JP6102081B2 - 液体噴射ヘッドの製造方法、及び、液体噴射装置の製造方法 - Google Patents

液体噴射ヘッドの製造方法、及び、液体噴射装置の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、流路形成基板及び振動板に厚み方向へ貫通した貫通孔が形成された液体噴射ヘッドの製造方法、及び、液体噴射装置の製造方法に関する。
インクジェットプリンター等に用いられる液体噴射ヘッドとして、例えば、ノズル開口を有するノズルプレート、振動板や圧電素子等を設けた流路形成基板、リザーバ形成基板、等を積層したインクジェット式記録ヘッドが知られている(特許文献1参照)。ノズル開口に連通する圧力発生室や、リザーバとなる連通部といった液体流路を流路形成基板に形成する際には、例えば、窒化シリコン(化学量論比Si34)のマスク膜を流路形成基板の振動板とは反対側の面に形成してパターニングし、該マスク膜を介して水酸化カリウム(KOH)水溶液で異方性エッチングする。マスク膜は、四フッ化炭素(化学量論比CF4)ガスでエッチングすることにより除去している。
液体流路を形成するとき、KOH水溶液が圧電素子に侵入しないようにする必要がある。そこで、液体流路を形成する前に、リザーバ用に振動板に形成された貫通部にある流路形成基板上に封止層をスパッタ法等で堆積している。
また、液体噴射ヘッドに用いるインクは、アルカリ性であることが多い。流路形成基板に用いられるシリコン単結晶基板は、アルカリ性の水溶液に対して浸食される可能性がある。そこで、液体流路の内面に五酸化二タンタル(化学量論比Ta25)といった保護膜をスパッタ法等で堆積している。
リザーバ形成基板を接着した流路形成基板にリザーバを形成するためには、封止層上の保護膜を除去したうえ、封止層を除去する必要がある。そこで、保護膜上にチタンタングステン(Tix1-x;0<x<1)といった剥離層をスパッタ法等で堆積している。この剥離層は、封止層上の保護膜に密着して自らの圧縮応力により保護膜に亀裂を生じさせ、剥離層のエッチングの際に封止層と保護膜との間にエッチャントを侵入させて、封止層上から保護膜を剥離するために形成される。封止層上から保護膜を除去すると、封止層のエッチングにより封止層を除去して厚み方向に貫通したリザーバを形成することができる。
積層されるノズルプレートや流路形成基板やリザーバ形成基板等を位置決めするため、各層の隅には、特許文献2に例示される挿通孔のように、厚み方向へ貫通した位置決め孔を形成している。流路形成基板の位置決め孔連通部は、求められる形状がリザーバ連通部と異なるため、構造がリザーバ連通部と異なる。
特開2007−176030号公報 特開2006−256006号公報
上述したリザーバ連通部の形成方法と同じ方法を位置決め孔連通部に試みたところ、封止層上の保護膜に剥離層を堆積しても該保護膜に亀裂が生じず、剥離層のエッチングの際に保護膜が剥離せず、封止層のエッチングの際に位置決め孔が開口しないことがあることが分かった。位置決め孔を形成するために物理的な方法等を用いると、リザーバを形成する工程とは別に位置決め孔を形成するための工数がかかってしまう。なお、このような問題は、記録ヘッド以外の液体噴射ヘッドを製造する種々の方法についても同様に存在する。
以上を鑑み、本発明の目的の一つは、流路形成基板及び振動板に厚み方向へ貫通した貫通孔をより確実に形成することにある。
上記目的の一つを達成するため、本発明は、ノズル開口に連通する圧力発生室を有する流路形成基板、及び、該流路形成基板に設けられた振動板に、厚み方向へ貫通した貫通孔が形成された液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記振動板の前記貫通孔に対応した振動板貫通部を封止し、主金属層及び該主金属層よりも前記流路形成基板側の密着層を有する封止層を形成する工程と、
前記流路形成基板の前記振動板とは反対側の面に形成されたマスク膜を介してエッチングすることにより、前記圧力発生室、及び、前記貫通孔となる基板開口部を前記流路形成基板に形成する工程と、
エッチャントに溶液を用いてエッチングすることにより前記マスク膜を除去する工程と、
前記圧力発生室及び前記基板開口部の内面に耐液体性を有する保護膜を形成する工程と、を含み、
前記貫通孔に対応した領域の前記密着層は、前記基板開口部の内寸よりも大きい内寸となるようにウェットエッチングで除去され、
前記保護膜を形成する工程では、前記密着層が除去されたことにより露出した前記主金属層の一部を含めて前記保護膜を形成し、
さらに、前記保護膜に内部応力が圧縮応力である剥離層を積層する工程と、
前記貫通孔に対応した領域の剥離層及び保護膜を除去し、前記封止層を除去して前記貫通孔を形成する工程と、を含む、態様を有する。
また、本発明は、上記液体噴射ヘッドの製造方法を含む液体噴射装置の製造方法の態様を有する。
マスク膜除去のためエッチャントに溶液を用いてエッチングすると、CF4ガスを用いてエッチングした場合とは異なり、流路形成基板及び振動板に厚み方向へ貫通した貫通孔がより確実に形成されることが分かった。振動板を設けた流路形成基板の断面を確認したところ、CF4ガスでエッチングした場合、流路形成基板と封止層との界面が厚み方向に広くくさび状に凹み、流路形成基板と封止層との境界部分にある保護膜に亀裂が生じていないことがあった。一方、溶液でエッチングした場合、流路形成基板と封止層との界面に形成されるくさび状の凹みが厚み方向に狭く、流路形成基板と封止層との境界部分にある保護膜に亀裂が生じていた。この亀裂からエッチャントが封止層と保護膜との間に入り、封止層上から保護膜が剥離され易くなると考えられる。
以上より、本態様は、流路形成基板及び振動板に厚み方向へ貫通した貫通孔をより確実に形成することができる。
ここで、上記貫通孔は、位置決め孔であると好適であるものの、チップ分割用のブレイクパターン(スクライブパターン)のための貫通孔、インク供給のための貫通孔、リザーバ用の貫通孔、等でもよい。
ところで、前記エッチャントがリン酸とフッ酸の少なくとも一方を含む溶液であると、前記貫通孔をさらに確実に形成することができる。本態様は、特に、前記マスク膜が窒化シリコンである場合に好適である。
本発明は、前記貫通孔に対応した領域の前記密着層が前記基板開口部の内寸よりも大きい内寸となるようにウェットエッチングで除去され、前記保護膜を形成する工程で前記密着層が除去されたことにより露出した前記主金属層の少なくとも一部を含めて前記保護膜を形成する態様を有する。本態様は、貫通孔に対応した領域の保護膜を封止層上からさらに除去し易くすることができ、前記貫通孔をさらに確実に形成することができる。
