ここで、制震補強架構は屋外に配置されることで、支柱とつなぎ梁は日照による熱の影響で軸方向に伸縮する可能性があるが、複数層に亘り、絶縁装置を介して軸方向に連続する支柱に熱による伸縮の影響が現れ易く、上層程、伸縮量が蓄積する。支柱の伸長量が蓄積すれば、隣接する支柱の上層側と下層側間に架設されるブレースに内蔵されたダンパーの効きに影響を与える可能性もある。
本発明は上記背景より、主構造体の構面外に制震補強架構を配置する場合に、制震補強架構を構成する支柱が熱の影響で伸長することを防止する制震補強架構柱の軸力導入装置を提案するものである。
請求項1に記載の発明の制震補強架構柱の軸力導入装置は、柱・梁からなるフレームを有する主構造体の構面外にその構面に平行に配列し、互いに間隔を隔てて立設される支柱と、構面内水平方向に隣接する支柱間に架設されるつなぎ梁と、構面内水平方向に隣接する支柱間に架設される、ブレース本体にダンパーを組み込んだダンパー一体型ブレースを備え、前記支柱が鉛直方向に複数本の支柱材に分離し、上下に分離した支柱材間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置が介在した、前記主構造体を制震補強するための制震補強架構が前記主構造体の前記フレームから距離を置いた位置に配置され、前記主構造体に接合された制震補強架構付き構造物において、
平面上、前記支柱を挟んだ位置、または包囲した位置に前記支柱に平行に立設される補助柱と、前記支柱の最上部の前記支柱材上に設置され、前記補助柱に接合される反力受け材と、この反力受け材に前記支柱の軸方向に平行な方向の引張力を付与する軸力導入材とを備え、
前記軸力導入材は前記反力受け材に前記引張力を付与するときに、その引張力の反力としての圧縮力を前記最上部の前記支柱材に軸方向に導入することを構成要件とする。
制震補強架構1の複数本の支柱2は図11に示すように主構造体6の構面に平行に、構面内水平方向に互いに間隔を隔てて配列し、各支柱2は鉛直方向に複数本の支柱材21〜23に分離する。上下に分離した支柱材21、22(22、23)間には両者間の相対水平移動を許容しながら、相対水平移動後に原位置に復帰させる絶縁装置5が介在する。同一レベルで水平方向に隣接する支柱材21、21(22、22(23、23))間には両支柱材21、21を互いにつなぎ、相対水平移動時にも両支柱材21、21の軸線が鉛直方向を向くように両支柱材21、21を保持するつなぎ梁3が架設される。
レベルを異にして隣接する支柱材21、22(22、23)間にはその隣接する支柱材21、22(22、23)間の相対水平移動時に、支柱材21、22(22、23)間の距離の変化に応じて伸縮し、その相対移動量、または相対速度に応じた減衰力を発生するダンパー42を内蔵したダンパー一体型ブレース(以下、ブレース)4が架設される。「構面内水平方向」は主構造体6の桁行方向を指し、主構造体6のスパン方向は構面外方向になる。
制震補強架構1は少なくともいずれかの支柱2において主構造体6の柱61に接合されるが、主構造体6の層間変形時の主構造体6からの水平せん断力を制震補強架構1に伝達させるために、制震補強架構1は図1、図12に示すようにつなぎ梁3においても主構造体6の梁やスラブ、壁62等の構造部材に接続スラブ31を介して接合される。接続スラブ31は主構造体6の構造部材とつなぎ梁3との間に構築され、双方に少なくとも水平せん断力の伝達が可能な状態に接合される。
請求項1における「制震補強架構柱」の「柱」は支柱2を指す。支柱2は主に鉄骨造、または鉄筋コンクリート造(鉄骨鉄筋コンクリート造を含む)である。また請求項1における「制震補強架構1が主構造体6のフレームから距離を置いた位置に配置される」の「フレーム」は主構造体6の制震補強架構1寄りの、構面内方向に平行な構面をなす、柱・梁等からなるフレームを指す。
