JP6069725B2 - 加熱用電極体、通電加熱装置及び通電加熱方法 - Google Patents

加熱用電極体、通電加熱装置及び通電加熱方法 Download PDF

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Description

本発明は、加熱される領域の左右幅又は厚みが奥行き方向によって変化する板材を通電加熱する際に用いられる加熱用電極体及び通電加熱装置と、板材を効率よく通電加熱する通電加熱方法に関する。
自動車の各種のピラーやリィンフォースメントなど車体構造物は、板材に熱処理を施し、その後プレス成形加工が施されて作製されている。その際、板材の左右幅が奥行き方向によらず略一定であって厚みが略一定であれば、板材の左右端部に電極をそれぞれ設置し、電極間に電流を流せばよい。板材の全面に略均一な電流が流れることから、通電により生じる発熱量が板材の各部位によらず等しくなる。これは単位時間当たりの発熱量が電流の2乗と抵抗との積に比例するからである。
一方、板材の左右幅が奥行き方向により異なる場合、板材の左右端部に電極をそれぞれ設置して電極間に電圧を印加すると、板材の左右方向に流れる電流は奥行き方向に異なる。よって、左右幅が短い領域の発熱量は、左右幅が広い領域のそれと比べて大きくなり、板材が均一に加熱されない。
特許文献1には、一つの部品のうち各部において形や厚みが互いに異なる異形部品を所定範囲内の温度になるように加熱する技術が開示されている。その技術によれば、例えば、幅方向に切断したときに得られる横断面の面積が長手方向に沿って変化しかつ均一厚さの異形部品を加熱する際には、この異形部品のうち幅方向の一端部及び他端部双方に、長手方向に等間隔に複数の電極を配置し、これら複数の電極のうち幅方向において向き合う一対の電極間それぞれに同一値の電流を流せばよいとされている。
特許第3587501号公報(例えば請求項1)
しかしながら、特許文献1の技術では次のような煩わしさがある。
第1に、幅方向において向き合う電極対を長手方向に間隔をあけて並べる必要がある。
第2に、各電極対に流れる電流を幅方向の寸法によらず一定にするため、電極対間に印加する電圧を調整する必要がある。そのためには、電極対毎に電圧を調整する手段を設けたり、または、電極対毎に電源を設けたりする必要がある。よって、設備コストが膨大となるばかりか、作業効率性も悪い。
また、特許文献1の技術では、左右幅が長手方向、つまり奥行き方向に細かく変化する場合、奥行き方向に沢山の電極を配置することになり、電極の奥行き方向の長さは非常に小さくなる。確かに、電極の奥行き方向の長さを小さくすれば、電流のばらつきが小さくなり、均一に加熱することができるかもしれない。しかしながら、電極の奥行き方向の長さは、実際には、5cm以上必要となり、板材の左右幅が奥行き方向に細かく変化している部材では、特許文献1の技術は実効的ではない。
そこで、本発明においては、加熱される領域の左右幅、厚みの少なくとも一方が奥行き方向で変化する板材を効率よく通電加熱する加熱用電極体、通電加熱装置及び通電加熱方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明に係る加熱用電極体は、加熱される領域の左右幅、厚みの何れか一方又は双方が奥行き方向で変化する板材を受け部と挟んで通電加熱する際に用いられ、加熱される領域における左右端間の抵抗の奥行き方向の差を補う補償用抵抗部と、補償用抵抗部を挟んで板材と逆側に配置される通電用電極部と、が一体化して構成されていることを特徴とする。
上記目的を達成するため、本発明に係る加熱用電極体は、加熱される領域の左右幅、厚みの何れか一方又は双方が奥行き方向に変化する板材であって、加熱される領域が複数の仮想領域に区分され、同じ仮想領域では左右端間の抵抗差が許容範囲内であり、隣接した仮想領域同士では左右端間の抵抗に差が生じる板材を受け部と挟んで通電加熱する際に用いられ、隣接した仮想領域同士の左右端間の抵抗の差を補うように、奥行き方向に仮想的に区分される補償用抵抗部であって、隣接する区分領域が異なった抵抗値を有する補償用抵抗部と、補償用抵抗部を挟んで板材と逆側に配置される通電用電極部と、が一体化して構成されており、加熱される領域の左端部、右端部の一方又は双方に補償用抵抗部が板材に接触するように配置されることにより板材の仮想領域と補償用抵抗部の区分領域とが電気的に直列接続されることを特徴とする。
