JP6083577B2 - 大腸癌細胞の存否を判定する方法および遺伝子マーカー - Google Patents
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Description
さらに近年、DNAのメチル化による遺伝子のサイレンシングが癌の発生や進行に関与することが明らかになってきている(非特許文献1および2)。
特に大腸癌は高分化腺癌が多く、中分化および低分化腺癌が少ないことから、予後判定には組織像自体はあまり考慮されない。また、大腸癌には分化度の評価が困難である例が存在するので組織診断が曖昧になるなどの問題があるので、予後判定は困難であった(特許文献1および2)。
次いで、本発明者らは、プロモーター領域にメチル化されているこれらの遺伝子について、上記の細胞での発現量が低いかまたは発現が認められない遺伝子をサイレンシング遺伝子として同定した。
さらに、本発明者らは、上記のサイレンシング遺伝子の癌組織および正常組織でのメチル化の状態を解析し、これらの組織間でメチル化の程度が異なる遺伝子を、生体試料中の癌細胞の存否を判定するためのマーカー遺伝子として用い得ることを見出して、本発明を完成した。
被験者から採取した生体試料からDNAを抽出する抽出工程と、
抽出工程で得られたDNAに含まれるコラーゲンタイプIVアルファ2(collagen, typeIV, alpha 2:COL4A2)、アルデヒドオキシダーゼ1(aldehyde oxidase 1:AOX1)、二重特異性ホスファターゼ(dual specificity phosphatase 26:DUSP26)、EGF様反復およびディスコイディン1様ドメイン3(EGF-like repeats and discoidin 1-like domains 3:EDIL3)、EFハンドドメインファミリーメンバーD1(EF-hand domain family, member D1:EFHD1)、呑食および細胞運動性1(engulfment and cell motility 1:ELMO1)、ストークヘッドボックス2(storkhead box 2:STOX2)およびジンクフィンガープロテイン447(zinc finger protein 447:ZNF447)の遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子におけるCpG部位のメチル化の状態を解析する解析工程と、
解析工程で得られた解析結果に基づいて、生体試料中の癌細胞の存否を判定する判定工程と
を含む生体試料中の癌細胞の存否を判定する方法が提供される。
大腸癌患者から採取した生体試料からDNAを抽出する抽出工程と、
抽出工程で得られたDNAに含まれるDNA結合インヒビター4ドミナントネガティブ ヘリックス・ループ・ヘリックスタンパク質(inhibitor of DNA binding 4, dominant negative helix-loop-helix protein:ID4)、リシルオキシダーゼ(lysyl oxidase:LOX)およびミオカルディン(myocardin:MYOCD)の遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子におけるCpG部位のメチル化の状態を解析する解析工程と
解析工程で得られた解析結果に基づいて、大腸癌患者の予後を判定する判定工程と、
を含む大腸癌患者の予後を判定する方法が提供される。
哺乳類のゲノムDNAでは、CpG部位においてメチル化修飾が行われることが知られている。また、CpG部位は遺伝子のプロモーター領域に多く存在することが知られているが、本明細書において「CpG部位」は、目的の遺伝子の塩基配列および該遺伝子のプロモーター領域を含め、該遺伝子の発現に関わる領域に存在する全てのCpG部位を含むことを意図する。
また、後述するMassARRAY(登録商標)によってDNAのメチル化状態を解析する場合、メチル化率はあるマーカー遺伝子のDNA断片を解析して得られるメチル化断片由来のピークと非メチル化断片由来のピークとの面積比から算出される値も意味する。なお、MassARRAY(登録商標)解析において、該DNA断片中に含まれるCpG部位が複数である場合は、それらを「CpGユニット」としてひとまとめにして解析され、得られる各ピークの面積比からメチル化率が算出される。
腫瘍細胞においては、DNA複製の制御機構、特にミスマッチ修復経路が損なわれているので、マイクロサテライトの数は腫瘍細胞が有糸分裂するたびに高頻度で増加または減少する。このようなマイクロサテライトの数の不安定性を「マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability:MSI)」という。