前記保護膜の材料に少なくとも酸化タンタルを用いる態様は、液体による流路形成基板の浸食を抑制する好適な製造方法を提供することができる。
前記剥離層の材料に少なくともチタンタングステンを用いると、貫通孔に対応した領域の保護膜を剥離層とともに容易に除去することができる。
前記振動板の貫通部を封止する封止層の材料に前記振動板上の圧電素子から引き出されるリード電極と同じ材料を少なくとも用いると、リード電極の形成時に封止層も形成することができ、液体噴射ヘッドの製造コストを低減することができる。
前記貫通孔に繋がる連通孔を形成した連通孔形成基板を前記振動板が設けられた流路形成基板に接合する工程を備える態様は、圧力発生室に対応した領域の振動板のクラックを抑制する好適な液体噴射ヘッドの製造方法を提供することができる。
エッチング液でマスク膜18を除去して保護膜80及び剥離層85を形成した様子を模式的に例示する要部端面図。 記録ヘッド(液体噴射ヘッド)1の構成の概略を例示する分解斜視図。 記録ヘッド1の要部の概略を例示する便宜上の分解斜視図。 (a)は記録ヘッド1の要部の概略を例示する平面図、(b)は(a)のA1−A1の位置で記録ヘッド1の1セグメントを破断した断面図。 (a)〜(d)は記録ヘッド1の製造工程を例示するための断面図。 (a)〜(c)は記録ヘッド1の製造工程を例示するための断面図。 (a),(b)は記録ヘッド1の製造工程を例示するための断面図。 基板開口部13を形成した様子を例示する要部端面図。 貫通孔対応領域R3,R4の密着層46を除去した様子を例示する要部端面図。 エッチング液でマスク膜18を除去した様子を例示する要部端面図。 基板開口部13の内面に保護膜80を形成した様子を例示する要部端面図。 保護膜80を形成した基板開口部13の内面に剥離層85を形成した様子を例示する要部端面図。 貫通孔対応領域R3,R4の剥離層85及び保護膜80を除去した様子を例示する要部端面図。 貫通孔対応領域R3,R4の封止層48を除去した様子を例示する要部端面図。 記録装置(液体噴射装置)200の構成の概略を例示する図。 比較例においてCF4ガスでマスク膜18を除去して保護膜80及び剥離層85を形成した様子を模式的に例示する要部端面図。
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下に説明する実施形態は、本発明を例示するものに過ぎない。
(1)液体噴射ヘッドの例:
図1は、エッチャントに溶液を用いてエッチングすることによりマスク膜18を除去して保護膜80及び剥離層85を形成した様子を例示する要部断面図である。図2は記録ヘッド(液体噴射ヘッド)1を例示する分解斜視図、図3は記録ヘッド1の要部を便宜上、分解した分解斜視図、図4(a)は記録ヘッド1の構成の概略を例示する平面図、図4(b)は図4(a)のA1−A1の位置で記録ヘッド1の1セグメントを破断した垂直断面図、である。D1は圧力発生室12の幅方向、D2は幅方向D1と直交する圧力発生室12の長手方向、を示している。D3は、流路形成基板10、振動板16、リザーバ形成基板(連通孔形成基板)50、等の厚み方向、すなわち、圧力発生室12の深さ方向を示している。分かり易く示すため、幅方向D1及び厚み方向D3の拡大率は長手方向D2の拡大率よりも大きくされ、各図は整合していないことがある。
なお、本明細書で説明する位置関係は、発明を説明するための例示に過ぎず、発明を限定するものではない。従って、第1電極の上以外の位置、例えば、下、左、右、等に第2電極が配置されることも、本発明に含まれる。
図2に例示される記録ヘッド1は、ノズル開口71が形成されたノズルプレート70、圧電素子3が設けられた流路形成基板10、駆動IC(半導体集積回路)65が設けられたリザーバ形成基板(連通孔形成基板)50、コンプライアンス基板60、インク導入路93が形成されたケース構成部材91,92、が順に積層されている。各部材70,10,50,60,91,92の隅には、図示しないベースユニットに設けられた位置決め用の複数の基準ピンのそれぞれに挿通可能な各位置決め孔(貫通孔)8が形成されている。各位置決め孔8は、基準ピンを貫通させることにより各部材70,10,50,60,91,92の少なくとも一部を互いに位置決めするための貫通孔である。それぞれの位置決め孔8に基準ピンを通すことにより各部材70,10,50,60,91,92は相対的な位置が合わされてベースユニットに固定される。
記録ヘッド1に例示される液体噴射ヘッドは、流路形成基板10及び該流路形成基板10に設けられた振動板16に、厚み方向D3へ貫通した貫通孔が形成されている。貫通孔には、例えば、上述した位置決め孔8や、図4(b)等に示すようなリザーバ9や、チップ分割用のブレイクパターンのための貫通孔、等がある。位置決め孔8は、流路形成基板10の連通部13b(基板開口部13)とリザーバ形成基板50の連通孔51bとが振動板16の振動板貫通部17で繋がっている。リザーバ9は、流路形成基板10の連通部13aとリザーバ形成基板50の連通孔51aとが振動板16の振動板貫通部17で繋がり、共通の液体室(例えばインク室)とされている。流路形成基板10には、ノズル開口71に連通する圧力発生室12、リザーバ連通部13a、インク供給口14、といった液体流路や、位置決め孔連通部13bが形成されている。前記液体流路を流れる液体による浸食を抑制するため、液体流路(12,13a,14)の内面に保護膜80が形成されている。
図15に示す記録装置200に例示される液体噴射装置は、上述のような液体噴射ヘッドを備える。
図3に例示される記録ヘッド1は、概略、ノズルプレート70、流路形成基板10、振動板16、圧電素子3、リザーバ形成基板50、コンプライアンス基板60、が順に積層された構造とされている。振動板16は、分離されない材料の表面を変性する等して一体に形成されてもよいし、接合されて積層されてもよい。
流路形成基板10は、膜厚が例えば500〜800μm程度と比較的厚く剛性の高いシリコン単結晶基板等から形成することができる。流路形成基板10は、セグメントSG1間が隔壁11により区画され、セグメントSG1毎の長尺な液体流路(12,14)、各インク供給口14に繋がる共通の液体流路であるリザーバ連通部13a、位置決め孔連通部13b(基板開口部13)、等が形成されている。長尺な圧力発生室12のサイズは、特に限定されないが、例えば、長手方向D2の長さを500〜2000μm程度、短手方向である幅方向D1の幅を20〜50μm程度、とすることができる。インク供給口14は、圧力発生室12よりも細幅とされている。各液体流路(12,14)は、圧力発生室12の並設方向である幅方向D1へ並べられている。
