JP6150374B2 - 放射線被ばく治療剤及び放射線被ばく治療方法 - Google Patents
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Description
このような放射線被ばくに伴う臓器障害において、特に腸管の障害に対しては、有効な治療法がない。また、骨髄の造血機能再生に対しては造血幹細胞移植が効果的であることが、これまでの事故例により示されている。しかしながら、造血幹細胞移植は、不意の事故等によって数十人から数百人規模の患者が同時、若しくは短期間に発生した場合には、充分に対応できないことが予測される。
このような大規模な患者への初期治療として、薬物治療が最も迅速に対応できると考えられる。しかしながら、海外の事故例において造血機能障害に効果的であることが確認されている造血・免疫の生理活性を改善するサイトカイン製剤の多くは、日本国内では医薬品として承認されていない。
これらの中でG−CSFのみがARSの治療薬として国内で承認されているものの、単独投与では、致死線量を被ばくした個体の生存率の改善には不十分であった。
しかしながら、トロンボポイエチンの遺伝子組換え体は、中和抗体が発生するため、欧米豪日での治験が中断した経緯がある。
また、通常のトロンボポイエチン、トロンボポイエチン受容体作動薬は、造血系幹細胞の増幅作用が、in vitroであることは、当業者に周知である。
従来技術1の組成物は、骨髄移植、放射線療法、又は化学療法に伴う「血小板減少症」の処置において有用である(従来技術1の段落[0067]等を参照)。
従来技術1の実施例では、カルボプラチン処置による貧血モデルマウスにおいて当該化化合物を投与することで、血小板減少を抑制できることを示している。
従来技術2の抗体ALXN4100TPOは、in vivoでTPO受容体に作用してトロンボポイエチンの受容体c−MPLに結合する高い能力を備える。また、従来技術2の抗体は、放射線に被ばくしたマウスに投与することで、放射線被ばくの致死性を軽減できる。
また、従来技術2の抗体は、10数パーセント生存する線量(60Co γ線、9Gy)を照射したマウスに、照射後に投与した場合、最大でも40%程度の生存率改善効果に留まっていた。
本発明の放射線被ばく治療剤は、前記トロンボポイエチン受容体作動薬は、ロミプロスチム(romiplostim)であることを特徴とする。
本発明の放射線被ばく治療剤は、前記ロミプロスチムを、1回の投与あたり、慢性免疫性血小板減少性紫斑病の治療の5〜50倍の用量で投与することを特徴とする。
本発明の放射線被ばく治療剤は、前記ロミプロスチムを、被ばく後に、1回あたり10μg〜100μg/kgの用量で、1回/1日以上で3日間以上、投与することを特徴とする。
本発明の放射線被ばく治療剤は、前記トロンボポイエチン受容体作動薬は、エルトロンボパグ(eltrombopag)であることを特徴とする。
本発明の放射線被ばく治療方法は、抗体を除くトロンボポイエチン受容体作動薬を投与し、放射線被ばくによる障害臓器を再生する、ヒト以外の動物の放射線被ばく治療方法であることを特徴とする。
本発明者らは、30日以内に全数が死亡する高線量被ばくモデル動物を用いて、各種造血サイトカイン等が放射線被ばく治療の用途に使用できるか否かを鋭意研究した。
その結果、トロンボポイエチン受容体作動剤であるペプチド剤のロミプロスチム(romiplostim)を、高線量被ばくマウスに、被ばく後に所定濃度投与すると、放射線被ばく障害臓器を再生させ、全数生存させるという画期的な薬効を見いだし、本発明を完成させた。これに対して、同時に比較した各種造血サイトカイン等他剤投与群では、単剤で同様の薬効は得られなかった。
本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤としては、トロンボポイエチン受容体作動薬として、好ましくはペプチド剤、より好ましくはロミプロスチムを用いる。
これに加えて、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤として、他のトロンボポイエチン受容体作動ペプチド医薬、遺伝子組換えトロンボポイエチン、トロンボポイエチン様低分子薬等を用いてもよい。この低分子薬としては、エルトロンボパグ(eltrombopag)等を用いることが可能である。
本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤の投与期間は3日間以上、より好ましくは5日間以上であることが好適である。これらの高濃度の投与により、放射線被ばくによる障害臓器を再生する用途に好適に用いることができ、本発明の目的を達成できる。
