<実施例1>
本実施例の電圧発生装置は、目標値よりも小さい閾値に出力電圧が達するまでの期間はスイッチング制御により出力電圧を立ち上げ、その後は出力電圧が閾値に達したときのスイッチング制御信号の状態を維持しつつ供給電圧制御により出力電圧を目標値に近づける。つまり、スイッチング制御によって出力電圧を高速に立ち上げ、目標値付近では供給電圧制御によって出力電圧を目標値に安定的に制御することでオーバーシュートやアンダーシュートが抑制される。さらに、電圧発生装置は、出力電圧が閾値に達したときのスイッチング制御信号を特徴づけるパラメータを記憶する記憶部を有している。電圧発生装置は、目標値に達した出力電圧の出力を停止させた後で、再度、出力電圧を目標値に制御する際に、記憶部からパラメータを読み出す。さらに、電圧発生装置は、パラメータにしたがったスイッチ制御信号が出力されるよう信号生成部を制御する。このように、n回目の出力電圧の立ち上げの際に調整されたスイッチング制御信号を特徴づけるパラメータを記憶しておき、n+1回目の出力電圧の立ち上げの際にそのパラメータを使用することで、出力電圧の調整期間を短縮できる。
図1は、電圧発生装置100を構成する高圧電源部200とコントローラ300とを示すブロック図である。高圧電源部200は、正の直流電圧を出力するポジティブユニット201と、負の直流電圧を出力するネガティブユニット202とを有している。図3に示すように、高圧電源部200が負荷8に対して印加する出力電圧Vhpとして、正の直流電圧Vhp+と負の直流電圧Vhp−を交互に出力することがある。図3においては、区間a、c、eで、ポジティブユニット201が正の直流電圧Vhp+を負荷8に供給する。また、区間b、dで、ネガティブユニット202が負の直流電圧Vhp−を負荷8に供給する。とりわけ、実施例1では、区間aにおいて1回目に直流電圧Vhp+を立ち上げたときに必要となった制御パラメータが記憶部17に記憶される。そして、区間cにおいて2回目に直流電圧Vhp+が立ち上げられるときに記憶部17から制御パラメータが読み出されて使用される。よって、2回目においては、制御パラメータの調整期間を短縮できる。なお、ポジティブユニット201と、ネガティブユニット202とは出力電圧の極性が異なる以外はほぼ同様の構成となるため、以下では、ポジティブユニット201を中心に説明することで、ネガティブユニット202の説明に代える。
図1において、電圧供給回路3は、昇圧トランス1の1次側へ供給電圧V1を生成する電圧供給回路の一例である。電圧供給回路3は、たとえば、コントローラ300から供給電圧信号(以下、PWMP_CNTと称す)にしたがった供給電圧V1を生成して昇圧トランス1の1次側に印加する。なお、コントローラ300は、ネガティブユニット202を使用するときにはネガティブユニット202に対しても供給電圧信号(以下、PWMN_CNTと称す)を出力する。スイッチ回路4は、コントローラ300からのスイッチング制御信号(以下、CLKP_CNTと称す)にしたがって昇圧トランス1を駆動する回路である。なお、コントローラ300は、ネガティブユニット202を使用するときにはネガティブユニット202に対してもスイッチング制御信号(以下、CLKN_CNTと称す)を出力する。昇圧トランス1は、電圧供給回路3から供給された1次側電圧(供給電圧V1)を2次側電圧V2に昇圧する電圧変換モジュールである。整流回路2は、昇圧トランス1の2次側に接続され、昇圧トランス1の2次側巻線から出力される2次側電圧V2を整流し、直流の出力電圧Vhpを生成する回路である。出力検出回路6は、昇圧トランス1の整流後の出力電圧Vhpを検出する回路である。負荷8は、高圧電源部200の出力端に接続され、出力電圧Vhpを印加される負荷である。
環境センサ5は、環境条件(例:水分量、湿度または温度)を検知するセンサである。コントローラ300は、スイッチ回路4および電圧供給回路3を制御する制御部の一例である。コントローラ300は、PWMP_CNTを出力するポートと、CLKP_CNTを出力するポートと、出力電圧Vhpに比例した電圧(便宜上この電圧も出力電圧Vhpと称す)を入力する入力ポートを有する。コントローラ300は、環境センサ5や出力検出回路6の検知結果に基づいてPWMP_CNTやCLKP_CNTを生成し、電圧供給回路3やスイッチ回路4を制御する。なお、出力検出回路6は、昇圧トランス1の2次側における出力電圧Vhpを検知する電圧検知回路の一例である。
コントローラ300は、CPU、ROM、RAMを含み、ROMに記憶されたプログラムを実行することで様々な機能を実現する。目標値設定部10は、環境センサ5により検知された環境条件に基づき目標値Vtを決定する目標値決定部として機能する。つまり、目標値設定部10は、環境センサ5の検知結果から昇圧トランス1の出力電圧Vhpの目標値Vtを決定する。閾値設定部11は、たとえば、環境センサ5の検知結果、昇圧トランス1の目標値Vtまたは負荷8のインピーダンスのいずれかに応じて閾値Thを決定する閾値決定部として機能する。設定値決定部15は、環境センサ5の検知結果、目標値Vtまたは閾値Thに応じて供給電圧V1の設定値V1setを決定し、供給電圧制御部12に設定する。なお、設定値V1setは、供給電圧V1の初期値であり、出力電圧Vhpを制御する際には、設定値V1setが調整される。設定値V1setに対する調整量ΔV1setと呼ぶことにする。なお、設定値V1setは、電圧値そのものである必要はなく、PWMP_CNTのPWM値(デューティ比)であってもよい。PWMP_CNTは、パルス幅変調されたパルス波であるため、PWM値を変更することで、出力電圧Vhpが調整される。供給電圧制御部12は、設定値決定部15により設定された設定値V1setに応じて供給電圧信号PWMP_CNTを生成し、電圧供給回路3に供給する。設定値決定部15は、電圧供給回路3からの供給電圧V1の設定値V1setを決定する設定値決定部の一例である。スイッチング制御部13は、スイッチ回路を駆動するスイッチング制御信号を生成する信号生成部の一例である。スイッチング制御部13は、たとえば、比較部14における閾値Thと出力電圧Vhpとの比較結果に応じてCLKP_CNTを生成し、スイッチ回路4に供給する。比較部14は、出力電圧Vhpの目標値Vtよりも小さい閾値Thと出力電圧Vhpとを比較する比較部の一例である。指示監視部16は、上位のコントローラから高圧電源部200を起動することを示す起動指示を受信したか否かを監視する。なお、起動指示は、出力電圧Vhpの出力開始を指示する命令である。
