以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
また、実施の形態で用いる図面においては、断面図であっても図面を見易くするためにハッチングを省略する場合もある。また、平面図であっても図面を見易くするためにハッチングを付す場合もある。
(実施の形態1)
<本発明に関連する検討事項>
例えば、面内角速度センサでは、x方向を励振素子の駆動振動方向とし、y方向をコリオリ力に基づく変位を検出する検出方向とする構成が考えられる。一方、本発明者が着目している面外角速度センサでは、例えば、x軸方向周りの角速度を検出する構成として、y方向を励振素子の駆動振動方向とし、z方向をコリオリ力に基づく変位を検出する検出方向とする第1構成と、z方向を励振素子の駆動振動方向とし、y方向をコリオリ力に基づく変位を検出する検出方向とする第2構成とが考えられる。
この点に関し、本発明者が検討をした結果、面外角速度センサにおいて、上述した第1構成よりも、上述した第2構成の方が性能向上を図る観点から利点があることを見出した。
以下では、まず、この点について説明する。例えば、システムに搭載するセンサ数の増加に伴って、各センサに対しては、低コスト化の要求が増加してきている。このようなシステム側の小型化や低コスト化の要求を満たすために、LSIのパッケージング方法として用いられている、熱硬化性樹脂を使用したパッケージ技術(トランスファモールド技術)が、MEMSからなる角速度センサにも適用することが検討されている。
トランスファモールド技術とは、以下のような製造技術である。すなわち、まず、MEMSからなる角速度センサを形成した第1半導体チップと、角速度センサの信号処理回路が形成された第2半導体チップとを積層配置したリードフレームを金型の中に設置する。そして、温めた樹脂を高圧により射出し、金型の中に充填する。続いて、この樹脂が冷却されて固まることにより、樹脂は、MEMSからなる角速度センサが形成された第1半導体チップと、信号処理回路が形成された第2半導体チップとを積層配置したリードフレームを封止する封止体となる。このトランスファモールド技術は、MEMSで用いられているセラミックパッケージ技術よりも量産性が高く、角速度センサの製造コストを低減する上で有効な技術である。
しかし、封止体となる樹脂の充填圧力は、数Paから数十Paと高圧であるため、MEMSからなる角速度センサをトランスファモールド技術で製造する場合、角速度センサが形成された半導体チップに変形が発生する。また、封止体が設置される環境の温度が変動すると、封止体となる樹脂の熱膨張係数と、角速度センサが形成された半導体チップとの熱膨張係数の差により、両者の界面に歪みが発生する。さらに、封止体となる樹脂は、吸湿により体積が膨張するとともに、乾燥により体積が収縮する特徴があるため、封止体が設置される環境の湿度が変動すると、樹脂の膨張と収縮により、角速度センサが形成された半導体チップに歪みが発生する。
半導体チップに発生するこれらの歪みは、角速度センサのゼロ点変動や感度変動を引き起こす原因となる。温度変動によるゼロ点変動や、湿度変動によるゼロ点変動の発生は、信号処理回路で補正することができる。ところが、信号処理回路に温度センサや湿度センサを搭載すると、搭載する面積の分だけ、半導体チップの面積が増大するとともに、材料費も高くなる結果、信号処理回路の製造コストが高くなるデメリットがある。
また、信号処理回路に補正演算回路を追加して機能を複雑化すると、信号処理回路の開発期間が長くなり、これによって、角速度センサの製造コストが高くなるデメリットがある。さらに、補正演算を成立させるため、角速度センサの出荷前検査時に補正調整工程を追加すると、調整費用と調整時間が増大することになり、角速度センサの製造コストが高くなるデメリットがある。また、補正演算では対応が困難な経時変化は、角速度センサの性能低下につながるおそれがある。
例えば、特許文献2に記載された面内角速度センサは、駆動振動方向がx方向で、検出方向がy方向であるため、z軸方向周りの角速度を検出することができる。したがって、車体の運動平面と並行するように設置された実装基板上に角速度センサを搭載する場合には、自動車の横滑りを検出することができる。ここで、角速度センサが搭載される実装基板の主面をxy平面と定義した場合、駆動振動と検出変位とが共にxy平面内の動きとなるため、駆動振動を発生させる駆動電極と、検出変位を検出する検出電極とを含むすべての構成要素を、封止体を形成する際に変形が生じやすいz方向ではなく、変形が生じにくいデバイス層のxy平面内に形成することができる。したがって、角速度センサの製造にトランスファモールド技術を適用しても、封止体を形成する際の圧力や温度や湿度などによる角速度センサの性能や信頼性への影響が比較的に少ない。つまり、面内角速度センサでは、トランスファモールド技術の適用を妨げる要因は少ないと考えることができる。
一方、本発明者が着目している面外角速度センサでは、状況が一変する。例えば、特許文献3に記載された面外角速度センサは、駆動振動方向がx方向で、y軸方向周りの角速度が印加されると、z方向がコリオリ力に基づく変位が生じる検出方向となる。すなわち、特許文献1に記載された角速度センサと同じ平面上に実装する場合、自動車の横転を検知ことができる。z方向の変位は、コリオリ力によってz方向に変位する検出可動電極と、検出可動電極と対向するように配置される検出固定電極で構成される容量素子の容量値の変化を検出することで計測することができる。すなわち、特許文献3に記載された面外角速度センサは、励振素子や検出部などが形成されるデバイス層と、このデバイス層を支持する支持基板と、検出固定電極が形成されるキャップ層と、空洞部とを備える3層の積層構造から構成される。
ところが、このように面外角速度センサが3層の積層構造として構成され、トランスファモールド技術で使用される樹脂により圧力を受ける側(キャップ層側)に検出部の変位を測定するための検出固定電極が形成されている場合、トランスファモールド技術で封止体を形成する際の成形圧力、樹脂に発生する内部応力、環境温度の変動、経時的な応力緩和などによって、検出固定電極が形成されたキャップ層には変形が発生し、面外角速度センサの性能や信頼性に重大な問題を発生させるおそれがある。つまり、z方向を検出方向とする第1構成の面外角速度センサでは、トランスファモールド技術を適用する際、面外角速度センサの性能を向上する点で重要な位置を占める検出部に変形が発生しやすく、トランスファモールド技術を採用する場合の副作用が懸念される。
これに対し、xy平面内に検出方向を有する第2構成の面外角速度センサでは、トランスファモールド技術による変形が発生しやすいz方向に検出部が形成されないため、トランスファモールド技術を採用する場合の性能低下に代表される副作用が少ないと考えられる。このことから、面外角速度センサに着目した場合、z方向に検出方向がある第1構成の面外角速度センサに比べて、xy平面内に検出方向がある第2構成の面外角速度センサは、性能低下を抑制する観点から優位性を有していると考えられる。
そこで、本実施の形態1では、性能向上の観点から優位性のある第2構成の面外角速度センサを実現する工夫を施している。
なお、特許文献4に記載された面外角速度センサは、特許文献3に記載された角速度センサと同様に、駆動振動方向がx方向で、y軸方向周りの角速度が印加されると、z方向にコリオリ力に基づく変位が発生する検出方向となる。ただし、z方向の変位を検出する方法としては、キャップ層側に検出固定電極を有する特許文献3に記載の面外角速度センサとは異なり、特許文献4に記載された面外角速度センサでは、励振素子や検出可動電極などが形成されるデバイス層内に検出固定電極も有する構造となっている。
ところが、特許文献4に記載された面外角速度センサでは、同じ高さを有するデバイス層内に検出可動電極と、この検出可動電極との間で容量素子を形成するように一定間隔を持って検出固定電極を形成する場合、検出部でのz方向(デバイス層のxy平面から面外に抜け出る方向)の変位の大きさは分かるが、変位の方向が分からない問題が発生する。このため、特許文献4に記載された面外角速度センサでは、デバイス層に形成されている検出固定電極の上に内部応力を強く発生させた薄膜を成膜し、検出固定電極に初期変位を作っている。これによって、検出固定電極と検出可動電極とは、同じデバイス層内に形成されながらも、検出固定電極の高さと検出可動電極の高さの間に差が発生するため、z方向の変位の方向を検出することができる。
特許文献4に記載された面外角速度センサは、デバイス層内にすべての構成要素を有するため、トランスファモールド技術で封止体を形成する際の圧力や、その他の要因に起因する変形に影響を受けにくい。したがって、トランスファモールド技術で製造された安価な封止体を用いる場合でも、特許文献4に記載された面外角速度センサは、安定した性能を発揮することが期待できる。
ところが、特許文献4に記載された面外角速度センサは、デバイス層に初期変位を作るために用いられる大きい内部応力を有する薄膜の経時的な応力緩和と、この応力緩和に伴う性能変化が発生するおそれがある。さらに、大きい内部応力を有する薄膜による初期変位の制御は、各角速度センサでの個体差が大きいおそれがある。
以上のことから、上述した様々な現状の面外角速度センサでは、性能向上を図る観点から改善の余地が存在することがわかる。そこで、本実施の形態1では、面外角速度センサにおいて、性能向上を図る観点から優位性のある第2構成の面外角速度センサに着目し、この第2構成の面外角速度センサを実現する工夫を施している。以下では、この工夫を施した実施の形態1における面外角速度センサについて説明する。
<基本動作>
まず、本実施の形態1における角速度センサ素子の動作の概要について説明する。角速度センサ素子の励振素子(可動部)は、全体が一体化し、中央部にある固定部を支点として、支持梁の変形を伴いながら、y軸方向を回転軸とするzx平面(第1平面)内で回転振動をしている。回転角度が小さいとき、励振素子の運動は、z方向の振動とみなすことができる。つまり、本実施の形態1において、励振素子は、半導体チップの厚さ方向であるz方向に振動可能なように構成されていることになる。
ここで、zx平面内の励振素子の回転振動である駆動振動を誘起する役割を担うのが駆動電極であり、駆動振動の振幅を検出する役割を担うのが駆動振幅モニタ部である。次に、角速度センサ素子が形成された半導体チップの外部からx軸方向を回転軸とする角速度が入力されると、zx平面内で駆動振動している励振素子には、y方向のコリオリ力が働く。この場合、励振素子は、中央部にある固定部を支点として、支持梁の変形を伴いながら、z軸方向を回転軸とするxy平面(第2平面)内での回転変位を示す。xy平面内の回転変位を検出する役割を担うのが検出部である。
続いて、本実施の形態1における角速度センサ素子では、xy平面内の回転変位を打ち消すように、回転変位方向とは逆方向に静電気力を発生する電極が設置される。この電極に印加する電圧を角速度センサが形成された半導体チップに接続される信号処理回路用の半導体チップで演算し、最終的に角速度に対応した出力信号を得る。xy平面内における回転変位方向とは逆方向に静電気力を発生する役割を担うのがサーボ部である。
なお、MEMS構造からなる角速度センサ素子が形成された半導体チップ(第1半導体チップ)と、信号処理回路が形成された半導体チップ(第2半導体チップ)との組み合わせによって、本実施の形態1における角速度センサが構成されている。
<角速度センサ素子の平面構成>
次に、本実施の形態1における角速度センサ素子が形成される半導体チップの構成と、この半導体チップに形成される各電極の役割について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施の形態1における角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1の構成を示す平面図である。図1において、本実施の形態1における角速度センサ素子には、枠部101に囲まれるように空洞部102とダミー部116とが形成されている。そして、この空洞部102の内部には、固定部103が設けられており、この固定部103には、弾性変形部である支持梁104が接続されている。さらに、支持梁104は、角速度センサ素子の励振素子105と接続されている。ここで、本実施の形態1における励振素子105は、例えば、コリオリ力に基づくxy平面内の変位を検出する検出部DTU1〜DTU2と一体的に形成されており、この励振素子105と検出部DTU1〜DTU2とを含む可動部が構成される。
続いて、図1に示すように、本実施の形態1における角速度センサ素子は、励振素子105の一部を構成する駆動用可動電極106aと駆動用可動電極107aとを有している。駆動用可動電極106aと、図1では示されない駆動用固定電極との間、および、駆動用可動電極107aと、図1では示されない駆動用固定電極との間に電圧を印加して静電気力を発生させることにより、励振素子105は、半導体チップCHP1の厚さ方向であるz方向を含むzx平面内で駆動振動(回転振動)することになる。
さらに、本実施の形態1における角速度センサ素子は、複数の駆動振幅モニタ部を有している。具体的に、本実施の形態1における角速度センサ素子は、図1に示すように、4つの駆動振幅モニタ部MU1〜MU4を有している。このとき、駆動振幅モニタ部MU1は、励振素子105と一体的に形成された駆動振幅モニタ用可動電極108aと、支持基板に固定された駆動振幅モニタ用固定電極108bと、から構成されている。同様に、駆動振幅モニタ部MU2は、励振素子105と一体的に形成された駆動振幅モニタ用可動電極109aと、支持基板に固定された駆動振幅モニタ用固定電極109bと、から構成され、駆動振幅モニタ部MU3は、励振素子105と一体的に形成された駆動振幅モニタ用可動電極110aと、支持基板に固定された駆動振幅モニタ用固定電極110bと、から構成されている。また、駆動振幅モニタ部MU4は、励振素子105と一体的に形成された駆動振幅モニタ用可動電極111aと、支持基板に固定された駆動振幅モニタ用固定電極111bと、から構成されている。つまり、4つの駆動振幅モニタ部MU1〜MU4のそれぞれは、駆動振幅モニタ用可動電極と駆動振幅モニタ用固定電極とからなる容量素子となっており、これらの駆動振幅モニタ部MU1〜MU4によって、励振素子105のzx平面内での駆動振動の振幅が容量素子の容量値の変化として検出される。
