特許文献3ではPCケーブル2に緊張力が与えられないか(段落0011、0013)、PCケーブル2に導入される緊張力が小さい範囲であれば(段落0014)、補強枠と主桁との間に充填される充填材の付着力のみによって補強枠が主桁の下フランジを包囲した状態を維持することは可能であると考えられる。
但し、充填材の付着力のみに主桁の軸方向に配置されるPCケーブルの張力を負担させる方法では、PCケーブルに導入される張力の反力を直接、充填材が負担することになるが、充填材は主桁に拘束された状態にないため、PCケーブルの反力を負担することには自ずから限界がある。従って緊張力が与えられた複数本のPCケーブルを補強枠と主桁との間の充填材中に埋設させた状態を維持することは困難であり、充填材の付着力のみに依存する以上、PCケーブルに導入可能な緊張力は制限されざるを得ない。
本発明は上記背景より、幅方向に隣接する主桁間に、外ケーブル定着用ブロックを固定するためのPC鋼材架設のための空間が存在しない場合にも外ケーブルを定着させることを可能にし、外ケーブルに導入される緊張力の反力を負担可能な外ケーブルの定着装置を提案するものである。
請求項1に記載の発明の橋桁におけるプレストレス導入用外ケーブルの定着装置は、下フランジを有するI形断面、もしくはT形断面の主桁が幅方向に並列する橋桁において、前記主桁の軸方向に沿い、前記主桁の断面外に架設される外ケーブルを前記主桁に定着させるための定着装置であり、
隣接する前記主桁間に跨り、前記両主桁の前記下フランジの上面上のウェブ間に配置されて前記下フランジに支持され、少なくとも前記主桁の前記下フランジの上面から前記主桁の前記ウェブの高さ方向中間部までの高さを持つ上部材と、前記主桁の前記下フランジの下面の下に配置される下部材と、前記主桁を外した領域の、前記上部材と前記下部材との間に架設され、緊張力が与えられる緊張材とを備え、前記緊張材が緊張され、前記上部材と前記下部材に定着されて前記上部材と前記下部材が前記主桁を挟み込んだ状態で前記主桁に固定されていることを構成要件とする。
「主桁が下フランジを有する」とは、主桁の下部にウェブの幅より幅方向外側へ張り出す部分を有することの意味であり、主桁が下フランジを有することで、上部材は単純に隣接する主桁の下フランジ上に載置されるだけで、両主桁に支持された状態になる。下フランジの上面は水平面である場合と、主桁の幅方向中心から幅方向両側へかけてウェブから下フランジに向かう傾斜が付いた面をなす場合がある。
「主桁が幅方向に並列すること」には、橋桁の幅方向(橋軸直角方向)に隣接する主桁の上フランジが互いに接触した状態で並列する場合と、主桁の上フランジ間に間隔を置いて並列する場合がある。隣接する主桁の上フランジ間に間隔が空く場合、主桁間には現場打ちコンクリートの打設による床版が構築されるか、プレキャスト床版が敷設される。
外ケーブルは主桁の軸方向に沿って架設されるが、必ずしも主桁の軸方向に平行であるとは限らない。主桁の軸方向は橋軸方向である。「外ケーブルが主桁の断面外に架設」とは、外ケーブルが主桁の断面内を挿通しないことであり、外ケーブルの架設に伴って主桁が損傷を受けることはない。橋桁は既設と新設を含む。
上部材は隣接する主桁間に跨って両主桁の下フランジ上のウェブ間に配置され、両主桁の下フランジに支持されることから、上部材が予め製作された製品である場合には、隣接する主桁の上フランジが互いに接触するか、間隔が確保されるかを問わずに、上部材は隣接する主桁の下フランジ間の間隔より大きい幅を持つ。但し、1個の上部材の厚さが隣接する主桁の下フランジ間の間隔以下であれば、橋桁が既設の場合にも上部材を主桁の下面側から隣接する主桁のウェブ間に差し込むことは可能である。上部材の厚さは主桁の軸方向の寸法を指す。上部材は製品化される場合、鋼製とプレキャストコンクリート製があり、コンクリートには高強度のモルタルが含まれる。上部材は現場で鉄筋コンクリート造等で構築される場合もある。
隣接する主桁の下フランジ間の間隔が製品化される場合の上部材の厚さより小さくなる場合には、上部材は隣接する主桁間のウェブ間に現場で構築される。請求項1における「上部材が主桁の下フランジの上面の上に配置される」ことには、製品化された上部材が下フランジ上に設置される場合と、現場で構築されて設置状態になる場合を含む。
