JP6123176B2 - 汚染土壌浄化用添加材、及びそれを用いた汚染土壌の浄化方法 - Google Patents

汚染土壌浄化用添加材、及びそれを用いた汚染土壌の浄化方法 Download PDF

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Description

本発明は、揮発性有機ハロゲン化合物(以下、VOCともいう)で汚染された土壌を浄化する際に、この土壌に添加される添加材、及び、この添加材を用いた汚染土壌の浄化方法に関する。
VOCで汚染された土壌を浄化するに際し、土壌中の嫌気性微生物を活性化させる栄養材を汚染土壌に添加する技術が知られている。特許文献1には、グルコン酸やグルコン酸塩を汚染土壌に添加する発明が開示されている。
また、この土壌を浄化するに際し、還元剤である鉄粉と土壌中の嫌気性微生物を活性化させる栄養材とを併用する技術が知られている。特許文献2,3に開示された発明において、汚染土壌に含まれるVOCは、鉄粉の還元作用によって脱ハロゲン化され、無害化される。また、土壌に存在する嫌気性微生物(例えば、Dehalococcoides属細菌)の脱ハロゲン化作用によっても無害化される。
ここで、鉄粉の還元作用は比較的短期間で終了してしまうことが知られている。そこで、特許文献3に開示された発明では、難水溶性且つ易分解性の有機炭素源を栄養材として用い、嫌気性微生物の活性を長期に亘って維持することがなされている。
特許第4529667号公報 特開平11−253926号公報 特開2008−188531号公報
例えば粘性土地盤では、粘性土からVOCが数か月程度の長期間放出され続けるために、VOCの分解も長期間持続させる必要がある。長期間に亘る浄化処理の観点からすれば、微生物の栄養材として徐放性を有する難水溶性有機炭素源を用いることが好ましいといえる。
ここで、難水溶性に分類される有機炭素源にも多くの種類があり、それぞれに特性が異なる。極めて水溶性の低い超難水溶性の有機炭素源を用いた場合、微生物に利用されるまでに長期間を要してしまう。一方、比較的水溶性の高い難水溶性有機炭素源を用いた場合、この有機炭素源を繰り返し土壌へ追添加する等の対応が必要となり、作業に手間を要してしまう。
また、即効性を有する浄化用鉄粉と難水溶性有機炭素源とを併用させることが考えられる。しかし、高性能な浄化用鉄粉は、難水溶性有機炭素源との併用によって浄化用鉄粉とVOCの接触が阻害されてしまい、却ってVOC分解が遅延されてしまう。そこで、浄化用鉄粉のVOC分解をできるだけ阻害せず、かつ、浄化用鉄粉のVOC分解効果が低下してきた際には速やかに微生物によるVOC分解が行われることが望ましい。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、添加から適切な期間で微生物に利用され、かつ、微生物に対する栄養の供給を長期間に亘って行える土壌浄化用の添加材を提供すること、及び、汚染土壌の浄化方法を提供することにある。
前記目的を達成するため、本発明は、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌を浄化する微生物の栄養源となる難水溶性有機炭素源及び粉体状の鉄を含有し、前記土壌を浄化する際に添加される添加材であって、前記難水溶性有機炭素源は、コーンスターチ、片栗粉、又はタピオカ粉末であって、添加から7日経過後における前記難水溶性有機炭素源の水溶液(水400mlに前記難水溶性有機炭素塩20gを添加し振とうさせたもの)のTOCが40mg/L以上100mg/L以下であることを特徴とする。
本発明によれば、添加から7日経過後における水溶液のTOCが40mg/L以上100mg/L以下であるため、添加から適切な期間で微生物に利用され、かつ、微生物に対する栄養の供給を長期間に亘って行うことができる。さらに、難水溶性有機炭素源が粉体状(特に粒径200μm以下の細かい粉体状)をしているため、攪拌等によって土壌に対して均一に混合することができ、浄化対象範囲に存在する微生物を全体的に活性化することができる。