液体流路(12,13a,14)の内面に設けられた保護膜80には、耐液体性を有する材料が用いられている。保護膜80の厚みは、特に限定されないが、例えば30〜70nm程度とすることができる。液体噴射ヘッドに用いるインクはアルカリ性であることが多い一方、流路形成基板10に用いられるシリコン基板はアルカリ性の水溶液に対して浸食される可能性がある。従って、耐インク性(耐液体性の一種)を有する材料には、耐アルカリ性を有する材料が好ましい。このような材料は、五酸化二タンタル(化学量論比Ta25)といった酸化タンタル(TaOx)が好ましいものの、インクのpH値等に応じて酸化ジルコニウム(化学量論比ZrO2)といった金属酸化物等を用いることもできるし、酸化タンタルに他の材料(例えば金属酸化物)が含まれる材料を用いることもできる。保護膜は、単層でもよいし、酸化タンタル層と他の材料層とを積層した膜等の積層膜でもよい。
振動板16には、位置決め孔8やリザーバ9に対応した振動板貫通部17が形成されている。図4(b)等に示す振動板16は、シリコン基板15上に形成された弾性膜16aと、この弾性膜16a上に形成された絶縁膜16bとを有し、圧力発生室12の壁面の一部を構成する。振動板貫通部17は、弾性膜16aの貫通部17aと絶縁膜16bの貫通部17bとが繋がっている。弾性膜16aは例えば酸化シリコン(SiOx)で構成することができ、絶縁膜16bは例えば酸化ジルコニウム(ZrOx)で構成することができる。振動板16の厚みは、弾性を示す限り特に限定されないが、例えば0.5〜2μm程度とすることができる。
圧電素子3は、圧電体層30と、圧電体層30の圧力発生室12側に設けられた下電極(第1電極)20と、圧電体層30の他方側に設けられた上電極(第2電極)40とを有している。圧電素子3には、駆動配線66を介して駆動IC65に接続するために引き出されたリード電極45等が設けられている。
リード電極45は、振動板16上に形成された密着層46と、この密着層46上に形成された主金属層47とを有している。主金属層47の構成金属には、Au(金)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、これらの混合物、等を用いることができる。主金属層47の厚みは、例えば0.5〜1.5μm程度とすることができる。密着層46には、ニッケルクロム(NixCr1-x;0<x<1)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、等を用いることができる。密着層46の厚みは、例えば30〜70nm程度とすることができる。むろん、これらの層46,47以外の層がリード電極45に設けられてもよい。
圧電体層30は、少なくとも圧力発生室12に対応した領域(圧力発生室対応領域R1)において、本質的に、下電極20の上面に形成されている。圧電体層30には、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛、Pb(Zrx,Ti1-x)O3)といった強誘電体、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル、酸化マグネシウム、といった金属酸化物が添加されたもの、(Bi,Ba)(Fe,Ti)O3といった非鉛系ペロブスカイト型酸化物、この酸化物のBサイトにマンガンといった金属が添加されたもの、等のペロブスカイト構造を有する材料を用いることができる。
圧電体層30の厚みは、特に限定されないが、例えば0.2〜5μm程度とすることができる。
電極(20,40)の構成金属には、Pt(白金)、Au、Ir(イリジウム)、Ti(チタン)、等の1種以上を用いることができる。構成金属は、酸化物といった化合物の状態でもよいし、化合していない状態でもよく、合金の状態でもよいし、単独の金属の状態でもよく、これらの金属を主成分としてモル比で少ない別の金属が含まれてもよい。電極(20,40)の厚みは、特に限定されないが、例えば10〜500nm程度とすることができる。
圧電素子3の実質的な能動部4は、下電極20と上電極40とで圧電体層30が挟まれた領域となる。圧電素子が共通下電極構造である場合、能動部4の能動端は上電極40の境界位置となる。圧電素子が共通上電極構造である場合、能動部4の能動端は下電極20の境界位置となる。
なお、リザーバ9近傍の振動板16上、具体的には絶縁膜16b上に、リード電極45と同じ材料でリード電極45とは不連続に形成された封止層48が残されている。封止層48は、流路形成基板をエッチングして圧力発生室等の液体流路や基板開口部13を形成するとき、エッチング液等が圧電素子側に侵入しないようにし、図14に示すように液体流路形成後に貫通孔(8,9)に対応した貫通孔対応領域R3,R4が除去される。貫通孔(8,9)の周囲に封止層48が残されていることにより、貫通孔周囲の振動板16が補強されている。
上記流路形成基板10には、例えば接着剤55によってリザーバ形成基板50が接合されている。リザーバ形成基板50を厚み方向D3へ貫通した連通孔51aは、連通部13aとともにリザーバ9を構成する。リザーバ形成基板50を厚み方向D3へ貫通した連通孔51bは、連通部13bとともに位置決め孔8を構成する。圧電素子3に対向する領域に形成された圧電素子保持部52は、圧電素子3の運動を阻害しない程度の空間を有する。リザーバ形成基板50には、例えば、シリコン単結晶基板、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂、等を用いることができる。リザーバ形成基板50の厚みは、特に限定されないが、例えば100〜500μm程度とすることができる。
リザーバ形成基板50上には、コンプライアンス基板60及び駆動IC65が固定されている。
コンプライアンス基板60に設けられた封止膜61は、例えば厚み4〜8μm程度のポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)といった剛性が低く可撓性を有する材料等が用いられ、連通孔51の一方の面を封止する。コンプライアンス基板60に設けられた固定板62は、例えば厚み20〜40μm程度のステンレス鋼(SUS)といった金属等の硬質の材料が用いられ、リザーバ9に対向する領域が開口部63とされている。
駆動IC65は、リザーバ形成基板50上に形成された接続配線54に接続されるとともに、駆動配線66を介してリード電極45と電気的に接続され、並設された圧電素子3を駆動する。むろん、圧電素子3の駆動回路は、ICに限定されない。駆動配線66には、ボンディングワイヤといった導電性ワイヤ等を用いることができる。
