JP6169972B2 - 幹細胞分離方法 - Google Patents

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Description

本発明は、骨髄液や臍帯血等の体液から、細胞分離フィルターを用いて幹細胞を分離する方法および該処理方法により得られた幹細胞含有画分に関する。
骨髄液、臍帯血等の体液には、骨、軟骨、筋肉、脂肪等の様々な細胞に分化し得る性質を持った幹細胞が存在することが知られている(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。幹細胞は多種多様な細胞、臓器に分化し得る能力を有しており、体液から幹細胞を効率良く分離・増幅させる方法は、再生医療発展の見地から極めて重要である。幹細胞は骨髄液中に成人で1万〜100万個に1個程度しか存在しないと報告されており(非特許文献4)、幹細胞画分を分離・濃縮後に回収する方法が種々検討されている。
例えば、Pittengerらは、密度勾配遠心分離法であるフィコールパック分画法を用いて比重1.073の分画に脂肪、軟骨、骨細胞への分化前駆細胞が存在することを見出している(非特許文献4)。関谷らもフィコールパック分画法で比重分離した細胞を用いて軟骨への分化を試みている(非特許文献5)。また、脇谷らは、デキストランを用いて赤血球以外の画分の細胞を取得し、この細胞での軟骨への分化を試みている(非特許文献6)。しかしながら、上記フィコールやデキストランを用いた分離法は、分離液と細胞を分けるために遠心分離機を使用して細胞を数回洗浄する操作が必要であり、操作性が煩雑であり、遠心操作により細胞がダメージを受け、開放系での操作によりコンタミネーションが生じる危険が伴う、という問題点が存在する。
そこで閉鎖系の分離法として、不織布を用いたデバイスによる幹細胞の分離方法が報告されている(特許文献2)。当該方法は不織布繊維で細胞を捕捉することで幹細胞を分離する方法であり、幹細胞以外に一部の白血球や血小板についても同時に捕捉することから、回収時に幹細胞以外に不要な細胞が混入してしまう。また大量の骨髄液を処理する場合は、白血球や血小板の捕捉によって不織布の目詰まりが発生し、通液性が損なわれてしまう。
フィコール等の他に細胞画分に添加する薬剤としては、2価カチオンキレート剤を細胞の保護・安定化剤として使用することが報告されている(特許文献3)。しかし、不織布の目詰まり抑制については記載も示唆もされていない。
上記のように、操作の煩雑さや開放系によるコンタミネーションの危険性を鑑みると、細胞分離フィルターを用いて体液から幹細胞を分離する方法が好ましいが、幹細胞含有画分への不要な白血球や血小板の混入、および大量の体液を処理した場合における不織布の目詰まり等の問題点が挙げられ、その解決法は未だ見出されておらず実用的に用いられていないのが現状である。
国際公開第01/083709号パンフレット 国際公開第07/046501号パンフレット 特開2007−89532号公報
Pliard A. et al. : J. Cell Biol. 130(6):1461-72(1995) Mackay A. M. et al. : Tissue Engineering 4(4):415-428(1998) Angele P. et al. : Tissue Engineering 5(6):545-553(1999) Pittenger. et al. : Science 284:143-147(1999) Sekiya. Et al. : Developmental Biology 7(99):4397-4402(2002) Wakitani. et al. : Osteoarthritis Research Society International (2002)10,199-206
本発明の目的は、細胞分離フィルターを用いて体液から幹細胞を分離する方法における問題点を解決することである。具体的には大量の体液を処理する際の細胞分離フィルターの目詰まりを抑制する処理方法を提供する。更に、幹細胞含有画分中の不要な白血球や血小板の割合を減少させる処理方法を提供する。
本発明者らは、安全性および操作性の観点から細胞分離フィルターを用いて効率的に体液から幹細胞を分離する方法について鋭意研究を行った。その結果、驚くべきことに、ヘパリンを添加して抗凝固処理した体液に、2価カチオンキレート剤を特定の濃度で添加することで、夾雑細胞である白血球や血小板の混入を抑制しつつ、付着性の幹細胞を効率的に回収できる方法を見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(2)の工程:(1)ヘパリンを含有する体液に2価カチオンキレート剤を添加する工程、および(2)細胞分離フィルターを用いて、該体液から付着性の幹細胞を分離する工程、をこの順で行うことを特徴とする、幹細胞の分離方法に関する。
