以下、本発明に係る摩擦パッドおよびブレーキキャリパーシステムの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
図1〜3に示すディスクブレーキ装置1は、自動車等の車両に搭載されて制動機構を構成する装置であって、ブレーキキャリパーシステム2およびディスクローター3を備えている。また、ブレーキキャリパーシステム2は、「ブレーキキャリパーシステム」の一例であって、ブレーキキャリパー10および摩擦パッド20を備えている。
ブレーキキャリパー10は、油圧シリンダおよびピストン等を有するキャリパー本体(図示せず)と、キャリパー本体や摩擦パッド20が取り付けられるブラケット11とを備えて構成されている。この場合、ブラケット11における摩擦パッド20の取り付け部位には、摩擦パッド20をディスクローター3に対する接離方向(接近方向および離間方向)に案内するための案内溝11a,11bが形成されている。
なお、実際のディスクブレーキ装置1(ブレーキキャリパーシステム2)では、必要に応じて、案内溝11a,11b内に摺動抵抗軽減用の金属製の薄板やアンチラトルスプリングなどが装着されたり、キャリパー本体のピストンと摩擦パッド20との間やブラケット11のパッド保持用爪部(図示せず)と摩擦パッド20との間に鳴き止め用の金属製の薄板が装着されたりすることがあるが、ディスクブレーキ装置1(ブレーキキャリパーシステム2)についての理解を容易とするために、これらの薄板やスプリングに関する説明および図示を省略する。
摩擦パッド20は、「摩擦パッド」の一例であって、支持板21、摩擦材22およびパッド戻しスプリング23を備えて構成されている。支持板(裏板:バックプレート:ベースプレート)21は、厚みが6.0mm程度の金属板をプレス処理によって圧断することによって弓形状に形成されている。この支持板21には、摩擦パッド20をブレーキキャリパー10(ブラケット11)に取り付けた状態においてディスクローター3の回転方向(車両が前進する際のディスクローター3の回転方向:各図に示す矢印Rの向き)における上流側の端部、および下流側の端部に、ブラケット11の案内溝11a,11bに嵌入可能な係合用凸状部21a,21bが形成されている。
また、図2,8,9に示すように、一例として、上記の上流側の端部に形成された係合用凸状部21a(「パッド戻しスプリングの取付部」の一例)における裏面(摩擦材22が配設されている面の裏面:「支持板の他方の面」の一例)には、「位置決め用凸部」の一例である位置決め用凸部21tが形成されている。摩擦材(ライニング)22は、「摩擦材」の一例であって、図1,2に示すように、原材料を加工して平板状に形成されると共に、加熱圧縮処理によって支持板21の表面(「支持板の一方の面」の一例)に接着されている。
パッド戻しスプリング23(以下、単に「スプリング23」ともいう)は、「パッド戻しスプリング」の一例であって、後述するように摩擦パッド20がブレーキキャリパー10(ブラケット11)に取り付けられた状態においてブレーキキャリパー10(ブラケット11)に接してディスクローター3から摩擦材22を離間させる離間方向でブレーキキャリパー10(ブラケット11)に対して支持板21を移動させることができるように支持板21におけるディスクローター3の回転方向の上流側の端部(係合用凸状部21a)に取り付けられている。
このスプリング23は、一例として、厚みが0.5mm程度のステンレススチール製の帯板(「帯板状の弾性体」の一例)が板厚方向に折曲げ加工されて、図4〜7に示すように、支持板21における摩擦材22の配設面の裏面に接する基部31と、ブレーキキャリパー10のブラケット11に先端部P4a(「一端部」の一例:図4参照)が当接させられる当接部33と、基部31の端部および当接部33の端部を相互に連結する連結部32(「第1の連結部」の一例)とが側面視三角形状に配置された状態で一体的に形成されている。この場合、図7に示すように、基部31には、後述するように支持板21の位置決め用凸部21tを挿通可能な位置決め用孔31h(「位置決め用孔」の一例)が形成されている。また、本例のスプリング23では、図5,7に示すように、基部31が連結部32や当接部33よりも幅広に形成されている。
