JP6189932B2 - 電気分解装置用の表面改質ステンレス鋼カソード - Google Patents

電気分解装置用の表面改質ステンレス鋼カソード Download PDF

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Description

本発明は、塩素酸塩生成物を製造するためのブラインの電気分解などの産業用電気分解において使用されるカソード電極に関する。詳しくは、本発明は、このような使用法のための表面改質された低ニッケル含有ステンレス鋼カソードに関する。
塩素酸ナトリウムは、主には、塩素、水酸化ナトリウム、及び水素を生成する塩化ナトリウムブラインの電気分解により、産業的に製造される。塩素と水酸化ナトリウムは、即座に反応して次亜塩素酸ナトリウムを形成し、次いで、この次亜塩素酸ナトリウムが塩素酸塩に変換される。電気分解プロセスの全体において、温度、pH、電解質の組成及び濃度、アノード及びカソードの電位及び過電圧、並びに、機器及び電気分解システムの設計などのパラメータに依存する複雑な電気化学的且つ化学的反応が関与している。最適な結果を得るには、電極サイズ、厚さ、材質、アノード被覆の選択肢、及びオフガスなどのセルパラメータの選択肢が重要である。
塩素酸塩電気分解装置におけるカソード電極の材料及び構成の選択肢は、電気分解の効率と、電気分解装置内の過酷な状態におけるカソードの耐久性と、との関係において、特に重要である。腐食及びブリスタ抵抗力、原価、製造性、及び耐久性特性と共に、動作の際の過電圧特性の可能な最良の組合せを得るように、材料と設計の組合せが選択される。被覆された基材を有するカソードを利用する場合には、被覆との間の基材の整合性を考慮しなければならない。溶接によって装着されるキャリアプレートのようなその他のコンポーネントに対するその他の大規模な設計及び材料の変更を必要とすることなしに、任意の改善されたカソード電極により、現在の電気分解装置の設計におけるカソード電極を置換できることが好ましい。
従来の塩素酸塩電気分解装置の効率は、電気分解プロセスにおいてカソードに見出される過電位を改善することにより、改善されることになろう。電気分解装置において生じる損失の通常の内訳によれば、カソードの過電位は、電解質の抵抗、アノードの過電位、金属の抵抗、及び(バッファとして、且つ、カソードにおける次亜塩素酸塩及び塩素酸塩イオンの低減を抑圧するべく、重クロム酸ナトリウムが利用された際のカソード上における薄膜形成の結果としてもたらされる)「重クロム酸塩効果」に関係するその他の主要な損失と共に、合計損失の約38%(430mV)を占めている。
商用の単極及びハイブリッド型の塩素酸塩電気分解装置の設計においては、カソードは、通常、Domexグレードの鋼であるC1008及びStahrmet(登録商標)のような被覆されていない炭素鋼タイプである。後者のStahrmet(登録商標)カソードは、稼働中における水素ブリスタ及び脆化を防止及び/又は低減するべく、特定の元素組成を有する選択された鋼を使用している。このようなカソードは、セル電圧及び過電位の観点において、従来のDSA(登録商標)(Dimensionally Stable Anode)アノードとの組合せにおいて、通常の動作条件(例えば、2.5〜4.0kA/mの電流密度及び60〜90℃の温度)の範囲にわたって、まずまず良好に稼働する。又、これらのカソードは、電気分解装置の相対的に安価なコンポーネントでもある。
但し、被覆されていない炭素鋼電極は、カソード保護を伴う通常の動作条件下においてさえも、カソードのシニング、望ましくない金属イオンの電解質への進入、及びカソード寿命の短縮を結果的にもたらす腐食(錆)の影響を受け易い。通常、電気分解装置の予測寿命にわたって、カソードの腐食を加速させるシャットダウン及び電源中断が存在している。電解質中の金属イオンが、電極上に堆積し、且つ、このタイプの付着物により、アノードとカソードの性能の両方に対して同時に影響を及ぼすことにより、セル電位の上昇と酸素の生成という両方の現象をもたらすと共に、相対的に高い稼働費用を結果的にもたらす可能性がある。カソードは、主には、作業エリアの全体を通じてそれなりに均一に分布した孔食タイプの表面腐食を有することになる。このタイプの腐食は、次亜塩素酸塩に対して曝露した炭素鋼カソードにおいて、一般的である。稼働中に、且つ、再使用の前に、スケールを除去しなければならないことから、カソードを(例えば、サンドブラストによって)機械的に浄化すると共に酸洗浄する必要がある。この処理においては、通常、大量の材料(ほとんどが鉄)が除去され、この結果、材料の損失を補償することによって、相対的に厚いカソードと、従って、低減された有効電極エリア/単位容積と、に対する要件を結果的に得るべく、炭素鋼カソードは、大きな腐食許容度を必要とすることになる。更には、カソードが、改装され、且つ、稼働するべく元に戻された際に、電気分解装置内のカソードとアノードの間のギャップが増大し、これにより、電圧が増大することになる。
一代替肢として、塩素酸塩電気分解装置のカソードとして使用するべく、その他の材料を考慮してもよい。但し、(塩化ナトリウムブラインが電気分解を経験し、水酸化ナトリウム、水素、及び塩素酸塩生成物を形成する)関係する産業用の塩素−アルカリ電気分解プロセスとは異なり、ニッケルに基づいた又は大量のニッケルを有するカソードを利用することはできない。ニッケルの存在は、次亜塩素酸塩の分解速度の増大を結果的にもたらし、且つ、これにより、製品の歩留まりを低減し、且つ、通常よりも高いレベルの酸素を生成する。酸素は、潜在的に、存在する水素と結合し、危険な爆発性の混合物を実現する可能性を有していることから、これは、安全上の懸念をもたらす。従って、塩素酸塩電気分解には、ニッケルを含まない又は少なくとも低ニッケル含有量(例えば、約6重量%未満)を有するカソードが使用される。
特定のグレード(例えば、フェライト系、マルテンサイト系、二相、及び析出硬化型)のステンレス鋼は、低ニッケル含有グレードのステンレス鋼であり、且つ、その腐食抵抗力特性との関係において、炭素鋼と比べて利点を提供することができる。但し、これらのタイプのステンレス鋼と、実際には、一般的に、ステンレス鋼は、通常、商用用途のために調製されていることから、塩素酸塩電気分解においてカソードとして使用された際に、炭素鋼よりも格段に大きな過電圧を有する。