幹細胞が間葉系幹細胞であることが好ましい。
体液が骨髄液であることが好ましい。
2価カチオンキレート剤がクエン酸であることが好ましい。
クエン酸の添加濃度が0.028〜3.69%(w/v)であることが好ましい。
分離された幹細胞を含む細胞懸濁液中の血小板の混入率が20%以下であることが好ましい。
細胞分離フィルターがポリオレフィンまたは/およびレーヨンからなることが好ましい。
細胞分離フィルターが不織布からなることが好ましい。
不織布の密度が2.1×10〜4.9×10g/mであり、かつ、繊維径が3〜40μmであることが好ましい。
細胞分離フィルターが体液の流入口と流出口を有する容器に充填されていることが好ましい。
また、本発明は、前記の方法によって分離された幹細胞に関する。
本発明の幹細胞分離方法を用いることにより、体液から、夾雑細胞の混入を抑えつつ、幹細胞を効率的に分離できるため、幹細胞を高い純度で回収することが可能となる。また当該方法によって得られる幹細胞は、再生医療や細胞医療に用いることが可能であり、増殖させずにそのまま用いることができ、あるいは増殖させて用いることもできる。増殖させずにそのまま用いる場合は、細胞の体積を減少することができるため、体積の限られた部位に移植する場合に有用である。増殖させる場合は、濃縮状態で細胞増殖させることが可能であり、増殖時の培養容器等のスケールダウンを通じてコスト削減や手技の簡略化につながる。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の幹細胞の分離方法は、下記(1)〜(2)の工程:(1)ヘパリンを含有する体液に2価カチオンキレート剤を添加する工程、および(2)細胞分離フィルターを用いて、該体液から付着性の幹細胞を分離する工程、をこの順で行うことを特徴とする。
本発明における体液とは、骨髄液、臍帯血、血液(末梢血、G−CSF動員末梢血を含む)、月経血等であり、幹細胞を含むものを指す。また、脂肪組織等の生体組織を酵素処理等により液状化したもの、および該液状化物から得られた細胞を、生理食塩水や細胞培養用培地等のバッファーに再懸濁したものも含まれる。
また、本発明における体液には、上記体液の希釈液や、フィコール、パーコール、ヒドロキシエチルスターチ(HES)、バクティナーチューブ、リンフォプレップ等を使用し、密度勾配遠心分離法により、前記体液に前処理を施して調製された細胞懸濁液等も含まれる。
本発明における幹細胞とは、培養皿に付着して増殖し、分化能を有することを特徴とする細胞をいう。具体的には、間葉系幹細胞、骨髄ストローマ細胞、多能性幹細胞等、多分化能を有する細胞等を指す。間葉系幹細胞とは、体液中から分離され、自己増殖を繰り返す能力を有し、下流の細胞系譜への分化が可能な細胞を指す。この間葉系幹細胞は、分化誘導因子により骨芽細胞や軟骨細胞、血管内皮細胞、心筋細胞等、あるいは、脂肪、歯周組織構成細胞であるセメント芽細胞、歯周靭帯繊維芽細胞等へ分化する細胞である。骨髄ストローマ細胞とは、骨髄細胞中、未熟および成熟血液細胞を除く全ての付着性細胞成分を指す。多能性幹細胞とは、分化誘導因子により神経細胞、肝細胞にも分化する可能性のある細胞をいうが、これらに限定されるものではない。
本発明における夾雑細胞とは、体液中の幹細胞以外の細胞、すなわち白血球、血小板等が挙げられる。
本発明におけるヘパリンとは、ヘパリン、低分子量ヘパリンなどのヘパリン類を指す。ヘパリンの体液での含有濃度が低すぎると体液に凝固が生じる可能性があり、また体液での含有濃度が高すぎると、体液が希釈されて細胞分離に長時間を要する。これらの観点から、ヘパリンの体液での含有濃度は0.1〜500IU/mLが好ましく、1〜200IU/mLがより好ましく、5〜100IU/mLがさらに好ましく、10〜100IU/mLが最も好ましい。採取した体液にヘパリンを添加して幹細胞を分離することが可能であり、市販の体液にヘパリンが含まれる場合には、別途ヘパリンを添加することなく幹細胞を分離することも可能である。
本発明における2価カチオンキレート剤とは、EDTA−2ナトリウム、EDTA−2カリウム、EDTA−3カリウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸カリウム、クエン酸、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウムなどがあげられるが、入手のし易さの観点から血液保存液として市販されているクエン酸およびその塩類を含む溶液が好ましい。
