JP6072601B2 - 圧縮機用ベーンの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、縮機用ベーンの製造方法に関するものである。
特許文献1には、シリンダと、シリンダの内周面に沿って転動するローラと、シリンダの半径方向に形成された溝部と、溝部内に挿入されローラの外周面に摺動する状態で出退してシリンダの内部を吸入部側と吐出部側とに仕切るベーンと、を備えたロータリ圧縮機が記載されている。このロータリ圧縮機のベーンは、マルテンサイト系ステンレス鋼によりベース材を作成し、このベース材を焼入れ及び焼戻しによりマルテンサイト組織化し、窒化処理によってベース材の表面にFe−N層(化合物層)と窒素拡散層とを表層から順に形成し、その後、先端部及び側面部に研削加工を施すことにより作成されている。ベーンの先端部では、研削加工によって露出した表面粗さRy3μm以下のFe−N層が摺動面となっている。同文献には、上記の構成によれば、表面粗さRy3μm以下のFe−N層がローラに摺動することで、微細な突起部に大きな応力が働きにくくなり、極めて金属凝着しにくい状況となり、ベーンとローラの凝着摩耗に対して非常に優れたベーン摺動面となること、が記載されている。
特開2001−342981号公報
上記のようなベーンの製造工程について、より具体的に説明する。図7は、従来のベーンの製造工程における基材100の表面近傍の概略の断面構成を示す図である。ベーンの製造工程では、まず、ステンレス鋼の成形、焼入れ焼戻し、粗加工及び仕上げ(粗研磨)等の各工程を経て、ベーン形状の基材を形成する。この段階では、基材表面の表面粗さRzは3〜4μmとなる。次に、形成した基材のガス窒化処理を行う。図7(a)は、窒化処理が施された後の基材100の表面近傍の状態を示している。図7(a)に示すように、基材100の表面には、窒化処理によって、基材100よりも高硬度で耐摩耗性に優れた化合物層101が形成される。このとき、基材100と化合物層101との界面103の界面粗さRzは、窒化処理前の基材100表面の表面粗さRz(3〜4μm)と概ね同等となる。また、化合物層101の最表面には白層102が形成される。白層102の表面104の表面粗さRzは、通常、窒化処理前の基材100表面の表面粗さRz(3〜4μm)よりも大きくなる。白層102は、化合物層101よりも硬くて脆いため、後述する超仕上げ工程での研磨により除去される。なお図7(a)では、化合物層101と基材100との間に形成される窒素拡散層の図示を省略している。
窒化処理工程の後には、白層102及び化合物層101を研磨する超仕上げ工程が行われる。図7(b)は、超仕上げ工程後の基材100の表面近傍の状態を示している。図7(b)に示すように、超仕上げ工程では、白層102が除去されて化合物層101が露出するとともに、露出した化合物層101の表面105が比較的小さい表面粗さ(例えば、表面粗さRz2.0μm以下)に研磨される。超仕上げ工程では、硬くて脆い白層102を全て除去し、かつ、高硬度で耐摩耗性に優れた化合物層101の厚さを十分に確保することが望ましい。以上のような各工程を経て、ベーンが作製される。
一般に、超仕上げ工程で研磨される表面105の表面粗さRzと比較すると、化合物層101と基材100との界面103の界面粗さRzは大きい。このため、白層102を全て除去しようとすると、化合物層101の厚さが部分的に薄くなってしまったり(例えば、図7(b)中のA部)、あるいは基材100表面が露出してしまったりする場合がある。一方、化合物層101の厚さを十分に確保しようとすると、白層102を除去しきれない場合がある(例えば、図7(b)中のB部)。