上記構成において、好ましくは、隣接する区分領域の断面積、長さの何れか一方又は双方が異なるように、補償用抵抗部の寸法が設定されている。好ましくは、補償用抵抗部は、鋳鉄又はステンレス材で構成されている。補償用抵抗部に、板材との接触面と通電用電極部との接続面とをつなぐ方向に沿って一又は複数の長孔が形成されていれば、通電用電極部と板材との間に流れる電流の向きが制御できる。
上記目的を達成するため、本発明に係る通電加熱装置は、上述の加熱用電極体と該加熱用電極体に通電を行う電源とを備えたことを特徴とする。
上記構成において、さらに、パンチ及びダイを有するプレス機構を有する。
上記目的を達成するため、加熱される領域の左右幅、厚みの何れか一方又は双方が奥行き方向に変化する板材であって、加熱される領域が複数の仮想領域に区分され、同じ仮想領域では左右端間の抵抗差が許容範囲内であり、隣接した仮想領域同士では左右端間の抵抗に差が生じる板材を通電加熱する方法であって、加熱される領域の左端部と右端部とに加熱用電極体を配置する第1ステップと、加熱用電極体の対に電圧を印加する第2ステップと、を含んでおり、第1ステップでは、加熱用電極体の対のうち少なくとも一方に、隣接した仮想領域同士の左右端間の抵抗の差を補うように、奥行き方向に仮想的に区分される補償用抵抗部であって、隣接する区分領域が異なった抵抗値を有する補償用抵抗部を板材側に向けて配置し、受け部と補償用抵抗部とで板材を挟み、第2ステップにより、加熱される領域に流れる電流の密度が仮想領域によらず異ならないようにしたことを特徴とする。
本発明によれば、加熱される領域の左右幅、厚みが奥行き方向に変化していても、奥行き方向に変化する抵抗の差を補償用抵抗部で補い、加熱される領域の左端部、右端部の少なくとも一方に補償用抵抗部を配置することで、補償用抵抗部と板材とを直列接続し、その直列接続した両端の抵抗の差が奥行き方向で極力抑制されると評価されうるようにした。よって、その直列接続した両端間に、奥行き方向に実質上異ならないと評価され得る電流密度を流すことが容易になる。このような補償用抵抗部を含んだ加熱用電極体を加熱される領域の左端部、右端部の何れか一方に少なくとも配置すればよいので、作業の効率性が向上し、また、設備費の高騰を抑えることができる。
本発明の実施形態に係る通電加熱装置の模式図である。 本発明の実施形態で想定される板材の一例を示す平面図である。 本発明の実施形態に係る加熱用電極体を示し、(A)は側面図、(B)は背面図、(C)は平面図である。 板材の左端部への加熱用電極体の配置関係を示す模式図である。 本発明の実施形態に係る加熱用電極体のコンセプトを示すために、加熱対象となる板材を模式的に示す図である。 図3に示す加熱用電極体の機能を説明するための概念図である。 計算モデルを示し、(A)は実際のワークの形状を示す図であり、(B)はワークと加熱用電極体との関係を概念的に示す図である。 図7に示す計算モデルに関し、ワーク及び加熱用電極体の等価回路を示す図である。 (A),(B),(C)は補償用抵抗部における区分領域毎の抵抗が板材の抵抗の2倍,3倍,4倍となるように設定した場合における板材の仮想領域毎の温度分布を示すグラフである。 本発明が適用される板材の別例を示す平面図である。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
〔通電加熱装置の全体構成〕
図1は本発明の実施形態に係る通電加熱装置の模式図である。本発明の実施形態に係る通電加熱装置1は、板材wの左端部及び右端部にそれぞれ配置される加熱用電極体10L,10Rと、加熱用電極体10L,10R間に電圧を印加する電源21と、を備えている。図1に示す形態にあっては、さらに、加熱用電極体10L,10Rとの間で板材wを挟む受け部22L,22Rと、受け部22L,22Rを上下方向に移動するアクチュエータ23L,23Rと、アクチュエータ23L,23R及び電源21を制御する制御部24と、プレス機構25と、を備えている。プレス機構25には、板材wを押さえる板押さえ26と上下動するパンチ27が板材wの下側に配置され、カウンタパンチ28とダイ29とが板材wの上側に配置されている。よって、図1に示されている通電加熱装置1では、加熱用電極体10L,10Rから板材wに電圧を印加して板材wを通電加熱し、板材wが加熱されている状態でプレス機構25により板材wをプレス成形することができる。
