関連出願の参照
本願は、先行する日本国特許出願である特願2012−213069(出願日:2012年9月26日)の優先権の利益を享受するものであり、その開示内容全体は引用することにより本明細書の一部とされる。
本発明は、VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターおよびそれを調製するための前駆体ベクターに関する。より具体的には、本発明は、遺伝子治療や遺伝子の機能解析の研究に耐える十分な力価を発揮するVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターおよびそれを作製するための前駆体ベクター並びに該VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターの調製方法に関する。
アデノウイルスベクターは、細胞種を問わず高い遺伝子導入効率を示すことから、細胞への遺伝子導入ベクターとして広く用いられている。アデノウイルスベクターはまた、レトロウイルスベクターとは異なって細胞の染色体に組み込まれることがなく、また、遺伝子導入の際に細胞が分裂する必要がないという特徴を有している。
このような利点から、アデノウイルスベクターは改良ベクターやその効率的作製法の開発が進められ、現在では、遺伝子治療用途や研究用の遺伝子導入ベクターとして広く用いられるようになった。
しかしながら、第一世代アデノウイルスベクターは、そのゲノムに必須ウイルスタンパク質をコードする遺伝子が多数含まれおり、感染した細胞に様々な抗ウイルス応答を引き起こすことがある。
例えば、アデノウイルスベクターゲノムには、ウイルス関連RNA(virus−associated RNA)(VA RNA)をコードする遺伝子領域VAIおよびIIが存在することが知られている。VA RNAは、タンパク質をコードしないRNA(ncRNA)であることや、インターフェロンβプロモーター刺激因子−1(IPS−1)を介して自然免疫を誘発する(非特許文献1)ことが報告されている。VA RNAはまた、機能的なウイルスmiRNA(mivaRNA)として働き、感染した細胞の細胞増殖、遺伝子発現およびDNA修復などに関与する遺伝子の発現を制御することも明らかとなってきた(非特許文献2)。そのため、アデノウイルスベクターの新たな問題として、感染後に宿主細胞にVA RNAに起因する予測不能な影響を与えることや、結果として遺伝子治療や遺伝子の機能解析を困難にしてしまうことが懸念されていた。
このような背景から、機能的なVA RNAを欠損したアデノウイルスベクターの開発が試みられてきたが、VA RNAはアデノウイルスベクターの複製に必要な因子であり、欠損させるとアデノウイルスベクターの増殖能が著しく低下するため、VA RNAを欠損したアデノウイルスベクターを得ることは困難であった。そのため、欠損したVA RNAをVA RNAを発現する細胞を用いて補完する方法が試みられたが、その場合でも得られるベクターの力価は通常の約1000分の1程度であり(非特許文献3)、遺伝子治療や遺伝子の機能解析等の実用に耐える十分な力価を発揮するものではなかった。
T. Yamaguchi, K. Kawabata, E. Kouyama, K. J. Ishii, K. Katayama, T. Suzuki, S. Kurachi, F. Sakurai, S. Akira, H. Mizuguchi, "Induction of type I interferon by adenovirus-encoded small RNAs", Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2010) 107: 17286-17291.
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本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、遺伝子治療や遺伝子の機能解析の研究に耐える十分な力価を発揮するVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターおよびそれを作製するための前駆体ベクター並びに該VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターの調製方法を提供することを目的とする。
本発明者は、VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターは、VA発現293細胞等によりVA RNAを供給した場合には力価が実用レベルに至らなかったにも関わらず、VA RNAをウイルスゲノム内に供給し、培養最終段階でVA遺伝子を欠損させる手法を採用した場合には、従来の百倍〜数百倍の高力価のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを得ることができることを見出した。本発明はこのような知見に基づいて完成された発明である。
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)アデノウイルスベクターを含んでなり、かつ、該アデノウイルスベクターが一組の部位特異的組換え酵素の認識配列とその認識配列間に存在するウイルス関連RNAをコードする遺伝子(VA遺伝子)とを含んでなる、VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターの前駆体ベクター。
(2)一組の部位特異的組換え酵素の認識配列とその認識配列間に存在するVA遺伝子とがアデノウイルスベクターに導入された、上記(1)に記載の前駆体ベクター。
(3)アデノウイルスベクターが内在性のVA遺伝子が破壊されたアデノウイルスベクターである、上記(2)に記載の前駆体ベクター。
(4)一組の部位特異的組換え酵素の認識配列とその認識配列間に存在するVA遺伝子がアデノウイルスベクターのE4領域または破壊された内在性のVA遺伝子の領域に導入された、上記(3)に記載の前駆体ベクター。
(5)一組の部位特異的組換え酵素の認識配列間に存在するVA遺伝子が、内在性のVA遺伝子である、上記(1)に記載の前駆体ベクター。
(6)部位特異的組換え酵素が、Creリコンビナーゼ、Flpリコンビナーゼ、φC31リコンビナーゼまたはDreリコンビナーゼである、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の前駆体ベクター。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の前駆体ベクターと、該ベクターを宿主内で増殖させるために必要な要素とを含んでなる、核酸構築物。
(8)部位特異的組換え酵素の認識配列を含んでなる、VA遺伝子破壊アデノウイルスベクター。
(9)部位特異的組換え酵素の認識配列がE4領域に存在する、上記(8)に記載のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクター。
(10)部位特異的組換え酵素が、Creリコンビナーゼ、Flpリコンビナーゼ、φC31リコンビナーゼまたはDreリコンビナーゼである、上記(8)または(9)に記載のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクター。
(11)VA遺伝子が欠損している、上記(8)〜(10)のいずれかに記載のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクター。
(12)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の前駆体ベクターを部位特異的組換え反応に付して得ることができる、上記(8)〜(11)のいずれかに記載のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクター。
(13)上記(8)〜(12)のいずれかに記載のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを含んでなる、遺伝子導入用組成物であって、ウイルス力価が1×107(rVT/mL)以上である、遺伝子導入用組成物。
(14)VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを調製する方法であって、
(a)部位特異的組換え酵素を発現していないE1発現細胞を用いて、上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の前駆体ベクターを増殖させる工程と、
