[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る方向性結合器の回路構成について説明する。図1に示したように、本実施の形態に係る方向性結合器1は、入力ポート11と、出力ポート12と、結合ポート13と、終端ポート14とを備えている。方向性結合器1は、更に、入力ポート11と出力ポート12を接続する主線路10と、それぞれ主線路10に対して電磁界結合する線路からなる第1の副線路部20A、第2の副線路部20Bおよび第3の副線路部20Cと、第1の整合部30Aと、第2の整合部30Bとを備えている。終端ポート14は、例えば50Ωの抵抗値を有する終端抵抗15を介して接地されている。
第1の副線路部20Aは、互いに反対側に位置する第1の端部20A1および第2の端部20A2を有している。第2の副線路部20Bは、互いに反対側に位置する第1の端部20B1および第2の端部20B2を有している。第3の副線路部20Cは、互いに反対側に位置する第1の端部20C1および第2の端部20C2を有している。第1の整合部30Aは、互いに反対側に位置する第1の端部30A1および第2の端部30A2を有している。第2の整合部30Bは、互いに反対側に位置する第1の端部30B1および第2の端部30B2を有している。
第1の副線路部20Aの第1の端部20A1は、結合ポート13に接続されている。第1の整合部30Aの第1の端部30A1は、第1の副線路部20Aの第2の端部20A2に接続されている。第2の副線路部20Bの第1の端部20B1は、第1の整合部30Aの第2の端部30A2に接続されている。第2の整合部30Bの第1の端部30B1は、第2の副線路部20Bの第2の端部20B2に接続されている。第3の副線路部20Cの第1の端部20C1は、第2の整合部30Bの第2の端部30B2に接続されている。第3の副線路部20Cの第2の端部20C2は、終端ポート14に接続されている。
第1の整合部30Aは、その第1の端部30A1と第2の端部30A2とを接続する第1の経路31Aと、第1の経路31Aとグランドとを接続する第2の経路32Aとを有している。第1の経路31Aは、第1のインダクタL1Aを含んでいる。第1のインダクタL1Aは、互いに反対側に位置する第1の端部L1A1および第2の端部L1A2を有している。ここでは、第1の副線路部20A側の第1のインダクタL1Aの端部を第1の端部L1A1とし、第2の副線路部20B側の第1のインダクタL1Aの端部を第2の端部L1A2とする。
第2の経路32Aは、直列に接続された第1のキャパシタC1Aと第2のインダクタL2Aとを含んでいる。第2のインダクタL2Aは、回路構成上、第1の経路31Aに最も近い第1の端部L2A1と、回路構成上、グランドに最も近い第2の端部L2A2とを有している。第1のキャパシタC1Aは、第1のインダクタL1Aの第1の端部L1A1と第2のインダクタL2Aの第1の端部L2A1との間に設けられている。本実施の形態では、第2の経路32Aは、更に、第1のインダクタL1Aの第2の端部L1A2と第2のインダクタL2Aの第1の端部L2A1との間に設けられた第2のキャパシタC2Aを有している。第2のインダクタL2Aは、0.1nH以上のインダクタンスを有している。第2のインダクタL2Aのインダクタンスは、7nH以下であることが好ましい。
図1には、第1のキャパシタC1Aが、第1のインダクタL1Aの第1の端部L1A1と第2のインダクタL2Aの第1の端部L2A1との間に設けられ、第2のキャパシタC2Aが、第1のインダクタL1Aの第2の端部L1A2と第2のインダクタL2Aの第1の端部L2A1との間に設けられた例を示している。しかし、第1のキャパシタC1Aが、第1のインダクタL1Aの第2の端部L1A2と第2のインダクタL2Aの第1の端部L2A1との間に設けられ、第2のキャパシタC2Aが、第1のインダクタL1Aの第1の端部L1A1と第2のインダクタL2Aの第1の端部L2A1との間に設けられていてもよい。
第2の整合部30Bは、その第1の端部30B1と第2の端部30B2とを接続する第1の経路31Bと、第1の経路31Bとグランドとを接続する第2の経路32Bとを有している。第1の経路31Bは、第1のインダクタL1Bを含んでいる。第1のインダクタL1Bは、互いに反対側に位置する第1の端部L1B1および第2の端部L1B2を有している。ここでは、第3の副線路部20C側の第1のインダクタL1Bの端部を第1の端部L1B1とし、第2の副線路部20B側の第1のインダクタL1Bの端部を第2の端部L1B2とする。
第2の経路32Bは、直列に接続された第1のキャパシタC1Bと第2のインダクタL2Bとを含んでいる。第2のインダクタL2Bは、回路構成上、第1の経路31Bに最も近い第1の端部L2B1と、回路構成上、グランドに最も近い第2の端部L2B2とを有している。第1のキャパシタC1Bは、第1のインダクタL1Bの第1の端部L1B1と第2のインダクタL2Bの第1の端部L2B1との間に設けられている。本実施の形態では、第2の経路32Bは、更に、第1のインダクタL1Bの第2の端部L1B2と第2のインダクタL2Bの第1の端部L2B1との間に設けられた第2のキャパシタC2Bを有している。第2のインダクタL2Bは、0.1nH以上のインダクタンスを有している。第2のインダクタL2Bのインダクタンスは、7nH以下であることが好ましい。
図1には、第1のキャパシタC1Bが、第1のインダクタL1Bの第1の端部L1B1と第2のインダクタL2Bの第1の端部L2B1との間に設けられ、第2のキャパシタC2Bが、第1のインダクタL1Bの第2の端部L1B2と第2のインダクタL2Bの第1の端部L2B1との間に設けられた例を示している。しかし、第1のキャパシタC1Bが、第1のインダクタL1Bの第2の端部L1B2と第2のインダクタL2Bの第1の端部L2B1との間に設けられ、第2のキャパシタC2Bが、第1のインダクタL1Bの第1の端部L1B1と第2のインダクタL2Bの第1の端部L2B1との間に設けられていてもよい。
主線路10は、第1の副線路部20Aと電磁界結合する第1の部分10Aと、第2の副線路部20Bと電磁界結合する第2の部分10Bと、第3の副線路部20Cと電磁界結合する第3の部分10Cとを有している。ここで、主線路10と第1の副線路部20Aの互いに結合する部分、すなわち第1の部分10Aと第1の副線路部20Aとを合わせて第1の結合部40Aと言う。また、主線路10と第2の副線路部20Bの互いに結合する部分、すなわち第2の部分10Bと第2の副線路部20Bとを合わせて第2の結合部40Bと言う。また、主線路10と第3の副線路部20Cの互いに結合する部分、すなわち第3の部分10Cと第3の副線路部20Cとを合わせて第3の結合部40Cと言う。