2価カチオンキレート剤であるクエン酸およびその塩類を含む溶液としては、例えばACD(acid−citrate−dextrose)−A液、ACD−B液、CPD(Citrate−Phosphate−Dextrose)液等が挙げられる。クエン酸の体液への添加濃度が低すぎると、夾雑細胞の混入抑制の効果が減弱する可能性があり、また体液への添加濃度が高すぎると、体液のpHが酸性になる可能性や幹細胞の捕捉が低下する可能性がある。これらの観点から、体液へのクエン酸の添加濃度は0.01〜10%(w/v)が好ましく、0.02〜5%(w/v)がより好ましく、0.028〜3.69%(w/v)がさらに好ましく、0.028〜2.51%(w/v)が最も好ましい。
本発明における細胞分離フィルターの材質は、ポリプロピレン、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエステル、塩化ビニル、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、レーヨン、ビニロン、ポリスチレン、アクリル(ポリメチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等)、ナイロン、ポリウレタン、ポリイミド、アラミド、ポリアミド、キュプラ、ケブラー、カーボン、フェノール、テトロン、パルプ、麻、セルロース、ケナフ、キチン、キトサン、ガラス、綿等から選ばれる少なくとも1種からなるものが好ましい。より好ましくは、ポリエステル、ポリスチレン、アクリル、レーヨン、ポリオレフィン、ビニロン、ナイロン、ポリウレタン等から選ばれる少なくとも1種からなる合成高分子が挙げられる。
2種以上の合成高分子を組み合わせる場合は、その組み合わせに特に限定はないが、ポリエステルおよびポリプロピレン;レーヨンおよびポリオレフィン;またはポリエステル、レーヨンおよびビニロンからなる組み合わせ等が好ましく挙げられる。
2種以上の合成高分子を組み合わせて繊維とする場合の繊維の形態としては、1本の繊維が異成分同士の合成高分子よりなる繊維、あるいは異成分同士が剥離分割した分割繊維でも良い。また成分の異なる合成高分子単独よりなる繊維をそれぞれ複合化した形態でも良い。ここでいう複合化とは、特に限定は無く、2種以上の繊維が混在した状態より構成される形態、あるいは合成高分子単独よりなる形態をそれぞれ張り合わせたもの等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明における細胞分離フィルターの形態は、特に限定されず、連通孔構造の多孔質体、繊維の集合体、織物等が挙げられる。細胞分離フィルター(例えば白血球除去フィルター)としての実績の観点から、好ましくは繊維で構成されるものであり、より好ましくは不織布である。
本発明において細胞分離フィルターの目詰まりとは、細胞分離フィルターを充填した細胞分離カラムの流入口側の圧力が70mmHg以上になることを指す。流入口側の圧力が70mmHg以上だと目的とする幹細胞の回収率の低下などの不具合が生じ好ましくない。細胞分離フィルターの目詰まりが問題にならない流入口側の圧力は好ましくは60mmHg以下であり、より好ましくは50mmHg以下、さらに好ましくは40mmHg以下である。
細胞分離フィルターの密度は、赤血球等の除去効果、および目的とする幹細胞の回収率から、2.1×10〜4.9×10g/mであることが望ましい。細胞分離フィルターの密度が2.1×10g/mを下回る場合、目的細胞が細胞分離フィルターを通過する割合が2倍以上になってしまい、目的細胞の回収率が低下する。4.9×10g/mを超える場合、夾雑物によって目詰りが生じ易くなり、回収率が低下してしまうおそれがある。目的細胞の回収率からより好ましくは2.6×10〜4.9×10g/m、さらに好ましくは3.2×10〜4.8×10g/mである。密度は分離フィルターの材質、繊維径、空隙率等により調整が可能であるが、同一の分離フィルターを圧縮することでも調整することができる。
