JP6163631B2 - β−1,3−グルカンナノファイバーの製造方法 - Google Patents

β−1,3−グルカンナノファイバーの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、β-1,3-グルカンによって構成される三重らせん構造を有する複数の単繊維からなるβ-1,3-グルカンナノファイバーの製造方法に関する。
近年、ナノからマイクロメートルスケールの材料開発が精力的に行われている。単繊維の平均直径がナノメートルスケールであるナノファイバーもその一つである。ナノファイバーを構成する原料物質として、炭素、熱可塑性ポリマー及び多糖が知られている。このうち、多糖系ナノファイバーは、天然に存在する多糖系繊維を利用して得られることから、バイオマスの有効利用及び安全性の点で有利である。
多糖系ナノファイバーとして、β-1,4-グルカンによって構成されるセルロースを原料物質として用いるセルロースナノファイバーが開発されている。例えば非特許文献1は、束状のセルロースを化学反応(TEMPO酸化)してセルロースの束の表面にカルボン酸基を導入した、多糖系ナノファイバーを記載する。特許文献1は、平均重合度が600以上30000以下であり、アスペクト比が20〜10000であり、平均直径が1〜800 nmであり、X線回折パターンにおいて、1β型の結晶ピークを有することを特徴とするセルロースナノファイバーを記載する。
別の多糖系ナノファイバーとして、β-1,3-グルカンを原料物質として用いるナノファイバーも知られている。特許文献2は、導電性ポリマーとβ-1,3-グルカンとから成ることを特徴とするファイバー状複合体を記載する。特許文献3は、三重らせん構造が解離して生成したβ-1,3-グルカン鎖を含む溶液と、前記溶液とは別途に用意した液相とを流通下で接触させることにより、少なくともβ-1,3-グルカンの分子が結合してなる繊維状構造体を製造する方法を記載する。
特開2011-184816号公報 特開2006-160770号公報 特開2012-127024号公報
Biomacromolecules, 8, 3276-3278 (2007)
前記のように、多糖系ナノファイバーの原料物質としては、セルロース及びβ-1,3-グルカンが広く用いられている。両多糖はいずれもグルコースが重合した多糖(グルカン)であるが、セルロースは、β-1,4-グルコシド結合によってグルコースが重合した糖鎖を基本骨格とするのに対し、β-1,3-グルカンは、β-1,3-グルコシド結合によってグルコースが重合した糖鎖を基本骨格とする点が相違する。この結合様式の違いにより、中性の水中における両多糖の立体構造は明確に相違する。すなわち、セルロースはシート構造を、β-1,3-グルカンは三重らせん構造を取り得る。
β-1,3-グルカンは三重らせん構造を有するため、β-1,3-グルカンを原料物質として用いるナノファイバーは、セルロースナノファイバーと比較して、繊維直径、引張強度及び持続長のような繊維特性に優れることが期待される。しかしながら、従来のβ-1,3-グルカンナノファイバーの原料物質として用いられているのは、β-1,6-グルコシド結合による分岐構造を有するシゾフィラン又はレンチナンのような天然由来のβ-1,3-グルカンである。このような天然由来のβ-1,3-グルカンは、分岐構造を有するため、完全な三重らせん構造ではない。このため、β-1,3-グルカンの三重らせん構造を活用して、β-1,3-グルカンナノファイバーの繊維特性を向上させるさらなる技術開発が求められていた。
それ故、本発明は、β-1,3-グルカンを原料物質として、繊維特性の高いナノファイバーの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、三重らせん構造を有するβ-1,3-グルカンをアルカリ処理して一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを得た後、該アルカリの濃度を所定の範囲に調節した。その結果、本発明者らは、一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを再会合させて、三重らせん構造を有するβ-1,3-グルカンによって構成される複数の単繊維からなるナノファイバーを得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 三重らせん構造を有するβ-1,3-グルカンによって構成される複数の単繊維からなるナノファイバーを製造する方法であって、
一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを、アルカリを含有しないか若しくは0.2 M以下の濃度でアルカリを含有する、又はpHが5.0〜13.5の範囲である水性の会合液中で会合させて、前記ナノファイバーを形成させる会合工程;
を含む、前記方法。
