以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1及び図2に示すように、ロータリ式圧縮機(1)は、ケーシング(10)と電動機(20)と圧縮機構(30)とを備えている。ケーシング(10)は、全密閉型に構成され、該ケーシング(10)内には、電動機(20)と圧縮機構(30)とが収納されている。上記ロータリ式圧縮機(1)は、例えば、空気調和装置の冷媒回路中に設けられ、冷媒を吸入、圧縮して吐出するように構成されている。
ケーシング(10)は、円筒状の胴部(11)と、この胴部(11)の上下の端部にそれぞれ固定された鏡板(12,13)とによって構成されている。胴部(11)には、下方寄りの所定の位置に、この胴部(11)を貫通する吸入管(14)が設けられている。一方、上部の鏡板(12)には、ケーシング(10)の内外を連通する吐出管(15)と、図示しない外部電源に接続されて電動機(20)に電力を供給するターミナル(16)とが設けられている。ケーシング(10)内の上部側に電動機(20)が配置され、下部側に圧縮機構(30)が配置されている。
電動機(20)は、ステータ(21)とロータ(22)と駆動軸(23)とを備えている。ステータ(21)は、圧縮機構(30)の上方の位置でケーシング(10)の胴部(11)に固定されている。ロータ(22)は、ステータ(21)の内側に配置され、駆動軸(23)が内嵌されている。駆動軸(23)は、ロータ(22)の回転に伴って回転するようにロータ(22)に固定されている。また、駆動軸(23)は、上方から下方に向かって順に連結された主軸部(24)と偏心部(25)と副軸部(26)とを有している。主軸部(24)と副軸部(26)とは軸心が一致する一方、偏心部(25)は、主軸部(24)及び副軸部(26)の軸心から所定量だけ偏心している。主軸部(24)は、副軸部(26)よりも大径に形成され、偏心部(25)は、主軸部(24)よりも大径に形成されている。副軸部(26)の下端部には、ケーシング(10)の底部に形成される油溜め部の潤滑油に浸漬された遠心ポンプ(27)が設けられている。遠心ポンプ(27)は、上記駆動軸(23)の回転に伴って潤滑油を駆動軸(23)内の給油路(図示省略)へ汲み上げた後で、圧縮機構(30)の各摺動部へ供給する。
図2に示すように、圧縮機構(30)は、シリンダ(31)と、ピストン(32)と、フロントヘッド(33)と、リアヘッド(34)とを備えている。フロントヘッド(33)とシリンダ(31)とリアヘッド(34)とは、この順で上側から下側へ積層され、軸方向に延びる複数のボルト(図示省略)によって締結されている。
上記駆動軸(23)は、上記圧縮機構(30)を上下に貫通している。フロントヘッド(33)とリアヘッド(34)には、駆動軸(23)の主軸部(24)と副軸部(26)とをそれぞれ支持する軸受け部(33b,34b)が形成されている。
図3に示すように、シリンダ(31)は、筒状に形成され、内周面形状が非円形に形成されている。シリンダ(31)は、駆動軸(23)の偏心部(25)の外周を覆うように設けられ、上端がフロントヘッド(33)によって閉塞される一方、下端がリアヘッド(34)によって閉塞されている。
ピストン(32)は、筒状のピストン本体(32a)と、ピストン本体(32a)の外周面の1箇所から径方向外側に突出して延びる板状のブレード(32b)とを有している。ピストン本体(32a)とブレード(32b)とは、一体に形成されている。ピストン本体(32a)は、駆動軸(23)の偏心部(25)に摺動自在に外嵌され、シリンダ(31)との間に、シリンダ室(35)を形成している。ピストン本体(32a)は、駆動軸(23)の回転に伴って偏心部(25)と共に偏心回転してシリンダ室(35)の形状を変化させる。一方、ブレード(32b)は、後述するブッシュ(51,52)を介してシリンダ(31)に揺動可能に保持されている。また、ブレード(32b)は、シリンダ室(35)を低圧室(35a)と高圧室(35b)に区画している。