図7(b)中のA部のように化合物層101の厚さが部分的に薄くなると(あるいは、基材100表面が露出すると)、その部分でのベーンの硬度が低下する。これにより、ベーンの耐摩耗性が低下してしまうという問題点があった。また、図7(b)中のB部のように白層102の一部が残存すると、ベーンの硬度が面内で部分的に高くなるため、ベーンと摺動する相手材(例えば、ローラ、ベーン溝の内壁面等)が微小な切削作用により摩耗してしまう。これにより、相手材の耐摩耗性が低下してしまうという問題点があった。さらに、残存した白層102がベーンから欠落して摺動部に入り込んでしまうと、欠落した白層102の切削作用によりベーン又は相手材が摩耗してしまう。これにより、ベーン又は相手材の耐摩耗性が低下してしまうという問題点があった。
本発明は、上述のような問題点の少なくとも1つを解決するためになされたものであり、ベーン又はベーンと摺動する相手材の耐摩耗性を向上させることができる縮機用ベーンの製造方法を提供することを目的とする。
発明に係る圧縮機用ベーンの製造方法は、ローリングピストン型圧縮機に用いられる圧縮機用ベーンの製造方法であって、ステンレス鋼を成形して基材を形成する第1工程と、前記基材表面を2.0μm以下の表面粗さRzに研磨する第2工程と、前記基材に窒化処理を施して、前記基材表面に化合物層を形成するとともに前記化合物層表面に前記化合物層よりも硬い白層を形成する第3工程と、前記白層を研磨して前記白層の少なくとも一部を除去し前記化合物層を露出させるとともに、露出した前記化合物層表面を研磨する第4工程と、を有することを特徴とするものである。
本発明によれば、基材と化合物層との界面の界面粗さRzを2.0μm以下とすることにより、基材上の化合物層の厚さを十分に確保しつつ白層を除去することができる。したがって、ベーン又はベーンと摺動する相手材の耐摩耗性を向上させることができる。
本発明の実施の形態1に係るローリングピストン型圧縮機1の概略構成を示す縦断面図である。 本発明の実施の形態1に係るローリングピストン型圧縮機1の圧縮機構部10の概略構成を示す横断面図である。 本発明の実施の形態1に係るベーン23の表面近傍の断面構成を示す図である。 本発明の実施の形態1に係るベーン23の製造工程の流れの一例を示すフローチャートである。 本発明の実施の形態1に係るベーン23の製造工程の各工程におけるベーン23(基材70)の表面近傍の概略の断面構成を示す図である。 本発明の実施の形態1に係るベーン23の製造工程を経て作製されたベーン23のある部分における表面からの深さと硬度との関係を例示するグラフである。 従来のベーンの製造工程における基材100の表面近傍の概略の断面構成を示す図である。
実施の形態1.
本発明の実施の形態1に係る圧縮機用ベーン、ローリングピストン型圧縮機、及び圧縮機用ベーンの製造方法について説明する。図1は、本実施の形態に係るローリングピストン型圧縮機(ロータリ圧縮機)1の概略構成を示す縦断面図である。図2は、本実施の形態に係るローリングピストン型圧縮機1の圧縮機構部10の概略構成を示す横断面図である。本実施の形態では、1つのシリンダを備えた単段圧縮式のローリングピストン型圧縮機1を示している。ローリングピストン型圧縮機1は、例えば、空気調和装置、冷蔵庫、冷凍機、自動販売機、給湯器等に用いられる冷凍サイクルの構成要素の一つとなるものであり、冷凍サイクルを循環する冷媒(流体の一例)を吸入し、吸入した冷媒を圧縮して吐出する流体機械である。なお、図1及び図2を含む以下の図面では、各構成部材の寸法の関係や形状等が実際のものとは異なる場合がある。また、明細書中における各構成部材同士の位置関係(例えば、上下関係等)は、原則として、ローリングピストン型圧縮機1を使用可能な状態に設置したときのものである。