請求項1における「平面上、」とは平面で見たときの状況を言い、「平面上、支柱2を挟んだ位置、または包囲した位置に支柱2に平行に立設される補助柱」とは、補助柱8が平面上、支柱2の周囲に均等に分散して配置されることを言う。1本の支柱2の周囲に配置される補助柱8の本数は2本に限られず、3本以上のこともある。補助柱8は最上部の支柱材23上に直接、もしくは後述の中間部材13等を挟んで間接的に、軸方向を鉛直方向に向けて設置される。反力受け材9は補助柱8に直接的に、またはつなぎ材15等の中間部材を挟んで間接的に接合される。
請求項1における「軸力導入材が反力受け材に軸方向に平行な方向の引張力を付与するときに、引張力の反力としての圧縮力を最上部の支柱材に軸方向に導入する」とは、軸力導入材10が反力受け材9に軸方向の引張力を付与するときの反力が最上部の支柱材23に圧縮力として伝達され、支柱2に軸方向圧縮力が導入されることを言う。
軸力導入材10は反力受け材9に軸方向の引張力を導入するときに利用する反力を最上部の支柱材23に、引張力と逆向きに付与する機能を持てばよく、例えばPC鋼材に張力(緊張力)を導入するセンターホールジャッキその他のジャッキも軸力導入材10としては使用可能である。但し、ジャッキは反力受け材9への引張力の付与時に設置され、引張力の付与後には撤去(回収)されることから、図面では単純な構造で、撤去を必要としない雄ねじを軸力導入材10として使用している。
図示しないが、軸力導入材10としてジャッキを使用する場合、ジャッキは支柱材23上に載置される等、支柱材23に軸方向下向きに反力を付与可能に、下方へ係止した状態で、軸方向を鉛直方向に向けて設置される。ジャッキは反力受け材9を把持し、支柱材23に反力を取りながら、支柱材23の軸方向に伸長等することにより反力受け材9に軸方向引張力を導入しながら、支柱材23に軸方向圧縮力を付与することになる。ジャッキの伸長による反力受け材9への引張力導入の結果、反力受け材9に接合された補助柱8に引張力が付与される。
軸力導入材10が図示するような雄ねじの場合、反力受け材9には雄ねじが螺入する雌ねじ9aを有する筒形に形成される。詳しくは棒状の軸力導入材10の軸方向の少なくとも一部の区間の外周面に雄ねじ10aが形成され、反力受け材9の軸方向の少なくとも一部の区間に軸力導入材10の雄ねじ10aが螺入する雌ねじ9aが形成される(請求項2)。雌ねじ9aが形成される反力受け材9の一部の区間は筒形に形成された区間であり、この筒形区間の内周面に雌ねじ9aが形成される。
但し、最上部の支柱材23には反力受け材9に螺入する軸力導入材10から軸方向圧縮力が導入されることから、軸力導入材10の下端部(突出部10b)は反力受け材9を貫通し、反力受け材9の下端面から突出することになる。この関係で、反力受け材9の中空の内周面は軸方向に連続し、その少なくとも一部の区間に軸力導入材10の雄ねじ10aが螺入する雌ねじ9aが形成される。
軸力導入材10の反力受け材9への螺入は例えば図8等に示すように軸力導入材10の上端部に形成された、図4に示す多角形状の頭部10cにレンチ等の回転用工具17を軸力導入材10の軸方向に嵌合させ、軸力導入材10の軸の回りに回転させることにより行われる。頭部10cの多角形状は軸力導入材10の軸に直交する方向に見たときの形状を言う。
反力受け材9は支柱2の最上部の支柱材23上に、軸方向を鉛直方向に向けて設置され、軸力導入材10の反力受け材9への螺入に伴う反力としての引張力を補助柱8に伝達するために、反力受け材9は補助柱8に(剛に)接合される(請求項1)。軸力導入材10は反力受け材9への螺入に伴い、支柱材23側へ移動し、反力受け材9に反力を取りながら、支柱材23を鉛直方向下方側へ押し下げ、支柱2に軸方向圧縮力を付与する。反力受け材9は支柱材23上に配置されるため、平面上、支柱2の周囲に配置される補助柱8とは、上記のように例えば補助柱8と反力受け材9間に架設されるつなぎ材15を介して補助柱8に接合される。
