JP6165034B2 - 鋼管矢板、及び、鋼管矢板生産方法、及び、鋼管矢板生産装置 - Google Patents

鋼管矢板、及び、鋼管矢板生産方法、及び、鋼管矢板生産装置 Download PDF

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Description

本発明は、鋼管の外周面に、径方向に隣接させる他の鋼管との継手が長手方向に沿って溶接されている鋼管矢板や、その生産方法や、その生産装置等、鋼管矢板技術に関する。
従来から、鋼管の外周面(側面)に隣接管との継手を長手方向に沿って溶接で取り付けると、それに伴う鋼管矢板の溶接による収縮の影響の一つが、長さ方向の収縮歪みとして管端面に現れることが知られている。
即ち、鋼管の一部を加熱すると、その部分が熱膨張し、加熱されていない周囲の部分との熱膨張差に起因する圧縮の熱応力が発生する。加熱されているので、降伏応力が小さくなっており、圧縮の塑性変形が発生し、圧縮の塑性ひずみが生じる。
加熱中は、加熱部には熱膨張に起因する圧縮の応力と圧縮の塑性ひずみに起因する引張の応力とが合わされ、トータルとして圧縮の応力が発生しているが、冷却が進むに従い熱膨張に起因する圧縮の応力が減少し、ついには圧縮の塑性ひずみに起因する引張の応力の方が大きくなり、トータルとして引張の応力が発生するようになる。
冷却中は、降伏応力が大きくなるので、塑性変形は発生しない。
完全に冷却された後には、圧縮の塑性ひずみが残存し、引張の残留応力が発生し、この圧縮の塑性ひずみによって鋼管端面が凹む。
また、溶接を実施する場合は、上述の「加熱による塑性ひずみ」が発生することに加えて、溶接金属の凝固時における母材との「熱膨張差による塑性ひずみ」や、溶接金属が凝固してから冷却までに生じる「収縮による塑性ひずみ」も発生するが、「加熱による塑性ひずみ」が支配的である。
具体的には、管端面の全周の内、継手の延長線上の近傍箇所が、他の箇所よりも凹む傾向があり、その結果、管端面の平面度が悪くなる。
因みに、平面度とは、管端面に基準平板を当てた時の隙間の最大値をいい、大きい値であるほど、管端面の凹凸が激しく平面度が悪いことを表す。
そして、管端面での平面度が悪いことによる弊害は、別の鋼管を軸芯方向に継ぎ足す状態で配置して、両者を溶接で接合するような場合、接合面(管端面)どうしの間隔にバラツキが大きくなることが挙げられ、鋼管どうしの接合不良の原因になる危険性があって好ましくない。
また、鋼管の端部それぞれに機械式継手部材を設けておいて、それらを嵌合連結する場合は、機械式継手部材が変形することで正常に嵌合ができなくなる危険性がある。
従って、管端面での平面度を改善することが必要な状況にある。
従来、この種の鋼管矢板技術としては、例えば、鋼管の両側面にそれぞれ継手を溶接する鋼管矢板の場合を例に挙げて説明すると、図20に示すように、継手3を鋼管1の外周面に溶接によって本固定してしまう前に、鋼管1の内空部において継手取付位置間に亘るリブ部20Aと、それに直交するリブ部20Bとからなる断面十字形状のリブ部材20を、溶接によって鋼管1の内周面に固定しておくものがあった(例えば、特許文献1参照)。
即ち、リブ部材20を鋼管1内周部に固定することで、継手溶接箇所に作用する管長方向の収縮力を、リブ部材20を介して他の周部分に分散させ、大きな凹みが生じるのを防止して管端面の平面度を小さくしようとするものである。
そして、このようにリブ部材20によって鋼管矢板Pの端部の補強を図った後、鋼管1の外周面への継手3の溶接が行われていた。
特開2009−166084号公報(図1、図2)
従来の鋼管矢板技術によれば、リブ部材を鋼管の内周部に配置しての溶接作業となるから、十分な作業スペースを確保し難く、手間とコストがかかる問題点がある。
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、手間とコストを抑えながら、鋼管矢板の端面の平面度を改善できる鋼管矢板技術を提供するところにある。
