以下、本発明に係る発光素子及び表示装置について、図面を参照して説明する。
なお、発光素子及び表示装置は、本来微細な構成であるが、説明が分かり易くなるように適宜誇張(デフォルメ)して図示して説明する。また、発光素子は、はじめに光の出射方向を特定する構造物を第2半導体層に備える指向性発光素子を例として説明する。
図1に示すように、指向性発光素子である発光素子1は、構成として基板2側から第1半導体層であるp型半導体層4と半導体発光層5と、第2半導体層であるn型半導体層6と、構造物7と、半導体発光層5から光を出射するための電極8を備えている。具体的には、発光素子1は、ここでは、基板2上に設けた絶縁体層である誘電体層3と、誘電体層3の上面に設けた第1半導体層であるp型半導体層4と、このp型半導体層4の上面に設けた半導体発光層5と、この半導体発光層5の上面に設けた第2半導体層であるn型半導体層6と、このn型半導体層6の上面に形成された構造物7と、を備えている。そして、発光素子1に接続された入力手段11からの信号により半導体発光層5から光を発光させるものである。
そして、発光素子1の電極8は、構造物7の平面視での中心にp型半導体層4及び半導体発光素子5を介して対向する位置となるように基板2に設けた第1電極8aと、p型半導体層4と誘電体層3との間に設けた第2電極8bと、n型半導体層6に接続して設けた第3電極8cと、第1電極8aを外部と接続するように設けた接続電極8dとを有し、各電極が外部の入力手段11に接続される素子回路9により接続されている。
更に、発光素子1では、正極性の信号を入力する入力手段11において、ここでは切替スイッチSWを電源Vに接続した構成として説明する。したがって、発光素子1は、第1電極8a及び第2電極8bの接続と、第1電極8a及び第3電極8cの接続とに切り替える切替スイッチSWを素子回路9に備え、素子回路9の所定位置に電源Vを接続している。また、発光素子1は、素子回路9において第3電極8cを接地電極Gに接続し共通の陰極とするように構成されている。
また、発光素子1としては、ここでは一例として、n型半導体とp型半導体の薄膜からなる窒化ガリウム(GaN)の構成として説明する。ちなみに、GaNは、電子親和力が2.9eV、エネルギーギャップが3.4eVであるので、そのためp層の障壁が6.3eVとなる。
また、基板2は、特に限定されるものではなく、例えば、ガラスなどの絶縁性基板が使用される。
図1に示すように、基板2に設けた誘電体層3は、一般的な発光素子に用いられる金属酸化物や樹脂等の絶縁体が使用される。この誘電体層3は、例えば、二酸化シリコン、二酸化ハフニウム、SiOF(酸化シリコンにフッ素を添加したもの)、SiOC(酸化シリコンに炭素を添加したもの)、有機ポリマー系の材料などのいずれかで構成される。この誘電体層3は、絶縁性を備えていればよい。
第1電極8aは、構造物7の中心に半導体発光層5及びp型半導体層4を挟んで対向する位置となるように基板2上に形成されている。この第1電極8aは、その電極一端をp型半導体層4に接続し、その電極他端を、接続電極8dを介して入力手段11の切替スイッチSWと接続している。第1電極8aは、例えば、Pd/Auからなる針状に形成されている。そして、第1電極8aは、誘電体層3の上面から、その先端がp型半導体層4に接触できる状態になっている。また、第1電極8aは、Pd/Auで形成されることにより、GaNで形成されるp型半導体層4との接触抵抗が、約8×10-3Ωcm2となる。したがって、後記する第2電極8bは、この接触抵抗の数値よりも大きくなるものから構成されることになる。なお、第1電極8aは、その形状は図面では円錐台形状で示しているが、p型半導体層4にその先端が部分的に接触できる形状であれば円柱形、針形、半球状等、特に限定されるものではない。
接続電極8dは、第1電極8aに接続して電源Vからの電流を供給するためのものである。この接続電極8dは、その電極一端を第1電極8aに接続し、その電極他端を入力手段11の電源Vに接続(図示せず)している。接続電極8dは、例えば、細線状に形成されている。そして、接続電極8dは、基板2の少なくとも一端側から接触できるように、基板2と誘電体層3の間で基板2に設置されている。なお、この接続電極8dは、第1電極8aの一部を連続して形成することで構成しても構わない。
p型半導体層4は、半導体発光層5に対して正孔を輸送する層である。p型半導体層4は、例えば下から順に、p型GaN/InGaN障壁層と、p型GaN層とが積層されて形成される。p型半導体層4は、図1に示すように、半導体発光層5の下部に形成されており、ここでは矩形状に形成されている。なお、p型半導体層4の厚さは特に限定されないが、例えば200〜1500nmの厚さで形成することができる。
第2電極8bは、第1電極8aと導通して後記する第3電極8cに第1電極8aからの電流の供給を制御するものである。この第2電極は、p型半導体層4側に細線状に形成されて、p型半導体層4と接続し、当該p型半導体層4の少なくとも一端に露出してその電極一端が入力手段11の切替スイッチSWに接続できるように設けられている。また、第2電極8bは、第1電極8aの先端から離間した位置になるようにp型半導体層4に設置されている。さらに、第2電極8bは、第1電極8aよりもp型半導体層4との接触抵抗が大きな材料により形成されている。第2電極8bは、例えばNi/Auから形成されている。第2電極8bは、Ni/Auから形成されると、その接触抵抗が約13×10-3Ωcm2である。
半導体発光層5は、所謂、活性層であり、n型半導体層6とp型半導体層4とを介して輸送される電子および正孔の再結合によって生成されるエネルギーを光として放出する層である。この半導体発光層5は、n型半導体層6とp型半導体層4との接合部にIn等の不純物が添加されることで形成され、例えばInGaNの量子井戸層として形成される。半導体発光層5は、図1に示すように、n型半導体層6とp型半導体層4との間に形成されており、ここでは矩形状に形成されている。なお、半導体発光層5は、その厚さ、材質、形状について特に限定されるものではない。
n型半導体層6は、半導体発光層5に対して電子を輸送する層である。このn型半導体層6は、例えば下から順に、n型GaN層と、n型GaN/InGaN障壁層とが積層されて形成される。n型半導体層6は、図1に示すように、半導体発光層5の上部に形成されており、ここでは矩形状に形成されている。なお、n型半導体層6は、その厚さ、材質、形状について特に限定されるものではない。このn型半導体層6の上面には、図1に示すように、構造物7が設けられている。