該細胞分離フィルターの繊維径は、目的細胞の回収率を向上させる点から、3〜40μmであることが好ましい。3μmより細いと、白血球との相互作用が高まり、赤血球、白血球、血小板の除去効率が低くなる。40μmより太いと、有効接触面積の低下やショートパスが起こりやすくなり、目的細胞の回収率の低下につながり易い。目的細胞と細胞分離フィルターとの相互作用および回収率を上げるためには、より好ましくは3〜35μm、さらに好ましくは5〜35μm、さらにより好ましくは5〜30μmである。該繊維径は、細胞分離フィルターが繊維で構成される場合、例えば細胞分離フィルターを走査型電子顕微鏡にて写真撮影し、任意の30ポイントの長さを測定し、平均することにより求めることができる。なお、細胞分離フィルターが多孔質体等の場合、繊維径とは、多孔質体の断面部分において、樹脂部分(孔でない部分)の平均幅を意味し、上記と同様にして測定する。
該細胞分離フィルターの性能をより向上させるために、細胞分離フィルターに親水化処理を行っても良い。親水化処理することにより、目的とする幹細胞以外の細胞の非特異的な捕捉を抑制し、体液を偏り無く細胞分離フィルター中に通過させ、必要細胞の回収効率を向上させることができる。親水化処理方法としては、水溶性多価アルコール、または水酸基やカチオン基、アニオン基を有するポリマー、あるいはその共重合体(例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、あるいはその共重合体等)を吸着させる方法;水溶性高分子(ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等)を吸着させる方法;疎水性膜に親水性高分子を固定する方法(例えば、表面に親水性モノマーを化学的に結合させる方法等);電子線照射する方法;含水状態で細胞分離フィルターに放射線を照射することで親水性高分子を架橋不溶化する方法;乾燥状態で熱処理することにより、親水性高分子を不溶化すし固定する方法;疎水性膜の表面をスルホン化する方法;親水性高分子と、疎水性ポリマードープとの混合物から膜をつくる方法;アルカリ水溶液(NaOH、KOH等)処理により膜表面に親水基を付与する方法;疎水性多孔質膜をアルコールに浸漬した後、水溶性ポリマー水溶液で処理、乾燥後、熱処理や放射線等で不溶化処理する方法;界面活性作用を有する物質を吸着させる方法等が挙げられる。
親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、多糖類(セルロース、キチン、キトサン等)、水溶性多価アルコール等が挙げられる。
疎水性ポリマーとしては、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、アクリル、ウレタン、ビニロン、ナイロン、ポリエステル等が挙げられる。
界面活性作用を有する物質としては、非イオン性の界面活性剤、レシチン、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、エデト酸ナトリウム、セスキオレイン酸ソルビタン、D−ソルビトール、デヒドロコール酸、グリセリン、D−マンニトール、酒石酸、プロピレングリコール、マクロゴール、ラノリンアルコール、メチルセルロース等が挙げられる。非イオン性の界面活性剤としては、多価アルコール脂肪酸エステル系とポリオキシエチレン系とに大別される。多価アルコール脂肪酸エステル系の界面活性剤としては、ステアリン酸グリセリンエステル系、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタンアシルエステル等が挙げられる。ポリオキシエチレン系の界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンアシルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアシルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられる。これらは各々単独で、または組み合わせて用いることができる。
さらに目的とする付着性の幹細胞の細胞分離フィルターへの付着性を向上させるために、細胞付着性のタンパク質や、目的とする幹細胞上に発現されている特異的抗原に対する抗体を、細胞分離フィルター上に固定化しても良い。細胞付着性のタンパク質としては、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、コラーゲン等が挙げられる。抗体としては、CD73、CD90、CD105、CD166、CD140a、CD271等に対する抗体が挙げられるが、これらに限定されない。また、固定化方法としては、例えば、一般的なタンパク質の固定化方法である、臭化シアン活性化法、酸アジド誘導体法、縮合試薬法、ジアゾ法、アルキル化法、架橋法等の方法を任意に用いることができる。
