JP6193808B2 - アルミニウム合金押出材及びその製造方法 - Google Patents
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上記製造方法において、人工時効処理は過時効処理を含む。
なお、本発明は、耐圧壊割れ性が低下する要因が、プレス焼き入れ時の冷却過程で結晶粒界に生成した粗大なMgZn2析出物であるとの知見を基になされたものである。その知見を基に、過時効処理材だけでなく通常の時効処理材でも、エネルギー吸収特性を向上させることができる。
(アルミニウム合金の組成)
本発明に係る7000系アルミニウム合金は、Zn:5.5〜9.0質量%、Mg:1.0〜2.0質量%、Cu:0.1〜1.0質量%、Fe:0.01〜0.40質量%、Si:0.01〜0.20質量%、Ti:0.005〜0.2質量%を含有し、さらにZr:0.01〜0.25質量%、Cr:0.01〜0.25質量%、Mn:0.01〜0.25質量%、V:0.01〜0.25質量%、Sc:0.01〜0.25質量%のうち1種以上を合計で0.1〜0.5質量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる。この組成自体は7000系アルミニウム合金として公知のものである。以下、この組成について説明する。
Mg:1.0〜2.0質量%
ZnとMgは金属間化合物であるMgZn2を形成して、7000系アルミニウム合金の強度を向上させる元素である。Zn含有量が5.5質量%未満又はMg含有量が1.0質量%未満では、エネルギー吸収部材として必要な350MPa以上の耐力が得られない。一方、Zn含有量が9.0質量%を超え又はMg含有量が2.0質量%を超えると、プレス焼き入れ後に所定の熱処理を行っても耐圧壊割れ性を改善できず、エネルギー吸収量の増加が見込めない。耐圧壊割れ性を改善するとの観点から、Zn含有量、Mg含有量の上限は、それぞれ8.0質量%、1.7質量%が好ましい。
Cuは7000系アルミニウム合金の強度を向上させる元素である。Cu含有量が0.1質量%未満では十分な強度向上効果がなく、一方、1.0質量%を越えると押出加工性の低下を招く。押出加工性及び耐食性向上の観点から、Cu含有量の上限は好ましくは0.6質量%、より好ましくは0.5質量%である。
Ti:0.005〜0.2質量%
Tiは7000系アルミニウム合金の鋳造時に結晶粒を微細化して、押出材の成形性(例えば曲げ加工性)及び耐圧壊割れ性を向上させる作用があり、0.005質量%以上添加する。一方、0.2質量%を越えるとその作用が飽和し、かつ粗大な金属間化合物が晶出して、かえって成形性を低下させる。
Mn,Cr,Zr,V,Scは7000系アルミニウム合金押出材の再結晶を抑制して、結晶組織を繊維状組織とし、耐応力腐食割れ性を向上させる作用があり、1種以上を0.1〜0.5質量%の範囲で添加する。これらの元素の含有量(2種以上含有する場合は合計含有量)が0.1質量%未満では前記効果が十分ではなく、一方、0.5質量%を超えると押出性が低下し、さらに焼き入れ感受性を高め強度低下を招く。Mn,Cr,Zr,V,Scの個々の含有量は、Zr:0.01〜0.25質量%、Cr:0.01〜0.25質量%、Mn:0.01〜0.25質量%、V:0.01〜0.25質量%、Sc:0.01〜0.25質量%の範囲内とする。Mn,Cr,Zr,V,Scの個々の含有量がそれぞれ0.01質量%未満では前記効果がなく、0.25質量%を超えると、押出性が低下し、焼き入れ感受性を高め強度低下を招く。
Fe、Siは、7000系アルミニウム合金の主要な不可避不純物であり、7000系アルミニウム合金の諸特性を低下させないため、それぞれ0.40質量%、0.20質量%以下に規制される。一方、7000系アルミニウム合金中のFe、Siをそれぞれ0.01質量%未満に低減することはコスト面の負担が大きい。従って、Fe含有量は0.01〜0.40質量%、Si含有量は0.01〜0.20質量%とする。
