上記加熱部材は、被加熱体を加熱するために使用される。被加熱体の種類は特に限定されるものではない。被加熱体としては、具体的には、例えば、用紙等の転写材に転写された未定着のトナー、容器、容器や配管等の内部にある気体、液体、固体、プレート等の板状体、フィルムなどを例示することができる。加熱部材は、被加熱体と接触させて用いることもできるし、被加熱体と非接触で用いることもできる。
上記加熱部材は、その表面を他部材に圧接させた状態で使用することができる。この場合、例えば、加熱部材と他部材との圧接部に被加熱体を通過させながら被加熱体を加熱することができる。また、上記他部材を被加熱体とすることもできる。これらの場合には、使用中に加熱部材に外力が作用することになるが、上記加熱部材は、導電層の剥離等が生じ難いので、良好な耐久性を発揮することができる。特に、加熱部材と他部材とが圧接した状態で加熱部材が回転するように構成されている場合には、加熱部材は、圧接部において繰り返し外力を受けて変形(伸縮)することになる。このような場合であっても、導電層の柔軟性が良好であるため、導電層の剥離等が生じ難く、良好な耐久性を発揮することができる。
上記加熱部材において、基層は、例えば、筒状に形成することができる。この場合には、加熱部材を加熱ベルトとして利用することができる。また、加熱部材を比較的薄くすることができるので、IH昇温性の向上にも有利である。他にも例えば、基層は、軸体の外周にロール状に形成することもできる。この場合には、加熱部材を加熱ロールとして利用することができる。基層は、1層または2層以上から構成することができる。
筒状の基層を有する場合、基層に用いられる基層用ポリマーとしては、例えば、ポリアミドイミド樹脂、変性ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、変性ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フッ素系樹脂、ポリカーボネート樹脂、これら樹脂にポリシロキサン化合物をブレンドしたものなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。上記基層用ポリマーとしては、好ましくは、ポリアミドイミド樹脂、変性ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、変性ポリイミド樹脂およびこれら樹脂にポリシロキサン化合物をブレンドしたものから選択される1種または2種以上を含んでいるとよい。筒状の基層の剛性が高くなるため、加熱部材の耐久性を向上させるのに有利だからである。
上記ポリシロキサン化合物としては、式1で表される繰り返し構造を有するシリコーンオイルを好適に用いることができる。この場合には、加熱部材の屈曲耐久性や靱性を向上させやすくなるからである。これは、上記ポリアミドイミド樹脂等の樹脂からなる海相中に、ポリシロキサン化合物からなる島相がミクロ分散し、海−島構造を形成しやすくなり、ポリシロキサン化合物からなる島相により、応力が緩和されるためであると考えられる。上記ポリシロキサン化合物のブレンド量は、上記樹脂100質量部に対し、好ましくは、0.01〜10質量部程度、より好ましくは、0.1〜5質量部程度とすることができる。加熱部材の屈曲耐久性、靱性のバランスに優れるからである。
但し、式1中、R1およびR2は、それぞれ水素原子または有機基を示す。また、nは正数を示す。
上記式1において、R1、R2で表される有機基としては、特に限定はなく、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基や、フェニル基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基、エーテル基等が挙げられる。また、上記式1における繰り返し単位nは、正数であれば特に限定はないが、好ましくはn=10〜1,000であり、特に好ましくはn=20〜300である。上記シリコーンオイルとしては、特に限定はないが、コストの点から、メチル基、フェニル基、水素原子等を置換基として結合したストレートシリコーンオイル等を好適に用いることができる。
なお、筒状の基層中には、難燃剤、充填剤、レべリング剤、消泡剤などの添加剤を1種または2種以上含むことができる。また、筒状の基層の厚みは、耐久性の向上、柔軟性の向上、製造容易性などの観点から、好ましくは20〜200μm程度、より好ましくは40〜150μm程度、さらに好ましくは60〜100μm程度とすることができる。
一方、ロール状の基層を有する場合、基層に用いられる基層用ポリマーとしては、種々の樹脂やゴム(本願にいうゴムにはエラストマーも含まれる、以下省略)を用いることができる。上記樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、ウレタンシリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、アセタール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、カーボネート樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、澱粉およびこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレンおよび他のオレフィン系単量体との共重合樹脂等のオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂等のスチレン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂およびこれらの誘導体または変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリジエン類、ポリジメチルシロキサン等のポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、およびこれらの誘導体、メラミン樹脂などを例示することができる。また、上記ゴムとしては、例えば、シリコーンゴム(Q)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(ECO、CO)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム(U)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
なお、ロール状の基層は、難燃剤、充填剤、架橋剤、架橋助剤、滑剤、可塑剤、軟化剤、酸化防止剤などの添加剤を1種または2種以上含むことができる。ロール状の基層の厚みは、接地性、コストなどの観点から、好ましくは0.5〜3mm程度、より好ましくは1〜1.5mm程度とすることができる。
上記加熱部材において、導電層は、電磁誘導加熱によって発熱する発熱層として機能することが可能な導電性を有する層である。導電層は、基層上に積層されている。具体的には、導電層は、基層の外周面に沿って形成することができる。導電層は、1層または2層以上から構成することができる。導電層が2層以上から構成される場合、各層は、導電性を有する同種の層または異なる層から構成することができる。
但し、導電層は、多数の導電性粒子と、多数の導電性粒子間を結着するバインダーポリマーとを含んでおり、かつ隣接する上記導電性粒子同士は、互いに接触した状態で少なくとも層面方向に連なっている第1層を有している。つまり、導電層が1層より構成される場合は、第1層が導電層となる。導電層が複数層より構成される場合は、第1層、その他の第1層以外の層を含めて全体として導電層を構成する。なお、上記導電性粒子は、主に、第1層の導電経路を形成するための粒子である。以下、第1層について説明する。
