以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
先ず、本発明の電極材料について説明する。本発明の電極材料は、Al基板と該Al基板表面に配置された平均厚さが200〜400nmの微結晶リン含有層とを備えるものである。微結晶リン含有層の平均厚さが前記下限未満の場合や前記上限を超える場合には、放電容量などの電極特性が低下する。また、リン含有層が微細結晶構造を有するもの(微結晶リン含有層)であるため、この層の上に電極材を形成した場合において、微結晶リン含有層と電極材との間で優れた密着性が得られ、放電容量が大きいといった優れた電極特性が得られる。
また、本発明の電極材料においては、微結晶リン含有層にAl原子および酸素原子がさらに含まれていることが好ましく、Al原子以外の他の金属原子が含まれていないことがより好ましい。微結晶リン含有層にAl原子以外の他の金属原子が含まれていると、放電容量などの電極特性が低下する傾向にある。また、微結晶リン含有層を構成する微結晶リン成分の具体的な組成としては、例えば、Al4(PO4)3(OH)3・9H2O、Al3(PO4)2(OH)6、Al3(PO4)2(OH)3、Al3(PO4)2(OH)3・5H2O、Al2(PO4)(OH)3、Al(H2PO4)3、AlH3(PO4)2が挙げられる。
さらに、前記微結晶リン含有層においては、ひび割れ(クラック)が存在していることが好ましい。クラックを有する微結晶リン含有層は、Al基板および電極材料に密着するため、界面抵抗を低下させることに優れており、放電容量が大きいといった優れた電極特性が得られる傾向にある。
本発明の電極材料は、以下の方法により製造することができる。すなわち、Al基板の表面に少量のリン酸を滴下し、余分なリン酸を除去した後、大気中で静置する。その結果、Al基板の表面には、自己析出配向被膜が形成される。この自己析出配向被膜を乾燥させることによって、密着性に優れた微結晶リン含有層がAl基板表面に形成される。
前記リン酸の濃度としては、40〜85質量%が好ましい。リン酸濃度が前記下限未満になると、自己析出配向被膜の形成が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、Al基板表面の腐食が進行するため、微結晶リン含有層とAl基板表面との密着性が低下する傾向にある。
また、リン酸の滴下量としては、Al基板1cm2あたり0.005〜0.033gが好ましい。リン酸の滴下量が前記下限未満になると、リン酸によるAlの自己析出が少ないため、自己析出配向被膜を安定して形成することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、自己析出配向被膜の形成は可能であるが、反応に関与しないリン酸を消費することになる。
余分なリン酸を除去する方法としては特に制限はないが、例えば、ろ紙などを用いて毛管現象を利用し、微量成分や溶液を吸い取る方法が挙げられる。このようにして形成したリン酸被膜を静置する温度(リン酸処理温度)としては、15〜30℃が好ましい。リン酸処理温度が前記下限未満になると、自己析出配向被膜の形成にかかる時間が長くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、自己析出配向被膜表面の平滑性が失われ、荒れた表面が形成される傾向にある。
また、リン酸被膜の静置時間(リン酸処理時間)としては3〜10分間が好ましく、5〜8分間がより好ましい。リン酸処理時間が前記下限未満になると、リン酸によるAlの自己析出が不十分となり、自己析出配向被膜を安定して形成することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、リン酸処理によりAl基板表面に生成する微細な腐食孔が増加し、十分な電極特性が得られない傾向にある。
自己析出配向被膜の乾燥方法としては特に制限はないが、大気中で十分な時間を与えて自然乾燥させることが重要である。自然乾燥させる場合の乾燥時間としては、5〜10時間が好ましい。乾燥時間が前記下限未満になると、微結晶リン含有層とAl基板表面との密着性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、不必要な水分等を吸着するため、微結晶リン含有層の結晶性が低下する傾向にある。
次に、このような電極材料を備える本発明の電池について説明する。本発明の電池は、前記電極材料を備えるものであれば特に制限はなく、燃料電池や二次電池などの化学電池であっても、太陽電池などの物理電池であってもよい。
このような化学電池や物理電池は、前記電極材料の表面に所望の電極材を配置した部材を電極として備えていることが好ましい。具体的には、本発明の電極材料の微結晶リン含有層の表面に各種電極材を配置し、これを正極材および負極材の少なくとも一方として使用する。本発明の電極材料を用いることによって、高い出力特性を発揮できるという観点から、本発明の電極材料は正極材および負極材の両方に使用することが好ましい。また、本発明の二次電池(例えば、リチウム二次電池)においては、固体電解質および電解液のいずれの電解質も使用することができる。
本発明の電池に使用する前記電極材としては特に制限はなく、二次電池用電極材(例えば、リチウム二次電池用電極材)など公知の電極材を使用することができるが、Al基板表面の微結晶リン含有層との密着性がより向上するという観点から、リチウムイオン伝導体と電極活物質とを含有するナノヘテロ構造体からなるリチウム二次電池用電極材が好ましく、以下のような三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体からなるリチウム二次電池用電極材が特に好ましい。
三次元的周期構造を少なくとも一部に有している前記ナノヘテロ構造体は、リチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中にリチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの他方の無機成分が三次元的且つ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nm(より好ましくは1nm〜50nm、特に好ましくは1〜30nm)である三次元的周期構造を少なくとも一部に有するものである。
