以下に添付図面を参照し、本発明の実施の形態に係る電力変換装置および車両駆動システムについて説明する。なお、以下に示す実施の形態により本発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置の構成を示す図である。同図に示すように、実施の形態1の電力変換装置は、例えば交流電動機である交流負荷1を駆動するための構成として、電力変換部2、直流電力源3、制御部20および電圧検出部10を有する。また、制御部20はスイッチング信号生成部4および変調率演算部8を有し、スイッチング信号生成部4は、搬送波生成部5、変調波生成部6および比較部7を有して構成される。なお、図1では、スイッチング信号生成部4は、搬送波生成部5および変調波生成部6を内包するように構成しているが、スイッチング信号生成部4の外部に搬送波生成部5および変調波生成部6が設けられる構成であってもよい。また、電力変換部2と制御部20とを組み合わせて一つの電力変換装置となる。
電力変換部2は、直流電力源3から供給される直流電力を交流電力に変換して交流負荷1に供給する機能を有する。電圧検出部10は、後述する変調率演算のため、直流電力源3が電力変換部2の入力側(直流電源側:図1において左側)に出力する直流電圧EFCを検出して変調率演算部8に出力する。
図2は、本実施の形態における電力変換装置における変調モードの遷移条件を説明するための図であり、電力変換部2が交流負荷1に出力する交流電力の周波数FINV(以下「出力周波数」と称する)と、交流負荷1に出力する出力電圧と直流電力源3から供給される直流電力の電圧EFC(以下「直流電圧」と称する)とによって定まる変調率PMFとの関係を示すグラフである。
図2において、実線で示す直線L1は電力変換装置を制御するときの典型的な制御カーブの一例であり、実線で示す直線L2は同期1パルス(1P)モードによる制御カーブであり、破線で示す直線L3は下限変調率であり、何れも出力周波数FINVの関数として表している。破線で示す直線L4は、本実施の形態において変調モードの切り替えを行う第1のモード切替え周波数F1であり、一点鎖線で示す直線L5は、本実施の形態において変調モードの切り替えを行う第2のモード切替え周波数F2であり、一点鎖線で示す直線L6は、本実施の形態において変調モードの切り替えを行う第3のモード切替え周波数F3である。
なお、図2において直線L1と直線L3(又はL4)との交点における変調率PMFを第1のモード切替変調率PMF1とし、直線L1と直線L5との交点における変調率PMFを第2のモード切替変調率PMF2とし、直線L1と直線L2との交点における変調率PMFを第3のモード切替変調率PMF3とする。
本実施の形態において、直線L3は後述する過変調モードを適用する際の変調率下限値を周波数ごとに示した境界線であり、第1のモード切替え周波数F3は非同期モードと同期モードとの境界線である。ここで、図2に示すように、これらの直線L3、L4、横軸および縦軸により、本実施の形態にかかる電力変換装置の動作領域を4つの領域に区分すると以下のようになる。
(2.1)非同期変調PWM領域(領域R1)
横軸、縦軸、L3、L4に囲まれた領域であり、非同期の搬送波を使用した非同期モードによって制御される。
(2.2)非同期過変調PWM領域(領域R2)
縦軸、L3、L4に囲まれた領域であり、当該領域へと逸脱して動作することはないように制御される非動作領域となる。
(2.3)同期変調PWM領域(領域R3)
横軸、L3、L4に囲まれた領域であり、再起動およびノッチオフの際に動作する領域である。
(2.4)同期変調PWM領域(領域R4)
L3、L4に囲まれた領域であり、同期搬送波を使用した変調PWM制御を行う。
電力変換部2は、基本的には直線L1およびL2上に沿って交流電力を出力することとなるため、基本的には領域R1および領域R4内で交流電力を制御する。しかしながら、交流負荷を惰行状態にする際に動作停止を行うノッチオフの場合、交流負荷の惰行状態で起動を行う再起動の場合には直線L1およびL2よりも下方において動作することとなる。このため、出力周波数が高速域にある状態で再起動やノッチオフを行う場合には領域R3においても交流電力を制御する場合がある。一方、直線L1およびL2を越えて逸脱することはないため、領域R2において交流電力を制御することはない。そして、以下においては再起動やノッチオフの場合の交流電力の制御については説明を省略するため、領域R1およびR4における電力変換制御について説明する。
電力変換部2は、出力電圧の限界である変調率PMF100%までの間は、いわゆる可変電圧可変周波数(VVVF(Variable Voltage Variable Frequency))制御と呼ばれる制御方式によって電力変換が行われており、出力周波数FINVと出力電圧(又は変調率PWM)とが一定の比率を保って増加するよう交流電力を出力する。一方、変調率PMFが限界値である100%に達して以降は、いわゆる定電圧可変周波数(CVVF(Constant Voltage Variable Frequency))制御と呼ばれる制御方式によって電力変換が行われており、出力電圧が一定のまま出力周波数が増加するよう交流電力を出力する。
ここで、変調率PMFが100%の状態は、この技術分野において公知である同期1パルスモード(180°通電、もしくは矩形波駆動)時の変調率となるように定義するものとする(変調率の定義に関しては別途後述する)。また、本実施の形態では変調率100%の状態でCVVF制御をする形態について述べたが、これに限定されるものではなく、任意の変調率PMFでCVVF制御を実施してもよいし、出力周波数FINVと出力電圧(又は変調率PWM)との比を調整し交流負荷が動作する全領域でVVVF制御を実施してもよい。
図2において、電力変換部2の変調モードは、出力周波数FINVおよび変調率PMFが増加するに連れて、非同期モード、同期多パルスモード(本実施の形態では同期27パルスモードを例示)、過変調同期モード、同期1パルスモードへと切替わる。より具体的には、出力周波数FINVがF1未満の場合、すなわち変調率PWMがPMF1未満の場合には非同期モードで動作し、出力周波数FINVがF1以上でF2未満の場合、すなわち変調率PWMがPMF1以上であってPMF2未満の場合には同期多パルスモードで動作し、出力周波数FINVがF2以上でF3未満の場合、すなわち変調率PWMがPMF2以上であってPMF3未満の場合には過変調PWMモードで動作し、出力周波数FINVがF3以上の場合、すなわち変調率PWMがPMF3以上の場合には同期1パルスモードで動作する。そして、過変調同期モードの開始を決定するPWM2をπ/4未満に設定することで、変調率PMFがπ/4未満の時点から過変調同期Mモードを開始する。ここで、非同期モードおよび同期1パルスモードについては、上述した非特許文献1等に開示されている周知の制御方法を適用すればよい。なお、過変調モードとは、交流出力電圧の最大値または最小値となるタイミングを含む期間において、搬送波周波数によって定まる搬送波の1周期よりも長い期間スイッチングを停止する変調モードであり、過変調同期モードとは過変調モードにおいて搬送波と変調波とが同期している変調モードのこととする。
なお、変調率PMFについては、様々な定義の仕方があり、本明細書での変調率PMFの定義について明らかにしておく。図3は、本明細書における変調率PMFの定義を説明する図である。
電力変換部2によって交流負荷1を駆動する場合、交流負荷1に流出入する電流を励磁電流(d軸電流)とトルク電流(q軸電流)とに分けて夫々を個別に制御するベクトル制御が行われることが多い。このベクトル制御を行う際、スイッチング信号生成部4の内部では、励磁電圧(d軸電圧)とトルク電圧(q軸電圧)とが生成される。そこで、この明細書では、出力電圧指令|V*|を、下記(2)式に示すように、互いに直交するd軸電圧Vdおよびq軸電圧Vqの2乗和の平方根(以下、適宜「2相dq電圧振幅」と表記する)で表す。