上記第1層は、層状の形状を保持することができれば、バインダーポリマーによって導電性粒子間が結着されていない部位を含むことができる。バインダーポリマーとしては、各種のゴムや樹脂を用いることができる。第1層の柔軟性を向上させやすくなるなどの観点から、ゴムを好適に用いることができる。上記ゴムとしては、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。上記ゴムとしては、耐熱性および柔軟性に優れるシリコーンゴム、フッ素ゴムが好適である。また、上記樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド樹脂、変性ポリアミドイミド樹脂、およびこれら樹脂にポリシロキサン化合物をブレンドしたものなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
上記第1層に含まれる導電性粒子は、少なくとも粒子最表面が導電性を有しておれば、特にその材質は限定されるものではない。粒子最表面が互いに接触することによって導電経路が形成されるからである。したがって、導電性粒子は、例えば、粒子最表面から粒子中心部に至るまで導電性物質により形成されていてもよいし、樹脂等の絶縁性粒子の表面に導電性物質が被覆されていてもよい。前者の場合、導電性粒子は、具体的には、粒子最表面から粒子中心部に至るまで一様に同じ導電性物質により形成された粒子とすることができる。また、金属(本願において金属には合金が含まれる、以下省略)やカーボンブラック等の導電性物質よりなるコアと、このコアの表面を被覆する金属等の導電性物質よりなる被覆層とを有する被覆粒子(コアシェル構造を有する粒子と称されることもある。)とすることもできる。この場合、被覆層は1層または2層以上から構成することができる。被覆層を2層以上とする場合、各層は、同一または異なる導電性物質から形成することができる。また、第1層は、1種類の導電性粒子だけを含有していてもよいし、材質、微構造、形状、粒径等が異なる2種以上の導電性粒子を含有していてもよい。
上記導電性粒子は、Ag、Cu、Al、Ni、Au、Pt、In、Pd、Fe、Sn、Co、Ti、Zn、Cr、Mg、W、および、これらの合金を含むことができる。導電性粒子は、特に、Ag、Cu、Al、Ni、および、これらの合金から選択される1種または2種以上を含んでいるとよい(請求項2)。これら金属は、体積固有抵抗が比較的低く、導電性粒子の導電性を向上させやすい。そのため、これら金属は、加熱部材のIH昇温性を向上させやすく有利だからである。また、これら金属は、経済性も比較的良好である。上記導電性粒子は、好ましくはAgを含んでいるとよい。Agは、体積固有抵抗が2[μΩ・cm]以下と小さく、導電性粒子の導電性を特に向上させやすい。そのため、加熱部材のIH昇温性をより向上させやすく有利だからである。
上記体積固有抵抗は、低電気抵抗化によるIH昇温性の向上を図りやすくなるなどの観点から、好ましくは8[μΩ・cm]以下、より好ましくは5[μΩ・cm]以下、さらに好ましくは3[μΩ・cm]以下、さらにより好ましくは2[μΩ・cm]以下とすることができる。上記体積固有抵抗は低いほど良く、特に限定されるものではないが、入手容易性等の観点から、例えば、1[μΩ・cm]以上とすることができる。なお、上記体積固有抵抗は、20℃における値である。
上記導電性粒子は、より具体的には、Ag粒子、Ag合金粒子、Cu粒子、Cu合金粒子、Al粒子、Al合金粒子、Ni粒子、Ni合金粒子等の金属粒子とすることができる。また他にも、導電性粒子は、上記金属粒子、カーボンブラック等の無機粒子、樹脂粒子等の表面に、Ag、Cu、Al、Niおよびこれらの合金等よりなる被覆層を有する被覆粒子などとすることもできる。導電性粒子は、好ましくは、AgまたはAg合金よりなる被覆層を最表層として有しているとよい。この場合には、隣接する導電性粒子と接触する最表層の導電性を向上させることができる。そのため、低電気抵抗の導電経路が形成されやすくなり、加熱部材のIH昇温性を向上させやすくなる。
上記第1層中、隣接する導電性粒子同士は、互いに接触した状態で少なくとも層面方向に連なっている。なお、上記「層面方向」とは、層が面状に展開する方向を意味する。隣接する導電性粒子同士は、好ましくは、互いに接触した状態で層厚み方向にも連なっているとよい。導電層を低電気抵抗化するのに有利だからである。
ここで、隣接する導電性粒子同士は、互いに重なる部分を有しているとよい。この場合には、多数の導電性粒子が積層されることによって隣接する導電性粒子同士の接触部分が増加する。そのため、導電経路の確保をいっそう確実なものとすることができ、IH昇温性の向上に寄与することができる。また、導電層に曲げや引張などの力が加わるなどして、第1層が伸長し、隣接する導電性粒子同士が離れる方向に移動した場合でも、隣接する導電性粒子同士の接触を確保しやすくなる。そのため、加熱部材に力が作用した場合でも、第1層によって導電層中の導電経路を安定して確保しやすくなり、導電層の電気抵抗の上昇を抑制しやすくなる。それ故、IH昇温性の安定性向上に寄与しやすくなる。
上記導電性粒子は、扁平状粒子とすることができる。なお、「扁平状」とは、2つの広い面を有し、面幅に対して厚みが薄い形状をいい、フレーク状、鱗片状、板状、薄片状等と称される形状を包含する。この場合には、隣接する導電性粒子同士を面接触させやすくなるので、接触部分をいっそう増加させやすくなる。また、第1層中において、導電性粒子の粒子面が第1層の層面方向と略平行となるように、導電性粒子を配向させやすくなる。そのため、隣接する導電性粒子同士が層面方向に連なりやすくなる。それ故、導電経路の確保をよりいっそう確実なものとすることができ、IH昇温性の向上に寄与しやすくなる。
また、基層が筒状である場合、扁平状の導電性粒子は、第1層中において外周方向、軸方向などのいずれの方向にも配向させることができる。前者の場合には、外力によって外方または内方に筒径が変化する場合でも、隣接する導電性粒子同士が面接触を維持しやすく、導電経路を確保しやすい。また、後者の場合には、外力によって軸方向に筒長さが変化する場合でも、隣接する導電性粒子同士が面接触を維持しやすく、導電経路を確保しやすい。さらに、扁平状の導電性粒子は、第1層中において外周方向から斜めに傾斜する方向(螺旋方向)に配向させることもできる。なお、基層がロール状である場合も同様のことが当てはまる。
上記導電性粒子は、アスペクト比を5以上とすることができる。この場合は、隣接する導電性粒子を接触させやすくなるので、接触部分を増加させすい。また、導電性粒子を層面方向に沿って配向させやすい。そのため、この場合は、隣接する導電性粒子同士が層面方向に連なりやすくなる。それ故、この場合は、導電経路の確保をよりいっそう確実なものとすることができ、IH昇温性の向上に寄与しやすくなる。とりわけ、導電性粒子が扁平状粒子であると上記効果が大きくなる。なお、上記アスペクト比は、代表的な10個の各導電性粒子を走査型電子顕微鏡にて観察し、各導電性粒子の最大長さおよび平均厚み(任意に5点測定した厚みの平均値)を測定し、最大長さを平均厚みで除すことにより各導電性粒子のアスペクト比(最大長さ/平均厚み)を算出し、得られた10点のアスペクト比の平均値(平均アスペクト比)のことである。
上記導電性粒子のアスペクト比は、導電性粒子の重なりによる接触によって第1層中に導電経路が形成されやすくなるなどの観点から、好ましくは7以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上、さらにより好ましくは20以上とすることができる。一方、上記導電性粒子のアスペクト比は、第1層中での分散性、第1層の製造性、粒子の入手容易性などの観点から、好ましくは60以下、より好ましくは55以下、さらに好ましくは50以下、さらにより好ましくは45以下とすることができる。
