以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかるトイレ装置を表す模式的断面図である。
図2は、本実施形態にかかるトイレ装置の要部構成を表すブロック図である。
図3は、光触媒層の一例を例示する模式的断面図である。
なお、図2は、水路系と電気系の要部構成を併せて表している。
図1に表したトイレ装置10は、洋式腰掛便器(以下説明の便宜上、単に「便器」と称する)800と、その上に設けられた衛生洗浄装置100と、を備える。衛生洗浄装置100は、ケーシング400と、便座200と、便蓋300と、を有する。便座200と便蓋300とは、ケーシング400に対して開閉自在にそれぞれ軸支されている。但し、ケーシング400は、必ずしも設けられていなくともよい。例えば、便座200と便蓋300とは、便器800に対して開閉自在にそれぞれ軸支されていてもよい。
便器800は、ボウル部801を有する。便蓋300が閉じている状態では、ボウル部801は、便蓋300により覆われる。ボウル部801の表面には、光触媒層(「光触媒膜」ともいう)803が形成されている。
本願明細書において、「光触媒」とは、光を照射すると、酸化作用および還元作用の少なくともいずれかが促進されるものをいう。その結果、菌の栄養となる臭気物質などの有機物を分解する分解作用と、表面が水に濡れやすい親水作用と、菌の繁殖を抑制するあるいは菌の活動を停止させる抗菌作用と、菌を死滅させる殺菌作用と、を得ることができる。光触媒層803が形成されたボウル部801は、汚物の付着を抑制したり、汚物を分解したり、付着した水垢を容易に除去できるため、便器800の清掃負担を軽減し、きれいな便器800を維持することができる。
具体的には、光触媒層803が形成されたボウル部801の表面に紫外線を照射すると、その紫外線および空気中の水や酸素などにより、ボウル部801の表面に活性酸素が発生する。その活性酸素は、ボウル部801の表面に付着した汚れや雑菌や細菌や臭気物質などを分解する。また、その活性酸素は、揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)なども分解する。そのため、光触媒の分解作用により、ボウル部801の表面の抗菌あるいは殺菌や防汚や防臭を行うことができる。
また、光触媒層803が形成されたボウル部801の表面に紫外線を照射すると、その表面には周囲の水との結合による親水基(−OH)が表出する。これにより、ボウル部801の表面は、水になじむようになり、濡れやすくなる(親水作用)。すなわち、ボウル部801の表面には水滴ができず、水が表面に濡れ広がるようになる。そして、予めボウル部801の表面を親水化することにより、汚れは、ボウル部801の表面に濡れ広がった水の表面に付着することになる。さらに、ボウル部801の洗浄に用いる洗浄水がボウル部801の表面とその表面に付着した汚れとの間に入り込み、汚れを浮かして流す。そのため、光触媒の親水作用により、ボウル部801の表面の防汚や防曇が可能となる。
これらによれば、紫外線の照射により、光触媒が励起することで発揮される親水性の効果と、菌の栄養となる有機物の分解効果と、菌の抗菌効果あるいは殺菌効果と、が得られ、防汚や防臭を行うことができる。このような「光触媒」の材料としては、例えば、金属の酸化物を用いることができる。そのような酸化物としては、例えば、酸化チタン(TiOx)、酸化亜鉛(ZnOx)、酸化スズ(SnOx)、酸化ジルコニウム(ZrOx)などを挙げることができる。これらのうちでも、特に、酸化チタンは、光触媒として活性であり、また、安定性や安全性などの点でも優れる。
本願明細書において、「紫外線」とは、波長が約388nm以下の光をいう。本実施形態の光触媒層803は、波長が約388nm以下の紫外線をより多く吸収する特性を有する。つまり、本実施形態の光触媒層803は、波長が約388nm以下の紫外線が照射されると励起され、光触媒活性を発現する。
例えば、図3に表したように、光触媒層803は、バリア層803aと、機能層803bと、を有する。例えば、光触媒層803としては、TiO2/ZrO2系触媒焼成膜が用いられる。例えば、バリア層803aにおけるTiO2とZrO2との配合比率は、機能層803bにおけるTiO2とZrO2との配合比率とそれぞれ異なる。但し、図3に表した光触媒層803は、一例である。本実施形態の光触媒層803は、これだけに限定されるわけではない。
図1に表したように、便蓋300は、光源装置310を有する。光源装置310は、便蓋300の内部に設けられている。但し、光源装置310の設置形態は、これだけに限定されるわけではない。例えば、光源装置310は、ケーシング400の内部に設けられていてもよいし、ケーシング400の表面に付設されていてもよい。光源装置310は、ボウル部801に紫外線を照射することができる。光源装置310としては、例えば冷陰極管やLED(Light Emitting Diode)などが用いられる。
