以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
また、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
(実施の形態1)
角速度センサは、例えば、x方向(駆動方向)に常に駆動振動している励振素子である質量体において、この質量体が駆動振動しているx方向と直交するz方向回りに角速度(回転)が印加された場合、x方向に駆動振動している質量体が、x方向およびz方向に直交するy方向(検出方向)に、外部から印加された角速度に比例した大きさで振動するコリオリ現象を利用して角速度を検出するセンサである。特に、本実施の形態1における角速度センサは、それぞれ異なる検出方向の角速度を測定することを想定している。すなわち、本実施の形態1における技術的思想は、z方向回りの角速度だけでなく、y方向回りの角速度も検出することができる多軸の角速度センサに関するものである。このような多軸の角速度センサは、例えば、横滑り防止システムと横転検知システムの両方を搭載した自動車に使用される。
図1は、x方向、y方向およびz方向のそれぞれと自動車CARの位置関係を示す模式図である。図1に示すように、例えば、自動車CARの側面と垂直な方向をx方向と定義し、自動車CARの進行方向と並行する方向をy方向と定義する。また、自動車CARの上面と垂直な方向をz方向と定義することにする。図1において、自動車CARの横滑り防止システムでは、地面から垂直となるz方向周りの回転を検知することになる一方、自動車CARの横転検知システムでは、地面と水平となるy方向周りの回転を検知することになる。以下に示す実施の形態1では、y方向回りの角速度とz方向回りの角速度とを検出する多軸の角速度センサについて説明することにする。
<実施の形態1における角速度センサの全体構成>
まず、本実施の形態1における角速度センサの全体構成について、図面を参照しながら説明する。図2は、本実施の形態1における角速度センサS1の全体構成を示す断面図である。図2に示すように、本実施の形態1における角速度センサS1は、リードLDと同じ構成材料から形成されたチップ搭載部TAB上に、接着材ADH1を介して半導体チップCHP1が搭載されている。そして、この半導体チップCHP1上には、接着材ADH2を介して、センサエレメントSEが搭載されている。
このとき、半導体チップCHP1には、例えば、MISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)などに代表される半導体素子や多層配線からなる集積回路が形成されている。一方、センサエレメントSEには、半導体微細加工技術を使用することにより、例えば、多軸の角速度センサを構成する構造体が形成されている。つまり、本実施の形態1における角速度センサS1は、集積回路が形成された半導体チップCHP1と、多軸の角速度センサS1を構成する構造体が形成されたセンサエレメントSEを有し、半導体チップCHP1とセンサエレメントSEを電気的に接続することにより、多軸の角速度センサS1が構成されていることになる。
したがって、例えば、センサエレメントSEと半導体チップCHP1は、例えば、図2に示すように、金属線からなるワイヤW1で電気的に接続され、半導体チップCHP1とリードLDは、例えば、金属線からなるワイヤW2で電気的に接続されている。
これにより、センサエレメントSEに形成されている構造体において、励振素子が振動した状態で角速度が印加されると、角速度に起因したコリオリ素子の変位が生じるとともに、センサエレメントSE内に設けられた角速度検出部で、このコリオリ素子の変位を電気容量の変化として捉えるようになっている。そして、センサエレメントSE内の角速度検出部で検出された電気容量の変化は、センサエレメントSEとワイヤW1で電気的に接続されている半導体チップCHP1へ出力され、半導体チップCHP1内に形成されている信号処理回路で信号処理される。その後、半導体チップCHP1とワイヤW2で電気的に接続されているリードLDへ角速度信号が出力されるようになっている。
さらに、本実施の形態1における角速度センサS1では、センサエレメントSE、半導体チップCHP1、ワイヤW1、ワイヤW2、および、リードLDの一部が、例えば、熱硬化性樹脂からなる樹脂MRで封止されている。このように構成されている本実施の形態1における角速度センサS1は、例えば、横滑り防止システムと横転検知システムに代表される上位のシステムに組み込まれ、検出した角速度信号を上位システムに供給するように構成されている。
<実施の形態1におけるセンサエレメントの断面構成>
続いて、本実施の形態1におけるセンサエレメントSEの断面構成について説明する。図3は、本実施の形態1におけるセンサエレメントSEの断面構成を示す模式図である。図3において、本実施の形態1におけるセンサエレメントSEは、例えば、酸化シリコン膜からなる絶縁膜1aが形成された基板1Sを有し、シリコンからなる基板1Sの表面には溝DITが形成されている。この基板1Sは、励振方向であるx方向と励振方向と直交する第1検出方向であるy方向とを面内に含む裏面を有し、かつ、x方向およびy方向と直交するz方向を厚さ方向としている。そして、この基板1Sの表面上に、例えば、シリコン層からなるデバイス層DLが形成されている。このデバイス層DLもx方向とy方向を含む平面を有している。すなわち、デバイス層DLは、基板1Sの裏面と並行するように、基板1Sの表面の上方に配置されている。このデバイス層DLには、例えば、図3に示すように、コリオリ素子CE1、コリオリ素子CE2、梁BMおよび固定部FUが形成されている。つまり、本実施の形態1におけるセンサエレメントSEにおいては、コリオリ素子CE1、コリオリ素子CE2、梁BMおよび固定部FUが同一のデバイス層DLに形成されていることになる。そして、コリオリ素子CE1、コリオリ素子CE2および梁BMは、空間SP上に懸架されるように配置される一方、固定部FUは絶縁膜1aを介して基板1Sの表面に固定されている。
さらに、図3において、デバイス層DL上には、キャップCAPが配置されている。このキャップCAPと基板1Sの間には空間SPが設けられており、この空間SPの内部にコリオリ素子CE1、コリオリ素子CE2、梁BMおよび固定部FUが形成されているデバイス層DLが配置されていることになる。そして、キャップCAPには、貫通ビア(プラグ)VAが形成されており、この貫通ビアVAは、例えば、デバイス層DLに形成された固定部と接続されている。
また、キャップCAPには、角速度検出部YSU2を構成する固定電極FEが形成されており、この固定電極FEとコリオリ素子CE2によって静電容量素子からなる角速度検出部YSU2が構成されることになる。つまり、本実施の形態1においては、コリオリ素子CE2は、y方向回りの角速度が印加された場合に、コリオリ力によってz方向に変位するように構成されており、このz方向の変位を角速度検出部YSU2によって静電容量値の変化として捉えるように構成されていることになる。このように、本実施の形態1において、y方向回りの角速度を検出する角速度検出部YSU2は、z方向に変位するコリオリ素子CE2の外部に設けられていることになる。
そして、キャップCAPの上面には、パターニングされた絶縁膜IF1が形成されており、例えば、この絶縁膜IF1を貫通して、キャップCAPに形成された貫通ビアVAと接続するとともに、絶縁膜IF1上にわたってパッドPD1が配置されている。また、キャップCAPの上面に形成されている絶縁膜IF1を貫通して、キャップCAPと接続するとともに、絶縁膜IF1上にわたってパッドPD2も配置されている。
<実施の形態1におけるセンサエレメントの製造方法>
本実施の形態1におけるセンサエレメントSEは上記のように断面構成されており、以下に、断面図を使用して、本実施の形態1におけるセンサエレメントSEの製造方法について説明することにする。
本実施の形態1における角速度センサS1のセンサエレメントSEの各構成要素は、半導体製造技術を用いることにより形成される。センサエレメントSEの形成に使用される代表的な半導体製造技術としては、基板上に光や電子ビームなどに反応するレジスト膜を塗布した後、紫外線などの光や電子ビームを照射することにより、レジスト膜を変質させて除去することで微細なパターンを形成するフォトリソグラフィ技術がある。また、代表的な半導体製造技術には、フォトリソグラフィ技術によって形成されたレジスト膜の開口部の底部に露出する酸化シリコン膜やシリコンなどの材料をフッ酸もしくはTMAHやKOHなどのアルカリ性薬品で除去するウェットエッチング技術がある。さらに半導体製造技術としては、レジスト膜の開口部に露出している酸化シリコン膜やシリコン、アルミニウムなどをそれぞれの材料と反応するガスとプラズマを用いることで除去するRIE(Reactive Ion Etching)などのドライエッチング技術がある。これらを含めた半導体製造技術がこれから説明するセンサエレメントSEの製造工程に使用される。