(b)部位特異的組換え酵素を発現する細胞を用いて、工程(a)で増殖させた前駆体ベクターを部位特異的組換え反応に付する工程と
を含んでなる、方法。
(15)工程(a)においてウイルスを2〜5回継代する、上記(14)に記載の方法。
(16)工程(b)においてウイルスを1〜3回継代する、上記(14)または(15)に記載の方法。
(17)配列番号1の配列を有するフォワードプライマーおよび配列番号3の配列を有するリバースプライマーを含んでなる、核酸増幅用のプライマーセット。
(18)上記(17)に記載のプライマーセットと、上記(17)に記載のプライマーセットにより増幅される核酸断片に特異的な核酸配列からなるプローブとを含んでなる、VA RNA I検出用または定量用のプライマーおよびプローブのセット。
(19)配列番号4の配列を有するフォワードプライマーおよび配列番号6の配列を有するリバースプライマーを含んでなる、核酸増幅用のプライマーセット。
(20)上記(19)に記載のプライマーセットと、上記(17)に記載のプライマーセットにより増幅される核酸断片に特異的な核酸配列からなるプローブとを含んでなる、VA RNA II検出用または定量用のプライマーおよびプローブのセット。
本発明によれば、VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを実用に耐える高力価で得ることができる。VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターは、VA遺伝子が機能的に破壊され、宿主細胞のインターフェロン経路等の免疫機構に働きかける可能性が少ないことから、RNAに起因する予測不能な影響を回避しつつ遺伝子の機能解析や遺伝子治療に用いることができる点で有利である。
また、アデノウイルスベクター調製中には、アデノウイルスベクターがE1遺伝子を獲得して複製可能なアデノウイルスベクター(replication−competent adenovirus:RCA)が生成されることがある。しかし、VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターは、VA遺伝子を欠損しているため、RCAの増殖を起こすことがなく、RCAによる副作用が生じないと考えられる点で有利である。また、本発明のプライマーセットは、増幅の困難なアデノウイルスのVA RNA IまたはIIをPCRで増幅させることができる点で有利である。
図1は、アデノウイルス5型をベースとしたアデノウイルスベクターのVA遺伝子の改変を示す図である。図1Aは、アデノウイルスの内在性のVAをB−box領域の欠損により破壊する場合の欠損部位を示す図である。B−box領域の欠損は、図1A中の小文字で示される配列を欠損させることにより行った。図1Bは、VAIおよびVAIIにわたる領域の381ヌクレオチドの欠損部位を示す図である。381ヌクレオチドの欠損は、図1B中の小文字で示される配列を欠損させることにより行った。図1Cは、FVF断片中のVAIおよびVAIIの全体とスプライシング部位の改変を示す図である。図1Cでは、定量的PCRに用いたプライマーおよびVA RNA IおよびII検出用プローブの部位が示されている。図1C中のFプライマー1、VAIプローブおよびRプライマー1(太字かつ斜字の部分)はそれぞれ、VAIのリアルタイムPCR用のフォワードプライマー、プローブおよびリバースプライマーを示し、Fプライマー2、VAIIプローブおよびRプライマー2(太字かつ斜字の部分)はそれぞれ、VAIIのリアルタイムPCR用のフォワードプライマー、プローブおよびリバースプライマーを示す。図1A〜Cでは、VAIおよびVAIIをコードする遺伝子領域がそれぞれ四角にて囲まれている。
図2は、本発明の前駆体ベクターから部位特異的組換え反応を用いて機能的なVAを除去するスキームを示す図である。図2Aは、VAの381ヌクレオチドを欠失させ、かつ、その箇所にFVF断片を挿入した前駆体ベクターAxdV−FVFの模式図を示し、図2Bは、VA遺伝子のB−boxを欠失させ、かつ、FVF断片をE4領域に挿入した前駆体ベクターAxdV−4FVFの模式図を示す。また、図2CおよびDはそれぞれ、図2AおよびBの前駆体ベクターに部位特異的組換え反応を引き起こさせて得られるVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターおよび環状に除去された機能的なVAを示す。図2CおよびDに示されるように、機能的なVAが除去されたVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターは、機能的なVAが挿入されていた箇所に部位特異的組換え酵素の認識配列(図中はFで示される)が1つ残存することとなる。
図3は、VA遺伝子破壊アデノウイルスベクター(AxdV−4F−GFP)(図3A)およびその前駆体ベクター(AxdV−4FVF−GFP)(図3B)のE4領域の配列を示す。前駆体ベクターでは、二重下線で示された一組のFRT配列の間にVAIおよびII遺伝子が挿入されているが、部位組換え酵素反応により、これらのVA遺伝子が除去され、ベクター上には1つのFRT配列が残存する結果となる。
図4は、部位特異的組換え反応による機能的なVAの除去とその効率を示す図である。図4Aは、サザンブロット法による、VA遺伝子切り出し反応によるアデノウイルスベクターのバンドシフトを示す図である。図4Bは、ノーザンブロット法による、本発明により得られたVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターからのVA RNA Iの産生のレベルの低下を示す図である。
発明の具体的な説明
本発明による前駆体ベクター(プレベクター)は、アデノウイルスベクターを含んでなり、かつ、該アデノウイルスベクターは一組(2つ)の部位特異的組換え酵素の認識配列とその認識配列間に存在するVA遺伝子とを含んでなることを特徴とするものである。
本明細書において、「アデノウイルスベクター」とは、アデノウイルス由来のベクターである。また、「アデノウイルスベクター」は、好ましくは第一世代のアデノウイルスベクター(以下、「FG−AdVベクター」ということがある)である。
第一世代のアデノウイルスベクターの代表例は、E1置換型とも呼ばれるように、ウイルスゲノム中のE1Aおよび/またはE1Bが欠失しており、代わりにE1領域あるいはアデノウイルスゲノムの他の領域に目的遺伝子を含む発現ユニットが挿入されるベクターである。現在、アデノウイルスとしては、50以上の型が知られ、ベクターとしてよく用いられているのは、アデノウイルス2型、5型および35型のゲノムを利用したものであるが、それ以外の型、例えば8型など、いずれの型のアデノウイルスベクターであっても本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターの作製に用いることができる。本明細書では「目的遺伝子」とは、ウイルスベクターにより細胞に導入しようとする外来遺伝子をいう。発現ユニットには、目的遺伝子を発現させるためのプロモーターが含まれる。プロモーターは、特に限定されないが、例えば、CAGプロモーター、EF1αプロモーター、SRαプロモーター、組織特異的なプロモーターまたは誘導性プロモーターなどのプロモーターを含む調節領域を用いることができる。このようなプロモーターまたは調節領域は当業者であれば適宜自由に選択し、設計することができる。また、発現ユニットには、目的遺伝子のmRNAにポリA配列を付加するポリA付加シグナルが含まれる。目的遺伝子の発現ユニットは、発現ユニットの近傍に存在するpIX遺伝子上流のスプライシングアクセプター部位が、目的遺伝子にある潜在的なスプライシングドナー部位と反応して不要なスプライシングが生じるのを防ぐ目的で、左向き(すなわち、遺伝子の転写開始点がE2側に配置される向き)に挿入されることが好ましい(Nakai, Kanegae, Saito et al., Hum. Gene Ther. 2005)。
第一世代のアデノウイルスベクターは、E1Aおよび/またはE1Bを欠失しているため、ウイルスの複製に必要なその他の初期遺伝子E2(E2AおよびE2B)、E3およびE4を発現することができず、E1(E1Aおよび/またはE1B)を供給しなければ細胞で増殖することができない。そのため、第一世代のアデノウイルスベクターの増殖にはE1を発現する細胞、例えば、293細胞などが用いられる。
また、第一世代のアデノウイルスベクターでは、アデノウイルスベクターゲノム上の初期遺伝子のいずれが欠損していても、欠損した遺伝子を細胞中に供給することによりウイルスを増殖させることができ、細胞の感染力価は非欠損のウイルスと比べて遜色ないことが知られている(例えば、特開平8−308585号公報参照)。従って、第一世代のアデノウイルスベクターは、E2、E3および/またはE4を欠損していてもよく、第一世代のアデノウイルスベクターには、E1に加えてこれらの初期遺伝子のいずれか1以上が破壊されたアデノウイルスベクターも含まれる。
