JP6133091B2 - ピッチ系炭素繊維およびその製造方法 - Google Patents
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Description
さらにまた、熱可塑性樹脂と炭素源樹脂との混合による溶融紡糸法(特許文献7、特許文献8、特許文献9)も報告されている。
本発明の別の目的は、導電性に優れる炭素繊維を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、平均直径の小さい極細炭素繊維を提供することである。
本発明の他の目的は、分散助剤を用いなくとも、単独で水系溶媒中に分散することが可能な炭素繊維を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、導電性に優れ、且つ水系溶媒中にも良好に分散性する極細炭繊維を提供することである。
前記ピッチ系炭素繊維は、ラマンスペクトルにおけるDバンドとGバンドの強度比Id/Igが0.1以上0.5未満であってもよく、また、X線回折法における結晶格子面間隔が0.37nm以下であってもよい。さらにまた、体積固有抵抗値が5×10−2Ω・m以下であってもよい。
溶融しうるポリビニルアルコール系ポリマー(例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体)とピッチとを溶融混練し、混合樹脂を得る混練工程と、
この混合樹脂を溶融紡糸して、ピッチを島成分として、ポリビニルアルコール系ポリマーを海成分として備える海島型複合繊維を得る紡糸工程と、
この海島型複合繊維に対して不融化処理を施す不融化工程と、
不融化された海島型複合繊維を熱処理し、ポリビニルアルコール系ポリマーを熱分解して、炭素繊維前駆体を得る熱分解工程と、
この炭素繊維前駆体を炭素化および黒鉛化してピッチ系炭素繊維を得る工程と、
を備える。
前記製造方法では、溶融紡糸が150〜350℃で行われてもよい。また、黒鉛化処理が1200℃〜3000℃で行われてもよい。
さらに、前記製造方法は、紡糸工程で得られた紡糸原糸をさらに延伸する延伸工程を備え、この延伸糸に対して不融化処理が行われてもよい。
また、本発明の第3の実施形態は、ピッチ系炭素繊維で構成された導電性布帛を包含し、本発明の第4の実施形態は、ピッチ系炭素繊維で構成された導電性材料を包含する。
また、海島型複合繊維を利用することにより、平均直径の小さい極細炭素繊維を製造することである。
さらに、黒鉛化処理の条件などを調節することにより、導電性に特に優れる炭素繊維を得ることができる。
このような炭素繊維は、分散助剤を用いなくとも、単独で水系溶媒中に分散することが可能となる。
本発明は、ピッチ系炭素繊維であって、その表面に存在する酸素原子に由来して、X線光電子分光装置によって測定される炭素繊維表面の炭素原子に対する酸素原子の存在比を意味する表面酸素濃度比(O/C)が0.02以上である。
(混練工程)
本発明の繊維の製造方法について説明する。まずあらかじめ溶融しうるポリビニルアルコール系ポリマー(以下、PVA系ポリマーと略する場合がある)とピッチを溶融混練し、混合樹脂を作製する。
ピッチとは、石炭や石油の蒸留残渣や、ナフタレンやフェナントレンなどの多環芳香族炭化水素などから得られたものであり、溶融状態で光学的等方性を示す等方性ピッチと、溶融状態で光学的異方性相(液晶相)を形成しうる異方性ピッチ(またはメソフェーズピッチ)のいずれであってもよい。結晶性が高く、導電性を向上できる観点からは、メソフェーズピッチが好ましい。使用するピッチのメソフェーズ率は特に限定されないが、高結晶性、高炭化率の炭素繊維が得られるという観点から、ピッチのメソフェーズ率は、例えば70〜100%、好ましくは90〜100%であってもよい。なお、メソフェーズピッチのメソフェーズ率は、溶融状態にあるピッチを偏光顕微鏡で観察することで判断することができる。
溶融混練の時間はPVA系ポリマーとピッチの混合比率、目的とする繊維径によって適宜選択され、特に限定されない。
次いで、混練工程において得られた混合樹脂を溶融紡糸して、紡糸原糸が得られる。
溶融紡糸の方法は、公知の方法を用いることができる。溶融紡糸時の温度は、特に限定はされないが、150℃〜350℃の範囲であることが好ましく、180℃〜330℃の範囲であることがより好ましい。紡糸口金の孔径は目的とする繊維径により適宜選択されるが、好ましくは0.1〜1.0mm、より好ましくは0.2〜0.5mmである。
