JP6100041B2 - エタノール濃度低減清酒の製造方法及び製造システム - Google Patents

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Description

本発明は、エタノール濃度低減清酒の製造方法及び製造システムに関し、より詳しくは、清酒本来の香味が保持され、且つ香味のバラつきを防止できるエタノール濃度低減清酒の製造方法及び製造システムに関する。
近年、エタノール濃度が低減されたワイン等の酒類が普及している。
特許文献1、2は、回転円錐カラムを用いて、ワインのエタノール濃度を低減する方法について開示している。
また、特許文献3に記載の方法では、ワインを、まず逆浸透膜で処理して膜透過液及び膜非透過液を得、該膜透過液を更にパーベーパレーション処理して低アルコール含有液を得る。そして、この低アルコール含有液に、上記膜非透過液を添加して、低アルコールワインを得るとしている。
一方、酒類の一つである清酒については、従来、エタノール濃度を低減した商品は、ほとんど普及していない。
特開昭61−274705号公報 特開平7−22646号公報 特開平4−222585号公報
特許文献3は、上述した低アルコールワインの製造方法と同様の方法を清酒の場合に適用することも開示しているが、清酒原料の全量を逆浸透膜で処理するものであるため、処理効率が得られ難い問題がある。また、低エタノール濃度とされた製品に、清酒本来の香味を保持する観点でも、改善の余地があった。
一方、特許文献1、2に記載される回転円錐カラムは、処理効率の面では優れるが、清酒の場合に適用しようとすると、清酒本来の香味が損なわれ易い問題があった。
また、特に清酒においては、エタノール濃度が香味(特に辛み)に影響し易いため、低エタノール濃度とされた製品のエタノール濃度にバラつきが生じると、香味のばらつきが大きくなる問題もある。
そこで、本発明の課題は、清酒本来の香味が保持され、且つ香味のバラつきを防止できるエタノール濃度低減清酒の製造方法及び製造システムを提供することにある。
更にまた、本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
1.
少なくともエタノールと香り成分を含む清酒から香り成分を蒸留する香り成分蒸留工程と、
前記香り成分蒸留工程において前記香り成分が分離された清酒からエタノールを蒸留するエタノール蒸留工程と、
前記エタノール蒸留工程を経た清酒に、前記香り成分蒸留工程で分離された前記香り成分を添加して該清酒に香気を付与する香り成分添加工程と、
を含むエタノール濃度低減清酒の製造方法であって、
前記香り成分蒸留工程及び前記エタノール蒸留工程における蒸留を、0℃超10℃以下の温度下において行い、
前記香り成分添加工程の前に、前記香り成分蒸留工程において分離された前記香り成分に同伴するエタノールをPV膜又はRO膜により分離する膜処理工程を有することを特徴とするエタノール濃度低減清酒の製造方法。
2.
前記香り成分添加工程を経た前記清酒に、調味料を添加する工程を更に備えることを特徴とする前記1記載のエタノール濃度低減清酒の製造方法。
3.
少なくともエタノールと香り成分を含む清酒を導入して、該清酒から香り成分を蒸留する香り成分蒸留手段と、
前記香り成分蒸留手段によって前記香り成分が分離された清酒を導入して、該清酒からエタノールを蒸留するエタノール蒸留手段と、
前記エタノール蒸留手段によって前記エタノールが分離された清酒に、前記香り成分蒸留手段によって分離された前記香り成分を添加して香気を付与する香り成分添加手段と、
を備えたエタノール濃度低減清酒の製造システムであって、
前記香り成分蒸留手段及び前記エタノール蒸留手段における蒸留が、0℃超10℃以下の温度下において行われ、
前記清酒に添加される前の前記香り成分を導入して、該香り成分に同伴するエタノールを分離するPV膜又はRO膜を備えることを特徴とするエタノール濃度低減清酒の製造システム。
4.
前記香り成分蒸留手段は、回転円錐カラムであることを特徴とする前記3記載のエタノール濃度低減清酒の製造システム。
5.
前記エタノール蒸留手段は、回転円錐カラムであることを特徴とする前記3又は4記載のエタノール濃度低減清酒の製造システム。
6.
