JP6074093B2 - 温度異常検出システム、温度異常検出方法 - Google Patents

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本発明は、鉄道車両の床下に設置される床下機器に発生する温度異常を精度良く検出する技術に関する。
鉄道車両など軌道上を走行する車両では、車輪を支持する軸の両端に、その軸を回転可能に支持する車軸軸受けがそれぞれ取り付けられている。この車軸軸受けとしては、潤滑油等の液体潤滑に依存する滑り軸受けや固体潤滑を利用した転がり軸受けがある。なお、このような車軸軸受けはそれを支持する構造を含めて一般的に軸箱とも呼ばれるため、以下の説明では軸箱と適宜表記する。
ところで、このような軸箱においては、走行時に高速で回転する軸を回転可能に支持するために多量の熱を発生させる。そして、発生した熱により車両走行時に軸箱の温度が異常上昇し、過熱および焼損等の事故が発生し得る。このため、このような軸箱の過熱および焼損等の発生を未然に防ぐために、軸箱の温度異常を検出する技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、走行中である車両の軸箱の表面温度を測定し、測定された軸箱の表面温度値から、互いに同一条件下におかれていたと判断されるとともにその温度傾向が同一である軸箱の表面温度値を選択し、選択した軸箱の表面温度値の編成内の中央値から軸箱に異常が発生しているか否かを判定するための評価値を算出し、さらに、測定されたすべての軸箱の表面温度値と評価値とを順に比較し、その比較結果に基づきその表面温度値に対応する軸箱に異常が発生しているか否かを判定する技術について記載されている。
特開2010−179706号公報
しかし、特許文献1に記載の技術では、次のような問題があった。すなわち、特許文献1に記載の技術では、測定した軸箱の表面温度値に基づき評価値を算出するため、軸箱への太陽光の入射や風雨、降雪等などに起因する外乱の影響がある場合には、軸箱の表面温度値がこの外乱の影響を受けるが、軸箱の表面温度値に基づき算出された評価値もこの外乱の影響を受けることになる。このため、外乱の影響を受けた評価値を用いて温度異常の判断を行った場合、機器が正常であっても、誤って温度異常と判断されるおそれがあり、軸箱の温度異常を精度良く検出することができないという問題があった。
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、鉄道車両の床下に設置される床下機器に発生する温度異常を精度良く検出する技術を提供することにある。
上記課題を解決するためになされた本発明の温度異常検出システムは、鉄道車両の床下に設置される床下機器に発生する温度異常を検出する温度異常検出システムであって、機器温度値取得部と、機器温度値蓄積部と、相関係数計算部と、判定用温度値取得部と、適正温度値予測部と、温度異常判定部と、を備える。
機器温度値取得部は、床下機器の温度値である機器温度値を取得する。
機器温度値蓄積部は、機器温度値取得部によって取得された機器温度値を蓄積する。
相関係数計算部は、機器温度値蓄積部が蓄積する機器温度値から床下機器間の相関関係を取得し、取得した相関関係に基づき相関係数を計算する。
判定用温度値取得部は、温度異常の判定を所望する床下機器である判定対象機器の機器温度値を判定用温度値として機器温度蓄積部が蓄積する機器温度値から取得する。
適正温度値予測部は、相関係数計算部によって計算された相関係数を用いて、機器温度値から、適正温度値を予測する。適正温度値は、判定対象機器に温度異常が発生していない際の適正な温度値である。
温度異常判定部は、判定用温度値取得部によって取得された判定用温度値と、適正温度値予測部によって予測された適正温度値との比較により、判定用温度値が適正温度値から乖離する値である乖離値が、異常判定閾値よりも大きい場合に、判定対象機器に温度異常が発生していると判定する異常判定を行う。異常判定閾値は、判定対象機器に温度異常が発生していると判定するための閾値である。
このように構成された本発明の温度異常検出システムによれば、蓄積された床下機器の温度値から統計的手法により、温度異常の判定を所望する床下機器である判定対象機器に温度異常が発生していない際の適正な温度値を適正温度値として予測し、予測した適正温度値に基づき、判定対象機器に温度異常が発生していることを判定する異常判定を行う。このため、温度異常の判定に用いる適正温度値が外乱の影響を受けにくく、このような適正温度値を用いて異常判定を行った場合、機器が正常であるにもかかわらず誤って温度異常と判定されるおそれがない。