上部材が特に主桁の幅方向に、側面が隣接する主桁のウェブの幅方向の側面に接触する程度の幅を持っている場合(請求項2)には、上部材は隣接する主桁間への設置状態で両主桁に幅方向に挟まれ、拘束されるため、主桁間に設置され、緊張材から圧縮力を受けた状態で、幅方向の変位に対して安定する。また主桁下フランジの上面に、主桁の幅方向中心から幅方向両側へかけてウェブから下フランジに向かう傾斜が付けられている場合には、上部材は緊張材から圧縮力を受けたときに、主桁を上部材の幅方向中心側から幅方向両側へ向かって押す力が発生し、上部材が主桁から幅方向中心側へ反力を受けた状態になるため、上部材の設置状態での幅方向の安定性が向上する。
上部材はまた、隣接する主桁間に跨って主桁の下フランジの上面上に配置されることで、主桁の下面下に配置される下部材との間に架設される緊張材に緊張力が与えられたときに、圧縮力が両側の主桁に均等に分散して作用するため、いずれかの主桁に圧縮力が集中することはない。
緊張材は主桁を外した、主桁の断面外の領域に架設され、緊張力の導入によって上部材と下部材に主桁の下フランジを挟持させるため、緊張材は原則的に鉛直方向に向けて架設される。但し、外ケーブルの主桁に対する配置位置と傾斜角度等の関係で、鉛直に対して傾斜して架設されることもある。
上部材と下部材を連結する緊張材は上部材の上端面と下部材の下端面との間を貫通し、緊張力を与えられた状態で、両端部において上部材と下部材に定着されることにより上部材と下部材に圧縮力を加え、上部材と下フランジ上面との間、及び下部材と下フランジ下面との間に摩擦力を生じさせる。主桁が上部材と下部材から受ける圧縮力は下フランジに作用するが、緊張材が主桁の断面外に架設されることで、主桁自体は上部材と下部材、及び緊張材の設置によって損傷を受けることはなく、断面が欠損することもないため、上部材と下部材から受ける圧縮力によって耐力が低下する等の影響はない。
上部材2は隣接する2本の主桁5、5間に跨った状態で主桁5の下フランジ51の上面に接触(密着)するため、幅方向両側寄りの下面において主桁5の下フランジ51に接触し、幅方向中間部の下面は主桁5には接触しない。上部材2が図1〜図3に示すように下フランジ51の下面にまで亘る高さを持つ場合には、上部材2の幅方向中間部の下面は下部材3に接触する。この場合、上部材2は全高に亘って緊張材4の反力を負担する状態になるため、下面が下部材3に接触しない場合より圧縮力の負担能力が高くなり、それだけ大きい緊張力を緊張材4に与えることが可能になる。
上部材2の幅方向中間部の下面が図4〜図7に示すように下フランジ51の上面のレベルに位置する場合には、上部材2の幅方向中間部の区間の、隣接する主桁5、5の下フランジ51、51間が開放するため、図5、図7に示すように上部材2の下の空間が外ケーブル6の架設と定着のために使用されることがある。主桁5の下フランジ51の上面に、主桁5の幅方向中心から幅方向両側へかけてウェブ52から下フランジ51に向かう傾斜が付けられている場合には、上部材2の幅方向両側寄りの下面に同じ傾斜が付けられる。
下部材3は主桁5の下フランジ51の下面下に配置され、上部材2と対になって下フランジ51を挟み込む。上部材2は下部材3との連結時に隣接する主桁5、5間に跨るが、下部材3は図1、図3、図5、図7に示すように上部材2と同様に隣接する主桁5、5間に跨って配置される場合と、図2、図4、図6に示すように1本の主桁5単位で配置される場合がある。
上部材2は隣接する主桁5、5の各下フランジ51の上面に接触した状態で、下部材3と対になって主桁5の下フランジ51を上下に挟み込むことで、下部材3との間に架設される緊張材4に与えられる緊張力の反力を圧縮力として受け、下部材3と共に主桁5に固定された状態を維持する。上部材2と下部材3は緊張材4から圧縮力を受けることで、それぞれ主桁5下フランジ51の上面と下面に密着する。上部材2と下フランジ51上面との間、及び下部材3と下フランジ51下面との間には緊張材4から与えられる圧縮力による支圧力が作用するため、主桁5の軸方向に作用する力に対しては、基本的に上部材2と下部材3の下フランジ51との間の接触面積分の、支圧力に応じた摩擦力によって抵抗する。「主桁5の軸方向に作用する力」は外ケーブル6に導入される張力(緊張力)のことを言う。
