以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。
また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
また、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
(実施の形態1)
<関連技術の説明>
本実施の形態1では、慣性センサの一例として、加速度センサを取り挙げて説明する。
まず、一般的な加速度センサの基本的な動作原理について簡単に説明する。例えば、加速度センサは、第1方向であるX方向に変位することができる質量体を有している。つまり、質量体はX方向に加速度が印加されると、X方向に変位する。この質量体には検出用可動電極が形成されており、この検出用可動電極と相対するように検出用固定電極が形成されている。この場合、質量体が変位すると、これに伴って検出用可動電極が変位する。一方、検出用固定電極は固定されたまま変位しない。したがって、X方向に加速度が印加されて質量体が変位すると、検出用可動電極と検出用固定電極からなる容量素子の電極間距離が変化する。容量素子の電極間距離が変化するということは、容量素子の電気容量(静電容量)が変化することを意味している。このように、X方向に加速度が印加されると、X方向に質量体が変位し、その結果、容量素子の静電容量が変化する。この容量変化は、電圧変換部で電圧信号に変換され、変換された電気信号に基づいて加速度信号が加速度センサから出力される。このことから、加速度センサに印加された加速度は、容量素子の容量変化として検出され、検出された容量変化は電圧信号に変換されて最終的に加速度信号が加速度センサから出力されることになる。
このように加速度センサにおいては、外部から加速度が印加されると質量体が変位するように構成されていることになる。つまり、加速度センサにおいては、外部から加速度が加わった場合に質量体が変位するように構成され、この質量体の変位を電気容量(静電容量)の変化として捉えて、加速度を検出するように構成されている。
したがって、加速度センサは、質量体と、この質量体と固定部とを接続する弾性変形可能な梁から構成されることになる。この結果、加速度センサにおいては、質量体と梁で構成される振動系が必然的に構成されることになる。このことから、加速度センサには、質量体の質量と、梁のばね定数で規定される固有振動数が存在することになる。
図1は、加速度センサの周波数特性を示すグラフである。図1において、横軸は、加速度センサを構成する振動系の角振動数ω(=2πf)を示しており、縦軸は、振動系の振幅の大きさを示している。図1に示すように、例えば、加速度センサを構成する振動系においては、角振動数ω0にピークが存在することがわかる。このことは、加速度センサを構成する振動系が角振動数ω0で振動しやすくなっていることを意味している。この角振動数ω0が固有振動数に対応し、この固有振動数で加速度センサを構成する振動系が共振するため、固有振動数に対応する周波数は、共振周波数とも呼ばれる。
この固有振動数は、加速度センサにおいて加速度を検出する観点からは、本来不要であるが、加速度センサに振動系が構成されることから、必然的に存在することになり、加速度センサの検出精度を向上する観点から、固有振動数に対する配慮が必要となる。
すなわち、加速度センサの固有振動数が存在する周波数帯域には、ノイズが少ないことが望ましい。なぜなら、加速度センサの固有振動数が存在する周波数帯域にノイズが存在すると、振動外乱に対応するノイズに加速度センサの固有振動数が共振して、質量体が振動してしまうからである。つまり、外部から加速度が印加されていないにも関わらず、振動外乱に対応するノイズに加速度センサの固有振動数が共振することによって、質量体に大きな振動が発生し、あたかも、外部から加速度が印加されたかのように誤動作したり、さらには、加速度センサの故障を引き起こすことが懸念されるのである。このことから、加速度センサにおいては、固有振動数をノイズの少ない周波数帯域に存在するように、加速度センサを構成することにより、加速度センサの固有振動数と、振動外乱に対応するノイズとを分離することが重要となってくる。
この点に関し、加速度センサが配置される周囲の環境下には、1/fノイズと呼ばれるノイズが存在する。図2は、1/fノイズの周波数依存性を示す模式的なグラフである。図2において、横軸は周波数を示しており、縦軸は1/fノイズの大きさを示している。図2に示すように、1/fノイズとは、周波数に反比例するノイズであり、信号の周波数が低くなると大きくなり、信号の周波数が高くなるにつれて小さくなる特徴がある。
このことから、加速度センサの固有振動数が低い周波数帯域に存在すると、1/fノイズも大きくなる。この結果、振動外乱に対応するノイズに加速度センサの固有振動数が共振して、外部から加速度が印加されていないにも関わらず、質量体が振動してしまうおそれが高まる。したがって、振動外乱に対応するノイズとして1/fノイズを考慮した場合、加速度センサの固有振動数は、1/fノイズの少ない高周波帯域にシフトさせることが望ましいことがわかる。すなわち、1/fノイズを考えると、加速度センサの固有振動数を振動外乱に対応するノイズから良好に分離するためには、できるだけ、加速度センサの固有振動数を高周波帯域にシフトさせるように加速度センサを構成することが重要であることがわかる。
ここで、特許文献1に記載された技術では、質量体の四隅を単純に梁で支持することにより、質量体を懸架して振動系を構成している。この技術の場合、梁の長さを調整することにより、梁のばね定数を容易に変化させることができる。このため、質量体の質量と、梁のばね定数で規定される固有振動数を容易に調整することができる。つまり、特許文献1に記載された振動系においては、固有振動数を容易に高周波帯域にシフトすることができ、これによって、1/fノイズに代表される振動外乱と、加速度センサの固有振動数を容易に分離することができると考えられる。
ところが、加速度センサにおいては、振動外乱に対する対策の他に、温度変化に対する対策も必要とされる。例えば、加速度センサが置かれている周囲の温度変化や、加速度センサの実装部材の経時変化によって、加速度センサに歪が発生する。この結果、加速度センサを構成する梁に内部応力が発生し、梁のばね定数が変化する。梁のばね定数が変化するということは、質量体の質量と、梁のばね定数で規定される固有振動数が変化することを意味する。固有振動数が変化するということは、加速度センサの特性変動が生じることを意味している。したがって、加速度センサの特性変動を抑制するためには、加速度センサが置かれている周囲の温度変化に対する対策も必要とされることがわかる。
この点に関し、特許文献1に記載された技術では、質量体が変形しにくい構造となっている。このことから、実装部材の経時変化や周囲の温度変化によって、加速度センサに歪が発生した場合、この歪を吸収するために、質量体を懸架している梁に内部応力が発生しやすくなる。この結果、特許文献1に記載された技術では、梁に加わる内部応力によって梁のばね定数が変化しやすく、加速度センサの固有振動数が変動しやすくなる。つまり、特許文献1に記載された技術では、実装部材の経時変化や周囲の温度変化に起因して固有振動数の変動が起こりやすい構成をしていることになり、加速度センサの特性変動が懸念されることになる。
一般的に、実装部材の経時変化や周囲の温度変化に起因する加速度センサの特性変動については、初期の特性補正と、意図的に周囲の温度変化を起こさせて、各温度点での特性が仕様の範囲内に入るように電気的な補正が行なわれている。このことから、特許文献1に記載された技術では、多数の温度点で性能を確認し、複雑な補正演算を行なう必要があるため、製造コストの上昇が懸念される。すなわち、加速度センサの各温度点における出力値が非線形的な挙動を示す場合には、補正のために多くの温度点における出力値と、複雑な補正演算処理が必要となり、製造コストの上昇に繋がる。
さらには、1/fノイズに代表される振動外乱と、加速度センサの固有振動数とを分離したとしても、固有振動数に隣接した周波数帯域に振動外乱が存在する場合には、温度変化によって固有振動数が変化することから、特定温度では、固有振動数と振動外乱が一致することが考えられる。この場合、加速度センサの誤動作や故障が懸念される。
以上のことから、特許文献1に記載された技術では、振動外乱に対する対策は容易であるにしても、温度変化に対する対策は複雑であることがわかる。すなわち、特許文献1に記載された技術は、振動外乱と固有振動数の分離を容易に実施することができる一方、温度変化に基づく固有振動数の変動を抑制する観点から、改善の余地が存在する。
そこで、非特許文献1に記載された技術が提案されている。非特許文献1に記載された加速度センサは、開放型の質量体を3点支持し、開放端における2点においては、対称型の支持梁を設け、残る1点においては、中心軸上で質量体を接続する構成を有している。
このような構成をしている加速度センサによれば、支持梁の長さを調整することにより、支持梁のばね定数を容易に変化させることができる。このため、質量体の質量と、支持梁のばね定数で規定される固有振動数を容易に調整することができる。つまり、非特許文献1に記載された振動系においても、固有振動数を容易に高周波帯域にシフトすることができ、これによって、1/fノイズに代表される振動外乱と、加速度センサの固有振動数を容易に分離することができる。
さらに、非特許文献1に記載されている加速度センサによれば、例えば、温度変化などに起因して、加速度センサに歪が発生した場合、開放型の質量体の変形により歪の一部が吸収される。そして、歪の残りは、対称型の支持梁の内部応力として加わることになる。このとき、対称型の支持梁においては、一方の支持梁に引張応力が加わった場合、他方の支持梁には圧縮応力が加わるように構成されている。この結果、対称型の支持梁全体としては、引張応力と圧縮応力が相殺されることになる。このため、対称型の支持梁全体として、ばね定数の変動が抑制される。つまり、非特許文献1に記載された技術では、開放型の質量体を採用している点と、対称型の支持梁を採用している点により、温度変化などで発生した歪に起因する支持梁のばね定数の変動を抑制できるのである。したがって、非特許文献1に記載された技術では、ばね定数の変動を抑制できるので、温度変化に起因する振動系の固有振動数の変動を抑制できることがわかる。
このことから、非特許文献1に記載された技術によれば、広い範囲で温度変化が生じても、振動系の固有振動数の変動を抑制することができるため、信号処理回路による高度な温度特性補正が不要となる。この結果、非特許文献1に記載された技術によれば、加速度センサの高信頼化、信号処理回路の小型化、および、加速度センサの出荷時の温度特性補正の簡素化を図ることができ、これによって、加速度センサの低コスト化を図ることができる。
以上のように、非特許文献1に記載された技術は、振動外乱に対する対策が容易であるとともに、温度変化に対しても充分に対応できることがわかる。すなわち、非特許文献1に記載された技術は、振動外乱と固有振動数の分離を容易に実施することができるとともに、温度変化に基づく固有振動数の変動も充分に抑制することができるのである。
ところが、本発明者が非特許文献1に記載された技術を検討したところ、非特許文献1に記載されている3点支持構造の加速度センサには、さらなる改善の余地が存在することを見出した。つまり、非特許文献1に記載された技術には、3点支持構造に特有の改善の余地が存在する。以下に、この点について説明する。
3点支持構造の加速度センサにおいては、固有振動数で、例えば、第1方向(X方向)に振動する振動モードの他に、中心軸回りの回転・ねじれに起因するモードも存在する。ここで、本明細書では、3点支持構造において、中心軸回りの回転・ねじれに起因するモードを不要モードと呼ぶことにする。すなわち、3点支持構造の加速度センサにおいては、固有振動数で振動する振動モードの他に、回転・ねじれに起因する不要モードも存在するのである。この場合、3点支持構造の加速度センサでは、不要モードの存在によって、改善の余地が存在することになる。
図3は、3点支持構造の加速度センサにおける周波数特性を示すグラフである。図3において、横軸は、3点支持構造の加速度センサを構成する振動系の角振動数ωを示しており、縦軸は、振動系の振幅の大きさを示している。図3に示すように、例えば、3点支持構造の加速度センサを構成する振動系においては、角振動数ω0にピークが存在することがわかる。このことは、3点支持構造の加速度センサを構成する振動系が角振動数ω0で振動しやすくなっていることを意味している。この角振動数ω0が固有振動数に対応し、角振動数ω0におけるピークは、固有振動数で振動する振動モードに対応するピークである。
