図1および図2を参照して、この発明の一実施例である嗅覚ディスプレイ10は、映像や音を含むコンテンツに香り(嗅覚情報)を付加してユーザに提示することによって、コンテンツの現実感や臨場感を高めるために用いられる。たとえば、嗅覚ディスプレイ10は、パソコン、テレビ、ラジオ、ゲーム機、カラオケ装置、カメラ、DVDプレイヤおよび携帯電話などの各種の視聴覚ディスプレイ100と連動して、時空間制御可能に、つまり時間的および空間的に限られた範囲に香りを提示する。
図1および図2は、一例として、嗅覚ディスプレイ10をパソコンと連動させて使用する様子を示している。この場合には、嗅覚ディスプレイ10は、香りを噴射する噴射口68がユーザの顔の方向を向くように、LCDディスプレイやキーボード等に取り付けられたり、三脚102等に取り付けられてユーザの周囲に設置されたりする。
以下、図3および図4を参照して、嗅覚ディスプレイ10の構成について具体的に説明する。図3は、嗅覚ディスプレイ10の前面方向(ユーザ側)から見た内部構造を概略的に示す図解図であり、嗅覚ディスプレイ10が備える筐体12の前壁16および香源30を省略して筐体12の内部の様子を示すものである。また、図4は、図3のIV-IV線で切断した嗅覚ディスプレイ10の断面図であり、嗅覚ディスプレイ10の側面方向から見た内部構造を概略的に示している。
図3および図4に示すように、嗅覚ディスプレイ10は、その外殻を構成する筐体12、複数の香気室28、固形状の香源30、複数の風力源32、および補助風力源74等を備える。
筐体12は、側壁14、前壁16および後壁18を含み、アクリル樹脂、フッ素樹脂およびステンレス等の適宜な材料によって中空の六角柱状に形成される。筐体12の大きさは、前面視で対向する頂点間の長さがたとえば60mmであり、軸方向(前後方向)の長さがたとえば60mmである。
筐体12の内部空間は、六角板状の仕切壁20によって前後に区画されており、仕切壁20の後方側の空間は、制御基板22を収容する制御基板室24として利用される。制御基板22は、基板上にCPUやメモリ等の電子部品を実装した構造を有し、後述する風力源32および補助風力源74等と配線(図示せず)を介して接続されて、当該嗅覚ディスプレイ10の動作を制御する。
一方、仕切壁20の前方側の空間は、前面視で放射状に延びる6枚の隔壁26によって区画され、筐体12内には、周方向に並ぶ正三角柱状の密閉空間である6つの香気室28が形成される。なお、筐体12に形成する香気室28の数は、特に限定されないが、装置の小型化および香気の噴射性能などを考慮すると、4つから8つに設定することが好ましい。
各香気室28内には、異なる香りを有する固形状の香源30が収容される。固形状の香源30は、たとえば、粒状の多孔質体に液体香料を染み込ませて(含浸させて)、多孔質体の外表面および細孔内に液体香料を保持させることによって製作される。香料としては、天然香料、合成香料、およびそれらの調合香料が適宜使用できる。多孔質体としては、ケイ酸カルシウム、シリカゲル、ロックウール、珪藻土、ゼオライト、泥炭、木炭、バーミキュライト、ベントナイト、パーライト、カーボンナノチューブ或いは活性炭類などの粒状体を適宜利用できる。多孔質体の粒径および形状は特に限定されないが、香気室28内の流路抵抗などを考慮すると、粒径が1−6mm程度の球状体であることが好ましい。この実施例では、各香気室28内には、平均径が4mmであるケイ酸カルシウムの球状体に液体香料を染み込ませた15個の香源30が封入される。このように固形状の香源30を用いることによって、香源30から香料(香り成分)を徐々に放出させることができる。つまり、香源30は長期間に亘って香り成分を放出し続けることができるので、香源30に液体香料を補充したり、香源30を交換したりすることなく、長期間に亘って嗅覚ディスプレイ10を使用できる。
また、香気室28のそれぞれには、方形板状の風力源32が設けられる。風力源32は、中央部に設けられたノズル34が香気室28内と連通するように、側壁14内に配置されて側壁14の一部を構成する。そして、風力源32のノズル34は、香気室28内に空気を流入させる吸気口62として機能する。風力源32の大きさは、たとえば、縦20mm、横20mm、厚さ2mmである。
図5は、風力源32を対角線方向に切断したときの断面を示す。風力源32は、圧電素子(ピエゾ素子)36を貼り付けたダイヤフラム38を備えており、圧電素子36に高周波の交番電圧(正弦波電圧または矩形波電圧)を印加することによって、ダイヤフラム38を板厚方向に高速で屈曲振動させて、空気の流れを発生させる圧電式のものである。
以下、風力源32の動作について簡単に説明する。風力源32では、円板状の圧電素子36を貼り付けたダイヤフラム38の約26kHzの高速振動に伴い、ポンプ室40の中心部に設けられた通気孔42から、空気の吸引と吐出が繰り返される。吸引時に吸入流路44からポンプ室40に取り込まれた空気は、吐出時には通気孔42と同軸に配置された天板46上のノズル34を通過し、ノズル34内のテーパ管路で膨張して吐出される。このとき、通気孔42とノズル34との間の空間には、ベンチュリ効果により負圧部が生じるため、吸入流路42の空気は継続して吸引される。これによって、吸入流路42からノズル34へ向かう連続したポンプ動作が得られる。
このように圧電素子36で駆動する風力源(圧電式の風力源)32は、ブロアファンやスクロールブロアのような回転機構では無いため、小型化および低背化が可能であり、消費電力も小さい。また、事実上無振動の上、短時間で高い静圧を生成できる特徴を有する。このような風力源32としては、たとえば株式会社村田製作所製のマイクロブロア(型番:MZBX001)を用いることができる。