当該細胞分離フィルターは、体液の流入口と流出口を有する容器に充填して細胞分離カラムとして使用しても良く、このとき、細胞分離フィルターは、圧縮せず容器に充填しても良いし、圧縮して容器に充填しても良い。細胞分離フィルターは、前記の条件を満たせば、形状等の限定はない。好ましい具体例としては、不織布状の細胞分離フィルターを、充填した状態での厚み0.1〜5cm程度で、下記に示す細胞分離カラム容器に充填して得られたもの等が挙げられる。この場合、細胞分離フィルターの、充填した状態での厚みは、0.1cm〜5cmが好ましいが、目的とする幹細胞の回収率および赤血球等の除去効率の点から、0.15〜4cmがより好ましく、0.2〜3cmがさらに好ましい。細胞分離フィルターの厚みが、前記厚みに満たない時は、細胞分離フィルターを積層して条件を満たしても良い。
また、細胞分離フィルターをロール状に巻いて、細胞分離カラム容器内に充填しても良い。ロール状で使用する場合、当該ロールの内側から外側に向けて体液を処理することにより、目的とする幹細胞の捕捉を行っても良いし、あるいはこの逆に、ロールの外側から内側に体液を流入させ、目的とする幹細胞の捕捉を行っても良い。
細胞分離カラムに用いる容器の形態、大きさ、材質には特に限定はない。容器の形態は、球、コンテナ、カセット、バッグ、チューブ等、任意の形態であって良い。好ましい具体例としては、例えば、容量約0.1〜400mL程度、直径0.1〜15cm程度の筒状容器や、一片の長さ0.1〜20cm程度の正方形または長方形で、厚みが0.1〜5cm程度の四角柱状容器等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
容器は、任意の構造材料を使用して作製することができる。構造材料としては、具体的には非反応性ポリマー、生体親和性金属、合金、ガラス等が挙げられる。非反応性ポリマーとしては、アクリロニトリルブタジエンスチレンターポリマー等のアクリルニトリルポリマー;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン化ポリマー;ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリカードネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルクロリドアクリルコポリマー、ポリカーボネートアクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。容器の材料として有用な金属材料(生体親和性金属、合金)としては、ステンレス鋼、チタン、白金、タンタル、金、およびそれらの合金、並びに金メッキ合金鉄、白金メッキ合金鉄、コバルトクロミウム合金、窒化チタン被覆ステンレス鋼等が挙げられる。特に好ましくは、耐滅菌製を有する素材であるが、具体的には、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリイミド、ポリカードネート、ポリスルホン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。
細胞分離カラムは、体液の入口および出口を有する容器に細胞分離フィルターが充填されてなるものであるが、さらには細胞洗浄液や細胞回収液の入口および出口を有する容器内に細胞分離フィルターが充填されてなるものでも良く、さらには回収した細胞をそのまま培養するための培養用バック等を備えた容器内に細胞分離フィルターが充填されてなるものでも良い。
具体的には、細胞分離カラムは、体液の流入口、および細胞分離フィルターを通過した体液を排出するための流出口を有しており、さらに流入口あるいは、流入口以外の流入口側に独立して、細胞分離フィルター内に留まっている非付着細胞を洗浄するための洗浄液流入口を備え、かつ、流出口あるいは、流出口以外の流出口側に独立して、細胞分離フィルターに捕捉された細胞を回収するための細胞回収液流入口を、体液および洗浄液の流れとは逆方向から細胞回収液を流すために備えてなるものが好ましい。
細胞分離フィルターに、体液を通液することにより、有用細胞である幹細胞を捕捉することが可能である。体液の通液後、体液を通過させた方向と同方向に洗浄液を通液することにより、細胞分離フィルターに留まっている赤血球等を洗浄除去することが可能である。そして、細胞回収液を流すことにより、幹細胞を分離することが可能であり、さらに体液および洗浄液を流した方向と逆方向から回収液を流すと回収率が向上する。
本発明において体液中の幹細胞を50%以上回収することが好ましく、60%以上回収することがより好ましく、70%以上回収することがさらに好ましい。