また、主線路10の第1の部分10Aに対する第1の副線路部20Aの結合の強さを第1の結合部40Aの単独の結合度と言い、主線路10の第2の部分10Bに対する第2の副線路部20Bの結合の強さを第2の結合部40Bの単独の結合度と言い、主線路10の第3の部分10Cに対する第3の副線路部20Cの結合の強さを第3の結合部40Cの単独の結合度と言う。第2の結合部40Bの単独の結合度は、第1の結合部40Aの単独の結合度および第3の結合部40Cの単独の結合度よりも大きくてもよい。
第1および第2の整合部30A,30Bは、終端ポート14が、負荷である終端抵抗15を介して接地され、終端抵抗15の抵抗値(例えば50Ω)と等しい出力インピーダンスを有する信号源が結合ポート13に接続された場合を想定して、信号源と負荷との間のインピーダンス整合を行う回路である。第1および第2の整合部30A,30Bは、上記の場合を想定して、方向性結合器1の使用周波数帯域において、結合ポート13から終端ポート14側を見たときの反射係数の絶対値が0またはその近傍の値になるように設計される。
また、第1の整合部30Aと第2の整合部30Bは、それらを通過する高周波信号に対して位相の変化を生じさせるものであり、且つ、方向性結合器1の結合度の周波数特性において、互いに異なる第1および第2の周波数の位置に第1および第2の減衰極が生じるように互いに特性が異なるものである。第1の整合部30Aと第2の整合部30Bの特性が互いに異なるというのは、具体的には、スミスチャート上おける周波数変化に対する整合部30A,30Bのインピーダンスの変化を表す軌跡が、第1の整合部30Aと第2の整合部30Bとで互いに異なるということである。また、第1の整合部30Aは、第1の減衰極が生じる第1の周波数の信号に対して、180°またはそれに近い大きさの位相の変化、具体的には135°〜225°の範囲内の位相の変化を生じさせる。第2の整合部30Bは、第2の減衰極が生じる第2の周波数の信号に対して、180°またはそれに近い大きさの位相の変化、具体的には135°〜225°の範囲内の位相の変化を生じさせる。
次に、本実施の形態に係る方向性結合器1の作用および効果について説明する。入力ポート11には高周波信号が入力され、この高周波信号は出力ポート12から出力される。結合ポート13からは、入力ポート11に入力された高周波信号の電力に応じた電力を有する結合信号が出力される。
入力ポート11と結合ポート13の間には、第1の結合部40Aを経由する第1の信号経路と、第2の結合部40Bおよび第1の整合部30Aを経由する第2の信号経路と、第3の結合部40C、第2の整合部30Bおよび第1の整合部30Aを経由する第3の信号経路とが形成される。入力ポート11に高周波信号が入力されたとき、結合ポート13から出力される結合信号は、第1の信号経路を通過した信号と第2の信号経路を通過した信号と第3の信号経路を通過した信号とが合成されて得られる信号である。方向性結合器1の結合度は、第1ないし第3の結合部40A,40B,40Cのそれぞれ単独の結合度と、第1の信号経路を通過した信号と第2の信号経路を通過した信号と第3の信号経路を通過した信号の位相の関係とに依存する。
一方、出力ポート12と結合ポート13の間には、第1の結合部40Aを経由する第4の信号経路と、第2の結合部40Bおよび第1の整合部30Aを経由する第5の信号経路と、第3の結合部40C、第2の整合部30Bおよび第1の整合部30Aを経由する第6の信号経路とが形成される。方向性結合器1のアイソレーションは、第1ないし第3の結合部40A,40B,40Cのそれぞれ単独の結合度と、第4の信号経路を通過した信号と第5の信号経路を通過した信号と第6の信号経路を通過した信号の位相の関係とに依存する。
本実施の形態に係る方向性結合器1によれば、方向性結合器1に入力される高周波信号の周波数の変化に伴う方向性結合器1の結合度の変化を抑制することが可能になる。以下、これについて説明する。
第1ないし第3の結合部40A,40B,40Cのそれぞれ単独の結合度は、いずれも、方向性結合器1に入力される高周波信号の周波数が高くなるほど大きくなる。この場合、第1および第2の整合部30A,30Bの各々を通過する際の信号の位相の変化量が一定であると仮定すると、方向性結合器1に入力される高周波信号の周波数が変化すると、結合信号の電力が変化することになる。
一方、第1および第2の整合部30A,30Bの各々を通過する際の信号の位相の変化量は、方向性結合器1に入力される高周波信号の周波数すなわち第1および第2の整合部30A,30Bの各々を通過する信号の周波数によって変化する。この場合、第1ないし第3の結合部40A,40B,40Cのそれぞれ単独の結合度が一定であると仮定すると、方向性結合器1に入力される高周波信号の周波数が変化すると、結合信号の電力が変化することになる。
第1および第2の整合部30A,30Bは、方向性結合器1の使用周波数帯域において、第1および第2の整合部30A,30Bの各々を通過する際の信号の位相の変化量が一定であると仮定した場合に比べて、結合信号の電力の変化が抑制されるように設計される。これにより、方向性結合器1によれば、方向性結合器1に入力される高周波信号の周波数の変化に伴う方向性結合器1の結合度の変化を抑制することが可能になる。
本実施の形態では、第1の整合部30Aと第2の整合部30Bの特性が前述のように互いに異なっていることにより、方向性結合器1の結合度の周波数特性において、互いに異なる第1および第2の周波数の位置に第1および第2の減衰極が生じる。これにより、本実施の形態に係る方向性結合器1によれば、1つの減衰極が生じる結合度の周波数特性に比べて、より広い周波数帯域において、周波数の変化に伴う結合度の変化が抑制された結合度の周波数特性を実現することが可能になる。この効果については、後で更に説明する。なお、第1の周波数と第2の周波数は、それぞれ、方向性結合器1の使用周波数帯域内の周波数であってもよいし、方向性結合器1の使用周波数帯域外の周波数であってもよい。
ここで、図2を参照して、方向性結合器1の使用例について説明する。図2は、方向性結合器1の使用例を示す回路図である。図2は、方向性結合器1を含む送信系回路を示している。図2に示した送信系回路は、方向性結合器1の他に、電力増幅器2と、自動出力制御回路(以下、APC回路と言う。)3と、インピーダンス整合素子5とを備えている。
電力増幅器2は、入力端と出力端とゲイン制御端とを有している。電力増幅器2の入力端には、高周波信号である送信信号が入力されるようになっている。電力増幅器2の出力端は、方向性結合器1の入力ポート11に接続されている。
APC回路3は、入力端と出力端とを有している。APC回路3の入力端は、方向性結合器1の結合ポート13に接続されている。APC回路3の出力端は、電力増幅器2のゲイン制御端に接続されている。
方向性結合器1の出力ポート12は、インピーダンス整合素子5を介してアンテナ4に接続されている。インピーダンス整合素子5は、送信信号がアンテナ4で反射して生じた反射波信号のレベルを十分に小さくするために、送信系回路とアンテナ4との間のインピーダンス整合を行う素子である。方向性結合器1の終端ポート14は、終端抵抗15を介して接地されている。
