以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明に係るマイクロ波Electron Cyclotron Resonance(以下、ECRと称する)プラズマエッチング装置の概略を示す縦断面図である。
プラズマソース用電源、例えばマイクロ波源101から発振されたマイクロ波は、方形導波管102を用いて伝送され、方形円形導波管変換機103により、円形導波管104に接続される。また、自動整合器105によりマイクロ波の反射波を自動的に抑制することができる。マイクロ波源として、本実施例では、2.45GHzの発振周波数のマグネトロンを用いた。円形導波管104は、空洞共振部106に接続され、空洞共振部106は、マイクロ波電磁界分布をプラズマ処理に適した分布に調整する。空洞共振部106の下部には、マイクロ波導入窓107およびシャワープレート108を介してプラズマ処理室109がある。プラズマ処理室109に導入されたマイクロ波と、ソレノイドコイル110によって生成された磁界とのECRによって、プラズマ処理室109内に反応性ガスのプラズマが形成される。
ECRとは、前記ソレノイドコイル110が生成する磁界の磁力線に沿って電子が回転しながら移動するところに、その回転の周期に対応した周波数のマイクロ波がプラズマに入射することで電子を選択的に加熱することを言い、プラズマの効果的な加熱法である。また、静磁界を用いる他の利点として、静磁界の分布を変化させることでECRが発生する位置を制御することができ、プラズマ発生領域を制御することができる。
電子は、磁力線に対して垂直な方向への拡散が抑制されるため、さらにプラズマは、プラズマの拡散を制御し、プラズマの損失を低減することができる。これらの効果により、プラズマの分布を制御することができ、従ってプラズマ処理の均一性を高めることができる。ソレノイドコイル110に流す電流量を変えることで、静磁界の分布を制御することができる。
反応性ガスは、ガス源111から試料台である下部電極112に対向する面に設置されたシャワープレート108より供給され、マスフローコントローラ113によってその流量を制御される。ガスバルブ114は、反応性ガスの供給を開始または終了するために設けられている。プラズマ処理室109内に供給されたガスは、ターボ分子ポンプ115(以下、TMPと称する。)により排気され、TMPの上流部に設けられた可動弁116によってその排気速度を制御されてプラズマ処理室109内の圧力が制御される。
試料、例えば、シリコンウェハ(以下、ウェハと称する)は、静電吸着により下部電極112に吸着保持される。さらに、RF電源117よりプラズマソース用電源の周波数より低い、例えば、400kHzの高周波バイアスを整合器118を介して下部電極112に印加することにより処理性能の制御、処理速度の向上が可能である。プラズマ処理室109、下部電極112、TMPは、それぞれ略円筒形であり、その円筒の軸を同一とする。また、下部電極112は、プラズマ処理室109に梁によって支持されている。
以上の構成は、全て制御装置121に接続され、適切なシーケンスで動作するようそのタイミング、動作量がコントロールされる。動作シーケンスは、あらかじめ設定されたレシピに基づいた動作がなされる。尚、レシピとは、上記の適切なシーケンスを規定したプラズマ処理条件のことである。プラズマエッチングは、複数の積層膜の形状を制御しながらエッチングを行うため、レシピは、エッチング対象となる膜の化学組成やエッチング深さに応じて最適化された複数のステップによって構成されている。
エッチングの終点判定を行うため、図1に示すプラズマエッチング装置には光ファイバ119を介して取り付けられた分光器120が設けられており、分光器120は、制御装置121に接続され、制御装置121は、プラズマからの発光を波長・時間に関して分解して測定・記録する。
上記のように構成されたプラズマエッチング装置において、本発明によれば、高周波バイアス電圧と高周波バイアス電流の波形から得られる振幅等の値を用いて、プラズマ密度、イオンエネルギーを制御することにより、プラズマ処理性能を高精度に再現できる。
一般に、プラズマエッチング装置においては、処理室に導入した反応性ガスにソース電力を印加してプラズマを生成し、生成されたプラズマに高周波バイアスを印加して、プラズマ中のイオンをバイアスによってウェハに引き込み、そのイオンの反応性、反応速度、反応の異方性を最適化し、エッチング形状を制御する。
本発明の実際の運用方法としては、前記のソース電力によってイオンの供給量を決めるプラズマ密度を制御するとともにイオンエネルギーを決めるバイアス電圧を制御することによりエッチング特性が制御される。プラズマ処理性能の高精度に再現させるには、上述した処理室の物理的変化に依らず、最適なプラズマ処理結果が得られるプラズマ密度を再現し、その再現された密度をもつプラズマに対して印加するバイアスの実効的な電圧を再現することが必要である。
高周波バイアス電流は、RF電源117からRF整合器118を経て、シースおよびプラズマの回路を流れる。図2は、この系の代表的な等価回路であり、201はRF電源117、202はRF整合器118である、203と204は、それぞれシースの抵抗成分およびシースの容量成分であり、205は、プラズマの抵抗成分である。この系のインピーダンスZは、
となる。ここで、Rpはプラズマ抵抗、Rsはシース抵抗、Cはシースの静電容量、ωは高周波バイアスの角周波数である。
以上の抵抗や静電容量は、ソース電力で制御されるプラズマ密度や高周波バイアス電力により制御されるシースの厚さなどで決まるので、ある最適な処理結果を再現するソース電力およびバイアス電力を決めることは、すなわちこのプラズマインピーダンスを再現するように制御を行うことと同じである。
