JP6053149B2 - Id遺伝子の発現抑制剤 - Google Patents

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Description

この発明は、Id蛋白ファミリーとして知られるId-1、Id-2、Id-3をコードする遺伝子の発現を抑制する医薬品に関する。
Id蛋白(Inhibitor of differentiationまたはInhibitor of DNA binding)はhelix-loop-helix(HLH)構造を有することを特徴とする蛋白で、ヒトではId-1、Id-2、Id-3、Id-4の4つのファミリー分子が知られている。また、その他の脊椎動物でもId蛋白のホモログが確認されている。Id蛋白はbasic helix-loop-helix(bHLH)構造を有する様々な転写因子蛋白の機能を抑制し、細胞の分化や増殖などに関連している(非特許文献1)。bHLH型の転写因子蛋白(ファミリー)は、様々な組織特異的な遺伝子発現(標的遺伝子発現)を活性化するプロモーターとしてDNAに結合する機能を有しており、細胞分化や臓器特異的な機能蛋白の発現などに関与している。bHLH型の転写因子蛋白は、2量体を形成してそのbasic(塩基性)ドメインが標的遺伝子のプロモーター領域に結合することにより、標的遺伝子の発現を活性化する。basicドメインを持たないId蛋白は、bHLH型の転写因子蛋白とヘテロ2量体を形成するが、結合相手のbHLH型転写因子のDNA結合活性を阻害し、転写活性化機能を抑制する。すなわち、Id蛋白はbHLH型の転写因子と会合することにより、その転写活性化機能を抑制している抑制蛋白である。
Id蛋白は、一般に増殖細胞や細胞分化、個体発生、がん細胞の増殖性反応などに関連して発現がみられる(非特許文献1〜3)。Id蛋白発現は、細胞周期制御蛋白などにも影響をあたえ細胞増殖に関与している(非特許文献4)。また、血管新生などにも影響をあたえ、腫瘍周囲の新生血管増生にも関わっている(非特許文献5)。これらのId蛋白の作用から、近年はがんの治療ターゲット分子として認識されるようになった(非特許文献6)。また、免疫機能に関連する分野では、炎症に強い影響を与え、自己免疫疾患などの関連が注目されているTh17リンパ球の発生分化を制御していることも明らかになった(非特許文献7)。さらに、様々な血液系炎症細胞の分化や機能に影響を与え(非特許文献8〜9)免疫系疾患に関わる細胞分化にも関係している。これらの背景から、Id蛋白の遺伝子発現を抑制することは、Id 蛋白が過剰発現しているがん疾患や免疫異常疾患、分化異常疾患などの治療に役立つことが考えられ、その発現抑制を誘導する物質は治療薬剤としての意味を有する。
ペクチンは主要な植物多糖の一種で、植物に広く分布しており、ガラクツロン酸を主要な構成糖とする酸性多糖である。その構造は、α-1,4-結合したポリガラクツロン酸のドメイン(Homogalacturonan ドメイン)、ガラクツロン酸とラムノースの繰り返し構造を有するドメイン(Rhamnogalacturonan-I ドメイン)、さらにガラクツロン酸、ラムノース、フコースなどの複数の構成糖が複雑な配列を示すドメイン(Rhamnogalacturonan-II ドメイン)などの異なるドメインからなる巨大な高分子多糖である。分子量は由来する原料により異なるが、50,000〜350,000程であると言われている。ペクチンは強いゲル化作用を有する水溶性食物繊維で、主に食品の分野で、ゲル化剤、増粘剤、乳製品などの安定化剤などとして様々な製品に利用されている。そうした意味で、ペクチンは、食用として生体適用や応用が進んでいる安全な植物素材であると言える。また用途により様々な分子的な加工(酸やアルカリなどの化学的加工または酵素による加工)によりその性質を制御された様々なペクチン素材が、食品添加剤の分野で商業的に利用されている。