図1及び図2に示すように、ローリングピストン型圧縮機1は、冷媒を圧縮する圧縮機構部10と、圧縮機構部10を駆動する電動機部50とを有している。圧縮機構部10及び電動機部50は、密閉容器60内に収容されている。密閉容器60の底部には、ローリングピストン型圧縮機1の各摺動部を潤滑する不図示の冷凍機油(潤滑油)が貯留されている。冷凍機油としては、例えば、エステル、エーテル又はアルキルベンゼン等の合成油、あるいは鉱油が用いられている。冷凍機油には、摺動部の摩耗を防ぐために極圧添加剤及び摩耗防止剤等の添加剤が添加されている。
電動機部50は、密閉容器60内の上部内周面に沿って環状に取り付けられたステータ51と、ステータ51の内側に若干の隙間を設けて挿入されるロータ52と、を有している。ロータ52の中心部には、鉛直方向に延伸するシャフト53が嵌入されている。シャフト53には、当該シャフト53の回転軸からずれた位置に中心軸を有する偏心部53aが形成されている。
圧縮機構部10は、円筒状の開口部を内側に備えた中空のシリンダ20と、シリンダ20の軸方向上端(シリンダ20の上端面側)に配置された主端板30と、シリンダ20の軸方向下端(シリンダ20の下端面側)に配置された補助端板40と、を有している。主端板30及び補助端板40は、シャフト53の軸受を兼ねている。主端板30の上面には、吐出マフラ31が取り付けられている。主端板30の上面と吐出マフラ31との間には、圧縮機構部10で圧縮されて吐出される冷媒の脈動を低減させる吐出マフラ室32が形成されている。また圧縮機構部10は、シャフト53の偏心部53aに摺動自在に嵌入されたローラ(ローリングピストン)21と、シリンダ20の内周面から径方向外側に向かって形成されたベーン溝22と、を有している。ローラ21は、摺動自在に嵌入された偏心部53aが回転することにより、シリンダ20の内周面に沿って偏心回転する。
ベーン溝22には、ベーン(圧縮機用ベーン)23が摺動自在に挿入されている。ベーン23は、ベーンばね25によってローラ21側に付勢されている。ベーンばね25は、ベーン溝22の径方向外方に設けられたベーンばね孔26内に収容されている。ベーンばね孔26は密閉容器60内の空間と連通しているため、ベーン23の背面側には密閉容器60内の吐出圧Pdが作用する。ベーン23は、その背面側と先端部23a側との差圧による押圧力と、ベーンばね25による付勢力とによりローラ21に押し付けられ、ローラ21の偏心回転に追従してベーン溝22内を径方向に往復運動する。これにより、ベーン23の先端部23aは、ローラ21の外周面に常時当接する。シリンダ20、ローラ21、主端板30及び補助端板40によって仕切られたシリンダ室24(シリンダ20内の空間)は、ベーン23によって吸入室24a(低圧側)と圧縮室24b(高圧側)とに分離される。
また、ローリングピストン型圧縮機1は、密閉容器60の外側に隣接して設けられ、外部(冷凍サイクルの蒸発器側)から流入した低圧冷媒を貯留して当該冷媒を気液分離するアキュムレータ61と、アキュムレータ61内の冷媒ガスを密閉容器60内に導入する吸入管62と、密閉容器60内に導入された冷媒ガスを吸入室24a内に導く吸入ポート20aと、圧縮室24bで圧縮された高圧の冷媒ガスを密閉容器60内の空間に吐出する吐出ポート(図示せず)と、密閉容器60内の空間に吐出された高圧の冷媒ガスを外部(冷凍サイクルの凝縮器側)に吐出する吐出管63と、を有している。
本実施の形態では、ローリングピストン型圧縮機1で圧縮される冷媒として、R32(単一冷媒)、又はR32を含む混合冷媒(例えば、R32を50%以上含む混合冷媒)が用いられる。以下、R32、及びR32を含む混合冷媒を総称して「R32冷媒」という場合がある。
このように構成されたローリングピストン型圧縮機1では、ステータ51への通電によりロータ52が回転することで、ロータ52に嵌入されたシャフト53が回転する。これにより、シャフト53の偏心部53aに摺動自在に嵌入されたローラ21が、シリンダ20の内周面に沿って偏心回転(公転)する。ベーン23は、ベーン溝22内を往復運動することによりローラ21の外周面に常時当接する。