(2) 前記β-1,3-グルカンが、β-1,3-グルコシド結合のみからなるβ-1,3-グルカンである、前記(1)に記載の方法。
(3) 前記(1)又は(2)に記載の方法によって製造されるナノファイバー。
(4) 前記(3)に記載のナノファイバーからなるナノファイバー集合体。
本発明により、β-1,3-グルカンを原料物質として、繊維特性の高いナノファイバーの製造方法を提供することが可能となる。
図1は、パラミロン粒子の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。スケール:5μm。 図2は、本発明のβ-1,3-グルカンナノファイバーを製造する方法の一実施形態を示す工程図である。 図3は、実施例1で得られたパラミロンナノファイバーの透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す図である。A:試料1;B:試料2;C:試料3。スケール:200 nm。 図4は、実施例1で得られた試料2のパラミロンナノファイバーの透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す図である。A: パラミロンナノファイバーのTEM画像(スケール:100 nm);B:AのTEM画像中、白色矢印で図示した部分の拡大画像(スケール:20 nm)。 図5は、実施例2で得られたパラミロンナノファイバーの可視吸収スペクトルを示す図である。 図6は、実施例3で得られたパラミロンナノファイバーの円二色性(CD)スペクトルを示す図である。(a):0.27 M水酸化ナトリウムを含有する試料;(b):0.25 M水酸化ナトリウムを含有する試料;(c):0.24 M水酸化ナトリウムを含有する試料。 図7は、実施例4のパラミロンナノファイバーの調製において、会合工程で使用された水酸化ナトリウム水溶液の濃度と該水溶液の粘度との関係を示す図である。 図8は、実施例5で得られたパラミロンナノファイバーの13C-核磁気共鳴(NMR)スペクトルスペクトルを示す図である。A:試料1;B:試料2;C:試料3;D:試料4;E:試料5。
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
<1. β-1,3-グルカンナノファイバー>
本発明は、三重らせん構造を有するβ-1,3-グルカンによって構成される複数の単繊維からなるナノファイバーを製造する方法に関する。本発明の方法によって製造されるβ-1,3-グルカンナノファイバーについて、詳細に説明する。
[1-1. β-1,3-グルカン]
本明細書において、「β-1,3-グルカン」は、β-グルコースの1-位と別のβ-グルコースの3-位とがβ-1,3-グルコシド結合を形成している主鎖を基本骨格とする多糖を意味する。前記β-1,3-グルカンは、β-1,3-グルコシド結合によって連結された主鎖に、β-1,6-グルコシド結合によって形成される分岐鎖が結合していてもよい。この場合、β-1,3-グルカンを構成する3個のグルコース残基当たり、1個未満の分岐鎖が結合していることが好ましく、分岐鎖が結合していない、すなわちβ-1,3-グルコシド結合のみからなるβ-1,3-グルカンであることがより好ましい。分岐鎖が3個のグルコース残基当たり1個未満であることにより、β-1,3-グルカンによって構成される三重らせん構造の直径が細くなる。それ故、結果として得られるナノファイバーの単繊維の繊維径を細くすることができる。
なお、β-1,3-グルカン分子中に存在する分岐鎖の数は、限定するものではないが、例えば、β-1,3-グルカンを酵素分解後、得られた分解物の吸収スペクトルを測定することによって決定することができる(大阪大学大学院 技術部報告書、第16巻, p. 99 (2008))。
前記β-1,3-グルカンは、限定するものではないが、例えば、微細藻が生産する多糖から調製されるグルカンが好ましい。ユーグレナ(Euglena gracilis)が生産するパラミロン粒子から調製されるβ-1,3-グルカンが特に好ましい。
本明細書において、「ユーグレナ」は、ユーグレナ植物門に属する微細藻(Euglena gracilis)を意味する。ユーグレナは、光合成による独立栄養培養に加え、暗黒下ではグルコースや廃糖蜜などを炭素源とする従属栄養培養、さらに有機炭素源を利用しつつ光合成も行う光従属栄養培養も可能な微細藻である。ユーグレナは、光合成産物としてパラミロン粒子を細胞内に蓄積する。その生産量は、培養条件を調整することにより、乾燥細胞重量の60%以上、数10 g/Lオーダーに到達することが知られている。