ここで、高周波バイアス印加による、電圧Vおよび電流Iを考えると、V=I×Zの関係が成り立ち、ある電力のバイアスを印加すると、プラズマ密度できまるインピーダンスによって、バイアス電圧波形およびバイアス電流波形が決定される。よって、プラズマ密度とバイアス電圧が再現されるとき、バイアス電流波形とバイアス電圧波形も再現される。また、プラズマ密度が再現される高周波電力が印加されたとき、分子の解離度やラジカルの密度なども再現しているとみなせる。よって、エッチング処理毎にバイアスの電圧波形および電流波形をモニタし、これらの波形が最適な処理性能が得られた時の波形と同一になるように制御を行うことにより、処理性能は再現される。
以上に述べた処理性能の再現性については、反応性ガスの組み合わせ、ガス流量、圧力等が別途高精度に再現されている前提に基づいており、このときプラズマ密度とイオンエネルギーは、それぞれ独立に、プラズマ生成用電力とバイアス電力によって制御される。
バイアス電圧および電流波形を直接扱うには、高速な測定器を必要とし、その計測器を実装することが容易でない場合がある。よって、バイアス電圧およびバイアス電流を代表する、例えば振幅のような指標を用いるのが良いが、プラズマインピーダンスを測定するには、高調波を考慮しないとした場合であっても、少なくとも、電圧振幅と電流振幅に加え、電圧波形に対する電流波形の位相が必要である。
バイアス電圧とバイアス電流のそれぞれの波形の位相差φは、
で表され、電圧振幅および電流振幅のほかにこの位相差φを用いて、この系のそれぞれが最適な条件を再現するように制御すれば、どのような条件においても、ソース電力とバイアス電力の値の組み合わせは必ず一つに特定され、前記のバイアス電圧波形および電流波形はプラズマ処理性能を再現するときの波形と同一になる。
ただし、プラズマ処理性能の再現性を求める目的においては、プラズマ処理室の物理的な特性変化によって生じるプラズマ特性の変化を補正するように、その差分を制御すればよい。プラズマ処理室の物理的な特性変化から生じるプラズマインピーダンスの差は相対的に小さく、ソース電力やバイアス電力の微小変化の範囲では、位相はほぼ自動的に再現されるので、ほとんどの場合、電圧振幅および電流振幅のみを用いてソース電力およびバイアス電力による制御が可能である。
プラズマ処理性能をエッチング処理毎に再現させる手段として、バイアス電圧およびバイアス電流波形のいずれか一方の振幅をソース電力およびバイアス電力のいずれか一方の制御変数として用いる方法がある。制御方法の一例としては、バイアス電圧振幅値を制御変数に用いてバイアス電力のみを制御し、最適なプラズマ処理性能が得られた時のバイアス電圧振幅を再現するように制御することで実現できる。この手法は、プラズマ処理室の物理的な特性変化が生じない場合には、ウェハ毎に関するプラズマ密度の再現性がよく、前記のバイアス電力の制御によってイオンエネルギーを再現させることができる。
しかし、プラズマ処理室内の形状等の物理的な特性変化がある場合、プラズマ密度が変化し、ウェハに引き込まれるイオンの数等は必ずしも再現されない。同様に、プラズマ処理室の物理的な特性変化が生じない場合に、プラズマ密度を表す指標であるバイアス電流の振幅値のみを用いてソース電力を制御し、プラズマ密度が再現すれば、投入するバイアス電力を一定とすることで、自動的にバイアス電圧とバイアス電流がそれぞれ再現可能である。しかし、プラズマ処理室の物理的な特性変化が生じる場合には、バイアス電圧およびバイアス電流が再現されないことになり再現性の精度が必ずしも十分でないことがある。
従って、プラズマ処理性能をエッチング処理毎に再現させる手段として、例えば、バイアス電圧の振幅を制御変数に用いてバイアス電力を制御するとともにバイアス電流の振幅を制御変数に用いてプラズマ生成用高周波電力を制御することにより、プラズマ生成用電力とバイアス電力の組み合わせはただ一つに決まり、プラズマ処理室の物理的な状態の変動によらず、プラズマ処理性能を精度良く再現することが可能になる。
また、バイアス電圧の振幅を制御変数に用いてバイアス電力を制御するとともにバイアス電流の振幅と位相差を制御変数に用いてプラズマ生成用電力を制御することにより、プラズマ生成用電力とバイアス電力の組み合わせはただ一つに決まり、プラズマ処理室の物理的な状態の変動によらず、プラズマ処理性能を精度良く再現することが可能になる。
上記の2つの制御を行うために、本発明におけるプラズマエッチング装置は、バイアス電圧とバイアス電流を検出するセンサ122と、センサ122により検出されたバイアス電圧の振幅とバイアス電流の振幅と位相差からイオンエネルギーやプラズマ密度と相関の高い信号を検出する測定ユニット123と、測定ユニット123からの信号をもとにプラズマソース電力とバイアス電力の制御する制御装置121とを備える。尚、上記位相差は、バイアス電圧とバイアス電流の位相差のことである。
RF整合器118と下部電極112の間には、下部電極112に印加されるバイアス電力に影響を与えず、バイアス電圧とバイアス電流の波形を検出するセンサ122が備えられ、センサ122から出力された波形は、プラズマ密度やイオンエネルギーに特徴的な信号を検出する測定ユニット123において、必要に応じて演算され、測定ユニット123からの出力値が制御装置121に入力される。
センサ122と測定ユニット123の間にはバンドパスフィルタ124が必要に応じて備えられる。制御装置121は、センサ122からの出力波形あるいは測定ユニット123で演算された信号をもとに、所望のプラズマ処理結果に対応したプラズマ密度とイオンエネルギーとなるようにマイクロ波電力と高周波バイアス電力を制御する。
例えば、制御装置121は、予め、所望のプラズマ処理結果に対応したプラズマ密度の時のバイアス電流と所望のプラズマ処理結果に対応したイオンエネルギーの時のバイアス電圧を求め、それぞれをバイアス電流の基準値、バイアス電圧の基準値とし、測定ユニット123からの出力値と上記バイアス電流の基準値との差および、測定ユニット123からの出力値と上記バイアス電圧の基準値との差がそれぞれ許容値以下となるようにマイクロ波電力と高周波バイアス電力を制御する。ここで、許容値とは、マイクロ波電力と高周波バイアス電力を制御することにより、所望のプラズマ処理結果を再現できたとみなせる値のことである。