さらに、本例のスプリング23では、後述するように、パッド戻しスプリング23の製造に際して、ステンレススチールの帯板における一端部(折曲げ加工後に当接部33となる側の端部)を連結部32に向かって折り曲げることにより、図4に示すように、当接部33が側面視J字状に形成されている。これにより、本例のスプリング23では、当接部33の端部P4がブラケット11に接してブラケット11が傷付く事態が回避されている。また、当接部33を側面視J字状に形成しなかった場合には、後述するようにスプリング23を弾性変形させる際にブラケット11に対する端部P4の引っ掛かりが生じてスプリング23を設計どおりに変形させるのが困難となるおそれがあるのに対し、当接部33を側面視J字状に形成したことで、ブラケット11に対する端部P4の引っ掛かりを生じさせることなく、スプリング23を設計どおりに変形させて所望の付勢力を生じさせることが可能となっている。
また、図4,6,7に示すように、このスプリング23では、支持板21における摩擦材22の配設面に押さえ部35と、基部31の他端部および押さえ部35の一端部を相互に連結する連結部34(「第2の連結部」の一例)とが、上記のステンレススチール製の帯板によって基部31、連結部32および当接部33と共に一体的に形成されている。これにより、本例の摩擦パッド20では、図2,8,9に示すように、押さえ部35および基部31によって支持板21を挟持するようにしてスプリング23が支持板21(基部31)に取り付けられている。
この場合、本例のスプリング23では、図4に示すように、支持板21に取り付けられていない状態において、基部31と押さえ部35とが非平行状態となっており、押さえ部35の端部P5と基部31との間の距離が支持板21(係合用凸状部21a)の厚みと同程度で、かつ、端部P6(ステンレススチールの帯板における端部P4とは逆側の端部)と基部31との間の距離が支持板21(係合用凸状部21a)の厚みよりも短くなるように形成されている。これにより、後述するように、このパッド戻しスプリング23を支持板21(係合用凸状部21a)に取り付けた状態においては、端部P6が支持板21の表面(摩擦材22の配設面)に押し付けられた状態となり、支持板21からのパッド戻しスプリング23の外れが生じ難くなっている。
なお、本例のスプリング23では、端部P1(図4参照)が「基部の他端部」に相当し、端部P2(図4参照)が「基部における第1の連結部側の端部」および「第1の連結部における基部側の端部」に相当し、端部P3(図4参照)が「第1の連結部における当接部側の端部」および「当接部における第1の連結部側の端部」に相当し、かつ端部P5(図4参照)が「押さえ部の一端部」に相当すると共に、先端部P4aが「当接部における一端部」に相当する。
この場合、本例のスプリング23では、図4に示すように、連結部32や当接部33が弾性変形していない状態におけるスプリング23をステンレススチールの帯板における幅方向に沿って見たとき(側方から見たとき)に、基部31の延在方向(破線の方向)と連結部32の延在方向(一点鎖線の方向)との交差角度θが40度程度(「60度以下」である「45度以下」の交差角度の一例)となるように形成されている。
また、本例のスプリング23では、当接部の先端部P4aと基部31の端部P2との間の長さL1(「第1の長さ」の一例)よりも、連結部32の延在方向(一点鎖線の方向)に沿った端部P2,P3の間の長さL2(「第2の長さ」の一例)が短くなるように形成されている。さらに、本例のスプリング23では、連結部32における上記の長さL2よりも、当接部33の延在方向(二点鎖線の方向)に沿った端部P3および先端部P4aの間の長さL3(「第3の長さ」の一例)が短くなるように形成されている。
この摩擦パッド20の製造に際しては、プレス処理(圧断処理)によって支持板21を形成する。この際には、一例として、支持板21の外形の切り出しと同時に係合用凸状部21aに位置決め用凸部21tを形成する。また、公知の手順に従い、原材料を圧縮して摩擦材22を仮成形する。次いで、支持板21を洗浄した後に、摩擦材22の配設面に接着剤を塗布する。続いて、接着剤の塗布面に摩擦材22を載置して支持板21に摩擦材22を仮止めした状態で加熱圧縮処理を実行することにより、支持板21に摩擦材22を接着する。次いで、必要に応じて、摩擦材22への溝等の形成、支持板21の塗装、および摩擦材22への焼き入れなどの処理を実行する。また、減耗警告用のセンサー(図示せず)を装着する際には、公知の手順に従い、支持板21にセンサを固定する。