図2に示した送信系回路では、電力増幅器2によって増幅された送信信号は、方向性結合器1の入力ポート11に入力されて方向性結合器1の出力ポート12から出力される。方向性結合器1の結合ポート13からは、入力ポート11に入力された送信信号のレベルに応じた電力を有する結合信号が出力される。出力ポート12から出力された送信信号は、インピーダンス整合素子5を経て、アンテナ4から発信される。結合ポート13から出力された結合信号は、APC回路3に入力される。APC回路3は、結合ポート13から出力される結合信号のレベルに応じて、電力増幅器2の出力信号のレベルがほぼ一定になるように、電力増幅器2のゲインを制御する。
次に、方向性結合器1の構造の一例について説明する。図3は、方向性結合器1の斜視図である。図3に示した方向性結合器1は、方向性結合器1の構成要素を一体化するための積層体50を備えている。後で詳しく説明するが、積層体50は、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含んでいる。
積層体50は、外周部を有する直方体形状をなしている。積層体50の外周部は、上面50Aと、底面50Bと、4つの側面50C〜50Fとを含んでいる。上面50Aと底面50Bは互いに反対側を向き、側面50C,50Dも互いに反対側を向き、側面50E,50Fも互いに反対側を向いている。側面50C〜50Fは、上面50Aおよび底面50Bに対して垂直になっている。積層体50において、上面50Aおよび底面50Bに垂直な方向が、複数の誘電体層および複数の導体層の積層方向である。図3では、この積層方向を、記号Tを付した矢印で示している。
図3に示した方向性結合器1は、入力端子111と、出力端子112と、結合端子113と、終端端子114と、2つのグランド端子115,116を備えている。入力端子111、出力端子112、結合端子113、終端端子114は、それぞれ、図1に示した入力ポート11、出力ポート12、結合ポート13、終端ポート14に対応している。グランド端子115,116は、グランドに接続される。端子111〜116は、積層体50の底面50Bに配置されている。
次に、図4ないし図10を参照して、積層体50について詳しく説明する。積層体50は、積層された18層の誘電体層を有している。以下、この18層の誘電体層を、上から順に1層目ないし18層目の誘電体層と呼ぶ。図4は、積層体50の内部を示す斜視図である。図5は、積層体50の内部の一部を示す斜視図である。図6において(a)〜(d)は、それぞれ、1層目ないし4層目の誘電体層の上面を示している。図7において(a)〜(d)は、それぞれ、5層目ないし8層目の誘電体層の上面を示している。図8において(a)〜(d)は、それぞれ、9層目ないし12層目の誘電体層の上面を示している。図9において(a)〜(d)は、それぞれ、13層目ないし16層目の誘電体層の上面を示している。図10において(a),(b)は、それぞれ、17層目および18層目の誘電体層の上面を示している。図10(c)は、18層目の誘電体層の下面を示している。図10(c)では、18層目の誘電体層の下面とそこに配置された導体層を、上から見た状態で表している。
図6(a)に示したように、1層目の誘電体層51の上面には、マークとして用いられる導体層511が形成されている。図6(b)に示したように、2層目の誘電体層52の上面には、インダクタL2Aを構成するために用いられる導体層521と、インダクタL2Bを構成するために用いられる導体層522とが形成されている。導体層521,522の各々は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層52には、スルーホール52T5,52T6,52T8,52T9が形成されている。スルーホール52T5は、導体層521における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール52T6は、導体層522における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール52T8は、導体層521における第2端の近傍部分に接続されている。スルーホール52T9は、導体層522における第2端の近傍部分に接続されている。
図6(c)に示したように、3層目の誘電体層53には、スルーホール53T5,53T6,53T8,53T9が形成されている。スルーホール53T5,53T6,53T8,53T9には、それぞれ図6(b)に示したスルーホール52T5,52T6,52T8,52T9が接続されている。
図6(d)に示したように、4層目の誘電体層54の上面には、キャパシタC2Aを構成するために用いられる導体層541と、キャパシタC2Bを構成するために用いられる導体層542とが形成されている。また、誘電体層54には、スルーホール54T3,54T4,54T5,54T6,54T8,54T9が形成されている。スルーホール54T3は、導体層541に接続されている。スルーホール54T4は、導体層542に接続されている。スルーホール54T5,54T6,54T8,54T9には、それぞれ図6(c)に示したスルーホール53T5,53T6,53T8,53T9が接続されている。
図7(a)に示したように、5層目の誘電体層55の上面には、キャパシタC1A,C2Aを構成するために用いられる導体層551と、キャパシタC1B,C2Bを構成するために用いられる導体層552とが形成されている。また、誘電体層55には、スルーホール55T3,55T4,55T8,55T9が形成されている。スルーホール55T3,55T4,55T8,55T9には、それぞれ図6(d)に示したスルーホール54T3,54T4,54T8,54T9が接続されている。図6(d)に示したスルーホール54T5は、導体層551に接続されている。図6(d)に示したスルーホール54T6は、導体層552に接続されている。
図7(b)に示したように、6層目の誘電体層56の上面には、キャパシタC1Aを構成するために用いられる導体層561と、キャパシタC1Bを構成するために用いられる導体層562とが形成されている。また、誘電体層56には、スルーホール56T1,56T2,56T3,56T4,56T5,56T8,56T9が形成されている。スルーホール56T1,56T5は、導体層561に接続されている。スルーホール56T2は、導体層562に接続されている。スルーホール56T3,56T4,56T8,56T9には、それぞれ図7(a)に示したスルーホール55T3,55T4,55T8,55T9が接続されている。
