[実施形態]
以下に、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかる音波形信号生成システム1の構成の概要を示した図である。音波形信号生成システム1は、外部から入力される弱音膜打楽器の音波形信号を用いて、通常膜打楽器の音波形信号に類似した音波形信号を生成し出力する音波形信号生成装置11と、弱音膜打楽器12と、弱音膜打楽器12の発する音を示す音波形信号を生成するピックアップ13と、音波形信号生成装置11から出力される音波形信号に従い放音を行う放音器14とを備えている。
なお、本願において、通常膜打楽器の音波形信号に類似した音波形信号とは、弱音膜打楽器の音波形信号と比較し、通常膜打楽器の音波形信号との間で、少なくとも基本周波数および共振周波数の時間的変化および減衰時間の相関性が高い音波形信号のことをいう。
弱音膜打楽器12は、例えば膜に孔が設けられた、もしくは膜にスポンジ等の振動吸収体が押し付けられたタムタム等の膜打楽器である。ただし、弱音膜打楽器12における弱音化の方法および膜打楽器の種別はこれらに限られない。ピックアップ13は、例えば膜に取り付けられたピエゾ式の振動センサ、もしくは膜付近に取り付けられたマイクである。ただし、ピックアップ13の方式はこれらに限られない。放音器14は、例えばアンプ内蔵スピーカである。
音波形信号生成装置11のハードウェアは、例えば一般的なコンピュータであり、そのハードウェア構成部として、まず、BIOS(Basic Input/Output System)やOS(Operating System)およびアプリケーションプログラム等に従い各種演算を行うとともに他の構成部を制御するCPU(Central Processing Unit)101、BIOSやOS、アプリケーションプログラムやそれらのプログラムが扱う各種データ等を記憶するROM(Read Only Memory)102、主としてCPU101が一時的にデータを記憶するワーキングエリアとして利用するRAM(Random Access Memory)103を備えている。
また、音波形信号生成装置11は、ピックアップ13から音波形信号の入力を受ける音波形信号入力I/F(Interface)104(音波形信号取得部)、音波形信号入力I/F104が受け取った音波形信号を用いた各種信号処理を行い新たな音波形信号を生成するDSP(Digital Signal Processor)105、DSP105により生成された音波形信号を放音器14に対し出力する音波形信号出力I/F106(音波形信号出力部)を備えている。
また、音波形信号入力I/F104がピックアップ13から受け取る音波形信号がアナログ信号である場合、音波形信号生成装置11は音波形信号をデジタル信号に変換した後にCPU101やDSP105に引き渡すAD(Analog to Digital)コンバータ(図示略)を備え、放音器14がアナログ信号に従い放音を行なう場合、音波形信号生成装置11はDSP105により生成される音波形信号をデジタル信号からアナログ信号に変換した後に音波形信号出力I/F106を介して放音器14に出力するDA(Digital to Analog)コンバータ(図示略)を備える。
CPU101とDSP105は、ROM102に記憶されている本実施形態にかかるアプリケーションプログラムに従った処理を行うことにより、以下に述べる機能構成部を備える装置として機能する。
まず、CPU101は、後述する複数の共鳴器1146の各々のパラメータを示すパラメータデータを取得するパラメータデータ取得部111を備えている。パラメータデータ取得部111は、予めROM102に記憶されているパラメータデータをRAM103に読み込んでおき、後述の音波形信号の処理において適宜、RAM103からパラメータデータを読み出すことにより、パラメータデータを取得する。
パラメータデータ取得部111が取得するパラメータデータには、以下のデータが含まれる。