Fe、Si以外の不可避不純物は、単体で0.05質量%以下、総量で0.15質量%以下とする。
本発明に係る7000系アルミニウム合金押出材は、自動車等のエネルギー吸収部材として適し、その場合の断面形状はホロー断面(中空の閉じた断面)又はセミホロー断面(中空の閉じた断面に近いが一部開いた断面)が好ましい。ホロー断面には、多角形(例えば四角形)断面や、多角形の輪郭の内部に1又は複数本の中リブを有する断面が含まれる。
本発明に係る7000系アルミニウム合金押出材は、押出方向に垂直な断面における肉厚が6mm以下(最大肉厚が6mm以下)とされる。その理由については後述する。
本発明に係る7000系アルミニウム合金押出材において、結晶粒界に存在するMgZn2析出物は、長辺の平均長さが5μm以下に制限される。また、結晶粒界に存在するMgZn2析出物のうち長辺の長さが5μmより大きいMgZn2析出物は、結晶粒界の長さ100μmあたり3個以下に制限される。このMgZn2析出物の析出形態は、押出材の断面の輪郭部分において充足されていればよく、中リブでは充足されていなくてもよい。
結晶粒界に形成される粗大なMgZn2析出物は、押出材の耐圧壊割れ性及びエネルギー吸収量を低下させるが、上記範囲内であれば特に問題は生じない。長辺の長さが5μmより大きいMgZn2析出物は、結晶粒界に存在しないことが好ましい。なお、結晶粒界に存在するMgZn2析出物の長辺の長さとは、結晶粒界に沿って存在するMgZn2析出物の両端を結ぶ線分の長さを意味する。また、前記平均長さは、結晶粒界に存在するMgZn2析出物のうち長辺の長さが0.5μm以上のMgZn2析出物の当該長辺の長さの平均値である。
上記組成を有する7000系アルミニウム合金鋳塊に均質化処理を行い、400〜560℃の温度に加熱して押出加工を行い、押出材の温度が400℃以上である間に200℃/秒以上の冷却速度で押出水冷を行い、続いて人工時効処理を行う。押出材の肉厚は6mm以下とする。
人工時効処理の条件は、特に限定的ではなく、一般的な時効処理条件で行うことができる。又は、一般的な時効処理より高温・長時間の条件で時効処理(過時効処理)を行うことができる。具体的な時効処理条件は、例えば85〜95℃×2〜4時間+130〜140℃×5〜10時間の範囲で適宜選択すればよい。具体的な過時効処理条件は、例えば85〜95℃×2〜4時間+150〜180℃×4〜14時間の範囲で適宜選択すればよい。
押出ダイスから押し出されてくる押出材の上に冷却ゾーンの手前で小型温度計(時々刻々の温度データを記録できる)を乗せ、そのまま小型温度計を冷却ゾーンに突入させ、押出材の温度(表面の温度)を記録する。記録した温度データから、押出材の冷却開始温度(T℃)を特定するとともに、押出材が当該冷却開始温度T℃から150℃に達するまでの時間(t秒)を求め、冷却速度を(T−150)/t(℃/秒)として算出した。算出された冷却速度は押出材の表面の温度であるが、押出材の肉厚が薄い(6mm以下)ことから、押出材の肉厚内部の冷却速度も同程度と推測される。
時効処理後の押出材を用い、下記要領で、MgZn2析出物の析出形態の観察、引張試験、及び圧壊試験を行った。その結果を表2に示す。
押出材の側壁から供試材を切り出し、押出方向に垂直な面の肉厚中央部をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、結晶粒界に存在するMgZn2析出物の析出形態を観察した。結晶粒界に存在するMgZn2析出物のうち長辺の長さ(結晶粒界に存在するMgZn2析出物の両端を結ぶ線分の長さ)が0.5μm以上のMgZn2析出物をピックアップし、当該MgZn2析出物の長辺の長さの平均値を求めた。また、結晶粒界の長さ100μmあたりに存在するMgZn2析出物のうち長辺の長さが5μmより大きいMgZn2析出物の個数を求めた。