次に、図1に示すように、本実施の形態1における角速度センサ素子は、2つの検出部DTU1〜DTU2を有している。このとき、検出部DTU1は、励振素子105と一体的に形成された変位検出用可動電極112aと、支持基板に固定された変位検出用固定電極112bと、から構成され、検出部DTU2は、励振素子105と一体的に形成された変位検出用可動電極113aと、支持基板に固定された変位検出用固定電極113bと、から構成されている。つまり、2つの検出部DTU1〜DTU2のそれぞれは、変位検出用可動電極と変位検出用固定電極とからなる容量素子となっており、これらの検出部DTU〜DTU2によって、コリオリ力に基づく励振素子105のxy平面内での変位が容量素子の容量値の変化として検出される。すなわち、検出部DTU1〜DTU2は、zx平面に垂直なxy平面内に含まれる回転軸方向周りに角速度が印加された際、この角速度に起因して発生するコリオリ力に基づくxy平面内の変位を静電容量の変化として捉えるように構成されている。
さらに、図1に示すように、本実施の形態1における角速度センサ素子は、2つのサーボ部SVU1〜SUV2を有している。サーボ部SVU1は、励振素子105と一体的に形成されたサーボ電極可動部114aと、支持基板に固定されたサーボ電極固定部114bと、から構成され、サーボ部SVU2は、励振素子105と一体的に形成されたサーボ電極可動部115aと、支持基板に固定されたサーボ電極固定部115bと、から構成されている。この場合、サーボ部SVU1〜SUVのそれぞれは、xy平面内における回転変位方向とは逆方向に静電気力を発生するように構成されることになり、これによって、コリオリ力に起因するxy平面内の回転変位がサーボ部SVU1〜SUV2のそれぞれで発生する静電気力によって打ち消されることになる。
このように構成されている角速度センサ素子は、シリコン深堀エッチング(Deep Reactive Ion Etching:DRIE)技術を用いて加工される。
なお、励振素子105と支持梁104の接続角度は、DRIEの加工バラツキに起因する固有振動数の個体差を低減する目的で、鋭角とならないように調整されている。
また、本実施の形態1における角速度センサ素子の励振素子105は、固定部103だけを介して支持基板と接続されており、角速度センサが置かれた環境の温度変動や実装歪みの影響によって支持基板に歪みが生じて、支持基板が変形した場合でも、励振素子105や支持梁104の変形による応力分布が生じにくい構造となっている。つまり、本実施の形態1における角速度センサ素子は、励振素子105の固有振動数が変動しにくい構造となっている。
さらに、本実施の形態1における角速度センサ素子の励振素子105では、zx平面内の駆動振動モード(回転振動モード)、もしくは、xy平面内の回転変位モードが、励振素子105の固有振動数の第1モードとなる。したがって、本実施の形態1における角速度センサ素子では、角速度センサ素子の動作周波数以下の帯域に、励振素子105が応答する特徴的な周波数が存在しない。このことから、本実施の形態1における角速度センサ素子は、外部からの機械的な振動ノイズに強い特徴を有していることになる。
なお、ダミー部116は、角速度センサ素子を形成する際に、エッチングによる除去面積を調整して、励振素子に代表される角速度センサの構成要素の加工バラツキを低減する役割を有するとともに、電位を固定して周辺からの電磁波ノイズを除去するシールドとしての役割も有する。さらに、本実施の形態1における角速度センサ素子において、ダミー部116は、トランスファモールド技術を採用する点や、温度あるいは湿度の変動などに起因する半導体チップCHP1の歪みによって、半導体チップCHP1を実装する際、封止体を構成する樹脂と接する層に設置される角速度センサの構成要素が変形しないように支持体を構成する役割も有する。
<角速度センサ素子の断面構成>
次に、本実施の形態1における角速度センサ素子の断面構造について、図面を参照しながら説明する。図2(a)は、図1のA−A線で切断した断面図であり、図3(a)は、図1のB−B線で切断した断面図である。
図2(a)、あるいは、図3(a)に示すように、角速度センサ素子が形成される半導体チップCHP1は、例えば、単結晶シリコンからなる支持基板1Sを有している。この支持基板1Sの表面(上面、主面)には、例えば、酸化シリコン膜からなる絶縁層131が形成されており、この絶縁層131の上方にデバイス層DLが形成され、デバイス層DLの上方にキャップ層CAPLが形成されている。そして、支持基板1Sとデバイス層DLとの間、および、デバイス層DLとキャップ層CAPLとの間には、空洞部102が形成されている。
デバイス層DLには、単結晶シリコンで形成される枠部101、固定部103、励振素子105、サーボ電極可動部114a、115a、サーボ電極固定部114b、115b、駆動用可動電極106a、107a、変位検出用可動電極112a、113a、変位検出用固定電極112b、113bなどの図1に示される構成要素が形成されている。さらに、デバイス層DLには、駆動振幅モニタ用可動電極108a〜111a、駆動振幅モニタ用固定電極108b〜111b、および、支持梁104なども形成されている。
キャップ層CAPLは、単結晶シリコンからなるキャップ部140、絶縁層141、導電膜142、保護膜143、励振素子105をzx平面内で振動させるための電圧が印加される駆動用固定電極106b、107b、および、貫通電極などが形成されている。
本実施の形態1における角速度センサ素子では、キャップ部140とデバイス層DLとを接合し、角速度センサ素子をキャップ部140で保護する。特に、本実施の形態1における角速度センサ素子では、図2(a)や図3(a)に示すように、接続領域CR1で支持基板1Sとデバイス層DLとが接合され、接続領域CR2でデバイス層DLとキャップ層CAPLとが接続されている。
ここで、空洞部102内に配置される角速度センサ素子の励振素子105は、支持梁104を介して固定部103と接続され、固定部103は、絶縁層131を介して支持基板1Sと接続される。つまり、励振素子105は、支持基板1Sに対して完全に固定されてはおらず、変位可能なように構成されている。そして、励振素子105は、単結晶シリコンから形成されているため、励振素子105は、構造体中のいずれの場所であっても電気的に接続されている。
また、キャップ部140を貫通するように貫通電極が形成されており、この貫通電極は、キャップ部140に、絶縁層141を埋め込んで電気的に分離することにより形成される。
なお、励振素子105に印加される電位は、固定部103と接続される貫通電極を介して、導電膜142に形成されるパッドから供給される。
また、駆動振幅モニタ用固定電極108b〜111b、変位検出用固定電極112b、113b、および、サーボ電極固定部114b、115bにも、それぞれ、貫通電極が形成されている。駆動振幅モニタ用固定電極108b〜111b、変位検出用固定電極112b、113b、および、サーボ電極固定部114b、115bのそれぞれは、貫通電極を介して、導電膜142に形成されるパッドと電気的に接続される。このことから、駆動振幅モニタ用固定電極108b〜111b、変位検出用固定電極112b、113b、および、サーボ電極固定部114b、115bのそれぞれの電位は、パッドの電位と等しい。このため、励振素子105がzx平面内で駆動振動することで生じる容量変化や、励振素子105がxy平面内で変位することで生じる容量変化に応じて、励振素子105および上述した各固定電極の表面には、電荷が流入あるいは流出することになる。
なお、本実施の形態1における角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1は、パッドの部分を除いて、導電膜142の表面が保護膜143によって覆われて保護されている。
例えば、本実施の形態1における半導体チップCHP1では、デバイス層DLとキャップ層CAPLとを貼り合せることにより接合する。具体的に、デバイス層DLとキャップ層CAPLとの貼り合せには、単結晶シリコン同士の直接接合が使用される。一方、デバイス層DLと支持基板1Sの接合にも貼り合せが使用される。デバイス層DLと支持基板1Sの貼り合せには、例えば、単結晶シリコンの表面を高温で酸化して得られる酸化シリコン膜と単結晶シリコンとのフュージョン接合が使用される。
この結果、本実施の形態1における半導体チップCHP1では、従来から使用されている接着材を用いた接合方式やガラス−シリコンの陽極接合方式と異なり、貼り合せの際に、ガスの発生源となる接着材などの有機物が不要となる。このことから、本実施の形態1における半導体チップCHP1では、空洞部102の内部に脱ガス成分を含まない方法で空洞部102を形成することができる。また、貼り合せ工程の前に実施する洗浄工程における残留液体や、フォトリソグラフィ工程における残留レジストが、空洞部102の内壁に付着する場合であっても、単結晶シリコン同士の直接接合は、通常1000℃以上の熱を加えて実施されるため、上述した残留液体や残留レジストは、焼失してしまう。このことから、本実施の形態1における半導体チップCHP1では、ガスの発生源となる接着材などの有機物が不要となる点と、残留液体や残留レジストが高温の熱処理によって焼失する点から、空洞部102の内部に脱ガス成分を含むことなく、空洞部102を形成できる。
したがって、角速度センサ素子の励振素子105が配置される空洞部102の内部は、例えば、100Pa以下、望ましくは、10Pa以下という低い圧力で封止されることになる。この結果、本実施の形態1における半導体チップCHP1では、従来から使用されている接着材を用いた接合方式や、ガラス−シリコンの陽極接合方式と比較して、空洞部102内の圧力を低くすることができる。このことから、本実施の形態1における半導体チップCHP1では、空洞部102の内部の圧力を低くするために、励振素子105が設置される空洞部102の内部に、気体分子を吸着する吸着材であるゲッタを導入して、真空度を保つ必要がなく、ゲッタ材料を使用することによるコスト増加を抑制することができる。
本実施の形態1で実現される10Pa以下の圧力において、MEMS振動体のようにマイクロスケールの寸法を持つ構造体のエネルギー減衰は、ガスダンピングによる寄与はほとんどなく、構造ダンピングが主体となる。構造ダンピングによる減衰は、アンカーロスと呼ばれる支持部からの振動漏れによる減衰と、Thermal Elastic Dampingと呼ばれる変形部からの熱拡散による減衰とが主体であるが、これらの減衰は、ガスダンピングによる減衰と比較して、ダンピング係数が充分に小さい。したがって、励振素子105の質量をm、支持梁104のばね定数をk、ダンピング係数をCとしたとき、Q=√mk/Cであるため、本実施の形態1における励振素子105のQ値は、一般的に高くなる。例えば、励振素子105の構造や寸法にも依存するが、10Pa以下の圧力では、通常、10000以上のQ値を実現することができる。
本実施の形態1における角速度センサ素子の駆動用電極(駆動用可動電極と駆動用固定電極)は、平行平板型であり、気体中では減衰の大きなスクイズドフィルム型のダンピングを示す電極構造である。しかし、上述したように、本実施の形態1における角速度センサ素子では、従来から使用されている接着材を用いた接合方式やガラス−シリコンの陽極接合方式ではなく、封止圧力を低くすることができる単結晶シリコン同士の直接接合や、酸化シリコン膜と単結晶シリコンとのフュージョン接合が使用されている。このため、本実施の形態1における励振素子105は、ガスダンピングの寄与がほとんどない真空度の空洞部102の内部に配置されることから、駆動用電極の構成として、平行平板型の電極構造でありながら、励振素子105の駆動振動モードで大きなQ値を実現できる。
<駆動電極の構成>
続いて、本実施の形態1における駆動電極の構成について説明する。図1において、励振素子105のうち、破線で示された領域には、駆動用可動電極106a、107aが形成されている。図2(a)に示すように、デバイス層DLに形成されている駆動用可動電極106a、107aの上方で、かつ、駆動用可動電極106a、107aと対向する位置には、駆動用固定電極106bおよび駆動用固定電極107bが形成されている。
このように配置することにより、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとによって容量素子が形成されるとともに、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとによって容量素子が形成される。
例えば、本実施の形態1における角速度センサ素子では、互いに対向することにより容量素子を形成している駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとの間に、Vcom+Vb+Vdで表される周期的な駆動信号が印加され、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとの間にVcom+Vb−Vdで表される周期的な駆動信号が印加される。さらに、本実施の形態1における角速度センサ素子では、励振素子105と電気的に接続されている固定部103に、貫通電極を介してVcomで表される電圧が印加される。これにより、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとの間、および、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとの間には、交互に静電気力が働く。この結果、図2(b)の破線で示すように、励振素子105は、zx平面内で駆動振動(回転振動)することになる。