さらに、図3に示すように、3点支持構造の加速度センサにおいては、角振動数ω1にもピークが存在する。この角振動数ω1におけるピークは、回転・ねじれに起因する不要モードに対応するピークである。したがって、3点支持構造の加速度センサにおいては、固有振動数で振動する振動モードとともに、回転・ねじれに起因する不要モードも存在することがわかる。
ここで、1/fノイズを考えると、3点支持構造の加速度センサにおいても、振動モードの固有振動数を振動外乱に対応するノイズから良好に分離する必要がある。このことから、できるだけ、3点支持構造の加速度センサにおいても、振動モードの固有振動数を高周波帯域にシフトさせるように3点支持構造の加速度センサを構成することが重要であることがわかる。
図4は、3点支持構造の加速度センサにおいて、振動モードの固有振動数を高周波帯域にシフトさせた一例を示すグラフである。図4を見てわかるように、振動モードの固有振動数が高周波帯域にシフトした結果、例えば、回転・ねじれに起因する不要モードの固有振動数と、振動モードの固有振動数が重なってしまうことがわかる。この場合、振動モードと不要モードが混じるため、加速度センサに誤動作が生じるおそれが高まることになる。
一方、図5は、3点支持構造の加速度センサにおいて、振動モードの固有振動数を高周波帯域にシフトさせた他の一例を示すグラフである。図5を見てわかるように、振動モードの固有振動数が高周波帯域にシフトした結果、振動モードと不要モードが重なることなく、回転・ねじれに起因する不要モードよりも高周波帯域側に、振動モードの固有振動数が位置することがわかる。つまり、図5に示すように、3点支持構造の加速度センサにおいても、振動モードと不要モードが重ならないように、振動モードの固有振動数を高周波帯域にシフトすることにより、1/fノイズに代表される振動外乱と、加速度センサの固有振動数を容易に分離することができると考えられる。
しかしながら、3点支持構造の加速度センサにおいては、回転・ねじれに起因する不要モードが存在する。したがって、単に、振動モードの固有振動数を不要モードと重ならないように高周波帯域側にシフトさせただけでは、依然として、不要モードの固有振動数が低周波帯域に位置することになる。この場合、回転・ねじれに起因する不要モードの固有振動数が低い周波数帯域に存在すると、1/fノイズの影響を受けやすくなる。この結果、振動外乱に対応するノイズに不要モードの固有振動数が共振して、外部から加速度が印加されていないにも関わらず、質量体が回転・ねじれに代表される不所望な挙動を示すおそれが高まる。したがって、振動外乱に対応するノイズとして1/fノイズを考慮した場合、不要モードの固有振動数も、1/fノイズの少ない高周波帯域にシフトさせることが望ましいことがわかる。すなわち、1/fノイズを考えると、3点支持構造の加速度センサの不要モードも振動外乱に対応するノイズから良好に分離する必要があり、できるだけ、不要モードの固有振動数を高周波帯域にシフトさせるように、3点支持構造の加速度センサを構成することが重要であることがわかる。
そこで、本実施の形態1における加速度センサでは、振動外乱と振動モードの固有振動数の分離を容易に実施することができるとともに、温度変化に基づく固有振動数の変動も充分に抑制する観点から、3点支持構造を採用することを前提とする。そして、本実施の形態1では、3点支持構造の加速度センサに存在する特有の課題を解決する工夫を施している。以下に、この工夫を施した本実施の形態1における加速度センサについて説明する。
<実施の形態1における基本思想>
3点支持構造の加速度センサにおいては、固有振動数で振動する振動モードとともに、回転・ねじれに起因する不要モードも存在する。このことから、3点支持構造の加速度センサでは、単に、振動モードの固有振動数を高周波帯域側にシフトさせただけでは充分ではなく、回転・ねじれに起因する不要モードの固有振動数も高周波帯域側にシフトさせる構成を取る必要がある。すなわち、本実施の形態1では、例えば、図6に示すように、振動外乱に対応するノイズとして1/fノイズを考慮した場合、振動モードの固有振動数だけでなく、回転・ねじれに起因する不要モードの固有振動数も、1/fノイズの少ない高周波帯域側にシフトさせる構成を基本思想とするものである。以下に、この基本思想を具現化した3点支持構造の加速度センサの構成について説明する。
<実施の形態1における加速度センサの全体構成>
まず、本実施の形態1における加速度センサの全体構成について、図面を参照しながら説明する。図7は、本実施の形態1における加速度センサS1の全体構成を示す断面図である。図7に示すように、本実施の形態1における加速度センサS1は、リードLDと一体的に形成されたチップ搭載部TAB上に、接着材ADH1を介して半導体チップCHP1が搭載されている。そして、この半導体チップCHP1上には、接着材ADH2を介して、センサエレメントSE1が搭載されている。
このとき、半導体チップCHP1には、例えば、MISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)などに代表される半導体素子や多層配線からなる集積回路が形成されている。一方、センサエレメントSE1には、半導体微細加工技術を使用することにより、例えば、3点支持構造を有する加速度センサの構造体が形成されている。つまり、本実施の形態1における加速度センサS1は、集積回路が形成された半導体チップCHP1と、3点支持構造を有する構造体が形成されたセンサエレメントSE1を有し、半導体チップCHP1とセンサエレメントSE1を電気的に接続することにより、3点支持構造の加速度センサS1が構成されていることになる。
したがって、例えば、センサエレメントSE1と半導体チップCHP1は、例えば、金属線からなるワイヤW1で電気的に接続され、半導体チップCHP1とリードLDは、例えば、金属線からなるワイヤW2で電気的に接続されている。
これにより、センサエレメントSE1に形成されている3点支持構造の構造体で、加速度に対応した質量体の変位が生じるとともに、センサエレメントSE1内に設けられた加速度検出部で、この質量体の変位を電気容量の変化として捉えるようになっている。そして、センサエレメントSE1内の加速度検出部で検出された電気容量の変化は、センサエレメントSE1とワイヤW1で電気的に接続されている半導体チップCHP1へ出力され、半導体チップCHP1内に形成されている信号処理回路で信号処理される。その後、半導体チップCHP1とワイヤW2で電気的に接続されているリードLDへ加速度信号が出力されるようになっている。
さらに、本実施の形態1における加速度センサS1では、センサエレメントSE1、半導体チップCHP1、ワイヤW1、ワイヤW2、および、リードLDの一部が、例えば、熱硬化性樹脂からなる樹脂MRで封止されている。このように構成されている本実施の形態1における加速度センサS1は、例えば、より上位のシステムに組み込まれ、検出した加速度信号を上位システムに供給するように構成されている。
<実施の形態1におけるセンサエレメントの断面構成>
続いて、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1の断面構成について説明する。図8は、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1の断面構成を示す模式図である。図8において、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1には、後述する質量体や固定部や梁などの機械的な構成要素を形成するため、例えば、絶縁層1b付きの支持基板1a上に導体層1cが貼り合わされている基板1Sが使用されている。すなわち、図8に示すように、基板1Sにおいて、支持基板1a上に絶縁層1bが形成されており、この絶縁層1b上に導体層1cが形成されている。支持基板1aは、例えば、シリコン(Si)より形成され、絶縁層1bは、例えば、酸化シリコン(SiO2)より形成されている。さらに、絶縁層1b上に形成されている導体層1cは、例えば、導電性シリコンより形成されている。
支持基板1aと絶縁層1bとの総厚は、例えば、数十μm〜数百μmであり、導体層1cの厚さは、例えば、数μm〜数十μmである。本実施の形態1では、例えば、酸化シリコン膜(絶縁層1b)を形成したシリコン基板(支持基板1a)に、導体層1cとして、導電性シリコンを貼り合せた基板1Sを使用しているが、基板1Sは、これに限定されるものではなく、種々変更可能である。例えば、表面MEMS技術を使用した導電性ポリシリコン、または、例えば、ニッケル(Ni)などのめっき金属を導体層1cとして使用してもよい。
本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1の各構成要素は、支持基板1a、絶縁層1b、および、導体層1cを加工することにより形成される。具体的には、まず、絶縁層1b上に光や電子ビームなどに反応するレジスト膜を塗布した後、フォトリソグラフィ技術や電子線描画技術を使用することにより、固定部FU3に代表される固定部と接続する部分以外の絶縁層1b上のレジスト膜を除去する。
次に、RIE(Reactive Ion Etching)技術を使用したドライエッチング技術や、フッ酸を用いたウェットエッチング技術を駆使することにより、露出した絶縁層1bを除去する。さらに、必要に応じて、同じくRIE技術を使用したドライエッチング技術や、TMAHやKOHなどのアルカリ性薬品を使用したウェットエッチング技術を駆使することにより、露出した支持基板1aの一部も除去する。これにより、図8に示す空間SPを形成することができる。
続いて、絶縁層1b上に形成されているレジスト膜を除去した後、高温接合技術や表面活性化接合技術などを使用することにより、絶縁層1b上に導体層1cを接合する。この導体層1cに対して、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を使用することにより、質量体MSや固定部FU3や梁などのセンサエレメントSE1の機械的な構成要素を形成することができる。
空間SPは、質量体MSが変位可能なように設けられている一方、質量体MSが静電気などによって支持基板1aに付着することを防止するとともに、質量体MSが衝撃などによって変位し、固定部FU3などと同じ導体層1c上の他の構成要素上に乗り上がることを防ぐストッパとしても機能するように設けられている。さらに、センサエレメントSE1を構成する質量体MSなどの機械的な構成要素を真空状態に気密封止する場合は、空間SPを設けることにより、支持基板1aとキャップCAPによって形成される密閉空間の体積を大きくすることができる。このため、外部からの微弱な気体分子の漏れがある場合や、密閉空間の内部の有機物や、何らかの化学反応によって長期間にわたって発生するアウトガスが存在する場合や、環境温度の変化による密閉空間内の気体分子の自由行程距離に変化がある場合でも、その影響を低減することができる。この結果、本実施の形態1によれば、長期信頼性や温度変化への耐性に優れた加速度センサS1を提供することができる。
キャップCAPには、例えば、図8に示すように、固定部FU3に達する貫通孔が設けられており、この貫通孔に絶縁膜IF1を介して導電材料が埋め込まれてビア(貫通電極)VAが形成されている。このビアVAは、図8に示すように、キャップCAPの一部を絶縁膜IF1で電気的に分離し、キャップCAPを貫通するように形成される。そして、ビアVAと電気的に接続するパッドPD1がキャップCAPの絶縁膜IF1上にわたって形成されている。このパッドPD1に、例えば、図7に示すワイヤW1が接続されることになる。一方、パッドPD2は、キャップCAPのビアVAに使われる以外の導体領域の電位を一定値に固定する機能を有し、信号処理回路が形成された半導体チップ内に存在する一定電圧に固定される。これにより、外部からの電磁波ノイズが加速度センサに悪影響を及ぼすことを抑制することができる。
なお、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1に使用されている基板1Sの替わりに、予めシリコン、酸化シリコン、シリコンの3層構造となっているSOI(Silicon On Insulator)基板を使用してもよく、この場合には、導体層1cを加工した後に、絶縁層1bが除去されることになる。
<実施の形態1におけるセンサエレメントの平面構成>