上記導電性粒子の平均粒子径は、導電性の確保、第1層表面の平滑性、含有量等の観点から、好ましくは、0.1〜50μm程度、より好ましくは、1〜20μm程度とすることができる。また、導電性粒子の平均厚みは、導電性の確保、第1層表面の平滑性、含有量等の観点から、好ましくは、0.01〜5μm程度、より好ましくは、0.1〜2μm程度とすることができる。なお、上記平均粒子径は、代表的な10個の各導電性粒子を走査型電子顕微鏡にて観察し、各導電性粒子について最大長さを測定し、得られた10点の最大長さの平均値のことである。
上記アスペクト比や平均粒子径の測定は、第1層を形成するバインダーポリマーを適当な溶剤にて溶解したり、熱分解したりするなどして導電性粒子を取り出して行うことができる。
上記第1層は、上記導電性粒子およびバインダーポリマー以外にも他の物質を含有することができる。第1層は、例えば、上記導電性粒子の間に、導電性副粒子を含むことができる。なお、導電性副粒子は、上記導電性粒子とともに用いられることにより、主に、上記導電性粒子による第1層の導電経路の形成を補助する役割を有する粒子である。「副」の表記は、上記導電性粒子と単に区別するための意味である。
この場合には、隣接する導電性粒子同士の直接的な接触ばかりでなく、隣接する導電性粒子同士が導電性副粒子を介して接触しやすくなる。つまり、導電性粒子の間に導電性副粒子を含むことにより、粒子同士の接触確率を増加させることができる。そのため、第1層の層面方向に導通経路がより多く形成され、導電層の低電気抵抗化を図りやすくなる。また、導電層が曲げ変形等の変形をした場合でも、粒子同士の接触が確保されやすくなる。よって、層面方向の導電経路の確保をいっそう確実なものとすることができ、IH昇温性の向上に有利である。
上記導電性副粒子は、略球状(球状含む)粒子、針状粒子、紡錘状粒子、柱状粒子などとすることができる。なお、導電性副粒子の材質や粒子構造等については、上記導電性粒子の記載を準用することができる。また、導電性副粒子は1種または2種以上併用することができる。
上記第1層は、層面方向の導電経路の確保を確実なものとする、コストなどの観点から、バインダーポリマー100質量部に対し、導電性粒子を(導電性副粒子を用いる場合は両者の合計で)100質量部以上、好ましくは150質量部以上、より好ましくは200質量部以上、さらに好ましくは300質量部以上、さらにより好ましくは400質量部以上、もっとも好ましくは500質量部以上含むことができ、バインダーポリマー100質量部に対し、導電性粒子を(導電性副粒子を用いる場合は両者の合計で)800質量部以下、好ましくは750質量部以下、さらに好ましくは700質量部以下含むことができる。
上記第1層は、IH昇温性などの観点から、その電気抵抗値が、好ましくは1×10−2〜1×10−5Ω、より好ましくは1×10−3〜1××10−4Ω程度とすることができる。なお、第1層の電気抵抗値は、抵抗率計[三菱化学アナリテック(株)製、ロレスタ等]により測定することができる。
上記第1層は、基層に接して配置されており、導電性粒子と、バインダーポリマーと、多価イソシアネートとを含む第1層形成用組成物の硬化物より構成されている。この構成によれば、導電層と基層との密着性を向上させることができる。これは、第1層形成用組成物の硬化時に、バインダーポリマーを包含した状態で多価イソシアネート自身が自己架橋するとともに、基層表面のポリマーが有する官能基とイソシアネート基とが反応して化学結合を生じるためであると推察される。なお、第1層形成用組成物に含まれるバインダーポリマーは、硬化によって多数の導電性粒子間を結着させるためのものである。
上記第1層形成用組成物は、具体的には、塗料(コーティング液)として構成することができる。第1層形成用組成物を基層上に塗工する方法は、特に限定されるものではなく、後述のディップコート法、ディスペンサーコート法(ノズルコート法)、ロールコート法、リングコート法などの各種の塗工方法を用いることができる。また、第1層形成用組成物の硬化は、熱処理などによって行うことができる。
上記多価イソシアネートは、上述した自己架橋を促す観点から、分子内にイソシアネート基を2個以上有するものが適用される。多価イソシアネートは、第1層形成用組成物への添加によって第1層と基層との密着性を向上させることができる範囲内であれば、分子内のイソシアネート基の個数が特に限定されるものではない。
上記多価イソシアネートとしては、例えば、脂肪族、脂環族または芳香族の多価イソシアネートあるいはこれら多価イソシアネートのイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体等の誘導体などを例示することができ、具体的には、脂肪族、脂環族または芳香族のジイソシアネートあるいはこれらジイソシアネートのイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体等の誘導体などを例示することができる。
上記多価イソシアネートとしては、より具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)系、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)系、キシレンジイソシアネート(XDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)系、水添キシレンジイソシアネート(H6XDI)、水添キシレンジイソシアネート(H6XDI)系、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)系、トリレンジイソシアネート(TDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)系、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)系、これらのイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体等の誘導体などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。なお、上記にいう「系」は、ベースとなるイソシアネートが同じである多価イソシアネート、そのイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体等の誘導体を包括的に含む意味である。つまり、例えば、「ヘキサメチレンジイソシアネート系」の場合であれば、ヘキサメチレンジイソシアネートをベースにした各種の多価イソシアネート、そのイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体等の誘導体が含まれる。他についても同様である。
上記多価イソシアネ−トは、イソシアネ−ト基がブロック剤にてブロックされたブロック多価イソシアネ−トを用いることができる。ブロック多価イソシアネ−トは、イソシアネート基がブロック剤により保護されているため、常温での反応性が非ブロック多価イソシアネ−トに比べて低くなっている。そのため、ブロック多価イソシアネ−トは、加熱部材の製造環境における湿気や製造時間の長さによる劣化などが起こり難く、好適に使用することができる。なお、ブロック剤は、第1層形成用組成物を硬化させるときの熱処理時の熱によって解離し、その結果、活性なイソシアネート基が再生される。また、ブロック剤としては、例えば、アルコ−ル系、フェノ−ル系、活性メチレン系、メルカプタン系、酸アミド系、酸イミド系、イミダゾ−ル系、尿素系、オキシム系、ラクタム系、アミン系、イミド系化合物、ピリジン系化合物などを例示することができる。