ピストン(32)のピストン本体(32a)は、外周面形状が非円形(円形を基にして変形した異形形状)であって、いわゆる卵形に形成されている。ピストン本体(32a)の外周面は、ブレード(32b)に対して図3の右側(吸入側)の部分が、左側(吐出側)の部分よりも突出するように、楕円などの曲面形状に基づいて形成されている。
上記ピストン(32)は、卵形のピストン本体(32a)の外周面が、シリンダ(31)の内周面とある一点において微小隙間となるように近接する(ピストン本体(32a)の外周面とシリンダ(31)の内周面とが実質的に接触する状態であり、以下の説明では、単に「接触」と称する)ように構成されている。
一方、シリンダ(31)の内周面形状は、真円と楕円とを組み合わせた単なる卵形のピストン(32)とは異なり、該ピストン(32)の揺動時における該ピストン(32)の外周面の包絡線に基づいた形状に形成されている。つまり、シリンダ(31)の内周面は、ピストン(32)の動作に合うように、特に吸入側の部分が、楕円形を基にして該ピストン(32)の揺動時の傾斜角度分だけ変形させた特殊な曲面形状に形成されている。
言い換えると、上記ピストン(32)の外周面及びシリンダ(31)の内周面は、実質的に全体にわたって接線の傾きが連続的に変化するとともに、その接線の傾きがピストン(32)側とシリンダ(31)側とで一致するように形成されている。この構成において「実質的に全体にわたって」としているのは、逆に言うと、ピストン(32)の動作に影響のない範囲であれば部分的には接線の傾きが連続的に変化していなくてもよいことを意味しており、例えば後述の吸入ポート(41)と吐出ポート(42,46)との間など、実質的にシリンダ室(35)を構成しない範囲については、必ずしも接線の傾きが連続的に変化していなくてもよい。
そして、上記ピストン(32)の外周面形状及びシリンダ(31)の内周面形状は、これらの形状を単なる円形としたときよりも、ピストン(32)の動作時の圧縮行程が短くなり、吐出行程が長くなる形状に形成されている。言い換えると、ピストン(32)の外周面形状及びシリンダ(31)の内周面形状は、ピストン(32)が、その揺動中に下死点(図3参照)に位置したときに、ブレード(32b)に対して吸入側に位置する低圧室(35a)の容積が、ブレード(32b)に対して吐出側に位置する高圧室(35b)の容積よりも大きくなる形状に形成されている。
一方、上記シリンダ(31)には、駆動軸(23)の軸方向と平行に断面円形状のブッシュ孔(31a)が貫通形成されている。ブッシュ孔(31a)は、シリンダ(31)の内周面側に形成され、且つ周方向の一部分がシリンダ室(35)と連通するように形成されている。ブッシュ孔(31a)の内部には、断面が略半円形状の一対のブッシュ(51,52)が挿入されている。ブッシュ(51,52)は、シリンダ室(35)内の吸入側に配設される吸入側ブッシュ(51)と、シリンダ室(35)内の吐出側に配設される吐出側ブッシュ(52)とから構成されている。そして、ピストン(32)のブレード(32b)は、これらのブッシュ(51,52)を介してシリンダ(31)のブッシュ孔(31a)に挿入されている。
両ブッシュ(51,52)は、フラットな面同士が対向するように配置されている。そして、両ブッシュ(51,52)の対向面の間のスペースがブレード溝(36)として形成されている。ブレード溝(36)には、ピストン(32)のブレード(32b)が挿入されている。ブッシュ(51,52)は、ブレード溝(36)にブレード(32b)を挟んだ状態で、ブレード(32b)がその面方向にブレード溝(36)を進退するように構成されている。同時に、ブッシュ(51,52)は、ブレード(32b)と一体的にブッシュ孔(31a)の中で揺動するように構成されている。
なお、この実施形態では両ブッシュ(51,52)を別体とした例について説明したが、両ブッシュ(51,52)は、一部で連結することにより一体にしてもよい。