図4および図5は、センサエレメントSEの構成要素である基板1Sの製造工程である。まず、図4に示すように、基板1Sは、後述するセンサエレメントSEの固定部と接続されて他の構成要素を支持する機能を有する。この基板1Sは、例えば、酸化シリコン膜からなる絶縁膜1aが形成されたシリコン(Si)基板より構成される。そして、基板1S上にフォトリソグラフィ技術を使用することにより、図示しないレジスト膜をパターニングして開口部を形成する。その後、この開口部から露出している絶縁膜1aをフッ酸などのガス若しくは液体を用いて除去する。次に、図5に示したように、RIE(Reactive Ion Etching)を用いたドライエッチング技術や、TMAHやKOHなどのアルカリ性薬品を用いたウェットエッチング技術を駆使することにより、露出する基板1Sを除去することにより、溝DITを形成して空間SPを形成する。
この空間SPの深さは、後述するデバイス層の厚さよりも小さく形成されていることが望ましい。本実施の形態1におけるセンサエレメントSEでは、例えば、後述するデバイス層の厚さが40μmになるように形成し、空間SPの深さは38μmになるように形成する。この結果、外部からの振動や衝撃によって、デバイス層に形成される構成要素が面外方向(z方向)に動いたとしても、空間SPによって、その最大変位が制限されるため、これらの構成要素が固定部上に乗り上げることによって、衝撃などが解消された際に元の状態に回復しなくなる不具合を防ぐことができる。
続いて、図6〜図8は、基板1S上にデバイス層を形成し、このデバイス層にセンサエレメントSEの構成要素を形成する製造工程を説明する図である。まず、図6に示すように、デバイス層と中間絶縁層とハンドル層を構成要素とするSOI(Silicon On Insulator)基板2Sを基板1Sに接合する。このとき、限定することではないが、例えば、本実施の形態1では、基板1SとSOI基板2Sのそれぞれの表面をプラズマで清浄化した後、純水で洗浄処理することにより水酸基を形成する水素結合法で基板1SとSOI基板2Sとを接合する。その後、約1000℃の熱で加熱することにより、基板1SとSOI基板2Sとの結合力を強くしている。
なお、基板1SとSOI基板2Sとを接合する方法は、上述した接合方法に限らず、例えば、基板1Sをガラス材料としながら、SOI基板2Sとの間で高電圧を印加することにより基板1SとSOI基板2Sとを接合する陽極接合方法や、ガラスフリットや金属の接着材を使用した共有結合を用いることにより、基板1SとSOI基板2Sを接合してもよい。もちろん、SOI基板2S以外でも、単なるシリコン基板を基板1Sと接合した後、研磨して薄くすることにより、デバイス層を形成してもよい。
本実施の形態1におけるセンサエレメントSEでは、図6に示すように、SOI基板2Sを基板1Sに接合している。このとき、本実施の形態1では、SOI基板2Sを基板1Sに接合した後、ハンドル層をアルカリ性薬品によるウェットエッチング技術、若しくは、RIEによるドライエッチング技術で除去する。そして、図7に示すように、フッ酸(HF)溶液を使用することにより、中間絶縁層を除去して、デバイス層DLだけを残存させる。これにより、基板1S上にデバイス層DLを形成することができる。
次に、図8に示すように、フォトリソグラフィ技術およびドライエッチング技術を使用することにより、デバイス層DLを加工する。この結果、固定部FU、励振素子(図示されず)、コリオリ素子CE1、コリオリ素子CE2、および、梁BMなどの構成要素を同一のデバイス層DL上に形成することができる。
続いて、図9〜図11は、キャップCAPを形成する製造工程を説明する図である。この工程で形成されるキャップCAPは、図3に示す励振素子(図示されず)、コリオリ素子CE1、コリオリ素子CE2および角速度検出部YSU2の固定電極FEなどに外部の制御回路(集積回路)からの電気信号を伝達するための電極としての機能を有する。さらに、キャップCAPは、デバイス層DLをキャップCAPと基板1によって上下に挟むような形で配置されることにより、気密な空間SPを形成するチャンバとしての機能も有する。以下に、このような機能を有するキャップCAPの製造工程について説明する。
まず、図9に示すように、酸化シリコン膜からなる絶縁膜IL1が形成されたキャップCAPを用意する。そして、フォトリソグラフィ技術とエッチング技術を駆使することにより、励振素子、コリオリ素子CE1、コリオリ素子CE2などを可動状態とするための空間SP2を形成する。この空間SP2は、基板1Sに形成される空間SPと同じ機能を有する。すなわち、空間SP2の深さは、空間SPと同様に、デバイス層DLの厚さよりも浅く形成されることが望ましい。例えば、本実施の形態1におけるセンサエレメントSEでは、空間SP2の深さを空間SPと同様の38μmとしている。
次に、図10に示すように、キャップCAPを熱酸化することにより、空間SP2を形成する際に露出したキャップCAPの表面に酸化シリコン膜からなる絶縁膜OX1を形成する。その後、キャップCAPに形成されている絶縁膜IL1を加工し、加工した絶縁膜IL1をマスクとして、キャップCAPをドライエッチングすることにより、絶縁膜OX1に到達する貫通孔THを形成する。この結果、電気的に独立した固定電極FEおよび貫通ビアVAを形成することができる。このとき、絶縁膜OX1は、ドライエッチング加工が止まる層、すなわち、エッチングストップ層として機能するとともに、貫通孔THを形成することにより完全に分離された固定電極FEや貫通ビアVAを支える機能も有する。
続いて、図11に示すように、キャップCAPを高温に加熱することにより、貫通孔THが完全に埋まるまで絶縁膜OX2を成長させる。シリコンを高温で加熱することで絶縁膜OX2を形成する場合、初期のシリコン表面を境界にシリコンの内部に45%、外部に55%の絶縁膜OX2が形成される。また、熱酸化によって絶縁膜OX2を成長させる原理上、4μmよりも大きな膜厚の絶縁膜OX2を形成するためには非常に長い時間を必要とすることから、貫通孔THの幅は4μmにしている。さらに、貫通孔THを形成するドライエッチング加工においても、貫通孔THの幅と深さによって定義されるアスペクト比が量産に適した25以下になるようにしている。すなわち、貫通孔THは、幅が4μmで、深さが100μmになるように形成されている。なお、貫通孔THが絶縁膜OX2で完全に埋まった後、キャップCAPの表面に形成されている絶縁膜IL1や絶縁膜OX1などは、フッ酸溶液で除去される。このようにして、キャップCAPを製造することができる。
次に、図12および図13は、デバイス層DLを形成した基板1SとキャップCAPを接合する工程と、キャップCAPの表面に配線を形成する工程を説明する図である。
まず、図12に示すように、キャップCAPと、デバイス層DLおよび基板1Sは、上述したSOI基板2Sと基板1Sを接合した方法と同じ方法で接合することができる。このとき、接合時の周辺圧力を制御することにより、励振素子、コリオリ素子CE1、コリオリ素子CE2、梁BMおよび固定部FUなどが封止される空間SPの圧力を制御する。
そして、図13に示すように、キャップCAPの表面上に、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法を使用することにより、酸化シリコン膜からなる絶縁膜IF1を形成した後、キャップCAPに形成された固定電極FEおよび貫通ビアVAの上部に開口部を形成する。続いて、開口部を形成した絶縁膜IF1上に、例えば、スパッタリング法を使用することにより、例えば、アルミニウム膜からなる金属膜MFを形成する。
次に、図3に示すように、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を使用することにより、金属膜MFを加工して、パッドPD1およびパッドPD2含む配線を形成する。このようにして、本実施の形態1におけるセンサエレメントSEを製造することができる。
<実施の形態1におけるセンサエレメントの平面構成>
続いて、本実施の形態1におけるセンサエレメントSEの平面構成について、図面を参照しながら説明する。図14は、本実施の形態1におけるセンサエレメントSEの平面構成を示す模式図である。図14において、本実施の形態1におけるセンサエレメントSEは、まず、励振素子として機能する質量体MSを有している。
この質量体MSは、x方向に長い第1部位P1と、x方向に長い第2部位P2と、これらの第1部位P1と第2部位P2とを繋ぐようにy方向に延びる接続部CUによって構成されている。第1部位P1は、x方向に延在するように構成され、第2部位P2は、x方向と直交するy方向に第1部位P1から所定距離だけ離間しながらx方向に延在するように構成されている。そして、接続部CUは、第1部位P1と第2部位P2に連結するようにy方向に延在するように構成されている。このため、質量体MSは、例えば、アルファベットの「H」を横にしたような開放端を有する形状をしていることになる。