本明細書において、「パラミロン粒子」は、光合成産物としてユーグレナが生産するβ-1,3-グルカンを含有する粒子を意味する。パラミロン粒子は、通常、球状、扁平球状又は円盤状の形状を有する粒子として生産される(Miyatake, K., Kitaoka, S., Bull. Univ. Osaka Pref., Ser. B, 第35巻, p. 55-58 (1983); 宮武和孝, 炭水化物の代謝, ユーグレナ−生理と生化学−, 北岡正三郎編, 学会出版センター(1989); Miyatake, K., Takenaka, S., Yamaji, R., Nakano, Y., J. Soc., Powder Technol., Japan, 第32巻, p. 566-572 (1995))。パラミロン粒子の走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。パラミロン粒子は、中性の水には不溶であるが、アルカリ水溶液、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はギ酸に可溶である。パラミロン粒子を構成する多糖は、通常、重合度700〜800のβ-1,3-グルコシド結合のみからなるβ-1,3-グルカンである。それ故、パラミロン粒子から調製されるβ-1,3-グルカンを本発明の方法の原料物質として用いることにより、β-1,3-グルコシド結合のみからなるβ-1,3-グルカンナノファイバーを得ることが可能となる。
[1-2. ナノファイバーの高次構造]
通常、β-1,3-グルカンは、中性の水中では3分子が会合して三重らせん構造を形成する。一方、アルカリ水溶液、又はN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)若しくはジメチルスルホキシド(DMSO)のような非プロトン性極性有機溶媒中では、三重らせん構造を形成している会合分子が解離して、それぞれが1本鎖(以下「ランダムコイル構造」とも記載する)を形成する。ランダムコイル構造を有する一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを中性の水に溶解させると、再び三重らせん構造を形成する。このように、溶解される溶媒条件によって会合及び解離を繰り返す能力を、「自己組織化能」と称する。
本発明者らは、パラミロン粒子から調製される三重らせん構造を有するβ-1,3-グルカンをアルカリ処理して一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを得た後、該アルカリの濃度を所定の範囲に調節した。そして、前記方法で得られた生成物を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンが三重らせん構造を再形成して単繊維を形成し、さらに複数の単繊維が会合して複数の単繊維からなるナノファイバーを形成していることを見出した。また、本発明者らは、前記ナノファイバーは、アルカリ処理に使用されるアルカリの濃度依存的に形成されることを見出した。このように、β-1,3-グルカンの自己組織化において加えられるアルカリの濃度を所定の範囲に調節することにより、一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンから三重らせん構造を再形成させて単繊維を得て、さらに複数の単繊維を会合させて複数の単繊維からなるβ-1,3-グルカンナノファイバーを得られることは従来知られておらず、本発明者らが見出した新規な知見である。
本発明のβ-1,3-グルカンナノファイバーを構成するβ-1,3-グルカンは、重量平均分子量が1×104〜2×107の範囲であることが好ましく、1×105〜2×107の範囲であることがより好ましく、5×105〜2×105の範囲であることが特に好ましい。前記重量平均分子量は、三重らせん構造を形成している三量体のβ-1,3-グルカン全体の値である。β-1,3-グルカンの重量平均分子量を前記範囲とすることにより、結果として得られるナノファイバーの持続長を長くすることが可能となる。
なお、前記重量平均分子量は、限定するものではないが、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー分析によって決定することができる。
本発明の方法によって製造されるβ-1,3-グルカンナノファイバーは、三重らせん構造を有するβ-1,3-グルカンによって構成される複数の単繊維からなる。前記ナノファイバーは、通常は2本以上、典型的には2〜400本、特に5〜50本の単繊維からなる。前記ナノファイバーが前記範囲の複数の単繊維からなることにより、該ナノファイバーの繊維径を細くすることが可能となる。
なお、前記単繊維が三重らせん構造を有するβ-1,3-グルカンによって構成されていることは、限定するものではないが、例えば、可視吸収スペクトル、円二色性(CD)スペクトル、13C-核磁気共鳴(NMR)スペクトル若しくは粘度測定によって、β-1,3-グルカンのコンフォメーション変化を観測することにより、確認することができる。また、前記ナノファイバーに含有される単繊維の本数は、限定するものではないが、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)若しくは走査プローブ顕微鏡(SPM)による観察、又はサイズ排除クロマトグラフィー分析によって決定することができる。