図7(c)に示したように、7層目の誘電体層57の上面には、インダクタL1Aを構成するために用いられる導体層571が形成されている。導体層571は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層57には、スルーホール57T1,57T2,57T3,57T4,57T5,57T8,57T9が形成されている。スルーホール57T1,57T2,57T3,57T4,57T8,57T9には、それぞれ図7(b)に示したスルーホール56T1,56T2,56T3,56T4,56T8,56T9が接続されている。スルーホール57T5は、導体層571における第1端の近傍部分に接続されている。図7(b)に示したスルーホール56T5は、導体層571における第2端の近傍部分に接続されている。
図7(d)に示したように、8層目の誘電体層58の上面には、インダクタL1Aを構成するために用いられる導体層581と、インダクタL1Bを構成するために用いられる導体層582とが形成されている。導体層581,582の各々は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層58には、スルーホール58T1,58T2,58T3,58T4,58T5,58T6,58T8,58T9が形成されている。スルーホール58T1,58T3,58T4,58T8,58T9には、それぞれ図7(c)に示したスルーホール57T1,57T3,57T4,57T8,57T9が接続されている。スルーホール58T2は、導体層582における第1端の近傍部分と、図7(c)に示したスルーホール57T2に接続されている。スルーホール58T5は、導体層581における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール58T6は、導体層582における第2端の近傍部分に接続されている。図7(c)に示したスルーホール57T5は、導体層581における第2端の近傍部分に接続されている。
図8(a)に示したように、9層目の誘電体層59の上面には、インダクタL1Aを構成するために用いられる導体層591と、インダクタL1Bを構成するために用いられる導体層592と、導体層593とが形成されている。導体層591,592の各々は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層59には、スルーホール59T1,59T2,59T5,59T6,59T8,59T9が形成されている。スルーホール59T1,59T8,59T9には、それぞれ図7(d)に示したスルーホール58T1,58T8,58T9が接続されている。スルーホール59T2は、導体層593に接続されている。スルーホール59T5は、導体層591における第1端と第2端の間の部分に接続されている。スルーホール59T6は、導体層592における第1端の近傍部分と、図7(d)に示したスルーホール58T4に接続されている。図7(d)に示したスルーホール58T2は、導体層593に接続されている。図7(d)に示したスルーホール58T3は、導体層591における第1端の近傍部分に接続されている。図7(d)に示したスルーホール58T5は、導体層591における第2端の近傍部分に接続されている。図7(d)に示したスルーホール58T6は、導体層592における第2端の近傍部分に接続されている。
図8(b)に示したように、10層目の誘電体層60には、スルーホール60T1,60T2,60T5,60T6,60T8,60T9が形成されている。スルーホール60T1,60T2,60T5,60T6,60T8,60T9には、それぞれ図8(a)に示したスルーホール59T1,59T2,59T5,59T6,59T8,59T9が接続されている。
図8(c)に示したように、11層目の誘電体層61の上面には、導体層611,612が形成されている。導体層612は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層61には、スルーホール61T1,61T2,61T5,61T6,61T8,61T9が形成されている。スルーホール61T1は、導体層611に接続されている。スルーホール61T2,61T6,61T8,61T9には、それぞれ図8(b)に示したスルーホール60T2,60T6,60T8,60T9が接続されている。スルーホール61T5は、導体層612における第1端の近傍部分に接続されている。図8(b)に示したスルーホール60T1は、導体層611に接続されている。図8(b)に示したスルーホール60T5は、導体層612における第2端の近傍部分に接続されている。
図8(d)に示したように、12層目の誘電体層62の上面には、グランド用導体層621が形成されている。また、誘電体層62には、スルーホール62T1,62T2,62T5,62T6,62T8,62T9が形成されている。スルーホール62T1,62T2,62T5,62T6には、それぞれ図8(c)に示したスルーホール61T1,61T2,61T5,61T6が接続されている。スルーホール62T8,62T9と、図8(c)に示したスルーホール61T8,61T9は、導体層621に接続されている。
図9(a)に示したように、13層目の誘電体層63の上面には、第1の副線路部20Aを構成するために用いられる導体層631と、第3の副線路部20Cを構成するために用いられる導体層632とが形成されている。導体層631,632の各々は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層63には、スルーホール63T3,63T4,63T5,63T6,63T8,63T9が形成されている。スルーホール63T3は、導体層631における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール63T4は、導体層632における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール63T5,63T6,63T8,63T9には、それぞれ図8(d)に示したスルーホール62T5,62T6,62T8,62T9が接続されている。図8(d)に示したスルーホール62T1は、導体層631における第2端の近傍部分に接続されている。図8(d)に示したスルーホール62T2は、導体層632における第2端の近傍部分に接続されている。
図9(b)に示したように、14層目の誘電体層64の上面には、主線路10を構成するために用いられる導体層641が形成されている。導体層641は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層64には、スルーホール64T1,64T2,64T3,64T4,64T5,64T6,64T8,64T9が形成されている。スルーホール64T1は、導体層641における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール64T2は、導体層641における第2端の近傍部分に接続されている。スルーホール64T3,64T4,64T5,64T6,64T8,64T9には、それぞれ図9(a)に示したスルーホール63T3,63T4,63T5,63T6,63T8,63T9が接続されている。