例えば、y方向の中心を通る仮想線ILに対して、第1部位P1と第2部位P2が対称に配置され、この第1部位P1と第2部位P2を接続するように接続部CUが配置されている。そして、y方向の中心に位置して、上述した仮想線IL上に配置される固定部FU2が設けられており、接続部CUは、x方向において、基板と固定された固定部FU2を挟むように配置された第3部位P3と第4部位P4を備える。そして、第3部位P3は、第1部位P1と第2部位P2とを連結するように配置される。同様に、第4部位P4も、第1部位P1と第2部位P2とを連結するように配置される。さらに、第3部位P3は、支持梁BM3を介して固定部FU2と接続され、かつ、第4部位P4は、支持梁BM4を介して固定部FU2と接続されている。
このように構成されている質量体MSにおいては、励振方向であるx方向には柔軟で、第1検出方向であるy方向には硬い支持梁BM1および支持梁BM2で支持されている。具体的に、2つの支持梁BM1と2つの支持梁BM2とを組み合わせて支持梁群と呼ぶことにすると、質量体MSの4隅にそれぞれ支持梁群が設けられている。そして、質量体MSの4隅のそれぞれに着目した場合、1つの端部には、1つの支持梁群を構成する2つの支持梁BM1と2つの支持梁BM2が設けられている。このとき、2つの支持梁BM1のそれぞれは、単位梁BM1Aと単位梁BM1Bから構成され、2つの支持梁BM2のそれぞれは、単位梁BM2Aと単位梁BM2Bから構成されている。
なお、図14では、質量体MSを左上の端部で支持する2つの支持梁BM1と2つの支持梁BM2が図示されているが、質量体MSのその他の3つの端部のそれぞれも同様に2つの支持梁BM1と2つの支持梁BM2で支持されていることになる。
具体的に、第1部位P1の端部近傍には、基板に固定された外側固定部OFU1Aおよび外側固定部OFU1Bが配置されているとともに、基板に固定された内側固定部IFU2Aおよび内側固定部IFU2Bが配置されている。特に、外側固定部OFU1A、外側固定部OFU1B、内側固定部IFU2A、内側固定部IFU2Bは、仮想線ILに対して同じ側に配置されている。さらに、外側固定部OFU1Aと内側固定部IFU2Aは、第1部位P1に対して対称に配置されており、外側固定部OFU1Bと内側固定部IFU2Bも、第1部位P1に対して対称に配置されている。
そして、第1部位P1の外側に自由端FP1が設けられており、第1部位P1と自由端FP1がy方向に延在する単位梁BM1Bで接続され、自由端FP1と外側固定部OFU1Aがy方向に延在する単位梁BM1Aで接続されている。したがって、第1部位P1と外側固定部OFU1Aは、自由端FP1に接続された単位梁BM1Aおよび単位梁BM1Bで接続されていることになる。同様に、第1部位P1と自由端FP1がy方向に延在する単位梁BM1Bで接続され、自由端FP1と外側固定部OFU1Bがy方向に延在する単位梁BM1Aで接続されている。したがって、第1部位P1と外側固定部OFU1Bも、自由端FP1に接続された単位梁BM1Aおよび単位梁BM1Bで接続されていることになる。
さらに、第1部位P1の内側に自由端FP2が設けられており、第1部位P1と自由端FP2がy方向に延在する単位梁BM2Bで接続され、自由端FP2と内側固定部IFU2Aがy方向に延在する単位梁BM2Aで接続されている。したがって、第1部位P1と内側固定部IFU2Aは、自由端FP2に接続された単位梁BM2Aおよび単位梁BM2Bで接続されていることになる。同様に、第1部位P1と自由端FP2がy方向に延在する単位梁BM2Bで接続され、自由端FP2と内側固定部IFU2Bがy方向に延在する支持梁BM2Aで接続されている。したがって、第1部位P1と内側固定部IFU2Bも、自由端FP2に接続された単位梁BM2Aおよび単位梁BM2Bで接続されていることになる。
以上は、質量体MSの第1部位P1の左端部の接続構成について説明したが、第1部位P1の右端部の接続構成、第2部位P2の左端部の接続構成、および、第2部位P2の右端部の接続構成を同様であるため、その説明は省略する。
このように構成されている質量体MSにおいて、固定電極として機能する第1駆動電極との間で容量素子DE1を形成するとともに、固定電極として機能する第2駆動電極との間でも容量素子DE2を形成するように第1可動電極が質量体MSと一体的に形成されている。さらに、質量体MSにおいて、固定電極として機能する第1駆動振幅モニタ電極や第2駆動振幅モニタ電極との間でも、それぞれ、容量素子ME1および容量素子ME2を形成するように第2可動電極が質量体MSと一体的に形成されている。
そして、図14に示すように、平面視において、質量体MSの内部には、コリオリ素子CE1が配置されている。詳細には、質量体MSの第1部位P1と第2部位P2に挟まれ、かつ、接続部CUの左側に位置するようにコリオリ素子CE1が配置されている。このコリオリ素子CE1は、x方向には硬く、y方向には柔軟な検出梁DBM1で質量体MSの第1部位P1と接続されているとともに、x方向には硬く、y方向には柔軟な検出梁DBM2で質量体MSの第2部位P2と接続されている。これにより、コリオリ素子CE1は、質量体MSとだけ接続され、基板自体とは直接接続されていない。この結果、コリオリ素子CE1は、第1検出方向であるy方向に変位可能なように構成されていることになる。この第1検出方向は、x方向とy方向を含む平面内に含まれることから、「面内方向」と呼ぶこともでき、この場合、コリオリ素子CE1は、面内方向に変位可能なように構成されているということもできる。
ここで、質量体MSが励振方向であるx方向に振動している状態で、z方向回りに角速度が印加された場合、コリオリ素子CE1は、コリオリ力によってy方向に変位することになる。つまり、本実施の形態1において、コリオリ素子CE1は、z方向回りの角速度を検出するための構成要素であることがわかる。
このように構成されているコリオリ素子CE1に内包されるように角速度検出部YSU1が形成されている。具体的に、この角速度検出部YSU1は、コリオリ素子CE1と一体的に形成された第1検出用可動電極と、固定部材に固定された第1検出用固定電極を含むように構成される。この場合、外部からz方向回りに角速度が印加されると、コリオリ力によって、コリオリ素子CE1がy方向に変位する。したがって、コリオリ素子CE1と一体的に形成されている第1検出用可動電極もy方向に変位する。一方、第1検出用固定電極は、固定部材に接続されていることから、角速度に起因するコリオリ力が印加されても変位しない。このことから、第1検出用可動電極と第1検出用固定電極との間の距離が変化する。このことは、第1検出用可動電極と第1検出用固定電極で構成される容量素子の静電容量(電気容量)が変化することを意味する。このようにして、角速度検出部YSU1は、コリオリ素子CE1のy方向の変位を静電容量の変化として捉えるように構成されていることになる。
一方、図14に示すように、平面視において、質量体MSの内部には、コリオリ素子CE2も配置されている。詳細には、質量体MSの第1部位P1と第2部位P2に挟まれ、かつ、接続部CUの右側に位置するようにコリオリ素子CE2が配置されている。このコリオリ素子CE2は、z方向にねじれる検出梁DBM3で質量体MSの第4部位P4と接続されている。これにより、コリオリ素子CE2も、質量体MSとだけ接続され、基板自体とは直接接続されていない。この結果、コリオリ素子CE2は、第2検出方向であるz方向に変位可能なように構成されていることになる。この第2検出方向は、x方向とy方向を含む平面に垂直なz方向であることから、「面外方向」と呼ぶこともでき、この場合、コリオリ素子CE2は、面外方向に変位可能なように構成されているということもできる。
ここで、質量体MSが励振方向であるx方向に振動している状態で、y方向回りに角速度が印加された場合、コリオリ素子CE2は、コリオリ力によってz方向に変位することになる。つまり、本実施の形態1において、コリオリ素子CE2は、y方向回りの角速度を検出するための構成要素であることがわかる。
このように構成されているコリオリ素子CE2の外側に角速度検出部YSU2が形成されている。具体的に、例えば、図3に示すように、角速度検出部YSU2は、コリオリ素子CE2自体を第2検出用可動電極とし、キャップCAPに固定された第2検出用固定電極を含むように構成される。この場合、外部からy方向回りに角速度が印加されると、コリオリ力によって、検出梁DBM3がねじれることにより、コリオリ素子CE2がz方向に変位する。したがって、コリオリ素子CE2自体からなる第2検出用可動電極もz方向に変位する。一方、第2検出用固定電極は、キャップCAPに接続されていることから、角速度に起因するコリオリ力が印加されても変位しない。このことから、第2検出用可動電極と第2検出用固定電極との間の距離が変化する。このことは、第2検出用可動電極と第2検出用固定電極で構成される容量素子の静電容量(電気容量)が変化することを意味する。このようにして、角速度検出部YSU2は、コリオリ素子CE2のz方向の変位を静電容量の変化として捉えるように構成されていることになる。