本明細書において、「VA遺伝子」としては、VA RNA(ウイルス関連RNA;virus associated RNA)IおよびIIをコードする遺伝子が挙げられる。VA RNA IおよびIIは、約160ヌクレオチドの低分子RNA分子であり、例えば、アデノウイルス5型(Ad5)では、それぞれゲノムの10620〜11779(VAI)および10876〜11038(VAII)の領域にコードされている。ウイルスまたはベクターが細胞に感染すると、VA RNA IおよびIIは、RNAポリメラーゼIIIによりゲノム上のVAIおよびII遺伝子から転写される。なお、VAIおよびII遺伝子のプロモーターは、ゲノム上のそれぞれの遺伝子の内部に存在することが知られている。
本明細書において、「VA遺伝子破壊アデノウイルスベクター」とは、VA RNAをコードする領域、すなわち、VAIおよび/またはVAIIの全長または一部が欠損し、または、改変され、VAIおよびIIの両方またはこれらのいずれかが破壊されることにより、(i)VA RNA IおよびIIの両方若しくはこれらのいずれかを産生することができなくなった、または、その産生量が著しく(例えば、3%以下、2%以下、1%以下または0.5%以下に)減少したアデノウイルスベクター、あるいは、(ii)機能的なVA RNA IおよびIIの両方若しくはこれらのいずれかを産生することができなくなった、または、その産生量が著しく(例えば、3%以下、2%以下、1%以下または0.5%以下に)減少したアデノウイルスベクターを意味する。本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターは、VAIまたはVAIIのいずれかが破壊されており、好ましくはVAIが破壊されており、より好ましくはVAIおよびIIの両方が破壊されている。そのため、本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターは、破壊されたVA遺伝子に対応する機能的なVA RNA Iおよび/またはIIを産生することができない、または、その産生量が著しく(例えば、3%以下、2%以下、1%以下または0.5%以下に)減少している。本明細書において、「機能的なVA」とは、細胞内でアデノウイルスベクターを増殖させる機能を有するVA RNA Iおよび/またはIIをコードするVA遺伝子を意味する。
本発明の前駆体ベクターは、VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを作製するためのベクターであって、機能的なVAを有するものの、部位特異的組換え酵素を作用させるとVA遺伝子の全長または一部が前駆体ベクターを構成するアデノウイルスベクターから脱落してVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを生成する。本発明の前駆体ベクターにおいては、機能的なVAは、一組の部位特異的組換え酵素の認識配列で挟まれるように配置されている。
本発明の前駆体ベクターは、少なくとも1つの機能的なVAを有する。機能的なVAは、アデノウイルス内在性のVA遺伝子(すなわち、VA遺伝子を破壊されるアデノウイルスベクターが本来有するVA遺伝子)であってもよいし、あるいは、遺伝子組換えにより導入された新たなVA遺伝子であってもよい。本発明の前駆体ベクターが機能的なVAを新たに導入したものである場合には、本発明の前駆体ベクターを構成するアデノウイルスベクター上の内在性のVA遺伝子は機能的に破壊されていることが好ましい。また、この場合、新たに導入される機能的なVA遺伝子の導入部位は、特に限定されないが、293細胞内で増殖を妨げない限りAdVゲノム上の如何なる領域であってもよく、例えば、破壊した内在性VA遺伝子の部位、または、初期遺伝子の領域、すなわち、E2、E3若しくはE4の領域とすることができ、好ましくは破壊した内在性VA遺伝子の部位、または、E4の領域である。例えば、内在性VA遺伝子の大部分を欠損させたアデノウイルスベクターに機能的なVA遺伝子を導入する場合には、その導入部位は、内在性VA遺伝子の欠損部位としても、E4の領域としてもよい。E4の領域に導入する場合には、例えば、E4プロモーターとゲノムの右側末端(ゲノムのE4側の末端)との間に導入することができる。新たに導入される機能的なVA遺伝子は、VAIおよびIIの両方の遺伝子とすることができるが、VA遺伝子破壊アデノウイルスベクター上でVAIまたはIIのいずれかのみが破壊された場合には、破壊されたVA遺伝子に対応するVAIまたはIIとすることもできる。また、新たに導入される機能的なVA遺伝子の導入方向は特に限定されず、右向き(VA遺伝子がゲノムのE4側の末端の方向へ転写される向き)とすることもできるし、左向き(VA遺伝子がゲノムのE1側の末端の方向へ転写される向き)とすることもできる。
本発明の前駆体ベクターが有する機能的なVA遺伝子が内在性のVA遺伝子である場合には、内在性のVA遺伝子の全部または一部を一組の部位特異的組換え酵素の認識配列で挟むように前駆体ベクターを構成することも可能である。本発明の前駆体ベクターが有する機能的なVAが遺伝子組換えにより導入された新たなVA遺伝子である場合には、その新たな機能的なVA遺伝子の全部または一部を一組の部位特異的組換え酵素の認識配列で挟むように構成することができる。上記のような構成とすることにより、本発明の前駆体ベクターが有する機能的なVAは、部位特異的組換え酵素を作用させることにより前駆体ベクターから除去することが可能となる。本発明の前駆体ベクターは、機能的なVAを複数有していてもよいが、VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを作製する場合には部位特異的組換え反応により前駆体ベクター内のこれらのVA遺伝子はすべてベクターから除去される。なお、新たに導入される機能的なVA遺伝子は、VAIおよび/またはVAII遺伝子を一組の部位組換え酵素の認識配列の間に挿入することにより作製することができ、アデノウイルスベクターに導入することにより前駆体ウイルスの作製に用いることができる。また、1組以上の部位特異的組換え酵素の認識配列を導入した場合には、それぞれの組の部位特異的組換え酵素の認識配列は、同じでもよいし、異なっていてもよい。
内在性のVA遺伝子の破壊は、特に限定されないが、常法を用いて、VA遺伝子の全部若しくは一部の欠損、または、VA遺伝子の塩基配列の改変により行うことができる。あるいは、内在性のVA遺伝子の破壊は、VA RNAの発現に必要な領域を改変することによって行ってもよい。VA遺伝子破壊の確実性を期する観点から、内在性のVA遺伝子の破壊は、その全長若しくはその大部分を欠損させ、または転写調節領域を破壊することにより行うことが好ましい。例えば、内在性のVAIおよび/またはVAIIの破壊は、これらの遺伝子の全長またはその大部分を欠損させるか、RNAポリメラーゼIIIによる転写に必要なB−boxを欠失させることにより行うことができる。より具体的には、内在性のVAIおよびVAIIの破壊は、例えば、VAIおよびVAIIの全長を欠失させること、または、VAIの転写開始点から3’側に約16ヌクレオチドの塩基〜VAIIの転写開始点から3’側に約127ヌクレオチドの塩基を欠失させることにより行うことができる。RNAポリメラーゼIIIによる転写に必要なB−boxを欠失させる場合は、アデノウイルスゲノムのVAIおよびVAIIのB−box配列を、例えば、その全長を欠失させること、または、それぞれ10ヌクレオチド〜17ヌクレオチド、例えば、それぞれ15ヌクレオチド若しくは17ヌクレオチド欠失させることにより行うことができる。