図2に表したように、例えばケーシング400の内部には、制御部(大小判別手段)410と、入室検知センサ402と、人体検知センサ403と、着座検知センサ404と、便蓋開閉検知センサ405と、便蓋開閉駆動装置420と、が設けられている。制御部410は、例えば入室検知センサ402、人体検知センサ403あるいは着座検知センサ404から送信される検知信号に基づいて制御信号を送信し、便蓋開閉駆動装置420あるいは光源装置310の動作を制御することができる。
入室検知センサ402は、トイレ室のドアを開けて入室した直後の使用者や、トイレ室に入室しようとしてドアの前に存在する使用者を検知することができる。つまり、入室検知センサ402は、トイレ室に入室した使用者だけではなく、トイレ室に入室する前の使用者、すなわちトイレ室の外側のドアの前に存在する使用者を検知することができる。このような入室検知センサ402としては、焦電センサや、ドップラーセンサなどのマイクロ波センサなどを用いることができる。マイクロ波のドップラー効果を利用したセンサや、マイクロ波を送信し反射したマイクロ波の振幅(強度)に基づいて被検知体を検出するセンサなどを用いた場合、トイレ室のドア越しに使用者の存在を検知することが可能となる。つまり、トイレ室に入室する前の使用者を検知することができる。
人体検知センサ403は、便器800の前方にいる使用者、すなわち便座200から前方へ離間した位置に存在する使用者を検知することができる。つまり、人体検知センサ403は、トイレ室に入室して便座200に近づいてきた使用者を検知することができる。このような人体検知センサ403としては、例えば、赤外線投受光式の測距センサなどを用いることができる。
着座検知センサ404は、使用者が便座200に着座する直前において便座200の上方に存在する人体や、便座200に着座した使用者を検知することができる。すなわち、着座検知センサ404は、便座200に着座した使用者だけではなく、便座200の上方に存在する使用者を検知することができる。このような着座検知センサ404としては、例えば、赤外線投受光式の測距センサなどを用いることができる。
便蓋開閉検知センサ405は、便蓋300の開閉状態を検知することができる。便蓋開閉検知センサ405としては、例えば、ホールICと磁石との組み合わせ、またはマイクロスイッチなどが用いられる。
便蓋開閉駆動装置420は、制御部410から送信された信号に基づいて便蓋300を開いたり閉じたりすることができる。
例えばケーシング400の下部には、便器800のボウル部801の表面に水や殺菌水を噴霧する噴出部480が設けられている。噴出部480は、ケーシング400の内部に設けられていてもよいし、ケーシング400の外部に付設されていてもよい。
なお、本願明細書において「水」という場合には、冷水のみならず、加熱されたお湯も含むものとする。
図2に表したように、本実施形態にかかるトイレ装置10は、水道や貯水タンクなどの給水源から供給された水を噴出部480に導く第1の流路21を有する。第1の流路21の上流側には、電磁弁431が設けられている。電磁弁431は、開閉可能な電磁バルブであり、ケーシング400の内部に設けられた制御部410からの指令に基づいて水の供給を制御する。
電磁弁431の下流には、水勢(流量)の調整を行ったり、噴出部480や図示しない洗浄ノズルなどへの給水の開閉や切替を行う流調・流路切替弁471が設けられている。第1の流路21は、流調・流路切替弁471において第2の流路22と第3の流路23とに分岐されている。第2の流路22に導かれた殺菌水や上水は、流調・流路切替弁471を通過した後に第2の流路を通って噴出部480へ導かれる。一方、第3の流路23に導かれた殺菌水や上水は、例えば図示しない洗浄ノズルやノズル洗浄室などへ導かれる。流調・流路切替弁471は、制御部410からの指令に基づいて、殺菌水や上水を第2の流路22へ導く状態と、殺菌水や上水を第3の流路23へ導く状態と、を切り替えることができる。
図4は、本実施形態の便器を上方から眺めた模式的平面図である。
図4に表したように、本実施形態の便器800のボウル部801の下部には、溜水(封水)805が形成されている。溜水805の上面の周囲には、喫水部807が形成されている。本願明細書において「喫水部」とは、溜水805の上面(溜水面)の周囲の部分をいうものとする。
例えばメチロバクテリウムなどの従属栄養細菌は、トイレ装置に特有の菌である。トイレ装置に繁殖する他の菌としては、例えば大腸菌類、緑膿菌などが挙げられる。従属栄養細菌や大腸菌類、緑膿菌などの菌が繁殖するための栄養源(栄養素)となるタンパク質や糖質などは、使用者が排泄した汚物に含まれている。菌は、水と栄養源とにより増殖する。そのため、菌は、ボウル部801のうちで喫水部807において増殖しやすい。