上記第1層形成用組成物において、多価イソシアネートの含有量は、多価イソシアネートの添加による効果を発揮させる観点から、バインダーポリマー100質量部に対し、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上とすることができる。また、上記第1層形成用組成物において、多価イソシアネートの含有量は、多価イソシアネートの添加による抵抗増加や高硬度化などの観点から、バインダーポリマー100質量部に対し、好ましくは40質量部以下、より好ましくは35質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下とすることができる。
上記導電層の厚みは、柔軟性、重量抑制、コストなどの観点から、好ましくは200μm以下とすることができる。導電層の厚みは、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは120μm以下、さらにより好ましくは100μm以下、もっとも好ましくは50μm以下とすることができる。一方、導電層の厚みは、IH昇温性の確保、層形成性などの観点から、好ましくは1μm以上とすることができる。導電層の厚みは、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上とすることができる。
上記導電層は、金属めっきより形成された第2層をさらに有する構成とすることができる。第2層は、金属めっきより形成されているので、第1層に比べ、電気抵抗が低い。そのため、この場合は、導電層の導電性を向上させることができ、IH昇温性を向上させることができる。また、この場合は、本願の作用効果が得られる限りにおいて第1層の導電性粒子の含有量を低減し、比較的簡便な金属めっきによって導電層の導電経路の確保を補完することができる。そのため、この場合は、低コスト化にも寄与することができる。
上記導電層において、第1層と第2層とは接して配置されていることが好ましい。この場合は、金属に比べて電気抵抗が高い材質からなる第1層を比較的薄く形成することによって導電経路を薄くしても第2層によって導電経路が確保されるので、導電層全体の電気抵抗を低くしやすい。そのため、この場合は、IH昇温性をより一層向上させることができる。
上記第2層は、第1層におけるゴム弾性層側の表面に接するように配置されていてもよいし、上記第1層における基層側の表面に接するように配置されていてもよい。とりわけ、第2層は、第1層におけるゴム弾性層側の表面に接するように配置されていることが好ましい。この場合は、第1層の導電性を利用して、第1層におけるゴム弾性層側の表面に電解めっきを施すことによって第1層上に第2層を容易に形成できる。そのため、この場合は、加熱部材の製造時におけるめっき工程を簡略化しやすい利点がある。また、この場合は、バインダーポリマーを含む第1層とポリマー製の基層とを接して配置することができるため、導電層と基層との密着性向上を図りやすく有利である。
上記第2層は、電解金属めっきより形成されていてもよいし、無電解金属めっきより形成されていてもよい。とりわけ、第2層は、第1層におけるゴム弾性層側の表面に接して配置されており、電解金属めっきより形成されているとよい。この場合は、第1層が有する導電性粒子と第2層を形成するめっき金属との間で金属結合が形成されるため、第1層と第2層との密着性に優れる。
なお、導電層が金属めっきより形成された第2層を含んでいる場合に、同じめっき金属種で比較したときに、金属めっき層単体からなる従来の導電層を用いる場合に比べ、導電層中に第1層がある分、第2層の厚みを薄くしやすい。そのため、第2層の厚みを比較的薄く設定することによって加熱部材の柔軟性を確保しやすくなり、単体の金属めっき層を導電層とする加熱部材のように金属疲労等によって導電層が破壊し、耐久性が大きく損なわれることを抑制することができる。
第2層を形成するめっき金属としては、例えば、Cu、Ni、Ag、Al、Pd、Au、Sn、Znおよびこれらの合金などを例示することができる。第2層を形成するめっき金属としては、具体的には、例えば、低電気抵抗であり、電磁誘導加熱による昇温性向上に有利である等の観点から、Cu、Ni、Ag、およびこれらの合金から選択される1種または2種以上とすることができる。第2層を形成するめっき金属としては、特に好ましくは、CuおよびCu合金であるとよい。電磁誘導加熱による昇温性向上、加熱部材の柔軟性向上、経済性に優れるなどの利点があるからである。
上記第2層の厚みは、1〜30μmの範囲内とすることができる。この場合は、導電層を第1層と第2層とを含む複層から構成したことによるIH昇温性の向上効果と、加熱部材の柔軟性維持とのバランスに優れる利点がある。第2層の厚みは、IH昇温性向上などの観点から、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは3μm以上、さらにより好ましくは5μm以上とすることができる。第2層の厚みは、加熱部材の柔軟性などの観点から、より好ましくは28μm以下、さらに好ましくは25μm以下とすることができる。
なお、上記導電層が上記第1層から構成されている場合や、上記導電層が上記第1層と電解金属めっきよりなる第2層とから構成されている場合は、めっき触媒付与や触媒活性化等の煩雑な工程が必要なめっき処理にて導電層を形成しなくて済む。そのため、この場合は、加熱部材の製造ラインの小型化に寄与することができる。
上記ゴム弾性層は、具体的には、各種のゴムを含むゴム組成物より形成することができる。このようなゴム弾性層は、特に、加熱部材を他部材と圧接した状態で用いる場合に、均一な加圧を行うことが可能となるため有用である。
ゴム弾性層に用いられるゴムとしては、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
ゴム弾性層は、ゴム以外にも、熱伝導性粒子等の熱伝導材料、導電剤、難燃剤、滑剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、架橋剤、架橋助剤、老化防止剤などの添加剤を1種または2種以上含むことができる。なお、上記熱伝導材料としては、例えば、酸化マグネシウム、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、グラファイト、カーボンブラック、結晶性シリカ、炭化ケイ素、水酸化アルミニウムなどを例示することができる。
ゴム弾性層の厚みは、加熱部材表面への柔軟性の付与、被加熱体や他部材との接地性向上などの観点から、好ましくは100μm以上、より好ましくは150μm以上、さらに好ましくは200μm以上とすることができる。一方、ゴム弾性層の厚みは、薄膜化によるIH昇温性の向上、熱伝導性の向上などの観点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは400μm以下、さらに好ましくは300μm以下とすることができる。
ゴム弾性層の熱伝導率は、例えば、0.3W/m・K以上とすることができる。ゴム弾性層による熱損失を少なくし、被加熱体の加熱を効率良く行うことができるからである。ゴム弾性層の熱伝導率は、好ましくは0.5W/m・K以上とすることができる。ゴム弾性層の熱伝導率は高いほど良いが、柔軟性、コスト等の観点から、例えば、3W/m・K以下とすることができる。なお、ゴム弾性層の熱伝導率は、熱伝導率測定装置[英弘精機(株)製、「HC−110」]等により測定することができる。