更なる一代替肢として、ブライン電気分解装置における電極として使用される被覆された基材の調製を目的として、当技術分野においては、様々な被覆が提案されている。例えば、カナダ国特許出願第2588906号明細書は、塩素酸塩電気分解用の被覆として使用されるナノ結晶質合金を開示している。又、ブラインの電気分解における電極被覆として、RuOタイプの被覆も提案されている。但し、炭素鋼の基材を使用したカソードは、通常の貴金属及びRu、Ir、Ti、又はこれらに類似したものを含む混合酸化物被覆によっては、容易に被覆することができない。従来の方法を使用して適用された際には、接着及び劣化の課題が存在している。そして、この結果、基礎をなす炭素鋼基材が腐食した際に、これらが容易に剥離するか又は「フレーク状に剥げる」ことから、被覆の耐久性の問題が結果的にもたらされる(米国特許第7,122,219号明細書においては、塩素−アルカリ電気分解用の電極において、この問題に対処するための試みが実施されている)。塩素酸塩電気分解装置における標準的な商用アノードの5〜8年という予想寿命に整合した炭素鋼被覆カソードを得ることが非常に困難であった。
金属基材の適切な表面処理(例えば、サンドブラスト)により、適用された被覆の接着の改善を結果的に得ることができることが一般的に知られている。そして、(例えば、米国特許第6,017,430号明細書に開示されているように)、水性アルカリ金属塩素溶液の電気分解において使用されるカソードをグリットブラストすることにより、その表面積を増大させることによってカソードにおける水素過電圧を低減できることが知られている。但し、ステンレス鋼の相対的に良好な腐食抵抗力のためには、表面の滑らかさが重要であることも周知である。ステンレス鋼は、清浄であると共に滑らかである際に、最良の腐食抵抗力を有することから、例えば、ブライン電気分解装置内の環境などの極端に腐食性の環境において使用するために、低表面粗度が特に求められてきた。
粗度は、産業界においては、様々な方法で特徴付けられている。Rと表記される粗度の算術平均及びRと表記される粗度の二乗平均などの粗度パラメータが、表面粗度を定量化するべく、一般に使用されており、且つ、標準化された方法によって判定されている。更には、表面は、「仕上げ」などの相対的に定性的な用語によって特徴付けされてもよい。4仕上げステンレス鋼は、汎用の研磨仕上げであり、その他の一般的な仕上げよりも鋭くなく、且つ、(例えば、食品、乳製品、飲料、及び薬剤産業において使用される装置におけるように)外観及び清浄度が重要である作業表面又はこれに類似したものに一般に使用されている。ASTM A480によれば、4仕上げのRは、一般に、最大で0.64マイクロメートルであろう。Rは、Rの約80%となり、従って、4仕上げのRは、1マイクロメートルよりも多少小さくなるであろう。
但し、これらの様々な粗度特性と外観及び腐食抵抗力などのその他の特性の間には、関連付けが存在しており、2つの表面は、同一のR(及び/又は、同一のR)を有することが可能であり、且つ、それでいて、表面状態を得る方式に応じて、異なる外観及び腐食に対する抵抗力を有することもできる。例えば、このような特性は、仕上げが指向性を有しているのか又はランダムであるのか(例えば、それぞれ、ベルト研磨によって又はサンドブラストによって得られたのか)と、向きなどのその他の要因と、に応じて、変化しうる。
米国特許第7,122,219号明細書 米国特許第6,017,430号明細書
産業用の塩素酸塩電気分解プロセスは、非常に進歩しているが、更に大きな効率、電気分解装置の寿命、及び費用の低減に対する要求が依然として存在している。
本発明は、望ましい過電圧特性と腐食抵抗力特性の両方を有する改善された電気分解カソードを提供することにより、これらのニーズに対処している。例えば、従来のステンレス鋼によって製造されたカソードにおいて予想される腐食抵抗力に類似した腐食抵抗力と共に、炭素鋼カソードにおいて観察される過電圧に類似した又はこれよりも良好な過電圧を得ることができる。このようなカソードは、塩素酸塩電気分解において有用であり、且つ、その他の産業用電気分解プロセスにおいても有用であろう。
驚いたことに、特定のニッケルを含まない又は低ニッケル含有(例えば、約6重量%未満)のステンレス鋼によって製造されたカソードは、特定の表面粗度を得るように表面が改質されているか又は処理されている場合に、これらの特性の両方を実現することができる。この目的に潜在的に適している低ニッケル含有ステンレス鋼は、特定のフェライト系の、マルテンサイト系の、二相の、且つ、析出硬化型のステンレス鋼を含む。1つ又は複数の安定化ドーパントを有するステンレス鋼を利用することが有利であろう。適切なドーパントは、Cu、Mo、N、Nb、Sn、Ti、V、及びWを含む。又、例えば、約0.03重量%未満の、且つ、好ましくは、特定の実施形態においては、約0.005重量%未満の、低炭素含有量を有するステンレス鋼を利用することも有利であろう。
具体的には、低ニッケル含有ステンレス鋼は、430、430D、432、又は436Sグレードのステンレス鋼などのフェライト系ステンレス鋼であるか、又は、Mo、Sn、Ti、及び/又はVドーパントを有するフェライト系ステンレス鋼であってもよい。フェライトグレードのステンレス鋼は、通常、リン及び硫黄からなる不純物を含んでいる。ステンレス鋼が、約0.03重量%未満のリンと、約0.003重量%未満の硫黄と、を有することが好ましいであろう。更には、低ニッケル含有ステンレス鋼は、S31803、S32101、S32205、S32304、S32404、S82011、又はS82122のリーン/低合金グレードの二相ステンレス鋼などの二相ステンレス鋼であってもよい。
約1.0〜5.0マイクロメートルの範囲の表面粗度Rは、過電圧との関係において適していることが判明しており、且つ、改善された腐食抵抗力を提供することにもなろう。具体的には、約2.5マイクロメートル未満のRを有するフェライト系ステンレス鋼が、適していると思われる。
表面改質ステンレス鋼は、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、又は過塩素酸ナトリウム電気分解装置などの産業用の電気分解装置のカソードとして直接的に(被覆されていない状態において)使用することができる。このような実施形態において使用するには、カソードを炭素鋼又はステンレス鋼から製造されたキャリアプレートに対して溶接することができる。有利には、カソードが、適切なステンレス鋼から製造されたキャリアプレートに対して溶接され、且つ、電気分解装置の残りの部分も、適切なステンレスから製造されている場合には、電気分解装置は、カソード保護ユニットを利用する必要がない。