続いて、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1の平面構成について、図面を参照しながら説明する。図9は、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1の平面構成を示す図である。以下では、図面の横方向に延在する方向をX方向(第1方向)と定義し、図面の縦方向に延在する方向をY方向(第2方向)と定義する。さらに、X方向およびY方向の両方に垂直な方向(紙面に垂直な方向)をZ方向と定義する。
本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1は、図9に示す質量体MSと、支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4によって、1つの振動系が形成される。
質量体MSは、第1方向であるX方向には柔軟で、第1方向に直交する第2方向であるY方向には硬い支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4を介して支持されている。
図9において、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1は、X方向に変位可能な質量体MSを有している。この質量体MSは、X方向に長い第1部位P1と、X方向に長い第2部位P2と、これらの第1部位P1と第2部位P2とを繋ぐようにY方向に延びる第3部位P3を含むように構成される。このため、質量体MSは、片側が開放されたような形状を有していることになる。ここで、Y方向に延びる第3部位P3は、X方向と直交するY方向に延びてもよいが、必ずしも、Y方向と平行になっている必要はなく、第1部位P1と第2部位P2とを繋いでいればよい。さらに、第3部位P3は、X方向およびY方向のいずれの方向にも硬い構成となっている。これにより、X方向に振動する振動系の固有振動数を高くすることができる。
第1部位P1は、X方向に延在するように構成され、第2部位P2は、X方向と直交するY方向に第1部位P1から所定距離だけ離間しながらX方向に延在するように構成されている。そして、第3部位P3は、第1部位P1と第2部位P2に連結するようにY方向に延在するように構成されている。
例えば、Y方向の中心を通る仮想線IL1に対して、第1部位P1と第2部位P2が対称に配置され、この第1部位P1と第2部位P2を接続するように第3部位P3が配置されている。そして、第1部位P1と第2部位P2と第3部位P3で構成される形状に内包されるように第4部位P4が配置されており、この第4部位P4は、第1部位P1と固定梁BM5で接続されているとともに、第2部位P2と固定梁BM6で接続されている。
第1部位P1の端部近傍には、外側固定部OFU1Aおよび外側固定部OFU1Bが配置されているとともに、内側固定部IFU1Aおよび内側固定部IFU1Bが配置されている。特に、外側固定部OFU1A、外側固定部OFU1B、内側固定部IFU1A、内側固定部IFU1Bは、仮想線IL1に対して同じ側に配置されている。さらに、外側固定部OFU1Aと内側固定部IFU1Aは、第1部位P1に対して対称に配置されており、外側固定部OFU1Bと内側固定部IFU1Bも、第1部位P1に対して対称に配置されている。
そして、第1部位P1の外側に自由端FP1が設けられており、第1部位P1と自由端FP1がY方向に延在する支持梁BM1Bで接続され、自由端FP1と外側固定部OFU1AがY方向に延在する支持梁BM1Aで接続されている。したがって、第1部位P1と外側固定部OFU1Aは、自由端FP1に接続された支持梁BM1Aおよび支持梁BM1Bで接続されていることになる。同様に、第1部位P1と自由端FP1がY方向に延在する支持梁BM1Bで接続され、自由端FP1と外側固定部OFU1BがY方向に延在する支持梁BM1Aで接続されている。したがって、第1部位P1と外側固定部OFU1Bも、自由端FP1に接続された支持梁BM1Aおよび支持梁BM1Bで接続されていることになる。
さらに、第1部位P1の内側に自由端FP2が設けられており、第1部位P1と自由端FP2がY方向に延在する支持梁BM1Dで接続され、自由端FP2と内側固定部IFU1AがY方向に延在する支持梁BM1Cで接続されている。したがって、第1部位P1と内側固定部IFU1Aは、自由端FP2に接続された支持梁BM1Cおよび支持梁BM1Dで接続されていることになる。同様に、第1部位P1と自由端FP2がY方向に延在する支持梁BM1Dで接続され、自由端FP2と内側固定部IFU1BがY方向に延在する支持梁BM1Cで接続されている。したがって、第1部位P1と内側固定部IFU1Bも、自由端FP2に接続された支持梁BM1Cおよび支持梁BM1Dで接続されていることになる。
また、第2部位P2の内側に自由端FP3が設けられており、第2部位P2と自由端FP3がY方向に延在する支持梁BM2Bで接続され、自由端FP3と内側固定部IFU2AがY方向に延在する支持梁BM2Aで接続されている。したがって、第2部位P2と内側固定部IFU2Aは、自由端FP3に接続された支持梁BM2Aおよび支持梁BM2Bで接続されていることになる。同様に、第2部位P2と自由端FP3がY方向に延在する支持梁BM2Bで接続され、自由端FP3と内側固定部IFU2BがY方向に延在する支持梁BM2Aで接続されている。したがって、第2部位P2と内側固定部IFU2Bも、自由端FP3に接続された支持梁BM2Aおよび支持梁BM2Bで接続されていることになる。
さらに、第2部位P2の外側に自由端FP4が設けられており、第2部位P2と自由端FP4がY方向に延在する支持梁BM2Dで接続され、自由端FP4と外側固定部OFU2AがY方向に延在する支持梁BM2Cで接続されている。したがって、第2部位P2と外側固定部OFU2Aは、自由端FP4に接続された支持梁BM2Cおよび支持梁BM2Dで接続されていることになる。同様に、第2部位P2と自由端FP4がY方向に延在する支持梁BM2Dで接続され、自由端FP4と外側固定部OFU2BがY方向に延在する支持梁BM2Cで接続されている。したがって、第2部位P2と外側固定部OFU2Bも、自由端FP4に接続された支持梁BM2Cおよび支持梁BM2Dで接続されていることになる。
次に、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1においては、図9に示すように、Y方向の中心を通る仮想線IL1上に固定部FU3が設けられており、この固定部FU3に、Y方向に延在する延長部EXUが接続されている。この延長部EXUは、Y方向に長く、かつ、X方向の幅が、その他の支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4に比較して充分に大きい。このため、延長部EXUは、X方向およびY方向を含むいずれの方向にも動きにくくなっている。
そして、質量体MSの一部を構成する第3部位P3と延長部EXUが、支持梁BM3で接続されているとともに、支持梁BM4で接続されている。このとき、支持梁BM3と支持梁BM4は、仮想線IL1に対して反対側に配置されている。例えば、支持梁BM3と支持梁BM4は、仮想線IL1に対して対称に配置されている。
さらに、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1においては、図9に示すように、質量体MSが第1部位P1〜第3部位P3の他に第4部位P4を備えている。この第4部位P4は、第3部位P3に接続しながら、X方向には硬く、Y方向には柔らかい固定梁BM5を介して、X方向に長い第1部位P1と接続されている。同様に、第4部位P4は、X方向には硬く、Y方向には柔らかい固定梁BM6を介して、X方向に長い第2部位P2と接続されている。そして、質量体MSの一部を構成する第4部位P4に内包されるように加速度検出部ASUが形成されている。
具体的には、この加速度検出部ASUは、第4部位P4と一体的に形成された検出用可動電極と、固定部材に固定された検出用固定電極を含むように構成される。この場合、外部からX方向に加速度が印加されると、質量体MSがX方向に変位する。したがって、質量体MSの一部を構成する第4部位P4もX方向に変位し、第4部位P4と一体的に形成されている検出用可動電極もX方向に変位する。
一方、検出用固定電極は、固定部材に接続されていることから、加速度が印加されても変位しない。このため、検出用可動電極と検出用固定電極との間の距離が変化する。このことは、検出用可動電極と検出用固定電極で構成される静電容量素子の静電容量(電気容量)が変化することを意味する。このようにして、加速度検出部ASUは、質量体MSの変位を静電容量の変化として捉えるように構成されていることになる。
この加速度検出部ASUは、例えば、質量体MSの+X方向の変位に対して、静電容量が増加する容量素子と、静電容量が減少する容量素子とを含むように構成することができ、これによって、差動検出を実現することができる。差動検出の利点としては、容量素子の誤差に起因する初期容量のばらつきの影響を低減できることなどを挙げることができる。
<実施の形態1における特徴>
本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1は上記のように構成されており、以下に、その特徴点について説明する。本実施の形態1における第1特徴点は、例えば、図9に示すように、固定部FU3と接続するように延長部EXUを設け、この延長部EXUと、質量体MSの一部を構成する第3部位P3とを、支持梁BM3および支持梁BM4で接続し、支持梁BM3と支持梁BM4とを仮想線IL1に対して反対側に配置する点にある。
これにより、仮想線IL1を中心線とする質量体MSの回転およびねじれの発生を抑制することができる。すなわち、本実施の形態1では、延長部EXUと第3部位P3とを2つの支持梁BM3と支持梁BM4で接続するように構成し、かつ、支持梁BM3と支持梁BM4を仮想線IL1に対して反対側に配置することにより、仮想線IL1回りにおいて、質量体MSの回転およびねじれを発生しにくくしている。このことは、質量体MSの回転剛性(回転のしにくさ)が高まることを意味する。言い換えれば、本実施の形態1によれば、質量体MSの回転・ねじれに起因する不要モードの固有振動数を高周波帯域にシフトさせることができることを意味する。
一般的に、ばね定数がk、変位可能な質量体の質量をm、固有振動数をfとすると、角振動数ω=2πf=√(k/m)(式1)となる。この式(1)から、回転・ねじれに起因する不要モードの固有振動数を求めることができる。この不要モードに式(1)を適用する場合には、ばね定数kに回転剛性(回転のしにくさ)が対応し、質量mに仮想線IL1回りの慣性モーメントが対応する。ここで、本実施の形態1によれば、図9に示すように、固定部FU3と接続するように延長部EXUを設け、この延長部EXUと、質量体MSの一部を構成する第3部位P3とを、支持梁BM3および支持梁BM4で接続し、支持梁BM3と支持梁BM4とを仮想線IL1に対して反対側に配置する第1特徴点を採用している。この第1特徴点の構成と、固定部FU3と第3部位P3とを仮想線IL1上に配置される1本の支持梁で支持する構成とを比較すると、慣性モーメントは同じである一方、回転剛性(回転のしにくさ)は本実施の形態1の構成の方が高くなる。このことは、式(1)において、回転剛性(回転のしにくさ)に対応するばね定数kが大きくなることを意味する。したがって、式(1)から、ばね定数kが大きくなると、不要モードの固有振動数が大きくなることになる。
このようなことから、本実施の形態1によれば、質量体MSの回転・ねじれに起因する不要モードの固有振動数を高周波帯域にシフトさせることができることになる。すなわち、本実施の形態1によれば、上述した第1特徴点を有することにより、1/fノイズの少ない高周波帯域に質量体MSの回転・ねじれに起因する不要モードの固有振動数をシフトさせることができる。このため、振動外乱に対応するノイズに不要モードの固有振動数が共振して、外部から加速度が印加されていないにも関わらず、質量体が回転・ねじれに代表される不所望な挙動を示すおそれを低減することができる。