したがって、鉄道車両の床下に設置される床下機器に発生する温度異常を精度良く検出することができる。
なお、本発明は、温度異常検出方法としても実現可能である。
温度異常検出システム1を示す概略構成図である。
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。
図1に示す温度異常検出システム1は、鉄道車両の床下に設置される床下機器に発生する温度異常を検出する機能を有する。
[1.温度異常検出システム1の構成の説明]
温度異常検出システム1は、機器温度センサ11と、列車(編成)検出部12と、機器部位検出部13と、データ処理部14と、記憶部15と、部位間相関係数計算部16と、温度回帰部位選択部17と、各部位最適回帰温度計算部18と、比較部19と、温度異常検出部20と、を備える。
なお、温度異常検出システム1は、周知のCPU、ROM、RAM、入出力回路であるI/Oおよびこれらの構成を接続するバスラインなどで構成されるコンピュータを搭載しており、このうちのCPUが、データ処理部14、部位間相関係数計算部16、温度回帰部位選択部17、各部位最適回帰温度計算部18、比較部19および温度異常検出部20として機能し、RAMが記憶部15として機能する。
また、CPUは、ROMおよびRAMに記憶された制御プログラムおよびデータにより制御を行なう。ROMは、プログラム格納領域とデータ記憶領域とを有している。プログラム格納領域には制御プログラムが格納され、データ記憶領域には制御プログラムの動作に必要なデータが格納されている。また、制御プログラムは、RAM上にてワークメモリを作業領域とする形で動作する。
[1.1.機器温度センサ11の構成の説明]
機器温度センサ11は、線路(軌道)が敷設された地上側に、線路を走行する列車である鉄道車両の両側方それぞれに対応して配置され、鉄道車両の床下に設置される床下機器の放射熱を検知して床下機器の温度値である機器温度値を測定する。より具体的には、機器温度センサ11は、筐体の内部に赤外線放射温度計を内蔵する構成を有しており、赤外線放射温度計が、温度を有する物体が放射する赤外線の強さ(エネルギー量)を検知することにより、線路を通過する鉄道車両の各車両の床下機器の温度を、非接触で計測する。なお、床下機器の具体例としては、軸箱や車軸などが挙げられる。
なお、この機器温度センサ11は、CPUからの指示に従って、予め設定された測定開始時刻となったら上述の測定を開始し、予め設定された測定終了時刻となったら測定を終了する。そして、機器温度センサ11は、測定した機器温度値をデータ処理部14に出力する。
なお、機器温度センサ11は、機器温度値取得部に該当する。
[1.2.列車(編成)検出部12の構成の説明]
列車(編成)検出部12は、線路を通過する列車の編成番号を検出する。具体的には、編成の車体に貼り付けたICカードに編成名が登録されていて、列車通過時に地上に設けられた図示しないアンテナによって情報を受信し、編成名を当該列車(編成)検出部12に読み込むようになっている。
[1.3.機器部位検出部13の構成の説明]
機器部位検出部13は、車輪のフランジ部が近接すると信号を出力し、非接触で車輪の通過タイミングを精度良く検知可能である。なお、このような非接触での検出手法としては、例えば高周波誘導方式や光電方式が挙げられる。
[1.4.データ処理部14の構成の説明]
データ処理部14は、機器温度センサ11からの出力信号、列車検出部12からの出力信号、機器部位検出部13からの出力信号に基づき各種演算を実行して、通過する列車の車種、軸箱が設置される号車番号、軸箱の軸位、および軸箱が設置される側が海側か山側の区別を判断し、その判断結果を部位間相関係数計算部16、温度回帰部位選択部17および各部位最適回帰温度計算部18に出力する。
また、データ処理部14は、記憶部15との間でデータのやり取りが可能であり、機器温度センサ11が取得した機器温度値を記憶部15に出力して記憶させたり、記憶部15が記憶する各種データを読み出して部位間相関係数計算部16、温度回帰部位選択部17および各部位最適回帰温度計算部18に出力したりする。
また、データ処理部14は、温度異常の判定を所望する床下機器である判定対象機器の機器温度値を判定用温度値として記憶部15が蓄積する機器温度値から取得する。そして、データ処理部14は、取得した判定用温度値を、比較部19に出力する。
なお、データ処理部14は、判定用温度値取得部に該当する。
[1.5.記憶部15の構成の説明]