2相dq電圧振幅を3相UVW座標系の電圧値(以下、適宜「3相uvw電圧振幅」と表記する)に変換する場合、図3に示すように、当該座標変換による変換係数である√(2/3)が掛かる。以下、同図に示すように、3相uvw電圧振幅を非同期換算の3相変調率に変換する場合は、変換係数である(2/EFC)が掛かり、非同期換算の3相変調率を1パルス(1P)換算の3相変調率に変換する場合は、変換係数である(π/4)が掛かる。ここで、1P換算とは、この技術分野において公知である1パルスモード(180°通電)時の変調率PMFを“1”とする意味である。
したがって、これらの係数を2相dq電圧振幅である√(Vd2+Vq2)に順次乗算して行けば、次式に示す変調率PMFの定義式が得られる。
PMF=√(Vd2+Vq2)×√(2/3)×(2/EFC)×(π/4)
=(π/√(6))×√(Vd2+Vq2)/EFC …(1)
なお、1P換算の3相変調率を2相dq電圧振幅に変換する場合には、変換係数の逆数、すなわち下側に示す変換係数に従って、右側から左側に向かう変換処理を行えばよい。
図1に戻り、電力変換部2における上記の電力変換動作は、スイッチング信号生成部4により生成されたスイッチング信号SWu,SWv,SWwにより、電力変換部2を構成する複数の半導体スイッチ素子を駆動することで行われる。なお、電力変換部2の構成は、後述する図15を参照されたい。
スイッチング信号生成部4は、外部から入力される出力電圧位相角指令θ*および変調率演算部8を介して入力される変調率PMFに基づいて、電力変換部2を制御するスイッチング信号SWu,SWv,SWwを生成する。具体的には、変調波生成部6は、出力電圧指令|V*|に基づいて生成される交流波形信号である変調波αu,αv,αwを信号として出力し、搬送波生成部5は、のこぎり波または三角波等を基本とし変調波よりも周波数の高い搬送波を信号として出力する。この搬送波の周波数は、過変調モードの場合を除き、基本的に電力変換部2のスイッチング周波数となる。ここで、変調波生成部6によって生成される変調波と搬送波生成部5によって生成される搬送波とは、非同期モードではそれぞれが同期していない独立した信号であり、同期モードではそれぞれが同期している信号として生成する。比較部7には、これらの搬送波信号および変調波信号が入力され、時々刻々変化する各々の信号値の大小関係に基づいて、スイッチング信号SWu,SWv,SWwが生成されて電力変換部2に出力される。
例えば、電力変換部2が2レベルインバータである場合、電力変換部2に出力するスイッチング信号として、変調波と搬送波の大小関係に応じた以下の信号が生成される。
(a)変調波>搬送波である期間
直流電圧入力の上位側電位を選択する信号
(b)変調波<搬送波である期間
直流電圧入力の下位側電位を選択する信号
なお、図1では交流負荷1は三相負荷として示しているが、多相交流が印加される多相交流負荷であってもよい。交流負荷1が多相交流負荷である場合、変調波として、各々の相に対する信号が生成されると共に、各々の相に対して搬送波と変調波との比較が行われることにより、各々の相に対するスイッチング信号が生成されて電力変換部2に出力される。
このようにして、スイッチング信号生成部4が生成したスイッチング信号が電力変換部2に出力され、PWM変調が行われると共に、直流電力が多相交流電力に変換されて交流負荷1が駆動される。
なお、[0029]段落から[0034]段落までの間で説明した制御方法は公知の技術であり、各変調モードにおいて共通して適用される。より詳細な内容は、例えば上記した非特許文献1に記載されているので、ここでの更なる説明は省略する。
つぎに、各変調モードにおける制御方法について説明するが、非同期モードおよび同期1パルスモードについては上述したように非特許文献1等に開示されている周知の制御方法を適用すればよいのでその説明は省略する。以下、同期多パルスモードおよび過変調同期モード(以下単に「過変調モード」と称することもある)について説明する。
同期多パルスモードは、非同期モードから後述する過変調同期モードへの移行をよりスムーズに行うために設けられた変調モードである。具体的には、変調波と搬送波とが同期した変調モードであり、本実施の形態では、交流出力の一周期に含まれるパルス数が27個の同期27パルスモードとするが、一周期に含まれるパルス数は3の倍数であってかつ奇数となっていればよい。ただし、後述する過変調同期モードにおけるパルス数よりもパルス数が大きくなるようにする。また、非同期モードから過変調同期モードへと移行する間に同期多パルスモードを適用することとしたが、非同期モードから過変調同期モードへと直接切替えをすることとしても構わない。さらに、本実施の形態では、過変調モードとして搬送波と変調波とが同期している過変調同期モードを適用するが、過変調モードとして搬送波と変調波とが同期していない過変調非同期モードを適用することとしてもよく、かかる場合には非同期モードから過変調非同期モードに直接遷移させることが望ましい。
続いて本実施の形態で適用する過変調同期モードについて、通常の過変調モードと比較して説明する。過変調モードを実現するための具体的な方法として種々の方法が考えられるが、通常の過変調モードでは、例えば特許文献1に開示されているように、出力電圧指令に従って変調波の最大振幅を徐々に増加させ、搬送波の最大値よりも変調波の最大値が大きくなるようにすることで過変調モードを実現している。このような通常の過変調モードは、非同期モードにおいて正弦波である変調波の最大振幅値を出力電圧指令に従って徐々に増加させていく中で、変調波の最大振幅が搬送波の最大値以上となった時点、すなわち変調率がπ/4の時点から過変調モードが開始される。つまり、変調波の最大振幅値を出力電圧指令に従って徐々に増加させることで過変調モードへと移行しているため、過変調モードの開始は自ずと変調率がπ/4の時となる。そして、過変調モードでは変調波の最大振幅値の位相を中心とする一定期間変調波と搬送波との大小関係が一定となり、当該期間に含まれる搬送波パルスが実際には出力されないこととなり、スイッチングが停止される。そのため、変調率がπ/4以上の場合には出力電圧のピーク値周辺における幅狭パルスの発生を抑制することができる。
また、通常の過変調モードでは、過変調モードが開始されてからも出力周波数が増加するに連れて変調波の振幅値を徐々に増加させることでスイッチングの停止期間を連続的に増加させている。つまり、非同期モードから連続的に変調率を増加させていく中で変調率がπ/4の時点から通常の過変調モードが開始され、その後も連続的に過変調モードにおけるスイッチング停止期間が連続的に変化していくこととなる。その結果、変調率がπ/4以上の場合においても変調率が過渡的に変化する間にスイッチング停止区間の直前において、幅狭パルスが発生してしまうおそれがあった。
次に、本実施の形態で適用する過変調モードについて説明する。図4(a)は同期多パルスモード(同期27パルスモード)における変調波および搬送波、ならびにパルス波形を示す図であり、図4(b)は本実施の形態で適用する過変調同期モードにおける変調波および搬送波、ならびにパルス波形を示す図であり、それぞれ上段の図が変調波と搬送波を示しており、下段の図がパルス波形を示している。なお、図4における変調率PMFは0.75である。図4(a)において、変調率PMFはπ/4よりも小さい0.75であるものの、図に示すように出力電圧にピーク値(変調波のピーク値)周辺において幅狭パルスが発生している。従って、変調率PMFがπ/4以上となった時点から開始される通常の過変調モードではこのような幅狭パルスの発生は抑制することができない。
一方、本実施の形態で適用する過変調モードは、図4(b)に示すように、変調波を特定の位相区間(以下「特定位相区間」又は交流出力の正側において「第1の期間」、交流出力の負側において「第2の期間」と称する)において出力電圧指令によって算出される正弦波とは対応させずに搬送波よりも値の大きい値(負側においては小さい値)の信号を常に変調波として出力し、特定の位相区間の間スイッチングが停止させ、幅狭パルス発生の要因となるピーク値周辺のパルスが削除されるようにしている。なお、特定位相区間は、交流出力電圧(又は出力電圧指令)の正側(又は負側)のピーク値(最大値又は最小値)を含む期間である。なお、本実施の形態では特定位相区間において変調波を通常の正弦波とは異なる値としてスイッチングを停止させているが、特定位相区間の間変調波と搬送波の大小関係が一定となるように搬送波の値を三角波等とは異なる値(例えば、正側において0以下の任意の値、負側において0以上の任意の値)とすることで、スイッチングを停止させることとしてもよい。