このようなナノヘテロ構造体からなるリチウム二次電池用電極材は、従来の製造方法では実現することができなかった、球状構造、柱状構造、ジャイロイド状構造、層状構造(好ましくは、柱状構造、ジャイロイド状構造、層状構造)といったナノ構造を有するものであり、リチウムイオン伝導体と電極活物質酸素との組み合わせについて、それらの配置、組成、構造スケールなどを様々に制御したナノヘテロ構造を有するものとして得ることが可能である。そのため、このようなリチウム二次電池用電極材によれば、界面増大効果、ナノサイズ効果、耐久性などの飛躍的な向上が発揮され、リチウム二次電池用電極材としての利用率を高めることができる。また、このようなリチウム二次電池用電極材は、ナノ構造に起因して反応界面の面積が大きく、電荷移動がスムーズに起こるため、出力特性が向上する。その結果、このような電極材を備えるリチウム二次電池においては蓄電池特性の飛躍的な向上が発揮されるようになる。
なお、本発明における「繰り返し構造の一単位の長さの平均値」とは、一方の無機成分からなるマトリックス中に配置されている他方の無機成分の隣接するもの同士の中心間の距離の平均値であり、いわゆる周期構造の間隔(d)に相当する。係る周期構造の間隔(d)は、以下のように小角X線回折により求められる。また、本発明に係る球状、柱状、ジャイロイド状または層状といった構造についても、以下のように小角X線回折により測定される特徴的な回折パターンにより規定することができる。
すなわち、小角X線回折により、球状、柱状、ジャイロイド状、層状などの形状の構造体がマトリックス中に周期的に配置した擬似結晶格子の特徴的な格子面からのBragg反射が観察される。その際、周期構造が形成されていると回折ピークが観察され、それら回折スペクトルの大きさ(q=2π/d)の比から、球状、柱状、ジャイロイド状、層状などの構造を特定することができる。また、係る回折ピークのピーク位置から、Braggの式(nλ=2dsinθ;λはX線波長、θは回折角を示す。)により、周期構造の間隔(d)を求めることができる。以下の表1に、各構造とピーク位置の回折スペクトルの大きさ(q)の比の関係を示す。なお、表1に示すようなピークが全て確認される必要はなく、観察されたピークから構造が特定できればよい。
また、本発明に係る球状、柱状、ジャイロイド状、層状といった構造を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて特定することも可能であり、それによってその形状や周期性を判別・評価することができる。さらに、様々な方向からの観察や三次元トモグラフィーを用いることによって、三次元性をより詳しく判別することも可能である。
前記リチウム二次電池用電極材を構成するリチウムイオン伝導体としては、リチウムイオン伝導性を示す無機成分であれば特に制限はないが、例えば、硫化物系リチウムイオン伝導体(Li2S−P2S5など)、ガーネット型リチウムイオン伝導体(Li7−xLa3Zr2−xNbxO12、Li7La3Zr2O12など)、LISICON型リチウムイオン伝導体(Li14Zn(GeO4)4など)、NASICON型リチウムイオン伝導体(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3など)、ペロブスカイト型リチウムイオン伝導体(Li0.51La0.34TiO2.94など)が好ましい。これらのリチウムイオン伝導体は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
また、前記リチウム二次電池用電極材を構成する電極活物質としては、正極活物質および負極活物質が挙げられる。前記正極活物質としては特に制限はないが、例えば、酸化物系正極活物質(LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、およびこれらを構成するCo原子、Ni原子またはMn原子の一部が他の原子で置換された活物質など)、オリビン型正極活物質(LiFePO4など)が好ましい。また、前記負極活物質としては特に制限はないが、例えば、酸化物系負極活物質(Li4Ti5O12など)、炭素系負極活物質(黒鉛など)、金属系負極活物質(Liと合金を形成する金属(例えば、Sn、Al、Ge、Si、Pb)やこの金属とLiとの合金など)が好ましい。これらの正極活物質および負極活物質は、それぞれ1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
前記リチウム二次電池用電極材においては、リチウムイオン伝導体と電極活物質のいずれがナノヘテロ構造のマトリックスを形成していてもよいが、電極材の体積当りあるいは質量当りの充放電容量を最大にするという観点から、電極活物質がマトリックスを形成していることが好ましい。また、電極材の厚みとしては特に制限はないが、薄すぎると電池全体に占める電極の割合が減少し、容量が小さくなり、一方、厚すぎると電極抵抗が増大し、電極の強度が低下するという観点から、1〜100μmが好ましい。さらに、マトリックス中に三次元的且つ周期的に配置している無機成分の断面直径としては、小さすぎると導電パスが形成しにくくなり、大きすぎると界面が減少するという観点から、5〜90nmが好ましい。
また、前記リチウム二次電池用電極材において、リチウムイオン伝導体と電極活物質の割合は、これらの組み合わせによって適宜設定されるが、例えば、リチウムイオン伝導体がLi7La3Zr2O12(LLZO)であり、電極活物質がLiCoO2(LCO)である場合には、LCO1モルに対してLLZOが0.05〜0.1モルであることが好ましい。LLZOの割合が前記範囲から逸脱すると、放電容量が低下する傾向にある。