第3電極8cは、n型半導体層6に設置され、第1電極8aと両半導体層を介して導通して半導体発光層5を発光させるものである。この第3電極は、その電極一端を接地電極Gに接続し、その電極他端を電源Vの負極に接続している。そして、第3電極8cは、第1電極8aとの間に電源Vを接続することで、第1陽極となる第1電極8aから注入された正孔が、拡散により接合部である半導体発光層5へ移動して、電子との再結合により半導体発光層5で発光を得ることができる。第3電極8cは、陰極として使用できるものであれば一般的に使用される例えばTi/Alで形成される等、特に限定されるものではない。
そして、発光素子1は、n型半導体層6及びp型半導体層4の構成が、[再結合速度>電子・正孔いずれかのキャリアの移動速度]の関係になっており、ここでは、[再結合速度>正孔のキャリアの移動速度]の関係になっている。そのため、n型半導体層6及びp型半導体層4では、半導体発光層5において、電子・正孔の両キャリアが揃うタイミング(キャリア移動度の差)は、顕著な差となっている。したがって、n型半導体層6及びp型半導体層4では、両層の界面である半導体発光層5において、移動の速いキャリアは遍在し、かつ、移動の遅いキャリアが到達した時点で発光する。この発光する場合、キャリア移動度が小さい層(ここではp型半導体層4)の電界分布に依存し、第1電極8aの電極形状による発光の局在化を生じることになる。つまり、第1電極8aと第3電極8cが両半導体層を介して導通した状態となった場合、半導体発光層5から発光する領域が、例えば、第1電極8aの形状の範囲に沿ったエリアとなる。
発光素子1では、第1電極8aと第3電極8cとが両半導体層を介して導通状態(電圧がかかると)になったときに、第1電極8aからp型半導体層4を輸送層として正孔(キャリア)が移動し、第3電極8cからn型半導体層6を輸送層として電子(キャリア)が移動し、両半導体層を移動してきた正孔と電子とは半導体発光層5で再結合して発光し消滅する。このとき、半導体発光層5で消滅したキャリアを補充するために、p型半導体層4を移動する正孔がn型半導体層6を移動する電子よりも遅く、かつ、正孔が補充される緩和時間よりも、再結合時間の方が短い。そのため、半導体発光層5において、第1電極8aからp型半導体層4を介して半導体発光層5に最も迅速に正孔が補充される領域である第1電極8aの直上領域でキャリアの再結合が発生する頻度が高く、選択的に発光する。ここで、緩和時間とは、電子と正孔が濃度勾配を解消するべく移動に要する時間をいう。また、再結合時間とは、電子と正孔が再結合に要する時間をいう。
なお、再結合速度とキャリア移動度の関係について、以下に示す。
粒子nの拡散係数がDのとき、拡散方程式dn/dt=D∇2nの解は、t=0でn=Nδ(r)として、n(r,t)=N/(4πDt)3/2exp[−r2/2Dt]となる。
そして、位置の分散<r2>の時間微分は、d<r2>/dt=1/N∫∫∫r2n(r)dV=6D、これより拡散過程では<r2>=6Dtとなる。ここで、∫∫∫dVは、粒子nが存在しうる3次元空間の全領域についての積分を示す。
また、キャリア移動度と再結合速度について、以下に示す。
アインシュタインの関係式より電子及び正孔の拡散係数はそれぞれ、De=3.1×10-3,Dh=2.6×10-5[m2/s]となる。また、電極径0.1mmのとき、電極径の10%の範囲への拡散に掛かる時間は電子で5ns、正孔で600nsとなるので、キャリア移動度に顕著な差がある場合に相当する。そして、再結合寿命100〜300psはこれより遥かに短く、[再結合速度>正孔のキャリアの移動速度]の場合に相当する。
発光素子1からの発光を制御するためには、第1電極8a及び第2電極8bに正極性の信号が入力されることが必要である。そのため、第1電極8a及び第2電極8bに正極性の信号によりオン状態とするには、例えば、外部から信号を入力することで、第1電極8a及び第2電極8bに正極性の信号を供給することが可能である。もちろん、トランジスタ等による切替スイッチSWを使用することもできる。なお、ここでは、入力手段11の切替スイッチSWによる操作で正極性のパルス信号が入力されることとして説明する。
入力手段11は、発光素子1に発光させるための信号を入力するものである。この入力手段11は、切替スイッチSW及び電源Vを備えており、切替スイッチSWの切替により第1電極8a及び第2電極8bの電位を変えることで発光素子1の点灯及び消灯を行なっている。
切替スイッチSWは、第2電極8bを、第1電極8a又は第3電極8cに接続するように切り替えるためのスイッチである。この切替スイッチSWは、切り替える動作により、その一端を第1電極8aと第2電極8bとを接続できる状態と、第2電極8bと第3電極8cとを接続できる状態とになるように設置されている。そして、この切替スイッチSWは、切替動作を行なうように制御されている。
電源Vは、発光素子1に電力を供給するものである。電源Vは、その負極を第3電極8c及び切替スイッチSWの一方と接続されると共に、陽極を切替スイッチSWの他方と接続されるように設置されている。
したがって、n型半導体層6及びp型半導体層4では、第1電極8aと第2電極8bとに電流が流れるように、入力手段11から切替スイッチSWが切替られて電源Vから電流が送れ、第1電極8aと第3電極8cとが導通していても、電流の流れ易い第1電極8aと第2電極8bとの間で電流がながれる状態になる。つまり、発光素子1は、第1電極8aのp型半導体層4に対する接触抵抗が、第2電極8bのp型半導体層4に対する接触抵抗より小さいので、第1電極8aから第2電極8bに正孔が移動するようになる。そのため、発光素子1は、切替スイッチSWが一側に切り替わったときには半導体発光層5から発光することがなく非発光の状態となる。また、n型半導体層6及びp型半導体層4では、第1電極8aと第3電極8cとに電流が流れるように、入力手段11の切替スイッチSWが切り替えられると、第1電極8aと第2電極8bとが正極となり、第1電極8a及び第3電極8cの間において、当該第1電極8aの大きさに対応する範囲で上方にキャリアが移動して、構造物7の形成されているエリアに局在化して光を半導体発光層5から出射することができる。つまり、入力手段11の切替スイッチSWを切り替えることで、第1電極8aと第2電極8bとが同じ極性(正極)となり、正極性のパルス信号を入力したことと同等の動作を行なったことになる。
つぎに、構造物7について説明する。なお、図2では構造物7を他の構成よりも模式的に誇張して大きく記載している。
図1及び図2に示すように、構造物7は、半導体発光層5から出射される光を特定の方向に向かって出射するためのものである。この構造物7は、凸部又は凹部等の様々な構成をとることができるが、ここでは、例えば、n型半導体層6の上面を凸部とする柱形状とした3本から6本(図1では3本)の長さの異なる半導体柱状部71,72として形成した構成として先に説明する。また、構造物7は、n型半導体層6の表面の予め設定された位置から等距離で、かつその位置の中心の周囲に互いが等間隔となるように配置される。そして、構造物7は、光が出射するn型半導体層6の表面の中心となる位置に構造物全体の中心が位置するように設けられている。