図9(c)に示したように、15層目の誘電体層65には、スルーホール65T1,65T2,65T3,65T4,65T5,65T6,65T8,65T9が形成されている。スルーホール65T1,65T2,65T3,65T4,65T5,65T6,65T8,65T9には、それぞれ図9(b)に示したスルーホール64T1,64T2,64T3,64T4,64T5,64T6,64T8,64T9が接続されている。
図9(d)に示したように、16層目の誘電体層66の上面には、第2の副線路部20Bを構成するために用いられる導体層661が形成されている。導体層661は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層66には、スルーホール66T1,66T2,66T3,66T4,66T8,66T9が形成されている。スルーホール66T1,66T2,66T3,66T4,66T8,66T9には、それぞれ図9(c)に示したスルーホール65T1,65T2,65T3,65T4,65T8,65T9が接続されている。図9(c)に示したスルーホール65T5は、導体層661における第1端の近傍部分に接続されている。図9(c)に示したスルーホール65T6は、導体層661における第2端の近傍部分に接続されている。
図10(a)に示したように、17層目の誘電体層67の上面には、グランド用導体層671が形成されている。また、誘電体層67には、スルーホール67T1,67T2,67T3,67T4,67T8,67T9が形成されている。スルーホール67T1,67T2,67T3,67T4には、それぞれ図9(d)に示したスルーホール66T1,66T2,66T3,66T4が接続されている。スルーホール67T8,67T9と、図9(d)に示したスルーホール66T8,66T9は、導体層671に接続されている。
図10(b)に示したように、18層目の誘電体層68の上面には、導体層681,682,683,684と、グランド用導体層685とが形成されている。また、誘電体層68には、スルーホール68T1,68T2,68T3,68T4,68T8,68T9が形成されている。スルーホール68T1は、導体層681に接続されている。スルーホール68T2は、導体層682に接続されている。スルーホール68T3は、導体層683に接続されている。スルーホール68T4は、導体層684に接続されている。図10(a)に示したスルーホール67T1は、導体層681に接続されている。図10(a)に示したスルーホール67T2は、導体層682に接続されている。図10(a)に示したスルーホール67T3は、導体層683に接続されている。図10(a)に示したスルーホール67T4は、導体層684に接続されている。スルーホール68T8,68T9と、図10(a)に示したスルーホール67T8,67T9は、導体層685に接続されている。
図10(c)に示した18層目の誘電体層68の下面、すなわち積層体50の底面50Bには、入力端子111、出力端子112、結合端子113、終端端子114および2つのグランド端子115,116が形成されている。図10(b)に示したスルーホール68T1は、入力端子111に接続されている。図10(b)に示したスルーホール68T2は、出力端子112に接続されている。図10(b)に示したスルーホール68T3は、結合端子113に接続されている。図10(b)に示したスルーホール68T4は、終端端子114に接続されている。図10(b)に示したスルーホール68T8は、グランド端子115に接続されている。図10(b)に示したスルーホール68T9は、グランド端子116に接続されている。
図3に示した積層体50は、1層目ないし18層目の誘電体層51〜68が積層されて構成される。そして、この積層体50の底面50Bに対して端子111〜116が形成されて、図3に示した方向性結合器1が完成する。なお、図3では、導体層511を省略している。
図4は、積層体50の内部を示している。図5は、積層体50の内部の一部を示している。図5では、導体層631,632よりも上方に位置する複数の導体層を省略している。
以下、図1に示した方向性結合器1の回路の構成要素と、図6ないし図10に示した積層体50の内部の構成要素との対応関係について説明する。主線路10は、図9(b)に示した導体層641によって構成されている。導体層641は、主線路10の第1の部分10Aを構成する第1の部分と、主線路10の第2の部分10Bを構成する第2の部分と、主線路10の第3の部分10Cを構成する第3の部分とを含んでいる。なお、導体層641の一部は、導体層641の第1の部分と第2の部分とに属し、導体層641の他の一部は、導体層641の第3の部分と第2の部分とに属している。
図9(a)に示した導体層631の一部は、誘電体層63を介して、導体層641の第1の部分の上面に対向している。第1の副線路部20Aは、上記の導体層631の一部によって構成されている。
図9(d)に示した導体層661の一部は、誘電体層64,65を介して、導体層641の第2の部分の下面に対向している。第2の副線路部20Bは、上記の導体層661の一部によって構成されている。
図9(a)に示した導体層632の一部は、誘電体層63を介して、導体層641の第3の部分の上面に対向している。第3の副線路部20Cは、上記の導体層632の一部によって構成されている。
第1の整合部30AのインダクタL1Aは、以下のように構成されている。図7(c),(d)および図8(a)に示した導体層571,581,591は、スルーホール57T5,58T5を介して直列に接続されている。インダクタL1Aは、これらの導体層571,581,591と、これらを接続する2つのスルーホール57T5,58T5とによって構成されている。導体層571は、スルーホール56T5、導体層561、スルーホール56T1,57T1,58T1,59T1,60T1、導体層611、スルーホール61T1,62T1を介して、第1の副線路部20Aを構成する導体層631に接続されている。導体層591は、スルーホール59T5,60T5、導体層612、スルーホール61T5,62T5,63T5,64T5,65T5を介して、第2の副線路部20Bを構成する導体層661に接続されている。
第1の整合部30AのキャパシタC1Aは、図7(a),(b)に示した導体層551,561と、それらの間の誘電体層55とによって構成されている。導体層561は、スルーホール56T1,57T1,58T1,59T1,60T1、導体層611、スルーホール61T1,62T1を介して、第1の副線路部20Aを構成する導体層631に接続されている。
第1の整合部30AのキャパシタC2Aは、図6(d)および図7(a)に示した導体層541,551と、それらの間の誘電体層54とによって構成されている。導体層541は、スルーホール54T3,55T3,56T3,57T3,58T3、導体層591、スルーホール59T5,60T5、導体層612、スルーホール61T5,62T5,63T5,64T5,65T5を介して、第2の副線路部20Bを構成する導体層661に接続されている。