(1)複数の共鳴器1146(後述)の各々に応じて予め設定されている周波数倍率RAmおよび減衰時間RTm(秒)(ただし、mは共鳴器1146の番号を示す自然数)
(2)サンプリング周波数Fs(Hz)
(3)弱音膜打楽器12と同種の通常膜打楽器のアタックのタイミングからピッチが安定するタイミングまでの時間であるピッチ変化時間PT(秒)
図2は、周波数倍率RAmおよび減衰時間RTmの具体例を示した図である。これらの周波数倍率RAmおよび減衰時間RTmは、弱音膜打楽器12と同種の通常膜打楽器の音波形信号から計測した値(例えば、所定数回の計測の結果の平均値)である。図3は、打撃後1秒程が経過したタイミングにおける通常膜打楽器の音波形信号の周波数スペクトルを示した図である。図3の括弧内の数値は基本ピッチである175Hzに対する高次の共振周波数の倍率を示している。これらの数値が示すように、膜打楽器の高次の共振周波数は必ずしも基本ピッチの整数倍ではない。DSP105はこれらの共振周波数の各々に応じた共鳴器1146を構築する。周波数倍率RAmおよび減衰時間RTmはそれら複数の共鳴器1146の各々のパラメータ決定に用いられる。
減衰時間RTmは、通常膜打楽器の音波形信号のうち基本ピッチもしくは基本ピッチに周波数倍率RAmを乗じた周波数(高次の共振周波数)の成分のレベルが、アタック時から所定デシベル(例えば60dB)低下するまでの時間(秒)を計測した値である。なお、図2に例示のように、一般的に周波数倍率RAmが高くなる程、減衰時間RTmは短くなる。
サンプリング周波数Fsは、DSP105が処理する音波形信号のサンプリング周波数であり、例えば48,000Hzである。ピッチ変化時間PTは、通常膜打楽器の音の計測値に基づき定められた値であり、例えば0.5秒である。
これらの定数(RAm、RTm、FsおよびPT)は、後述するアタックレベル特定部112により特定されるアタックレベルAL、後述するピッチ特定部113により特定されるアタック時の基本ピッチに応じたディレイタイムDSと共に、時間経過に応じて変化する共鳴器1146のパラメータ(ディレイタイムDCm(t)およびゲインGm(t)、ただし、tはアタックのタイミングからの経過時間を示す数値))を算出するために用いられる。
図1に戻り、音波形信号生成装置11の構成の説明を続ける。CPU101およびDSP105は、ピックアップ13から入力される弱音膜打楽器12の音波形信号が示す音のアタックを検出するとともにそのアタックのレベルの特定を行うアタックレベル特定部112として機能する。アタックレベル特定部112は、入力される音波形信号からアタックを検出するアタック検出部1121と、アタック検出部1121により検出されたアタックにおける音波形信号の振幅の最大値をアタックレベルとして特定するレベル特定部1122の機能を備えている。
アタック検出部1121は、入力される音波形信号から、例えば遮断周波数750Hzのハイパスフィルタにより高周波数帯の成分を取り出し、エンベロープ検出部により高周波数帯の成分の音波形の包絡線を特定し、アタック判定部によりその包絡線が示すレベルの絶対値および変化率が共に所定の閾値を超えた場合、アタックが検出されたことを示すアタック検出信号を出力する。アタック検出信号は、アタックの検出タイミングに応じた音波形信号の時間軸方向における位置(例えば、音波形信号を構成するサンプルデータの番号)を示す信号である。
レベル特定部1122は、入力される音波形信号のうち、アタック検出部1121から出力されるアタック検出信号が示すタイミングを開始タイミングとする所定期間内(例えば、50ミリ秒間)の振幅(絶対値)の最大値をアタックレベルALとして特定する。