本発明の第1の特徴構成は、鋼管の外周面に、隣接管との継手が長手方向に沿って溶接されている鋼管矢板であって、前記鋼管の全周の内、前記継手が設けられていない周範囲に、圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じさせる状態に加熱された加熱部が、前記鋼管の長手方向に沿わせて、前記鋼管の周方向の複数箇所に並設してあるとともに、前記鋼管の長手方向に沿う長さ寸法を異ならせてあるところにある。
本発明の第1の特徴構成によれば、前記鋼管の全周の内、前記継手が設けられていない周範囲に、圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じさせる状態に加熱された加熱部が、前記鋼管の長手方向に沿わせて設けてあるから、加熱後の温度低下のあとに残存する圧縮の塑性ひずみによる収縮を、継手が設けられていない周範囲にも起こさせることができ、継手が設けられている周範囲と、継手が設けられていない周範囲との間での、端面凹みの落差を少なくでき、その結果、管端面の平面度を向上させることができる。
しかも、その作業そのものは、上述のとおり、鋼管の全周の内、継手が設けられていない周範囲の少なくとも一部を加熱するだけであるから、簡単に、且つ、迅速に平面度矯正を行うことができる。
更には、従来方法に比べて、鋼管の内空部にリブ部材等の余分な部材を配置する必要がないから、コストダウンを図ることが可能であると共に、鋼管の内空部に、例えば、骨材やコンクリート等を打設するような場合にも、その障害になる存在が無いから、スムースに作業を進めることができる。
また、加熱部は、鋼管の長手方向に沿わせて設けてあるから、鋼管の長手方向に沿った圧縮の塑性ひずみによる収縮の効果をより顕著に発揮できるようになり、上述の管端面における端面凹みの落差を、より少なくすることができる。
更には、加熱部そのものは、鋼管と継手との溶接ライン方向にも沿うことになり、加熱部と溶接ライン部分との圧縮の塑性ひずみによる収縮の方向性が共通することで、圧縮の塑性ひずみによる収縮に伴って生じる鋼管の内部応力の偏りを少なくでき、変形性能の均等化を図ることができる。
そして、上述の加熱部による鋼管の収縮効果を、鋼管の周方向の複数箇所において発揮することができ、より満遍なく管端面の平面度の向上を図ることができる。
鋼管に対する加熱後の収縮によって管端面に現れる影響は、加熱部の長さ寸法(鋼管の長手方向に沿う寸法)が大きいほど顕著に現れる傾向がある。
しかし、鋼管の周方向の複数箇所に並設された加熱部は、鋼管の長手方向に沿う長さ寸法を異ならせてあるから、それら異なった長さ寸法に応じて管端面への収縮効果を発揮することができる。
つまり、加熱部の設定として、鋼管の全周の内、継手が設けられていない周範囲における位置設定と、長さ寸法の設定との二つの設定を組み合わせた管端面の平面度矯正を行うことができ、管端面に生じる複雑な起伏に対して、より精度の高い矯正を実施できるようになる。
本発明の第2の特徴構成は、鋼管の外周面に、隣接管との継手が長手方向に沿って溶接されている鋼管矢板であって、前記継手は、前記鋼管の周方向に複数設けられてあり、前記鋼管の全周の内、前記継手が設けられていない周範囲に、圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じさせる状態に加熱された加熱部が、前記鋼管の長手方向に沿わせて設けてあるところにある。
本発明の第2の特徴構成によれば、前記鋼管の全周の内、前記継手が設けられていない周範囲に、圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じさせる状態に加熱された加熱部が、前記鋼管の長手方向に沿わせて設けてあるから、加熱後の温度低下のあとに残存する圧縮の塑性ひずみによる収縮を、継手が設けられていない周範囲にも起こさせることができ、継手が設けられている周範囲と、継手が設けられていない周範囲との間での、端面凹みの落差を少なくでき、その結果、管端面の平面度を向上させることができる。
しかも、その作業そのものは、上述のとおり、鋼管の全周の内、継手が設けられていない周範囲の少なくとも一部を加熱するだけであるから、簡単に、且つ、迅速に平面度矯正を行うことができる。
更には、従来方法に比べて、鋼管の内空部にリブ部材等の余分な部材を配置する必要がないから、コストダウンを図ることが可能であると共に、鋼管の内空部に、例えば、骨材やコンクリート等を打設するような場合にも、その障害になる存在が無いから、スムースに作業を進めることができる。