ここで、本実施の形態1における角速度センサ素子では、図2(a)に示すように、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106b、および、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bは、zx平面内での励振素子105の回転中心である固定部103から最も離れた位置に設置される。この結果、本実施の形態1における角速度センサ素子においては、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとから構成される容量素子、および、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bから構成される容量素子の間に働く静電気力に起因する回転トルクが大きくなる。このことから、本実施の形態1における角速度センサ素子によれば、駆動用固定電極106bと駆動用固定電極107bの面積を小さくすることができ、これによって、角速度センサ素子が形成される半導体チップCHPのサイズを小さくできる利点が得られる。
以上より、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとから構成される容量素子、あるいは、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとから構成される容量素子は、励振素子105をzx平面内で強制的に駆動振動を発生させる強制振動生成部として機能することになる。
<駆動振幅モニタ部の構成>
次に、本実施の形態1における駆動振幅モニタ部の構成について説明する。図1に示すように、励振素子105には、励振素子105と一体的に形成された駆動振幅モニタ用可動電極108a〜111aが形成されている。そして、この駆動振幅モニタ用可動電極108a〜111aと対向するように、駆動振幅モニタ用固定電極108b〜111bが形成されている。これにより、駆動振幅モニタ用可動電極108a〜111aのそれぞれと、駆動振幅モニタ用固定電極108b〜111bのそれぞれによって、4つの容量素子が形成され、これらの4つの容量素子が、デバイス層DLに形成される4つの駆動振幅モニタ部MU1〜MU4となる。ここで、4つの駆動振幅モニタ部MU1〜MU4のそれぞれを構成する4つの容量素子では、励振素子105がzx平面内での駆動振動によりz方向に変位すると、容量値が変化する。
ここで、図4(a)は、図1のC1−C1線で切断した断面図である。図4(a)に示すように、駆動振幅モニタ用可動電極108aには、−z方向側に切り欠きがあり、駆動振幅モニタ用可動電極108bには+z方向側に切り欠きがある。言い換えれば、zx平面内において、駆動振幅モニタ用可動電極108aのz方向(厚さ方向)の中心位置と、駆動振幅モニタ用固定電極108bのz方向(厚さ方向)の中心位置とがずれていると表現することもできる。これらの切り欠きの高さは、励振素子105のzx平面内での駆動振動の振幅よりも大きい必要がある。
例えば、図3(b)および図4(a)に示すように、励振素子105がzx平面内で反時計まわりの回転変位をする場合、駆動振幅モニタ用可動電極108aが+z方向に変位するため、回転角度の増加に伴って、駆動振幅モニタ部MU1を構成する容量素子の容量値は減少する。
一方、図4(b)は、図1のC2−C2線で切断した断面図である。図4(b)に示すように、駆動振幅モニタ用可動電極109aは、+z方向側に切り欠きがあり、駆動振幅モニタ用固定電極109bは、−z方向側に切り欠きがある。したがって、励振素子105がzx平面内で反時計まわりの回転変位をする場合には、駆動振幅モニタ用可動電極109aは+z方向に変位するため、回転角度の増加に伴って、駆動振幅モニタ部MU2を構成する容量素子の容量値は増加する。
また、駆動振幅モニタ用可動電極110aには、+z方向側に切り欠きがあり、駆動振幅モニタ用固定電極110bには、−z方向側に切り欠きがある。したがって、図3(b)に示すように、励振素子105がzx平面内で反時計まわりの回転変位をする場合には、駆動振幅モニタ用可動電極110aが−z方向に変位するため、回転角度の増加に伴って、駆動振幅モニタ部MU3を構成する容量素子の容量値が減少する。
一方、駆動振幅モニタ用可動電極111aには、−z方向側に切り欠きがあり、駆動振幅モニタ用固定電極111bには、+z方向側に切り欠きがある。したがって、励振素子105がzx平面内で反時計まわりの回転変位をする場合には、駆動振幅モニタ用可動電極111aが−z方向に変位するため、回転角度の増加に伴って、駆動振幅モニタ部MU4を構成する容量素子の容量値が増加する。
ここで注意が必要なのは、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に角速度が印加されてコリオリ力が発生し、コリオリ力に基づいて、励振素子105にxy平面内での回転変位が生じる場合においても、駆動振幅モニタ用可動電極108a〜111aのそれぞれと、駆動振幅モニタ用固定電極108b〜111bのそれぞれから形成される4つの容量素子の容量値が変化することである。つまり、本実施の形態1において、4つの駆動振幅モニタ部MU1〜MU4のそれぞれを構成する容量素子は、励振素子105がzx平面内で駆動振動する場合だけでなく、コリオリ力によって、励振素子105がxy平面で変位する場合も、容量値が変化してしまうのである。
励振素子105がxy平面内で反時計まわりに回転変位するとき、駆動振幅モニタ用可動電極108aと駆動振幅モニタ用固定電極108bから構成される容量素子の容量値は増加し、駆動振幅モニタ用可動電極109aと駆動振幅モニタ用固定電極109bから構成される容量素子の容量値は減少する。一方、駆動振幅モニタ用可動電極110aと駆動振幅モニタ用固定電極110bから構成される容量素子の容量値は減少し、駆動振幅モニタ用可動電極111aと駆動振幅モニタ用固定電極111bから構成される容量素子の容量値は増加する。したがって、励振素子105のzx平面内での駆動振動の振幅を得るには、駆動振幅モニタ用固定電極108bと駆動振幅モニタ用固定電極110bとを電気的に接続した合計容量値と、駆動振幅モニタ用固定電極109bと駆動振幅モニタ用固定電極111bを電気的に接続した合計容量値との間で差動検出をする必要がある。この差動検出によれば、励振素子105のxy平面内での回転変位による容量値の変化を、信号処理回路(演算回路)に入力する前にキャンセルすることができる。つまり、上述した差動検出を行なうことにより、本実施の形態1における駆動振幅モニタ部MU1〜MU4は、xy平面内での回転変位の影響をなくしながら、zx平面内での駆動振動による容量値の変化分だけを検出することができる。これにより、駆動振幅モニタ部MU1〜MU4によって、励振素子105のzx平面内での駆動振動だけをモニタリングすることができる。
ここで、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1と電気的に接続される半導体チップには、信号処理回路が形成されており、この信号処理回路は、上述した駆動振幅モニタ部MU1〜MU4から得られる励振素子105のzx平面内の駆動振幅に対応する容量値の変化に基づいて、自動振幅制御(Automatic Gain Control:AGC)によるフィードバック制御を行い、励振素子105の振動振幅を常に一定に保っている。この点に関し、本実施の形態1では、駆動振幅モニタ部MU1〜MU4によって、励振素子105のzx平面内での駆動振動だけをモニタリングすることができるので、上述した自動振幅制御によるフィードバック制御の精度を向上させることができる。
また、駆動振幅モニタ用可動電極108a〜111aと、駆動振幅モニタ用固定電極108b〜111bは、すべて、励振素子105と同じ層であって、歪みの影響を受けにくいデバイス層DLに形成される。このため、トランスファモールド技術を採用する点や、温度、湿度が変動する点などに起因して、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に歪みが生じる場合であっても、駆動振幅モニタ用可動電極と駆動振幅モニタ用固定電極との間の距離は変動しにくく、半導体チップCHP1の歪みによって、駆動振幅モニタ用可動電極と駆動振幅モニタ用固定電極とから構成される容量素子の容量値も変動しにくい。つまり、励振素子105のzx平面内での回転振動の振幅を検出している容量素子の容量値は、半導体チップCHP1の歪みによる影響を受けにくい。
一方、本実施の形態1では、歪みの影響を受けにくいデバイス層DLに駆動用可動電極106a、107aが形成されているものの、歪みの影響を受けやすいキャップ層CAPLに駆動用固定電極106b、107bが形成されている。このことから、本実施の形態1における角速度センサ素子では、トランスファモールド技術を採用する点や、温度、湿度が変動する点などに起因して、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に歪みが発生した場合、歪みによって、駆動用可動電極106a、107aと駆動用固定電極106b、107bとの間の距離が変動するおそれがある。この場合、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとから構成される容量素子の容量値や、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとから構成される容量素子の容量値が変動するおそれがある。
この点に関し、本実施の形態1では、歪みの影響を受けにくいデバイス層DLに形成されている駆動振幅モニタ部MU1〜MU4からの出力に基づいて、自動振幅制御を行なっている。つまり、本実施の形態1では、歪みの影響を受けにくいデバイス層DLに形成されている駆動振幅モニタ部MU1〜MU4からの出力に基づいて、励振素子105の振動振幅が一定となるように印加する駆動信号Vdを調整して、駆動用可動電極106a、107aと駆動用固定電極106b、107bとの間に印加される静電気力を調整している。この結果、本実施の形態1によれば、たとえ、半導体チップCHP1に発生する歪みによって、駆動用可動電極106a、107aと駆動用固定電極106b、107bとの間の距離が変動する場合であっても、半導体チップCHP1の歪みによる角速度センサの出力への影響を小さくできる利点が得られる。
また、本実施の形態1における角速度センサ素子の駆動用電極(駆動用可動電極と駆動用固定電極)は、平行平板型の電極構造をしている。しかし、本実施の形態1では、上述したように、励振素子105は、ガスダンピングの影響をほとんど受けない低い圧力の空洞部102の内部に設置されるため、励振素子105のQ値は大きい。このことから、本実施の形態1によれば、平行平板型の電極構造において、変位と静電気力の間に線形関係が成立する線形領域での小さな静電気力を利用して励振素子105に駆動振動を発生させる場合であっても、大きなQ値で励振素子105の駆動振動の振幅を充分に確保することができる。特に、本実施の形態1では、変位に対して駆動力(静電気力)が線形である線形領域を利用して励振素子105に駆動振動を発生させているため、自動振幅制御が不安定化するおそれを低減できる。また、本実施の形態1における角速度センサ素子によれば、小さな静電気力で微小変位を発生させ、大きなQ値で励振素子105の駆動振動の振幅を確保しているため、駆動用電極同士がくっついてしまう、いわゆるプルイン現象の発生を抑制することができる。
<検出部の構成>
続いて、本実施の形態1における検出部の構成について説明する。図1に示すように、励振素子105には、励振素子105と一体的に形成された変位検出用可動電極112a、113aが形成されている。そして、図3(a)に示すように、この変位検出用可動電極112a、113aのそれぞれと対向するように、励振素子105と同じデバイス層DLに、変位検出用固定電極112b、113bのそれぞれが形成されている。図1に示すように、変位検出用可動電極112aと、変位検出用固定電極112bとによって、検出部DTU1が構成され、変位検出用可動電極113aと、変位検出用固定電極113bとによって、検出部DTU2が構成される。つまり、検出部DTU1は、変位検出用可動電極112aと変位検出用固定電極112bとからなる容量素子を含んでおり、この容量素子は、半導体チップCHP1に入力される角速度に応じて容量値が変化する。同様に、検出部DTU2は、変位検出用可動電極113aと変位検出用固定電極113bとからなる容量素子を含んでおり、この容量素子は、半導体チップCHP1に入力される角速度に応じて容量値が変化する。
例えば、本実施の形態1において、x軸方向周りの角速度に応じて、検出部DTU1および検出部DTU2の容量値が変化するメカニズムは、以下の通りである。すなわち、zx平面内で駆動振動する励振素子105に対して、x軸方向周りの角速度が入力されると、励振素子105のうち+z方向に速度を持つ部分には、−y方向のコリオリ力が働き、励振素子105のうち−z方向に速度を持つ部分には、+y方向のコリオリ力が働く。励振素子105の変位可能方向は、固定部103を中心としたzx平面内での回転変位と、固定部103を中心としたxy平面内での回転変位である。このため、励振素子105に印加された角速度に基づくコリオリ力は、振動している励振素子105のすべての構成部分について、固定部103からの距離の2乗を乗じた回転モーメントとして顕在化する。
この結果、励振素子105に印加された角速度に基づくコリオリ力は、固定部103に働くz方向のトルクとして機能する。したがって、励振素子105は、固定部103に働くz方向のトルクの大きさに応じて、固定部103を回転中心としたxy平面内での回転運動をすることになる。このようにして、励振素子105が、xy平面内での回転運動によって、y方向に変位すると、上述した検出部DTU1を構成する容量素子の容量値と、検出部DTU2を構成する容量素子の容量値が変化する。
なお、xy平面内での回転運動は、励振素子105のすべての構成部分からの合成トルクにより発生する。このため、本実施の形態1では、上述した駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとの間、あるいは、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとの間で発生する静電気力が、加工バラツキや電極間距離の変動により等しくなかったとしても、励振素子105のxy平面内での回転運動への影響は少なくなる。
