JP6097328B2 - ランゲルハンス島の移植におけるアジュバントとしてのcxcr1/2の阻害薬 - Google Patents

ランゲルハンス島の移植におけるアジュバントとしてのcxcr1/2の阻害薬 Download PDF

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Description

本発明は、I型糖尿病患者にランゲルハンス島を移植する際のアジュバントとして有用な化合物に関する。
全膵臓または摘出したランゲルハンス島の形での膵臓組織の移植は、I型インスリン依存性糖尿病の治療における臨床選択肢となってきた。
ランゲルハンス島移植は、全膵臓移植と比較して侵襲性が少ない代替法であり、かつ重篤な合併症のリスクがそれよりはるかに低いので、特に魅力的である;しかし、そのような措置は有効性が劣ることによってなお制限される。
ランゲルハンス島移植の初期の方法は、実質臓器の移植に際して有効であることが証明されたプロトコルに基づいており、免疫抑制薬、たとえばアザチオプリン、サイクロスポリンおよびコルチコステロイド類の投与を含んでいた。そのような方法は、ランゲルハンス島移植という特殊な場合には有効でないことが分かり、大部分の移植体は1年以内に移植部から失われるというきわめて劣悪な結果が得られた(Sulaiman and Shapiro, Diabetes, Obesity and Metabolism, 8, 2006, 15-25)。
近年、新たな特異的免疫抑制方式およびランゲルハンス島調製技術を導入したEdmontonプロトコルが、ランゲルハンス島移植の臨床予後を劇的に改善した。
Edmontonプロトコルによれば、ランゲルハンス島を死亡ドナーの膵臓から摘出し、精製し、次いで上腹部を通して肝臓の門脈内へ配置したカテーテルによりレシピエントに移植する;それらを肝臓に注入した直後に細胞はインスリンを放出し始める。拒絶を防ぐために新たな免疫抑制方式を採用し、それは免疫抑制薬の組合わせ、すなわちシロリムス(Sirolimus)とタクロリムス(Tacrolimus)、およびCD25モノクローナル抗体
ダクリズマブ(Daclizumab)の使用を必要とする(Saphiro et al . N Engl. J Med, 2000, 343 (4): 230-238)。
残念ながら、解決されていないランゲルハンス島移植の欠陥がなお幾つかあり、これはこの方法がI型糖尿病患者のための標準処置となるのを妨げている。
ランゲルハンス島移植に関連する第1の欠点は、Edmontonプロトコルが成功率を著しく高めたにもかかわらず、一連の複雑な現象、たとえばIBMIR、炎症細胞の動員および非特異的免疫のため、なお高いパーセントの早期移植体機能不全があることである。事実、ヒトの肝臓内注入は即時血液仲介炎症反応(immediate blood-mediated inflammatory reaction)、血栓形成および肝組織虚血を伴い、それと共に血中肝酵素が増加する(Barshes NR at al., J Am Coll Surg, 2005, 200(3): 353-361; Barshes NR et al, J
Leukoc Biol, 2005, 77(5): 587-97; Bertuzzi et al, J Clin Endocrinol Metab, 2004, 89(11): 5724-8; Bhargava R et al Diabetes, 2004, 53(5),: 1311-7; Contreras et al, 2004, 53(11): 2894-14; Johansson et al, Diabetes, 2005, 54(6): 1755-62)。肝
臓に移植定着する際の50〜75%もの損失(Contreras et al, 上記参照)が、正常血糖
を達成するのにきわめて多数のランゲルハンス島を必要とすることに関係する主因であることが示唆された(Barshes et al, 上記参照)。
さらに、移植が初期には成功してレシピエントのインスリン非依存性をもたらしたとしても、移植されたランゲルハンス島はそれらが機能する能力を経時的に失うように思われる。この事象は、移植された患者において持続的なインスリン非依存性を達成する可能性