以上のことから、本実施の形態1におけるセンサエレメントSEは、励振方向であるx方向に励振振動する1つの励振素子である質量体MSと、z方向回りの角速度によってy方向に変位するコリオリ素子CE1と、y方向回りの角速度によってz方向に変位するコリオリ素子CE2とを備える。このため、本実施の形態1におけるセンサエレメントSEは、励振素子を共有し、かつ、異なる方向回りの角速度を検出するコリオリ素子CE1とコリオリ素子CE2を有していることになり、多軸の角速度センサを構成することになる。
そして、コリオリ素子CE1とコリオリ素子CE2は、質量体MSの構成要素である第1部位P1と第2部位P2で挟まれる位置に配置されるとともに、質量体MSの接続部CUを構成する第3部位P3と第4部位P4を挟むように、接続部CUの左側にコリオリ素子CE1が配置され、接続部CUの右側にコリオリ素子CE2が配置される。
さらに、質量体MSを構成する第1部位P1と第2部位P2は、仮想線ILに対して対称となる位置に配置されている。また、質量体MSを構成する第3部位P3および第4部位P4のそれぞれ自体も、仮想線ILに対して対称となるように配置されている。同様に、コリオリ素子CE1およびコリオリ素子CE2のそれぞれ自体も、仮想線ILに対して対称となるように配置されているとともに、コリオリ素子CE1に内包される角速度検出部YSU1も、仮想線ILに対して対称となるように配置されている。
なお、本実施の形態1において、支持梁BM1、支持梁BM2、支持梁BM3、支持梁BM4、検出梁DBM1、検出梁DBM2は、梁の屈曲によって変形する屈曲梁から構成されている一方、検出梁DBM3は、梁のねじれによって変形するねじれ梁から構成されている。したがって、本実施の形態1におけるセンサエレメントSEでは、屈曲とねじれという2種類の異なる変形態様の梁が混在していることになる。
<実施の形態1における角速度センサの動作>
本実施の形態1における角速度センサは、上記のように構成されており、以下に、その動作について説明する。
図15は、本実施の形態1における角速度センサの動作を説明する図である。図15において、容量素子DE1および容量素子DE2は、質量体MSをx方向に振動させる駆動手段を構成する。そして、容量素子DE1の一部を構成する固定電極である第1駆動電極には、図2に示す半導体チップCHP1内に形成されている信号処理回路から駆動信号として、Vcom+Vb+Vdが印加される。一方、容量素子DE2の一部を構成する固定電極である第2駆動電極には、図2に示す半導体チップCHP1内に形成されている信号処理回路から駆動信号として、Vcom+Vb−Vdが印加される。
また、質量体MSには、支持梁を介して接続されている固定部を介して、図2に示す半導体チップCHP1内に形成されている信号処理回路からVcomが印加される。したがって、固定電極である第1駆動電極と質量体MSとの間の電位差は、Vb+Vdとなり、固定電極である第2駆動電極と質量体MSとの間の電位差は、Vb−Vdとなる。この結果、容量素子DE1および容量素子DE2には、上述した電位差に起因する静電力が発生し、質量体MSがx方向に駆動振動(励振振動)することになる。
なお、質量体MSには、信号処理回路からキャリア信号Vcも印加されているが、キャリア信号Vcの周波数は、数百kHzであり、上述した駆動振動が追従できないほど充分に高いため、駆動力としては機能しない。
また、角速度センサの構成要素以外の基板1SおよびキャップCAPの周辺領域は、図3に示すパッドPD2を介してVcomの電位に接続される。これらの周辺領域を一定電位に固定することにより、キャリア信号Vcが質量体MS、コリオリ素子CE1およびコリオリ素子CE2の外部に漏れることを防止できる。特に、半導体チップCHP1に形成されている集積回路、および、本実施の形態1における角速度センサが実装されるシステム側の周辺回路への信号干渉を防ぐことができる。言い換えれば、システム側の電子回路、および、半導体チップCHP1に形成されている集積回路から角速度センサへの不要な高周波信号の影響を遮断する効果も期待できる。
ここで、下記に示す(式1)は質量体MSの駆動変位(x)と駆動力(Fd)の関係を示す式であり、(式2)はコリオリ力(Fcy)を示す式である。また、(式3)は検出方向(y方向)の振幅とコリオリ力(Fcy)の関係を示す式である。なお、ここでは、便宜上、z方向回りの角速度Ωzによって、コリオリ素子CE1がy方向へ変位する場合を例にした添字を使用して説明するが、y方向回りの角速度Ωyによって、コリオリ素子CE2がz方向へ変位する場合においても同じ原理を適用することができる。
x=
Fd/kd×1/{[1−(ωd/ωrx)2]2+[1/Qd×(ωd/ωrx)]2}1/2
・・・(式1)
このとき、xは駆動変位、ωd/2πは駆動周波数、ωrxは駆動方向の固有振動数、Qdは駆動方向の機械品質係数、kdは支持梁BM1A〜BM1Dのばね定数、Fdは駆動力を示している。
Fcy=2・my・Ωz・X・ωd・cos(ωd・t) ・・・(式2)
このとき、FcyはΩzによって発生するy方向のコリオリ力、myはコリオリ素子CE1の質量、Ωzはz方向回りに印加される角速度、Xは駆動方向の最大振幅、ωd/2πは駆動周波数、tは時間を示している。
y=Fcy・Qsy/ks ・・・(式3)
このとき、yは検出変位、Qsyはコリオリ素子CE1と検出梁DBM1〜DBM2で構成される検出振動系の機械品質係数、ksは検出梁DBM1〜DBM2のばね定数を示している。
上述した(式1)からは、質量体MSと支持梁BM1と支持梁BM2で構成される振動系において駆動力Fdが一定である場合、駆動変位xは、駆動周波数ωd(2πで割れば周波数となるため、駆動角振動数と駆動周波数を混用する)に依存することがわかる。そして、(式1)から、振動系の固有振動数ωrxと駆動周波数ωdが一致する場合、最も大きい駆動変位xが得られることになり、駆動周波数ωdが固有振動数ωrxから離れるほど駆動変位xが小さくなることがわかる。
また、(式2)と(式3)に示すコリオリ力Fcyと検出変位yの関係式からは、印加される角速度Ωzによって得られるコリオリ力Fcyと検出変位yは、駆動方向の最大振幅X(駆動変位x)と比例関係にあることがわかる。
ここで、(式2)において、コリオリ素子CE1の質量myと、駆動周波数ωd、印加される角速度Ωzを一定であると仮定すると、角速度センサの出力として変換されるコリオリ力Fcyと検出振幅yは、駆動方向の最大振幅X(駆動変位x)のみの関数となる。
したがって、周辺圧力の変動や振動外乱がある場合でも、角速度センサの感度を一定に維持して信頼性を確保するためには、駆動方向の最大振幅Xを常にモニタし、フィードバック制御を行なうことにより、駆動方向の最大振幅Xが一定値になるよう管理する必要がある。このフィードバック制御は、AGC(Auto Gain Control)によって実施される。
以下に、上述したAGCによるフィードバック制御について説明する。本実施の形態1において、図15に示すように、質量体MSの駆動振幅は、固定電極として機能する第1駆動振幅モニタ電極と、質量体MSと一体的に形成されている第1可動電極からなる容量素子ME1の静電容量の変化を検出することでモニタされている。同様に、質量体MSの駆動振幅は、固定電極として機能する第2駆動振幅モニタ電極と、質量体MSと一体的に形成されている第2可動電極からなる容量素子ME2の静電容量の変化を検出することでモニタされている。
具体的には、質量体MSに、周波数が数百kHzのキャリア信号Vcを印加する。この場合、キャリア信号Vcによって、質量体MSと第1駆動振幅モニタ電極(固定電極)で構成される容量素子ME1や、質量体MSと第2駆動振幅モニタ電極(固定電極)で構成される容量素子ME2の静電容量に変化が生じ、この静電容量の変化に応じて電荷の移動が発生する。この静電容量の変化は、図15に示すC/V変換部10でアナログ電圧信号に変換された後、AD変換部11でデジタル電圧信号に変換される。そして、容量素子ME1からC/V変換部10およびAD変換部11を経て生成された第1デジタル電圧信号と、容量素子ME2からC/V変換部10およびAD変換部11を経て生成された第2デジタル電圧信号とが、差動検出部12で演算される。このとき、駆動振幅が0の場合は、容量素子ME1と容量素子ME2の初期の静電容量が互いに相殺されるため、同期検波部13への入力電圧は0となる。
一方、質量体MSが振動している場合は、質量体MSの駆動振幅に追従して容量素子ME1の静電容量が増加し、容量素子ME2の静電容量が減少する。あるいは、質量体MSの駆動振幅に追従して容量素子ME1の静電容量が減少し、容量素子ME2の静電容量が増加する。このことから、差動検出部12からは、駆動振動の駆動振幅に比例したデジタル信号が出力される。
差動検出部12から出力されたデジタル信号は、同期検波部13で駆動周波数の成分(例えば、数十kHz)と、必要に応じてDCを含む低周波数の成分(例えば、DCから数百Hz)に変換される。低周波数のデジタル信号に変換された駆動振幅は、AGC(Auto Gain Control)15に入力され、予め設定されている駆動振幅の目標値と比較される。そして、この比較結果に基づいて、DA変換部16で駆動信号Vdの大きさを調整することにより、駆動振幅が予め設定されている目標値になるようにフィードバック制御されることになる。以上のようにして、本実施の形態1における角速度センサでは、質量体MSを一定駆動振幅でx方向に駆動振動させることができる。