本発明の前駆体ベクターには部位特異的組換え酵素の認識配列が存在し、部位特異的組換え反応により2つの認識配列により挟まれた領域が前駆体ベクターから切り出される。この「部位特異的組換え反応」は、特に限定されないが、例えば、部位特異的組換え酵素であるCreリコンビナーゼ(以下、単に「Cre」ということがある)とその認識配列であるloxPの系、部位特異的組換え酵素であるFlpリコンビナーゼ(以下、単に「Flp」ということがある)とその認識配列であるFRTの系、Dreリコンビナーゼとその認識配列であるroxの系(Anastassiadis, K. et al., Dis. Model. Mech. (2009) 2: 508-515)、並びに、φC31リコンビナーゼとその認識配列であるattP/attBの系(Belteki G et al., Nat. Biotechnol. (2003) 21: 321-324)などの部位特異的組換え反応系を用いることができる。本発明では、スタッファー領域の切り出しが可能な系であれば、上記部位特異的組換え酵素およびその認識配列以外であっても、本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターの作製に用いることができることは当業者であれば十分に理解できるであろう。そのような系としては、特に限定されないが、例えば、Cre−loxP系を改良したSCre−SloxP系やVCre−VloxP系(E. Suzuki and M. Nakayama, Nucleic Acid Res. (2011) 39 (8): e49)などが知られている。具体的な部位特異的組換え酵素の認識配列の一例を表1に示す。
表1に記載の配列は具体的な部位特異的組換え酵素の認識配列を例示するために記載されただけであって、本発明で利用可能な部位特異的組換え酵素の認識配列がこれらの配列に限定されることを意味するものではない。本発明で利用可能な部位特異的組換え酵素の認識配列は、部位特異的組換え反応を引き起こすためのリコンビナーゼの認識配列として機能するものである限りどのような配列であってもよく、例えば、部位特異的組換え酵素の認識配列は、表1に記載された配列以外の配列、具体的には、例えば、国際公開公報第2001/023545号公報に記載のFRT配列などの変異FRT配列(例えば、FRT(f2161)およびFRT(f2262)など)、および、特開平11−196880号公報に記載のloxP配列などの変異loxP配列の配列などを用いてもよく、このような部位特異的組換え酵素の認識配列は当業者であれば自由に選択して用いることができる。通常は、部位特異的組換え酵素の認識配列は、同一方向に2つ存在する場合にその間に挟まれた領域(スタッファー領域)が除去されるが、φC31では、認識配列であるattPおよびattBの間に挟まれた領域が除去される。また、通常は、部位特異的組換え酵素の認識配列は、2つのうちの一つがベクターゲノム上に残存することとなるが、φC31では、部位特異的組換え酵素の認識配列は、例えば、attPを5’側とし、attBを3’側としてスタッファー領域を挟んだ場合、attPの3’側の半分とattBの5’側の半分が連結して形成されたattL配列がスタッファー領域と共にゲノム上から除去され、ベクターゲノム上にはattPの5’側の半分とattBの3’側の半分が連結したattRが残存する。また逆に、attPを3’側とし、attBを5’側としてスタッファー領域を挟んだ場合、attPの5’側の半分とattBの3’側の半分が連結して形成されたattL配列がスタッファー領域と共にゲノム上から除去され、ベクターゲノム上にはattPの3’側の半分とattBの5’側の半分が連結したattRが残存する。φC31により組換え反応を引き起こした結果ベクターゲノム上に残存するこれらのattL配列およびattR配列もまた、部位特異的組換え酵素の認識配列である。
部位特異的組換え酵素の反応効率を向上させる観点では、これらの部位特異的組換え酵素には、核移行シグナルを付加することができる(例えば、Creに核移行シグナルを付加したNCre;Kanegae Y., et. al., Nucleic Acid Res. (1995), 181: 207-212)。このようにすることで、部位特異的組換え酵素が、組換え反応の場である核に効率良く送達され、組換え反応の効率が向上する。また、部位特異的組換え酵素を293細胞などのヒト細胞で高発現させるためには、部位特異的組換え酵素は、例えば、そのコドン使用率をヒトのコドン使用率に近くなるように改変した酵素とすることが好ましい。また、至適温度が37℃以外である部位組換え酵素の活性を293細胞などのヒト細胞で向上させるために、部位組換え酵素を37℃付近でも活性を維持するように改変し、培養温度での活性を高めた酵素とすることが好ましい。使用率をヒトのコドン使用率に近くなるように改変され、かつ37℃での活性が高まるように改変されたFlp酵素としては、例えば、FLPe(Buchholz F., et al., Nature Biotechnology (1998) 16 (7): 657-662)およびhFLPe(Kondo S., et al., J. Mol. Biol. (2009) 390: 221-230)が挙げられる。
本発明の前駆体ベクターを部位特異的組換え反応に付すると、一組の部位特異的組換え酵素の認識配列に挟まれた機能的なVAが環状にゲノムから除去される。その結果、本発明の前駆体ベクターを部位特異的組換え反応に付して得ることができる本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターには、VA遺伝子が存在していた部位に部位特異的組換え酵素の認識配列が残存することとなる。従って、本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターは、そのゲノム中に部位特異的組換え酵素の認識配列を有する。
本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターでは、ゲノム上に有する部位特異的組換え酵素の認識配列は、機能的なVAを導入した部位、例えば、破壊した内在性VA遺伝子の部位、または、初期遺伝子の領域、すなわち、E2、E3若しくはE4の領域に残存することとなる。本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターではまた、機能的なVAはすべて破壊されているか除去されている。
VA遺伝子が破壊されたアデノウイルスベクターは、293細胞中では増殖させることができないばかりか、VA発現293細胞を用いてVA遺伝子を細胞から供給した場合でも臨床応用などの実用に耐える高力価のベクターを得ることはできなかった(非特許文献3)。
しかしながら、後記実施例に示されるように、VA遺伝子をアデノウイルスベクターのゲノム上に供給してウイルスを増殖させた後に、ウイルスゲノムからVA遺伝子を除去してVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを作製した場合には、従来のアデノウイルスベクターに匹敵する高力価のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターが得られた。特筆すべきことに、この方法では、本発明の前駆体ベクターのほとんどすべてが部位特異的組換えを起こした。そのため、本発明では、必ずしも部位特異的組換え反応後にVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを単離・精製する必要がなかった。しかも、本発明の前駆体ベクターは、293細胞内で通常の第一世代のアデノウイルスベクター同様に、大量に調製することが可能であった。
すなわち、本発明では、本発明の前駆体ベクターを部位特異的組換え酵素を発現しない293細胞などのE1発現細胞で十分に増殖させ、その後前駆体ベクターを回収して、部位特異的組換え酵素を発現する細胞に感染させることにより、高力価を有するVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを簡便にかつ高純度で得ることができた。
従って、本発明によれば、VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを調製する方法であって、
(a)部位特異的組換え酵素を発現していないE1発現細胞を用いて、本発明の前駆体ベクターを増殖させる工程と、
(b)部位特異的組換え酵素を発現する細胞を用いて、工程(a)で増殖させた前駆体ベクターに部位特異的組換え反応を引き起こさせる工程と
を含んでなる方法が提供される。
より具体的には、本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターは、本発明の前駆体ベクターを部位特異的組換え酵素を発現しないE1発現細胞に感染させ、特に限定されないが、例えば、ウイルスを2〜5回、好ましくは2〜3回継代してから、その後、部位特異的組換え酵素を発現する細胞に感染させて機能的なVAを除去することにより作製することができる。部位特異的組換え反応の効率を向上させる観点では、部位特異的組換え酵素を発現する細胞に感染させた後に、残存し得る未反応の前駆体ベクターを除去するためにウイルスをさらに1〜3回継代してもよい。このようにすることで、VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターの割合を、好ましくは98%以上、99%以上、99.5%以上、または99.9%以上とすることができる。また、部位特異的組換え酵素を発現する細胞に感染させた後の継代では、ウイルスを通常の5〜6倍の量(例えばMOI 10〜20)を用いて感染させることができ、このようにすることで十分高力価のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを得ることができる。本発明では、得られたVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターの割合が十分に高く、組換えを起こさなかったウイルスを分離除去することなく、その後の応用に用いることができる。