を制限し、移植から2年後には14%の患者がインスリン非依存性を示すにすぎない[Meloche RM World J Gastroenterol 2007; 13(47): 6347-6355]。
さらに他の欠点は、Edmontonプロトコルが免疫抑制薬の組合わせを必要とすることである;シロリムスとタクロリムスを生涯、または移植されたランゲルハンス島が機能し続ける限り、摂取しなければならない。しかし、これらの薬物は著しい副作用をもち、それらを軽減することが望ましいであろう。免疫抑制療法に由来する合併症は、このタイプの移植体において報告された第2の最も一般的な重篤な事象である。
したがって、移植体の長期間の生存率および機能を改善して経時的なグルコース制御を維持しかつ免疫抑制療法を軽減するためには、さらに他の開発がまだ必要である。
CXCL8は炎症メディエーターにより誘導されるケモカインであり、組織修復の初期に関与することが示唆され、内皮細胞の走化性、生存および増殖の誘導により血管新生を促進し(Li et al, J Immunol, 2003, 170: 3369-3376)、かつ好中球誘因物質として作用
することが証明されている。それは、それのコグネイトGタンパク質共役型受容体CXCR1およびCXCR2への結合によりそれの作用を発揮する。
最近の文献が、CXCL8は移植組織の血管再形成の誘導により移植定着を促進する可能性があるという仮説を立てた(Movahedi et al, Diabetes, 2008, 57: 2128-36)。
EP 1 123 276には、CXCL8により誘導される好中球走化性および脱顆粒の阻害薬として使用するための、特に乾癬、リウマチ性関節炎、潰瘍性大腸炎、急性呼吸不全(ARDS)、特発性線維症および腎炎などの病的状態の処置に使用するための、N−(2−アリール−プロピオニル)−スルホンアミド、特にR(−)−2−[(4−イソブチルフェニル)プロピオニル]−メタンスルホンアミド(I)、およびそれらの医薬的に許容できる塩類が開示されている。
EP 1 355 641には、実質臓器、特に移植前にドナーから採取して保存する必要がある腎臓の移植後の拒絶反応から生じる移植臓器の虚血/再潅流傷害および機能傷害の予防および治療に、R(−)−2−[(4−イソブチルフェニル)プロピオニル]−メタンスルホンアミドおよびその医薬的に許容できる塩類、特にそれのリジン塩を使用することが開示されている。そのような傷害は移植体機能の遅れによるものであると思われ、このため腎移植の場合には透析が必要になる。
EP 1 579 859には、脊髄損傷の治療のための医薬の調製にN−(2−アリール−プロピオニル)−スルホンアミド、特にR(−)−2−[(4−イソブチルフェニル)プロピオニル]−メタンスルホンアミドおよびそれのリジン塩を使用することが開示されている。
EP 1 123 276 EP 1 355 641 EP 1 579 859
Sulaiman and Shapiro, Diabetes, Obesity and Metabolism, 8, 2006, 15-25 Saphiro et al . N Engl. J Med, 2000, 343 (4): 230-238 Barshes NR at al., J Am Coll Surg, 2005, 200(3): 353-361 Barshes NR et al, J Leukoc Biol, 2005, 77(5): 587-97 Bertuzzi et al, J Clin Endocrinol Metab, 2004, 89(11): 5724-8 Bhargava R et al Diabetes, 2004, 53(5),: 1311-7 Contreras et al, 2004, 53(11): 2894-14 Johansson et al, Diabetes, 2005, 54(6): 1755-62 Meloche RM World J Gastroenterol 2007; 13(47): 6347-6355 Li et al, J Immunol, 2003, 170: 3369-3376 Movahedi et al, Diabetes, 2008, 57: 2128-36
本発明はランゲルハンス島の移植におけるアジュバントとしてのCXCR1/2の阻害薬に関する。