或いは、この代わりに、表面改質ステンレス鋼は、適用された電気分解機能強化被覆を有するカソードにおける基材として使用することもできる。表面の改質により、適切な電気分解機能強化被覆の接着を改善することができる。そして、更には、表面改質基材の過電圧の利点が、新しい被覆カソードにおいて、即座に必要とされないか又は観察されない場合にも、被覆が最終的に磨滅した際に、基礎をなす表面改質ステンレス鋼基材が曝露することになる。この時点において、曝露した基材は、いまや、本発明の組み合わせられた過電圧と腐食抵抗力の利点を有しており、且つ、これにより、現時点の産業標準であるStahrmet(登録商標)の有用寿命よりも、カソードの有用寿命を延長する。
従って、低ニッケル含有ステンレス鋼カソードの表面を約1.0〜5.0マイクロメートルの表面粗度Rに粗化することにより、腐食に対するカソードの抵抗力を維持しつつ、ブラインの電気分解において、塩素酸塩電気分解装置のカソードの過電圧を低減することができる。例えば、酸化アルミニウム粉によってカソード表面をサンドブラストするなどの様々な粗化方法が利用されてもよい。
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
産業用電気分解装置用のカソードであって、
約6重量%未満のニッケルを有するステンレス鋼電極を有し、且つ、
約1.0〜5.0マイクロメートルの表面粗度R を特徴とするカソード。
(項目2)
前記ステンレス鋼電極は、約2.5マイクロメートル未満の表面粗度R を特徴とする項目1に記載のカソード。
(項目3)
前記ステンレス鋼は、フェライト系ステンレス鋼である項目1に記載のカソード。
(項目4)
前記ステンレス鋼は、430、430D、432、及び436Sグレードのフェライト系ステンレス鋼から構成された群から選択される項目3に記載のカソード。
(項目5)
前記ステンレス鋼は、Cu、Mo、N、Nb、Sn、Ti、V、及びWから構成された群から選択される安定化ドーパントを有する項目1に記載のカソード。
(項目6)
前記フェライト系ステンレス鋼は、Moドーパントを有する項目3に記載のカソード。
(項目7)
前記フェライト系ステンレス鋼は、Snドーパントを有する項目3に記載のカソード。
(項目8)
前記フェライト系ステンレス鋼は、Tiドーパントを有する項目3に記載のカソード。
(項目9)
前記フェライト系ステンレス鋼は、Vドーパントを有する項目3に記載のカソード。
(項目10)
前記ステンレス鋼は、二相ステンレス鋼である項目1に記載のカソード。
(項目11)
前記ステンレス鋼は、S31803、S32101、S32205、S32304、S82441、S82011、及びS82122グレードの二相ステンレス鋼から構成された群から選択される項目10に記載のカソード。
(項目12)
前記ステンレス鋼は、約0.03重量%未満の炭素を有する項目1に記載のカソード。
(項目13)
前記ステンレス鋼は、約0.005重量%未満の炭素を有する項目12に記載のカソード。
(項目14)
前記ステンレス鋼は、約0.03重量%未満のリンと、約0.003重量%未満の硫黄と、を有する項目1に記載のカソード。
(項目15)
前記低ニッケル含有ステンレス鋼電極上に適用された電気分解機能強化被覆を有する項目1に記載のカソード。
(項目16)
項目1に記載の前記カソードを有する産業用電気分解装置。
(項目17)
前記産業用電気分解装置は、塩素酸ナトリウム電気分解装置である項目16に記載の産業用電気分解装置。
(項目18)
前記カソードは、炭素鋼又はステンレス鋼から製造されたキャリアプレートに溶接される項目16に記載の産業用電気分解装置。
(項目19)
前記カソードは、ステンレス鋼から製造されたキャリアプレートに溶接され、且つ、前記電気分解装置は、カソード保護ユニットを欠いている項目18に記載の産業用電気分解装置。
(項目20)
腐食に対する前記カソードの抵抗力を維持しつつ、ブラインの電気分解の際に産業用電気分解装置のカソードの過電圧を低減する方法であって、
約6重量%未満のニッケルを有するステンレス鋼カソードの表面を約1.0〜5.0マイクロメートルの表面粗度R に粗化するステップを有する方法。
(項目21)
前記粗化ステップは、前記カソードの表面を酸化アルミニウム粉によってサンドブラストするステップを有する項目20に記載の方法。
いくつかの代表的な表面改質SS430カソードサンプル、比較用のSS430サンプル、及び従来の軟鋼サンプルにおけるミニセル電圧対電流密度のプロットを比較している。 例におけるSS430カソードサンプルの表面粗度の関数として、いくつかの代表的な電流密度において観察されるミニセル電圧をプロットしている。 様々なRuO被覆された表面改質SS430カソードサンプルと従来の軟鋼サンプルにおけるミニセル電圧対電流密度のプロットを比較している。 いくつかの代表的な表面改質フェライト系カソードサンプルと従来の軟鋼サンプルにおけるミニセル電圧対電流密度のプロットを比較している。 従来の炭素鋼カソードを有するセルと本発明に従って表面処理されたSS430カソード及びドーピングされたフェライト系カソードを有するセルにおける通常状態における電気分解パイロットセル電圧対動作日数のプロットを比較している。
文脈によって否定されていない限り、本明細書及び請求項のすべてを通じて、「有する(comprise)」、「有する(comprising)」、及びこれらに類似した用語は、開放型の包含を意味するものとして解釈することを要する。「1つの(a)」、「1つの(an)」、及びこれらに類似した用語は、少なくとも1つを意味しており、且つ、1つのみに限定されてはいないものと見なされたい。
更には、以下の定義が意図されている。数値的な文脈においては、「約」という用語は、±10%を意味するものと解釈することを要する。
ステンレス鋼は、少なくとも10.5質量%のクロミウム含有量を有する鋼合金を意味している。
表面粗度Rは、JIS2001規格又はISO1997規格に従って判定された二乗平均の粗度を意味しており、且つ、以下の例において使用されている。
そして、本明細書において使用されている電気分解機能強化被覆は、通常動作において過電圧の低減を結果的にもたらす塩素酸塩電気分解装置の電極上における被覆を意味している。このような様々な被覆の組成は、当技術分野において既知であり、且つ、通常は、RuOなどの貴金属の組成を有する。
産業的な塩素酸塩製造のための従来の電気分解装置においては、意外なことに、特定の低ニッケル含有ステンレス鋼は、その表面が適切に改質されている場合には、カソード電極として使用するための改善された材料であることが判明している。このようなカソードは、従来のステンレス鋼において予想される望ましい腐食抵抗力を維持しつつ、炭素鋼によって得られる過電圧特性に類似した又はこれよりも良好な望ましい過電圧特性を有する。