ノズルプレート70は、各圧力発生室12のインク供給口14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口71が穿設され、流路形成基板10の保護膜80側の面に接着剤や熱溶着フィルムといった固定手段で固定されている。従って、圧力発生室12は、液体を吐出するノズル開口71に連通している。ノズルプレート70は、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼、等を用いることができ、流路形成基板10の開口面側に固着されている。ノズルプレート70の厚みは、特に限定されないが、例えば0.01〜1mm程度とすることができる。
ところで、図7(a),(b)に示すように、液体流路(12,13a,14)、及び、位置決め孔連通部13bを流路形成基板10に形成するとき、エッチング液が圧電素子3側に侵入しないようにする必要がある。そこで、液体流路を形成する前に、振動板16の貫通部17a,17bに流路形成基板10上に封止層48を形成している。図7(a),(b)等に示す封止層48は、シリコン基板15上に形成された密着層46と、この密着層46上に形成された主金属層47とを有している。封止層の主金属層47の構成金属には、Au(金)、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、これらの混合物、等の比較的導電性の高い材料を用いることができる。封止層の密着層46には、ニッケルクロム、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、等を用いることができる。むろん、これらの層46,47以外の層が封止層48に設けられてもよい。さらに、封止層48は、リード電極45に無い層が設けられてもよいし、リード電極45とは異なる層とされてもよい。
封止層48の材料に振動板16上の圧電素子3から引き出されるリード電極46と同じ材料を少なくとも用いると、リード電極45の形成時に封止層48も形成することができ、液体噴射ヘッドの製造コストを低減することができる。
また、シリコン基板15は、アルカリ性のインク等に対して浸食される可能性がある。このため、上述した保護膜80を液体流路(12,13a,14)の内面に形成している。保護膜の材料に少なくとも酸化タンタルを用いる製造方法は、液体による流路形成基板の浸食を抑制するのに好適である。
リザーバ9や位置決め孔8といった貫通孔を形成するためには、封止層48上の保護膜80を除去する必要がある。そこで、図12に示すように、保護膜を形成した連通部13a,13bの内面に内部応力が圧縮応力である剥離層85を例えば化学気相(chemical vapor deposition)法により形成している。この気相法には、スパッタ法、パルスレーザデポジション(PLD)法、有機金属気相成長(MOCVD)法、等を用いることができる。封止層48上の保護膜80は、剥離層85により剥離され易くなっている。この性質を利用して貫通孔対応領域R3,R4の剥離層85を保護膜80とともに除去し、封止層48を除去することにより、厚み方向D3へ貫通したリザーバ9や位置決め孔8を形成する。
剥離層85の厚みは、特に限定されないが、例えば300〜800nm程度とすることができる。
剥離層85の材料には、例えば、80MPa以上の圧縮応力の材料を用いることができる。また、剥離層85の材料には、例えば、保護膜80との密着力が保護膜80と封止層48との密着力よりも大きな材料を用いることができる。剥離層85の材料は、チタンタングステン(Tix1-x;0<x<1)を少なくとも含む材料等、保護膜の材料に対するエッチング選択比が高い材料が好ましい。保護膜の材料に対するエッチング選択比が高い材料とは、エッチャントによって保護膜がエッチングされ難い材料である。なお、剥離層の材料には、チタンタングステンに他の材料(例えば金属)が含まれる材料を用いることもできる。剥離層は、単層でもよいし、チタンタングステン層と他の材料層とを積層した膜等の積層膜でもよい。
剥離層の材料に少なくともチタンタングステンを用いる製造方法によると、貫通孔に対応した領域の保護膜を剥離層とともに容易に除去することができる。
ところで、図7(a),(b)に示すように、液体流路(12,13a,14)、及び、位置決め孔連通部13bを流路形成基板10に形成する際、これら液体流路及び位置決め孔8に対応したマスク開口部18aを有するマスク膜18を流路形成基板10の振動板16とは反対側のノズル側面10bに形成している。マスク膜18には、窒化シリコン(SiN)等を用いることができる。窒化シリコンは、化学量論比からはSi34で表すことができるが、組成が化学量論比からずれることがある。マスク膜の厚みは、特に限定されないが、例えば5〜20nm程度とすることができる。このようなマスク膜18を介してKOH水溶液のアルカリ溶液でエッチングすることにより、液体流路等を形成することができる。
液体流路等の形成に用いたマスク膜18を除去するために四フッ化炭素(CF4)ガスでエッチングし、保護膜80及び剥離層85の形成からリザーバ9及び位置決め孔8の形成まで行ったところ、リザーバ9は開口するものの位置決め孔8が開口しないことがあった。
図9,10に示すようにマスク膜18を除去した後では、例えば、図11に示すようにリザーバ連通部13a等の内面に保護膜80を形成し、図12に示すようにリザーバ連通部13a等の内面にさらに剥離層85を形成し、図13に示すように貫通孔対応領域R4の剥離層85及び保護膜80を除去し、図14に示すように封止層48を除去してリザーバ9を形成する。リザーバ9の場合、連通部13aの内寸(長手方向D2の長さ)は連通孔51aの内寸よりも大きく、連通部13aに面するシリコン基板15(流路形成基板10)と封止層48との間に振動板16(弾性膜16a)が存在する。なお、位置決め孔8の場合、シリコン基板15で位置決めすることが求められることから、連通部13bの内寸は連通孔51bの内寸よりも小さい。一方、振動板16に形成される振動板貫通部17の内寸が位置決め孔連通部13bの内寸よりも大きくなるため、連通部13bに面するシリコン基板15と封止層48との間に振動板16は存在しない。
リザーバ9を形成する場合、剥離層85を形成したとき、図12に示すように、シリコン基板15と封止層48との境界部分の近傍で剥離層85とともに保護膜80に亀裂C1が生じる。これにより、図13に示す貫通孔形成工程S13で剥離層85のエッチング液を用いてノズル側面10bから流路形成基板10をエッチングすると、エッチング液が亀裂C1から保護膜80と封止層48(主金属層47)との境界面に入り、封止層48から保護膜80が剥離層85とともに剥離される。封止層48上から保護膜80が除去されるので、エッチングにより封止層48(主金属層47)を除去してリザーバ9を開口させることができるのである。