図1:パネルAは、ノックアウトマウス(薄い線)および野生型マウス(黒い線)に400のランゲルハンス島を同等移植(isotransplantation)した後−1日目から+7日目まで測定した非空腹時血糖(mg/dl)を示す。パネルBは、経口ブドウ糖負荷試験(Oral Glucose Tolerance Test)(OGTT)の結果を示す。ブドウ糖投与の直前、ならびに経口ブドウ糖投与の10、20、30、60および90分後に血糖(mg/dl)を測定した。各動物につき血糖曲線を示す。 図2:パネルAは、レパリキシン(Reparixin)処理マウス(実線)および対照マウス(点線)に移植した後の種々の時間経過における血糖を示す。パネルBは、Cox回帰多変量解析を示す。 図3aおよび3bは、レパリキシンの存在下または不存在下で同一摘出物からのランゲルハンス島を移植したマウスにおける、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)(図3a)および静脈内ブドウ糖負荷試験(Intravenous Glucose Tolerance Test)(IVGTT)(図3b)で得られた平均値の散乱プロットを示す。ラベルは摘出物の番号を表わす。四角および丸は、それぞれ250または150 IEを移植したマウスを表わす。上および下パネルは、それぞれ移植の1カ月後および3カ月後のデータを示す。実線は同定ラインである:この同定ラインより上の丸は、レパリキシングループでビヒクル処理グループ(Δ+)の場合より高い数値をもつ所見を表わす。 図3aおよび3bは、レパリキシンの存在下または不存在下で同一摘出物からのランゲルハンス島を移植したマウスにおける、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)(図3a)および静脈内ブドウ糖負荷試験(Intravenous Glucose Tolerance Test)(IVGTT)(図3b)で得られた平均値の散乱プロットを示す。ラベルは摘出物の番号を表わす。四角および丸は、それぞれ250または150 IEを移植したマウスを表わす。上および下パネルは、それぞれ移植の1カ月後および3カ月後のデータを示す。実線は同定ラインである:この同定ラインより上の丸は、レパリキシングループでビヒクル処理グループ(Δ+)の場合より高い数値をもつ所見を表わす。 図4は、レパリキシン処理動物およびビヒクル処理動物に150 IE(パネルA)または250 IE(パネルB)を移植した24時間後および48時間後のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の循環レベルを示す。 図5:パネルAは、レパリキシン、ラパマイシン(Rapamycin)、レパリキシン+ラパマイシン、またはビヒクルで処理したマウスに移植した後の種々の時点での血糖を表わす。パネルBは、Cox回帰多変量解析を示す。 図6は、ビヒクル(A)、レパリキシン(B)、ラパマイシン(C)またはレパリキシン+ラパマイシン(D)で処理したマウスに移植した24時間後および48時間後のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の循環レベルを示す。 図7:パネルAは、レパリキシン、ラパマイシン、レパリキシン+ラパマイシン、またはビヒクルで処理したマウスに移植した後の経時的な移植体生存パーセントを示す。パネルBは、Cox回帰多変量解析を示す。 図8は、対照(太い列)またはレパリキシン処理マウス(薄い線)にランゲルハンス島を移植した後に肝臓から経時(日)的に抽出したPMNの数を示す(肝組織mg当たりの細胞数として表示)。 図9は、対照(太い列)またはレパリキシン処理マウス(薄い線)にランゲルハンス島を移植した後に肝臓から経時(日)的に抽出したNK細胞の数を示す(肝組織mg当たりの細胞数として表示)。 図10は、同種異系ランゲルハンス島移植の5日後に肝臓から抽出した種々の白血球亜集団中のCXCR2+細胞のパーセントを示す。横座標において、数字1〜11は下記を表わす: 1: PMN (Gr1 CD11b CD11c) 2: PMN (Gr1 CD11b Ly6c) 3: マクロファージ(CD11b CD11c Gr1) 4: 樹状細胞(CD11c CD11b Gr1) 5: リンパ球(CD3 CD4) 6: リンパ球(CD3 CD8) 7: Bリンパ球(CD19) 8: NKT細胞(NK1.1 CD3) 9: NKT細胞(NK1.1 CD3) 10: リンパ球(CD4 TCRb) 11: リンパ球(CD8 TCRb)。