ゴム弾性層の表面は、表面処理により表面改質することができる。具体的には、ゴム弾性層表面を表面処理液にて表面処理することにより、ゴム弾性層の表面にF原子および/またはCl原子等を導入することができる。また、ゴム弾性層表面に紫外線照射処理等の光照射処理を施すことにより、ゴム弾性層表面を内部よりも硬くする(摩擦係数を低下させる)ことができる。
これらの場合には、ゴム弾性層表面に付着した物質が離れやすくなり、離型性を付与することができる。具体的には、例えば、画像形成装置の定着部材として用いた場合に、ゴム弾性層表面に付着したトナーが離れやすくなり、トナー離型性を付与することができる。
また、上記のようなゴム弾性層表面の表面改質ではなく、ゴム弾性層上に離型層等の機能性の表層をさらに積層することもできる。この場合も離型性等の表面機能を付与することができる。表層の積層については、加熱部材の生産性、コストなどを考慮して適宜選択することができる。
表層に用いられる主材料としては、例えば、離型性付与等のため、ポリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素系樹脂、フッ素ゴムなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。また、表層中には、難燃剤、充填剤、架橋剤、架橋助剤、滑剤、可塑剤、軟化剤、酸化防止剤などの添加剤が1種または2種以上含まれていてもよい。
表層の厚みは、耐久性などの観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上とすることができる。一方、表層の厚みは、下層との追従性、熱伝導性向上、コストなどの観点から、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下とすることができる。
上記加熱部材は、必要に応じて、導電層とゴム弾性層との間に接着剤を介在させることもできる。接着剤は、加熱部材の製造時に、例えば、導電層の表面に刷毛塗法などによって接着剤を塗布することによって介在させることが可能である。
上記加熱部材は、その用途が特に限定されるものではなく、種々の被加熱体を加熱するために用いることができる。上記加熱部材の導電層を、電磁誘導加熱によって発熱する発熱層とした場合には、IH昇温性に優れるので、被加熱体を必要なときに速やかに加熱することができる。そのため、上記加熱部材を用いた装置の省エネ化を促進しやすくなる。
上記加熱部材は、具体的には、例えば、電子写真方式の画像形成装置における定着部材として用いることができる。この際、導電層は、電磁誘導加熱によって発熱する発熱層とすることができる。この場合には、加熱部材がIH昇温性に優れるため、画像形成装置の消費電力の多くを占める定着部材のウォームアップ時間の短縮化が図ることができる。そのため、画像形成装置の省エネ化を促進することができる。また、加熱部材が耐久性や柔軟性に優れるため、加圧ロール等と圧接させた状態で使用した場合でも、長期にわたって良好な画像を形成することができる。
上記画像形成装置としては、例えば、電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリ、複合機、POD(Print On Demand)装置等を例示することができる。
上記加熱部材は、基層の形状等を考慮して、例えば、次のようにして製造することができる。基層が筒状である場合、基層形成用材料(塗料)を、円筒状または円柱状の金型の外周面に塗工し、乾燥させる。必要に応じて、熱処理することができる。塗工方法としては、例えば、ディップコート法、ディスペンサーコート法(ノズルコート法)、ロールコート法、リングコート法などを例示することができる。一方、基層がロール状である場合、基層形成用材料(混練物)を、ロール成形金型内に注入して熱処理する。あるいは、基層形成用材料(混練物)を押出成形することもできる。
次いで、バインダーポリマーと、導電性粒子と、必要に応じて多価イソシアネート等の他の混合材料とを含む液状に調製された第1層形成用材料(塗料)を、基層の外周面に塗工し、乾燥させる。必要に応じて熱処理することができる。第1層層形成用材料(塗料)は、例えば、バインダーポリマーと、導電性粒子と、必要に応じて他の混合材料とをミキサー等により混練し、これを適当な溶剤にて希釈するなどして調製することができる。塗工方法には、上述した方法を適用することができる。具体的には、層形成が容易である、層表面を平滑にしやすい等の観点から、塗工方法としてディップコート法を選択することができる。また、第1層の厚みを均一にしやすい、層形成が容易である、層表面を平滑にしやすい等の観点から、塗工方法としてディスペンサーコート法、ロールコート法、リングコート法を選択することができる。導電層を上記塗工方法により形成した場合であって、扁平状の導電性粒子を用いたときには、層面方向に沿って(具体的にはコーティング方向に沿って)比較的容易に導電性粒子を配向させることができる。また、導電層が第2層を有する場合であって、第1層のゴム弾性層側表面に接するように第2層を配置する場合には、例えば、上記第1層の形成後に、第1層の表面に電解金属めっきや無電解金属めっきを施せばよい。
次いで、導電層の表面に、ゴム弾性層形成用材料(塗料)を塗工し、乾燥させ、必要に応じて熱処理することにより、ゴム弾性層を形成する。なお、ゴム弾性層形成用材料の塗工方法としては、例えば、ディップコート法、ディスペンサーコート法(ノズルコート法)、ロールコート法、リングコート法などを例示することができる。
実施例に係る加熱部材について、図面を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
図1〜図4に実施例1の加熱部材を模式的に示す。図1〜図4に示すように、加熱部材1は、ポリマー製の基層2と、基層2上に積層された導電層3と、導電層3上に積層されたゴム弾性層4とを有している。本例では、基層2は、樹脂製、具体的には、ポリアミドイミド樹脂製である。また、基層2は、筒状に形成されている。つまり、加熱部材1は、筒状の基層2の外周面に沿って導電層3が形成されるとともに、この導電層3の外周面に沿ってゴム弾性層4が形成されている。基層2と導電層3、導電層3とゴム弾性層4とは互いに接している。
なお、本例において、基層2の筒径は、約40mm程度、基層2の厚みは、約80μm程度である。基層2の筒軸方向の長さは、約350mm程度である。また、ゴム弾性層4は、具体的には、熱伝導性を有するシリコーン系のゴム組成物より形成されており、その厚みは、約200μm程度である。
ここで、導電層3は、図4に詳細に示すように、多数の導電性粒子31と、多数の導電性粒子31間を結着するバインダーポリマー32とを含んでおり、かつ隣接する導電性粒子31同士は、互いに接触した状態で少なくとも層面方向に連なっている第1層301を有している。本例では、第1層301は、具体的には、導電性粒子31と、バインダーポリマー32と、多価イソシアネートとを含む第1層形成用組成物の熱硬化物より構成されている。
本例では、導電性粒子31は、具体的には、Ag粒子、Agよりなる被覆層を表面に有するCu粒子(「以下、Ag被覆Cu粒子」ということがある。)、Ni粒子のいずれかを用いて構成されている。また、バインダーポリマー32は、具体的には、シリコーンゴムまたはフッ素ゴムである。本例では、隣接する導電性粒子31同士は、一部または全部が互いに重なる部分を持った状態で接触しており、層厚み方向にも連なっている。なお、図4中、導電性粒子31は、ほぼ粒子厚み方向から見た状態が示されている。