さらに紡糸口金より得られた繊維を、溶融状態もしくは軟化状態において延伸することによって、ピッチ成分をさらに伸長、配向させることができる。延伸倍率は、例えば、1.1〜30倍の広い範囲から選ぶことができ、好ましくは3〜20倍、より好ましくは5〜15倍であってもよい。延伸倍率を適宜選択することにより、海島型複合繊維および島成分の平均直径を制御することが可能となる。
次に、このようにして得られた海島型複合繊維に対して不融化処理を施し、繊維中のピッチ成分に熱安定性を付与する。不融化処理は、空気、酸素、オゾン、二酸化窒素、ハロゲン等のガス気流下における熱処理によって行われるが、取り扱い性の容易さから空気もしくは酸素の単独ガスまたはこれらを含む混合ガスであることが好ましい。ガス気流下における不融化の具体的な方法としては、好ましくは100〜350℃、より好ましくは130〜300℃の温度において、0.5〜24時間程度熱処理することが好ましい。
ついで、不融化された海島型複合繊維から海成分であるPVA系ポリマーを熱分解することによりピッチ系炭素繊維前駆体を得る。PVA系ポリマーの熱分解は、例えば、不活性ガス雰囲気下において、300〜600℃(好ましくは400〜550℃)として0.5〜10時間(好ましくは0.5〜5時間)処理することによって達成される。不活性ガスには二酸化炭素、窒素、アルゴン等のガスが使用されるが、窒素が特に好ましい。この処理によって大部分のPVA系ポリマーは熱分解により除去されるが、PVA系ポリマーの一部は、表面に官能基を有した非晶性炭素としてピッチ系炭素繊維前駆体に残存する。
上記のようにして得たピッチ系炭素繊維前駆体をさらに不活性ガス雰囲気下で炭素化することにより、本発明におけるピッチ系炭素繊維が得られる。炭素化は最高到達温度500℃〜1500℃であることが好ましく、600℃〜1000℃であることが更に好ましい。炭素化した繊維はさらに1200℃〜3000℃、より好ましくは1500℃〜2500℃程度の温度で黒鉛化処理することにより、黒鉛化繊維とすることができる。このとき処理温度が1200℃以下では高い導電性能を有する高結晶性炭素繊維が得られず、3000℃以上では表面官能基の残存量が極めて少なくなり、良好な分散性が得られにくい。
または、海島型複合繊維でいったん織布または不織布を作製し、その織布または不織布を用いて、不融化処理、熱分解処理、炭素化・黒鉛化処理することにより、本発明のピッチ系炭素繊維を得てもよい。
得られたピッチ系炭素繊維は、PVA系ポリマーに由来して、表面にヒドロキシル基または/およびカルボキシル基等の酸素原子を有する極性官能基をその表面に有している。そのため、X線光電子分光装置によって測定される炭素繊維表面の炭素原子に対する酸素原子の存在比を意味する表面酸素濃度比(O/C)が、0.02以上である。好ましくは、表面酸素濃度比(O/C)は0.025以上、より好ましくは0.03以上であってもよい。
このような表面酸素濃度を有することにより、ピッチ系炭素繊維であっても、炭素繊維自身の性質により、水や水系溶媒に対する良好な分散性を達成することが可能となる。
ここで、表面酸素濃度比(O/C)は、後述する実施例に記載された方法により測定された値を示す。
得られた極細炭素繊維を使用する際、その繊維の平均繊維径が小さすぎると工程通過性や生産性に乏しいため好ましくなく、大きすぎると分散性に悪影響を与える虞がある。
例えば、分散性を高める観点から、炭素繊維は、平均繊維長が10μm以下であってもよく、好ましくは7μm以下であってもよく、より好ましくは5μm以下であってもよい。ここで、平均繊維長は、後述する実施例に記載された方法により測定された値を示す。
例えば、導電性に優れる場合、ピッチ系炭素繊維は、ラマンスペクトルにおけるDバンドとGバンドの強度比Id/Igが例えば0.05〜0.50であってもよく、好ましくは0.08〜0.40、より好ましくは0.10〜0.30であってもよい。ここで、DバンドとGバンドの強度比Id/Igは、後述する実施例に記載された方法により測定された値を示す。
また、このようにして得られる本発明のピッチ系炭素繊維は、導電性布帛を作製するために有用に用いられる。例えば、導電性布帛は、(i)炭素繊維前駆体の状態で布帛とし、それを炭素化、黒鉛化することにより得られた導電性布帛であってもよく、(ii)長繊維からなる炭素繊維を一部または全部に用いて得られた導電性布帛であってもよく、また、(iii)ピッチ系炭素繊維からなる短繊維を布帛基材に混合して得られた導電性布帛であってもよい。なお上記(iii)の場合、混合比率としては布帛全体に対し0.1〜10%であることが導電性向上効果の点から好ましい。
布帛としては、織物、編物、織編物、不織布などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