ここで、図5(a)は、図1のD−D線で切断した断面図である。図5(a)に示すように、励振素子105と一体化されている変位検出用可動電極112aには、段差部がないが、変位検出用固定電極112bには、z方向の上端部と下端部とに、同じ形状の段差部DIFが形成されている。この段差部DIFの高さhは、励振素子105のzx平面内の回転振動の振幅より大きい。したがって、図5(b)に示すように、励振素子105がzx平面内で駆動振動をしていても、変位検出用可動電極112aと変位検出用固定電極112bから構成される容量素子の容量値は、ほとんど変動せず、半導体チップCHP1に印加される角速度に応じてのみ容量値が変動する。
同様に、図示はしないが、励振素子105と一体化されている変位検出用可動電極113aには、段差部がないが、変位検出用固定電極113bには、z方向の上端部と下端部とに、同じ形状の段差部DIFが形成されている。この段差部DIFの高さhは、励振素子105のzx平面内の駆動振動の振幅より大きい。したがって、励振素子105がzx平面内で駆動振動をしていても、変位検出用可動電極113aと変位検出用固定電極113bから構成される容量素子の容量値は、ほとんど変動せず、半導体チップCHP1に印加される角速度に応じてのみ容量値が変動する。
つまり、本実施の形態1における検出部DTU1および検出部DTU2では、例えば、図5(a)に示すように、変位検出用可動電極112aに段差部DIFを設け、かつ、段差部DIFの高さhを、励振素子105のzx平面内の駆動振動の振幅より大きく構成している。これにより、本実施の形態1における検出部DTU1および検出部DTU2は、励振素子105のzx平面内での駆動振動の影響をほとんど受けることなく、コリオリ力に起因する励振素子105の変位だけを、容量素子の容量値の変化として検出することができる。
ここで、例えば、図1に示すように、変位検出用可動電極112a、113aは、zx平面内で駆動振動する励振素子105のうち、振動振幅が小さい回転軸(固定部103)付近で、励振素子105と接続されている。言い換えれば、本実施の形態1における検出部DTU1および検出部DTU2は、xy平面において、駆動用可動電極106a、107aや、駆動用可動電極106a、107aとz方向に対向する位置に設置されている駆動用固定電極や、駆動振幅モニタ部MU1〜MU4よりも固定部103に近い位置に配置されている。したがって、例えば、変位検出用可動電極112a、113aに段差部DIFを形成する際、変位検出用可動電極112a、113aの上端部と下端部で生じる加工バラツキがあっても、変位検出用可動電極112a、113aの端部からの漏れ電界の差異による容量値の変動の影響を抑制することができる。
また、例えば、図1に示すように、変位検出用固定電極112b、113bは、貫通電極が形成されている位置でのみ支持基板と固定されており、固定されている部分以外の変位検出用固定電極112b、113bの部分には、穴が開けられている。このように、本実施の形態1では、変位検出用固定電極112b、113bを軽量化することにより、変位検出用固定電極112b、113bの固有振動数を高めることができる。このため、本実施の形態1における検出部DTU1および検出部DTU2は、外部からの機械的振動ノイズに影響を受けににくい構造となっている。つまり、本実施の形態1において、変位検出用可動電極112aと変位検出用固定電極112bから構成される容量素子の容量値や、変位検出用可動電極113aと変位検出用固定電極113bから構成される容量素子の容量値は、外部からの機械的振動ノイズに対して変動しにくくなっている。
さらに、本実施の形態1における角速度センサ素子では、変位検出用可動電極112a、113aと、変位検出用固定電極112b、113bは、励振素子105が形成されているデバイス層DLに形成されている。このことから、トランスファモールド技術を採用する点や、温度、湿度が変動する点に起因して、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に歪みが発生する場合であっても、変位検出用可動電極112aと変位検出用固定電極112bとの間の距離や、変位検出用可動電極113aと変位検出用固定電極113bとの間の距離は変動しにくく、容量値も変動しにくい。すなわち、本実施の形態1において、検出部DTU1を構成する容量素子の容量値や、検出部DTU2を構成する容量素子の容量値は、半導体チップCHP1の歪みによる影響を受けにくい特徴がある。
<サーボ部の構成>
次に、本実施の形態1におけるサーボ部の構成について説明する。例えば、図1に示すように、励振素子105には、励振素子105と一体的に形成されたサーボ電極可動部114a、115aが形成されている。そして、サーボ電極可動部114a、115aと対向するように、サーボ電極固定部114b、115bが形成されている。これにより、本実施の形態1における角速度センサ素子は、サーボ電極可動部114aとサーボ電極固定部114bとからなるサーボ部SVU1と、サーボ電極可動部115aとサーボ電極固定部115bとからなるサーボ部SVU2とを有している。
角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1と電気的に接続される半導体チップには、信号処理回路が形成されている。この信号処理回路は、変位検出用可動電極112aと変位検出用固定電極112bから構成される容量素子の容量値や、変位検出用可動電極113aと変位検出用固定電極113bから構成される容量素子の容量値を常に一定に保つように制御している。つまり、上述した信号処理回路は、入力されるx軸方向周りの角速度に応じて、励振素子105が変位しないように、サーボ電極可動部114aとサーボ電極固定部114bとの間や、サーボ電極可動部115aとサーボ電極固定部115bの間に印加する電圧を制御している。
具体的に、信号処理回路は、互いに対向することにより容量素子を形成しているサーボ電極可動部114aとサーボ電極固定部114bの間に、Vcom+Vsb+Vsdで表される周期的なサーボ信号を印加し、サーボ電極可動部115aとサーボ電極固定部115bの間に、Vcom+Vsb−Vsdで表される周期的なサーボ信号を印加する。そして、励振素子105が接続されている固定部103に貫通電極を介して、Vcomで表される電圧を印加することにより、サーボ電極可動部114aとサーボ電極固定部114bとの間、および、サーボ電極可動部115aとサーボ電極固定部115bとの間には、交互に静電気力が働く。このようにして、信号処理回路は、Vsdを調整して、励振素子105が変位しないように、言い換えれば、信号処理回路は、上述した変位検出用可動電極112aと変位検出用固定電極112bから構成される容量素子の容量値と、変位検出用可動電極113aと変位検出用固定電極113bから構成される容量素子の容量値を一定に保つように制御している。このとき、Vsdは、励振素子105に印加される角速度に比例した値を有していることから、信号処理回路でVsdに適切な比例係数を乗算した出力値が角速度に対応した値となる。これは、ゼロ位法と呼ばれる制御手法である。このゼロ位法によれば、励振素子105がコリオリ力を受けても変位しないことから、xy平面内での回転角度の増加に起因して、支持梁104の内部に応力分布が生じる影響を除去することができる。このため、回転力に対する変位の非線形出力の影響を除去することができ、これによって、本実施の形態1における角速度センサ素子によれば、出力値の非線形性を低減できる。
また、サーボ電極可動部114aとサーボ電極固定部114bとの間、あるいは、サーボ電極可動部115aとサーボ電極固定部115bとの間に働く静電気力は、温度変動によって、ほとんど変化しないとみなせるため、本実施の形態1における角速度センサの感度が温度変動に依存しない利点を得ることができる。
本実施の形態1における角速度センサ素子では、サーボ電極可動部114a、115aと、サーボ電極固定部114b、115bとは、励振素子105と同じデバイス層DLに形成されている。このことから、トランスファモールド技術を採用する点や、温度、湿度が変動する点に起因して、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に歪みが発生する場合であっても、サーボ電極可動部114aとサーボ電極固定部114bとの間の距離や、サーボ電極可動部115aとサーボ電極固定部115bとの間の距離は変動しにくく、容量値も変動しにくい。つまり、入力される角速度に応じた励振素子105のxy平面内での回転運動を、信号処理回路での電圧調整により打ち消す機能を有するサーボ部SVU1、SVU2のそれぞれを構成する容量素子の容量値は、半導体チップCHP1に発生する歪みの影響を受けにくい特徴がある。
さらに、本実施の形態1における角速度センサ素子では、図1に示すように、サーボ部SVU1およびサーボ部SVU2が、励振素子105の中でも固定部103に近い部分に形成されている。このため、サーボ部SVU1やサーボ部SVU2で発生する力は、励振素子105に発生するコリオリ力と比べて大きくする必要があり、本実施の形態1における角速度センサによれば、角速度センサの感度を大きくすることができる利点が得られる。
<信号処理回路の構成および動作>
続いて、本実施の形態1における角速度センサの信号処理回路の構成と動作について、本実施の形態1における角速度センサに関連する箇所のみを抜粋して説明する。
図6は、本実施の形態1における角速度センサの駆動振動に関する信号処理回路を説明する図である。図6において、半導体チップCHP2には、変調信号(搬送波)を生成する変調信号生成部211が形成されている。そして、変調信号生成部211で生成された変調信号には、バイアス電圧が印加されて、励振素子105に印加される。この変調信号生成部211は、例えば、数百kHzの変調信号を生成できるように構成されているが、数百kHzの変調信号は、角速度センサ素子の励振素子105の固有振動数よりも大きいため、変調信号によって励振素子105は変位しない。このように、変調信号を使用すると、環境ノイズを除去しながら、電極間に形成される容量素子の容量値を測定することができる。
また、半導体チップCHP2には、駆動信号を生成する駆動信号生成部210a、210bが形成されている。この駆動信号生成部210a、210bは、例えば、数十kHzの駆動信号を生成できるように構成されている。駆動信号生成部210bは、駆動信号生成部210aで生成された駆動信号の位相を180度変換した信号を生成する。駆動信号生成部210aで生成された駆動信号には、バイアス電圧が印加されて、駆動用固定電極106bに印加される。また、駆動信号生成部210bで生成された駆動信号は、バイアス電圧が印加されて、駆動用固定電極107bに印加される。これにより、本実施の形態1における角速度センサ素子の励振素子105は、数十kHzの駆動信号によりzx平面内で駆動振動することになる。
さらに、半導体チップCHP2には、演算部212が形成されている。この演算部212は、駆動振幅モニタ用固定電極108b、111bに接続され、励振素子105の回転振動の振幅に対応する容量変化を検出する。この演算部212は、容量電圧変換部(C/V変換部)、A/D変換部、差動検出部、同期検波部を有している。
容量電圧変換部は、容量素子C8と容量素子C11の容量変化を電圧信号に変換するオペアンプにより構成されている。続いて、A/D変換部は、容量電圧変換部から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するように構成されている。また、差動検出部は、容量素子C8の容量変化に対応した電圧信号と、容量素子C8の容量変化とは逆である容量素子C11の容量変化に対応した電圧信号との差分を取るように構成されており、同期検波部は、変調信号生成部211で生成された変調信号によって高周波信号に変換された信号から、元の低い周波数の信号を復元するように構成されている。
ここで、本実施の形態1において、駆動信号生成部210a、210bで生成され、励振素子105に印加される周期的な駆動信号は、角速度センサ素子の励振素子105の共振周波数とすることが望ましい。これは、共振倍率(Q値)を利用して、駆動変位を増大させることにより、入力エネルギーを効率的に利用でき、これによって、本実施の形態1における角速度センサの低消費電力化を実現することができるからである。
このため、半導体チップCHP2に形成されている信号処理回路では、駆動振幅モニタ用固定電極108b、111bより得られる励振素子105の駆動振動の振幅に対応する容量素子C8と容量素子C11との容量変化に基づいて、位相同期回路(Phase Locked Loop:PLL)を用いた自動周波数制御(Automatic Frequency Control:AFC)によるフィードバック制御を行っている。この自動周波数制御により、駆動信号生成部210a、210bで生成される駆動信号の周波数を励振素子105の共振周波数に追従させて、環境温度変動による共振周波数の変動を補償している。
また、半導体チップCHP2に形成されている信号処理回路では、駆動振幅モニタ用固定電極108b、111bより得られる励振素子105の駆動振動の振幅に対応する容量素子C8と容量素子C11との容量変化に基づいて、自動振幅制御を行っている。この自動振幅制御により、駆動信号生成部210a、210bで生成された駆動信号の大きさ(Vd)を調整して、励振素子105の周期的な強制振動の振幅を常に一定に保ち、本実施の形態1における角速度センサの感度を一定に保持している。
ここで、例えば、トランスファモールド技術を採用する点や、温度、湿度が変動する点に起因して、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に歪みが発生する場合を考える。このとき、駆動用可動電極106a、107aは、デバイス層DLに形成されている一方、駆動用固定電極106b、107bは、歪みの影響を受けやすいキャップ層CAPLに形成されている。このことから、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとの間の距離や、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとの間の距離は、変動しやすく、これによって、駆動振動を発生させる容量素子の容量値も変動しやすくなると考えられる。