本発明の前駆体ベクターからの機能的なVAの除去の効率を確認するためには、VA RNA IおよびIIの発現を、ノーザンブロット法や定量的PCRにより検出することができる。VA RNA IおよびIIは、極めて短い配列であり、かつ、安定な高次構造を形成するため、通常はPCRによる増幅が困難である。しかし、本発明者らは鋭意検討の結果、VA RNA IおよびIIを増幅可能なプライマーを見出した。具体的には、定量的PCRによりVA RNA IおよびIIの発現を検出する場合には、プライマーは好ましくは、VA RNA Iの検出には、配列番号1の配列を有するフォワードプライマーと配列番号3の配列を有するリバースプライマーを用いることができ、VA RNA IIの検出には、配列番号4の配列を有するフォワードプライマーと配列番号6の配列を有するリバースプライマーを用いることができる。このように、本発明によれば、VA RNA IまたはIIをPCRにより増幅するためのプライマーが提供される。
また、本発明によれば、上記プライマーセットにさらにVA RNA IまたはII検出用のプローブ(例えば、蛍光標識プローブ)を加えると、VA RNA IおよびIIの発現をより正確に定量することができる。具体的には、VA RNA Iの検出または定量には、配列番号1の配列を有するフォワードプライマーおよび配列番号3の配列を有するリバースプライマー、並びに、配列番号1の配列を有するフォワードプライマーおよび配列番号3の配列を有するリバースプライマーにより増幅される核酸断片に特異的な核酸配列からなるプローブ(好ましくは、増幅核酸断片の一部に相補的な核酸配列からなるプローブ、より好ましくは、配列番号2の配列を有するプローブ)を用いることができ、VA RNA IIの検出または定量には、配列番号4の配列を有するフォワードプライマーおよび配列番号6の配列を有するリバースプライマー、並びに、配列番号4の配列を有するフォワードプライマーおよび配列番号6の配列を有するリバースプライマーにより増幅される核酸断片に特異的な核酸配列からなるプローブ(好ましくは、増幅核酸断片の一部に相補的な核酸配列からなるプローブ、より好ましくは、配列番号5の配列を有するプローブ)を用いることができる。プローブは、例えば、15ヌクレオチド〜30ヌクレオチド、より好ましくは、20ヌクレオチド〜25ヌクレオチドとすることができる。蛍光標識プローブとしては、より具体的には、例えば、TaqMan(商標)プローブ、Molecular Beaconsプローブまたは、サイクリングプローブなどが挙げられる。VA RNA IおよびIIの発現は、リアルタイムPCRにより検出および/または定量することができる。なお、リアルタイムPCRに用いる上記プローブの作製方法は、当業者に周知である。
従って、本発明では、配列番号1の配列を有するフォワードプライマーと配列番号3の配列を有するリバースプライマーを用いて(好ましくは、これらのプライマーにより増幅される断片にハイブリダイズするプローブに特異的な核酸配列からなるプローブ(好ましくは、増幅核酸断片の一部に相補的な核酸配列からなるプローブ、より好ましくは、配列番号2の配列を有するプローブ)をさらに用いてもよい)、VAI遺伝子の破壊率を評価する方法、および、配列番号4の配列を有するフォワードプライマーと配列番号6の配列を有するリバースプライマーを用いて(好ましくは、これらのプライマーにより増幅される断片に特異的な核酸配列からなるプローブ(好ましくは、増幅核酸断片の一部に相補的な核酸配列からなるプローブ、より好ましくは、配列番号5の配列を有するプローブ)をさらに用いてもよい)、VAII遺伝子の破壊率を評価する方法が提供される。
本発明では、E1発現細胞とは、E1AおよびE1Bを発現する細胞であり、FG−AdVが欠失しているE1を補ってアデノウイルスベクターを増殖させることができる細胞である。本発明では、E1発現細胞としては、例えば、好ましくはE1発現ヒト細胞、より好ましくは293細胞が用いられる。本発明では、E1発現細胞は、さらに他の遺伝子、例えば、アデノウイルスの他の初期遺伝子E2A、E2B、E3および/またはE4等を発現するように改変されていてもよい。
本発明で用いられる部位特異的組換え酵素を発現する細胞は、特に限定されないが、例えば、好ましくは、部位特異的組換え酵素を発現するヒト細胞であり、より好ましくは、部位特異的組換え酵素を発現するE1発現ヒト細胞であり、さらに好ましくは、部位特異的組換え酵素を発現する293細胞である。
本発明では、E1発現細胞は、部位特異的組換え酵素を恒常的に発現する細胞でもよいが、一過的に発現する細胞であってもよい。E1発現細胞に部位特異的組換え酵素を恒常的に発現させるためには、部位特異的組換え酵素をコードする遺伝子を、例えば、CAGプロモーターおよびEF1αプロモーターなどのプロモーターに作動可能に連結させたDNAで細胞を形質転換することができる。また、E1発現細胞に部位特異的組換え酵素を一過的に発現させるためには、部位特異的組換え酵素をコードする遺伝子を、テトラサイクリンを用いた誘導性プロモーターなどの誘導性プロモーターに作動可能に連結させたDNAで細胞を形質転換することができる。本明細書では、誘導性プロモーターは、誘導因子存在下でのみ、または、誘導因子非存在下でのみ遺伝子を発現するプロモーターを意味する。このような誘導性プロモーターは、発現させたい遺伝子が細胞毒性を有するときなどに有用である。部位特異的組換え酵素をコードする遺伝子を含む遺伝子は、部位特異的組換え酵素をコードする遺伝子を含むプラスミドDNAをE1発現細胞にトランスフェクションあるいはリポソーム等を用いて導入することができる。あるいは、部位特異的組換え酵素をコードする遺伝子を含む遺伝子は、部位特異的組換え酵素をコードする遺伝子を搭載したウイルスベクター(アデノウイルスベクターを除く)、例えばアデノ関連ウイルス(adeno−associated virus:AAV)ベクターを用いて導入してもよい。アデノ関連ウイルスベクターは、本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターとは、ウイルス粒子の大きさや比重の点で大きく異なるため、容易に本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターから分離することができる。
本発明の方法によれば、ウイルス力価が1×107(rVT/mL)以上、好ましくは4×107(rVT/mL)〜7×107(rVT/mL)、またはそれ以上である、本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを含んでなるウイルス液が得られる。従って、本発明によれば、ウイルス力価が1×107(rVT/mL)以上であり、例えば、4×107(rVT/mL)〜7×107(rVT/mL)またはそれ以上である、本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを含んでなる遺伝子導入用組成物が提供される。本発明ではまた、得られたウイルス液をポリエチレングリコール法または塩化セシウム密度勾配遠心法などの当業者に知られた簡便な方法で精製することにより、特に限定されないが、1×108(rVT/mL)〜1×109(rVT/mL)、または1×108(rVT/mL)〜1×1010(rVT/mL)の力価を有するウイルス液およびウイルス液を含んでなる遺伝子導入用組成物を得ることができる。本発明に遺伝子導入用組成物は、本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを安定に保持するための成分、例えば、緩衝剤および分解保護剤(例えば、核酸分解酵素阻害剤)、並びに、酸化防止剤、静菌剤およびpH調整剤などを含有していてもよい。