第1の整合部30AのインダクタL2Aは、図6(b)に示した導体層521によって構成されている。導体層521における第1端の近傍部分は、スルーホール52T5,53T5,54T5を介して、図7(a)に示した導体層551に接続されている。導体層521における第2端の近傍部分は、スルーホール52T8,53T8,54T8,55T8,56T8,57T8,58T8,59T8,60T8,61T8を介して、図8(d)に示した導体層621に接続されている。
第2の整合部30BのインダクタL1Bは、以下のように構成されている。図7(d)および図8(a)に示した導体層582,592は、スルーホール58T6を介して直列に接続されている。インダクタL1Bは、これらの導体層582,592と、これらを接続するスルーホール58T6とによって構成されている。導体層592は、スルーホール59T6,60T6,61T6,62T6,63T6,64T6,65T6を介して、第2の副線路部20Bを構成する導体層661に接続されている。導体層582は、スルーホール58T2、導体層593、スルーホール59T2,60T2,61T2,62T2を介して、第3の副線路部20Cを構成する導体層632に接続されている。
第2の整合部30BのキャパシタC1Bは、図7(a),(b)に示した導体層552,562と、それらの間の誘電体層55とによって構成されている。導体層562は、スルーホール56T2,57T2,58T2、導体層593、スルーホール59T2,60T2,61T2,62T2を介して、第3の副線路部20Cを構成する導体層632に接続されている。
第2の整合部30BのキャパシタC2Bは、図6(d)および図7(a)に示した導体層542,552と、それらの間の誘電体層54とによって構成されている。導体層542は、スルーホール54T4,55T4,56T4,57T4,58T4,59T6,60T6,61T6,62T6,63T6,64T6,65T6を介して、第2の副線路部20Bを構成する導体層661に接続されている。
第2の整合部30BのインダクタL2Bは、図6(b)に示した導体層522によって構成されている。導体層522における第1端の近傍部分は、スルーホール52T6,53T6,54T6を介して、図7(a)に示した導体層552に接続されている。導体層522における第2端の近傍部分は、スルーホール52T9,53T9,54T9,55T9,56T9,57T9,58T9,59T9,60T9,61T9を介して、図8(d)に示した導体層621に接続されている。
積層体50において、第1および第2の整合部30A,30Bを構成する複数の導体層と、主線路10を構成する導体層641の間には、グランドに接続されたグランド用導体層621が介在している。そのため、第1および第2の整合部30A,30Bは、主線路10に対して電磁界結合しない。
図1に示した方向性結合器1は、第1の整合部30A内の素子と第2の整合部30B内の素子の対であって回路構成上対称な位置にある素子の対を複数含んでいる。すなわち、第1のインダクタL1A,L1Bが対をなし、第2のインダクタL2A,L2Bが対をなし、第1のキャパシタC1A,C1Bが対をなし、第2のキャパシタC2A,C2Bが対をなしている。一方、図6ないし図10に示した積層体50の内部構成では、第1の整合部30Aの構成と第2の整合部30Bの構成は物理的に非対称である。そのため、上記の複数の対のうちの少なくとも1つの対の素子の素子定数は互いに異なっている。これにより、第1の整合部30Aと第2の整合部30Bは互いに特性が異なっている。
以下、比較例の方向性結合器と比較しながら、本実施の形態に係る方向性結合器1の効果について更に説明する。始めに、図11を参照して、比較例の方向性結合器101の回路構成について説明する。比較例の方向性結合器101は、本実施の形態に係る方向性結合器1と同様に、入力ポート11と、出力ポート12と、結合ポート13と、終端ポート14とを備えている。終端ポート14は、例えば50Ωの抵抗値を有する終端抵抗15を介して接地されている。比較例の方向性結合器101は、更に、入力ポート11と出力ポート12を接続する主線路110と、それぞれ主線路110に対して電磁界結合する線路からなる第1の副線路部120Aおよび第2の副線路部120Bと、第1の副線路部120Aと第2の副線路部120Bの間に設けられた整合部130とを備えている。
第1の副線路部120Aは、互いに反対側に位置する第1の端部120A1および第2の端部120A2を有している。第2の副線路部120Bは、互いに反対側に位置する第1の端部120B1および第2の端部120B2を有している。整合部130は、互いに反対側に位置する第1の端部130aおよび第2の端部130bを有している。第1の副線路部120Aの第1の端部120A1は、結合ポート13に接続されている。整合部130の第1の端部130aは、第1の副線路部120Aの第2の端部120A2に接続されている。第2の副線路部120Bの第1の端部120B1は、整合部130の第2の端部130bに接続されている。第2の副線路部120Bの第2の端部120B2は、終端ポート14に接続されている。
整合部130は、その第1の端部130aと第2の端部130bとを接続する第1の経路131と、第1の経路131とグランドとを接続する第2の経路132とを有している。第1の経路131は、第1のインダクタL101を含んでいる。第1のインダクタL101は、互いに反対側に位置する第1の端部L101aおよび第2の端部L101bを有している。
第2の経路132は、直列に接続された第1のキャパシタC101と第2のインダクタL102とを含んでいる。第2のインダクタL102は、回路構成上、第1の経路131に最も近い第1の端部L102aと、回路構成上、グランドに最も近い第2の端部L102bとを有している。第1のキャパシタC101は、第1のインダクタL101の第1の端部L101aと第2のインダクタL102の第1の端部L102aとの間に設けられている。第2の経路132は、更に、第1のインダクタL101の第2の端部L101bと第2のインダクタL102の第1の端部L102aとの間に設けられた第2のキャパシタC102を有している。
主線路110は、第1の副線路部120Aと電磁界結合する第1の部分110Aと、第2の副線路部120Bと電磁界結合する第2の部分110Bとを有している。ここで、主線路110と第1の副線路部120Aの互いに結合する部分、すなわち第1の部分110Aと第1の副線路部120Aとを合わせて第1の結合部140Aと言う。また、主線路110と第2の副線路部120Bの互いに結合する部分、すなわち第2の部分110Bと第2の副線路部120Bとを合わせて第2の結合部140Bと言う。
