以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。図1は、本発明の実施形態に係る還元気化水銀測定装置100を示す構成図である。本装置100は、試薬分注装置2を含む試料前処理装置1、水銀検出装置3、空試験制御部5および要因判定部6を備えている。
本装置100の試料前処理装置1は、試料の前処理を自動的に行うもので、複数の試料容器10、複数の試料容器10のそれぞれに複数の試薬を注入する試薬分注装置2、数本の試料分注用のチューブ15が貫通して保持されている試料容器キャップ11、試料容器キャップ11が先端部に取り付けられ、基端部に回転および上下する鉛直軸が取り付けられて、試料容器キャップ11を旋回および上下させる試料容器キャップ駆動アーム(図示なし)、複数の試料容器10を鉛直方向の軸心121回りに環状配列で取り外し可能に保持する環状保持部122を有して、軸心121回りに回転されるターンテーブル12、環状保持部122の下面の一部に対向して配置され、直上に位置する環状保持部122の部分を加熱するヒータ13、環状保持部122の温度を非接触で測定する温度センサー17、温度センサー17で測定された環状保持部122の温度に基づいてヒータ13の発熱量を制御することにより試料の温度を調節する温度調節手段18、ならびに環状保持部122および試料容器10を側方から空冷する送風手段14を備える。
図2に示すように、ターンテーブル12は、複数の試料容器10(図1)を鉛直方向の軸心121回りに環状配列で取り外し可能に保持する環状保持部122と、環状保持部122の内径側にあって軸心121を中心とする円形凹部123とで形成されて、軸心121回りに回転される。試料容器10は環状保持部122の試料容器挿入孔124(図2)に取り外し可能に保持される。図1に示すように、ターンテーブル12は、軸心121においてターンテーブル12を回転させるモータ126と接続され、軸心121を中心に回転駆動される。試料容器10は、例えば、試験管である。
送風手段14(図1)である冷却ファンは、ヒータ13の側方かつ上方にあって、環状保持部122および試料容器10に収容された空試験試料および空試験基準試料を側方から空冷する。
試薬分注装置2は、試料が収容された複数の試料容器10のそれぞれに複数の試薬を注入する。試薬分注装置2は、試料容器10とチューブ15を介して連結されており、試料容器10への分注液として所定量の硫酸(H2SO4)、硝酸(HNO3)、過マンガン酸カリウム(KMnO4)溶液、ペルオキソニ硫酸カリウム(K2S2O8)溶液、塩化ヒドロキシルアンモニウム(HONH3Cl)溶液、塩化第一スズ(SnCl2)溶液、蒸留水(H2O)が例えばチューブポンプ(図示なし)による分注方式で分注される。塩化第一スズ溶液は還元気化法における還元剤として、塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液は還元剤として、また同時に試料容器洗浄用のリンスとして使用される。なお、試薬の塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液に代えて硫酸ヒドロキシルアンモニウム((HONH3)2SO4)溶液を用いてもよい。通常測定時の各試薬の注入量は、硫酸、硝酸、過マンガン酸カリウム溶液、ペルオキソニ硫酸カリウム溶液は0.5mL(ミリリットル)、塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液は2.5mL、塩化第一スズ溶液は0.4mLである。通常測定とは、日常的に行っている測定をいう。
水銀検出装置3である原子吸光分析装置は、試料前処理装置1で発生させた水銀ガスを測定するもので、吸収セル21、2つの光電管22、プリアンプ23、演算処理装置24、低圧水銀放電管26、除湿器28、ドレインタンク29、フィルタ30、エアポンプ31を備える。
空試験制御部5は予め記憶した空試験プログラムに基づいて試料前処理装置1と水銀検出装置3とを制御する。
要因判定部6は、複数の試料容器10のそれぞれに収容された空試験試料および空試験基準試料について水銀検出装置3によって測定された、空試験試料測定値および空試験基準試料測定値に基づいて空試験測定値の上昇要因を判定する。詳細には、要因判定部6が空試験測定値の上昇要因を判定する判定項目毎に空試験試料測定値と空試験基準試料測定値とに基づいて算出した、水銀量または水銀濃度が所定の判定基準値以上であると、その判定項目が空試験測定値の上昇要因であると判定する。要因判定部6は、空試験基準試料測定値が所定の動作基準値以上であると、空試験測定値の上昇要因を判定する動作を開始するようにしてもよい。
