(実施例1)
本発明によるドグクラッチ用シフトディテント装置を備えた自動変速機を車両に適用した実施形態について図面を参照して以下に説明する。図1はその車両の構成を示す概要図である。
車両Mは、図1に示すように、エンジン11、クラッチ12、自動変速機13、ディファレンシャル装置14、駆動輪(左右前輪)Wfl,Wfrを含んで構成されている。エンジン11は、燃料の燃焼によって駆動力を発生させるものである。エンジン11の駆動力は、クラッチ12、自動変速機13、及びディファレンシャル装置14を介して駆動輪Wfl,Wfrに伝達されるように構成されている(いわゆるFF車両である)。
クラッチ12は、制御装置(ECU)10の指令に応じて自動で断接されるように構成されている。自動変速機13は、ドグクラッチ機構を組み込んで例えば前進6段、後進1段を自動的に選択するものである。ディファレンシャル装置14は、ファイナルギヤ及びディファレンシャルギヤの両方を含んで構成されており、自動変速機13と一体的に形成されている。
自動変速機13は、図2に示すように、ハウジング22、入力シャフト(回転軸)24、第1入力ギヤ26、第2入力ギヤ28、第3クラッチリング(第3入力ギヤ)30、第4クラッチリング(第4入力ギヤ)32、クラッチハブ(ハブ)34、スリーブ36、ストローク位置センサ38、シフトディテント装置58を備えた軸動装置40、出力シャフト(出力軸)42、クラッチハブ43、第1クラッチリング(第1出力ギヤ)44、スリーブ45、第2クラッチリング(第2出力ギヤ)46、第3出力ギヤ48及び第4出力ギヤ50を含んで構成されている。そして、第1クラッチリング(第1出力ギヤ)44、第2クラッチリング(第2出力ギヤ)46、クラッチハブ(ハブ)43、スリーブ45、軸動装置(図略)等により第1のドグクラッチ機構が構成され、第3クラッチリング(第3入力ギヤ)30、第4クラッチリング(第4入力ギヤ)32、クラッチハブ(ハブ)34、スリーブ36、ストローク位置センサ38、及び軸動装置40等により第2のドグクラッチ機構が構成される。
ハウジング22は、ほぼ有底円筒状に形成された本体22a、本体22aの底壁である第1壁22b、及び本体22a内を左右方向に区画する第2壁22cを含んで構成されている。
入力シャフト24は、ハウジング22に回転自在に支承されている。すなわち、入力シャフト24の一端(左端)が軸受22b1を介して第1壁22bに軸承され、入力シャフト24の他端(右端)側が軸受22c1を介して第2壁22cに軸承されている。入力シャフト24の他端は、クラッチ12を介してエンジン11の出力軸(図略)に回転連結されている。よって、エンジン11の出力はクラッチ12が接続されているときに入力シャフト24に入力される。入力シャフト24が本願発明の回転軸である。なお、本実施形態における入力シャフト(回転軸)24は、自動変速機13の入力軸に直結して回転連結され、軸線CL回りに回転可能に軸承されるものである。
入力シャフト24には、第1入力ギヤ26、第2入力ギヤ28、第3クラッチリング(第3入力ギヤ)30、及び第4クラッチリング(第4入力ギヤ)32が設けられている。第1及び第2入力ギヤ26,28は、スプライン嵌合等で入力シャフト24に対して相対回転不能に固定されている。第3入力ギヤは、入力シャフト24に対して回転自在に支承される第3クラッチリング30の外周に形成されている。第4入力ギヤは入力シャフト24に対して回転自在に支承される第4クラッチリング32の外周に形成されている。さらに、入力シャフト24には、第3クラッチリング30と第4クラッチリング32との間にこれらと隣接して、クラッチハブ(ハブ)34がスプライン嵌合等で相対回転不能に固定されている。第3入力ギヤ(第3クラッチリング)30は後述する第3出力ギヤと噛合し、第4入力ギヤ(第4クラッチリング)32は、後述する第4出力ギヤ50と噛合する。
ハウジング22には入力シャフト24と平行して出力シャフト42が設けられている。出力シャフト(出力軸)42は、ハウジング22に回転自在に支承されている。すなわち、出力シャフト42の一端(左端)が軸受22b2を介して第1壁22bに軸承され、出力シャフト42の他端(右端)が軸受22c2を介して第2壁22cに軸承されている。