また、加熱部は、鋼管の長手方向に沿わせて設けてあるから、鋼管の長手方向に沿った圧縮の塑性ひずみによる収縮の効果をより顕著に発揮できるようになり、上述の管端面における端面凹みの落差を、より少なくすることができる。
更には、加熱部そのものは、鋼管と継手との溶接ライン方向にも沿うことになり、加熱部と溶接ライン部分との圧縮の塑性ひずみによる収縮の方向性が共通することで、圧縮の塑性ひずみによる収縮に伴って生じる鋼管の内部応力の偏りを少なくでき、変形性能の均等化を図ることができる。
本発明の第3の特徴構成は、鋼管の外周面に、隣接管との継手が長手方向に沿って溶接されている鋼管矢板であって、前記鋼管の全周の内、前記継手が設けられていない周範囲に、圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じさせる状態に加熱された加熱部が、前記鋼管の長手方向に沿わせて、前記鋼管の周方向の複数箇所に並設してあり、前記加熱部どうしの間には、加熱されず圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じない領域があるところにある。
本発明の第3の特徴構成によれば、前記鋼管の全周の内、前記継手が設けられていない周範囲に、圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じさせる状態に加熱された加熱部が、前記鋼管の長手方向に沿わせて設けてあるから、加熱後の温度低下のあとに残存する圧縮の塑性ひずみによる収縮を、継手が設けられていない周範囲にも起こさせることができ、継手が設けられている周範囲と、継手が設けられていない周範囲との間での、端面凹みの落差を少なくでき、その結果、管端面の平面度を向上させることができる。
しかも、その作業そのものは、上述のとおり、鋼管の全周の内、継手が設けられていない周範囲の少なくとも一部を加熱するだけであるから、簡単に、且つ、迅速に平面度矯正を行うことができる。
更には、従来方法に比べて、鋼管の内空部にリブ部材等の余分な部材を配置する必要がないから、コストダウンを図ることが可能であると共に、鋼管の内空部に、例えば、骨材やコンクリート等を打設するような場合にも、その障害になる存在が無いから、スムースに作業を進めることができる。
また、加熱部は、鋼管の長手方向に沿わせて設けてあるから、鋼管の長手方向に沿った圧縮の塑性ひずみによる収縮の効果をより顕著に発揮できるようになり、上述の管端面における端面凹みの落差を、より少なくすることができる。
更には、加熱部そのものは、鋼管と継手との溶接ライン方向にも沿うことになり、加熱部と溶接ライン部分との圧縮の塑性ひずみによる収縮の方向性が共通することで、圧縮の塑性ひずみによる収縮に伴って生じる鋼管の内部応力の偏りを少なくでき、変形性能の均等化を図ることができる。
上述の加熱部による鋼管の収縮効果を、鋼管の周方向の複数箇所において発揮することができ、より満遍なく管端面の平面度の向上を図ることができる。
本発明の第4の特徴構成は、鋼管の外周面に、隣接管との継手が長手方向に沿って溶接されている鋼管矢板であって、前記鋼管の全周の内、前記継手が設けられていない周範囲に、圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じさせる状態に加熱された加熱部が、前記鋼管の長手方向に沿わせて設けてあり、前記加熱部は、前記鋼管の周方向に沿う加熱幅寸法が、前記鋼管の長手方向で連続的に変化し、前記鋼管の長手方向での中間部より端部側が大きく設定してあるところにある。
発明の第4の特徴構成によれば、前記鋼管の全周の内、前記継手が設けられていない周範囲に、圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じさせる状態に加熱された加熱部が、前記鋼管の長手方向に沿わせて設けてあるから、加熱後の温度低下のあとに残存する圧縮の塑性ひずみによる収縮を、継手が設けられていない周範囲にも起こさせることができ、継手が設けられている周範囲と、継手が設けられていない周範囲との間での、端面凹みの落差を少なくでき、その結果、管端面の平面度を向上させることができる。