軸力導入材10は棒状であるから、軸力導入材10の軸方向の先端(突出部10bの下面)が直接、支柱材23を鉛直方向下方側へ押す場合、軸力導入材10からの圧縮力が支柱材23の平面上の中央部に集中的に作用し得る状態になり、支柱材23の断面の広範囲に、均等に分散させて作用させることができない可能性がある。
そこで、軸力導入材10からの圧縮力を最上部の支柱材23の断面の広範囲に分散させて作用させる上では、軸力導入材10の下端部に、軸力導入材10の材軸に直交する断面積より大きい断面積を持つ軸力伝達材11を接続し、軸力導入材11と最上部の支柱材23との間に介在させることが合理的である(請求項3)。「接続」とは、基本的に軸力伝達材11が軸力導入材10に接合(固定)される場合と、軸力伝達材11が軸力導入材10に対し、軸回りに相対回転可能に連結される場合を含み、反力受け材9への螺入に伴う軸力導入材10の軸方向圧縮力が軸力伝達材11に伝達されるように接続されることを言う。
但し、軸力伝達材11が軸力導入材10に接合されていれば、軸力導入材10の軸回りの回転時に軸力伝達材11と最上部の支柱材23の接触面(周面)に摩擦力による発熱の可能性があるため、この摩擦力の発生を回避する上では、軸力伝達材11は軸力導入材10に対し、軸回りの相対的な回転が自由なように、すなわち軸力導入材10の回転時に軸力伝達材11が回転しない状態に保たれるよう、両者の接触面に低摩擦材が介在させられることが望ましい。
この場合、軸力導入材10の断面積より大きい断面積の軸力伝達材11が軸力導入材10の下端部に接続されることで、軸力導入材10からの軸方向圧縮力が軸力伝達材11の断面積分に分散して支柱材23に伝達されるため、圧縮力を支柱材23の断面上の一部に集中させることがなくなり、支柱材23の全断面にほぼ均等に圧縮力を加えることが可能になる。圧縮力を均等に加えることは、軸力伝達材11の断面積に支柱材23の断面積と同等の大きさを持たせることで可能になる。
軸力伝達材11の断面積は軸力導入材10の断面積より大きければ、少なくとも軸力導入材10が直接、支柱材23を押圧する場合より圧力を分散させることができる。従って軸力伝達材11の断面積が支柱材23の断面積に近付く程、より均等に圧縮力を支柱材23に付与することが可能である。
以上のように軸力導入材10が反力受け材9に反力を取りながら、制震補強架構1の支柱2に軸方向圧縮力を導入することで、支柱2が日照を受けることによる熱に起因して伸長を生じにくくなるため、支柱2が熱伸縮を生じにくくなる。この結果、支柱2の熱伸縮が、隣接する支柱2の上層側と下層側間に架設されるブレース4のダンパー42の効きに影響を与えことがなくなり、ダンパー42の効きを低下させる事態を回避することが可能になる。
軸力導入材10が支柱2に軸方向圧縮力を導入する一方、反力受け材9に軸方向引張力を付与することで、反力受け材9を通じて補助柱8に軸方向引張力が導入される。補助柱8に軸方向引張力が導入されることで、支柱2への圧縮力の付与後にも、補助柱8からの反力が常に支柱2に圧縮力として作用し続ける状態が得られる。この結果、回転用工具17を常時、軸力導入材10の頭部10cに装着しておく必要から解放され、平常時には回転用工具17を軸力導入材10から外した状態にしておくことが可能になる。
制震補強架構1の支柱2が配列する(構面内)方向の水平力が発生したときには、前記のように絶縁装置5を挟んで分離した上下の支柱材21、22(22、23)が変形前と軸の方向を変えずに相対移動する(特許文献1の図3)。支柱2の周囲に配置される補助柱8は、支柱材21、21間の相対移動による支柱2の変形に追従して曲げ変形することになるため、補助柱8は支柱2の変形を阻害しないよう、少なくとも支柱2が変形しようとする方向の曲げ剛性は他の方向の曲げ剛性より低下させられる。