また、粉体状の鉄を含有することで、添加材の添加から鉄粉による還元反応が速やかに開始され、この還元反応に引き続いて微生物による脱ハロゲン化反応が行われる。このように、鉄粉と微生物による有機ハロゲン化合物の分解が連続的に行われるので、汚染土壌の浄化を効率よく行うことができる。
さらに、前記難水溶性有機炭素源は、コーンスターチ、片栗粉、又はタピオカ粉末の少なくとも何れかであることが好ましい。また、前記難水溶性有機炭素源は、コーンスターチであることが好ましい。
また、前記目的を達成するため、本発明は、請求項1又は2に記載の汚染土壌浄化用添加材を水に混合してスラリーとし、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌を攪拌する攪拌部材により、前記スラリーを前記土壌に混合することを特徴とする汚染土壌の浄化方法である。
本発明によれば、有機ハロゲン化合物で汚染された土壌への添加により、添加から適切な期間で微生物に利用され、かつ、微生物に対する栄養の供給を長期間に亘って行える土壌浄化用の添加材を提供することができる。また、この添加材を利用した効率的な汚染土壌の浄化方法を提供することができる。
難水溶性有機炭素源となる供試栄養材を説明する表である。 TOC(総有機炭素)濃度の試験結果を説明する表である。 TOC濃度の試験結果を説明するグラフである。 cis−1,2−DCE(ジクロロエチレン)の鉄粉による還元分解時における、栄養材の影響(分解阻害)を説明するグラフである。 VOC(揮発性有機ハロゲン化物)の分解試験を説明する図であり、対照区(無添加区)での結果を説明するグラフである。 コーンスターチ単独系の試験結果を説明するグラフである。 片栗粉単独系の試験結果を説明するグラフである。 鉄粉単独系の試験結果を説明するグラフである。 鉄粉とコーンスターチの混合系における試験結果を説明するグラフである。 鉄粉と片栗粉の混合系における試験結果を説明するグラフである。 VOC汚染土壌の浄化工法を説明する図であり、(a)は浄化用設備を、(b)は浄化手順をそれぞれ示す。
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、(1)難水溶性有機炭素源からの水溶性成分溶出試験と、(2)難水溶性有機炭素源による、鉄粉のVOC還元分解における阻害確認試験と、(3)土壌中のVOC分解試験とを行った。
各試験の説明に先立ち、図1を参照して、試験に供した難水溶性有機炭素源(以下、供試栄養材という)について説明する。供試栄養材は、何れも難水溶性に分類されるものであり、粉体、加工品、その他の3タイプに大別される。
粉体は、粉状の有機炭素源であり、本実施形態では小麦粉、片栗粉、及びコーンスターチの3種類を用いた。
小麦粉は、例えば粒径が2〜200μm程度であって平均粒径が50〜70μm程度である。コーンスターチは、例えば粒径は2〜30μm程度であって平均粒径が15μm程度である。片栗粉は、カタクリの花の根からとれるでんぷん又は馬鈴薯でんぷんであり、粒径が2〜80μm程度であって平均粒径が30〜40μm程度である。
加工品は、小麦粉や片栗粉等を麺状に加工した有機炭素源であり、本実施形態ではパスタ、マカロニ、片栗粉加工品、パン粉、及び生分解性プラスチックの5種類を用いた。
パスタは、直径1.8mm(ゆで時間11分)の市販品を用いた。このパスタは、100gあたりの熱量が358kcal、たんぱく質の含有量が13g、脂質の含有量が2g、炭水化物の含有量が72gである。そして試験には1cm以下に切断したものを用いた。マカロニは、長さ30mm程度(ゆで時間8分)の市販品を用いた。このマカロニもまた、100gあたりの熱量が358kcal、たんぱく質の含有量が13g、脂質の含有量が2g、炭水化物の含有量が72gである。