前記の特徴を備えることにより、本発明の方法によって製造されるβ-1,3-グルカンナノファイバーは、繊維径が細く、且つ持続長の長い繊維となる。本発明の方法によって製造されるβ-1,3-グルカンナノファイバーの持続長は、通常、0.5〜10μmの範囲である。前記β-1,3-グルカンナノファイバーの平均繊維径は、通常、10〜200 nmの範囲であり、典型的には10〜30 nmの範囲である。また、β-1,3-グルカンナノファイバーを構成する単繊維の平均繊維径は、通常、1〜5 nmの範囲であり、典型的には3〜5 nmの範囲である。前記β-1,3-グルカンナノファイバーのアスペクト比は、通常、500〜10000の範囲である。
なお、前記持続長及び平均繊維径は、限定するものではないが、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)又は走査プローブ顕微鏡(SPM)を用いて本発明のβ-1,3-グルカンナノファイバーを観察し、任意の数のナノファイバーの持続長及び平均繊維径を測定して、その平均値を計算することにより、決定することができる。
[1-3. β-1,3-グルカンナノファイバー集合体]
本発明の方法によって製造されるβ-1,3-グルカンナノファイバーは、様々な形状を形成させることができる。それ故、本発明はまた、β-1,3-グルカンナノファイバーからなるナノファイバー集合体に関する。例えば、本発明の方法によって製造されるβ-1,3-グルカンナノファイバーを各種溶媒に浸漬することにより、膨潤ゲル形状とすることができる。また、前記膨潤ゲル(例えば水中で膨潤させたゲル)を凍結乾燥することにより、乾燥ゲル形状とすることができる。さらに、前記膨潤ゲル(例えば水中で膨潤させたゲル)を基板上にキャストし乾燥させることにより、フィルム形状とすることができる。
<2. β-1,3-グルカンナノファイバーの製造方法>
図2は、本発明のβ-1,3-グルカンナノファイバーを製造する方法の一実施形態を示す工程図である。以下、図2に基づき、本発明の方法の好ましい実施形態について詳細に説明する。
[2-1. 溶解工程]
前記で説明したように、β-1,3-グルカンは、通常、中性の水中では3分子が会合して三重らせん構造を形成している。それ故、本発明の方法は、下記で説明する会合工程の前に、β-1,3-グルカンを溶解液に溶解させる溶解工程(S1)を含んでもよい。本工程は、β-1,3-グルカンを含有する原料から一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを得ることを目的とする。
本工程において、β-1,3-グルカンを含有する原料として、前記で説明したパラミロン粒子を用いることが好ましい。β-1,3-グルコシド結合のみからなるβ-1,3-グルカンを主成分として含有するパラミロン粒子を用いることにより、複雑な精製操作を行うことなく、一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンの純度を向上させることが可能となる。
前記で説明したように、通常、β-1,3-グルカンは、中性の水中では3分子が会合して三重らせん構造を、アルカリ水溶液又は非プロトン性極性有機溶媒中では、三重らせん構造を形成している会合分子が解離して、それぞれが1本鎖を形成する。それ故、本工程において使用される溶解液は、アルカリ水溶液、又はN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)若しくはジメチルスルホキシド(DMSO)のような非プロトン性極性有機溶媒、或いは1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリドのようなイオン性流体が好ましく、アルカリ水溶液がより好ましい。前記溶解液としてアルカリ水溶液を用いる場合、一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを溶解液から単離することなく、該溶解液を水で希釈することによって、下記で説明する会合工程に使用することができる。
前記アルカリ水溶液としては、当該技術分野で通常使用される各種のアルカリ水溶液を使用することができる。前記アルカリ水溶液は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム若しくは水酸化リチウムのようなアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、又は炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム若しくは炭酸水素ナトリウムのようなアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の炭酸塩が好ましく、前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物がより好ましく、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが特に好ましい。