〔板材〕
本発明の実施形態において想定される板材wについて説明する。板材wは、加熱される領域を有しており、その加熱される領域の左端と右端との間の抵抗が奥行き方向に変化する。以下の説明では、加熱される領域を単に「加熱領域」と表記する。板材wが均一な素材から成っており、例えば、左右幅、厚みの何れか一方又は双方が奥行き方向に変化している。ここで、抵抗、左右幅、厚みが「奥行き方向に変化している」とは、その値が奥行き方向に増加している場合でも減少している場合でも増加と減少とを繰り返している場合でもよく、奥行き方向の何れかに値が変化しない部分が含まれている場合でもよい。このような加熱領域は、奥行き方向に隣接するようにかつ次のような仮想領域に区分可能であり、同じ仮想領域では左端と右端との間の抵抗が同一と評価される範囲、即ち許容範囲内であり、隣接した仮想領域同士では左右端間の抵抗に差が生じる。このように、板材wにおいて加熱される領域は、左端と右端との間の抵抗が許容範囲内と評価され得る仮想領域に区分可能なものである。電気抵抗は、電流の流れる断面の断面積に反比例し、長さに比例するので、左端と右端との間の抵抗は、奥行き方向において隣接する仮想領域同士で異なる。ここで、左端と右端の間の抵抗が許容範囲であるか否かについては材料の組成、硬度などにより依存するものの、通電加熱して材料を処理した状態において同一の範囲と評価できればよく、仮想領域の区分を細分化して区分数を増加すれば、許容範囲内に収まる場合が殆どと考えられる。
以下、板材w全体が加熱領域として設定されており、板材wの左右端が奥行き方向に単調に減少しているような、平面視で台形状である場合を説明する。図2は、本発明の実施形態に係る台形状の板材wを示す平面図である。図2に示すように、板材wは、左右幅方向に対応するX方向と奥行き方向に対応するY方向の長さを有し、奥行き方向Yに進むにつれて左右幅方向Xの寸法が減少している。説明を簡略するために、板材wの厚みが変化しないとする。なお、板材wの厚みが変化しているときも、仮想領域内では左右端の間の抵抗が等しいと評価できるように、奥行き方向に沿って複数の仮想領域に区分して考えればよい。
図2に示す板材wは、平面視で台形状の仮想領域Siに区分可能であり、各仮想領域Siの左右幅が異なることから、各仮想領域Siの左端と右端との間の抵抗は仮想領域毎に異なっている。なお、説明上板材wの上底、下底が平面視で直線状になっているが、必ずしもその必要はない。仮想領域Siの添え字iは仮想領域の番号を示しており1〜nの整数である。
〔加熱用電極体〕
図3は本発明の実施形態に係る加熱用電極体を示し、(A)は側面図、(B)は背面図、(C)は平面図である。図4は、板材の左端部への加熱用電極体の配置関係を示す模式図である。
本発明の実施形態に係る加熱用電極体10は、図3に示すように、補償用抵抗部11と通電用電極部12とを備えている。補償用抵抗部11は、図4に示すように板材wの左右各端部に配置されるものである。補償用抵抗部11は、奥行き方向に隣接する仮想領域Siの左右端間の抵抗の差を補うように、奥行き方向に仮想的に複数に区分され、その隣接する区分領域は異なった抵抗値を有する。すなわち、補償用抵抗部11は、板材wの各仮想領域Siの左右端間の抵抗が奥行き方向で異なっているため、隣接する仮想領域同士の抵抗差を補うように、補償用抵抗部11は仮想領域の区分に対応した区分領域に分けられている。仮想領域Siの左右端部の一方又は双方に補償用抵抗部の区分領域が電気的に直列接続されることにより、その直列接続された両端の抵抗は奥行き方向で異ならない。一方、通電用電極部12は、補償用抵抗部11を挟んで板材wと逆側に配置されるものであり、補償用抵抗部11はこの補償用抵抗部11が板材wと接触する面、即ち接触面11Aと逆側の接続面11Bで通電用電極部12に接続されている。補償用抵抗部11と通電用電極部12とは接続面11B,12Bでろう付けなどにより一体化されている。ここで、加熱用電極体10は、板材wの左右端で奥行き全幅に亘って配置されるが、補償用抵抗部11は板材wの左右各端部に奥行き全幅にわたって配置される必要はなく、通電用電極部12が部分的に板材wに接してもよい。