片栗粉加工品は市販の春雨を用いた。この春雨は、じゃがいもでんぷん、コーンスターチ、CMC(カルボキシメチルセルロース)、及び増粘多糖類等を含有している。そして、100gあたりの熱量が349kcal、たんぱく質の含有量が0.1g、脂質の含有量が0.2g、炭水化物の含有量が86.8g、及びナトリウムの含有量が0.035gである。そして試験には1cm以下に切断したものを用いた。
パン粉は、市販のソフトタイプを用いた。このパン粉は、100gあたりの熱量が376kcal、たんぱく質の含有量が13.6g、脂質の含有量が3.5g、炭水化物の含有量が72.4g、及びナトリウムの含有量が0.47gである。
生分解性プラスチックは、梱包用の緩衝材として市販されているものを用いた。この生分解性プラスチックは、コーンスターチとPVA(ポリビニルアルコール)を主成分として含有したものである。具体的には、コーンスターチが70%、PVAが30%の比率で混合されたものである。そして試験にはミキサーで粉砕したものを用いた。
その他の供試栄養材としては、米、大豆、及びトウモロコシ粒からなる3種類の固形食品を用いた。米は茨城県産のものを用いた。大豆は北海道産のものを用いた。この大豆は、大きさが7〜9mmであり、100gあたりの熱量が408kcal、たんぱく質の含有量が33.6g、脂質の含有量が17g、炭水化物の含有量が31.9g、及びナトリウムの含有量が0.001gである。トウモロコシ粒は、鳥類の餌(市販品)から選別したものを用いた。このトウモロコシ粒は、100gあたりの熱量が349kcal、たんぱく質の含有量が9.8g、脂質の含有量が3.7g、及び炭水化物の含有量が72.2gである。
次に、水溶性有機成分の溶出試験について説明する。この溶出試験では、水道水に水溶性有機成分を溶出させ、その上澄み液のTOC(全有機体炭素)濃度を測定した。具体的には、容量500mLの三角フラスコに、水道水を400mL注入し、前述の供試栄養材を20g(但し、生分解性プラスチックのみ10g)添加した。その後、大型振とう機を用いて、供試栄養材を水道水に添加した三角フラスコをゆっくりと振とうさせた。
供試栄養材の添加から1日経過後、4日経過後、及び7日経過後の各タイミングで、三角フラスコにおける上澄み液を適量採取し、0.45μmのフィルターでろ過した濾液についてTOC濃度を測定した。なおTOC濃度の測定はTOC計(触媒酸化方式)にて行った。
ここで、添加からの経過日数について説明する。添加から1日目は、VOCの分解においては添加直後の時期といえる。このため、添加から1日目において高いTOC濃度を示す栄養材は、有機炭素の水への溶解度が高すぎるといえる。また、添加から7日目は、VOCの分解においては添加初期の時期といえる。
なお、鉄粉と栄養材(難溶性有機炭素源)とを併用する場合、添加から7日目は、鉄粉によるVOCの還元分解反応がかなり低下する時期でもある。このため、栄養材由来の有機炭素で微生物が活性化することで、添加から7日目以降においては、鉄粉による還元分解反応から微生物による分解へとVOCの分解を継続的に引き継ぐことができる。
次に、溶出試験の結果に関し、図2、3に基づいて説明する。
小麦粉、パスタ、マカロニ、パン粉、生分解性プラスチック、及び大豆は、何れも7日経過時点のTOC濃度が1700mg/Lを超えていた。このため、これらの供試体を栄養材として用いた場合には、早期に土壌へ溶解されてしまい、微生物を長期間に亘って活性化するためには、追添加を余儀なくされることが懸念された。
特に、小麦粉、パスタ、マカロニ、及びパン粉については、1日経過時点のTOC濃度が1800mg/Lを超えていた。このため、これらの供試体を栄養材として用いると、極めて早期に土壌へ溶解されてしまうことが懸念された。
春雨、白米、及びトウモロコシは、先に説明した小麦粉等に比べ、水への溶解が緩やかであった。7日経過時点のTOC濃度で比較すると、春雨が845mg/L、白米が695mg/L、トウモロコシ粒が945mg/Lであった。一般に、微生物による土壌中のVOC分解の処理期間は数か月程度が見込まれることから、水への溶解度はさらに低いことが好ましいと考えられた。