前記香り成分添加手段を経た前記清酒に、調味料を添加する調味料添加手段を更に備えることを特徴とする前記3〜5の何れかに記載のエタノール濃度低減清酒の製造システム。
本発明によれば、清酒本来の香味が保持され、且つ香味のバラつきを防止できるエタノール濃度低減清酒の製造方法及び製造システムを提供することができる。
本発明に係るエタノール濃度低減清酒の製造方法の一例を示す工程図 本発明に係るエタノール濃度低減清酒の製造システムの一例を示す説明図 回転円錐カラムの概略断面側面図 回転円錐カラムにおける清酒原料の循環回数あるいは接触キャリアガス流量と、処理後エタノール濃度との関係の一例を示す相関図 本発明に係るエタノール濃度低減清酒の製造システムの他の例を示す説明図
以下に、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
本発明において、原料として用いられる清酒は、例えば酒税法(特に酒税法3条7号)上の清酒であり、具体的には、米、米こうじ及び水、あるいはこれらに清酒粕等を加えて発酵させ、濾したものや、清酒に清酒粕を加えて、濾したもの等を好ましく例示でき、そのアルコール濃度は、10質量%以上22質量%以下(好ましくは22質量%未満)であることが好ましく、12質量%以上18質量%以下であることがより好ましい。
清酒に含まれる香り成分としては、酢酸エチル等のエステル類、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、カプロンアルデヒド、フルフラール、バニリン等のアルデヒド類、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール(ペンチルアルコール)、フェネチルアルコール等のアルコール類等が挙げられる。
本発明は、清酒(原料)のエタノール濃度を所定濃度まで低減する際に好適に用いられる。
図1は、本発明に係るエタノール濃度低減清酒の製造方法の一例を示す工程図である。
まず、少なくともエタノールと香り成分を含む清酒は、香り成分蒸留工程に供され、当該清酒中から、香り成分を主成分(水以外の主成分)として含む分画が分離される。
香り成分蒸留工程に用いられる香り成分蒸留手段としては、0℃超10℃以下の温度下において香り成分を蒸留できるものであれば格別限定されないが、後述する回転円錐カラムを好適に用いることができる。
次いで、香り成分蒸留工程において香り成分が分離された清酒分画は、エタノール蒸留工程に供され、当該清酒分画から、エタノールを主成分として含む分画が蒸留される。
エタノール蒸留工程に用いられるエタノール蒸留手段としては、0℃超10℃以下の温度下においてエタノールを分離できるものであれば格別限定されないが、香り成分蒸留工程と同様に、後述する回転円錐カラムを好適に用いることができる。
次いで、香り成分添加工程では、エタノール蒸留工程を経た清酒分画、即ち、香り成分およびエタノールが除去された分画に、香り成分蒸留工程で分離された香り成分を添加して該清酒に香気を付与する。
本発明において、香り成分添加工程において添加される香り成分は、膜処理工程に供されることにより、予め、当該香り成分に同伴するエタノールが、膜透過側に蒸気として分離・除去されている。
本発明者の知見によれば、PV膜又はRO膜は、エタノールと香り成分の分離精度に優れる特性を有する半面、比較的処理速度が遅い場合がある。ところが、上述した通り、香り成分蒸留工程において清酒原料から分離される香り成分の量は少量であるため、これをPV膜又はRO膜に供しても、処理時間の増大を防止できる。これにより、香り成分からのエタノールの分離精度と、処理効率とが好適に両立される。
特にPV膜を用いる場合は、処理効率を更に向上する観点で、香り成分を予め加熱しておくことも好ましいことである。清酒原料自体を加熱する場合は、タンパク質等の変性により味覚を損なわない範囲にとどめる必要があるが、清酒原料から分離された香り成分であれば、このような制約を受けることなく、比較的高温に加熱することができる。また、分離された香り成分は、清酒原料自体よりも少量であるため、加熱に要するエネルギーコストも節約できる効果が得られる。
本発明によれば、香り成分に同伴されるエタノールが除去されたことにより、当該香り成分の添加に伴うエタノール濃度の再上昇が防止される。その結果、エタノール蒸留工程において調整された清酒のエタノール濃度が、香り成分の添加後においても好適に保持され、エタノール濃度を、精度よく所望の濃度としたエタノール濃度低減清酒を、確実且つ効率的に製造することができる効果が得られる。特に、清酒においては、エタノール濃度が味覚(特に辛み)に影響し易いが、本発明によれば、エタノール濃度低減清酒における味覚のばらつきを防止できる効果が得られる。