次に、このような三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体からなるリチウム二次電池用電極材の製造方法について説明する。前記リチウム二次電池用電極材は、
互いに混和しない少なくとも第一ポリマーブロック成分と第二ポリマーブロック成分とが結合してなるブロックコポリマーと、リチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、リチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体のうちの他方である第二無機前駆体と、を溶媒に溶解して原料溶液を調製する第一の工程と、
少なくとも、前記第一無機前駆体が導入された前記第一ポリマーブロック成分からなる第一ポリマー相と、前記第二無機前駆体が導入された前記第二ポリマーブロック成分からなる第二ポリマー相と、が自己組織化により規則的に配置したナノ相分離構造体を形成せしめる相分離処理と、前記リチウムイオン伝導体前駆体および前記電極活物質前駆体をそれぞれリチウムイオン伝導体および電極活物質に変換せしめる変換処理と、前記ナノ相分離構造体から前記ブロックコポリマーを除去する除去処理とを含み、前記リチウムイオン伝導体と前記電極活物質とからなるナノヘテロ構造を有する電極材を得る第二の工程と、
を含む方法により製造することができる。以下に、それぞれの工程を説明する。
[第一の工程:原料溶液調製工程]
係る工程は、以下に説明するブロックコポリマーと以下に説明する無機前駆体とを溶媒に溶解して原料溶液を調製する工程である。
本発明で用いられるブロックコポリマーは、少なくとも第一ポリマーブロック成分と第二ポリマーブロック成分とが結合してなるものである。このようなブロックコポリマーの具体例として、繰り返し単位aを有するポリマーブロック成分A(第一ポリマーブロック成分)と、繰り返し単位bを有するポリマーブロック成分B(第二ポリマーブロック成分)と、が末端同士で結合した、−(aa…aa)−(bb…bb)−という構造をもつA−B型、A−B−A型のブロックコポリマーがある。また、1種類以上のポリマーブロック成分が中心から放射状に伸びたスター型や、ブロックコポリマーの主鎖に他のポリマー成分がぶらさがった形でもよい。
本発明で用いられるブロックコポリマーを構成するポリマーブロック成分は、互いに混和しないものであれば、その種類に特に限定はない。したがって、本発明で用いられるブロックコポリマーは、極性がそれぞれ異なるポリマーブロック成分からなるものが好ましい。係るブロックコポリマーの具体例としては、ポリスチレン−ポリメチルメタクリレート(PS−b−PMMA)、ポリスチレン−ポリエチレンオキシド(PS−b−PEO)、ポリスチレン−ポリビニルピリジン(PS−b−PVP)、ポリスチレン−ポリフェロセニルジメチルシラン(PS−b−PFS)、ポリイソプレン−ポリエチレンオキシド(PI−b−PEO)、ポリブタジエン−ポリエチレンオキシド(PB−b−PEO)、ポリエチルエチレン−ポリエチレンオキシド(PEE−b−PEO)、ポリブタジエン−ポリビニルピリジン(PB−b−PVP)、ポリイソプレン−ポリメチルメタクリレート(PI−b−PMMA)、ポリスチレン−ポリアクリル酸(PS−b−PAA)、ポリブタジエン−ポリメチルメタクリレート(PB−b−PMMA)などが挙げられる。中でも、ポリマーブロック成分の極性の差が大きいほど導入する前駆体も極性の差が大きいものを用いることができるため、それぞれのポリマーブロック成分に前駆体を導入し易くなるという観点から、PS−b−PVP、PS−b−PEO、PS−b−PAAなどが好ましい。
ブロックコポリマーおよびそれを構成する各ポリマーブロック成分の分子量は、製造するリチウム二次電池用電極材のナノ構造スケール(球や柱などのサイズや間隔)や配置に応じて適宜選択すればよい。例えば、数平均分子量が100〜1000万(より好ましくは1000〜100万)であるブロックコポリマーを用いることが好ましく、数平均分子量が小さいほどナノ構造スケールは小さくなる傾向にある。また、各ポリマーブロック成分の数平均分子量に関しては、各ポリマーブロック成分の分子量比などを調整することにより、後述するナノ相分離構造体の形成工程において自己組織化により得られるナノ相分離構造を所望の構造とすることができ、ひいては、無機成分を所望の形態で配列した構造をもつナノヘテロ構造を有するリチウム二次電池用電極材が得られるようになる。また、後述する熱処理(焼成)または光照射により容易に分解されるブロックコポリマーや、溶媒により容易に除去されるブロックコポリマーを用いることが好ましい。
本発明で用いられるリチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体は、それぞれ前述したリチウムイオン伝導体および電極活物質を後述する変換処理によって形成できる無機前駆体であれば特に制限はない。具体的には、前記リチウムイオン伝導体および電極活物質を構成する金属または半金属の塩(例えば、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、有機酸塩(アクリル酸塩、サリチル酸塩など))、前記金属または前記半金属を含む炭素数1〜4のアルコキシド(例えば、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド)、前記金属または前記半金属の錯体(例えば、アセチルアセトナート錯体、金属カルボニル)、前記金属または前記半金属を含む有機金属化合物または有機半金属化合物(例えば、フェニル基、炭素数5以上の長鎖炭化水素鎖、シクロオクタテトラエン環、シクロペンタジエニル環、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の構造を備えるもの)が好ましい。このようなリチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体は、目的とするナノヘテロ構造を有するリチウム二次電池用電極材を構成するリチウムイオン伝導体と電極活物質との組み合わせに応じて、且つ、それらが前述の諸条件を満たすように1種または2種以上を適宜選択して使用される。例えば、LLZOを形成する場合の前駆体(LLZO前駆体)としては、Li前駆体、La前駆体およびZr前駆体の混合物が選択され、LCOを形成する場合の前駆体(LCO前駆体)としては、Li前駆体およびCo前駆体の混合物が選択される。また、例えば、リチウムイオン伝導体がLLZOであり、電極活物質がLCOである場合、原料溶液中のLLZO前駆体とLCO前駆体との割合としては、LCO前駆体1モルに対してLLZO前駆体が0.05〜0.1モルであることが好ましい。LLZO前駆体の割合が前記範囲から逸脱すると、得られる電極材の放電容量が低下する傾向にある。