また、上記の各処理と並行して、プレス処理(圧断処理)によってステンレススチール製の薄板からスプリング23の中間体(折曲げ加工前のスプリング23)を切り出し、切り出した中間体を折曲げ加工することでスプリング23を製作する。次いで、製作したスプリング23を支持板21に取り付ける。この際には、図2に示すように、支持板21の係合用凸状部21aに形成されている位置決め用凸部21tをスプリング23の基部31における位置決め用孔31h(図7参照)に挿通させ、かつスプリング23の基部31および押さえ部35によって係合用凸状部21aを挟持するようにして支持板21にスプリング23を取り付ける。
この場合、位置決め用凸部21tを位置決め用孔31hに挿通させることで、支持板21に対してパッド戻しスプリング23を確実かつ容易に位置決めすることが可能となり、パッド戻しスプリング23が誤って他の位置(係合用凸状部21a以外の位置)に装着される事態を好適に回避することができる。また、本例のスプリング23では、前述したように、基部31が連結部32や当接部33よりも幅広に形成されている。このため、支持板21にスプリング23が取り付けられて基部31が支持板21(係合用凸状部21a)の裏面に接した状態においては、支持板21に対するスプリング23のぐらつきが回避される。これにより、図1〜3に示すように、摩擦パッド20が完成する。
なお、支持板21に対するスプリング23の取り付け作業については、摩擦パッド20の製造者が実施するだけでなく、製造者がスプリング23を取り付けていない状態の支持板21および摩擦材22とスプリング23とを分離させた状態で出荷し、ブレーキキャリパー10に摩擦パッド20を装着する者(整備工など)が、装着作業に先立って支持板21にスプリング23を取り付けることもできる。
一方、ディスクブレーキ装置1(ブレーキキャリパーシステム2)の使用に際しては、ブレーキキャリパー10(ブラケット11)に摩擦パッド20を取り付ける。なお、このディスクブレーキ装置1(ブレーキキャリパーシステム2)においても、前述した特許文献1に開示されているディスクブレーキと同様にして、ディスクローター3を挟んで一対の摩擦パッド20が対向するように配設されるが、以下、ディスクブレーキ装置1(ブレーキキャリパーシステム2)に関する理解を容易とするために、1対の摩擦パッド20のうちの1つの取り付け、およびその動作について説明する。
まず、ブレーキキャリパー10におけるキャリパー本体をブラケット11から分離させる。次いで、一例として、摩擦パッド20における係合用凸状部21a(スプリング23が取り付けられている側の端部:本例では、ディスクローター3の回転方向における上流側の端部)をブラケット11の案内溝11aに差し込む。続いて、係合用凸状部21bをブラケット11の案内溝11bに差し込む。次いで、一例として、摩擦パッド20における係合用凸状部21a,21bを押して、図8に示す矢印A1の向きでブラケット11に対して摩擦パッド20をスライドさせる。
この際には、同図に示すように、スプリング23における当接部33の先端部P4aがブレーキキャリパー10のブラケット11に当接し、支持板21に接している基部31に対して当接部33の先端部P4aが矢印A2の向きで相対的に移動するようにして連結部32および当接部33が弾性変形させられる。これにより、矢印B1の向きでの付勢力が生じる結果、ブラケット11に対して摩擦パッド20を矢印B2の向き(ディスクローター3から摩擦材22を離間させる離間方向)で移動させようとする力が生じた状態となる。この後、キャリパー本体をブラケット11にセットすることにより、ディスクブレーキ装置1(ブレーキキャリパーシステム2)を使用する準備が整う。なお、実際には、ブレーキグリスの塗布作業や、キャリパー本体におけるピストンの位置調整作業等が実施されるが、これらの作業に関する説明を省略する。