本発明において、分離された幹細胞を含む細胞懸濁液中の血小板の混入率が20%以下であることが好ましく、14%以下であることがより好ましい。回収した細胞懸濁液中の血小板混入率が高すぎると目的の幹細胞の純度が低下し、分離後の培養効率が低下する傾向がある。
本発明の幹細胞の分離方法について以下に例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
1)体液の調製;
ヒトまたはその他の動物から体液を採取し、ヘパリンを0.1〜500IU/mL程度添加して混和する。次に、クエン酸を0.01〜10%(w/v)程度添加し、混和する。
2)体液の送液;
該細胞分離フィルターからなる細胞分離カラムに、1)で調製した体液を通液し、目的とする幹細胞を含む細胞画分を細胞分離フィルターに捕捉する。通液する際には、体液を入れた容器から送液回路を通じて自然落下で送液しても、ポンプにより通液しても良い。また体液を入れたシリンジを直接、該カラムに接続し、手でシリンジを押して注入しても良い。ポンプにより通液する場合は流速0.1〜100mL/min程度が挙げられる。
3)洗浄;
該細胞分離カラムに、流入口側から洗浄液を通液し、赤血球等の細胞を洗い流す。洗浄液は、回路を通じて自然落下で送液しても、ポンプにより通液しても良い。ポンプにより通液する場合の流速は、0.1〜100mL/min程度が挙げられる。洗浄量は、細胞分離カラムの容量により異なるが、該カラム容積の約1〜100倍程度量で洗浄することが好ましい。細胞洗浄液としては、生理的食塩液、リンゲル液、細胞培養に使用する培地、リン酸緩衝液等の一般的な緩衝液等が挙げられるが、安全面から生理的食塩液が好ましい。
4)回収;
該細胞分離カラムに、体液および洗浄液を流した方向とは逆方向(流出口側)から細胞回収液を入れ、目的とする幹細胞を含む画分を回収する。細胞回収液を細胞分離カラムに注入する時は、細胞回収液をシリンジ等に予め入れておき、シリンジのプランジャーを手等で勢いよく押し出すこと等により実現できる。回収液量および流速は、カラム容量により異なるが、カラム容積の1〜100倍量程度の細胞回収液を、流速0.5〜20mL/sec程度で注入することが好ましい。
細胞回収液としては、等張液であれば特に限定はないが、生理的食塩液やリンゲル液等の注射用剤として使用実績のあるものや、緩衝液、細胞培養用の培地等が挙げられる。
また、細胞分離フィルターに捕捉された幹細胞の回収率をあげるため、細胞回収液の粘張度を上げても良い。そのために上記細胞回収液に、アルブミン、フィブリノーゲン、グロブリン、デキストラン、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシエチルセルロース、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン等を添加することができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明により洗浄、回収した幹細胞含有画分をさらに凍結保存しても良い。細胞へのダメージを少なくできる点から、液体窒素を用いて凍結保存した方が良い。また、凍結保存した細胞を融解し、ヒトや動物への移植、研究への使用、または再度培養することができる。
本発明により医薬組成物を製造できる。上記の幹細胞の回収方法により、幹細胞を濃縮し、該濃縮細胞を製薬的に許容される添加剤と混合することで医薬組成物を製造することができる。製薬的に許容される添加剤としては、例えば、凝固剤、ビタミン等の栄養源、抗生物質等が挙げられる。
上記細胞分離フィルターを用いて得られた幹細胞は、未分化の状態で増殖して提供することも、増殖させずに使用することも可能である。また、分化誘導剤等により分化誘導することにより、軟骨損傷患者に移植する細胞、骨疾患患者に移植する細胞、心筋疾患患者または血管疾患患者に移植する細胞、神経組織を損傷した患者に移植する細胞として使用することができるが、これらに限定されるものではない。この際の分化誘導剤としては特に限定されないが、軟骨への分化誘導剤としてはデキサメタゾン、TGFβ、インシュリン、トランスフェリン、エタノールアミン、プロリン、アスコルビン酸、ピルビン酸塩、セレン等が挙げられ、骨への分化誘導剤としてはデキサメタゾン、β−グリセロリン酸、ビタミンC、アスコルビン酸塩等が挙げられ、心筋への分化誘導剤としてはEGF、PDGF、5−アザシチジン等が挙げられ、神経への分化誘導剤としてはEGF、bFGF、bHLH等が挙げられ、血管への分化誘導剤としてはbFGF、VEGF等が挙げられる。