しかも、その作業そのものは、上述のとおり、鋼管の全周の内、継手が設けられていない周範囲の少なくとも一部を加熱するだけであるから、簡単に、且つ、迅速に平面度矯正を行うことができる。
更には、従来方法に比べて、鋼管の内空部にリブ部材等の余分な部材を配置する必要がないから、コストダウンを図ることが可能であると共に、鋼管の内空部に、例えば、骨材やコンクリート等を打設するような場合にも、その障害になる存在が無いから、スムースに作業を進めることができる。
また、加熱部は、鋼管の長手方向に沿わせて設けてあるから、鋼管の長手方向に沿った圧縮の塑性ひずみによる収縮の効果をより顕著に発揮できるようになり、上述の管端面における端面凹みの落差を、より少なくすることができる。
更には、加熱部そのものは、鋼管と継手との溶接ライン方向にも沿うことになり、加熱部と溶接ライン部分との圧縮の塑性ひずみによる収縮の方向性が共通することで、圧縮の塑性ひずみによる収縮に伴って生じる鋼管の内部応力の偏りを少なくでき、変形性能の均等化を図ることができる。
管の圧縮の塑性ひずみによる収縮の影響は、加熱部に近い箇所ほど顕著に現れ、離れるほど影響が分散される傾向がある。
しかし、管端面に近い箇所ほど加熱幅を大きく設定されているから、加熱による圧縮の塑性ひずみによる収縮の影響を、鋼管の端部側ほど大きく発現させることができ、より効率よく管端面の凹み落差の減小化を図ることができる。
本発明の第5の特徴構成は、請求項1〜4の何れか一項に記載の鋼管矢板の生産方法であって、前記鋼管に対する前記継手の溶接工程と、前記加熱部の加熱工程とは、一方の工程のあと他方の工程を連続で実施、又は少なくとも両工程の一部が並行するように実施するところにある。
本発明の第5の特徴構成によれば、前記溶接工程と、前記加熱工程とは、一方の工程のあと他方の工程を連続で実施、又は少なくとも両工程の一部が並行するように実施するから、夫々の工程が実施される鋼管部分間に温度勾配が生じ難い。
従って、一方の工程による加熱によって上昇した鋼管温度が、大きく低下する前に、他方の工程による加熱が実施されることになり、鋼管の全体による熱ひずみの分布を均等化することができる。
その結果、残留応力のばらつきが小さく、鋼管の曲がり変形等が残り難い。
しかも、両工程が、時間をおいて実施されるのに比べて、短時間で鋼管矢板を形成することができ、製作効率のアップによる経済効果を期待することができる。
本発明の第6の特徴構成は、請求項1〜4の何れか一項に記載の鋼管矢板の生産装置であって、前記鋼管に前記継手を溶接自在な溶接装置を設け、前記鋼管の前記加熱部を加熱自在な加熱装置を設け、前記鋼管と、前記溶接装置と前記加熱装置とを、前記鋼管の長手方向に沿って相対的に移動自在な移動手段が設けてあるところにある。
本発明の第6の特徴構成によれば、溶接装置で鋼管と継手とを接合する溶接工程と、加熱装置で鋼管の加熱部を加熱する加熱工程とを、連続又は少なくとも一部が並行するように実施することができ、その際、移動手段によって、鋼管と、溶接装置と加熱装置とを、鋼管の長手方向に沿って相対的に移動させて、効率的に鋼管矢板を生産することができる。
そして、このように生産される鋼管矢板は、管端面の凹み落差の小さいものとすることができることに加えて、残留応力のばらつきが小さく、鋼管の曲がり変形等が残り難いものとすることができる。
鋼管矢板を示す斜視図 鋼管矢板の機械継手部材どうしの連結状況を示す一部切欠き斜視図 鋼管矢板の横断面図 鋼管矢板の側面図 鋼管矢板の生産装置を示す概念図 鋼管矢板の生産装置を示す概念図 矢板継手部材どうしの連結状況を示す要部横断面図 矢板継手部材の設置状況を示す鋼管矢板横断面図 別実施形態の加熱部の配置状況を示す鋼管矢板側面図 別実施形態の加熱部の配置状況を示す鋼管矢板側面図 別実施形態の加熱部の配置状況を示す鋼管矢板側面図 別実施形態の加熱部の配置状況を示す鋼管矢板側面図 別実施形態の加熱部の配置状況を示す鋼管矢板側面図 別実施形態の加熱部の配置状況を示す鋼管矢板側面図 別実施形態の加熱部の配置状況を示す鋼管矢板側面図 別実施形態の加熱部の配置状況を示す鋼管矢板側面図 別実施形態の加熱部の配置状況を示す鋼管矢板側面図 別実施形態の加熱部の配置状況を示す鋼管矢板側面図 別実施形態の加熱部の配置状況を示す鋼管矢板側面図 従来の鋼管矢板を示す説明図