また、主線路110の第1の部分110Aに対する第1の副線路部120Aの結合の強さを第1の結合部140Aの単独の結合度と言い、主線路110の第2の部分110Bに対する第2の副線路部120Bの結合の強さを第2の結合部140Bの単独の結合度と言う。第2の結合部140Bの単独の結合度は、第1の結合部140Aの単独の結合度よりも大きい。
整合部130は、終端ポート14が、負荷である終端抵抗15を介して接地され、終端抵抗15の抵抗値(例えば50Ω)と等しい出力インピーダンスを有する信号源が結合ポート13に接続された場合を想定して、信号源と負荷との間のインピーダンス整合を行う回路である。整合部130は、上記の場合を想定して、比較例の方向性結合器101の使用周波数帯域において、結合ポート13から終端ポート14側を見たときの反射係数の絶対値が0またはその近傍の値になるように設計される。整合部130は、そこを通過する信号に対して位相の変化を生じさせる。
次に、図12ないし図15を参照して、比較例の方向性結合器101の特性について説明する。図12は、比較例の方向性結合器101における挿入損失の周波数特性を示す特性図である。図12において、横軸は周波数、縦軸は挿入損失である。図13は、比較例の方向性結合器101における結合度の周波数特性を示す特性図である。図13において、横軸は周波数、縦軸は結合度である。図14は、比較例の方向性結合器101におけるアイソレーションの周波数特性を示す特性図である。図14において、横軸は周波数、縦軸はアイソレーションである。図15は、比較例の方向性結合器101における結合ポート13の反射損失の周波数特性を示す特性図である。図15において、横軸は周波数、縦軸は反射損失である。
図13に示したように、比較例の方向性結合器101における結合度の周波数特性では、周波数が約2400MHzの位置に1つの減衰極が生じている。また、方向性結合器101における結合度の周波数特性では、1つの減衰極が生じる周波数よりも高い周波数領域では、周波数が高くなるほど結合度が大きくなっている。
次に、図16ないし図19を参照して、本実施の形態に係る方向性結合器1の特性の一例について説明する。図16は、方向性結合器1における挿入損失の周波数特性を示す特性図である。図16において、横軸は周波数、縦軸は挿入損失である。図17は、方向性結合器1における結合度の周波数特性を示す特性図である。図17において、横軸は周波数、縦軸は結合度である。図18は、方向性結合器1におけるアイソレーションの周波数特性を示す特性図である。図18において、横軸は周波数、縦軸はアイソレーションである。図19は、方向性結合器1における結合ポート13の反射損失の周波数特性を示す特性図である。図19において、横軸は周波数、縦軸は反射損失である。
挿入損失を−x(dB)と表すと、図16に示したように、方向性結合器1では、500〜4000MHzの周波数帯域において、xの値は、0.2以下の、十分に小さな値である。
図17に示したように、方向性結合器1における結合度の周波数特性では、周波数が約2600MHzと約4200MHzの2つの位置に2つの減衰極が生じている。2つの減衰極が生じる2つの周波数は、前述の第1および第2の周波数に対応する。方向性結合器1における結合度の周波数特性は、図13に示した比較例の方向性結合器101における結合度の周波数特性に比べて、より広い周波数帯域において、周波数の変化に伴う結合度の変化が抑制されている。結合度を−c(dB)と表すと、cの値が20以上となる周波数帯域は、比較例の方向性結合器101では約500MHzから約3000MHzの周波数帯域であるのに対し、本実施の形態に係る方向性結合器1では約500MHzから約4700MHzの周波数帯域である。
また、アイソレーションを−i(dB)と表すと、図18に示したように、方向性結合器1では、500〜4000MHzの周波数帯域において、iの値は、40以上の十分な大きさである。
また、結合ポート13の反射損失を−r(dB)と表すと、図19に示したように、方向性結合器1では、500〜4000MHzの周波数帯域において、rの値は、15以上の十分な大きさである。これは、500〜4000MHzの周波数帯域において、結合ポート13から終端ポート14側を見たときの反射係数の絶対値が0またはその近傍の値になっていることを意味している。
図16ないし図19に示した特性を有する方向性結合器1は、少なくとも500〜4000MHzの広い周波数帯域において使用可能である。
以上説明したように、本実施の形態に係る方向性結合器1によれば、1つの減衰極が生じる結合度の周波数特性に比べて、より広い周波数帯域において、周波数の変化に伴う結合度の変化が抑制された結合度の周波数特性を実現することが可能になり、その結果、より広帯域で使用することが可能になる。本実施の形態に係る方向性結合器1は、例えば、CAで用いられる複数の周波数帯域の複数の信号について利用することが可能である。
なお、第1の整合部30A内の第2のインダクタL2Aと第2の整合部30B内の第2のインダクタL2Bは、いずれも、前述のように、0.1nH以上のインダクタンスを有している。一般的に、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含み、電子部品を構成するために用いられる積層体において、グランドに接続される導体層が有する浮遊のインダクタンスは、0.1nH未満である。従って、第2のインダクタL2A,L2Bが有する0.1nH以上のインダクタンスは、浮遊のインダクタンスとは明らかに区別される。
[第2の実施の形態]
次に、図20を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る方向性結合器1について説明する。図20は、本実施の形態に係る方向性結合器1の回路構成を示す回路図である。本実施の形態に係る方向性結合器1では、第1および第2の整合部30A,30Bの構成が第1の実施の形態と異なっている。
本実施の形態における第1の整合部30Aは、第1の実施の形態と同様に、その第1の端部30A1と第2の端部30A2とを接続する第1の経路31Aと、第1の経路31Aとグランドとを接続する第2の経路32Aとを有している。第1の経路31Aは、第1のインダクタL21Aと、第1のインダクタL21Aに対して直列に接続された第3のインダクタL23Aとを有している。
図20には、第1のインダクタL21Aの一端が第1の副線路部20Aの第2の端部20A2に接続され、第3のインダクタL23Aの一端が第2の副線路部20Bの第1の端部20B1に接続され、第1のインダクタL21Aの他端と第3のインダクタL23Aの他端が互いに接続された例を示している。しかし、本実施の形態において、第1のインダクタL21Aと第3のインダクタL23Aの位置は、図20に示した例とは逆であってもよい。