空試験試料は、蒸留水に過マンガン酸カリウム溶液、硫酸、硝酸、ペルオキソニ硫酸カリウム溶液の試薬が注入され、還元気化水銀測定装置100周辺における空気を所定の条件に基づいてバブリングされた溶液と、蒸留水に注入される試薬注入量が少なくとも1種の試薬について通常測定時と異なる溶液とからなる。空試験基準試料は、蒸留水に注入される試薬注入量が全種の試薬について通常測定時と同量である溶液からなる。
判定項目としては10項目あり、第1判定項目は還元気化水銀測定装置100周辺における空気中の水銀、第2判定項目は試薬分注装置2の構成部品である試料容器キャップ11に付着した水銀、第3判定項目は試料容器10および/または撹拌子(図示なし)に付着した水銀および/または試料容器10に採取される蒸留水に混入した水銀、第4判定項目は塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液に混入した水銀、第5判定項目は塩化第一スズ溶液に混入した水銀、第6判定項目は過マンガン酸カリウム溶液に混入した水銀、第7判定項目は硫酸に混入した水銀、第8判定項目は硝酸に混入した水銀、第9判定項目はペルオキソニ硫酸カリウム溶液に混入した水銀、第10判定項目は試料容器キャップ11、試料容器10、撹拌子以外の還元気化水銀測定装置100の構成部品、例えば溶液配管、ガス配管などに付着した水銀(その他の要因)である。
要因判定部6は、この各判定項目における空試験試料測定値と空試験基準試料測定値とに基づいて算出した、水銀量または水銀濃度が所定の判定基準値以上であると、空試験測定値の上昇要因であると判定する。要因判定部6は第1〜第10判定項目の判定基準値を予め記憶している。
空試験制御部5および要因判定部6は、コンピュータ4(図1)に備えられている。コンピュータ4は表示部41を有し、試料前処理装置1について、タイマ(図示なし)を用いた各処理時間の制御、ターンテーブル12の回転速度制御、温度調節手段18の制御のほかに、試薬分注装置2および水銀検出装置3を含む還元気化水銀測定装置100全体を制御する。
本発明の実施形態の還元気化水銀測定装置100の動作について説明する。還元気化水銀測定装置100の空試験は、空試験制御部5が予め記憶した空試験プログラムに基づいて実行される。
還元気化水銀測定装置100の動作に先立って、測定者によって、例えば5mLの蒸留水が22個の試料容器10それぞれに入れられ、ターンテーブル12の環状保持部122の環状配列番号1〜22の位置に載置される。
還元気化水銀測定装置100が空試験動作を開始すると、図3に示す各試料グループ(後述する)における各試薬の注入量が表示部41(図1)に表示され、試料容器キャップ駆動アームによって搬送された試料容器キャップ11から複数の試薬が注入される。環状配列番号1の試料容器10に、過マンガン酸カリウム溶液、硫酸、硝酸、ペルオキソニ硫酸カリウム溶液の試薬がそれぞれ0.5mL加えられ、試薬注入位置の試料容器10の下方に設けられた攪拌機35(図2)によって、試料容器10内に入れられた攪拌子(図示なし)を回転させて攪拌される。
次に、試料容器10の上方のバブラー51(図1)に水銀検出装置3のエアポンプ31(図1)から空気が送られて、環状配列番号1の試料容器10内の溶液が1時間バブリングされ、還元気化水銀測定装置100周辺における空気中の水銀が試料容器10の溶液内に取り込まれる。このとき、エアポンプ31から送られる空気量は9.6L(リットル)である。以下、環状配列番号1の試料容器10内の溶液を空試験試料No.1、空試験試料No.1を試料グループNo.1と言う。空試験試料No.1には全種の試薬が通常測定時と同量注入される。
環状配列番号2〜7の試料容器10には、過マンガン酸カリウム溶液、硫酸、硝酸、ペルオキソニ硫酸カリウム溶液の試薬が加えられない。以下、環状配列番号2〜4の試料容器10内の溶液を空試験試料No.2A〜4A、空試験試料No.2A〜4Aを試料グループNo.2Aと言う。環状配列番号5〜7の試料容器10内の溶液を空試験試料No.5〜7、空試験試料No.5〜7を試料グループNo.3と言う。
次に、ターンテーブル12が順次回転されて環状配列番号8〜10の試料容器10それぞれに、過マンガン酸カリウム溶液が0.2mL、硫酸、硝酸、ペルオキソニ硫酸カリウム溶液の試薬がそれぞれ0.5mL加えられ、空試験試料1と同様に攪拌される。以下、環状配列番号8〜10の試料容器10内の溶液を空試験試料No.8〜10、空試験試料No.8〜10を試料グループNo.4と言う。
次に、ターンテーブル12が順次回転されて環状配列番号11〜13の試料容器10それぞれに過マンガン酸カリウム溶液、硝酸、ペルオキソニ硫酸カリウム溶液の試薬がそれぞれ0.5mL、硫酸が0.2mL加えられ、空試験試料No.1と同様に攪拌される。以下、環状配列番号11〜13の試料容器10内の溶液を空試験試料No.11〜13、空試験試料No.11〜13を試料グループNo.5と言う。