また、CPU101およびDSP105は、ピックアップ13から入力される弱音膜打楽器12の音波形信号が示す音の基本ピッチを特定するピッチ特定部113として機能する。図4は、ピッチ特定部113の構成の概要を示した図である。ピッチ特定部113は、入力される音波形信号の高次の共振周波数の成分をカットするためのフィルタ1131、フィルタ1131から出力される高周波数帯成分のカットされた音波形信号を一時的に記憶するリングメモリ1132、リングメモリ1132に記憶されている音波形信号を読み出してその音波形信号の周期を測定する周期測定部1133を備えている。
フィルタ1131は、周波数に応じて位相ずれが生じることの少ない直線位相フィルタが望ましく、例えばFIR(Finite impulse response)フィルタである。周期測定部1133は、アタック検出部1121から出力されるアタック検出信号に示されるタイミングを計測開始タイミングとし、計測開始タイミング以降の期間に応じた音波形信号をリングメモリ1132から読み出し、その先頭から順に所定数(例えば、3周期分の時間を計測するための7個)のゼロクロスポイントの検出を行う。周期測定部1133はそのように検出したゼロクロスポイント間の時間を周期数で除することにより、アタック時における基本ピッチ成分の1周期分の時間であるディレイタイムDSを特定する。
また、CPU101およびDSP105は、ピックアップ13から出力される弱音膜打楽器の音波形信号を用いて通常膜打楽器の音波形信号に類似の音波形信号を生成する音波形信号生成部114として機能する。音波形信号生成部114は、音波形信号の処理の内容を示すパラメータを決定するコントロール部114aと、コントロール部114aにより決定されたパラメータに従い音波形信号の処理を行なう信号処理部114bを備える。
信号処理部114bは、基本ピッチおよびその非整数倍の共振周波数の各々に応じて設けられた複数の共鳴器1146、複数の共鳴器1146の各々から出力される音波形信号を加算する加算器1147、アタックが検出された際に共鳴器1146に対し入力されている音波形信号のゲインをいったん落として共鳴器1146への音波形信号の入力をフェードアウトするための増減幅器1145、アタック検出から基本ピッチの特定等の処理を完了するまでの時間である入力遅延時間だけ共鳴器1146に対する音波形信号の入力を遅延させる遅延器1144を備える。
コントロール部114aは、増減幅器1145に対しゲインを設定するリセット部1141、共鳴器1146の各々に対し時間経過に伴い変化するディレイタイムDCm(t)を順次設定するディレイタイム算出部1142、共鳴器1146の各々に対し時間経過に伴い変化するゲインGm(t)を順次設定するゲイン算出部1143を備えている。
複数の共鳴器1146は各々、コントロール部114aから設定されるパラメータが異なる点を除き、同じ構成を備えている。以下、複数の共鳴器1146を互いに区別する場合、「共鳴器1146−m」(ただし、mは共鳴器1146の番号を示す自然数)のように枝番号を付してそれらを区別し、複数の共鳴器1146間の区別を要しない場合は単に「共鳴器1146」という。
図5は共鳴器1146の構成を示した図である。共鳴器1146はその基本的な構成として櫛形フィルタを含んでいる。櫛形フィルタは入力される音波形信号に対し、所定のディレイタイムに従った遅延を伴う同じ音波形信号を加算することにより、ディレイタイムを周期とする基本ピッチおよびその整数倍の共振周波数の音の成分を取り出して出力する。また、櫛形フィルタは遅延を伴う音波形信号を入力される音波形信号に加算してフィードバックする前に減幅器によりフィードバックする音波形信号の振幅を所定の比率で減ずることにより、自然楽器の音の減衰に類似した減衰を伴う音波形信号を出力する。