本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤の1回目の投与は、被ばくした細胞内でアポトーシス等の経路が作動する前に行うことが好ましい。このため、具体的には、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、なるべく、被ばく直後に上記量を投与することが好ましい。しかしながら、放射線被ばくの1日以内、好ましくは6時間以内に投与を開始しても、被ばくの程度によるものの、十分な臓器再生と全数生存効果が得られる。投与と投与の間隔は、血中の薬剤濃度が保たれるため、通常1日以上で十分である。しかしながら、放射線被ばくによる治療効果が増強される限り、これに限定されない。
なお、投与回数および期間について、1日1回投与して状態をモニターし、約2〜4週間程度は患者の状態を確認し、再度又は繰り返し投与を行うことも可能である。
また、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤として、ロミプロスチム以外を用いる場合には、効果に応じて、適宜投与量、投与期間、投与間隔等を変更してもよい。この場合でも、例えば、エルトロンボパグ(eltrombopag)等においても、通常の治療量の5〜50倍程度を用いることが好ましい。
本発明における放射線被ばくとは、電離放射線による被ばくや、放射線療法に伴う被ばく等を示す。
本発明における放射線被ばくの対象となる障害としては、例えば、原子力発電所の事故や核爆発による全身性の放射線被ばくに起因する急性放射線症候群又は晩発性放射線障害等、癌治療等の医療目的での放射線照射や放射線被ばく事故等による局所性の放射線被ばくによる急性又は晩発性放射線障害等が挙げられる。これらのうち、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、局所性又は全身性の急性放射線障害の治療に用いることが好ましく、特に好ましくは骨髄細胞、腸管障害等の増殖性が高い細胞を備える臓器の治療や再生に用いられる。
また、本発明における放射線の防護は、このような放射線被ばくや放射線療法に伴う障害の予防又は治療が含まれるが、治療に用いることが好ましい。
また、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤の治療対象としては、被ばくによる放射線障害の他に、被ばくに伴う消化管や骨髄等の再生不良等に伴う症状自体を治療するものであってもよい。
さらに、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、例えば、希釈剤、香料、防腐剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、乳化剤、可塑剤、保存剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等から選択される1又は2以上の製剤用添加物を含有させてもよい。
また、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、例えば、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等を付加してもよい。
また、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、製剤の技術分野にて知られている任意の方法により製造される。
非経口投与としては、例えば、経皮、静脈内、動脈内、皮下、真皮内、筋肉内または腹腔内の投与が挙げられる。この際、1日〜数日毎の末梢/脳内注射、又は皮下投与を用いることが好適である。
また、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、経口投与のための投与に適した投与形態にて処方され得る。
たとえば、サイトカインとしてG−CSF及びerythropoietin(EPO)との併用をすることで、より効果的である。
この動物は特に限定されるものではなく、例えば哺乳動物である、ヒト、家畜動物種、野生動物を含む。
このため、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、広く動物の治療、家畜の発育等の対象とすることができる。
また、疾病の予防や健康増進のため、放射線管理施設内で勤務するヒト等に予備的に投与することもできる。
まず、従来技術1及び従来技術2は、放射線被ばく後に投与しても、臓器障害の治療効果は十分ではなかった。