出力シャフト42には、第1クラッチリング(第1出力ギヤ)44、第2クラッチリング(第2出力ギヤ)46、第3出力ギヤ48、第4出力ギヤ50及び第5出力ギヤ52が設けられている。第1クラッチリング(第1出力ギヤ)44は第1入力ギヤ26と噛合するものであり、外周面には第1入力ギヤ26と噛合するヘリカルギヤが形成されている。第2クラッチリング(第2出力ギヤ)46は第2入力ギヤ28と噛合するものであり、外周面には第2入力ギヤ28と噛合するヘリカルギヤが形成されている。第3出力ギヤ48は第3クラッチリング(第3入力ギヤ)30と噛合するものであり、外周面には第3クラッチリング(第3入力ギヤ)30と噛合するヘリカルギヤが形成されている。第4出力ギヤ50は第4クラッチリング(第4入力ギヤ)32と噛合するものであり、外周面には第4クラッチリング(第4入力ギヤ)32と噛合するヘリカルギヤが形成されている。第5出力ギヤ は、ディファレンシャル装置14の入力ギヤ(図示省略)と噛合するものであり、外周面にはその入力ギヤと噛合するヘリカルギヤが形成されている。第1クラッチリング44のクラッチハブ43と対向する面(噛合部)にはリング状の第1ドグクラッチ部44aが形成されている。第2クラッチリング46のクラッチハブ43と対向する面(噛合部)にはリング状の第2ドグクラッチ部46aが形成されている。
第1クラッチリング44と第2クラッチリング46との間にこれらと隣接して、クラッチハブ(ハブ)43がスプライン嵌合等で出力シャフト42に固定されている。第1クラッチリング44、第2クラッチリング46及びクラッチハブ43等の構成は、入力シャフト24における第3クラッチリング30、第4クラッチリング32及びクラッチハブ34と同様であるので説明を省略する。第3出力ギヤ48、第4出力ギヤ50及び第5出力ギヤ52は、スプライン嵌合等で出力シャフト42に固定されている。エンジン11の駆動力は、入力シャフト24から入力し、出力シャフト42に伝達し最終的に第5出力ギヤ52を介してディファレンシャル装置14に出力される。
入力シャフト24の第2のドグクラッチ機構と、出力シャフト42の第1のドグクラッチ機構とは同様な構成なので、入力シャフト24の第2のドグクラッチ機構を代表して説明する。
入力シャフト24には、クラッチハブ34がスプライン嵌合(図略)によって一体回転可能に支持されている。クラッチハブ34は、図4及び図6に示すように、入力シャフト24とスプライン嵌合する嵌合穴(スプライン形状省略)35を有するとともに、平たい円柱状に形成され、クラッチハブ34の外周面にはスプライン歯34aが形成されている。スプライン歯34aは円周方向に同一のピッチで12本形成され、各スプライン歯34aは同一の歯先円の径で形成されている。スプライン歯34aの歯底円の径は、スリーブ36の高歯36a1及び低歯36a2が、共に噛合可能な深さの噛合溝34a1となるよう、すべて同一に形成されている。クラッチハブ34のスプライン歯34aにはスリーブ36の内歯(スプライン)36aがスライド自在に係合される。
スリーブ36は略円環状に形成され、スリーブ36の外周には軸動装置40のシフトフォーク40a(図2参照)が摺動可能に係合する外周溝36bが円周方向に形成されている。スリーブ36の内周に形成された内歯36aは、図4及び図7に示すように、歯底円の径が同一に形成されるとともに、円周方向に同一のピッチで合計12本形成されている。内歯36aは歯丈の異なる高歯36a1と低歯36a2とを備え、歯丈の高い高歯36a1は円周上に180度で対向して一対形成されている。その他10本の低歯36a2は同一の歯丈で高歯36a1よりも低い歯丈で形成されている。スリーブ36の第3及び第4クラッチリング30,32に対向する端面(前端面36a4)であって、高歯36a1及び低歯36a2の軸線CLに直角な面が回転方向の前後に有する角には、回転方向に対して45度の面取面36a3が形成されている(図7参照)。これによって、第3、第4クラッチリング30,32の後述するドグクラッチ歯との衝撃で角部が欠落しないようになっている。隣り合う高歯36a1と低歯36a2との間、及び隣り合う低歯36a2の間には歯溝36a5が形成されている。これらの歯溝36a5には、後述する第3クラッチリング30のクラッチ前歯30b1及びクラッチ後歯30b2が嵌合する。スリーブ36の高歯36a1及び低歯36a2が前記クラッチハブ34の噛合溝34a1に係合する。