ローラ21の公転運動とベーン23の往復運動とによって、吸入室24a及び圧縮室24bの容積が徐々に変化する。吸入室24a及び圧縮室24bの容積変化により、吸入管62及び吸入ポート20aを介して吸入室24a内に低圧冷媒ガスが吸入され、吸入された低圧冷媒ガスは圧縮室24b内で高温高圧に圧縮される。圧縮された高圧冷媒ガスは、主端板30に設けられた吐出弁(図示せず)から吐出マフラ室32に一旦吐出され、吐出マフラ31に設けられた吐出孔(図示せず)から密閉容器60内の空間に吐出される。密閉容器60内の空間に吐出された高圧冷媒ガスは、吐出管63から密閉容器60の外部に吐出される。ローリングピストン型圧縮機1で圧縮されて吐出された冷媒は、冷凍サイクル内の高圧側熱交換器で放熱した後、膨張装置で絞られて低圧側熱交換器で吸熱し、再びローリングピストン型圧縮機1に吸入されて圧縮される。このような一連のサイクルが繰り返される。
次に、本実施の形態に係るベーン23の構成について、より詳細に説明する。図1及び図2に示したように、ベーン23は、ベーン溝22内に摺動自在に挿入され、ローラ21の外周面に当接する平板状の部材である。ベーン23の先端部23aはローラ21の外周面と摺動し、ベーン23の一対の側面部23b、23cはベーン溝22の両側の内壁面とそれぞれ摺動する。先端部23aには、円弧状(部分円筒状)の丸みが形成されている。
図3は、ベーン23の表面(例えば、先端部23a又は側面部23b、23cの摺動面)近傍の断面構成を示している。図3に示すように、ベーン23は、ステンレス鋼(例えば、SUS440C等のマルテンサイト系ステンレス鋼)製の基材70と、後述する窒化処理により基材70の表面側に形成された化合物層71と、を有している。化合物層71は、面内方向においてほぼ均一な厚さ(例えば、100μm程度)に形成されている。基材70と化合物層71との間には、界面72が形成されている。界面72の界面粗さRzは2.0μm以下であり、好ましくは1.0μm以下である。また、化合物層71の表面71aの表面粗さRzは2.0μm以下であり、好ましくは1.2μm以下である。表面71aの表面粗さRzの下限は、例えば0.3μmである。界面72の界面粗さRzは、表面71aの表面粗さRz以下(表面71aの表面粗さRzと同等、又は表面71aの表面粗さRz未満)であってもよい。
ここで、表面粗さ(界面粗さ)におけるRz、Ra、Ryの関係は以下の通りである。Rz2.0μmはRa0.5μm、Ry2.0μmに相当し、Rz1.2μmはRa0.3μm、Ry1.2μmに相当し、Rz1.0μmはRa0.25μm、Ry1.0μmに相当し、Rz0.3μmはRa0.075μm、Ry0.3μmに相当する。
次に、本実施の形態に係るベーン23の製造方法について説明する。図4は、ベーン23の製造工程の流れの一例を示すフローチャートである。図5は、ベーン23の製造工程の各工程におけるベーン23(基材70)の表面近傍の概略の断面構成を示す図である。ベーン23の製造工程では、まず、ステンレス鋼(例えば、SUS440C等のマルテンサイト系ステンレス鋼)製の素材を切削等により成形し、基材70を形成する(図4に示す基材形成工程(ステップS1))。例えば、基材70は、ステンレス鋼の押出成形により形成された長尺の素材を必要な長さに切断し、切削等により成形することにより形成される。
次に、必要に応じて、基材70の焼入れ焼戻しを行う(焼入れ焼戻し工程(ステップS2))。例えば、焼入れ硬化性を有するマルテンサイト系ステンレス鋼が用いられている場合、焼入れ焼戻しを行うことにより硬度を高めることができる。