本発明で用いられる溶媒としては、用いるブロックコポリマーと第一および第二無機前駆体とを溶解できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、クロロホルム、ベンゼンなどが挙げられる。このような溶媒は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
なお、本明細書において、「溶解」とは、物質(溶質)が溶媒に溶けて均一混合物(溶液)となる現象であって、溶解後、溶質の少なくとも一部がイオンとなる場合、溶質がイオンに解離せず分子状で存在している場合、分子やイオンが会合して存在している場合、などが含まれる。
本発明においては、前記第一ポリマーブロック成分と前記リチウムイオン伝導体前駆体および前記電極活物質前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分と前記前駆体のうちの他方である第二無機前駆体とをそれぞれ組み合わせて用い、さらには、前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm3)1/2以下である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm3)1/2以下である第二無機前駆体とを組み合わせて用いることが好ましい。このような条件を満たす第一無機前駆体と第二無機前駆体とを組み合わせて用いることにより、後述するナノ相分離構造体を形成する工程において、第一ポリマーブロック成分中に第一無機前駆体が、第二ポリマーブロック成分中に第二無機前駆体がそれぞれ十分に導入された状態でブロックコポリマーの自己組織化と共にナノ相分離構造が構成され、前記無機前駆体は三次元的にナノスケールの周期性をもって配置される。
なお、本発明における「溶解度パラメータ」とは、ヒルデブラントによって導入された正則溶液論により定義されたいわゆる「SP値」であり、以下の式:
溶解度パラメータδ[(cal/cm3)1/2]=(ΔE/V)1/2
(式中、ΔEはモル蒸発エネルギー[cal]、Vはモル体積[cm3]を示す。)
に基づいて求められる値である。
本発明に用いる前記第一ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第一ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことが好ましい。また、前記第二ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第二ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことが好ましい。さらに、これらの両方の条件を満たすことがより好ましい。
さらに、本発明において用いる前記第一無機前駆体は前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm3)1/2超であることが好ましい。また、前記第二無機前駆体は前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm3)1/2超であることが好ましい。さらに、これらの両方の条件を満たすことがより好ましい。
このような条件を満たす第一無機前駆体と第二無機前駆体とを組み合わせて用いることにより、後述するナノ相分離構造体を形成する工程において、第一ポリマーブロック成分中に不純物として第二無機前駆体の一部が、また、第二ポリマーブロック成分中に不純物として第一無機前駆体の一部が導入されてしまうことがより確実に防止される傾向にあり、得られるナノヘテロ構造を有するリチウム二次電池用電極材におけるマトリックスを構成する無機成分の純度および/またはマトリックス中に配置される無機成分の純度がより向上する傾向にある。
このような条件を満たす第一および第二ポリマーブロック成分と第一および第二無機前駆体との組み合わせとしては、第一ポリマーブロック成分がポリスチレン成分、ポリイソプレン成分およびポリブタジエン成分からなる群から選択される少なくとも1種の極性の小さいポリマーブロック成分であり、第二ポリマーブロック成分がポリメチルメタクリレート成分、ポリエチレンオキシド成分、ポリビニルピリジン成分およびポリアクリル酸成分からなる群から選択される少なくとも1種の極性の大きいポリマーブロック成分であり、第一無機前駆体が前記有機金属化合物および前記有機半金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種の極性の小さい無機前駆体であり、第二無機前駆体が前記金属または前記半金属の塩、前記金属または前記半金属を含む炭素数1〜4のアルコキシド、ならびに前記金属または前記半金属のアセチルアセトナート錯体からなる群から選択される少なくとも1種の極性の大きい無機前駆体である組み合わせが好ましい。
また、前記第一無機前駆体および前記第二無機前駆体のうちの少なくとも一方(より好ましくは両方)は、用いる溶媒との溶解度パラメータの差が2(cal/cm3)1/2以下であることが好ましい。このような条件を満たす第一無機前駆体および/または第二無機前駆体を用いることにより、溶媒に無機前駆体がより確実に溶解し、後述するナノ相分離構造体を形成する工程においてポリマーブロック成分中に無機前駆体がより確実に導入される傾向にある。