ここで、最上部の支柱材23の上に設置される反力受け材9は補助柱8には、補助柱8との間に架設されるつなぎ材15等を介して接合されることから、最上部の支柱材23より上の区間では補助柱8と反力受け材9が支柱2全体との対比では変形しにくい、剛な架構を形成し易く、最上部の支柱材23より上の区間において補助柱8の曲げ剛性を支柱2より低下させることの利点が生かされなくなる可能性がある。
そこで、最上部の支柱材23と反力受け材9との間に両者間の相対水平移動を許容する絶縁装置12を介在させることで(請求項4)、補助柱8に接合された反力受け材9が補助柱8と共に、最上部の支柱材23に対して水平方向に相対移動し易い状態にすることができる。この結果、反力受け材9が補助柱8に接合されること自体が支柱2全体の変形を阻害することがなくなり、隣接する支柱2、2間に架設されるブレース4に内蔵されたダンパー42の効きをよくし、ダンパー42によるエネルギ吸収能力を向上させることが可能になる。
隣接する支柱と、隣接する支柱間に架設されるつなぎ梁とダンパー一体型ブレースを備えた制震補強架構において、最上部の支柱材の上に、支柱の周囲に配置される補助柱に接合される反力受け材を設置し、反力受け材に軸方向引張力を付与しながら、支柱材に軸方向圧縮力を導入する軸力導入材を組み合わせるため、軸力導入材が反力受け材に反力を取りながら、制震補強架構の支柱に軸方向圧縮力を導入することができる。この結果、支柱が熱による伸縮が生じにくくなるため、支柱の伸縮が隣接する支柱の上層側と下層側間に架設されるブレースのダンパーの効きに影響を与えことがなくなり、ダンパーの効きを低下させる事態を回避することができる。
図1、図2は図11に示すように柱・梁からなるフレームを有する主構造体6の構面外にその構面に平行に、主構造体6を制震補強するための制震補強架構1が主構造体6のフレームから距離を置いた位置に配置され、主構造体6に接合された制震補強架構付き構造物において、制震補強架構1を構成する支柱2に予め軸方向圧縮力を導入する軸力導入装置7の構成例を示す。主構造体6は既存の場合と新設の場合があり、種別的には鉄筋コンクリート造(鉄骨鉄筋コンクリート造を含む)と鉄骨造がある。
制震補強架構1は図11〜図13に示すように主構造体6の構面内水平方向に配列し、互いに間隔を隔てて立設される複数本の支柱2と、構面内水平方向に隣接する支柱2、2間に水平に架設されるつなぎ梁3と、構面内水平方向に隣接する支柱2、2間に、水平に対して傾斜して架設される、ブレース本体41にダンパー42を組み込んだダンパー一体型ブレース(以下、ブレース)4を基本的な構成要素として備える。
制震補強架構1は図12に示すようにつなぎ梁3において主構造体6の梁やスラブ、壁62等の構造部材に両者間に跨り、双方に少なくとも水平せん断力の伝達が可能な状態に接続スラブ31を介して接合される。「少なくとも」とは、主構造体6と制震補強架構1との間の水平せん断力のみが伝達可能な場合と、水平せん断力の他、いずれかの回りの曲げモーメント、または鉛直荷重も伝達可能な場合があることを言う。
接続スラブ31と壁62及びつなぎ梁3との接合方法は両者間で水平せん断力が伝達可能であれば問われないが、図面では図1、図12等に示すように接続スラブ31と壁62との間、及び接続スラブ31とつなぎ梁3との間に跨ってそれぞれに埋設され、両者間でのせん断力の伝達が可能なせん断抵抗材32を用いて接合している。図1、図12等に示すせん断抵抗材32はそれが接合する部材の双方に跨って定着される定着部とこれを貫通する棒状のアンカーから構成されている。
支柱2は図11、図13に示すように鉛直方向に複数本の支柱材21〜23に分離し、上下に分離した支柱材21、22(22、23)間に両者間の相対水平移動を許容する積層ゴム支承等の絶縁装置5が介在する。制震補強架構1は主構造体6の構面(フレームの構面内方向)に沿って付加的に設置されるため、主に鉄骨造で構築されるが、鉄筋コンクリート造の場合もある。