適切なステンレス鋼は、ニッケルを含んでいないか、或いは、約6重量%未満のニッケル含有量を有する。フェライト系の、マルテンサイト系の、二相の、且つ、析出硬化型のステンレス鋼を含むいくつかの種類のステンレス鋼が、この要件を充足している。更には、ステンレス鋼において1つ又は複数の安定化ドーパントを利用することが有利であろう。このような適切なドーパントは、Cu、Mo、N、Nb、Sn、Ti、V、及びWを含む。低炭素含有量又は非常に低い炭素含有量を、即ち、約0.03重量%未満又は約0.005重量%未満の炭素含有量を、有するステンレス鋼を利用することも有利であろう(炭素は、メタンを形成する水素との反応により、水素脆化を促進することが知られている。従って、水素放出カソード内に存在する炭素が多いほど、カソード基材内においてメタンが形成される可能性が大きくなろう。基材内の(硫化物又は酸化物タイプの封入体などの)粒界又は欠陥内におけるメタンの蓄積は、基材のブリスタ及び脆化を生成する可能性がある)。
具体的には、フェライト系ステンレス鋼は、適する可能性を有し、且つ、主合金元素がクロミウム(約10.5〜27重量%の範囲)であることにより、弁別することが可能であり、この結果、すべての温度において安定したフェライト構造が得られる。その低炭素含有量に起因し、フェライト系ステンレス鋼は、限られた強度を有するが、良好な延性を有することが可能であり、且つ、これらは、ほとんど、加工硬化しない。これらの合金の強靭性は、非常に低いが、強靭性は、電気分解装置のカソードとして使用するための必須の要件ではない。保護されていない状態において、Crの豊富なフェライト系ステンレス鋼は、最終的に、高温の塩化溶液中において腐食するが、炭素鋼が腐食するほどに迅速にではない。Crの豊富なステンレス鋼の水素放出過電位は、炭素鋼の場合よりも高い。炭素鋼との接触状態にあるCrの豊富なステンレス鋼は、相対的に迅速に腐食するようには思われず、その理由は、Crの豊富なステンレス鋼が、炭素鋼のための犠牲アノードとして機能しないからである。これは、商用の電気分解装置の炭素鋼カソード用の交換又はアップグレードとしての実装の場合に重要であり、その理由は、電気分解装置内のキャリアプレートのカソード側が、依然として、炭素鋼であってもよく、且つ、従って、フェライト系ステンレス鋼が、炭素鋼との整合性を有することになるからである。Cromgard(登録商標)は、約12%のCr含有量を有すると共に良好な溶接性を有する潜在的に適したフェライト系ステンレス鋼の一例である。或いは、この代わりに、当然のことながら、こちらも適切なグレードのステンレス鋼から製造されており、これにより、存在するすべての炭素鋼を、且つ、従って、異なる金属の使用に伴うなんらかの問題を、除去するキャリアプレートを利用してもよい。
試験は、430、430D、432、及び436Sを含むフェライトグレードが適するという可能性を示している。そして、具体的には、ドーパントを有する特定のELI(Extra Low Interstitial)フェライトタイプのステンレス鋼は、電気分解装置の過電圧における顕著な改善を示している。又、Mo、Nb、及びVドーパントを(それぞれ、例えば、約1.8、1.6.及び0.06重量%という量において)有する444グレードと、434、439、441、442、及び446グレードのステンレス鋼と、を含むその他のフェライトグレードも適切であろうと予想される。
その他の低ニッケル含有フェライト系又はマルテンサイト系ステンレス鋼合金は、モリブデンを含有することにより、大部分の化学的環境において従来の炭素鋼よりも格段に優れた腐食抵抗力を獲得することになろう。このような用途において電気伝導性、界面活性、製造性、及び/又は耐久性との関係において更なる利益を提供しうるMn、Si、Al、Se、Cb、Cu、Ta、N、及びWのようなその他の元素を含む多くのタイプのこれらの合金が存在している。例えば、Crの範囲が約4〜18重量%である、フェライト−オーステナイト系ステンレス鋼とも呼ばれる二相ステンレス鋼は、フェライト系ステンレス鋼よりも良好な溶接特性を有する。UNS番号において、S32101、S32304、及びS82441のグレードなどの特定の二相ステンレス鋼合金(例えば、それぞれ、商用のLDX2101(商標)、LDX2304(商標)、又はLDX2404(商標)など)は、S31803、S32205、及びS82122と共に、性能上の利点に加えて、優れた腐食抵抗力、製造性(フェライト系ステンレス鋼よりも良好な溶接特性をも有する)、及び商業的入手性を含む利点を提供するものと予想することができる。
炭素鋼によって得られる過電圧に類似した又はこれを上回る過電圧を得るには、通常、その表面粗度Rが約1.0マイクロメートルを上回るように、従来の低ニッケル含有ステンレス鋼の表面を粗化しなければならない。例えば、以下の例における使用が意図されている従来の430グレードのフェライト系ステンレス鋼の表面粗度Rは、入手された状態において、0.1マイクロメートル未満であった。サンドブラスト法及び酸化アルミニウム粉を使用することにより、その表面を適切に粗化した。
ステンレス鋼表面を粗化するべく、当技術分野において既知の様々な方法のいずれを想定してもよい。例えば、サンドブラストと共に、化学エッチング、ミクロ機械加工、及びミクロミリングを含む代替研磨技法(例えば、テーブルブラスト、ベルトブラスト、シリンダブラスト)及び方法を使用し、表面粗度を適切に増大させることもできる。但し、こちらも当技術分野において知られているように、表面特性は、使用する方法の詳細に従って変化することになる。例えば、サンドブラストによって得られる表面特性は、使用する粉のタイプ(例えば、酸化アルミニウム、重炭酸ナトリウム、炭化シリコン、ガラスビード、破砕ガラス)、粉粒子サイズ、ノズルサイズ、圧力、距離、角度などに従って変化する可能性がある。そして、光化学的機械加工のようなプロセスは、相対的に正確な深さと、相対的に大きなR値と、を伴う表面のミリング及び研削を実現する。
望ましい過電圧を得るために、低ニッケル含有ステンレス鋼の表面粗度の増大が必要とされるが、過剰な粗度は、受入不能な腐食特性を結果的にもたらすことになる。以下の例に基づいた場合に、最大で5.0マイクロメートルの表面粗度R値が依然として受け入れ可能であろう。特定の場合には、最大で約2.5マイクロメートルの値が好ましいであろう。但し、電気分解装置の通常動作の結果としてカソードに提供されるカソード保護を維持するか又は停電又はシャットダウンの状況における保護の代替手段を提供することが必要となろう。