図4(b)においては、同期27パルスモードの波形を基準に正区間および負区間のそれぞれで搬送波5周期分の5パルスずつ削除するようにしているため、結果として一周期内で17パルス出力されることとなる。そして、出力電圧指令とは関係なく独立してスイッチングを停止する特定位相区間を設けているので、過変調モードの開始を任意に設定することができることとなり、変調率がπ/4未満の任意の変調率の時点から当該変調モードを開始させ、変調率がπ/4未満の場合においても幅狭パルスの発生を抑制している。さらに、スイッチングが停止する特定の位相区間を、変調率に応じて不連続に設定することで、過変調モードを開始して以降の出力周波数が増加していく過渡的な状況の中でも幅狭パルスの発生をより確実に抑制している。
本実施の形態で適用する過変調同期モードでは、スイッチングが停止する特定の位相区間を、変調率が増加するに連れて段階的に大きくし、基準となる同期27パルスモードのパルス数から削除されるパルス数も段階的に大きくなるように特定の位相区間を設定する。そのため、同一の過変調同期モード内においてもスイッチングが停止する特定の位相区間が異なる複数の変調モードが存在する。以下、過変調同期モードにおいて、一周期内に含まれるパルス数が17、13、9、5と変化させる場合を例として説明し、それぞれのパルス数における変調モードを、過変調同期17パルスモード、過変調同期13パルスモード、過変調同期9パルスモード、過変調同期5パルスモードと称する。
以下、本実施の形態で適用する過変調同期モードの具体的な制御方法の一例として、変調率演算部8ならびに、スイッチング信号生成部4が内包する搬送波生成部5、変調波生成部6および比較部7の動作について説明する。
まず、変調率演算部8では、電圧検出部10が検出する直流電圧EFCと、交流負荷1を駆動する際に電力変換部2が交流負荷1に印加する交流電圧の指令値である出力電圧指令|V*|とを使用して、次式に従って変調率PMFを算出する。
|V*|=√(Vd2+Vq2) …(2)
PMF=(π/√(6))×|V*|/EFC …(3)
図1に戻り、変調率演算部8が演算した変調率PMFの情報は、変調波生成部6に入力される。変調波生成部6は、出力電圧位相角指令θ*および変調率演算部8が演算した変調率PMFに基づいて、U相,V相,W相の変調波αu,αv,αwを生成する。変調波生成部6の内部構成および詳細な動作については後述する。
搬送波生成部5は、出力電圧位相角指令θ*に基づいて、U相,V相,W相に共通な搬送波Caを生成する。比較部7は、変調波生成部6で生成された変調波αu,αv,αwと搬送波生成部5で生成された搬送波Caを各相ごとに比較し、比較結果に基づいて、電力変換部2に対する制御信号であるスイッチング信号SWu,SWv,SWwを生成する。電力変換部2は、スイッチング信号SWu,SWv,SWwによって制御され、出力電圧指令|V*|に基づく出力電圧を交流負荷1に印加することで交流負荷1を駆動する。
つぎに、変調波生成部6の詳細について、図5の図面を参照して説明する。図5は、変調波生成部6の一構成例を示す図である。図5に示すように、変調波生成部6は、モード選択部61、補正係数テーブル群62、補正係数選択部63、位相条件テーブル群64、特定位相選択部65、3相位相生成部66、乗算器67、変調率選択部68および変調波演算部69を備えて構成される。
過変調モード内でのモード切り替えは、モード選択部61が、変調率PMFに基づいてモード選択コードmodeCDを生成し、モード選択コードmodeCDに基いて変調モードが切り替わることで実現される。生成されたモード選択コードmodeCDは、補正係数選択部63および特定位相選択部65に出力される。なお、モード選択部61の更に詳細な処理については、後述する。
本実施の形態で適用する過変調同期モードでは出力電圧指令値とは独立してスイッチングを停止させるため出力電圧指令に対して電圧誤差が発生してしまう。そこで、当該電圧誤差を補正するため、補正係数テーブル群62には、電圧誤差を補正するための補正係数が格納されており、変調モードおよび変調率PMFごとの補正係数テーブルが設けられている。図5では、過変調同期5パルスモード(以下、必要に応じて「mode5p」と表記、他も同じ)、過変調同期9パルスモード(mode9p)、過変調同期13パルスモード(mode13p)を例示しているが、実施の形態1の電力変換装置では、過変調同期17パルスモード(mode17p)、同期27パルスモード(mode27p)についても想定している。補正係数の詳細な設定方法については、後述する。
補正係数テーブル群62には、変調率PMFが入力され、変調率PMFに応じた補正係数、すなわち補正係数の候補値が各補正係数テーブルから選択されて補正係数選択部63に入力される。
補正係数選択部63には、補正係数の候補値の他に、モード選択部61からのモード選択コードmodeCDが入力される。補正係数選択部63は、補正係数の候補値の中からモード選択コードmodeCDに対応する補正係数を選択して乗算器67に出力する。なお、補正係数選択部63の更に詳細な処理については、後述する。
位相条件テーブル群64には、本実施の形態における過変調同期モード内の変調モードごとに、特定の位相区間を決定するための特定位相と称する位相角値が格納されている。いま、特定位相をθsで表すと、この特定位相θsは、例えば次式のように定義することができる。
θs=Nover/Nca×90[deg]
=Nover/Nca×(π/2)[rad] …(4)
上記(4)式において、NoverおよびNcaの意味は、以下の通りである。
Nover:過変調時の出力パルス数
Nca:変調波1周期における搬送波の波数
なお、位相条件テーブル群64は、あらかじめ演算された位相角値が格納する構成としているが、特にこの構成に限定する必要はなく、上記(4)式にて常時演算する構成としてもよい。
図5に戻り、位相条件テーブル群64に格納された特定位相θsの候補値は、特定位相選択部65に入力される。特定位相選択部65は、特定位相θsの候補値の中からモード選択コードmodeCDに対応する特定位相θsを選択して変調率選択部68に出力する。なお、特定位相選択部65の更に詳細な処理については、後述する。
3相位相生成部66には、出力電圧位相角指令θ*が入力される。3相位相生成部66は、入力された出力電圧位相角指令θ*に基づいて、変調波αu,αv,αwを生成する際に用いる位相角(以下「変調波位相角」と称する)θu,θv,θwを生成して変調率選択部68および変調波演算部69に出力する。
乗算器67には、変調率PMFと補正係数選択部63からの補正係数Kpとが入力される。乗算器67は、変調率PMFに補正係数Kpを乗じて変調率選択部68に出力する。
変調率選択部68には、補正係数Kpに加えて、特定位相選択部65からの特定位相θsと、3相位相生成部66が生成した変調波位相角θu,θv,θwとが入力される。変調率選択部68は、変調波位相角θu,θv,θwの夫々と特定位相θsとの間の大小関係を比較し、大小関係の比較結果に基づいて、乗算器67によって補正された変調率PMFと、変調率選択部68の内部にて設定されている変調率のデフォルト値のうちの何れかを選択して変調波演算部69に出力する。ここで、当該デフォルト値は幅狭パルスの発生を抑制するため、変調波生成部6の出力である変調波の値が搬送波の値よりも確実に多くなる値に設定しておく。なお、変調率選択部68の出力は、変調波演算部69が生成する際の変調率Au,Av,Awとして使用される。なお、これらの変調率Au,Av,Awは、前述した幅狭パルスが生成されるのを回避するための変調率の値であり、以降「幅狭パルス回避変調率」と称する。変調率選択部68の更に詳細な処理については、後述する。