本発明のピッチ系炭素繊維は、導電性を有するとともに、表面官能基に由来する樹脂への分散性や、水系溶媒に対する良好な親和性を有する。そのため、従来炭素繊維の適用が困難であった各種分野において、導電性材料として好適に用いることができる。例えば、そのような導電性材料としては、樹脂への導電性付与剤、電磁波シールド材、電極の導電付与材等が挙げられる。
繊維の表面酸素濃度比(O/C)は、次の手順に従ってX線光電子分光装置(XPS)によって求めることができる。測定には、アルバック・ファイ(株)製Quantera SXMを使用した。X線源を単色化したAlKα線(25W 15kV)、光電子取り出し角度45度として測定を行った。結合エネルギーはC1sスペクトルにおけるC−Cに帰属されるシグナルのピークトップ位置を284.8eVに合わせて補正を行った。O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲でShirleyの方法に従ってベースラインを引くことにより求め、C1sピーク面積は、282〜292eVの範囲でShirleyの方法に従ってベースラインを引くことにより求めた。繊維表面の表面酸素濃度比O/Cは、上記O1sピーク面積およびC1sピーク面積をそれぞれの装置に固有の感度係数で補正した強度の比から計算して求められる。
Id/Igは、次の手順に従ってレーザーラマン装置によって求めることができる。測定には、(株)堀場製作所製LabRAM ARAMIS(レーザー波長532nm、照射時間:10秒、積算回数:5回)を使用した。Id/Igは、得られたラマンスペクトルをピーク分離した後、1580cm−1のGバンド強度に対する1360cm−1のDバンド強度の比によって求められる。
結晶格子面間隔d(002)は、広角X線回折装置によって求めることができる。測定には(株)リガク製Smartlabを使用し、CuKα線をX線源として測定した。封入管電圧は45kV、電流は200mAとした。測定により得られた回折プロファイルより、回折角2θ=24〜26度付近に現れる炭素002面に対応した回折ピークより、ブラッグの式を用いて算出することができる。
体積固有抵抗値は、試料を直径0.5cmの円筒中で圧密し、両端に10Vの電圧をかけた際の抵抗値から、以下の式により算出した。抵抗値の測定には三和電気計器(株)製デジタルマルチメーターPM3を使用した。
体積固有抵抗値(Ωcm)=抵抗値(Ω)×試料の断面積(cm2)/試料間の長さ(cm)
黒鉛化を経たピッチ系炭素繊維を走査型電子顕微鏡を用いて観察および写真撮影を行い、無作為に選択された10箇所の繊維径の平均値を平均繊維径とした。
黒鉛化を経たピッチ系炭素繊維を走査型電子顕微鏡を用いて観察および写真撮影を行い、無作為に選択された10箇所の繊維長の平均値を平均繊維長とした。
水100部に対して、実施例または比較例で得られた繊維0.1部を添加し、その繊維を10秒間撹拌後静置し、10分間経過後の分散状態を目視により判断した。
エチレン変性量が44モル%、けん化度99.5mol%のエチレン−ビニルアルコール系重合体(融点:161℃)と、軟化点170℃のメソフェーズピッチ(JFEケミカル社製MCP−165)とを250℃で溶融混練し、エチレン−ビニルアルコール系重合体とメソフェーズピッチの混合物を得た。エチレン−ビニルアルコール系重合体とメソフェーズピッチとの混合比は重量比で95/5であった。これを二軸押出機にて240℃で溶融紡糸し、海成分がエチレン−ビニルアルコール系重合体、島成分がメソフェーズピッチである海島型複合繊維を得た。得られた繊維の繊維径は70μmであった。これを空気中において150℃で5時間保持し、さらに230℃で3時間保持することによって不融化繊維を得た。
さらに、アルゴンガス雰囲気下において2800℃まで焼成することにより、極細炭素繊維を得た。得られた極細炭素繊維は、繊維の平均直径が1.0μm、平均繊維長が2μmであり、O/C値が0.036であった。また、ラマンスペクトルにおけるDバンドとGバンドの強度比Id/Igは0.132であり、X線回折法における結晶格子面間隔は0.340nmであった。
実施例1と同様の方法にて溶融混練、溶融紡糸して得られた繊維を、全延伸倍率が10倍となるように延伸し、繊維径50μmの海島型複合繊維を得た。これを実施例1と同様の方法にて不融化繊維とした。さらにアルゴンガス雰囲気下において2800℃まで焼成することにより、高結晶性極細炭素繊維を得た。得られた極細炭素繊維は、繊維の平均直径が0.8μm、平均長さが4μmであり、O/C値が0.035であった。また、ラマンスペクトルにおけるDバンドとGバンドの強度比Id/Igは0.133であり、X線回折法における結晶格子面間隔は0.339nmであった。