共鳴器1146の具体的な構成は以下のとおりである。すなわち、共鳴器1146は遅延器1144および増減幅器1145を介して音波形信号入力I/F104から入力される弱音膜打楽器12の音波形信号と減幅器464からフィードバックされる音波形信号とを加算して出力する加算器461、加算器461から入力される音波形信号をディレイメモリに一時的に記憶した後にディレイタイム算出部1142により設定されたディレイタイムDCm(t)に応じた速度で読み出して出力する遅延器462、遅延器462から入力される音波形信号の高次の共振周波数の成分をカットするためのフィルタ463、ゲイン算出部1143により設定されたゲインGm(t)をフィルタ463から出力された音波形信号に乗じることで加算器461にフィードバックされる音波形信号の振幅を時間経過に伴い徐々に減じる減幅器464を備える。なお、遅延器462からの出力信号は、フィルタ463に出力されるとともに加算器1147に対しても出力される。
上述のように、共鳴器1146は通常の櫛形フィルタに加え、フィルタ463を備えている。フィルタ463により、不要な高次共振周波数の成分がカットされ、共鳴器1146の各々からは概ね対応する共振周波数の成分のみを含む音波形信号が出力されるようになる。それらの音波形信号を加算器461にて加算することにより、膜打楽器の減衰音部分において必要となる所定数倍(整数倍もしくは非整数倍)の高次共振周波数の成分を含んだ音波形信号が生成されることになる。
また、共鳴器1146が備える遅延器462は、ディレイメモリに一時的に記憶した音波形信号を単に遅延させて出力するのではなく、ディレイタイムDCm(t)に応じた速度で読み出して出力する点で通常の櫛形フィルタが備える遅延器と異なっている。図6は、通常の櫛形フィルタが備える遅延器と共鳴器1146が備える遅延器462の各々においてディレイタイムを1.5倍に変更した場合の変更の前後における、ディレイメモリから読み出される音波形信号を対比した図である。通常の櫛形フィルタが備える遅延器は、図6(a)に示されるようにディレイメモリからの音波形信号の読み出し速度がディレイタイムの変更の前後で一定であるため、音波形の周期が変更されない。従って、フィードバックされる音波形信号のピッチが変化せず、この櫛形フィルタはディレイタイムDCm(t)に応じたピッチの波形を出力することができない。一方、共鳴器1146が備える遅延器462は図6(b)に示されるようにディレイメモリからの音波形信号の読み出し速度がディレイタイムの変更に応じて変化するため、フィードバックされる音波形信号のピッチが変化し、共鳴器1146はディレイタイムDCm(t)に応じたピッチの波形を出力することができる。
共鳴器1146が備える遅延器462によりディレイメモリから読み出される音波形信号は、図6(b)に示されるように時間軸方向に伸縮された音波形信号となる。従って、伸縮された後の音波形信号を所定のサンプリング周波数Fsに従ったサンプルで示すように、遅延器462によるサンプルの補間処理が行われる。図7は、遅延器462によりサンプルの補間が行われる様子を示した図である。ディレイメモリ内に記憶されている図7(a)に示される音波形信号のサンプルが図7(b)に示される速度で読み出された場合、例えばサンプルS1およびサンプルS2は所定のサンプリング周波数Fsにより定まる正しいサンプルのタイミングに一致しない。従って、遅延器462は、図7(c)に示されるように、S1およびS2から正しいタイミングに応じたサンプルS1’を補間処理により生成する。なお、遅延器462が行う補間処理の方法としては、直線補間、ラグランジェ補間、スプライン補間、Sync関数を利用した補間など、いずれの方法が採用されてもよい。
続いて、上記のような構成を備える共鳴器1146の各々に対し時間経過に伴い順次設定されるディレイタイムDCm(t)およびゲインGm(t)の算出方法を以下に説明する。図8は弱音化されていない通常のタムタムを1〜10の異なる強度(数値が大きい程、強い)で叩いた場合の各々の基本ピッチの時間的変化を示した図である。また、図9は弱音化されたタムタムを同様に1〜10の異なる強度で叩いた場合の各々の基本ピッチの時間的変化を示した図である。図8および図9に示されるように、一般的に膜打楽器の音は以下の性質を持っている。