また、制御装置121は、上記のバイアス電流の基準値と測定ユニット123からの出力値との相関値から1を減じた値および、上記バイアス電圧の基準値と測定ユニット123からの出力値との相関値から1を減じた値がそれぞれ許容値以下となるようにマイクロ波電力と高周波バイアス電力を制御しても良い。さらに、制御装置121は、測定ユニット123からの出力値を上記のバイアス電流の基準値で除した値と1との差および、測定ユニット123からの出力値を上記バイアス電圧の基準値で除した値と1との差がそれぞれ許容値以下となるようにマイクロ波電力と高周波バイアス電力を制御しても良い。
マイクロ波発生装置101およびRF電源117は、制御装置121からの制御信号をもとに動作する。また、エッチング処理中は、必要に応じてマイクロ波発生装置101およびRF電源117の出力を逐次変化させる。ここで、センサ122とバンドパスフィルタ124と測定ユニット123とを備えたものをVIセンサとする。
上記のVIセンサは、センサ122で検出されたバイアス電圧波形およびバイアス電流波形を測定ユニット123にて演算し、バイアス電圧のピーク・トウ・ピーク値(以下、Vppと称する)とバイアス電流のピーク・トウ・ピーク値(以下Ipp)とを制御装置121に出力する。さらにVIセンサは、バイアス電圧波形とバイアス電流波形間の位相差も制御装置121に必要に応じて制御装置121に出力する。尚、Vppは、図3(A)の最大振幅幅である301のことであり、Ippは、図3(B)の最大振幅幅である302のことである。また、図3(A)は代表的なバイアス電圧波形を示し、図3(B)は代表的なバイアス電流波形を示す。さらに、図3(A)と図3(B)は同時計測された結果である。
また、上記のVIセンサは、出力値をVppとIppとしたが、時間情報を含むバイアス電圧波形および時間情報を含むバイアス電流波形としてもよい。時間情報を含むバイアス電圧波形および時間情報を含むバイアス電流波形を用いることにより、マイクロ波電力とバイアス電力によって生じる、プラズマシース中の物理現象を十分に再現できる。このため、プラズマ処理性能を十分に再現できる。この場合、VIセンサは、さらに、時間情報を含むバイアス電圧波形と時間情報を含むバイアス電流波形を一時保存するための記憶装置を備える。
また、測定ユニット123は、バイアス電圧波形およびバイアス電流波形を演算してVppとIppを求めたが、バイアス電圧波形およびバイアス電流波形からそれぞれ、バイアス電圧の極小値・極大値とバイアス電流の極小値・極大値を求めても良い。バイアス電圧の極小値や極大値は共に任意のVppに対して一義的に決まるため、バイアス電圧の指標として十分である。また、バイアス電流の極小値は、イオン飽和電流と相関があり、バイアス電流の極大値は、電子飽和電流と相関がある。このため、Ippを用いるよりも、より正確な物理現象の指標として用いることができる場合がある。
上記VIセンサは、さらにバンドパスフィルタ124を備え、高周波バイアスの400kHzの基本波だけを抽出するものであり、この抽出された波形を前記測定ユニット123にて演算し、そのVppおよびIpp、バイアス電圧の極小値・極大値およびバイアス電流の極小値・極大値、時間情報を含んだバイアス電圧波形および時間情報を含んだバイアス電流波形、または、バイアス電圧波形とバイアス電流波形との位相差を出力するものであってもよい。この場合、センサ122およびバンドバスフィルタ124でのバイアス電圧とバイアス電流との位相差は、あらかじめ基準信号等を用いて校正されている必要がある。
また、バンドパスフィルタ124は、高周波バイアスの400kHz基本波を含み、任意の高調波成分までの周波数成分を取得するものでもよい。高調波成分として検出する周波数の上限は、制御しようとするプラズマおよびエッチングプロセス、制御に求められる精度に応じて選択される。次に高調波成分を用いた場合の効果について図4を用いて説明する。尚、図4は、図3で示したバイアス電圧を横軸に、バイアス電流を縦軸に表した、リサージュ図形を示す。また、図3(A)の301(Vpp)と図3(B)の302(Ipp)は、このリサージュ図形において、それぞれ、図4(A)の横軸の最大振幅401と縦軸の最大振幅402に対応している。
また、図4(A)は、バンドパスフィルタ124を適用しない場合のバイアス電圧波形およびバイアス電流波形から描画されるリサージュ図形を示し、図4(B)は、バンドパスフィルタ124を適用した場合のバイアス電圧波形およびバイアス電流波形から描画されるリサージュ図形を示す。
図4(B)の404は、基本波から基本波に対して2倍の高調波まで(本実施例では400〜800kHz)を透過させるバンドパスフィルタをバイアス電圧波形およびバイアス電流波形の両方に適用した例である。図4(B)の405は、基本波から基本波に対して5倍の高調波まで(本実施例では400〜2000kHz)を透過させるバンドパスフィルタをバイアス電圧波形およびバイアス電流波形の両方に適用した例である。図4(B)の406は、基本波から基本波に対して10倍の高調波まで(本実施例では400〜4000kHz)を透過させるバンドパスフィルタをバイアス電圧波形およびバイアス電流波形の両方に適用した例である。
図4(A)の403は生波形であり、この生波形403とこれら404、405、406との比較からわかるように、より高い周波数成分までを用いることで、バイアス電流の極大値が生波形に近づき、第二象限に現れる特徴的な歪みが正確に検知され、基本波の周波数に対して10次の高調波である4000kHzまでの周波数成分を用いることにより、ほぼ実際の波形を正確に再現できることがわかる。
次に図5(A)に電圧の振幅を周波数分解した代表的な例を示し、図5(B)に電流の振幅を周波数分解した代表的な例を示す。図5(A)および図5(B)では、縦軸の値は規格化され、実際の電圧値、電流値を表している。図5(A)および図5(B)から、Vpp、Ippの高調波による影響を見ると、電圧波形および電流波形においていずれも、振幅は周波数が高くなるにつれて減少し、2次高調波である800kHzにおいて、その振幅が基本波である400kHzの十分の一程度に減少し、5次高調波では数十分の一程度に減少する。