一方で、図9に示す本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1において、第1部位P1と接続する外側固定部OFU1A、OFU1Bおよび内側固定部IFU1A、IFU1Bを一体的な1つの固定部と考え、第2部位P2と接続する外側固定部OFU2A、OFU2Bおよび内側固定部IFU2A、IFU2Bを一体的な1つの固定部と考える。すると、図9に示す本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1は、上述した2つの固定部と、固定部FU3による3点支持構造をしていることになる。つまり、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1は、基本的に、3つの固定部で質量体MSが支持される3点支持構造をしていることがわかる。したがって、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1も、非特許文献1に記載されている3点支持構造の加速度センサと同様に、振動外乱と振動系の固有振動数の分離を容易に実施することができるとともに、温度変化に基づく固有振動数の変動も充分に抑制することができる。つまり、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1においても、容易に、X方向に質量体MSが振動する振動系の固有振動数を高周波帯域にシフトさせることができる。
一方で、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1においては、非特許文献1に記載された加速度センサとは異なり、固定部FU3と第3部位P3とを仮想線IL1上に配置される1本の支持梁で支持してはいない。具体的に、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1においては、例えば、図9に示すように、固定部FU3と接続するように延長部EXUを設け、この延長部EXUと、質量体MSの一部を構成する第3部位P3とを、支持梁BM3および支持梁BM4で接続し、支持梁BM3と支持梁BM4とを仮想線IL1に対して反対側に配置している。
ここで、支持梁BM1A〜BM1Dを1つの支持梁と考え、支持梁BM2A〜BM2Dを1つの支持梁と考えると、本実施の形態1における質量体MSは、上述した2つの支持梁と、支持梁BM3、および、支持梁BM4によって接続されていることになる。つまり、本実施の形態1では、基本的に3つの固定部で質量体MSを支持する3点支持構造を採用しながらも、質量体MSを4つの支持梁で懸架する構成が採用されている。この結果、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1によれば、X方向に質量体MSが振動する振動モードの固有振動数だけでなく、回転・ねじれに起因する不要モードの固有振動数も、1/fノイズの少ない高周波帯域側にシフトさせることができる。
これにより、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1では、質量体MSがX方向に振動する振動モードだけでなく、回転・ねじれに起因する不要モードにおいても、振動外乱と固有振動数の分離を容易に実施することができるとともに、温度変化に基づく固有振動数の変動も充分に抑制できる加速度センサS1を提供することができる。すなわち、本実施の形態1における加速度センサS1によれば、加速度センサS1の実装環境における温度変化や振動外乱に影響を受けにくい(ロバストな)加速度センサS1を提供することができる。
なお、本実施の形態1においては、質量体MS、支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4で構成される振動系のうち、最も周波数の低いモードは、質量体MSがX方向に振動する振動モードとなっている。
上述したように、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1においては、温度変化に基づく固有振動数の変動も充分に抑制できるが、この特徴点について説明する。
本実施の形態1における加速度センサS1は、例えば、図7に示すように、半導体チップCHP1、接着材ADH1、ADH2、リードLD、センサエレメントSE1などの異種材料が積層される構造となっている。また、センサエレメントSE1および半導体チップCHP1を含む上述した構成要素は、樹脂MRで封止されている。すなわち、本実施の形態1における加速度センサS1は、線膨張係数の異なる複数材料の積層構造として構成される。このような積層構造を有する加速度センサS1が、例えば、車のエンジンルームなどの温度変化の激しい場所で使用される場合には、それぞれの構成材料の線膨張係数の差によって、センサエレメントSE1が変形し、外側固定部OFU1A〜OFU2B、内側固定部IFU1A〜IFU2B、および、固定部FU3の位置が変動する。
材料力学の理論によれば、温度変化と線膨張係数の差によって、センサエレメントSE1は、均一な曲率を持つように変形する。このため、支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4に接続されている外側固定部OFU1A〜OFU2B、内側固定部IFU1A〜IFU2B、および、固定部FU3は、いずれも、センサエレメントSE1の中心から放射状に離れる方向、もしくは、近づく方向に移動する。
この結果、図10に示すように、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1によれば、質量体MSの一部を構成する第1部位P1および第2部位P2にも変形が発生する。この場合、本実施の形態1では、開放端を有するように質量体MSを第1部位P1と第2部位P2と第3部位P3とを含むように構成することにより、基板歪の一部が質量体の一部を構成する第1部位P1および第2部位P2の変形に変換されて吸収される。このため、本実施の形態1によれば、支持梁BM1A〜BM1Dおよび支持梁BM2A〜BM2Dには、第1部位P1および第2部位P2によって吸収しきれなかった基板歪だけが印加されることになり、基板歪の影響を低減することができる。
すなわち、本実施の形態1における第2特徴点は、質量体MSを第1部位P1と第2部位P2と第3部位P3を含む開放型形状で構成し、温度変化に起因して発生する基板歪の一部を第1部位P1および第2部位P2の変形により吸収する点にある。つまり、本実施の形態1では、質量体MSの形状に工夫を施すことにより、基板歪の一部を質量体MSの変形で吸収している点に第2特徴点がある。これにより、本実施の形態1によれば、温度変化に基づく基板歪の影響を低減することができる。
例えば、基板歪が大きくなると、支持梁BM1A〜BM1Dおよび支持梁BM2A〜BM2Dに大きな内部応力が発生し、これによって、支持梁BM1A〜BM1Dおよび支持梁BM2A〜BM2Dのばね定数が変化することになる。ばね定数が変化するということは、上述した(式1)からもわかるように、固有振動数が変化することを意味する。すなわち、温度変化に基づく基板歪が支持梁BM1A〜BM1Dおよび支持梁BM2A〜BM2Dに印加されることになると、固有振動数が変化することになる。
このことは、例えば、支持梁BM1A〜BM1Dおよび支持梁BM2A〜BM2Dの形状や寸法を調整してばね定数を大きくすることにより、固有振動数を高周波帯域にシフトして、1/fノイズに代表される振動外乱と、加速度センサの固有振動数とを分離したとしても、温度変化によって固有振動数が変化してしまうことを意味する。このことから、固有振動数に隣接した周波数帯域に振動外乱が存在する場合、特定温度では、固有振動数と振動外乱が一致することが考えられる。この場合、加速度センサの誤動作や故障が懸念される。
この点に関し、本実施の形態1によれば、上述した第2特徴点により、基板歪の一部を質量体MSの変形で吸収している。このことは、支持梁BM1A〜BM1Dおよび支持梁BM2A〜BM2Dに、第1部位P1および第2部位P2によって吸収しきれなかった基板歪だけが印加されることになり、基板歪の影響を低減することができることを意味する。つまり、本実施の形態1によれば、基板歪に起因して支持梁BM1A〜BM1Dおよび支持梁BM2A〜BM2Dに発生する内部応力を低減することができるのである。このことから、本実施の形態1によれば、温度変化による固有振動数の変化で、固有振動数と振動外乱が一致することを低減することができ、これによって、加速度センサS1の誤動作や故障を効果的に抑制して、加速度センサS1の信頼性を向上させることができる。
なお、例えば、基板歪による固定部FU3の移動も考えられる。しかし、固定部FU3は、センサエレメントSE1のY方向の中心を通る仮想線IL1上に配置されている。このため、固定部FU3のY方向の移動は無視することができる。また、固定部FU3のX方向の移動については、支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4が、X方向には柔らかい構成となっているため、固定部FU3のX方向の移動は、支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4のX方向における変形として吸収され、支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4のばね定数などの加速度センサS1の性能への影響は無視できる。
例えば、支持梁BM3および支持梁BM4は、センサエレメントSE1のY方向の中心を通る仮想線IL1上に配置された固定部FU3から、Y方向に延在する延長部EXUに接続されている。そして、支持梁BM3および支持梁BM4は、質量体MSの一部を構成する第3部位P3を仮想線IL1から離れた2点で支持している。このため、固定部FU3は、環境温度の変化によって、基板歪が発生した場合であっても、固定部FU3の移動が無視できる程度のものであり、この固定部FU3によって支持される延長部EXUおよび支持梁BM3、BM4もほとんど影響を受けない。
さらに、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1においては、質量体MSが第1部位P1〜第3部位P3の他に第4部位P4も備えている。この第4部位P4は、第3部位P3に接続しながら、X方向には硬く、Y方向には柔らかい固定梁BM5を介して、X方向に長い第1部位P1と接続されている。同様に、第4部位P4は、X方向には硬く、Y方向には柔らかい固定梁BM6を介して、X方向に長い第2部位P2と接続されている。これにより、例えば、図10に示すように、質量体MSの一部を構成する第1部位P1および第2部位P2が基板歪によって変形した場合であっても、この変形は、固定梁BM5および固定梁BM6によって吸収される。このため、第4部位P4は、基板歪の影響を受けにくくなり、第4部位P4と一体的に形成されている加速度検出部ASUも基板歪の影響を受けにくくなる。さらに、第4部位P4は、第3部位P3にしっかり固定されながら、Y方向のみに柔らかい固定梁BM5および固定梁BM6を介して第1部位P1および第2部位P2に固定されているため、基板歪の影響を効果的に遮断しながらも、質量体MSのX方向の変位を確実に加速度検出部ASUに伝達することができる。すなわち、本実施の形態1によれば、質量体MSを第1部位P1〜第4部位P4から構成することにより、基板歪の一部を吸収しながらも、加速度の印加による質量体MSのX方向の変位を確実に加速度検出部ASUに伝達することができるため、加速度センサS1の信頼性を向上させながら、加速度センサS1の検出精度を維持することができる。
上述したように、本実施の形態1におけるセンサエレメントSE1によれば、第2特徴点を有することにより、基板歪の一部を質量体MSの変形で吸収しているため、基板歪に起因して支持梁BM1A〜BM1Dおよび支持梁BM2A〜BM2Dに発生する内部応力を低減することができる。ただし、支持梁BM1A〜BM1Dおよび支持梁BM2A〜BM2Dには、質量体MSの一部を構成する第1部位P1および第2部位P2によって吸収しきれなかった基板歪が印加されることになる。そこで、本実施の形態1では、基板歪に起因する支持梁BM1A〜BM1Dおよび支持梁BM2A〜BM2Dのばね定数の変化を抑制する第3特徴点を有している。以下に、この第3特徴点について説明する。なお、支持梁BM1A〜BM1Dと支持梁BM2A〜BM2Dとは同様の構成をしているため、支持梁BM1A〜BM1Dに着目して説明することにする。
支持梁BM1A〜BM1DのX方向におけるばね定数kは、支持梁BM1A〜BM1Dの形状、構成材料のヤング率などの関数になるが、構成材料のヤング率は、構成材料に固有の物性値でありながらも、構成材料の内部応力によっては、見かけ上の値が変化する。したがって、支持梁BM1A〜BM1DのX方向におけるばね定数kの変動を抑制する観点からは、基板歪によって発生する支持梁BM1A〜BM1Dの内部応力に対する工夫が必要となる。