本発明の実施形態における補償用抵抗部11を説明する前提として、本発明のコンセプトについて説明する。図5は本発明の実施形態に係る加熱用電極体のコンセプトを示すために、加熱対象となる板材を模式的に示す図である。図5に示すように板材wが平面視で台形状を呈しているとする。上底がLb,下底がLaの台形は、点線で示す左側の三角形と右側の三角形を切り欠いたものとして表すことができる。そこで、板材wの左端に補償用抵抗部11となる補償板waを接続し、板材wの右側に補償用抵抗部11となる補償板wbを接続したとすると、板材wと補償板wa,wbとにより左右幅が奥行き方向に変化しないで一定の長さLaとすることができる。ここで、補償板wa,wbの厚みは板材wの厚みと等しいと評価できるものとし、その材質も板材wの材質と同じものとする。このように、左右幅が奥行き方向に異なっているが厚みが均一と評価できれば、板材wの左右にそれぞれ補償板wa,wbを取り付け、その際、板材w,補償板wa,wbの上面及び下面を面一にしておき、補償板wa,wbの左右側面に通電用電極部(図5には示さず)をそれぞれ配置して、通電用電極部の対に電圧を印加すれば、板材wは奥行き方向に左右端の抵抗が異なっていても、板材wには密度が等しい電流が流れる。こうして通電加熱を行うことで、台形状の板材wをほぼ均一に加熱することができる。
図5に示す態様にあっては、補償板wa,wbは通電により板材wと同じ温度(例えば900℃程度前後)まで加熱されるので、補償板wa,wbの電気的特性も変化してしまい、板材wへの通電回数に応じて取り替えなければならない。また、補償板wa,wbの厚みは板材wと同様、小さく、例えば1.2mm〜1.6mmであるので、板材wの左右端にそれぞれ補償板wa,wbを配置し、しかも、板材wの上面、下面に連続するようにセットすることが難しい。仮に、補償板wa,wbにそれぞれ水冷等の冷却機構を備えてもよいが、板材wは通電中冷却しないのにもかかわらず補償板wa,wbを冷却すると、板材wと補償板wa,wbとは抵抗が同一視出来なくなってしまう。
そこで、繰り返し使用することが可能な加熱用電極体11について図3を参照して説明する。通電用電極部12は、銅材など抵抗率が小さい素材で構成されている。加熱対象である板材wと補償用抵抗部11とに、安定した電流を供給することができるからである。通電用電極部12には冷却管を貫通して設けたり又は冷却水路を形成して設けたりすることで、水冷してもよい。通電用電極部12の昇温を抑制し、通電用電極部12の電気的な特性が変化しないためである。
図6は図3に示す加熱用電極体10の機能を説明するための概念図である。加熱用電極体10のうち補償用抵抗部11は、板材wの仮想領域毎に対応して複数の区分領域に区分け可能であり、奥行き方向で隣接している区分領域同士は異なる抵抗を有している。板材wは、前述したように、図6に示すように仮想領域毎に抵抗Ri(i=1〜n)に仮想的に区分けできる。ここで、Rの添え字iは1〜nまでの整数であり、nは仮想領域の数であり、抵抗Riはi番目の仮想領域Siにおける左右端間の抵抗を示している。
補償用抵抗部11は、板材w、つまり加熱される領域の仮想領域に応じて複数の区分領域に区分けされており、その区分領域は、仮想領域における左右端間の抵抗に応じてRia又はRibの抵抗を有する。ここで、Ria,Ribはi番目の区分領域の抵抗を示し、aは板材wの左端部に対応しており、bは板材wの右端部に対応していることを示している。板材wが左右端部を仮想的に重ねるようにしたときの仮想中心線に対して左右対称である場合には、抵抗Riaと抵抗Ribとを等しくすることができるので、板材wの左端部に設けられる加熱用電極体10Lと板材wの右端部に設けられる加熱用通電体10Rとは同じものであってもよい。