更に、PV膜又はRO膜を用いる膜処理工程では、エタノールを高度に除去する一方で、清酒本来の香気を実質的に構成する香り成分を好適に保持することができ、エタノール濃度低減清酒に、エタノール濃度の上昇を招くことなく、清酒本来の香気を好適に付与できる効果も得られる。
更に、本発明では、香り成分蒸留工程及びエタノール蒸留工程における蒸留を、0℃超10℃以下という低温下で行うことにより、清酒に含まれるアミノ酸、タンパク質などの変性を防止でき、このことも、本発明により得られるエタノール濃度低減清酒の香味の保持に寄与しているものと考えられる。
また更に、本発明では、香り成分蒸留工程と、エタノール蒸留工程とを別途備えるため、香り成分蒸留工程において、香り成分を主成分(水以外の主成分)として含む分画が好適に分離できる。その結果、香り成分を凝縮する際の凝縮器(コンデンサー)の負荷(エネルギー)を軽減することができ、また、香り成分の回収効率にも優れる効果が得られる。
図2は、本発明に係るエタノール濃度低減清酒製造方法を実施するためのエタノール濃度低減清酒製造システムの一例を示す説明図である。
図2において、1は第1回転円錐カラム、2は凝縮器、3は真空ポンプ、4は浸透気化膜(以下、PV膜という場合がある。)、5は凝縮器、6は真空ポンプ、7は第2回転円錐カラム、8は凝縮器、9は真空ポンプである。
少なくともエタノールと香り成分を含む清酒(原料)は、香り成分蒸留手段である第1回転円錐カラム1に導入され、該第1回転円錐カラム1において、キャリアガスとの気液接触によって、香り成分が気相(キャリアガス)に分離・回収される(香り成分蒸留工程)。
本発明に係る第1回転円錐カラム1として用いられる回転円錐カラムの構成例について、図3を参照して説明する。
図3は、回転円錐カラムの概略断面側面図である。
100は回転円錐カラムであり、密封可能な塔型の本体101内にハウジング102が設けられている。
ハウジング102は、上部に、清酒原料を導入するための液体入口110aと、キャリアガスを排出するためのガス出口120bと、を有し、下部には、処理後の清酒原料を排出する液体出口110bと、キャリアガスを導入するためのガス入口120aと、を有している。
103は、ハウジング102内の上部側から下部側に架け渡された回転自在の中心軸であり、103aは、該中心軸103を回転させるためのモーターである。
中心軸103には、該中心軸103の回転に伴って回転自在の第1反転円錐104が取り付けられている。
第1反転円錐104は、上下反転させた円錐、つまり頂点を下に向けた円錐の底面ではない曲面部の板状の円錐面により構成されている。第1反転円錐104の回転軸は、中心軸103と同軸である。
第1反転円錐104は、ハウジング102の内壁との間に液体の流通を可能とする間隙を残すように延長されている。
また、各々の第1反転円錐104の下面には、該下面から延長された少なくとも1つのひれ104aが設けられていることが好ましい。
中心軸103には、このような第1反転円錐104が、上下方向(中心軸103の軸方向)に所定のピッチで複数設けられている。
105は、ハウジング102の内壁から第1反転円錐104の下側に隣接するように延長された第2反転円錐である。
第2反転円錐105もまた、上下反転させた円錐、つまり頂点を下に向けた円錐の底面ではない曲面部の板状の円錐面により構成されている。第2反転円錐105は、ハウジング102側に固定され、上側に配置されている第1反転円錐104との間に液体の流通を可能とする間隙を保持して、該第1反転円錐104と略平行に配置されている。
第2反転円錐105の頂点近傍は切欠されており、これにより、中心軸103との間に液体の流通を可能とする間隙を形成している。
ハウジング102の内壁には、このような第2反転円錐105が、上下方向に、第1反転円錐104と同じ所定のピッチで複数設けられている。
図示の例では、複数の第1反転円錐104と、複数の第2反転円錐105とが、上下方向に沿って、液体の流通を可能とする間隙を介して、1つずつ交互に配置されている。
130は、ハウジング102内の温度を所定温度に保持するためのジャケット(温度調節手段)であり、該ジャケット130は、冷水の入口130aと出口130bを有している。
使用時には、清酒原料を、液体入口110aを通じて、本体101のハウジング102内の上部に供給すると共に、該清酒原料からの香り成分を回収するためのキャリアガスを、ガス入口120aを通じて、ハウジング102内の下部に供給する。
供給された清酒原料の少なくとも一部が、ハウジング102内に滞留している間に、中心軸103は、モーター103aの動力により回転させられる。