しかし、マスク膜除去にCF4ガスを用い、リザーバ形成と同じ工程を位置決め孔に試みたところ、封止層上から保護膜が除去されないことがあった。
図16は、位置決め孔となる部分の断面について、CF4ガスでマスク膜を除去して保護膜80及び剥離層85を形成した様子を模式的に例示した端面図である。図16に示すように、シリコン基板15と封止層48との境界部分の近傍で保護膜80に亀裂が生じないことがある。流路形成基板の断面を確認したところ、CF4ガスでエッチングした場合、保護膜80の厚みtよりも遥かに大きい厚みH2(例えばH2>2t)でシリコン基板15と封止層48との界面I2が厚み方向D3に広くくさび状に凹んでいることが分かった。このため、シリコン基板15と封止層48との境界部分の近傍が保護膜80の亀裂の起点とならないと推測される。前記境界部分近傍に亀裂が生じないため、剥離層85のエッチング時にエッチング液が保護膜80と封止層48との境界面に入らず、封止層48から保護膜80が剥離されないと考えられる。封止層48上から保護膜80が除去されないと、エッチングにより封止層48を除去して位置決め孔を開口させることができない。リザーバ開口と同時に位置決め孔を開口させることができなければ、リザーバを形成する工程とは別に位置決め孔を形成するための工数がかかってしまう。
一方、リザーバ9を形成する場合、上述した広いくさび状の凹みは生じない。これにより、シリコン基板15と封止層48との境界部分の近傍が保護膜80の亀裂の起点となると推測される。
上述した広いくさび状の凹みは、SiN(マスク膜)に対するSi(シリコン基板)のCF4ガスによるエッチング選択比では説明することができない。シリコン基板がCF4ガスである程度エッチングされる(削られる)場合、厚み方向D3の全体にわたって同程度にエッチングされるはずであるからである。
シリコン基板15と主金属層47との間に酸化シリコン(弾性膜16a)が存在するリザーバ形成時には上述した広いくさび状の凹みが生じないことから、シリコンと異種金属が直接接触する場合に異種金属との界面に沿ってシリコン基板が大きくエッチングされると推測される。くさび状の凹みの厚みH2が保護膜80の厚みtよりも遥かに大きいことから、保護膜80がくさび状の凹みの奥まで入って深い凹みのくさび状に形成されてしまい、シリコン基板15と主金属層47との境界部分の近傍が保護膜80の亀裂の起点にならないと考えられる。
そこで、本製造方法では、エッチャントに溶液を用いてエッチングすることによりマスク膜18を除去する。エッチャントに溶液を用いると、CF4ガスを用いた場合とは異なり、位置決め孔がより確実に形成されることが分かった。
本製造方法のエッチャントには、例えば、リン酸とフッ酸の少なくとも一方を含む溶液を用いることができる。リン酸を含む溶液には、高濃度のH3PO4を含むリン酸水溶液(例えば85wt%)、硫酸や硝酸や塩酸やシュウ酸やフッ酸といった酸を添加したリン酸水溶液、等を用いることができる。リン酸を含む溶液は、150℃以上に加熱された熱リン酸として使用されてもよいし、150℃未満で使用されてもよい。想定される化学反応は、Si34+12H2O+4H+→3Si(OH)4+4NH4 +と考えられる。リン酸を含む溶液は、SiNのエッチングが速いうえ、Siに対するSiNのエッチング選択比が高く、Siがエッチングされ難い点でも好適である。
フッ酸を含む溶液には、フッ酸水溶液、硫酸や硝酸や塩酸やシュウ酸やリン酸といった酸を混合したフッ酸水溶液、等を用いることができる。フッ酸を含む溶液も、Siに対するSiNのエッチング選択比が高く、Siがエッチングされ難い点でも好適である。
図1は、位置決め孔となる部分の断面について、エッチャントに溶液を用いてマスク膜を除去して保護膜80及び剥離層85を形成した様子を模式的に例示した端面図である。図1に示すように、シリコン基板15と主金属層47(封止層48)との境界部分の近傍で保護膜80に亀裂C1が生じている。流路形成基板10の断面を確認したところ、エッチャントに溶液を用いた場合、シリコン基板15と主金属層47との界面I1に形成されるくさび状の凹みが厚み方向D3に狭い(例えば凹みの厚みH1が1.5t以下)ことが分かった。このため、保護膜80がくさび状の凹みの奥まで入らず、シリコン基板15と主金属層47との境界部分の近傍が保護膜80の亀裂C1の起点となると推測される。前記境界部分近傍に亀裂C1が生じるため、剥離層85のエッチング時にエッチング液が保護膜80と主金属層47との境界面に入り、主金属層47から保護膜80が剥離されると考えられる。
以上のことから、エッチャントに溶液を用いてエッチングすることによりマスク膜18を除去すると、位置決め孔をより確実に形成することができる。この結果、リザーバ開口と同時に位置決め孔をより確実に開口させることができ、位置決め孔を形成するための別工程を設ける必要が無くなる。
なお、本技術を適用する貫通孔を位置決め孔8として説明しているが、前記貫通孔は位置決め孔8に限定されない。例えば、リザーバであっても、シリコン基板と金属の封止層とが直接接触していれば、CF4ガスでマスク膜を除去したときに上述したような広いくさび状の凹みが生じ、同様の作用によりリザーバが開口しない可能性がある。従って、前記貫通孔には、リザーバも含まれる。さらに、チップ分割用のブレイクパターン等も、前記貫通孔に含まれる。
(2)液体噴射ヘッドの製造方法の例:
次に、図5〜14を参照して、記録ヘッドの製造方法を例示する。図5〜7は、圧力発生室の長手方向D2に沿った垂直断面図であり、圧力発生室12及びリザーバ連通部13a並びにこれらの周辺を示している。図8〜14は、圧力発生室の長手方向D2に沿った垂直端面図であり、連通部13a,13b及びこれらの周辺を示している。まず、流路形成基板10用の例えば面方位(110)のシリコンウェハを例えば1000〜1200℃程度の拡散炉で熱酸化する等によって、図5(a)に示するように、シリコン基板15の表面に対して弾性膜16aを一体に形成する。弾性膜16aは、二酸化シリコン(化学量論比SiO2)等で構成することができ、例えば厚み0.4〜1.5μm程度とすることができる。次いで、図5(b)に示すように、弾性膜16a上に絶縁膜16bを形成する。例えば、スパッタ法等によりジルコニウム(Zr)層を弾性膜16a上に形成した後にジルコニウム層を例えば500〜1200℃程度の拡散炉で熱酸化することにより、酸化ジルコニウム層を絶縁膜16bとして形成することができる。絶縁膜16bの厚みは、例えば0.3〜0.5μm程度とすることができる。なお、シリコン基板15の弾性膜16a側の面を振動板側面10aとする。