本発明者らは意外にも、先行技術から予想されたものとは逆に、CXCR1および/またはCXCR2のアゴニストはランゲルハンス島移植後のランゲルハンス島の生存に有害であることを今回見出した。後記の実施例に記載するように、ランゲルハンス島は、CXCR2ノックアウトBALB/Cマウスに移植されると、野生型マウスと比較して増強された機能および生存率を示し、一貫して対照マウスより良好な耐糖性およびより低いグルコース濃度を伴う。
さらに、本発明者らが実施した実験は、CXCR1および/またはCXCR2シグナル伝達を阻害する化合物がランゲルハンス島移植後の移植体の生存率および機能を効果的に改善できることを明瞭に証明する。
したがって、本発明の第1目的は、I型糖尿病患者にランゲルハンス島を移植する際のアジュバントとしての、CXCR1および/またはCXCR2の阻害薬の使用である。
本発明による“CXCR1および/またはCXCR2の阻害薬”について、それはCXCR1および/またはCXCR2活性化から生じるCXCL8生物活性を阻止できる化合物を意味する。これらの化合物はこれらの受容体の競合性アンタゴニストまたはアロステリック阻害薬である可能性がある。
本発明の好ましい化合物は、式Iの化合物またはその医薬的に許容できる塩である:
式中、Rは直鎖または分枝鎖4−(C−C)アルキル、4−トリフルオロメタンスルホニルオキシまたは3−ベンゾイルから選択され、Rは直鎖または分枝鎖(C−C)アルキルである。本発明による特に好ましい化合物は、R(−)−2−[(4−イソブチルフェニル)プロピオニル]−メタンスルホンアミド(一般にレペルタキシン(Repert
axin)またはレパリキシンとして知られ、以下、レパリキシンと呼ぶ)およびR(−)−2−[(4’−トリフルオロメタンスルホニルオキシ)フェニル]プロピオニル−メタンスルホンアミド(一般にメラキシン(Meraxin)として知られ、以下、そのように呼ぶ)
である。
本発明化合物の好ましい塩は、リジン塩およびナトリウム塩である。本発明化合物の特に好ましい塩は、レパリキシンのリジン塩およびメラキシンのナトリウム塩である。
後記に述べるように、動物モデルにおいて式Iの化合物はランゲルハンス島移植後の移植体の生存率および機能を効果的に改善することができる。
詳細には、ランゲルハンス島移植の実験モデルで得たデータは、移植したβ細胞の活性喪失および/または劣化からの保護におけるR(−)−2−[(4−イソブチルフェニル)プロピオニル]−メタンスルホンアミドにより代表される前記化合物の明らかな効果を証明する。
本発明の好ましい態様によれば、式Iの化合物はレパリキシンである。さらに他の好ましい態様によれば、式Iの化合物はメラキシンである。
本発明の化合物は、I型糖尿病において移植したランゲルハンス島の移植定着を支持するのに有効である。
事実、後記の実験のセクションからより明らかなように、動物モデルに同系(syngeneic)または同種異系(allogeneic)ランゲルハンス島の移植後−1日目から+6日目まで
レパリキシンを静脈内投与すると、対照と比較して正常血糖値(250mg/mlより低い非空腹時血糖値)に達する確率がより高くなり、かつそれに達する中央時間が短縮された。
したがって本発明のさらに他の目的は、I型糖尿病患者においてランゲルハンス島移植後の移植定着および早期移植機能を改善するための、かつ早期移植体機能不全の発生を減らすための、CXCR1および/またはCXCR2の阻害薬、好ましくは式Iの化合物、より好ましくはレパリキシンまたはメラキシンの使用である。
前記の移植は、好ましくは患者の肝臓または骨髄において行なわれる。
同種異系ランゲルハンス島の移植実験により、CXCR1および/またはCXCR2阻害薬レパリキシンの投与は、移植後一次機能を達成したマウスにおいて拒絶反応の発生を著しく低下させることが証明された。
さらに、これらの結果は、対照と比較して移植体機能がより長時間維持され、生存中央時間が延長されることを証明する。
移植体の機能および生存率の改善におけるレパリキシンの有効性が、肝臓および骨髄の両方におけるランゲルハンス島移植において示された。