一方、ペクチンには脂質であるコレステロールの腸管における吸収阻害作用や抗アレルギー作用などの生理的作用が指摘されている。また、citrus由来のペクチンを高いpH(アルカリ性条件)と温度(pH10, 50〜60℃、1時間など)で処理して変性したペクチン(以下MCP, modified citrus pectinと呼ぶ)には、腫瘍の転移抑制作用と抗腫瘍作用が知られており、その作用は主にペクチン分解残基のガラクトース末端によるGalectin-3の抑制によることが指摘されている(非特許文献10)。またペクチン分解物中にあるオリゴペクチンには抗菌作用が認められ、古くから食品添加物として利用されている。このようにペクチンは、単なる植物多糖由来のゲル化素材としてだけではなく、さまざまな生体への作用が検討されている。
ペクチンの物性の多くは、ペクチンの主要な構成糖であるガラクツロン酸に由来している。ガラクツロン酸は分子内にカルボキシル基を持ち、ウロン酸(アルドース末端の第一級アルコールがカルボキシル基となった糖の総称)の一種に分類される。天然に存在するウロン酸としては、ガラクツロン酸以外に、グルクロン酸、マンヌロン酸、イズロン酸などが知られている。ウロン酸については、上述したペクチンに関連した活性以外にも、種々の生物活性が知られている。例えば、グルクロン酸は、生体内の毒物や薬剤と結合することによりこれらの体外排出を促すグルクロン酸抱合に関わる物質であり、またグルクロン酸が分子内脱水縮合したグルクロノラクトンにも肝機能改善作用や肝血流促進作用が知られ、これらは医薬品として使用されている。また、ウロン酸の加熱処理により生成される4,5‐dihydroxy‐2‐cyclopenten‐1‐one(以下DHCPとよぶ)にはアポトーシス誘導作用を含む抗腫瘍活性があることが知られている(特許文献1、非特許文献11)。さらに、ペクチンやウロン酸を中性〜酸性(pH2.4〜7.0)で加熱処理して得られた加熱処理物がHL-60に対してアポトーシスの誘導を含む制癌作用を示すこと、この制癌活性は分子量10,000以下、さらには分子量500以下の低分子画分で上昇することが報告されている(特許文献2)。また特許文献2では、グルクロノラクトンの加熱処理(121℃、4時間)において、pH3〜4.5での加熱処理物がpH1での加熱処理物の15倍の制癌活性を示したことが報告されており、制癌活性の有効成分が比較的緩和な酸条件下での加熱処理により効率的に生成される成分であることが示されている。
国際公開第98/13328号 国際公開第97/33593号
Norton JD., ID helix-loop-helix proteins in cell growth, differentiation and tumorigenesis., J Cell Sci. (2000) 113 (22):3897-905 Willson JW et.al., Expression of Id helix-loop-helix proteins in colorectal adenocarcinoma correlates with p53 expression and mitotic index., Cancer Res. (2001) 61(24):8803-10 Yokota Y et.al., Role of Id family proteins in growth control., J Cell Physiol. (2002) 190(1):21-8 Ruzinova MB et.al., Id proteins in development, cell cycle and cancer., Trends Cell Biol. (2003) 13(8):410-8 Alani RM et. al., Tumor angiogenesis in mice and men., Cancer Biol Ther. (2004) 3(6):498-500 Fong S et.al., Id genes and proteins as promising targets in cancer therapy., Trends Mol Med. (2004) 10(8):387-92 Maruyama T