さらに、得られる原料溶液における溶質(ブロックコポリマー、第一無機前駆体および第二無機前駆体)の割合は特に限定されないが、原料溶液の全量を100質量%としたときに、溶質の合計量を0.1〜30質量%程度とすることが好ましく、0.5〜10質量%とすることがより好ましい。また、ブロックコポリマーに対する第一および第二無機前駆体の使用量を調整することにより、各ポリマーブロック成分に導入される各無機前駆体の量が調整されるため、得られるナノヘテロ構造を有するリチウム二次電池用電極材におけるリチウムイオン伝導体と電極活物質との比率やこれらの構造スケール(球や柱などのサイズや間隔)などを所望の程度とすることができる。
[第二の工程:電極材形成工程]
この工程は、以下に詳述する相分離処理と変換処理と除去処理とを含み、リチウムイオン伝導体と電極活物質とからなるナノヘテロ構造を有する電極材を調製する工程である。
先ず、前記第一の工程において調製された原料溶液は、ブロックコポリマー、リチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体を含むものであるが、本発明においては、前記第一ポリマーブロック成分とリチウムイオン伝導体前駆体および電極活物質前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分と前記前駆体のうちの他方である第二無機前駆体とをそれぞれ組み合わせて用い、さらには、前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm3)1/2以下である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm3)1/2以下である第二無機前駆体とを組み合わせて用いることが好ましい。これにより、第一無機前駆体および第二無機前駆体はそれぞれ第一ポリマーブロック成分中および第二ポリマーブロック成分中に十分に導入された状態で存在する。そのため、ブロックコポリマーの自己組織化によりナノ相分離構造体を形成せしめる相分離処理により、第一無機前駆体が導入された第一ポリマーブロック成分からなる第一ポリマー相と第二無機前駆体が導入された第二ポリマーブロック成分からなる第二ポリマー相とが規則的に配置し、前記無機前駆体は三次元的にナノスケールの周期性をもって配置される。
このような相分離処理としては、特に限定されないが、用いるブロックコポリマーのガラス転移点以上の温度で熱処理することにより、ブロックコポリマーは自己組織化され、相分離構造が得られる。
次に、本発明においては、相分離処理により形成されたナノ相分離構造体に対して、前記リチウムイオン伝導体前駆体および前記電極活物質前駆体をそれぞれリチウムイオン伝導体および電極活物質に変換せしめる変換処理と、前記ナノ相分離構造体から前記ブロックコポリマーを除去する除去処理とが施される。係る変換処理により前記リチウムイオン伝導体前駆体および前記電極活物質前駆体をそれぞれリチウムイオン伝導体および電極活物質に変換せしめると共に、係る除去処理によりブロックコポリマーを除去することによって、ナノ相分離構造の種類(形状)に応じてリチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に他方の無機成分が球状、柱状、ジャイロイド状または層状(好ましくは、柱状、ジャイロイド状または層状)といった形状で三次元的に特定のナノスケールの周期性をもって配置された構造を少なくとも一部に有するナノヘテロ構造が得られる。
このような変換処理としては、前記無機前駆体が前記無機成分に変換される温度以上で加熱(焼成)して無機成分に変換する工程であってもよいし、前記無機前駆体を加水分解するとともに脱水縮合させて無機成分に変換する工程であってもよい。
また、除去処理としては、ブロックコポリマーが分解する温度以上で熱処理(焼成)することによってブロックコポリマーを分解する工程であってもよいが、溶媒によりブロックコポリマーを溶解して除去する工程や、紫外線などの光照射によりブロックコポリマーを分解する工程であってもよい。
さらに、本発明における前記第二の工程においては、前記第一の工程において調製された原料溶液に対してブロックコポリマーが分解する温度以上で熱処理(焼成)を施すことによって、前記相分離処理、前記変換処理および前記除去処理を一度の熱処理で行うことができる。このように一度の熱処理により前記相分離処理、前記変換処理および前記除去処理を完結させるためには、用いるブロックコポリマーや無機前駆体の種類によっても異なるが、300〜1200℃(より好ましくは400〜900℃)で0.1〜50時間程度の熱処理を施すことが好ましい。
このような熱処理は、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素ガスなど)中、酸化ガス雰囲気(例えば、空気など)中、あるいは還元ガス雰囲気(例えば、水素など)中で行なってもよい。不活性ガス雰囲気中で無機前駆体を無機成分に変換せしめると共にブロックコポリマーを除去することにより、ナノスケールの三次元的周期構造がより確実に維持される傾向にある。また、酸化ガス雰囲気中で無機前駆体を無機成分に変換せしめることにより、金属または半金属の酸化物からなるリチウムイオン伝導体および電極活物質を備える電極材を得ることができる。さらに、還元ガス雰囲気中で無機前駆体を無機成分に変換せしめることにより、金属または半金属からなるリチウムイオン伝導体および電極活物質を備える電極材を得ることができる。このような不活性ガス雰囲気中、酸化ガス雰囲気中、あるいは還元ガス雰囲気中での熱処理の条件は特に制限されないが、300〜1200℃(より好ましくは400〜900℃)で0.1〜50時間程度の処理が好ましい。
また、前記熱処理の後あるいは前記熱処理の際に、それぞれ公知の方法により、アルゴン雰囲気などを用いて無機成分を炭化せしめる処理、アンモニア雰囲気などを用いて無機成分を窒化せしめる処理、炭化ホウ素含有雰囲気などを用いて無機成分を硼化せしめる処理などを更に施すようにしてもよい。