演算部18と補正部19はオプションであり、実施例3で詳細に説明する。たとえば、演算部18は、出力電圧Vhpが第1の目標値Vtに維持されているときの第1の目標Vt値とパラメータとの相関関係を演算により取得する。また、補正部19は、出力電圧Vhpの目標値が第1の目標値Vtから第2の目標値Vt'に変更されると、相関関係と第2の目標値Vt'とに基づいてパラメータを補正する。これにより、記憶部17に記憶されているパラメータが更新される。
図2、図4、図5を用いて電圧発生装置100の動作について説明する。図2は、コントローラ300に備わるCPUが実行するプログラムの各ステップを示すフローチャートである。とりわけ、図2では、1回目の出力電圧Vhpの立ち上げ処理が示されている。CPUはROMに記憶されているプログラムを実行することで、上述した各部として機能する。図4は、出力電圧Vhpと供給電圧V1との関係および制御の切り替えを説明するための図である。実施例1では、図4に示すように、高圧電源部200を起動してから出力電圧Vhpが閾値Thに到達するまでの領域をスイッチング制御領域と呼ぶことにする。また、出力電圧Vhpが閾値Thに到達したとき以降の制御領域を供給電圧制御領域と呼ぶことにする。とりわけ、実施例1では、出力電圧Vhpが閾値Vtに到達したことを比較部14が検知すると、コントローラ300は、スイッチング制御領域から供給電圧制御領域に遷移する。スイッチング制御領域は出力電圧Vhpを高速に立ち上げる領域(高速立ち上げ領域)であり、供給電圧制御領域は出力電圧Vhpを目標値Vtに対して精度よくかつ安定して制御する領域である。なお、供給電圧制御領域は、さらに、出力電圧Vhpを閾値Thから目標値Vtまで上昇させる領域(安定立ち上げ領域)と、出力電圧Vhpを目標値Vtに維持する領域(定電圧制御領域)とに分かれている。記憶部17には、定電圧制御領域におけるPWMP_CNTやCLKP_CNTを特徴づける制御パラメータ(例:調整値、PWM値、デューティ比、周波数、周期など)が記憶され、2回目以降の立ち上げの際に読み出されて使用される。
S201で、コントローラ300(目標値設定部10)は、環境センサ5の検知結果(環境条件)に応じて出力電圧Vhpの目標値Vtを決定する。目標値Vtは、環境条件と目標値Vtとの対応関係を表すテーブルまたは数式などを用いて決定される。
S202で、コントローラ300(閾値設定部11)は、目標値Vtに基づき、出力電圧Vhpがオーバーシュートしないような閾値Thを決定する。たとえば、コントローラ300は、テーブルまたは数式などを用いて目標値Vtから閾値Thを決定する。たとえば、目標値Vtの90%の電圧値が閾値Thとして決定される(Th=0.9Vt)。
S203で、コントローラ300(設定値決定部15)は、目標値Vtに基づき、供給電圧V1の設定値V1setを決定する。たとえば、コントローラ300は、テーブルまたは数式などを用いて目標値Vtから設定値V1setを決定する。
S204で、コントローラ300(供給電圧制御部12)は、設定値決定部15により決定された設定値V1setと一致する供給電圧V1が電圧供給回路3から出力されるように設定値V1setに基づきPWMP_CNTを生成して電圧供給回路3に供給する。電圧供給回路3は、供給電圧V1が設定値V1setに一致するよう供給電圧V1を調整する。その結果、供給電圧V1は設定値V1setに維持される。このように供給電圧V1は予め所望の電圧に立ち上げられる。電圧供給回路3にはコンデンサが設けられており、そのコンデンサの両端電圧が供給電圧V1となるように充電される。よって、予めコンデンサの充電を済ませておくことで、出力電圧Vhpの立ち上げ時間をさらに短縮できるであろう。
S205で、コントローラ300(指示監視部16)は、コントローラ300を制御する上位のコントローラから高圧電源部200を起動することを示す起動指示を受信したか否かを判定する。たとえば、指示監視部16は、正の直流電圧Vhp+の出力開始の指示(ポジティブユニット201の起動指示)を受信する。起動指示を受信すると、S206に進む。
S206で、コントローラ300は、CLKP_CNTを生成してスイッチ回路4に供給してスイッチ回路4を駆動し、出力電圧Vhpの出力を昇圧トランス1に開始させる。
S207で、コントローラ300(比較部14)は、出力電圧Vhpと閾値Thとを比較し、出力電圧Vhpが閾値Th以上になったかどうかを判定する。出力電圧Vhpが閾値Th未満であれば、S208に進む。
S208で、コントローラ300(スイッチング制御部13)は、出力電圧Vhpがさらに上昇するようにCLKP_CNTを調整し、S207に戻る。たとえば、コントローラ300は、出力電圧Vhpが増加するようにCLKP_CNTの周波数(周期T)を所定の調整値だけ変更する。たとえば、コントローラ300は、CLKP_CNTの周波数を低下させることで、出力電圧Vhpを上昇させる。つまり、CLKP_CNTの周波数が高い周波数から低い周波数へとスイープされる。なお、出力電圧Vhpを上昇させるためには、CLKP_CNTの周波数を増加させることが必要な場合もある。この場合は、コントローラ300がCLKP_CNTの周波数を増加させる。つまり、CLKP_CNTの周波数が低い周波数から高い周波数へとスイープされる。このようにスイッチング制御領域は、CLKP_CNTの周波数を調整することで、出力電圧Vhpを立ち上げる。供給電圧V1の設定値V1setを調整して出力電圧Vhpを上昇させる供給電圧制御と比較して、スイッチング制御では、より高速に出力電圧Vhpを閾値Thまで立ち上げることができる。なお、CLKP_CNTはパルス信号であるが、オフ時間τoffは固定されたまま、周波数だけが変更される。このように、スイッチング制御部13は、パルス信号であるスイッチング制御信号のオフ時間を固定しつつ周波数を可変制御することで、出力電圧を制御する信号生成部として機能する。