et.al., Control of the differentiation of regulatory T cells and Th17 cells by the DNA binding inhibitor Id3., Nat immunol (2011) 12(1):86-95 Cochrane SW et.al., Balance between Id and E proteins regulates myeloid-versus-lymphoid lineage decisions., Blood. (2009) 113(5):1016-26 Kee BL., E and ID proteins branch out., Nat Rev Immunol. (2009) 9(3):175-84 Glinsky VV et.al., Modified citrus pectin anti-metastatic properties: one bullet, multiple targets., Carbohydr Res. (2009) 344(14):1788-91 小山信人, 佐川裕章, 小林英二, 榎竜嗣, WU H-K, 萩屋道雄, 猪飼勝重, 加藤郁之進. ウロン酸及びウロン酸含有多糖の加熱により生ずる生理活性物質 4,5-dihydroxy-2-cyclopenten-1-one(DHCP), 糖質シンポジウム講演要旨集, Vol.19th, Page 63 (1997.07)
前述のようにId蛋白はがん細胞増殖や細胞分化、免疫機能細胞などに影響を与える生体内の調節因子であり、そのId蛋白の発現を抑制する物質の治療応用が期待されている。しかし、Id蛋白の発現を抑制する方法としては、細胞生物学的な遺伝子欠損技術におけるモデル動物や、アンチセンスオリゴRNAによる発現抑制などは、実験室レベルで行われているものの、生体に摂取可能な素材または薬剤によるものはほとんど知られていない。本発明の課題は、Id蛋白の遺伝子発現を抑制する物質を探索し、Id蛋白の過剰発現を伴う疾患において医薬利用が可能な物質を提供することである。
本発明者らは、ヒト細胞のモデルとしてヒトの様々な臓器由来の腫瘍細胞株におけるId蛋白の遺伝子発現をRT-PCR法を用いて解析したところ、多くの腫瘍細胞株でId-1、Id-3の高発現を確認し、場合によってはId-2を発現している腫瘍細胞株(主に血液系腫瘍)があることを確認した。そこで本発明者らは、これらをId蛋白の発現細胞モデルとして用い、Id蛋白を抑制する物質のスクリーニングを行い鋭意精査したところ、ペクチン、またはガラクツロン酸、グルクロン酸等のウロン酸を酸の存在下で加熱して得られた処理物が、強いId蛋白の遺伝子発現抑制作用を有することを見出した。本発明者らは、さらに様々な加熱条件や酸性条件を検討することにより、Id蛋白の遺伝子発現を抑制する物質の生成方法を確立し、本発明を完成させた。
よって本発明は、ウロン酸含有溶液を、塩酸、硫酸およびクエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸とともに加熱することを含む、Id蛋白をコードする遺伝子の発現抑制剤の製造方法を提供する。
また本発明は、上記製造方法により製造されたId蛋白をコードする遺伝子の発現抑制剤を含むサイトカイン産生抑制剤を提供する。
また本発明は、上記製造方法により製造されたId蛋白をコードする遺伝子の発現抑制剤を含む抗炎症剤を提供する。
また本発明は、上記製造方法により製造されたId蛋白をコードする遺伝子の発現抑制剤を含む抗腫瘍剤を提供する。
また本発明は、上記製造方法により製造されたId蛋白をコードする遺伝子の発現抑制剤を含む免疫調節剤を提供する。
また本発明は、上記製造方法により製造されたId蛋白をコードする遺伝子の発現抑制剤を含む細胞の分化誘導剤を提供する。
また本発明は、上記製造方法により製造されたId蛋白をコードする遺伝子の発現抑制剤を含む医薬を提供する。