このようにして得られるナノヘテロ構造体は、その全てに、リチウムイオン伝導体および電極活物質のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に他方の無機成分が三次元的且つ周期的に配置している構造(三次元的周期構造)が形成されていることが好ましいが、その少なくとも一部に前記三次元的周期構造が形成されていればよい。また、このようなナノヘテロ構造体は二次粒子により形成されていることが好ましい。
このようにして得られるナノヘテロ構造体を本発明の電極材料の微結晶リン含有層上に配置することによって、本発明の電極材料と前記リチウム二次電池用電極材を備える電極が得られる。具体的には、前記第一の工程の後に、前記原料溶液を熱処理容器に装入して前記第二の工程を施し、得られた前記リチウム二次電池用電極材を本発明の電極材料に積層してもよいし、あるいは、前記原料溶液を本発明の電極材料の微結晶リン含有層表面に塗布した後、前記第二の工程を施して、直接、本発明の電極材料上に前記リチウム二次電池用電極材を形成してもよい。原料溶液の塗布方法としては、ハケ塗り、スプレー法、ディッピング法、スピン法、カーテンフロー法などが用いられる。
また、上記の方法により得られるナノヘテロ構造体を、本発明の電極材料の微結晶リン含有層上に配置してプレス成形することによって、直接、本発明の電極材料上に前記リチウム二次電池用電極材を形成してもよい。この方法によれば、微結晶リン成分がナノヘテロ構造体からなる電極材にも付着するため、Al基板表面と電極材表面との界面抵抗が低減される。また、電極材がアンカーとして機能するため、Al基板表面の微結晶リン含有層と電極材表面との密着性が向上する。その結果、優れた電極特性を有する電極が得られる。
プレス成形温度としては、20〜150℃が好ましい。プレス成形温度が前記下限未満になると、Al基板表面の微結晶リン含有層と電極材表面との密着性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、微結晶リン成分の変質などにより、Al基板表面や電極材表面と微結晶リン含有層との密着性が低下する傾向にある。プレス成形時間としては、1〜600秒間が好ましい。プレス成形時間が前記下限未満になると、Al基板表面の微結晶リン含有層と電極材表面との密着性が低下する傾向にある。なお、前記上限を超えてプレス成形しても特に支障はないが、製造にかかる時間が長くなる。プレス成形時の圧力としては、300〜2000MPaが好ましい。プレス成形時の圧力が前記下限未満になると、電極材の密度が低下し、電極材料としての放電容量が減少する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、固着した電極材の破壊が生じ、Al基板表面と電極材表面との密着性が低下する傾向にある。
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
Al基板(Al純度99%、直径14mm、厚み0.5mm)の表面に85質量%のリン酸(密度1.69g/cm3)をの0.033g/cm2の割合で滴下した。余分なリン酸をろ紙で吸い取り、大気中、室温で5分間静置した。静置後のAl基板表面を目視により観察したところ、光沢のある被膜が生成していた。この被膜を大気中、室温で10時間自然乾燥させた。
得られた被膜のθ−2θ法によるX線回折パターンをX線回折装置((株)リガク製「RINT−TTR」)を用いて測定した。その結果を図1Aに示す。また、図1A中の2θ=20°付近のX線回折パターンを拡大したものを図1Bに示す。さらに、同様に測定した未処理のAl基板表面のX線回折パターンを図2に示す。図1Bおよび図2に示した結果から明らかなように、Al基板上に形成された被膜は、2θ=19°の位置にX線回折ピークを有する配向性膜であることがわかった。
また、この被膜のθ法(ロッキングカーブ法)によるX線回折パターンを前記X線回折装置を用いて測定した。その結果を図3Aに示す。また、図3A中のθ=10°付近のX線回折パターンを拡大したものを図3Bに示す。図3Bに示した結果から明らかなように、得られた被膜は、θ=10°付近に半値幅≒0.3°のX線回折ピークを示す微細結晶構造を有するものであることがわかった。
さらに、前記被膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、図4Aに示すように、多くのひび割れが確認された。このひび割れ部分を拡大したものを図4Bに示す。図4Bに示したSEM写真において、ひび割れ部分の厚みを2、3箇所測定したところ、膜厚は200〜400nmであった。
さらに、前記被膜の表面について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてエネルギー分散型X線(EDX)分光分析を行なったところ、図5に示すように、前記被膜には、P原子、Al原子およびO原子が含まれていることがわかった。従って、リン酸処理によりAl基板の表面に形成された前記被膜は、微結晶リン成分からなり、Al原子およびO原子をさらに含むものであることが確認された。
次に、このAl基板の被膜上に電極材を成形し、これを正極材として電池セルを作製して放電容量を測定した。具体的には、先ず、ブロックコポリマーとしてポリスチレン−b−ポリ(2−ビニルピリジン)(PS−b−P2VP、PS成分の数平均分子量:40.5×103、P2VP成分の数平均分子量:40×103)2gと、Li7La3Zr2O12(LLZO)前駆体(Li前駆体、La前駆体およびZr前駆体)としてサリチル酸リチウム(C6H4(OH)COOLi)0.483g、トリス(2,4−ペンタンジオナト)ランタン(III)水和物(La(CH3COCHCOCH3)3・xH2O)0.642gおよびテトラキス(2,4−ペンタンジオナト)ジルコニウム(IV)(Zr(CH3COCHCOCH3)4)0.522gと、LiCoO2(LCO)前駆体(Li前駆体およびCo前駆体)としてサリチル酸リチウム(C6H4(OH)COOLi)1.384gおよびコバルトカルボニル(Co(CO)8)0.937gとを0.4Lのテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、原料溶液を得た。なお、この原料溶液中のLCO前駆体1モルに対するLLZO前駆体の量は0.1モルである。