上部材2及び下部材3と主桁5との間、すなわち上部材2の下面と下フランジ51上面の少なくともいずれか一方、または下部材3の上面と下フランジ51下面の少なくともいずれか一方には、両者間の摩擦力を稼ぐ目的で、目荒しが施されることがある。また上部材2下面と下フランジ51上面との間、及び下部材3上面と下フランジ51下面との間には、それぞれの面間の空隙を減少させ、接触面積を増加させるためにモルタル、接着剤等の充填材が充填されることもある。上部材2及び下部材3と下フランジ51間への充填材の充填による接触面積の増大は摩擦力の増大にもなるが、充填材は付着力を発揮し、主桁5の軸方向に作用する力に対する抵抗力になることもある。
上部材2と下部材3が対になって主桁5を挟み込み、緊張材4から与えられる圧縮力を受けることで、上部材2下面と下フランジ51上面との間、及び下部材3上面と下フランジ51下面との間に生じる支圧力による摩擦力が、外ケーブル6が定着される上部材2と下部材3のいずれかが受ける主桁5の軸方向に作用する外ケーブル6の張力に抵抗する。上部材2下面と下フランジ51上面との間、及び下部材3上面と下フランジ51下面との間に充填材が充填され、付着力を発揮する場合には、支圧力による摩擦力に加え、充填材の付着力が、外ケーブル6の張力に対する抵抗力に加算される。
上部材2と下部材3が負担すべき「主桁5の軸方向に作用する力」に対しては、1個の上部材2と1個(1枚)の下部材3の組み合わせ単位で、主桁5との間に生じる摩擦力等によって抵抗するか、図4〜図7に示すように主桁5の軸方向に複数、配列する複数個の上部材2と1個の下部材3の組み合わせ単位で、主桁5との間に生じる摩擦力等によって抵抗する。前記のように製品化されている上部材2の厚さは隣接する主桁5、5の下フランジ51、51間からの挿入上の制約から、下フランジ51、51間の間隔以下に制限されるため、1個の上部材2と主桁5との間の摩擦力等のみでは「主桁5の軸方向に作用する力」に対する抵抗力が不足する場合には、主桁5の軸方向に配列する複数個の上部材2が集合することで、十分な抵抗力を確保する。
上部材2が隣接する主桁5、5間に跨って下フランジ51、51の上面上に配置され、下フランジ51の下面下に配置される下部材3との間に架設される緊張材4の緊張力により下部材3と共に主桁5に固定され、主桁5との間に生ずる摩擦力等によって外ケーブル6の張力に抵抗するため、幅方向に隣接する主桁5、5間にPC鋼材(緊張材4)の架設のための空間が存在しない場合にも、外ケーブル6の張力を負担できる上部材2と下部材3を主桁5の周囲に配置することが可能になる。主桁5の周囲に固定された上部材2と下部材3が外ケーブル6の張力を負担できることで、外ケーブル6が定着される定着部材9を上部材2と下部材3の少なくともいずれかに固定することができるため、主桁5の周囲に外ケーブル6を架設し、外ケーブル6に張力を導入することが可能になる。
また上部材2と下部材3を主桁5に固定するための緊張材4は主桁5を外した領域に架設されることで、上部材2と下部材3の主桁5への固定に伴って主桁5に孔を形成することも、損傷させることもないため、主桁5の圧縮耐力を低下させることがない。
橋桁50にプレストレスを導入するための外ケーブル6が定着される定着部材9は図1に示すように上部材2が兼ねる場合(請求項3)と、図2〜図7に示すように上部材2と下部材3の少なくともいずれか一方に固定される場合(請求項4)がある。図2〜図7では定着部材9が下部材3に固定される場合を示しているが、図5、図7のように隣接する主桁5、5の下フランジ51、51間の空間に定着部材9が配置される場合の定着部材9は上部材2に固定されることもある。
上部材2が定着部材9を兼ねる図1に示す例の場合(請求項3)、外ケーブル6の張力は上部材2に直接、負担されるため、主桁5には上部材2から、または上部材2とそれに連結された下部材3から主桁5との間の摩擦力等を通じて伝達される。定着部材9が上部材2、もしくは下部材3に固定される場合(請求項4)には、外ケーブル6の張力は定着部材9から上部材2、もしくは下部材3を経由し、主桁5との間の摩擦力等を通じて主桁5に伝達される。
定着部材9が上部材2、もしくは下部材3に固定される場合、定着部材9は上部材2の上面か下面、または図2〜図7に示すように下部材3の上面か下面に固定される。定着部材9の固定位置は上部材2と下部材3との間(隣接する主桁5、5の下フランジ51、51間)、または上部材2の上面、あるいは下部材3の下面の少なくともいずれかになり、その位置は主桁5の軸方向のある断面における、外ケーブル6の架設位置(主桁5との偏心距離)に応じて決められる。