半導体柱状部71,72は、図2に示すように、n型半導体層6上に合計3本、円柱状に形成されている。この半導体柱状部71,72は、半導体発光層5から発生した光の導波路として機能する。ここで、例えば半導体発光素子(LED)は、一般的に10〜50μm程度の可干渉長を持っているため、前記したような微小な空間において異なる経路長を経た光は、干渉効果による空間分布を形成する。従って、半導体柱状部71,72内部を伝播した光は、柱上部の放射面71a,72a(図2(b)参照)から素子表面と垂直な方向、すなわち図1における上方向に出射された後、光の干渉効果によって干渉し、素子表面の重心O(予め設定された位置:図2(a)参照)から前記した素子表面と垂直な方向に、1本の光線が生成される。なお、ここでの素子表面とは、具体的には図1に示すn型半導体層6の上面のことを意味している。
半導体柱状部71,72は、図1に示すように、一部の柱の高さが異なるように構成されている。ここで、一部の柱とは、半導体柱状部71,72の総数の半数以下の柱のことを意味している。半導体柱状部71,72は、具体的には図2に示すように、3本のうちの1本である半導体柱状部72の高さが、その他の2本である半導体柱状部71の高さよりも低くなるように構成されている。
半導体柱状部71,72は、n型半導体層6と一体的に構成されており、例えば製造段階において、半導体柱状部71,72の高さまで形成された矩形状のn型半導体層6の一部をエッチングすることで形成することができる。そのため、半導体柱状部71,72は、n型半導体層6と同様に例えばn型GaNで構成されている。なお、前記したように半導体柱状部72を半導体柱状部71よりも低く形成する場合は、半導体柱状部71,72を形成した後にさらに半導体柱状部72のみをエッチングする。
半導体柱状部71,72は、図2(a)に示すように、平面視で円形状に形成され、n型半導体層6上にそれぞれ同じ断面積で形成されている。ただし、n型半導体層6の上面の面積に対する半導体柱状部71,72の断面積の割合等は特に限定されない。また半導体柱状部71,72同士の間隔pは、図2(a)に示すように、それぞれの放射面71a,72aから出射する光を互いに干渉させることができる長さに設定され、例えば自由空間(空気中)における光の波長程度に設定される。なお、以下の説明では、前記した自由空間中における光の波長のことを「外部波長λ0」として説明する。
柱高低差δHは、前記した内部波長λ1を基準に調整され、具体的には当該内部波長λ1以下に設定される。これにより、発光素子1は、各半導体柱状部71,72の放射面71a,72aの位置が離れすぎることがないため、それぞれの放射面71a,72aから出射される光を干渉しやすくし、迷光の発生を抑制することができ、形成された光線の出射方向をより制御しやすくすることができる。
ここで、後記するように、柱高低差割合δ(または柱高低差δH)の値を大きくすると、素子表面と垂直な方向に対する光線の成す角θ2(以下、光線成す角θ2という図2(d)参照)が増加する。そして、後記するように、柱高低差割合δが0.40、すなわち柱高低差δHが半導体柱状部71の高さh2の半分近くとなるまでは、半導体柱状部71の放射面71aと,半導体柱状部72の放射面72aの高さが光線成す角θ2に対して支配的な影響を与え、当該光線成す角θ2は単調増加することになる。以下、柱高低差δHと光線成す角θ2との関係について、図2(c)を参照しながら説明する。なお、図2(c)では、簡便のため、高さの異なる2つの半導体柱状部71,72だけを示している。
図2(c)における光路Aは、半導体柱状部71内の光の伝播路を示しており、光路Bは、半導体柱状部72内の光の伝播路を示している。図2(c)に示すように、光路A,Bを通る光は、高度h1(半導体柱状部72の高さh1)までは同じ媒質の中を進むため同位相のままであるが、高度h1から高度h2(半導体柱状部71の高さh2)の間は媒質が異なる。従って、高度h2の地点における光路Aを通る光の位相θ3+αと、高度h2の地点における光路Bを通る光の位相θ3+βとは、以下の式(1)および式(2)に示すように、それぞれ異なる値となる。
θ3+α=θ3+2πδH/(λ0/n) ・・・式(1)
θ3+β=θ3+2πδH/λ0 ・・・式(2)
また、高度h2から高度h3の間は自由空間であるため、上端(h2)から中心軸にいたる光路の長さと媒質は等しく、前記した位相θ3+αと位相θ3+βとの位相差Ψ(=(θ3+α)−(θ3+β))は、以下の式(3)で示すように保存されることになる。
Ψ=(2πδH/λ0)(n−1) ・・・式(3)
従って、以下の式(4)に示すように、半導体柱状部71および半導体柱状部72の柱高低差δHを調整することで、半導体柱状部71および半導体柱状部72の位相差Ψを制御できることがわかる。そして、このように半導体柱状部71の放射面71aおよび半導体柱状部72の放射面72aからそれぞれ出射された光には、図2(c)の高度h2の地点において位相差Ψがあるため、これらの光が互いに干渉すると、前記した位相差Ψに応じて、素子表面と垂直な方向に対して所定角度θ2傾いた方向に1本の光線が生成されることになる。従って、半導体柱状部71および半導体柱状部72の柱高低差δHを調整して位相差Ψを制御することで、光線を所望の方向に出射することができる。なお、柱高低差δHにおけるHは固定値であるため、柱高低差割合δを調整すれば、半導体柱状部71および半導体柱状部72の位相差Ψを制御することができる。
δH=(Ψ/2π){1/(n−1)}λ0 ・・・式(4)
そして、半導体柱状部71を通る光は、半導体柱状部72を通る光に比べて遅延するため、両者が混合されると、それら2つの光の波面とは全く異なる波面をもつ波が生成される。すなわち、半導体柱状部71,72の放射面71a,72aから出射される光の波面は互いに干渉し、これら2つの半導体柱状部71,72の放射面71a,72aの相対的な位置(3次元空間の位置)によって決定される方位(方向)に、光が出射されることになる。
続いて、3次元空間の位置r1にある波源としての半導体柱状部71と、3次元空間の位置r2にある波源としての半導体柱状部72から出射された光の干渉について説明する。位置r1にある波源と、位置r2にある波源とからそれぞれ出射された光によって、3次元空間の位置rに時刻tにおいて合成される光の強度I(r)は、以下の式(5)で与えられる。