以上が、振動板形成工程S1である。
次いで、スパッタ法等によって振動板16上に下電極20を形成する。図5(c)に示す例では、下電極20を形成した後にパターニングしている。なお、上述した酸化ジルコニウム層の代わりに、又は、酸化ジルコニウム層に加えて、窒化チタンアルミ(TiAlN)膜、Ir膜、酸化イリジウム(IrO)膜、等の層を密着層又は拡散防止層として振動板16上に形成したうえで、当該層上に下電極20を形成してもよい。
次いで、スピンコート法といった液相法等によって少なくとも下電極20上に圧電体層30を形成し、スパッタ法等によって少なくとも圧電体層30上に上電極40を形成する。図5(d)に示す例では、上電極40を形成した後に圧電体層30及び上電極40をパターニングしている。これにより、圧電体層30及び電極(20,40)を有する圧電素子3が形成され、この圧電素子3及び振動板16を備えた圧電アクチュエーター2が形成される。以上が、圧電素子形成工程S2である。
圧電体層30を形成する場合、例えば、上述したPZTを構成する金属の有機物を分散媒に分散した前駆体溶液の塗布工程、例えば170〜180℃程度の乾燥工程、例えば300〜400℃程度の脱脂工程、及び、例えば550〜800℃程度の焼成工程を経ることにより、ペロブスカイト型酸化物を有する圧電体層30が形成される。塗布工程と乾燥工程と脱脂工程と焼成工程の組合せは、複数回行ってもよい。なお、液相法以外にも、スパッタ法といった気相法等で圧電体層30を形成してもよい。
次いで、図5(d)に示すように、振動板16をパターニングして、貫通孔(8,9)が形成される貫通孔対応領域(R3,R4)の振動板16に振動板貫通部17を形成する。例えば、絶縁膜16bをエッチングして貫通部17bを形成し、さらに弾性膜16aをエッチングして貫通部17aを形成する。図5(d)ではリザーバ9が形成される貫通孔対応領域R4を示しているが、位置決め孔8が形成される貫通孔対応領域R3も同様である。図5(d)に示す貫通部17bは貫通部17aよりも開口面積が大きくされているが、両貫通部17a,17bは同じ大きさで形成されてもよい。以上が、振動板貫通部形成工程S3である。
次いで、図6(a)に示すように、基板上にリード電極45及び封止層48を同時に形成する(封止層形成工程S4)。例えば、圧電素子3を設けた基板の全面に亘ってニッケルクロム等の密着層46をスパッタ法等により形成し、この密着層46上に金等の主金属層47をスパッタ法等により形成し、レジスト等からなるマスクパターンを介してパターニングすればよい。すると、貫通孔対応領域R3,R4にリード電極45とは不連続の封止層48を残し、振動板16の振動板貫通部17を封止することができる。この封止層形成工程S4により、リード電極45と同時に隔離層である封止層48を形成することができ、製造工程を簡略化してコストを低減することができる。むろん、リード電極45の形成とは別に封止層48を形成してもよい。
なお、電極(20,40)や密着層46や主金属層47は、DC(直流)マグネトロンスパッタリング法といったスパッタ法等によって形成することができる。各層の厚みは、スパッタ装置の印加電圧やスパッタ処理時間を変えることにより調整することができる。
次いで、図6(b)に示すように、圧電素子保持部52や接続配線54等を予め形成したリザーバ形成基板(連通孔形成基板)50を基板上に例えば接着剤55によって接合する(連通孔形成基板接合工程S5)。
次いで、図6(c)の破線で示すように、弾性膜16aを形成したシリコン基板15を例えば60〜80μm程度にする。例えば、当該シリコン基板15において圧電素子3とは反対側をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらにフッ硝酸によってウェットエッチングすることにより所定の厚みにする(削成工程S6)。なお、流路形成基板10の振動板16とは反対側の面をノズル側面10bとする。
次いで、図7(a)に示すように、当該シリコン基板15において圧力発生室12側となるノズル側面10bに上述したマスク膜18を形成し、所定形状にパターニングしてマスク開口部18aを形成する(マスク膜形成工程S7)。マスク開口部18aは、圧力発生室12等の液体流路、及び、位置決め孔(貫通孔)8に対応した箇所に形成される。従って、圧力発生室12及び貫通孔(8)に対応したマスク開口部18aを有するマスク膜18が流路形成基板10に形成される。
次いで、図7(b)及び図8に示すように、マスク膜18を介してKOH水溶液等のアルカリ溶液でシリコン基板15を異方性エッチング(ウェットエッチング)する。これにより、液体流路(12,13b,14)や位置決め孔連通部13b等が同時に形成される。このとき、振動板の振動板貫通部17が封止層48で封止された状態であるので、振動板貫通部17から圧電素子3側にエッチング液が流れ込まない。これにより、圧電素子3やリザーバ形成基板50に意図しないエッチングが行われたり、リザーバ形成基板50の表面に設けられている配線が断線したりする不具合を抑制することができる。
以上が、圧力発生室12及び基板開口部13を形成する流路形成工程S8である。
なお、シリコン基板15をエッチングする際、リザーバ形成基板50の流路形成基板10とは反対側の表面を、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PPTA(ポリパラフェニレンテレフタルアミド)、といった耐アルカリ性を有する封止フィルム等で封止してもよい。これにより、リザーバ形成基板50の表面に設けられた配線の断線等の不良をより確実に防止することができる。
また、液体流路(12,13a,14)は、圧電素子3の形成前に形成されてもよい。
次いで、図9に示すように、貫通孔対応領域R3,R4の密着層46を除去する(密着層除去工程S9)。例えば、塩酸過酸化水素といったエッチング液でマスク膜18側からウェットエッチング(ライトエッチング)することにより貫通孔対応領域の密着層46を除去することができる。本工程S9では、貫通孔対応領域R3,R4の封止層48の一部を除去すればよく、主金属層47の一部が除去されてもよい。これにより、後の工程で形成される保護膜80と封止層48との密着力が弱められ、封止層48から保護膜80が剥離され易くなる。