次に、ターンテーブル12が順次回転されて環状配列番号14〜16の試料容器10それぞれに過マンガン酸カリウム溶液、硫酸、ペルオキソニ硫酸カリウム溶液の試薬がそれぞれ0.5mL、硝酸が0.2mL加えられ、空試験試料No.1と同様に攪拌される。以下、環状配列番号14〜16の試料容器10内の溶液を空試験試料No.14〜16、空試験試料No.14〜16を試料グループNo.6と言う。
次に、ターンテーブル12が順次回転されて環状配列番号17〜19の試料容器10それぞれに過マンガン酸カリウム溶液、硫酸、硝酸、の試薬がそれぞれ0.5mL、ペルオキソニ硫酸カリウム溶液が0.2mL加えられ、空試験試料No.1と同様に攪拌される。以下、環状配列番号17〜19の試料容器10内の溶液を空試験試料No.17〜19、空試験試料No.17〜19を試料グループNo.7と言う。
次に、ターンテーブル12が順次回転されて環状配列番号20〜22の試料容器10それぞれに過マンガン酸カリウム溶液、硫酸、硝酸、ペルオキソニ硫酸カリウム溶液の試薬がそれぞれ0.5mLが加えられ、空試験試料No.1と同様に攪拌される。以下、環状配列番号20〜22の試料容器10内の溶液を空試験基準試料No.20〜22、空試験基準試料No.20〜22を試料グループNo.8と言う。空試験基準試料No.20〜22には全種の試薬が通常測定時と同量注入される。
次に、コンピュータ4によって、温度調節手段18およびターンテーブル12を回転させるモータ126が制御され、ヒータ13が加熱を開始するとともに、ターンテーブル12が、例えば、1分間に2回転の一定速度で回転されて、環状保持部122の全体が加熱される。このようにして、ターンテーブル12が回転されながら、温度センサー17で測定された環状保持部122の温度に基づいてヒータ13の発熱量が制御されることにより、試料容器10に収容された空試験試料No.1、2A〜4A、5〜19と空試験基準試料No.20〜22の温度が調節される。試料は120分間、95℃に保持されて自動的に試料前処理が行われる。
ヒータ13の電源がオフされて加熱工程が終了すると、ターンテーブル12は継続して回転されながら送風手段14から送風され、ターンテーブル12、空試験試料No.1、2A〜4A、5〜19、空試験基準試料No.20〜22が室温まで冷却される。
前処理後、ターンテーブル12が順次回転されて空試験試料No.1、2A〜4A、8〜19と空試験基準試料No.20〜22それぞれに、試料分注装置2から試薬の塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液が2.5mL加えられる。このとき、空試験試料No.5〜7には塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液は加えられない。
次に、ターンテーブル12が順次回転されて空試験試料No.1、2A〜4A、5〜19と空試験基準試料No.20〜22それぞれに、試料分注装置2から試薬の塩化第一スズ溶液0.4mLが還元剤として加えられ、バブラー51(図1)に水銀検出装置3のエアポンプ31(図1)から空気が送られて水銀ガスが発生する。発生した水銀ガスは、水銀検出装置3の吸収セル21(図1)に導入されて測定される。
次に、測定後の空試験試料No.2A〜4Aを空試験試料No.2B〜4Bとし、いずれの試薬も注入されずに測定される。次に、測定後の空試験試料No.2B〜4Bに塩化第一スズ溶液0.4mLが注入された試料が空試験試料No.2C〜4Cとして測定される。
水銀検出装置3によって空試験試料No.1、2A〜4A、2B〜4B、2C〜4C、5〜19、空試験基準試料No.20〜22が測定されると、その測定値およびこれらの測定平均値がコンピュータの表示部41に表示される。その表示画面を図4に示す。図4上欄1〜8は試料グループNo.を示し、2Aは試料グループNo.2Aを示す。図4左欄の「1回目、2回目、3回目」の表示は同一試料グループにおける1回目、2回目、3回目の測定を示し、その下の「AVE」表示は1回目〜3回目の測定平均値を示す。測定値はng単位で表示されている。例えば、試料グループNo.3は空試験試料No.5〜7の測定値を示しており、1回目(空試験試料No.5)の測定値は0.0008ng、2回目(空試験試料No.6)の測定値は0.0014ng、3回目(空試験試料No.7)の測定値は0.0006ng、試料グループNo.3の測定平均値は0.00093ngであることを示している。
要因判定部6は、空試験基準試料測定値が動作基準値、例えば0.25ng以上であると、空試験測定値が上昇していると判断して、空試験測定値の上昇要因を判定する動作を開始する。動作基準値は空試験測定値の上昇要因を判定する動作を開始するか、否かを判断する基準値である。要因判定部6は、図4における8欄の空試験基準試料No.20〜22の測定平均値が0.29543ngであり、動作基準値0.25ng以上であるので、空試験測定値が上昇していると判断して、空試験測定値の上昇要因の判定動作を開始する。なお、要因判定部6は、空試験基準試料No.20〜22の測定平均値が2.5ng未満であると、空試験測定値の上昇要因の判定動作を開始しない。