次に、基材70の粗加工を行う(粗加工工程(ステップS3))。図5(a)は、粗加工工程後の基材70の表面近傍の状態を示している。粗加工工程では、研削によって、基材70の表面70aを3〜4μmの表面粗さRzに加工する。
次に、基材70の仕上げ加工を行う(仕上げ工程(ステップS4))。図5(b)は、仕上げ工程後の基材70の表面近傍の状態を示している。仕上げ工程では、粗研磨によって、基材70の表面70aを2.0μm以下(好ましくは1.0μm以下)の表面粗さRzに研磨する。仕上げ工程では、基材70の表面70aを、後述する超仕上げ工程(ステップS6)後の表面71aの表面粗さRz以下となる表面粗さRzに研磨してもよい。
次に、基材70に窒化処理を施す(窒化処理工程(ステップS5))。図5(c)は、窒化処理工程後の基材70の表面近傍の状態を示している。窒化処理工程では、例えばアンモニアガスを用いたガス窒化等により、基材70の表面側に、基材70よりも高硬度で耐摩耗性に優れた化合物層71を形成する。化合物層71の厚さ(深さ)は、例えば100〜200μm程度である。また、化合物層71の最表面には、白層73が形成される。白層73の厚さは、例えば10μm以下である。本例では、化合物層71と白層73との界面74は、窒化処理前の基材70の表面70aよりも内側に形成されており、白層73の表面73aは、窒化処理前の基材70の表面70aよりも外側に形成されている。
基材70と化合物層71との界面72の界面粗さRzは、窒化処理前の基材70の表面70aの表面粗さRz(2.0μm以下、好ましくは1.0μm以下)と概ね同等となる。また、白層73の表面73aの表面粗さRzは、窒化処理前の基材70の表面70aの表面粗さRz(2.0μm以下、好ましくは1.0μm以下)よりも大きくなる。
次に、白層73及び化合物層71を研磨する超仕上げ加工を行う(超仕上げ工程(ステップS6))。図5(d)は、超仕上げ工程後の基材70の表面近傍の状態を示している。超仕上げ工程では、白層73を研磨して白層73の少なくとも一部(例えば全体)を除去し、化合物層71を露出させるとともに、露出した化合物層71の表面71aを2.0μm以下(好ましくは1.2μm以下)の表面粗さRzに研磨する。本実施の形態では、基材70と化合物層71との界面72の界面粗さRzが比較的小さいため、基材70上の化合物層71の厚さを十分に確保しつつ白層73を除去することが容易である。
以上のような基材形成、焼入れ焼戻し、粗加工、仕上げ、窒化処理及び超仕上げの各工程を経て、ベーン23が作製される。作製されたベーン23では、面内方向のほぼ全域にわたってほぼ均一な表面硬度(例えば、Hv1000以上)を得ることができる。
以上説明したように、本実施の形態に係る圧縮機用ベーン(ベーン23)は、中空のシリンダ20と、シリンダ20の内周面に沿って偏心回転するローラ21と、シリンダ20の内周面から径方向外側に向かって形成されたベーン溝22と、を有するローリングピストン型圧縮機1に備えられ、ベーン溝22に摺動自在に挿入されてローラ21の外周面に当接し、シリンダ20内のシリンダ室24を低圧側の吸入室24aと高圧側の圧縮室24bとに分離する圧縮機用ベーンであって、ステンレス鋼製の基材70と、基材70の窒化処理により基材70の表面側に形成された化合物層71と、を有し、基材70と化合物層71との界面72の界面粗さRzは2.0μm以下であることを特徴とするものである。
この構成によれば、基材70と化合物層71との界面72の界面粗さRzを2.0μm以下とすることにより、基材70上の化合物層71の厚さを十分に確保しつつ白層73を除去することができる。したがって、本実施の形態によれば、ベーン23又はベーン23と摺動する相手材の耐摩耗性を向上させることができ、長期使用可能なベーン23及びローリングピストン型圧縮機1を得ることができる。