上記の5つのマーカーのうち、2つ以上のマーカーでMSIを認める場合を高MSI(MSI-High:MSI−H)、1つのマーカーでMSIを認める場合を低MSI(MSI-Low:MSI−L)、いずれのマーカーでもMSIを認めない場合を安定MS(microsatellite stable:MSS)と判定する。
上記のマーカー遺伝子は大腸癌由来の生体試料から同定されたものであるが、悪性腫瘍でメチル化される遺伝子においては、その多くが単一の悪性腫瘍だけではなく他の悪性腫瘍でも共通してメチル化の異常が見られることがEsteller M.により報告されている(Nature Review Genetics、Vol.8、286−298(2007)参照)。
したがって、上記のマーカー遺伝子についても種々の癌腫においてメチル化される可能性がある。よって、これらのマーカー遺伝子を用いた本発明の方法1は、大腸癌のみならず、胃癌、肺癌、乳癌、口腔癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、白血病などの癌細胞の存否も判定し得ると期待できる。
上記の生体試料としては、被験者のDNAを含むものであれば特に限定されないが、好ましくはゲノムDNAを含むもの、例えば臨床検体を用い得る。臨床検体として具体的には、血液、血清、リンパ球、尿、乳頭分泌液、手術や生検により採取した組織などが挙げられる。
DNAの断片化は、超音波処理、アルカリ処理または制限酵素処理などにより行うことができる。例えば、水酸化ナトリウムを用いてアルカリ処理を行なう場合は、DNA溶液に水酸化ナトリウム溶液を終濃度0.1〜1.0Nとなるよう添加し、10〜40℃で5〜15分間インキュベートすることによりDNAを断片化できる。また、制限酵素処理を行う場合、用いる酵素はDNAの塩基配列に基づいて適宜選択でき、例えば、MseIやBamHIなどを用い得る。
また、解析工程は、上記のマーカー遺伝子のメチル化率を解析する工程であってもよい。
なお、解析対象のマーカー遺伝子は、上記の9つの遺伝子のうちのいずれか1つであってもよいが、後の判定工程での判定精度を向上させるため、複数のマーカー遺伝子について解析することが好ましい。
メチル化DNAと非メチル化DNAとを区別する工程としては、メチル化感受性制限酵素処理、MeDIP法またはバイサルファイト処理などが挙げられる。
DNAを増幅する工程としては、PCR増幅法、定量的PCR増幅法、IVT(in vitro transcription)増幅法、SPIA(商標)増幅法などが挙げられる。
メチル化DNAと非メチル化DNAとを分離して検出する工程としては、電気泳動法、シークエンス解析法、マイクロアレイ解析法、質量分析法などが挙げられる。
一方、バイサルファイトはメチル化シトシンには作用せず、上記のような塩基の変換は起こらない。したがって、DNAのメチル化状態の違いは、バイサルファイト処理によって塩基配列の違い(CおよびU)に変換される。
また、メチル化DNAと非メチル化DNAとで異なる塩基配列の部位について、それぞれに特異的なプライマーセットを用いてPCR増幅を行い、PCR産物の有無によりDNAのメチル化状態を解析できる。この方法はメチル化特異的PCR(MSP)法と呼ばれる。
上記の方法以外に、バイサルファイト処理を利用したメチル化DNAの解析方法としては、COBRA(Combined Bisulfite Restriction Analysis)法、メチル化感受性単一ヌクレオチドプライマー伸長(Methylation-sensitive Single-Nucleotide Primer Extention)法、定量的MSP法、パイロシークエンス法などが知られる。
例えば、試料中のDNA断片が有するCpG部位の1か所がメチル化していた場合、MassARRAY(登録商標)で得られるピークは、高質量側(右側)に16kDaシフトする(図1のCの左パネル参照)。複数のCpG部位を有するDNA断片の解析では、例えば該断片のCpG部位が2か所メチル化していた場合は32kDaシフトし(図1のCの右パネル参照)、3か所メチル化していた場合は48kDaシフトする。
なお、MassARRAY(登録商標)解析では、上記のように解析対象のDNA断片が複数のCpG部位を有する場合、該複数のCpG部位は「CpGユニット」としてひとまとめにして解析されるので、いずれの部位がメチル化しているか特定できない。