したがって、本発明のさらに他の目的は、移植体拒絶反応を低下させるための、かつ長期間の移植体生存率を改善するための、CXCR1および/またはCXCR2の阻害薬、好ましくは式Iの化合物、より好ましくはレパリキシンの使用である。本発明の化合物は、単独で、または1種類以上の免疫抑制薬、好ましくはシロリムス(ラパマイシンとしても知られる)およびタクロリムスから選択されるものとの併用療法で、この目的に使用できる。
しかし、得られたデータ(実験のセクションに報告する)は、本発明化合物単独の使用で移植体拒絶を阻害するのに十分な可能性があることをも示唆する。事実、実験のセクシ
ョンに示すように、レパリキシンによるCXCR1/2受容体の遮断は移植後一次機能を達成したマウスにおいて拒絶までの時間を延長し、一方、これはラパマイシンによって有意に変化しなかった。さらに、レパリキシン単独投与はレパリキシンとラパマイシンの組合わせの投与によって得られたものに匹敵する結果をもたらした。
これらのデータは、移植体拒絶反応を減らすためにはレパリキシン単独投与で十分であり、免疫抑制療法の必要はないかまたは必要性が低いという可能性があることを強く示唆する;これは毒性に関して顕著な利点である。
本発明化合物の合成は、当技術分野で周知の方法に従って実施できる。たとえば、レパリキシンはEP 1 123 276の例1およびEP 1 355 641の例1の開示に従って製造でき、一方、そのリジン塩は上記特許のそれぞれ例7および例2の開示に従って製造できる。メラキシンは、たとえばEP 1776336の例1に従って製造できる。
本発明により使用する化合物は、経口投与により使用するのに適した医薬組成物、たとえば錠剤、カプセル剤、シロップ剤中に、好ましくは制御放出配合物の形で、あるいは非経口投与により使用するのに適した医薬組成物中に、好ましくは静脈内または筋肉内投与に適した無菌液剤の形で配合される。医薬剤形は、たとえばRemington, “The Science and Practice of Pharmacy”, 21st ed. (Lippincott Williams and Wilkins)に示される
一般法に従って製造できる。好ましくは、上記の投与形態それぞれにおけるレパリキシンまたはそれの医薬的に許容できる塩の量は、化合物または塩2〜15mg/kg体重を供給する量であり、一方、メラキシンまたはそれの医薬的に許容できる塩の量は、化合物または塩10〜20mg/kg体重を供給する量である。いずれの場合も、医薬の投与方式および投与量は医師が患者の要件に従って決定するであろう。
本発明を以下の実験のセクションにさらに詳細に説明する。
1.ノックアウトマウスにおける同系ランゲルハンス島移植
ランゲルハンス島の生存に対するCXCR1およびCXCR2によるCXCL8シグナル伝達経路の活性化の役割を調べるために、同系ランゲルハンス島を肝臓内移植した後のランゲルハンス島の機能をBalb/c CXCR2−/−マウスおよびCXCR2+/+マウスにおいて評価した。CXCR1はマウスでは発現しないので、CXCR2のノックアウトはCXCL8により誘導されるシグナル伝達を完全に無効にする。
移植後第1週の間の非空腹時血糖および移植後4週間の経口耐糖性を機能性の指標として採用した。図1に示すように、移植を受けたCXCR2ノックアウトマウスは、評価の全期間にわたる循環グルコース濃度の有意の低下によって証明されるように、明らかに一貫して対照野生型マウスより良好な耐糖性を示した。
経口ブドウ糖負荷試験は下記のセクション2の記載に従って実施された。
2.マウスにおける同系ランゲルハンス島移植
12週令のC57マウスからのランゲルハンス島を糖尿病C57マウス(アロキサン(alloxan)誘導糖尿病、血糖>450mg/dl)の肝臓に移植した。2種類の辺縁ラン
ゲルハンス島質量モデル、150 IE(ランゲルハンス島当量(Islet Equivalent))および250 IEを用いた。ランゲルハンス島移植後−1日目から開始して6日目または13日目まで、レパリキシンを8mg/kg/時間の用量で皮下連続注入により投与した。対照動物には連続皮下ビヒクル投与した。
ランゲルハンス島移植後2回の連続測定について200mg/dl未満の非空腹時血糖
値に達する能力をまず評価した。図2に示すように、正常血糖(<200mg/dl)に達する確率および中央時間は下記のとおりであった:ビヒクルで処理したマウスについての35.1%および50日と比較して、レパリキシンで処理したマウスについては50%および7日(Logランク p<0.012)。