第2の経路32Aは、直列に接続された第1のキャパシタC21Aと第2のインダクタL22Aとを含んでいる。第2のインダクタL22Aは、回路構成上、第1の経路31Aに最も近い第1の端部L22A1と、回路構成上、グランドに最も近い第2の端部L22A2とを有している。第1のキャパシタC21Aは、第1のインダクタL21Aと第3のインダクタL23Aとの接続点と、第2のインダクタL22Aの第1の端部L22A1との間に設けられている。第2のインダクタL22Aは、0.1nH以上のインダクタンスを有している。第2のインダクタL22Aのインダクタンスは、7nH以下であることが好ましい。
本実施の形態における第2の整合部30Bは、第1の実施の形態と同様に、その第1の端部30B1と第2の端部30B2とを接続する第1の経路31Bと、第1の経路31Bとグランドとを接続する第2の経路32Bとを有している。第1の経路31Bは、第1のインダクタL21Bと、第1のインダクタL21Bに対して直列に接続された第3のインダクタL23Bとを有している。
図20には、第1のインダクタL21Bの一端が第3の副線路部20Cの第1の端部20C1に接続され、第3のインダクタL23Bの一端が第2の副線路部20Bの第2の端部20B2に接続され、第1のインダクタL21Bの他端と第3のインダクタL23Bの他端が互いに接続された例を示している。しかし、本実施の形態において、第1のインダクタL21Bと第3のインダクタL23Bの位置は、図20に示した例とは逆であってもよい。
第2の経路32Bは、直列に接続された第1のキャパシタC21Bと第2のインダクタL22Bとを含んでいる。第2のインダクタL22Bは、回路構成上、第1の経路31Bに最も近い第1の端部L22B1と、回路構成上、グランドに最も近い第2の端部L22B2とを有している。第1のキャパシタC21Bは、第1のインダクタL21Bと第3のインダクタL23Bとの接続点と、第2のインダクタL22Bの第1の端部L22B1との間に設けられている。第2のインダクタL22Bは、0.1nH以上のインダクタンスを有している。第2のインダクタL22Bのインダクタンスは、7nH以下であることが好ましい。
本実施の形態における第1および第2の整合部30A,30Bは、第1の実施の形態における第1および第2の整合部30A,30Bと同様の機能を有する。第1の実施の形態と同様に、第1の整合部30Aと第2の整合部30Bは互いに特性が異なっている。本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
[第3の実施の形態]
次に、図21を参照して、本発明の第3の実施の形態に係る方向性結合器1について説明する。図21は、本実施の形態に係る方向性結合器1の回路構成を示す回路図である。本実施の形態に係る方向性結合器1では、第1の整合部30Aと第2の整合部30Bの各々を、インダクタおよびキャパシタを用いずに、線路で構成している。以下、第1の整合部30Aを構成する線路を第1の線路と呼び、符号35Aで表す。また、第2の整合部30Bを構成する線路を第2の線路と呼び、符号35Bで表す。
第1および第2の線路35A,35Bは、第1の実施の形態における第1および第2の整合部30A,30Bと同様の機能を有する。すなわち、第1の線路35Aと第2の線路35Bは、それらを通過する高周波信号に対して位相の変化を生じさせるものであり、且つ、方向性結合器1の結合度の周波数特性において、互いに異なる第1および第2の周波数の位置に第1および第2の減衰極が生じるように互いに特性が異なるものである。第1の線路35Aは、第1の減衰極が生じる第1の周波数の信号に対して、180°またはそれに近い大きさの位相の変化、具体的には135°〜225°の範囲内の位相の変化を生じさせる。第2の線路35Bは、第2の減衰極が生じる第2の周波数の信号に対して、180°またはそれに近い大きさの位相の変化、具体的には135°〜225°の範囲内の位相の変化を生じさせる。第1の線路35Aと第2の線路35Bの特性を互いに異ならせることは、例えば、第1の線路35Aと第2の線路35Bの長さを互いに異ならせることによって実現することができる。
次に、図22ないし図25を参照して、本実施の形態に係る方向性結合器1の特性の一例について説明する。図22は、方向性結合器1における挿入損失の周波数特性を示す特性図である。図22において、横軸は周波数、縦軸は挿入損失である。図23は、方向性結合器1における結合度の周波数特性を示す特性図である。図23において、横軸は周波数、縦軸は結合度である。図24は、方向性結合器1におけるアイソレーションの周波数特性を示す特性図である。図24において、横軸は周波数、縦軸はアイソレーションである。図25は、方向性結合器1における結合ポート13の反射損失の周波数特性を示す特性図である。図25において、横軸は周波数、縦軸は反射損失である。
挿入損失を−x(dB)と表すと、図22に示したように、本実施の形態に係る方向性結合器1では、500〜4000MHzの周波数帯域において、xの値は、0.2以下の、十分に小さな値である。
図23に示したように、本実施の形態に係る方向性結合器1における結合度の周波数特性では、周波数が約2300MHzと約3800MHzの2つの位置に2つの減衰極が生じている。2つの減衰極が生じる2つの周波数は、第1の実施の形態において説明した第1および第2の周波数に対応する。本実施の形態に係る方向性結合器1における結合度の周波数特性は、図13に示した比較例の方向性結合器101における結合度の周波数特性に比べて、より広い周波数帯域において、周波数の変化に伴う結合度の変化が抑制されている。結合度を−c(dB)と表すと、cの値が20以上となる周波数帯域は、比較例の方向性結合器101では約500MHzから約3000MHzの周波数帯域であるのに対し、本実施の形態に係る方向性結合器1では約500MHzから約4300MHzの周波数帯域である。
また、アイソレーションを−i(dB)と表すと、図24に示したように、本実施の形態に係る方向性結合器1では、500〜4000MHzの周波数帯域において、iの値は、50以上の十分な大きさである。
また、結合ポート13の反射損失を−r(dB)と表すと、図25に示したように、本実施の形態に係る方向性結合器1では、500〜5000MHzの周波数帯域において、rの値は、30以上の十分な大きさである。これは、500〜5000MHzの周波数帯域において、結合ポート13から終端ポート14側を見たときの反射係数の絶対値が0またはその近傍の値になっていることを意味している。
図22ないし図25に示した特性を有する本実施の形態に係る方向性結合器1は、少なくとも500〜4000MHzの広い周波数帯域において使用可能である。
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、本発明における第1および第2の整合部の構成は、各実施の形態に示したものに限定されず、特許請求の範囲に記載された要件を満たすことを前提として、種々の変更が可能である。