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、図面において従来例と同一の符号で表示した部分は、同一又は相当の部分を示している。
図1は、本発明の鋼管矢板技術の対象となる鋼管矢板Pの一実施品を示している。
鋼管矢板Pは、鋼管1の両端部に、管軸芯方向に連結する別の鋼管1との機械継手部材2をそれぞれ溶接によって取り付け、鋼管1の両側面のほぼ全長にわたって、並設させる別の鋼管矢板との矢板継手部材(継手に相当)3をそれぞれ溶接によって取り付けて構成してある。
そして、図には示さないが、矢板継手部材3どうしが嵌合するように鋼管矢板Pを設置対象部に順次建て込んで、横に連続した鋼管矢板群によって土留め壁や護岸等の仕切壁を構成することができる。
また、深さ方向に関しては、機械継手部材2どうしを嵌合連結して複数の鋼管矢板Pを継ぎ足すことで、所定の長さ寸法を確保することができる。
前記機械継手部材2は、図2に示すように、鋼管1の一端部(例えば、下端部)に設けられるリング状の凹型機械継手部材2Aと、鋼管1の他端部(例えば、上端部)に設けられて凹型機械式継手部材2Aと嵌合連結可能な構造をもつリング状の凸型機械継手部材2Bとがある。
これら凹型機械継手部材2Aと凸型機械継手部材2Bとは、管径方向の内外に重なる状態で嵌合できるように構成してあり、互いの摺接面で対向する状態にそれぞれ周溝4,5が構成してある。これら両周溝4,5に亘って介在可能なキー部材6が設けてあり、このキー部材6を両周溝4,5に亘って位置させることで、凹型機械継手部材2Aと凸型機械継手部材2Bとの管軸芯方向への相対移動を規制するロック状態にすることができ、対応する鋼管1どうしを抜け止め状態に連結することができる。
このように、機械継手部材2どうしは、前記キー部材6が、両周溝4,5にわたって嵌合できるように比較的高い寸法精度を備えた仕上げに構成してある。
従って、鋼管1への前記矢板継手部材3の溶接による収縮が生じると、機械継手部材2どうしの寸法精度も低下し、キー部材6を前記ロック状態に位置させることが不可能となる虞がある。
これを防止する意味から、管端面の平面度が低下しないように維持する必要がある。
前記矢板継手部材3は、本実施形態においては、図3に示すように、管軸芯方向視での断面形状が「C」字形状の鋼材で構成してあるものを、鋼管1の全周面の内、鋼管軸芯周りの中心角として基準点Kから90度の位置と、270度の位置とにそれぞれ溶接によって取り付けてあるものを例に挙げて説明している。
矢板継手部材3の取付位置や取付箇所数は、これに限るものではなく、鋼管矢板Pが使用される現場状況に応じて、例えば、90度の位置のみの場合や(図8(a)参照)、90度の位置と180度(又は360度)の位置の場合や(図8(b)参照)、90度の位置と180度の位置と270度の位置の場合(図8(c)参照)等、任意の位置と任意の取付箇所数に設定されることもある。また、取付位置の基準点Kからの中心角は、上述した90度や、180度や、270度等の90の倍数に限るものではなく、例えば、80度や、100度等、90の倍数以外の任意の角度の位置に設定してあってもよい。
両端部に機械継手部材2を溶接によって取り付けた鋼管1の両側部(前記90度、270度の位置)に、前記矢板継手部材3をそれぞれ溶接によって取り付けると、鋼材の溶接による収縮が生じ、その影響が、鋼管矢板Pの端面の凹みとして表れる。
この端面の凹みの傾向としては、矢板継手部材3が取り付けられている周範囲La、即ち、90度の位置と、270度の位置との近傍において、他の周範囲(継手が設けられていない周範囲に相当)Lbよりも凹みが大きく表れる。
本発明による鋼管矢板Pは、図3、図4に示すように、鋼管1の全周の内、前記他の周範囲Lbの所定範囲を加熱して、圧縮の塑性ひずみによって、前記他の周範囲Lbにおいても矢板継手部材3が取り付けられている周範囲Laと同じように管端面を凹ませ、管端面全周での凹みの落差を少なくして平面度を向上させている。
加熱部Eは、管軸芯方向視での周方向位置は、前記基準点Kからの中心角が0度と180度の位置を中心とした所定幅にわたって設定してあり、鋼管1の長手方向での位置は、鋼管1の全長(又は、ほぼ全長)にわたって設定してある。