前記した式(5)において、光の干渉を表す第3項が存在するために、半導体発光層5で生成された光が、2つの波源からそれぞれ出射された後に重畳されて、波面を変えて波の進行方向を変えることが可能となる。式(5)では、式(6)のγの実部を利用する。γは、式(6)で示すように、0から1までの値をとり、2つの波源から出射された光が時間的・空間的にどのくらい相関を持っているのかを示している。よって、γは、次の式(7)〜式(9)のように場合分けすることができる。
式(7)の場合を完全コヒーレント、式(8)の場合をインコヒーレント、式(9)の場合を部分的なコヒーレントと呼ぶ。ここでは、発光素子1として、LEDの光源を使用しているため、部分的なコヒーレントになっている。従って、図2の発光素子1においては、光の強度において、前記式(5)の第3項の寄与が大きいため、光の進行方向を大きく曲げられる。
図2(c)では、簡単のため、高さの異なる2本の半導体柱状部71,72から出射される光の干渉による光線の方向について説明したが、波源として3本の半導体柱状部71,72がある場合についても、前記式(5)を拡張することが可能である。例えば、2本のうちの一方の半導体柱状部71と他方の半導体柱状部71との組み合わせを2つの波源として前記式(5)を適用し、2本のうちの一方の半導体柱状部71と半導体柱状部72との組み合わせを2つの波源として前記式(5)を適用し、2本のうちの他方の半導体柱状部71と半導体柱状部72との組み合わせを2つの波源として前記式(5)を適用し、これら3つの組み合わせを加算することで、波源として3つの半導体柱状部71,72がある場合についての関係式を求めることができる。
以上のような構成を備える発光素子1は、半導体発光層5で発生した光が、複数の半導体柱状部71,72を光導波路として各半導体柱状部71,72の放射面71a,72aから出射される。これらの放射面71a,72aから出射された光は、半導体発光層5を1つの光源として発生した光であるため、互いに干渉して合成され光線が形成される。また、発光素子1は、複数の半導体柱状部71,72のうちの少なくとも1本(半導体柱状部72)の高さをその他の半導体柱状部71の高さと異なるように構成することで、それぞれの放射面71a,72aから出射された光に位相差Ψを設けることができ、当該位相差Ψに応じた方向に光線を出射することができる。
従って、発光素子1によれば、複数の半導体柱状部71,72である構造物7を設けることで、発光素子1単体で光線を形成することができ、複数の半導体柱状部71,72のうちの少なくとも1本の高さを相違させることで、形成した光線の出射方向を制御することができる。また、発光素子1は、例えばLEDのように平坦な放射面を有する発光素子1の表面に、半導体柱状部71,72のような導波構造物を微細加工して作成することが可能であるため、当該発光素子1をIP方式の表示装置に用いた場合、立体画像の解像度が発光素子1の精細度のみに依存することになり、従来のような光学系の解像度不足による映像ボケは生じなくなる。また、発光素子1をIP方式の表示装置に用いた場合、その視野角が複数の半導体柱状部71,72の高さの差δHに応じた光線の成す角θ2の最大値のみに依存するため、IP方式における解像度の問題と視野角の問題とをそれぞれ独立に改善することが可能となる。
つぎに、発光素子1の動作について図3(a)、(b)を参照して説明する。
なお、発光素子1は、図示しない電源スイッチにより電源Vのオンオフを行なうように構成されており、その構成は省略する。
図3(a)に示すように、発光素子1は、図示しない電源スイッチにより電源が入れられることと共に、切替スイッチSWを第1電極8aと第2電極8bとが接続されるように切り替えることで、第1電極8aと第3電極8cとがp型半導体層4及びn型半導体層6を介して導通して半導体発光層5から光を出射する。すなわち、発光素子1は、第2電極8bにも電源Vの正極と接続した状態になり、第1電極8a及び第2電極8b間において正孔の移動が生じることがなく、第2電極8bと第1半導体層4との間のエネルギー障壁よりも小さくなるよう電源Vの出力電圧を選べば、第2電極8bと第3電極8cとの間には電流が流れない。
そして、発光素子1は、印加された電圧値が第1電極8aとp型半導体層4の間の接触抵抗に対して充分な大きさであるときに、第1電極8aより正孔が注入され、第2電極8bの作用がない半導体発光層5の領域においては当該半導体発光層5における再結合により、発光が得られる。
発光素子1では、図3(b)で示すように、第1電極8aの電位φ1と、第2電極8bの電位φ2との関係が、φ1>φ2の関係となる条件を満たすときに発光しない。したがって、発光素子1は、図3(a)に示すように、第1電極8aと第2電極8bの電位の関係がφ1=φ2のときに、第1電極8aである第1陽極から注入された正孔が拡散によりn型半導体層6側へ向かって移動し、接合部(半導体発光層5)でn型半導体層6の電子と再結合することで発光が得られる。
また、図3(b)に示すように、発光素子1は、切替スイッチSWを切り替えて、第2電極8bと第31電極8cとが接続するようにすることで、非発光状態とすることができる。つまり、発光素子1は、第1電極8aと第2電極8bの電位の関係がφ1>φ2のときに、第2電極8bである第2陽極近傍の正孔が第2陽極より取り出されて濃度が低下するため、第1電極8aである第1陽極より注入された正孔が第2電極8bである第2陽極に向かって移動する。さらに、発光素子1では、電位の関係により正孔が電界によっても第2電極8bへと移動させられるので、第2電極8bである第2陽極による濃度の低下する効果と合わせて正孔が接合部(半導体発光層5)に到達しなくなる。
ここでは、一例として半導体素材として窒化ガリウム(GaN)を使用しているので、c軸方向(p型半導体層4からn型半導体層6に向かう方向)に垂直な方向において移動度が高いので、図3(b)に破線の矢印で示す状態、つまり、正孔が第1電極8aから第2電極8bに向かって引き寄せられる効果は高い。
以上説明したように、図3(a)、(b)に示すように、発光素子1は、切替スイッチSWの切替換操作を行うことで、第2電極8bが正孔回収用電極として作用することができるため、第1電極8aから第2電極8bに向かって正孔が移動し光を出射しない状態(図3(b))と、また、第1電極8aから第3電極8c(半導体発光層5側)に向かう方向に正孔が移動し、半導体発光層5から光を出射する状態と(図3(a))、を切り替えることができる。
したがって、発光素子1は、ここでは、切替スイッチSWの第1切替位置及び第2切替位置に切替操作をすることで、発光及び非発光の制御をすることができ、簡易な構成で容易にオンオフ制御をすることが可能となる。なお、この切替操作は、切替スイッチSWを使用することなく外部からの正極性のパルス信号(行選択信号及び列選択信号)を入力することでも可能となる。
