JP6071865B2 - 回転電機の電機子巻線およびそれを用いた回転電機、ならびにその製造方法 - Google Patents

Description

本発明の実施形態は、回転電機の電機子巻線およびそれを用いた回転電機、ならびにその製造方法に関する。

一般的な水冷却発電機（水冷却方式を採用する発電機）の固定子コイルの構成を図５および図６を用いて説明する。図５は、同固定子コイルの端部の構成を示す縦断面図であり、図６は、同固定子コイルの端部をクリップ側から見た正面図である。

固定子コイルは、クリップ１、クリップカバー２、置きろう３（もしくは溶融ろう９）、中空導体４、中空部５、ろう溜まり６、冷却水出入口７、中実導体８などを含む。図５に示される置きろう３は溶融する前のろう箔であり、図５に示される溶融ろう９はそのろう箔が溶融した後のものである。なお、以降の説明では、中空導体４および中実導体８をまとめて素線導体と称する場合がある。単に素線と称す場合もある。

水冷却発電機の固定子コイルは、複数の線状の中空導体４と中実導体８とを束ねて構成される。中空導体４の中空部５には、中空導体４を直接水で冷却するために冷却水出入口７を通じて超純水が流通する。この中空導体４を中実導体８と電気的、機械的に結合させるためにクリップ（銅製の枠）１が使用される。このクリップ１と中空導体４と中実導体８とは、ろう付けで接合される。ここで中実導体８と中空導体４とクリップ１とをろう付けするため、各導体の間に置きろう（ろう箔）３を設け、クリップカバー２で押し付けつつ、熱電対にて温度を計測しながら、所定の昇温手順で昇温を行う。これにより、ろうが溶融し、導体間やクリップ１と導体の間にろうが浸透して接合する。余剰なろうはろう溜まり６に溜まる。

特許第５０５４９１３号公報 特開平８−１０３０４６号公報 特開平１０−２１５５３４号公報

中空導体４の中空部５に溶融したろうが進入して孔を閉塞するのを防止するためには、例えば図５に示されるように置きろう３の先端部を中空導体４および中実導体８の各先端部よりも少し奥へ後退させて配置する。これに合わせて、図６に示される中空導体４および中実導体８を取り囲むクリップ１内の側壁１４（ろう溜まり６の側壁を含む）も奥へ後退させる。

このようにすると、中空導体４の中空部５にろうが侵入することは無いが、中空導体４と中実導体８との境界に空隙部１３が生じるため、この部分に冷却水が侵入して、滞留し、この部分で異種金属腐食現象が発生し、導体を溶解させてしまう。このような従来の方法は望ましいとは言えない。

本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、各導体間に冷却水が滞留することを抑制するとともに、中空導体の中空部にろうが侵入することを抑制することが可能な回転電機の電機子巻線およびそれを用いた回転電機、ならびにその製造方法を提供することを目的とする。

実施形態による電機子巻線は、複数の線状の中実導体および中空導体を、各先端部が１つの面を構成するように配置し、当該面をろうで被覆してなる電機子巻線において、前記中空導体の中空部へろうが流れ込むことを抑制する流れ防止剤が前記中空導体の内面の一部に塗布されていることを特徴とする。

各導体間に冷却水が滞留することを抑制するとともに、中空導体の中空部にろうが侵入することを抑制することが可能となる。

一実施形態に係る水冷却発電機の固定子コイルの端部の構成を示す縦断面図。 上記固定子コイルの端部をクリップ側から見た正面図。 上記固定子コイルの構成要素である中空導体の内面に流れ防止剤を塗布した状態を示す斜視図。 セラミック材の皮膜をさらに加えた場合の固定子コイルの端部の構成を示す縦断面図。 従来の水冷却発電機の固定子コイルの端部の構成を示す縦断面図。 従来の水冷却発電機の固定子コイルの端部をクリップ側から見た正面図。

以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。

図１は、一実施形態に係る水冷却発電機の固定子コイルの端部の構成を示す縦断面図であり、図２は、同固定子コイルの端部をクリップ側から見た正面図である。また、図３は、固定子コイルの構成要素である中空導体の内面に流れ防止剤を塗布した状態を示す斜視図である。なお、前述の図５、図６と共通する要素には同一の符号を付している。