入力シャフト24にはクラッチハブ34に隣接する両側には第3クラッチリング30及び第4クラッチリング32が設けられている。なお、第3クラッチリング30と第4クラッチリング32とは、クラッチハブ34を中心にして略対称の構造なので、第3クラッチリング30について代表して説明する。
第3クラッチリング30は、図4及び図5に示すように、入力シャフト24にベアリング(図略)を介して相対回転自在かつ軸線CL方向の相対移動不能に設けられている。第3クラッチリング30の外周面に形成された第3入力ギヤは、入力シャフト24に対して相対回転自在に回転する遊転ギヤを構成する。第3クラッチリング30のクラッチハブ34と対向する面(噛合部)にはリング状の第3ドグクラッチ部30aが形成されている。第3ドグクラッチ部30aの外周にはスリーブ36の内歯36aと噛み合う複数のドグクラッチ歯30bが形成されている。ドグクラッチ歯30bは、歯丈の異なる2種類のクラッチ前歯30b1及びクラッチ後歯30b2を備えている。また、ドグクラッチ歯30bは、それぞれ同一の歯底円の径で、かつ円周方向に同じピッチで形成されている。クラッチ前歯30b1は、円周方向に180度回転する対向位置に一対(2本)設けられている。クラッチ前歯30b1は、歯先円の外径が、前記スリーブの高歯36a1の歯先円の内径より大きく、かつ、低歯36a2の歯先円の内径より小さく形成されている。クラッチ前歯30b1は、噛合部を構成する第3ドグクラッチ部30aの前端面FEより軸線CL方向に第3ドグクラッチ部30aの後端位置REまで延在して形成される。クラッチ前歯30b1のスリーブ36側の両側面30b9には、回転方向より45度傾斜する面取部30b3が形成されている。第3クラッチリング30に対してスリーブ36が相対回転しながら接近した場合に、クラッチ前歯30b1は、スリーブ36の高歯36a1と係合し、低歯36a2とは係合しないようになっている。クラッチ前歯30b1のスリーブ36側の前端面30b5及び面取部30b3によって、クラッチ前歯30b1の前端部が構成される。
クラッチ後歯30b2は、図4及び図5に示すように、2本のクラッチ前歯30b1間の位相位置に各5本ずつ合計10本配設され、各歯先円の外径がスリーブ36の低歯36a2の歯先円の内径より大きく形成されている。クラッチ後歯30b2は、噛合部を構成する第3ドグクラッチ部30aの前端面FEより軸線CL方向にスリーブ36側より所定量t後退した位置から第3ドグクラッチ部30aの後端位置REまで延在して形成される。クラッチ後歯30b2のスリーブ36側の両側面30b7には、回転方向に45度傾斜する面取部30b4が設けられている。隣り合うクラッチ後歯30b2の間には歯溝30b8が形成され、クラッチ前歯30b1とクラッチ後歯30b2との間に歯溝30b10が形成されている。第3クラッチリング30に対してスリーブ36が相対回転しながら接近した場合に、第3クラッチリング30の所定量t後退した位置まで高歯36a1及び低歯36a2が進入すると、クラッチ後歯30b2はスリーブの高歯36a1及び低歯36a2と係合するようになっている。クラッチ後歯30b2がスリーブの高歯36a1及び低歯36a2と係合することにより、大きな回転トルクを安全かつ確実に伝達するようになっている。クラッチ後歯30b2のスリーブ36側の前端面30b6及び面取部30b4によって、クラッチ後歯30b2の前端部が構成される。
ストローク位置センサ38として、例えば光位置センサやリニアエンコーダ等の各種位置センサを使用する。
制御装置10は、図3に示すように、記憶部、演算部及び制御部を有し、ストローク位置センサ38が検出したスリーブ36の先端(高歯36a1の前端面36a4)の第3ドグクラッチ部30aの前端面FEに対する位置、クラッチ後歯30b2の前端部及びドグクラッチ部30aの後端位置REに対する相対位置信号に基づいて、軸動装置40を駆動させるリニアアクチュエータ40iの推力荷重値及び高歯36a1の前端面36a4の移動位置を制御する。
軸動装置40は、スリーブ36を軸線(CL)方向に沿って往復動させるものであり、スリーブ36を第3クラッチリング30または第4クラッチリング32に押圧させる際に、第3クラッチリング30または第4クラッチリング32から反力が加わった場合に、スリーブ36がその反力によって移動することを許容するように構成されている。