試料グループNo.8(空試験基準試料No.20〜22)は、全種の試薬について試薬注入量が通常測定時と同量である。上述のように空試験試料No.1は、全種の試薬について試薬注入量が通常測定時と同量であり、還元気化水銀測定装置周辺における空気9.6L(リットル)を取り込んでおり、試料グループNo.8とは還元気化水銀測定装置周辺における空気を取り込んだことが異なるだけである。空試験試料No.1の測定値0.3598ngから試料グループNo.8の測定平均値0.29543ngが差し引かれた水銀量0.06437ngが空気量9.6L中の水銀量となり、空気中の水銀濃度は6.7052ng/m3となる。
要因判定部6に記憶されている第1判定項目の水銀濃度の判定基準値は、例えば20ng/m3であり、これ以上の濃度であると、要因判定部6は、還元気化水銀測定装置周辺における空気中の水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。測定された水銀濃度は6.7052ng/m3であり、判定基準値20ng/m3未満であるので、要因判定部6は、還元気化水銀測定装置周辺における空気中の水銀は空試験測定値の上昇要因でないと判定する。環境省が公表した大気中水銀バックグラウンド濃度のモニタリング調査結果によると、大気中水銀濃度の年平均値は2ng/m3であり、この濃度の10倍の水銀濃度を第1判定項目の判定基準値とした。
試料グループNo.2B(空試験試料No.2B〜4B)は、測定後の試料グループNo.2A(空試験試料No.2〜4)であり、測定前に、試料グループNo.2Aの蒸留水、塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液、塩化第一スズ溶液それぞれに存在した水銀、試料容器10に付着した水銀、攪拌子に付着した水銀は水銀ガスとして試料容器10から放出されているが、試料容器キャップ11に付着した水銀は放出されない。試料グループNo.2B(空試験試料No.2B〜4B)の測定値に基づいて試料容器キャップ11に付着した水銀が空試験測定値の上昇要因であるか、否かを調べることができる。
第2判定項目の判定基準値は試料グループNo.2B(空試験試料No.2B〜4B)の測定平均値と試料グループNo.8の測定平均値との比率(試料グループNo.8の測定平均値に対する試料グループNo.2Bの測定平均値の百分率)であって、例えば2%であり、2%以上であると、要因判定部6は、試料容器キャップ11に付着した水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。試料グループNo.2Bの測定平均値0.00243ngと試料グループNo.8の測定平均値0.29543ngとの比率は0.8%であり、第2判定項目の判定基準値2%未満であるので、要因判定部6は、試料容器キャップ11に付着した水銀は空試験測定値の上昇要因でないと判定する。
試料グループNo.2B(空試験試料No.2B〜4B)に、あらたに塩化第一スズ(SnCl2)溶液0.4mLが加えられた試料グループNo.2C(空試験試料No.2C〜4C)と、蒸留水に塩化第一スズ溶液0.4mLが加えられただけの試料グループNo.3(空試験試料No.5〜7)とは、試料容器10、攪拌子、試料容器10に採取される蒸留水が異なるだけであるので、試料グループNo.3の測定平均値から試料グループNo.2Cの測定平均値が差し引かれた水銀量に基づいて、試料容器10に付着した水銀、攪拌子に付着した水銀、試料容器10に採取される蒸留水に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であるか、否かを調べることができる。
第3判定項目の判定基準値は、試料グループNo.3の測定平均値から試料グループNo.2Cの測定平均値が差し引かれた水銀量と試料グループNo.8の測定平均値との比率(試料グループNo.8の測定平均値に対する試料グループNo.3の測定平均値から試料グループNo.2Cの測定平均値が差し引かれた水銀量の百分率)であって、例えば4%であり、4%以上であると、要因判定部6は、試料容器10に付着した水銀、攪拌子に付着した水銀、試料容器10に採取される蒸留水に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。試料グループNo.3の測定平均値0.00093ngから試料グループNo.2Cの測定平均値0.00050ngが差し引かれた水銀量0.00043ngと試料グループNo.8の測定平均値0.29543ngとの比率は0.1%であり、第3判定項目の判定基準値4%未満であるので、要因判定部6は、試料容器10に付着した水銀、攪拌子に付着した水銀、試料容器10に採取される蒸留水に混入した水銀は空試験測定値の上昇要因でないと判定する。