補償用抵抗部11は、例えば、奥行き方向に沿って抵抗Ria,Ribが何番目の仮想領域に対応して設けられているかにより抵抗値が異なるように設計される。補償用抵抗部11が板材wの左右端部にそれぞれ配置されるので、その両端、つまり、左側の加熱用電極体10Lの補償用抵抗部11と板材wと右側の加熱用電極体10Rの補償用抵抗部11とは直列接続されたものとみなすことができ、左側の補償用抵抗部11における区分領域の抵抗Riaと板材wの仮想領域の抵抗Riと右側の補償用抵抗部11における区分領域の抵抗Ribとが直列接続されたものとして扱うことができる。よって、左右の補償用抵抗部11a、11bとの両端の抵抗は、補償用抵抗部11aの区分領域の抵抗Riaと板材wの仮想領域の抵抗Riと補償用抵抗部11bの区分領域の抵抗体Ribとの和となる。
いま、板材wの仮想領域の抵抗Riは、奥行き方向に隣接する仮想領域同士で異なるので、上記抵抗の和が添え字iによらず等しくなるよう、抵抗Riaと抵抗Ribの各値を設定すればよい。すると、加熱用電極体10L,10Rを板材wの加熱領域の左端部及び右端部に配置することで、補償用抵抗部11a,11b間に等しい電圧を加えても、仮想領域と区分領域とを直列接続したもの同士の抵抗が等しいので、板材wの加熱領域には、場所によらず等しいと評価し得る電流密度が流れる。
補償用抵抗部11がその奥行き方向の各領域、即ち区分領域に応じて抵抗値を有するようにするためには幾つか考えられるが、例えば区分領域毎に断面積、長さの何れか一方又は双方を異ならせるよう寸法設定すればよい。具体的には、各区分領域において図3に示すように、板材wとの接触面11Aから通電用電極側端面11Bまでの長さを調整することにより補償用抵抗部11中で電流が流れる距離を変えたり、図示を省略するが奥行き方向に厚みを調整したりすることで実現される。その際、第1の仮想領域S1の抵抗R1はゼロとなるように寸法設定してもよい。即ち、図3に示すように、奥行き方向に沿って補償用抵抗部が存在せず、接触面11Aと面一の位置に通電用電極部12の板材wへの接触面12Aがあってもよい。
補償用抵抗部11は、常温で抵抗率が板材wよりも高い素材で構成される。これは、板材wが通常鋼材等であるので、鋼材よりも抵抗率が高い方が、仮想領域毎の左右端間の抵抗差を補うのに好都合だからである。
特に、補償用抵抗部11の素材は、鋳鉄又はステンレス材で構成されていることが好ましい。鋳鉄やステンレス材は熱伝導度が板材wより悪く、板材wが直接接触する補償用抵抗部11に熱が流れ難くなる。板材wに流れる電流の密度を仮想領域毎に拠らず等しいと評価されるようにしているので、補償用抵抗部11が板材wからの熱を奪わないからである。
図3に示す加熱用電極体10では、補償用抵抗部11に長孔11Cが、奥行き方向と交差、好ましくは直交する方向に沿って一又は複数設けられている。補償用抵抗部11のうち、板材wと接触しない側の一端には、通電用電極部12が全区分領域に亘り設けられている。これにより、どの区分領域にも等しい電圧が加わり、電流が流れるように設計される。電流は最も抵抗が低くなる方向に流れるので、長孔11Cを構成する部位に対し、長孔11Cの孔の長手方向に沿って電流が流れるようにするためである。
一方、通電用電極部12は、補償用抵抗部11と比べて抵抗成分を無視しうるよう、銅などで構成される。通電用電極部12は図3に示すように、加熱用電極体10全体で、上端と下端との距離が奥行き方向で異ならないよう、補償用抵抗部11の区分領域の長さの差分を補うように長さ調整される。なお、通電用電極部12の厚さは補償用抵抗部11の厚みよりも厚い。通電用電極部12は良導体であって強度を確保しかつ取付穴を設ける必要性から厚くし、補償用抵抗部11は抵抗体であって比較的強度を有しており、短距離で所定の抵抗値を得る必要性から薄くしている。
通電用電極部12は、電源21からの配線に接続できるよう、電気伝導性のある基台13上に設置される(図3参照)。通電用電極部12には、基台13が通電用電極部12上に固定できるよう取付用穴12Cが設けられ、基台に対してネジ等の取付具14で締結される。通電用電極部12は通電による温度上昇を防止するために、水冷パイプ(図示せず)を挿通するための水冷パイプ用取付孔12Dが穿設されている。
加熱用電極体10は、補償用抵抗部11と通電用電極部12とが傾斜した接続面11B,12Bでろう付けにより接続され一体化されている。
〔通電加熱方法〕