前記アルカリ水溶液の濃度は、0.1〜5 Mの範囲であることが好ましく、0.5〜2 Mの範囲であることがより好ましい。前記アルカリ水溶液のpHは、12〜14の範囲であることが好ましく、13〜14の範囲であることがより好ましい。前記アルカリ水溶液を用いることにより、三重らせん構造を形成しているβ-1,3-グルカンの会合分子を解離させて、1本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを得ることができる。
前記アルカリ水溶液は、所望により1種類以上の水混和性有機溶媒を含有していてもよい。前記水混和性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を挙げることができる。前記水混和性有機溶媒は、DMSOが好ましい。前記アルカリ水溶液がDMSOを含有する場合、アルカリによるβ-1,3-グルカンの脱重合を一定の範囲で抑制することができる。
前記溶解液は、一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを安定化させるために、所望により、塩化リチウム又はTBAF(フッ化テトラブチルアンモニウムのような塩を含有していてもよい。
本工程において、β-1,3-グルカンを溶解液に溶解させる温度及び時間は特に限定されない。温度は、5〜100℃の範囲であればよい。また、時間は、0.1〜48時間の範囲であればよい。
前記の条件で本工程を実施することにより、三重らせん構造を形成しているβ-1,3-グルカンを解離させて、一本鎖の形態とすることができる。
[2-2. 会合工程]
本発明の方法は、一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを水性の会合液中で会合させる会合工程(S2)を含むことが必要である。本工程は、一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを会合させて、三重らせん構造を有するβ-1,3-グルカンによって構成される複数の単繊維からなるナノファイバーを得ることを目的とする。
本工程において使用されるβ-1,3-グルカンは、一本鎖の形態であることが必要である。一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを下記で説明する水性の会合液中で会合させることにより、β-1,3-グルカンナノファイバーを形成させることができる。
前記一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンは、前記で説明した溶解工程を実施することによって準備してもよく、予め一本鎖の形態に調製されたβ-1,3-グルカンを購入等して準備してもよい。いずれの実施形態も本発明の方法に包含される。
本工程において使用される水性の会合液は、アルカリを含有しないか若しくは0.2 M以下の濃度でアルカリを含有する、又はpHが5.0〜13.5の範囲であることが必要である。前記水性の会合液に含有されるアルカリは、前記溶解工程で説明した溶解液に含有されるアルカリから選択されることが好ましく、前記溶解工程で使用された溶解液に含有されるアルカリと同一であることがより好ましい。前記溶解工程及び本工程のいずれにおいても、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを使用することが特に好ましい。前記溶解工程で使用された溶解液と同一のアルカリを含有する水性の会合液を使用することにより、該溶解液を水で希釈するだけでアルカリの濃度を下記の範囲に調節することができる。
前記水性の会合液がアルカリを含有する場合、アルカリの濃度は、0.03〜0.2 Mの範囲が好ましく、0.1〜0.2 Mの範囲がより好ましい。アルカリを含有しないか若しくは前記濃度でアルカリを含有する水性の会合液で一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを処理することにより、該β-1,3-グルカンを会合させて、三重らせん構造を有するβ-1,3-グルカンによって構成される複数の単繊維からなるナノファイバーを形成させることができる。
或いは、前記水性の会合液のpHは、5.0〜13.1の範囲であることが好ましく、7.0〜13.1の範囲であることがより好ましい。前記水性の会合液のpHが7未満の場合、該水性の会合液は、酢酸、塩酸、硝酸又は硫酸を含有することが好ましく、酢酸を含有することがより好ましい。前記水性の会合液のpHが5.0以上の場合、β-1,3-グルカンのグルコシド結合の加水分解を実質的に抑制することができる。それ故、前記pHを有する水性の会合液で一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを処理することにより、該β-1,3-グルカンを会合させて、三重らせん構造を有するβ-1,3-グルカンによって構成される複数の単繊維からなるナノファイバーを形成させることができる。