定着部材9の上部材2、もしくは下部材3への固定手段は問われないが、上部材2、もしくは下部材3の構造種別に応じて決められる。例えば上部材2、もしくは下部材3が鋼材の場合には図2等に示すように溶接、もしくはボルト10により接合され、コンクリート製の場合にはアンカーとそれに螺合するボルト等により接合される。ボルト10を使用する場合、主桁5への損傷を回避する上で、ボルト10は主桁5には到達しない。
定着部材9が例えば図5、図7に示すように下部材3の上面と下面に対になって配置されるような場合には、下部材3を厚さ方向に貫通させて上下の定着部材9、9間にボルト10を挿通することができるため、ボルト接合による場合のボルト10の螺合長さ不足による定着強度不足が生ずることは回避される。
定着部材9が下部材3に固定される場合、定着部材9は下部材3の下面側と上面側のそれぞれに付き、図2に示すように主桁5の幅方向に並列する場合と、図5に示すように主桁5の軸方向にずれて配列する場合がある。定着部材9が主桁5の軸方向にずれて定着される場合は、1個の下部材3が負担する外ケーブル6の張力が主桁5の軸方向に分散されるため、1本の外ケーブル6に導入可能な緊張力を増大できる利点、あるいは1個の下部材3と主桁5との間に生じさせるべき摩擦力を低減できる利点がある。
上部材が隣接する主桁間に跨って下フランジの上面上に配置され、下フランジの下面下に配置される下部材との間に架設される緊張材の緊張力により下部材と共に主桁に固定され、主桁との間に生ずる摩擦力等によって外ケーブルの張力に抵抗するため、幅方向に隣接する主桁間にPC鋼材(緊張材)の架設のための空間が存在しない場合にも、外ケーブルの緊張力を負担できる上部材と下部材を主桁の周囲に配置することが可能になる。主桁の周囲に固定された上部材と下部材が外ケーブルの緊張力を負担できる結果、外ケーブルが定着される定着部材を上部材と下部材のいずれかに固定することで、主桁の周囲に外ケーブルを架設し、緊張力を導入することが可能である。
また上部材と下部材を主桁に固定するための緊張材は主桁を外した領域に架設され、上部材と下部材の主桁への固定に伴って主桁に孔を形成することも、損傷させることもないため、主桁の圧縮耐力を低下させることはない。
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1−(a)は図8に示すような、下フランジ51を有するI形断面、もしくはT形断面の主桁5が幅方向に並列する橋桁50に使用され、図9に示すように主桁5の軸方向に沿い、主桁5の断面外に架設される外ケーブル6を主桁5に定着させるための定着装置1の具体例と主桁5との関係を示した橋軸方向の断面図である。図1−(a)は主桁5を軸方向に見たときの定着装置1とその両側に位置する主桁5、5との関係を示し、図1−(b)は図1−(a)のa−a線の断面を示している。図8、図9は下フランジ51と上フランジ53を有する複数本の主桁5が幅方向に互いに接触しながら配列する橋桁50の形態例を示している。
図8では各主桁5の下フランジ51の幅方向両側に外ケーブル6、6を配置した様子を示しているが、ここでは外ケーブル6を下に凸に配置する(偏向させる)ためのブロック(偏向部)を省略している。図9は図8に示す橋桁50の各主桁5の幅方向両側に配置される外ケーブル6の架設状況を示している。図1〜図7では隣接する主桁5、5が、それぞれの上フランジ53、53が互いに接触した状態で配列している様子を示しているが、隣接する主桁5、5の上フランジ53、53間には空隙(クリアランス)が確保されることもある。その場合、上フランジ53、53間の空隙には主桁5、5に連続する鉄筋が配筋され、モルタル、コンクリート等が充填される。
定着装置1は図1−(a)に示すように隣接する主桁5、5間に跨り、主桁5の下フランジ51の上面上に配置される上部材2と、主桁5の下フランジ51の下面下に配置される下部材3と、主桁5を外した領域の、上部材2と下部材3との間に架設され、緊張力が与えられる緊張材4から構成される。緊張材4には主にPC鋼棒等のPC鋼材が使用されるが、繊維強化プラスチック等の繊維強化材料が使用されることもある。外ケーブル6は上部材2と下部材3のいずれかに固定される定着部材9に定着されることにより主桁5の断面外に定着される。定着部材9は図1に示すように上部材2が兼ねることもあり、下部材3がブラケット等、定着部材が一体化する形状をすることにより下部材3が定着部材9を兼ねることもある。