さらに10次高調波である4000kHzにおいては、その振幅が基本波である400kHzの百分の一以下まで減少する。このため、10次高調波程度までは、生波形を正確に検知するのに必要な振幅があるが、10倍より大きい高調波成分が振幅に与える影響はきわめてわずかである。
次に図6(A)にVppに対する周波数フィルタを用いた高調波成分除去の影響を示し、図6(B)にIppに対する周波数フィルタを用いた高調波成分除去の影響を示す。図6(A)の601は、ローパスフィルタ適用時のVppのカットオフ周波数依存性であり、図6(A)の602は生波形のVppである。また、図6(B)の603は、ローパスフィルタ適用時のIpp、図6(B)の604は生波形のIppである。
601と602の比較からローパスフィルタを適用した場合のVppが生波形の値に漸近するのは、5次以上の高調波(2000kHz)を透過するフィルタを適用した場合であることがわかる。またIppに関しては10次の高調波(4000kHz)までを透過するフィルタを適用した場合に生波形に漸近する。このようなことから、バイアス電圧を5次までの高調波成分まで検知することにより、イオンエネルギーの情報を正確に取得できる。また、バイアス電流を10次高調波まで検知することによりプラズマ密度の情報を正確に取得することができる。
上記のバンドパスフィルタ124は、基本波から任意の高調波成分までのバイアス電圧波形と基本波から任意の高調波成分までのバイアス電流波形を検知するフィルタであったが、基本波を除いた特定の範囲の周波数成分を抽出するフィルタでも良い。Vpp, Ippの基本波成分はプラズマ負荷に吸収される情報以外に、高周波の伝送線路の浮遊容量を介して伝播するなどの情報を多く含むため、高調波成分のみを抽出することにより、プラズマ負荷の変動をより感度良く検出することができる。尚、抽出される周波数の下限および上限は、制御しようとするプラズマおよびエッチングプロセス、制御に求められる精度に応じて選択される。
また、上記のVIセンサとして選択されるものは、以上のいずれか、もしくはこれら複数の組み合わせであってもよい。複数を組み合わせる場合は、一つのセンサ122から出力された信号を分岐し、複数のバンドパスフィルタ124と測定ユニット123の組み合わせで処理されるものとする。
また、上記の測定ユニット123は、制御装置121の一部であってもよく、すなわち、制御装置121が備える演算装置(図示せず)を用いて必要な演算を行うか、あるいは、制御装置121が適切な信号の入出力機能を持ち、前記制御装置121に搭載されたソフトウエアによってVppやIppなどを検出するのに必要な演算を行なうのでもよい。さらに測定ユニット123が制御装置121の一部である場合、バンドパスフィルタ124も同様に制御装置121の一部であっても良い。すなわち、制御装置121に搭載された演算装置(図示せず)を用いて周波数成分を抽出する演算を行うか、あるいは、制御装置121に入力された波形を、前記制御装置121に搭載されたソフトウエアによって周波数成分を抽出する演算を行なうのでもよい。
以下では、特に断わりがある場合を除いて、VIセンサは、VppおよびIppを出力するものとし、それを制御装置121において制御変数として用い、プラズマを制御する方法について説明する。
本発明により、エッチング処理中のプラズマをVppおよびIppを用いて全プラズマ処理時間にわたって逐次制御し、最適なプラズマ処理性能が得られるプラズマ密度とイオンエネルギーを常に再現することができ、プラズマ処理性能の変動を抑制することが可能となる。このエッチングステップ中のプラズマの動的な制御方法について図7を用いながら説明する。
図7は、マイクロ波出力及び高周波バイアス出力をそれぞれIppとVppを用いて逐次制御する場合のシーケンス図である。また、図7で示した制御方法を用いた場合のエッチングレシピのマイクロ波電力および高周波バイアス電力の項目には、その電力設定値の代わりにIppおよびVppが設定値として入力されている。
プラズマ処理が開始されると、レシピが制御装置121に読み込まれる。本発明においては、VppおよびIppを制御変数として用いる制御の場合にプラズマ処理性能に悪影響を与えることなく、また再現性よくプラズマを着火させるシーケンス(S703)が必要であり、S703のステップを経てプラズマが生成される。プラズマが生成され、高周波バイアスが印加されると、VIセンサは、バイアス波形の信号を検出し制御装置121に測定値を出力(S704)する。
測定ユニット123において、この信号から例えばその振幅を検出するような演算(S705)をし、その後、異常検出(S706)において異常が検出されなかった場合は、測定された電流・電圧信号をレシピの設定値と比較し、適切なアルゴリズムを用いて、この測定値と設定値の差を低減させるようなマイクロ波の電力値と高周波バイアスの電力値を演算し(S707)、新たな出力値が各電源に設定され(S708)、設定された電力による動作を行う(S709)。
以上を処理時間Tがレシピで設定されたステップ時間Tsに到達するまで繰り返される(S710)。また、前記異常検出(S706)において、許容値を超えて信号化検出されたときは、期待されるプラズマ処理性能の再現性が得られないことを意味するので、プラズマ処理が中断され、異常があったことが制御装置121を通じて報告される(S711)。以上のようないわゆるフィードバック制御を逐次行うことで、プラズマ密度やイオンエネルギーの再現性が、ウェハ間、ウェハ内各ステップの全時間において得られ、処理性能の高精度な再現性が実現できる。
上述したように、バイアス電圧の波形とバイアス電流の波形は、それぞれイオンエネルギーとプラズマ密度に相関があるので、Vppによって高周波バイアス電力を制御し、Ippによってマイクロ波電力を制御するのがよいが、対象とするプロセスに応じて、制御変数と操作変数の組み合わせは任意に選択が可能である。
また、VIセンサから出力される制御変数としてVppとIppの代わりにバイアス電流の極小値・極大値とバイアス電圧の極小値・極大値を用いた場合、マイクロ波電力を制御するのに、バイアス電流波形の極小値を用いるのが良い。これは、バイアス電流波形の極小値はイオン飽和電流を表し、ウェハに引き込まれるイオンの数と直接的な関係があり、制御変数として用いると、高精度な制御が可能となるからである。