(引張試験)
押出材の側壁部分から押出方向に平行にJIS13号B試験片を採取し、JISZ2241の規定に準じて引張試験を行い、耐力を求めた。
押出材を押出方向に対し垂直に長さ150mmに切断して供試材とした。30ton万能試験機を用い、供試材1を定盤2の上に置き(図2の左側の図参照)、供試材1の上面より剛体3を押し付け、変位量20mmまで潰す横圧壊試験を行った(図2の右側の図参照)。得られた荷重−変位曲線から、最大荷重及びエネルギー吸収量を求めた。また、試験後の供試材の屈曲した側壁4を観察し、圧壊割れのレベルを、1:割れ無し、2:表面割れ(肉厚貫通なしの割れ)あり、3:一部に肉厚を貫通する割れあり、4:肉厚を貫通する割れによる側壁の分断あり、の4段階で評価した。なお、圧壊試験において屈曲した側壁4が割れて破断すると、荷重が急激に低下し、平均荷重が小さくなり、エネルギー吸収量が小さくなる。一方、屈曲した側壁4が破断せずに曲げ変形した場合、エネルギー吸収量が大きい。
一方、押出水冷の開始温度が低いNo.10、冷却を空冷で行ったNo.11,12、及び押出水冷の冷却速度が200℃/秒に満たないNo.13は、いずれも粗大なMgZn2析出物が結晶粒界に存在し、耐圧壊割れ性が劣り、エネルギー吸収量が小さかった。特に過時効処理を行っていないNo.10,11は、圧壊試験後の供試材の側壁に分断割れが生じていた。なお、No.11,12は特許文献1,4に記載された従来材に相当する。
2 定盤
3 剛体
4 側壁
Claims (3)
- Zn:5.5〜9.0質量%、Mg:1.0〜2.0質量%、Cu:0.1〜1.0質量%、Fe:0.01〜0.40質量%、Si:0.01〜0.20質量%、Ti:0.005〜0.2質量%を含有し、さらにZr:0.01〜0.25質量%,Cr:0.01〜0.25質量%、Mn:0.01〜0.25質量%、V:0.01〜0.25質量%、Sc:0.01〜0.25質量%のうち1種以上を合計で0.1〜0.5質量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、押出方向に垂直な断面における肉厚が6mm以下、結晶粒界に存在するMgZn2析出物の長辺の平均長さが5μm以下、かつ結晶粒界の長さ100μmあたりに存在する長辺の長さが5μmより大きいMgZn2析出物の個数が3個以下であることを特徴とするアルミニウム合金押出材。
- Zn:5.5〜9.0質量%、Mg:1.0〜2.0質量%、Cu:0.1〜1.0質量%、Fe:0.01〜0.40質量%、Si:0.01〜0.20質量%、Ti:0.005〜0.2質量%を含有し、さらにZr:0.01〜0.25質量%、Cr:0.01〜0.25質量%、Mn:0.01〜0.25質量%、V:0.01〜0.25質量%、Sc:0.01〜0.25質量%のうち1種以上を合計で0.1〜0.5質量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成の鋳塊に均質化処理を行い、400〜560℃の温度に加熱して押出加工を行い、押出方向に垂直な断面における肉厚が6mm以下の押出材とし、前記押出材の温度が400℃以上である間に200℃/秒以上の冷却速度で押出水冷を行い、人工時効処理を行うアルミニウム合金押出材の製造方法。
- 前記人工時効処理が過時効処理であることを特徴とする請求項2に記載されたアルミニウム合金押出材の製造方法。
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