上部材2は緊張材4の反力を受けて圧縮力を負担することから、主に図1〜図5に示すように鉄筋コンクリート造等で構築、もしくは製作されるが、図6、図7に示すように鋼材で製作されることもある。下部材3は、上部材2上に緊張材4を定着するために設置される、後述の定着プレート20と対になることで、上部材2に圧縮力を加える働きをするため、図示するように主に鋼材(鋼板)が使用されるが、鉄筋コンクリート造(プレキャストコンクリート製)の版が使用されることもある。上部材2と下部材3はまた、繊維補強モルタルで製作されることもある。
図1は特に上部材2が、外ケーブル6の端部が定着される定着部材9を兼ねている場合の例を示している。鉄筋コンクリート造の、特に現場打ちコンクリート造の上部材2は少なくとも主桁5の下フランジ51の上面からウェブ52の高さ方向中間部までに亘る高さを持ち得るため、上部材2には図1−(b)に示すように外ケーブル6を水平に対して傾斜させて定着させる部位の定着に適した形状を与えることが可能である。
緊張材4は上部材2と下部材3を高さ方向に挿通した状態で、一端側から緊張力が与えられることにより上部材2と下部材3に圧縮力を与え、上部材2と下部材3とで主桁5の下フランジ51を高さ方向に挟み込み、上部材2と下部材3を主桁5の下フランジ51に圧着させた状態で上部材2と下部材3に定着される。図面では1個の上部材2に付き、幅方向両側位置の2箇所に緊張材4、4を配置しているが、1個の上部材2当たり、幅方向に3本以上、緊張材4を配置することもある。上部材2(主桁5)の軸方向には、緊張材4は上部材2の軸方向の長さに応じて図4に示すように1本、もしくは図1に示すように複数本、配置される。
図示するように下部材3に鋼板(プレート)を使用した場合には、下部材3が緊張材4の端部を定着させるための定着プレートを兼ねることができるため、図1等ではコンクリート造で構築、もしくは製作された上部材2の上面にのみ定着プレート20を配置している。上部材2を鋼材で製作した例を示す図6、図7においても上部材2上に定着プレート20を配置しているが、この場合の定着プレート20は省略されることもある。
図1は上部材2が現場打ちコンクリート造で構築され、上部材2内に外ケーブル6挿通用のシース7が水平に対して傾斜した状態で埋設された場合の例を示しているが、定着部材9を兼ねる上部材2内にシース7を埋設することは、シース7を軸方向に分割させておくことで、上部材2をプレキャストコンクリートで製作する場合にも可能である。その場合、シース7は軸方向に分割された単位で、プレキャストコンクリートの上部材2内に埋設される。
上部材2が現場打ちコンクリート造で構築される場合、主桁5の下フランジ51の下面下と、隣接する主桁5、5のウェブ52、52間、及び主桁5、5の側面間にコンクリート打設用の型枠(堰板)が組み立てられる。型枠の内部に補強用の鉄筋と外ケーブル6挿通用のシース7、及び上部材2を隣接する主桁5、5の下フランジ51、51に圧着接合する緊張材4が挿通するためのシース41が配置され、コンクリート中に埋設される。シース41は原則的に鉛直方向を向いて配置されるが、外ケーブル6の傾斜、配置状態等に応じ、外ケーブル6との干渉を回避するために鉛直方向に対して傾斜することもある。
図1では(b)に示すようにシース7が上部材2(定着部材9)の内部で水平に対して傾斜して配置されることに対応し、上部材2がシース7の全長を被覆するよう、上部材2の、外ケーブル6の定着側の端部のレベルから、上部材2内でシース7が最も下に位置するレベルまでの範囲に亘る高さを与えている。結果的に上部材2は主桁5のウェブ52の上フランジ53寄りのレベルから下フランジ51の下面までに跨る高さを持っている。図1では各上部材2内に1本の外ケーブル6を配置しているが、上部材2内に複数本の外ケーブル6を配置することもある。外ケーブル6が上部材2内に複数本、配置される場合、外ケーブル6は上部材2内の緊張材4、4の配置位置に影響しない範囲で、高さ方向に、または幅方向に配列する。