即ち、鋼管1の全周の内、矢板継手部材3が設けられていない周範囲Lbに、圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じさせる状態に加熱された加熱部Eが、鋼管1の長手方向に沿わせて設けられている。
加熱部Eの加熱は、ガスバーナ(加熱装置の一例)12を使用して実施され(図5、図6参照)、加熱温度の設定は、鋼管1の素材(例えば、SKY400や、SKY490等)としての機械的性質が、加熱前後において変化しない範囲での上限側に設定するのが好ましく、例えば、700℃程度で実施される。
次に、鋼管矢板Pの生産方法について説明する。
〔1〕両端部に機械継手部材2を接合した鋼管1の前記周範囲La(前記90度、270度の位置)の全長(又は、ほぼ全長)にわたって、矢板継手部材3をそれぞれ溶接によって取り付ける。
二つの矢板継手部材3の取り付けは、同時進行しても、工程をずらして行ってもよい。〔2〕上述の溶接工程に連続(又は少なくとも一部が並行)して、鋼管1の前記周範囲Lb(前記0度、180度の位置)の全長(又は、ほぼ全長)にわたって設定された加熱部Eを、ガスバーナ12で加熱する。
この加熱工程は、溶接工程より前に開始したり、溶接工程より後に終了したり、夫々の工程の重複状態は任意に設定できる。
次に、鋼管矢板Pの生産装置10の一例について説明する。
生産装置10は、図5、図6に示すように、鋼管1に矢板継手部材3を溶接自在な溶接装置11を設け、鋼管1の加熱部Eを加熱自在なガスバーナ12を設け、鋼管1と溶接装置11とガスバーナ12とを、鋼管1の長手方向に沿って相対的に移動自在な移動手段13を設けて構成してある。
移動手段13は、横配置した鋼管1を、例えば、複数のローラで支持しながら、鋼管1の長手方向に沿って移動駆動させることができるように構成されている。
溶接装置11は、公知の各種溶接装置を使用することができ、当該実施形態においては、鋼管製造ラインでの矢板継手部材溶接位置近傍にセットされている。また、鋼管製造ラインでは、溶接装置11は、ガスバーナ12の設置位置よりも上手側にセットされている。
ガスバーナ12は、公知のものを使用することができ、当該実施形態においては、鋼管製造ラインでの前記鋼管1の加熱部Eが通過する位置に対応させてセットされている。また、鋼管製造ラインでは、溶接装置11の設置位置よりも下手側にセットされている。
本実施形態での鋼管矢板技術によれば、製造ラインに入った鋼管1は、まず溶接装置11によって周範囲Laに矢板継手部材3が固着され、その下流側で、ガスバーナ12によって周範囲Lbの加熱部Eが加熱されることで、最終的には、圧縮の塑性ひずみの影響で、管端面全周での凹みの落差が小さくなり、良好な平面度が得られる。
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
〈1〉 鋼管矢板Pは、先の実施形態で説明した寸法や形状に限るものではなく、公知の鋼管矢板の全般がその対象となる。
例えば、両端部に機械継手部材2を設けた鋼管矢板Pに限るものではなく、例えば、機械継手部材2を設けずに鋼管1の端部をそのまま溶接継手として使用できる構成であってもよい。
また、矢板継手部材3は、例えば、図7に示すように、断面形状が「C」字形状の鋼材や(図7(a)、図7(b)参照)、断面形状が「T」字形状の鋼材や(図7(b)、図7(c)参照)、断面形状が「L」字形状の2つの鋼材を使用するものや(図7(c)参照)、それらの組合せによる構成であってもよい。
〈2〉 また、鋼管矢板Pにおける矢板継手部材3の取付位置や取付箇所数も、任意に変更することができる。
図8に、矢板継手部材3の位置と、加熱部Eとの関係を例示している。
また、加熱部Eに対する加熱は、先の実施形態で説明したように、鋼管1の外周側から実施することに限らず、鋼管1の内周面を加熱するものであってもよい。
〈3〉 鋼管矢板Pの端面平面度矯正の為の加熱部Eの設定は、先の実施形態で説明した鋼管矢板Pの全長(又はほぼ全長)に連続した範囲であることに限らず、例えば、図9〜12、図14に示すように、鋼管1の長手方向に沿って複数箇所からなる分割範囲であってもよい。
また、その場合、個別の加熱部Eの形状は、鋼管1の長手方向に細長い形状に限るものではなく、例えば、円形や楕円形、管周りに細長い形状等、任意の形状を設定することができる(図10、図11参照)。