つぎに、発光素子1を2次元アレー状に配置して表示装置100として使用する構成について説明する。以下、図4及び図5を参照して表示装置100を説明する。なお、発光素子1で既に説明した構成は同じ符号を付して説明を基本的に省略する。また、表示装置100は、本来であれば数十、数百から数百万以上の発光素子1を配列した表示パネル101の状態で構成されているが、説明を簡単にするために行列方向に4行4列の発光素子1を配列して、各発光素子1を一画素単位として説明する。
図4に示すように、表示装置100は、発光素子1を2次元アレー状に配置した表示パネル101と、この表示パネル101の画素のオンオフを制御して駆動させるパネル駆動回路110とを備えている。そして、表示装置100は、装置外に設けたタイミングコントローラ120を介して映像信号に基づいてパネル駆動回路110を制御するように構成されている。
図5に示すように、表示パネル101は、ベース基材20上に設けた基板2と、この基板2に設けた第1電極8a及び接続電極8dと、基板2に設けた第1電極8aの先端部分が露出するように設けた誘電体層3と、この誘電体層3の上面に設けたp型半導体層4と、このp型半導体層4に誘電体層3との間となるように設けた第2電極8bと、p型半導体層4の上面に設けた半導体発光層5と、この半導体発光層5の上面に設けたn型半導体層6と、このn型半導体層6の上面で第1電極8aに対向する位置に設けた構造物7と、n型半導体層6の側面あるいは上面(図面では上面)に設けた第3電極8cと、を備えている。
また、表示装置100は、図1で示した切替スイッチSWの代わりにタイミングコントローラ120からパネル駆動回路110を介して正極性のパルス信号を入力することで発光素子1の第1電極8aと第2電極8bの一方又は両方に信号を送り、一つ一つの発光素子1の発光及び非発光を制御することで1画素の単位で駆動させるように構成されている。
図4に示すように、表示装置100では、第1電極8aが、構造物7ごとに基板2に設けて複数設置されている。この第1電極8aは、行方向(あるいは列方向)の一列(あるいは一行)ごとに接続電極8dに接続して外部配線(図示せず)に接続できるように整列して設置されている。
第2電極8bは、第1電極8aに対して離間した位置で、接続電極8dとは直交する方向に配置され、その電極一端側をパネル駆動回路110の外部配線(図3参照)に接続できるようにp型半導体層4に設けられている。この第2電極8bは、p型半導体層4を形成した後に、誘電体層3と接触するp型半導体層4の表面に設けられている。
第3電極8cは、n型半導体層6に接触していれば良いが、ここでは、n型半導体層6の上面で、一つ一つの構造物7を囲むように設置され、その電極一端が接地電極G(図1、図3参照)に接続できるように設けられている。この第3電極8cは、例えば、金属層を連続的に積層することで形成されている。なお、図5では、第3電極8cは、構造物7を囲むようにn型半導体層6の上面に設けられている。
また、表示装置100の表示パネル101において、構造物7は、光の出射方向を予め設定された方向に向けるように形成されIP立体ディスプレイとして機能する(図12参照)。表示パネル101は、IP立体ディスプレイの画素に対応した1つ1つの発光素子1において、柱高低差δHは画素ごとに予め決定されており、当該画素から放射する光線の方向を規定するように設定される。図12(b)にて、例えば円柱や立方体を終点とする太い矢印が光線の方向を示している。また、IP立体ディスプレイとしての表示パネル101において、画面に向かって一番左側の列に並べられた発光素子1と、画面に向かって一番右側の列に並べられた発光素子1とは、半導体柱状部71,72の配置が対称になっていても構わない。
また、IP立体ディスプレイとしての表示パネル101において、画面に向かって一番上の列に並べられた発光素子1と、画面に向かって一番下側の列に並べられた発光素子1とは、半導体柱状部71,72の配置が対称になっていても構わない。さらに、その他の画面領域に並べられた発光素子1も場所に応じた配置で配置されている。よって、素子単位の画素構造(発光素子1)の中の6つの波源からそれぞれ放射された光によって、当該画素において強度変調が可能となる。なお、画素の位置によっては、方位角θ1=0度とするために半導体柱状部71,72の高さを等しくすべき位置もある。
また、パネル駆動回路110は、外部から送られて来る映像信号をタイミングコントローラ120から受け取り各発光素子部分を制御する列選択手段としての列ドライバ103、及び、行選択手段としての行ドライバ104を備えている。なお、このパネル駆動回路110は、一般的なLED表示パネル等の駆動機構と同等なものを使用することができる。そして、表示装置100は、パネル駆動回路110により、図1で説明した切替スイッチSWの切替動作の代わりに正極性のパルス信号(列選択信号及び行選択信号)を発光素子1に送り、表示パネル101の発光素子1のオンオフを制御している。
このような微細構造を有する発光素子1を多数個並べた表示装置100は、従来技術においてレンズ板と発光面とを接合させたインテグラルフォトグラフィ装置と同じ働きを有するようになる(図12参照)。そして表示装置100においては、立体表示の解像度が、発光素子1の精細度にのみ依存し、光学系の解像度不足による映像ボケが生じない。また、発光素子1を用いたIP表示における視域角は、素子表面と垂直な方向に対する出射光の成す角θ2の最大値にのみ依存し、解像度と視域角とを独立に改善することが可能である。
次に、表示装置100の動作について、図4及び図6を参照して説明する。
表示装置100では、図4に示すように、列ドライバ103及び行ドライバ104にタイミングコントローラ120から信号が送られることで、発光素子1のオンオフを切り替えて発光素子1を発光及び非発光状態に制御している。図4及び図6に示すように、表示装置100では、列ドライバ103に接続電極8d(第1電極8a)が接続され、行ドライバ104に第2電極8bが接続されているので、タイミングコントローラ120からの信号により列ドライバ103及び行ドライバ104からの正極性の信号(パルス信号)を発光素子1に入力することで、発光及び非発光状態を制御することができる。