共変量としてレパリキシン処理、処理期間、移植したランゲルハンス島の数、およびレシピエントの移植前糖血症を含む多変量Cox回帰解析により、レパリキシンによって予後が有意に改善されることが確認された(オッズ比:2.6;95% CI:1.1〜6.1;p<0.021)。予想どおり、250 IEの移植によって移植が改善され(オッズ比:1.6;95% CI:0.6〜4.3;p<0.28)、一方、移植前糖血症は予後に負に作用した(オッズ比:0.6,95% CI:0.3〜1.1;p=0.12)。
静脈内ブドウ糖負荷試験(IVGTT)および経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を、移植の1および3カ月後に実施して、移植したランゲルハンス島の機能性を評価した。IVGTTを16時間の絶食後に開始した;マウスにブドウ糖(0.5g/kg)を尾静脈注射により投与した。血液試料を注射の0、1、5、15、20、30および60分後に採取し、グルコース濃度の測定に用いた。IVGTTから、個々の血糖値を対数変換した後に、グルコース排除定数(KG;1分間当たりのグルコース排除パーセントとして表示)から静脈内投与後1〜15分の循環グルコースの減少(KG1−15)として耐糖性を定量した。同様な推定を1〜60分全体のグルコース消失速度(KG1−60)について行なった。このパラメーターは、全試験期間のグルコース消失速度の指標となる。OGTTを4時間の絶食後に開始した;マウスにブドウ糖(1g/kg)を経口強制投与により投与した。血液試料をブドウ糖投与の0、10、20、30、60、90および120分後に採取し、グルコース濃度の測定に用いた。OGTT中のグルコースについて、曲線下面積(AUC)を台形法により計算した(ベースライン=0分)。IVGTTおよびOGTT後のランゲルハンス島移植が耐糖性に及ぼす影響を図3に示す。データを散乱プロットとして報告する。各点は、レパリキシンの存在下または不存在下で同一摘出物からのランゲルハンス島を移植したマウスにおいて測定したパラメーターの平均値を表わす;ラベルは摘出物の番号を表わし、一方、四角および丸は、それぞれ250または150 IEを移植したマウスを表わす。上および下パネルは、それぞれ移植の1カ月後および3カ月後のデータを示す。実線は同定ラインである:この同定ラインより上の丸は、レパリキシン処理グループでビヒクル処理グループ(Δ+)の場合より高い数値をもつ所見を表わす。移植の1カ月後および3カ月後のOGTTは、レパリキシンで処理したマウスにおいてグルコースについてのAUCが対照マウスのものより依然として低いことを示した。これらのデータと一致して、対照グループと比較してレパリキシン処理マウスでは1〜15分のグルコース排除定数(KG1−15)および1〜60分のグルコース排除定数(KG1−60)が有意に増大した。
急性肝損傷を、移植の24時間後および48時間後のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)循環レベルにより定量した。ALTレベルは、150または250 IEを移植したマウスにおいて両方ともレパリキシン処理による影響を受けなかった(図4)。同様に白血球、赤血球および血小板の循環レベルにも顕著な差はなかった(データを示していない)。
3.マウスにおける同種異系ランゲルハンス島移植
12週令のBalb/cマウスからのランゲルハンス島を糖尿病のC57マウスの肝臓に移植した(アロキサン,血糖>450mg/dl)。ある実験では、何らかの自己免疫反応の存在を評価するために、12週令のC57BL/6(B6)からのランゲルハンス島を糖尿病の雌NOD/LtJ(NOD)マウスに移植した。NODマウスを、少なくと
も3回の非空腹時血糖の読みが350mg/dLを超えた後にランゲルハンス島移植のレシピエントとして用いた。両例とも400 IEを移植した。動物を、レパリキシン単独(移植後−1日目から開始して7日目まで、5.28mg/kg/時間の連続皮下注入)、ラパマイシン単独(1日1回の腹腔内注射を0日目に0.3mg/kgの誘導量で開始し、続いて0.15mg/kgの維持量で14日目まで)、レパリキシン+ラパマイシン、またはビヒクルで処理した。