ハウジング102内において、液体入口110aから液体出口110bへ向かう清酒原料は、第1反転円錐104の中心軸103側の表面に流れ込むと、該第1反転円錐104の回転により外方(中心軸103と反対方向)に分散させられる。次いで、外方に分散された清酒原料は、下側の第2反転円錐105の中心軸103と反対側の表面に流れ込み、該表面が有するテーパに沿って内方(中心軸103の方向)に流下させられる。
流下された清酒原料は、更に下側に設けられた第1反転円錐104の中心軸103側の表面に流れ込み、上記と同様の過程を繰り返しながら、ハウジング102内を下降し、下方の液体出口110bへ向かう。
一方、ハウジング102内の下部に供給されたキャリアガスは、複数の第1反転円錐104及び第2反転円錐105の間を通過しながら、つまり、上述した清酒原料の流れと同様の経路を逆行しながら、ハウジング102内を上昇し、上方のガス出口120bへ向かう。
このような過程において、清酒原料の流れは、逆方向に向かうキャリアガスの流れと向流接触させられ、清酒原料中の香り成分をガス中に抽出する。
香り成分が除去された清酒原料と、液体からの香り成分を含有させたキャリアガスは、それぞれ、液体出口110bと、ガス出口120bより回収される。
ガス出口120bより回収された香り成分を含有させたキャリアガスは、凝縮器2に導入され、ここで香り成分が、凝縮物として、キャリアガスから分離される。凝縮器2にトラップされた香り成分は、後に詳述するPV膜4へ移送される。
凝縮器2を通過した後のキャリアガスをガス入口120aに返送する返送配管120cを設けて、キャリアガスを循環し、繰り返し使用することが好ましい。
香り成分の除去をより高度に行う等の観点で、液体出口110bからの清酒原料を、第1回転円錐カラム1に返送する返送機構を設け、繰り返し処理を行ってもよい。
本発明において、第1回転円錐カラム1の運転条件は、ハウジング102内の温度が、0℃超10℃以下の範囲とされ、また、圧力は、−90kPaG〜10kPaGの範囲であることが好ましい。
ハウジング102内の温度の設定は、例えば、上述したジャケット(温度調節手段)130等により行うことができる。また、圧力の設定は、例えば、キャリアガスを流通させるための真空ポンプ3の動力等により調節できる。
なお、第1回転円錐カラム1におけるキャリアガスの流通のためには、必ずしも真空ポンプ3を用いる必要はなく、ガス入口120a側にファンやコンプレッサーを設けて行ってもよい。ファンやコンプレッサーを用いる場合は、ハウジング102内を加圧することも容易である。特に、第1回転円錐カラム1では、後述する第2回転円錐カラム7と比較して、清酒原料からの揮発の促進を促す必要性が低いため、ハウジング102内を加圧状態とすることも好ましいことである。
凝縮器2は、ガス出口120bからのキャリアガスを導入し、これを冷却することで、液体状の香り成分をトラップする。トラップされた液体状の香り成分は、好ましくは香り成分を主成分(水以外の主成分)として含む分画であり、最終的にエタノール濃度低減清酒中に戻されるものであるが、これについては後に詳述する。
一方、香り成分が除去された清酒原料は、液体出口110bから回収された後、エタノール蒸留手段である第2回転円錐カラム7に導入され、該第2回転円錐カラム7において、キャリアガスとの気液接触によって、エタノールが気相(キャリアガス)に分離・回収される(エタノール蒸留工程)。
本発明に係る第2回転円錐カラム7として用いられる回転円錐カラムは、基本的には、第1回転円錐カラム1と同様に、図3に示した構成のものを用いることができ、第1回転円錐カラム1で分離対象とした香り成分に代えて、ここではエタノールが分離対象となる。
本発明において、第2回転円錐カラム7での脱エタノール処理に際しては、予め第1回転円錐カラム1によって香り成分が分離・回収されているため、香り成分を清酒中に保持することを考慮する必要がない。そのため、第2回転円錐カラム7では、エタノールの高度除去を実現し得る強力な運転条件(清酒原料からの揮発を大きく促進し得る運転条件)を好ましく適用できる。
本発明において、揮発の促進は、主に圧力設定によってなされ、第2回転円錐カラム7の運転条件は、第1回転円錐カラム1よりも低圧であることが好ましく、具体的には、−90kPaG〜10kPaGの範囲であることが好ましい。このとき、ハウジング内の温度は、0℃超10℃以下の範囲に維持されることが重要である。
ハウジング内の温度は、例えばジャケット(温度調節手段)等により設定可能であり、圧力は、キャリアガスの流通を行う真空ポンプ9の動力等によって設定可能である。
第2回転円錐カラム7で分離されたエタノールは、凝縮器8によりトラップして、適宜回収してもよい。凝縮器8によりトラップされるエタノール(エタノール分画)は、エタノールを主成分(水以外の主成分)として含有することが好ましい。