なお、限定するわけではないが、本実施の形態1における角速度センサでは、小さい駆動電圧で大きなx方向の駆動振幅を得るために駆動信号Vdの周波数(駆動周波数)を、質量体MSと支持梁BM1と支持梁BM2によって構成される駆動振動系の固有振動数に合わせている。また、本実施の形態1では、周辺環境の変動に起因する駆動振動系の固有振動数の変化に駆動振動数を追従させるため、PLL(Phase Locked Loop)によるAFC(Auto Frequency Control)14およびDA変換部16を用いてフィードバック制御を行なっている。ただし、本実施の形態1における技術的思想は、駆動周波数ωdと駆動振動系の固有振動数ωrxを一致させない非共振モードでの駆動においても適用できることは言うまでもない。
続いて、質量体MSをx方向に駆動振動させた状態で、z方向回りに角速度が印加された場合の角速度の検出動作について説明する。
まず、質量体MSが駆動振動している状態で、z方向回りに角速度Ωzが印加されると、質量体MSには、(式2)で示されるコリオリ力Fcyが発生し、印加された角速度Ωzに比例するy方向の振動が発生する。
ここで、質量体MSは、x方向には柔軟で、y方向には硬い支持梁BM1および支持梁BM2で支持されているため、上述したコリオリ力Fcyが発生しても、質量体MSは、y方向にほとんど変位しない。同様に、コリオリ素子CE2も、y方向にはほとんど変位しない。一方、コリオリ素子CE1は、x方向には硬く、y方向には柔軟な検出梁DBM1および検出梁DBM2を介して質量体MSに接続されているため、(式3)に示すような関係で、コリオリ力Fcyに基づきy方向に変位する。
図15に示すように、コリオリ素子CE1がy方向に変位すると、コリオリ素子CE1と接続されるように設けられた角速度検出部YSU1を構成する容量素子の静電容量が変化する。角速度検出部YSU1を構成する容量素子の静電容量の変化は、C/V変換部20Aでアナログ電圧信号に変換された後、AD変換部21Aでデジタル電圧信号に変換される。その後、差動検出部22Aで演算された後、同期検波部23Aで復調信号が抽出される。
そして、同期検波部23Aで復調された復調信号は、LPF(低周波数帯域通過フィルタ)24Aを通過することにより、最終的に、角速度Ωzに対応した角速度信号が出力端子OUT1から出力されることになる。以上のようにして、本実施の形態1における角速度センサによれば、z方向回りの角速度Ωzを検出することができる。
次に、質量体MSをx方向に駆動振動させた状態で、z方向回りに角速度が印加された場合の角速度の検出動作について説明する。
まず、質量体MSが駆動振動している状態で、y方向回りに角速度Ωyが印加されると、質量体MSには、(式2)と同等の式で示されるコリオリ力Fczが発生し、印加された角速度Ωyに比例するz方向の振動が発生する。
ここで、質量体MSおよびコリオリ素子CE1は、上述したコリオリ力Fczが発生しても、z方向にほとんど変位しない。一方、コリオリ素子CE2は、z方向にねじれる検出梁DBM3を介して質量体MSに接続されているため、コリオリ力Fczに基づきz方向に変位する。
図15に示すように、コリオリ素子CE2がz方向に変位すると、コリオリ素子CE2の外部に設けられた角速度検出部YSU2を構成する容量素子の静電容量が変化する。角速度検出部YSU2を構成する容量素子の静電容量の変化は、C/V変換部20Bでアナログ電圧信号に変換された後、AD変換部21Bでデジタル電圧信号に変換される。その後、差動検出部22Bで演算された後、同期検波部23Bで復調信号が抽出される。
そして、同期検波部23Bで復調された復調信号は、LPF(低周波数帯域通過フィルタ)24Bを通過することにより、最終的に、角速度Ωyに対応した角速度信号が出力端子OUT2から出力されることになる。以上のようにして、本実施の形態1における角速度センサによれば、y方向回りの角速度Ωyを検出することができる。
このように本実施の形態1における角速度センサによれば、質量体MSをx方向に駆動振動させた状態で、z方向回りに角速度Ωzが印加された場合には、コリオリ素子CE1のy方向の変位に基づいて、角速度Ωzに対応する角速度信号を出力端子OUT1から出力することができる。一方、本実施の形態1における角速度センサによれば、y方向回りに角速度Ωyが印加された場合には、コリオリ素子CE2のz方向の変位に基づいて、角速度Ωyに対応する角速度信号を出力端子OUT2から出力することができることがわかる。つまり、本実施の形態1における角速度センサは、異なる軸回りの角速度を検出できる多軸の角速度センサを構成していることがわかる。
<実施の形態1における特徴>
続いて、本実施の形態1における角速度センサの特徴点について説明する。まず、本実施の形態1における第1特徴点は、例えば、図14に示すように、駆動振動可能な1つの質量体MSに対して、2つのコリオリ素子CE1およびコリオリ素子CE2が設けられている点にある。つまり、本実施の形態1における第1特徴点は、互いに異なる方向に変位可能なコリオリ素子CE1とコリオリ素子CE2で、駆動振動可能な質量体MSを共有している点にある。これにより、本実施の形態1によれば、例えば、図15に示すように、質量体MSを駆動振動するとともに駆動振幅をフィードバック制御する制御回路を1つに簡素化しながらも、異なる軸方向の角速度信号を出力することができる。つまり、本実施の形態1によれば、多軸の角速度センサを構成しながらも、駆動振動させる質量体MSを共有することによって、質量体MSを駆動振動するとともに駆動振幅をフィードバック制御する制御回路の簡素化を図ることができる。
次に、本実施の形態1における第2特徴点は、質量体MSとコリオリ素子CE1とコリオリ素子CE2が同一のデバイス層DLに形成されている点にある。これにより、本実施の形態1によれば、フォトリソグラフィ技術とドライエッチング技術による1回のパターニングで、質量体MSとコリオリ素子CE1とコリオリ素子CE2を一括して同一のデバイス層DLに形成することができる。この結果、本実施の形態1によれば、製造時に必要なマスクの枚数を減らすことができるため、センサエレメントSEを製造する製造工程の簡略化を図ることができ、この簡略化によって製造コストの低減を図ることができる。特に、本実施の形態1では、質量体MSとコリオリ素子CE1とコリオリ素子CE2だけでなく、その他の構成要素である梁(支持梁BM1、支持梁BM2、支持梁BM3、支持梁BM4、検出梁DBM1〜3)や固定部(外側固定部OFU1A、OFU1B、内側固定部IFU2A、IFU2B、固定部FU2)なども同一のデバイス層DLで形成するため、さらなる製造工程の簡略化を図ることができる。
続いて、本実施の形態1における第3特徴点および第4特徴点について説明する。
本実施の形態1における角速度センサは、例えば、図2に示すように、チップ搭載部TAB、半導体チップCHP1、接着材ADH1、ADH2、センサエレメントSEなどの異種材料が積層される構造となっている。また、センサエレメントSEおよび半導体チップCHP1を含む上述した構成要素は、樹脂MRで封止されている。すなわち、本実施の形態1における角速度センサは、線膨張係数の異なる複数材料の積層構造として構成される。このような積層構造を有する角速度センサが、例えば、車のエンジンルームなどの温度変化の激しい場所で使用される場合には、それぞれの構成材料の線膨張係数の差によって、センサエレメントSEが変形する。例えば、図14において、外側固定部OFU1A、OFU1B、および、内側固定部IFU2A、IFU2Bの位置が変動する。
材料力学の理論によれば、温度変化と線膨張係数の差によって、センサエレメントSEは、均一な曲率を持つように変形する。このため、支持梁BM1に接続されている外側固定部OFU1A、OFU1B、および、支持梁BM2に接続されている内側固定部IFU1A、IFU2Bは、いずれも、センサエレメントSEの中心から放射状に離れる方向、もしくは、近づく方向に移動する。この結果、支持梁BM1および支持梁BM2には内部応力が発生して、支持梁BM1および支持梁BM2のばね定数が変化する。これにより、(式1)に記載されている駆動方向の固有振動数ωrxが変動することになる。
上述しているように、低い駆動電圧で大きな駆動変位xを得るため、本実施の形態1では、例えば、図15に示すように、PLLによるAFC14およびDA変換部16を用いることにより、フィードバック制御を行なっている。これにより、本実施の形態1によれば、駆動周波数ωdを駆動方向の固有振動数ωrxに合わせている。したがって、駆動方向の固有振動数ωrxが変化すれば、駆動周波数ωdも変化することになる。この結果、(式2)に定義されるコリオリ力Fcyも変動し、これによって、角速度センサの感度が変化することになる。さらに、駆動方向の固有振動数ωrxの変動幅が大きい場合には、AFC14によるフィードバック制御が追従できず、角速度センサの機能が停止する場合もある。