次に、前記原料溶液を熱処理容器に入れ、空気気流下、600℃で25時間焼成することによって無機粉末を得た。この無機粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、図6に示すように、前記無機粉末は二次粒子からなるものであり、二次粒子の平均粒子径は3μmであることが確認された。
また、この無機粉末について小角X線回折測定装置(リガク社製、商品名:NANO−Viewer)を用いて小角X線回折パターンを測定したところ、周期構造の間隔(d)は21nmであり、ジャイロイド状構造に特徴的な回折ピークパターン(ピーク位置の回折スペクトルの大きさ(q)の比)が確認された。
さらに、得られた無機粉末のX線回折パターンを粉末X線回折装置((株)リガク製「RINT−TTR」)を用いて測定したところ、Li7La3Zr2O12(LLZO)およびLiCoO2(LCO)に由来する回折ピークが観測された。
以上の結果から、得られた無機粉末は、LLZOからなるマトリックス中にLCOが三次元的且つ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を少なくとも一部に有しているナノヘテロ構造体(LCO1モルに対してLLZOが0.1モル)であることが確認された。
次に、金型(φ14mm×5mm)に、前記被膜を備えるAl基板を入れ、その上に前記無機粉末0.02〜0.03gを充填し、25℃、500MPaで1秒間の冷間プレスを行い、Al基板の前記被膜上に厚み30μmのナノヘテロ構造体からなる電極材を作製した。このナノヘテロ構造体からなる電極材を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、図7に示すように、二次粒子が固着して緻密な電極材(ナノヘテロ構造の電極材)が形成されていることが確認された。
このAl基板/微結晶リン成分からなる被膜/電極材の3層からなる部材を正極材として用い、リチウム金属箔(φ14mm×0.4mm)を負極材として用いてポリエチレンオキサイド(PEO)にリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)をドーピングしたポリマー電解質(φ14mm×1mm)を挟持し、電池セルを作製した。この電池セルの放電容量を定電流定電圧充電により3V〜4.2Vの範囲で測定した。その結果を図8に示す。
(実施例2)
厚み20μmのナノヘテロ構造体からなる電極材を作製した以外は実施例1と同様にして電池セルを作製し、その放電容量を測定した。その結果を図9に示す。
(実施例3)
厚み15μmのナノヘテロ構造体からなる電極材を作製した以外は実施例1と同様にして電池セルを作製し、その放電容量を測定した。その結果を図9に示す。
(比較例1)
未処理のAl基板の表面に厚み45μmのナノヘテロ構造体からなる電極材を作製した以外は実施例1と同様にして電池セルを作製し、その放電容量を測定した。その結果を図8に示す。
(比較例2)
リン酸の代わりにリン酸/硝酸混合液(リン酸/硝酸の質量比:1/1)を用いてAl基板の表面にケミカルブラスト処理を施し、この処理面に厚み35μmのナノヘテロ構造体からなる電極材を作製した以外は実施例1と同様にして電池セルを作製し、その放電容量を測定した。その結果を図8に示す。
(比較例3)
リン酸の代わりに硝酸を用いてAl基板の表面にケミカルブラスト処理を施し、この処理面に厚み35μmのナノヘテロ構造体からなる電極材を作製した以外は実施例1と同様にして電池セルを作製し、その放電容量を測定した。その結果を図8に示す。
(比較例4)
リン酸の代わりに150℃の熱水を用いてAl基板の表面を洗浄し、この洗浄面に厚み25μmのナノヘテロ構造体からなる電極材を作製した以外は実施例1と同様にして電池セルを作製し、その放電容量を測定した。その結果を図8に示す。
(比較例5)
Al基板の表面にリン酸を滴下した後、Al基板の表面を水で洗浄した。この表面に厚み20μmのナノヘテロ構造体からなる電極材を作製した以外は実施例1と同様にして電池セルを作製し、その放電容量を測定した。その結果を図9に示す。
(比較例6)
リン酸の代わりにリン酸/水酸化アルミニウム混合液(リン酸/Al(OH)3の質量比:1/0.1)を用いた以外は実施例1と同様にしてAl基板の表面に被膜を形成した。この被膜上に厚み35μmのナノヘテロ構造体からなる電極材を作製した以外は実施例1と同様にして電池セルを作製し、その放電容量を測定した。その結果を図9に示す。
(比較例7)
リン酸の代わりにリン酸アルミニウムを用いた以外は実施例1と同様にしてAl基板の表面に被膜を形成した。この被膜上に厚み15μmのナノヘテロ構造体からなる電極材を作製した以外は実施例1と同様にして電池セルを作製し、その放電容量を測定した。その結果を図9に示す。
(比較例8)
80〜100の熱水0.1Lにリン酸亜鉛5gを溶解した。得られたリン酸亜鉛水溶液にAl基板を数分間浸漬した後、100℃で30分間乾燥させて、Al基板の表面にリン酸亜鉛皮膜を形成した。この被膜上に厚み10μmのナノヘテロ構造体からなる電極材を作製した以外は実施例1と同様にして電池セルを作製し、その放電容量を測定した。その結果を図10に示す。なお、図10には、実施例1で作製した電池セルの放電容量も示した。
(比較例9)
リン酸亜鉛の代わりにリン酸クロム5gを用いた以外は比較例8と同様にしてAl基板の表面にリン酸クロム被膜を形成した。この被膜上に厚み30μmのナノヘテロ構造体からなる電極材を作製した以外は実施例1と同様にして電池セルを作製し、その放電容量を測定した。その結果を図10に示す。