本願明細書においては、便座200に座った使用者からみて上方を「上方」とし、便座200に座った使用者からみて下方を「下方」とする。また、便座200に座った使用者からみて前方を「前方」とし、便座200に座った使用者からみて後方を「後方」とする。あるいは、便器800の方向を向いて便器800の前に立った使用者からみて手前側を「前方」とし、便器800の方向を向いて便器800の前に立った使用者からみて奥側を「後方」とする。
光触媒層803の抗菌作用あるいは殺菌作用は、照射する紫外線の照射強度および照射時間に相関し、照射強度および照射時間の増加とともに高くなる。そのため、光触媒層803の抗菌作用あるいは殺菌作用は、従属栄養細菌などのトイレ装置に特有の菌に効果的な強度の紫外線を照射しないと得られない。抗菌作用あるいは殺菌作用が得られないと、菌が光触媒層803の表面に繁殖する。すると、比較的強固なバイオフィルムが光触媒層803の表面上に形成される。場合によっては、バイオフィルムの形成により、光触媒層803が親水性性能や有機物の分解性能、菌の抗菌あるいは殺菌作用を発揮できない場合がある。
これに対して、本実施形態にかかるトイレ装置10では、光源装置310は、ボウル部801の表面の少なくともいずれかの部分における照射強度が150マイクロワット/平方センチメートル(μW/cm2)以上となる紫外線をボウル部801に対して照射する(第1の照射モード)。具体的には、光源装置310は、150μW/cm2以上の照射強度を有する紫外線を喫水部807に対して照射する。つまり、喫水部807における照射強度が150μW/cm2以上となる紫外線を照射する。
なお、本願明細書における紫外線の照射強度は、照射強度計により測定した値と定義する。したがって、前述の場合、喫水部807において照射強度計で測定した照射強度が150μW/cm2以上となることを意味する。
これによれば、トイレ装置に特有の菌が増殖することを抑制することができる。具体的には、150μW/cm2以上の照射強度を有する紫外線がメチロバクテリウムなどの従属栄養細菌が増殖しやすい喫水部807に対して照射されるため、従属栄養細菌の増殖を抑制することができる。これにより、便器800の清掃負担を軽減し、清潔なボウル部801を有するトイレ装置を提供することができる。
光触媒層803の分解作用は、照射する紫外線の照射強度および照射時間に相関し、照射強度および照射時間の増加とともに高くなる。そのため、有機物が分解されず便器800のボウル部801の表面に残った場合には、ボウル部801の表面に付着した菌がボウル部801の表面に残った有機物を栄養にして増殖することがある。
また、本発明者は、使用者が排泄した汚物は、ボウル部801の前方部よりもボウル部801の後方部において付着しやすいという知見を得た。そこで、光源装置310は、100μW/cm2以上の照射強度を有する紫外線を図4に表した汚物付着領域808に対して照射する。つまり、汚物付着領域808における照射強度が100μW/cm2以上となる紫外線を照射する。汚物付着領域808は、喫水部807を含む領域であってボウル部801の中央部から後方部にわたる領域である。
これによれば、汚物等に含まれる有機物であってボウル部801に付着した有機物を分解することができる。栄養分(栄養源)としての有機物を分解できるため、菌の増殖を抑制することができる。これにより、長い間にわたって、清潔なボウル部801を有するトイレ装置10を提供することができる。また、100μW/cm2以上の照射強度を有する紫外線が、有機物が付着しやすい喫水部807に対して照射されるため、有機物を効率よく分解することできる。これにより、便器800の清掃負担を軽減し、清潔なボウル部801を有するトイレ装置を提供することができる。
光触媒層803の親水作用は、紫外線の照射が停止しても一定時間維持される。そのため、光触媒層803が設けられたトイレ装置10では、紫外線が定期的に照射されることが考えられる。しかし、紫外線による人体への影響を考慮すると、使用者がトイレ装置10を使用しているときには、紫外線の照射を極力避けることが望ましい。そのため、例えば公共施設などのように使用頻度が比較的高いトイレ装置10では、紫外線を照射できる時間が限られる。そのため、効果的な紫外線の照射が必要となる。
そこで、光源装置310は、30μW/cm2以上の照射強度を有する紫外線を図4に表した尿付着領域809に対して照射する。つまり、尿付着領域809における照射強度が30μW/cm2以上となる紫外線を照射する。尿付着領域809は、ボウル部801の前方部の領域である。
これによれば、比較的短い照射時間で光触媒層803の親水性を維持することができる。そのため、例えば公共施設などのように使用頻度が比較的高いトイレルームにおいて、長い間にわたって、清潔なトイレ装置10を提供することができる。
