護状態において、鋭利部40は保護部130により完全に覆われる(保護部130が鋭利部40よりも先端方向に突出する)ことが好ましいが、突出状態における突出量よりも小さければ、鋭利部40が保護部130よりも多少突出してもよい。保護部130が収容部112へ収容されると、突出した鋭利部40を露出させた突出状態となる。保護部130の先端部は、保護状態において鋭利部120の先端よりも先端側に位置し、かつ鋭利部120によりも、誘導部30の中心軸Yから離れた側に位置する(図13を参照)。また、保護部130の先端部は、突出状態において鋭利部120の先端部よりも基端側に位置する(図15を参照)。保護部130は、軸線Xと直交する断面が長方形であり、長辺となる面が、鋭利部120と対向するように配置される。
保護部130の一部は、保護状態において、先端開口部113の一部である接合部114と接合されている。接合部114は、ある程度の力を受けるまで、保護部130が基端方向へ移動しないようにする安全機構として機能する。なお、保護部130は、軸線Xと直交する断面が長方形でなくてもよく、例えば楕円形であってもよい。保護部130は、相対的に広い面が、鋭利部40と対向することが好ましい。
保護部130の軸線X方向への長さは、特に限定されないが、例えば、4.0〜6.0mmである。保護部130の軸線Xと直交する断面における長辺の長さは、特に限定されないが、例えば、0.5mm程度である。保護部130の軸線Xと直交する断面における短辺の長さは、特に限定されないが、例えば、0.2mm程度である。
保護部130の材料は、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼、チタン、Co−Cr合金、セラミックス類等である。
弾性部材140は、収容部112内において保護部130の基端側に配置されるコイルバネであり、保護部130を先端方向へ付勢している。弾性部材140は、基端がシャフト110と接合されており、先端が保護部130と接合されている。弾性部材140は、保護状態において延びた状態となっており(図13を参照)、突出状態において収縮した状態となる(図15を参照)。
操作ワイヤ150は、シャフト110のシャフトルーメン111内を貫通し、先端が保護部130に接合されており、基端がハブ160に設けられる牽引操作部162に接合されている。牽引操作部162を牽引することで、操作ワイヤ150は牽引力を保護部130へ伝達し、弾性部材140を収縮させつつ保護部130を基端方向へ移動させることができる。
操作ワイヤ150の材料は、特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼、Ni−Ti合金、炭素鋼等である。
ハブ160は、シャフト110の基端側に設けられており、シャフトルーメン111と連通して操作ワイヤ150を通過させる基端開口部161を備えるハブ本体163と、操作ワイヤ150が接合される牽引操作部162とを備えている。牽引操作部162は、基端開口部161の基端側に配置されており、ハブ本体163から切り離し可能とする折れやすい連結部164によってハブ本体163に連結されている。牽引操作部162は、ハブ本体163と一体的に形成されるが、別部材を連結部164によって連結して形成されてもよい。
次に、第2実施形態に係る医療用器具100により、バルーン250を収縮させる方法について説明する。
まず、医療用器具100を準備する。医療用器具100は、図11〜13に示すように、保護部130が収容部112から先端開口部113を介して先端方向へ突出した保護状態となっている。
次に、バルーンカテーテル200の生体内に挿入されていない基端シャフト220を、医療用器具100の誘導部30のスリット32から、通路31内へ収容する。なお、ガイドワイヤ270は、通路31内へ収容する必要はない。次に、シャフト110の先端および誘導部30を血管内に挿入し、シャフト110の基端側を把持して押し進める。この際、保護部130の先端が、鋭利部120の先端よりも先端側に位置し、かつ鋭利部120よりも中心軸Yから離れた側に位置するため、鋭利部120が血管壁と接触せず、鋭利部120による生体組織の損傷を防止できる。また、鋭利部120の刃121は、誘導部30の中心軸Yに近い側、すなわち生体組織とは反対側に形成されているため、血管壁に接触し難くなっており、安全性が高い。また、保護部130は、安全機構として機能する接合部114により、基端方向へ移動しないようになっているため、血管内を押し進める際に保護部130が基端方向への力を受けても収容部112に収容されず、高い安全が確保される。また、保護部130は、軸線Xと直交する断面において長辺となる面が、鋭利部120と対向するように配置されているため、保護部130の広い面が血管壁を隔てるように鋭利部120を覆い、より高い安全性が確保される。