(1)叩いた直後から時間経過に伴い基本ピッチが徐々に低下し、数十ミリ秒〜数百ミリ秒で基本ピッチが安定する。
(2)基本ピッチの変動幅は強く叩く程大きく、弱く叩く程小さい。
(3)上記の(1)および(2)の性質は弱音化されていない膜打楽器と弱音化されている膜打楽器に共通している。
(4)弱音化されている膜打楽器の基本ピッチの変化の速度は、弱音化されていない膜打楽器の基本ピッチの変化の速度と比べ速い。
従って、減衰音部分に関し、弱音膜打楽器12の音波形信号を用いて通常膜打楽器の音波形信号に類似の音波形信号を生成するためには、基本ピッチの低下の速度を遅くした音波形信号を生成すればよい。そのためには、通常膜打楽器の音の基本ピッチが、アタックレベルに応じて時間経過に伴いどのようなカーブを描いて変化するかを特定する必要がある。
図10は、上記(2)の性質を模式的に示した図である。図10においてピッチ変化時間PTはアタックからピッチが安定するまでの時間であり、一般的に膜の口径が大きい程、ピッチ変化時間PTは長くなるが、膜打楽器の各々においては変動しない。また、ピッチ変化率PRは安定後のピッチに対する叩いた直後のピッチの比である。
図11は、通常膜打楽器を叩いた場合、アタックレベルALをデシベルに変換したアタックレベルAG(dB)とそのアタックレベルで叩いた音の基本ピッチのピッチ変化率PRの実測値をプロットした図である。図12は、図11に示したアタックレベルAGとピッチ変化率PRの関係を一次関数で近似した場合の近似式のグラフを示した図である。本実施形態においては、図12にグラフで示される近似式に従い、与えられたアタックレベルAGに応じたピッチ変化率PRが算出される。
より具体的には、レベル特定部1122により特定されるアタックレベルALに応じたピッチ変化率PRは以下の式に従い算出される。
ただし、PMXRはピッチ最大変化率(定数)、PLGはピッチ変化最低ゲイン(定数)である。
続いて、ピッチ特定部113により特定されたアタック時の基本ピッチに応じたディレイタイムDSに基づき、以下の式に従いピッチ安定後の基本ピッチに応じたディレイタイムDEが算出される。
続いて、減衰係数DYを以下のように定義する。
ただし、Fsはサンプリング周波数(定数)、PTはピッチ変化時間(秒)(定数)である。減衰係数DYは、ピッチ変化時間PT(秒)の間に、ディレイタイムがディレイタイムDEとディレイタイムDSの差分の−40dB(=0.01)だけ減衰する際の減衰係数である。
そして、アタックからの経過時間t(秒)における基本ピッチに応じた共鳴器1146、すなわち共鳴器1146−1の遅延器462に設定されるべきディレイタイムDC
1(t)は以下の式により算出される。
ディレイタイム算出部1142は、上記の一連の算出式に従い、レベル特定部1122により特定されたアタックレベルALと、ピッチ特定部113により特定されたディレイタイムDSに基づき、アタックからの経過時間tにおけるディレイタイムDC1(t)を算出する。
さらに、ディレイタイム算出部1142は以下の式により、共鳴器1146−2〜nの各々の遅延器462に設定されるべきディレイタイムDC
m(t)を算出する。
ただし、RA
mは図2に示した共鳴器1146の各々に応じて予め定められた周波数倍率である。このように、アタックからの経過時間tにおける共鳴器1146の各々の遅延器462に設定されるディレイタイムDC
m(t)の比率は、予め定められた周波数倍率RA
mの比率に従い変化しない。そのため、基本ピッチおよび高次共振周波数の周波数は時間経過に伴い常に連動して変化することになる。
ゲイン算出部1143は、ディレイタイム算出部1142により算出されたディレイタイムDC
m(t)に基づき、以下の式により、共鳴器1146−1〜nの各々の減幅器464に設定されるべきゲインG
m(t)を算出する。
ただし、RT
mは図2に示した共鳴器1146の各々に応じて予め定められた減衰時間である。