このような通電加熱装置1を用いて板材wを通電加熱する方法について説明する。板材wは、前述のように、左右幅、厚みの何れか一方又は双方が奥行き方向で異なっており、それゆえ、加熱される領域の左端と右端との間の抵抗が奥行き方向に変化している。しかしながら、加熱される領域は奥行き方向に隣接する複数の仮想領域に区分され、仮想領域は同一領域では左右端間の抵抗差が許容範囲内であると評価され、隣接する仮想領域では左右端間の抵抗に差が生じている。いま、加熱される領域が板材w全体に設定されているとする。
先ず、第1ステップとして、図1に示すように、板材wの左端部と右端部とに図3に示す加熱用電極体10L,10Rを配置する。その際、各補償用抵抗部11を板材w側に向けておく。
第2ステップとして、加熱用電極体10L,10Rの対に電源21から電圧を印加する。すると、加熱用電極体10Lの補償用抵抗部11と加熱用電極体10Rの補償用抵抗部11との間の抵抗が奥行き方向で略等しいと評価できるようになる。よって、板材wにおける各仮想領域に流れる電流密度が仮想領域毎に異ならないと評価し得る範囲内に収められる。従って、仮想領域の左右端間の抵抗が、それに隣接する仮想領域の左右端間の抵抗と異なっていても、仮想領域によらずほぼ等しいと評価し得る範囲内で板材wを均一に加熱することができる。
このように、本発明の実施形態によれば、板材wが奥行き方向に左右幅、厚みが変化していても、その左右幅、厚みの変化により生じる抵抗差を補償用抵抗部11で補い、補償用抵抗部11を板材wの左端部、右端部に配置することで、補償用抵抗部11と板材wとを直列接続し、その直列接続した両端の抵抗が奥行き方向で異ならないと評価されうるようにした。よって、その直列接続した両端間で、奥行き方向に異ならないと評価され得る電流密度を流すことが容易になる。加熱用電極体11はこのような補償用抵抗部11を備えているので、加熱用電極体10を板材wの左端部、右端部の全長に亘って配置すればよく、作業の効率性が向上し、また、設備費の高騰を抑えることができる。
補償用抵抗部が板材wに対してどの程度の抵抗値を有していればよいか計算により検討した。図7は計算モデルを示し、(A)は実際のワークの形状を示す図であり、(B)はワークと加熱用電極体との関係を概念的に示す図である。図8は計算モデルに関し、ワーク及び加熱用電極体の等価回路を示す図である。図示するように、板材wは均一な厚みtを有し、平面視において下底Laが上底Lbより短い等脚台形状であるとする。上底及び下底の左端同士、右端同士を結ぶ線分が高さ方向に対して角度kθをなし、その線分に沿って電極長hを有する加熱用電極体10が配置される状態を想定した。
加熱用電極体10は奥行き方向に沿って5等分され、図7(A)に符号10a乃至10eで模式的に示しており、それに伴い、補償用抵抗部を4等分し、加熱用電極体の5等分のうち1等分については補償用抵抗部を設けないこととした。補償用抵抗部の1等分毎に、板材wが4短冊直接接続されている。なお、板材wの右端にも加熱用電極体10を5等分したものが配置されるが、図7(A)には示していない。
等価回路的には、図8に示すように、板材wの抵抗R1〜R20のうち順に4つの抵抗が並列接続され、抵抗R1〜R4を除いた抵抗R5〜R8、抵抗R9〜R12、抵抗R13〜R16、抵抗R17〜R20の各並列接続に対して、それぞれ補償用抵抗部11の各区分領域の抵抗R2a,R2bの対,抵抗R3a,R3bの対,抵抗R4a,R4bの対,抵抗R5a,R5bの対が直列に接続されている。
この等価回路に対して、通電時間により板材wの抵抗R1〜R20の各値を有する仮想領域に電流が流れ、ジュール熱により発生した熱が、その仮想領域の温度上昇に使用されたとして、仮想領域毎の上昇温度を計算した。
板材wの寸法設定は次のようにした。平面視で等脚台形の上底と下底とを結ぶ線分の長さをhに等しいとして50mmとし、この線分が高さ方向に対してなす角度kθを27度とし、上底の長さを最短電極間隔Lに等しいとして200mmとし、厚みtを0.6mmとした。材質としては0.06%Cのキルド鋼とした。
補償用抵抗部11の各区分領域の抵抗については、ワークの切り欠き部wa,wbの常温抵抗の2〜4倍に相当する固定抵抗とし、図7(B)及び図8ではR2a,R3a,R4a,R5a,R2b,R3b,R4b,R5bで示している。なお、補償抵抗部11は、切り欠き部の抵抗の2〜4倍になるように長さを区分領域毎に変えているが、断面積を区分領域毎に変えてもよい。