上記構成において駆動軸(23)が回転すると、ピストン(32)は、ブレード(32b)がブレード溝(36)内を進退しながら、シリンダ側の一点(ブッシュ孔(31a)の中心)を軸心として揺動する。この揺動動作により、ピストン(32)とシリンダ(31)の内周面との接触点が図5(A)から図5(D)へ順に時計周り方向へ移動する。
図2に示すように、フロントヘッド(33)は、シリンダ室(35)の上端を閉塞する板状の本体部(33a)と、駆動軸(23)の主軸部(24)を支持する軸受け部(33b)とを有している。本体部(33a)と軸受け部(33b)とは一体に形成されている。フロントヘッド(33)の本体部(33a)には、低圧室(35a)に連通する吸入ポート(41)が形成されている。また、フロントヘッド(33)の本体部(33a)には、高圧室(35b)に連通するフロント側吐出ポート(42)が駆動軸(23)の軸心と平行な方向に沿って形成されている(図4参照)。フロント側吐出ポート(42)は、フロント側吐出弁(図示省略)によって開閉されるように構成されている。
上記フロントヘッド(33)の上面には、フロント側吐出ポート(42)及びフロント側吐出弁(図示省略)を覆うようにフロントマフラ(44)が取り付けられている。フロントマフラ(44)は、その内部に区画されるフロント側マフラ空間(45)が、上部の吐出開口(図示省略)を通じてケーシング(10)の内部空間に連通するように、開放型に形成されている。つまり、フロントマフラ(44)が「開放型」であるとは、フロント側マフラ空間(45)の冷媒が、該フロントマフラ(44)から吐出開口(図示省略)を通ってケーシング(10)の内部空間へ直接に流出する構成を意味している。
上記リアヘッド(34)は、シリンダ室(35)の下端を閉塞する板状の本体部(34a)と、駆動軸(23)の副軸部(26)を支持する軸受け部(34b)とを有している。本体部(34a)と軸受け部(34b)とは一体に形成されている。リアヘッド(34)の本体部(34a)には、高圧室(35b)に連通するリア側吐出ポート(46)が駆動軸(23)の軸心と平行な方向に沿って形成されている(図3参照)。このリア側吐出ポート(46)は、リア側吐出弁(図示省略)によって開閉されるように構成されている。本実施形態では、フロント側吐出ポート(42)とリア側吐出ポート(46)は、断面積が互いに等しいポートとして形成されている。
上記リアヘッド(34)の下面には、リア側吐出ポート(46)及びリア側吐出弁(図示省略)を覆うようにリアマフラ(48)が取り付けられている。リアマフラ(48)は、その内部にリア側マフラ空間(49)を区画するものであって、密閉型に形成されている。リアマフラ(48)が「密閉型」であるとは、リア側マフラ空間(49)の冷媒が該リアマフラ(48)からケーシング(10)の内部空間へ直接には流出せず、後述の連通路(50)を通ってフロント側マフラ空間(45)へ流れていく構成を意味している。
このように、本実施形態の圧縮機構(30)には、フロントヘッド(33)とリアヘッド(34)の両方に吐出ポート(42,46)が形成されている。このように圧縮機構(30)の上下両側に吐出ポート(42,46)を形成しているのは、吐出面積を大きくすることにより、圧縮機構(30)を高速で回転する場合でも圧力損失が大きくなるのを抑えるためである。
また、上記圧縮機構(30)には、フロント側マフラ空間(45)とリア側マフラ空間(49)を連通する複数の連通路(50)が形成されている。本実施形態では、圧縮機構(30)には、第1連通路(50a)と第2連通路(50b)と第3連通路(50c)と第4連通路(50d)との4本の連通路(50)が形成されている。第1連通路(50a)〜第4連通路(50d)は、それぞれがシリンダ(31)とフロントヘッド(33)とリアヘッド(34)とを貫通している。4本の連通路(50a〜50d)の合計断面積は、フロント側マフラ空間(45)の圧力とリア側マフラ空間(49)の圧力が実質的に等しくなるように定められている。
−吸入ポート及び吸入連通路について−