また、鋼管1がスパイラル鋼管で構成してある場合は、図14に示すように、スパイラル状の溶接線に沿った細長形状を設定してもよい。
また、加熱部Eは、図11〜13に示すように、鋼管1の周方向に沿う加熱幅寸法Sが、鋼管1の長手方向での中間部より端部側が大きく設定してあってもよい。
要するに、鋼管1の全周の内、矢板継手部材3が設けられていない周範囲Lbに、圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じさせる状態に加熱された加熱部Eが、鋼管1の長手方向に沿わせて設けてあればよい。
因みに、加熱部Eは、冷却後において引張の残留応力が発生している。
また、図15〜18に示すように、加熱部Eは、鋼管1の周方向の複数箇所に並設してあってもよい。
図15に示す実施形態は、矢板継手部材3が設けられていない周範囲Lbに、周方向に間隔をあけて全周で6箇所(片側3箇所)に加熱部Eが設けられている。但し、加熱部Eの数は、この限りではなく、適宜変更が可能である。
各加熱部Eは、鋼管1の長手方向に細長い形状である。この例では、片側3箇所の内の、中央に位置する加熱部Eは、両側に位置する加熱部Eより鋼管1の長手方向に沿う長さ寸法が大きく設定されている。これによって、中央の加熱部Eによる管収縮の影響をより増大させることができ、管端面の平面度矯正を、より好適に実施することができる。
但し、各加熱部の長さ寸法は、必ずしも、中央に位置する加熱部Eを長くすることに限らず、管端面の変形状態によって、決定することができる。従って、各加熱部Eの長さ寸法が、同じであったり、夫々異なっていてもよい。
図16に示す実施形態は、図15に示す実施形態による平面度矯正の結果、更なる、平面度矯正が必要とされる場合に実施すると効果的な加熱部Eの配置を示している。つまり、図15に示す各加熱部Eと、管端面との間に、新たな加熱部Enを設け、管端面の矯正の度合いを更に強めてある。新たな加熱部Enは、先の加熱部Eの延長線上に配置してあり、3箇所の内の中央に位置する加熱部Enは、両側に位置する加熱部Enより長さ寸法を大きく設定してある。
図17に示す実施形態は、図15に示す実施形態による平面度矯正の結果、収縮効果が出すぎて、矢板継手部材3が設けられている周範囲Laでの管端面の収縮量より、矢板継手部材3が設けられていない周範囲Lbでの管端面の収縮量が大きくなった場合に実施すると効果的な加熱部Eの配置を示している。つまり、図15に示す3箇所の加熱部Eの内、両端に位置する加熱部Eと、管端面との間に、新たな2箇所の加熱部Enを設け、前記周範囲Lbの内でも矢板継手部材3に近い側を前記加熱部Enで加熱することで、前記周範囲Laでの収縮をも助長させ、全体として平面度の改善を図ることが実施されている。
図18に示す実施形態は、図17に示す実施形態で説明した新たな加熱部Enの位置を、より矢板継手部材3側に近接させた例を示している。この実施形態によれば、先に実施した加熱部Eによって前記周範囲Lbの端面部での収縮量が、前記周範囲Laの端面部での収縮量より大きく現れたものに対して、新たな加熱部Enによって前記周範囲Laを含めた近接部分を更に収縮させて、管全体としての平面度をより向上させることができる。
また、新たな加熱部Enについては、先の各実施形態で説明した箇所数や配置に限るものではなく、管端面の変形形状に応じて設定することができる。一例としては、図19に示すように、図15に示す3箇所の加熱部Eと、管端面との間のほぼ中央に複数の新たな加熱部Enが設けてあってもよい。また、管周方向における位置については、管周方向に隣接する加熱部Eの延長線どうしの間に位置させて新たな加熱部Enが設けてあってもよい。
〈4〉 鋼管矢板の生産にあたっては、先に説明した生産装置10を使用することに限るものではなく、溶接装置11や加熱装置12や移動手段13の構成を、先に説明したものに替えて、適宜、公知の他の類似装置に変更することが可能である。一例を示せば、加熱装置12については、ガスバーナに替えて高周波加熱装置を採用するものであってもよい。
また、溶接装置11や加熱装置12の配置の変更も可能で、例えば、製造ライン上で、溶接装置11が加熱装置12の上手側にセットされたものに限らず、加熱装置12が溶接装置11の上手側にセットされたものや、加熱装置12と溶接装置11とが、製造ライン上での鋼管長手方向での同じ位置(又は略同じ位置)にセットされたものであってもよい。