表示装置100は、例えば、タイミングコントローラ120に入力された映像信号により、行ドライバ104及び列ドライバ103に信号を送り、行ドライバ104及び列ドライバ103から正極性の信号を同時に接続電極8d及び第2電極8bに送り、発光素子1を発光させている。また、表示装置100は、列ドライバ103及び行ドライバ104の両方からの信号がない状態あるいは一方のみから信号が送られてきても非発光状態なるように動作する。つまり、表示装置100は、ここでは、行ドライバ104及び列ドライバ103から正極性の信号が同時に入力されることで、発光素子1が発光するようになっている。なお、表示装置100では、図6(a)〜(c)に示すように、1画素単位や行単位でオンオフの制御ができるため、これらを組合せ、列ドライバの出力に応じたオンオフを、行単位に同じタイミングで制御する、線順次駆動も可能である。
[発光素子の製造方法]
次に、本発明の実施形態に係る表示装置(発光素子)100の製造方法の一例について、図7から図9を参照しながら説明する。
まず、図7(a)、(b)に示すように、上部に針状の第1電極8aが複数設けられた基板(ピン電極アレイ付基板)2を用意し、当該基板2の第1電極8aの行または列ごとのいずれか一方から各列または各行に配列する第1電極8aに接続するように接続電極8dを設ける。図7(c)に示すように、第1電極8aの先端が露出するように樹脂60を充填して誘電体層3を形成する。次に、図7(d)及び図8(a)に示すように、低温バッファ層TBを介して発光素子層(p型半導体層4、半導体発光層5、n型半導体層6)HS及び第2電極8bが形成されたサファイア基板SKを用意し、発光素子層HSと樹脂60とを300℃程度で融着する。
なお、ここでは図示は省略したが、発光素子層HSは、具体的には図1に示したn型半導体層6、半導体発光層5およびp型半導体層4からなる層のことである。この発光素子層HSは、例えば分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、有機金属化学気相成長(MOCVD)法等の成膜方法によってn型半導体層6およびp型半導体層4を積層し、その接合部にIn等の不純物を添加して半導体発光層5を形成することで作成することができる。
次に、図8(b)に示すように、レーザーリフトオフ法、ケミカルリフトオフ法またはボイド形成剥離法等を用いて、サファイア基板SKおよび低温バッファ層TBを発光素子層HSから剥離する。次に、図9(a)に示すように、集束イオンビーム(FIB)等を用いて、n型半導体層6aをエッチングし、n型半導体層6および構造物7である半導体柱状部71、72を形成する。そして、図9(b)に示すように、発光点、すなわち発光素子層HSの上部に形成される構造物7以外の位置に第3電極8cを形成することで表示パネル101が形成される。そして、列ドライバ103と接続電極8dとを接続すると共に、行ドライバ104と第2電極8bとを接続することで表示装置100を形成している。
なお、図1に示す発光素子1を作製するときには、ダイシングにより発光素子1の境界に沿って切断することで、図1に示す発光素子1を作成することができる。また、図9(b)に示すように、半導体柱状部71と半導体柱状部72の高さを変える場合は、図9(a)の工程において、半導体柱状部72のみをさらにエッチングすればよい。
また、第1電極8aを形成する場合には、基板2にスルーホールを形成し、そのスルーホールから突出した状態としてもよく、あるいは、基板2に設けたスルーホールに低融点金属あるいは導電性樹脂などの導電性材料をスルーホールからはみ出すように充填し、スルーホールからはみ出した導電性材料を、金型を用いて円柱、円錐台等の形状にして第1電極8aとしても構わない。
さらに、発光素子1及び表示装置100では、構造物7の形状を柱状として説明したが、図10あるいは図11に示すような構成としても構わない。なお、図10、図11において、すでに説明した同じ符号は同じ構成を示し、説明を省略する。
図10に示すように、発光素子1Aは、凹部である円形の凹孔16,17,18を予め設定した中心Mから同距離に3箇所、4箇所、5箇所あるいは6箇所(図面では3箇所で説明)設け、各凹孔16,17,18までの距離を等間隔、中心Mから等角度で形成する構成にしても構わない。発光素子1Aは、n型半導体層6の表面に金属層13を備え、金属層13及びn型半導体層6に凹孔16、17,18を形成している。発光素子1Aに凹孔16,17,18を形成する場合には、凹孔18の孔深さを変えることで、光の出射方向を制御することが可能となる。
なお、図10において、βは中心Mに対する凹孔16,17,18の中心の角度を示し、φは凹孔16、17,18の半径、pは凹孔16,17,18の間隔であり発光素子1Aの発光の可干渉長以下であることが好ましい。光の可干渉長は、光源の発光スペクトルの半値幅と、中心波長とに依存する。光源がLEDの場合には、例えば、10〜数十μm程度の長さとなる。発光素子1Aは、凹孔16,17の孔深さをDとしたときに、凹孔18の孔深さをD−δとして、3箇所の場合は1箇所がより浅くなるようにしている。孔深さの差δは、出射光の波長λの半分の長さ以下であることとしている。
凹孔16,17,18は、発光素子1Aから放出される光の波長λ程度以上の径を有する。ここで、波長λは、自由空間における出射光の波長を示す。図10では、一例として孔の形状を円形で示した。各孔の太さは等しいものとした(半径φ)。凹孔16,17,18は、図10に示すように、光取り出し面において、所定の原点の周囲に均等な角度β(この場合、β=120度)の方位に、互いに間隔pだけ離間して配置されている。
この例では、所定の原点とは、素子上面において3つの凹孔16,17,18により環状に取り囲まれた所定領域に位置する点である。また、この原点は、図10(a)に示すように、凹孔16の中心O3と、凹孔17の中心O2と、凹孔18の中心O1とから等距離にある点であり、中心O1,O2,O3を頂点とする正三角形の重心(原点Mと表記する)のことである。ここで、3つの凹孔16,17,18は、円環状かつ均等に配置されることが好ましい。なお、各孔により取り囲まれた所定領域の形状やサイズは、孔の径とバランスを取りながら所望のものとして適宜設計できる。例えば孔の径が、発光波長の数波長程度分であれば、所定領域のサイズは、数分の1波長〜数波長程度とすることができる。
凹孔16,17,18は、金属層13の厚みよりも深く、かつ、金属層13とn型半導体層6とを合わせた厚みよりも浅く形成されている。ここで、3つの孔のうち2つの凹孔16,17の深さを、それぞれ基準となる深さDとする。そして、凹孔18と他の凹孔16,17との深さの差をδとすると、凹孔18の深さは(D−δ)となる(図10(c)参照)。本実施形態の発光素子1Aでは、後記する実験結果に基づいて、孔の深さの差δは、出射光の波長λの半分の長さ以下であることとした。凹孔18は他の孔とは異なるように深さが調整されたので、以下では、制御孔18と呼称する場合もある。