上記のように摩擦パッド20が取り付けられたブレーキキャリパーシステム2(ディスクブレーキ装置1)では、制動時にキャリパー本体の油圧シリンダ内の油圧が上昇させられることでピストンがスライドさせられてブラケット11(ブレーキキャリパー10)に対して摩擦パッド20を矢印A1の向きで移動させる。この際には、支持板21に接している基部31に対して当接部33の先端部P4aが矢印A2の向きで相対的に移動するようにして連結部32や当接部33がさらに弾性変形させられる。これにより、矢印B1の向きでの付勢力が大きくなる結果、ブラケット11に対して摩擦パッド20を矢印B2の向き(ディスクローター3から摩擦材22を離間させる離間方向)で移動させようとする力も大きくなる。
また、ブレーキキャリパー10(ブラケット11)に対する矢印A1の向きへの摩擦パッド20の移動に伴い、図9に示すように摩擦パッド20の摩擦材22がディスクローター3の表面に押し付けられたときには、摩擦材22とディスクローター3との間に生じる摩擦力によってディスクローター3の回転が制限され、これにより、ディスクローター3の回転速度(すなわち、車軸の回転速度)が低下する。一方、制動状態が解除されたとき(制動状態から非制動状態に移行したとき)には、油圧シリンダ内の油圧の低下に伴ってキャリパー本体のピストンが退動させられ、これにより、摩擦パッド20(摩擦材22)のディスクローター3への押付けが解除される。この際に、スプリング23が配設されていない摩擦パッドでは、摩擦材がディスクローター3に接した状態が維持されて、ディスクローター3の回転が妨げられたり、摩擦材の不要な減耗を招くこととなる。
これに対して、スプリング23が配設されている本例の摩擦パッド20では、連結部32や当接部33の弾性変形に伴ってブラケット11に対して摩擦パッド20を矢印B2の向きで移動させようとする力(摩擦材22をディスクローター3から離間させる力)が加わっている。したがって、ディスクローター3への摩擦パッド20(摩擦材22)の押付けが解除された際に、支持板21に接している基部31に対して当接部33の先端部P4aが矢印B1の向きで相対的に移動するようにしてスプリング23(連結部32および当接部33)が弾性復帰し、ブラケット11に対して支持板21が矢印B2の向きで移動させられる。これにより、図8に示すように、支持板21に接着されている摩擦材22がディスクローター3から離間した状態となる。
この場合、本例の摩擦パッド20におけるスプリング23では、前述したように、ステンレススチールの帯板における幅方向に沿って見たときに、基部31の延在方向と連結部32の延在方向との交差角度θが40度程度(「60度以下」である「45度以下」の交差角度の一例)となるように形成されている。このため、本例のスプリング23では、図8,9に示す矢印A2,B1の向きで当接部33の先端部P4aが基部31に対して相対的に移動する際のブラケット11上での先端部P4aの移動量(支持板21の裏面に沿った向きへの移動量)が少量となっている。
具体的には、図10に示すように、本例のスプリング23とは異なり、基部31aの延在方向と連結部32ax(「第1の連結部」に対応する要素)の延在方向との交差角度θaxが60度を超える角度(一例として65度)となるように形成したときには、図示しない先端部P4aの基部31aに対する矢印A2の向きへの相対的な移動に伴って連結部32axが弾性変形させられて、その端部P3xが矢印C1で示すように移動させられて基部31aに対して矢印A2の向きに距離La1だけ相対的に移動させられた際に、端部P3xの矢印C2の向き(ブラケット11の表面に沿った向き)への移動量が距離La2xとなる。このため、この例では、端部P3xに連結されている図示しない「当接部」における先端部P4aの矢印C2の向き(ブラケット11の表面に沿った向き)への移動量が多くなる。