標識物質としては、蛍光物質、ビオチンなどのハプテン、放射性物質などが挙げられる。蛍光物質としては、Cy3、Cy5、Alexa Fluor(商標)、FITCなどが挙げられる。このように解析対象のDNAを標識することにより、マイクロアレイ上のプローブからのシグナルの測定が容易になる。なお、DNAを上記の標識物質で標識する方法は当該技術において公知である。
また、判定工程では、解析工程で得られたマーカー遺伝子のメチル化率が所定のカットオフ値より高い場合に、被験者から採取した生体試料中に癌細胞が存在すると判定し得る。該カットオフ値は特に限定されず、適宜設定できるが、好ましくは1〜40%の範囲から決定される。
上記の生体試料としては、大腸癌患者のDNAを含むものであれば特に限定されないが、好ましくはゲノムDNAを含むもの、例えば臨床検体を用い得る。臨床検体として具体的には、血液、血清、リンパ球、尿、乳頭分泌液、手術や生検により採取した組織などが挙げられる。
また、採取した生体試料が組織である場合、該組織は癌細胞を含むものが好ましい。
また、該抽出工程は、本発明の方法1の抽出工程と同様に、超音波処理、アルカリ処理または制限酵素処理などによるDNA断片化工程をさらに含むことが好ましい。
また、解析工程は、上記のマーカー遺伝子のメチル化率を解析する工程であってもよい。
なお、解析対象のマーカー遺伝子は上記の3つの遺伝子のうちのいずれか1つであってもよいが、後の判定工程での判定精度を向上させるため、複数のマーカー遺伝子について解析することが好ましい。
この判定工程では、マーカー遺伝子にメチル化されたCpG部位が有るという解析結果が得られた場合に、大腸癌患者の予後が良いと判定し得る。この場合、該マーカー遺伝子に存在する1つのCpG部位の解析結果から判定してもよいが、判定の精度を向上させるために複数のCpG部位の解析結果から判定することが好ましい。
また、判定工程では、解析工程で得られたマーカー遺伝子のメチル化率が所定のカットオフ値より高い場合に、大腸癌患者の予後が良いと判定し得る。該カットオフ値は特に限定されず、適宜設定できるが、好ましくは1〜40%の範囲から決定される。
本発明者らは、遺伝子転写開始点から上下1kb以内に存在するメチル化CpG部位が遺伝子の発現に重要であり、上記の領域にメチル化候補部位(candidate methylation site:CMS)が存在する遺伝子がマーカーとなり得ると考え、大腸癌細胞株HCT116を用いてMeDIP−chip法により、そのような遺伝子を探索した。
実施例1における具体的な操作手順は、各キットおよび試薬類に添付のマニュアルならびにHayashi H.ら,Hum Genet.,vol.120,701−711(2007)の記載に従って行った。
(1)MeDIP法
大腸癌細胞株HCT116からゲノムDNAをQIAamp DNA Microキット(QIAGEN)を用いて、添付マニュアルに従って抽出した。次いで、得られたゲノムDNA(6μg)を超音波処理装置UD−201(トミー精工社製)で20秒間処理して、ゲノムDNAを200〜800bpに断片化した。そして、断片化DNAを95℃で10分間加熱して変性させた後、4℃まで急冷して一本鎖ゲノムDNAを得た。
なお、上記のビーズ懸濁液の組成は以下のとおりである。
免疫沈降用緩衝液 50μl
50% Protein A Sepharoseビーズ 50μl
BSA溶液(シグマ社) 1μl
tRNA溶液(シグマ社) 1μl
プロテアーゼ阻害剤(シグマ社) 1μl
なお、上記の抗体溶液の組成は以下のとおりである。
免疫沈降用緩衝液 450μl
50% Protein A Sepharoseビーズ 50μl
抗メチル化シトシン抗体 10μg
BSA溶液 1μl
tRNA溶液 1μl
プロテアーゼ阻害剤 1μl
上記のようにして得たメチル化ゲノムDNA溶液にDTTを終濃度250nMとなるように添加して、室温で30分間ローテーションした後、65℃で15分間インキュベートした。次いで、該溶液をフェノール/クロロホルム法およびエタノール沈殿法を用いて精製して、HCT116細胞由来のメチル化ゲノムDNAを得た。
上記(1)で得たメチル化ゲノムDNAにCIP(Calf intestine phosphatase;New England Biolab社)を用いてDNA末端の脱リン酸化処理を行った後、TdT(Terminal transfer;ROCHE社)を用いて、該DNAの3’末端にdTTPを付加した。
次いで、このDNAにT7−ポリAプライマーをアニールさせて、DNAポリメラーゼI(Invitrogen社)を用いて2本鎖DNAを合成した。以下にT7−ポリAプライマーの配列を示す。