ここで、特に重要な点は、X方向のばね定数kに影響を与えるのは、支持梁BM1A〜BM1DのY方向に発生する内部応力である点である。例えば、固定部がセンサエレメントSE1の中心部に対して放射状に移動した場合、固定部のX方向の移動成分に対しては、支持梁BM1A〜BM1Dが変形することで吸収され、内部応力の発生原因となることはないと考えられる。一方、固定部のY方向の移動成分においては、質量体MSの一部を構成する第1部位P1および第2部位P2で吸収しきれなかった一部の変形が、支持梁BM1A〜BM1DをY方向に伸ばすあるいは圧縮するように働くため、Y方向に硬く形成されている支持梁BM1A〜BM1Dには、Y方向の引張応力あるいは圧縮応力が発生することになる。特に、Y方向の内部応力は、支持梁BM1A〜BM1DのX方向のばね定数kに影響を及ぼすことになる。したがって、(式1)を参照するとわかるように、支持梁BM1A〜BM1DにY方向の内部応力が発生すると、質量体MS、支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4によって構成される振動系の固有振動数の変動が発生することになる。さらには、センサエレメントSE1の感度をSaとすると、Sa=x/a=1/(ω)2(式2)で表される。このとき、xは、振動系のX方向の変位を示しており、aは、印加された加速度を示している、また、ωは、振動系のX方向における固有振動数を示している。
この(式2)に示すように、センサエレメントSE1の感度Saは、固有振動数の関数となることから、例えば、振動系の固有振動数が変動すると、センサエレメントSE1の感度Saも変動することになる。すなわち、支持梁BM1A〜BM1DにY方向の内部応力が発生すると、振動系の固有振動数の変動が発生するとともに、センサエレメントSE1の感度Saにも影響を及ぼすことになることがわかる。このことから、本実施の形態1では、支持梁BM1A〜BM1DのY方向に発生する内部応力に着目している。
本実施の形態1における第3特徴点は、例えば、図9および図10に示すように、Y方向の中心を通る仮想線IL1に対して、外側固定部OFU1A、OFU1Bと、内側固定部IFU1A、IFU1Bとを同じ側(上側)に配置し、かつ、第1部位P1に対して、外側固定部OFU1A、OFU1Bと、内側固定部IFU1A、IFU1Bとを反対側に配置する点にある。そして、第1部位P1と、外側固定部OFU1A、OFU1Bとを支持梁BM1A〜BM1Bで接続し、第1部位P1と、内側固定部IFU1A、IFU1Bとを支持梁BM1C〜BM1Dで接続している。
この構成は、上述したように、基板歪が基板の中心から放射状に発生することを考慮したものである。すなわち、基板歪が基板の中心から放射状に発生する場合、図10において、外側固定部OFU1A、OFU1Bと、内側固定部IFU1A、IFU1Bとは、Y方向の中心を通る仮想線IL1に対して同じ側に配置されていることから、外側固定部OFU1A、OFU1Bと、内側固定部IFU1A、IFU1Bは、同じ側(例えば,+Y方向)に移動することになる。このとき、第1部位P1は、基板に固定されておらずに懸架されていることから、移動することはない。したがって、例えば、外側固定部OFU1A、OFU1Bと、内側固定部IFU1A、IFU1Bとが同じ+Y方向に移動する場合、相対的に、外側固定部OFU1A、OFU1Bと第1部位P1との間の距離は大きくなる一方、相対的に、内側固定部IFU1A、IFU1Bと第1部位P1との間の距離は、小さくなる。このことは、第1部位P1と、外側固定部OFU1A、OFU1Bとを接続している支持梁BM1A〜BM1Bには、圧縮応力が発生するのに対し、第1部位P1と、内側固定部IFU1A、IFU1Bとを接続している支持梁BM1C〜BM1Dには、引張応力が発生することを意味している。
すなわち、本実施の形態1における第3特徴点の構成を採用する場合、支持梁BM1A〜BM1Bに発生する内部応力と、支持梁BM1C〜BM1Dに発生する内部応力が相違することになる。この場合、例えば、支持梁BM1A〜BM1Bに、ばね定数が大きくなる内部応力が発生すると、支持梁BM1C〜BM1Dには、ばね定数が小さくなる内部応力が発生することになる。この結果、支持梁BM1A〜BM1Dの全体を考えた場合、ばね定数の変動は、互いに打ち消し合って相殺されることになる。このことから、本実施の形態1における第3特徴点の構成を採用すると、支持梁BM1A〜BM1Dの全体では、ばね定数の変動を抑制できることになる。
したがって、本実施の形態1によれば、まず、第2特徴点により、基板歪の一部が質量体MSの変形で吸収され、支持梁BM1A〜BM1Dに、第1部位P1によって吸収しきれなかった基板歪だけが印加されることになり、基板歪の影響を低減することができることになる。そして、本実施の形態1によれば、さらに、第3特徴点を有することにより、支持梁BM1A〜BM1Dの全体を考えた場合、支持梁BM1A〜BM1Bに発生する内部応力と、支持梁BM1C〜BM1Dに発生する内部応力が逆になることから、ばね定数の変動は、互いに打ち消し合って相殺され、支持梁BM1A〜BM1Dの全体では、ばね定数の変動を抑制できることになる。
以上のことから、本実施の形態1によれば、上述した第2特徴点と第3特徴点の相乗効果により、温度変化に基づく固有振動数の変動を充分に抑制することができるため、さらには、振動系の固有振動数の変動に起因する加速度センサS1の感度の変動も抑制することができる。
例えば、加速度センサの温度変化に起因する特性変動を補正する方法として、各温度点での加速度センサの出力値を記録し、これらが全使用温度範囲の中で、予め決められた仕様範囲内に収まるように補正する電気的な補正方法がある。ところが、加速度センサの各温度点における出力値が非線形的な挙動を示す場合には、補正のために、多くの温度点における出力値と複雑な補正演算処理が必要となるとともに、恒温槽を装備した高価な評価装置が必要となり、製造コストの上昇に繋がる。
この点に関し、本実施の形態1における加速度センサS1によれば、上述した第2特徴点および第3特徴点を有しているため、広い使用温度範囲においても、振動系の固有振動数の変動を抑制できる。このため、本実施の形態1における加速度センサS1によれば、信号処理回路による高度な温度特性補正が不要となり、加速度センサS1の信頼性向上や、信号処理回路の小型化、加速度センサS1の出荷時における温度特性補正の簡素化などを図ることができ、これによって、製造コストの低減を図ることができる。
<実施の形態1における加速度センサの動作>
本実施の形態1における加速度センサS1は上記のように構成されており、以下に、その動作について簡単に説明する。
図11は、本実施の形態1における加速度センサS1の回路構成を示す回路ブロック図である。まず、図11において、外部から加速度が印加されると、外部から印加された加速度の大きさに比例して、センサエレメントSE1内に配置されている質量体が変位する。すると、この質量体の変位に追従して、質量体と一体的に形成されている加速度検出部ASUを構成する容量素子10Aおよび容量素子10Bの静電容量が変化する。この加速度検出部ASUにおける静電容量の変化は、半導体チップCHP1に形成されているCV変換回路21で電圧信号に変換される。そして、CV変換回路21で変換された電圧信号は、復調回路22で加速度信号に復元されて、出力端子OUTから加速度信号が出力される。このようにして、本実施の形態1における加速度センサS1が動作することになる。
具体的に、本実施の形態1では、環境に存在する電磁波ノイズに対する影響を低減する目的や、信号の伝達効率を向上させる目的で、加速度検出部ASUを構成する容量素子10Aおよび容量素子10Bの静電容量の検出には、数百kHzのキャリア信号(搬送波)20が使用される。このキャリア信号20は、容量素子10Aに印加される。一方、容量素子10Bには、キャリア信号20と180度の位相差を有するキャリア信号が印加される。さらに、容量素子10Aおよび容量素子10Bは、初期容量C0が同じになるように設計されているため、質量体が初期の位置に配置されている場合、すなわち、容量素子10Aと容量素子10Bの静電容量に差がない場合には、互いに180度の位相差を持つキャリア信号は、質量体の内部で相殺され、センサエレメントSE1からは出力されない。
一方、質量体が外部から印加された加速度に比例して変位した場合、容量素子10Aおよび容量素子10Bに、それぞれ、初期容量C0から+ΔCと−ΔCの容量差が発生し、センサエレメントSE1から2ΔCに比例した信号が半導体チップCHP1に入力される。この半導体チップCHP1に入力された信号は、半導体チップCHP1内に形成されているCV変換回路21で電圧信号に変換された後、復調回路22で質量体の実挙動周波数の加速度信号に復元される。このようにして、本実施の形態1における加速度センサS1によれば、外部から加速度が印加されると、印加された加速度に応じた加速度信号を出力することができる。
<実施の形態1における代表的な効果>
(1)本実施の形態1では、第1特徴点を有することにより、基本的に3つの固定部で質量体MSを支持する3点支持構造を採用しながらも、質量体MSを4つの支持梁で懸架する構成となる。これにより、本実施の形態1における加速度センサS1によれば、X方向に質量体MSが振動する振動モードの固有振動数だけでなく、回転・ねじれに起因する不要モードの固有振動数も、1/fノイズの少ない高周波帯域側にシフトさせることができる。この結果、本実施の形態1における加速度センサS1では、質量体MSがX方向に振動する振動モードだけでなく、回転・ねじれに起因する不要モードにおいても、振動外乱と固有振動数の分離を容易に実施することができるとともに、温度変化に基づく固有振動数の変動も充分に抑制できる加速度センサS1を提供することができる。すなわち、本実施の形態1における加速度センサS1によれば、加速度センサS1の実装環境における温度変化や振動外乱に影響を受けにくい(ロバストな)加速度センサS1を提供することができる。特に、本実施の形態1によれば、X方向に質量体が振動する振動系の振動モードの固有振動数を高周波帯域にシフトすることができるため、自動車の横滑り防止システムだけでなく、例えば、エアバックの作動などを制御する高い加速度を検出するシステムへの適用にも適している。
(2)本実施の形態1によれば、第2特徴点により、基板歪の一部を質量体MSの変形で吸収することができる。このことから、本実施の形態1によれば、温度変化による固有振動数の変化で、固有振動数と振動外乱が一致することを低減することができ、これによって、加速度センサS1の誤動作や故障を効果的に抑制して、加速度センサS1の信頼性を向上させることができる。
(3)本実施の形態1によれば、第3特徴点より、例えば、支持梁BM1A〜BM1Dに着目して、支持梁BM1A〜BM1Dの全体を考えた場合、支持梁BM1A〜BM1Bに発生する内部応力と、支持梁BM1C〜BM1Dに発生する内部応力を逆にすることができるため、ばね定数の変動を互いに打ち消し合って相殺することができ、これによって支持梁BM1A〜BM1Dの全体において、ばね定数の変動を抑制できる。
(4)以上のことから、本実施の形態1によれば、上述した第2特徴点と第3特徴点の相乗効果により、温度変化に基づく固有振動数の変動を充分に抑制することができるため、さらには、振動系の固有振動数の変動に起因する加速度センサS1の感度の変動も抑制することができる。このように、本実施の形態1における加速度センサS1は、環境温度の変化に起因する基板歪への耐性が優れているため、温度環境が厳しい自動車のエンジンルームなどを含む広い温度範囲においても優れた特性を維持することができる。
(5)また、本実施の形態1によれば、信号処理回路による高度な温度特性補正が不要となり、加速度センサの信頼性向上や、信号処理回路の小型化、加速度センサの出荷時における温度特性補正の簡素化などを図ることができ、これによって、製造コストの低減を図ることができる。
<変形例1>
次に、実施の形態1における変形例1について説明する。図12は、本変形例1におけるセンサエレメントSE1の構成を示す平面図である。図12に示す本変形例1におけるセンサエレメントSE1は、図9に示す実施の形態1におけるセンサエレメントSE1とほぼ同様の構成をしているため、相違点を中心に説明する。