第2回転円錐カラム7での脱エタノール処理により、清酒中のエタノール濃度は、所望の濃度まで低減される。
図4は、回転円錐カラムにおける清酒原料の循環回数あるいは接触キャリアガス流量と、処理後エタノール濃度との関係の一例を示す相関図である。
図4に示されるように、第2回転円錐カラム7における処理後エタノール濃度は、当該回転円錐カラム7における清酒原料の循環回数あるいは接触キャリアガス流量(ここではNを用いた)の設定により所望の濃度に設定することができる。
このように、エタノール濃度を所望の値まで低減する操作を容易且つ高精度にする観点でも、エタノール蒸留手段として、回転円錐カラムを用いることが好ましい。
第2回転円錐カラム7から回収される清酒に、第1回転円錐カラム1によって分離され、凝縮器2にトラップされる香り成分を添加することで、エタノール濃度低減清酒に、清酒本来の香気を回復することができるが、上述した通り、上記香り成分中には、若干のエタノールが混入する。
回転円錐カラムにより抽出される香り成分の量は、清酒原料の量と比較して、好ましくは10分の1〜1000分の1程度まで減量されるため、比較的処理速度の遅いPV膜又はRO膜に供したとしても、処理時間の増大を防止して、製造効率を向上できる。
そこで、本発明では、エタノール濃度低減清酒中に戻される香り成分を、予めPV膜又はRO膜(図示の例ではPV膜4)により脱エタノール処理する(膜処理工程)。
つまり、凝縮器2にトラップされた上述の液体状の香り成分を、PV膜4と接触させ、真空ポンプ6により減圧状態とされた膜透過側に、エタノールを蒸気として分離する。分離されたエタノール蒸気は、凝縮器5によって液化してトラップすることができる。香り成分は、PV膜4の膜非透過側(供給側)から回収される。
本発明において、PV膜4としては、減圧状態にある膜透過側にエタノールを選択的に気化して分離できるものであれば格別限定されない。香り成分の膜透過を好適に防止する観点では、例えば、疎水性のゼオライト分離膜等を好ましく用いることができる。
疎水性のゼオライト分離膜としては、例えば、天然のゼオライトや、人工のシリカライトにより構成された膜が挙げられ、これらは適宜表面を疎水化処理して用いられる。
疎水化処理されたゼオライト分離膜としては、ゼオライト(シリカライト)膜表面に脂肪族炭化水素等の高分子やチタン等を導入したものを好ましく用いることができ、中でもゼオライト(シリカライト)膜表面にチタンを導入してなるチタノシリケート膜を用いることが好ましい。
PV膜4の形態は、格別限定されず、例えば、中空糸膜状や平膜状のものを好ましく用いることができる。
PV膜4の膜透過側の領域は、絶対圧(真空)として1kPa〜100kPaの範囲の圧力とすることが好ましく、膜非透過側(供給側)の領域は、0PaG〜0.2MPaGの範囲の圧力とすることが好ましい。
また、PV膜4に供給される香り成分は、10℃〜60℃の範囲に加温されていることが好ましい。
PV膜4でのかかる脱エタノール処理により、エタノール濃度が、好ましくは、0.3質量%〜0.4質量%(好ましくは未満)の範囲、より好ましくは、0.001質量%〜0.3質量%(好ましくは未満)の範囲まで低減された香り成分(清酒由来香り成分)が得られる。
得られた香り成分は、移送配管(添加手段)41により、第2回転円錐カラム7からの脱エタノール処理された清酒に添加される。
本発明によれば、香り成分に同伴されるエタノールが除去されたことにより、当該香り成分の添加に伴うエタノール濃度の再上昇が防止される。その結果、エタノール蒸留手段である第2回転円錐カラム7において所望の濃度に調整された清酒のエタノール濃度が、香り成分の添加後においても好適に保持され、エタノール濃度を、精度よく所望の濃度としたエタノール濃度低減清酒を、確実且つ効率的に製造することができる効果が得られる。特に、清酒においては、エタノール濃度が味覚(特に辛み)に影響し易いが、本発明によれば、エタノール濃度低減清酒における味覚のばらつきを防止できる効果が得られる。
更に、PV膜は、エタノールを高度に除去する一方で、清酒本来の香気を実質的に構成する香り成分を好適に保持することができ、エタノール濃度低減清酒に、エタノール濃度の上昇を招くことなく、清酒本来の香気を好適に付与できる効果も得られる。
更に、本発明では、第1回転円錐カラム1及び第2回転円錐カラム7における蒸留を、0℃超10℃以下という低温下で行うことにより、清酒に含まれるアミノ酸、タンパク質などの変性を防止でき、このことも、本発明により得られるエタノール濃度低減清酒の香味の保持に寄与しているものと考えられる。
第1回転円錐カラム1に用いられるキャリアガスとしては、格別限定されるものではないが、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素等が例示でき、清酒の風味を好適に保持する観点では、特に窒素が好ましい。