軸動装置40は、シフトフォーク40a、フォークシャフト40b及び駆動装置40cを含んで構成されている。シフトフォーク40aの先端部は、スリーブ36の外周溝36bの外周形状にあわせて形成されている。シフトフォーク40aの基端部は、先端が開放したU字形に形成され、図10及び図11に示すように、フォークシャフト40bの中間部に設けられた細径のフォーク支承部40b1の外周にフォークシャフト40bの相対回転を許容して支承されている。フォーク支承部40b1はシフトフォーク40aを挟んでフランジ状のストッパ部40b2が周設され、ストッパ部40b2によりシフトフォーク40aに対して軸線SCL方向のフォークシャフト40bの相対移動を規制している。シフトフォーク40aの中間部には後述するガイド部材(回り止め)40eの先端側を摺動自在に嵌入するガイド穴40a1が設けられ、ガイド部材40eにガイドされてシフトフォーク40aは円滑に摺動する。
フォークシャフト40bは、ハウジング22に軸線SCL方向に沿って摺動自在かつ相対回転可能に支承されている。すなわち、フォークシャフト40bの一端(左端)が後述する回転調整部47及び軸受(滑り軸受)22b3を介して第1壁22bに支承され、フォークシャフト40bの他端(右端)側がブラケット40dに相対回転可能かつ軸線方向の相対移動不能に支承されている。フォークシャフト40bの一端には、図12及び図13に示すように、鍔状の頭部47cを有する円筒形に形成された回転調整部47が外嵌されている。
回転調整部47は軸受22b3に回転自在に支承され、回転調整部47の中心にはフォークシャフト40bが嵌入される嵌入穴47aが設けられている。嵌入穴47aにはキー溝47bが設けられ、該キー溝47bとフォークシャフト40bの外壁に軸線(SCL)方向に沿って設けられたキー部40b3との間に設けられるキー部材49が嵌入されている。これらによって、フォークシャフト40bは、回転調整部47に対して相対回転不能かつ軸線(SCL)方向に摺動可能になる。回転調整部47の頭部47cには例えば作業者が手で把持して回転できるように、外周縁に滑り止め47dが形成されている。頭部47cの外周縁と嵌入穴47aとの間には円周方向に沿って平行に形成された円弧状縁を有する長穴47eが形成され、長穴47eの円周方向の開口幅は例えば円周方向の120°に対応するよう形成されている。長穴47eにはボルト部材51の軸部が遊嵌される。第1壁22bの外側壁(図12において左側)の前記長穴47eに対応する位置には、フォークシャフト40bを囲むように例えば90°のピッチで位置決め穴53が4箇所において設けられている。位置決め穴53の内周壁には雌ねじが形成され、ボルト部材51が係脱可能に螺着可能になっている。いずれかの位置決め穴53にボルト部材51をねじ込み、ボルト部材51の頭部の裏側で長穴の縁部を圧接することで、回転調整部47を第1壁22bに対して相対回転不能に固定することが可能になっている。90°毎に配した4箇所の位置決め穴に120°の開口幅を有する長穴47eを介して固定することで、フォークシャフト40bについて360°の調整可能な回転範囲を確保している。
ブラケット40dは第2壁22cより軸線方向に突出するガイド部材(回り止め)40eによって摺動可能であるとともに、ナット部材40fに相対回転不能に固定されている。ナット部材40fは駆動装置40cを備えた駆動シャフト40hに進退可能に螺合されている。駆動シャフト40hは軸受22c3を介して第2壁22cに支承されている。
駆動装置40cは、リニアアクチュエータ40iを駆動源とするリニア駆動装置であり、リニアアクチュエータ40iとしては、例えば、ボールねじ式のリニアアクチュエータがある。これは例えば、円筒状に形成され内周方向に複数のコイルをステータ(図略)として配設させたハウジングと、ステータに対して回転自在に設けられ該ステータと磁気的空隙を設けて対向する複数のN極磁石とS極磁石とが外周に交互に配設されたロータ(図略)と、ステータの軸線を中心にロータとともに一体回転する駆動シャフト40h(ボールねじ軸)と、駆動シャフト40hに螺合されるボールナットからなるナット部材40fとから構成される。駆動シャフト40hはナット部材40fに複数のボール(図略)を介して相対回転可能に螺入されている。ステータの各コイルへの通電を制御することで、駆動シャフト40hが正逆双方向に任意に回転し、ナット部材40f及びフォークシャフト40bを往復動させるとともに、任意の位置に位置決め固定させる。また、この駆動装置40cは、前記ボールねじ軸のリードを長く形成することで、第3クラッチリング30または第4クラッチリング32から反力が加わった場合に、スリーブ36がその反力によって移動することを許容するように構成されている。