ディレイタイム算出部1142によりアタックからの経過時間tに応じて順次算出されるディレイタイムDCm(t)が共鳴器1146−mの遅延器462に順次設定されることにより、それらの共鳴器1146の各々から加算器1147に出力される音波形信号のピッチが時間の経過に伴い所定のカーブを描いて連動して下降することになる。また、ゲイン算出部1143によりアタックからの経過時間tに応じて順次算出されるゲインGm(t)が共鳴器1146−mの減幅器464に順次設定されることにより、それらの共鳴器1146の各々から加算器1147に出力される音波形信号のゲインが時間の経過に伴い所定のカーブを描いて減衰することになる。その結果、加算器1147から音波形信号出力I/F106を介し放音器14に出力される音波形信号は、通常膜打楽器の減衰音部分の音波形信号に類似した音波形信号を含むものになる。
図13は、ユーザにより弱音膜打楽器12に対する打撃が行われた際に音波形信号生成装置11において行われる処理の流れを説明するための図である。まず、ユーザにより弱音膜打楽器12が打撃されると、アタック検出部1121はピックアップ13から音波形信号入力I/F104を介して入力される音波形信号のアタックを検出し(S101)、アタック検出信号をピッチ特定部113およびコントロール部114aに出力する。
コントロール部114aのリセット部1141は、アタック検出部1121からアタック検出信号の入力を受けると、増減幅器1145に設定するゲインを短時間で0まで落とすことで信号処理部114bに対する音波形信号の入力をフェードアウトする(S102)。
続いて、レベル特定部1122は音波形信号入力I/F104から入力される音波形信号のアタックレベルALを特定する(S103)。また、ピッチ特定部113は音波形信号入力I/F104から入力される音波形信号のアタック時における基本ピッチに応じたディレイタイムDSを特定する(S104)。
続いて、リセット部1141は共鳴器1146の各々の遅延器462のディレイメモリをクリアするとともに、フィルタ463の初期化を行う(S105)。続いて、ディレイタイム算出部1142およびゲイン算出部1143はアタックレベルALおよびディレイタイムDSに基づき、ディレイタイムDCm(0)およびゲインGm(0)を算出し、遅延器462および減幅器464にそれらを設定する(S106)。
続いて、リセット部1141は増減幅器1145に設定するゲインを短時間で所定値まで上げることで信号処理部114bに対する音波形信号の入力をフェードインする(S107)。同時に、リセット部1141はステップS101〜S107に要した遅延時間を遅延器1144に対しディレイタイムとして設定する(S108)。これにより、遅延器1144から共鳴器1146に対する音波形信号の入力が開始される。その後、ステップS107およびS108のタイミングをアタックのタイミング、すなわち経過時間t=0として、ディレイタイム算出部1142およびゲイン算出部1143によるディレイタイムDCm(t)およびゲインGm(t)の算出と、それらの遅延器462および減幅器464に対する設定が継続的に行われる(S109)。その結果、加算器1147から音波形信号出力I/F106を介し放音器14に対し、通常膜打楽器の音波形信号に類似した音波形信号が出力される(S110)。
以上説明したように、音波形信号生成装置11によれば、ユーザは弱音膜打楽器12を演奏することにより、通常膜打楽器の音波形信号と類似した音波形信号の音を得ることができる。
[変形例]
上述した実施形態は本発明の一実施形態であり、本発明の技術的思想の範囲内において様々に変形可能である。以下にそれらの変形の例を示す。
上述した実施形態においては、ピッチ特定部113によりアタック時における音波形信号の基本ピッチに応じたディレイタイムDSの特定が行われる構成が採用されている。これに代えて、ピッチ特定部113によりアタック時ではなく、ピッチが安定化した後(例えば、アタックから1秒経過した時点)の基本ピッチに応じたディレイタイムDEの特定が行われ、そのように特定されたディレイタイムDEおよびレベル特定部1122により特定されたアタックレベルALに基づき推定されるディレイタイムDSを用いる構成が採用されてもよい。