5'-GCATTAGCGGCCGCGAAATTAATACGACTCACTATAGGGAG(A)18B-3'(配列番号83)
次いで、該cRNAを鋳型として、SuperScript(商標)II RT(Invitrogen社)およびランダムプライマー(Invitrogen社)を用いてcDNAを得た。
さらに、該cDNAにT7−ポリAプライマーをアニールさせ、DNAポリメラーゼIと反応させた後、さらにT4DNAポリメラーゼ(NEB社)と反応させて、2本鎖DNAを合成した。
次いで、該cRNAを鋳型として、SuperScript(商標)II RT(Invitrogen社)およびランダムプライマー(Invitrogen社)を用いてcDNAを得た。
さらに、該cDNAにDNAポリメラーゼI、E.Coli DNAリガーゼ(Invitrogen社)およびRNase H(Ambion社)を用いて反応させて、2本鎖DNAを合成した。
上記の2本鎖DNAをRNase HおよびRNaseカクテル(Ambion社)と反応させてRNAを分解した後、QIAquick Purificationキット(QIAGEN社)を用いて精製して、2本鎖DNAを得た。
(3)マイクロアレイ解析
上記(2)のようにして、HCT116細胞由来のメチル化ゲノムDNAから増幅して得た2本鎖DNAをDNaseI(Invitrogen社)によって50〜100bpに断片化した後、Biotin-N11-ddATP(Perkin Elmer社)を用いてビオチン標識をした。
ビオチン標識されたDNA断片をGeneChip(登録商標)Human Promoter 1.0R Array(Affymetrix社)に接触させて、マイクロアレイのプローブとのハイブリダイゼーションを行った。接触後の染色、洗浄およびスキャン(シグナルの測定)は、Affymetrix社から提供されるマニュアルに従って行った。
上記で得られたシグナル測定値について550bpのウィンドウでウィルコクソン順位和検定を行い、得られた有意確率が0.01より小さい(p<0.01)の領域は、マイクロアレイのプローブとメチル化DNA断片とが特異的結合をした領域であると判断し、該領域をメチル化候補部位(CMS)とした。
その結果、HCT116細胞において、遺伝子転写開始点から上下1kb以内にCMSが存在する遺伝子は、3814遺伝子であった。
上記の3814遺伝子のうち、HCT116細胞での発現が低いか、または認められない遺伝子を探索する目的でマイクロアレイ解析を行った。マイクロアレイとして、上記の3814遺伝子を含む38500種の遺伝子に対するプローブを搭載したGeneChip(登録商標)Human Genome U133 Plus 2.0 Array(Affymetrix社)を用いた。
TRIzol(Invitrogen社)を用いてHCT116細胞からmRNAを抽出し、該mRNAについて発現解析を行った。該解析から得られたGeneChip(登録商標)スコアが70未満であった遺伝子を、HCT116細胞のサイレンシング遺伝子とした。
その結果、サイレンシング遺伝子は、2410遺伝子であった。
本発明者らは、実施例1で得られた2410遺伝子から無作為に41遺伝子を抽出し、これらの遺伝子をマーカー候補遺伝子とした。そして、大腸癌組織と正常大腸粘膜組織におけるマーカー候補遺伝子のメチル化状態をMassARRAY(登録商標)解析(以下、「質量分析」ともいう)により解析した。
なお、表2にこれら41のマーカー候補遺伝子を示す。
また、実施例2における具体的な操作手順は、各キットおよび試薬類に添付のマニュアル、ならびにEhrich M.ら,Proc Natl Acad Sci USA,vol. 102,15785−15790(2005)およびCoolen MW.ら,Nucleic Acids Res,vol. 35,119(2007)の記載に従って行った。
以下のようにして、大腸癌組織および正常大腸粘膜組織由来のゲノムDNAから、それぞれCRC(colorectal cancer)検体試料およびNormal検体試料を作製した。また、質量分析での検量線を作成するために、対照ゲノムDNAとしてヒト末梢血リンパ球ゲノムDNAを用いて、0%、25%、50%、75%および100%メチル化対照試料を作製した。
(i)大腸癌組織と正常大腸粘膜組織からのDNAの抽出
大腸癌患者から採取した大腸癌組織(112検体)および正常大腸粘膜組織(9検体)のそれぞれから、QIAamp DNA Microキット(QIAGEN社)を用いて各ゲノムDNAを抽出し、Bioruptor(COSMO BIO社製)により超音波切断した。なお、上記の大腸癌検体は、その切片を病理組織学的に観察した結果、該検体中の癌細胞含有率が40%以上のものである。