記憶部15は、各種情報を記憶しておくのに用いられる。例えば、記憶部15は、温度センサ11が取得した機器温度値を蓄積するのに用いられる。この機器温度値については、同一車両について同一の取得タイミングで取得された機器温度値を並べた温度ベクトル(M,M,…M)の形式で記憶されている。機器温度値を取得する各部位の機器温度値をM(i=1〜N)で表すものとする。
なお、記憶部15は、機器温度値蓄積部に該当する。
[1.6.部位間相関係数計算部16の構成の説明]
部位間相関係数計算部16は、記憶部15が蓄積する機器温度値から床下機器間の相関関係を取得し、取得した相関関係に基づき相関係数を計算する。すなわち、部位間相関係数計算部16は、記憶部15に記憶された温度ベクトルをN次元空間の点として、回帰分析を行うことでN次元直線を求めることにより相関関係を取得する。部位間相関係数計算部16は、そのN次元直線を表す式から、各部位の機器温度値Miの係数a、および各部位の機器温度値Miのオフセット温度bを求めて記憶部15に記憶する。この計算は、一定周期、あるいは予め設定された数のデータが蓄積される毎に実行される。
なお、部位間相関係数計算部16は、相関係数計算部に該当する。
[1.7.温度回帰部位選択部17の構成の説明]
温度回帰部位選択部17は、各部位最適回帰温度計算部18が最適回帰温度を計算する部位iを選択する。
[1.8.各部位最適回帰温度計算部18の構成の説明]
各部位最適回帰温度計算部18は、部位間相関係数計算部16にて求められた係数a〜aおよびオフセット温度b〜bと、データ処理部14から出力された判定用温度値としての温度ベクトル(t,t,…t)とに基づき、次の式(1)を用いて最適回帰温度すなわち適正温度値T〜Tを計算する。適正温度値は、判定対象機器に温度異常が発生していない際の適正な温度値である。
Figure 0006074093
但し、
Ti:i位の最適回帰温度
a:部位毎の回帰係数
b:部位毎のパラメータ
N:軸数
t:当該部位の計測温度
である。軸数とは、機器温度値を取得する部位の数量(ここではN箇所)を示す。計測温度は、機器温度値を示す。
なお、各部位最適回帰温度計算部18は、適正温度値予測部に該当する。
[1.9.比較部19の構成の説明]
比較部19は、データ処理部14から出力された判定用温度値tと、各部位最適回帰温度計算部18によって予測された適正温度値Tとを比較する。
なお、比較部19は、温度異常判定部に該当する。
[1.10.温度異常検出部20の構成の説明]
温度異常検出部20は、比較部19による判定用温度値tと適正温度値Tとの比較により、判定用温度値tが適正温度値Tから乖離する値である乖離値が、異常判定閾値よりも大きい場合に、判定対象機器に温度異常が発生していると判定する異常判定を行う。異常判定閾値は、判定対象機器に温度異常が発生していると判定するための閾値である。温度異常検出部20は、すべての判定用温度値t〜tについて同様の比較および異常判定を行う。
なお、温度異常検出部20によって判定対象機器に温度異常が発生していると判定された場合には、これ以後は、部位間相関係数計算部16が、記憶部15が蓄積する機器温度値のうち判定対象機器から取得された機器温度値を除外して相関関係を取得し、取得した相関関係に基づき相関係数を計算するようにしてもよい。
また、温度異常検出部20は、図示しない表示装置に判定結果を表示する。
なお、温度異常検出部20は、温度異常判定部に該当する。
[2.実施形態の効果]
(1)このように本実施形態の温度異常検出システム1によれば、蓄積された床下機器の温度値から統計的手法により、温度異常の判定を所望する床下機器である判定対象機器に温度異常が発生していない際の適正な温度値を適正温度値として予測し、予測した適正温度値に基づき、判定対象機器に温度異常が発生していることを判定する異常判定を行う。このため、温度異常の判定に用いる適正温度値が外乱の影響を受けにくく、このような適正温度値を用いて異常判定を行った場合、機器が正常であるにもかかわらず誤って温度異常と判定されるおそれがない。
したがって、鉄道車両の床下に設置される床下機器に発生する温度異常を精度良く検出することができる。
また、本実施形態の温度異常検出システム1によれば、駆動装置、継手の潤滑不良等に起因する鉄道車両のトラブルを未然に防止することが可能となり、鉄道車両の安全性向上に寄与する。
(2)また、本実施形態の温度異常検出システム1によれば、温度異常検出部20によって判定対象機器に温度異常が発生していると判定された場合には、これ以後は、蓄積された機器温度値のうち判定対象機器から取得された機器温度値を除外して相関関係を取得するので、正常時の温度変動を抑制し、高精度な温度異常判定が可能となる。