図3に符号Bで示す片栗粉及び符号Aで示すコーンスターチは、7日経過時点のTOC濃度が40mg/L以上100mg/L以下と、今回の試験で対象にした供試栄養材の中で最も低い値を示した。そして、水への溶解度が40mg/L以上100mg/L以下の範囲内であれば、数か月程度の長期間に亘って行われるVOC分解処理においても、微生物に栄養を供給し続けられると考えられた。
次に、難水溶性有機炭素源による、鉄粉のVOC還元分解における阻害確認試験について説明する。
この阻害確認試験は、難水溶性有機炭素源を含有する栄養材と鉄粉とを併用した場合に、併用に起因するVOC還元分解の阻害状況を確認する目的で行った。このため、VOCを分解する微生物が存在しない水溶液に、VOCとしてcis−DCE(ジクロロエチレン)を規定濃度となるように添加し、鉄粉によるcis−DCEの還元分解を評価した。
併用される栄養材は、先に説明した溶出試験にて、7日経過時点のTOC濃度が100mg/L以下である片栗粉、及びコーンスターチを選択した。また、比較例として難水溶性の白米(7日経過時点のTOC濃度が695mg/L)及び水溶性のグルコン酸ナトリウムを選択した。さらに、基準としてcis−DCEのみを添加した無添加区(対照区)、及び、鉄粉とcis−DCEを添加し、栄養材を添加しない鉄粉単独系を用いた。
試験方法について説明する。この阻害確認試験では、容量40mLのバイアル瓶に脱イオンを水38mL注入し、VOC分解用の鉄粉(平均粒径150μm)を0.8g、前述の栄養材を0.2g添加した。さらに、VOCとして、cis−DCE原液を0.4mL添加した。
その後、バイアル瓶の蓋を閉め、振とう機(ミックスローター、バリアブルタイプ)を用いて攪拌しつつ養生した。養生は7日間に亘って行い、その間の室温は22〜24℃に維持した。そして、添加直後、添加から1日経過後、2日経過後、3日経過後、4日経過後、及び7日経過後のそれぞれでサンプルを採取し、cis−DCEの濃度を測定した。なお、濃度は、ヘッドスペースガスをポータブルガスクロマトグラフ(PID方式)で測定することで取得した。
試験結果を図4に示す。この図4において、縦軸は液中のcis−DCEの濃度であり、横軸は添加からの経過日数である。符号Dで示す無添加区については、cis−DCEが高い濃度のままほぼ一定であった。この結果から、7日間の試験期間に亘ってcis−DCEは自然分解等されていないことが判る。そして、符号Cで示す鉄粉単独系については、2日経過時点の濃度が約15mg/Lであり、3日経過時点の濃度が0.01mg/Lであった。この結果から、鉄粉のみを添加すると、試験条件下においてcis−DCEは3日以内に分解されることが理解できる。
符号Bで示す鉄粉と片栗粉の混合系では、2日経過時点の濃度が約34mg/L、3日経過時点の濃度が約6mg/L、4日経過時点の濃度が0.01mg/Lであった。この結果から、鉄粉と片栗粉の混合系を用いた場合、鉄粉単独系よりは多少劣るものの、良好な分解能力が得られることが理解できる。すなわち、片栗粉は、鉄粉によるVOCの還元分解を阻害し難い物質(難水溶性有機炭素源)といえる。
符号Aで示す鉄粉とコーンスターチの混合系では、3日経過時点の濃度が約18mg/L、4日経過時点の濃度が約3mg/L、7日経過時点の濃度が0.01mg/Lであった。なお、4日経過時点の濃度が約3mg/Lであったことを考慮すると、7日よりも前の時点でcis−DCEの分解が完了していることが推察される。この結果から、鉄粉とコーンスターチの混合系を用いた場合、鉄粉と片栗粉の混合系よりは多少劣るものの、やはり良好な分解能力が得られるといえる。すなわち、コーンスターチもまた、鉄粉によるVOCの還元分解を阻害し難い物質といえる。
そして、比較例である鉄粉と白米の混合系、及び、鉄粉とグルコン酸ナトリウムの混合系については、符号Dで示す無添加区と同様、cis−DCEの濃度は試験期間に亘って高い水準を示した。このことから、白米やグルコン酸ナトリウムは、鉄粉によるVOCの還元分解を阻害し易い物質といえる。
次に、土壌中のVOC分解試験について説明する。