次に、本発明者が紫外線の照射強度について検討した結果について、図面を参照しつつ説明する。
図5は、紫外線の照射強度とメチロバクテリウムの菌数との関係の一例を例示するグラフ図である。
図5に表したグラフ図の横軸は、照射強度(μW/cm2)と経過時間(hr:時間)とを表す。図5に表したグラフ図の縦軸は、メチロバクテリウムの菌数を表す。
図5に表したグラフ図のうちで左側の群は、経過時間がゼロ時間(hr)のときの菌数すなわち初期の菌数を表している。図5に表したグラフ図のうちで右側の群は、経過時間が48時間のときの菌数を表している。
図5に表したグラフ図の中の照射強度が「0」とは、光触媒層803がボウル部801に形成されていないことを意味する。そのため、図5に表したグラフ図の中の照射強度が「0」では、紫外線の照射は行われていない。
本発明者は、まず、菌数が約55000程度のメチロバクテリウムをボウル部801に付着させた。メチロバクテリウムは、タイル(テストピース)に付着されてもよい。このときのタイルの表面には、光触媒層803が形成されている。つまり、本検討でタイルを使用する場合において、タイルの表面の性状は、本実施形態のボウル部801の表面の性状と同様である。
続いて、本発明者は、メチロバクテリウムを付着させた部分を含む領域に対して100μW/cm2、120μW/cm2、150μW/cm2、200μW/cm2の照射強度を有する紫外線をそれぞれ1時間だけ照射した。続いて、本発明者は、紫外線の照射を停止し、メチロバクテリウムを付着させた部分をそのまま2時間だけ放置した。続いて、本発明者は、前述した照射強度を有する紫外線をそれぞれ1時間だけ照射した。以降、本発明者は、紫外線の照射と、紫外線の停止(放置)と、を繰り返し、検討開始から48時間が経過した時点でのメチロバクテリウムの菌数を測定した。
48時間後のメチロバクテリウムの菌数の測定結果は、図5のグラフ図の右側の群に表した通りである。すなわち、光触媒層803が形成されていないボウル部801、100μW/cm2の照射強度を有する紫外線が照射されたボウル部801、および120μW/cm2の照射強度を有する紫外線が照射されたボウル部801では、メチロバクテリウムが初期から増殖した。一方で、150μW/cm2および200μW/cm2の照射強度を有する紫外線がそれぞれ照射されたボウル部801では、メチロバクテリウムの増殖が抑制された。
これにより、メチロバクテリウム(トイレ装置に特有の菌の1つ)の増殖を抑制するために効果的な紫外線の照射強度は、150μW/cm2以上であることが分かった。
図6は、紫外線の照射強度と大腸菌類の菌数との関係の一例を例示するグラフ図である。
図6に表したグラフ図の横軸は、照射強度(μW/cm2)を表す。図6に表したグラフ図の縦軸は、大腸菌類の菌数を表す。
本発明者は、まず、菌数が約30000程度の大腸菌類をボウル部801に付着させた。図5に関して前述したように、大腸菌類は、本実施形態のボウル部801の表面の性状を有するタイルに付着されてもよい。
続いて、本発明者は、大腸菌類を付着させた部分を含む領域に対して30μW/cm2、50μW/cm2、100μW/cm2、200μW/cm2の照射強度を有する紫外線をそれぞれ1時間だけ照射した。続いて、本発明者は、紫外線の照射を停止し、大腸菌類を付着させた部分をそのまま2時間だけ放置した。続いて、本発明者は、前述した照射強度を有する紫外線をそれぞれ1時間だけ照射した。以降、本発明者は、紫外線の照射と、紫外線の停止(放置)と、を繰り返し、検討開始から48時間が経過した時点での大腸菌類の菌数を測定した。
48時間後の大腸菌類の菌数の測定結果は、図6に表した通りである。すなわち、30μW/cm2、50μW/cm2、100μW/cm2および200μW/cm2の照射強度を有する紫外線が照射されたボウル部801では、大腸菌類はいずれも検出されなかった。
これにより、大腸菌類の増殖を抑制するために効果的な紫外線の照射強度は、30μW/cm2以上であることが分かった。
図7は、紫外線の照射強度と有機物分解量との関係の一例を例示するグラフ図である。 図7に表したグラフ図の横軸は、有機物分解量(μg/cm2)を表す。図7に表したグラフ図の縦軸は、照射強度(μW/cm2)を表す。
本発明者は、まず、初期の栄養量(栄養残存量)として5.2μg/cm2のタンパク質をボウル部801に付着させた。ボウル部801に付着させた栄養素は、従属栄養細菌や大腸菌類、緑膿菌などの菌が繁殖するための栄養素である。具体的には、本検討で使用した栄養素は、ゼラチンである。図5に関して前述したように、栄養素は、本実施形態のボウル部801の表面の性状を有するタイルに付着されてもよい。