図6に示すように、フロントヘッド(33)には、吸入ポート(41)が形成され、シリンダ(31)には、吸入ポート(41)からシリンダ室(35)へ流体を導く吸入連通路(37)を区画する切り欠きが形成されている。
吸入ポート(41)は、径方向通路(41a)と軸方向通路(41b)とを有している。径方向通路(41a)は、シリンダ(31)の外周面から径方向の内側向きに延びている。一方、軸方向通路(41b)は、径方向通路(41a)の内端部からシリンダ室(35)に向かって駆動軸(23)に沿って延びている。吸入ポート(41)は、軸方向通路(41b)の断面積S2が、径方向通路(41a)の断面積S1よりも大きくなるように形成されている。
吸入連通路(37)は、シリンダ(31)の軸方向から視て軸方向通路(41b)と重なる部分を切り欠くことによって形成されている。吸入連通路(37)は、上流側端部が軸方向通路(41b)に連通し、下流側端部がシリンダ室(35)に位置するように形成されている。また、シリンダ(31)の内面の一部であって吸入連通路(37)においてピストン(32)のピストン本体(32a)の外周面に対向する対向壁面(37a)は、吸入ポート(41)側の一端(本実施形態では上端)から他端(本実施形態では下端)に向かって内側に傾斜する傾斜面に形成されている。また、対向壁面(37a)は、吸入連通路(37)における流体束の断面積が吸入ポート(41)へ流入する流体束の断面積以上となるようにピストン(32)のピストン本体(32a)の軌道の外周側の位置に設けられている。即ち、対向壁面(37a)の下流側終端部もピストン(32)の軌道よりも外周側に位置する。より具体的には、対向壁面(37a)は、吸入ポート(41)の流出口の駆動軸(23)側の端部(41c)を通って対向壁面(37a)に垂直な吸入連通路(37)の断面の面積S3が、径方向通路(41a)の断面積S1以上の断面積となる位置に設けられている。
以上のように、本実施形態では、軸方向通路(41b)の断面積S2が、径方向通路(41a)の断面積S1よりも大きくなるように吸入ポート(41)を形成すると共に、吸入ポート(41)の流出口の駆動軸(23)側の端部(41c)を通って対向壁面(37a)に垂直な吸入連通路(37)の断面の面積S3が、径方向通路(41a)の断面積S1以上の断面積となるように吸入連通路(37)を形成することとした。これにより、吸入ポート(41)に流入した流体束は、その断面積がシリンダ室(35)に向かって途中で狭められることなく、シリンダ室(35)に至る。言い換えると、外部からシリンダ室(35)に流体を導く吸入ポート(41)と吸入連通路(37)とからなる吸入流体通路の有効通路断面積が、下流側に向かって途中で狭まることがないように、吸入ポート(41)及び吸入連通路(37)が形成されている。
−凹部について−
また、吸入ポート(41)が形成されたフロントヘッド(33)には、吸入ポート(41)の径方向通路(41a)が突き当たる壁面に凹部(55)が形成されている。凹部(55)は、径方向通路(41a)と同軸の円錐形状に形成されている。
ところで、上述のようなL字状の吸入ポート(41)は、フロントヘッド(33)に、ドリルを用いて径方向通路(41a)となる横孔と軸方向通路(41b)となる縦孔を形成することによって形成される。ここで、ドリルを用いて孔を形成する場合、ドリルの先端によって孔の底部が先細り形状となる。そして、通常、縦孔及び横孔は、一方の孔が、他方の孔の先細り形状の底部に重なるように形成される。そのため、縦孔が、横孔の底部に重なるように形成された場合、縦孔の底部によって径方向通路(41a)の側方であって軸方向通路(41b)が突き当たる壁面に凹部が形成される。一方、横孔が、縦孔の底部に重なるように形成された場合、横孔の底部によって軸方向通路(41b)の側方であって径方向通路(41a)が突き当たる壁面に凹部が形成される。つまり、本実施形態では、吸入ポート(41)は、径方向通路(41a)となる横孔が、軸方向通路(41b)となる縦孔の底部に重なるように形成されている。