試料グループNo.3(空試験試料No.5〜7)は、試料グループNo.2A(空試験試料No.2〜4)とは塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液を含んでいない点が異なるだけである。したがって、試料グループNo.2Aの測定平均値から試料グループNo.3の測定平均値が差し引かれた水銀量に基づいて、塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であるか、否かを調べることができる。
第4判定項目の水銀量の判定基準値は、試料グループNo.2Aの測定平均値から試料グループNo.3の測定平均値が差し引かれた水銀量と試料グループNo.8の測定平均値との比率(試料グループNo.8の測定平均値に対する試料グループNo.2Aの測定平均値から試料グループNo.3の測定平均値が差し引かれた水銀量の百分率)であって、例えば30%である。30%以上であると、要因判定部6は、塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。測定平均値0.07213ngから測定平均値0.00093ngが差し引かれた水銀量0.0712ngと試料グループNo.8の測定平均値0.29543ngとの比率は24.1%であり、第4判定項目の判定基準値30%未満であるので、要因判定部6は、塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液に混入した水銀は空試験測定値の上昇要因でないと判定する。
第4判定項目の水銀濃度の判定基準値は、0.01ng/mLであり、試料グループNo.2Aの測定平均値から試料グループNo.3の測定平均値が差し引かれた水銀量を塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液中の濃度に換算した濃度値が0.01ng/mL以上であると、要因判定部6は、塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。2.5mLの塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液中に混入した水銀量は0.0712ngであり、濃度に換算すると、0.02848ng/mLとなり、水銀濃度の判定基準値0.01ng/mL以上であるので、要因判定部6は、塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。
第4判定項目のように、水銀量による判定結果と水銀濃度による判定結果とが異なる場合には、少なくともどちらかの判定結果が空試験測定値の上昇要因であると判定されたときに、要因判定部6は総合判定として空試験測定値の上昇要因であると判定する。
試料グループNo.2C(空試験試料No.2C〜4C)は、測定後の試料グループNo.2B(空試験試料No.2B〜4B)に、あらたに塩化第一スズ(SnCl2)溶液0.4mLが加えられており、その測定平均値から試料グループNo.2Bの測定平均値が差し引かれた水銀量に基づいて、塩化第一スズ溶液に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であるか、否かを調べることができる。
第5判定項目の水銀量の判定基準値は、試料グループNo.2Cの測定平均値からNo.2Bの測定平均値が差し引かれた水銀量と試料グループNo.8の測定平均値との比率(試料グループNo.8の測定平均値に対する試料グループNo.2Cの測定平均値から試料グループNo.2Bの測定平均値が差し引かれた水銀量の百分率)であって、例えば30%である。30%以上であると、要因判定部6は、塩化第一スズ溶液に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。試料グループNo.2Cの測定平均値0.00050ngから試料グループNo.2Bの測定平均値0.00243ngが差し引かれた水銀量−0.00193ngと試料グループNo.8の測定平均値0.29543ngとの比率は−0.7%と計算上はなるが、負の水銀量は0.00000ngとして取り扱うので、比率は0.0%となる。0.0%は判定基準値30%未満であるので、要因判定部6は、塩化第一スズ溶液に混入した水銀は空試験測定値の上昇要因でないと判定する。