S207で出力電圧Vhpが閾値Thに到達すると、S209以降のステップ(つまり供給電圧制御領域)に遷移する。S209で、コントローラ300(スイッチング制御部13)は、出力電圧Vhpが閾値Thに到達したときのCLKP_CNTの周波数f1をRAMに保持し、CLKP_CNTの周波数をf1に固定する。
S210で、コントローラ300(供給電圧制御部12)は、出力電圧Vhpの供給電圧制御を開始する。たとえば、コントローラ300は、出力電圧Vhpと目標値Vtとを比較部14に比較させ、出力電圧Vhpが目標値Vtに近づくように比較結果に応じてPWMP_CNTを調整する。PWMP_CNTは、設定値V1setに応じてパルス幅変調された供給電圧信号である。よって、比較結果に応じて、PWMP_CNTのパルス幅(PWM値)が調整される。なお、パルス幅は、V1setを調整することで変更される。電圧供給回路3は、変更されたPWMP_CNTに応じて供給電圧V1を可変制御する。このように、供給電圧制御においては、供給電圧V1を調整することで、出力電圧Vhpが調整される。図3が示すように、CLKP_CNTの周波数を固定し、供給電圧V1を調整することで、出力電圧Vhpの変化は緩やかとなり、オーバーシュートやハンチングが発生しにくくなる。出力電圧Vhpが目標値Vtに到達すると、S211に進む。
S211で、コントローラ300(供給電圧制御部12)は、出力電圧Vhpが目標値Vtに維持されるようPWMP_CNTにより定電圧制御を実行する。つまり、上述した定電圧制御は、供給電圧制御方式により実現される。このようにS210、S211では、供給電圧制御部12が、出力電圧Vhpが目標値Vtに近づくように、比較部14の比較結果に応じてPWMP_CNTの設定値V1setを調整する。たとえば、供給電圧制御部12は、初期の設定値V1setを微調整値ΔV1setだけ調整して、調整後の設定値V1set'を決定する(V1set'=V1set+ΔV1set)。初期の設定値V1setは少量ΔずつN回にわたり微調整される(ΔV1set=N・Δ)。
S212で、コントローラ300(指示監視部16)は、上位のコントローラから終了指示を受信したかどうかを判定する。終了指示を受信すると、1回目の出力電圧Vhpの出力を停止する。ここでは、図5のS501に進む。
図5は、コントローラ300が実行する2回目以降の出力電圧Vhpの立ち上げ動作を示すフローチャートである。図3を用いて説明したように、この動作は、区間c、eにおける出力電圧Vhpの立ち上げ動作である。区間aで正の直流電圧Vhp+が立ち上げられると、区間bでは、正の直流電圧Vhp+の出力が停止され、負の直流電圧Vhp−が立ち上げられる。さらに、区間cでは、再度、正の直流電圧Vhp+が立ち上げられる。1回目の立ち上げによって、PWMP_CNTやCLKP_CNTの制御パラメータは確定しているため、2回目の立ち上げにおいてはその制御パラメータを微調整すればよい。特に、1回目と2回目の時間間隔が短い場合は、環境変動や各部品の変化も小さいため、制御パラメータの調整量はわずかであろう。
S501で、コントローラ300は、PWMP_CNTやCLKP_CNTの制御パラメータを記憶部17に記憶する。これにより、1回目の立ち上げにより確定したPWMP_CNTの制御パラメータ(例:調整後の設定値V1set'または微調整値ΔV1set)やCLKP_CNTの制御パラメータ(例:調整後の周波数、オフ時間、デューティ比またはこれらの調整値など)が記憶部17に保持される。
S502で、コントローラ300(スイッチング制御部13)は、CLKP_CNTの出力を停止する。CLKP_CNTの出力が停止すると、スイッチ回路4は昇圧トランス1を駆動できなくなるため、昇圧トランスT1は2次側電圧V2を出力できなくなり、出力電圧Vhpの出力が停止する。
S503で、コントローラ300(供給電圧制御部12)は、PWMP_CNTの出力を停止する。S504で、コントローラ300(指示監視部16)は、コントローラ300を制御する上位のコントローラから高圧電源部200を起動することを示す起動指示を受信したか否かを判定する。たとえば、指示監視部16は、2回目以降の正の直流電圧Vhp+の出力開始の指示(ポジティブユニット201の起動指示)を受信する。起動指示を受信すると、S505に進む。これにより、2回目以降の正の直流電圧Vhp+の立ち上げが開始される。
S505で、コントローラ300(供給電圧制御部12)は、記憶部17に記憶されている制御パラメータ(記憶値)を読み出し、制御パラメータに応じたPWMP_CNTを生成して出力する。制御パラメータは、設定値V1setとその調整値Δv1setであってもよいし、設定値V1setに調整値Δv1setを反映させた調整後の設定値V1set'であってもよい。供給電圧制御部12が、設定値V1set'に対応したPWMP_CNTを出力すると、電圧供給回路3は、設定値V1set'に対応した供給電圧V1を生成して出力する。これにより、1回目に出力電圧Vhpが定電圧制御されているときに使用されていた供給電圧V1が昇圧トランス1の1次側に印加される。