変調波演算部69には、3相位相生成部66が生成した変調波位相角θu,θv,θwと、変調率選択部68が生成した幅狭パルス回避変調率Au,Av,Awとが入力される。変調波演算部69は、変調波位相角θu,θv,θwおよび幅狭パルス回避変調率Au,Av,Awを使用し、次式に従って、変調波αu,αv,αwを生成する。
αu=Au×sin(θu)
αv=Av×sin(θv)
αw=Aw×sin(θw) …(5)
つぎに、モード選択部61の更なる詳細な動作を説明する。図6は、図5に示したモード選択部61の一構成例を示す図である。図6に示すように、モード選択部61は、4つの比較判定器611〜614と、3つの加算器615〜617を有して構成される。比較判定器611〜614は、夫々がA端子およびB端子を有し、A端子には変調率PMFが入力される。一方、B端子に入力される値は、比較判定器ごとに異なっており、予め設定された各変調モードを切り替えるときの変調率の値が入力される。そして、比較判定器611は同期27パルスモードと過変調同期17パルスモードとのモード切替えを実行し、比較判定器612は過変調同期17パルスモードと過変調同期13パルスモードとのモード切替えを実行し、比較判定器613は過変調同期13パルスモードと過変調同期9パルスモードとのモード切替えを実行し、比較判定器614は過変調同期9パルスモードと過変調同期5パルスモードとのモード切替えを実行する。
なお、図6では、同期27パルスモードと過変調同期モードの切替えおよび過変調同期モード内でのモード切替えに用いる構成のみを図示している。よって、非同期モードと同期27パルスモードとの切替え、および過変調同期モードと同期1パルスモードの切替えについては図示省略しているが、以下で説明するモード切替え方法を同様に適用すればよい。
また、本実施の形態では、同期27パルスモードから過変調同期17パルスモードへの切替変調率(第2のモード切替変調率PMF2:図2参照)を70%(変調率0.7)とし、過変調同期17パルスモードから過変調同期13パルスモードへの切替変調率を84%(変調率0.84)とし、過変調同期13パルスモードから過変調同期9パルスモードへの切替変調率を92%(変調率0.92)とし、過変調同期9パルスモードから過変調同期5パルスモードへの切替変調率を97%(変調率0.97)としている。ただし、上述した具体的なモード切替変調率の値に限定されるものではないことは言うまでもない。
例えば、比較判定器611のB端子には“70%”、すなわち“0.7”という値が入力される。実施の形態1において、この“70%”という値は、変調モードを“非過変調同期27パルスモード”から“過変調同期17パルスモード”に切り替えるときの変調率である。実施の形態1では、1パルスモードにおける180°通電時の変調率を“1”とすることは既に述べた通りであるが、当該変調率を“1”としたときの70%値が、“非過変調同期27パルスモード”から“過変調同期17パルスモード”に切り替えるときの変調率である。図6では、このことを“切替変調率70%27p−17p”と表記しており、以下、他のものも同様な表記とする。
説明を続けると、比較判定器612のB端子には、変調モードを“過変調同期17パルスモード”から“過変調同期13パルスモード”に切り替えるときの切替変調率84%が入力され、比較判定器613のB端子には、変調モードを“過変調同期13パルスモード”から“過変調同期9パルスモード”に切り替えるときの切替変調率92%が入力され、比較判定器614のB端子には、変調モードを“過変調同期9パルスモード”から“過変調同期5パルスモード”に切り替えるときの切替変調率97%が入力される。
比較判定器611〜614では、A>Bを満足するときに“1”が出力され、A>Bを満足しないとき、すなわちA≦Bを満足するときに“0”が出力される。加算器615では、比較判定器611の出力に比較判定器612の出力が加算され、加算器616では、加算器615の出力に比較判定器613の出力が加算され、加算器617では、加算器616の出力に比較判定器614の出力が加算され、加算器617の出力が、モード選択コードmodeCDとして出力される。以上のモード選択部61の動作を纏めると以下の通りになる。
(a)変調モード:非過変調同期27パルスモード
・変調率:70%(第2のモード切替変調率PMF2)以下
・モード選択コードmodeCD=0
(b)変調モード:過変調同期17パルスモード
・変調率:70%超、且つ、84%以下
・モード選択コードmodeCD=1
(c)変調モード:過変調同期13パルスモード
・変調率:84%超、且つ、92%以下
・モード選択コードmodeCD=2
(d)変調モード:過変調同期9パルスモード
・変調率:92%超、且つ、97%以下
・モード選択コードmodeCD=3
(e)変調モード:過変調同期5パルスモード
・変調率:97%超
・モード選択コードmodeCD=4
つぎに、補正係数選択部63の更なる詳細な動作を説明する。図7は、図5に示した補正係数選択部63の一構成例を示す図である。図7に示すように、補正係数選択部63は、変調率補正係数格納部631を有して構成される。補正係数選択部63には、変調モードに応じて予め設定された補正係数が入力される。変調率補正係数格納部631には、図示のように、モード選択コードmodeCDに応じた格納エリアが設けられており、変調モードに応じた補正係数が対応するエリア、例えば同期27パルスモードにおける補正係数であれば“mode27p”と記載されたエリアに格納される。補正係数選択部63は、入力されるモード選択コードmodeCDをインデックスとして、当該インデックスのエリアに格納された補正係数を変調率補正係数Kpとして出力する。
ここで、補正係数の設定方法について説明する。上述したように本実施の形態で適用する過変調モードでは特定位相区間において出力電圧指令を考慮せずにスイッチングを停止することになるため、特定位相区間でスイッチングを停止している分だけ出力電圧が増加してしまう。そこで、特定位相区間で増加した分の出力電圧を調整するように特定位相区間を除く通常のスイッチング区間(第二の区間)において出力電圧が出力電圧指令よりも小さくなるように補正することが重要となる。そのため、補正係数は出力電圧指令よりも実際の出力電圧が小さくなるにように設定される。
さらに、特定位相区間は過変調同期モードのパルスモードごとに異なっており、スイッチング区間において補正すべき量も特定位相区間の長さに応じて異なる。よって、本実施の形態のように、過変調同期モードごとに最適な補正係数を用意することが望ましい。過変調同期モードごとの最適な補正係数は、過変調同期17パルスモードから過変調同期5パルスモードへと移行するに連れて特定位相区間が増加し補正すべき量も増加することを考慮し、過変調同期モードに含まれるパルス数が減少するに連れて各変調モードのスイッチング区間における上記補正量が大きくなるように補正係数を設定する。
つぎに、特定位相選択部65の更なる詳細な動作を説明する。図8は、図5に示した特定位相選択部65の一構成例を示す図である。図8に示すように、特定位相選択部65は、特定位相格納部651を有して構成される。特定位相選択部65には、変調モードに応じて予め設定された特定位相が入力される。特定位相格納部651には、図示のように、モード選択コードmodeCDに応じた格納エリアが設けられており、変調モードに応じた特定位相が対応するエリア、例えば過変調同期17パルスモードにおける特定位相であれば“mode17p”と記載されてエリアに格納される。特定位相選択部65には、モード選択コードmodeCDが入力され、モード選択コードmodeCDをインデックスとしてエリアが指定され、当該エリアに格納された特定位相θsが選択されて出力される。なお、特定位相格納部651に格納される具体的な特定位相の設定方法については後述する。
つぎに、変調率選択部68の更なる詳細な動作について、図9および図10の図面を参照して説明する。図9は変調率選択部68の一構成例を示す図であり、図10は変調率選択部68の動作例を示す図である。図9に示すように、変調率選択部68は、位相変換部681、比較判定器682および変調波振幅切替部683を有して構成される。なお、変調率選択部68は、UVWの各相ごとに設けられる。以下、U相の動作について説明する。