第2回転円錐カラム7に用いられるキャリアガスとしては、第1回転円錐カラム1に用いられる上記キャリアガス種の他に、清酒からの香り成分の揮発を防止する観点で、キャリアガス中に予め清酒由来の香り成分を含有させることも好ましく、具体的には、清酒蒸気を含有させることが好ましい。第2回転円錐カラム7のキャリアガスを、第1回転円錐カラム1と同様に、循環ラインにして繰り返し使用しても良い。
特に、清酒からのエタノールの揮発を妨げることなく、香り成分の揮発を防止する観点では、「香り成分が添加された後のエタノール濃度低減清酒」の蒸気を含有することが特に好ましい。「香り成分が添加された後のエタノール濃度低減清酒」としては、例えば、本発明により製造される上述のエタノール濃度低減清酒の一部を返送して用いることも好ましいことである。
以上の説明では、香り成分蒸留工程における香り成分蒸留手段として、回転円錐カラム(第1回転円錐カラム1)を用いる場合について示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、0℃超10℃以下の温度下において、清酒から香り成分を蒸留し得る香り成分蒸留手段であれば、好適に用いることができ、例えば、蒸留塔などを好ましく例示できる。
また、以上の説明では、エタノール分離工程におけるエタノール分離手段として、回転円錐カラム(第2回転円錐カラム7)を用いる場合について示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、0℃超10℃以下の温度下において、清酒からエタノールを分離し得るエタノール分離手段であれば、好適に用いることができ、例えば、蒸留塔などを好ましく例示できる。
特に本発明において好ましいのは、香り成分蒸留工程及び又はエタノール蒸留工程で用いられる香り成分蒸留手段及び又はエタノール蒸留手段として、回転円錐カラムを用いることである。回転円錐カラムを用いると、0℃超10℃以下の温度下という低温であっても高い蒸留効率が得られ易い。また、回転円錐カラムは、連続プロセスへの適応性が高いため、同じく連続プロセスへの適応性が高いPV膜4あるいはRO膜と組み合わせることによって、相乗的に製造効率を向上できる効果も奏される。
また、本発明においては、必ずしもPV膜4で回収された香り成分の全量がエタノール濃度低減清酒に添加される必要はなく、一部であってもよい。本発明によれば、香り成分の全量を添加しても、エタノールが高度に除去されていることにより、例えばエタノール濃度0.005質量%未満を好適に保持できる効果が得られる。
以上の説明では、PV膜4により脱エタノール処理された香り成分(清酒由来香り成分)を、第2回転円錐カラム7での脱エタノール処理後の清酒(エタノール及び香り成分が除去された清酒)に添加する場合を示したが、本発明は、必ずしもこれに限定されるものではなく、清酒由来香り成分を、清酒や、清酒以外の他の飲料等に添加してもよく、これにより、エタノール濃度の上昇を防止しながら、飲料等に清酒の香気を付与(新たに付与する場合であっても、香気を増強する場合であってもよい)することができる。
図5は、本発明に係るエタノール濃度低減清酒の製造システムの他の例を示す説明図であり、分離膜として、PV膜に代えてRO膜を備える場合の一例を示している。図中、図2と同符号は同構成を指し、図2を参酌してした説明が援用される。
図5の例では、凝縮器2において回収されたエタノール及び香り成分の混合物は、加圧ポンプ6’により加圧された状態で逆浸透(RO)膜4’に供給される。エタノールはRO膜4’を透過して除去され、香り成分が非透過側(供給側)から回収される。
回収された香り成分は、移送配管(添加手段)41により第2回転円錐カラム7での処理後の清酒に添加され、エタノール濃度低減清酒が得られる。
本発明においては、得られるエタノール濃度低減清酒のエタノール濃度を、例えば8質量%以下の所定値に調整することで、辛味の抑えられた、例えば女性等にも受け入れられ易いものとすることができる。
また、本発明によれば、これより更にエタノール濃度を低減することも可能であり、実質的にエタノールを含まない清酒、具体的にはエタノール濃度が0.00質量%である(0.005質量%未満である)清酒を確実に製造できる。
また、本発明では、エタノール濃度低減清酒の風味(香気成分、酸味調整)などを整える等の目的で、香り成分添加工程を経た清酒に、香料や酸やみりん等の調味料などの添加物を、不図示の添加手段により適宜添加することができる。
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はかかる実施例に限定されない。