ここで、本実施形態と異なり、軸方向通路(41b)となる縦孔が、径方向通路(41a)となる横孔の底部に重なるように形成されるために、径方向通路(41a)の側方であって軸方向通路(41b)が突き当たる壁面に凹部が形成されると、径方向通路(41a)においてこの凹部によって吸入流体の流れが剥離して渦が形成される。流体の速度が増大すると、渦が成長して淀み域が凹部外に拡大するため、吸入ポート(41)における流体束の断面積が狭められて吸入流体の圧力損失を低減するどころか増大させる虞がある。
本実施形態では、上述のように、径方向通路(41a)となる横孔が、軸方向通路(41b)となる縦孔の底部に重なるように形成されている。そのため、ドリルの先端によって形成される凹部(55)は、フロントヘッド(33)の径方向通路(41a)が突き当たる壁面に形成される。このように、凹部(55)が、径方向通路(41a)を流れる流体が突き当たる位置に形成されることにより、吸入ポート(41)において凹部(55)によって吸入流体の流れが通路壁面から剥離することがなく、渦の発生が起こらない。よって、淀み域は凹部(55)内に留まり、吸入ポート(41)に淀み域が形成されることがない。
<運転動作>
次に、このロータリ式圧縮機(1)の運転動作について説明する。
電動機(20)を起動してロータ(22)が回転すると、該ロータ(22)の回転が駆動軸(23)を介して圧縮機構(30)のピストン(32)に伝達される。これによって、ピストン(32)のブレード(32b)がブッシュ(51,52)に対して往復直線運動の摺動を行い、且つブッシュ(51,52)が上記ブッシュ孔(31a)内で往復回転運動を行うことで、ピストン(32)はブレード(32b)がブッシュ孔(31a)を中心として揺動しながらピストン本体(32a)がシリンダ室(35)内で駆動軸(23)を中心として公転し、圧縮機構(30)が所定の圧縮動作を行う。
具体的に、図5(A)に示すように、ピストン(32)が上死点に位置する
状態から説明する。
この状態からピストン(32)が図の右回りに公転すると、吸入連通路(37)のすぐ右側でシリンダ(31)の内周面とピストン(32)の外周面とが一点で接触する状態となり、シリンダ室(35)の低圧室(35a)の容積が概ね最小となる。その後、ピストン(32)が図の右回りに公転すると(図5(B)参照)、低圧室(35a)の容積が徐々に拡大し、該低圧室(35a)に低圧の冷媒ガスが吸入連通路(37)を介して吸入される。
吸入工程では、ロータリ式圧縮機(1)が接続された冷媒回路の冷媒が吸入管(14)を介して吸入ポート(41)の径方向通路(41a)に流入する。径方向通路(41a)に流入した冷媒は、径方向の内側向きに流れた後、径方向通路(41a)と軸方向通路(41b)の交差部分において湾曲して吸入連通路(37)に沿って流れ、シリンダ室(35)の低圧室(35a)に流入する。
ここで、上述のように、吸入連通路(37)に位置する対向壁面(37a)は、上端から下端に向かって内側に傾斜する傾斜面に形成されている。そのため、対向壁面(37a)が、駆動軸(23)に平行な面によって構成される場合に比べて、吸入連通路(37)において湾曲する冷媒の流れの曲率半径が大きくなる。その結果、吸入冷媒の流れが吸入連通路(37)から剥離し難くなり、淀み域も形成され難くなる。また、対向壁面(37a)は、吸入連通路(37)における流体束の断面積が吸入ポート(41)へ流入する流体束の断面積以上となるように、ピストン(32)の軌道よりも外周側の位置に設けられている。即ち、対向壁面(37a)の下流側終端部もピストン(32)の軌道よりも外周側に位置する。そのため、吸入ポート(41)へ流入した冷媒の流れ(流体束)は、その断面積が途中で狭まることなくシリンダ室(35)へ至ることとなる。
上記吸入行程において、ピストン(32)が図5(C)に示す下死点に位置したとき、ブレード(32b)に対して吐出側に位置する高圧室(35b)の容積はブレード(32b)に対して吸入側に位置する低圧室(35a)の容積よりも大きくなる。