そこで、本実施の形態1では、質量体MSの形状や、支持梁BM1および支持梁BM2の配置位置を工夫しており、この工夫点が本実施の形態1における第3特徴点である。すなわち、本実施の形態1における第3特徴点を備えることにより、内部応力の軽減および相殺を図ることができる。この結果、本実施の形態1によれば、周辺環境温度の変化や封止樹脂に起因する基板歪が発生する場合でも、駆動方向の固有振動数ωrxの変動を少なくすることにより、安定性が高く、かつ、高信頼性を有する角速度センサを提供することができる。
以下に、本実施の形態1における第3特徴点について説明する。本実施の形態1における第3特徴点は、質量体MSの形状と支持梁BM1および支持梁BM2の配置位置にある。例えば、図14に示すように、本実施の形態1における質量体MSは、駆動方向であるx方向に延在する2つの長い第1部位P1と第2部位P2とを有し、第1部位P1の両端部、および、第2部位P2の両端部に、支持梁BM1および支持梁BM2が接続されており、この支持梁BM1および支持梁BM2が基板に固定された外側固定部OFU1A、OFU1Bと内側固定部IFU2A、IFU2Bと接続されている。
このように支持梁BM1および支持梁BM2を、質量体MSのx方向に長い第1部位P1の先端部と第2部位P2の先端部に配置することにより、例えば、周辺の環境温度や実装に起因する基板歪が発生して、外側固定部OFU1A、OFU1Bおよび内側固定部IFU2A、IFU2Bが変位した場合であっても、基板歪に起因するこの変位の一部は、x方向に長い第1部位P1および第2部位P2の変形として吸収される。つまり、本実施の形態1における第3特徴点は、質量体MSをx方向に長い第1部位P1と第2部位P2を有するように構成し、かつ、第1部位P1および第2部位P2の先端部に支持梁BM1および支持梁BM2を配置する点にある。これにより、基板歪が発生した場合でも、質量体MS自体が変形しやすくなり、質量体MS自体で基板歪の一部を吸収しやすくできるのである。このことから、本実施の形態1における第3特徴点によれば、支持梁BM1および支持梁BM2に発生する内部応力を軽減することができるため、支持梁BM1および支持梁BM2のばね定数の変動を抑制することができ、これによって、駆動方向の固有振動数ωrxの変動も抑制することができるのである。
ただし、質量体MSの変形ですべての基板歪を吸収することは困難であるため、質量体MSの変形で吸収し切れなかった基板歪が存在し、この残存する基板歪は、支持梁BM1および支持梁BM2を構成する部材の内部応力となる。この点に関し、本実施の形態1では、さらに、支持梁BM1と支持梁BM2の配置位置、および、外側固定部OFU1A、OFU1Bおよび内側固定部IFU2A、IFU2Bの配置位置に工夫を施している。この工夫点が本実施の形態1における第4特徴点であり、この第4特徴点によって、本実施の形態1によれば、支持梁BM1および支持梁BM2に発生する内部応力を相殺することができるのである。以下に、本実施の形態1における第4特徴点について説明する。
本実施の形態1における第4特徴点は、支持梁BM1と支持梁BM2の配置位置、および、外側固定部OFU1A、OFU1Bおよび内側固定部IFU2A、IFU2Bの配置位置に存在する。例えば、図14に示すように、外側固定部OFU1A、外側固定部OFU1B、内側固定部IFU2A、内側固定部IFU2Bは、仮想線ILに対して同じ側に配置されている。このような配置の場合、基板歪がセンサエレメントSEの中心から外側に向かう方向に発生することを考慮すれば、外側固定部OFU1A、外側固定部OFU1B、内側固定部IFU2A、内側固定部IFU2Bには、同じ方向の基板歪が発生することになる。
さらに、外側固定部OFU1Aと内側固定部IFU2Aは、第1部位P1に対して対称に配置されており、外側固定部OFU2Bと内側固定部IFU2Bも、第1部位P1に対して対称に配置されている。このような配置の場合、第1部位P1および第2部位P2を含む質量体MSは基板と直接接続されていない。このことから、質量体MS自体は、基板歪に対して変位しないことを考慮すると、例えば、上述した対称配置されている外側固定部OFU1Aと内側固定部IFU2Aに着目した場合、外側固定部OFU1Aと内側固定部IFU2Aが同じ方向に変位し、かつ、質量体MSが変位しないことから、基板歪によって、外側固定部OFU1Aと第1部位P1の間の距離が大きくなり、内側固定部IFU2Aと第1部位P1の間の距離が小さくなるか、または、外側固定部OFU1Aと第1部位P1の間の距離が小さくなり、内側固定部IFU2Aと第1部位P1の間の距離が大きくなることになる。このことは、外側固定部OFU1Aと第1部位P1とを接続している支持梁BM1の単位梁BM1Aに引張応力が働く場合には、内側固定部IFU2Aと第1部位P1とを接続している支持梁BM2の単位梁BM2Aに圧縮応力が働くことを意味している。言い換えれば、外側固定部OFU1Aと第1部位P1とを接続している支持梁BM1の単位梁BM1Aに圧縮応力が働く場合には、内側固定部IFU2Aと第1部位P1とを接続している支持梁BM2の単位梁BM2Aには、引張応力が働くことを意味している。
例えば、支持梁BM1および支持梁BM2の駆動方向(x方向)におけるばね定数は、支持梁BM1および支持梁BM2の形状や構成材料のヤング率などの関数となるが、構成材料のヤング率は、構成材料固有の物性値でありながらも材料の内部応力によって、見かけ上の値が変化する。図示はしないが、基板歪による支持梁BM1および支持梁BM2のy方向の主応力の有限要素解析結果によれば、支持梁BM1と支持梁BM2は、外側固定部OFU1A、OFU1Bおよび内側固定部IFU2A、IFU2Bの位置変動による内部応力を互いに打ち消すように内部応力が発生していることがわかる。
このように本実施の形態1の第3特徴点および第4特徴点によれば、センサエレメントSEに発生する基板歪のうちの一部は、質量体MSのx方向に長い第1部位P1と第2部位P2の変形によって吸収されるとともに、残りの基板歪に起因して支持梁BM1および支持梁BM2に発生する内部応力は、支持梁BM1および支持梁BM2を構成する構成要素間で相殺されることなる。この結果、本実施の形態1によれば、支持梁BM1および支持梁BM2のばね定数の変動を抑えることができるため、駆動方向の固有振動数ωrxの変動に起因する角速度センサの感度の変動を抑制することができる。
ここで、本実施の形態1において、y方向の主応力成分に着目した理由は、基板歪によって外側固定部OFU1A,OFU1Bおよび内側固定部IFU2A、IFU2Bが角速度センサの中心部に対して放射線状に発生した場合、x方向の移動においては、支持梁BM1および支持梁BM2が変形することで吸収されるため、内部応力が発生することはないことを考慮したものである。一方、y方向の移動においては、質量体MSのx方向に長い第1部位P1と第2部位P2の変形によって吸収し切れなかった一部の変形が、支持梁BM1および支持梁BM2に引張方向や圧縮方向に働く。このため、y方向に硬く形成されている支持梁BM1および支持梁BM2の内部にはy方向の引張応力や引張応力が発生することになる。特に、y方向の内部応力は支持梁BM1および支持梁BM2の駆動方向(x方向)のばね定数に影響を及ぼすため、質量体MSと支持梁BM1および支持梁BM2によって構成される振動系の固有振動数ωrxの変動が発生する。すなわち、環境温度の変動に起因した基板歪の発生と、この基板歪に基づく振動系の固有振動数ωrxの変動による角速度センサの感度の変動の主要因がy方向の主応力成分に起因するのである。このため、本実施の形態1では、上述した第3特徴点および第4特徴点を採用することによって、y方向における基板歪の影響を抑制しているのである。
以上のことから、本実施の形態1によれば、上述した第3特徴点と第4特徴点の相乗効果により、温度変化に基づく駆動方向の固有振動数ωrxの変動を充分に抑制することができる。このため、本実施の形態1によれば、振動系の固有振動数ωrxの変動に起因する角速度センサの感度の変動も抑制することができる。
例えば、角速度センサの温度変化に起因する特性変動を補正する方法として、各温度点での角速度センサの出力値を記録し、これらが全使用温度範囲の中で、予め決められた仕様範囲内に収まるように補正する電気的な補正方法がある。ところが、角速度センサの各温度点における出力値が非線形的な挙動を示す場合には、補正のために、多くの温度点における出力値と複雑な補正演算処理が必要となるとともに、恒温槽を装備した高価な評価装置が必要となり、製造コストの上昇に繋がる。
この点に関し、本実施の形態1における角速度センサによれば、上述した第3特徴点および第4特徴点を有しているため、広い使用温度範囲においても、振動系の固有振動数ωrxの変動を抑制できる。このため、本実施の形態1における角速度センサによれば、信号処理回路による高度な温度特性補正が不要となり、角速度センサの信頼性向上や、信号処理回路の小型化、角速度センサの出荷時における温度特性補正の簡素化などを図ることができ、これによって、製造コストの低減を図ることができる。