このVOC分解試験は、現場でのVOC分解を模擬する試験として行った。このため、(1)粘性土にVOCを分解する微生物を添加した対照区(無添加区)と、(2)対照区にコーンスターチのみを添加したコーンスターチ単独系試験区と、(3)対照区に片栗粉のみを添加した片栗粉単独系試験区と、(4)対照区に鉄粉のみを添加した鉄粉単独系試験区と、(5)対照区に鉄粉とコーンスターチを添加したコーンスターチ混合系試験区と、(6)対照区に鉄粉と片栗粉を添加した片栗粉混合系試験区とを対象にして試験を行った。
試験方法について説明する。このVOC分解試験において、上記(1)の対照区では、容量100mLのメジューム瓶に湿潤状態の粘性土(シルト混じり細砂)を80g投入し、TCE(トリクロロエチレン)飽和溶液を試験区内のTCE濃度が15mg/L程度となるように添加し、さらにVOC分解微生物の培養液1mLを添加した。
上記(2)、(3)の栄養材単独系試験区では、上記(1)に加えて前述の栄養材を0.24g添加した。また、上記(4)の鉄粉単独系試験区では、上記(1)に加えてVOC分解用の鉄粉(平均粒径150μm)を0.8g添加した。さらに、上記(5)、(6)の混合系試験区では、上記(4)に加えて前述の栄養材を0.24g添加した。すなわち、栄養材を鉄粉の30%の割合で添加した。
評価は、TCEと、TCEの分解生成物であるcis−DCE、trans−DCE、1,1−DCE、VC(塩化ビニル)のそれぞれについて、濃度を測定することにより行った。
以下、試験結果について説明する。まず、上記(1)の対照区について説明する。図5に示すように、対照区では、添加直後約21mg/LであったTCEが7日目には約12mg/Lまで減少した。その後、TCE濃度は緩やかに減少し、35日目には約7mg/Lになった。そして、43日目以降は3mg/L前後の値でほぼ一定になった。cis−DCEについては、添加直後において0.1mg/Lであったが、7日目から35日目にかけて1.5mg/L前後の値を示した。そして、43日目以降は約0.9mg/Lから0.7mg/Lと緩やかに減少した。trans−DCEについては、14日目から35日目に亘って0.02mg/Lと若干の増加が見られたが、43日目以降は0.01mg/Lを示した。
以上の結果より、対照区では、35日目までは添加した微生物によるVOCの分解が行われ、43日目以降は微生物の活動が停止し、VOCの分解が行われなくなったことが理解できる。
次に上記(2)のコーンスターチ単独系試験区について説明する。図6に示すように、コーンスターチ単独系試験区では、添加直後約23mg/LであったTCEが7日目には約0.1mg/Lまで減少し、14日目には0.01mg/Lまで減少した。これに対応して、cis−DCEは、7日目に約14mg/Lまで上昇し、43日目で約11mg/Lと高い水準を示した。同様に、trans−DCEについても、7日目から43日目に亘って0.07mg/L前後の数値を示した。そして、62日目においては、何れの成分も0.01mg/Lと検出されなくなった。このことから、62日目までに全てのVOCが分解されたと推定された。
以上の結果より、コーンスターチ単独系試験区では、43日以上の期間に亘って微生物によるVOCの分解が継続して行われたことが理解できる。
次に上記(3)の片栗粉単独系試験区について説明する。図7に示すように、片栗粉単独系試験区では、添加直後約22mg/LであったTCEが7日目には約9mg/Lとなり、14日目には0.04mg/Lに減少し、21日目には0.01mg/Lまで減少した。コーンスターチ単独系試験区と比較すると、片栗粉単独系試験区の方がTCEの減少度合いが緩やかであることが確認された。これは、コーンスターチよりも片栗粉の方が水に溶け難い性質を有しているためと考えられる。
TCE濃度の減少に伴い、cis−DCE及びtrans−DCEの濃度上昇が確認された。すなわち、cis−DCEについては、7日目に約6mg/L、14日目に約13mg/Lと濃度が上昇した。その後、徐々に濃度が低下し、62日目には約6mg/Lとなり、91日目には0.01mg/Lになった。trans−DCEについては、14日目から35日目にかけて0.07mg/L程度の濃度を維持した後、緩やかに濃度が低下し、91日目には0.01mg/Lになった。