そして、ピストン(32)が公転を続け(図5(D)参照)、低圧室(35a)の容積がさらに拡大しながらシリンダ(31)の内周面とピストン(32)の外周面との接触位置が吸入連通路(37)にまで達すると(図5(A)参照)、この低圧室(35a)は、冷媒が圧縮される高圧室(35b)となり、ブレード(32b)と接触位置を隔てて新たな低圧室(35a)が形成される。
また、上記ピストン(32)がさらに公転すると(図5(B)参照)、低圧室(35a)への冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(35b)の容積が減少し、該高圧室(35b)では冷媒が圧縮される。高圧室(35b)の圧力が所定値となって高圧室(35b)の内部と圧縮機構(30)の外側空間との差圧が設定値に達すると、高圧室(35b)の高圧冷媒によってフロント側吐出弁及びリア側吐出弁(図示省略)が開き、高圧冷媒が高圧室(35b)からフロント側吐出ポート(42)及びリア側吐出ポート(46)を介して吐出される。この動作が繰り返される。
フロント側吐出ポート(42)から吐出された冷媒は、開放型のフロントマフラ(44)内に形成されたフロント側マフラ空間(45)を経て、ケーシング(10)内の空間へ流出する。また、リア側吐出ポート(46)から吐出された冷媒は、密閉型のリアマフラ(48)内に形成されたリア側マフラ空間(49)から連通路(50)を通ってフロント側マフラ空間(45)の冷媒と合流し、ケーシング(10)内の空間へ流出する。ケーシング(10)内の空間へ流出した冷媒は、吐出管(15)を介してケーシング(10)の外部へ吐出される。
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、フロントヘッド(33)に吸入ポート(41)を形成すると共に、シリンダ(31)に、吸入ポート(41)からシリンダ室(35)へ流体を導く吸入連通路(37)を区画する切り欠きを形成することとした。そのため、シリンダ(31)の厚みを増大させることなく、外部からシリンダ室(35)へ流体を導く吸入流体通路の断面積を大きく確保することができる。また、シリンダ室(35)に導入された流体は、湾曲してシリンダ(31)の内面に沿って流れるが、吸入ポート(41)及び吸入連通路(37)を介してフロントヘッド(33)側からシリンダ室(35)へ流体を導入することにより、シリンダ(31)の外周面から径方向内側向きにシリンダ室(35)へ流体を導入する場合に比べて、シリンダ室(35)に流入する際に湾曲する吸入流体の流れの曲率半径が大きくなる。従って、外部からシリンダ室(35)へ導かれる吸入流体の圧力損失を低減することができる。
また、本実施形態によれば、シリンダ(31)の内面の一部であって吸入連通路(37)においてピストン(32)のピストン本体(32a)に対向する対向壁面(37a)を、吸入ポート(41)側の一端(上端)から他端(下端)に向かって内側に傾斜する傾斜面に形成した。これにより、吸入連通路(37)において湾曲する吸入流体の流れの曲率半径を、対向壁面(37a)が駆動軸(23)に平行な面である場合に比べて大きくすることができる。よって、吸入流体の流れを吸入連通路(37)から剥離させ難くすることができるため、淀み域の発生を抑制することができる。その結果、淀み域が発生することによる吸入連通路(37)における流体束の断面積(吸入連通路(37)の有効通路断面積)の減少を抑制することができる。従って、外部からシリンダ室(35)へ導かれる吸入流体の圧力損失のさらなる低減を図ることができる。
また、本実施形態によれば、吸入連通路(37)においてピストン(32)のピストン本体(32a)に対向する対向壁面(37a)の下流側終端部を、ピストン(32)の軌道よりも外周側に形成した。これにより、多少の剥離が生じて、流体束と対向壁面(37a)の間に淀みが生じてもシリンダ流入部での流体束の断面積の減少を抑制することができる。