また、本実施の形態に係る圧縮機用ベーンの製造方法は、ローリングピストン型圧縮機1に用いられる圧縮機用ベーンの製造方法であって、ステンレス鋼を成形して基材70を形成する基材成形、焼入れ焼戻し及び粗加工の各工程(ステップS1〜S3)と、基材70の表面70aを2.0μm以下の表面粗さRzに研磨する仕上げ工程(ステップS4)と、基材70に窒化処理を施して、基材70表面に化合物層71を形成するとともに化合物層71表面に白層73を形成する窒化処理工程(ステップS5)と、白層73を研磨して白層73の少なくとも一部を除去し化合物層71を露出させるとともに、露出した化合物層71表面を研磨する超仕上げ工程(ステップS6)と、を有することを特徴とするものである。
この構成によれば、仕上げ工程(ステップS4)において基材70の表面70aを2.0μm以下の表面粗さRzに研磨することにより、後の窒化処理工程(ステップS5)において、基材70と化合物層71との界面72を2.0μm以下の界面粗さにすることができる。これにより、超仕上げ工程(ステップS6)において、基材70上の化合物層71の厚さを十分に確保しつつ白層73の少なくとも一部(例えば全体)を除去することができる。したがって、本実施の形態によれば、ベーン23又はベーン23と摺動する相手材の耐摩耗性を向上させることができ、長期使用可能なベーン23及びローリングピストン型圧縮機1を得ることができる。
また、本実施の形態では、基材70と化合物層71との界面72の界面粗さRzを2.0μm以下(好ましくは1.0μm以下)とし、化合物層71の表面71aの表面粗さRzを2.0μm以下(好ましくは1.2μm以下)とすることにより、化合物層71の厚さを面内方向でほぼ均一にすることができる。したがって、ベーン23の表面硬度を面内方向でほぼ均一にすることができる。
図6は、上記の工程を経て作製されたベーン23のある部分における表面からの深さと硬度との関係を例示するグラフである。グラフの横軸はベーン23の表面(例えば、図3に示す化合物層71の表面71a)からの深さ(μm)を表しており、縦軸は硬度(Hv)を表している。図6に示すように、ベーン23の硬度は、表面からの深さが浅い部分ほど高く、深い部分ほど低くなっている。ベーン23の表面では、基材70の硬度よりも高いHv1000以上の硬度が得られているが、表面からの深さが概ね100μmを超えると基材70自身の硬度(Hv360程度)と同等の硬度しか得られていない。このことから、この部分での化合物層71の厚さは100μm程度であると推定することができる。言い換えると、Hv1000以上の硬度が表面で得られるのは、化合物層71の厚さが100μm程度以上である部分であり、化合物層71の厚さが100μmよりも薄い部分では、Hv1000よりも低い硬度しか得られない。
従来は、窒化処理前の基材70の表面70aの表面粗さRzを規定していなかったため、窒化処理後の基材70と化合物層71との界面72の界面粗さRzは比較的大きくなっていた。この場合、たとえ超仕上げ工程で化合物層71の表面71aを小さい表面粗さRzに研磨したとしても、化合物層71の深さのばらつきが大きいため、作製されたベーンの化合物層71の厚さは面内方向で不均一となっていた。また、基材70表面が露出してしまう場合や、白層73を除去しきれない場合があった。これにより、ベーン表面の面内方向での硬度のばらつきが大きくなってしまうため、ベーン(又は相手材)の耐摩耗性が低くなってしまう場合があった。