また、各風力源32の裏側(空気流路の上流側)には、風力源32の動作音(ダイヤフラム38の振動音)の外部への漏れを抑制するための方形板状の動作音抑制部48が設けられる。この動作音抑制部48も、側壁14内に配置されて側壁14の一部を構成する。動作音抑制部48は、アクリル樹脂、フッ素樹脂或いはステンレス等の適宜な材料によって形成され、ダイヤフラム38の裏側に空洞部を形成する。動作音抑制部48の大きさは、たとえば、縦20mm、横20mm、厚さ2mmである。
図6は、動作音抑制部48を厚さ方向と直交する方向に切断したときの断面を示す。図6に示すように、動作音抑制部48の側壁50には、風力源32の作動時に外気を吸入するための外気口52が形成されており、動作音抑制部48の内部は、C字状の仕切壁54によって仕切られている。これによって、風力源32の動作音は、迷路状の空気通路を遠回りするようにして外気口52に到達するので、外気口52(延いては外気吸入口58)からの動作音の漏れが抑制される。このような動作音抑制部48を設けることによって、動作音を抑制し、ユーザに対して不快感を与えることなく香りを提示することができる。ただし、動作音抑制部48の内部構造は、図6の態様に限定されない。たとえば、仕切壁54のない単なる空洞にしておいてもよいし、別の形状の仕切壁を設けるようにしてもよい。
なお、動作音抑制部48の外気口52は、側壁14に形成される空気路56、制御基板室24、および後壁18に形成される外気吸入口58を介して、筐体12の外部と連通する(図4参照)。このように、制御基板室24を介して風力源32に外気を吸入するようにすれば、風力源32の作動中は、制御基板室24内の空気は常に外気と入れ替わるようになる。これにより、制御基板22から発する熱を適切に放熱させることができる。
図4に戻って、筐体12の前壁16の側縁部および側壁14の前端部には、互いに嵌り合う嵌合部60が形成され、前壁16は、側壁14に対して着脱可能とされる。つまり、前壁16は、筐体12(側壁14)の前端開口を開閉可能に封止する蓋体として機能する。前壁16を取り外した際の筐体12の前端開口は、香源30を各香気室28内に入れる、或いは香源30を各香気室28から取り出すため等に利用される。
また、各香気室28には、吸気口62および香気出口64が形成される。上述のように、風力源32のノズル34が吸気口62として機能し、吸気口62のそれぞれは、側壁14側に形成される。また、香気出口64のそれぞれは、噴射口68との距離が短くなるように、前壁16側の最内位置に形成される。吸気口62の径および香気出口64の径は、たとえば0.8mmである。
前壁16の中央部には、半球状の突起部66が設けられ、この突起部66の先端部に噴射口68が形成される。噴射口68の径は、たとえば0.8mmである。また、前壁16には、突起部66の中央部を貫通するように前壁16の厚み方向に延び、噴射口68と各香気室28の香気出口64とを連通させる香気通路70が形成される。香気通路70は、前方側に向かうに従い縮径されるテーパ部を有し、その前方部分は直管状に形成される。
また、各隔壁26の連結部分である中心軸72は、六角柱状に形成され、仕切壁20から突出してその先端部は香気通路70内まで延びる。中心軸72の先端部は、外周面に溝状の切欠きを形成した先細り形状とされ、各香気室28の香気出口64から吐出される香気を噴射口68方向に導くガイド部として機能する。これによって、香気の逆流や他の香気室28内への香気の浸入が防止される。
さらに、仕切壁20内には、補助風力源74が設けられる。補助風力源74は、風力源32とは別に、各香気室28から独立して設けられるものであり、各香気室28から香気通路70に送り出された香気の加速、香気成分の濃度調整および消臭などに利用される。補助風力源74としては、風力源32と同様のもの、すなわち、圧電素子36を貼り付けたダイヤフラム38を備え、圧電素子36に対して高周波の交番電圧が印加されるとダイヤフラム38を高速振動させて空気流を発生させるものを用いるとよい(図5参照)。この補助風力源74の裏側にも、動作音抑制部48が適宜設けられ、動作音抑制部48の外気口52は、仕切壁20に形成される空気路56、制御基板室24、および後壁18に形成される外気吸入口58を介して、筐体12の外部と連通する。
また、中心軸72内には、補助風力源74のノズル34から吐出された空気(無臭の空気)の通り道となる補助通路76が形成される。補助通路76は、補助風力源74のノズル34と香気通路70とを直線的に連通させる貫通孔であり、香気通路70を介して噴射口68まで直線的に延びる。補助通路76の径は、たとえば0.8mmである。補助風力源74が作動されると、補助風力源74のノズル34から補助通路76内に無臭の空気が吐出される。この無臭の空気は、複雑な経路を辿ることなく噴射口68まで直行するので、圧力低下をほとんど生じさせることなく噴射口68から勢いよく噴射される。
さらに、筐体12の適宜な位置には、三脚102を取り付けるためのねじ穴80が形成される。この実施例では、ねじ穴80は、制御基板室24周囲の側壁14に形成される。また、ねじ穴80の規格は、カメラ用の三脚に適合したものとされる。カメラ用の三脚のねじの規格は世界標準で統一されているので、ねじ穴80の規格をそれに適合させておけば、世界各地のカメラ用の三脚を嗅覚ディスプレイ10用の三脚102としてそのまま使用することができるので便利である。
このような構成の嗅覚ディスプレイ10は、上述のように、パソコン等が提示する映像や音を含むコンテンツに香りを付加してユーザに提示する。たとえば、映像コンテンツのシーンの切り替わりに応じて、バニラアイスを食べる場面ではバニラの香りを放ち、海辺の場面では潮の香りを放つ。