本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターの力価(rVT/mL)は、例えば、以下のように測定することができる。すなわち、本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターの力価(rVT/mL)は、ベクターが増殖しないHuH−7細胞またはHeLa細胞などの細胞を用いた細胞当りのベクター導入コピー数(transduction
titerまたはrelative viral titer:rVTコピー数/mL)を指標として測定することができる。アデノウイルスベクターに導入する目的遺伝子が293細胞の増殖に影響を及ぼさない場合、アデノウイルスベクターでは、力価(rVT/mL)は、TCID50による力価の約5分の1の値である(Pei Z. et. al., Biochem. Biophys. Res. Commun. (2012) 417 (3): 945-950)。
本発明の前駆体ベクターは、大腸菌および酵母等の宿主(特に、微生物宿主)内で自律複製させることができるようにcol E1などのプラスミド複製開始点oriおよびアンピシリン耐性遺伝子Ampなどの薬剤耐性遺伝子をさらに含んでなる核酸構築物としてもよい。本発明の前駆体ベクターはまた、例えば、酵母内で自立複製させることができるように、酵母組み込み型プラスミドなどの核酸構築物としてもよい。このような核酸構築物としては、例えば、アデノウイルスベクターの作製の際に用いられているコスミド、BACおよびPACなどが挙げられる。例えば、本発明の核酸構築物をコスミドとして提供する場合には、該コスミドは、本発明の前駆体ベクターを構成するアデノウイルスベクターのゲノムと、バクテリオファージのパッケージングに必要なcos領域、プラスミド複製開始点oriおよびアンピシリン耐性遺伝子(Amp)などの薬剤耐性遺伝子とを含んでいてもよい。
本発明の核酸構築物は、好ましくは本発明の前駆体ベクターを構成するアデノウイルスベクターのゲノム部分(VA遺伝子の破壊や認識配列に挟まれたVA遺伝子の導入などがなされたウイルスゲノム部分に対応する。)の両端に制限酵素サイトを有し、制限酵素によりアデノウイルスベクターのゲノム部分を切り出して部位特異的組換え酵素を発現していないE1発現細胞(例えば、293細胞)に導入することができる。293細胞は、前駆体ベクターのゲノムが導入されると前駆体ベクターを生成する。本発明の核酸構築物は、目的遺伝子の発現ユニットを含んでいても含んでいなくてもよい。目的遺伝子の発現ユニットが含まれていない場合には、所望の目的遺伝子の発現ユニットを導入してから前駆体ベクターのゲノムを切り出すことができる。
本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターは第一世代のアデノウイルスベクターと同様に医薬組成物の有効成分として様々な疾患の遺伝子治療に用いることができる。例えば、そのような医薬組成物としては、疾患の治療および/または予防に有効なタンパク質をコードする遺伝子等が外来遺伝子として導入された本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを含んでなる医薬組成物が挙げられる。本発明の医薬組成物は、例えば、注射剤とすることができ、無菌注射溶液とすることができる。本発明の医薬組成物は、本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを安定に保持するための成分、例えば、緩衝成分および分解保護剤(例えば、核酸分解酵素阻害剤)、並びに、酸化防止剤、静菌剤およびpH調整剤などを含有していてもよい。本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターはVA遺伝子が破壊されていることから、VA RNAの発現に起因する遺伝子治療における様々な懸念(例えば、VA RNAによる細胞内遺伝子発現の抑制効果、または、TLRおよび/またはRIG−Iを介する炎症などの予測困難な影響など)を実質的に回避することができる。また、第一世代のアデノウイルスベクターでは、293細胞株などのE1発現細胞株の染色体上のE1遺伝子がアデノウイルスベクターに取り込まれることがある。E1遺伝子が取り込まれたアデノウイルスベクターは、標的細胞(例えば、ヒト細胞)内で複製が可能となり、遺伝子治療においては安全性担保の観点で障害となる。本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターは、E1遺伝子を取り込んだとしても標的細胞内で複製することはほとんどできないため、より安全な遺伝子治療を可能とする。このように、本発明はより安全な遺伝子治療の実用化の途を拓くものである。
本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを遺伝子治療に用いる場合には、治療目的の疾患や標的とする臓器などに応じて、in vivo法(イン・ビボ法)あるいはex vivo法(エクス・ビボ法)を選択することができる。in vivo法とは、通常の医薬品と同様に、アデノウイルスベクターを直接患者に投与する方法である。in vivo法により投与する場合には、患者の静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、または腫瘍内などの対象臓器内に注射器や内視鏡を用いて投与することができる。ex vivo法とは、患者由来または他人由来の細胞を予め体外で調製し、アデノウイルスベクターを用いて遺伝子を導入した後に、治療遺伝子を発現する細胞を患者に投与する方法である。ex vivo法により投与する場合には、例えば、遺伝病患者(例えば、遺伝病小児患者)の細胞を患者から採取して遺伝子導入し、治療遺伝子の発現を測定した後に細胞を患者に投与あるいは移植することができる。この方法は、例えば、骨髄移植を必要とする患者の生命を移植のドナーが見つかるまで維持させるためなどに用いることができる。本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターは、仮に調製中に293細胞の細胞からE1遺伝子を獲得した場合であっても、感染した動物細胞内では増殖することがない。従って、調製中にE1遺伝子を獲得すると感染後増殖可能となり得る従来のFG−AdVと比較して患者に対する安全性が高いことは明らかである。本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクター用いて遺伝子治療を行う場合は、疾患の治療および/または予防に有効なタンパク質をコードする遺伝子等が外来遺伝子として導入された本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターまたはそれを含んでなる医薬組成物を用いることができる。従って、本発明では、疾患の治療および/または予防に有効なタンパク質をコードする遺伝子等が外来遺伝子として導入された本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターまたはそれを含んでなる医薬組成物を、それを必要とする患者に投与することを含んでなる、遺伝子治療法が提供される。本発明の医薬組成物の患者への投与量は、治療目的の疾患並びに患者の年齢および体重等により適宜調整することができる。通常、本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターは、106〜1013(rVT)、または、108〜1011(rVT)程度を、1回投与、若しくは、数日間の連続投与、または、月に1回程度の投与を行うことにより投与することができる。
本発明によれば、本発明のVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを用いた動物細胞への遺伝子導入方法が提供される。動物細胞は、特に限定されないが、動物、例えば、霊長類および齧歯類などの哺乳類の細胞とすることができる。動物細胞はまた、動物体内の細胞であっても、in vitro(イン・ビトロ)の細胞であってもよい。動物体内の細胞への遺伝子導入は、上記本発明の遺伝子治療におけるin vivo法に準じて行うことができる。
実施例1:第一世代アデノウイルスベクターのVA領域の改変
本実施例では、VA遺伝子を破壊した第一世代アデノウイルスベクターを取得するために、まず、ベクターの既存のVA領域を破壊し、E4領域に2つのFRT配列により挟まれたVA領域を有するFG−AdVベクター(以下、「VA遺伝子破壊FG−AdV前駆体ベクター」または単に「前駆体ベクター」ということがある)を作製した。
まず、AdVゲノムを有するコスミドカセットとしては、全長FG−AdVゲノムを有するpAxcwit2コスミドカセット(ニッポンジーン社製、製品番号:319−06561)を用いた。