前記水性の会合液は、所望により1種類以上の水混和性有機溶媒を含有していてもよい。前記水混和性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を挙げることができる。前記水混和性有機溶媒は、DMSOが好ましい。前記水性の会合液がアルカリ及びDMSOを含有する場合、アルカリによるβ-1,3-グルカンの脱重合を一定の範囲で抑制することができる。
本工程において、一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンを水性の会合液中で会合させる温度及び時間は特に限定されない。会合温度は、5〜80℃の範囲であればよい。また、会合時間は、0.1〜48時間の範囲であればよい。
前記条件でβ-1,3-グルカンを会合させた後、透析又は限外濾過等の精製手段によって低分子成分を除去することにより、三重らせん構造を有するβ-1,3-グルカンによって構成される複数の単繊維からなるナノファイバーを得ることができる。
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。本発明の範囲は以下に示す方法により制限されるものではない。
<実施例1:透過型電子顕微鏡によるパラミロンナノファイバーの観察>
10 mgのパラミロンを、1 mLの0.97 M水酸化ナトリウム水溶液中に溶解させて、10 mg/mLのパラミロンを含有する0.97 M水酸化ナトリウム水溶液を得た(溶解工程)。得られた水溶液を、0.049〜0.49 Mの水酸化ナトリウム及び0.5〜5 mg/mLのパラミロンを含有する水溶液となるようにMilli-Q水(ミリポア社製)で希釈した(会合工程)。得られた希釈液を、親水化処理した銅グリッド上に2μLずつ滴下した。前記グリッド上に残留した過剰の希釈液を、濾紙で除去した。次に、前記グリッド上に、2μLの0.3% 12-タングストリン酸溶液を染色剤として滴下した。30分後、過剰の希釈液を、濾紙で除去した。調製された試料を、透過型電子顕微鏡(TEM)(JEOL 1010;日本電子社製)を用いて、80 kVの加速電圧の条件で観察した。
各希釈液中におけるナノファイバーの形成結果を表1、並びに図3及び4に示す。なお、平均繊維径は、前記TEM観察により得られたナノファイバーのTEM画像において、100本のナノファイバーの繊維径を測定して、その平均値を計算することにより決定した。
Figure 0006163631
図3に示すように、TEMによる観察の結果、0.049 M(図3A)、0.10 M(図3B)又は0.19 M(図3C)の水酸化ナトリウムを含有する希釈液(試料1〜3)中に、約20 nmの平均繊維径を有するパラミロンナノファイバーが観察された。試料2の希釈液中に形成されたナノファイバーの平均繊維径は、18.8±3.3 nmと決定された。図3A〜CのTEM画像の比較から、試料1及び3の希釈液中に形成されたナノファイバーの平均繊維径も、同程度と推測される。これに対し、0.21〜0.49 Mの水酸化ナトリウムを含有する希釈液中には、パラミロンナノファイバーは観察されなかった。図4に示すように、0.10 Mの水酸化ナトリウムを含有する希釈液中に形成されたパラミロンナノファイバーは、約4 nmの平均繊維径を有する単繊維から形成されていた。
前記の結果から、パラミロンを1.0 M水酸化ナトリウム水溶液に溶解させて得られた一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンは、0.19 M以下の水酸化ナトリウムを含有する希釈液中で会合することにより、β-1,3-グルカンの三重らせん構造を有する複数の単繊維からなるナノファイバーを形成することが明らかとなった。また、0.19 Mを超える濃度の水酸化ナトリウムを含有する希釈液中では、β-1,3-グルカンの三重らせん構造を有する単繊維が形成されるものの、ナノファイバーは形成されなかった。
<実施例2:吸収スペクトル測定による観察>
20〜80 mgのパラミロンを、2.0 mLの1.0 M水酸化ナトリウム中に溶解させて、10〜40 mg/mLのパラミロンを含有する1.0 M水酸化ナトリウム水溶液を得た(溶解工程)。得られた水溶液に、0〜6.0 mLのMilli-Q水を加えることにより、0.25〜1.0 Mの水酸化ナトリウム及び10 mg/mLのパラミロンを含有する水溶液(希釈液)を調製した(会合工程)。