図1では外ケーブル6が水平に対して傾斜して配置される関係で、(b)に示すように外ケーブル6の端部が定着される上部材2の定着面2aが外ケーブル6の軸線に対して直交する面をなすように形成され、その定着面2aに外ケーブル6を定着するための定着プレート8が配置される。
図1の例では上記型枠内へのコンクリートの打設後、強度発現を待って型枠が撤去され、主桁5の下フランジ51の下面下に下部材3が配置され、上部材2と下部材3との間に緊張材4が架設される。緊張材4は上部材2内に埋設されているシース41内に挿通させられる。コンクリートの硬化後に緊張材4を架設する場合、上部材2には緊張材4の緊張により圧縮力としてのプレストレスが与えられるが、緊張材4はコンクリートの打設前に緊張させられ、コンクリートの硬化後に緊張が解放され、プレテンション式に上部材2にプレストレスが導入されることもある。
コンクリートの硬化後に緊張材4を架設する場合は、更に緊張材4の一方の端部を上部材2と下部材3のいずれか一方に定着した状態で、他方の端部側で緊張材4を緊張した後、他方の端部を上部材2と下部材3のいずれか他方に定着することが行われる。図示する例のように緊張材4の上端部と主桁5の上フランジ53との間に、緊張材4の緊張に十分な空間が確保されないような場合には、緊張材4の下端側で緊張作業が行われるが、緊張材4上端部の上部材2への定着は、図1−(b)に示すように上部材2の軸方向両側の空間を利用して行われる。
緊張材4の緊張後、緊張側の端部が下部材3、もしくは上部材2に定着される。緊張作業が行われない側の端部は予め上部材2、もしくは下部材3に定着される。外ケーブル6は緊張材4の緊張後にシース7内に挿通させられるか、型枠の組み立て時に予め挿通させられる。下部材3が鋼板(プレート)の場合、前記のように下部材3は緊張材4を定着するための定着プレートを兼ねることができるが、上部材2のようにコンクリート製の場合には、コンクリートの表面を保護するために上部材2の上面に上記の定着プレート20が設置され、定着プレート20に緊張材4が定着される。図面では緊張材4をナット定着しているが、定着方法は問われない。
上部材2が現場打ちコンクリート造で構築される場合、下部材3との間に架設される緊張材4への緊張力の導入により上部材2にプレストレスが与えられると同時に、上部材2が主桁5の下フランジ51に圧着接合される。このとき、上部材2と下フランジ51の上面との間、及び下部材3と下フランジの下面との間に圧縮力(支圧力)が作用し、この圧縮力が外ケーブル6に与えられる緊張力に対する抵抗力になる。また上部材2が現場打ちコンクリート造の場合には、上部材2と主桁5との間の接触面にコンクリートの打設時に付着力が生ずるため、この付着力も外ケーブル6の緊張力に対する抵抗力に加算される。
図2、図3は上部材2が現場打ちコンクリート造で構築される場合に、外ケーブル6が定着される定着部材9が下部材3に固定される場合の定着装置1の構成例を示している。図2は下部材3が主桁5単位で配置される場合、図3は下部材3が隣接する主桁5、5間に跨って配置される場合の例である。定着部材9の材料は問われないが、主に鋼製とコンクリート製が使用される。
下部材3が主桁5単位で配置される図2の場合、下部材3の幅方向両側には主桁5の両側に配置される緊張材4、4が定着される。下部材3が隣接する主桁5、5間に跨って配置される図3の場合は、下部材3が上部材2と対になって主桁5の下フランジ51を挟み込むため、上部材2における緊張材4、4の挿通位置に対応した位置に緊張材4、4が定着される。
図2と図3との対比から分かるように、隣接する主桁5、5の下フランジ51、51の側面間距離に応じ、下部材3が主桁5単位で配置される図2に示す場合と、隣接する主桁5、5間に跨る図3に示す場合とでは、下部材3に与えられる、主桁5幅方向の幅が異なることがある。下部材3が主桁5単位で配置される場合、下部材3には図2に示すように下フランジ51の幅に、下フランジ51の幅方向両側に配置される緊張材4、4の定着のために要する幅を加えた程度の幅が与えられる。下部材3が隣接する主桁5、5間に跨る場合は、前記のように下部材3が上部材2と対になって下フランジ51を挟み込み、下フランジ51に圧縮力を作用させるため、下部材3には上部材2と同等程度の幅が与えられる。