第5判定項目の水銀濃度の判定基準値は、0.01ng/mLであり、試料グループNo.2Cの測定平均値から試料グループNo.2Bの測定平均値が差し引かれた水銀量を塩化第一スズ溶液中の濃度に換算した濃度値が0.01ng/mL以上であると、要因判定部6は、塩化第一スズ溶液中水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。0.4mLの塩化第一スズ溶液中に存在する水銀量は0.00000ngとして取り扱うので、濃度に換算すると、0.00000ng/mLとなる。水銀濃度の判定基準値0.01ng/mL以下であるので、要因判定部6は、塩化第一スズ溶液に混入した水銀は空試験測定値の上昇要因でないと判定する。
試料グループNo.4(空試験試料No.8〜10)は、試料グループNo.8と比べて過マンガン酸カリウム溶液量が0.3mL少ないだけである。したがって、試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.4の測定平均値が差し引かれた水銀量に基づいて、過マンガン酸カリウム溶液に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であるか、否かを調べることができる。
第6判定項目の水銀量の判定基準値は、試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.4の測定平均値が差し引かれた水銀量と試料グループNo.8の測定平均値との比率(試料グループNo.8の測定平均値に対する試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.4の測定平均値が差し引かれた水銀量の百分率)であって、例えば30%である。30%以上であると、要因判定部6は、過マンガン酸カリウム溶液に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。測定平均値0.29543ngから測定平均値0.16803ngが差し引かれた水銀量0.12740ngと試料グループNo.8の測定平均値0.29543ngとの比率は43.1%であり、判定基準値30%以上であるので、要因判定部6は、過マンガン酸カリウム溶液に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。
第6判定項目の水銀濃度の判定基準値は、0.01ng/mLであり、試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.4の測定平均値が差し引かれた水銀量を過マンガン酸カリウム溶液中の濃度に換算した濃度値が0.01ng/mL以上であると、要因判定部6は、過マンガン酸カリウム溶液中水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。0.3mLの過マンガン酸カリウム溶液中に存在する水銀量は0.12740ngであり、濃度に換算すると、0.42467ng/mLとなり、水銀濃度の判定基準値0.01ng/mL以上であるので、要因判定部6は、過マンガン酸カリウム溶液に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。
試料グループNo.5(空試験試料No.11〜13)は、試料グループNo.8と比べて硫酸量が0.3mL少ないだけである。したがって、試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.5の測定平均値が差し引かれた水銀量に基づいて、硫酸に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であるか、否かを調べることができる。
第7判定項目の水銀量の判定基準値は、試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.5の測定平均値が差し引かれた水銀量と試料グループNo.8の測定平均値との比率(試料グループNo.8の測定平均値に対する試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.5の測定平均値が差し引かれた水銀量の百分率)であって、例えば30%である。30%以上であると、要因判定部6は、硫酸に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。試料グループNo.8の測定平均値0.29543ngから試料グループNo.5の測定平均値0.24160ngが差し引かれた水銀量0.05383ngと試料グループNo.8の測定平均値0.29543ngとの比率は18.2%であり、判定基準値30%未満であるので、要因判定部6は、硫酸に混入した水銀は空試験測定値の上昇要因でないと判定する。