支柱2は最下部に位置する支柱材21とその上に位置する上部の支柱材22の、計2本の支柱材21、22からなる場合と、図13に示すように最下部の支柱材21とその上に位置する2本以上の上部の支柱材22、23の、計3本以上の支柱材21〜23からなる場合がある。全支柱材21〜23の内、最下部の支柱材21は図13に示すように制震補強架構1が主構造体6の層間変形に追従して変形するときにも相対移動せずに原位置に留まるため、主構造体6の柱61に接合される。以下では最上部の支柱材を支柱材23と、最下部の支柱材21と最上部の支柱材23の中間の支柱材を支柱材22と言う。
絶縁装置5は図13に示すようにそれが跨る上下の支柱材21、22(22、23)間の水平方向の相対移動を許容しながら、相対移動後に支柱材21、22(22、23)を相対移動前の状態に復帰させる状態(復元可能)に接合される。絶縁装置5として積層ゴム支承が使用される場合は、積層ゴム支承が復元装置を兼ね、積層ゴム支承以外の支承が使用される場合は、ばね等の復元装置が伴われる。
ブレース4は制震補強架構1内に、水平と鉛直に対して傾斜して架設されるため、ブレース4の一端部は例えば図11に示すように構面内水平方向に隣接する支柱材21、21(22、22)の内、一方の支柱材21(22)、もしくはその支柱材21(22)寄りのつなぎ梁3に接続(連結)され、他端部は他方の支柱材21(22)の直下、または直上の支柱材21(22)、もしくはその支柱材22(21)寄りのつなぎ梁3に接続(連結)される。
図13に示すように1本の支柱2が3本以上の支柱材21〜23からなる場合は、ブレース4の架設層が2層以上に亘ることから、最下層のブレース4の一端部は支柱材が2本の場合と同じく最下部の支柱材21やつなぎ梁3に接続され、他端部は水平方向に隣接する最下部の支柱材21の直上の支柱材22やつなぎ梁3に接続される。その直上層のブレース4の一端部は最下部の支柱材21の直上の支柱材22やつなぎ梁3に接続され、他端はその支柱材22に隣接する支柱材22の直上の支柱材23やつなぎ梁3に接続される。
ブレース4は図11に示すように互いに軸方向に相対移動自在なブレース本体41と、一方のブレース本体41に内蔵され、他方のブレース本体41に接続されるダンパー42からなり、ブレース本体41の端部に一体化したブラケットにおいて、例えば制震補強架構1の支柱2やつなぎ梁3に接合されたベースプレート等に一体化したガセットプレートに連結される。ブレース4はブレース本体41がその両端間に作用する圧縮力と引張力によって相対移動するときにダンパー42が減衰力を発生することにより構造体2の揺れを抑制する。ダンパー42にはオイルダンパー(油圧シリンダ)等の粘性流体を用いたダンパーが使用される。
軸力導入装置7は平面上、支柱2を挟んだ位置、または包囲した位置に支柱2の軸線に平行に立設される補助柱8と、支柱2の最上部の支柱材23上に直接、もしくは間接的に軸方向を鉛直方向に向けて設置され、補助柱8に直接、もしくは間接的に接合される反力受け材9と、反力受け材9に支柱2の軸方向に平行な方向の引張力を付与する軸力導入材10を構成要素として備える。
補助柱8は制震補強架構1が図13に示すような構面内方向の変形を生じたときの、上下の支柱材21、22(22、23)間の相対水平移動による支柱2の変形を阻害しないよう、支柱2の変形に追従するように変形する必要があるため、少なくとも制震補強架構1の構面内方向の、補助柱8の曲げ剛性は抑えられる。制震補強架構1の構面内方向は図1では補助柱8、8が並列する方向に直交する方向であり、図8ではブレース4とつなぎ梁3の架設方向である。
図面では制震補強架構1を構成する支柱2とつなぎ梁3に鋼材としてH形鋼を使用していることに倣い、補助柱8にもH形鋼を使用しているが、補助柱8にH形鋼を使用した場合、制震補強架構1の構面内方向に補助柱8が変形し易いよう、図8、図9に示すようにH形鋼の弱軸方向が制震補強架構1の構面内方向を向くように補助柱8が配置されることが適切である。但し、支柱2とつなぎ梁3、及び補助柱8はH形鋼である必要はない。