この点に関し、本実施の形態1では、たとえ、半導体チップCHP1に発生する歪みによって、駆動振動を発生させる容量素子の容量値が変動する場合であっても、自動振幅制御によって、励振素子105の周期的な回転振動の振幅を常に一定に保つことができるため、角速度センサの感度は、半導体チップCHP1の歪みによる影響を受けにくくなる。
次に、図7は、本実施の形態1における角速度センサでの角速度の検出に関する信号処理回路を説明する図である。図7に示すように、半導体チップCHP2には、演算部213が形成されている。この演算部213は、変位検出用固定電極112b、113bと電気的に接続され、コリオリ力によって生じる励振素子105のxy平面内での回転変位に対応する容量変化を検出するように構成されている。
この演算部213は、容量電圧変換部(C/V変換部)、A/D変換部、差動検出部、同期検波部を有している。容量電圧変換部は、容量素子C12と容量素子C13との容量変化を電圧信号に変換するオペアンプにより構成されている。続いて、A/D変換部は、容量電圧変換部から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するように構成されている。差動検出部は、容量素子C12の容量変化に対応した電圧信号と、容量素子C12の容量変化とは逆である容量素子C13の容量変化に対応した電圧信号との差分を取るように構成されており、同期検波部は、変調信号生成部211で生成された変調信号によって高周波信号に変換された信号から、元の低い周波数の信号を復元するように構成されている。
また、半導体チップCHP2に形成されている信号処理回路には、演算部213から出力される信号に基づいて、サーボ信号を演算するサーボ信号演算部215(SVO)と、サーボ信号演算部215から出力される信号をD/A変換した後、D/A変換された信号をサーボ信号生成部214a、214bに出力するD/A変換部を有している。
さらに、半導体チップCHP2に形成されている信号処理回路は、サーボ信号(サーボ電圧)を生成するサーボ信号生成部214a、214bを有している。このサーボ信号生成部214a、214bは、例えば、数十kHzの駆動信号と同期した周波数の信号を生成できるように構成されている。サーボ信号生成部214bは、サーボ信号生成部214aで生成されたサーボ信号の位相を180度変換したサーボ信号を生成する。サーボ信号生成部214aで生成されたサーボ信号は、バイアス電圧が印加されて、サーボ電極固定部114bに印加される。一方、サーボ信号生成部214bで生成されたサーボ信号は、バイアス電圧が印加されて、サーボ電極固定部115bに印加される。
本実施の形態1における角速度センサ素子の励振素子105では、数十kHzの駆動信号と同期したサーボ信号によって、コリオリ力によって生じるxy平面内での回転変位が打ち消されている。なお、サーボ信号演算部215から出力されるサーボ信号は、LPF低帯域通過フィルタ(LPF)で信号処理された後、角速度センサの出力となる。
<角速度センサの実装構成>
次に、本実施の形態1における角速度センサの実装構成について説明する。図8は、本実施の形態1における角速度センサが形成された半導体装置SA1の実装構成を示す断面図であり、図9は、半導体装置SA1内に含まれる半導体チップCHP1を示す断面図である。まず、図8に示すように、半導体装置SA1は、例えば、樹脂からなる封止体MRの内部にチップ搭載部TABが配置されるとともに、リードLDも配置されている。このリードLDの一部は、封止体MRから突き出ており、リードLDは、外部接続端子として機能する。チップ搭載部TAB上には、信号処理回路が形成された半導体チップCHP2が搭載されている。半導体チップCHP2には、信号処理回路を実現するために、トランジスタや受動素子からなる集積回路が形成されている。この半導体チップCHP2に形成されている信号処理回路は、角速度センサ素子からの出力信号を演算して、角速度センサ素子に制御信号を出力する機能を有しており、最終的に、角速度信号を出力する回路である。この角速度信号は、例えば、リードLDを介して、外部機器に出力される。
図8に示すように、半導体チップCHP2に形成されているパッドPD1は、リードLDとワイヤWで電気的に接続されている。
さらに、半導体チップCHP2上には、半導体チップCHP1が搭載されている。この半導体チップCHP1には、角速度センサ素子を構成する構造体が形成されている。なお、半導体チップCHP1に形成されているパッドPD2と、半導体チップCHP2に形成されているパッドPD1とは、例えば、ワイヤWで電気的に接続されている。
封止体MRは、例えば、樹脂材料からなる。この封止体MRは、チップ搭載部TAB上に半導体チップCHP2と半導体チップCHP1とを搭載した構造体を金型に設置し、この金型内に高温で溶融した樹脂材料を1〜10MPa程度の圧力で射出した後、樹脂材料を冷却して硬化させることにより形成される。つまり、封止体MRは、トランスファモールド技術によって形成される。
このトランスファモールド技術は、従来のセラミックパッケージ技術よりも量産性が高いため、角速度センサの製造コストを低減する上で有効な技術である。しかし、空洞部102を有する半導体チップCHP1のうち、樹脂材料からなる封止体MRと接するキャップ層CAPLは、樹脂材料を金型内に射出する際の圧力で圧迫されて、図9に示すように変形する。また、封止体MRを構成する樹脂材料は、温度変動と吸湿によって体積が膨張するととともに、乾燥によって体積が収縮する特徴がある。したがって、半導体装置SA1が配置される環境の温度や湿度が変動すると、封止体MRの膨張と収縮により、封止体MRの内部に配置された半導体チップCHP1に歪みが発生し、図9に示す変形の大きさが変動する。つまり、封止体MRを形成する際や、半導体装置SA1が設置される環境の温度や湿度が変動する場合、デバイス層DLに形成される駆動用可動電極106a、107aと、半導体チップCHP1に発生する歪みの影響を受けやすいキャップ層CAPLに形成されている駆動用固定電極106b、107bとの間の距離は変動し、励振素子105に駆動振動を発生させる容量素子の容量値が変動する。
この点に関し、本実施の形態1では、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1と電気的に接続される半導体チップCHP2に信号処理回路が形成されている。そして、この信号処理回路では、駆動振幅モニタ部MU1〜MU4から得られる励振素子105の駆動振動の振幅に対応する容量変化に基づいて、励振素子105の駆動振動の振幅を常に一定に保つように自動振幅制御を行なっている。特に、本実施の形態1では、上述した駆動振幅モニタ部MU1〜MU4が、半導体チップCHP1に発生する歪みの影響を受けにくいデバイス層DLに形成されているため、駆動振幅モニタ部MU1〜MU4は、半導体チップCHP1に発生する歪みの影響を受けにくく、精度の高い自動振幅制御を実現できる利点がある。つまり、本実施の形態1における角速度センサによれば、トランスファモールド技術を採用する点や、温度、湿度が変動する点に起因して、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に歪みが発生して、例えば、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bの間の距離が変動しても、角速度センサの出力への影響を少なくすることができる利点が得られる。
また、本実施の形態1において、駆動振幅モニタ部MU1〜MU4は、励振素子105と同じデバイス層DLに形成されるため、半導体チップCHP1に生じる歪みによって、駆動振幅モニタ部MU1〜MU4の容量値も変動しにくい。つまり、励振素子105のzx平面内での駆動振動の振幅を検出している容量素子の容量値は、半導体チップCHP1の歪みによる影響を受けにくい。
さらに、変位検出用可動電極112a、113aと変位検出用固定電極112b、113bも、励振素子105と同じデバイス層DLに形成されるため、トランスファモールド技術を採用する点や、温度、湿度が変動する点に起因して、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に歪みが発生しても、検出部DTU1、DTU2のそれぞれを構成する容量素子の容量値も変動しにくい。つまり、半導体チップCHP1に印加される角速度に応じて容量値が変化する検出部DTU1、DTU2は、半導体チップCHP1の歪みの影響を受けにくい。
同様に、サーボ電極可動部114a、115aとサーボ電極固定部114b、115bも、励振素子105と同じデバイス層DLに形成されるため、トランスファモールド技術を採用する点や、温度、湿度が変動する点に起因して、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に歪みが発生しても、サーボ部SVU1、SVU2のそれぞれを構成する容量素子の容量値も変動しにくい。つまり、入力される角速度に応じた励振素子105のxy平面内での回転運動を電圧調整によって打ち消す機能を有するサーボ部SVU1、SVU2は、半導体チップCHP1の歪みによる影響を受けにくい。
以上のことから、本実施の形態1における角速度センサは、半導体チップCHP1の表面と並行な平面をxy平面として定義する場合、xy平面に励振素子105、駆動振幅モニタ部MU1〜MU4、検出部DTU1〜DTU2、サーボ部SVU1〜SUV2などを有する。そして、本実施の形態1における角速度センサは、xy平面に垂直なzx平面内で、励振素子105を駆動振動(回転振動)させながら、xy平面内に含まれる回転軸方向周りの角速度が印加された際、xy平面内において回転軸方向とは直交する検出方向に生じるコリオリ力に対応した変位を検出し、検出した変位に基づいて角速度を出力する。
このように構成されている本実施の形態1における角速度センサによれば、例えば、角速度センサの小型化や低コスト化に有利なトランスファモールド技術を適用する場合であっても、角速度センサの性能や信頼性の低下を抑制することができる。言い換えれば、本実施の形態1における角速度センサは、樹脂の充填圧力、環境温度や湿度の変動による樹脂の膨張や収縮、経時的な材料物性の変化に起因にする樹脂の変形などが生じても、角速度センサの性能や信頼性への影響を抑制することができる。このため、本実施の形態1における角速度センサによれば、性能や信頼性の低下を招くことなく、トランスファモールド技術を適用できるため、角速度センサの小型化や低コスト化を図ることができる。
(実施の形態2)
<角速度センサ素子の平面構成>
次に、本実施の形態2における角速度センサ素子について、図面を参照しながら説明する。図10は、本実施の形態2における角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1の構成を示す平面図である。図10において、枠部101に囲まれるように空洞部102とダミー部116とが形成されている。そして、空洞部102の内部には、固定部103が設けられており、この固定部103には、弾性変形部である支持梁104が接続されている。支持梁104は、角速度センサ素子の励振素子105と接続されている。ここで、本実施の形態2における励振素子105は、例えば、コリオリ力に基づくxy平面内の変位を検出する検出部DTU1〜DTU4と一体的に形成されており、この励振素子105と検出部DTU1〜DTU4とを含む可動部が構成される。
支持梁104は、例えば、固定部103からy方向に2本の梁を伸ばした構造からなる。このように支持梁104を構成する本実施の形態2における角速度センサ素子は、例えば、角速度センサ素子が衝撃を受けることにより、支持梁104に変形が加わって、2本の梁のうちの1本が破壊されると、共振周波数が1/√2倍に変化するため、角速度センサ素子の故障を把握しやすいという利点が得られる。
図10に示すように、本実施の形態2における角速度センサ素子は、励振素子105の一部を構成する駆動用可動電極106aと駆動用可動電極107aとを有している。駆動用可動電極106aと、図10では示されない駆動用固定電極との間、および、駆動用可動電極107aと、図10では示されない駆動用固定電極との間に電圧を印加して静電気力を発生させることにより、励振素子105は、半導体チップCHP1の厚さ方向であるz方向を含むzx平面内で駆動振動(回転振動)することになる。
そして、本実施の形態2における角速度センサ素子は、図10に示すように、2つの駆動振幅モニタ部MU1〜MU2有している。このとき、駆動振幅モニタ部MU1は、励振素子105と一体的に形成された駆動振幅モニタ用可動電極108aと、支持基板に固定された駆動振幅モニタ用固定電極108bと、から構成されている。同様に、駆動振幅モニタ部MU2は、励振素子105と一体的に形成された駆動振幅モニタ用可動電極109aと、支持基板に固定された駆動振幅モニタ用固定電極109bと、から構成されている。
さらに、図10に示すように、本実施の形態2における角速度センサ素子は、4つの検出部DTU1〜DTU4を有している。このとき、検出部DTU1は、励振素子105と一体的に形成された変位検出用可動電極112aと、支持基板に固定された変位検出用固定電極112bと、から構成され、検出部DTU2は、励振素子105と一体的に形成された変位検出用可動電極112cと、支持基板に固定された変位検出用固定電極112dと、から構成されている。同様に、検出部DTU3は、励振素子105と一体的に形成された変位検出用可動電極113aと、支持基板に固定された変位検出用固定電極113bと、から構成され、検出部DTU4は、励振素子105と一体的に形成された変位検出用可動電極113cと、支持基板に固定された変位検出用固定電極113dと、から構成されている。