また、本例では、導電性粒子31は、球状粒子またはフレーク状の扁平状粒子よりなる。導電性粒子31が扁平状粒子よりなる場合は、そのアスペクト比は約10以上50以下程度の範囲内とされている。導電性粒子31は、第1層301中において、導電性粒子31の粒子面が第1層301の層面方向と略平行となるように配向している。なお、第1層301は、塗工法により形成されたものを例示しており、上記導電性粒子31の配向方向は、塗工方向とほぼ一致している。
本例の加熱部材1は、具体的には、帯電像を用いる電子写真方式の画像形成装置に組み込まれ、定着部材(定着ベルト)として用いられる。つまり、本例の加熱部材1は、被加熱体である、用紙に転写された未定着のトナーを加熱するためのものである。
本例の加熱部材1は、具体的には、画像形成装置の定着部において、例えば、加熱部材1に対向するように配置された加圧ロールに圧接させ、加圧ロールに従動して回動するように構成することができる。この場合、加熱部材1の表面と加圧ロールとの表面とを圧接させた状態に保持することによりニップ部を形成することができる。そして、このニップ部に未定着のトナー像を保持した用紙を通過させ、加熱部材による熱および圧力によって未定着のトナー像を溶融させて用紙に定着させることができる。
なお、加熱部材1の発熱は、例えば、次のようにすることができる。画像形成装置の定着部において、加熱部材1の外周表面と隙間を設けて設置した磁場発生ユニットのIHコイルに所定の周波数の交流電流を印加する。これにより、IHコイルの周囲に交流磁界が発生する。交流磁界が、加熱部材1の導電層3を横切る際に、電磁誘導作用によってその交流磁界の変化を妨げる磁界を発生するように誘導電流(渦電流)が生じる。誘導電流が加熱部材1の導電層3を流れることによって、導電層3の抵抗値に比例した電力によるジュール熱が発生し、導電層3が発熱する。これにより、加熱部材1を発熱させることができる。
(実施例2)
図5に実施例2の加熱部材についての上記図4に相当する図を示す。つまり、図5に示すように、本例の加熱部材1は、導電層3が、第1層301に加え、金属めっきより形成された第2層302をさらに有している。第2層302は、第1層301におけるゴム弾性層4側の表面に接している。なお、第1層301は、基層2に接して配置されている。その他の構成については実施例1と同様である。
以下、実施例1または実施例2に従う、導電層3の構成が異なる加熱部材1の試料を複数作製し、各種評価を行った。その実験例について説明する。
(実験例)
<第1層形成用組成物の調製>
第1層形成用組成物に用いる各材料として以下のものを準備した。
−バインダーポリマー−
シリコーンゴム[信越化学工業(株)製、「KE−1204(A/B)」](二液型RTVゴム、硬化方式:付加反応型)
フッ素ゴム[ダイキン(株)製、「ダイエルG−C771」]
−導電性粒子−
・Ag粒子(1)[福田金属箔粉工業(株)製、「アトマイズAg−HWQ」](球状、平均粒径10μm、アスペクト比=1.5、長径=約12μm、短径=約8μm)
・Ag粒子(2)[DOWAエレクトロニクス(株)製、「FA−D−4」](扁平状、アスペクト比=13、最大長さ=約33μm、平均厚み=約2.5μm)
・Ag粒子(3)[福田金属箔粉工業(株)製、「ナノメルトXF301」](扁平状、アスペクト比=40、最大長さ=約32μm、平均厚み=約0.8μm)
・Ag被覆Cu粒子(1)[福田金属箔粉工業(株)製、「10%Agコート2L3/F」](扁平状、Ag含有量=10質量%、アスペクト比=30、最大長さ=約30μm、平均厚み=約1μm)
・Ni粒子(1)(扁平状、アスペクト比=27、最大長さ=約40μm、平均厚み=約1.5μm)
レーザー回折・散乱式粒子径・粒度分布測定装置[日揮装(株)製、「マイクロトラックUPA−EX150」]による平均粒径D50が10〜20μm程度の略球状のNi粉末[(株)ニラコ製]100gを、遊星ボールミル[Gokin Planetaring社製、「Planet−M」]に直径5mmのジルコニア製ボール400gとともに入れ、回転数300rpmにて1時間扁平化処理して得たもの
−多価イソシアネート−
・多価イソシアネート(1)[日本ポリウレタン工業(株)製、「コロネート2507」](ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体のMEKオキシムブロックタイプ)
次いで、表1〜表2に示す配合割合(質量部)となるように、上記所定のバインダーポリマーと、上記所定の導電性粒子と、必要に応じて添加される多価イソシアネートとを配合し、プラネタリーミキサーにて混練した。その後、得られた混練物を、シリコーンゴムを用いた場合はトルエンにて、フッ素ゴムを用いた場合はメチルエチルケトンにて、いずれの場合も混練物と溶剤との質量比が1:1となるように希釈した。これにより試料1〜試料31の加熱部材の作製に用いる液状の各第1層形成用組成物を調製した。
<ゴム弾性層形成用材料の調製>
熱伝導性を有するシリコーンゴム[信越化学工業(株)製、「X34−2720」]をプラネタリーミキサーにて混練し、その後、固形分濃度が60質量%となるようにトルエンに溶解することにより、ゴム弾性層形成用材料を調製した。
<試料1〜試料20の加熱部材の作製>
直径40mm、軸方向長さ450mmであるアルミニウム製の円柱状金型を準備した。次いで、ディップコート法により、上記金型表面に、基層形成用材料としてのポリアミドイミドワニス[日立化成工業(株)製、「HPC−5011−29」](固形分濃度16%)を塗工し、230℃で60分間乾燥させた。これにより、上記金型の外周面上に、筒状に形成されたポリアミドイミド製の基層(厚み80μm)を作製した。なお、各試料の加熱部材は、いずれもこの基層を用いている。
次いで、ディップコート法により、上記基層の表面に、上記調製した各第1層形成用組成物をそれぞれ塗工し、試料1〜14は130℃で20分間熱処理し、試料15〜20は165℃で60分間熱処理した。なお、ディップ方向は、基層の塗工方向と同一方向とした。これにより、上記基層の外周面に沿って、所定の第1層からなる各導電層を形成した。
次いで、試料1〜試料12の加熱部材の作製にあたっては、ディップコート法により、上記導電層の表面に、上記調製したゴム弾性層形成用材料を塗工し、130℃で30分間熱処理した。これにより、上記各導電層の外周面に沿って、ゴム弾性層(厚み200μm)を形成した。
また、試料13〜試料20の加熱部材の作製にあたっては、上記導電層の表面に接着剤[信越化学工業(株)製、「X33−156−20」]を刷毛にて塗布し、30分間風乾させた。その後、接着剤を塗布した上記導電層の表面に、ディップコート法により、上記調製したゴム弾性層形成用材料を塗工し、130℃で30分間熱処理した。これにより、上記各導電層の外周面に沿って、ゴム弾性層(厚み200μm)を形成した。
以上により、試料1〜試料20の加熱部材を作製した。なお、試料1〜試料5、試料7〜試料12は、第1層形成用組成物に多価イソシアネートを用いていないため、参考試料である。
<試料21〜試料30の加熱部材の作製>
試料1の加熱部材の作製にて使用した上記基層の表面に、ディップコート法により、上記調製した各第1層形成用組成物をそれぞれ塗工し、165℃で60分間熱処理した。なお、ディップ方向は、基層の塗工方向と同一方向とした。これにより、上記基層の外周面に沿って、所定の各第1層を形成した。
次いで、硫酸銅70g/L、硫酸200g/L、光沢剤[奥野製薬工業(株)製、「トップルチナLS」]5ml/L、35%塩酸0.125ml/Lを混合して、電解銅めっき液を調製した。
次いで、上記第1層の表面に、上記調製した電解銅めっき液を用いて、以下の所定の電流密度、以下の所定温度、所定時間の電解銅めっきを行い、電解Cuめっきより形成された第2層を形成した。これにより、基層の表面に積層された第1層と、第1層の表面に積層された電解銅めっきよりなる第2層とを有する各導電層を構成した。