ここで、素子表面上での孔の間隔p(図10(a)参照)は、隣り合った孔からの光が干渉できる程度の長さに予め設定されている。つまり、孔の間隔pは、発光素子の可干渉長以下であることが好ましい。なお、第1電極8aは、ここでは、発光層5の広い範囲から凹孔16〜18を介して光を照射できる大きさに形成されている。
[発光素子の設計の具体例]
発光素子1Aは、例えばGaNにInを添加したLEDであるものとし、発光スペクトルの中心波長(波長λ)は470nmであるものとした。
発光素子1Aのn型半導体層6(図10参照)の厚さを約250nmとした。
金属層13(図10参照)は、厚さ200nmのMoの金属薄膜とした。
孔の間隔p(図10参照)は、出射光の自由空間での1波長に相当する470nmとした。孔の半径φ(図10参照)は、出射光の自由空間での1波長に相当する470nmとした。凹孔16,17の深さDは、発光スペクトルの中心波長470nmの半分である235nmより充分大きな深さの一例として388nmを選んだ。
制御孔18の深さ(D−δ)は、388nmからδ[nm]を減じた深さとして、δの値を変化させることで、光線方向が制御されることを確かめた。
図10(a)のA−A線矢視における断面図を図10(b)に示し、図10(a)のB−B線矢視における断面図を図10(c)に示す。ここで、図10(c)は、制御孔18の深さ(D−δ)の一例としてδ=0.4×(λ/2)の場合を図示したものである。
発光素子1Aにおいて制御孔18の深さ(D−δ)を変化させた場合に、図10(a)のC−C線矢視における断面図の具体例を示すと次のようになる。すなわち、凹孔16,17の深さDと、制御孔18の深さ(D−δ)とにおいて、深さの差が半波長の0.2倍のとき、すなわち、δ=0.2×(λ/2)の場合や、あるいは、深さの差が半波長の0.4倍のとき、すなわち、δ=0.4×(λ/2)の場合であっても構わない。なお、図10(e)に示すように、δ=0.4×(λ/2)の場合は、傾斜角度がθ=6度として光を出射することができる。
[発光素子の孔から出射される光の干渉の原理]
以下、発光素子1Aの凹孔16,17,18から出射される光の干渉について図10(d)を参照しつつ下記の数式を適宜用いて説明する。図10(d)および下記数式を用いる説明では、簡便のため、深さの異なる2つの凹孔17,18だけが形成されたLEDの発光素子を想定する。
図10(d)の発光素子1Aは、発光素子1と同様に、基板2と、誘電体層3と、p型半導体層4と、半導体発光層5と、n型半導体層6と、金属層13とを備える。また、素子の最表面を基準の位置とすると、凹孔17の深さがDであり、凹孔18の深さが(D−δ)である。ここで、説明のため、基準とする位置を変更する。すなわち、半導体発光層5の上面の位置を基準の高度h0とする。また、凹孔17の底面の位置を高度h1とし、凹孔18の底面の位置を高度h2とする。つまり、h2−h1=δの関係がある。2つの凹孔17,18の間隔をpとする(図2参照)。2つの凹孔17,18の中心軸から等距離に位置する鉛直中心軸上の所定地点Cを高度h3とする。
図10(d)の発光素子において、半導体発光層5からの光は、素子最表面の金属層13に遮蔽されるため、浅い凹孔18と深い凹孔17とに分岐して射出される。浅い凹孔18を通る場合に、1つの光路(以下、光路Aという)として、n型半導体層6中の点A1と凹孔18の底面の中心点A2とを経由して地点Cに達する光路を想定する。また、深い凹孔17を通る場合に、1つの光路(以下、光路Bという)として、凹孔17の底面の中心点B1と、点B1からδだけ高い位置の点B2とを経由して地点Cに達する光路を想定する。
光路Aを通る光と光路Bを通る光とは、高度h1までは同じ媒質(n型半導体層6)を同じ距離だけ進むので同位相のままである。このときの位相を初期位相θ0とすると、光路Aでは点A1において位相はθ0であり、光路Bでは点B1において位相はθ0である。
これら光路Aを通る光と光路Bを通る光とは、高度h1から高度h2まで異なる媒質を進む。このとき、光路Aでは媒質はn型半導体層6であり、光路Bでは媒質は空気である。一般に、半導体の誘電率は真空中(空気中)より高いため、半導体中を伝搬する際の光の速度は、空気中を伝搬する速度に比べて遅くなる。具体的には、大気中または真空中の光の速度をc、半導体の屈折率をnとすると、半導体中の速度は、c/nで与えられる(例えばGaNであれば例えばn=2.6)。このため、半導体素子中で発生した光を2つに分岐して、一方をそのまま大気中(もしくは真空中)に射出し、かつ、もう一方を半導体中で伝搬させてから射出した場合、それら2つの光が射出された後に出会うと、光路が異なるため、光の位相は異なるようになる。したがって、図10(d)の発光素子からの光の自由空間中の波長をλとし、光路Aでは高度h1から高度h2までの区間の半導体中で位相がαだけ進むとすると、光路Aでは点A2において位相は下記式(10)で表される。
また、光路Bでは高度h1から高度h2までの自由空間中で位相がβだけ進むとすると、光路Bでは点B2において位相は下記式(11)で表される。
さらに高度h2から高度h3まで自由空間なので、光路Aを通る光と光路Bを通る光とは同じ媒質(自由空間)を進む。また、このとき、光路Aの点A2から点Cまでの距離と、光路Bの点B2から点Cまでの距離とは同じである。したがって、光路Aを通る光の点A2における位相と、光路Bを通る光の点B2における位相との差は、点Cにおいても保存されることとなる。この位相差Ψは式(12)で表される。すなわち、凹孔17と凹孔18との深さの差δによって光路Aと光路Bとの位相差Ψを制御することができる。式(12)を変形すると、深さの差δは、式(13)で表される。
そして、凹孔17を通る光は、凹孔18を通る光に比べて遅延するため、両者が混合されると、それら2つの光の波面とは全く異なる波面をもつ波が生成される。すなわち、凹孔17,18から放出される光の波面は互いに干渉し、これら2つの凹孔17,18の相対的な位置(3次元空間の位置)によって決定される方位(方向)に、光が射出されることになる。
続いて、3次元空間の位置r1にある波源としての凹孔17と、3次元空間の位置r2にある波源としての凹孔18から射出された光の干渉について説明する。
位置r1にある波源と、位置r2にある波源とからそれぞれ射出された光によって、3次元空間の位置rに時刻tにおいて合成される光の強度I(r)は、次の式(14)で与えられる。
式(14)において、光の干渉を表す第3項が存在するために、半導体発光層5から射出された光が、2つの波源からそれぞれ射出された後に重畳されて、波面を変えて波の進行方向を変えることが可能となる。式(14)では、式(15)のγの実部を利用する。式(15)のE*は、Eの複素共役であることを示す。γは、式(15)で示すように、0から1までの値をとり、2つの波源から射出された光が時間的・空間的にどのくらい相関を持っているのかを示している。よって、γは、次の式(16)〜式(18)のように場合分けすることができる。