固定子コイルは、クリップ１、クリップカバー２、置きろう３（もしくは溶融ろう９）、中空導体４、中空部５、ろう溜まり６、冷却水出入口７、中実導体８、流れ防止剤１０などを含む。図１に示される置きろう３は溶融する前のろう箔であり、図２に示される溶融ろう９はそのろう箔が溶融した後のものである。また、図１に示される皮膜１１は、溶融したろうが素線先端面上に流出して端面全体を覆ったものである。

水冷却発電機の固定子コイルは、複数の線状の中空導体４と中実導体８とを束ねて構成される。中空導体４の中空部５には、中空導体４を直接水で冷却するために冷却水出入口７を通じて超純水が流通する。この中空導体４を中実導体８と電気的、機械的に結合させるためにクリップ（銅製の枠）１が使用される。このクリップ１と中空導体４と中実導体８とは、ろう付けで接合される。ここで中実導体８と中空導体４とクリップ１とをろう付けするため、各導体の間に置きろう（ろう箔）３を設け、クリップカバー２で押し付けつつ、熱電対にて温度を計測しながら、所定の昇温手順で昇温を行う。これにより、ろうが溶融し、導体間やクリップ１と導体の間にろうが浸透して接合する。余剰なろうはろう溜まり６に溜まる。

特に本実施形態においては、中実導体８および中空導体４を、各先端部が１つの面を構成するように配置する。この面を素線先端面と称す。また、図１に示されるように置きろう３の先端部を素線先端面の位置に合わせて配置する。また、図２に示される中空導体４および中実導体８を取り囲むクリップ１内の側壁１４（ろう溜まり６の側壁を含む）も素線先端面の位置に合わせる。さらには、図３に示されるように、中空導体４の中空部５へろうが流れ込むことを防止する流れ防止剤１０が、中空導体４の内面の一部に塗布される。

このようにすると、置きろう３が溶融して中空導体４と中実導体８との境界部に浸透し空隙ができず、冷却水が侵入して、滞留し、異種金属腐食現象が発生し、導体を溶解させてしまうことを防ぐことができ、且つ、流れ防止剤１０により中空導体４の中空部５にろうが侵入することを防ぐことができる。

次に、固定子コイルの製造方法についてより具体的に説明する。

中空導体４と中実導体８とを編み、ろうの接合性を良くするために、素線導体の先端部を研磨材により研磨する。

この後、中空導体４の内面の一部にのみ、流れ防止剤１０を塗布する。

流れ防止剤１０は、アルミナ、チタニア、マグネシアなどの無機充填材と、水およびポリビニルアルコールなどの有機バインダーとが混合されたものであり、塗料ペイント状態である。この流れ防止剤１０は、ろう付け作業時の昇温過程で水および有機物が蒸発して気化消失し、無機材料が前記中空導体の内面に付着残留する性質を有する。

このような流れ防止剤１０を爪楊枝状の器具を用いて、中空導体４の内面にのみ塗布する。塗布する領域は、素線先端面から一定距離、例えば５ｍｍまでとする。この際、素線先端面には塗布しないようにする。誤って塗布した場合は、アルコールなどの溶剤を用いて除去する。

こうして準備された素線の束をクリップ（銅製の枠）１にはめ込み、クリップカバー２で押さえ付けて、素線の束を完全に覆う。この状態で高周波誘導加熱装置などを用いて、ろう付けを行う。このろう付け時には、固定子コイルのろう付けを実施する側と反対側からArなどの不活性ガスやH_２などの還元性ガスを流し、導体銅の酸化を防止しながら昇温する。

昇温時、100℃度前後で流れ防止剤１０の中の水が気化し始める。このとき生じる水蒸気は、先の不活性ガスなどによりクリップ１の外に排出される。

さらに、250〜350℃近傍で、ポリビニルアルコールなどの有機バインダーが熱分解しはじめる。このとき生じる炭酸ガスなどの気化したガスも先の不活性ガスなどにより排出される。

さらに昇温し、ろう付け温度である650℃前後に達したときには、中空導体４の内面に無機充填材のみが残存する。置きろう材は650℃から溶融し始め、クリップカバー２の差しろう付けなどを実施する温度730℃に達する頃には素線導体間の隙間に流れて入りこみ、さらに素線先端面上にもろうが流出してろうの皮膜１１が端面全体を覆う。ろうの流下時には、中空導体４の中空部５は、流れ防止剤１０の作用でろうの侵入が阻止される。