図12において、本変形例1では、第1部位P1の外側に自由端FP1が設けられており、第1部位P1と自由端FP1がY方向に延在する支持梁BM1Bで接続され、自由端FP1と外側固定部OFU1がY方向に延在する支持梁BM1Aで接続されている。したがって、第1部位P1と外側固定部OFU1は、自由端FP1に接続された支持梁BM1Aおよび支持梁BM1Bで接続されていることになる。
さらに、第1部位P1の内側に自由端FP2が設けられており、第1部位P1と自由端FP2がY方向に延在する支持梁BM1Dで接続され、自由端FP2と内側固定部IFU1がY方向に延在する支持梁BM1Cで接続されている。したがって、第1部位P1と内側固定部IFU1は、自由端FP2に接続された支持梁BM1Cおよび支持梁BM1Dで接続されていることになる。
また、第2部位P2の内側に自由端FP3が設けられており、第2部位P2と自由端FP3がY方向に延在する支持梁BM2Bで接続され、自由端FP3と内側固定部IFU2がY方向に延在する支持梁BM2Aで接続されている。したがって、第2部位P2と内側固定部IFU2は、自由端FP3に接続された支持梁BM2Aおよび支持梁BM2Bで接続されていることになる。
さらに、第2部位P2の外側に自由端FP4が設けられており、第2部位P2と自由端FP4がY方向に延在する支持梁BM2Dで接続され、自由端FP4と外側固定部OFU2がY方向に延在する支持梁BM2Cで接続されている。したがって、第2部位P2と外側固定部OFU2は、自由端FP4に接続された支持梁BM2Cおよび支持梁BM2Dで接続されていることになる。
このように構成されている本変形例1におけるセンサエレメントSE1においても、実施の形態1におけるセンサエレメントSE1と同様に、第1特徴点、第2特徴点、および、第3特徴点を有している。したがって、本変形例1におけるセンサエレメントSE1においても、実施の形態1におけるセンサエレメントSE1と同様の効果を得ることができる。
<変形例2>
次に、実施の形態1における変形例2について説明する。図13は、本変形例2におけるセンサエレメントSE1の構成を示す平面図である。図13に示す本変形例2におけるセンサエレメントSE1は、図9に示す実施の形態1におけるセンサエレメントSE1とほぼ同様の構成をしているため、相違点を中心に説明する。
図13において、本変形例2では、第1部位P1の外側に自由端FP1が設けられており、第1部位P1と自由端FP1がY方向に延在する支持梁BM1Bで接続され、自由端FP1と固定部FU1がY方向に延在する支持梁BM1Aで接続されている。したがって、第1部位P1と固定部FU1は、自由端FP1に接続された支持梁BM1Aおよび支持梁BM1Bで接続されていることになる。
また、第2部位P2の外側に自由端FP4が設けられており、第2部位P2と自由端FP4がY方向に延在する支持梁BM2Dで接続され、自由端FP4と固定部FU2がY方向に延在する支持梁BM2Cで接続されている。したがって、第2部位P2と固定部FU2は、自由端FP4に接続された支持梁BM2Cおよび支持梁BM2Dで接続されていることになる。
このように構成されている本変形例2におけるセンサエレメントSE1においても、実施の形態1におけるセンサエレメントSE1と同様に、第1特徴点、および、第2特徴点を有している。したがって、本変形例2におけるセンサエレメントSE1においても、実施の形態1におけるセンサエレメントSE1における効果のうち、第1特徴点に基づく効果と、第2特徴点に基づく効果を得ることができる。
(実施の形態2)
本実施の形態2では、慣性センサの一例として、角速度センサを取り挙げて説明する。角速度センサは、例えば、X方向(駆動方向)に常に駆動振動している質量体において、この質量体が駆動振動しているX方向と直交するZ方向の回りに角速度(回転)が印加された場合、X方向に駆動振動している質量体が、X方向およびZ方向に直交するY方向(検出方向)に、外部から印加された角速度に比例した大きさで振動するコリオリ現象を利用して角速度を検出するセンサである。以下に、このような角速度センサに本発明の技術的思想を適用する例について説明する。
なお、本実施の形態2では、Z方向回りに角速度を検知する角速度センサについて説明するが、この原理は、X方向回りの角速度を検知する角速度センサやY方向回りの角速度を検知する角速度センサにも幅広く適用することができる。すなわち、本実施の形態2における技術的思想は、面内角速度を検出する角速度センサだけでなく、面外角速度を検出する角速度センサにも幅広く適用することができる。
本実施の形態2における角速度センサの実装形態は、図7に示す前記実施の形態1における加速度センサS1の実装構成と同様である。そして、本実施の形態2における角速度センサのセンサエレメントも、前記実施の形態1における加速度センサS1のセンサエレメントSE1と同様に、半導体微細加工技術を使用することにより製造することができる。本実施の形態2における角速度センサと、前記実施の形態1における加速度センサS1の相違点は、角速度センサのセンサエレメントと、加速度センサS1のセンサエレメントSE1の構成であり、本実施の形態2では、角速度センサのセンサエレメントを以下に示すような構成を取ることにより、外部から印加される角速度を検出することができる。
<実施の形態2におけるセンサエレメントの平面構成>
図14は、本実施の形態2における角速度センサのセンサエレメントSE2の平面構成を示す模式図である。以下では、この図14を使用して、本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2の構成について説明する。
図14において、本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2は、2つの質量体MS1と質量体MS2を有している。質量体MS1は、第1方向であるX方向には柔軟で、第2方向であるY方向には硬い支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4を介して支持されている。同様に、質量体MS2も、第1方向であるX方向には柔軟で、第2方向であるY方向には硬い支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4を介して支持されている。
質量体MS1および質量体MS2は、固定電極として機能する第1駆動電極との間で容量素子DE1を形成するとともに、固定電極として機能する第2駆動電極との間でも容量素子DE2を形成するように第1可動電極が一体的に形成されている。さらに、質量体MS1および質量体MS2は、固定電極として機能する第1駆動振幅モニタ電極や第2駆動振幅モニタ電極との間でも、それぞれ、容量素子ME1および容量素子ME2を形成するように第2可動電極が一体的に形成されている。
そして、質量体MS1には、X方向には硬く、Y方向には柔軟な検出梁BM7および検出梁BM8を介して質量体MS1に内包されるように、コリオリ素子CE1が配置されている。同様に、質量体MS2には、X方向には硬く、Y方向には柔軟な検出梁BM7および検出梁BM8を介して質量体MS2に内包されるように、コリオリ素子CE2が配置されている。
次に、コリオリ素子CE1に内包されるように角速度検出部YSU1が形成され、コリオリ素子CE2に内包されるように角速度検出部YSU2が形成されている。具体的に、この角速度検出部YSU1および角速度検出部YSU2は、それぞれ、コリオリ素子CE1やコリオリ素子CE2と一体的に形成された検出用可動電極と、固定部材に固定された検出用固定電極を含むように構成される。この場合、外部からZ方向回りに角速度が印加されると、コリオリ現象によって、コリオリ素子CE1およびコリオリ素子CE2がY方向に変位する。したがって、コリオリ素子CE1やコリオリ素子CE2と一体的に形成されている検出用可動電極もY方向に変位する。一方、検出用固定電極は、固定部材に接続されていることから、角速度が印加されても変位しない。このため、検出用可動電極と検出用固定電極との間の距離が変化する。このことは、検出用可動電極と検出用固定電極で構成される容量素子の静電容量(電気容量)が変化することを意味する。このようにして、角速度検出部YSU1および角速度検出部YSU2は、コリオリ素子CE1やコリオリ素子CE2のY方向の変位を静電容量の変化として捉えるように構成されていることになる。
質量体MS1および質量体MS2のそれぞれは、X方向に長い第1部位P1と、X方向に長い第2部位P2と、これらの第1部位P1と第2部位P2とを繋ぐようにY方向に延びる第3部位P3によって構成される。このため、質量体MS1および質量体MS2は、片側が開放されたような形状を有していることになる。第1部位P1は、X方向に延在するように構成され、第2部位P2は、X方向と直交するY方向に第1部位P1から所定距離だけ離間しながらX方向に延在するように構成されている。そして、第3部位P3は、第1部位P1と第2部位P2に連結するようにY方向に延在するように構成されている。
例えば、Y方向の中心を通る仮想線IL1に対して、第1部位P1と第2部位P2が対称に配置され、この第1部位P1と第2部位P2を接続するように第3部位P3が配置されている。そして、第1部位P1と第2部位P2と第3部位P3で構成される形状に内包されるようにコリオリ素子CE1やコリオリ素子CE2が配置されており、このコリオリ素子C1Eおよびコリオリ素子CE2のそれぞれは、第1部位P1と検出梁BM7で接続されているとともに、第2部位P2と検出梁BM8で接続されている。
第1部位P1の端部近傍には、外側固定部OFU1Aおよび外側固定部OFU1Bが配置されているとともに、内側固定部IFU1Aおよび内側固定部IFU1Bが配置されている。特に、外側固定部OFU1A、外側固定部OFU1B、内側固定部IFU1A、内側固定部IFU1Bは、仮想線IL1に対して同じ側に配置されている。さらに、外側固定部OFU1Aと内側固定部IFU1Aは、第1部位P1に対して対称に配置されており、外側固定部OFU1Bと内側固定部IFU1Bも、第1部位P1に対して対称に配置されている。
そして、第1部位P1の外側に自由端FP1が設けられており、第1部位P1と自由端FP1がY方向に延在する支持梁BM1Bで接続され、自由端FP1と外側固定部OFU1AがY方向に延在する支持梁BM1Aで接続されている。したがって、第1部位P1と外側固定部OFU1Aは、自由端FP1に接続された支持梁BM1Aおよび支持梁BM1Bで接続されていることになる。同様に、第1部位P1と自由端FP1がY方向に延在する支持梁BM1Bで接続され、自由端FP1と外側固定部OFU1BがY方向に延在する支持梁BM1Aで接続されている。したがって、第1部位P1と外側固定部OFU1Bも、自由端FP1に接続された支持梁BM1Aおよび支持梁BM1Bで接続されていることになる。
さらに、第1部位P1の内側に自由端FP2が設けられており、第1部位P1と自由端FP2がY方向に延在する支持梁BM1Dで接続され、自由端FP2と内側固定部IFU1AがY方向に延在する支持梁BM1Cで接続されている。したがって、第1部位P1と内側固定部IFU1Aは、自由端FP2に接続された支持梁BM1Cおよび支持梁BM1Dで接続されていることになる。同様に、第1部位P1と自由端FP2がY方向に延在する支持梁BM1Dで接続され、自由端FP2と内側固定部IFU1BがY方向に延在する支持梁BM1Cで接続されている。したがって、第1部位P1と内側固定部IFU1Bも、自由端FP2に接続された支持梁BM1Cおよび支持梁BM1Dで接続されていることになる。
また、第2部位P2の内側に自由端FP3が設けられており、第2部位P2と自由端FP3がY方向に延在する支持梁BM2Bで接続され、自由端FP3と内側固定部IFU2AがY方向に延在する支持梁BM2Aで接続されている。したがって、第2部位P2と内側固定部IFU2Aは、自由端FP3に接続された支持梁BM2Aおよび支持梁BM2Bで接続されていることになる。同様に、第2部位P2と自由端FP3がY方向に延在する支持梁BM2Bで接続され、自由端FP3と内側固定部IFU2BがY方向に延在する支持梁BM2Aで接続されている。したがって、第2部位P2と内側固定部IFU2Bも、自由端FP3に接続された支持梁BM2Aおよび支持梁BM2Bで接続されていることになる。
さらに、第2部位P2の外側に自由端FP4が設けられており、第2部位P2と自由端FP4がY方向に延在する支持梁BM2Dで接続され、自由端FP4と外側固定部OFU2AがY方向に延在する支持梁BM2Cで接続されている。したがって、第2部位P2と外側固定部OFU2Aは、自由端FP4に接続された支持梁BM2Cおよび支持梁BM2Dで接続されていることになる。同様に、第2部位P2と自由端FP4がY方向に延在する支持梁BM2Dで接続され、自由端FP4と外側固定部OFU2BがY方向に延在する支持梁BM2Cで接続されている。したがって、第2部位P2と外側固定部OFU2Bも、自由端FP4に接続された支持梁BM2Cおよび支持梁BM2Dで接続されていることになる。