(3)また、本実施形態の温度異常検出システム1によれば、部位間相関係数計算部16によって計算された相関係数が所定値以上である場合には、以降の処理を実行しないので、正常時の温度変動を抑制し、高精度な温度異常判定が可能となる。
[3.他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のような様々な態様にて実施することが可能である。
(1)通過列車の各部位の相関関係を動的に監視し、相関の高低により、検知手法を切り替えるようにしてもよい。例えば、部位間相関関係の高い場合は特許文献1に記載の検知手法を用い、部位間相関関係の低い場合は本実施形態の手法を用いるなどの手順を実行するといったことも可能である。
1…温度異常検出システム、11…機器温度センサ、12…列車(編成)検出部、13…機器部位検出部、14…データ処理部、15…記憶部、16…部位間相関係数計算部、17…温度回帰部位選択部、18…部位最適回帰温度計算部、19…比較部、20…温度異常検出部。

Claims (4)

  1. 鉄道車両の床下に設置される床下機器に発生する温度異常を検出する温度異常検出システムであって、
    前記床下機器の温度値である機器温度値を取得する機器温度値取得部と、
    前記機器温度値取得部によって取得された機器温度値を蓄積する機器温度値蓄積部と、
    前記機器温度値蓄積部が蓄積する機器温度値から前記床下機器間の相関関係を取得し、取得した相関関係に基づき相関係数を計算する相関係数計算部と、
    温度異常の判定を所望する前記床下機器である判定対象機器の機器温度値を判定用温度値として前記機器温度値蓄積部が蓄積する機器温度値から取得する判定用温度値取得部と、
    前記相関係数計算部によって計算された前記相関係数を用いて、前記機器温度値蓄積部が蓄積する機器温度値であって前記判定用温度値を除いたものから、前記判定対象機器に温度異常が発生していない際の適正な温度値である適正温度値を予測する適正温度値予測部と、
    前記判定用温度値取得部によって取得された判定用温度値と、前記適正温度値予測部によって予測された適正温度値との比較により、前記判定用温度値が前記適正温度値から乖離する値である乖離値が、前記判定対象機器に温度異常が発生していると判定するための閾値である異常判定閾値よりも大きい場合に、前記判定対象機器に温度異常が発生していると判定する異常判定を行う温度異常判定部と、
    を備えることを特徴とする温度異常検出システム。
  2. 請求項1に記載の温度異常検出システムにおいて、
    前記相関係数計算部は、前記温度異常判定部によって前記判定対象機器に温度異常が発生していると判定された場合には、前記機器温度値蓄積部が蓄積する前記機器温度値のうち前記判定対象機器から取得された機器温度値を除外して、前記相関関係を取得し、取得した相関関係に基づき相関係数を計算すること
    を特徴とする温度異常検出システム。
  3. 鉄道車両の床下に設置される床下機器に発生する温度異常を検出する温度異常検出方法であって、
    前記床下機器の温度値である機器温度値を取得し、
    取得された機器温度値を蓄積し、
    蓄積された機器温度値から前記床下機器間の相関関係を取得し、取得した相関関係に基づき相関係数を計算し、
    温度異常の判定を所望する前記床下機器である判定対象機器の機器温度値を判定用温度値として前記機器温度値蓄積部が蓄積する機器温度値から取得し、
    計算された前記相関係数を用いて、前記機器温度値蓄積部が蓄積する機器温度値であって前記判定用温度値を除いたものから、前記判定対象機器に温度異常が発生していない際の適正な温度値である適正温度値を予測し、
    取得された判定用温度値と、予測された適正温度値との比較により、前記判定用温度値が前記適正温度値から乖離する値である乖離値が、前記判定対象機器に温度異常が発生していると判定するための閾値である異常判定閾値よりも大きい場合に、前記判定対象機器に温度異常が発生していると判定する異常判定を行うこと
    を特徴とする温度異常検出方法。
  4. 請求項3に記載の温度異常検出方法において、
    前記判定対象機器に温度異常が発生していると判定された場合には、蓄積された前記機器温度値のうち前記判定対象機器から取得された機器温度値を除外して前記相関関係を取得し、取得した相関関係に基づき相関係数を計算すること
    を特徴とする温度異常検出方法。
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