具体的には、嗅覚ディスプレイ10の制御基板22は、連動させるパソコン等から送られてくる指示信号に応じて、目的の香源30を収容した香気室28に対応する風力源32の圧電素子36に対して交番電圧(たとえば、周波数26kHz、19.5Vp-p)を印加する。すると、ダイヤフラム38が高速で屈曲振動され、外気吸入口58、空気路56および動作音抑制部48などを介して風力源32内に外気が吸引されると共に、風力源32のノズル34(吸気口64)から香気室28内に高速かつ高圧の空気が送り込まれる。香気室28内の空気には、香源30から揮発した気体状の香り成分が含まれており、その香り成分を含む空気(香気)は、香気出口64から香気通路70内に吐出される。
また、制御基板22は、目的の香源30を収容した香気室28に対応する風力源32を作動させると同時に、或いはタイムシェアリングさせて、補助風力源74を作動させる。すなわち、補助風力源74の圧電素子36に対しても交番電圧(たとえば、周波数26kHz、19.5Vp-p)を印加する。これにより、補助風力源74のノズル34から吐出される無臭の空気は、直線状の補助通路76内を通って噴射口68まで直行する。香気出口64から香気通路70内に吐出された香気は、補助風力源74から吐出された無臭の空気と香気通路70内で合流してその空気の流れに乗って香気噴射方向に加速され、パソコン等外部からの指示信号に対して殆どの時間的な遅れなしに噴射口68から勢いよく直進性を持って噴射される。そして、風力源32および補助風力源74の圧電素子36に対する交番電圧の印加が停止されると、噴射口68からの香気の噴射も瞬時に停止される。
この際、圧電式の風力源32および補助風力源74を用いていることから、香気の噴射の開始および停止は、応答性よく実行され(つまり正確な時間制御が可能であり)、しかも、脈動的ではない一定した香りを連続して提示することも可能となる。また、補助風力源74を備えることにより、風力源32のみでは香気通路70で圧力低下が生じてしまうような場合でも、香気室28から吐出された香気を香気噴射方向に適切に加速することができ、香気の噴射性能を維持ないし向上させることができる。すなわち、噴射口68からは指向性を持って香気が勢いよく噴射され、空間的に非常に限られた範囲(つまりユーザの顔付近のみ)に対して香りを提示できる。また、香気通路70における香気成分の付着(残香)も防止される。
なお、風力源32および補助風力源74の駆動割合を変更して、香気室28からの香気と補助風力源74からの無臭の空気との混合割合を調整することにより、香り成分の濃度制御を行うことも可能である。また、風力源32を停止した後(香り提示後)に、補助風力源74を作動させ続けて無臭の空気のみを噴射し、提示した香り成分を揮散または希釈するようにすれば、香り成分をそのまま自由拡散させることと比較して、より素早い消臭が可能となる。
さらに、この実施例では6つの香気室28を備え、香気通路70を介して1つの噴射口68から香気を噴射するようにしている。このため、6種類の香りを個別に提示できるのはもちろんのこと、各香気室28の風力源32を同時に或いはタイムシェアリングさせて作動させることにより、香りを調合して提示できる。たとえば、各香気室28に収容される香源30をA、B、C、D、E、Fとすると、「A+B、A+C、…、E+F、…、B+C+D+E+F、A+B+C+D+E+F」というように、多種類の香りを調香して提供できる。また、各風力源32の入力信号のDuty比を調整すること等によって、香りを調合する割合を適宜変化させることもできる。
この実施例によれば、香気室28から吐出された香気を補助風力源74によって香気噴射方向に加速させることができるので、香気室28の設置数を多くしても香気の噴射性能が保持され、より多くの種類の香りを時間的および空間的に限られた範囲に提示できる。また、香気通路70における香気の滞留を抑制できるので、香気通路70への香気成分の付着を防止できる。これらの効果は、特に、多数の香気室28を備える場合に大きい。
なお、風力源32の吐出性能(静圧生成能)と補助風力源74の吐出性能とは、同程度にしてもよいが、補助風力源74の吐出性能を風力源32の吐出性能よりも高くすることもできる。このように、補助風力源74の吐出性能を風力源32の吐出性能よりも高くすることによって、香り提示の飛距離を伸ばすことができる、つまり、より遠いところまで香りを運ぶことができる。
補助風力源74の吐出性能を高めるためには、たとえば、風力源32と比較して直径の大きい圧電素子36を備える補助風力源74を用いたり、複層的に配置される2段以上の圧電素子36を備える補助風力源74を用いたりするとよい。また、たとえば、風力源32と補助風力源74とで同じものを用いる場合には、補助風力源74が備える圧電素子36に印加する交番電圧を大きくすることによって、補助風力源74の吐出性能を高めてもよい。具体例を挙げると、風力源32が備える圧電素子36に対しては19.5Vp-pの交番電圧を印加し、補助風力源74が備える圧電素子36に対しては30.0Vp-pの交番電圧を印加する等すればよい。ただし、圧電素子36に印加する交番電圧を大きくすると、補助風力源74の耐久性に問題が生じる恐れがあるので、この場合には、補助風力源74の長時間に亘る連続駆動を控えるようにし、たとえば、3秒間程度の間欠駆動とすることが好ましい。
続いて、図7を参照して、この発明の他の実施例である嗅覚ディスプレイ10について説明する。図3および図4に示す実施例では、香気室28後方の仕切壁20に補助風力源74を配置し、香気室28から吐出された香気と補助風力源74からの無臭の空気とを噴射口68近傍で合流させるようにしたが、この実施例では、補助風力源74を噴射口68の近傍位置に配置し、香気室28から香気通路70に吐出された香気を補助風力源74が吸引して吐出するようにしている。以下、図7に示す実施例について説明するが、上述の実施例と同様の部分については、同じ参照番号を付し、説明を省略或いは簡略化する。重複した説明を省略等することについては、後述するさらに他の実施例についても同様である。