式(16)の場合を完全コヒーレント、式(17)の場合をインコヒーレント、式(18)の場合を部分的なコヒーレントと呼ぶ。ここでは、発光素子として、LEDの光源を使用しているため、部分的なコヒーレントになっている。したがって、図10(d)の発光素子においては、光の強度において、前記式(14)の第3項の寄与が大きいため、光の進行方向を大きく曲げられる。
図10(d)では、簡単のため、深さの異なる2つの孔から出射される光の干渉による光線の方向について説明した。波源としての孔が3つある場合についても、前記式(14)を拡張することが可能である。例えば、第1の孔と第2の孔との組み合わせを2つの波源として前記式(14)を適用し、第2の孔と第3の孔との組み合わせを2つの波源として前記式(14)を適用し、第3の孔と第1の孔との組み合わせを2つの波源として前記式(14)を適用し、これら3つの組み合わせを加算することで、波源としての孔が3つある場合についての関係式を求めることができる。
このような発光素子1Aでは、垂直な出射光に対して10度傾斜した出射光を出力することが可能となる。したがって、発光素子1Aを図12のように2次元アレー状に配列して制御することで、図12で示す構成と同様に要素レンズを使用することなくIP方式の映像を表示することが可能となる。
次に、図11に示すように、発光素子1Bは、素子表面63に構造物27を備えることとしてもよい。発光素子1Bは、n型半導体層6の上面に凸部として、先端に向かって階段面が小さくなるように階段状に設けた階段状柱体である構造物27を備え、この構造物27は、光出射方向とは反対の柱体の体積を減じて形成された構成としても構わない。
構造物27は、図11に示すように、先端の先端段部23と、この先端段部23よりも広く形成された基端段部24とを備える。
先端段部23は、一例として円柱を基にした形状となっている。この円柱の中心軸は、図11(a)の原点Oを通り、Z軸(図11(b)参照)に一致している。
基端段部24をXY平面に投影したときに生じる図形は、図11(a)に示すように円が歪んだ形状となっている。図11(a)において、11は基端段部24の左領域の投影形状を示し、21は基端段部24の右領域の投影形状を示す。
図11(b)に示すようにZX平面において、基端段部24はZ軸を中心として非対称になっている。図11(b)において、12は基端段部24の左領域のZX平面における断面形状を示し、22は基端段部24の右領域のZX平面における断面形状を示す。
階段状柱体である構造物27は、n型半導体層6とは別部材、例えば、SiO2で形成され、中心軸線から左右あるいは前後に区画したときに、その左右対称位置あるいは前後対称位置となる2区画において一方の区画された領域の体積が他方の区画された領域の体積よりも小さく形成されている部分を有している。そして、この構造物27は、先端段部が先端側に延びる中心軸線に直交する断面の外径の最大値が発光波長以上、出射光の可干渉長の2倍以下に形成されている。なお、構造物27は、その屈折率nαがn型半導体層6の屈折率nβよりも小さいものであれば、SiO2に限定されるものではない。
構造物27の中心を通る光は、周縁を通る光に比べて遅延するため、両者が混合されると、それら2つの光の波面とは全く異なる波面をもつ波が生成される。すなわち、構造物27の中心及び周縁から放出される光の波面は互いに干渉し、これら2つの導波路の長さが異なる相対的な位置(3次元空間の位置)によって決定される方位(方向)に、光が射出されることになる。
つまり、発光素子1Bでは、構造物27の中心を通る光の導波路が体積が少ない周縁を通る光の導波路よりも長いので、図11(c)に示すように、体積の大きい方に光が干渉して傾斜することで、特定の出射方向に光704を向けることが可能となる。
以上のように、表示装置100あるいは発光素子1,1A,1Bの構成について説明したが、例えば、構造物7,17,27は、他の形状であってもよく、また、透明誘電体層(図示せず)をn型半導体層6上に形成して、その透明誘導体層を加工して柱状部(71,72)としても構わない。このような透明誘電体層に柱状部を形成する構成とすることで、誘電体柱状部分をエッチングする際に、透明誘電体層を残すようにエッチングを行うため、発光素子層HSへの物理的・化学的ダメージを軽減することができる。
また、発光素子1,1A,1Bとしてn型とp型の薄膜からなる窒化ガリウム(GaN)を取り上げて説明したが(GaNは電子親和力が2.9eV、エネルギーギャップ3.4eVよりp層の障壁が6.3eVとなる)、第1電極8aよりもp型半導体層4との接触抵抗が大きな第2電極8bは、これより仕事関数の大きな材料を選べば、第1電極8aよりも高抵抗なショットキー接触となるので、例えば、窒化バナジウムや窒化チタンなどの化合物を使用して、正孔回収用電極としての動作が可能である。
さらに、発光素子1,1A,1Bは、前記したように、要素レンズの代わりにベース基材20上に多数並べることでIP立体ディスプレイとしての表示装置100を提供することが可能であるが、その際に発光素子1自体をベース基材20に対して傾斜させて配置することで、光線の出射角θ2をより広範囲に制御することができる。
構造物7,17では、光が干渉可能な範囲内に環状に配置され、そのN本の柱状部あるいはN個の凹孔の内、少なくとも一本の柱の高さあるいは一つの凹孔の深さが他とは異なるように形成されている構成で、その光照射面の高低差により位相差が設けられ、その位相差に応じた方向に光を合成した光線として出射するものであれば構わない。
また、表示装置100は、ある一定の画素単位でオンオフ制御ができるため、例えば、光の三原色を示す赤色(R)、緑色(G)、青色(B)を各発光素子1,1A,1Bに振り分けて構成することもできる。そして、表示装置100は、カラー表示する場合、3つの発光素子1,1A,1BをGRBとすることや、あるいは、2行2列の4つの発光素子1をGBRGとする画素で示すように構成することもできる。
さらに、発光素子1,1A,1B及び表示装置100において、第1電極8aは、図1及び図10に示すように、その大きさや形状は特に限定されるものではない。また、第1電極8aは、図10では、図1の構成と比較してp型半導体層4との接触面積を大きくして設置した例を示したが、図10における各孔(あるいは柱)に対応する数で図1に示すような小さな構成の第1電極8aを複数設置する(凹孔の数が3なら3つ、6なら6つ等)構成としても構わない。つまり、第1電極8a、第2電極8b及び第3電極8cが設置されている構成であれば、各電極の形状や設置位置、各電極の数等につては特に限定されるものではない。