また、図10に示すように、本実施の形態2における角速度センサ素子は、2つのサーボ部SVU1〜SUV2を有している。サーボ部SVU1は、励振素子105と一体的に形成されたサーボ電極可動部114aと、支持基板に固定されたサーボ電極固定部114bと、から構成され、サーボ部SVU2は、励振素子105と一体的に形成されたサーボ電極可動部115aと、支持基板に固定されたサーボ電極固定部115bと、から構成されている。
<角速度センサ素子の断面構成>
続いて、本実施の形態2における角速度センサ素子の断面構造について、図面を参照しながら説明する。図11(a)は、図10のA−A線で切断した断面図である。図11(a)に示すように、角速度センサ素子が形成される半導体チップCHP1は、例えば、単結晶シリコンからなる支持基板1Sを有している。この支持基板1Sの表面(上面、主面)には、例えば、酸化シリコン膜からなる絶縁層131が形成されており、この絶縁層131の上方にデバイス層DLが形成され、デバイス層DLの上方にキャップ層CAPLが形成されている。そして、支持基板1Sとデバイス層DLとの間、および、デバイス層DLとキャップ層CAPLとの間には、空洞部102が形成されている。
デバイス層DLには、単結晶シリコンで形成される枠部101、固定部103、励振素子105、サーボ電極可動部114a、115a、サーボ電極固定部114b、115b、駆動用可動電極106a、107a、変位検出用可動電極112a、112c、113a、113c、変位検出用固定電極112b、112d、113b、113dなどの図10に示される構成要素が形成されている。さらに、デバイス層DLには、駆動振幅モニタ用可動電極108a〜109a、駆動振幅モニタ用固定電極108b〜109b、および、支持梁104なども形成されている。
キャップ層CAPLは、単結晶シリコンからなるキャップ部140、絶縁層141、導電膜142、保護膜143、励振素子105をzx平面内で振動させるための電圧が印加される駆動用固定電極106b、107b、および、貫通電極などが形成されている。
本実施の形態2における角速度センサ素子では、キャップ部140とデバイス層DLとを接合し、角速度センサ素子をキャップ部140で保護する。特に、本実施の形態2における角速度センサ素子では、図11(a)に示すように、接続領域CR1で支持基板1Sとデバイス層DLとが接合され、接続領域CR2でデバイス層DLとキャップ層CAPLとが接続されている。
図11(a)に示すように、キャップ部140のうち、励振素子105がzx平面内で駆動振動(回転振動)する場合に最大振幅が生じる部分に相対する領域は、励振素子105に駆動力を与える駆動用固定電極106b、107bよりも、凹んだ構造となっている。少ない電極占有面積で大きな静電気力を得るためには、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとの間の距離や、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとの間の距離は、なるべく近いことが望ましい。一方、角速度センサの感度を高くするためには、励振素子105の駆動振動の振幅が大きいことが望ましい。
この点に関し、本実施の形態2における角速度センサ素子では、駆動用固定電極106b、107bがzx平面内の回転振動軸である固定部103に近い場所に設置され、かつ、励振素子105の端部に相対するキャップ部140の領域が凹んだ構造をしている。このため、本実施の形態2における角速度センサ素子によれば、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとの間の距離や、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとの間の距離を近くしながら、励振素子105の端部での駆動振幅を大きくすることができる利点が得られる。
<駆動電極の構成>
次に、本実施の形態2における駆動電極の構成について説明する。図10において、励振素子105のうち、破線で示された領域には、駆動用可動電極106a、107aが形成されている。図11(a)に示すように、デバイス層DLに形成されている駆動用可動電極106a、107aの上方で、かつ、駆動用可動電極106a、107aと対向する位置には、駆動用固定電極106bおよび駆動用固定電極107bが形成されている。
このように配置することにより、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとによって容量素子が形成されるとともに、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとによって容量素子が形成される。
例えば、本実施の形態2における角速度センサ素子では、互いに対向することにより容量素子を形成している駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとの間に、Vcom+Vb+Vdで表される周期的な駆動信号が印加され、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとの間にVcom+Vb−Vdで表される周期的な駆動信号が印加される。さらに、本実施の形態2における角速度センサ素子では、励振素子105と電気的に接続されている固定部103に、貫通電極を介してVcomで表される電圧が印加される。これにより、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとの間、および、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとの間には、交互に静電気力が働く。この結果、図11(b)の破線で示すように、励振素子105は、zx平面内で駆動振動(回転振動)することになる。
ここで、例えば、電極間の対向面積をS、電極間距離をd、真空の誘電率をε0、電極間物質の比誘電率をεr、電極間の電位差をVとした場合、電極間に働く静電気力Feは、(式1)で表すことができる。
Fe=ε0・εr・S・V2/(2・d2) ・・・(式1)
この(式1)から、少ない電極占有面積で大きな静電気力を得るためには、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとの間の距離、および、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとの間の距離は小さいことが望ましいことがわかる。
一方、駆動振動している励振素子105に働くコリオリ力Fcは、入力される角速度をΩ、励振素子105の質量をm、駆動振動の周波数(角振動数)をωd、駆動振動の振幅をAdとした場合、コリオリ力Fcは、(式2)で表すことができる。
Fc=2・m・Ω・Ad・ωd ・・・(式2)
この(式2)から、角速度センサの感度を高くするにためには、駆動振動の振幅が大きいことが望ましいことがわかる。したがって、(式1)から少ない電極占有面積で大きな静電気力を得る観点からは、電極間距離は小さくすることが望ましい一方、(式2)から角速度センサの感度を高くする観点からは、電極間距離を大きくすることにより、駆動振動の振幅を大きくすることが望ましいことになる。つまり、少ない電極占有面積で大きな静電気力を得ることと、角速度センサの感度を向上することとは、トレードオフの関係にあることになる。
この点に関し、本実施の形態2において、図11(a)に示すように、駆動用固定電極106b、107bは、例えば、駆動振幅モニタ部MU1〜MU2よりも、zx平面内の回転振動軸である固定部103に近い場所に設置されている。したがって、本実施の形態2における角速度センサ素子は、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとの間の距離、および、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとの間の距離を小さくしながら、励振素子105の端部における駆動振動の振幅を大きく取ることができる特徴がある。
<駆動振幅モニタ部の構成>
続いて、本実施の形態2における駆動振幅モニタ部の構成について説明する。図10に示すように、励振素子105には、励振素子105と一体的に形成された駆動振幅モニタ用可動電極108a、109aが形成されている。そして、図11(a)に示すように、この駆動振幅モニタ用可動電極108a、109aのそれぞれと対向するように、励振素子105が形成されたデバイス層DLに駆動振幅モニタ用固定電極108b、109bのそれぞれが形成されている。これにより、駆動振幅モニタ用可動電極108a、109aのそれぞれと、駆動振幅モニタ用固定電極108b、109bのそれぞれによって、2つの容量素子が形成され、これらの2つの容量素子が、デバイス層DLに形成される2つの駆動振幅モニタ部MU1〜MU2となる。このとき、2つの駆動振幅モニタ部MU1〜MU2のそれぞれを構成する2つの容量素子では、励振素子105がzx平面内での駆動振動によりz方向に変位すると、容量値が変化する。
ここで、図11(a)に示すように、例えば、駆動振幅モニタ用可動電極108aには、+z方向側の上端部に段差部DIF1が形成され、駆動振幅モニタ用固定電極108bには、−z方向側の下端部に段差部DIF2が形成されている。これにより、例えば、励振素子105がzx平面内で反時計回りに回転する場合、駆動振幅モニタ用可動電極108aと駆動振幅モニタ用固定電極108bとから構成される容量素子の容量値は増加する。一方、励振素子105がzx平面内で時計回りに回転する場合、駆動振幅モニタ用可動電極108aと駆動振幅モニタ用固定電極108bとから構成される容量素子の容量値は減少する。したがって、本実施の形態2によれば、上述した段差部DIF1と段差部DIF2を設けることにより、励振素子105の回転方向を区別することができる。
また、駆動振幅モニタ用可動電極109aにも、+z方向側の上端部に段差部DIF1が形成され、駆動振幅モニタ用固定電極109bにも、−z方向側の下端部に段差部DIF2が形成されている。これにより、例えば、励振素子105がzx平面内で反時計回りに回転する場合、駆動振幅モニタ用可動電極109aと駆動振幅モニタ用固定電極109bとから構成される容量素子の容量値は減少する。一方、励振素子105がzx平面内で時計回りに回転する場合、駆動振幅モニタ用可動電極109aと駆動振幅モニタ用固定電極109bとから構成される容量素子の容量値は増加する。
本実施の形態2において、励振素子105を含むデバイス層DLをシリコン深堀エッチング(DRIE)で加工する際には、励振素子105の+z方向側からイオンを照射して加工する。このため、励振素子105の−z方向側の加工形状にバラツキが生じやすい。したがって、本実施の形態2における角速度センサ素子では、段差部DIF1を励振素子105の+z方向側の上端部に形成することにより、加工バラツキに起因する励振素子105の質量バラツキを低減する効果を得ることができる。つまり、本実施の形態2における角速度センサ素子では、加工バラツキによる励振素子105の固有振動数の変動を抑制することができる。
なお、本実施の形態2においても、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1と電気的に接続される半導体チップCHP2には、信号処理回路が形成されている。そして、この信号処理回路では、駆動振幅モニタ部MU1〜MU2から得られる容量変化に基づいて、自動振幅制御を行って、励振素子105の駆動振動の振幅を一定に保っている。また、本実施の形態2においても、駆動振幅モニタ部MU1〜MU2から得られる容量変化に基づいて、自動周波数制御を行って、励振素子105の振動周波数を一定に保っている。さらに、本実施の形態2でも、駆動振幅モニタ部MU1〜MU2の構成要素が、励振素子105と同じデバイス層DLに形成されている。このため、トランスファモールド技術を採用する点や、温度や湿度が変動する点に起因して、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に歪みが生じても、駆動振幅モニタ部MU1〜MU2を構成する容量素子の容量値も変動しにくい。つまり、本実施の形態2における角速度センサ素子も、励振素子105のzx平面内における駆動振動の振幅を検出している容量素子の容量値は、半導体チップCHP1の歪みによる影響を受けにくい。
一方、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に歪みが発生して、デバイス層DLに形成されている駆動用可動電極106a、107aと、キャップ層CAPLに形成されている駆動用固定電極106b、107bとの間の距離が変動して、容量値が変動することが考えられる。ただし、この場合であっても、本実施の形態2における角速度センサ素子は、半導体チップCHP1の歪みの影響を受けにくいデバイス層DLに形成された駆動振幅モニタ部MU1〜MU2からの容量変化に基づいて、自動振幅制御を行なっているため、角速度センサの出力への影響を少なくすることができる。
<検出部の構成>
次に、本実施の形態2における検出部の構成について説明する。図10に示すように、励振素子105には、励振素子105と一体的に形成された変位検出用可動電極112a、112c、113a、113cが形成されている。そして、この変位検出用可動電極112a、112c、113a、113cのそれぞれと対向するように、変位検出用固定電極112b、112d、113b、113dのそれぞれが形成されている。
図1に示すように、変位検出用可動電極112aと、変位検出用固定電極112bとによって、検出部DTU1が構成され、変位検出用可動電極112cと、変位検出用固定電極112dとによって、検出部DTU2が構成される。つまり、検出部DTU1は、変位検出用可動電極112aと変位検出用固定電極112bとからなる容量素子を含んでおり、この容量素子は、半導体チップCHP1に入力される角速度に応じて容量値が変化する。同様に、検出部DTU2は、変位検出用可動電極112cと変位検出用固定電極112dとからなる容量素子を含んでおり、この容量素子は、半導体チップCHP1に入力される角速度に応じて容量値が変化する。