図2、図3に示す例では下部材3の幅の相違に応じ、下部材3が主桁5単位で配置される場合に1個(1枚)の下部材3に2本の外ケーブル6を定着させ(図2)、隣接する主桁5、5間に跨る場合に1個(1枚)の下部材3に1本の外ケーブル6を定着させている(図3)。このことから、1本の主桁5に付き、外ケーブル6を1本、配置するか、複数本、配置するか等の条件に従い、あるいは複数本の外ケーブル6を配置する場合にどのように分散させて配置するか等の条件に応じ、下部材3を図2に示すように主桁5単位で配置するか、図3に示すように主桁5、5間に跨って配置するか、が選択される。
このように主桁5の断面形状、あるいは下フランジ51の幅の大きさに応じ、隣接する主桁5、5間の間隔、あるいは各主桁5の底面の幅が相違するため、それぞれの場合に応じて下部材3の幅が相違する。それに伴い、下部材3の幅に応じて1個(1枚)の下部材3に図2に示すように主桁5の幅方向に複数個の定着部材9を固定できる場合と、図3に示すように1個の定着部材9しか定着できない場合があるため、下部材3の主桁5への固定位置は主桁5の断面形状等と、1本の主桁5に必要とする外ケーブル6の本数等に応じて決められる。
定着部材9が鋼製の場合、定着部材9は基本的に図2、図3に示すように下部材2の底面、もしくは上面に接触(密着)した状態で重なり、ボルト10等により接合されるベースプレート91と、外ケーブル6の軸方向に直交等、交差する方向を向いてベースプレート91に溶接等により接合される定着プレート92と、定着プレート92に直交等、交差する方向を向いてベースプレート91と定着プレート92に接合され、定着プレート92が受ける外ケーブル6の反力を負担するリブプレート93等から構成される。定着プレート92にはリブプレート93の他に、定着部材9全体の剛性を確保するための補強プレートが付加されることもある。定着部材9がコンクリート製の場合、定着部材9は基本的にブロック状に形成される。
図2、図3の例においても上部材2自体は図1の例と同じ要領で構築され、上部材2の構築終了後、下部材3が主桁5の底面に配置され、下部材3と上部材2間を挿通する緊張材4の配置と、緊張材4への緊張力導入により上部材2と下部材3が圧縮力を受けた状態で主桁5に固定される。定着部材9は予め下部材3に一体的に接合されている場合と、下部材3の主桁5への固定後に接合される場合があり、一体的に接合されていることには、前記のように下部材3が定着部材9を兼ねることが含まれる。
図2、図3では上部材2が主桁5のウェブ52から下フランジ51の底面までに跨る高さを持つ場合の例を示しているが、上部材2は図4に示す例のように下フランジ51の上にのみ構築されることもある。その場合、隣接する主桁5、5の下フランジ51、51間には空間が形成されるため、その空間は図5に示す例のように定着部材9を配置するために利用可能になる。図2、図3ではまた、下部材3に定着部材9を固定しているが、図1の例と同じく、上部材2が定着部材9を兼ね、外ケーブル6が上部材2内を挿通し、上部材2の端面に定着されることもある。
定着部材9が鋼製の場合、定着部材9は下部材3には溶接により、もしくは定着部材9のベースプレート91を貫通し、下部材3の厚さの範囲内に留まるボルト10により接合される。ボルト10を下部材3内に留め、主桁5に到達させない理由は主桁5を損傷させないためである。ボルト10を使用する場合、下部材3にはボルト10を受ける雌ねじ孔、もしくは挿入孔が形成される。ボルト10は雌ねじ孔への螺合(螺入)により下部材3に接合される場合と、挿入孔への挿入と接着剤、モルタル等の充填材の充填により接合される場合がある。いずれの場合も、定着部材9を下部材3に固定するためのボルト10を下部材3の厚さの範囲内に留めるために、下部材3にはボルト10の螺合、もしくは定着に十分な厚さが与えられる。
定着部材9がコンクリート製の場合には定着部材9内にボルト挿通(螺合)用のスリーブ(ナット)を埋設しておくことで、ボルトにより接合することも可能である。また下部材3を上部材2に接合する緊張材4を利用して定着部材9を下部材2に固定することも可能である。例えば定着部材9のベースプレート91を下部材3に重ね、両者に緊張材4が挿通するための挿通孔、もしくはねじ孔を形成する一方、緊張材4の下端部に雄ねじを切っておき、緊張材4の端部に螺合するナットの締結によりベースプレート91を下部材3に固定することが可能である。
図4、図5は上部材2がプレキャストコンクリートで製作された場合の、上部材2の隣接する主桁5、5間への設置例を示す。図4は図2と同様に下部材3が主桁5単位で配置される場合、図5は図3と同様に下部材3が隣接する主桁5、5間に跨って配置される場合の例である。