また本発明は、ウロン酸含有溶液を、塩酸、硫酸およびクエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸とともに加熱して得られた加熱処理物を有効成分とする、Id蛋白をコードする遺伝子の発現抑制剤を提供する。
本発明によれば、ペクチン、ガラクツロン酸、グルクロン酸等のウロン酸を含有する溶液を特定の酸存在下で加熱することにより、細胞のId-1、Id-2、Id-3等のId蛋白をコードする遺伝子(以下、本明細書においてId遺伝子とも称する)の発現を強く抑制することができる、Id遺伝子発現抑制剤を作製することができる。当該Id遺伝子発現抑制剤は、Id-1、Id-2およびId-3を発現している細胞においては、Id-1、Id-2およびId-3の遺伝子の発現を抑制することで、Id-1、Id-2およびId-3の全ての蛋白発現を抑制することができる。また、当該Id遺伝子発現抑制剤は、Id-2のみを発現している細胞では、Id-2遺伝子と蛋白の発現を抑制する。さらに、このId遺伝子発現抑制剤は、細胞におけるId蛋白の発現を抑制するとともに、腫瘍細胞の細胞増殖を抑制する作用を有している。このことは本発明のId遺伝子発現抑制剤が、Id蛋白を高発現する腫瘍細胞において実際にId蛋白の発現抑制剤として機能し、当該腫瘍細胞の増殖を抑制する作用を有することを示している。また、本発明で提供されるId遺伝子発現抑制剤は、ガラクツロン酸(モノマー)の酸性条件下での加熱によっても作製されるため、その抗腫瘍活性がガラクトース残基に起因することが知られている変性シトラスペクチン(MCP:非特許文献10)とは明らかに異なる物質である。さらに、本発明により提供されるId遺伝子発現抑制剤は、分子量3,000以上の画分に精製してもId遺伝子発現抑制活性を有していることから、ウロン酸の加熱で得られる低分子のDHCP(特許文献1)とも異なる物質である。さらに、分子量1,000以下の画分には本発明におけるId遺伝子発現抑制剤は検知されないことから、分子量500以下の画分で活性が増強する従来知られたペクチンまたはウロン酸加熱処理物由来の制癌成分(特許文献2)とも明らかに異なる物質である。また、本発明により提供されるId遺伝子発現抑制剤は、pH3.6以上の弱酸性〜中性またはアルカリ性の条件、あるいは酸を添加しない2%ウロン酸水溶液(pH2.2)の加熱処理では生成されないことから、ペクチンやウロン酸を比較的緩和な酸条件(pH2.4〜7.0)で加熱処理して得られる特許文献2記載の制癌成分とは明らかに異なる製造方法により生成された、全く別の物質である。従って、本発明によれば、新規のId遺伝子発現抑制剤、および上記MCPやDHCP、または従来知られた低分子ウロン酸加熱処理物とは異なる物質を有効成分とする新規の抗腫瘍剤を提供することができる。
HepG2細胞におけるId遺伝子発現抑制作用の評価−ガラクツロン酸濃度検討。加熱処理した1%ガラクツロン酸1N塩酸溶液(1%GUA-1N HCl)、2%ガラクツロン酸1N塩酸溶液(2%GUA-1N HCl)または5%ガラクツロン酸1N塩酸溶液(5%GUA-1N HCl)の各中和溶液を10μL/mL添加した6時間後および24時間後における、HepG2細胞のId-1、Id-2およびId-3各遺伝子の発現量。 HepG2細胞におけるId遺伝子発現抑制作用の評価−ガラクツロン酸濃度検討。加熱処理した5%、8%、10%、15%、20%ガラクツロン酸1N塩酸溶液の中和溶液を10μL/mL添加した6時間後における、HepG2細胞のId-1、Id-2およびId-3各遺伝子の発現量。 HepG2細胞におけるId遺伝子発現抑制作用の評価−塩酸濃度検討。加熱処理した5%ガラクツロン酸の0.5N塩酸溶液(5%GUA-0.5N HCl)または1N塩酸溶液(5%GUA-1N HCl)の中和溶液を10μL/mL添加した6時間後における、HepG2細胞のId-1、Id-2およびId-3各遺伝子の発現量。 HepG2細胞におけるId遺伝子発現抑制作用の評価−高分子成分の検討。