また、上記細胞分離フィルターを用いて得られた幹細胞を、治療用細胞として使用しうる。さらに、当該治療用細胞を、さまざまな疾患に適用して、これらを治療することができる。具体的な治療対象としては、幹細胞疲労疾患、骨疾患、軟骨疾患、虚血性疾患、血管系疾患、神経病、やけど、慢性炎症、心疾患、免疫不全、クローン病等の疾患が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(1)体液の調製
ヒト骨髄液(AllCells社製Fresh Whole Bone Marrow、ヘパリン50IU/mL含有)に、ACD−A液を骨髄液:ACD−A液=72:1の割合で添加し(クエン酸終濃度:0.028%)、十分に転倒混和を行った。
(2)細胞分離カラムの作製
出入口を供えた内径2.2cm、長さ0.9cmの円筒状のポリカーボネイト製の筒に、細胞分離フィルターとしてレーヨンとポリオレフィンからなる不織布(目付け=95(g/m)、繊維径=15±9μm、密度3.8×10(g/m))を直径2.2cmの円形に打抜いて24枚を圧縮・積層し、上下をストッパーで挟み込んで細胞分離フィルターを固定した細胞分離カラムを作製した。
(3)細胞分離性能評価
50mLの生理食塩液にて不織布の洗浄を行った。次に、シリンジポンプにて骨髄液3mL相当量を流速6mL/minで通液した。次に同方向から生理食塩液30mLを同流速にて流すことにより、赤血球等の洗浄除去を行った。次にウシ胎児血清10%を含む細胞培養液(GIBCO α−MEM培地)50mLを、骨髄液を流した方向と逆方向から勢い良く流すことにより、目的とする細胞画分を回収した。
<血球の混入率測定>
回収した細胞懸濁液に含まれる白血球、赤血球、血小板数を自動血球計測装置(シスメックス K−4500)にて測定した。この結果をカラム通過前の各種細胞数で割ることにより細胞混入率を求めた。その結果、白血球混入率=62%、赤血球混入率=3%、血小板混入率=14%であった。
<カラム詰まり評価>
骨髄液通液時に、カラム入口側の圧力を圧力計で測定した。この結果を詰まりの指標とした(カラムが詰まるほど、骨髄液の通液性が損なわれてカラム入口側の圧力が上昇する)。なお本評価は、30mL骨髄液処理時(実施例4および比較例2)について行った。
<CFU−Fアッセイ>
CFU−Fアッセイにより間葉系幹細胞分離数を解析した。まず回収した細胞懸濁液の1/3量(骨髄液1mL処理相当分)にウシ胎児血清10%を含む細胞培養液(GIBCOα−MEM培地)を加えてポリスチレンシャーレ(直径10cm)に移し、37℃、5%CO環境下で培養を行った。次に、培養9日後にクリスタルバイオレット−メタノール液にてコロニーを染色し、出現したコロニー数を測定したところ、回収されたコロニー数=361個であった。
(実施例2)
ACD−A液の添加量を骨髄液:ACD−A液=100:15(クエン酸終濃度:0.28%)とした以外は、実施例1と同様の方法で、細胞混入率、コロニー数を求めた。その結果、白血球混入率=44%、赤血球混入率=3%、血小板混入率=0%、回収されたコロニー数=391個であった。
(実施例3)
ACD−A液の添加量を骨髄液:ACD−A液=2:1(クエン酸終濃度:0.72%)とした以外は、実施例1と同様の方法で、細胞混入率、コロニー数を求めた。その結果、白血球混入率=44%、赤血球混入率=3%、血小板混入率=0%、回収されたコロニー数=401個であった。
(実施例4)
骨髄液の処理量を30mLに、また<CFU−Fアッセイ>に用いる細胞懸濁液の量を1/30量(骨髄液1mL処理相当分)とした以外は、実施例1と同様の方法で、細胞混入率、コロニー数を求めた。その結果、白血球混入率=16%、赤血球混入率=1%、血小板混入率=5%、回収されたコロニー数=342個であった。また骨髄液通液時に、詰まりの指標としてカラム入口側の圧力を圧力計で測定したところ(カラムが詰まるほど、骨髄液の通液性が損なわれてカラム入口側の圧力が上昇する)、最大圧力は31mmHgであった。
(実施例5)
局方クエン酸ナトリウムを生理食塩液に溶かしてブタ骨髄液(ヘパリン50IU/mL含有)にクエン酸終濃度:0.05%となるように添加して、十分に転倒混和を行った。細胞分離カラムの作製および評価については実施例1と同様の方法で、細胞混入率、コロニー数を求めた。その結果、白血球混入率=64.4%、赤血球混入率=3%、血小板混入率=0%、回収されたコロニー数=301個であった。
(実施例6)
クエン酸終濃度を0.28%とした以外は、実施例5と同様の方法で、細胞混入率、コロニー数を求めた。その結果、白血球混入率=57.2%、赤血球混入率=3%、血小板混入率=0%、回収されたコロニー数=309個であった。