S506で、コントローラ300(スイッチング制御部13)は、記憶部17に記憶されている制御パラメータ(記憶値)を読み出し、制御パラメータに応じたCLKP_CNTを生成して出力する。制御パラメータは、たとえば、周波数またはデューティ比Dである。オフ時間τoffも記憶部17から読み出されてもよい。スイッチング制御部13が、1回目に最終的に使用されていた周波数のCLKP_CNTを出力することで、CLKP_CNTに応じてスイッチ回路4が昇圧トランス1を駆動する。これにより、出力電圧Vhpは目標電圧Vtに極めて近い値まで立ち上がる。このように、コントローラ300は、目標値Vtに達した出力電圧Vhpの出力を停止させた後で、再度、出力電圧Vhpを目標値Vtに制御する際に、記憶部17からパラメータを読み出し、当該パラメータにしたがったスイッチ制御信号が出力されるようスイッチング制御部13を制御する。
S507で、コントローラ300(供給電圧制御部12)は、出力電圧Vhpが目標値Vtに維持されるようPWMP_CNTにより定電圧制御を実行する。つまり、上述した定電圧制御は、供給電圧制御方式により実現される。
S508で、コントローラ300(指示監視部16)は、上位のコントローラから終了指示を受信したかどうかを判定する。終了指示を受信すると、2回目の出力電圧Vhpの出力を停止する。ここでは、図5のS501に戻る。
図2に示した1回目の立ち上げ動作と、図5に示した2回目の立ち上げ動作とを比較すると、工程が大幅に削減されていることがわかる。つまり、1回目の立ち上げによってスイッチング制御信号の周波数と供給電圧信号の設定値の微調整が完了しているため、2回目の立ち上げではこれらの微調整処理を削減できる。これにより、1回目の立ち上げ動作と、図5に示した2回目の立ち上げ動作とでは、立ち上げ時間が大幅に短縮される。
図6は高圧電源部200の各部を構成する回路の一例を示す回路図である。電圧供給回路3の電界効果トランジスタ(FET)Q1の制御端子に、保護抵抗R1を介して、PWMP_CNTが入力される。FET Q1の電流流出端子は抵抗R2を介して電源Vccに接続されている。FET Q1の電流流入端子は接地されている。FET Q1の電流流出端子はさらにコンデンサC1の一端と、抵抗R3の一端とに接続されている。コンデンサC1の他端は接地されている。抵抗R3の他端はトランジスタQ2のベースに接続されている。トランジスタQ2のコレクタは抵抗R4を介して電源に接続されている。トランジスタQ2のエミッタはコンデンサC2を介して接地されている。さらに、トランジスタQ2のエミッタは、トランスT1の一次巻き線の一端に接続されている。PWMP_CNTによってFET Q1が駆動され、さらにトランジスタQ2が制御される。これにより、コンデンサC2に所定の電圧(供給電圧V1)が印加される。コンデンサC2の両端電圧(充電電圧)が、昇圧トランス1を構成するトランスT1の1次側に印加されることになる。
スイッチ回路4は、FET Q3によって構成されている。FET Q3の制御端子には保護抵抗R5を介してCLKP_CNTが印加される。FET Q3の電流流出端子はトランスT1の一次巻き線の他端に接続されている。FET Q3の電流流出端子と電流流入端子との間にはコンデンサC3が設けられている。昇圧トランス1とコンデンサC3は共振回路を形成している。
整流回路2は、ダイオードD1とコンデンサC4とで構成されている。ダイオードD1のアノードはトランスT1の2次巻線の一端に接続されている。ダイオードD1のカソードはコンデンサC4の一端と抵抗R7の一端と抵抗R8の一端と抵抗R10の一端とに接続されている。コンデンサC4の他端はトランスT1の2次巻線の他端に接続されているとともに、接地されている。抵抗R7の他端も接地されている。このように昇圧トランス1の2次側電圧V2はダイオードD1によって整流され、コンデンサC4によって平滑化されて、出力電圧Vhpとなる。直流電圧である出力電圧Vhpが負荷8に印加される。出力検出回路6は、出力電圧Vhpを抵抗R8と抵抗R9の抵抗比で分圧する分圧回路(電圧検知回路)である。出力電圧Vhpに比例した電圧がコントローラ300に入力される。
<スイッチング制御の利点>
図6、図7および図8を用いて実施例1の詳細な動作について説明する。PWMP_CNTは、一種のパルス信号である。供給電圧制御部12は、設定値V1setに応じたデューティ比でPWMP_CNTを生成し、電圧供給回路3に供給して駆動する。図6が示すように、電圧供給回路3のコンデンサC2が充電され、コンデンサC2の両端電圧が供給電圧V1として昇圧トランス1の1次側に印加される。コンデンサC2は、昇圧トランス1の一次側に並列に接続されている。
ところで、電圧供給回路3の設定値V1setを調整することで、昇圧トランス1の出力電圧Vhpを制御することができる。電圧供給回路3による出力電圧Vhpの制御(供給電圧制御)では、昇圧トランス1のスイッチング駆動と、昇圧トランス1の1次側への電圧供給とが並行して実行される。そのため、コンデンサC2の充電時間に応じて、出力電圧Vhpの立ち上がり時間が長くなってしまうという課題がある。
一方、本実施例では、コンデンサC2が所望の電圧(V1set)に予め充電された後で、スイッチ回路4が高速に昇圧トランス1の出力電圧を立ち上げる。これによって、昇圧トランス1の出力電圧Vhpのさらなる高速立ち上げが可能となる。
図7は、供給電圧制御による立ち上げ時間とスイッチング制御による立ち上げ時間とを示した図である。供給電圧制御では、スイッチ回路4が一定駆動され、電圧供給回路3の設定値V1setを調整することで昇圧トランス1の出力電圧Vhpが調整される。スイッチング制御では、昇圧トランス1の設定値V1setを一定とし、スイッチ回路4の制御によって出力電圧Vhpが調整される。
図7に示すように、供給電圧制御では、スイッチング制御に比べて昇圧トランス1の出力電圧Vhpの立ち上がりが遅い。これは、供給電圧制御の立ち上げ時間が、コンデンサC2の充電時間に依存しているためである。一方、スイッチング制御では、コンデンサC2が予め充電された状態でスイッチング駆動のみによって出力電圧Vhpが制御される。そのため、コンデンサC2の充電時間に立ち上がり時間が依存しない。