図7に示すように、この実施例の嗅覚ディスプレイ10では、中空の六角柱状に形成される筐体12を備える。筐体12の内部空間は、仕切壁20によって前後に区画され、その後方側の空間は、制御基板室24として利用される。また、前方側の空間は、隔壁26によって区画され、筐体12内には、周方向に並ぶ6つの香気室28が形成される。これら香気室28のそれぞれには、固形状の香源30が封入されると共に、風力源32および動作音抑制部48が設けられる。
また、筐体12の前壁16には、噴射口68が形成され、噴射口68と各香気室28の香気出口64とは、香気通路70によって連通される。そして、補助風力源74が、噴射口68の近傍位置において、香気通路70の経路に対して設けられる。具体的には、この実施例では、補助風力源74は、前壁16内に配置され、テーパ状に形成される香気通路70の後方部分に吐出された香気を吸引し、直管状に形成される香気通路70の前方部分に対して香気を吐出するようにされる。
また、図示は省略するが、各香気出口64には、対応する風力源32の動作と連動して香気出口64を開閉する電磁弁などの自動弁が設けられることが好ましい。つまり、対応する風力源32が作動しているときには香気出口64を開き、対応する風力源32が停止しているときには香気出口64を閉じる自動弁を各香気出口64に設けることが好ましい。これは、他の香気室28への香気の逆流、および補助風力源74内への意図しない香気室28からの香気の吸い込みを確実に防止するためである。ただし、このような自動弁は必ずしも設けなくてもよい。各香気出口64に自動弁を設けない場合でも、目的の香気室28の風力源32と補助風力源74とを同時に作動させれば、補助風力源74のダイヤフラム38の後方の空間は、風力源32によって目的の香気室28から吐出された香気で満たされ、かつ、その香気は補助風力源74内を通って噴射口64から順次噴射されるので、他の香気室28への香気の逆流、および補助風力源74内への意図しない香気室28からの香気の吸い込みは、あまり生じないからである。
図7に示す嗅覚ディスプレイ10では、ユーザに香りを提示する際には、目的の香源30を収容した香気室28に対応する風力源32を作動させると同時に、或いはタイムシェアリングさせて、補助風力源74が作動される。また、これと同時に、目的の香気室28に対応する香気出口64の自動弁が開状態にされる。これにより、風力源32から目的の香気室28内に高速かつ高圧の空気が送り込まれ、香気出口64から香気通路70内に香気が吐出される。香気通路70に吐出された香気は、補助風力源74内に吸引され、補助風力源74のノズル34から香気通路70の直管状の前方部分に吐出されて、噴射口68から噴射される。
この際、図3および図4に示す実施例のように補助風力源74を香気室28後方の仕切壁20に設けていると、噴射口68までの通路(補助通路76および香気通路70)が長くなって管摩擦係数が増加し、風圧低下および騒音の生じる恐れがある。これに対して、図7に示す実施例では、補助風力源74が噴射口68の近傍位置に配置されており、補助風力源74から噴射口68に至る通路が非常に短いことから、補助風力源74の吐出性能がそのまま生かされ、補助風力源74から吐出された香気は、風圧低下を発生させることなく、噴射口68から指向性を持って勢いよく噴射される。また、騒音の発生も防止される。
図7に示す実施例によれば、図3および図4に示す実施例と同様に、香気室28から吐出された香気を補助風力源74によって香気噴射方向に加速させることができるので、香気室28の設置数を多くしても香気の噴射性能が保持され、より多くの種類の香りを時間的および空間的に限られた範囲に提示できる。
また、補助風力源74を噴射口68の近傍位置に配置しているので、補助風力源74を筐体12の後部に配置する場合と比較して、香気の噴射性能がより向上し、騒音の発生も防止される。
次に、図8を参照して、この発明のさらに他の実施例である嗅覚ディスプレイ10について説明する。図7に示す実施例では、補助風力源74を噴射口68の近傍位置において香気通路70に設けるに際して、筐体12の前壁16内に補助風力源74を配置するようにしたが、この実施例では、制御基板室24を筐体12の前方部(噴射口68側)に配置し、制御基板室24に補助風力源74を配置するようにしている。以下、具体的に説明する。
図8に示すように、この実施例の嗅覚ディスプレイ10では、中空の六角柱状に形成される筐体12を備え、筐体12の内部空間は、仕切壁20によって前後に区画される。そして、この実施例では、仕切壁20の前方側の空間が制御基板22を収容するための制御基板室24として利用される。制御基板室24の中央部には、前後方向に延びる円柱82が設けられ、制御基板室24は、筒状の空間とされる。一方、仕切壁20の後方側の空間は、隔壁26によって区画され、筐体12内には、周方向に並ぶ6つの香気室28が形成される。これら香気室28のそれぞれには、固形状の香源30が封入されると共に、風力源32および動作音抑制部48が設けられる。
また、筐体12の前壁16には、噴射口68が形成され、噴射口68と各香気室28の香気出口64とは、前壁16および円柱82を貫通する香気通路70によって連通される。そして、補助風力源74が、噴射口68の近傍位置において、香気通路70の経路に対して設けられる。具体的には、この実施例では、補助風力源74は、制御基板室24の余剰空間に配置され、円柱82を貫通する香気通路70に吐出された香気を吸引し、前壁16を貫通する香気通路70に対して香気を吐出するようにされる。また、必須ではないが、各香気出口64または各香気通路70の円柱82を貫通する部分には、対応する風力源32の動作と連動して香気出口64を開閉する電磁弁などの自動弁を設けることが好ましい。