表面改質された低ニッケル含有ステンレス鋼カソードは、有利には、相対的に良好な耐久性、原価、及び性能を提供しつつ、現在の従来型の炭素鋼カソードを置換することができる。このようなカソードは、従来の炭素鋼カソードの代用品として、産業用電気分解装置において使用されている標準的な炭素鋼キャリアプレートに対して問題なしに溶接することができる。溶接は、フィラーワイヤ(例えば、溶接ロッド)、遮蔽ガス、バックアップパージ、及び溶接パラメータ(電流、電圧、及び速度を含む)の異なる組合せによって実現することができる。従って、改装された電気分解装置セルの場合にも、且つ、新しい電気分解装置システムの場合にも、大規模な電気分解装置の設計変更の実施が不要である。更には、(例えば、双極タイプの)将来の設計に本発明のカソードを内蔵することもできよう。
或いは、この代わりに、産業用電気分解装置の全体が、適切なステンレス鋼から製造されており、且つ、従って、例えば、カソードが、ステンレス鋼から製造されたキャリアプレートに対して溶接される場合には、電気分解装置は、カソード保護を伴うことなしに、稼働してもよく、且つ、従って、カソード保護ユニットの利用が不要となろう。
本発明のその他の利点は、相対的に低いカソード過電位から得られるエネルギーの節約を含む。そして、いくつかのグレードの相対的に良好な腐食抵抗力により、相対的に薄いカソードの実施形態を検討し、これにより、電気分解装置の単位容積当たりの生産量を増大させると共に/又は同一レベルの出力におけるサイズ及び原価の低減を実現してもよい。又、相対的に粗い仕上げ及び炭素鋼の腐食と関連する障害メカニズムの回避によって生じる「投錨効果」に起因し、接着及び耐久性の観点において、このような表面改質されたカソードは、電気分解機能強化被覆との相対的に良好な整合性を有することになる可能性も大きい。そして、大きな利点が得られない場合にも、被覆が、剥離するか、又はその他の方式で障害が発生したら、基礎をなす表面改質ステンレス鋼基材は、通常動作の提供を継続すると共に従来の炭素鋼基材よりも格段に長期にわたって存続することにより、このような被覆されたカソードの有用寿命を延長させるものと予想されよう。
以下の例は、本発明の特性の態様を示すために包含されるものであり、決して限定として解釈するべきではない。
ミニセル試験
静的条件下において、但し、その他の点においては商用の塩素酸塩電気分解装置内において経験されるものに類似した、実験室ミニセル内において、一連のカソード材料サンプルの試験を実施した。ミニセル構造は、カソード材料サンプルをセルカソードとして使用すると共に、調整されたDSA(登録商標)をセルアノードとして使用していた。電極は、いずれも、平らなシートであった。有効試験表面は、約2cmであり、且つ、それらの間のギャップは、5.8mmであった。電解質は、450/115/5gplという濃度のNaClO/NaCl/NaCrの水溶液であった。電極を80℃の試験温度において電解質中に浸漬した。商用の電気分解装置とは異なり、電解質は、試験の際に循環してはおらず、且つ、継続的なブラインの供給は、実施されなかった。
特記されていない限り、様々なカソード材料サンプルは、表面改質されており、且つ、ミニセルへの組込みの前に、その粗度を計測した。次いで、フレッシュな電解質を加え、試験温度に加熱し、且つ、セル電圧を記録している間に印加電流密度を0.5kA/mから最大で6kA/mに傾斜上昇させるステップを伴う分極試験を実行した。次いで、試験を停止し、且つ、腐食の証拠について、サンプル電極を検査した。
Mitutoyo Surftest SJ210を使用することにより、表面粗度Rを判定した。2.5〜6インチのサンプリング長にわたって、それぞれのカソード材料サンプル上のランダムな場所において、6回の表面粗度のサンプリングを実行し、且つ、それぞれのサンプリングごとに、平均ラインからの最大逸脱を判定した。報告されているRは、これら6つの逸脱の算術二乗平均の平方根であった。
試験された改質されていないカソード材料サンプルは、以下のものを含んでいた。
−2.16μmという計測Rを有するStahrmet(登録商標)軟鋼(図及び表には、「軟鋼」と表記されている)
−供給者の2Dミル仕上げを有すると共に0.26μmという計測Rを有する420Aグレードのステンレス鋼(SS420A)(図及び表には、「SS420A−0.26μm」と表記されている)
−供給者のブライトミル仕上げを有すると共に0.06μmという計測Rを有する430グレードのステンレス鋼(SS430)(図及び表には、「SS430−0.06μm」と表記されている)
(注:ステンレス鋼サンプルは、いずれも、類似の低ニッケル含有量を、即ち、<0.25重量%を、有しており、且つ、いずれも、所定量のMn、S、P、Si、Cu、及びMoを有していた。SS420Aグレードは、0.25重量%及び12.83重量%のC及びCrの含有量を有しており、且つ、わずかな量のAlをも有していた。SS430グレードは、0.04重量%、16.64重量%、及び0.03重量%のC、Cr、及びNを有していた。)
上述のものと類似のSS420A及びSS430サンプルを採用し、且つ、それらに対して、120グリットの酸化アルミニウム粉を使用した手動サンドブラストプロセスを適用することにより、表面改質されたカソード材料サンプルを調製した。試験された表面改質サンプルは、以下のものを含んでいた。
−1.73μmという計測表面粗度RにサンドブラストされたSS420A(図及び表には、「SS420−1.73μm」と表記されている)
−0.86〜4.62μmの範囲の様々な表面粗度Rにサンドブラストされた一連のSS430サンプル(図及び表には、その表面粗度に従って、「SS430−0.86μm」〜「SS430−4.62μm」と表記されている)
更には、様々なRuO塗布量により、RuO被覆された表面改質SS430カソード材料サンプルを調製した。まず、上述のように430ステンレス鋼サンプルをサンドブラストし、且つ、次いで、RuCl溶液を使用してインハウスで被覆した後に、熱処理を施すことにより、カソード材料サンプルを製造した。具体的には、サンプルを脱脂し、洗浄し、且つ、次いで、室温において、5分間にわたって、10%HCl溶液により、エッチングした。再度洗浄すると共に乾燥させた後に、有機溶媒に溶かしたRuClの溶液を塗布した。被覆されたサンプルを乾燥させ、且つ、次いで、約420℃において、20分間にわたって、熱処理した。被覆及び熱処理を複数回にわたって適用することにより、相対的に大きな塗布量を得た。
調製及び試験されたRuO被覆された表面改質サンプルが、以下の表1に要約されている。
次いで、これらのカソード材料サンプルのそれぞれを有するミニセルの組立を実施し、且つ、80℃において、0.5〜6kA/mの電流密度の範囲にわたって、分極試験を施した。