これに対して、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、トロンボポイエチン受容体作動ペプチド剤を、1回あたり10μg/kg〜100μg/kg、1回/1日以上で3日以上、投与することで、放射線被ばくに伴う臓器障害を抑制し、障害を受けた臓器の再生、修復の効果を得ることができる。
後述の実施例で示すように、マウスの場合は、高線量のγ線を致死線量照射した後に、ロミプロスチムを1回あたり50μg/kg、1回/1日、3日又は5日間、腹腔内投与することで、従来技術2と異なり、30日目にほぼ全個体の生存が認められた。
また、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、投与量が従来技術2の抗体の投与量の1/1000以下で効果が得られる。
つまり、従来技術2の抗体は、予防的な効果が期待できるものの、不慮の事故等で被ばくした場合の放射線症候群の治療には十分ではなかった。
これに対して、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、γ線を致死線量照射した後でも、30日目に、ほぼ全個体の生存という効果を得ることができる。
また、本実施形態の治療剤を投与することで、粘膜障害を治癒再生することができる。すなわち、口腔内粘膜等を含む細胞サイクルの周期が早い増殖性の細胞についても、細胞数を有意に回復させることができる。
本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、高線量放射線被ばく事故が起きた際に、緊急的に投与することで、急性放射線症候群による被ばく臓器、特に消化管等の放射線障害に基づく臓器破壊を食い止められる。このように、個体への高線量放射線曝露時には、再生能の高い造血組織や腸管粘膜、皮膚等の組織は重度の障害が生じ個体の死に繋がるため、最優先して治療を行う必要がある。また、不意の事故等によって発生し得る大規模の患者の治療には、薬物の投与による治療が最も有効である。
しかしながら、これまで国外での被ばく事故等において有効性が認められている医薬品の殆どは、日本国内では未承認の医薬品であるため、緊急時の対応には問題があった。
これに対して、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、ITP治療の用途で既に認可され市販されているロミプロスチム等のトロンボポイエチン受容体薬を用いている。
このため、備蓄が可能であり、万が一の高線量放射線被ばく事故において、迅速且つ効率的な安心・安全対策となる。
特に、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、放射線による粘膜障害を治癒再生することができる。
このため、本発明の実施の形態に係る放射線被ばく治療剤は、がん放射線治療等に広く用いることができ、がん放射線治療に伴う副作用へ対処できる。たとえば、頭頸部がんや子宮頚がん放射線治療では、口腔内粘膜や小腸粘膜への傷害損傷が、副作用として発生する。特に、口腔内粘膜損傷は患者のQOLを著しく低下させるため、この克服は治療上の大きな改善に繋がる。なお、がん放射線治療以外にも、核酸アナログ等の抗がん剤による骨髄減少や腸管障害等の臓器障害も、同様の作動機構(パスウェイ)で起こると考えられるため、同様に対応可能である。
7Gy放射線照射マウスに、トロンボポイエチン受容体作動ペプチド剤としてロミプロスチムを5日間、50μg/kg腹腔内投与し、コントロール群と比較した。
実験に用いたマウスは、C57BL/6J Jclの系統のメスマウス(日本クレア株式会社)である。C57BL/6Jは、多くの実験にて汎用されており、又、群飼育において、メスはオスに比べ闘争による傷害を受ける可能性が低いために用いた。マウスは、日本クレア株式会社の飼育場において、検疫と定期的微生物検査により、SPF(Specific Pathogen Free)条件を維持しながら、繁殖し6週齢までの飼育を行ったマウスを購入した。
日本クレア株式会社から購入した6週齢のマウスは、公益財団法人環境科学技術研究所(青森県六ヶ所村)先端分子生物科学研究センターのCV飼育室において、ラミナーフローラック(LFR−3−MB、トキワ科学器械株式会社)内で、2週間、12時間の明期/暗期周期で、水及び標準食(30k Gy γ線照射滅菌済Standard Diet、FR−2、フナバシファーム社製)の自由摂取条件下で飼育した。動物室と照射室は、空調機により常時温度23+−2度、湿度50+−10%、気圧は陽圧(+6mmAq.)になるように調節された。
また、動物の実験手順及び処理は、弘前大学医学研究科動物実験倫理委員会の規定に従って実行した。