さらに、各香気室28には、香源30を香気室28内に入れる、或いは香源30を香気室28から取り出すための開口が形成される。この開口は、筐体12の後壁18に形成され、香源30の収容後にポリウレタンやシリコーン製の蓋体84などを用いて適宜密封される。
図8に示す嗅覚ディスプレイ10では、ユーザに香りを提示する際には、目的の香源30を収容した香気室28に対応する風力源32を作動させると同時に、或いはタイムシェアリングさせて、補助風力源74が作動される。また、これと同時に、目的の香気室28に対応する香気出口64または香気通路70の自動弁が開状態にされる。これにより、風力源32から目的の香気室28内に高速かつ高圧の空気が送り込まれ、香気出口64から円柱82内を貫通する香気通路70内に香気が吐出される。香気通路70に吐出された香気は、補助風力源74内に吸引され、補助風力源74のノズル34を経て噴射口68から噴射される。
図8に示す実施例によれば、図3および図4に示す実施例と同様に、香気室28から吐出された香気を補助風力源74によって香気噴射方向に加速させることができるので、香気室28の設置数を多くしても香気の噴射性能が保持され、より多くの種類の香りを時間的および空間的に限られた範囲に提示できる。
また、補助風力源74を噴射口68の近傍位置に配置しているので、香気の噴射性能がより向上し、騒音の発生も防止される。さらに、制御基板室24の余剰空間を有効利用して補助風力源74を配置したので、前壁16内に補助風力源74を埋め込む場合と比較して、前壁16の厚みを薄くすることができ、嗅覚ディスプレイ10の小型化を図ることができる。
なお、制御基板室24の余剰空間に補助風力源74を配置する構成は、図4に示すような制御基板室24を筐体12の後方側の内部空間に配置する場合にも適用できる。この場合においても、仕切壁20内に補助風力源74を埋め込む場合と比較して、仕切壁20の厚みを薄くすることができ、嗅覚ディスプレイ10の小型化を図ることができる。
また、上述の各実施例では、風力源32を筐体12の側壁14内に周方向に並べて配置しているが、これに限定されない。たとえば、図9に示すように、風力源32を隔壁26内に設けて放射状に配置することもできる。このように、風力源32を放射状に配置することにより、筐体12内に設ける香気室28の数を増やしても、装置は周方向に大きくなり難く、装置を小型化できる。また、風力源32を隔壁26内に設ける場合には、香源30を出し入れするための開口を筐体12の側壁14に形成することもできる。これによって、香源30の個別交換を行い易くなる。
さらに、上述の各実施例では、全ての香気室28に対して香源30を収容するようにしたが、香気室28の少なくとも1つは、香源30を収納せずに、香り成分が付加されていない粒状体のみ、たとえば液体香料を浸み込ませていない多孔質体や非孔質体などの粒状体のみを収納したり、何も入れない空室としたりすることもできる。この場合には、たとえば、香源30を収容した香気室28の風力源32を作動させて香りを提示した後、香源30が収納されていない香気室28の風力源32を作動させて無臭の空気を噴射すれば、素早い消臭が可能となる。また、調香する場合と同様に、香源30を収容した香気室28の風力源32と香源30が収納されていない香気室28の風力源32とを同時に或いはタイムシェアリングさせて作動させれば、香り成分の濃度を調整することもできる。さらに、香気室28の少なくとも1つに消臭剤を収納しておけば、これを利用して香りの提示後のより素早い消臭が可能となる。
なお、上述の各実施例では、香気室28内に香源30を直接封入しているので、一定期間が経過すると、香気室28の内壁面に香気成分が付着してしまう。このため、香気室28内の香源30を別の種類の香気成分を有する香源30に入れ替えると、香気成分が混同して香りが変化してしまう恐れがある。したがって、香気室28内の香源30を入れ替える際には、同じ種類の香気成分を有する香源30に入れ替えることが好ましい。
続いて、図10および図11を参照して、この発明のさらに他の実施例である嗅覚ディスプレイ10について説明する。上述の各実施例では、香気室28内に香源30を直接収容しているが、この実施例では、香源カートリッジ86の容器本体88を介して香気室28内に香源30を収容している。以下、具体的に説明する。
図10および図11に示すように、この実施例の嗅覚ディスプレイ10では、中空の六角柱状に形成される筐体12を備える。筐体12の内部空間は、仕切壁20によって前後に区画され、その後方側の空間は、制御基板室24として利用される。また、前方側の空間は、隔壁26によって区画され、筐体12内には、周方向に並ぶ6つの香気室28が形成される。これら香気室28のそれぞれには、風力源32および動作音抑制部48が設けられる。
また、前壁16は、筐体12に対して着脱可能とされ、前壁16を取り外した際の筐体12の前端開口は、各香気室28内に香源カートリッジ86を着脱するためのカートリッジ交換口として利用される。すなわち、香源カートリッジ86は、筐体12の前方から仕切壁20側に向かって挿入される。そして、香気室28内に香源カートリッジ86を収容した状態では、前壁16は、香源カートリッジ86の挿入方向後端と当接し、香源カートリッジ86を挿入方向に押す。また、香気室28の内側面は、吸気口62の形成される面が香源カートリッジ86の挿入方向と平行な面とされ、残りの2面が香源カートリッジ86の挿入方向に対して内向きに傾斜する傾斜面90とされる。
筐体12の前壁16には、噴射口68が形成され、噴射口68と各香気室28の香気出口64とは、香気通路70によって連通される。この実施例の香気出口64は、後述する香源カートリッジ86の導出口94よりも少し大きめに形成され、導出94から吐出される香気が香気通路70に円滑に導かれるようにされる。また、仕切壁20内には、補助風力源74が設けられ、中心軸72内には、補助風力源74のノズル34から吐出された空気の通り道となる補助通路76が形成される。