軸力導入材10は反力受け材9に軸方向の引張力を導入しながら、そのときに取るべき反力を最上部の支柱材23に作用させればよいため、反力受け材9に軸方向引張力を導入するジャッキ(センターホールジャッキ)も軸力導入材10として使用可能であるが、図面では外周面に雄ねじ10aが形成された棒材を軸力導入材10として使用している。
軸力導入材10が棒材の場合、軸力導入材10の軸方向の少なくとも一部の区間の外周面に雄ねじ10aが形成され、反力受け材9の軸方向の少なくとも一部の区間に、軸力導入材10の雄ねじ10aが螺入する雌ねじ9aが形成される。軸力導入材10は反力受け材9の雌ねじ9aへの螺入に伴い、最上部の支柱材23を押し下げる働きをするため、図1、図3に示すように軸力導入材10は反力受け材9を軸方向に貫通し、支柱材23側の先端部(下端部)である突出部10bが反力受け材9の下端面から突出し、支柱材23に直接、もしくは図示するような後述の軸力伝達材11と中間部材13を介して間接的に接触する。反力受け材9の雌ねじ9aは図6に示すように反力受け材9に軸方向に連続して形成される中空部の内周面に形成される。
反力受け材9の雌ねじ9aへの軸力導入材10の螺入は例えば図8、図9、図14に示すような軸力導入材10の径に対応した規模を持つ回転用工具17を図4に示す軸力導入材10の、多角形状の頭部10cに着脱自在に嵌合させ、軸力導入材10の軸の回りに回転させることにより行われる。
回転用工具17の回転により軸力導入材10が反力受け材9の雌ねじ9a内を上方から下方へ向かって螺入し、軸力導入材10の、反力受け材9の下端から突出する突出部10bの下端面が直接、または軸力伝達材11を挟んで間接的に最上部の支柱材23を鉛直方向下向きに押圧し、軸方向圧縮力を導入する。軸力導入材10から、または軸力伝達材11から支柱材23に導入される軸方向圧縮力は後述の中間部材13としての荷重計で計測され、管理される。軸力導入材10の支柱材23の押圧に伴い、軸方向圧縮力の反力が反力受け材9に軸方向引張力として付与される。
軸力導入材10の反力受け材9への螺入に伴い、軸力導入材10は反力受け材9に対して相対的に鉛直下方へ進もうとするため、反力受け材9は軸力導入材10に対して相対的に上方へ浮き上がろうとする。反力受け材9の浮き上がりにより反力受け材9に接合された後述のつなぎ材15が浮き上がろうとし、つなぎ材15が接合された補助柱8に軸方向引張力が付与される。
軸力導入材10の下方への移動時に反力受け材9に浮き上がりが生じるよう、反力受け材9の下端部は、軸力導入材10の下端部が直接、接触する支柱材23、または支柱材23との間に介在する絶縁装置12、もしくは図示するような中間部材13、あるいは軸力導入材10の下端部に接続される軸力伝達材11には接合されずに分離し、単純に接触しているか、または支柱材23等の上面から浮上している。
軸力導入材10が反力受け材9(の中空部)を軸方向に貫通することから、反力受け材9の、軸力導入材10が螺入する中空部の内周面は図6−(a)に示すように上端面から下端面まで軸方向に連続して形成されるが、雌ねじ9aは少なくともその一部の区間に形成される。軸力導入材10の雄ねじ10aはこの反力受け材9の雌ねじ9aの形成区間に対応した区間、またはそれより長い区間に形成される。反力受け材9の下端部側には、雌ねじ9aの形成区間に連続し、軸力導入材10の突出部10bに接続される軸力伝達材11が下方から入り込む空洞部9bが形成されている。