また、本実施形態によれば、吸入連通路(37)における流体束の断面積が吸入ポート(41)へ流入する流体束の断面積以上となるように、対向壁面(37a)がピストン(32)のピストン本体(32a)の軌道よりも外周側の位置に設けられている。より具体的には、対向壁面(37a)は、吸入ポート(41)の流出口の駆動軸(23)側の端部(41c)を通り且つ対向壁面(37a)に垂直な吸入連通路(37)の断面の面積が、径方向通路(41a)の断面積以上の断面積となるように設けられている。このように対向壁面(37a)を設けることにより、外部からシリンダ室(35)へ導かれる流体束の断面積が下流側に向かって狭まることを抑制することができる。よって、外部からシリンダ室(35)へ導かれる吸入流体の圧力損失のさらなる低減を図ることができる。
また、本実施形態では、径方向通路(41a)と軸方向通路(41b)とからなる吸入ポート(41)において、吸入流体の流通方向が径方向から軸方向へ略垂直に曲げられる。そのため、吸入ポート(41)において吸入流体の流れが通路壁面から剥離し、淀み域を発生させて吸入ポート(41)における流体束の断面積(有効通路断面積)を狭める虞がある。
これに対し、本実施形態によれば、吸入ポート(41)を、軸方向通路(41b)の断面積が径方向通路(41a)の断面積よりも大きくなるように形成することとしている。これにより、仮に、吸入ポート(41)において吸入流体の流れが通路壁面から剥離して淀み域が発生した場合であっても、淀み域の発生による吸入ポート(41)における流体束の断面積の減少を抑制することができる。従って、外部からシリンダ室(35)へ導かれる吸入流体の圧力損失のさらなる低減を図ることができる。
また、本実施形態では、吸入ポート(41)が形成されたフロントヘッド(33)の径方向通路(41a)が突き当たる壁面に、径方向通路(41a)と同軸の円錐形状の凹部(55)が形成されている。つまり、吸入ポート(41)を、径方向通路(41a)となる横孔が、軸方向通路(41b)となる縦孔の底部に重なるように形成することとしている。このように、吸入ポート(41)を形成する際に、ドリルの先端によって径方向通路(41a)が突き当たる壁面か軸方向通路(41b)が突き当たる壁面のいずれかに形成される凹部(55)を、径方向通路(41a)が突き当たる壁面に形成することにより、吸入ポート(41)における吸入流体の流れの通路壁面からの剥離を抑制することができる。従って、外部からシリンダ室(35)へ導かれる吸入流体の圧力損失のさらなる低減を図ることができる。
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
上記実施形態では、吸入ポート(41)を、径方向通路(41a)と軸方向通路(41b)とによってL字状に形成していたが、吸入ポート(41)の形状はこれに限られない。吸入ポート(41)は、フロントヘッド(33)を軸方向に貫通する軸方向通路のみによって形成されていてもよく、フロントヘッド(33)を軸方向に対して傾斜した方向に貫通する傾斜通路によって形成されていてもよい。
また、上記実施形態では、吸入ポート(41)をフロントヘッド(33)に形成していたが、吸入ポート(41)をリアヘッド(34)に形成してもよい。
また、上記実施形態では、圧縮機構が、シリンダ(31)とピストン(32)とを1つずつ備えた所謂単気筒型に構成されていたが、多気筒型に形成されていてもよい。この場合、各気筒間に設けられるミドルプレートに吸入通路を構成する吸入ポート(41)を形成することも可能である。
また、上記実施形態では、ピストン(32)のピストン本体(32a)の外形を、上記実施形態では真円と楕円を組み合わせた卵形としていたが、ピストン本体(32a)の形状は、上述の形状に限られない。ピストン(32)は、ピストン本体(32a)の外形が真円形状となるように形成されていてもよい。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。