第7判定項目の水銀濃度の判定基準値は、0.01ng/mLであり、試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.4の測定平均値が差し引かれた水銀量を硫酸中の濃度に換算した濃度値が0.01ng/mL以上であると、要因判定部6は、硫酸中の水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。0.3mLの硫酸中に存在する水銀量は0.05383ngであり、濃度に換算すると、0.17944ng/mLとなり、水銀濃度の判定基準値0.01ng/mL以上であるので、要因判定部6は、硫酸に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。
試料グループNo.6(空試験試料No.14〜16)は、試料グループNo.8と比べて硝酸量が0.3mL少ないだけである。したがって、試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.6の測定平均値が差し引かれた水銀量に基づいて、硝酸に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であるか、否かを調べることができる。
第8判定項目の水銀量の判定基準値は、試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.6の測定平均値が差し引かれた水銀量と試料グループNo.8の測定平均値との比率(試料グループNo.8の測定平均値に対する試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.6の測定平均値が差し引かれた水銀量の百分率)であって、例えば30%である。30%以上であると、要因判定部6は、硝酸に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。試料グループNo.8の測定平均値0.29543ngから試料グループNo.6の測定平均値0.29927ngが差し引かれた水銀量は負の水銀量となるが、0.00000ngとして取り扱うので、比率は0.0%となる。判定基準値30%未満であるので、要因判定部6は、硝酸に混入した水銀は空試験測定値の上昇要因でないと判定する。
第8判定項目の水銀濃度の判定基準値は、0.01ng/mLであり、試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.6の測定平均値が差し引かれた水銀量を硝酸中の濃度に換算した濃度値が0.01ng/mL以上であると、要因判定部6は、硝酸中水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。0.3mLの硝酸中に存在する水銀量は0.00000ngであり、濃度に換算すると、0.00000ng/mLとなり、水銀濃度の判定基準値0.01ng/mL未満であるので、要因判定部6は、硝酸に混入した水銀は空試験測定値の上昇要因でないと判定する。
試料グループNo.7(空試験試料No.17〜19)は、試料グループNo.8と比べてペルオキソニ硫酸カリウム溶液量が0.3mL少ないだけである。したがって、試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.7の測定平均値が差し引かれた水銀量に基づいて、ペルオキソニ硫酸カリウム溶液に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であるか、否かを調べることができる。
第9判定項目の水銀量の判定基準値は、試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.7の測定平均値が差し引かれた水銀量と試料グループNo.8の測定平均値との比率(試料グループNo.8の測定平均値に対する試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.7の測定平均値が差し引かれた水銀量の百分率)であって、例えば30%である。30%以上であると、要因判定部6は、ペルオキソニ硫酸カリウムに混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。試料グループNo.8の測定平均値0.29543ngから試料グループNo.7の測定平均値0.29630ngが差し引かれた水銀量は負の水銀量となるが、0.00000ngとして取り扱うので、比率は0.0%となる。判定基準値30%未満であるので、要因判定部6は、ペルオキソニ硫酸カリウムに混入した水銀は空試験測定値の上昇要因でないと判定する。
第9判定項目の水銀濃度の判定基準値は、0.01ng/mLであり、試料グループNo.8の測定平均値から試料グループNo.7の測定平均値が差し引かれた水銀量をペルオキソニ硫酸カリウム中の濃度に換算した濃度値が0.01ng/mL以上であると、要因判定部6は、ペルオキソニ硫酸カリウム中水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。0.3mLのペルオキソニ硫酸カリウム中に存在する水銀量は0.00000ngであり、濃度に換算すると、0.00000ng/mLとなり、水銀濃度の判定基準値0.01ng/mL未満であるので、要因判定部6は、ペルオキソニ硫酸カリウムに混入した水銀は空試験測定値の上昇要因でないと判定する。