(実施例7)
クエン酸終濃度を0.50%とした以外は、実施例5と同様の方法で、細胞混入率、コロニー数を求めた。その結果、白血球混入率=57.2%、赤血球混入率=3%、血小板混入率=0%、回収されたコロニー数=283個であった。
(実施例8)
クエン酸終濃度を1.00%とした以外は、実施例5と同様の方法で、細胞混入率、コロニー数を求めた。その結果、白血球混入率=57.2%、赤血球混入率=3%、血小板混入率=0%、回収されたコロニー数=251個であった。
(実施例9)
クエン酸終濃度を2.51%とした以外は、実施例5と同様の方法で、細胞混入率、コロニー数を求めた。その結果、白血球混入率=64.4%、赤血球混入率=6%、血小板混入率=0%、回収されたコロニー数=262個であった。
(実施例10)
クエン酸終濃度を3.69%とした以外は、実施例5と同様の方法で、細胞混入率、コロニー数を求めた。その結果、白血球混入率=50%、赤血球混入率=3%、血小板混入率=0%、回収されたコロニー数=175個であった。
(比較例1)
ACD−A液を体液に添加せずにカラム処理をした以外は、実施例1と同様の方法で、細胞混入率、コロニー数を求めた。その結果、白血球混入率=62%、赤血球混入率=3%、血小板混入率=21%、回収されたコロニー数=363個であった。
(比較例2)
ACD−A液を体液に添加せずにカラム処理をした以外は、実施例4と同様の方法で、細胞混入率、コロニー数を求めた。その結果、白血球混入率=35%、赤血球混入率=1%、血小板混入率=29%、回収されたコロニー数=265個であった。また骨髄液通液時に、詰まりの指標としてカラム入口側の圧力を圧力計で測定したところ、最大圧力は92mmHgであった。
以上の結果を骨髄液処理量ごとにまとめ、表1に示した。
Figure 0006169972
実施例1〜3、及び5〜10は、比較例1に比べて白血球および/または血小板の混入率の低下が確認できることから、0.028〜3.69%(w/v)の濃度でクエン酸を骨髄液に添加することで、夾雑する白血球および/または血小板の混入を抑制できることがわかる。また、クエン酸を2.51%(w/v)以下にすることで間葉系幹細胞の回収を抑制することなく、夾雑する白血球および/または血小板の混入を抑制できることが示された。
骨髄液処理量の多い実施例4においては、比較例2に比べて白血球および血小板の混入率の低下が顕著に確認され、回収されたコロニー数は実施例4の方が比較例2を上回っており、クエン酸添加による効果が顕著に示された。さらにカラム入口側の最大圧力は、実施例4では比較例2に比べて顕著に低下しており、フィルターの目詰まりが抑制されていることが確認された。

Claims (9)

  1. 下記(1)〜(2)の工程:
    (1)ヘパリンを含有する体液にクエン酸を添加する工程、および
    (2)細胞分離フィルターを用いて、該体液から付着性の幹細胞を分離する工程、
    をこの順で行う幹細胞の分離方法であって、
    クエン酸の添加濃度が0.05%(w/v)以上であることを特徴とする、幹細胞の分離方法
  2. 幹細胞が間葉系幹細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  3. 体液が骨髄液であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
  4. クエン酸の添加濃度が3.69%(w/v)以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 分離された幹細胞を含む細胞懸濁液中の血小板の混入率が20%以下であることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
  6. 細胞分離フィルターがポリオレフィンまたは/およびレーヨンからなることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
  7. 細胞分離フィルターが不織布からなることを特徴とする、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
  8. 不織布の密度が2.1×10〜4.9×10g/mであり、かつ、繊維径が3〜40μmであることを特徴とする、請求項に記載の方法。
  9. 細胞分離フィルターが体液の流入口と流出口を有する容器に充填されていることを特徴とする、請求項のいずれかに記載の方法。
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