そこで、本実施例では、出力電圧Vhpの高速立ち上げのため、スイッチング制御を採用している。とりわけ、上位コントローラから起動指示が来る(S205でYESとなる)前までに、コントローラ300は、設定値V1setを決定し、PWMP_CNTを電圧供給回路3に供給して、コンデンサC2を予め充電する。図3が示すように、コンデンサC2が予め充電され、供給電圧V1が設定値V1setに維持される。
ところで、設定値V1setは、昇圧トランス1の出力特性に依存して決定される。図8は、CLKP_CNTのオフ時間τoffをある一定の値で固定して周波数変調駆動したときの出力電圧Vhpの一例を示している。CLKP_CNTはパルス信号であり、オフ時間を制御したり、周波数変調を適用したりすることが可能である。図8が示すように、出力電圧Vhpは、供給電圧V1(設定値V1set)とCLKP_CNTの周波数に応じて異なる。このような特性を持つ昇圧トランス1では、ある設定値V1setを用いて出力可能な出力電圧Vhpの上限値が目標値Vtより低いことがある。たとえば、設定値V1setを1Vに設定してしまうと、Vhpを3kVにすることができない。この場合は、設定値V1setを8Vに設定し、かつ、CLKP_CNTの周波数を60kHz以上に設定すれば、Vhpを3kVにすることができる。なお、上述した設定値V1setを決定するためのテーブルや数式は、昇圧トランス1の出力特性が考慮されて、決定されている。
<供給電圧制御の利点>
実施例1では、コントローラ300(制御方式切替部)がスイッチング制御と供給電圧制御とを切り替えることで、出力電圧Vhpの高速立ち上げと、出力電圧Vhpの安定化とを達成している。スイッチング制御の利点についてはすでに説明したので、ここでは、供給電圧制御の利点について説明する。
出力電圧Vhpが閾値Thに到達するまではスイッチング制御が採用される。スイッチング制御では、CLKP_CNTのパルスのオフ時間をある値に固定しつつ周波数を制御することによってスイッチ回路4を駆動して、昇圧トランス1の1次側に電力が供給される。
より具体的に説明すると、整流回路2は、昇圧トランス1の2次側に出力された交流の2次側電圧V2を整流して直流電圧(出力電圧Vhp)を出力する。比較部14が出力検出回路6により検出された出力電圧Vhpが閾値Thに未到達であると判定するときは、スイッチング制御部13が、CLKP_CNTのオフ時間τoffをある値に固定したまま、CLKP_CNTの周波数を高周波から低周波方向へスイープさせる。これにより、昇圧トランス1の1次側のスイッチング駆動のデューティ比が上昇するため、昇圧トランス1の1次側に供給される電力が増加する。CLKP_CNTのパルスのオフ時間τoffは昇圧トランス1とコンデンサC3の共振回路によって決定される。よって、共振電圧が形成されるのに十分な時間が必要である。実施例1のような特性の昇圧トランス1では、単純にオフ時間τoffを固定せずにデューティ比を変更する(たとえば、周波数を固定してデューティ比Dを上げる)と、共振電圧の形成時間が不十分になって、共振電圧の波形が崩れてしまうことがある。その結果、昇圧トランス1の1次側の電力がうまく2次側に変換されなくなってしまうだろう。そのため、オフ時間τoffの設定は重要となる。
出力電圧Vhpが閾値Thに到達したことを比較部14が検知すると、スイッチング制御部13は、1次側の制御方式をスイッチング制御から供給電圧制御に切り替える。スイッチング制御部13は、出力電圧Vhpが閾値Thに到達した時点の周波数f1にCLKP_CNTの周波数を固定してスイッチ回路4の駆動を継続する。周波数f1が固定されるため、スイッチング制御による出力電圧Vhpの上昇も停止する。
図9(A)は、スイッチング制御における出力電圧Vhpの変化の一例を示す図である。図9(B)は、供給電圧制御における出力電圧Vhpの変化の一例を示す図である。上述したように、スイッチング制御は、供給電圧制御と比較して、出力電圧Vhpの高速立上げが可能である。一方で、スイッチング制御は、図9(A)に示すように、周波数を変調すると出力電圧Vhpの変化幅が大きい。そのため、定電圧制御領域ではリップルが大きくなる。一方で、図9(B)が示すように、供給電圧制御であればリップルは小さい。そこで、出力電圧Vhpが閾値Thに到達した時点で供給電圧制御に切り換えることで、出力電圧Vhpを目標値Vtに精度よく近づけるとともに、安定して維持できるようになる。
ところで、2回目以降の出力電圧Vhpの立ち上げでは、コンデンサC2の両端電圧が、記憶部17に記憶されている設定値に対応した供給電圧となるように、コンデンサC2が充電される。コンデンサC2の充電は、記憶部17に記憶されている制御パラメータにしたがったCLKP_CNTでスイッチ回路4が駆動される前までに完了しなければならない。コンデンサC2の充電が不十分だと、出力電圧Vhpの高速での立ち上げができなくなる。そのため、PWMP_CNTによる供給電圧V1の設定は、コンデンサC2への充電時間に対して十分余裕がある段階で行われる。
画像形成装置ででは、連続した複数枚の画像を形成するときに高電圧を連続して出力する。このとき、転写ローラのトナークリーニングは紙間で実行されるため、1回目と2回目の高電圧の立ち上げ間隔は非常に短くなる。よって、1回目と2回目とでは、環境状態の変化が十分に小さく、供給電圧V1とスイッチング制御周波数の初期化は必要ない。また、1回目と2回目とでは、出力電圧Vhpの目標値Vtは原則として同じである。よって、2回目以降の立ち上げの際にCLKP_CNTの周波数スイープ(出力電圧Vhpの粗調)も不要である。つまり、周波数スイープ時間を短縮できる。また、供給電圧制御領域での供給電圧V1による出力電圧Vhpの微調整も必要ないか、または、僅かに必要となる程度にすぎない。