フォークシャフト40bの第1壁22b近傍には、シフトディテント装置58が設けられている。シフトディテント装置58は、フォークシャフト40bの外周に設けられる位置決め用溝60と、位置決め用溝60に嵌入するロック部材(ロックボール)62と、ロック部材62の進退をガイドするガイド部材64と、ロック部材62をフォークシャフト40bに接近する方向に付勢する付勢部材(コイルばね)66とを主に備えている。
位置決め用溝60は、図8に示すように、軸線SCL回りに3周分連続した螺旋状に形成されている。位置決め用溝60の中央溝60Nはスリーブ36が第3クラッチリング30及び第4クラッチリング32に接触しない中立位置(ニュートラル位置)で停止する停止位置に対応し、図8において右側の右溝60Rは、スリーブ36が第3クラッチリング30のドグクラッチ部30aと噛合する第3噛合位置(後端位置REに該当)で停止する停止位置に対応し、図8において左側の左溝60Lは、スリーブ36が第4クラッチリング32のドグクラッチ部(図略)と噛合する第4噛合位置(図略)で停止する停止位置に対応する。
ガイド部材64は、円筒状に形成され、ガイド部材64の基端部は図略のブラケット等を介してハウジング22に固定されている。ガイド部材64には付勢部材(コイルばね)66が押圧状態で嵌設され、付勢部材66の先端にはスチール製のロック部材(ロックボール)62が相対回転可能に組み付けられている。ロック部材62は、付勢部材66によってフォークシャフト40bに向かって直角な方向から付勢される。付勢によってガイド部材64の先端部より進出してフォークシャフト40bの位置決め用溝60に嵌入するとともに、付勢部材66の付勢力に抗する外力によってガイド部材64の中に後退するようになっている。フォークシャフト40bが軸線SCL方向にスライドすると、ロック部材62は嵌入している位置決め用溝60の縁部に乗り上げ、隣の位置決め用溝60に移動して該隣の位置決め用溝60に嵌入する。嵌入した位置でフォークシャフト40bの軸線SCL方向の移動を規制する。
なお、本実施形態では、駆動装置としてボールねじ式リニアアクチュエータを採用したが、スリーブ36を第3クラッチリング30または第4クラッチリング32に押圧させている際に、第3クラッチリング30または第4クラッチリング32から反力が加わった場合に、スリーブ36がその反力によって移動することを許容するように構成されているものであれば、他の駆動装置であるソレノイド式駆動装置や油圧式駆動装置でもよい。
次に、上述した自動変速機に使用されたドグクラッチ機構用シフトディテント装置の作動について、以下に説明する。ここで例えばシフトアップにおいて、スリーブ36が高速かつ小さい慣性モーメントで回転し、第3クラッチリング30(第3入力ギヤ)が低速かつ大きい慣性モーメントで回転している場合には、スリーブ36は減速される。一方、シフトダウンにおいてスリーブ36が低速かつ小さい慣性モーメントで回転し、第3クラッチリング30が高速かつ大きい慣性モーメントで回転している場合、スリーブ36は増速される。以下の動作ではシフトアップするときのスリーブ36の減速動作を説明する。
スリーブ36は、第3クラッチリング30及び第4クラッチリング32の間に位置し、スリーブ36のスプライン(内歯)36aが第3クラッチリング30及び第4クラッチリング32のいずれのドグクラッチ歯30b等と係合していない中立位置に位置決めされている(図14A)。
この時、シフトディテント装置58において、図9に示すように、ロック部材62は位置決め用溝60の中央溝60Nに嵌入し、フォークシャフト40bの軸線方向の移動を規制してスリーブ36を中立位置に保持している。スリーブ36が第3クラッチリング30又は第4クラッチリング32のいずれかに偏って接近している場合には、回転調整部47を回すことでフォークシャフト40bを回転させる。そして、螺旋状の位置決め用溝60に沿ってフォークシャフト40bを移動させることで、スリーブ36のクラッチリング30,32に対する停止位置を調整することができる。これによって、中立位置(ニュートラル位置)におけるスリーブ36とクラッチリング30,32との接触音の発生を防止することができる。