図8〜図10に示した結果から明らかなように、リン酸を用いてAl基板の表面にケミカルブラスト処理を施し、さらに微結晶リン成分からなる被膜を形成した場合(実施例1〜3)には、未処理のAl基板を用いた場合(比較例1)、ケミカルブラスト処理のみを施し、被膜を形成しなかった場合(比較例2〜3)、熱水洗浄した場合(比較例4)、従来のリン酸処理を施した場合(比較例5)、リン酸/水酸化アルミニウム混合液で処理して被膜を形成した場合(比較例6)、リン酸アルミニウムで処理して被膜を形成した場合(比較例7)、リン酸亜鉛で処理して被膜を形成した場合(比較例8)、ならびにリン酸クロムで処理して被膜を形成した場合(比較例7)に比べて、電池セルの放電容量が増加することが確認された。
放電容量測定後の電池セルを解体し、Al基板/微結晶リン成分からなる被膜/電極材の3層からなる部材の断面について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてエネルギー分散型X線(EDX)分光分析を行なった。図11には、実施例1で作製したAl基板/微結晶リン成分からなる被膜/電極材の3層からなる部材における微結晶リン成分の分布をマッピングした結果を示す。図11に示した結果から明らかなように、微結晶リン成分は、Al基板表面だけでなく、電極材表面にも付着していることがわかった。これは、電極材をプレス成形したことによるものと推察される。すなわち、電極材をプレス成形したことによって、微結晶リン成分がAl基板表面と電極材表面の両方に付着し、Al基板表面と電極材表面との界面抵抗が減少(微結晶リン成分によるバリアフリー的効果)して、放電容量が増加したと推察される。
また、放電容量測定後の電池セルを解体した際、比較例7〜8で作製した電池セルにおいては、ナノヘテロ構造体からなる電極材とAl基板が容易に剥離し、密着性に劣ることがわかった。一方、実施例1〜3で作製した電池セルにおいては、ナノヘテロ構造体からなる電極材とAl基板は剥離しにくく、密着性に優れたものであった。実施例1で作製した電池セルの解体後のAl基板表面の被膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。その結果、図12に示すように、ナノヘテロ構造体からなる電極材が被膜に食い込んでいることがわかった。これは、電極材をプレス成形により作製したためと推察される。すなわち、電極材をプレス成形したことによって、被膜に食い込んだ電極材がアンカーとして機能し、電極材とAl基板との密着性が向上したと推察される。
(実施例4〜6)
リン酸を滴下した後、0〜60分間静置し、その後、5時間自然乾燥させた以外は、実施例1と同様にしてAl基板の表面に微結晶リン成分からなる被膜を形成した。この被膜上にナノヘテロ構造体からなる電極材を作製した以外は実施例1と同様にして電池セルを作製し、その放電容量を測定した。静置時間(リン酸処理時間)と電極材の厚みおよび放電容量との関係を図13に示す。
図13に示した結果から明らかなように、リン酸処理時間を5分間にすると、放電容量が最大となることがわかった。一方、リン酸処理時間が10分間以上の場合、リン酸処理時間の増加とともに放電容量が減少することがわかった。
また、Al基板表面の被膜を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、ひび割れ部分などの厚みを測定して微結晶リン成分からなる被膜の厚みを決定した。その結果、膜厚は、リン酸処理時間が5分間では200〜400nm、リン酸処理時間が10分間では800nm、リン酸処理時間が30分間では1000〜1500nm、リン酸処理時間が60分間では100〜1000nmであった。また、厚みが800nm以上の被膜ではひび割れが生じていないことがわかった。従って、優れた放電容量を得るためには、厚さが200〜400nmのひび割れ(クラック)を有する被膜が好ましいことがわかった。
一方、リン酸処理後のAl基板表面の状態を確認するために、リン酸を滴下した後、0〜60分間静置し、その後すぐに水洗した。これにより、表面に微結晶リン成分からなる被膜が存在しないAl基板が得られた。
先ず、このリン酸処理後のAl基板の表面粗さを測定した。リン酸処理時間とAl基板の表面粗さとの関係を図14に示す。リン酸処理時間が長くなるにつれてAl基板の表面粗さが小さくなり、リン酸処理時間が10分間以上になると、Al基板の表面粗さは約1μmとなった。
次に、リン酸処理後のAl基板表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。図15A〜図15Dは、それぞれリン酸処理時間が5分間、10分間、30分間、60分間のAl基板表面のSEM写真を示す。リン酸処理時間が5分間の場合には、ケミカルブラスト処理による細孔(腐食孔)の形成は見られなかったが、リン酸処理時間が10分間以上になると、腐食孔が生成し、処理時間の経過とともにAl基板表面の腐食孔が増加し、リン酸処理時間が60分間になると、深い腐食孔が生成することがわかった。
(実施例7)
厚み45μmのナノヘテロ構造体からなる電極材を作製した以外は実施例1と同様にして全固体電池セル(電解質:ポリエチレンオキサイド(PEO)にリチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)をドーピングしたポリマー電解質)を作製した。この全固体電池セルの放電容量を実施例1と同様にして測定したところ、50mAh/gであった。
(実施例8)
前記ポリマー電解質の代わりに、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネートとの混合溶液にリチウム塩が溶解した電解液(PC:EC/Li塩)を用いた以外は実施例7と同様にして電解液型電池セルを作製した。この電解液型電池セルの放電容量を実施例1と同様にして測定したところ、135mAh/gであった。
以上の結果から明らかなように、微結晶リン成分からなる被膜を備えるAl基板は、全固体電池および電解液型電池のいずれの電極材料としても適用できることがわかった。