実施例1によれば、電圧発生装置100は、目標値Vtよりも小さい閾値Thに出力電圧Vhpが達するまでの期間はスイッチング制御によって出力電圧Vhpを立ち上げる。電圧発生装置100は、その後、出力電圧Vhpが閾値Thに達したときのスイッチング制御信号の状態を維持しつつ供給電圧制御によって出力電圧Vhpを目標値Vtに近づける。つまり、電圧発生装置100は、スイッチング制御によって出力電圧Vhpを高速に立ち上げ、目標値Vt付近では供給電圧制御によって出力電圧Vhpを目標値Vtに安定的に制御する。これにより、出力電圧Vhpのオーバーシュートやアンダーシュートを抑制しつつ、出力電圧Vhpの立ち上げ時間をさらに短縮することが可能となる。
さらに、電圧発生装置100は、出力電圧Vhpが閾値Thに達したときのスイッチング制御信号を特徴づけるパラメータを記憶する記憶部17を有している。電圧発生装置100は、目標値Vtに達した出力電圧Vhpの出力を停止させた後で、再度、出力電圧Vhpを目標値Vtに制御する際に、記憶部17からパラメータを読み出す。さらに、電圧発生装置100は、パラメータにしたがったスイッチ制御信号が出力されるよう信号生成部を制御する。このように、n回目の出力電圧の立ち上げの際に調整されたスイッチング制御信号を特徴づけるパラメータを記憶しておき、n+1回目以降の出力電圧の立ち上げの際にそのパラメータを使用することで、出力電圧Vhpの調整期間を短縮できる。とりわけ、スイッチング制御信号の周波数スイープ時間を短縮できるようになる。
記憶部17は、出力電圧Vhpが目標値Vtに維持されているときの供給電圧V1の設定値V1setからの微調整値ΔV1setまたは出力電圧Vhpの出力を停止するときに、制御部によって調整された設定値V1set'を記憶していてもよい。コントローラ300は、目標値に達した出力電圧の出力を停止させた後で、再度、出力電圧を目標値に制御する際にこの記憶値を利用する。たとえば、コントローラ300は、記憶部17から微調整値ΔV1setを読み出して、設定値V1setに微調整値ΔV1setを適用して電圧供給回路3を制御し、設定値V1setと微調整値ΔV1setに対応した供給電圧V1'を生成させてもよい。同様に、コントローラ300は、記憶部17から調整後の設定値V1set'を読み出して、設定値V1set'を用いて電圧供給回路3を制御し、設定値V1set'に対応した供給電圧V1'を生成させてもよい。これにより、供給電圧V1の調整時間も短縮できる。
図3を用いて説明したように、ポジティブユニット201の出力電圧Vhp+の極性は、ポジティブユニット201と交互に負荷を駆動する他の電圧発生装置であるネガティブユニット202の出力電圧Vhp−の極性と異なっている。正の出力電圧Vhp+はトナーの転写に使用され、負の出力電圧Vhp−は転写残トナーのクリーニングに使用されるからである。コントローラ300が、ポジティブユニット201からの出力電圧Vhp+の供給を停止させる期間は、ネガティブユニット202が負荷8に出力電圧Vhp−を供給している期間である。転写期間とクリーニング期間は交互に生じるからである。本発明は、このように出力電圧の立ち上げと立ち上げとを繰り返す際に、全体として出力電圧の立ち上げ時間を短縮することが可能となる。これは、2回目以降の出力電圧の立ち上げ時間が短縮されるからである。
<実施例2>
実施例1では、CLKP_CNTとPWMP_CNTとの両方を停止することで、出力電圧Vphを停止するものとして説明した。しかし、PWMP_CNTの停止は必ずしも必要ではない。そこで、実施例2では、PWMP_CNTを維持したままCLKP_CNTを停止させることで、出力電圧Vphを停止する事例について説明する。なお、実施例2において実施例1と共通する事項について同一の参照符号を与付することで、説明の簡潔化を図る。
図10は、コントローラ300が実行する2回目以降の出力電圧Vhpの立ち上げ動作を示すフローチャートである。1回目の動作についてはすでに実施例1で説明したとおりである。S212で終了指示が受信されると、S1001に進む。
S1001で、コントローラ300は、CLKP_CNTの制御パラメータを記憶部17に記憶する。これにより、1回目の立ち上げにより確定したCLKP_CNTの制御パラメータ(例:周波数、オフ時間、デューティ比など)が記憶部17に保持される。次にS502に進む。S502では、コントローラ300(スイッチング制御部13)は、CLKP_CNTの出力を停止する。次にS503をスキップしてS504に進む。ここで、コントローラ300は、PWMP_CNTの制御パラメータを維持したままPWMP_CNTの出力を継続する。つまり、出力電圧Vhpが低下しても、供給電圧V1は調整されない。S504で、コントローラ300(指示監視部16)は、コントローラ300を制御する上位のコントローラから高圧電源部200を起動することを示す起動指示を受信したか否かを判定する。2回目以降の正の直流電圧Vhp+の立ち上げが指示されると、S506に進む。S506で、コントローラ300(スイッチング制御部13)は、記憶部17に記憶されている制御パラメータ(記憶値)を読み出し、制御パラメータに応じたCLKP_CNTを生成して出力する。S507で、コントローラ300(供給電圧制御部12)は、出力電圧Vhpが目標値Vtに維持されるようPWMP_CNTにより定電圧制御を実行する。S508で、コントローラ300(指示監視部16)は、上位のコントローラから終了指示を受信したかどうかを判定する。終了指示を受信すると、2回目の出力電圧Vhpの出力を停止する。ここでは、図10のS1001に戻る。
このように実施例2で、コントローラ300は、PWMP_CNTの出力を継続したままCLKP_CNTの出力を停止することで、出力電圧Vphを停止する。昇圧トランス1の1次側に印加される供給電圧V1を決定しているPWMP_CNTの出力は継続される。また、PWMP_CNTの制御パラメータ(例:PWM設定値)は変更されることなく、そのまま維持される。これによって、コンデンサC2の両端電圧が供給電圧V1に維持されるようコンデンサC2は充電されているため、2回目以降ではコンデンサC2の充電時間が削減される。また、PWMP_CNTを停止させる動作(S503)や記憶値に基づいてPWMP_CNTの生成と出力を再開する動作(S505)を省略できるため、これらの要していた処理時間を削減できる。つまり、出力電圧Vhpをさらに高速に立ち上げることが可能となる。なお、PWMP_CNTの出力を継続するために、S1001でPWMP_CNTの制御パラメータが記憶部17に記憶されてもよい。