次に、本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2においては、図14に示すように、Y方向の中心を通る仮想線IL1上に固定部FU3が設けられており、この固定部FU3に、Y方向に延在する延長部EXUが接続されている。この延長部EXUは、Y方向に長く、かつ、X方向の幅が、その他の支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4に比較して充分に大きい。このため、延長部EXUは、X方向およびY方向を含むいずれの方向にも動きにくくなっている。
そして、質量体MS1や質量体MS2の一部を構成する第3部位P3のそれぞれと延長部EXUが、支持梁BM3で接続されているとともに、支持梁BM4で接続されている。このとき、支持梁BM3と支持梁BM4は、仮想線IL1に対して反対側に配置されている。例えば、支持梁BM3と支持梁BM4は、仮想線IL1に対して対称に配置されている。
続いて、質量体MS1と質量体MS2は、互いの振動エネルギーを共有する音叉構造を構成するように、リンク梁BM9によって接続されている。ここで、本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2を音叉構造とすることにより、例えば、駆動振動系を構成する質量体MS1、質量体MS2、支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4に加工時の誤差が存在する場合であっても、きれいな共振特性を得ることができる。さらに、コリオリ素子CE1やコリオリ素子CE2と検出梁BM7と検出梁BM8で構成される検出振動系においても、振動外乱のようなノイズ成分を除去し、角速度の印加に起因する信号だけを分離することが容易となる。
<実施の形態2における角速度センサの動作>
本実施の形態2における角速度センサは、上記のように構成されており、以下に、その動作について説明する。
図15は、本実施の形態2における角速度センサS2の駆動振動を制御する回路構成を示す回路ブロック図である。図15において、容量素子DE1および容量素子DE2は、質量体MS1および質量体MS2をX方向に振動させる駆動手段を構成する。そして、容量素子DE1の一部を構成する固定電極である第1駆動電極には、半導体チップCHP1内に形成されている信号処理回路から駆動信号として、Vcom+Vb−Vdが印加される。一方、容量素子DE2の一部を構成する固定電極である第2駆動電極には、半導体チップCHP1内に形成されている信号処理回路から駆動信号として、Vcom+Vb+Vdが印加される。
また、質量体MS1および質量体MS2には、支持梁BM3および支持梁BM4と接続された延長部EXUと繋がる固定部FU3を介して、半導体チップCHP1内に形成されている信号処理回路からVcomが印加される。したがって、固定電極である第1駆動電極と質量体MS1および質量体MS2との間の電位差は、Vb−Vdとなり、固定電極である第2駆動電極と質量体MS1および質量体MS2との間の電位差は、Vb+Vdとなる。この結果、容量素子DE1および容量素子DE2には、上述した電位差に起因する静電力が発生し、質量体MS1と質量体MS2がX方向に逆相振動(駆動振動)することになる。
なお、質量体MS1および質量体MS2には、信号処理回路からキャリア信号Vcも印加されているが、キャリア信号Vcの周波数は、数百kHzであり、上述した駆動振動が追従できないほど充分に高いため、駆動力としては機能しない、また、限定するわけではないが、本実施の形態2における角速度センサS2では、小さい駆動電圧で大きなX方向の駆動振幅を得るために駆動信号Vdの周波数(駆動周波数)を、質量体MS1、質量体MS2、支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、支持梁BM4、および、リンク梁BM9によって構成される駆動振動系(逆相振動系)の固有振動数に合わせている。また、本実施の形態2では、周辺環境の変動に起因する駆動振動系の固有振動数の変化に駆動振動数を追従させるため、PLL(Phase Locked Loop)によるAFC(Auto Frequency Control)34およびDA変換部36を用いてフィードバック制御を行なっている。
さらに、本実施の形態2において、質量体MS1および質量体MS2の駆動振幅は、固定電極として機能する第1駆動振幅モニタ電極と、質量体MS1および質量体MS2と一体的に形成されている第2可動電極からなる容量素子ME1の静電容量の変化を検出することでモニタされている。同様に、質量体MS1および質量体MS2の駆動振幅は、固定電極として機能する第2駆動振幅モニタ電極と、質量体MS1および質量体MS2と一体的に形成されている第2可動電極からなる容量素子ME2の静電容量の変化を検出することでモニタされている。
具体的には、質量体MS1および質量体MS2に、周波数が数百kHzのキャリア信号Vcを印加する。この場合、キャリア信号Vcによって、質量体MS1および質量体MS2と第1駆動振幅モニタ電極(固定電極)で構成される容量素子ME1や、質量体MS1および質量体MS2と第2駆動振幅モニタ電極(固定電極)で構成される容量素子ME2の静電容量に変化が生じ、この静電容量の変化に応じて電荷の移動が発生する。この静電容量の変化は、図15に示すCV変換部30でアナログ電圧信号に変換された後、AD変換部31でデジタル電圧信号に変換される。そして、容量素子ME1からCV変換部30およびAD変換部31を通過した第1デジタル電圧信号と、容量素子ME2からCV変換部30およびAD変換部31を通過した第2デジタル電圧信号とが、差動検出部32で演算される。このとき、駆動振幅が0の場合は、容量素子ME1と容量素子ME2の初期の静電容量が互いに相殺されるため、同期検波部33への入力電圧は0となる。
一方、質量体MS1と質量体MS2が逆相振動している場合は、質量体MS1および質量体MS2の駆動振幅に追従して容量素子ME1の静電容量が増加し、容量素子ME2の静電容量が減少する。あるいは、質量体MS1および質量体MS2の駆動振幅に追従して容量素子ME1の静電容量が減少し、容量素子ME2の静電容量が増加する。このことから、差動検出部32からは、逆相振動の駆動振幅に比例したデジタル信号が出力される。
差動検出部32から出力されたデジタル信号は、同期検波部33で駆動周波数の成分(例えば、数十kHz)と、必要に応じてDCを含む低周波数の成分(例えば、DCから数百Hz)に変換される。低周波数のデジタル信号に変換された駆動振幅は、AGC(Auto Gain Control)35に入力され、予め設定されている駆動振幅の目標値と比較される。そして、この比較結果に基づいて、DA変換部36で駆動信号Vdの大きさを調整することにより、駆動振幅が予め設定されている目標値になるようにフィードバック制御されることになる。以上のようにして、本実施の形態2における角速度センサS2では、質量体MS1および質量体MS2を一定駆動振幅でX方向に駆動振動(逆相振動)させることができる。
続いて、質量体MS1および質量体MS2をX方向に駆動振動させた状態で、Z方向回りに角速度が印加された場合の角速度の検出動作について説明する。
図16は、本実施の形態2における角速度センサS2の検出回路の構成を示す回路ブロック図である。まず、質量体MS1および質量体MS2が逆相振動(駆動振動)している状態で、Z方向回りに角速度Ωが印加されると、質量体MS1および質量体MS2には、(式3)で示されるコリオリ力Fcが発生し、印加された角速度Ωに比例するY方向の振動が発生する。
Fc=2・m・Ω・X・ωx・cos(ωx・t)(式3)
このとき、(式3)において、Fcはコリオリ力であり、mは質量体MS1あるいは質量体MS2の質量であり、Ωは外部から印加される角速度である。また、Xは、X方向の最大振幅であり、ωx/2πは駆動周波数(駆動振動系の固有振動数)であり、tは時間である。
ここで、質量体MS1および質量体MS2は逆相振動しているため、それぞれ、Y方向の振動も逆位相になる。ところが、質量体MS1および質量体MS2は、X方向には柔軟で、Y方向には硬い支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4で支持されているため、上述したコリオリ力Fcが発生しても、Y方向にはほとんど変位しない。一方、コリオリ素子CE1およびコリオリ素子CE2は、X方向には硬く、Y方向には柔軟な検出梁BM7および検出梁BM8を介して質量体MS1や質量体MS2に接続されているため、(式4)に示すような関係で、コリオリ力Fcに基づきY方向に変位する。
y=Fc・Qy/ky(式4)
このとき、yは検出振幅であり、Qyは検出振動系の機械品質係数であり、kyは検出梁BM7および検出梁BM8のY方向のばね定数である。
図16に示すように、コリオリ素子CE1がY方向に変位すると、コリオリ素子CE1と接続されるように設けられた角速度検出部YSU1を構成する容量素子の静電容量が変化する。同様に、コリオリ素子CE2がY方向に変位すると、コリオリ素子CE2と接続されるように設けられた角速度検出部YSU2を構成する容量素子の静電容量も変化する。
例えば、角速度検出部YSU1を構成する容量素子の静電容量の変化は、CV変換部40Aでアナログ電圧信号に変換された後、AD変換部41Aでデジタル電圧信号に変換される。その後、差動検出部42Aで演算された後、同期検波部43Aで復調信号が抽出される。同様に、角速度検出部YSU2を構成する容量素子の静電容量の変化は、CV変換部40Bでアナログ電圧信号に変換された後、AD変換部41Bでデジタル電圧信号に変換される。その後、差動検出部42Bで演算された後、同期検波部43Bで復調信号が抽出される。
そして、同期検波部43Aで復調された復調信号と、同期検波部43Bで復調された復調信号が差動演算処理部44に入力されて演算された後、LPF(低周波数帯域通過フィルタ)45を通過することにより、最終的に角速度信号が出力端子OUTから出力されることになる。以上のようにして、本実施の形態2における角速度センサS2によれば、角速度を検出することができる。
<実施の形態2の特徴>
本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2において、例えば、図14に示すように、第1部位P1と接続する外側固定部OFU1A、OFU1Bおよび内側固定部IFU1A、IFU1Bを一体的な1つの固定部と考え、第2部位P2と接続する外側固定部OFU2A、OFU2Bおよび内側固定部IFU2A、IFU2Bを一体的な1つの固定部と考える。すると、図14に示す本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2は、上述した2つの固定部と、固定部FU3による3点支持構造をしていることになる。つまり、本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2は、基本的に、3つの固定部で質量体MS1および質量体MS2が支持される3点支持構造をしていることがわかる。したがって、本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2も、非特許文献1に記載されている3点支持構造と同様に、振動外乱と固有振動数の分離を容易に実施することができるとともに、温度変化に基づく固有振動数の変動も充分に抑制することができる。つまり、本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2においても、容易に、X方向に質量体MS1や質量体MS2が駆動振動する振動系の固有振動数を高周波帯域にシフトさせることができる。
ここで、本実施の形態2における角速度センサの感度Swは、上述した(式3)および(式4)を整理することにより、(式5)で与えられる。
Sw=y/Ω=2・m・X・ωx・cos(ωx・t)・Qy/ky(式5)
上述した(式5)から、周辺環境の変動に関係なく角速度センサの感度を一定に維持するためには、駆動振幅Xと、駆動振動系の固有振動数であるωx、検出振動系の機械品質係数であるQyを一定に維持する必要があることがわかる。このとき、検出振動系の機械品質係数であるQyは、温度に依存する要素であるが、例えば、サーボ制御を使用することにより、その影響を最小限にすることができるため、変化しない値としてみなすことができる。また、駆動振幅Xについても、上述したAGC35によるフィードバック制御を使用することにより、一定値にすることができる。したがって、角速度センサの感度Swは、唯一、駆動振動系の固有振動数であるωxの関数となる。