また、マイクロ波電力を制御する制御変数として、VppとIppに加えてバイアス電圧波形とバイアス電流波形との位相差を用いてもよい。この場合、位相差の情報を用いることにより、プラズマとシースからなる回路の自由度を制限するのに十分となり、最適なプラズマ処理性能を再現するためのマイクロ波電力とバイアス電力とを一義的に決定することができる。Ippと位相差の線形結合された値はプラズマ密度を示す指標になる。このため、Ippと位相差を用いてマイクロ波電力を制御すると、どのような条件においても、マイクロ波電力とバイアス電力の組み合わせを一義的に決めることができる。
さらにバイアス電圧波形とバイアス電流波形との位相差として、生波形の位相差を用いるのでもよいが、実際の波形はさまざまな周波数成分の合成であるから、位相差を検出するアルゴリズムによっては、波形の変化によって位相差の変化が埋もれてしまうおそれがある。このような場合、バンドパスフィルタ124を有するVIセンサを用いるのが良い。特に、400kHzの基本波だけを抽出すると、信号として正弦波だけを扱えばよく、精度よく位相差を検出することができる。
以上のようなVIセンサにおいて、VIセンサが上述したバンドパスフィルタ124を備え、特定の周波数または特定の周波数帯の信号からVppやIpp、または上記の位相差等を用いて制御を行ってもよい。RF電源117は正弦波を出力するが、プラズマシースの特性によって図4に示した電圧波形および電流波形の例のように、波形が歪められる。この歪められた部分が高周波成分である。
波形の歪みは、バイアス電圧を大きくとった時に現れる、シースの非線形的特性を表しており、特にこの非線形特性を示す高調波成分からプラズマ情報が感度良く取得できる。このことから、適当な高調波成分を選択し、例えば生波形から抽出されたIppの代わりに高周波成分のIpp、高周波成分の極大値または高周波成分の極小値を測定し、これらがある一定値となるように制御すると良い。
具体的な例としては、図4(A)の403、図4(B)の405および406の比較からわかるように、400〜2000kHzの周波数帯を抽出したときには見られないリサージュ図形の第二象限に現れる歪みが、400〜4000kHzの周波数帯を抽出したときには検出されている。よって図4(B)の第二象限に現れる歪みのような特徴的な波形の歪みを含む高周波成分のみを抽出するには、本実施例では、2000〜4000kHz、すなわち、5次から10次の高調波成をバンドパスフィルタによって抽出し、そこに含まれるVppやIpp等の信号を用いると、プラズマ密度の情報をより高感度に検出可能となり、プラズマ密度の再現性を向上させることができる。
また、VIセンサにて、バイアス電圧波形およびバイアス電流波形の生波形を測定する。制御装置121は、レシピデータとして予め取得された最適なプラズマ処理結果が得られる時のバイアス電圧波形とバイアス電流波形のそれぞれの基準となる波形を保持しておき、測定ユニット123は、プラズマ処理中に測定されたバイアス電圧波形及びバイアス電流波形と制御装置121に保持されている、予め取得されたバイアス電圧波形及びバイアス電流波形のそれぞれの上記の基準となる波形との相関を演算する。制御装置121は、測定ユニット123にて演算された相関係数が1に限りなく近づくように、バイアス電圧波形の相関係数を用いて高周波バイアス電力を制御し、バイアス電流波形の相関係数を用いてマイクロ波電力を制御してもよい。
上記のように、ソフトウエア上でバンドパスフィルタの演算やVpp、Ippの検出の演算を行う場合、各プラズマ処理条件によって、もっとも最適な信号処理方法をそれぞれ選択することが可能となる。例えば、任意のエッチングレシピのステップ毎に抽出する周波数帯と信号検出方法をそれぞれ選択することが容易となり、結果、すべてのステップにおいて、高精度な再現性を実現することが可能になる。また、本実施例でのフィードバック制御は、比例制御、PI(Proportional Integral)制御またはPID(Proportional Integral Derivative)制御等、安定性・信頼性が高いものを選べば良い。
前記異常検出S706は、プラズマが許容範囲内で安定に制御されているかを監視するために必要である。プラズマが定常状態にあるかは、例えば、VppとIppの測定値と設定値の差を用いて監視することができ、例えばVppまたはIppが許容値を超えた状態が一定時間以上続いたとき異常と判断され、処理を中断し、異常が報告される。
上記の例のようにVIセンサとして、バイアス電圧波形・バイアス電流波形を出力するものを選択した場合の異常検出は、測定されたバイアス電圧波形・バイアス電流波形と、予め取得され、制御装置121にレシピデータとして保存された最適なプラズマ処理性能が得られるバイアス電圧・バイアス電流の基準波形との相関係数を計算し、この相関係数の許容値を設定することによっても実現できる。これにより、Vpp、Ippとして現れないバイアス電圧波形、バイアス電流波形に含まれる高調波成分の微小な差異による異常も検出可能になる。
上述したように、VIセンサとして、複数の形式のものを組み合わせてもよい。例えば、センサ122として、VppとIppを検出するものと、バイアス電圧波形およびバイアス電流波形を検出するものとの二つを備え、このうち、VppとIppを用いてマイクロ波電力およびバイアス電力の制御を行いながら、バイアス電圧波形およびバイアス電流波形を異常検出に用いても良い。
その他の例では、以上述べてきたバイアス電圧波形およびバイアス電流波形の特徴を用いると、バイアス電圧波形としては、生波形を用いることによりイオンエネルギーのエネルギー分布含めた情報を得ることができる利点があり、バイアス電流波形としては高調波成分を用いることによりプラズマ密度を感度よく検出できる。また、バイアス電圧波形とバイアス電流波形との位相差を検出するには、400kHzの基本波が扱いやすい。このように、検出する信号とそこからモニタしたい物理量との関係からこれらの組み合わせを選ぶことにより、プラズマ処理性能の再現性を最大限に向上させることが可能となる。