従って、鋼管矢板Pの生産においては、先の実施形態で説明したように、鋼管1に対する矢板継手部材3の溶接工程のあとに、加熱部Eの加熱工程を実施することに限らず、前記加熱工程のあとに前記溶接工程を実施したり、溶接工程と加熱工程とを、鋼管長手方向での同じ位置(又は略同じ位置)で並行して実施するものであってもよい。
要するに、前記溶接工程と前記加熱工程とは、一方の工程のあと他方の工程を連続実施、又は少なくとも両工程の一部が並行するように実施するものであればよい。
また、溶接工程や加熱工程の実施に当たっては、先の実施形態で説明したように製造ライン上に各構成をセットされた生産装置を使用することに限らず、例えば、溶接装置や加熱装置を、人が手で持って各別に該当する工程を実施するものであってもよい。
尚、上述のように、図面との対照を便利にするために符号を記したが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
1 鋼管
3 矢板継手部材(継手に相当)
11 溶接装置
12 ガスバーナ(加熱装置の一例)
13 移動手段
E 加熱部
Lb 他の周範囲(継手が設けられていない周範囲に相当)
S 加熱幅寸法

Claims (6)

  1. 鋼管の外周面に、隣接管との継手が長手方向に沿って溶接されている鋼管矢板であって、
    前記鋼管の全周の内、前記継手が設けられていない周範囲に、圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じさせる状態に加熱された加熱部が、前記鋼管の長手方向に沿わせて、前記鋼管の周方向の複数箇所に並設してあるとともに、前記鋼管の長手方向に沿う長さ寸法を異ならせてある鋼管矢板。
  2. 鋼管の外周面に、隣接管との継手が長手方向に沿って溶接されている鋼管矢板であって、
    前記継手は、前記鋼管の周方向に複数設けられてあり、
    前記鋼管の全周の内、前記継手が設けられていない周範囲に、圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じさせる状態に加熱された加熱部が、前記鋼管の長手方向に沿わせて設けてある鋼管矢板。
  3. 鋼管の外周面に、隣接管との継手が長手方向に沿って溶接されている鋼管矢板であって、
    前記鋼管の全周の内、前記継手が設けられていない周範囲に、圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じさせる状態に加熱された加熱部が、前記鋼管の長手方向に沿わせて、前記鋼管の周方向の複数箇所に並設してあり、
    前記加熱部どうしの間には、加熱されず圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じない領域がある鋼管矢板。
  4. 鋼管の外周面に、隣接管との継手が長手方向に沿って溶接されている鋼管矢板であって、
    前記鋼管の全周の内、前記継手が設けられていない周範囲に、圧縮の塑性ひずみによる収縮を生じさせる状態に加熱された加熱部が、前記鋼管の長手方向に沿わせて設けてあり、
    前記加熱部は、前記鋼管の周方向に沿う加熱幅寸法が、前記鋼管の長手方向で連続的に変化し、前記鋼管の長手方向での中間部より端部側が大きく設定してある鋼管矢板。
  5. 請求項1〜4の何れか一項に記載の鋼管矢板の生産方法であって、
    前記鋼管に対する前記継手の溶接工程と、前記加熱部の加熱工程とは、一方の工程のあと他方の工程を連続で実施、又は少なくとも両工程の一部が並行するように実施する鋼管矢板の生産方法。
  6. 請求項1〜4の何れか一項に記載の鋼管矢板の生産装置であって、
    前記鋼管に前記継手を溶接自在な溶接装置を設け、
    前記鋼管の前記加熱部を加熱自在な加熱装置を設け、
    前記鋼管と、前記溶接装置と前記加熱装置とを、前記鋼管の長手方向に沿って相対的に移動自在な移動手段が設けてある鋼管矢板の生産装置。
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