続いて、本実施の形態1における第5特徴点について説明する。
本実施の形態1における角速度センサは、駆動振動する1つの質量体MSを共有しながら、互いに異なる方向に変位可能な2つのコリオリ素子CE1およびコリオリ素子CE2を備えることにより、例えば、z方向回りの角速度Ωzと、y方向回りの角速度Ωyを同時に検出することができる。ところが、質量体MSを共有するために、質量体MSにコリオリ素子CE1とコリオリ素子CE2を接続するように配置する場合、例えば、図14に示すように、質量体MSを構成する第1部位P1および第2部位P2のx方向の長さが長くなる。言い換えれば、支持梁BM1と支持梁BM2を1つの支持梁群とした場合、質量体MSの四隅に配置されている4つの支持梁群の間の距離が必然的に長くなる。この結果、駆動振動系の駆動固有振動数の近傍、若しくは、低い周波数帯域に、例えば、z方向に振動するモードなどに代表される角速度センサの動作には不要な共振モードが出現するおそれがある。つまり、質量体MSの長さが長くなって、支持梁群の間の距離が大きくなることに起因して、角速度センサの動作には無関係な振動系を構成する不要モードが発生しやすくなるのである。
これらの不要モードは、角速度センサのx方向の駆動振動を構成する駆動モードとは異なる振動系を構成する。このため、温度変動に伴う周波数変動特性に代表される温度特性も異なり、不要モードが上述した駆動モードと隣接した周波数帯域に存在する場合には、特定温度で不要モードと駆動モードが混じることによって誤動作の原因ともなる。
この点に関し、不要モードを発生しにくくするためには、もっと多くの支持梁を配置して質量体MSを支持することが考えられるが、配置位置を考慮しないと、上述した内部応力に起因する駆動方向の固有振動数ωrxの変動と、それに伴う角速度センサの感度の変動が問題点として顕在化する。
そこで、本実施の形態1では、上述した第3特徴点および第4特徴点による歪にロバストな特性を維持しながらも、例えば、図14に示すように、上述した不要モードの発生を抑制するための工夫を施している。この工夫点が第5特徴点である。具体的に、まず、y方向の中心に位置して、仮想線IL上に配置される固定部FU2を設ける。そして、接続部CUは、x方向において、基板と固定された固定部FU2を挟むように配置された第3部位P3と第4部位P4を備える。このとき、第3部位P3は、第1部位P1と第2部位P2とを連結するように配置される。同様に、第4部位P4も、第1部位P1と第2部位P2とを連結するように配置される。そして、第3部位P3は、支持梁BM3を介して固定部FU2と接続され、かつ、第4部位P4は、支持梁BM4を介して固定部FU2と接続されている。このように構成する点に本実施の形態1における第5特徴点がある。
この場合、周辺環境温度による基板歪が発生しても、固定部FU2が変位することはなく、支持梁BM3および支持梁BM4には内部応力が発生しない。一方で、質量体MSの第1部位P1および第2部位P2が支持梁BM3および支持梁BM4を介して固定部FU2とも接続される。この結果、本実施の形態1によれば、歪にロバストな特徴構成を維持しながらも、角速度センサの動作には不必要な不要モードを抑制することができる。
特に、支持梁BM3および支持梁BM4は、質量体MSのy方向に長い第3部位P3と第4部位P4の間に配置され、平面視において第3部位P3と第4部位P4を挟むようにコリオリ素子CE1とコリオリ素子CE2を配置している。このような配置にすることにより、支持梁BM3および支持梁BM4を中心に左右に配置されたコリオリ素子CE1とコリオリ素子CE2の重さがバランスを取ることとなる。このため、y方向回りに回転する不要モードを抑制することができる。専門用語を用いるとこれは、y方向における慣性モーメントを小さくしたこととなり、y方向周りに回転する不要モードの固有周波数を高くしたことになる。この結果、本実施の形態1によれば、駆動振動系の固有振動数よりも高周波帯域にy方向周りに回転する不要モードの固有周波数をシフトさせることができる。これにより、環境温度変化によって、駆動振動系の固有振動数が変化したとしても、特定温度において不要モードと駆動モードが混じることを効果的に抑制することができ、これによって、角速度センサの誤動作の可能性を低くすることができる。
本実施の形態1における角速度センサは、コリオリ素子CE1の変位を角速度検出部YSU1で静電容量値の変化をして捉えることにより、z方向回りの角速度を検出し、コリオリ素子CE2の変位を角速度検出部YSU2の静電容量値の変化として捉えることにより、y方向回りの角速度を検出している。この点に関し、物体の変位を検出する方法としては、静電容量値の変化を検出する方式の他に、物体の変位を構造の歪として捉え、特殊な薄膜の内部に存在する電気双極子間の距離の変動に伴って発生する電荷を電流として検出する圧電効果を使用する方式もある。ところが、圧電効果を使用する方式では、物体の変位によって発生した電荷がすぐに消滅するため、傾斜などの静的な変位(例えば、重力加速度に起因する変位)を検出することは困難である。つまり、角速度センサと加速度センサを統合することを考えた場合、圧電効果を使用する方式では、静的な変位も検出する加速度センサを実現することが困難になる。このため、圧電効果を使用する方式では、角速度センサと加速度センサとを統合することが困難となる。
これに対し、静電容量値を検出する方式では、重力加速度に代表される静的な変位も容易に検出することができる。このことから、本実施の形態1における角速度センサでは、容易に加速度センサと統合することができる。したがって、本実施の形態1における多軸の角速度センサは、加速度センサと角速度センサを1つのセンサに統合するトレンドに適合したアプローチを提供するものと考えられる。
<変形例>
本変形例では、音叉構造の角速度センサについて説明する。図16は、本変形例における角速度センサS2の平面構成を示す図である。図16において、基板には、センサエレメントSE1とセンサエレメントSE2が設けられており、このセンサエレメントSE1とセンサエレメントSE2は、互いの振動エネルギーを共有する音叉構造を構成するように、リンク梁LBMによって接続されている。そして、センサエレメントSE1およびセンサエレメントSE2のそれぞれの構成は、前記実施の形態1におけるセンサエレメントSEの構成と同様である。
特に、本変形例においては、センサエレメントSE1の構成要素と、センサエレメントSE2の構成要素は、x方向の中心線に対して(リンク梁LBMに対して)、鏡像対称となるように配置されている。そして、センサエレメントSE1の質量体(励振素子)と、センサエレメントSE2の質量体(励振素子)は、励振方向であるx方向において互いに逆相振動するように制御されている。
これにより、本変形例における角速度センサの利点としては、コモンリジェックションとして呼ばれる電気的な同相モードノイズのキャンセルや外部からの外乱振動のキャンセルなどを挙げることができる。例えば、加速度に起因するような同相モードノイズが発生しても、音叉構造の場合、センサエレメントSE1の変位とセンサエレメントSE2の変位の差分を取るため、相殺することができ、検出精度を向上させることができる。さらには、検出振動系においても、振動外乱のようなノイズ成分を除去し、角速度の印加に起因する信号だけを分離することが容易となる。また、音叉構造とすることにより、例えば、駆動振動系を構成する質量体や支持梁に加工時の誤差が存在する場合であっても、きれいな共振特性を得ることができる。
(実施の形態2)
図17は、本実施の形態2における角速度センサのセンサエレメントSEの平面構成を示す図である。図17において、本実施の形態2におけるセンサエレメントSEの構成は、例えば、図14に示す前記実施の形態1におけるセンサエレメントSEの構成とほぼ同様であるため、相違点を中心に説明する。
図14および図17に示すように、前記実施の形態1と本実施の形態2の相違点は、コリオリ素子CE2を支持する検出梁の構成である。すなわち、前記実施の形態1では、構成要素がねじれる変形態様の検出梁DBM3を採用している一方、本実施の形態2では、構成要素が屈曲する変形態様の検出梁DBM4を採用している点に相違点がある。その他の構成や製造方法については、前記実施の形態1と同様であるため、ねじれ梁である検出梁BM3の代わりに屈曲梁である検出梁DBM4を採用することによって得られる利点を重点的に説明する。
まず、(式4)は、上述した(式2)を(式3)に代入して、角速度センサの感度Szを駆動周波数ωd(ここでは、駆動周波数ωdを駆動方向の固有振動数ωrxに一致させているため、ωd=ωrxとなる。)と、コリオリ素子CE1と検出梁DBM1および検出梁DBM2から構成される検出系の検出方向の固有振動数ωryとの関係式として表現したものである。さらに、(式3)の中のQsyを駆動周波数ωdと検出方向の固有振動数ωryが異なる場合でも対応できるように一般化している。さらに、(式5)は、応答倍率を示す関係式であり、(式6)は、角速度センサの応答周波数を示す関係式である。