また、この調整のときに、スリーブ36が第3クラッチリング30と噛合する噛合位置において、スリーブ36とドグクラッチ部30aの後端位置REとの間に衝突音を生じない所定の隙間を生じるように構成されている。
制御装置10は、変速開始の信号を受けて、軸動装置40のリニアアクチュエータ40iに移動に必要な推力荷重が付加される制御電流を印加し、スリーブ36と第3クラッチリング30との噛合を開始する(図14B)。リニアアクチュエータ40iにより駆動シャフト40hを伸長させることで、フォークシャフト40bを移動させ、シフトフォーク40aによりスリーブ36を第3クラッチリング30側にスライドさせる。スリーブ36は第3クラッチリング30に対して回転差分だけ相対回転しながら接近する。
この時、シフトディテント装置58において、図15に示すように、フォークシャフト40bの軸線SCL方向の移動によって、ロック部材62は、中央溝60Nの縁部の傾斜面による押圧力によってガイド部材64の中に後退し、ロック部材62は中央溝60Nの縁部に乗り上げる。この際、リニアアクチュエータ40iにはシフト時の駆動付加(シフト荷重)が生じている。
そして、スリーブ36の高歯36a1が第3クラッチリング30のクラッチ前歯30b1の前端面30b5(又は面取部30b3)に接触する。この接触によって、スリーブ36と第3クラッチリング30との回転差は少し減少する。このとき、スリーブ36の低歯36a2は何にも接触していない。
制御装置10は、高歯36a1の前端面36a4が、クラッチ前歯30b1の前端面30b5に接触したが、進入できずに撥ねられたときには、付加している推力荷重によりスリーブ36を再び第3クラッチリング30に接近させる。
さらにスリーブ36を第3クラッチリング30に接近させ、ストローク位置センサ38により、高歯36a1の前端面36a4が、クラッチ前歯30b1の前端面30b5より奥に進入させ、さらにスリーブ36の高歯36a1がクラッチ後歯30b2の前端面30b6に到達させる(図14C)。
制御装置10は、ストローク位置センサ38により、スリーブ36の高歯36a1がクラッチ後歯30b2に到達し、スリーブ36の高歯36a1が、クラッチ前歯30b1の側面30b9に当接したと考えられる場合、推力荷重の付加を継続し、高歯36a1を歯溝30b10に進入させクラッチ後歯30b2の後端位置REまで到達させる(図14D)。
この時、シフトディテント装置58において、図16に示すように、ロック部材62は位置決め用溝60の右溝60Rに嵌入し、フォークシャフト40bの軸線方向の移動を規制してスリーブ36を噛合位置に保持している。
制御装置10は、スリーブ36の高歯36a1がクラッチ後歯30b2の前端面30b6に接触し、わずかな回転差でスリーブ36の高歯36a1がクラッチ前歯30b1まで移動状態か、スリーブ36と第3クラッチリング30とが、全く同じ回転数で回転し、いわゆる連れ回りを生じていると判定する場合には、推力荷重を低減することで、高歯36a1とクラッチ後歯30b2との間の摩擦力を低減し、スリーブ36と第3クラッチリング30との回転差が保たれやすくし、高歯30a1がクラッチ前歯30b1の側面30b9まで迅速に移動できるようにすることで、スリーブ36と第3クラッチリング30との噛合をおこなう(図14D)。
上記説明で明らかなように、本実施形態のドグクラッチ機構用シフトディテント装置58によれば、スリーブ36がクラッチリング30,32に接触しない中立位置とスリーブ36がドグクラッチ部(第3ドグクラッチ部)30aに噛合する噛合位置とにおいて、スリーブ36がそれぞれ停止位置で停止される。これらの停止位置は、ロック部材68が嵌入した位置決め用溝60の位置で定まるフォークシャフト40bの軸線SCL方向の位置によって位置決めされる。そして、スリーブ36の停止位置を位置決めするための位置決め用溝60は、螺旋溝で形成されている。そのため、例えばドグクラッチの組み立て時において、位置決め用溝60の位置により位置決めされた停止位置が、スリーブ36がクラッチリング30又はギヤストッパ(後端位置RE)と接触する位置となった場合にも、回転調整部47によってフォークシャフト30bを調整回転させ、ロック部材68に対して螺旋溝に沿って移動させることで、スリーブ36が、スリーブ36とクラッチリング30,32及びギヤストッパ(後端位置RE)と接触しない所定の隙間有して位置決め停止されるように、シフトディテント装置58を設定し直すことができる。これによって、スリーブ36をドグクラッチ部(噛合位置)30aの奥端(後端位置RE)との間に所定の隙間を設けて停止させることでギヤストッパ衝突音の発生を防止するとともに、スリーブ36が中立位置に位置する際におけるクラッチリング30,32との接触を防止することで、スリーブ36とクラッチリング30,32との接触音の発生を防止することができる。