位相変換部681には、変調波位相角θuが入力される。位相変換部681は、変調波位相角θuの値を0°から90°までの値に変換する。図10の上段部側の波形において、太実線で示す波形が位相変換部681に入力される位相角θuの波形であり、太破線で示す三角形状の波形が位相変換部681が出力する波形である。ここで、位相変換部681が出力する位相角をθu’,θv’,θw’とすると、例えば位相角θu’は、次式のように表すことができる。
θu’=θu(0°≦θu<90°)
θu’=180°−θu(90°≦θu<180°)
θu’=θu−180°(180°≦θu<270°)
θu’=360°−θu(270°≦θu<360°) …(6)
なお、θv’,θw’についても、上記(6)式と同様に表すことができる。
比較判定器682のA端子には位相変換部681の出力、すなわち位相角θuが入力され、B端子には特定位相選択部65からの特定位相θsが入力される。図10の上段部側の波形において、横軸に平行に引いた一点鎖線で示す波形が特定位相θsを表している。
ここで、A端子に入力される位相角θuがB端子に入力される特定位相θsよりも小さい場合、すなわちθu<θsの場合には、比較判定器682の出力は“0”(FALSE)であり、変調波振幅切替部683では、“PMF×補正係数”が選択されて出力される。一方、位相角θuが特定位相θsよりも大きいか、もしくは等しい場合、すなわちθu≧θsの場合には、比較判定器682の出力は“1”(TRUE)であり、変調波振幅切替部683では、予め設定された“搬送波振幅よりも大きな値”が選択されて出力される。変調波振幅切替部683の出力は、幅狭パルス回避変調率Auとして後段の処理部、すなわち変調波演算部69に送られる。
図10に示すように、太破線で示される位相角θu’と一点鎖線で示される特定位相θsとの交点の位相角θをθ1,θ2とすると、例えば位相角θuが0°以上、且つ、θ1以下、および、位相角θuがθ2以上、且つ、180°以下の範囲では、幅狭パルス回避変調率Au,Av,AwとしてPMF×補正係数が選択され、位相角θuがθ1以上、且つ、θ2以下の範囲では、[0061]段落にて上述したデフォルト、すなわち変調波振幅切替部683への入力値である“搬送波振幅よりも大きな値”が選択される。このように制御することで、課題の項でも述べた、幅狭パルスの発生を抑止することが可能となる。なお、幅狭パルスの発生を抑止することができる理由については、下述する。
図11は、通常の過変調モードにおける幅狭パルスの発生を説明する図であり、図12は、本実施の形態で適用する過変調モードにおいて幅狭パルスの発生を抑止する手法を説明する図である。図11、図12共に、細実線は同期27パルスモードでの搬送波(1周期の波数=27)の波形であり、1周期の1/4、すなわち位相角が0°から90°の範囲を示している。また、太実線で示す波形のうち、波形K1は変調率PMF=97.8%のときの変調波の波形である。以下、同様に、波形K2は変調率PMF=94%のときの変調波の波形であり、波形K3は変調率PMF=89%のときの変調波の波形であり、波形K4は変調率PMF=78.4%のときの変調波の波形である。それぞれの変調率は変調波と三角波である搬送波の頂点が接するときの変調率を例示している。
図11において、破線で示す部分では、変調波と搬送波とが交わる部分の位相角幅が小さくなっていることがわかり、図11において例示する各変調率付近の変調率では、図11の破線で示す部分で幅狭パルスの発生を回避することが困難であった。
これに対し、図12に示す手法で、幅狭パルスの発生を抑止する制御を行っている。具体的には、位相角がある特定位相を超えた特定位相区間では、変調率を出力電圧指令とは無関係に独立した大きな値に変更して、変調波が常に搬送波よりも大きく、変調波と搬送波との大小関係が一定となるようにしている。なお、図示の例では特定位相区間における変調波の値が1.5以上の値に設定しているが、搬送波の振幅よりも大きければ、どのような値であってもよいし、搬送波の振幅よりも大きな値であれば一定の値でなくても構わない。また、各モードごとに値を揃える必要もない。さらに、上述したように、本実施の形態では特定位相区間において変調波を通常の正弦波とは異なる値としてスイッチングを停止させているが、特定位相区間の間変調波と搬送波の大小関係が一定となるように搬送波の値を三角波等とは異なる値(例えば、交流出力の正側において0以下の任意の値、負側において0以上の任意の値)とすることで、スイッチングを停止させることとしてもよい。
上述の制御は、例えば図5の構成であれば、変調率PMFに補正係数Kpを乗じるための補正係数選択部63、乗算器67および変調率選択部68の処理に相当する。本実施の形態で適用する過変調モードにおいて、例えば変調率PMF=78.4%のときの変調波である波形K4’の場合、位相角が17π/54を超えるときに、変調率を大きな値に変更している。この位相角17π/54は、上記(4)式にも示した、特定位相θsである。なお、この制御により、位相角が0から17π/54[rad]までにある4.25個の三角波の山ではPWMパルスが生成されるが、位相角が17π/54[rad]から90°までにある2.5個の三角波の山では、PWMパルスは生成されず常時オンとなる信号が生成される。この制御により、図11において説明した幅狭パルスの発生を回避することができるので、出力電圧の振動を抑制でき、誘導障害の発生を抑止することが可能となる。
また、位相角が90°以上においても、90°および270°の点を通り横軸に直交する直線に対して線対称の制御が行われる。よって、波形K4’の場合、1周期のうちで、17(=4.25×4)個のPWMパルスが生成され、10(=2.5×4)個のPWMパルスが生成されない。すなわち、波形K4’の場合、27(=17+10)個のPWMパルスのうちで、10個のPWMパルスの生成をキャンセルし、17(=27−10)個のPWMパルスを生成する制御である。波形K4’による制御モードを、“過変調同期17パルスモード”と称し、また“Mode17p”と表記する所以が、ここにある。
図12において、波形K1’〜K3’の場合も同様であり、夫々は、“過変調同期5パルスモード(Mode5p)”、“過変調同期9パルスモード(Mode9p)”および“過変調同期13パルスモード(Mode13p)”を生成するための変調波波形である。なお、実施の形態1における変調モードを纏めると以下の通りである。
(a)同期27パルスモード(Mode27p)
・1周期のパルス数:27パルス
・各相の90°、270°を中心に削除するパルス数:なし
・特定位相θs:なし、もしくはπ/2[rad]
(b)過変調同期17パルスモード(Mode17p)
・搬送波周期:同期27パルスモードの周期に同じ
・1周期のパルス数:17パルス
・各相の90°、270°を中心に削除するパルス数:5パルスずつ
・特定位相θs=17π/54[rad]
(c)過変調同期13パルスモード(Mode13p)
・搬送波周期:同期27パルスモードの周期に同じ
・1周期のパルス数:13パルス
・各相の90°、270°を中心に削除するパルス数:7パルスずつ
・特定位相θs=13π/54[rad]
(d)過変調同期9パルスモード(Mode9p)
・搬送波周期:同期27パルスモードの周期に同じ
・1周期のパルス数:9パルス
・各相の90°、270°を中心に削除するパルス数:9パルスずつ
・特定位相θs=9π/54[rad]
(e)過変調同期5パルスモード(Mode5p)
・搬送波周期:同期27パルスモードの周期に同じ
・1周期のパルス数:5パルス
・各相の90°、270°を中心に削除するパルス数:11パルスずつ
・特定位相θs=5π/54[rad]