そして、各香気室28内には、香源カートリッジ86が着脱可能に収容される。香源カートリッジ86は、容器本体88およびその内部に収容される固体状の香源30を備える。つまり、香源30は、香源カートリッジ86の容器本体88を介して香気室28内に収容される。
図12および図13に示すように、香源カートリッジ86の容器本体88は、ポリエチレン或いはポリプロピレンなどの合成樹脂等によって形成され、香気室28の内面形状に隙間なく沿う外面形状を有する。すなわち、容器本体88は、挿入方向前端側に向かって縮径する略三角柱状に形成され、吸気口62と対向する面が香源カートリッジ86の挿入方向と平行な面とされ、残りの2面が香源カートリッジ86の挿入方向に対して内向きに傾斜する傾斜面96とされる。
容器本体88には、香源カートリッジ86を香気室28内に収容した際に、香気室28の吸気口62に対向する位置に、導入口92が形成される(図10参照)。導入口92の径は、たとえば1.0mmであり、吸気口62の径(0.8mm)よりも少し大きめに形成されて、吸気口62から吐出される空気が容器本体88内に円滑に導かれるようにされる。また、容器本体88には、香気室28の香気出口64に対向する位置に、導出口94が形成される(図11参照)。導出口94の径は、たとえば1.0mmである。
香源カートリッジ86を香気室28内に収容する際には、筐体12から前壁16を取り外し、筐体12の前端開口から後方(仕切壁20方向)に香源カートリッジ86を押し込むようにして香気室28内に収容する。その後、筐体12に前壁16を取り付けることにより、香源カートリッジ86(容器本体88)の挿入方向後端側を前壁16によって抑える。この際には、図14に示すように、香気室28が香源カートリッジ86の挿入方向に対して内向きに傾斜する傾斜面90を有することから、前壁16が香源カートリッジ86を挿入方向に押す力Fは、香気室28の傾斜面90で受け止められる。この香気室28の傾斜面90に対して作用する力F1は、傾斜面90に垂直なベクトル成分F1aを有しているので、傾斜面90からの反力F2が生じる。この反力F2は、香源カートリッジ86の導入口92が形成される面を香気室28の吸気口62が形成される面に押し付ける方向に作用するので、香気室28の吸気口62と香源カートリッジ86の導入口92との接続部分は密着性が高まって適切に密着する。
したがって、この接続部分での空気漏れがほとんど発生せず、風力源32の能力を最大限に活用して香源カートリッジ86内に短時間で高い静圧を生成できる。これにより、香源カートリッジ86内の香気は、導出口94および香気出口64を介して香気通路70に勢いよく吐出される。香気通路70に吐出された香気は、補助風力源74からの無臭の空気によってさらに加速されて噴射口68から噴射される。
また、香源30は香源カートリッジ86(容器本体88)内に収容され、この香源カートリッジ86が香気室28に対して着脱可能に収容されるので、香気室28の内壁面に香気成分が付着することはない。したがって、香源カートリッジ86を交換しても香気成分が混同することはなく、香源カートリッジ86を交換することにより、無数の香りを適切に提供できるようになる。
図10および図11に示す実施例によれば、図3および図4に示す実施例と同様に、香源カートリッジ86から吐出された香気を補助風力源74によって香気噴射方向に加速させることができるので、香気室28の設置数を多くしても香気の噴射性能が保持され、より多くの種類の香りを時間的および空間的に限られた範囲に提示できる。
また、香源カートリッジ86を香気室28に対して着脱可能に収容するカートリッジ方式を採用したので、香気成分の混同を生じさせることなく、多種類の香りを適切に提供できる。また、カートリッジ方式を採用するに際して、香気室28の内側面および香源カートリッジ86(容器本体88)の外側面には、香源カートリッジ86の挿入方向に対して傾斜する傾斜面90,96を形成するようにし、香気室28の吸気口62と香源カートリッジ86の導入口92との接続部分を適切に密着させるようにした。つまり、複雑な機構(板ばね等の付勢手段)を用いることなく、香気室28および香源カートリッジ86に傾斜構造を設けると言う簡単な構成で、吸気口62と導入口92とを密着させて、風力源30の能力を最大限に活用して香源カートリッジ86内に短時間で高い静圧を生成できるようにした。したがって、この実施例によれば、小型化および簡便さを保持しつつ、無数の香りを時間的および空間的に限られた範囲に提示できる。
続いて、図15を参照して、この発明のさらに他の実施例である嗅覚ディスプレイ10について説明する。この実施例では、カートリッジ方式を採用すると共に、補助風力源74を噴射口68の近傍位置に配置し、香気室28から香気通路70に吐出された香気を補助風力源74が吸引して吐出するようにしている。以下、具体的に説明する。
図15に示すように、この実施例の嗅覚ディスプレイ10では、中空の六角柱状に形成される筐体12を備える。筐体12の内部空間は、仕切壁20によって前後に区画され、その後方側の空間は、制御基板室24として利用される。また、前方側の空間は、隔壁26によって区画され、筐体12内には、周方向に並ぶ6つの香気室28が形成される。これら香気室28のそれぞれには、風力源32および動作音抑制部48が設けられる。