図4、図5では上部材2が隣接する主桁5、5のウェブ52、52の側面に接触しながら、下フランジ51、51の上面に載置される形状に形成されているが、上部材2は隣接する主桁5、5の下フランジ51、51間にも介在し、図2、図3に示す現場打ちコンクリート造の上部材2と同様の形状に形成されることもある。その場合、上部材2は隣接する主桁5、5の下フランジ51、51の両側面にも接触することが可能になるため、各上部材2の幅方向の移動に対する安定性が高まる。
上部材2がプレキャストコンクリート製の場合、上部材2は隣接する主桁5、5の下フランジ51、51間の空間を通じて主桁5の下側からウェブ52、52間に差し込まれるため、1個(1枚)の上部材2の厚さは図4−(b)、図5−(b)に示すように隣接する下フランジ51、51間の距離以下に設定される。
1本の外ケーブル6に導入される緊張力の反力を主桁5との間の摩擦力等で負担する上で、複数枚のプレキャストコンクリート製の上部材2を必要とする場合には、上部材2は図4−(b)、図5−(b)に示すように複数枚、重ね合わせられることで定着装置1を構成する。下部材3は1枚で定着装置1を構成し得るから、下部材3は主桁5の長さ方向には全上部材2の厚さを加えた程度の長さを持つことになるが、各上部材2と対になるように主桁5の長さ方向に複数枚に分割されることもある。
図4は下部材3が主桁5の下フランジ51単位で配置される場合に、主桁5の下フランジ51の底面下に配置された下部材3が、2個以上(複数個)の定着部材9を主桁5の幅方向に並列させることができる程度の幅を持つ場合に、下部材3に主桁5の幅方向に2個以上の定着部材9を並列させて固定した場合の例を示す。
図5は下部材3が隣接する主桁5、5の下フランジ51、51間に跨って設置される場合に、主桁5の軸方向に距離を置いて配置された定着装置1、1の各下部材3の下面と上面のそれぞれに定着部材9、9を固定した場合の例を示す。定着部材9はベースプレート91が下部材3側を向いて固定される。
図5では同一鉛直線上に2本の外ケーブル6、6を段差を付けて配置するために、(b)に示すように2個の定着装置1、1を主桁5の軸方向に距離を置いて配置し、一方の定着装置1における下部材3の上面と、他方の定着装置1における下部材3の下面にそれぞれ1個の定着部材9を固定している。図5に示すように2個の定着装置1、1を主桁5の軸方向に距離を置いて配置し、各定着装置1の下部材3の上面と下面に定着部材9を固定することは、1個の定着装置1における1個(1枚)の下部材3と主桁5との間の摩擦力等では2個の定着部材9、9が負担する外ケーブル6の反力を負担しきれない場合にも行われる。同じことは後述の図7にも言える。
例えば1個の定着装置1における1個(1枚)の下部材3と主桁5との間の摩擦力等で2個の定着部材9、9が負担する外ケーブル6、6の反力を負担できる場合には、同一の下部材3の上面と下面に下部材3を挟むように定着部材9、9を固定することもできる。その場合、1個の定着装置1に2個の定着部材9、9が固定されるため、1個の定着装置1に2本の外ケーブル6、6を高さ方向に並列させて定着させることになる。
図6、図7は図4、図5に示すプレキャストコンクリート製の上部材2がその形状のまま鋼材で製作された場合の、上部材2の設置例を示す。この場合の上部材2は主桁5の下フランジ51の上面に接触する下部プレート21と、下部プレート21に対向し、緊張材4の上端部が定着される上部プレート22と、下部プレート21と上部プレート22の双方に直交等、交差して溶接等により接合され、緊張材4の緊張力の反力を負担するリブプレート23等から構成される。下部プレート21と上部プレート22にはリブプレート23の他に、上部材2全体の剛性を確保するための補強プレートが付加されることもある。
図6は図4と同様、下部材3が主桁5の下フランジ51単位で配置される場合に、主桁5の下フランジ51の底面下に配置された下部材3に主桁5の幅方向に2個以上の定着部材9を並列させて固定した場合の例を示す。
図7は図5と同様、下部材3が隣接する主桁5、5の下フランジ51、51間に跨って設置される場合に、主桁5の軸方向に距離を置いて配置された定着装置1、1の各下部材3の下面と上面に定着部材9、9を固定した場合の例を示す。