表2は、従来の軟鋼サンプル、SS420A−0.26μmサンプル、及び表面改質カソードサンプルSS420−1.73μmにおいて得られたデータを要約している。表2は、試験された様々な電流密度におけるそれぞれのカソードサンプルごとの実験室ミニセル電圧を示している。このデータから明らかなように、改質されていないSS420A−0.26μmカソードを有するセルは、従来の軟鋼カソードを有するセルよりも、格段に大きなセル電圧又は過電圧において動作した。但し、表面改質されたSS420−1.73μmカソードを有するセルは、従来の軟鋼カソードを有するセルよりも、多少低いセル電圧においてさえも、動作した。具体的には、4kA/mにおいて、改質されていないSS420A−0.26μmカソードのセル電圧は、軟鋼セル電圧よりも、150mVだけ高くなっており、表面改質されたSS420−1.73μmカソードのセル電圧は、軟鋼セル電圧よりも、25mVだけ低くなっている。
試験に続いて、カソードサンプルを検査した。但し、SS420サンプルは、いずれも、相当に腐食していることが判明した。
表3は、様々な表面粗度にサンドブラストされた一連のSS430サンプルによって得られたデータを要約しており、且つ、比較用の改質されていないSS430及び軟鋼カソードサンプルと比較している。試験された様々な電流密度におけるそれぞれのカソードサンプルごとの実験室ミニセル電圧が示されている。
図1は、いくつかの代表的な表面改質されたSS430カソードサンプル、比較用の改質されていないSS430−0.06μmサンプル、及び従来の軟鋼サンプルにおけるミニセル電圧対電流密度のプロットを比較している(視認のためのガイドとして、軟鋼サンプルのデータを通じた線が提供されている)。図1において観察できるように、改質されていないSS430−0.06μmカソードを有するセルも、従来の軟鋼カソードを有するセルよりも格段に大きな過電圧において動作している。表面改質されたSS430サンプルの場合には、過電圧は、全般的に、約1.70μmのRを最大値として、表面粗度の増大に伴って改善されている。約1.15μm以下の表面粗度を有するSS430カソードを有するミニセルは、改質されていないSS430−0.06μmカソードを有するセルよりも低い動作電圧を有していたが、従来の軟鋼カソードを有するセルほどに低くはなかった。但し、約1.70μm以上の表面粗度を有するSS430カソードを有するミニセルは、従来の軟鋼カソードを有するセルと類似の又はこれよりも低い動作電圧を有していた。但し、1.81μmへの表面粗度の増大は(図1には示されておらず、表3を参照されたい)、動作セル電圧を更に大幅に低減するようには思えなかった。具体的には、4kA/mにおいて、改質されていないSS430−0.06μmカソードセル電圧は、軟鋼セル電圧よりも約230mVだけ高く、SS430−1.81μmカソードセル電圧は、軟鋼セル電圧よりも約70mVだけ低かった。
図2は、SS430カソードサンプルの表面粗度の関数として、いくつかの代表的な電流密度において観察されたミニセル電圧をプロットしている。具体的には、2、3、及び4kA/mにおけるミニセル電圧がプロットされている。予想どおりに、ミニセル電圧は、使用される電流密度に伴って増大している。そして、当初、ミニセル電圧は、表面粗度に伴って減少している。但し、意外にも、それぞれの電流密度におけるミニセル電圧は、約1.8μmの表面粗度においてその最低値となるようである。
図3は、様々なRuO被覆された表面改質SS430カソードサンプルと従来の軟鋼サンプルにおけるミニセル電圧対電流密度プロットを比較している。図3において観察されるように、RuO被覆された表面改質SS430カソードを有するすべてのセルは、従来の軟鋼カソードを有するセルよりも大幅に低いセル電圧において動作した。但し、実行された試験に基づいた場合に、RuOの塗布量は、セル電圧に対して大きな影響を及ぼしてはいない。4kA/mにおいて、RuO被覆された表面改質SS430カソードセル電圧は、軟鋼カソードセル電圧よりも、格段に、即ち、約240〜280mVだけ、低くなっている。
上述のすべてのSS430及びRuO被覆サンプル試験の後に、いずれのサンプル上にも、可視腐食が観察されなかった。
別の一連のフェライト系カソード材料サンプルを入手し、表面を改質し、且つ、上述のように実験室ミニセル内において試験し、且つ/又は、後述するように腐食試験を実施した。ここで、サンプルは、以下のものを含んでいた。
−0.042重量%のC、0.36重量%のSi、0.48重量%のMn、0.031重量%のP、0.0015重量%のS、16.13重量%のCr、0.15重量%のNi、及び0.041重量%のNという組成を有する430グレードのステンレス鋼であって、残りの部分は、Feであり、且つ、サンドブラストの後に、2.13μmという計測Rを有する(図4には、「SS430」と表記されている)
−0.005重量%のC、0.1重量%のSi、0.11重量%のMn、0.025重量%のP、0.002重量%のS、16.39重量%のCr、0.29重量%のTiという組成を有する430Dグレードのステンレス鋼であって、残りは、Feでり、且つ、サンドブラストの後に、2.1μmという計測Rを有する(図4には、「SS430D」と表記されている)
−0.004重量%のC、0.1重量%のSi、0.08重量%のMn、0.022重量%のP、0.001重量%のS、17.20重量%のCr、0重量%のNi、0.18重量%のTi、0.01重量%のN、0.48重量%のMo、0.02重量%のCuという組成を有する432グレードのステンレス鋼であって、残りは、Feであり、且つ、サンドブラストの後に、1.89μmという計測Rを有する(「432」と表記されるが、図4には、示されていない)
−0.005重量%のC、0.1重量%のSi、0.09重量%のMn、0.022重量%のP、0.002重量%のS、17.2重量%のCr、0.23重量%のTi、0.011重量%のNという組成を有する436Sグレードのステンレス鋼であって、残りは、Feであり、且つ、サンドブラストの後に、2.09μmという計測Rを有する(図4には、「SS436S」と表記されている)
−0.018重量%のC、0.38重量%のSi、1.54重量%のMn、0.023重量%のP、0.001重量%のS、22.50重量%のCr、5.70重量%のNi、0.017重量%のN、3.10重量%のMoという組成を有するLDX2205グレードのステンレス鋼であって、残りは、Feであり、且つ、サンドブラストの後に、1.73μmという計測Rを有する(「LDX2205」と表記されるが、図4には、示されていない)