25.6 mgのコンゴーレッド粉末を5 mLのMilli-Q水に溶解させた。172μLの得られたストック水溶液を、40 mLのMilli-Q水で希釈して、コンゴーレッド水溶液を調製した。0.65 mLの前記コンゴーレッド水溶液と等容量のパラミロンを含有する各希釈液とを混合して、0.0316 mMのコンゴーレッド、0.125、0.145、0.165、0.205、0.215、0.22、0.235、0.245、0.255、0.27、0.285、0.315、0.335、0.40又は0.5 Mの水酸化ナトリウム及び5 mg/mLのパラミロンを含有する水溶液を調製した。可視吸収分光光度計(UV-2500;島津製作所製)を用いて、得られた水溶液の室温における可視吸収スペクトルを、直ちに測定した。結果を図5に示す。
図5に示すように、コンゴーレッドのみを含有するブランクの水酸化ナトリウム水溶液(点線)の場合、水酸化ナトリウム濃度が減少するにつれて吸収極大波長が徐々に増加した。これに対し、コンゴーレッド及びパラミロンを含有する水酸化ナトリウム水溶液(実線)の場合、0.25 Mを超える水酸化ナトリウムを含有する試料では、吸収極大波長は略一定だったが、0.20〜0.25 Mの水酸化ナトリウムを含有する試料では、水酸化ナトリウム濃度が減少するにつれて吸収極大波長が急激に増加した。そして、0.20 M以下の水酸化ナトリウムを含有する試料では、吸収極大波長が略一定となった。前記の結果から、パラミロンを1.0 M水酸化ナトリウム水溶液に溶解させて得られた一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンは、0.20〜0.25 Mの水酸化ナトリウムを含有する水溶液中で、一本鎖の形態から三重らせん構造を有する単繊維の形態にコンフォメーションが変化することが示唆された。
<実施例3:円二色性スペクトル測定による観察>
実施例2と同様の手順で、コンゴーレッド、水酸化ナトリウム及びパラミロンを含有する水溶液を調製した。円二色性分散計(J-820;日本分光製)を用いて、得られた水溶液の室温における円二色性(CD)スペクトルを、直ちに測定した。結果を図6に示す。
図6に示すように、0.27 Mの水酸化ナトリウムを含有する試料(a)では、CDシグナルは観測されなかった。しかしながら、0.25 Mの水酸化ナトリウムを含有する試料(b)では、CDシグナルが観測され、0.24 Mの水酸化ナトリウムを含有する試料(c)では、強いCDシグナルが観測された。前記の結果から、パラミロンを1.0 M水酸化ナトリウム水溶液に溶解させて得られた一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンは、0.25 M以下の水酸化ナトリウムを含有する水溶液中で、一本鎖の形態から三重らせん構造を有する単繊維の形態にコンフォメーションが変化することが示唆された。
<実施例4:粘度測定による観察>
実施例2と同様の手順で、水酸化ナトリウム及びパラミロンを含有する水溶液を調製した。振動粘度計(SV-1A;A & D社製)を用いて、得られた水溶液の25.3±0.2℃における粘度を測定した。結果を図7に示す。
図7に示すように、0.25〜0.26 Mの水酸化ナトリウムを含有する試料では、粘度は略一定だった。しかしながら、0.23〜0.25 M以下の水酸化ナトリウムを含有する試料では、水酸化ナトリウム濃度が減少するにつれて粘度は急激に低下した。そして、0.23 Mの水酸化ナトリウムを含有する試料で、粘度は極小値となった。0.17〜0.23 Mの水酸化ナトリウムを含有する試料では、水酸化ナトリウム濃度が減少するにつれて粘度は再び増加した。そして、0.17 M以下の水酸化ナトリウムを含有する試料では、粘度は略一定となった。
前記の結果から、パラミロンを1.0 M水酸化ナトリウム水溶液に溶解させて得られた一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンは、0.25 M以下の水酸化ナトリウムを含有する水溶液中で、粘度に影響を及ぼすコンフォメーション変化を生じていることが示唆された。前記コンフォメーション変化は、0.17〜0.20 Mの水酸化ナトリウムを含有する試料では略終了していると推測される。
実施例2及び3の結果を考慮すると、前記コンフォメーション変化は、一本鎖の形態から三重らせん構造を有する単繊維の形態へのコンフォメーション変化と推測される。すなわち、パラミロンを1.0 M水酸化ナトリウム水溶液に溶解させて得られた一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンから三重らせん構造を有する単繊維の形態へのコンフォメーション変化は、0.17〜0.25 Mの水酸化ナトリウムを含有する水溶液中で生じることが示唆された。
<実施例5:核磁気共鳴スペクトル測定による観察>