Sz=y/Ωz
=2・my・X・ωd/ωry 2
×1/{[1−(ωd/ωry)2]2+[ωd/(Qsyωry)]2}1/2
・・・(式4)
このとき、Szは角速度センサの感度、yはコリオリ素子CE1のy方向の変位、Ωzはz方向回りの角速度、myはコリオリ素子CE1の質量、Xは駆動方向の最大振幅、ωd/2πは駆動周波数、ωryは第1検出方向(y方向)の固有振動数を示している。
Qsye=1/{[1−(ωd/ωry)2]2+[ωd/(Qsyωry)]2}1/2
・・・(式5)
このとき、Qsyeは、応答倍率を示している。
fb=ωry/(12・π・Qsye) ・・・(式6)
このとき、fbは、角速度センサの応答周波数である。
(式4)から、角速度センサの感度Szは、駆動周波数ωdと検出方向の固有振動数ωryの比の関数であることが分かる。さらに、(式5)からは、駆動周波数ωdと検出方向の固有振動数ωryとを近づけるほど、応答倍率Qsyeは高くなるため、高い感度Szを得られることがわかる。つまり、駆動周波数ωdを検出方向の固有振動数ωryに一致させれば、応答倍率Qsyeは検出振動系の機械品質係数Qsyと同じ値となり、最大となる。ところが、(式6)に示すように応答倍率Qsyeが高すぎると、角速度センサの応答周波数fbが制限される。さらに、駆動周波数ωdを検出方向の固有振動数ωryに一致させた場合には、コリオリ素子CE1の位相が周波数のわずかな変動で大きく変化して不安定な状態となるため、一般的には、駆動周波数ωdの値と、検出方向の固有振動数ωryの値を一定間隔で分離している。したがって、感度変動の少ない高い信頼性を有する角速度センサを提供するためには、駆動方向の固有振動数ωrx(=駆動周波数ωd)と検出方向の固有振動数ωryの比および周波数差を温度変化に対してなるべく一定に保持することが重要であることがわかる。
そこで、本実施の形態2では、以下に示す工夫を施している。すなわち、本実施の形態2における角速度センサでは、質量体MSとともに駆動振動系を構成する支持梁BM1、BM2、BM3、BM4が屈曲する屈曲梁として構成されている。さらに、本実施の形態2における角速度センサでは、コリオリ素子CE1とともに第1検出振動系を構成する検出梁DBM1、DBM2も屈曲する屈曲梁として構成され、また、コリオリ素子CE2とともに第2検出振動系を構成する検出梁DBM4も屈曲する屈曲梁として構成されている点に特徴点がある。すなわち、本実施の形態2における角速度センサでは、支持梁BM1、BM2、BM3、BM4、検出梁DBM1、DBM2、DBM4のすべてが屈曲する屈曲梁から構成されている点に特徴点がある。以下に、この理由について説明する。
図18(a)は、屈曲による変位する屈曲梁を示す模式図であり、図18(b)は、ねじれにより変位するねじれ梁を示す模式図である。図18(a)に示すように、屈曲梁BMWが屈曲変形することにより質量体Mが変位していることがわかる。一方、図18(b)に示すように、ねじれ梁BMTがねじれることにより質量体Mが変位していることがわかる。このように屈曲梁BMWとねじれ梁BMTは、変形態様が異なることがわかる。
ここで、(式7)は屈曲梁BMWのばね定数を示す関係式であり、(式8)はねじれ梁BMTのばね定数を示す関係式である。
kb=E・b・h3/L3 ・・・(式7)
このとき、kbは屈曲梁BMWのばね定数、Eは縦弾性係数、bは屈曲梁BMWの高さ、hは屈曲梁BMWの幅、Lは屈曲梁BMWの長さを示している。
kt=E・b・h3/{2(1+ν)・L}
×[1/3−0.21h(1−h4/12b4)/b] ・・・(式8)
このとき、ktはねじれ梁BMTのばね定数、Eは縦弾性係数、bはねじれ梁BMTの高さ、hはねじれ梁BMTの幅、Lはねじれ梁BMTの長さ、νはポアソン比を示している。
このことから、図18(a)に示す屈曲梁BMWを使用する振動系の固有振動数ωrbは、ωrb=√(kb/m)であり、図18(b)に示すねじれ梁BMTを使用する振動系の固有振動数ωrtは、ωrt=√(kt/J)として定義できる。このとき、mは質量体Mの質量であり、Jは質量体Mの慣性モーメントである。図18(b)における慣性モーメントJは、J=ρbca3/12であり、ρは密度である。
さらに、梁を構成する材料として、<110>結晶軸の単結晶シリコンを使用した場合、縦弾性係数Eは、(式9)に示す温度依存性を有する。
E=E0−BTexp(−T0/T) ・・・(式9)
このとき、E0は、0Kでの<110>単結晶シリコンの縦弾性係数(167.5GPa)、Bは温度係数(15.8MPa/K)、T0は近似係数(317K)、Tは温度を示している。
以上のことから、屈曲梁BMWを使用する振動系の固有振動数ωrbは、(式7)に示すばね定数kbの温度変化に基づく温度依存性を有することになる一方、ねじれ梁BMTを使用する振動系の固有振動数ωrtは、(式8)に示すばね定数ktの温度変化に基づく温度依存性を有することになる。ここで、(式7)に示すばね定数kbと、(式8)に示すばね定数ktとは、関係式が異なることから、屈曲梁BMWを使用する振動系の固有振動数ωrbの温度依存性と、ねじれ梁BMTを使用する振動系の固有振動数ωrtの温度依存性は異なることになる。したがって、1つのセンサエレメントSE上に屈曲梁と質量体として構成される屈曲振動系と、ねじり梁と慣性モーメントとして構成されるねじり振動系が混在する場合には、2つの固有振動数の比および周波数差を広い使用温度範囲内で一定に維持することが困難である。つまり、図19に示すように、例えば、角速度センサにおいて、駆動振動系に屈曲振動系を採用し、検出振動系にねじれ振動系を採用する場合、それぞれの固有振動数の温度依存性が異なることから、2つの固有振動数の比および周波数差を広い使用温度範囲内で一定に維持することが困難であることがわかる。
もちろん、上述した(式7)〜(式9)を駆使することで、図14に示す前記実施の形態1におけるセンサエレメントSEにおいて、質量体MS、屈曲梁から構成される支持梁BM1、BM2、BM3、BM4、屈曲梁から構成される検出梁DBM1、DBM2、ねじれ梁から構成される検出梁DBM3、コリオリ素子CE1、コリオリ素子CE2の形状および配置を工夫することで、駆動振動系と検出振動系の間の固有振動数の温度依存性を合わせることは不可能ではないが、大きな構造設計の制約となる。
これに対し、本実施の形態2における角速度センサのセンサエレメントSEでは、支持梁BM1、BM2、BM3、BM4、検出梁DBM1、DBM2、DBM4のすべてが屈曲する屈曲梁から構成されている。この場合、図19に示すように、駆動振動系に屈曲振動系を採用し、検出振動系にも屈曲振動系を採用する場合、それぞれの固有振動数の温度依存性がほぼ同様になることから、2つの固有振動数の比および周波数差を広い使用温度範囲内で一定に維持することが可能となる。すなわち、本実施の形態2では、質量体MSと支持梁BM1、BM2、BM3、BM4として構成される駆動振動系の固有振動数ωrx、コリオリ素子CE1と検出梁DBM1、DBM2として構成される第1検出振動系の固有振動数ωry、コリオリ素子CE2と検出梁DBM4として構成される第2検出振動系の固有振動数ωrzが存在する。このとき、本実施の形態2では、すべての梁を屈曲する屈曲梁から構成しているため、図19からわかるように、固有振動数の比および周波数差を広い使用温度範囲で一定に維持することができる。この結果、本実施の形態2によれば、感度の温度依存性が少ない高い信頼性を有する角速度センサを提供することができる。
さらに、本実施の形態2によれば、広い温度範囲においても感度の変動が少ないため、角速度センサの出荷時の補正および調整の工数を軽減することができ、これによって、より低コストで高信頼性を有する角速度センサを提供することができる。
なお、本実施の形態2における角速度センサにおいても、前記実施の形態1における角速度センサと同様に音叉構造とすることもできる。
また、本実施の形態2では、駆動振動系および2つの異なる検出振動系において、すべて屈曲モードで構成する例を挙げて説明しているが、(式7)から(式9)を考慮すれば、本実施の形態2の基本思想は、駆動振動系および2つの異なる検出振動系において、すべて同一の変形態様(変形モード)で構成する点に本質があることは明らかである。したがって、例えば、駆動振動系および2つの異なる検出振動系において、すべてねじりモードで構成しても上述した効果と同様の効果を得ることができる。
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
本発明は、自動車やロボットなどの姿勢検知、デジタルカメラの手ぶれ補正、ナビゲーションシステムの姿勢・方向検知、ゲーム機の姿勢検知などに使用される慣性センサの分野に幅広く利用することができる。特に、異なる方向の角速度を検出する場合に優れた効果を発揮することができる。