・試料23、試料25、試料28、試料30
電流密度2.5A/dm2、25℃にて20分間の電解銅めっき
・試料21
電流密度2.5A/dm2、25℃にて2分間の電解銅めっき
・試料22、試料24、試料27
電流密度2.5A/dm2、25℃にて10分間の電解銅めっき
・試料26
電流密度2.5A/dm2、25℃にて40分間の電解銅めっき
・試料29
電流密度2.5A/dm2、25℃にて50分間の電解銅めっき
次いで、上記導電層の表面に上述した接着剤を刷毛にて塗布し、30分間風乾させた。その後、接着剤を塗布した上記導電層の表面に、ディップコート法により、上述したゴム弾性層形成用材料を塗工し、130℃で30分間熱処理した。これにより、上記各導電層の外周面に沿って、ゴム弾性層(厚み200μm)を形成した。
以上により、試料21〜試料30の加熱部材を作製した。
<試料31の加熱部材の作製>
試料1の加熱部材の作製にて使用した上記基層の表面に、ディップコート法により、上記調製した所定の第1層形成用組成物をそれぞれ塗工し、165℃で60分間熱処理した。なお、ディップ方向は、基層の塗工方向と同一方向とした。これにより、上記基層の外周面に沿って、所定の第1層を形成した。
次いで、上記第1層を形成した基層をPd触媒液[奥野製薬工業(株)製、「OPC80キャタリスト」]に25℃で2分間浸漬し、Pd触媒付与を行った。次に98%硫酸50ml/L水溶液に25℃で1分間浸漬し、Pd触媒活性化を行った。
次いで、無電解銅めっき液[奥野製薬工業(株)製、「OPCカッパーNCA」]に60℃で80分間浸漬し、上記第1層の外周面に沿って無電解銅めっきよりなる第2層を形成した。これにより、基層の表面に積層された第1層と、第1層の表面に積層された無電解銅めっきよりなる第2層とを有する導電層を構成した。
次いで、上記導電層の表面に上述した接着剤を刷毛にて塗布し、30分間風乾させた。その後、接着剤を塗布した上記導電層の表面に、ディップコート法により、上述したゴム弾性層形成用材料を塗工し、130℃で30分間熱処理した。これにより、上記導電層の外周面に沿って、ゴム弾性層(厚み200μm)を形成した。
以上により、試料31の加熱部材を作製した。
<試料32の加熱部材の作製>
試料1の加熱部材の作製と同様にして、上記金型の外周面上に、筒状に形成されたポリアミドイミド製の基層(厚み80μm)を作製した。
次に、上記基層の外周面を、200g/LのNaOH水溶液を用いて、温度40℃で10分間エッチング処理した。上記エッチング処理した基層を、Pd触媒付与剤[奥野製薬工業(株)製、「OPC−50インデューサー」]に40℃で5分間浸漬し、基層の外周面にPd触媒を付与した。上記Pd触媒が付与された基層を、活性化剤[奥野製薬工業(株)製、「OPC−150クリスター」]に25℃で5分間浸漬し、Pdイオンを金属化した(活性化処理)。このようにして基層の外周面にめっき前処理を行った。
次に、上記めっき前処理した基層を、無電ニッケルめっき液[奥野製薬工業(株)製、「TMP化学ニッケルHRT」]に40℃で5分間浸漬し、上記基層の外周面に沿って無電解ニッケルめっき層(厚み0.3μm)を形成した。
次に、上記無電解ニッケルめっき層の表面に、電解ストライク銀めっき液[大和化成工業(株)製、「ダインシルバーGPE−ST]を用いて、電流密度2.5A/dm2、温度20℃にて30秒間電解ストライク銀めっきを行い、電解ストライク銀めっき層(厚み0.5μm)を形成した。
次に、上記電解ストライク銀めっき層の表面に、電解銀めっき液[大和化成工業(株)製、「ダインシルバーGPE−PL」]を用いて、電流密度1A/dm2、温度25℃にて20分間電解銀めっきを行い、電解Agめっき層(厚み5μm)を形成した。さらに、試料1と同様にして、電解Agめっき層上に、ゴム弾性層を形成した。以上により、試料32の加熱部材を作製した。
<試料33の加熱部材の作製>
試料32の加熱部材の作製と同様にして、基層の外周面に沿って無電解ニッケルめっき層(厚み0.3μm)を形成した。
次に、硫酸銅70g/L、硫酸200g/L、光沢剤[奥野製薬工業(株)製、「トップルチナLS」]5ml/L、35%塩酸0.125ml/Lを混合して、電解銅めっき液を調製した。
次に、上記無電解ニッケルめっき層の表面に、上記調製した電解銅めっき液を用いて、電流密度2.5A/dm2、温度25℃にて20分間電解銅めっきを行い、電解Cuめっき層(厚み10μm)を形成した。さらに、試料1と同様にして、電解Cuめっき層上に、ゴム弾性層を形成した。以上により、試料33の加熱部材を作製した。
<試料34の加熱部材の作製>
試料32の加熱部材の作製と同様にして、基層の外周面に沿って無電解ニッケルめっき層(厚み0.3μm)を形成した。
次に、硫酸ニッケル250g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸40g/L、光沢剤[奥野製薬工業(株)製、「トップセリーナ73X」]5ml/L、光沢剤[奥野製薬工業(株)製、「MU−2」]5ml/Lを混合して、電解ニッケルめっき液を調製した。
次に、上記無電解ニッケルめっき層の表面に、上記調製した電解ニッケルめっき液を用いて、電流密度3A/dm2、温度50℃にて80分間電解ニッケルめっきを行い、電解Niめっき層(厚み40μm)を形成した。さらに、試料1と同様にして、電解Niめっき層上に、ゴム弾性層を形成した。以上により、試料34の加熱部材を作製した。
<電磁誘導加熱による昇温性能>
市販のフルカラー複合機[コニカミノルタ社製、「bizhub C652DS」]に搭載されている定着ユニットを回転ユニットとして用い、この回転ユニットに上記作製した試料の加熱部材を取り付けた。次いで、図6に示すように、試料の加熱部材1の外周にIHコイル11を近接させて設置した。次いで、駆動用モーター21を回転駆動させることにより駆動系22を介して加圧ロール12を回転させ、加圧ロール12に圧接された試料の加熱部材1を連れまわりにより矢印Y方向に回転させた(回転数300rpm)。また、1.25kWにてIHコイル11を作動させ、回転する試料の加熱部材1を電磁誘導加熱により昇温させた。そして、試料の加熱部材1の外周に配置した非接触温度計20[(株)キーエンス製、「FT−H10」]を用いて、試料表面の表面温度が100℃に到達するまでの昇温時間を測定した。6秒以内に100℃まで到達した場合を、IH昇温性に最も優れるとして「A++」とした。6秒超〜8秒以内に100℃まで到達した場合を、IH昇温性に非常に優れるとして「A+」とした。8秒超〜10秒以内に100℃まで到達した場合を、IH昇温性に優れるとして「A」とした。10秒超〜20秒以内に100℃まで到達した場合を、IH昇温性が良好であるとして「B」とした。100℃に到達するまで20秒超かかった場合、または、昇温が確認されなかった場合をIH昇温性に劣るとして「C」とした。
<耐久性>
図6に示すように、試料の加熱部材1と加圧ロール12とのニップ部Nに、A4の印刷用紙Sを100,000枚通紙させる耐久試験を行った。この際、加圧ロール12による加圧力は、4kgfとした。この耐久試験の後、再度上記と同様にして昇温時間の測定を行った。本耐久試験中に導電層3が剥離、破壊した場合、電磁誘導加熱による誘導電流の発生が抑制され、昇温性能が悪化する。そこで、以下の式にて算出される昇温性能変化率が10%以内であった場合を、耐久性を有するとして「A」とした。上記昇温性能変化率が10%を上回った場合を、耐久性を有さないとして「C」とした。
昇温性能変化率=(T2−T1の絶対値)/T1×100
但し、T1:耐久試験前の昇温時間、T2:耐久試験後の昇温時間
<導電層と基層との密着性>