これに対し、本実施の形態では、窒化処理前の表面70aの表面粗さRzを2.0μm以下に規定しているため、窒化処理後の界面72の界面粗さRzを2.0μm以下にすることができ、化合物層71の深さのばらつきを小さくすることができる。このため、超仕上げ工程で化合物層71の表面71aを2.0μm以下の表面粗さに研磨することにより、化合物層71の厚さを面内方向でほぼ均一にすることができるとともに、面内方向のほぼ全域において所望の厚さ(例えば、約100μm)の化合物層71を残存させることができる。したがって、面内方向のほぼ全域で均一かつ高い表面硬度(例えば、Hv1000以上)を有するベーン23を得ることができるため、ベーン23(又は相手材)の耐摩耗性を高めることができる。
近年、オゾン層破壊係数及び地球温暖化係数が低い冷媒として、R32冷媒(R32、又はR32を含む混合冷媒)が用いられている。R32冷媒は、他の冷媒と比較して極性の高い冷媒であるため、冷凍機油に添加されている極圧添加剤や摩耗防止剤との親和性が相対的に高くなってしまい、ベーン23等の摺動部材との親和性が相対的に低下する。このため、R32冷媒が用いられる圧縮機では、摺動部材に対する極圧添加剤や摩耗防止剤の摩耗防止効果が低下してしまう傾向にある。これに対し、本実施の形態によれば、ベーン23自体又は相手材自体の耐摩耗性を向上させることができるため、極圧添加剤や摩耗防止剤の摩耗防止効果への依存性を低くすることができる。したがって、本実施の形態は、R32冷媒が用いられるローリングピストン型圧縮機に適用することによって特に高い効果が得られる。
その他の実施の形態.
本発明は、上記実施の形態に限らず種々の変形が可能である。
例えば、上記実施の形態では、1つのシリンダを備えたローリングピストン型圧縮機を例に挙げたが、本発明は、2つ以上のシリンダを備えたローリングピストン型圧縮機にも適用できる。
また、上記実施の形態では、単段圧縮式のローリングピストン型圧縮機を例に挙げたが、本発明は、多段圧縮式のローリングピストン型圧縮機にも適用できる。
また上記の各実施の形態や変形例は、互いに組み合わせて実施することが可能である。
1 ローリングピストン型圧縮機、10 圧縮機構部、20 シリンダ、20a 吸入ポート、21 ローラ、22 ベーン溝、23 ベーン(圧縮機用ベーン)、23a 先端部、23b、23c 側面部、24 シリンダ室、24a 吸入室、24b 圧縮室、25 ベーンばね、26 ベーンばね孔、30 主端板、31 吐出マフラ、32 吐出マフラ室、40 補助端板、50 電動機部、51 ステータ、52 ロータ、53 シャフト、53a 偏心部、60 密閉容器、61 アキュムレータ、62 吸入管、63 吐出管、70 基材、70a 表面、71 化合物層、71a 表面、72 界面、73 白層、73a 表面、74 界面、100 基材、101 化合物層、102 白層、103 界面、104、105 表面。

Claims (3)

  1. ローリングピストン型圧縮機に用いられる圧縮機用ベーンの製造方法であって、
    ステンレス鋼を成形して基材を形成する第1工程と、
    前記基材表面を2.0μm以下の表面粗さRzに研磨する第2工程と、
    前記基材に窒化処理を施して、前記基材表面に化合物層を形成するとともに前記化合物層表面に前記化合物層よりも硬い白層を形成する第3工程と、
    前記白層を研磨して前記白層の少なくとも一部を除去し前記化合物層を露出させるとともに、露出した前記化合物層表面を研磨する第4工程と、
    を有することを特徴とする圧縮機用ベーンの製造方法。
  2. 前記第4工程では、前記化合物層表面を2.0μm以下の表面粗さRzに研磨すること
    を特徴とする請求項に記載の圧縮機用ベーンの製造方法。
  3. 前記第2工程では、前記基材表面を、前記第4工程で研磨された前記化合物層表面の表面粗さRz以下の表面粗さRzに研磨すること
    を特徴とする請求項又は請求項に記載の圧縮機用ベーンの製造方法。
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