前壁16は、筐体12に対して着脱可能とされ、前壁16を取り外した際の筐体12の前端開口は、各香気室28内に香源カートリッジ86を着脱するためのカートリッジ交換口として利用される。すなわち、香源カートリッジ86は、筐体12の前方から仕切壁20側に向かって挿入される。そして、香気室28内に香源カートリッジ86を収容した状態では、前壁16は、香源カートリッジ86の挿入方向後端と当接し、香源カートリッジ86を挿入方向に押す。また、香気室28の内側面は、吸気口62の形成される面が香源カートリッジ86の挿入方向と平行な面とされ、残りの2面が香源カートリッジ86の挿入方向に対して内向きに傾斜する傾斜面90とされる。
また、筐体12の前壁16には、噴射口68が形成され、噴射口68と各香気室28の香気出口64とは、香気通路70によって連通される。そして、補助風力源74が、噴射口68の近傍位置において、香気通路70の経路に対して設けられる。具体的には、補助風力源74は、前壁16内に配置され、テーパ状に形成される香気通路70の後方部分に吐出された香気を吸引し、直管状に形成される香気通路70の前方部分に対して香気を吐出する。また、必須ではないが、各香気出口64には、対応する風力源32の動作と連動して香気出口64を開閉する電磁弁などの自動弁が設けることが好ましい。
そして、各香気室28内には、容器本体88およびその内部に収容される固体状の香源30を備える香源カートリッジ86が着脱可能に収容される。つまり、香源30は、香源カートリッジ86の容器本体88を介して香気室28内に収容される。
図15に示す実施例によれば、図3および図4に示す実施例と同様に、香気室28から吐出された香気を補助風力源74によって香気噴射方向に加速させることができるので、香気室28の設置数を多くしても香気の噴射性能が保持され、より多くの種類の香りを時間的および空間的に限られた範囲に提示できる。
また、補助風力源74を噴射口68の近傍位置に配置しているので、香気の噴射性能がより向上し、騒音の発生も防止される。さらに、香源カートリッジ86を香気室28に対して着脱可能に収容するカートリッジ方式を採用したので、香気成分の混同を生じさせることなく、多種類の香りを適切に提供できる。
なお、図10および図11に示す実施例、ならびに図15に示す実施例では、カートリッジ収容室28内に香源カートリッジ86を収容した際に、前壁16で香源カートリッジ86の後端を挿入方向に押すことよって、吸気口62と導入口92との接続部分をより強く密着させるようにした。しかし、必ずしも前壁16によって香源カートリッジ86を押す必要はない。香源カートリッジ86の容器本体88は、ポリプロピレン或いはポリエチレン等の比較的軟質な素材によって形成されている。このため、香気室28に香源カートリッジ86を押し込むと、香気室28および香源カートリッジ86が挿入方向に対して内向きに傾斜する傾斜面90,96を有することにより、香気室28に香源カートリッジ86が嵌合する状態となる。これにより、香源カートリッジ86を香気室28内に押し込む際の力(挿入方向の力)が保持されて、香源カートリッジ86の傾斜面96を香気室28の傾斜面90に押し付ける力が作用するので、吸気口62と導入口92との接続部分は適切に密着する。
また、香気室28の内側面の2面を傾斜面90としているが、これに限定されない。たとえば、香気室28の内側面の全ての面を挿入方向に対して内向きに傾斜する傾斜面90としてもよい。また、香気室28の内側面の1つの面のみを挿入方向に対して内向きに傾斜する傾斜面90としてもよい。ただし、香源カートリッジ86を香気室28に押し込む力が、導入口92を吸気口62側に押し付ける方向に作用するように、傾斜面90を形成する必要がある。これに対応する香源カートリッジ86の外側面に対しても同様である。
さらに、香気室28の吸気口62と香源カートリッジ86の導入口92との接続部分の密着性をより高めるために、容器本体88の外側面または香気室28の内側面に対して、シリコーンゴムなどの柔軟性の高い弾性材によって形成される弾性材層(図示せず)を積層しておくこともできる。たとえば、容器本体88の2つの傾斜面96のそれぞれに対して弾性材層を形成してもよいし、容器本体88の導入口92が形成される外側面に対して弾性材層を形成してもよい。
なお、香気室28および香源カートリッジ86の傾斜面90,96は、必ずしも設ける必要はなく、香気室28の内側面および香源カートリッジ86の外側面は、香源カートリッジ86の挿入方向に対して平行に形成されていてもよい。ただし、この場合には、吸気口62と導入口92との接続部分で空気漏れが生じ、香源カートリッジ86から吐出される香気の勢いが低減してしまう恐れがあるので、注意を要する。
続いて、図16を参照して、この発明のさらに他の実施例である嗅覚ディスプレイ10について説明する。この実施例では、カートリッジ方式を採用すると共に、補助風力源74を噴射口68の近傍位置において香気通路70に設けるに際して、制御基板室24を筐体12の前方部に配置し、制御基板室24に補助風力源74を配置するようにしている。以下、具体的に説明する。
図16に示すように、この実施例の嗅覚ディスプレイ10では、中空の六角柱状に形成される筐体12を備え、筐体12の内部空間は、仕切壁20によって前後に区画される。そして、仕切壁20の前方側の空間が制御基板22を収容するための制御基板室24として利用される。一方、仕切壁20の後方側の空間は、隔壁26によって区画され、筐体12内には、周方向に並ぶ6つの香気室28が形成される。香気室28のそれぞれには、風力源32および動作音抑制部48が設けられる。
各香気室28には、香源カートリッジ86を着脱するための開口(カートリッジ交換口)が形成される。この開口は、筐体12の後壁18に形成されて、蓋体84によって開閉可能に封止される。この実施例では、香源カートリッジ86は、筐体12の後方から仕切壁20側に向かって挿入される。