1.分離膜としてPV膜を用いた実施例
(実施例1)
図2に示したエタノール濃度低減清酒の製造システム(分離膜としてPV膜4を使用)を用いて、清酒(エタノール濃度15質量%)を原料として用い、下記運転条件で、エタノール濃度低減清酒を製造した。
<運転条件>
・第1回転円錐カラム1
温度:10℃
絶対圧:1bar
原料供給量:100kg/h
原料繰り返し循環処理回数:1回
接触キャリアガス(N)流量:1kg/h
・第2回転円錐カラム7
温度:10℃
絶対圧:0.113bar
原料供給量(循環1回分):100kg/h
原料繰り返し循環処理回数:1回
接触キャリアガス(N)流量:1kg/h
下記I〜VIIで示した箇所におけるマテリアルバランス及び組成を表1に示した。なお、下記I〜VIIで示した箇所は、図2中に符号I〜VIIで示した箇所に対応する。
I:処理前清酒原料
II:第1回転円錐カラム1での処理後の液相(清酒分画)
III:第2回転円錐カラム7での処理後の液相(清酒分画)
IV:第1回転円錐カラム1での処理後の気相を凝縮した液(香り成分分画)
V:PV膜4を透過した蒸気を凝縮した液(エタノール分画)
VI:PV膜4を透過しない液(香り成分分画)
VII:上記III液に上記VI液を添加した液(エタノール濃度低減清酒)
Figure 0006100041
表1において、エタノールや香り成分は、ガスクロマトグラフや液体クロマトグラフによって測定される値である(以下、表2〜14も同様)。
(実施例2)
実施例1において、第2回転円錐カラム7における接触キャリアガス(N)流量を10kg/hとしたこと以外は、実施例1と同様にして、エタノール濃度低減清酒を製造した。
上記I〜VIIで示した箇所におけるマテリアルバランス及び組成を表2に示した。
Figure 0006100041
(実施例3)
実施例1において、第2回転円錐カラム7における接触キャリアガス(N)流量を20kg/hとしたこと以外は、実施例1と同様にして、エタノール濃度低減清酒を製造した。
上記I〜VIIで示した箇所におけるマテリアルバランス及び組成を表3に示した。
Figure 0006100041
(実施例4)
実施例1において、第2回転円錐カラム7における接触キャリアガス(N)流量を40kg/hとしたこと以外は、実施例1と同様にして、エタノール濃度低減清酒を製造した。
上記I〜VIIで示した箇所におけるマテリアルバランス及び組成を表4に示した。
Figure 0006100041
(実施例5)
実施例1において、第2回転円錐カラム7における接触キャリアガス(N)流量を80kg/hとしたこと以外は、実施例1と同様にして、エタノール濃度低減清酒を製造した。
上記I〜VIIで示した箇所におけるマテリアルバランス及び組成を表5に示した。
Figure 0006100041
2.分離膜としてRO膜を用いた実施例
(実施例6)
図5に示したエタノール濃度低減清酒の製造システム(分離膜としてRO膜4’を使用)を用いて、清酒(エタノール濃度15質量%)を原料として用い、下記運転条件で、エタノール濃度低減清酒を製造した。
<運転条件>
・第1回転円錐カラム1
温度:10℃
絶対圧:1bar
原料供給量:100kg/h
原料繰り返し循環処理回数:1回
接触キャリアガス(N)流量:1kg/h
・第2回転円錐カラム7
温度:10℃
絶対圧:0.113bar
原料供給量(循環1回分):100kg/h
原料繰り返し循環処理回数:1回
接触キャリアガス(N)流量:1kg/h
下記I〜VIIで示した箇所におけるマテリアルバランス及び組成を表6に示した。なお、下記I〜VIIで示した箇所は、図5中に符号I〜VIIで示した箇所に対応する。
I:処理前清酒原料
II:第1回転円錐カラム1での処理後の液相(清酒分画)
III:第2回転円錐カラム7での処理後の液相(清酒分画)
IV:第1回転円錐カラム1での処理後の気相を凝縮した液(香り成分分画)
V:RO膜4’を透過した液(エタノール分画)
VI:RO膜4’を透過しない液(香り成分分画)
VII:上記III液に上記VI液を添加した液(エタノール濃度低減清酒)
Figure 0006100041
(実施例7)
実施例6において、第2回転円錐カラム7における接触キャリアガス(N)流量を10kg/hとしたこと以外は、実施例6と同様にして、エタノール濃度低減清酒を製造した。
上記I〜VIIで示した箇所におけるマテリアルバランス及び組成を表7に示した。
Figure 0006100041
(実施例8)
実施例6において、第2回転円錐カラム7における接触キャリアガス(N)流量を20kg/hとしたこと以外は、実施例6と同様にして、エタノール濃度低減清酒を製造した。
上記I〜VIIで示した箇所におけるマテリアルバランス及び組成を表8に示した。