続いて、本発明者は、栄養素を付着させた部分を含む領域に対して30μW/cm2、100μW/cm2、200μW/cm2の照射強度を有する紫外線をそれぞれ1時間だけ照射した。続いて、本発明者は、紫外線の照射を停止し、栄養素を付着させた部分をそのまま2時間だけ放置した。続いて、本発明者は、前述した照射強度を有する紫外線をそれぞれ1時間だけ照射した。以降、本発明者は、紫外線の照射と、紫外線の停止(放置)と、を繰り返し、検討開始から48時間が経過した時点での栄養素の分解量(有機物分解量)をフーリエ変換型赤外分光法(FT−IR:Fourier Transforminfrared - infrared spectroscopy)により測定した。
48時間後の有機物分解量の測定結果は、図7に表した通りである。すなわち、100μW/cm2の照射強度を有する紫外線が照射されたボウル部801での有機物分解量は、1.6μg/cm2であった。200μW/cm2の照射強度を有する紫外線が照射されたボウル部801での有機物分解量は、2.9μg/cm2であった。一方で、30μW/cm2の照射強度を有する紫外線が照射されたボウル部801での有機物分解量は、0μg/cm2であった。
これにより、汚物等に含まれる有機物を分解するために効果的な紫外線の照射強度は、100μW/cm2以上であることが分かった。
図8は、紫外線の照射強度と有機物分解量との関係の他の一例を例示するグラフ図である。
図8(a)は、紫外線の照射強度が100μW/cm2である場合の有機物分解量(μg/cm2)を表す。図8(b)は、紫外線の照射強度が200μW/cm2である場合の有機物分解量(μg/cm2)を表す。
図8(a)および図8(b)に表したグラフ図の横軸は、初期の栄養量(栄養残存量)を表す。図8(a)および図8(b)に表したグラフ図の縦軸は、有機物分解量(μg/cm2)を表す。
本発明者は、まず、栄養素としてゼラチンの溶液を生成した。生成したゼラチンの溶液の初期の栄養量は、5.2μg/cm2、7.8μg/cm2、10.4μg/cm2、15.6μg/cm2、52.1μg/cm2、72.9μg/cm2、104.1μg/cm2である。本発明者は、それぞれの栄養量のゼラチンの溶液をボウル部801に滴下した。図5に関して前述したように、ゼラチンの溶液は、本実施形態のボウル部801の表面の性状を有するタイルに滴下されてもよい。
続いて、本発明者は、ゼラチンの溶液を滴下した部分を含む領域に対して100μW/cm2、200μW/cm2の照射強度を有する紫外線をそれぞれ1時間だけ照射した。その後、本発明者は、有機物分解量をフーリエ変換型赤外分光法により測定した。
紫外線の照射強度が100μW/cm2である場合の有機物分解量の測定結果は、図8(a)に表した通りである。すなわち、紫外線の照射強度が100μW/cm2で、照射時間が1時間である場合には、初期の栄養量が15.6μg/cm2以下の栄養素を分解できることが確認された。
紫外線の照射強度が200μW/cm2である場合の有機物分解量の測定結果は、図8(b)に表した通りである。すなわち、紫外線の照射強度が200μW/cm2で、照射時間が1時間である場合には、初期の栄養量が52.1μg/cm2以下の栄養素を分解できることが確認された。
図9は、紫外線の照射強度と水膜形成との関係の一例を例示するグラフ図である。
図10は、本発明者が光触媒層の親水作用について検討した検討方法を説明する模式的平面図である。
図9に表したグラフ図の横軸は、経過時間(hr)である。図9に表したグラフ図の縦軸は、接触角(°)を表す。
本発明者は、光触媒層の親水作用の検討にあたり、タイル501および水505を用意した。タイル501の表面には、光触媒層803が形成されている。つまり、本検討のタイル501の表面の性状は、本実施形態のボウル部801の表面の性状と同様である。
続いて、図10に表したように、本発明者は、タイル501の表面に水505を滴下した。このとき、例えば図7および図8に関して前述したような栄養素は、タイル501の表面には付着されていない。そして、本発明者は、タイル501の表面における水505の接触角θを測定した。このときの接触角は、紫外線が照射される前の初期の接触角である。
本願明細書において「接触角」とは、所定の固体表面(本検討ではタイル501の表面)と液体表面(本検討では水505の表面)との界面において、固体表面と液体表面とがなす角度であって液体の側で測定される角度をいうものとする。また、接触角θについては、接触角計「協和界面化学(株)製、自動接触角計DM−500」を用いて測定した。
続いて、本発明者は、タイル501の表面に対して光源装置310から紫外線を照射させた。本検討では、光源装置310として冷陰極管を使用した。本発明者は、タイル501の表面に対して20μW/cm2、30μW/cm2、100μW/cm2、200μW/cm2の照射強度を有する紫外線をそれぞれ照射した。図9に表したように、1回目の紫外線の照射時間は、約2時間程度である。2回目の紫外線の照射時間は、約1時間程度である。