公益財団法人環境科学技術研究所(青森県六ヶ所村)先端分子生物科学研究センターの137Cs(662KeV)γ線照射装置(ガンマセル40エグザクタ、カナダBest Theratronics社製)を用いて、線量率0.9Gy/分で、目的に応じ積算線量7〜10Gyのγ線を、8週齢のマウスに照射した。
本実施例の放射線被ばく治療剤であるトロンボポイエチン受容体作動薬として、ペプチド剤であるロミプロスチム(ロミプレート皮下注250μg調製用、協和発酵キリン株式会社製)を、照射日を含め1〜5日間、腹腔下投与した。照射日の投与は、照射後60分以内に行った。
非照射コントロールには、薬剤の希釈に用いた滅菌生理食塩水を用いた。
薬物投与後経時的に、生存しているマウスを麻酔下で採血後、安楽死させて解剖し、骨髄、肝臓、胸腺、脾臓、消化管の臓器摘出を行って、末梢血解析、骨髄細胞解析、病理解析、遺伝子解析、血中サイトカインを含めた蛋白質評価等に供した。
図1を参照して、実施例1の結果について説明する。この図1は、7Gy放射線照射マウスに、ロミプロスチムを1日1回、5日間、1回あたり50μg/kg腹腔内投与し、コントロール群と比較した例を示す。
図1のグラフは、致死線量照射マウスへのロミプロスチム投与及び非投与による生存率曲線を示す。縦軸は、生存率を示し、横軸は照射後の日数を示している。グラフの破線はロミプロスチム投与群、実線はコントロールのロミプロスチム非投与群を示している。
照射後30日目に取得したデータによると、ロミプロスチム非投与群では照射後30日目で全個体が死亡したのに対し、投与群では全個体が生存した。
図2のグラフは、図1と同様の生存率曲線であり、縦軸は生存率、横軸は照射後日数、破線はロミプロスチム投与群、実線はロミプロスチム非投与群を示している。コントロールのロミプロスチム非投与群は、図1と同じマウスである。
結果として、7Gyの照射マウスは、照射後に50μg/kg以上のロミプロスチムを3日以上腹腔内投与することで、30日目に全個体の生存が認められた。これに対し、ロミプロスチム非投与群は、上述の図1に示したのと同様であり、30日以内に全ての個体が死亡した。
また、他の予備的実験により、G−CSF(filgrastim)、EPO及び蛋白同化ステロイドnandrolone decanoateを組合せても、致死放射線曝露マウスに対してトロンボポイエチン受容体作動薬と同様に効果が得られた。
次に、実施例1と同様の動物及び手法を用いて、7Gy放射線照射マウスに、ロミプロスチムを3日間、50μg/kg腹腔内投与し、コントロールの群と骨髄細胞数の変化を比較した。この時も、投与群の生存率は100%であった。
マウスの両大腿骨を、0.5%ウシ血清アルブミン−0.5%EDTA(ethylenediamine−N, N, N', N'−tetraacetic acid)を含むCa−Mg不含リン酸緩衝液で、25G注射針付きの1〜2ml注射筒でフラッシュして骨髄細胞を回収した。
有核細胞数は、チュルク液を用いて、血球算定盤で計数した。
結果として、ロミプロスチム投与群では、照射後8日目から骨髄細胞数の増加が観察されたが、コントロールでは変化がなかった。つまり、ロミプロスチム投与群では、8日から骨髄細胞数の急激な回復が認められ、骨髄が再生していることが分かる。両大腿骨中の骨髄細胞数は、著明な差はなかった。
30日目の生存個体では依然として骨髄細胞数が正常個体よりは少ないものの、末梢白血球数も正常レベルの40%程度まで回復した。
加えて、30日目の生存個体の腸管障害も有意に改善されていた。
また、同様に、未熟T細胞数、B細胞数、NK細胞数、顆粒球細胞数、赤芽球細胞数においても著明な差はなかった。
Claims (5)
- 有効成分としてロミプロスチム(romiplostim)又はエルトロンボパグ(eltrombopag)を含む放射線被ばく治療剤であって、前記治療剤が、骨髄及び腸管の再生に基づく骨髄障害及び腸管障害を改善するための治療剤。
- 有効成分としてロミプロスチム(romiplostim)を含む請求項1に記載の放射線被ばく治療剤。
- 前記ロミプロスチムを、1回の投与あたり、慢性免疫性血小板減少性紫斑病の治療の5〜50倍の用量で投与することを特徴とする請求項2に記載の放射線被ばく治療剤。
- 前記ロミプロスチムを、被ばく後に、1回あたり10μg〜100μg/kgの用量で、1回/1日以上で3日間以上、投与することを特徴とする請求項3に記載の放射線被ばく治療剤。
- 有効成分としてロミプロスチム(romiplostim)又はエルトロンボパグ(eltrombopag)を投与し、骨髄及び腸管の再生に基づく骨髄障害及び腸管障害を改善することを特徴とする、ヒト以外の動物の放射線被ばく治療方法。
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