次に、pAxcwit2が有する全長FG−AdVゲノム上の既存のVA領域の破壊は、常法により、AdVゲノムのVAIおよびVAIIのB−box配列をそれぞれ15ヌクレオチド長および17ヌクレオチド長欠損させることにより行った(図1A)。具体的には、まず、pAxcwit2のBglII(ヌクレオチド10411位)から NotI(ヌクレオチド11504位)までの断片を含むpAF2832bnを作製した。VAII遺伝子のB−boxを破壊するために、pAF2832bnをSanDI及びRsrIIで切断し、Klenow酵素を用いて平滑化して結合し、B−boxが破壊されたVAII遺伝子を有するpAF2832bndVA2を得た。更に、VAI遺伝子のB−boxを破壊するために、pAF2832bndVA2をBsiEI及びBanIIで切断し、Klenow酵素をもちいて平滑化して結合し、B−boxが破壊されたVAI遺伝子およびVAII遺伝子を有するpAF2832bndVA1dVA2を得た。このプラスミドのXbaI(ヌクレオチド10598位)からNotI(ヌクレオチド11504位)までの断片をpAxcwit2の対応する断片と入れ換え、AdVゲノムのVAIおよびVAIIの両方のB−box配列を欠失したコスミドカセットpAxcwit2dVA1dVA2を作製した。
また、既存のVA領域の破壊は、AdVゲノムのVAIの転写開始点+16〜VAIIの転写開始点+127の381ヌクレオチド長を欠損させることによっても行うことができた(図1B)。具体的には、上記で得られたpAxcwit2dVA1dVA2をEarI及びBspEIで切断しKlenow酵素をもちいて平滑化して結合して、VAIの転写開始点+16〜VAIIの転写開始点+127の381ヌクレオチド長を欠損したAdVゲノムを有するpAF2832bndV12を得た。このプラスミドを上記と同じ方法でpAxcwit2の対応する断片と入れ換え、VA領域を破壊したコスミドカセットpAxcwit2dV12を作製した。
2つの同一方向のFRT配列により挟まれた機能的なVAIおよびIIの断片(FVF断片)の作製は以下のように行った。まず、VAとしては、5型アデノウイルス(Ad5)ゲノムのヌクレオチド10576〜11034位に位置するVAIおよびVAIIの全長(VAI転写開始点から41ヌクレオチド上流からVAII転写終了点の6ヌクレオチド下流までの460ヌクレオチドに相当)を含むDNA断片VA41をPCR法で増幅しpBluescriptのHindIIIとBamHI部位の間にクローン化して得たプラスミドpVA41のVAを用いた。さらに、不要なスプライシングが生じるのを防ぐため、VAIの29ヌクレオチド上流のスプライスアクセプター部位のTは常法によりCに置き換えて、プラスミドpVA41daを得た(図1C)。次に、機能的なVAIおよびVAII(図1C)を制限酵素HindIII−SmaIにより切り出して、Klenow酵素を用いて平滑末端化した。その後、pUFwFプラスミド(5型アデノウイルスの末端から165ヌクレオチドのE4領域にある制限酵素SwaI切断部位を介してFRT配列を直列に2つ組み込んだpUC18プラスミドである。Nakano et. al, Nucleic Acids Res. (2011) 29: E40を参照)のFRT配列の間に平滑末端化した機能的なVAIおよびVAIIを組み込み、FVF断片を有するプラスミド(pUFVA41daF)を得た。なお、VAI遺伝子及びVAII遺伝子は、その配列内部にあるプロモーターにより転写される。
FVF断片は、制限酵素Ecl136II(ファーメンタス社、平滑末端を生ずる)−AccIにより切り出した。また、B−boxが破壊されたVA領域を有するpAxcwit2コスミドカセットのE4領域の制限酵素SnaBI切断部位を合成リンカーを用いて改変して得たSwaI切断部位(Kanegae Y. et. al., Nucleic Acids Res. (2010) 39: e7を参照)に更に制限酵素I−PpoI(プロメガ社)−ClaI切断部位を含む合成DNAを導入しpAxcw4icit2dVA1dVA2を作製した。このコスミドカセットをまずI−PpoIで切断しKlenow酵素を用いて平滑末端化した後にClaIで切断し、ClaI切断末端がAccI切断末端と結合可能であることを利用しFVF断片を挿入して、コスミドカセット(pAxdV−4FVF)を得た(図3B参照)。また、FVF断片は、同様に制限酵素SacI−SalIにより切り出して、Klenow酵素を用いて平滑末端化した。その後、VA遺伝子の381ヌクレオチドを欠損させたVA領域を有するpAxcwit2コスミドカセットの当該欠損部位に導入して、別のコスミドカセット(pAxdV−FVF)を得た。このようにして得られたコスミドカセット(pAxdV−4FVF)は、E1領域に存在する制限酵素SwaI切断部位を利用して、所望の目的遺伝子を含む発現ユニットを組み込むことが可能である。AdVベクターによる宿主内での免疫応答を低減させるため、本実施例では、目的遺伝子とプロモーターを含む発現ユニットは左向き方向に(すなわち、転写開始点をE2側に向けて)導入した。
本実施例ではまず、pEFGFP(Kanegae Y. et. al., Nucleic Acid Res. (2011) 39 (2): e7)を用いて作製したEF1αプロモーターで駆動されるGFP発現ユニットを制限酵素SalI−PmeIにより切断し、Klenow酵素により平滑末端化した後に、E1のSwaI切断部位に挿入して、前駆体ベクターコスミド(pAxdV−4FVF−GFP)を作製した。
目的遺伝子としてはGFPの他に、NCreおよびChe(Cherry;クロンテック社製)をコードする遺伝子を用いた。pxCANCre(Kanegae et. al., Gene (1996) 188: 207-212)を用いて作製したEF1αプロモーターで駆動されるNCre発現ユニットは、制限酵素SalI−PmeIにより切断し、Klenow酵素により平滑末端化した後にGFPと同様にE1領域のSwaI切断部位に導入した。Che(Cherry;クロンテック社製)を用いて作製したSRαプロモーターで駆動されるCherry発現ユニットは、以下のように作製した。pCDL−SRα(Takebe et al., Mol. Cell. Biol. (1988) 8: 466-472)をPstI及びKpnIで切断し、Klenow酵素により平滑末端化した後にSwaI合成リンカーを挿入した。このSwaI部位に上述のCherry cDNAを挿入したプラスミドpCDL−SRCheを作製した。Cherry発現単位は、SalIで切り出しKlenow酵素により平滑末端化した後、E4領域上流のSnaBI切断部位に挿入した時と同じ方法で、上記のI−PpoI−ClaI切断部位を含む合成DNAをアデノウイルスベクターに導入した。
得られたコスミドカセット内の前駆体ベクターゲノムは、制限酵素PacIにより切り出して細胞にトランスフェクションすることにより、目的遺伝子としてそれぞれGFP、NCreおよびCheを含む前駆体ベクターAxdV−4FVF−GFP、AxdV−4FVF−NCreおよびAxdV−FVF−4SRCheを得ることができる。
実施例2:VA遺伝子破壊FG−AdV前駆体ベクターの増幅とVA遺伝子破壊FG−AdVベクターの取得
本実施例では、実施例1で作製したVA遺伝子破壊FG−AdV前駆体ベクターを293細胞で増殖させ、その後、Flp発現細胞を用いて部位特異的組換え反応を誘導して前駆体ベクターからVAIおよびVAIIを除去した。
293細胞は、10%ウシ胎児血清(FCS)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて培養した。
実施例1で得られた前駆体ベクターゲノムを制限酵素PacIにより切り出して293細胞にトランスフェクションした。感染後、2回継代して、前駆体ベクターAxdV−4FVF−GFP、AxdV−4FVF−NCreおよびAxdV−FVF−4SRCheを回収した。
次に、得られた前駆体ベクターをFlp発現細胞である293hde12細胞(Kondo et al., J Molec. Biol. (2009) 390: 221-230)に多重感染度(MOI)10(10コピー/細胞)にて感染させ、部位特異的組換え酵素反応によりVA遺伝子を除去してVA遺伝子破壊FG−AdVベクターAxdV−4F−GFP、AxdV−4F−NCreおよびAxdV−F−4SRCheを得た。このFlpによるFRT部位の組み換えでは、前駆体ベクター内の2つのFRTに挟まれた領域(VAIおよびVAII)と一つのFRTが除去され、ウイルスゲノムにはE4領域に一つのFRTのみが残ることとなる(図2A〜D)。なお、293hde12細胞は、CAGプロモーターの制御下で駆動されるヒト型Flpを含む発現ユニット(Kondo et al., J Molec. Biol. (2009) 390: 221-230)をトランスフェクションにより293細胞に導入して得られた、Flpを恒常的に発現する293細胞である。また、ヒト型Flpとは37℃で安定なFlp遺伝子のアミノ酸配列を変えずにコドンをヒト遺伝子で最もよく使われている塩基に変えたFlp遺伝子である。293hde12細胞は、感染前は5%FCSおよび0.75mg/mLのジェネティシンを添加したDMEM中で培養し、感染後はジェネティシンを抜いた培地で培養した。