ランゲルハンス島移植後2回連続測定について250mg/dl未満の非空腹時血糖値として定義する一次機能に達する能力、および2回連続して300mg/dLを超える非空腹時血糖の読みとして定義する拒絶までの時間をまず評価した。
同種免疫の設定で移植したすべてのマウスを考慮して、一次機能(血糖<250mg/dl)に達する確率および中央時間は下記のとおりであった:レパリキシン単独で処理したマウスについては72%および1日、ラパマイシン単独で処理したマウスについては73%および1日、レパリキシン+ラパマイシンで処理したマウスについては69%および1日、ビヒクルで処理したマウスについては44%および2日(図5,Logランクp<0.041)。共変量としてレパリキシン処理、ラパマイシン処理、およびレシピエントの移植前糖血症を含む多変量Cox回帰解析により、レパリキシン処理によって予後が改善されることが確認された(オッズ比:2.5;95% CI:0.79〜2.99;p<0.202)。ラパマイシン処理(オッズ比:1.1;95% CI:0.62〜2.15;p<0.62)および移植前糖血症(オッズ比:1.03;95% CI:0.68〜1.59;p<0.88)は関連がより少なかった。
移植の24時間後および48時間後に測定したALT循環レベルは、ラパマイシンの存在下および不存在下の両方でレパリキシンにより影響を受けなかった(図6)。
そのほか、レパリキシンによる処理は、移植後一次機能に達したマウスにおいて拒絶までの時間を有意に延長した(図7)。生存中央時間は、ラパマイシンの不存在下でレパリキシン処理マウスおよびビヒクル処理マウスについて、それぞれ12±0.6日間(n=13)および8±0.5日間(n=7)であった。ラパマイシンの存在下では、生存中央時間はレパリキシンマウスおよび対照マウスについて、それぞれ12±2日間(n=11)および8±0.6日間(n=11)であった。これらのデータは、共変量としてレパリキシン処理、ラパマイシン処理、およびレシピエントの移植前糖血症を含む多変量Cox回帰解析により確認された。レパリキシン処理は移植体生存率の損失に対する有意に独立した保護因子であることが確認され(オッズ比:0.252;95%の信頼区間:0.099〜0.64;p=0.004)、一方、ラパマイシン処理(オッズ比:1.173;95%の信頼区間:0.562〜2.45;p=0.67)および移植前糖血症(オッズ比:1.002;95%の信頼区間:0.604〜1.661;p=0.99)は有意でなかった。
4.レパリキシンによるCXCR1/2遮断は同種異系ランゲルハンス島移植後の肝臓の炎症状態を調節する
肝臓内白血球集団を、マウスにおいてレパリキシン処理の存在下または不存在下での同種異系肝臓内ランゲルハンス島移植後に分析した。12週令のBalb/cマウスからのランゲルハンス島(400 EI)を、糖尿病のC57マウス(アロキサン誘導,>450mg/dl)の肝臓に移植した;8mg/時間/kgの用量で−1日目から開始して7日間の皮下連続注入レパリキシンの存在下、またはビヒクルの存在下。マウスをランゲルハンス島移植後0、+1、+3、+5、+7、+10、+14日目にと殺し、剖検時に肝臓を秤量した。既知重量の2つの肝葉から単一細胞懸濁液を調製し、フローサイトメトリーによる肝臓内白血球(IHL)集団の分析を実施した。細胞を下記のもので表面染色した:イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)標識、フィコエリトリン(PE)標識
またはアロフィコシアニン(APC)標識した、抗CD4、抗CD8、抗CD3、抗CD19、抗TCR、抗NK1.1、抗CD11、抗Gr−1、抗CD11b、および抗CD11c Abs(PharMingen、San Diego、CA);下記の検出のため:Gr−1/CD11b/CD11c細胞(大部分がPMN)、CD4/TCR(大部分がTヘルパー細胞)、CD8/TCR細胞(大部分がCTL)、NK1.1/CD3細胞(NK細胞)、NK1.1/CD3細胞(NKT細胞)およびGr−1/CD11b/CD11c(大部分がマクロファージ)、CD115/CD11b/Cd11c(大部分が単球)、CD11c/CD11b/Gr1(大部分が樹状細胞)、CD19(大部分がBリンパ球)。試料をFACSCaliburフローサイトメーター上に採取し、CELLQuestソフトウェア(Becton Dickinson Immunocytometry Systems、San Jose、CA)を用いてデータを分析した。