また、変位検出用可動電極113aと、変位検出用固定電極113bとによって、検出部DTU3が構成され、変位検出用可動電極113cと、変位検出用固定電極113dとによって、検出部DTU4が構成される。つまり、検出部DTU3は、変位検出用可動電極113aと変位検出用固定電極113bとからなる容量素子を含んでおり、この容量素子は、半導体チップCHP1に入力される角速度に応じて容量値が変化する。同様に、検出部DTU4は、変位検出用可動電極113cと変位検出用固定電極113dとからなる容量素子を含んでおり、この容量素子は、半導体チップCHP1に入力される角速度に応じて容量値が変化する。
図12(a)は、図10のB−B線で切断した断面図である。図12(a)に示すように、変位検出用固定電極112bには、切り欠きがないが、励振素子105と一体化されている変位検出用可動電極112aには、+z方向側と−z方向側とに切り欠きがある。言い換えれば、zx平面内において、変位検出用可動電極112aのz方向の長さは、変位検出用固定電極112bのz方向の長さよりも小さくなっているということもできる。
そして、切り欠きの高さhは、励振素子105のzx平面内での駆動振動(回転振動)の振幅よりも大きくなっている。したがって、図12(b)に示すように、励振素子105がzx平面内で駆動振動(回転振動)をしていても、変位検出用可動電極112aは、変位検出用固定電極112bからはみ出さない。この結果、変位検出用可動電極112aと変位検出用固定電極112bから形成される容量素子の容量値は変動せず、半導体チップCHP1に入力される角速度に応じてのみ容量値が変動することになる。
なお、切り欠きが励振素子105と一体化されている変位検出用可動電極112aに形成されているため、励振素子105の質量を低減することができ、これによって、本実施の形態2における角速度センサ素子では、励振素子105の固有振動数を高めることができる。したがって、本実施の形態2における角速度センサ素子は、低周波帯域の機械的振動ノイズに対して、励振素子105の振動状態がロバストとなる(影響を受けにくい)特徴を有することになる。
また、図10に示すように、本実施の形態2における検出部DTU1〜DTU4は、xy平面内において、駆動用可動電極106a、107aよりも、xy平面内の回転中心である固定部103から離れた位置に形成されている。このことから、本実施の形態2における検出部DTU1〜DTU4は、xy平面内の回転中心である固定部103に近い位置に形成される場合と比べて、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に印加される角速度がゼロの場合の初期容量値は同じでありながら、半導体チップCHP1に印加される角速度がゼロではない場合に生じる容量値の変化を大きくすることができる。
本実施の形態2における角速度センサ素子でも、検出部DTU1〜DTU4の構成要素が、励振素子105と同じデバイス層DLに形成されている。このため、トランスファモールド技術を採用する点や、温度や湿度が変動する点に起因して、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に歪みが生じても、検出部DTU1〜DTU4のそれぞれを構成する容量素子の容量値も変動しにくい。つまり、半導体チップCHP1に印加される角速度に応じて容量値が変化する検出部DTU1〜DTU4において、検出部DTU1〜DTU4のそれぞれを構成する容量素子の容量値は、半導体チップCHP1に生じる歪みの影響を受けにくい。
<サーボ部の構成>
続いて、本実施の形態2におけるサーボ部の構成について説明する。例えば、図10に示すように、励振素子105には、励振素子105と一体的に形成されたサーボ電極可動部114a、115aが形成されている。そして、サーボ電極可動部114a、115aと対向するように、サーボ電極固定部114b、115bが形成されている。これにより、本実施の形態2における角速度センサ素子は、サーボ電極可動部114aとサーボ電極固定部114bとからなるサーボ部SVU1と、サーボ電極可動部115aとサーボ電極固定部115bとからなるサーボ部SVU2とを有している。
角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1と電気的に接続される半導体チップには、信号処理回路が形成されている。この信号処理回路は、検出部DTU1〜DTU4のそれぞれを構成する容量素子の容量値を常に一定に保つように制御している。つまり、上述した信号処理回路は、入力されるx軸方向周りの角速度に応じて、励振素子105が変位しないように、サーボ部SVU1やサーボ部SVU2に印加する電圧を制御している。
本実施の形態2における角速度センサでも、サーボ部SVU1〜SVU2の構成要素が、励振素子105と同じデバイス層DLに形成されている。このため、トランスファモールド技術を採用する点や、温度や湿度が変動する点に起因して、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に歪みが生じても、サーボ部SVU1〜SVU2のそれぞれを構成する容量素子の容量値も変動しにくい。つまり、入力される角速度に応じた励振素子105のxy平面内での変位を電圧調整により打ち消すサーボ部SVU1〜SVU2は、半導体チップCHP1に生じる歪みの影響を受けにくい。
以上のことから、本実施の形態2における角速度センサによれば、例えば、角速度センサの小型化や低コスト化に有利なトランスファモールド技術を適用する場合であっても、角速度センサの性能や信頼性の低下を抑制することができる。言い換えれば、本実施の形態2における角速度センサは、樹脂の充填圧力、環境温度や湿度の変動による樹脂の膨張や収縮、経時的な材料物性の変化に起因にする樹脂の変形などが生じても、角速度センサの性能や信頼性への影響を抑制することができる。このため、本実施の形態2における角速度センサによれば、性能や信頼性の低下を招くことなく、トランスファモールド技術を適用できるため、角速度センサの小型化や低コスト化を図ることができる。
(実施の形態3)
<基本動作>
まず、本実施の形態3における角速度センサ素子の動作の概要について説明する。角速度センサ素子の励振素子(可動部)は、全体が一体化し、中央部にある固定部を支点として、駆動梁の変形を伴いながら、y軸方向を回転軸とするzx平面(第1平面)内で回転振動をしている。回転角度が小さいとき、励振素子の運動は、z方向の振動とみなすことができる。つまり、本実施の形態3において、励振素子は、半導体チップの厚さ方向であるz方向に振動可能なように構成されていることになる。
ここで、zx平面内の励振素子の回転振動である駆動振動を誘起する役割を担うのが駆動電極であり、駆動振動の振幅を検出する役割を担うのが駆動振幅モニタ部である。次に、角速度センサ素子が形成された半導体チップの外部からy軸方向を回転軸とする角速度が入力されると、zx平面内で駆動振動している励振素子には、x方向のコリオリ力が働く。この場合、検出梁を介して励振素子と接続されている検出部は、検出梁の変形を伴いながら、x方向に平行変位する。x方向の平行変位を検出する役割を担うのが、上述した検出部である。このx方向の平行変位を信号処理回路で演算することにより、角速度に対応した出力信号が角速度センサから出力される。
なお、MEMS構造からなる角速度センサ素子が形成された半導体チップ(第1半導体チップ)と、信号処理回路が形成された半導体チップ(第2半導体チップ)との組み合わせによって、本実施の形態3における角速度センサが構成されている。
<角速度センサ素子の平面構成>
次に、本実施の形態3における角速度センサ素子の平面構成について説明する。
図13は、本実施の形態3における角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1の構成を示す平面図である。図13に示すように、半導体チップCHP1には、枠部101に囲まれるように空洞部102とダミー部116が形成されている。空洞部102の内部には、固定部103aと固定部103bとが設けられている。固定部103aには、弾性変形部である駆動梁104aが接続され、固定部103bには、弾性変形部である駆動梁104bが接続されている。そして、駆動梁104aおよび駆動梁104bは、励振素子105と接続されている。励振素子105は、弾性変形部である検出梁118を介して、検出部DTU1〜DTU2と接続されている。検出部DTU1と検出部DTU2とは、リンク梁119で接続されている。
図13に示すように、本実施の形態3における角速度センサ素子は、励振素子105の一部を構成する駆動用可動電極106aと駆動用可動電極107aとを有している。駆動用可動電極106aと、図13では示されない駆動用固定電極との間、および、駆動用可動電極107aと、図13では示されない駆動用固定電極との間に電圧を印加して静電気力を発生させることにより、励振素子105は、半導体チップCHP1の厚さ方向であるz方向を含むzx平面内で駆動振動(回転振動)することになる。
そして、本実施の形態3における角速度センサ素子は、図13に示すように、4つの駆動振幅モニタ部MU1〜MU4有している。このとき、駆動振幅モニタ部MU1は、励振素子105と一体的に形成された駆動振幅モニタ用可動電極108aと、支持基板に固定された駆動振幅モニタ用固定電極108bと、から構成されている。また、駆動振幅モニタ部MU2は、励振素子105と一体的に形成された駆動振幅モニタ用可動電極109aと、支持基板に固定された駆動振幅モニタ用固定電極109bと、から構成されている。同様に、駆動振幅モニタ部MU3は、励振素子105と一体的に形成された駆動振幅モニタ用可動電極110aと、支持基板に固定された駆動振幅モニタ用固定電極110bと、から構成されている。また、駆動振幅モニタ部MU4は、励振素子105と一体的に形成された駆動振幅モニタ用可動電極111aと、支持基板に固定された駆動振幅モニタ用固定電極111bと、から構成されている。
さらに、図13に示すように、本実施の形態3における角速度センサ素子は、2つの検出部DTU1〜DTU2を有している。このとき、検出部DTU1は、検出梁118を介して励振素子105と接続された変位検出用可動電極112aと、支持基板に固定された変位検出用固定電極112bと、から構成され、検出部DTU2は、検出梁118を介して励振素子105と接続された変位検出用可動電極113aと、支持基板に固定された変位検出用固定電極113bと、から構成されている。
ここで、固定部103aと固定部103bは、導電性を有する単結晶シリコンから形成されている励振素子105と、導電性を有する単結晶シリコンから形成されている検出部DTU1〜DTU2とを介して、電気的に接続されている。したがって、固定部103aと貫通電極を介して電気的に接続される第1パッドと、固定部103bと貫通電極を介して電気的に接続される第2パッドとを設け、第1パッドと第2パッドとの間に電流を流すことにより、励振素子105および検出部DTU1〜DTU2を介した固定部103aと固定部103bとの電気的な接続を確認することができる。
なお、励振素子105のうち、静電気力を発生させるために面積を大きくする必要のある駆動用可動電極106a、107aと、入力される角速度と質量に比例したコリオリ力を検出する検出部DTU1〜DTU2を除いて、本実施の形態3における角速度センサ素子を構成する構造体には、穴があけられて軽量化が図られており、励振素子105の固有振動数が高められている。
<角速度センサ素子の断面構成>
続いて、本実施の形態3における角速度センサ素子の断面構造について、図面を参照しながら説明する。図14(a)は、図13のA−A線で切断した断面図であり、図15(a)は、図13のB−B線で切断した断面図である。
図14(a)および図15(a)に示すように、角速度センサ素子が形成される半導体チップCHP1は、例えば、単結晶シリコンからなる支持基板1Sを有している。この支持基板1Sの表面(上面、主面)には、例えば、酸化シリコン膜からなる絶縁層131が形成されており、この絶縁層131の上方にデバイス層DLが形成され、デバイス層DLの上方にキャップ層CAPLが形成されている。そして、支持基板1Sとデバイス層DLとの間、および、デバイス層DLとキャップ層CAPLとの間には、空洞部102が形成されている。
デバイス層DLには、単結晶シリコンで形成される枠部101、固定部103a、103b、励振素子105、駆動用可動電極106a、107a、変位検出用可動電極112a、113a、変位検出用固定電極112b、113bなどの図13に示される構成要素が形成されている。さらに、デバイス層DLには、駆動振幅モニタ用可動電極108a〜111a、駆動振幅モニタ用固定電極108b〜111b、および、駆動梁104a、104b、検出梁118、リンク梁119なども形成されている。
キャップ層CAPLは、単結晶シリコンからなるキャップ部140、絶縁層141、導電膜142、保護膜143、励振素子105をzx平面内で振動させるための電圧が印加される駆動用固定電極106b、107b、および、貫通電極などが形成されている。
本実施の形態3における角速度センサ素子では、キャップ部140とデバイス層DLとを接合し、角速度センサ素子をキャップ部140で保護する。特に、本実施の形態3における角速度センサ素子では、図14(a)や図15(a)に示すように、接続領域CR1で支持基板1Sとデバイス層DLとが接合され、接続領域CR2でデバイス層DLとキャップ層CAPLとが接続されている。
<駆動電極の構成>
次に、本実施の形態3における駆動電極の構成について説明する。図13において、励振素子105のうち、破線で示された領域には、駆動用可動電極106a、107aが形成されている。図15(a)に示すように、デバイス層DLに形成されている駆動用可動電極106a、107aの上方で、かつ、駆動用可動電極106a、107aと対向する位置には、駆動用固定電極106bおよび駆動用固定電極107bが形成されている。
このように配置することにより、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとによって容量素子が形成されるとともに、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとによって容量素子が形成される。