ヒト末梢血リンパ球ゲノムDNAをGenomiPhi v2 DNA amplificationキット(GEヘルスケアライフサイエンス社)により増幅した。この増幅産物は、非メチル化DNAからなる。次いで、該増幅産物をBioruptor(COSMO BIO社製)により超音波切断し、DNA断片(0%メチル化DNA)を得た。また、該DNA断片の一部を分取して、これにSssIメチラーゼ(New England Biolab社)を反応させることにより全てのシトシンをメチル化させて、メチル化DNA断片(100%メチル化DNA)を得た。そして、0%メチル化DNAと100%メチル化DNAとを所定の割合で混合して、25%、50%および75%メチル化DNAを得た。
上記の(i)および(ii)で得た各DNA(1μg)を19μlの水に希釈し、これらに6N水酸化ナトリウム水溶液を1μl添加して終濃度0.3Nとし、37℃で15分間インキュベーションして変性させた。
そして、上記の各DNA溶液に3.6M重亜硫酸ナトリウム/0.6Mヒドロキノン溶液を120μl添加した後、95℃で30秒および50℃で15分を1サイクルとして、これを15サイクル繰り返すことにより、バイサルファイト処理をした。そして、各反応液をWizard(登録商標)DNA Clean-up System(Promega社)により脱塩し、TE緩衝液50μlで溶出し、非メチル化シトシンをウラシルに変換した各DNA溶液を得た。
上記の各DNA溶液に3N水酸化ナトリウム水溶液を5μl添加して、室温で5分間インキュベーションした後、エタノール沈殿法により各DNAを精製した。最終的に各DNAを80μlの水に溶解して、CRC検体試料およびNormal検体試料、ならびに0%、25%、50%、75%および100%メチル化対照試料を得た。
この工程では、上記のバイサルファイト処理によって非メチル化シトシンをウラシルに変換した各DNAについて、メチル化シトシンおよびウラシルをPCR増幅法およびIVT増幅法により、それぞれグアニン(G)およびアデニン(A)に変換した。
なお、PCR増幅法に用いるプライマーセットがメチル化DNAおよび非メチル化DNAのいずれにも偏りなく増幅できることを上記で得た各対照試料を用いて、後述するMassARRAY(登録商標)解析にて確認した。表3に各マーカー候補遺伝子に対するプライマーセットの配列(配列番号1〜82)を示した。
タグ配列 :5'-AGGAAGAGAG-3'
T7プロモーター配列:5'-CAGTAATACGACTCACTATAGGGAGAAGGCT-3'
PCR反応液は、下記の試薬類を混合して調製した。
10x Hot Starバッファー(QIAGEN社) 0.5μl
25mM dNTPミックス 0.04μl
Hot Star Taq(5U/μl)(QIAGEN社) 0.04μl
プライマーミックス 2μl
DNA溶液 1μl
水 1.42μl
トータル 5μl
94℃で15分、
94℃で20秒、52℃で30秒、72℃で1分を45サイクル、
72℃で3分。
5x T7 R&DNAポリメラーゼバッファー 0.89μl
T Cleavageミックス 0.24μl
100mM DTT 0.22μl
T7 R&DNAポリメラーゼ 0.44μl
RNase A 0.06μl
RNaseフリーの水 3.15μl
トータル 5μl
(i)検量線の作成
上記(2)で得た各検体試料由来の質量分析用サンプルを2回ずつ独立に質量分析を行った。得られた解析結果より、プライマーセットごとの検量線を作成し、相関係数を算出した。そして、上記のプライマーセットで増幅した各対照試料の質量分析から線形の検量線が得られた。これにより、各プライマーセットは、メチル化DNAおよび非メチル化DNAのいずれにも偏りなく増幅できることが確認できた。
(ii)各検体試料由来のサンプルの解析
上記(2)で得た各検体試料由来の質量分析用サンプルを用いて質量分析を行い、各切断産物のピークを得た。次いで、得られた各ピークがマーカー候補遺伝子のどの塩基配列の部分に由来するものであるかを同定した。そして、同一の塩基配列に由来する切断産物において、メチル化CpG部位を含む切断産物のピークとメチル化CpG部位を含まない切断産物のピークとの面積比からメチル化率を算出した。この計算について、図1のCの左パネルを用いて例示すると、非メチル化切断産物のピーク(左)とメチル化切断産物のピーク(右)との面積比が1:3であった場合、この配列のDNA断片のメチル化率は、3/(1+3)=0.75より、75%となる。このようなメチル化率の計算を各切断産物について行い、各切断産物のメチル化率を算出した。なお、メチル化率は理論上、切断産物が有する全てのCpG部位がメチル化している場合は100%であり、全てのCpG部位が非メチル化状態である場合は0%である。