次に、着火シーケンスS703について説明する。VppおよびIppを用いたマイクロ波電力および高周波バイアス電力の制御を行う場合、高周波バイアスが印加されるまではVppおよびIpp値を得ることができない。また、それらの制御アルゴリズムは、プラズマの高周波負荷を制御するように最適化されているため、マイクロ波電力が投入されてからプラズマが生成され、さらに高周波バイアスが印加されるまでの段階では、適切な電力制御ができず、必要以上の大電力の高周波バイアスが印加され、装置やウェハの損傷を招いたり、不要な各投入電力のハンチングやオーバーシュートを招いたりするおそれがあり、着火に最適化された制御方法が必要である。
図8に着火シーケンスの例を示す。これはプラズマ着火を電力制御によって行うものである。この例の場合、レシピには目標のVppおよびIppに加えて、マイクロ波電力、高周波バイアス電力のプリセット値が入力されている。このプリセット値は、あらかじめ取得された、最適なプラズマ処理結果が得られる場合のVppおよびIppを実現させたときの、高周波バイアス電力およびマイクロ波電力である。
図8では、着火シーケンス開始後(S801)、前記プリセット出力値を含むレシピデータが制御コンピュータに読み込まれる。このプリセット値に基づきマイクロ波電力とバイアス電力が印加され(S803、S804)、マイクロ波は目標電力値に到達すると、その電力を維持する。一方、高周波バイアス電力は、目標電力値に到達した後、高周波バイアス電力のVpp制御に移行する(S805)。
そして、目標Vpp値が得られたことを検出すると(S806)、マイクロ波のIpp制御に移行し(S807)、着火シーケンスを終了するものである(S808)。プリセット電力は目標とするVppとIppを基に決められているので、上記手順により高周波バイアスが目標値に到達した時点では、目標VppとIppがほぼ実現できており、また、VppとIppの目標値への経路が常に再現可能となり、プラズマ処理性能のばらつきを抑制することが可能になる。
図9に高周波バイアスのプリセット値を省略した場合の、もう一つの着火シーケンスの例を示す。着火シーケンス開始後(S901)、マイクロ波電力のプリセット値を含むレシピデータが制御コンピュータに読み込まれる(S902)。マイクロ波は、プリセット値を用いて電力が投入され(S903)、目標電力に到達した後、その電力を維持する。一方、高周波バイアス電力は、マイクロ波電力が目標値に到達した後(S904)、Vpp制御による電力投入がなされ(S905)、Vppが目標値に到達したのを検出すると(S906)、マイクロ波電力がIpp制御に移行し(S907)、着火シーケンスが終了する(S908)。
この手法によって、高周波バイアス電力を単一の制御方法により制御可能であり、その結果、制御方法を切り替えるときに生じる恐れのあるハンチングやオーバーシュートなどの発生を抑制する。特にプラズマ処理性能が高周波バイアス電力に対して非常に敏感なプラズマ処理条件において、プラズマ処理性能の再現性を向上させることができる。
上記の例は、高周波バイアス電力投入をマイクロ波電力が目標値に到達した時に開始するとしたが、プラズマ着火を検出した時としても良く、この場合、着火シーケンスに必要な時間を短縮可能である。また、マイクロ波に関するインピーダンス整合等により、必ずしも着火直後のプラズマが安定でない場合があり、高周波バイアス電力の制御を不安定にさせるおそれがある。このような場合、以上の着火シーケンスの例において、プラズマ着火から高周波バイアス電力投入までの待ち時間が設定されていてもよい。
同様に、マイクロ波電力と高周波バイアス電力とをVppとIppによって制御するとき、VppとIppとは相互に影響しあうパラメータであるため、マイクロ波と高周波バイアスの大きな電力変化を伴う着火シーケンスの中でフィードバック制御を同時に行うと、制御が発散または振動し、所望のプラズマ処理性能が得られないおそれがある。このため、高周波バイアスが印加され、目標のVppを得てから、フィードバック制御に移行するまでの待ち時間が設定されていてもよい。このようにマイクロ波電力の制御が安定するのを待ってから高周波バイアス電力のフィードバック制御に移行することにより、制御中の不確定な要素を低減させることができ、プラズマ処理性能の再現性を向上させることができる。
上記で説明した着火シーケンスと異なる着火シーケンスを図10を用いて説明する。また、図10の着火シーケンスにおけるプラズマ着火の前後のマイクロ波および高周波バイアス出力ならびにVpp、Ippの挙動の例を図11に示す。
図10に示した着火シーケンスは、生成されるプラズマのプラズマインピーダンスを用いることにより、マイクロ波と高周波バイアスのプリセット値を必要としないものである。プラズマインピーダンスは、最適なプラズマ処理結果が得られるエッチング処理をあらかじめ行った際の、バイアス電圧波形とバイアス電流波形のそれぞれの基準波形から求めることが可能である。
着火シーケンスが開始されると(S1001)、レシピのデータとして、目標のVppおよびIpp及びプラズマインピーダンスが制御装置121に読み込まれる(S1002)。マイクロ波電力は、最適化された関数に従い、投入電力を増加させる(S1003)。この時のまでの期間が図11の1101および1102である。このマイクロ波電力の投入は目標のIppに到達するまで継続される(S1006)。この目標のIppに到達した時点が図11の1107である。
電力がある値に到達するとプラズマが着火し、プラズマの着火はフォトダイオードや、分光器などを用いて検出される(S1004)。この検出された時点が図11のおよび1104である。プラズマが着火する電力はプラズマ処理条件により異なるが、この手法を用いることにより、プラズマ着火に必要な電力が不明な条件であっても、必ずプラズマを着火させることが可能となる。上記の最適化された関数としては、時間を変数とした一次関数などが良い。