加熱処理した5%ガラクツロン酸1N塩酸溶液(5%GUA-1N HCl)の中和溶液またはその分子量10,000以上の画分(5%GUA-1N HCl High MW)を10μL/mL添加した6時間後および24時間後における、HepG2細胞のId-1、Id-2およびId-3各遺伝子の発現量。 HepG2細胞におけるId遺伝子発現抑制作用の評価−酸性沈降物による効果。加熱処理した5%ガラクツロン酸1N塩酸溶液の画分(分子量3,000未満)から得た酸性沈降物を添加した6時間後における、HepG2細胞のId-1、Id-2およびId-3各遺伝子の発現量。 HepG2細胞におけるId遺伝子発現抑制作用の評価−加熱条件の検討。異なる条件で加熱処理した5%ガラクツロン酸1N塩酸溶液の中和溶液を10μL/mL添加した6時間後における、HepG2細胞のId-1、Id-2およびId-3各遺伝子の発現量。 HepG2細胞におけるガラクツロン酸含有クエン酸溶液の加熱処理物によるId遺伝子発現抑制作用。 HepG2細胞におけるガラクツロン酸含有硫酸溶液の加熱処理物によるId遺伝子発現抑制作用。 HepG2細胞におけるId遺伝子発現抑制作用の評価−ペクチン溶液の検討。2%ペクチン含有1N塩酸溶液の加熱処理物(2% pectin-1N HCl)、その分子量10,000以上の画分(2% pectin-1N HCl High MW)、分子量3,000〜10,000未満の画分(2% pectin-1N HCl Mid MW)、または分子量3,000未満の画分(2% pectin-1N HCl Low MW)の各中和溶液を10μL/mL添加した6時間後および24時間後における、HepG2細胞のId-1、Id-2およびId-3各遺伝子の発現量。 左:ガラクツロン酸含有塩酸溶液の加熱処理物によるId遺伝子発現抑制作用。右:pHの異なるガラクツロン酸溶液の加熱処理物によるId遺伝子発現抑制作用。 各種糖含有塩酸溶液の加熱処理物によるId遺伝子発現抑制作用。 Id遺伝子発現抑制剤によるHepG2細胞における細胞増殖抑制作用の評価。 Id遺伝子発現抑制剤によるHL-60細胞における細胞増殖抑制作用の評価。 Id遺伝子発現抑制剤によるHL-60細胞における形態学的変化。中央および右図の矢印は、多核巨細胞を示す。 Id発現抑制物質によるヒトPBMC細胞からのサイトカイン産生抑制。左:TNF-α、右:IL-8。
本発明のId遺伝子発現抑制剤は、ウロン酸を、特定の酸存在下で加熱することにより製造される。本発明のId遺伝子発現抑制剤により発現抑制されるId遺伝子としては、Id-1蛋白、Id-2蛋白またはId-3蛋白をコードする遺伝子、例えば、ヒトId-1蛋白(NP_851998, NP_002156)、ヒトId-2蛋白(NP_002157)もしくはヒトId-3蛋白(NP_002158)をコードする遺伝子、またはそれらのホモログ(相同遺伝子);その他のId蛋白ファミリーをコードする遺伝子;およびそれらのId蛋白の変異体蛋白であって、Id蛋白と同じくbasic helix-loop-helix(bHLH)構造を有する様々な転写因子蛋白の機能を抑制して細胞の分化や増殖に関連する蛋白をコードする遺伝子、などが挙げられる。そのようなId遺伝子の例としては、ヒトId-1遺伝子(GenBank accession number NM_181353, NM_002165)、ヒトId-2遺伝子(GenBank accession number NM_002166)、ヒトId-3遺伝子(GenBank accession number NM_002167)、およびそれらのホモログであるId遺伝子が好適に挙げられるが、これらに限定されず、他のId遺伝子のファミリーもまた包含され得る。上述したId遺伝子またはそのホモログは、NCBIデータベース([http://www.ncbi.nlm.nih.gov/])などから検索することができる。