20 mgのパラミロンを、2.0 mLの1.0 M水酸化ナトリウム重水溶液(NaOH/D2O)中に溶解させて、10 mg/mLのパラミロン及び1.0 Mの水酸化ナトリウムを含有する水溶液を得た。前記水溶液を、試料1と記載する。20 mgのパラミロンを、0.54、0.50、0.46又は0.4 mLの1.0 M水酸化ナトリウム重水溶液(NaOH/D2O)中に溶解させた後、それぞれを1.46、1.50、1.54又は1.6 mLの重水(D2O)で希釈して、10 mg/mLのパラミロン及び0.27、0.25、0.23又は0.20 Mの水酸化ナトリウムを含有する水溶液を得た。前記水溶液を、それぞれ試料2、3、4又は5と記載する。得られた各試料中のパラミロンの13C-核磁気共鳴(NMR)スペクトルを測定した。結果を図8に示す。
図8に示すように、1.0 Mの水酸化ナトリウムを含有する試料1中のパラミロンの13C-NMRスペクトルでは、δ=62.0、69.5、74.5、77.3、87.6及び104.3 ppmに、グルコース残基のC6、C4、C2、C5、C3及びC1の炭素原子にそれぞれ帰属される鋭い6本のピークが観測された(図8A)。前記ピークの狭いピーク幅は、一本鎖の形態のβ-1,3-グルカン分子に特徴的なものであることが知られている(Saito, H., Ohki, T. & Sasaki, T. (1979) Carbohydrate Research, 74(Sep), p. 227-240)。同様の傾向は、0.27 Mの水酸化ナトリウムを含有する試料2中のパラミロンの13C-NMRスペクトルでも観測された(図8B)。しかしながら、0.25 Mの水酸化ナトリウムを含有する試料3中のパラミロンの13C-NMRスペクトルでは、前記6本のピークのうち、C6のピークを除く5本のピークのシグナル強度が低下した(図8C)。また、0.23 Mの水酸化ナトリウムを含有する試料4中のパラミロンの13C-NMRスペクトルでは、前記5本のピークのシグナル強度がさらに低下した(図8D)。0.20 Mの水酸化ナトリウムを含有する試料5中のパラミロンの13C-NMRスペクトルでは、前記5本のピークのシグナル強度が顕著に低下した(図8E)。
β-1,3-グルカンの13C-NMRスペクトルにおいて、一本鎖の形態(ランダムコイル構造)の分子では、狭いピーク形状の13C-NMRシグナルが観測されるのに対し、多重らせん構造の分子では、該13C-NMRシグナルが消失することが知られている(Bryce, T. A., Mckinnon, A. A., Morris, E. R., Rees, D. A. & Thom, D. (1975) Faraday Discussions, 57, p. 221-229; Chien, J. C. W. & Wise, W. B. (1975) Biochemistry, 14(12), p. 2786-2792; Saito, H., Ohki, T. & Sasaki, T. (1979) Carbohydrate Research, 74(Sep), p. 227-240; Smith, I. C. P., Jennings, H. J. & Deslauriers, R. (1975) Accounts of Chemical Research, 8(9), p. 306-313)。前記の結果から、一本鎖の形態のβ-1,3-グルカンは、0.25 M以下の水酸化ナトリウムを含有する重水溶液中で、β-1,3-グルカンの分子運動を抑制する、一本鎖の形態から三重らせん構造を有する単繊維の形態へのコンフォメーション変化を生じていることが示唆された。前記分子運動の抑制は、0.20 Mの水酸化ナトリウムを含有する試料5では略終了していると推測される。

Claims (4)

  1. 三重らせん構造を有するβ-1,3-グルコシド結合のみからなるβ-1,3-グルカンによって構成される複数の単繊維からなるナノファイバーを製造する方法であって、
    一本鎖の形態のβ-1,3-グルコシド結合のみからなるβ-1,3-グルカンを、0.03〜0.2 Mの範囲の濃度でアルカリを含有する水性の会合液中で会合させて、前記ナノファイバーを形成させる会合工程;
    を含み、
    ナノファイバーの平均繊維径が10〜30 nmの範囲である、前記方法。
  2. パラミロン粒子を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選択されるアルカリ水溶液を含む溶解液に溶解させて、一本鎖の形態のβ-1,3-グルコシド結合のみからなるβ-1,3-グルカンを得る、溶解工程をさらに含み、
    会合工程が、溶解工程で得られた一本鎖の形態のβ-1,3-グルコシド結合のみからなるβ-1,3-グルカンを含む溶解液を水で希釈することによって実施される、請求項1に記載の方法。
  3. 三重らせん構造を有するβ-1,3-グルコシド結合のみからなるβ-1,3-グルカンによって構成される複数の単繊維からなり、平均繊維径が10〜30 nmの範囲であるナノファイバー。
  4. 請求項3に記載のナノファイバーからなるナノファイバー集合体。
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