−0.004重量%のC、0.12重量%のSi、0.10重量%のMn、0.024重量%のP、0.001重量%のS、14.4重量%のCr、0.11重量%のSn、0.20重量%のNb+Tiの組合せ、0.010重量%のNという組成を有する第1のドーピングされたグレードのステンレス鋼であり、残りは、Feであり、且つ、サンドブラストの後に、2.35という計測Rを有する(図4には、「Doped−1」と表記されている)
−0.005重量%のC、0.07重量%のSi、0.06重量%のMn、0.020重量%のP、0.001重量%のS、16.4重量%のCr、0.31重量%のSn、0.22重量%のNb+Tiの組合せ、0.010重量%のNという組成を有する第2のドーピングされたグレードのステンレス鋼であって、残りは、Feであり、且つ、サンドブラストの後に、2.14μmという計測Rを有する(図4には、「Doped−2」と表記されている)
図4は、これらの表面改質されたフェライト系の並びに表面改質及びドーピングされたフェライト系のカソードサンプルと図1の従来の軟鋼サンプルについて得られたミニセル電圧対電流密度のプロットを比較している(432サンプルについては、試験を実行しておらず、且つ、従って、図4に表示されてはいない。そして、LDX2205サンプルについては、4kA/mにおける電圧のみが得られており、且つ、従って、こちらも、図4には、表示されていない。このLDX2205サンプルの電圧は、3.18ボルトであった)。すべての計測において、表面改質されたサンプルの結果は、従来の軟鋼サンプルに匹敵しているか又はそれよりも良好であった。
又、腐食に関係する更なる情報を取得するべく、パイロットスケールの塩素酸塩反応炉からの循環する腐食性の「ハイポ(hypo)」電解質に個々のサンプルが曝露する腐食テストを従来の軟鋼サンプルを含む上述のサンプルに対して施した(「ハイポ」は、約70℃において60L/hの流量において循環するHClO及びNaClOの約4g/Lの溶液を有しており、且つ、4kA/mの電流密度において動作する反応炉から得られたものであった)。サンプルは、面積が約80mm×35mmであり、且つ、厚さが約3mmであり、且つ、これらを最大で5時間にわたって電解質に曝露させた。次いで、この曝露の結果として得られるサンプルの重量損失に基づいて、腐食速度を判定した(単位面積及び時間当たりの重量損失として記録した)。表4は、観察された腐食速度のいくつかを要約している。
試験されたすべてのサンプルにおける腐食速度が、受け入れ可能であると判断された(LDX2205サンプルについて計測された腐食速度は、非常に小さかったことに留意されたい。これは、正しいが、その他の試験は、隙間腐食に対して注意する必要があることを示しており、その理由は、これが格段に重大である場合があるからである)。
これらの例は、腐食に対する受け入れ可能な抵抗力を依然として維持しつつ、塩素酸塩電気分解装置の従来の軟鋼カソードの過電圧性能に類似した又はこれよも良好な過電圧性能を提供するように、SS430、SS430D、SS436、及びドーピングされたフェライト系ステンレス鋼に基づいたカソードを適切に表面改質してもよいことを示している。
パイロットセル試験
商用塩素酸塩電気分解装置において経験する条件と同一の条件下において、相対的に大規模なパイロットスケール電気化学セル内において、(図4のSS430サンプルの組成に類似した組成を有する)表面改質されたSS430カソード、(図4のDoped−2サンプルの組成に類似した組成を有する)表面改質されたDoped−2タイプカソード、及び従来のStahrmet(登録商標)軟鋼カソード上において比較試験を実行した。パイロットセルは、有効面積が19平方インチである平らなシートのカソードと、同一の市販のアノード(RuO被覆を有するDSA)と、塩素酸ナトリウム、塩化ナトリウム、及び重クロム酸ナトリウムの水溶液を有すると共に450/110/5gplの濃度でNaClO/NaCl/NaCrを有する電解質と、を利用していた。電解質は、0.8リットル/アンペア−時間の流量でセルを通じて流れ、且つ、6.0のpHに制御された。試験において、温度は、80℃〜90℃の範囲であり、且つ、電流密度は、2kA/m〜4kA/mの範囲であった。試験においては、パイロットセル電圧が記録され、且つ、セルによって生成されるオフガス中の酸素濃度も監視された。酸素は、このタイプの電気分解における望ましくない副産物である。オフガス中における相対的に高い酸素濃度は、相対的に低い電流効率を(即ち、同一の量の塩素酸ナトリウムを生成するために相対的に多くのエネルギーが消費されることを)示している。更には、相対的に高い酸素濃度は、こちらも生成される水素ガスと混合した際に、安全上の懸念を提起する(両方の電極材料を含む多くの要因が酸素濃度に対して影響を及ぼす可能性がある。これは、電極腐食の直接的なインジケータではないが、電極の選択との関係において考慮するべき非常に重要な基準である)。
この場合にも、試験されたカソードは、2.16μmという計測Rを有する従来の比較用のStahrmet(登録商標)軟鋼カソード、1.54μmという計測RにサンドブラストされたSS430カソード、及び1.91μmという計測RにサンドブラストされたDoped−2タイプのステンレス鋼カソードを含んでいた。
まず、通常の製造用の電気分解において使用される温度及び電流密度(90℃及び4kA/m)から低減された温度及び電流密度(80℃及び2kA/m)において稼働させることにより、すべてのセルを調整した。1〜6日間にわたって、製造用の電気分解に一般に使用されている90℃及び4kA/mという値に、温度及び電流密度を増大させた。動作は、セル電圧が安定化した状態において、これらの設定において継続した。調整の際には、動作の最初の2〜3週間程度にわたって、セル電圧がドリフトする。これは、正常な現象であり、且つ、DSA(登録商標)アノード及びカソードの分極の調整に起因している。図5は、セル電圧が安定化した後の通常状態におけるパイロットセルの動作電圧対動作日数を比較している(図5においては、第12日目以降の電圧が示されている。比較用の軟鋼カソードは、最大で追加の12日間にわたって事前調整されていることに留意されたい)。図5において明らかなように、表面改質されたSS430カソードを有するセルは、比較用のセルよりも、著しく低いセル電圧を有している。12日間の調整の後に、表面改質されたSS430カソードに基づいたセルは、3.18ボルトにおいて動作しており、且つ、オフガス中の酸素濃度は、1.7%と低かった。驚いたことに、表面改質されたDoped−2直列カソードを有するセルは、表面改質されたSS430カソードよりも低いセル電圧を有しており、且つ、その優れた性能は、85日間超の動作にわたって維持されている。