次に着火を検出すると、高周波バイアスを操作変数、Vppを制御変数とするフィードバック制御により高周波バイアスが印加されるが(S1005)、VppおよびIppが同時に目標に到達するように滑らかに制御されるのが望ましい。そしてこの時点での目標のVppは、予め取得しレシピに記述されているプラズマインピーダンスZが常に一定であるとした仮定に基づき、つまり、実際のプラズマインピーダンスに関わらず、(3)式を満たすVppとする。すなわち着火シーケンスにおけるこの段階では、VppとIppの比を固定しながらマイクロ波電力と高周波バイアス電力を投入する。
マイクロ波電力は着火後も、目標のIppに到達するまで一定の関数に従いその電力を増していき、高周波バイアス電力は、投入されるマイクロ波電力に伴い変化するプラズマ密度に追従しながら、VppとIppの比を一定に保ちながらその出力が制御される。IppとVppのいずれかの目標値への到達が検出されるまでこの動作を継続する(S1008)。VppとIppの比を一定に保つように制御されるので、少なくとも、IppおよびVppの目標値の前後ではプラズマインピーダンスは一定とみなすことができ、IppとVppはおよそ同時に目標に到達する。
このIppまたはVppの目標への到達を検出した時点で(S1011)、着火シーケンスを終了し(S1012)、マイクロ波電力と高周波バイアス電力とをともに、VppおよびIppのフィードバック制御に移行すれば、着火シーケンスとそれ以降のフィードバック制御を滑らかに接続可能である。
次に図11の説明をする。図11の1101は、マイクロ波電力の印加開始からプラズマ着火までを表したものである。続いて、図11の1102は、プラズマ着火検出からIppの目標値到達まで、図11の1103は、Ippの目標値到達後の動作をそれぞれ表している。また、図11の1104は、プラズマ着火が検出された時刻である。さらに、図11の1105および1106は、それぞれ目標のIppとVppであり、図11の1107は、Ippの目標値到達時刻である。
図11では、目標のIpp到達までにマイクロ波の印加電力が従う関数として、一次関数を用いた。プラズマ着火(S1004)から高周波バイアスが印加され、その後、IppとVppとの比を一定に保つように高周波バイアスが印加される。図11に示す例では、IppがVppに先立って目標値に到達し、その時点で検出されたVppと目標のVppとの差を修正するために、高周波バイアス電力が増加され、マイクロ波電力が減少させられ、結果としてIppとVppが目標値で制御されている様子が表わされている。
以上のようにVppとIppを制御変数として用いて、マイクロ波電力およびバイアス電力をフィードバック制御することにより、プラズマ密度とイオンエネルギーをそれぞれ高精度で再現し、結果として非常に高精度なプラズマ処理性能の再現性を得ることが可能になる。また、上記のフィードバック制御に最適化された着火シーケンスを備えることにより、プラズマを着火させ、安定な放電状態に移行するまでの経路も再現させることが可能となり、プラズマ処理性能の再現精度を向上させることができる。
印加されるマイクロ波電力の大きさにより影響を受けるのは、プラズマ密度だけでなく、プラズマの分布や分子の解離などがあり、これらはすべてプラズマ処理性能に影響する。任意のプラズマ処理条件において、装置状態が同一であれば、これまで説明した手法によって、プラズマ密度が再現されたとき、プラズマの分布や分子の解離なども再現される。
しかし、プラズマ密度の関数であるIppやバイアス電圧波形とバイアス電流波形との位相差を用いてマイクロ波電力を制御することを考えた時、必ずしも、マイクロ波電力の変化に対してIppや上記の位相差の変化が大きくない場合がある。この場合、分光器120を用い、プラズマ処理条件に特徴的な波長のプラズマ発光強度を用いることにより、マイクロ波出力値の制御精度を向上させることができる。
これは、Ippがプラズマ密度の関数であるのに対して、発光強度は分光器視野内の発光種密度の空間積分であり、すなわち、プラズマの解離度とプラズマ密度それぞれの処理室内分布の関数になる。よって、Ippと発光強度を組み合わせた値を制御変数としてマイクロ波出力を制御することによって、より高精度な制御が可能となる。
例えば、図12(A)に、任意のプラズマ処理条件でのマイクロ波電力に対するIppの依存性を示し、このプラズマ処理条件におけるマイクロ波電力に対する特徴的な波長の発光強度依存性を示す。Ippと発光強度は、共に、マイクロ波電力を増加させるに従い、値が大きくなり、プラズマ密度等がマイクロ波電力により制御できていることがわかる。
しかし、400Wから800Wのマイクロ波出力範囲の場合、Ippおよび発光強度の最大・最小値を見ると、Ippが17%変化するのに対し、発光強度は、209%変化し、発光強度の方が、よりマイクロ波電力に対して敏感である。さらに、Ippは、マイクロ波出力が750Wの点に極大値を持ち、それ以上のマイクロ波電力を印加するとIppが減少に転じている。このような特性があると、Ippによる制御が極大値を挟んでどちら側に落ち着くかが不定となり、プラズマ処理性能の再現性を著しく低下させる要因となる。
このため、Ippと発光強度との組み合わせをマイクロ波出力制御のための新しい制御変数とすることにより、プラズマ処理性能の再現性を向上させることができる。この場合の新しい制御変数をIoとすると、(4)式のようにIppであるIiと発光強度であるIeとの線形結合をIoとして用いればよい。
ここで、aとbは、重み係数であり、Ioと処理性能との相関が高くなるように予め最適化される。しかし、発光強度は、比較的処理室の化学的状態に左右されやすいので、発光強度に重みを大きく持たせた制御は、長期的な連続した処理に伴う処理室の状態変化によってばらつきが出る可能性がある。可能な限り、Ippによる制御の重みを増すことが、長期的な安定性の観点で重要である。
プラズマ発光強度として用いる波長や発光種は、そのプラズマ処理条件において、特にエッチング反応を中心的に担う分子や原子が発光する波長や、上記のエッチング反応を中心的に担う分子や原子と処理対象である被エッチング膜との反応生成物を代表する波長を選ぶのが良い。これらの発光強度を再現するように制御を行うことにより、エッチング反応に直接かかわる分子や原子の密度と分布を再現することが可能になり、プラズマ処理性能の再現性を向上させることができる。