この点に関し、本実施の形態2では、上述したように、X方向に質量体MS1や質量体MS2が駆動振動する振動系の固有振動数を高周波帯域にシフトさせている。このことは、駆動振動系の固有振動数が大きくなることを意味し、(式5)から角速度センサの感度Swも向上することがわかる。つまり、本実施の形態2では、1/fノイズに代表される振動外乱と、駆動振動系の固有振動数との共振を回避するため、1/fノイズの少ない高周波帯域側に、駆動振動系の固有振動数をシフトさせる点に主眼があるが、さらには、駆動振動系の固有振動数を高周波帯域側にシフトすることによって、角速度センサの感度も向上させることができる利点も得られるのである。
一方で、本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2においては、非特許文献1に記載された技術とは異なり、固定部FU3と第3部位P3とを仮想線IL1上に配置される1本の支持梁で支持してはいない。具体的に、本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2においては、例えば、図14に示すように、固定部FU3と接続するように延長部EXUを設け、この延長部EXUと、質量体MS1の一部を構成する第3部位P3とを、支持梁BM3および支持梁BM4で接続し、支持梁BM3と支持梁BM4とを仮想線IL1に対して反対側に配置している(第1特徴点)。同様に、本実施の形態2では、延長部EXUと、質量体MS2の一部を構成する第3部位P3とを、支持梁BM3および支持梁BM4で接続し、支持梁BM3と支持梁BM4とを仮想線IL1に対して反対側に配置している(第1特徴点)。
ここで、支持梁BM1A〜BM1Dを1つの支持梁と考え、支持梁BM2A〜BM2Dを1つの支持梁と考えると、本実施の形態2における質量体MS1および質量体MS2は、上述した2つの支持梁と、支持梁BM3、および、支持梁BM4によって接続されていることになる。つまり、本実施の形態2では、基本的に3つの固定部で質量体MS1および質量体MS2を支持する3点支持構造を採用しながらも、質量体MS1および質量体MS2を4つの支持梁で懸架する構成が採用されている。この結果、本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2によれば、X方向に質量体MS1および質量体MS2が駆動振動する振動モードの固有振動数だけでなく、回転・ねじれに起因する不要モードの固有振動数も、1/fノイズの少ない高周波帯域側にシフトさせることができる。
これにより、本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2では、質量体MS1および質量体MS2がX方向に駆動振動する振動モードだけでなく、回転・ねじれに起因する不要モードにおいても、振動外乱と固有振動数の分離を容易に実施することができるとともに、温度変化に基づく固有振動数の変動も充分に抑制できる角速度センサを提供することができる。すなわち、本実施の形態2における角速度センサによれば、角速度センサの実装環境における温度変化や振動外乱に影響を受けにくい(ロバストな)角速度センサを提供することができる。
さらに、詳細に本実施の形態2における第1特徴点について説明する。本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2は、例えば、図14に示すように、2つの質量体MS1および質量体MS2をリンク梁BM9で接続した構成をしているため、音叉のような振動モードを有する。すなわち、2つの質量体MS1および質量体MS2が共にX方向において同じ方向に同位相で振動する振動モード(第1モード)が存在し、この第1モードのピークが第1モードの固有振動数である。さらに、本実施の形態2では、2つの質量体MS1および質量体MS2がX方向において、逆方向(逆位相)で振動する振動モード(第2モード)が存在し、この第2モードのピークが第2モードの固有振動数である。このとき、第1モードの固有振動数は、第2モードの固有振動数よりも低周波数帯域側に存在する。言い換えれば、第2モードの固有振動数は、第1モードの固有振動数よりも高周波帯域側に存在するということもできる。
さらに、3点支持構造をした本実施の形態2における角速度センサにおいては、第2モードよりもさらに高周波帯域側に第3モードおよび第4モードが存在する。この第3モードおよび第4モードが不要モードであり、例えば、2つの質量体MS1および質量体MS2がX方向回りに回転するモードであったり、Z方向回りに回転するモードである。このような不要モードは、X方向の駆動振動に対応した第1モードや第2モードとは異なり、質量体MS1および質量体MS2の回転軸回りの慣性モーメントと、支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4の回転軸回りのねじればね定数によって決定される。
このため、不要モードは、第1モードおよび第2モードとは環境温度による変動も異なり、基板歪に起因する固有振動数への影響も異なることになる。すなわち、角速度センサのセンサエレメントSE2を広い温度範囲においても安定して動作させるためには、駆動周波数として使用する第2モード(駆動モード)の固有振動数を一定に維持することも大切であるが、他の不要モードの固有振動数が第2モード(駆動モード)の固有振動数と重ならないようにすることも大切である。
また、特に、本実施の形態における角速度センサが自動車の横滑り防止システムのブレーキ圧発生制御装置などのような広範囲の振動外乱が存在する劣悪な環境下で使用される場合には、第2モード(駆動モード)の固有振動数をなるべく高くして、振動外乱などの周囲環境の振動ノイズと結合しないように構成する必要がある。さらには、不要モードの固有振動数は、第2モード(駆動モード)の固有振動数よりも、さらに高いところにシフトさせる必要がある。つまり、本実施の形態2における角速度センサは、3点支持構造を採用することにより、基板歪にロバストな構造でありながらも、第2モード(駆動モード)の固有振動数を高く、かつ、不要モードの固有振動数を、第2モード(駆動モード)の固有振動数よりもさらに高くすることを目的として開発されたものである。
そこで、本実施の形態2では、例えば、図14に示すように、固定部FU3と接続するように延長部EXUを設け、この延長部EXUと、質量体MS1および質量体MS2の一部を構成する第3部位P3とを、支持梁BM3および支持梁BM4で接続し、支持梁BM3と支持梁BM4とを仮想線IL1に対して反対側に配置している(第1特徴点)。
この結果、本実施の形態2によれば、上述した第1特徴点を有することにより、基本的に3つの固定部で質量体MS1および質量体MS2を支持する3点支持構造を採用しながらも、質量体MS1および質量体MS2を4つの支持梁で懸架する構成となる。したがって、本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2によれば、X方向に質量体MS1および質量体MS2が駆動振動する振動モード(第2モード)の固有振動数だけでなく、回転・ねじれに起因する不要モードの固有振動数も、1/fノイズの少ない高周波帯域側にシフトさせることができるのである。
なぜなら、本実施の形態2によれば、質量体MS1および質量体MS2を4つの支持梁で懸架することになり、質量体MS1および質量体MS2が回転軸(X軸やZ軸)回りに回転しにくくなるからである。すなわち、本実施の形態2によれば、回転軸回りの回転剛性を高めることができるため、不要モードの固有振動数を高周波帯域側にシフトさせることができるのである。
次に、本実施の形態2では、上述した第1特徴点の他に、以下に示す第2特徴点および第3特徴点も有する。すなわち、本実施の形態2におけるセンサエレメントSE2は、質量体MS1および質量体MS2のそれぞれを第1部位P1と第2部位P2と第3部位P3を含む開放型形状で構成し、温度変化に起因して発生する基板歪の一部を第1部位P1および第2部位P2の変形により吸収している(第2特徴点)。さらに、本実施の形態2では、例えば、図14に示すように、Y方向の中心を通る仮想線IL1に対して、外側固定部OFU1A、OFU1Bと、内側固定部IFU1A、IFU1Bとを同じ側(上側)に配置し、かつ、第1部位P1に対して、外側固定部OFU1A、OFU1Bと、内側固定部IFU1A、IFU1Bとを反対側に配置している。そして、第1部位P1と、外側固定部OFU1A、OFU1Bとを支持梁BM1A〜BM1Bで接続し、第1部位P1と、内側固定部IFU1A、IFU1Bとを支持梁BM1C〜BM1Dで接続している(第3特徴点)。
このことから、本実施の形態2によれば、温度変化による固有振動数の変化で、固有振動数と振動外乱が一致することを低減することができ、これによって、角速度センサの誤動作や故障を効果的に抑制して、角速度センサの信頼性を向上させることができる。特に、本実施の形態2によれば、上述した第3特徴点より、例えば、支持梁BM1A〜BM1Dに着目して、支持梁BM1A〜BM1Dの全体を考えた場合、支持梁BM1A〜BM1Bに発生する内部応力と、支持梁BM1C〜BM1Dに発生する内部応力を逆にすることができるため、ばね定数の変動を互いに打ち消し合って相殺することができ、これによって支持梁BM1A〜BM1Dの全体において、ばね定数の変動を抑制できる。すなわち、本実施の形態2によれば、上述した第2特徴点と第3特徴点の相乗効果により、温度変化に基づく固有振動数の変動を充分に抑制することができるため、さらには、振動系の固有振動数の変動に起因する角速度センサの感度の変動も抑制することができる。このように、本実施の形態2における角速度センサは、環境温度の変化に起因する基板歪への耐性が優れているため、温度環境が厳しい自動車のエンジンルームなどを含む広い温度範囲においても優れた特性を維持することができる。
ただし、本実施の形態2では、説明の便宜上、駆動振動系を構成する材料(例えば、単結晶シリコン)の環境温度の変化に伴う物性値の変化については考慮していない。特に、支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4の場合、(式6)に示すばね定数の定義式には、材料のヤング率が含まれている。
kx=(E・h・b3)/L3(式6)
ここで、kxは支持梁のばね定数であり、Eはシリコンのヤング率であり、bは支持梁の幅であり、hは支持梁の高さであり、Lは支持梁の長さである。
したがって、本明細書で説明した基板歪に関係なく、環境温度の変化に伴って、支持梁BM1A〜BM1D、支持梁BM2A〜BM2D、支持梁BM3、および、支持梁BM4のばね定数が変動する。しかし、自動車のエンジンルームなどの−40度から125度程度の温度範囲では、シリコンのヤング率の変化は、ほぼ線形的な挙動を示すため、簡単な演算処理だけで補正することができる。
一方、上述したシリコンのヤング率とは異なり、基板歪に起因するばね定数の変化は、大変非線形的なものであり、補正のためには、複雑な演算処理が必要であるとともに、多数の温度点での角速度センサの出力値が必要とされる。
このことから、基板歪に起因するばね定数の変化を抑制する観点から、基板歪に起因する支持梁のばね定数の変化を抑制する工夫が必要とされる。この点に関し、本実施の形態2における角速度センサによれば、上述した第2特徴点および第3特徴点を有しているため、広い使用温度範囲においても、駆動振動系の固有振動数の変動を抑制できる。このため、本実施の形態2における角速度センサによれば、信号処理回路による高度で複雑な温度特性補正が不要となり、角速度センサの信頼性向上や、信号処理回路の小型化、角速度センサの出荷時における温度特性補正の簡素化などを図ることができ、これによって、製造コストの低減を図ることができる。
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
本発明は、自動車やロボットなどの姿勢検知、デジタルカメラの手ぶれ補正、ナビゲーションシステムの姿勢・方向検知、ゲーム機の姿勢検知などに使用される慣性センサの分野に幅広く利用することができる。特に、移動体での使用や、周辺環境にモータ、バルブ、スピーカなどの振動発生源が存在する場合に優れた効果を発揮することができる。