これに対して、本例のスプリング23と同様にして、基部31a(「基部」に対応する要素)の延在方向と連結部32a(「第1の連結部」に対応する要素)の延在方向との交差角度θaを45度以下(一例として40度)としたときには、図示しない先端部P4aの基部31aに対する矢印A2の向きへの相対的な移動に伴って連結部32aが弾性変形させられて、その端部P3が矢印C1で示すように移動させられて基部31aに対して端部P3が矢印A2の向きに距離La1だけ相対的に移動させられた際に、端部P3の矢印C2の向き(ブラケット11の表面に沿った向き)への移動量は、距離La2となる。このため、この例では、端部P3に連結されている図示しない「当接部」における先端部P4aの矢印C2の向き(ブラケット11の表面に沿った向き)への移動量が少量となる。
したがって、「基部」の延在方向と「第1の連結部」の延在方向との交差角度を60度以下(好ましくは、45度以下)とすることにより、「パッド戻しスプリング」の弾性変形時における「当接部の一端部(先端部P4a)」のブラケット11の表面に沿った向きへの移動量を極く少量とすることができる。なお、上記の交差角度を40度程度としたときには、連結部32aの弾性変形時に、端部P3に連結されている「当接部」も連結部32aと共に弾性変形して先端部P4aが矢印C3で示すように基部31aに対して移動するため、端部P3が矢印C2の向きに距離La2だけ移動するのと同時に、先端部P4aが矢印C4の向き(矢印C2の逆向き)に移動する結果、先端部P4aの矢印C2の向きに沿った移動量は、距離La2よりも十分に少ない量となる。
また、本例の摩擦パッド20におけるスプリング23では、前述したように、当接部の先端部P4aと基部31の端部P2との間の長さL1よりも、連結部32の延在方向に沿った端部P2,P3の間の長さL2が短くなるように形成されている。このため、本例のスプリング23では、基部31の延在方向と連結部32の延在方向との交差角度θを十分に小さな角度とすることが可能となっており、これにより、上記したように、ブラケット11の表面に沿った向きへの先端部P4aの移動量を極く少量とすることが可能となっている。
具体的には、図11に示すように、本例のスプリング23と同様にして、当接部33b(「当接部」に対応する要素)の先端部P4aと基部31b(「基部」に対応する要素)の端部P2との間の長さL1bよりも、連結部32b(「第1の連結部」に対応する要素)の延在方向に沿った端部P2,P3の間の長さL2bが短くなるように形成したときには、基部31bの延在方向と連結部32bの延在方向との交差角度θbを十分に小さな角度とすることができる。これに対して、本例のスプリング23や上記の例とは異なり、当接部33bx(「当接部」に対応する要素)の先端部P4aと基部31bの端部P2との間の長さL1bよりも、連結部32bx(「第1の連結部」に対応する要素)の延在方向に沿った端部P2,P3xの間の長さL2bxが長くなるように形成したときには、基部31bの延在方向と連結部32bxの延在方向との交差角度θbxが大きな角度となってしまう。
したがって、「当接部」の一端部と「基部」における「第1の連結部」側の端部との間の「第1の長さ」よりも、「第1の連結部」における「基部」側の端部と「第1の連結部」における「当接部」側の端部との間の「第1の連結部」の延在方向に沿った「第2の長さ」を短くすることにより、「基部」の延在方向と「第1の連結部」の延在方向との交差角度を十分に小さくすることができるのがわかる。
加えて、上記の「第1の長さ」よりも「第2の長さ」を長くしたときには、「第1の連結部」および「当接部」の連結部位(図11における端部P3x)が「基部」から大きく離間した状態となるのに対し、上記の「第1の長さ」よりも「第2の長さ」を短くすることで、「第1の連結部」および「当接部」の連結部位(図11における端部P3)を「基部」の近傍に位置させることが可能となる。これにより、「支持板」からの「パッド戻しスプリング」の突出長(図11における上下方向の長さ)を十分に短くすることが可能となり、「ブレーキキャリパー」に取り付けた状態の「摩擦パッド」において「パッド戻しスプリング」が邪魔となる事態を好適に回避することが可能となる。
さらに、本例の摩擦パッド20におけるスプリング23では、前述したように、連結部32における上記の長さL2よりも、当接部33の延在方向に沿った端部P3および先端部P4aの間の長さL3が短くなるように形成されている。このため、本例のスプリング23では、基部31の延在方向と連結部32の延在方向との交差角度θを十分に小さな角度とすることが可能となっており、これにより、前述したように、ブラケット11の表面に沿った向きへの先端部P4aの移動量を極く少量とすることが可能となっている。