また、位置決め用溝60は、フォークシャフト40bの外周に周回した螺旋状に形成されているので、低い製造コストで極めて容易に製作することができる。
(実施例2)
以下、本発明によるドグクラッチ用シフトディテント装置を備えた自動変速機について第2の実施形態について図18〜図21を参照して説明する。
本実施形態では、図18及び図19に示すように、フォークシャフト40bの他端部側にはブラケット40dに組付けられた回転アクチュエータ70が設けられるとともに、フォークシャフト40bの回転角度を検出する回転角センサ72が設けられ、回転調整部47が除かれている点において第1の実施形態と相違する。
回転アクチュエータ70としては、例えばサーボモータ等の、正逆双方回転可能かつ回転位置制御が可能なモータを使用する。回転角センサ72は、例えばロータリエンコーダを使用する。その他の構成は同様であるので、同じ符号を付与して説明を省略する。
本実施形態のドグクラッチ機構用シフトディテント装置74の作動を以下に説明する。
変速の際に、フォークシャフト40bを軸線SCL方向に移動させる場合においては、軸方向への移動と同時に回転アクチュエータ70によってフォークシャフト40bを軸線SCL回りに回転させる。これによって、ロック部材62が位置決め用溝60の縁部に乗り上げることなく、螺旋溝に沿って相対移動し、例えば中立位置に対応する停止位置に応じた中央溝60Nから第3クラッチリング30との噛合位置に対応する停止位置に応じた右溝60Rに移動する。このように、中央溝60Nから右溝60Rに移動する際に、ロック部材62は中央溝60Nの縁部に乗り上げることがないので、リニアアクチュエータ40iにはシフト時の駆動付加(シフト荷重)を生じさせない。
この際のフォークシャフト40b回転は回転角センサ72により検出され、フォークシャフト40bの軸線方向の移動位置はストローク位置センサ38により検出される。検出された位置信号は制御装置10に送信され、制御装置10によってリニアアクチュエータ40i(駆動装置40c)及び回転アクチュエータ70の作動が同期されて制御される。
変速の際にシフトされた位置を保持する場合においては、回転アクチュエータ70の回転を規制することで、フォークシャフト40bを軸線SCL方向に移動させるとロック部材62が位置決め用溝60の縁部を乗り上げようとするため、保持力を発生させることができる。
また、中立位置又は噛合位置で停止するスリーブ36の停止位置を、調整する場合には、例えばリニアアクチュエータ40iをフリー状態とし、回転アクチュエータ70を駆動回転させる。これによって、フォークシャフト40bを軸線SCL方向に移動させ、スリーブ36の停止位置を調整する。そのときの停止位置を、リニアアクチュエータ40iがシフト動作を開始する制御の初期位置として定めることができる。
なお、上記実施形態におけるロック部材を球形のロックボールとしたが、これに限定されず、例えば図17に示すように、砲弾型のロック部材68でも良い。
また、回転調整部47の回転範囲を360°確保するものとしたが、これに限定されず、より狭い範囲として120°の回転範囲でもよく、360°より広い回転範囲でもよい。
また、クラッチ前歯はクラッチリングの円周上に対向して2本のものとしたが、これに限定されず、例えば、クラッチリングの円周上に互いに均等な距離で3本或いはそれ以上配置されるものでもよい。
また、自動変速機の入力軸に回転連結する回転軸とは、本実施形態のように回転軸が入力軸に直結している場合を含むものであり、自動変速機の出力軸に回転連結する回転軸とは、回転軸が出力軸(出力シャフト)に直結している場合を含むものである。
また、回転角センサ72を、ロータリエンコーダとしたが、これに限定されず、例えばレゾルバ等の公知のセンサを使用することができる。
本発明は、上記しかつ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。