本発明者の検討の結果、固体表面における水の接触角θが30度以下である場合には、固体表面において水膜を形成可能であることが分かっている。接触角θの測定結果は、図9に表した通りである。すなわち、紫外線の照射強度が20μW/cm2である場合には、紫外線の照射時間が長くとも、接触角が30度以下となることはなかった。つまり、紫外線の照射強度が20μW/cm2である場合には、タイル501の表面に水膜を形成することはできなかった。
一方、紫外線の照射強度が30μW/cm2、100μW/cm2および200μW/cm2である場合には、接触角は、紫外線の照射時間が約1時間程度で30度以下となり、紫外線の照射時間が約2時間程度ではさらに低下した。これにより、30μW/cm2以上の照射強度を有する紫外線を1時間以上照射すると、光触媒層803が形成されたボウル部801の表面に水膜を形成できることが分かった。
続いて、本発明者は、紫外線の照射を停止したまま、水505が滴下されたタイル501を放置した。すると、紫外線の照射強度が30μW/cm2、100μW/cm2および200μW/cm2である場合において、紫外線の照射を停止してから約10時間が経過するまでは、接触角が30度以下の状態を維持できることが分かった。つまり、紫外線の照射強度が30μW/cm2以上である場合において、紫外線の照射を停止してから約10時間が経過するまでは、光触媒層803の親水性を維持できることが分かった。
続いて、接触角が30度よりも大きくなった後、30μW/cm2以上の照射強度を有する紫外線を再び1時間以上照射した(2回目の照射)。すると、図9に表したように、紫外線の照射強度が30μW/cm2、100μW/cm2および200μW/cm2である場合において、接触角は、紫外線の照射時間が約1時間程度で30度以下となった。これにより、光触媒層803の親水性が再び得られることが分かった。
図11は、便器と便蓋とで囲まれた空間の温度分布の測定結果の一例を例示するグラフ図である。
図11に表したグラフ図の横軸は、紫外線の照射の開始から経過した時間を表す。図11に表したグラフ図の縦軸は、紫外線の照射の前後での温度差を表す。
本発明者は、光源装置310からボウル部801の表面に紫外線を照射させ、便器と便蓋とで囲まれた空間の温度分布を測定した。
温度分布を測定したときの室温は、27.2℃である。ボウル部801の表面には、光触媒層803が形成されている。光源装置310は、便蓋300の裏面(閉じた状態で便座の着座面に対向する面)に設けられ、冷陰極管を有する。冷陰極管の電力を7.2ワット(W)とし、喫水部807における照射強度を200μW/cm2とした。
温度分布の測定結果は、図11に表した通りである。すなわち、紫外線の照射の開始から60分が経過すると、光源装置310の付近の温度は、約7.2℃程度上昇した。一方、紫外線の照射の開始から60分が経過すると、便座200の表面、ボウル部801の表面およびボウル部801内の温度は、約1℃程度上昇した。
ここで、本発明者が得た知見によれば、人体への影響を考慮すると、便蓋300の温度を50℃以下とすることが望ましい。便蓋300の温度を60分間で50℃まで上昇させるために必要な電力は、次式で表される。
(50℃−27.2℃)×7.2W/7.2℃=22.8W
すると、便蓋300の温度を60分間で50℃まで上昇させるために必要な照射強度は、次式で表される。
22.8W/7.2W×200μW/cm2=633.3μW/cm2
これにより、人体への影響を考慮すると、光源装置310は、ボウル部801の表面の少なくともいずれかの部分における照射強度が633μW/cm2以下となる紫外線をボウル部801に対して照射することが望ましい。具体的には、光源装置310は、633μW/cm2以下の照射強度を有する紫外線を喫水部807に対して照射することが望ましい。つまり、光源装置310が便蓋300に設けられる本実施形態では、便蓋300への光源装置310の熱の影響が一番大きくなるため、便蓋300による人体の影響を考慮すると、喫水部807における照射強度が633μW/cm2以下となる紫外線を照射することが望ましい。これによれば、本実施形態のように、光源装置310を便蓋300の内部に設ける設置形態に係らず、例えば、光源装置310がケーシング400の内部に設けられる設置形態においても、光源装置310が紫外線を照射することで生ずる便蓋300の温度上昇による人体への影響を抑制することができる。
次に、本実施形態にかかるトイレ装置の動作の具体例について、図面を参照しつつ説明する。
図12は、本実施形態にかかるトイレ装置の動作の具体例を例示するタイミングチャート図である。
図13は、本実施形態にかかるトイレ装置の動作の具体例を例示する模式図である。
例えば使用者がトイレルームに入室すると、入室検知センサ402は、トイレルームに入室した人体を検知し制御部410へ信号を送信する(タイミングt1)。すると、便蓋開閉駆動装置420は、制御部410から送信された信号に基づいて便蓋300を開く。これにより、便蓋開閉検知センサ405は、便蓋300が開いたことを検知する(タイミングt1)。