本発明に用いるウロン酸としては、ガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、イズロン酸などが挙げられ、天然に広く存在するD−ガラクツロン酸およびD−グルクロン酸が好ましい。ガラクツロン酸の例としては、β−D−ガラクツロン酸、β−L−ガラクツロン酸、α−D−ガラクツロン酸、α−L−ガラクツロン酸、β-1,4-ポリガラクツロン酸などの光学異性体が挙げられるが、天然にはD−ガラクツロン酸のみが存在する。グルクロン酸の例としては、β−D−グルクロン酸、β−L−グルクロン酸、α−D−グルクロン酸、α−L−グルクロン酸、β-1,4-ポリグルクロン酸、α-1,4-ポリグルクロン酸などの光学異性体挙げられるが、天然にはD−グルクロン酸のみが存在する。また本発明に用いるウロン酸は、そのカルボキシル基がNa、K、Ca、Mgなどの生体適用可能な塩類とされたウロン酸塩であってもよい。
本発明に用いるウロン酸は、上記ガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、イズロン酸またはそれらの塩のモノマー、オリゴマー、ポリマーまたはそれらの混合物であってもよい。あるいは、本発明に用いるウロン酸は、上記ガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、イズロン酸またはそれらの塩のモノマー、オリゴマー、ポリマーまたはそれらの混合物を含有する多糖類や高分子物質であってもよい。そのような多糖類や高分子物質の例としては、ペクチンが挙げられる。ペクチンとしては特に限定はされないが、リンゴ由来、柑橘類由来などの精製されたペクチンが好ましく、ペクチンのカルボキシル基がNa、K、Ca、Mgなどの生体適用可能な塩類とされたペクチンを用いることができる。ただし、ペクチンの部分構造として知られるポリガラクツロナンのみを精製したα-1,4-ポリガラクツロン酸では、酸性条件下に対して安定かつ溶解性が低いため、適切な素材とはいえない。
本発明に用いるウロン酸は、上記に挙げたウロン酸もしくはその塩のモノマー、オリゴマー、ポリマー、それらの混合物、およびそれらを含む多糖類や高分子物質のうちのいずれか1種であってもよく、またはそれらのうちの何れか2種以上の混合物であってもよい。好ましくは、本発明に用いるウロン酸は、上記ガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、イズロン酸またはそれらの塩のモノマー、それらのオリゴマー、それらのポリマー、当該モノマー、オリゴマーおよびポリマーの混合物、ならびにペクチンから選択される少なくとも1種である。
ウロン酸以外の一般的な糖、例えばグルコースやガラクトースなどを酸の存在下で加熱しても、本発明のId遺伝子発現抑制剤は生成されない。従って、本発明においてウロン酸を酸の存在下で加熱する場合は、ウロン酸以外の糖が共存していてもよいが、存在している必要はない。
上記ウロン酸を酸の存在下で加熱する場合、ウロン酸の溶液を酸とともに加熱するとよい。ウロン酸を溶存させる溶媒としては水やメタノール、エタノールなどが挙げられるが、水が好ましい。当該溶液中のウロン酸の濃度は、例えばガラクツロン酸またはグルクロン酸の場合、1%(w/v)以上であればよいが、3%(w/v)以上が好ましい。溶液中のガラクツロン酸またはグルクロン酸の濃度が高くなれば、同一加熱条件下におけるId遺伝子発現抑制剤の生成効率を上げることができるが、5%(w/v)を超えると生成効率の増加が鈍り、一方で加熱中に不溶性炭化物の生成量が増加する。経済性の観点からは、溶液中のガラクツロン酸またはグルクロン酸の濃度は20%(w/v)以下が好ましく、15%(w/v)以下がより好ましく、10%(w/v)以下がさらに好ましい。
ウロン酸としてペクチンを用いる場合、当該溶液中のペクチンの濃度は、1〜2%(w/v)が好ましく、2%(w/v)を超える濃厚溶液では溶液の粘度が高くなり、Id遺伝子発現抑制剤の製造が困難となる場合がある。