また、筐体12の前壁16には、噴射口68が形成され、噴射口68と各香気室28の香気出口64とは、前壁16および円柱82を貫通する香気通路70によって連通される。そして、補助風力源74が、噴射口68の近傍位置において、香気通路70の経路に対して設けられる。具体的には、補助風力源74は、制御基板室24の余剰空間に配置され、円柱82を貫通する香気通路70に吐出された香気を吸引し、前壁16を貫通する香気通路70に対して香気を吐出するようにされる。また、必須ではないが、各香気出口64または各香気通路70の円柱82を貫通する部分には、対応する風力源32の動作と連動して香気出口64を開閉する電磁弁などの自動弁を設けることが好ましい。
そして、各香気室28内には、容器本体88およびその内部に収容される固体状の香源30を備える香源カートリッジ86が着脱可能に収容される。つまり、香源30は、香源カートリッジ86の容器本体88を介して香気室28内に収容される。
図16に示す実施例によれば、図3および図4に示す実施例と同様に、香気室28から吐出された香気を補助風力源74によって香気噴射方向に加速させることができるので、香気室28の設置数を多くしても香気の噴射性能が保持され、より多くの種類の香りを時間的および空間的に限られた範囲に提示できる。
また、補助風力源74を噴射口68の近傍位置に配置しているので、香気の噴射性能がより向上し、騒音の発生も防止される。さらに、制御基板室24の余剰空間を有効利用して補助風力源74を配置したので、前壁16内に補助風力源74を埋め込む場合と比較して、前壁16の厚みを薄くすることができ、嗅覚ディスプレイ10の小型化を図ることができる。さらにまた、香源カートリッジ86を香気室28に対して着脱可能に収容するカートリッジ方式を採用したので、香気成分の混同を生じさせることなく、多種類の香りを適切に提供できる。
なお、図16に示す実施例では、香気室28および香源カートリッジ86に傾斜面90,96を設けていないが、傾斜面90,96を設けることもできる。
また、図10および図11、図15ならびに図16に示す実施例のように、カートリッジ方式を採用する場合おいても、図9に示す実施例と同様に、風力源32を隔壁26内に設けて放射状に配置することもできる。この場合には、香源カートリッジ86を着脱するためのカートリッジ交換口を筐体12の側壁14に形成し、筐体12の側方から中心軸72側に向かって香源カートリッジ86を挿入するようにすることもできる。
さらに、カートリッジ方式を採用する場合おいても、必ずしも全ての香気室28に対して香源30を収容する必要はない。たとえば、香源30を収納せずに、香り成分が付加されていない多孔質体や非孔質体などの粒状体のみを収納したり、何も入れない空室としたりした無香カートリッジを用意し、香気室28の少なくとも1つに収容しておくようにしてもよい。また、消臭剤を収納した消臭用カートリッジを用意し、香気室28の少なくとも1つに収容しておくようにしてもよい。
また、図7、図8、図15および図16に示す実施例においては、補助風力源74内に香気を通過させるので、定期的に補助風力源74内を清掃することが好ましい。たとえば、補助風力源74を作動させると同時に、香源30が収納されていない香気室28や無香カートリッジを収容した香気室28の風力源32を作動させ、補助風力源74内に無臭の空気を通過させることによって、補助風力源74内を清掃することができる。また、たとえば、補助風力源74を作動させると同時に、消臭剤を収納した香気室28や消臭用カートリッジを収容した香気室28の風力源32を作動させ、補助風力源74内に消臭成分を含む空気を通過させることによって、補助風力源74内を清掃することもできる。
なお、上述の各実施例では、筐体12を六角柱状に形成しているが、これに限定されず、筐体12は、形成する香気室28の数などに応じて、立方体状、直方体状、多角柱状および円柱状など、適宜な形状に形成することができる。また、筐体12内を区画する隔壁26の枚数や中心軸72の形状も、形成する香気室28の数などに応じて適宜変更される。
また、上述の各実施例では、固形状の香源30として、粒状の多孔質体に液体香料を染み込ませたものを用いたが、これに限定されない。たとえば、常温で固体またはゲル状の基材を加熱によって液化させたものに液体香料を溶解した後、これを常温に冷却することによって固化またはゲル化させたものを固形状の香源30として用いることもできる。ただし、簡単かつ安価に製作でき、また液体香料の補充ができるという観点から、固形状の香源30としては、多孔質材に液体香料を染み込ませたものを用いることが好ましい。
さらに、上述の各実施例では、嗅覚ディスプレイ10を固定的に設置し、1方向のみに香りを噴射するようにしたが、これに限定されず、噴射方向が変位可能となるように嗅覚ディスプレイ10を設置することもできる。たとえば、嗅覚ディスプレイ10を横方向および縦方向に回転可能に支持する台座上に設置することができる。この場合には、ユーザの鼻の位置を検出する装置と組み合わせて、ユーザの鼻を自動的に追尾して香りを提示するようにするとよい。
さらにまた、上述の各実施例では、視聴覚情報と連動させて香りを提示するようにしたが、香りを単独で提示することもできる。たとえば、自動車などの乗り物において、顔画像などに基づいて運転者の居眠り状態を検出し、その検出に応答して香り(刺激臭)を運転者の鼻に向けて放出する、居眠り防止装置として嗅覚ディスプレイ10を用いることもできる。嗅覚ディスプレイ10は、空間的に非常に限られた範囲に対して香りを提示できる(つまり指向性がある)ので、他の搭乗者に影響を与えることなく、運転者のみに刺激臭を提示できる。また、たとえば、その日の気温、湿度および天候などに応じて、異なる香りを提示するようにしてもよい。
なお、上で挙げた寸法などの具体的数値はいずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。