次に、シャフト110の先端および誘導部30を血管内に挿入し、シャフト110の基端側を把持して押し進める。この際、誘導部30の内側の通路31に基端シャフト220が収容されているため、医療用器具100がバルーンカテーテル200に沿って先端方向へ誘導される。
誘導部30が、基端シャフト220および中間シャフト230を過ぎてガイドワイヤ開口部262まで到達すると、ガイドワイヤ270がガイドワイヤ開口部262から導出されているため、スリット32にガイドワイヤ270を通しつつ、誘導部30をガイドワイヤ開口部262よりも先端側へ移動させる。このように、誘導部30にスリット32が形成されていることで、ラピッドエクスチェンジ型のバルーンカテーテル200であっても、誘導部30内にガイドワイヤ270を収容することなしに、ガイドワイヤ開口部262よりも先端側へ誘導部30を移動させることができる。この後、さらにシャフト110を押し込み、図14に示すように、シャフト110の先端をバルーン250の基端側に配置する。
次に、ハブ本体163を把持して固定し、連結部164を切り離しつつ、牽引操作部162をハブ本体163に対して基端方向へ移動させる。牽引操作部162を基端方向へ移動させると、安全機構として機能する接合部114の接合が解かれ、図15に示すように、操作ワイヤ150が牽引力を保護部130へ伝達し、弾性部材140を収縮させつつ保護部130が基端方向へ移動する。これにより、保護部130が収容部112へ収容され、保護部130の先端が、鋭利部120の先端よりも基端側に位置した突出状態となる。
次に、医療用器具100を先端方向へ移動させると、図16に示すように、鋭利部120の刃121がバルーン250を傷つけ、バルーン250が破裂して収縮する。このとき、刃121は、誘導部30の中心軸Yに近い側が先端方向へ突出して形成されているため、バルーン250の表面で滑り難く、バルーン250を確実に傷つけることができる。
この後、牽引操作部162の牽引を停止すると、図17に示すように、弾性部材140の弾性力によって保護部130が収容部112から端開口部113を介して先端方向へ突出した保護状態となり、保護部130によって鋭利部120による生体組織の損傷を抑制できる。
この後、医療用器具100、バルーンカテーテル200およびガイドワイヤ270を牽引して生体内から抜去し、手技が完了する。
以上のように、第2実施形態に係る医療用器具100は、基端側での操作によってシャフト110の軸線X方向に沿って移動可能であり、鋭利部120よりも誘導部30の中心軸Yから離れた側に位置することで保護状態とし、軸線Xに沿って基端側へ移動することで突出状態とすることが可能な保護部130を有するため、保護状態において保護部130により鋭利部120よりも誘導部30の中心軸Yから離れた側を覆うことで安全性を確保しつつ、突出状態において保護部130を移動させて鋭利部120の保護を解除して、バルーン250を容易に傷つけて収縮させることができる。
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、医療用器具10,100を適用するバルーンカテーテルは、ラピッドエクスチェンジ型ではなく、オーバーザワイヤ型(Over−the−wire type)であってもよい。
また、第1実施形態に係る医療用器具10において、接続用管体51に閉鎖部52が設けられなくてもよい。この場合、固定用バルーン60を移動用バルーン50よりも小さい圧力で拡張するようにバルーンの材料や膜厚を設定することで、所定の圧力で剥がれる閉鎖部52がなくとも、移動用バルーン50よりも先に固定用バルーン60を拡張させることができる。
また、誘導部30のスリット32は、閉じることが可能であってもよい。
また、図17に示す第1実施形態の変形例のように、誘導部300の先端側および基端側の端面301,302が、スリット303に向かって傾斜するように形成されてもよい。このようにすれば、スリット303にガイドワイヤ開口部262から導出されるガイドワイヤ270(図5を参照)を通す際に、ガイドワイヤ270が端面301,302の傾斜に沿ってスリット303に導かれるため、スリット303へガイドワイヤ270を容易に通過させることができる。また、第2実施形態においても、同様の誘導部300を適用できる。