次いで、図10に示すように、エッチャントに溶液を用いてエッチングすることによりマスク膜18を除去する(マスク膜除去工程S10)。例えば、上述したリン酸水溶液といったリン酸とフッ酸の少なくとも一方を含む溶液でノズル側面10bからウェットエッチングすることにより、SiN(マスク膜)を流路形成基板10から除去することができる。これにより、図16で示したような広いくさび状の凹みは形成されず、図1に示すように、シリコン基板15(流路形成基板10)と主金属層47(封止層48)との界面I1に形成されるくさび状の凹みが厚み方向に狭くなる。
次いで、図11に示すように、圧力発生室12や基板開口部13等の内面に保護膜80を形成する(保護膜形成工程S11)。例えば、上述した酸化タンタルを化学気相法によりノズル側面10bから流路形成基板10に堆積させると、液体流路(12,13a,14)、及び、位置決め孔連通部13bの内面を含むノズル側面10bの全面にわたって保護膜80を形成することができる。保護膜80の形成は、化学気相法に限定されない。振動板貫通部17が封止層48によって封止されているため、流路形成基板10の圧電素子3側に保護膜80が形成されない。従って、リード電極45やリザーバ形成基板50の配線の接続不良等が抑制される。
次いで、図12に示すように、保護膜80を形成した基板開口部13の内面に内部応力が圧縮応力である剥離層85を形成する(剥離層形成工程S12)。例えば、上述したチタンタングステンを化学気相法によりノズル側面10bから保護膜80上に堆積させると、液体流路(12,13a,14)、及び、位置決め孔連通部13bの内面を含むノズル側面10bの全面にわたって剥離層85を形成することができる。剥離層85の形成は、化学気相法に限定されない。高応力材料の剥離層85を保護膜80上に形成すると、図1で示したように、剥離層85の応力によってシリコン基板15(流路形成基板10)と主金属層47(封止層48)との境界部分の近傍で剥離層85とともに保護膜80に亀裂C1が生じ、封止層48上に形成された保護膜80が剥がれ始める。
次いで、図13に示すように、貫通孔対応領域R3,R4の剥離層85及び保護膜80を除去する。例えば、チタンタングステン(剥離層)のエッチング液でノズル側面10bからウェットエッチングすると、エッチング液が亀裂C1から保護膜80と主金属層47(封止層48)との境界面に入る。これにより、剥離層85を除去することができるとともに、貫通孔対応領域R3,R4の保護膜80を除去することができる。封止層48から密着層46が除去されていると、封止層48と保護膜80との密着力が弱められ、より確実に保護膜80を除去することができる。
次いで、図14に示すように、貫通孔対応領域R3,R4の封止層48を除去し、貫通孔(8,9)を形成する。例えば、Au(主金属層)のエッチング液でノズル側面10bからウェットエッチングすると、主金属層47を除去することができる。
以上が、貫通孔形成工程S13である。
一実施例として、以下のサンプルを作製した。
上述した製造方法に従って、シリコン基板の表面に酸化シリコン(化学量論比SiO2)を弾性膜16aとして形成した。該弾性膜上に、酸化ジルコニウム(化学量論比ZrO2)の絶縁膜16b、PZTの圧電体層30を有する圧電素子3、ニッケルクロムの密着層46、及び、金の主金属層47を形成した。窒化シリコンをマスク膜18として液体流路及び位置決め孔連通部を形成した後、リン酸水溶液でウェットエッチングすることによりマスク膜を除去した。酸化タンタル(化学量論比Ta25)を保護膜80として形成し、チタンタングステンを剥離層85として形成して、実施例サンプルとした。
一比較例として、マスク膜18のエッチャントにCF4ガスを用いてプラズマエッチングした以外は上記実施例と同様にして、比較例サンプルを作製した。
それぞれのサンプルについて、位置決め孔となる部分の断面を観察した。CF4ガスでマスク膜を除去した比較例サンプルは、図16に模式的に示すように、シリコン基板15と主金属層47との界面I2が厚み方向D3に広くくさび状に凹み、シリコン基板15と主金属層47との境界部分の近傍で保護膜80に亀裂が生じていなかった。剥離層のエッチング液で比較例サンプルをウェットエッチングしたところ、主金属層47に保護膜80が残っていた。さらに、主金属層のエッチャントでエッチングしたところ、位置決め孔が開口しなかった。
一方、リン酸水溶液でマスク膜を除去した実施例サンプルは、図1に模式的に示すように、シリコン基板15と主金属層47との界面I1に形成されるくさび状の凹みが厚み方向D3に狭く、シリコン基板15と主金属層47との境界部分の近傍で保護膜80に亀裂C1が生じていた。剥離層のエッチング液で比較例サンプルをウェットエッチングしたところ、主金属層47から保護膜80が剥離された。さらに、主金属層のエッチャントでエッチングしたところ、位置決め孔が開口した。
貫通孔形成工程S13の後、リザーバ形成基板50の接続配線54上に駆動IC65を実装し、駆動IC65とリード電極45とを駆動配線66によって接続する。次いで、流路形成基板10及びリザーバ形成基板50の周縁部の不要部分を例えばダイシングにより切断して除去する。次いで、図4(b)に示されるように、ノズル開口71を予め形成したノズルプレート70をシリコン基板15の圧力発生室12側の面に接合する。流路形成基板10の開口面側に対するノズルプレート70の固着には、接着剤、熱溶着フィルム、等を用いることができる。
次いで、封止膜61と固定板62を積層したコンプライアンス基板60をリザーバ形成基板50上に接合し、所定のチップサイズに分割する。
以上により、記録ヘッド1が製造される。
本記録ヘッド1は、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバ9からノズル開口71に至るまで内部をインクで満たす。駆動IC65からの記録信号に従い、圧力発生室12毎に下電極20と上電極40との間に電圧を印加すると、圧電体層30、下電極20及び振動板16の変形によりノズル開口71からインク滴が吐出する。
以上説明したように、本製造方法によると、エッチャントに溶液を用いてエッチングすることによりマスク膜18を除去することにより、流路形成基板と封止層との界面に形成されるくさび状の凹みが厚み方向に狭く、流路形成基板と封止層との境界部分にある保護膜に亀裂が生じる。これにより、本製造方法は、封止層上から保護膜が剥離され易くなり、流路形成基板及び振動板に厚み方向へ貫通した貫通孔をより確実に形成することができる。
(3)液体噴射装置:
図15は、上述した記録ヘッド1を有するインクジェット式の記録装置(液体噴射装置)200の外観を示している。記録ヘッド1を記録ヘッドユニット211,212に組み込むと、耐久性を向上させた記録装置200を製造することができる。図15に示す記録装置200は、記録ヘッドユニット211,212のそれぞれに、記録ヘッド1が設けられ、外部インク供給手段であるインクカートリッジ221,222が着脱可能に設けられている。記録ヘッドユニット211,212を搭載したキャリッジ203は、装置本体204に取り付けられたキャリッジ軸205に沿って往復移動可能に設けられている。駆動モーター206の駆動力が図示しない複数の歯車及びタイミングベルト207を介してキャリッジ203に伝達されると、キャリッジ203がキャリッジ軸205に沿って移動する。図示しない給紙ローラー等により給紙される記録シート290は、プラテン208上に搬送され、インクカートリッジ221,222から供給され記録ヘッド1から吐出するインクにより印刷がなされる。
(4)応用、その他:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
上述した製造工程の順序は、適宜、変更可能である。例えば、振動板形成工程S1で振動板16を形成した後、先に振動板貫通部17を形成し、この振動板貫通部17に封止層48を形成してから圧電素子3を形成してもよい。
上述した実施形態では圧力発生室毎に個別の圧電体を設けているが、複数の圧力発生室に共通の圧電体を設け圧力発生室毎に個別電極を設けることも可能である。
上述した実施形態では流路形成基板にリザーバの一部を形成しているが、流路形成基板とは別の部材にリザーバを形成することも可能である。
上述した実施形態では圧電素子の上側を圧電素子保持部で覆っているが、圧電素子の上側を大気に開放することも可能である。
流体噴射ヘッドから吐出される液体は、液体噴射ヘッドから吐出可能な材料であればよく、染料等が溶媒に溶解した溶液、顔料や金属粒子といった固形粒子が分散媒に分散したゾル、等の流体が含まれる。このような流体には、インク、液晶、等が含まれる。液体噴射ヘッドは、プリンターといった画像記録装置の他、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造装置、有機ELディスプレー等の電極の製造装置、バイオチップ製造装置、等に搭載可能である。
なお、従属請求項に係る構成要件を有しておらず独立請求項に係る構成要件のみからなる製造方法等でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、流路形成基板及び振動板に厚み方向へ貫通した貫通孔をより確実に形成することができる技術等を提供することができる。
また、上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
1…記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、2…圧電アクチュエーター、3…圧電素子、8…位置決め孔(貫通孔)、9…リザーバ、10…流路形成基板、10a…振動板側面、10b…ノズル側面、12…圧力発生室、13…基板開口部、13a,13b…連通部、15…シリコン基板、16…振動板、16a…弾性膜、16b…絶縁膜、17…振動板貫通部、17a,17b…貫通部、18…マスク膜、18a…マスク開口部、20…下電極(第1電極)、30…圧電体層、40…上電極(第2電極)、45…リード電極、46…密着層、47…主金属層、48…封止層、50…リザーバ形成基板(連通孔形成基板)、51…連通孔、60…コンプライアンス基板、65…駆動IC、70…ノズルプレート、71…ノズル開口、80…保護膜、85…剥離層、200…記録装置(液体噴射装置)、C1…亀裂、I1,I2…界面、R1…圧力発生室対応領域、R3,R4…貫通孔対応領域、S1…振動板形成工程、S2…圧電素子形成工程、S3…振動板貫通部形成工程、S4…封止層形成工程、S5…連通孔形成基板接合工程、S6…削成工程、S7…マスク膜形成工程、S8…流路形成工程、S9…密着層除去工程、S10…マスク膜除去工程、S11…保護膜形成工程、S12…剥離層形成工程、S13…貫通孔形成工程。

Claims (7)

  1. ノズル開口に連通する圧力発生室を有する流路形成基板、及び、該流路形成基板に設けられた振動板に、厚み方向へ貫通した貫通孔が形成された液体噴射ヘッドの製造方法であって、
    前記振動板の前記貫通孔に対応した振動板貫通部を封止し、主金属層及び該主金属層よりも前記流路形成基板側の密着層を有する封止層を形成する工程と、
    前記流路形成基板の前記振動板とは反対側の面に形成されたマスク膜を介してエッチングすることにより、前記圧力発生室、及び、前記貫通孔となる基板開口部を前記流路形成基板に形成する工程と、
    エッチャントに溶液を用いてエッチングすることにより前記マスク膜を除去する工程と、
    前記圧力発生室及び前記基板開口部の内面に耐液体性を有する保護膜を形成する工程と、を含み、
    前記貫通孔に対応した領域の前記密着層は、前記基板開口部の内寸よりも大きい内寸となるようにウェットエッチングで除去され、
    前記保護膜を形成する工程では、前記密着層が除去されたことにより露出した前記主金属層の一部を含めて前記保護膜を形成し、
    さらに、前記保護膜に内部応力が圧縮応力である剥離層を積層する工程と、
    前記貫通孔に対応した領域の剥離層及び保護膜を除去し、前記封止層を除去して前記貫通孔を形成する工程と、を含む、液体噴射ヘッドの製造方法。
  2. 前記エッチャントがリン酸とフッ酸の少なくとも一方を含む溶液である、請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
  3. 前記マスク膜が窒化シリコンである、請求項1又は請求項2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
  4. 前記保護膜の材料に少なくとも酸化タンタルを用いた、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
  5. 前記剥離層の材料に少なくともチタンタングステンを用いた、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
  6. 前記貫通孔に繋がる連通孔を形成した連通孔形成基板を前記振動板が設けられた流路形成基板に接合する工程を備える、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
  7. 請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法により液体噴射ヘッドを形成する工程を備えた、液体噴射装置の製造方法。
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