ここで、R5a=ρ×L/(h5×t)×倍率[Ω]とし、R2a等についても対応するLの長さを代入することで求まる。なお、ρはワークの常温での抵抗率、h5は区分の奥行き方向の長さ、tはワークwの厚さである。補償用抵抗の各値R2a,R3a,R4a,R5a,R2b,R3b,R4b,R5bは、補償用抵抗部の温度が200℃となることを想定して、ステンレス抵抗率を9.49×10-7Ω・mとした。
補償用抵抗部11の区分領域毎の抵抗を切り欠き部wa,wbの区分幅の常温抵抗の2倍,3倍,4倍の各値となるよう設定した。
図9(A),(B),(C)は、補償用抵抗部における区分領域毎の抵抗が板材wの抵抗の2倍,3倍,4倍となるように設定した場合における板材wの仮想領域毎の温度分布を示すグラフである。
抵抗を2倍、3倍、4倍と大きくすることにより、仮想領域毎の温度差が約890℃〜940℃強、896℃〜935℃,905℃〜927℃となり、補償用抵抗部11の区分領域毎の抵抗を板材wの抵抗の2〜4倍の範囲とすることにより、板材wの仮想領域毎の温度差も小さく、許容範囲内に収めることができる。なお、補償用抵抗部11の区分領域毎の抵抗を板材wの抵抗の5倍とすると、補償用抵抗部11での損失が大きくなるので好ましくない。
補償用抵抗部11は、抵抗率の大きいステンレス、鋳鉄で構成されることが好ましい。これにより、板材wとの接触面積を大きくし、かつ、補償用抵抗部11が抵抗成分を有するものの隣接した通電用電極部12を水冷することで、補償用抵抗部11の温度を板材wの加熱温度まで上昇させずに、補償用抵抗部を実質的に固定抵抗として扱うことができる。また、補償用抵抗部11の温度を200℃以下とすることにより、補償用抵抗部11を極力酸化させないようにできる。補償用抵抗部11がたとえ酸化したとしても板材wへ補償用抵抗部11を接触させて押圧するので酸化膜が剥離し、酸化の影響は小さくなる。
補償用抵抗部11を仮に板材wと同じ温度領域まで加熱すると、温度上昇により抵抗が急激に大きくなるが、補償用抵抗部11をステンレス、鋳鉄で作製し間接的に水冷することで温度が所定以下とでき、補償用抵抗部11による電力損失も抑えられる。
補償用抵抗部11のうち板材wと接触する面などには銅メッキを施すことで、補償用抵抗部11の板材wへの接触性が向上するので、部分的な非接触による接触抵抗を小さくすることができる。
補償用抵抗部11には、図3に示すように、長穴11Cを形成することに加え、各区分領域に電流が区分けされるように、板材wとの接触面側に小さなスリット11Dを設けてもよい。
補償用抵抗部11は板材wとは異なる材質で作製されているので、補償用抵抗部11の温度は板材wまで上昇せず、補償用抵抗部11を加熱毎に取り替える必要がない。
本発明は上記の実施形態に限定されるものでなく、発明の範囲内で種々設計変更した形態が含まれる。上記説明では、板材wの左右端部が左右端からの等距離にある軸に対して対称となっているので、各端部に加熱用電極体10を配置しているが、板材wの左右の何れか一方側だけを切り欠いている場合にはその切り欠いた側のみに補償用抵抗部11を備えた加熱用電極体10を配置し、切り欠いていない側の端部には通電用電極部12のみを直接板材wに接触してもよい。また、板材wが左右対称でなくても一方の補償用抵抗部11に抵抗差を補うだけの抵抗を有するようにしてもよい。
以上の説明では、板材の全体が加熱される場合を説明している。しかしながら、板材の或る特定の領域が加熱領域として設定されている場合でも本発明を適用することができる。その際には、「板材の左右幅」を「加熱領域の左右幅」とすればよく、加熱用電極体を加熱領域の左端部や右端部に配置すればよい。
また、図2、図5、図7に示した板材wは平面視において互いに対向する線が略平行であり、板材wの左右幅は奥行き方向に沿って増加又は減少している。しかしながら、本発明の実施形態は、前述したように図2、図5、図7に模式的に示す場合に限定されず、図10に示すように、平面視において、手前端の左右幅をLcとし、奥端の左右幅をLbとし、ほぼ中間での左右幅をLaとすると、Lc<Lb<Laの関係を満たすように、加熱領域の左右幅が奥行き方向に一定と評価されずに、変化しているか、又は、加熱領域の左右幅ではなく加熱領域の厚みだけが変化しているか、加熱領域の左右幅及び厚みが一定と評価されず何れも変化していてもよい。