<実施例3>
実施例1、2では、1回目の立ち上げによって出力電圧Vhpが目標値Vtに維持されているときのPWMP_CNTとCLKP_CNTの制御パラメータを記憶部17が記憶する。よって、目標値VtとPWMP_CNTとCLKP_CNTの制御パラメータとの間には相関関係が存在する。つまり、ある目標値Vtを達成するための特定の制御パラメータが記憶部17には記憶されているといえる。なお、この相関関係は、昇圧トランス1の特性バラつきに依存する。
ところで、1回目と2回目とで目標値Vtが変更されることがある。たとえば、1回目の立ち上げから2回目の立ち上げまでに長時間が経過すると、環境条件が変化するため、目標値Vtを変更しなければならない。
両面画像形成においても、1面目の目標値Vtと、2面目の目標値Vtとを変更する必要がある。1面目にトナー画像を記録紙に熱定着すると、記録紙の抵抗値が変化する。この場合、1面目の目標値Vtよりも、2面目の目標値Vtを高く設定しなければならない。このように、1回目と2回目とで目標値Vtが変更される場合、2回目の立ち上げについてもS201からS211のすべてのステップを実行しなければならず、高速立ち上げは困難であった。
そこで、実施例3において、コントローラ300は、1回目の立ち上げによって得られた相関関係を2回目の目標値Vtに適用することで、記憶部17に記憶されている制御パラメータを補正する。これにより、1回目の目標値Vtと2回目の目標値Vtとが変更されたとしても、出力電圧Vhpを高速に2回目の目標値Vtへ制御することが可能となる。
図11は、コントローラ300が実行する2回目以降の出力電圧Vhpの立ち上げ動作を示すフローチャートである。すでに説明したステップには同一の参照符号を付与している。図11と図5とを比較すると分かるように、S501とS502との間にS1101が設けられ、S504とS505との間にS1102およびS1103が追加されている。
S1101で、コントローラ300(演算部18)は、目標値Vtと制御パラメータとの相関関係を求め、記憶部17に記憶する。相関関係は、たとえば、関数または関数を定義する係数である。たとえば、目標値VtとPWMP_CNTの調整後の設定値V1set'が1次関数fp(Vt)=cp*Vtによって定義されると仮定する。この場合、演算部18は、調整後の設定値V1set'を目標値Vtで除算することで、係数cpを算出し、記憶部17に記憶する。同様に、目標値VtとCLKP_CNTの調整後の周波数f1が1次関数fc(Vt)=cc*Vtによって定義されると仮定する。この場合、演算部18は、調整後の周波数f1を目標値Vtで除算することで、係数ccを算出し、記憶部17に記憶する。その後、S502ないしS504が実行され、S1102に進む。このように、なお、コントローラ300の演算部18は、出力電圧Vhpが第1の目標値Vtに維持されているときの第1の目標値Vtとパラメータとの相関関係を取得する取得部として機能する。
S1102で、コントローラ300は、目標値Vtが変更されたかどうか、または、変更すべきかどうかを判定する。たとえば、コントローラ300(指示監視部16)は、上位のコントローラから目標値Vtの変更を指示されたときは、目標値Vtを変更すべきと判定する。コントローラ300(指示監視部16)は、変更後の目標値Vt'が上位のコントローラから指示されたときは、目標値Vtが変更されたと判定してもよい。あるいは、コントローラ300が前回の起動時刻から今回の起動時刻までの経過時間をタイマーやカウンタにより計測し、経過時間が閾値時間を超えていれば、目標値Vtを変更すると判定してもよい。目標値Vtを変更すべきときはS1103に進む。一方、目標値Vtを変更すべきでなければ、S505に進む。なお、変更後の目標値Vt'は予め記憶部17に記憶されていてもよい。また、実施例1で説明したように、変更後の目標値Vt'は環境条件に応じて決定されてもよい。
S1103で、コントローラ300(補正部19)は、記憶部17に記憶されている制御パラメータと相関関係を読み出し、相関関係に基づき制御パラメータを補正する。たとえば、補正部19は、係数cpを読み出し、係数cpと変更後の目標値Vt'とを関数fp(Vt)に代入して、補正後の設定値V1set"を演算する。同様に、補正部19は、係数ccを読み出し、係数ccと変更後の目標値Vt'とを関数fc(Vt)に代入して、補正後の周波数f1"を演算してもよい。補正部19は、このようにして求めた制御パラメータを記憶部17に書き込むことで、制御パラメータを更新する。その後は、S505、S506において補正後の制御パラメータが使用される。
以上述べたように実施例3によれば、演算部18は、出力電圧Vhpが第1の目標値Vtに維持されているときの第1の目標Vt値とパラメータとの相関関係を演算により取得する。また、補正部19は、出力電圧Vhpの目標値が第1の目標値Vtから第2の目標値Vt'に変更されると、相関関係と第2の目標値Vt'とに基づいてパラメータを補正する。これにより、記憶部17に記憶されているパラメータが更新される。つまり、コントローラ300は、目標値Vtと制御パラメータとの相関関係を更新しながら記憶部17に保持することで、変更後の目標値Vt'に相関関係を適用して制御パラメータを補正できる。たとえば、1回目と2回目とで目標値Vtが異なる場合にも、1回目の定電圧制御において得られた相関関係から、2回目の立ち上げ動作用の制御パラメータを求めることが可能となる。よって、目標値Vtが変更されたときも、出力電圧の高速立ち上げが可能となる。
<その他>