具体的には、図12に示すように、本例のスプリング23と同様にして、連結部32c(「第1の連結部」に対応する要素)の端部P2,P3間の長さよりも当接部33c(「当接部」に対応する要素)の端部P3および先端部P4aの間の長さが短くなるように形成したときには、基部31cの延在方向と連結部32cの延在方向との交差角度θcを十分に小さな角度とすることができる。これに対して、本例のスプリング23や上記の例とは異なり、連結部32cx(「第1の連結部」に対応する要素)の端部P2,P3x間の長さよりも当接部33cx(「当接部」に対応する要素)の端部P3xおよび先端部P4aの間の長さが長くなるように形成したときには、基部31cの延在方向と連結部32cxの延在方向との交差角度θcxが大きな角度となってしまう。
したがって、「第1の連結部」における「基部」側の端部と「第1の連結部」における「当接部」側の端部との間の「第1の連結部」の延在方向に沿った「第2の長さ」よりも、「当接部」における「第1の連結部」側の端部と「当接部」における一端部との間の「当接部」の延在方向に沿った「第3の長さ」を短くすることにより、「基部」の延在方向と「第1の連結部」の延在方向との交差角度を十分に小さくすることができるのがわかる。
このように、この摩擦パッド20では、帯板状の弾性体(本例では、ステンレススチールの帯板)が板厚方向に折曲げ加工されて、支持板21の裏面に接する基部31、ブレーキキャリパー10に先端部P4aが当接させられる当接部33、および基部31の端部P2と当接部33の端部P3とを連結する連結部32が三角形状に配置された状態で一体的に形成されると共に、弾性体の幅方向に沿って見たときに、基部31の延在方向と連結部32の延在方向との交差角度θが60度以下(本例では、40度程度)となり、当接部33の先端部P4aと基部31の端部P2との間の長さL1よりも連結部32の延在方向に沿った端部P2,P3の間の長さL2が短く、かつ当接部33の延在方向に沿った先端部P4aおよび端部P3の間の長さL3が連結部32の上記の長さL2よりも短くなるように形成されたパッド戻しスプリング23が、支持板21におけるディスクローター3の回転方向に沿った両端部の少なくとも一方(本例では、上流側の端部である係合用凸状部21a)に取り付けられている。また、このブレーキキャリパー10システムでは、上記の摩擦パッド20と、ブレーキキャリパー10とを備えて構成されている。
したがって、この摩擦パッド20およびブレーキキャリパー10システムによれば、摩擦パッド20を取り付けたディスクブレーキ装置1が制動状態から非制動状態に移行させられたときに摩擦パッド20におけるパッド戻しスプリング23の弾性復帰力によってディスクローター3から摩擦材22を確実に離間させることができるだけでなく、パッド戻しスプリング23の弾性変形(弾性復帰)の前後において、当接部33における先端部P4aが基部31の延在方向に沿って移動する量を極く少量とすることができるため、板ばね30xの先端部34xがキャリア1xに対して移動するのを規制するための係止片37xを設けた複雑な形状のパッドスプリング5xをキャリア1xに取り付けている従来のディスクブレーキとは異なり、パッドスプリング5xが不要となる分だけ、ディスクブレーキ装置1の製造コストを十分に低減することができる。
また、この摩擦パッド20およびブレーキキャリパー10システムによれば、弾性体の幅方向に沿って見たときに、基部31の延在方向と連結部32の延在方向との交差角度が45度以下(本例では、40度程度)となるようにパッド戻しスプリング23を形成したことにより、パッド戻しスプリング23の弾性変形の前後において、当接部33における先端部P4aが基部31の延在方向に沿って移動する量を一層少量とすることができる。
さらに、この摩擦パッド20およびブレーキキャリパー10システムによれば、連結部32および当接部33よりも基部31が幅広となるようにパッド戻しスプリング23を形成したことにより、支持板21に接している基部31が幅広となっている分だけ、支持板21に対するパッド戻しスプリング23のぐらつきを好適に回避することができる。