置きろうの溶融、流下で素線導体間への浸透したろうや素線先端面を覆ったろう以外のろうは、流下してクリップ１のろう溜まり部６に集まる。

ろう付けが終了した後、中空導体４の中空部５に残留している流れ防止剤１０は、無機物のみであり、その後の流水洗浄工程や発電機実運転時の超純水の流れでわずかに剥離し、流れるがその量は微小であり、中空導体４を閉塞することはない。また、無機物であり、流水の電導度を増加させることもない。さらに、数ミクロンメッシュを有するフィルターでトラップ可能であるため、ろう付け後に、流れ防止剤１０を除去する工程は不要となる。

なお、上述した製造方法は一例として挙げたものであり、これに限定されるものではない。例えば図４に示されるように、素線先端面をろうの皮膜１１で被覆した後、さらにセラミック材を溶射することでセラミック材の皮膜１２で被覆するようにしてもよい。このようにすると、かりにろうの皮膜１１に隙間ができたとしても、セラミック材の皮膜１２の保護により、冷却水の侵入、滞留、金属腐食などを防ぐことができ、耐食性を向上させることが可能となる。

以上詳述したように、本発明の実施形態によれば、各導体間に冷却水が滞留することを防止するとともに、中空導体の中空部にろうが侵入することを防止することが可能となる。

本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。

１…クリップ、２…クリップカバー、３…置きろう、４…中空導体、５…中空部、６…ろう溜まり、７…冷却水出入口、８…中実導体、９…溶融ろう、１０…流れ防止剤、１１…ろうの皮膜、１２…セラミック材の皮膜、１３…空隙部、１４…側壁。

Claims (11)

1. 複数の線状の中実導体および中空導体を、各先端部が１つの面を構成するように配置して、当該面をろうで被覆し、
   前記中空導体の中空部へろうが流れ込むことを防止する流れ防止剤が前記中空導体の内面の一部に塗布されていることを特徴とする電機子巻線。
2. 前記流れ防止剤は、前記中空導体の内面のうち、前記中空導体の孔端から奥へ一定距離進んだ所まで塗布されていることを特徴とする請求項１に記載の電機子巻線。
3. 前記流れ防止剤は、無機材料を含有するとともに、バインダーとしての有機物および水を含有することを特徴とする請求項１又は２に記載の電機子巻線。
4. 前記流れ防止剤は、ろう付け作業時の昇温過程で水および有機物が蒸発して気化消失し、無機材料が前記中空導体の内面に付着残留するものであることを特徴とする請求項１乃至３のいずれか１項に記載の電機子巻線。
5. 前記面をろうで被覆した後さらにセラミック材で溶射により被覆してなることを特徴とする請求項１乃至４のいずれか１項に記載の電機子巻線。
6. 請求項１乃至５のいずれか一項に記載の電機子巻線を備えることを特徴とする回転電機。
7. 複数の線状の中実導体および中空導体を、各先端部が１つの面を構成するようにクリップ内部に配置する工程と、
   前記中空導体の中空部へろうが流れ込むことを防止する流れ防止剤を前記中空導体の内面の一部に塗布する工程と、
   前記クリップを加熱して、前記中実導体および前記中空導体の各先端部をろうで被覆する工程と、
   を含むことを特徴とする電機子巻線の製造方法。
8. 前記流れ防止剤を塗布する工程は、前記中空導体の内面のうち、前記中空導体の孔端から奥へ一定距離進んだ所まで塗布する工程を含むことを特徴とする請求項７に記載の電機子巻線の製造方法。
9. 前記流れ防止剤は、無機材料を含有するとともに、バインダーとしての有機物および水を含有することを特徴とする請求項７又は８に記載の電機子巻線の製造方法。
10. 前記流れ防止剤は、ろう付け作業時の昇温過程で水および有機物が蒸発して気化消失し、無機材料が前記中空導体の内面に付着残留するものであることを特徴とする請求項７乃至９のいずれか１項に記載の電機子巻線の製造方法。
11. 前記面をろうで被覆した後さらにセラミック材で溶射により被覆する工程をさらに含むことを特徴とする請求項７乃至１０のいずれか１項に記載の電機子巻線の製造方法。

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