第10判定項目は試料容器キャップ11、試料容器10、攪拌子以外の還元気化水銀測定装置100の構成部品、例えば溶液配管、ガス配管などに付着した水銀であり、試料グループNo.8の測定平均値から第2〜第9判定項目の水銀量の総計を差し引いた水銀量で判定する。本発明の実施形態では、試料容器10、攪拌子以外の還元気化水銀測定装置100の構成部品に付着した水銀量は0.04677ngである。
第10判定項目の判定基準値は、試料グループNo.8の測定平均値から第2〜第9判定項目の水銀量の総計を差し引いた水銀量と試料グループNo.8の測定平均値との比率(試料グループNo.8の測定平均値に対する試料グループNo.8の測定平均値から第2〜第9判定項目の水銀量の総計が差し引かれた水銀量の百分率)であって、例えば25%である。25%以上であると、要因判定部6は、試料容器キャップ11、試料容器10、攪拌子以外の還元気化水銀測定装置100の構成部品に付着した水銀が空試験測定値の上昇要因であると判定する。試料グループNo.8の測定平均値から第2〜第9判定項目の水銀量の総計を差し引いた水銀量0.04677ngと試料グループNo.8の測定平均値0.29543ngとの比率は15.8%であり、第10判定項目の判定基準値25%未満であるので、要因判定部6は、試料容器キャップ11、試料容器10、攪拌子以外の還元気化水銀測定装置100の構成部品に付着した水銀は空試験測定値の上昇要因でないと判定する。
要因判定部6による判定が終了すると、水銀量による判定結果および水銀濃度による判定結果が表示部41に表示される。水銀量による判定結果を図5に、水銀濃度による判定結果を図6に示す。さらに、要因判定部6が水銀量による判定結果と水銀濃度による判定結果とに基づいて総合判定した結果が表示部41に表示される。総合判定結果を図7に示す。図5、7の影響量は、空試験試料測定値と空試験基準試料測定値とに基づいて算出された水銀量と、水銀量が算出された第2〜第10判定項目の水銀量の総計との比率(試料グループNo.8の測定平均値に対する試料グループNo.8の測定平均値から第2〜第9判定項目の水銀量の総計が差し引かれた水銀量の百分率)%を示す。判定欄のOKは空試験測定値の上昇要因でないことを示し、NGは空試験測定値の上昇要因であることを示す。
図7に示された結果によると、第4判定項目の塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液に混入した水銀、第6判定項目の過マンガン酸カリウム溶液に混入した水銀および第7判定項目の硫酸に混入した水銀が空試験測定値の上昇要因であることが分かる。測定者は、この結果に基づいて、これらの試薬を水銀が混入していない試薬に交換して空試験測定値の上昇要因を取り除くことができる。このように、測定者は還元気化水銀測定装置100によって自動判定された空試験測定値の上昇要因を取り除くことができる。
本発明の実施形態の還元気化水銀測定装置100によれば、自動的に空試験測定値の上昇要因を判定することができ、測定者がその空試験測定値の上昇要因を取り除くことによって定量下限値を向上させて高精度の測定ができる。
本発明の実施形態では、第4〜第9判定項目については水銀量による判定結果と水銀濃度による判定結果との2つの判定結果を用いて判定したが、どちらか一方の判定結果を用いて判定してもよい。
本発明の実施形態では、判定項目の水銀について空試験試料測定値および空試験基準試料測定値に基づいて算出された水銀量と、水銀量が算出された判定項目の水銀量の総計との比率が所定の判定基準値以上であると、空試験測定値の上昇要因であると判定したが、第2、第3、第10判定項目の水銀については、空試験試料測定値と空試験基準試料測定値とに基づいて算出された水銀量が所定の判定基準値以上であると、空試験測定値の上昇要因であると判定してもよい。この場合、判定基準値は、例えば0.01ngである。
本発明の実施形態では、要因判定部6は、空試験基準試料測定値が所定の動作基準値以上であると、空試験測定値の上昇要因を判定する動作を開始するが、空試験基準試料測定値に関係なく、常に空試験測定値の上昇要因を判定する動作を開始するようにしてもよい。
本発明の実施形態では、空試験測定値の上昇要因を判定する場合、空試験試料および空試験基準試料のそれぞれについて3回の測定値の平均値を用いたが、測定平均値を用いず個々の測定値を用いてもよい。
本発明の実施形態では、水銀検出装置3として原子吸光分析装置を例にとり説明したが、原子蛍光分析装置であってもよい。