プラズマ発光強度として用いる波長として、希ガスからの発光を用いてもよい。希ガスは反応性を持たず、処理室内の化学的な状態変化の影響を受けず、プラズマ密度をそのまま反映させるので、希ガスの発光強度を用いることで、外乱の影響を抑制し、プラズマ処理性能の再現性を向上させることができる。また、プラズマ密度の制御に用いる目的で、反応ガス中に希ガスを微量に添加してもよい。上記のように希ガスは反応性を持たないので、微量であればエッチング性能に影響を与えず、希ガスからのプラズマ密度を精度よく反映した発光強度を検出することが可能になり、プラズマ処理性能の再現性を向上させることができる。
さらに前記のプラズマ発光強度として、複数の波長の発光強度の合成でもよい。例えば、アクチノメトリーとして知られている手法のように、2つの発光強度の比をとることにより、処理室内の化学的状態変化のような外乱の影響を抑制して、よりプラズマ密度に相関の高い信号を得ることが可能な場合があり、これによって、プラズマ処理性能の再現性を向上させることができる。
以上のIppと、バイアス電圧波形とバイアス電流波形との位相差とを制御変数としてマイクロ波出力を制御する技術において、プラズマ発光の特定の波長の強度とIpp等との線形結合を新たな制御変数として、プラズマ発光を補完的に用いることにより、どのようなプラズマ処理条件においても、プラズマ処理性能を高精度に再現させるプラズマ処理条件を一義的に決定させることができ、プラズマ処理性能の再現性を向上させることができる。
また、以上のように、プラズマ発光強度を補完的に用いて制御をすることにより、プラズマ処理性能再現性の精度が高められるが、定期メンテナンス実施後等には、処理室構成部品の表面状態の差や、組み付け精度等によって、発光観測用窓の透過率がばらつくおそれがあり、分光器120の校正を行う必要がある。
分光器120の校正は、VIセンサを利用した放電により、外部光を用いること無く、実現可能である。このような分光器120の校正方法を図13を用いて説明する。VIセンサを用いた手法により、処理室状態によらず、プラズマ密度が再現可能である。特にこの場合、Ippおよびバイアス電圧波形とバイアス電流波形の位相差のみを用いてプラズマ密度が十分高精度に制御可能なプラズマ処理条件を選択し、これを分光器の校正用放電とする(S1304)。
最初に定期メンテナンス終了後(S1301)、製品処理開始前には、処理室の化学的状態を安定化させるための慣らし放電が行われる(S1302)。この慣らし放電終了後、分光器120の校正処理を開始するが、この時点で、慣らし放電の効果により、化学的状態は同じとみなせる。
この状態で、VppとIppを用いた分光器120の校正用放電を実施すれば(S1304)、常に分光器120の校正用放電で生成されたプラズマは完全に同一であるとみなせる。この放電中の発光スペクトルを検出し(S1305)、同一の処理室において予め取得された基準スペクトルと比較し(S1306)、その差が許容値から外れているかの判定後(S1307)、許容値を超えてスペクトルの差が検出された場合は計測されたスペクトルが基準スペクトルと一致するように校正され(S1308)、校正処理を終了し(S1307)、スペクトルの差が許容値内であった場合も、ここで校正処理を終了する(S1309)。
この分光器120の校正は、発光観測窓の透過率が周波数特性を持たないとは限らないので、ともに波長の関数である基準スペクトルEr(λ)と計測されたスペクトルEm(λ)の比となる、校正関数Em/Er(λ)を制御装置121に格納し、制御装置121内の演算によって発光量の調整を行えばよい。
分光器120の校正は、そのゲインとオフセットの両方を調整するため、分光器120の校正用放電において、そのマイクロ波出力を変えながら、いくつかのスペクトルを取得し、また、それに対応した数のいくつかの基準スペクトルを予め取得しておき、それらの比較によって、波長の関数となるゲインG(λ)とオフセットO(λ)それぞれを校正関数として制御装置121内に格納し、G (λ)×Em (λ)+O(λ)なる演算を制御装置121内で行うことによって、発光量を調整してもよい。
分光器120の校正用放電の条件が一種類のガス系を用いたものであると、波長毎の発光強度の強弱によって、校正関数の精度が波長ごとにばらついてしまうおそれがある。このため、分光器120の校正用放電を複数のそれぞれ異なるガス系を用いた放電とし、それぞれに対して上記の手法によって得られる関数の平均を校正用関数として用いてもよい。また、対象とする装置で処理する条件を用いて、製品処理条件の各ステップそれぞれを分光器120の校正用放電条件とし、上記の手法によって得られる関数の平均を校正用関数として用いてもよい。
以上の手段を用いて、分光器120の校正を行うことにより、プラズマ発光を用いたマイクロ波出力のフィードバック制御を、定期メンテナンスの前後において再現させることが可能になる。また、副次的な効果としては、定期メンテナンスの前後で発光強度のばらつきがあると、エッチング終点判定がばらつくことになる。しかし、上記の分光器120の校正を行うことにより、定期メンテナンスの前後でパラメータの最適化を行うことなくエッチング終点判定の性能の再現性を向上できる。
以上の実施例において、マイクロ波ECR放電を利用したプラズマエッチング装置を例に説明したが、本発明は、有磁界UHF(Ultra High Frequency)放電、容量結合型放電、誘導結合型放電、マグネトロン放電、表面波励起放電、トランスファー・カップルド放電等を利用したプラズマエッチング装置においても同様の作用効果がある。また、本実施例では、プラズマエッチング装置について述べたが、本発明は、プラズマ処理を行うその他のプラズマ処理装置、例えばプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)装置または、プラズマPVD(Physical Vapor Deposition)装置についても同様の作用効果がある。