図13は、上記の各過変調モードにおける特定位相で定まる特定位相区間の位相幅を表した図であり、横軸が変調率PMFであり、縦軸は特定位相区間の位相幅θである。図13に示すように本実施の形態で適用する過変調モードでは、スイッチングが停止する特定位相区間を段階的に不連続に変更している。そのため、適切な特定位相を選択すれば、過変調モード内で変調率が増加していく過渡的な状況の中でも幅狭パルスの発生を抑制することができる。なお、本実施の形態で例示する特定位相はそれぞれ搬送波の谷の部分にあたる位相としているが、この位相に限定されるものではない。ただし、搬送波の谷の部分にあたる位相とすることで、谷の部分であれば交流出力の正側において変調波と搬送波とが交差していることがないので、より確実に幅狭パルスの発生を抑制することができる。
上記の各過変調モードにおける特定位相は、図8を用いて説明した特定位相格納部651に格納されている。そして、上記の各過変調モードにおける特定位相は、搬送波の一周期分ずつ規則的にずらすことで、交流出力一周期において4回ずつスイッチング回数(パルス数)が減少していくように過変調モードを遷移させている。このようにすることで、交流出力の左右および正負のアンバランスが生じること無く過変調モードを遷移させることができる。ただし、それぞれの過変調モードに含まれるスイッチング回数は、4の倍数ずつ減少させればよく、4回ずつ減少させるものに限定されるものではない。
また、本実施の形態では過変調同期17パルスモードから過変調モードを開始することとしているが、本実施の形態のように搬送波の最初の三角波波形が負側となる場合には、基準となる同期多パルスモード(本実施の形態では同期27パルスモード)から正側および負側の中心に位置する2つのパルスを削除した過変調モード(本実施の形態では過変調同期25パルスモード)が、スイッチング回数が最大の過変調同期モード(以下「過変調同期最大パルスモード」と称する)となる。そのため、過変調同期モードは過変調同期最大パルスモード(本実施の形態では過変調同期25パルスモード)を基準に4の倍数を差引いたスイッチング回数の過変調同期モードから適宜選択すればよい。
さらに、本実施の形態とは異なり、搬送波の最初の三角波波形が正側となる場合には、基準となる同期多パルスモード(本実施の形態では同期27パルスモード)から正側および負側の中心に位置する4つのパルスを削除した過変調モード(同期27パルスモードを基準とすれば過変調同期23パルスモード)が過変調同期最大パルスモードとなる。
以上を勘案すると、搬送波の最初の三角波波形が負側となる場合には、基準となる同期多パルスモードから2つのパルスを削除した過変調同期最大パルスモードから4の倍数を差引いた過変調同期モードの中から適宜選択し過変調モードを遷移させる。言い換えれば、基準となる同期多パルスモードから正側負側で1つずつのパルスを削除した過変調同期最大パルスモードから正側負側2つずつのパルス数を削除していけばよいので、基準となる同期多パルスモードから正側負側のそれぞれで削除されるパルス数(搬送波のピーク値の数)が奇数となる過変調同期モードの中から適宜選択し過変調モードを遷移させれば良い。結果として、搬送波の最初の三角波波形が負側となる場合には、過変調モードにおいて変調率が増加するに連れてスイッチング回数を4の倍数ずつ減少させ同期1パルスモードへと遷移させることができる。
同様に搬送波の最初の三角波波形が正側となる場合においても、基準となる同期多パルスモードから4つのパルスを削除した過変調同期最大パルスモードから4の倍数を差引いた過変調同期モードの中から適宜選択し過変調モードを遷移させる。言い換えれば、基準となる同期多パルスモードから正側負側で2つずつのパルスを削除した過変調同期最大パルスモードから正側負側2つずつのパルス数を削除していけばよいので、基準となる同期多パルスモードから正側負側のそれぞれで削除されるパルス数(搬送波のピーク値の数)が偶数となる過変調同期モードの中から適宜選択し過変調モードを遷移させれば良い。結果として、搬送波の最初の三角波波形が正側となる場合には、過変調モードにおいて変調率が増加するに連れてスイッチング回数を4の倍数ずつ減少させ同期3パルスモードへと遷移させることができる。
なお、上記した特定位相は、電力変換装置における変調モードを、パルス数の高い側から低い側に切り替えて行く制御を行うときの値である。電力変換装置における変調モードを、パルス数の低い側から高い側に切り替えて行く制御を行うときには、制御動作のチャタリングを防止するため、上記とは異なる値を用いてもよい。すなわち、変調モードをパルス数の高い側から低い側に切り替えて行くときの特定位相と、変調モードをパルス数の低い側から高い側に切り替えて行くときの特定位相にヒステリシス特性を持たせるようにすれば、制御動作のチャタリングを防止することができるという効果が得られる。
続いて、本実施の形態で適用する過変調モードを開始点となる第2のモード切替変調率PMF2の設定方法について説明する。図4(a)および図11を用いて説明した幅狭パルスは、変調率が高くなればなるほど、出力周波数に対する搬送波周波数(スイッチング周波数)が大きくなればなるほど、発生しやすくなる。そのため、出力周波数に対して搬送波周波数が高くなると変調率π/4以下においても幅狭パルスが発生するおそれがあるため、本実施の形態で適用する過変調モードを変調率がπ/4以下の時点から開始することが望ましい。一方で、変調率が十分に小さい場合には幅狭パルスが発生するおそれがないため過変調モードを適用する必要はない。そこで、幅狭パルスが発生するおそれがある最小の変調率である下限変調率を算出し、算出した下限変調率に基づいて過変調モードの開始点を決定することが望ましい。なお、下限変調率は、図2において直線L3で示した周波数と変調率との関数である。
図14は、幅狭パルスの発生を抑制し最小パルス幅を確保するための下限変調率と搬送波周波数との関係を示す図である。ここで、“最小パルス幅”とは、電力変換部2のスイッチング素子が安定してスイッチング動作を実現できるようスイッチング素子を最低限オンし続けるべき期間(以下「最小オン期間」と称する)である。スイッチング素子は、一旦オンした後は、オン状態の安定化のために、オンの状態を維持することが求められる場合がある。そしてこのような最小オン期間を確保するために、最小パルス幅よりも幅の狭い幅狭パルスが指令値として入力された場合、幅狭パルスの指令ではなく最小パルス幅オンするようにスイッチング信号を出力する機能が制御部20の内部に設けられることがあり、このような機能を、「最小オン機能」と称する。
図14では、横軸に搬送波周波数、縦軸に下限変調率をとっており、実線で示す境界線M1は、搬送波周波数に応じて変化する下限変調率を示している。この下限変調率は、“最小パルス幅[s]”および“搬送波周波数[Hz]”の関数であり、次式のように表すことができる。
下限変調率=(π/4)×(1−最小パルス幅×搬送波周波数×2) …(7)
図14によれば、例えば搬送波周波数が3000Hzでは“約0.7”が下限変調率であり、6000Hzでは“約0.6”が下限変調率であることが示されており(最小オン幅は0.2[μs])、搬送波周波数が高くなるに従って、下限変調率が小さくなる。ただし、過変調モードを開始するのは必ずしも下限変調率M1上の点である必要はなく、許与可能な幅狭パルスを考慮して変調率が下限変調率以上、π/4未満の間の任意の点から過変調モードを開始すればよい。
そこで、本実施の形態では、下限変調率までの間は非同期モードで動作させ、同期多パルスモード(同期27パルスモード)へと切り替えた後、変調率が下限変調率以上π/4未満の間の第2のモード切替変調率PMF2から過変調モードを開始することとしている。しかしながら、より確実に幅狭パルスの発生を抑制したい場合には、下限変調率の時点から過変調モードを開始することとしてもよい。一方、変調率が下限変調率以下の低速領域では、スイッチング周波数が多く交流負荷の高調波損失を低減できるとともに複雑な制御を必要としない非同期モードを適用することが望ましい。よって、本実施の形態では、変調率が下限変調率となるまで非同期モードを適用することで、非同期モードの領域を最大限拡張している。
従来の電力変換装置では、変調率がπ/4以上となった場合に過変調モードを適用していたため、図14に示す下限変調率からもわかるように、変調率がπ/4未満の場合においても幅狭パルスが発生することがあった。そして、制御部に最小オン機能が設けられていないと安定したスイッチング動作が実現できず、最小オン機能が設けられていたとすると指令値として出力されたパルス幅と実際に動作するオン時間とに誤差が生じてしまうため出力電圧に振動が発生し誘導障害を招くおそれがあった。