また、片栗粉単独系試験区ではVCも検出された。すなわち、43日目には0.02mg/Lの濃度で検出された。その後、62日目には約0.4mg/Lとなり、91日目には0.7mg/Lまで濃度が上昇した。そして、124日目には0.01mg/Lになった。
以上の結果より、片栗粉単独系試験区では、91日以上の期間に亘って微生物によるVOCの分解が継続して行われたことが理解できる。すなわち、コーンスターチ単独系試験区よりも、緩やかな分解が長期間に亘って行われたことが理解できる。
次に上記(4)の鉄粉単独系試験区について説明する。図8に示すように、鉄粉単独系試験区では、添加直後約21mg/LであったTCEが7日目には約0.09mg/Lとなり、14日目には0.01mg/Lまで減少した。前述のコーンスターチ単独系試験区や片栗粉単独系試験区よりも、短期間でTCEが分解されていることが理解できる。すなわち、鉄粉による還元分解反応は、微生物による分解に比べて即効性を有していることが理解できる。
また、cis−DCEについては、7日目に約3mg/Lまで上昇した後、徐々に減少するに留まっている。例えば、43日目には約0.9mg/Lまで減少したものの、124日目において約0.3mg/L残存している。この他に、鉄粉単独系試験区では、14日目から28日目に亘って微量のVCが発生していた。
以上の結果より、鉄粉単独系試験区では、鉄粉によるTCEの還元分解が主であると解され、微生物によるVOCの分解については確認が困難であった。そして、鉄粉による還元分解については、7日目までの期間に概ね行われていることが確認された。
次に上記(5)のコーンスターチ混合系試験区について説明する。図9に示すように、コーンスターチ混合系試験区では、TCEについては14日目で、cis−DCEについては35日目で、濃度がそれぞれ0.01mg/Lになっている。すなわち、鉄粉と微生物のそれぞれによってTCEが分解されたことが理解できる。また、21日目から28日目に亘ってVCの発生が認められるが、これも35日目で濃度が0.01mg/Lになっている。前述のコーンスターチ単独区(図6)と比較すると、VOCの分解終了までに要する期間が2週間以上早まっていることが理解できる。
コーンスターチ混合系試験区では、TCE濃度が添加直後から急速に低下していることから、鉄粉によるVOCの還元分解が効率よく行われていることが理解できる。このことは、鉄粉によるVOCの還元分解がコーンスターチによって阻害され難いことを意味している。また、cis−DCEやVCの濃度が段階的に高くなっており、鉄粉単独区(図8)と比較して分解されるVOCの量も増えていることから、活性化された微生物によるVOCの分解も行われていることが理解できる。このことは、鉄粉によってVOCが還元分解されている期間に微生物が活性化され、鉄粉によるVOCの還元分解に引き続いて微生物によるVOCの分解が行われているといえる。
次に上記(6)の片栗粉混合系試験区について説明する。図10に示すように、片栗粉混合系試験区では、TCEについては14日目で、cis−DCEについては60日目で、濃度がそれぞれ0.01mg/Lになっている。これらのことから、片栗粉混合系試験区でも、鉄粉と微生物のそれぞれによってTCEが分解されたことが理解できる。前述の片栗粉単独系試験区(図7)と比較すると、VOCの分解終了までに要する期間が約1ヶ月早まっていることが理解できる。
片栗粉混合系試験区でも、TCE濃度が添加直後から急速に低下していることから、鉄粉によるVOCの還元分解が効率よく行われていることが理解できる。すなわち、鉄粉によるVOCの還元分解は、片栗粉によっても阻害され難いことが理解できる。また、鉄粉単独区(図8)と比較して分解されるVOCの量も増えていることから、活性化された微生物によるVOCの分解も行われていることが理解できる。片栗粉混合系試験区では、cis−DCEの濃度が14日目から43日目まで継続して高い数値を示しているので、鉄粉によってVOCが還元分解されている期間に微生物が活性化され、鉄粉によるVOCの還元分解に引き続いて微生物によるVOCの分解が行われているといえる。