続いて、入室検知センサ402がトイレルームに入室した人体を検知してから所定時間が経過すると、制御部410から送信された信号に基づいて電磁弁431が開く。また、流調・流路切替弁471は、制御部410から送信された信号に基づいて、水を第2の流路へ導く状態に切り替える。これにより、水が噴出部480からボウル部801の表面に噴射される(タイミングt2〜t3)。なお、殺菌水が噴出部480から噴射されてもよい。
これによれば、使用者が便器800を使用する前に水がボウル部801の表面に噴射されるため、光触媒層803の親水性によりボウル部801の表面に水膜が形成される。そのため、有機物を含む汚物がボウル部801の表面に付着することを抑制することができる。また、メチロバクテリウムなどのトイレ装置に特有の菌がボウル部801の表面に付着することを抑制することができる。これにより、紫外線の照射時間(第1の照射モードの照射時間)を短くし、光源装置310の長寿命化を実現することができる。殺菌水がボウル部801の表面に噴射される場合には、ボウル部801の表面を殺菌することができる。
続いて、使用者が便座200に着座すると、着座検知センサ404は、便座200に着座した使用者を検知する(タイミングt4)。使用者は、排泄行為を終了した後、便座200から離座する。すると、着座検知センサ404は、使用者が便座200に着座していないことを検知し制御部410へ信号を送信する(タイミングt5)。
ここで、制御部410は、使用者による便器800の使用について、大便の排泄行為の使用と小便の排泄行為の使用との別を判別することができる。つまり、制御部410は、使用者による便器800の使用が大便の排泄行為の使用であるかあるいは小便の排泄行為の使用であるかを判別することができる。例えば、制御部410は、着座検知センサ404の人体検知の有無および着座検知センサ404の検知時間(使用者の着座時間:タイミングt4〜t5)に基づいて、使用者による便器800の使用が大便の排泄行為の使用であるかあるいは小便の排泄行為の使用であるかを判別する。
続いて、使用者が便座200に着座していないことを着座検知センサ404が検知してから所定時間が経過すると、制御部410から送信された信号に基づいて電磁弁431が開く。また、流調・流路切替弁471は、制御部410から送信された信号に基づいて、水を第2の流路へ導く状態に切り替える。これにより、水が噴出部480からボウル部801の表面に噴射される(タイミングt6〜t7)。なお、水が噴出部480からボウル部801の表面に噴射されるタイミングは、汚物が便器洗浄によりボウル部801から排出された後のタイミングである。また、殺菌水が噴出部480からボウル部801の表面に噴射されてもよい。
これによれば、使用者が便器800を使用した後に水がボウル部801の表面に噴射されるため、光触媒層803の親水性によりボウル部801の表面に水膜が形成される。また、殺菌水がボウル部801の表面に噴射される場合には、ボウル部801の表面を殺菌することができる。これによれば、より清潔な便器800を維持することができる。
続いて、使用者がトイレルームから退室すると、入室検知センサ402は、トイレルームに人体が存在しないことを検知し制御部410へ信号を送信する(タイミングt8)。入室検知センサ402がトイレルームに人体が存在しないことを検知してから所定時間が経過すると、便蓋開閉駆動装置420は、制御部410から送信された信号に基づいて便蓋300を閉じる。これにより、便蓋開閉検知センサ405は、便蓋300が閉じたことを検知する(タイミングt9)。
使用者による便器800の使用が大便の排泄行為の使用であると制御部410が判断した場合において、便蓋300が閉じたことを便蓋開閉検知センサ405が検知してから所定時間が経過すると、光源装置310は、制御部410から送信された信号に基づいて、紫外線をボウル部801に照射する(第1の照射モード:タイミングt10〜t11)。タイミングt10〜t11における紫外線の照射時間は、例えば約1〜2時間程度である。このとき、図4に関して前述したように、光源装置310は、喫水部807における照射強度が150μW/cm2以上となる紫外線を照射する。また、光源装置310は、汚物付着領域808における照射強度が100μW/cm2以上となる紫外線を照射する。また、光源装置310は、尿付着領域809における照射強度が30μW/cm2以上となる紫外線を尿付着領域809に対して照射する。
これによれば、150μW/cm2以上の照射強度を有する紫外線がメチロバクテリウムなどのトイレ装置に特有の菌が付着しやすい喫水部807に対して照射されるため、従属栄養細菌の増殖を抑制することができる。これにより、便器800の清掃負担を軽減し、清潔なボウル部801を有するトイレ装置を提供することができる。