ゴム弾性層を形成する前の状態の各試料からシート状の各試験片を切り出した。次いで、各試験片の導電層の表面に、カッターナイフにて碁盤目状のキズをつけた。なお、上記碁盤目は、9行×9列あり、2mm角の正方形81個から構成されている。次いで、上記碁盤目部位にテープ(Scotch製、PTFEテープ「5490」)を貼り付け後、当該テープを引き剥がした。なお、この際のテープの引き剥がしは、導電層表面とテープの粘着面との間のなす角が180°となるように実施した。そして、上記テープに付着した正方形状の導電層の個数が0個であった場合を「A+」とした。上記テープに付着した正方形状の導電層の個数が0個超〜5個以下であった場合を「A」とした。上記テープに付着した正方形状の導電層の個数が5個超〜10個以下であった場合を「B」とした。上記テープに付着した正方形状の導電層の個数が10個超であった場合を「C」とした。
表1〜表2に、作製した各試料の加熱部材の詳細と評価結果とをまとめて示す。
上記表によれば、次のことが分かる。
すなわち、試料32〜試料34の加熱部材は、導電層が金属めっき層単体からなる。そのため、電磁誘導加熱によって100℃に到達するまでの昇温時間を比較的短くすることができる。よって、IH昇温性に大きな問題は見られない。しかし、試料32〜試料34の加熱部材は、加圧ロールにより加圧された状態で長期間使用した場合、耐久前後で昇温性能の変化が大きく、耐久性に劣っていることがわかる。これは、以下の理由による。すなわち、試料32および試料33の加熱部材は、金属めっき層が相対的に薄く、また、材質的にAgめっき、Cuめっきの硬度が低いため、ある程度の柔軟性はある。しかしながら、基層と無電解Niめっき層との密着性が十分ではないため、使用時の屈曲によって金属めっき層が基層から剥離し、これによって耐久性に劣る結果となった。また、試料34の加熱部材は、電解Niめっき層の厚みが相対的に厚く、材質的にNiめっきの硬度が高いため、柔軟性に劣っている。そのため、使用時の屈曲によって金属めっき層が疲労破壊し、これによって耐久性に劣る結果となった。
また、試料6および試料13の加熱部材は、シリコーンゴム中に扁平状の導電性粒子が分散された導電層を有しているが、導電性粒子の添加量が不十分である。そのため、導電層中において、隣接する導電性粒子同士が互いに接触した状態で層面方向に連なる微構造をとることができない。それ故、層面方向の導電経路が途切れて電気抵抗が高くなり、昇温時間が長くかかった。つまり、IH昇温性に劣っているといえる。
これらに対し、試料1〜試料5、試料7〜試料12、試料14〜試料31の加熱部材は、良好なIH昇温性と耐久性とを両立させることができている。これは以下の理由による。図7に、試料1における導電層のコーティング方向に沿う切断面の走査型電子顕微鏡写真を示す。また、図8に、試料1における導電層のコーティング方向と垂直な方向に沿う切断面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図7および図8に代表して示されるように、試料1〜試料5、試料7〜試料12、試料14〜試料31の加熱部材において、導電層は、多数の導電性粒子と、多数の導電性粒子間を結着するバインダーポリマーとを含んでおり、かつ隣接する導電性粒子同士は、互いに接触した状態で少なくとも層面方向に連なっている第1層を有している。本例では、具体的には、隣接する導電性粒子同士は、コーティング方向に沿う方向、コーティング方向と垂直な方向、さらに層厚み方向にも、隣接する導電性粒子同士が互いに接触した状態で連なっている。
それ故、試料1〜試料5、試料7〜試料12、試料14〜試料31の加熱部材は、電磁誘導加熱による昇温時間が短くなり、良好なIH昇温性を発揮することができた。これは、上記微構造をとる第1層によって層面方向に導電経路が有効に確保され、導電層の電気抵抗を小さくすることができたためである。また、試料1〜試料5、試料7〜試料12、試料14〜試料31の加熱部材は、良好なIH昇温性を有するため、ウォームアップ時間が短くなり、消費電力を削減することが可能となる。そのため、省エネであるといえる。
また、図7および図8に代表して示されるように、試料1〜試料5、試料7〜試料12、試料14〜試料31の加熱部材において、導電層が有する第1層は、多数の導電性粒子間がバインダーポリマーにより結着されている。したがって、加熱部材と加圧ロールとの間を通紙させることにより繰り返し加圧された状態で使用された場合であっても、第1層のバインダーポリマーが伸縮することができる。そのため、試料1〜試料5、試料7〜試料12、試料14〜試料31の加熱部材は、層全てが一様な金属からなる金属めっき層単体からなる導電層を有する試料32〜試料34の加熱部材に比べ、柔軟性に優れている。それ故、試料1〜試料5、試料7〜試料12、試料14〜試料31の加熱部材は、基層、導電層、ゴム弾性層が積層された多層構造であっても、層間の密着性がよく、使用中に導電層の剥離や破壊が生じ難くなる。その結果、試料1〜試料5、試料7〜試料12、試料14〜試料31の加熱部材は、耐久前後で昇温性能の変化が少なく、優れた耐久性を発揮することができた。
以上のように、試料1〜試料5、試料7〜試料12、試料14〜試料31の加熱部材によれば、良好なIH昇温性と耐久性とを両立させることが可能なことが確認できた。
中でも、試料14〜試料31の加熱部材は、第1層が、基層に接して配置されており、かつ、導電性粒子と、バインダーポリマーと、多価イソシアネートとを含む第1層形成用組成物の硬化物より構成されている。そのため、試料14〜試料31の加熱部材は、導電層と基層との密着性を向上させることができた。これは、第1層形成用組成物の硬化時に、バインダーポリマーを包含した状態で多価イソシアネート自身が自己架橋するとともに、基層表面のポリマーが有する官能基とイソシアネート基とが反応して化学結合を生じたためであると推察される。
また中でも、試料21〜試料31の加熱部材は、導電層が、第1層の他に、金属めっきより形成された第2層をさらに有している。そのため、試料21〜試料31の加熱部材は、導電層の導電性向上によってIH昇温性を一層向上させることができた。また、試料21〜試料31の加熱部材は、導電層における第1層と第2層とが接して配置されているので、金属に比べて電気抵抗が高い材質からなる第1層を比較的薄く形成することによって導電経路を薄くしても第2層によって導電経路を確保することができる。これによって導電層全体の電気抵抗を低くしやすかったことも、優れたIH昇温性が得られた理由の一つであるといえる。さらに、試料21〜試料31の加熱部材は、第2層が、第1層におけるゴム弾性層側の表面に接して配置されており、かつ電解金属めっきより形成されている。そのため、第1層と第2層との密着性に優れる。これは、第1層の導電性を利用して、第1層におけるゴム弾性層側の表面に電解めっきを施したことにより、第1層が有する導電性粒子と第2層を形成するめっき金属との間で金属結合が形成されたためである。
さらに、本実験例では、試料16および試料30の加熱部材を除き、導電層における第1層中の導電性粒子として扁平状粒子を用いている。そのため、図7および図8に示されるように、隣接する導電性粒子同士が互いに重なる部分を持って接触しやすい。それ故、導電層における第1層が加圧されて伸長した時でも層面方向の導電経路が確保されやすくなり、この点もIH昇温性の向上に有利に働いたものと考えられる。
また、導電性粒子の材質に着目し、導電層が第1層から構成されている場合について比較すると、Ag粒子、Ag被覆Cu粒子を用いた場合には、IH昇温性を向上させやすく有利であるといえる。これは、Agは体積固有抵抗が2[μΩ・cm]以下と小さく、導電性粒子の粒子最表面の導電性に優れているためである。
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。