一方、本実施の形態に係る電力変換装置では、変調率が下限変調率以上π/4未満の間の任意の点から過変調モードを開始するため、幅狭パルスの発生を抑制することが可能となる。このことから明らかなように、従来技術と比較した本発明の本質は、変調率がπ/4未満の領域で過変調モードを適用することにあると言ってもよい。この制御により、実施の形態1の電力変換装置では、幅狭パルスに起因する出力電圧の振動を抑制することができ、誘導障害の発生を抑止することができるという従来技術にはない顕著な効果を奏する。
以上、本発明の電力変換装置に係る好ましい実施の形態について説明してきたが、以下に示す本発明の要旨を逸脱しない範囲で、上記に示した構成の一部を省略もしくは変更して構成してもよく、また、上記に示した制御動作の一部を省略もしくは変更してもよい。
本発明の第1の要旨は、変調率がπ/4未満の時点から、電力変換部2が交流負荷1に印加する交流出力電圧の基本波が正の期間であり交流出力電圧の正のピーク値を含む第1の期間(上述した特定位相区間のうち、出力電圧指令が正の期間)において、搬送波の値よりも常に大きい値の変調波を生成し、変調波と搬送波との比較によりパルス波形を生成することにある。なお、“正の期間”は“負の期間”と、“正のピーク値”は“負のピーク値”と、“常に大きい値”は、“常に小さい値”と、“第1の期間”は“第2の期間”と読み替えることができる。また、“交流出力電圧”は、“出力電圧指令”と読み替えてもよい。この動作により、通常の過変調モードでは考慮されていなかった変調率がπ/4未満の領域においても幅狭パルスの発生を抑制することができる。
なお、この第1の期間であるが、変調モードによって異なる。本実施の形態においては、例えば過変調同期17パルスモード時において、π/2(90°)を中心に±5π/27(=π/2−17π/54)の範囲、すなわち17π/54以上、かつ37π/54(=π/2+5π/27)未満の範囲を第1の期間とする例について説明した。なお、3π/2(270°)を中心に±5π/27の範囲、すなわち71π/54(=3π/2−5π/27)以上、かつ91π/54(=3π/2+5π/27)未満の範囲も第1の期間に対応することは言うまでもない。
本発明の第2の要旨は、第1の期間において幅狭パルスの発生を抑制することで出力電圧指令に対して実際の出力電圧の絶対値が増加してしまうことを考慮して、第1の期間および第2の期間以外の期間である第3の期間(上述したスイッチング期間)では、変調波の値を出力電圧の絶対値が小さくなるように補正することにある。なお、“正の期間”は“負の期間”と、“小さい値”は、“大きい値”と読み替えることができる。この動作により、過変調モードの適用に伴う出力電圧の誤差を抑制し、出力電圧の精度を向上させることができる。
なお、この第3の期間であるが、変調モードによって異なる。本実施の形態においては、例えば過変調同期13パルスモード時において、0(0°)以上、かつ13π/54未満の範囲、もしくは、41π/54(=π−13π/54)以上、かつ67π/54(=π+13π/54)未満の範囲、もしくは、95π/54(=2π−13π/54)以上、かつ2π未満の範囲が、ここで言う第3の期間に対応する。
本発明の第3の要旨は、出力電圧指令の振幅(又は変調率)が増加するに連れて、スイッチングを停止する特定位相区間、すなわち交流出力電圧の1周期における第1の期間および第2の期間の割合を段階的に、別言すれば、非線形かつ不連続に増加させることにある。この動作により、過変調モードの開始時点とは関係なく、変調率と出力周波数が増大していく過渡的な変化の中でも、幅狭パルスの発生を抑制することができる。
本発明の第4の要旨は、出力電圧指令の振幅が増減するに連れて、上述した第3の期間(上述したスイッチング期間)での補正値を出力電圧の絶対値が減少する方向に段階的、別言すれば、非線形かつ不連続に増加させることにある。なお、この第4の要旨による制御は、前述の第3の要旨による制御と同時に切替えることが好ましい。
本発明の第5の要旨は、出力電圧指令が正となった際の最初の搬送波のパルスが負の場合には第1の期間に含まれる搬送波のピーク値の個数が奇数となり、出力電圧指令が正となった際の最初の搬送波のパルスが正の場合には第1の期間に含まれる搬送波のピーク値の個数が偶数となるように、第1の期間を設定することである。この制御により、過変調モードにおける正負および左右の対称性を維持し、出力電圧のアンバランスを抑制することができる。
さらに、上記第1の要旨を備えた発明において、過変調モードを開始するタイミングを上述した下限変調率、又はそれより小さい値の時点とすれば、全てのスイッチング素子のオン動作が、最小オン時間よりも長い期間のオン状態を維持できるので、変調率がπ/4未満の場合であっても幅狭パルスの発生を完全に抑制することができる。
なお、最小オン機能を備えた電力変換装置であれば、幅狭パルスの発生を抑制することができるものの、最小オン機能を備えた場合には電圧指令値に基づくオン指令と実際のオン時間とに誤差が生じてしまうため出力電圧の誤差が生じてしまう。よって、本発明によれば最小オン機能を備えていない電力変換装置であっても幅狭パルスの発生を抑制することができ、最小オン機能を備えた電力変換装置に本発明を適用したとしても出力電圧の誤差を抑制することができるという効果を奏する。よって、最小オン機能の有無に関係なく本発明を適用することが望ましい。
なお、本発明の要旨は、二相変調と呼ばれる制御方法とは内容を異にする。二相変調は、三相共通の電圧信号が各相電圧に重畳されても、線間電圧は不変となる三相交流電圧の特性を利用し、U,V,Wの各相が60°ごとにスイッチングを休止する期間を設ける技術である。二相変調では、交流出力電圧の1周期において、常に何れか1つの相がスイッチング動作を休止しているが、本発明では、必ずしも、何れか1つの相がスイッチング動作を休止する必要はない。より詳細に説明すれば、上述した(4)式において、“Nover/Nca=2/3”の関係を満足するときに、二相変調におけるスイッチング休止期間と本発明の特定位相区間は一致するものの、二相変調は本発明のように変調率に応じてスイッチング休止期間を変化させるものではない。
実施の形態2.
実施の形態2では、実施の形態1で説明した電力変換装置を適用した車両駆動システムについて説明する。
図15は、実施の形態1に係る電力変換装置を鉄道車両に適用した車両駆動システムの一構成例を示す図である。実施の形態2に係る車両駆動システムは、交流電動機101、電力変換部102、入力回路103および制御部108を備えている。交流電動機101は、図1に示した交流負荷1に対応するものであり、鉄道車両に搭載されている。電力変換部102は、図1に示した電力変換部2と同じものであり、スイッチング素子104a,105a,106a,104b,105b,106bを具備している。電力変換部102は、入力回路103から供給された直流電圧を任意周波数および任意電圧の交流電圧に変換して交流電動機101を駆動する。制御部108は、実施の形態1で説明した電力変換装置に相当する。すなわち、制御部108は、実施の形態1で説明したスイッチング信号生成部4および変調率演算部8を含んで構成される。制御部108は、電力変換部102を制御するためのスイッチング信号SWu,SWv,SWwを生成する。
入力回路103は、図示を省略しているが、スイッチ、フィルタコンデンサ、フィルタリアクトルなどを備えて構成されており、その一端は集電装置111を介して架線110に接続されている。また、他端は、車輪113を介して大地電位であるレール114に接続されている。この入力回路103は、架線110から直流電力または交流電力の供給を受けて、電力変換部102へ供給する直流電力を生成する。
このように、実施の形態1の電力変換装置を車両駆動システムへ適用することにより、交流電動機101に電圧振動等のない安定した電圧を供給することができるので、誘導障害を抑制するとともに、安定した車両制御を実現することができる。
実施の形態3.