また、加熱領域の奥行き方向に平行な断面が、加熱領域の手前からの距離に応じて変化していれば、本発明の実施形態に係る加熱用電極体、通電加熱装置及び通電加熱方法を適用することができる。
さらに、板材wに設定される加熱領域が平面視において対向する線が略平行でなくても、加熱される領域が奥行き方向に隣接する仮想領域に区分され、同じ仮想領域であれば左右端間の抵抗差が許容範囲内であり、隣接する仮想領域では左右端間の抵抗に差が生じるような板材wであれば、本発明の実施形態に係る加熱用電極体を用いて、加熱領域を略均一に加熱することができる。
1:通電加熱装置
10,10L,10R:加熱用電極体
11:補償用抵抗部
11A:接触面
11B:接続面
11C:長孔
11D:スリット
12:通電用電極部
12A:接触面
12B:接続面
12C:取付用穴
12D:水冷パイプ用取付孔
13:基台
14:取付具
21:電源
22L,22R:受け部
23L,23R:アクチュエータ
24:制御部
25:プレス機構
26:板押さえ
27:パンチ
28:カウンタパンチ
29:ダイ
Si:仮想領域
w:板材
wa,wb:補償板(切り欠き部)

Claims (8)

  1. 加熱される領域の左右幅、厚みの何れか一方又は双方が奥行き方向で変化する板材を受け部と挟んで通電加熱する際に用いられ、
    記加熱される領域における左右端間の抵抗の奥行き方向の差を補う補償用抵抗部と、前記補償用抵抗部を挟んで記板材と逆側に配置される通電用電極部と、が一体化して構成されている、加熱用電極体。
  2. 加熱される領域の左右幅、厚みの何れか一方又は双方が奥行き方向に変化する板材であって、記加熱される領域が複数の仮想領域に区分され、同じ仮想領域では左右端間の抵抗差が許容範囲内であり、隣接した仮想領域同士では左右端間の抵抗に差が生じる記板材を受け部と挟んで通電加熱する際に用いられ、
    隣接した仮想領域同士の左右端間の抵抗の差を補うように、奥行き方向に仮想的に区分される補償用抵抗部であって、隣接する区分領域が異なった抵抗値を有する記補償用抵抗部と、記補償用抵抗部を挟んで記板材と逆側に配置される通電用電極部と、が一体化して構成されており
    記加熱される領域の左端部、右端部の一方又は双方に記補償用抵抗部が記板材に接触するように配置されることにより記板材の仮想領域と記補償用抵抗部の区分領域とが電気的に直列接続される、加熱用電極体。
  3. 隣接する前記区分領域の断面積、長さの何れか一方又は双方が異なるように、前記補償用抵抗部の寸法が設定されている、請求項2に記載の加熱用電極体。
  4. 前記補償用抵抗部が、鋳鉄又はステンレス材で構成されている、請求項1又は2に記載の加熱用電極体。
  5. 前記補償用抵抗部には、前記板材との接触面と前記通電用電極部との接続面とをつなぐ方向に沿って一又は複数の長孔が形成されていることにより、前記通電用電極部と前記板材との間に流れる電流の向きを制御する、請求項1又は2に記載の加熱用電極体。
  6. 請求項1乃至5の何れかに記載の加熱用電極体と、前記加熱用電極体に通電を行う電源と、を備えた、通電加熱装置。
  7. さらに、パンチ及びダイを有するプレス機構を有する、請求項6に記載の通電加熱装置。
  8. 加熱される領域の左右幅、厚みの何れか一方又は双方が奥行き方向に変化する板材であって、記加熱される領域が複数の仮想領域に区分され、同じ仮想領域では左右端間の抵抗差が許容範囲内であり、隣接した仮想領域同士では左右端間の抵抗に差が生じる記板材を通電加熱する方法であって、
    記加熱される領域の左端部と右端部とに加熱用電極体を配置する第1ステップと、
    記加熱用電極体の対に電圧を印加する第2ステップと、
    を含んでおり、
    記第1ステップでは、記加熱用電極体の対のうち少なくとも一方に、隣接した仮想領域同士の左右端間の抵抗の差を補うように、奥行き方向に仮想的に区分される補償用抵抗部であって、隣接する区分領域が異なった抵抗値を有する補償用抵抗部を板材側に向けて配置し、受け部と前記補償用抵抗部とで前記板材を挟み、
    記第2ステップにより、記加熱される領域に流れる電流の密度が前記仮想領域によらず異ならないようにした、通電加熱方法。
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