以上の試験結果より、次の事項が理解できる。
VOC分解微生物の栄養源となる難水溶性有機炭素源として、添加から7日経過後における水溶液のTOCが40mg/L以上100mg/L以下のもの、具体的にはコーンスターチ及び片栗粉を用いているので、図6や図7の単独系試験区の結果に示されるように、添加から適切な期間で(例えば1週間をかけて徐々に)微生物に利用され、かつ、この微生物に対する栄養の供給を数か月程度の長期間に亘って行うことができる。なお、実験では添加から60日〜120日に亘って分解試験を行ったが、添加量を調整する等により、一層の長期間に亘ってVOCの分解を継続できると解される。
また、コーンスターチや片栗粉を用いることにより、鉄粉と併用しても鉄粉によるVOCの還元分解を阻害し難いことが確認された。これは、コーンスターチや片栗粉が適度な溶解度を有する粉体であるためと考えられる。すなわち、VOCは疎水性であり、吸着作用によって鉄粉の表面に接触する。この場合、鉄粉の周囲に親水性の有機物イオンが大量に存在すると、疎水性のVOCが反発して鉄粉表面に接触し難くなる。この点、コーンスターチや片栗粉は、適度な溶解度(添加から7日経過後のTOCで40mg/L以上100mg/L以下)を有することから、鉄粉の周囲に存在する有機物イオンの量も適度に抑えられ、VOCが鉄粉表面に対して比較的容易に吸着されると考えられる。
なお、コーンスターチ(図9)と片栗粉(図10)とを比較すると、7日目のTCE濃度に関して、片栗粉混合系試験区の方が若干高い数値を示している。このことは、鉄粉の反応が緩やかであること、言い換えれば、片栗粉の方がコーンスターチよりも、鉄粉によるVOCの還元分解反応を阻害しやすいことを示している。
また、VOCの分解期間に関し、片栗粉の方がVOCの分解に時間を要している。これは、微生物の活性化度合いに関し、コーンスターチの方が片栗粉よりも良好なこと、言い換えれば微生物に取り込まれ易いことを意味すると解される。このことから、コーンスターチと片栗粉とでは、微生物の活性化度合いが高い点でコーンスターチの方が優れているといえる。
次に、本実施形態の浄化材(鉄粉+コーンスターチ、又は、鉄粉+片栗粉)を用いたVOC汚染土壌の浄化工法(浄化方法)について説明する。
この浄化工法では、例えば図11(a)に示す浄化用設備を用いる。例示した浄化用設備は、深層混合機1と、スラリータンク2と、スラリーポンプ3とを有している。深層混合機1は、地盤Gを攪拌するための攪拌翼11を有している。この攪拌翼11は、軸回りに回転可能であって上下方向に移動可能に構成されている。そして、攪拌翼11の下端部分にはスラリーを噴射可能な噴射口が設けられている。スラリータンク2は、浄化材のスラリー体を作製する装置であり、容器と攪拌部材の組によって構成されている。スラリーポンプ3は、スラリータンク2で作製された浄化材スラリーを深層混合機1へ供給するための装置である。
この浄化用設備を用いてVOC汚染土壌を浄化する場合、まず浄化材スラリーを作製する。すなわち、粉体状の浄化材と水とをスラリータンク2の容器内に投入し、攪拌部材を回転させる。浄化材スラリーが作製されたならば、地盤Gの攪拌と浄化材の注入とを行う。この場合、例えば図11(b)に示すように、深層混合機1の攪拌翼11を軸回りに回転させつつ、下方へと移動させる。
攪拌翼11の先端部分が地盤Gに入り込んだならば、浄化材スラリーを地盤Gの攪拌範囲G´に注入する。すなわち、スラリーポンプ3を作動させて、浄化材スラリーを深層混合機1に供給し、供給された浄化材スラリーを攪拌翼11の先端部分から吐出させる。これにより、攪拌範囲G´は土砂と浄化材スラリーとが混合された状態になる。その後は、攪拌翼11を徐々に押し下げ、攪拌範囲G´が必要な深さまで形成されたならば、攪拌翼11を引き上げる。