そのような変形例において、仮にディレイタイムDEの特定が完了した後に遅延器1144から共鳴器1146への音波形信号の出力を開始したのでは多くの場合、その遅延が許容されない。従って、例えば過去の打撃に伴いピッチ特定部113が特定したディレイタイムDEをパラメータデータとして記憶しておき、新たな打撃に伴いアタックの検出が行われた際、記憶している過去のディレイタイムDEと、新たな打撃に伴いレベル特定部1122により特定されたアタックレベルALに基づきディレイタイムDSの推定を行うように音波形信号生成装置を構成することが望ましい。その際、ディレイタイムDSの推定に用いるディレイタイムDEは直近の1つのディレイタイムDEであってもよいし、例えば直近の複数個のディレイタイムDEの平均値等であってもよい。
また、ピッチ特定部113がアタック時の基本ピッチに応じたディレイタイムDSと、ピッチ安定化後の基本ピッチに応じたディレイタイムDEの両方を特定する構成が採用されてもよい。その場合、例えばユーザにより、ピッチ特定部113により特定された現在のディレイタイムDSをそのまま用いるか、ピッチ特定部113により特定された過去のディレイタイムDEから現在のディレイタイムDSを推定するかを選択可能としてもよいし、現在のディレイタイムDSの特定に成功した場合にはそれを用い、失敗した場合には過去のディレイタイムDEから現在のディレイタイムDSの推定を行うなど、所定の条件に従いそれらを切り替えるなどの構成が採用されてもよい。
また、上述した実施形態においては、アタックレベルALおよびアタック時の基本ピッチに応じたディレイタイムDSに基づき、ピッチ安定化後の基本ピッチに応じたディレイタイムDEが推定されて、そのディレイタイムDEの推定値を目指してピッチの減衰(ディレイタイムの増加)が行われる構成が採用されている。このように、現在のアタックレベルALおよびディレイタイムDSに基づき推定されたディレイタイムDEを用いる代わりに、ピッチ特定部113がピッチ安定化後の基本ピッチに応じたディレイタイムDEを特定可能とし、ピッチ特定部113により過去に特定されたディレイタイムDEを用いる構成が採用されてもよい。
また、ディレイタイムDEは、アタックレベルALおよびアタック時の基本ピッチに応じたディレイタイムDSに基づき推定されたものを用いる場合(上述した実施形態の場合)であっても、過去に特定したものを用いる場合(上記の変形例の場合)であっても、実際に弱音膜打楽器12の打撃に伴い入力されてくる音波形信号の安定化後の基本ピッチに応じたディレイタイムDEとの間に多少の誤差を生じる。一方、弱音膜打楽器12の音波形信号における基本ピッチの安定化に要する時間は通常100ミリ秒程度であり、通常膜打楽器の音波形信号における基本ピッチの安定化に要する時間(ピッチ変化時間PT、通常500ミリ秒程度)よりも短い。従って、弱音膜打楽器12の音波形信号における基本ピッチが概ね安定したタイミング(例えば、アタック後100ミリ秒のタイミング)でピッチ特定部113が基本ピッチに応じたディレイタイムDEの特定を行い、その後はディレイタイム算出部1142が推定したディレイタイムDEもしくは過去のディレイタイムDEに代えて、新たに特定されたディレイタイムDEを用いてディレイタイムDCm(t)を特定する構成が採用されてもよい。
具体的には、例えば以下の処理によりディレイタイムDEの切り替えを行えばよい。すなわち、ディレイタイムDEを新たに特定されたディレイタイムDEで置き換える。そして、ディレイタイムDSをその時点のディレイタイムDC
1(t)で置き換える。また、ピッチ変化時間PTをアタックからの経過時間tだけ減じた後、減衰係数DYを再計算する。その後、以下の式に従い、新たなディレイタイムDC