実施例3:得られたVA遺伝子破壊FG−AdVベクターのVA遺伝子破壊成功率
本実施例では、実施例2で得られたVA遺伝子破壊FG−AdVベクターのVA遺伝子破壊成功率を評価した。
実施例2でVAの破壊成功率を確認するために、まず、実施例2で得られたVA遺伝子破壊FG−AdVベクターを回収し、rVT MOI 10の感染条件でHuH−7細胞に感染させた。その後、PstI−BspIプローブ(ヌクレオチド33879〜35050位)によりウイルスゲノムの組換え状態を確認した。すると、2.8kbのFG−AdV前駆体ベクターのバンドは、Flpによる組み換え後、2.3kbのVA遺伝子破壊FG−AdVベクターのバンドの位置に完全にシフトしていた(図4A)。VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターの前駆体ベクター(AxdV−FVF−GFP)を用いた場合でも同様の結果が得られた(データ示さず)。このことは、Flpによる組み換えにより、VAIおよびVAIIが極めて効率良く前駆体ベクターゲノムから除去されたことを示す。VA遺伝子破壊アデノウイルスベクター(AxdV−4F−GFP)およびその前駆体ベクター(AxdV−4FVF−GFP)のE4領域の配列はそれぞれ図3AおよびBに示す。
さらに、ノーザンブロット法を用いて、実施例2で得られたVA遺伝子破壊アデノウイルスベクターのVA RNA Iの発現を確認した。まず、HuH−7細胞(理化学研究所バイオリソースセンター、細胞番号:RCB1366)を6cmディッシュに播種して、得られたウイルスおよび前駆体ベクターをrVT MOI 20の感染条件で感染させた。感染3日後にNucleoSpin miRNA (タカラバイオ社製、製品番号:MNA-740971.50)を用いて200塩基以下のRNAを含む全細胞RNAを抽出し、RNA20μgずつをアガロースゲルで電気泳動した。2時間の電気泳動後、RNAをナイロン膜Hybond−N(アマシャムGE社製)に転写し、DIGDNA Labeling and Detectionキット(Roche Diagnostics社製)を用いて検出した。VA RNA IのプローブとしてはXbaI−NheIプローブ(ヌクレオチド10589〜10809位)(図1C参照)を用いた。すると、VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターでは、VA RNA
Iは、ほとんどその発現が確認できないレベルにまで発現量が低下していた(図4B)。VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターの前駆体ベクター(AxdV−FVF−GFP)を用いた場合でも同様の結果が得られた(データ示さず)。
次に、それぞれのベクターからのVA RNA IおよびIIの産生量を測定するため、VA遺伝子破壊FG−AdVベクターとその前駆体ベクターをそれぞれ293細胞に感染させ、各RNAの定量的PCRを試みた。
しかしながら、VA RNA IおよびIIは、配列が130塩基長程度と短く、また、溶液中ではクローバー様の安定な高次構造を形成するため、VA RNA IおよびIIのPCR増幅は困難を極めた。実際、作成したプライマーセットのいくつかはPCR増幅に用い得るものではなかった。発明者らは鋭意検討の結果、VA RNA IおよびIIのPCR増幅が可能なプライマーセットを見出し、VA RNA IおよびIIのPCR増幅に成功した。
そこで、PCR増幅に成功したプライマーを用いて定量的PCRを行った。具体的には、VAIのRNAの検出用には配列番号1および配列番号3の配列を有するプライマー並びに配列番号2の配列を有するプローブを用い、VAIIのRNAの検出用には配列番号4および配列番号6の配列を有するプライマー並びに配列番号5の配列を有するプローブを用いた(図1C)。定量的PCRは、感染3日後のHuH−7細胞からノーザンブロット法におけるRNA抽出法と同じ方法でNucleoSpin miRNAを用いてRNAを抽出し、定量的PCR装置(Applied Biosystems社製、製品番号:Prism 7000)を用いて解析した。測定対象のRNAの量は、製造者マニュアルに従い、内部対照として18S−rRNAを用いて標準化して求めた。
結果は、表2に示される通りであった。
表2に示されるように、各VA遺伝子破壊FG−AdVベクターから産生されるVA RNA IおよびIIの量は、対応する前駆体ベクターからの産生量と比較して大幅に減少していた。この結果から、各VA遺伝子破壊FG−AdVベクターには、VA遺伝子未破壊のベクターはほとんど混入していないことが予想される。
さらに、HuH−7細胞にVA遺伝子破壊FG−AdVベクターとその前駆体ベクターを感染させ、それぞれのベクターからのGFPの産生量をその蛍光を指標として測定し、その比率を求めた。GFPの蛍光は、Fluoroscan Ascent FL (Baiosystem社)により測定した。また、GFPのmRNAの産生量の比率は、定量的PCRにより測定して求めた。GFPのmRNAの検出には、配列番号7および9の塩基配列を有するプライマー並びに配列番号8の配列を有するプローブを用いた。
結果は表3に示される通りであった。
表3に示されるように、VA遺伝子破壊FG−AdVベクターはその前駆体ベクターに匹敵する量のGFPを産生していることが分かった。
このことから得られたVA遺伝子破壊FG−AdVベクターは、確かにVAIおよびIIを欠損していること、および、目的遺伝子の細胞への導入効率が非欠損のベクターと同等程度であることが示された。
実施例4:得られたVA遺伝子破壊FG−AdVベクターの力価測定
本実施例では、実施例2で得られたVA遺伝子破壊FG−AdVベクターと通常のFG−AdVベクター(対照)の力価をそれぞれ測定し、比較した。
ウイルスの力価は、rVT力価測定法(前記のPei, BBRC, 2012)により測定した。rVT力価測定法では、リアルタイムPCRを用いて、感染細胞中に導入されたウイルスゲノムのコピー数(rVT/mL)が測定される。
rVT力価測定法による力価測定の結果は、表4に示される通りであった。
表4に示されるように、VA遺伝子破壊FG−AdVベクターの力価(rVT)は、その対応する前駆体ベクターの力価の9〜20%程度であり、実用レベルの高い力価を示した。なお、ポジティブコントロールとして用いたFG AdVのAxEFGFPの力価は8.3×108(rVT/mL)であった。293細胞を用いて測定した場合、rVTによる力価は、TCID50の約5分の1の値となることが知られている。なお、AxEFGFPは、コスミドカセットpAxEFwit2(ニッポンジーン社製)のSwaI切断部位にEF1αプロモーターに作動可能に連結したGFPをクローンして得た構築物である。
以上のように、VA遺伝子を有するプレウイルスを増殖させた後に、部位特異的組み換え反応を用いてVA遺伝子を除去することで、実用レベルの高力価を有するVA遺伝子破壊FG−AdVベクターを作製することに成功した。また、得られたVA遺伝子破壊FG−AdVベクターは、FG−AdVの代替として十分利用可能であることが示唆された。
さらに、得られたVA遺伝子破壊FG−AdVベクターの力価(4〜7×107(rVT/mL)あるいは(Transduction Unit))は、FG−AdVと比較して5分の1〜10分の1程度であった。また、調製に用いたシャーレの枚数から計算した細胞数と導入力価に基づけば、得られたVA遺伝子破壊FG−AdVベクターの力価は、非特許文献3のVA遺伝子破壊FG−AdVベクターの力価と比較して約100倍であると推定された。
VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターは、細胞内に高濃度で存在させると、VA遺伝子を欠いた状態でもわずかながら増殖する能力を示した(データ省略)。そして、このことは、前駆体ベクターを十分に増殖させた後にVA遺伝子を除去する方法が、VA遺伝子破壊アデノウイルスベクターを高力価で大量に得ることに適していた一つの要因であると考えられる。