また、この摩擦パッド20およびブレーキキャリパー10システムによれば、支持板21における摩擦材22の配設面に接する押さえ部35、および基部31の端部P1と押さえ部35の端部P5とを連結する連結部34を、基部31、連結部32および当接部33と一体的に形成して、押さえ部35および基部31によって支持板21を挟持するようにしてパッド戻しスプリング23を支持板21に取り付ける構成を採用したことにより、例えば、基部31、連結部32および当接部33のみからなる「パッド戻しスプリング」の基部31を支持板21に対してかしめ固定する構成と比較して、パッド戻しスプリング23を支持板21に対して容易に取り付けることができる。また、支持板21にパッド戻しスプリング23を取り付けることなく、支持板21および摩擦材22とパッド戻しスプリング23とを分離させたまま出荷することで、摩擦パッド20が製造者から利用者の手に渡るまで(支持板21にパッド戻しスプリング23を取り付けるまで)、パッド戻しスプリング23が支持板21の裏面から突出した状態とはならないため、摩擦パッド20の輸送中にパッド戻しスプリング23に対して意図しない外力が加わってパッド戻しスプリング23に不可逆的な変形(「パッド戻しスプリング」としての機能が損なわれるような変形)が生じる事態を好適に回避できる。また、摩擦パッド20による占有スペースを十分に小さくすることができる結果、例えば、小さな箱体に支持板21および摩擦材22とパッド戻しスプリング23とを収容した状態で出荷することができるため、摩擦パッド20の販売価格や輸送コストを十分に低減することができる。
さらに、この摩擦パッド20およびブレーキキャリパー10システムによれば、支持板21の裏面におけるパッド戻しスプリング23の取付部(係合用凸状部21a)に位置決め用凸部21tを形成すると共に、パッド戻しスプリング23の基部31に位置決め用凸部21tを挿通可能な位置決め用孔31hを形成したことにより、パッド戻しスプリング23の取付け時における位置決めを確実かつ容易とすることができると共に、支持板21に取り付けたパッド戻しスプリング23が支持板21(係合用凸状部21a)から外れる事態を好適に回避することができる。
なお、「摩擦パッド」および「ブレーキキャリパーシステム」の構成は、上記の摩擦パッド20やブレーキキャリパーシステム2の構成に限定されない。例えば、支持板21におけるディスクローター3の回転方向の上流側に対応する部位だけにスプリング23を取り付けた構成の摩擦パッド20を例に挙げて説明したが、このような構成に代えて(または、このような構成に加えて)、支持板21におけるディスクローター3の回転方向の下流側に対応する部位(例えば、上記の摩擦パッド20における係合用凸状部21b)にスプリング23を取り付けることもできる(図示せず)。
また、基部31および押さえ部35によって支持板21を挟持するようにしてパッド戻しスプリング23を支持板21に取り付ける構成を例に挙げて説明したが、一例として、パッド戻しスプリング23における連結部34および押さえ部35を設けることなく、基部31の位置決め用孔31hを挿通させた位置決め用凸部21tをかしめ加工することで基部31を支持板21の裏面に固定する構成を採用することもできる(図示せず)。
さらに、「基部」の延在方向と「第1の連結部」の延在方向との交差角度は、上記のパッド戻しスプリング23における交差角度θの例に限定されず、60度以下(好ましくは45度以下)の任意の角度とすることができる。この場合、上記の交差角度を30度未満の小さな角度とするには、「第1の連結部」や「当接部」を短尺にする必要が生じるため、制動状態および非制動状態への移行に際して「パッド戻しスプリング」の変形可能量が不足して「支持板」および「摩擦材」を確実に退動させ得るに十分な付勢力を得るのが困難となったり、短尺の「第1連結部」および「当接部」を大きく変形させる必要が生じることから「パッド戻しスプリング」にへたりが生じ易くなったりするおそれがある。したがって、「基部」の延在方向と「第1の連結部」の延在方向との交差角度は、30度以上とするのが好ましい。