これにより、攪拌範囲G´に注入された浄化材スラリーのうち、余剰の水分は地盤Gに拡散される。その結果、攪拌範囲G´には土砂と浄化材(鉄粉+粉状のコーンスターチ又は片栗粉)が残ることになる。この状態で、放置することにより、まずは鉄粉によるVOCの還元分解が行われる。その際、余剰の水分は拡散されているので、鉄粉による還元分解が効率よく行われる。また、適度に溶出されたコーンスターチや片栗粉が地盤Gに存在する微生物に取り込まれる。そして、鉄粉によるVOCの還元分解が終わる頃に、微生物が活性化されてVOCを分解する。その後は、コーンスターチや片栗粉を取り込んだ微生物により、長期間に亘ってVOCが分解される。
そして、本実施形態の浄化工法では、浄化材が粉体状をしているので、地盤Gの土砂への混合が容易であり、かつ、浄化材を均一に分散させることができる。その結果、鉄粉によるVOCの還元分解と微生物の活性化とを高いレベルで実現できる。
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。例えば、次のように構成してもよい。
前述の実施形態において、粉状の難水溶性有機炭素源として、コーンスターチと片栗粉を例示したが、添加から7日経過後における水溶液のTOCが40mg/L以上100mg/L以下のものであれば、コーンスターチ等と同様に用いることができる。例えば、タピオカ粉末は、コーンスターチとよく似た性質を有しているので、この条件を満たす可能性が高い。
また、前述の実施形態(VOC分解試験)では、鉄粉0.8gに対して栄養材(コーンスターチ,片栗粉)を0.24g添加した。すなわち、鉄粉の30%の栄養材を添加した。ここで、栄養材の添加比率はこの値に限られない。点か比率を鉄粉の30%以下にすれば、鉄粉によるVOCの還元分解を阻害せずに、VOC分解微生物を栄養材によって活性化できると考えられる。また、栄養材の添加量の下限値は、微生物によるVOC分解に必要な最低限の水素量から算出すればよい。
また、本実施形態の浄化材は、鉄粉と難水溶性有機炭素源の組み合わせであったが、土壌中のVOC分解試験の結果からすれば、難水溶性有機炭素源を単独で用いることも可能である。この場合、鉄粉よる短期間の分解効果は期待できないが、微生物による長期間の分解効果を得ることができる。
また、前述の実施形態では、コーンスターチと片栗粉とを別個に用いていたが、これらを混合して用いてもよい。この場合、コーンスターチと片栗粉を混ぜる割合により、異なる特性を付与することができる。例えば、コーンスターチの割合を片栗粉よりも多くすることで、即効性を重視した配合にすることができる。また、片栗粉の割合をコーンスターチよりも多くすることで、持続期間を重視した配合にすることができる。
1…深層混合機,2…スラリータンク,3…スラリーポンプ,11…攪拌翼,G…地盤,G´…攪拌範囲

Claims (3)

  1. 有機ハロゲン化合物で汚染された土壌を浄化する微生物の栄養源となる難水溶性有機炭素源及び粉体状の鉄を含有し、前記土壌を浄化する際に添加される添加材であって、
    前記難水溶性有機炭素源は、
    コーンスターチ、片栗粉、又はタピオカ粉末の少なくとも何れかであって、添加から7日経過後における前記難水溶性有機炭素源の水溶液(水道水400mlに前記難水溶性有機炭素塩20gを添加し振とうさせたもの)のTOCが40mg/L以上100mg/L以下であることを特徴とする汚染土壌浄化用添加材。
  2. 前記難水溶性有機炭素源は、
    コーンスターチであることを特徴とする請求項1に記載の汚染土壌浄化用添加材。
  3. 請求項1又は2に記載の汚染土壌浄化用添加材を水に混合してスラリーとし、
    有機ハロゲン化合物で汚染された土壌を攪拌する攪拌部材により、前記スラリーを前記土壌に混合することを特徴とする汚染土壌の浄化方法。
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