反力受け材9は最上部の支柱材23上に軸方向を鉛直方向に向け、上記のように直接、もしくは軸力伝達材11や中間部材13等を介して間接的に設置されるが、支柱材23や軸力伝達材11等には接合されず、反力受け材9の下端面は単に載置されるだけの状態にある。図面では支柱材23上に、支柱材23と反力受け材9との間に水平変位を生じさせる絶縁装置12を設置し、絶縁装置12上に中間部材13を設置し、中間部材13上に、軸力導入材10に接続された軸力伝達材11を載置し、接合している。この関係で、図示する例では反力受け材9の下端面は軸力伝達材11の上面に接触しているか、上面から浮いている。
反力受け材9は周囲の補助柱8に、両者間に架設され、両者をつなぐつなぎ材15を介して接合されることにより補助柱8に支持され、軸力導入材10の螺入時の軸回りの回転に対して拘束される。また反力受け材9の下端面が中間部材13や軸力伝達材11等から分離していることで、軸力導入材10が雌ねじ9aに螺入するときに軸力導入材10に対して浮き上がろうとすることで、軸力導入材10から付与される軸方向引張力を補助柱8に伝達する。
上記のように図示する例では反力受け材9に軸方向に螺入してこれを貫通する軸力導入材10の支柱材23側の先端である突出部10bが支柱材23を鉛直下方へ押し下げる構造になっている。この関係で、軸力導入材10先端の突出部10bが支柱材23に直接、もしくは間接的に接触するため、軸力導入材10からの軸方向圧縮力が材軸に直交する断面全体に分散して作用するよう、支柱材23上に、軸力導入材10に接続される軸力伝達材11を載置している。
この場合、軸力導入材10の支柱材23側に突出する突出部10bが形成され、この突出部10bが、軸力伝達材11の上面側から軸方向に形成された挿通穴11a内に挿入され、突出部10bの先端が挿通穴11aの底に突き当たることで、軸力導入材10から圧縮力が軸力伝達材11に伝達される状態になる。軸力伝達材11は軸力導入材10から支柱材23側へ向かう圧縮力を支柱材23の上面に分散させて伝達させるよう、軸力伝達材11の材軸に直交する断面積は軸力導入材10の材軸に直交する断面積より大きい。
ここで、軸力導入材10は反力受け材9への螺入時に反力受け材9に対して軸回りに回転するため、軸力伝達材11が挿通穴11aにおいて軸力導入材10の突出部10bに接合されているとすれば、軸力導入材10の回転と同時に軸力伝達材11が支柱材23に対して、または図示する例の場合の中間部材13に対して回転し、両者の接触面に摩擦が発生する。このことから、軸力導入材10の軸回りの回転時に突出部10bから挿通穴11aに摩擦力が伝達されないよう、挿通穴11aと突出部10bとの間に潤滑油やベアリング、樹脂コーティング剤等の低摩擦材が介在させられる等により、軸力伝達材11は軸力導入材10には接合されない(分離している)ことが適切である。
軸力導入材10の下方に軸力伝達材11が接続され、軸力伝達材11の下方に上記の中間部材13が配置される場合で、中間部材13と支柱材23との間に絶縁装置12が介在させられる場合には、上記のように支柱材23と反力受け材9との間に水平変位を生じさせられるよう、軸力伝達材11は中間部材13の上面上に載置され、接合、またはその他の手段により水平方向の移動を拘束された状態に保持される。図面では支柱材23上に接合された絶縁装置12の上に、軸力導入材10から支柱2に導入されている軸方向圧縮力を管理するための中間部材13としての上記した荷重計を介在させ、この中間部材13の中心部に上面から形成された雌ねじ穴13aに、軸力伝達材11の下面側に形成された凸部11bの外周面に形成された雄ねじ11cを螺合させている。
この場合、軸力伝達材11は雄ねじ11cの雌ねじ穴13aへの螺合により中間部材13に接合され、中間部材13に対して水平方向の移動を拘束された状態になる。軸力伝達材11は中間部材13の上面上に載置されながら中間部材13に接合され、中間部材13はその下に配置される絶縁装置12の上部フランジ12aにボルト14等により接合され、上部フランジ12aに一体化する。