例えば、本実施の形態3における角速度センサ素子では、互いに対向することにより容量素子を形成している駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとの間に、Vcom+Vb+Vdで表される周期的な駆動信号が印加され、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとの間にVcom+Vb−Vdで表される周期的な駆動信号が印加される。さらに、本実施の形態3における角速度センサ素子では、励振素子105と電気的に接続されている固定部103aと固定部103bに、貫通電極を介してVcomで表される電圧が印加される。これにより、駆動用可動電極106aと駆動用固定電極106bとの間、および、駆動用可動電極107aと駆動用固定電極107bとの間には、交互に静電気力が働く。この結果、図15(b)の破線で示すように、励振素子105は、zx平面内で駆動振動(回転振動)することになる。
<駆動振幅モニタ部の構成>
続いて、本実施の形態3における駆動振幅モニタ部の構成について説明する。図13に示すように、励振素子105には、励振素子105と一体的に形成された駆動振幅モニタ用可動電極108a〜111aが形成されている。そして、駆動振幅モニタ用可動電極108a〜111aのそれぞれと対向するように、励振素子105が形成されたデバイス層DLに駆動振幅モニタ用固定電極108b〜111bのそれぞれが形成されている。これにより、駆動振幅モニタ用可動電極108a〜111aのそれぞれと、駆動振幅モニタ用固定電極108b〜111bのそれぞれによって、4つの容量素子が形成され、これらの4つの容量素子が、デバイス層DLに形成される4つの駆動振幅モニタ部MU1〜MU4となる。このとき、4つの駆動振幅モニタ部MU1〜MU4のそれぞれを構成する4つの容量素子では、励振素子105がzx平面内での駆動振動によりz方向に変位すると、容量値が変化する。
なお、本実施の形態3においても、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1と電気的に接続される半導体チップCHP2には、信号処理回路が形成されている。そして、この信号処理回路では、駆動振幅モニタ部MU1〜MU4から得られる容量変化に基づいて、自動振幅制御を行って、励振素子105の駆動振動の振幅を一定に保っている。また、本実施の形態3においても、駆動振幅モニタ部MU1〜MU4から得られる容量変化に基づいて、自動周波数制御を行って、励振素子105の振動周波数を一定に保っている。さらに、本実施の形態3でも、駆動振幅モニタ部MU1〜MU4の構成要素が、励振素子105と同じデバイス層DLに形成されている。このため、トランスファモールド技術を採用する点や、温度や湿度が変動する点に起因して、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に歪みが生じても、駆動振幅モニタ部MU1〜MU4を構成する容量素子の容量値も変動しにくい。つまり、本実施の形態3における角速度センサ素子も、励振素子105のzx平面内における駆動振動の振幅を検出している容量素子の容量値は、半導体チップCHP1の歪みによる影響を受けにくい。
一方、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に歪みが発生して、デバイス層DLに形成されている駆動用可動電極106a、107aと、キャップ層CAPLに形成されている駆動用固定電極106b、107bとの間の距離が変動して、容量値が変動することが考えられる。ただし、この場合であっても、本実施の形態3における角速度センサ素子は、半導体チップCHP1の歪みの影響を受けにくいデバイス層DLに形成された駆動振幅モニタ部MU1〜MU4からの容量変化に基づいて、自動振幅制御を行なっているため、角速度センサの出力への影響を少なくすることができる。
<検出部の構成>
次に、本実施の形態2における検出部の構成について説明する。図13に示すように、検出部DTU1は、検出梁118を介して励振素子105と接続される変位検出用可動電極112aと、変位検出用可動電極112aと対向するように配置されている変位検出用固定電極112bとから構成される容量素子を含んでいる。同様に、検出部DTU2は、検出梁118を介して励振素子105と接続される変位検出用可動電極113aと、変位検出用可動電極113aと対向するように配置されている変位検出用固定電極113bとから構成される容量素子を含んでいる。
ここで、図14(a)に示すように、変位検出用可動電極112a、113aには、段差部がないが、変位検出用固定電極112b、113bには、z方向の上端部と下端部とに、同じ形状の段差部DIFが形成されている。この段差部DIFの高さは、励振素子105のzx平面内の回転振動の振幅より大きい。したがって、図14(b)に示すように、励振素子105がzx平面内で駆動振動をしていても、変位検出用可動電極112aと変位検出用固定電極112bから構成される容量素子の容量値は、ほとんど変動せず、半導体チップCHP1に印加される角速度に応じてのみ容量値が変動する。同様に、励振素子105がzx平面内で駆動振動をしていても、変位検出用可動電極113aと変位検出用固定電極113bから構成される容量素子の容量値も、ほとんど変動せず、半導体チップCHP1に印加される角速度に応じてのみ容量値が変動する。
なお、図13に示すように、検出部DTU1と検出部DTU2は、y方向に延在する中心軸に対して対称な位置に配置されている。そして、検出部DTU1と検出部DTU2は、互いにリンク梁119によって接続されることにより、音叉構造が形成されている。したがって、検出部DTU1を構成する容量素子と、検出部DTU2を構成する容量素子は、半導体チップCHP1に印加される角速度に応じてのみ容量値が変動する一方、半導体チップCHP1に加わる振動ノイズに起因する容量値の変動は、キャンセルされるため、本実施の形態3における角速度センサ素子は、外乱振動にロバストな特徴がある。
また、図13や図14(a)に示すように、検出部DTU1は、xy平面内で分断された2つの変位検出用固定電極112bを有し、2つ変位検出用固定電極112bのそれぞれと接続された貫通電極を介して電気的に接続されている。同様に、検出部DTU2も、xy平面内で分断された2つの変位検出用固定電極113bを有し、2つの変位検出用固定電極113bのそれぞれと接続された貫通電極を介して電気的に接続されている。したがって、検出部DTU1の形状と検出部DTU2の形状の両方が、対称構造をしているため、本実施の形態3における角速度センサ素子は、駆動振動および検出振動以外の不要な振動モードの発生を抑制できる利点を有する。
本実施の形態3における角速度センサ素子でも、検出部DTU1〜DTU2の構成要素が、励振素子105と同じデバイス層DLに形成されている。このため、トランスファモールド技術を採用する点や、温度や湿度が変動する点に起因して、角速度センサ素子が形成された半導体チップCHP1に歪みが生じても、検出部DTU1〜DTU2のそれぞれを構成する容量素子の容量値も変動しにくい。つまり、半導体チップCHP1に印加される角速度に応じて容量値が変化する検出部DTU1〜DTU2において、検出部DTU1〜DTU2のそれぞれを構成する容量素子の容量値は、半導体チップCHP1に生じる歪みの影響を受けにくい。
<角速度センサの実装構成>
次に、本実施の形態3における角速度センサの実装構成について説明する。図16は、本実施の形態3における角速度センサが形成された半導体装置SA2の実装構成を示す断面図である。まず、図16に示すように、半導体装置SA2は、例えば、樹脂からなる封止体MRの内部にチップ搭載部TABが配置されるとともに、リードLDも配置されている。このリードLDの一部は、封止体MRから突き出ており、リードLDは、外部接続端子として機能する。チップ搭載部TAB上には、信号処理回路が形成された半導体チップCHP2が搭載されている。半導体チップCHP2には、信号処理回路を実現するために、トランジスタや受動素子からなる集積回路が形成されている。この半導体チップCHP2に形成されている信号処理回路は、角速度センサ素子からの出力信号を演算して、角速度センサ素子に制御信号を出力する機能を有しており、最終的に、角速度信号を出力する回路である。この角速度信号は、例えば、リードLDを介して、外部機器に出力される。
図16に示すように、半導体チップCHP2に形成されているパッドPD2は、リードLDとワイヤWで電気的に接続されている。
さらに、半導体チップCHP2上には、半導体チップCHP1が搭載されている。この半導体チップCHP1には、角速度センサ素子を構成する構造体が形成されている。具体的に、本実施の形態3では、図16に示すように、半導体チップCHP1のキャップ層CAPLと接するように突起電極BMP(バンプ電極)が形成されており、半導体チップCHP1は、突起電極BMPを半導体チップCHP2のパッドPD1に接続させながら、キャップ層CAPLを半導体チップCHP2の主面(上面)に対向させた状態で、半導体チップCHP2の上方に搭載されている。すなわち、本実施の形態3における角速度センサでは、半導体チップCHP2上に半導体チップCHP1が突起電極BMPによってフェイスダウン状態で搭載されている。
さらに、図16に示すように、本実施の形態3における角速度センサにおいては、半導体チップCHP1を覆うように封止体MRが形成されている。具体的に、本実施の形態3では、半導体チップCHP1の構成要素である支持基板1Sが上方(+z方向)を向くように配置されており、この支持基板1Sを覆うように封止体MRが形成されている。
ここで、封止体MRは、例えば、樹脂材料からなる。この封止体MRは、チップ搭載部TAB上に半導体チップCHP2と半導体チップCHP1とを搭載した構造体を金型に設置し、この金型内に高温で溶融した樹脂材料を1〜10MPa程度の圧力で射出した後、樹脂材料を冷却して硬化させることにより形成される。つまり、封止体MRは、トランスファモールド技術によって形成される。
このトランスファモールド技術は、従来のセラミックパッケージ技術よりも量産性が高いため、角速度センサの製造コストを低減する上で有効な技術である。しかし、空洞部102を有する半導体チップCHP1のうち、樹脂材料からなる封止体MRと接する支持基板1Sは、樹脂材料を金型内に射出する際の圧力で圧迫されて、図16に示すように変形する。また、封止体MRを構成する樹脂材料は、温度変動と吸湿によって体積が膨張するととともに、乾燥によって体積が収縮する特徴がある。したがって、半導体装置SA2が配置される環境の温度や湿度が変動すると、封止体MRの膨張と収縮により、封止体MRの内部に配置された半導体チップCHP1に歪みが発生する。つまり、封止体MRを形成する際や、半導体装置SA2が設置される環境の温度や湿度が変動する場合、半導体チップCHP1に歪みが発生する。
この点に関し、本実施の形態3における角速度センサでは、図16に示すように、半導体チップCHP1の支持基板1Sが封止体MRと直接接触しているため、封止体MRの膨張と収縮によって、この支持基板1Sに変形(歪み)が発生する。しかし、本実施の形態3における角速度センサは、支持基板1Sではなく、デバイス層DLとキャップ層CAPLに角速度センサ素子を構成する構造体が形成されている。言い換えれば、支持基板1Sには、角速度センサ素子を構成する構造体は形成されていない。そして、たとえ、支持基板1Sに変形(歪み)が発生しても、支持基板1Sとデバイス層DLとの間には、空洞部102が形成されているため、支持基板1Sの変形がデバイス層DLに与える影響は少なくなる。つまり、本実施の形態3における角速度センサは、半導体チップCHP1に発生する歪みに起因する角速度センサの性能低下が起こりにくい構造をしているということができる。
以上のことから、本実施の形態3における角速度センサによれば、例えば、角速度センサの小型化や低コスト化に有利なトランスファモールド技術を適用する場合であっても、角速度センサの性能や信頼性の低下を抑制することができる。言い換えれば、本実施の形態3における角速度センサは、樹脂の充填圧力、環境温度や湿度の変動による樹脂の膨張や収縮、経時的な材料物性の変化に起因にする樹脂の変形などが生じても、角速度センサの性能や信頼性への影響を抑制することができる。このため、本実施の形態3における角速度センサによれば、性能や信頼性の低下を招くことなく、トランスファモールド技術を適用できるため、角速度センサの小型化や低コスト化を図ることができる。
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
前記実施の形態は、下記の形態を含む。
(付記1)
第1半導体チップを備え、
前記第1半導体チップは、
(a)支持基板、
(b)前記支持基板の上方に配置されたデバイス層、
(c)前記デバイス層の上方に配置されたキャップ層、
(d)前記支持基板と前記デバイス層との間、および、前記デバイス層と前記キャップ層との間に形成された空洞部、
を含み、
前記デバイス層には、
(b1)前記支持基板の厚さ方向を含む第1平面内で振動可能な励振素子、
(b2)前記第1平面に垂直な第2平面内に含まれる回転軸周りに角速度が印加された際、前記角速度に起因して発生するコリオリ力に基づく前記第2平面内の変位を静電容量の変化として捉える検出部、
が形成され、
前記キャップ層には、前記励振素子を前記第1平面内で振動させるための電圧が印加される駆動用固定電極が形成されている、角速度センサ。
(付記2)
付記1に記載の角速度センサにおいて、
前記空洞部内の圧力は、100Pa以下である、角速度センサ。
(付記3)
付記1に記載の角速度センサにおいて、
前記支持基板と前記デバイス層とは、第1接続領域において、絶縁層を介して接続され、
前記デバイス層と前記キャップ層とは、第2接続領域において、直接接続されている、角速度センサ。
(付記4)
付記3に記載の角速度センサにおいて、
前記支持基板、前記デバイス層、および、前記キャップ層は、シリコン材料から形成されている、角速度センサ。