m(t)を順次算出する。
なお、上記のディレイタイムDEの補正の回数は1回に限られず、一度のアタックに伴う音波形信号の処理に関し複数回行われる構成が採用されてもよい。
また、上述した実施形態においては、音波形信号入力I/F104(音波形信号取得部)が取得する音波形信号は弱音膜打楽器12が実際にユーザにより打撃された際に発する音を示す音波形信号である。これに代えて、例えば過去にサンプリングされて外部機器やROM102等に記憶されている音波形信号が音波形信号取得部により取得され、通常膜打楽器の音波形信号に類似の音波形信号の生成に用いられてもよい。その場合、音波形信号取得部が取得する音波形信号は、例えば通常膜打楽器のアタック音部分の音波形信号であってもよいし、弱音膜打楽器の音波形信号であってもよい。
また、上述した実施形態において、パラメータデータ取得部111が取得するパラメータデータ(周波数倍率RAm、減衰時間RTm、サンプリング周波数Fs、ピッチ変化時間PT)は音波形信号の生成中、変化しない。これに代えて、音波形信号の生成中、時間経過に伴い周波数倍率RAmや減衰時間RTmが変化する構成が採用されてもよい。時間経過に伴い変化する周波数倍率RAmを用いる構成の音波形信号生成装置は、基本ピッチに対する高次の共振周波数の比率がアタックからリリースまでの間に変化する音波形信号を生成することができる。また、時間経過に伴い変化する減衰時間RTmを用いる構成の音波形信号生成装置は、上述した実施形態にかかる音波形信号生成装置11と比較し、音の減衰カーブの形状をより自由に調整することができる。
また、パラメータデータ取得部111が取得し音波形信号の生成に用いられるパラメータデータの種類は上述した実施形態において用いられるものに限られない。例えば、上述した実施形態においては、基本ピッチおよび高次の共振周波数の成分のピッチは減衰係数DYに従い決定されるカーブに従い時間経過に伴い低下する。これに代えて、基本ピッチに関し、時間経過に伴い変化するピッチを示すパラメータデータをパラメータデータ取得部111が取得し、この時間経過に伴い変化するピッチを示すパラメータデータに従い基本ピッチを変化させ、高次の共振周波数は基本ピッチに連動して変化させる構成が採用されてもよい。また、基本ピッチおよび高次の共振周波数の各々に関し、時間経過に伴い変化するピッチを示すパラメータデータをパラメータデータ取得部111が取得し、この時間経過に伴い変化するピッチを示すパラメータデータに従い基本ピッチおよび高次の共振周波数の各々を変化させる構成が採用されてもよい。
また、上述した実施形態においては、ピッチ特定部113が特定するピッチは基本ピッチであり、高次の共振周波数は予めパラメータデータとしてROM102に記憶されている周波数倍率RAmにより算出される構成が採用されている。これに代えて、ピッチ特定部113が弱音膜打楽器12の音波形信号の基本ピッチおよび高次の共振周波数の各々を特定し、周波数倍率RAmに代えて、ピッチ特定部113が特定した周波数から算出される周波数倍率が用いられる構成が採用されてもよい。その場合、算出される周波数倍率に応じた減衰時間は、例えば周波数倍率と減衰時間との関係式に従い、周波数倍率から算出する構成や、予め、様々な周波数倍率に応じた減衰時間を対応表として記憶しておき、当該対応表に従い特定する構成などが採用され得る。
また、上述した実施形態においては、一般的なコンピュータがアプリケーションプログラムに従った処理を行うことにより音波形信号生成装置11が実現される構成が採用されている。これに対し、例えば図1に示される機能構成部の各々の処理を行うハードウェアにより構成されたいわゆる専用機として音波形信号生成装置11が実現されてもよい。
なお、上述した実施形態において示した算出式、データ例、処理の動作順序等はあくまで一例であって、本発明の技術的思想の範囲内においてそれらは様々に変更可能である。