上記で得た各切断産物のメチル化率について、上記(i)で算出した相関係数が0.9より大きい切断産物についてのみ、以降のデータ解析に用いた。また、大腸癌組織の112検体のうち102検体(90%)以上が解析されていない切断産物のメチル化率は除外した。
そして、各マーカー候補遺伝子が有するCpG部位数と、これら遺伝子の各切断産物に含まれるCpG部位数とを考慮するために、各マーカー候補遺伝子のメチル化率は、除外されなかった切断産物のメチル化率を加重平均して算出した。
上記で算出したメチル化率から各検体に含まれるマーカー候補遺伝子がメチル化陽性か否かを判断するためのカットオフ値を35%とした。したがって、ある遺伝子のメチル化率が35%より大きい場合、その遺伝子はメチル化陽性であると判断される。なお、この値は、大腸癌検体の癌細胞含有率が40%であることを考慮して決定された。
そして、大腸癌検体(112検体)および正常大腸粘膜検体(9検体)の各検体において、上記の41の各マーカー候補遺伝子がメチル化陽性であるか否かを、該カットオフ値(35%)および上記で算出したメチル化率に基づいて判断した。そして、各遺伝子についてメチル化陽性である検体数を大腸癌検体群および正常大腸粘膜検体群でそれぞれ計数し、全検体数に対するメチル化陽性検体の割合を次式より算出した。表4に得られた結果を示す。
メチル化陽性検体の割合(%)=(各群のメチル化陽性検体数/各群の検体総数)x100
表4に示した41遺伝子のうち、CRCとNormalとのメチル化陽性検体の割合の差が50%以上の遺伝子をマーカーになり得る遺伝子として選択し、表4の遺伝子シンボルに*を付して示した。
選択された遺伝子は、TSPYL、COL4A2、ADAMTS1、SPG20、TMEFF2、CIDEB、EDIL3、EFEMP1、PPP1R14A、UCHL1、HAND1、STOX2、THBD、ELMO1、IGFBP7、PPP1R3C、SFRP1、CDO1、FBN2およびZNF447である。
選択された遺伝子は、EFHD1、STOX2、ELMO1、CHFR、DUSP26、MYOCD、FLJ23191、LOX、EPHB1、TLE4、TMEFF2、SPG20、EDIL3、PPP1R3C、FBN2、AOX1およびZNF447である。
MSIと大腸癌患者の予後との相関はこれまでにいくつもの報告があり、一般にMSIが高い症例と良好な予後とは相関すると言われている。さらに、32報の既報データ(計7642症例のうちMSI症例1277例)をまとめたPopat S.らの報告(J Clin Oncol、Vol.23、609‐613(2005))によって、大腸癌のMSIが高い症例の患者が統計学的に有意に良好な予後を示すことが知られている。
そこで、本発明者らは、上記の41遺伝子について、あるマーカー遺伝子のメチル化陽性検体の割合とMSIとの相関関係があるか否かを検討した。
実施例2の(1)の(i)で得た大腸癌組織(112検体)のゲノムDNAを用いてMSIを解析するために、上記のNCIワークショップにより推奨された5つのMSIマーカー(BAT25、BAT26、D5S346、D2S123およびD17S250)についてシークエンス解析をした。
各検体のゲノムDNAに含まれる上記の5つのマーカーの塩基配列をALF express DNAシークエンサー(Pharmacia Biotech社製)およびAllele Linksソフトウェア(Pharmacia Biotech社製)により解析した。
5つのマーカーのうち2つ以上のマーカーでMSIを認める検体をMSI−H、1つのマーカーでMSIを認める検体をMSI−L、いずれのマーカーでもMSIを認めない検体をMSSと判定した。なお、MSIを認めたマーカーについては少なくとも2回の解析を行った。
実施例2における各マーカー遺伝子がメチル化陽性である群とMSI−Hの群とが相関するか否かを、フィッシャーの正確確率検定(Fisher's exact test)により解析した。
解析の結果、以下のとおり、ID4、LOXおよびMYOCDのマーカー遺伝子がメチル化している群がMSI−Hの群と強い相関を示した。なお、Pは上記の検定から算出された有意確率である。この結果を表7に示す。
LOXでは、メチル化検体16例のうち15例がMSI‐Hであり、非メチル化検体96例のうち3例がMSI‐Hであった(P = 8.1 x 10-15)。
MYOCDでは、メチル化検体16例のうち14例がMSI‐Hであり、非メチル化検体96例のうち4例がMSI‐Hであった(P = 1.4 x 10-12)。