また、100μW/cm2以上の照射強度を有する紫外線が有機物を含む汚物が付着しやすい喫水部807に対して照射されるため、有機物を効率よく分解することができる。これにより、長い間にわたって、便器800の清掃負担を軽減し、清潔なボウル部801を有するトイレ装置を提供することができる。
また、光源装置310は、便器800が使用される度に紫外線をボウル部801の表面に照射する。そのため、有機物を効率よく分解し、従属栄養細菌の増殖をより抑制することができる。また、長い間にわたって、光触媒層803の親水性を維持することができる。これにより、便器800の清掃負担を軽減し、清潔なボウル部801を有するトイレ装置を提供することができる。
また、有機物を含む汚物がボウル部801の表面に付着する大便の排泄行為の後に光源装置310が紫外線をボウル部801に照射する。そのため、第1の照射モードを効率よく実行し、有機物を効率よく分解することができる。そのため、光源装置310の長寿命化を実現することができる。これにより、長い間にわたって、清潔な便器800を維持することができる。
続いて、便器800が使用されない時間が所定時間(例えば約8〜10時間程度)を経過すると(タイミングt11〜t12)、光源装置310は、制御部410から送信された信号に基づいて、紫外線をボウル部801に再び照射する(第2の照射モード:タイミングt12〜t13)。タイミングt12〜t13における紫外線の照射時間は、例えば約1〜2時間程度である。このとき、タイミングt12〜t13において光源装置310がボウル部801の後方部に照射する紫外線の照射強度は、タイミングt10〜t11において光源装置310がボウル部801の後方部に照射する紫外線の照射強度以下である。
これによれば、紫外線が定期的に照射されるため、光触媒層803の励起状態を維持し、光触媒層803の親水性を維持することができる。すなわち、便器800の使用後に紫外線が照射されることにより(第1の照射モードにより)、光触媒層803は励起されている(タイミングt10〜t11)。但し、便器800が使用されない時間が所定時間(例えば約8〜10時間程度)を経過すると、光触媒層803の励起状態が低下する。これは、図9および図10に関して前述した通りである。そのため、本具体例によれば、光触媒層803の励起状態を維持し、光触媒層803の親水性を維持することができる。また、光触媒層803の親水性の発揮のための照射モード(第2の照射モード)が設けられているため、用途に合わせた効率的な照射を行うことができる。そのため、光源装置310の長寿命化を実現することができる。また、紫外線の照射を停止してから約10時間程度が経過するまで光触媒層803の親水性を維持することができるため、例えば公共施設などのように使用頻度が比較的高いトイレルームにおいて、長い間にわたって、清潔なトイレ装置を提供することができる。
また、より効率的な光源装置310を実現することができる。すなわち、光触媒層803の励起状態を上げる際に照射する紫外線の照射強度は、有機物を分解する際に照射する紫外線の照射強度よりも低くても十分である。そのため、本具体例によれば、より効率的な光源装置310を実現することができる。
ここで、タイミングt10〜t11およびタイミングt12〜t13において光源装置310がボウル部801に照射する紫外線のそれぞれの照射強度は、単位面積あたりの光の強度だけではなく、時間的に積分された光の強度を含む概念である。例えば、タイミングt10〜t11およびタイミングt12〜t13においては、強度が100μW/cm2の紫外線を2時間照射したときの照射強度は、強度が100μW/cm2の紫外線を1時間照射したときの照射強度よりも高い。
なお、本具体例では、光源装置310は、使用者がトイレルームから退室した後に紫外線をボウル部801の表面に照射している。但し、光源装置310は、使用者がトイレルームから退室する前であって便蓋300が閉じた後に紫外線をボウル部801の表面に照射してもよい。これによれば、便蓋300がボウル部801を覆っているため、紫外線による人体への影響を抑制するとともに、便器800が使用された後のより早い段階で紫外線をボウル部801に照射することができる。そのため、便器800が使用された後のより早い段階で、光触媒層803が光触媒活性を発現し、光触媒層803の励起状態を維持することができる。また、清潔なトイレ装置を提供することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、便蓋300およびケーシング400などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などや光源装置310の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。