アルゴンガス雰囲気下における焼成温度を1000℃とした以外は、実施例1と同様の方法にて極細炭素繊維を得た。得られた極細炭素繊維は、繊維の平均直径が1.0μm、平均長さが2μmであり、O/C値が0.217であった。また、ラマンスペクトルにおけるDバンドとGバンドの強度比Id/Igは1.05であり、X線回折法における結晶格子面間隔は0.361であった。
得られた繊維の体積固有抵抗値を測定したところ、0.102Ω・cmであった。得られた繊維を水100部に対して0.1部添加し、実施例1と同様に分散状態を目視にて確認したところ、全体に均一に分散されており良好な分散状態であった(図3)。
アルゴンガス雰囲気下における焼成温度を1000℃とした以外は、実施例2と同様の方法にて機極細炭素繊維を得た。得られた極細炭素繊維は、繊維の平均直径が0.8μm、平均長さが4μmであり、O/C値が0.190であった。また、ラマンスペクトルにおけるDバンドとGバンドの強度比Id/Igは1.01であり、X線回折法における結晶格子面間隔は0.361であった。
得られた繊維の体積固有抵抗値を測定したところ、0.101Ω・cmであった。得られた繊維を水100部に対して0.1部添加し、実施例1と同様に分散状態を目視にて確認したところ、全体に均一に分散されており良好な分散状態であった(図4)。
繊維の平均直径が0.15μm、O/C値が0.009、ラマンスペクトルにおけるDバンドとGバンドの強度比Id/Igが0.101、X線回折法における結晶格子面間隔が0.339nmである気相成長極細炭素繊維(昭和電工株式会社製VGCF−H)の体積固有抵抗値を測定したところ、0.008Ω・cmであった。さらにこの繊維を水100部に対して0.1部添加し、実施例1と同様に分散状態を目視にて確認したところ、凝集物が観察され、全体に均一には分散されなかった(図5)。
Claims (13)
- ピッチ系炭素繊維であって、
炭素繊維表面に、酸素原子を有する極性官能基を有する非晶性炭素を有しているとともに、
X線光電子分光装置によって測定される炭素繊維表面の炭素原子に対する酸素原子の存在比を意味する表面酸素濃度比(O/C)が0.02以上である、水系溶媒用のピッチ系炭素繊維。 - 請求項1のピッチ系炭素繊維において、ラマンスペクトルにおけるDバンドとGバンドの強度比Id/Igが0.1以上0.5未満であり、および
X線回折法における結晶格子面間隔が0.37nm以下であるピッチ系炭素繊維。 - 請求項1または2のピッチ系炭素繊維において、平均繊維径が0.01〜10μmであるピッチ系炭素繊維。
- 請求項1〜3のいずれか一項のピッチ系炭素繊維において、体積固有抵抗値が5×10−2Ω・m以下であるピッチ系炭素繊維。
- 請求項1〜4のいずれか一項のピッチ系炭素繊維において、メソフェーズピッチ系炭素繊維であるピッチ系炭素繊維。
- 請求項1〜5のいずれか一項のピッチ系炭素繊維において、平均繊維長が10μm以下であるピッチ系炭素繊維。
- 溶融しうるポリビニルアルコール系ポリマーとピッチとを溶融混練し、混合樹脂を得る混練工程と、
この混合樹脂を溶融紡糸して、ピッチを島成分として、ポリビニルアルコール系ポリマーを海成分として備える海島型複合繊維を得る紡糸工程と、
この海島型複合繊維に対して不融化処理を施す不融化工程と、
不融化された海島型複合繊維を熱処理し、ポリビニルアルコール系ポリマーを熱分解するとともに、ポリビニルアルコール系ポリマーの一部が、表面に官能基を有した非晶性炭素として残存している炭素繊維前駆体を得る熱分解工程と、
この炭素繊維前駆体を炭素化および黒鉛化してピッチ系炭素繊維を得る工程と、
を備えるピッチ系炭素繊維の製造方法。 - 請求項7の製造方法において、溶融紡糸が150〜350℃で行われる製造方法。
- 請求項7または8の製造方法において、
溶融しうるポリビニルアルコール系ポリマーが、エチレン−ビニルアルコール共重合体である製造方法。 - 請求項7〜9のいずれか一項の製造方法において、紡糸工程で得られた紡糸原糸をさらに延伸する延伸工程を備え、この延伸糸に対して不融化処理が行われる製造方法。
- 請求項7〜10のいずれか一項の製造方法において、黒鉛化処理が1200℃〜3000℃で行われる製造方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載のピッチ系炭素繊維で構成された導電性布帛。
- 請求項1〜6のいずれかに記載のピッチ系炭素繊維で構成された導電性材料。
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