上記の結果より、大腸癌患者においてID4、LOXおよびMYOCDいずれか1つがメチル化している場合、MSIが高い傾向にあり、すなわち、予後が良好である可能性が高いと考えられる。よって、これらの3つのマーカー遺伝子のメチル化状態を解析することにより、大腸癌患者の予後を予測し得ると考えられる。
以下のようにして、大腸癌細胞株HCT116とDLD−1、大腸癌患者から採取した大腸癌組織1〜7、および正常大腸粘膜組織由来のゲノムDNAから、それぞれHCT116試料、DLD−1試料、CRC検体試料1〜7およびNormal検体試料を作製した。
HCT116、DLD−1、大腸癌組織1〜7、および正常大腸粘膜組織のそれぞれから、DNAをQIAmp DNA Microキット(QIAGEN社)を用いて添付マニュアルに従って抽出した。抽出した大腸癌細胞株、大腸癌組織および正常大腸粘膜組織のゲノムを含む各ゲノムDNAをBioruptor(COSMO BIO社製)により超音波切断した。
上記の(i)で得た各DNA(1μg)を19μlの水に希釈し、これらに6N水酸化ナトリウム水溶液を1μl添加して終濃度0.3Nとし、37℃で15分間インキュベーションして変性させた。そして、上記の各DNA溶液に3.6M重亜硫酸ナトリウム/0.6Mヒドロキノン溶液を120μl添加した後、95℃で30秒および50℃で15分を1サイクルとして、これを15サイクル繰り返すことにより、バイサルファイト処理をした。そして、各反応液をWizard(登録商標)DNA Clean-up System(Promega社)により脱塩し、TE緩衝液50μlで溶出し、非メチル化シトシンをウラシルに変換した各DNA溶液を得た。
(i)0%および100%メチル化DNAの作製
ヒト末梢血リンパ球ゲノムDNAをGenomiPhi v2 DNA amplificationキット(GEヘルスケアライフサイエンス社)により増幅した。この増幅産物は、非メチル化DNAからなる。次いで、該増幅産物をBioruptor(COSMO BIO社製)により超音波切断し、DNA断片(0%メチル化DNA)を得た。また、該DNA断片の一部を分取して、これにSssIメチラーゼ(New England Biolab社)を反応させることにより全てのシトシンをメチル化させて、メチル化DNA断片(100%メチル化DNA)を得た。
上述の検体試料の作製におけるバイサルファイト処理と同様に、0%メチル化DNAおよび100%メチル化DNAを処理し、0%メチル化対照試料および100%メチル化対照試料を得た。
上記(1)および(2)で得られた検体試料および対照試料(バイサルファイト処理後のDNA)を用いて、MSPを行った。MSPで用いたPCR試薬の組成、プライマーセットおよびPCRの反応条件を以下に示す。
DDW(滅菌水) 15.25μl
10×PCR buffer with MgCl2(Roche社) 2.5μl
1.25 mM dNTP mix 4μl
10μMセンスプライマー 1μl
10μMアンチセンスプライマー 1μl
Faststart Taq polymerase(Roche社) 0.25μl
検体試料 1μl
トータル 25μl
上記のMSPで用いたプライマーセットを表8に示す。なお、表8の三列目の欄における「M」はメチル化検出用プライマーを示し、「U」は非メチル化検出用プライマーを示す。
95℃で6分、
95℃で30秒、X℃で30秒、72℃で30秒をYサイクル、
72℃で7分、
16℃で放置。
上述のMSPで得られた増幅産物を2%アガロースゲル電気泳動で確認した。また、アガロースゲル電気泳動の写真を画像処理ソフト(ImageJ)で解析することにより各バンドの強度を定量した。バンドの強度は、目的のバンドの強度から同じレーンのバックグラウンドの強度を差し引いた値とした。なお、後述のアガロースゲル電気泳動の結果を示す図およびバンド強度のグラフを示す図における符号を、以下に説明する。
U: 非メチル化検出用プライマー
0%: 0%メチル化対照試料
100%: 100%メチル化対照試料
HCT116: HCT116試料
DLD1: DLD−1試料
N: Normal検体試料
1: CRC検体試料1
2: CRC検体試料2
3: CRC検体試料3
4: CRC検体試料4
5: CRC検体試料5
6: CRC検体試料6
7: CRC検体試料7
COL4A2のプライマーセットを用いたMSPのアガロースゲル電気泳動の結果を図2に示す。また、COL4A2のプライマーセットを用いたメチル化特異的PCRのアガロースゲル電気泳動のバンド強度のグラフを図3に示す。