第2セットの実験で、白血球浸潤が最高浸潤度になった時点でIHL集団上のCXCR2およびCXCR1の発現を評価した。
得られた結果により、レパリキシン処理は同種異系移植後の肝臓における白血球動員および浸潤を低下させることが確認される。特にCXCR2を発現する白血球亜集団であるPMN(図8)およびNKT細胞(図9)は有意に影響を受け、これは図10にもみられる。
5:レパリキシンによるCXCR2/1遮断は骨髄へのランゲルハンス島移植後の同種異系ランゲルハンス島移植の予後に影響を及ぼす
12週令のBalb/cマウスからのランゲルハンス島(400EI)を、糖尿病のC57マウス(アロキサン誘導,>450mg/dl)の骨髄に、8mg/時間/kgの用量で−1日目から開始して7日間の皮下連続注入レパリキシンの存在下で移植した。対照グループのマウスをビヒクルで処理した。実験の一次エンドポイントは、ランゲルハンス島移植後2回の連続測定について250mg/dl未満の非空腹時血糖値として定義する一次機能に達する能力、および2回連続して350mg/dLを超える非空腹時血糖の読みとして定義する拒絶までの時間であった。
得られた結果により、レパリキシン処理によって予後が改善されたことが確認された。
本願発明の他の態様は、以下の通りである;
態様1
I型糖尿病患者にランゲルハンス島を移植するためのアジュバント医薬の調製のための、CXCR1および/またはCXCR2の阻害薬の使用。
態様2
阻害薬が式Iの化合物またはその医薬的に許容できる塩:
[式中、Rは直鎖または分枝鎖4−(C −C )アルキル、4−トリフルオロメタンスルホニルオキシおよび3−ベンゾイルから選択され、R は直鎖または分枝鎖(C −C )アルキルである]である、態様1に記載の使用。
態様3
医薬的に許容できる塩がリジン塩およびナトリウム塩から選択される、態様2に記載の使用。
態様4
医薬が、ランゲルハンス島細胞の移植定着および早期の移植体機能を改善する、態様1〜3のいずれか1項に記載の使用。
態様5
医薬が、移植されたランゲルハンス島の機能不全の発生を低下させる、態様1〜4のいずれか1項に記載の使用。
態様6
医薬が、ランゲルハンス島細胞移植体拒絶までの時間およびその発生を低下させる、態様5に記載の使用。
態様7
医薬が、長期移植体生存率を改善する、態様6に記載の使用。
態様8
式Iの化合物が、R(−)−N−2−[(4−イソブチルフェニル)プロピオニル]−メタンスルホンアミドおよびR(−)−2−[(4’−トリフルオロメタンスルホニルオキシ)フェニル]プロピオニル−メタンスルホンアミドから選択される、態様1〜7のいずれか1項に記載の使用。

Claims (12)

  1. I型糖尿病患者にランゲルハンス島を移植するためのアジュバント医薬の調製のための、CXCR1および/またはCXCR2の阻害薬の使用。
  2. 該阻害薬がCXCR2の阻害薬である、請求項1に記載の使用
  3. 医薬が、ランゲルハンス島細胞の移植定着および早期の移植体機能を改善する、請求項1または2に記載の使用。
  4. 医薬が、移植されたランゲルハンス島の機能不全の発生を低下させる、請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
  5. 医薬が、ランゲルハンス島細胞移植体拒絶までの時間およびその発生を低下させる、請求項に記載の使用。
  6. 医薬が、長期移植体生存率を改善する、請求項に記載の使用。
  7. CXCR1および/またはCXCR2の阻害薬を含む、I型糖尿病患者にランゲルハンス島を移植するためのアジュバント医薬。
  8. 該阻害薬がCXCR2の阻害薬である、請求項7に記載のアジュバント医薬
  9. 医薬が、ランゲルハンス島細胞の移植定着および早期の移植体機能を改善する、請求項7または8に記載のアジュバント医薬
  10. 医薬が、移植されたランゲルハンス島の機能不全の発生を低下させる、請求項7〜9のいずれかに記載のアジュバント医薬
  11. 医薬が、ランゲルハンス島細胞移植体拒絶までの時間およびその発生を低下させる、請求項10に記載のアジュバント医薬
  12. 医薬が、長期移植体生存率を改善する、請求項11に記載のアジュバント医薬
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