上述した実施例では、スイッチング制御部13は、スイッチング制御信号のオフ時間を固定しつつ周波数を制御したり、スイッチング制御信号のデューティ比を制御したりすることで、昇圧トランス1を駆動していた。しかし、本発明で適用できるスイッチング制御信号は、上記の例に限らず、デューティ比が可変の信号(デューティ制御信号)であってもよし、オフ時間が固定されない周波数が可変の信号(周波数制御信号)であってもよい。周波数制御信号に関して、スイッチング制御部13は、周波数を高周波から低周波へまたは低周波から高周波へスイープすることで、出力電圧Vhpを上昇させる。また、供給電圧制御部12は、設定値V1setに応じてパルス幅変調された供給電圧信号を電圧供給回路3に供給することで、供給電圧V1を可変制御してもよい。
なお、実施例1ないし実施例3では、閾値Th1は1つの固定値として説明したが、複数の閾値Thが使用されてもよい。たとえば、閾値設定部11は、目標値Vtより低い第1閾値Th1と、目標値Vtより高い第2閾値Th2とを比較部14に設定してもよい。比較部14の比較結果が、出力電圧Vhpが第1閾値Th1以下であることを示していれば、コントローラ300はスイッチング制御を採用する。同様に、比較部14の比較結果が、出力電圧Vhpが閾値Th2以上であることを示していれば、コントローラ300はスイッチング制御を採用する。一方で、比較部14の比較結果が、出力電圧Vhpが第1閾値Th1と第2閾値Th2との間にあることを示していれば、コントローラ300は供給電圧制御を採用する。大きな負荷変動が発生すると、出力電圧Vhpが目標値Vtから大きくかい離することがある。このような場合に、コントローラ300は、電圧変化幅が大きいスイッチング制御によって出力電圧Vhpを目標値Vtに高速に戻すことが可能となる。このように、コントローラ300は、出力電圧Vhpが第1閾値Th1と目標値Vtよりも大きな第2閾値Th2を超える期間では、供給電圧制御からスイッチング制御に切り替える制御部として機能する。
上述した電圧発生装置100は、様々な電子機器に使用可能であり、たとえば、電子写真方式の画像形成装置の高圧電源装置として適用できる。図12は、電子写真方式の多色画像形成装置の一例を示す図である。多色の画像形成装置110は、タンデム式のカラーレーザビームプリンタであり、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のトナーを重ねあわせることで多色画像を出力する。
感光体113は図中矢印の方向に回転し、高圧電源部200から帯電電圧を印加された帯電ローラ116によって一様な電圧に帯電する。露光装置111によって感光体113の表面に静電潜像が形成される。現像ローラ115には、高圧電源部200から現像電圧が印加されており、静電潜像を現像する。現像ローラ115は、静電潜像をトナー像に現像する現像手段の一例である。また、高圧電源部200は、現像ローラ115に現像電圧を印加する印加手段として機能する。一次転写ローラ118には、高圧電源部200から一次転写電圧が印加されている。これにより、トナー画像が感光体113から中間転写体119に一次転写される。中間転写体119にイエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のトナー画像が多重転写される。
カセット122に格納された記録紙121は給紙ローラ123によって搬送路へ送り出される。記録紙121は、搬送ローラ対125およびレジストローラ対126によって、二次転写ニップ部に搬送される。二次転写ニップ部に設置された二次転写ローラ128には、高圧電源部200から二次転写電圧が印加されている。二次転写ローラ128によって、トナー画像が中間転写体119から記録紙121上に転写される。トナー画像は、定着器129で、記録紙121上に熱定着する。
上述した電圧発生装置100を画像形成装置110に採用することで、画像形成装置110のFPOTを短縮できる。FPOTはファーストプリントアウトタイムの略称であり、画像形成装置110を起動してから1枚目の画像を出力するまでに必要となる待ち時間のことである。とりわけ、スイッチング制御により出力電圧Vhpを高速に立ち上げることができるため、画像形成装置110のFPOTを短縮できる。さらに、出力電圧Vhpを安定化できるため、たとえば、出力電圧が不安定になることによって生じる画像不良などを少なくすることができる。
実施例1ないし3では、ポジティブユニット201を中心に説明したが、ネガティブユニット202に本発明を適用してもよい。さらに、制御パラメータや相関関係の記憶は、正の直流電圧Vhp+から負の直流電圧Vhp−に切り替えるタイミング、正の直流電圧Vhp+の出力を停止するタイミング、負の直流電圧Vhp−から正の直流電圧Vhp+に切り替えるタイミングに適用可能である。また、制御パラメータや相関関係の記憶は、負の直流電圧Vhp−の出力を停止するタイミングなどに適用されてもよい。制御パラメータの読み出しや補正は、出力停止状態から正の直流電圧Vhp+または負の直流電圧Vhp−を出力するタイミングに適用可能である。
ところで、負荷変動が大きい場合、定電圧制御中に、出力電圧Vhpが閾値Thよりも低下することがある。この場合、コントローラ300は、供給電圧制御からスイッチング制御に切り替えて出力電圧Vhpを閾値Thに達成させてもよい。あるいは、定電圧制御に移行したときに、コントローラ300は、閾値Thをより小さな閾値Th'に変更する。つまり、出力電圧の目標値と閾値の差の絶対値を大きくして目標電圧に対して閾値をより遠ざけることで、出力電圧Vhpが閾値Th'を下回りにくくしてもよい。これにより、供給電圧制御領域からスイッチング制御領域へ簡単に戻らなくなるため、供給電圧制御によって出力電圧Vhpが安定的に制御されよう。
上述した実施例では、CLKP_CNTを停止した後にPWMP_CNTを停止させているが、順番は逆であってもよい。すなわち、PWMP_CNTを停止させた後で、CLKP_CNTを停止しても同様の効果が得られる。