AOX1のプライマーセットを用いたMSPのアガロースゲル電気泳動の結果を図4に示す。また、AOX1のプライマーセットを用いたメチル化特異的PCRのアガロースゲル電気泳動のバンド強度のグラフを図5に示す。
DUSP26のプライマーセットを用いたMSPのアガロースゲル電気泳動の結果を図6に示す。また、DUSP26のプライマーセットを用いたメチル化特異的PCRのアガロースゲル電気泳動のバンド強度のグラフを図7に示す。
ELM01のプライマーセットを用いたMSPのアガロースゲル電気泳動の結果を図8に示す。また、ELM01のプライマーセットを用いたメチル化特異的PCRのアガロースゲル電気泳動のバンド強度のグラフを図9に示す。
STOX2のプライマーセットを用いたMSPのアガロースゲル電気泳動の結果を図10に示す。また、STOX2のプライマーセットを用いたメチル化特異的PCRのアガロースゲル電気泳動のバンド強度のグラフを図11に示す。
EDIL3のプライマーセットを用いたMSPのアガロースゲル電気泳動の結果を図12に示す。また、EDIL3のプライマーセットを用いたメチル化特異的PCRのアガロースゲル電気泳動のバンド強度のグラフを図13に示す。
ZNF447のプライマーセットを用いたMSPのアガロースゲル電気泳動の結果を図14に示す。また、ZNF447のプライマーセットを用いたメチル化特異的PCRの、アガロースゲル電気泳動のバンド強度のグラフを図15に示す。
EFHD1のプライマーセットを用いたMSPのアガロースゲル電気泳動の結果を図16に示す。また、EFHD1のプライマーセットを用いたメチル化特異的PCRのアガロースゲル電気泳動のバンド強度のグラフを図17に示す。
市販されている二つのヒト正常乳腺上皮組織由来のゲノムDNAを、それぞれBioruptor(COSMO BIO社製)を用いて超音波処理した。超音波処理した各ヒト正常乳腺上皮組織由来のゲノムDNAを、実施例4と同様のバイサルファイト処理を行うことで正常乳腺上皮組織検体試料AおよびBを作製した。また、市販されているヒト乳癌組織由来のゲノムDNAを同様に処理して乳癌検体試料Cを作製した。
実施例4の対照試料の作製と同様の操作により、0%メチル化対照試料および100%メチル化対照試料を作製した。
上記(1)および(2)で得られた検体試料および対照試料を用いてMSPを行った。MSPで用いたPCR試薬の組成およびPCRの反応条件は、実施例4と同様である。また、プライマーは表8に示されるCOL4A2、AOX1およびSTOX2のプライマーを用いた。
実施例4と同様に、アガロースゲル電気泳動およびバンドの強度を用い、増幅産物を解析した。なお、後述のアガロースゲル電気泳動の結果を示す図およびバンド強度のグラフを示す図における符号を、以下に説明する。
U: 非メチル化検出用プライマー
0%: 0%メチル化対照試料
100%: 100%メチル化対照試料
A: 正常乳腺上皮組織検体試料A
B: 正常乳腺上皮組織検体試料B
C: 乳癌検体試料C
COL4A2のプライマーセットを用いたMSPのアガロースゲル電気泳動の結果を図18に示す。また、COL4A2のプライマーセットを用いたメチル化特異的PCRのアガロースゲル電気泳動のバンド強度のグラフを図19に示す。
AOX1のプライマーセットを用いたMSPのアガロースゲル電気泳動の結果を図20に示す。また、AOX1のプライマーセットを用いたメチル化特異的PCRのアガロースゲル電気泳動のバンド強度のグラフを図21に示す。
STOX2のプライマーセットを用いたMSPの、アガロースゲル電気泳動の結果を図22に示す。また、STOX2のプライマーセットを用いたメチル化特異的PCRのアガロースゲル電気泳動のバンド強度のグラフを図23に示す。
Claims (2)
- 被験者から採取した大腸細胞からDNAを抽出する抽出工程と、
抽出工程で得られたDNAに含まれるCOL4A2遺伝子における少なくとも1つのCpG部位のメチル化の有無を解析する解析工程と、
解析工程において、メチル化されたCpG部位が有るという解析結果が得られた場合に、前記被験者の大腸に大腸癌細胞が存在すると判定する判定工程と
を含む大腸癌細胞の存否を判定する方法。 - 被験者から採取した大腸細胞からDNAを抽出する抽出工程と、
抽出工程で得られたDNAに含まれるCOL4A2遺伝子のメチル化率を解析する解析工程と、
解析工程で得た遺伝子のメチル化率が所定のカットオフ値より高い場合に、前記被験者の大腸に大腸癌細胞が存在すると判定する判定工程と
を含む大腸癌細胞の存否を判定する方法。
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