これらの通常のパイロットセル動作条件下において表面改質されたSS430カソードの腐食抵抗力の指標を得るべく、セルからの約1200mlの電解質を934−AHのガラスマイクロファイバフィルタペーパーを通じてフィルタリングした。フィルタペーパーに、変色は観察されず、通常の動作条件下における20日間のパイロットセルの動作の後に電解質における腐食の証拠は、示されなかった。
この場合にも、表面改質されたSS430カソードの評価との関係において、試験は、カソード保護が存在している合計で46日間にわたって、通常の製造用の電気分解条件下において、継続した。その後に、パイロットセルに対して電源中断試験を施した。この試験は、カソード保護が存在していない電気分解装置のシャットダウンの際における腐食抵抗力を評価するものである。試験は、5分間にわたって電源を3回にわたって遮断するステップを有しており、これには、その間に5分間の通常動作が伴っていた。この場合にも、電解質サンプルを採取し、且つ、フィルタペーパーを通じてフィルタリングした。今回は、カソード腐食の証拠が観察された。但し、軟鋼カソード上において観察されるものとは異なり、SS430カソード上における腐食パターンは、局所化(例えば、ピッティング)されており、且つ、表面の全体にわたってはいなかった。従って、軟鋼との比較における改善が示されており、且つ、大部分のSS430表面の上部に位置した被覆が影響を受けないものと予想されよう。
そのパイロットセルからの電解質をフィルタリングし、且つ、残留物及び変色についてチェックすることにより、類似の方式により、表面改質されたDoped−2カソードの腐食抵抗力の指標を得た。この場合にも、通常のパイロットセルの動作状態の後に、且つ、電源中断試験の後に、電解質サンプルを取得した。この場合には、3.21ボルト未満という著しく低いセル電圧を依然として維持しつつ、137日間にわたって、パイロットセルを正常に動作させた。次いで、電解質サンプルを取得し、且つ、セルに対して電源中断試験を施し、その後に、別の電解質サンプルを取得した。この場合にも、フィルタペーパーに、変色は観察されず、137日間の通常のパイロットセル動作の後に、電解質における腐食の証拠は、示されなかった。そして、この場合にも、腐食の証拠は、電源中断の後に観察されたが、この場合にも、Doped−2カソード上における腐食パターンは、局所化されており、フィルタペーパーの変色は、適度なものであり、且つ、軟鋼との比較における改善が示されている。
この例は、表面改質SS430及びDoped−2直列カソードを有するセルにおける大幅に改善された過電圧のみならず、改善された腐食抵抗力をも実証している。
本明細書において引用された上述の米国特許、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、及び非特許文献のすべては、引用により、そのすべてが本明細書に包含される。
本発明の特定の要素、実施形態、及び用途について図示及び記述したが、当然のことながら、本発明は、これらに限定されるものではなく、その理由は、当業者が、特に、上述の教示内容に鑑み、本開示の精神及び範囲を逸脱することなしに、変更を実施してもよいからであることを理解されたい。例えば、上述の説明及び例は、塩素酸塩電気分解装置を対象としているが、本発明は、その代わりに、塩素−アルカリ製造、水素電気分解、海水の淡水化、或いは、(例えば、液体燃料及び産業用化学薬品への二酸化炭素の変換などの)有効な低費用の化学的抵抗力を有するカソード電極材料を必要としている化学製造のために使用されるその他の産業用電気化学用途に使用可能であろう。これらの変更は、添付の請求項の領域及び範囲に含まれるものと見なされたい。

Claims (14)

  1. ステンレス鋼電極を有するカソードを備える産業用電気分解装置であって、前記ステンレス鋼電極0.9〜5.5マイクロメートルの表面粗度Rを特徴とし、前記ステンレス鋼電極が、ニッケルを含まない又は6.6重量%未満のニッケルを含み、前記産業用電気分解装置は、塩素酸ナトリウムを製造するためのものである、産業用電気分解装置。
  2. 前記ステンレス鋼電極は、2.75マイクロメートル未満の表面粗度Rを特徴とする請求項1に記載の産業用電気分解装置。
  3. 前記ステンレス鋼は、フェライト系ステンレス鋼である、請求項1に記載の産業用電気分解装置。
  4. 前記フェライト系ステンレス鋼は、Moドーパント、Snドーパント、TiドーパントまたはVドーパントをさらに有する請求項3に記載の産業用電気分解装置。
  5. 前記ステンレス鋼は、430、430D、432、及び436Sグレードのフェライト系ステンレス鋼から構成された群から選択される請求項3に記載の産業用電気分解装置。
  6. 前記ステンレス鋼は、Cu、Mo、N、Nb、Sn、Ti、V、及びWから構成された群から選択されるドーパントを有する請求項1に記載の産業用電気分解装置。
  7. 前記ステンレス鋼は、二相ステンレス鋼である請求項1に記載の産業用電気分解装置。
  8. 前記ステンレス鋼は、S31803、S32101、S32205、S32304、S82441、S82011、及びS82122グレードの二相ステンレス鋼から構成された群から選択される請求項7に記載の産業用電気分解装置。
  9. 前記ステンレス鋼は、0.033重量%未満の炭素を有するか、0.0055重量%未満の炭素を有する請求項1に記載の産業用電気分解装置。
  10. 前記ステンレス鋼は、0.033重量%未満のリンと、0.0033重量%未満の硫黄と、を有する請求項1に記載の産業用電気分解装置。
  11. 前記低ニッケル含有ステンレス鋼電極上に適用された被覆を有する請求項1に記載の産業用電気分解装置。
  12. 前記カソードは、炭素鋼又はステンレス鋼から製造されたキャリアプレートに溶接されている請求項1に記載の産業用電気分解装置。
  13. 腐食に対する産業用電気分解装置のカソードの抵抗力を維持しつつ、ブラインの電気分解の際に前記産業用電気分解装置のカソードの過電圧を低減する方法であって、
    テンレス鋼カソードの表面を0.9〜5.5マイクロメートルの表面粗度Rに粗化するステップであって、前記ステンレス鋼カソードが、ニッケルを含まない又は6.6重量%未満のニッケルを含んでいるステップを有する方法。
  14. 前記粗化ステップは、前記カソードの表面を酸化アルミニウム粉によってサンドブラストするステップを有する請求項13に記載の方法。
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