Figure 0006100041
(実施例9)
実施例6において、第2回転円錐カラム7における接触キャリアガス(N)流量を40kg/hとしたこと以外は、実施例6と同様にして、エタノール濃度低減清酒を製造した。
上記I〜VIIで示した箇所におけるマテリアルバランス及び組成を表9に示した。
Figure 0006100041
(実施例10)
実施例6において、第2回転円錐カラム7における接触キャリアガス(N)流量を80kg/hとしたこと以外は、実施例6と同様にして、エタノール濃度低減清酒を製造した。
上記I〜VIIで示した箇所におけるマテリアルバランス及び組成を表10に示した。
Figure 0006100041
<評価>
表1〜10より、本発明によれば、エタノール蒸留手段(第2回転円錐カラム7)において、清酒中のエタノール濃度を所望の濃度まで低減できることがわかる。更に、この所望の濃度は、後に添加される香り成分に同伴するエタノールが予めPV膜又はRO膜により除去されていることにより、香り成分の添加後まで好適に保持されることがわかる。
このように、エタノール濃度低減清酒におけるエタノール濃度が所望の濃度に調整可能であるということは、即ち、エタノール濃度のバラつきを原因とする香味のバラつきを防止できることを示している。
また、実施例1〜10により得られたエタノール濃度低減清酒は、官能試験により、清酒本来の香味が好適に保持されることが確認された。この理由は、主に、0℃超10℃以下の温度下での蒸留によりタンパク質等の変性が防止されたこと、および、一度清酒から蒸留された香り成分を再添加したことによるものと推定される。
なお、実施例1〜10では、接触キャリアガス流量の条件を設定することにより、エタノール濃度の設定を行う場合について示したが、エタノール濃度の設定のための条件設定はこれに限定されるものではなく、図4にも示した通り、原料の循環回数などの条件設定によっても好適に行うことができる。
1:第1回転円錐カラム(香り成分蒸留手段)
2:凝縮器
3:真空ポンプ
4:浸透気化(PV)膜
4’:逆浸透(RO)膜
41:移送配管(添加手段)
5:凝縮器
6:真空ポンプ
6’:加圧ポンプ
7:第2回転円錐カラム(エタノール蒸留手段)
8:凝縮器
9:真空ポンプ

Claims (6)

  1. 少なくともエタノールと香り成分を含む清酒から香り成分を蒸留する香り成分蒸留工程と、
    前記香り成分蒸留工程において前記香り成分が分離された清酒からエタノールを蒸留するエタノール蒸留工程と、
    前記エタノール蒸留工程を経た清酒に、前記香り成分蒸留工程で分離された前記香り成分を添加して該清酒に香気を付与する香り成分添加工程と、
    を含むエタノール濃度低減清酒の製造方法であって、
    前記香り成分蒸留工程及び前記エタノール蒸留工程における蒸留を、0℃超10℃以下の温度下において行い、
    前記香り成分添加工程の前に、前記香り成分蒸留工程において分離された前記香り成分に同伴するエタノールをPV膜又はRO膜により分離する膜処理工程を有することを特徴とするエタノール濃度低減清酒の製造方法。
  2. 前記香り成分添加工程を経た前記清酒に、添加物を添加する工程を更に備えることを特徴とする請求項1記載のエタノール濃度低減清酒の製造方法。
  3. 少なくともエタノールと香り成分を含む清酒を導入して、該清酒から香り成分を蒸留する香り成分蒸留手段と、
    前記香り成分蒸留手段によって前記香り成分が分離された清酒を導入して、該清酒からエタノールを蒸留するエタノール蒸留手段と、
    前記エタノール蒸留手段によって前記エタノールが分離された清酒に、前記香り成分蒸留手段によって分離された前記香り成分を添加して香気を付与する香り成分添加手段と、
    を備えたエタノール濃度低減清酒の製造システムであって、
    前記香り成分蒸留手段及び前記エタノール蒸留手段における蒸留が、0℃超10℃以下の温度下において行われ、
    前記清酒に添加される前の前記香り成分を導入して、該香り成分に同伴するエタノールを分離するPV膜又はRO膜を備えることを特徴とするエタノール濃度低減清酒の製造システム。
  4. 前記香り成分蒸留手段は、回転円錐カラムであることを特徴とする請求項3記載のエタノール濃度低減清酒の製造システム。
  5. 前記エタノール蒸留手段は、回転円錐カラムであることを特徴とする請求項3又は4記載のエタノール濃度低減清酒の製造システム。
  6. 前記香り成分添加手段を経た前記清酒に、添加物を添加する添加手段を更に備えることを特徴とする請求項3〜5の何れかに記載のエタノール濃度低減清酒の製造システム。
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