図示するように軸力伝達材11の下に絶縁装置12が配置された場合、絶縁装置12は主に制震補強架構1の構面内方向の変形時に水平変形し、最上部の支柱材23と反力受け材9との間に水平変位を生じさせる。この場合、最上部の支柱材23と反力受け材9との間に水平変位が生じ易いことで、補助柱8が全長に亘って支柱2の変形に柔軟に追従し易くなるため、支柱2の周囲に配置され、つなぎ材15を介して反力受け材9に接合された補助柱8が制震補強架構1の変形を阻害しにくい状態が得られ、制震補強架構1の変形を自由に生じさせることが可能になる。
反力受け材9の外周面には上記のように補助柱8との間に架設され、補助柱8に接合されるつなぎ材15が接合される。つなぎ材15は前記のように反力受け材9の雌ねじ9aに螺入する軸力導入材10から反力受け材9に付与される軸方向引張力を補助柱8に伝達する働きをするため、反力受け材9と補助柱8には共に剛に接合される。つなぎ材15は反力受け材9の外周面から梁状に補助柱8側へ張り出す。
つなぎ材15は反力受け材9に付与される軸方向引張力をせん断力として補助柱8に伝達するため、つなぎ材15は反力受け材9の全長に沿って連続した長さを有する形状に形成される。図面ではつなぎ材15に鉛直方向を向いたプレート、または形鋼を使用しているが、つなぎ材15も鉄骨である必要はない。つなぎ材15にプレートを使用した場合、つなぎ材15は反力受け材9の外周面に溶接等により接合され、補助柱8の外周面に張り出したフランジにも溶接等により接合される。
つなぎ材15が反力受け材9の軸方向引張力を補助柱8に伝達するときには、反力受け材9と補助柱8との間の距離に応じた曲げモーメントがつなぎ材15に作用するため、プレート状のつなぎ材(本体)15の上下にはこの曲げモーメントを負担する上部フランジ15aと下部フランジ15bが一体化する。
図面ではまた、制震補強架構1(支柱2)の構面内方向の、またはその他の方向の変形に伴い、絶縁装置12とつなぎ材15との間に絶縁装置12の軸方向(鉛直方向)を向く中心の回りに相対的な回転変位が生じず、絶縁装置12に中心回りの捩れ変形が生じないよう、絶縁装置12とつなぎ材15を拘束部材16を用いて連結している。
具体的には図3−(a)に示すように絶縁装置12の上部フランジ12aに重なって接合される連結材161と、つなぎ材15の下部フランジ15bに接合され、連結材161を保持する保持材162から拘束部材16を構成している。連結材161は絶縁装置12の上部フランジ12aに重なり、接合された状態で上部フランジ12aの外周側へ張り出し、この張り出した部分を保持材162の下端部が絶縁装置12の周方向に、もしくは周方向の接線方向に挟み、連結材161の保持材162に対する相対移動を拘束する。
連結材161は詳しくは図3−(b)、図4−(a)に示すように例えば絶縁装置12の円板状の上部フランジ12aの外周(縁)部分に沿い、重なって接合される接合部161aと、接合部161aの外周側から、上部フランジ12aの外周側へ張り出す張出部161bを有し、この張出部161bを上部フランジ12aの周方向か接線方向に保持材162が挟み込み、拘束する。
連結材161の接合部161aには上部フランジ12aへの接合のためのボルトが挿通する挿通孔が周方向に間隔を置いて形成される。保持材162は例えば図4−(b)、(c)に示すように連結材161の張出部161bを挟み込む溝を有する拘束プレート162aと、この拘束プレート162aに直交する状態で溶接等により接合され、つなぎ材15の下部フランジ15bに接合される接合プレート162bから構成される。
保持材162が連結材161を拘束することで、保持材162が接合されたつなぎ材15が、連結材161が接合された絶縁装置12の中心に関して相対的な回転変位を生じることが防止、または抑制される。この結果、絶縁装置12に中心回りの捩りモーメントが生じないか、低減されるため、絶縁装置12が積層ゴムである場合の捩りモーメントによる破断が回避される。