実施の形態3では、変調波に基本波の3n次(nは正の整数)の高調波を重畳させる形態について説明する。本実施の形態では、変調波の算出方法、過変調モードの開始時点、および過変調モードの下限変調率の点で上述した実施の形態1と相違するため、以下当該相違点について説明する。
本実施の形態では、変調波に基本波の3n次の高調波とし3次高調波を重畳させるため、変調波演算部69は、変調波位相角θu,θv,θwおよび幅狭パルス回避変調率Au,Av,Awを使用し、次式に従って、基本波の3次高調波成分が重畳された変調波(以下、必要に応じて「3次重畳変調波」と称する)αu,αv,αwを生成する。このように変調波に基本波の3n次高調波を重畳させることで、最大の出力電圧を向上させることが知られており、以下「3次重畳制御」と称する。3次重畳制御を適用する場合、各相に出力される出力電圧にも3n次の高調波が含まれることとなるが、三相の交流負荷であれば線間電圧に含まれる3次高調波が打ち消されることとなり、最大の出力電圧を向上させるといる利点のみを享受することができる。
αu=Au×{sin(θu)+(1/6)×sin(3θu)}
αv=Av×{sin(θv)+(1/6)×sin(3θv)}
αw=Aw×{sin(θw)+(1/6)×sin(3θw)} …(8)
上述したように通常の過変調モードは、出力電圧指令の基本波である変調波の最大振幅値を出力電圧指令に従って徐々に増加させていくことで過変調モードを開始するため、過変調モードの開始は変調波の最大振幅と搬送波の最大値とが一致する変調率π/4の時点からとなる。一方で、3次重畳制御を適用すると変調波の最大振幅が搬送波の最大値と一致するのは変調率がπ/√(12)の時点となるため、通常の過変調モードの開始は変調率がπ/√(12)の時点となるが、3次重畳制御を適用しない場合と同様に、変調波の最大振幅が搬送波の最大値と一致する変調率がπ/√(12)未満の場合においても幅狭パルスが発生するおそれがある。よって、変調波に基本波の3次重畳制御を適用する場合には、過変調モードの開始を決定する第2のモード切替変調率PMF2をπ/√(12)未満の値に設定することで、変調率がπ/√(12)未満の時点から過変調モードを開始することが重要となる。
さらに、3次重畳制御を適用する場合には、過変調モードの開始を決定する下限変調率も異なる。図16は、最小パルス幅を確保するための下限変調率を3次重畳変調波の場合について示した図である。図16では、横軸に搬送波周波数、縦軸に下限変調率をとっており、実線で示す境界線M2は、搬送波周波数に応じて変化する下限変調率を示しているが、3次重畳制御を適用しない場合とは異なっている。3次重畳制御の場合、下限変調率は、“最小パルス幅”および“搬送波周波数”の関数であり、次式のように表すことができる。
下限変調率=(π/√(12))×(1−最小パルス幅×搬送波周波数×2) …(9)
よって、本実施の形態では、(9)式で示される下限変調率以上であって変調率がπ/√(12)未満の時点から過変調モードを開始する。
本実施の形態にかかる変調モードをまとめると以下のようになる。変調率PMFが0以上から第1のモード切替変調率PMF1未満までの間は3次重畳制御を適用した非同期モードとし、変調率が第1のモード切替変調率PMF1以上第2のモード切替変調率PMF2未満までの間は同期多パルスモード(例えば、同期27パルスモード)とする。そして、変調率が第2のモード切替変調率PMF2以上の場合には実施の形態1と同様の過変調モードとし、変調率が100%となると同期1パルスモードとする。
ここで、本実施の形態では3次重畳制御を適用していることから非同期モードや同期多パルスモードを、3次高調波が重畳された変調波の最大値と搬送波の最大値とが一致する変調率π/√(12)まで拡張することができる。そのため、第1のモード切替変調率PMF1は、π/4以上π/√(12)未満の値、例えば変調率0.8とすることが望ましく、より望ましくは図2において示すVVVF制御時の制御カーブ(変調率・周波数特性)L1と(9)式によって算出される下限変調率との交点とすることで幅狭パルスの発生を抑制しつつ非同期モードを最大限拡張することができる。
さらに、実施の形態1と同様に第1のモード切替変調率PMF1と第2のモード切替変調率PMF2との間で適用する同期多パルスモードを省略し、変調率が第1のモード切替変調率PMF1以上となった時点から過変調モードを適用することとしてもよい。かかる場合、上述したように第1のモード切替変調率PMF1を設定していれば、過変調モードは下限変調率以上であって変調率がπ/√(12)未満の時点から開始されることとなるので、従来考慮されていなかった変調率がπ/√(12)未満においても幅狭パルスの発生を抑制することができる。
なお、3次重畳制御は、上述したように、最大の出力電圧を変調率π/4から変調率π/√(12)まで向上させることができるものであるが、過変調モードでは3次重畳制御を適用せずとも変調率π/4以上の電圧を出力することができるので、過変調モードにおいては3次重畳制御を適用しなくても構わない。この制御により、過変調モードにおける変調波の生成が不必要に煩雑化することを抑制できる。
また、3次重畳制御における変調波の算出方法は、上述の3次高調波を重畳する(8)式の演算式に限定されるものではない。3相の電力変換装置においては、電力変換部が出力する線間電圧に高調波を含まなければ各相への出力電圧には高調波が含まれてもよい。この制御により、変調波の波形には自由度があり、上述のように基本波の3次高調波成分が重畳された変調波としてもよいし、基本波の3n次高調波成分が複数重畳された変調波としてもよい。さらに、重畳する高調波は正弦波に限定されず、例えば三角波を用いることとしてもよい。
続いて、上述した実施の形態1〜3の電力変換部に具備されるスイッチング素子の素材について説明する。電力変換器で用いられるスイッチング素子としては、珪素(Si)を素材とする半導体トランジスタ素子(IGBT、MOSFETなど)と、同じく珪素を素材とする半導体ダイオード素子とを逆並列に接続した構成のものが一般的である。上記実施の形態1〜3で説明した技術は、この一般的なスイッチング素子を具備する電力変換器に用いることができる。
一方、上記実施の形態1〜3の技術は、珪素を素材として形成されたスイッチング素子に限定されるものではない。この珪素に代え、低損失かつ高耐圧な半導体素子として近年注目されている炭化珪素(SiC)等のワイドバンドギャップ半導体からなるスイッチング素子を電力変換器に用いることも無論可能である。
ここで、ワイドバンドギャップ半導体の一つである炭化珪素は、珪素と比較して半導体素子で発生する損失を大幅に低減できるとともに高温での使用が可能であるという特徴を有しているので、電力変換部に具備されるスイッチング素子として炭化珪素を素材とするものを用いれば、スイッチング素子モジュールの許容動作温度を高温側に引き上げることができるので、搬送波周波数を高めて、交流負荷の運転効率を向上させることが可能である。しかしながら、搬送波周波数を高くした場合には、上述したような幅狭パルスの発生に起因する誘導障害の問題があるため、この問題点をクリアする手当をすることなく、単純に搬送波周波数を高める制御を行うことは難しい。
上述したように、実施の形態1〜3に係る技術によれば、PWM制御を行う電力変換装置において、炭化珪素を素材とするスイッチング素子を用いてスイッチング速度を増大させたとしても、幅狭パルスの発生を抑止することができるので、誘導障害の発生を抑制しつつ、交流負荷の運転効率を高めることが可能となる。
なお、炭化珪素(SiC)は、珪素(Si)よりもバンドギャップが大きいという特性を捉えて、ワイドバンドギャップ半導体と称される半導体の一例である。この炭化珪素以外にも、例えば窒化ガリウム系材料または、ダイヤモンドを用いて形成される半導体もワイドバンドギャップ半導体に属しており、それらの特性も炭化珪素に類似した点が多い。したがって、炭化珪素以外の他のワイドバンドギャップ半導体を用いる構成も、本発明の要旨を成すものである。
なお、以上の実施の形態1〜3に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。