したがって、本発明に用いるウロン酸含有溶液の例としては、1〜20%(w/v)、好ましくは1〜15%(w/v)のガラクツロン酸を含有するガラクツロン酸またはその塩の水溶液、1〜20%(w/v)、好ましくは1〜15%(w/v)のグルクロン酸を含有するグルクロン酸またはその塩の水溶液、ガラクツロン酸およびグルクロン酸を合計で1〜20%(w/v)、好ましくは1〜15%(w/v)含む、ガラクツロン酸、グルクロン酸またはそれらの塩の水溶液、ならびに1〜2%(w/v)ペクチン水溶液が挙げられる。本発明に用いるウロン酸溶液のより好ましい例としては、3〜10%(w/v)ガラクツロン酸またはその塩の水溶液、3〜10%(w/v)グルクロン酸またはその塩の水溶液、ガラクツロン酸、グルクロン酸およびそれらの塩を合計で3〜10%(w/v)含む水溶液、ならびに1〜2%(w/v)ペクチン水溶液が挙げられる。
上記ウロン酸溶液を加熱する際に共存させる酸としては、塩酸、硫酸およびクエン酸からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。これらの酸は組み合わせて用いてもよいが、いずれか1種を単独で用いることが好ましい。上記酸を、上記ウロン酸溶液に添加して、得られたウロン酸含有酸性溶液を加熱すればよい。当該酸性溶液中の酸の濃度を高くすれば、同一加熱条件下におけるId遺伝子発現抑制剤の生成効率を上げることができる。酸性溶液中の酸の濃度としては、塩酸または硫酸の場合、0.1N以上であればよいが、0.5N以上が好ましく、1N程度以上がより好ましい。このときの酸溶液のpHは、0.1Nの塩酸溶液でも、pH1以下である。一方、経済的観点からは1.5N以下がよく、好ましくは1N程度以下がよい。したがって好適には、酸性溶液中の塩酸または硫酸の濃度は0.5〜1Nである。クエン酸は、ペクチンを水溶液中に溶解させる作用が強い酸性物質であり、ペクチン液の調整に有効であるとともに、上記塩酸や硫酸に変えて高濃度クエン酸で同様に処理することにより同様のId発現抑制剤を生成させることができる。酸がクエン酸の場合、酸性溶液中のクエン酸の濃度は、5%(w/v)以上であればよいが、8%(w/v)以上が好ましく、10%(w/v)以上がより好ましい。一方、経済的観点からは20%(w/v)以下がよく、好ましくは15%(w/v)程度以下がよい。したがって好適には、当該酸性溶液中のクエン酸の濃度は8〜15%(w/v)である。酸を添加しないウロン酸溶液(2%ガラクツロン酸溶液、2%グルクロン酸溶液など)のpHはpH1.9〜2.2程度の酸性条件であり、この条件では121℃で1時間の加熱処理を行なってもId遺伝子発現抑制剤は生成されない。
上記ウロン酸含有酸性溶液を加熱する条件としては、95〜130℃、好ましくは95℃〜121℃の温度で、20〜180分間の加熱をすることが好ましく、より好ましくは、密閉容器中にて121℃(0.12MPa以下の加圧条件下)で60分以上の加熱処理をすることが好ましい。ウロン酸の溶液を加熱する場合は、オートクレーブ等の加圧加熱装置を用いることにより、高温での加熱が可能になり、また短時間でも十分な加熱処理をすることができる。
上述の手順で加熱処理したウロン酸含有酸性溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ性物質で中和し、生体に適用できる中性付近(pH6.0〜8.0)の溶液とすることが好ましい。
上記ウロン酸含有酸性溶液の加熱処理物中には、Id遺伝子発現抑制剤が生成されている。当該Id遺伝子発現抑制剤を含む溶液を精製すれば、Id遺伝子発現抑制剤を取得することができる。本発明で提供されるId遺伝子発現抑制剤は、ガラクツロン酸モノマー等のウロン酸モノマーから生成された場合でも、加熱処理物の分子量1,000以上の画分や分子量3,000以上の画分、さらには分子量10,000以上の画分に存在していることから、ウロン酸から変換された反応物が様々な程度に高分子化した物質であると推測される。この高分子化する特徴を利用すれば、製造過程で添加した塩酸、硫酸やクエン酸などの酸、あるいは水酸化ナトリウムなどの中和に用いたアルカリ剤などを一般的な限外濾過法や透析法により取り除き、目的とするId遺伝子発現抑制剤を精製、濃縮することができる。本発明のId遺伝子発現抑制剤を分画により精製する場合、分子量1,000以上の画分を取得すればよい。
本発明で提供されるId遺伝子発現抑制剤は、酸性溶液中での沈降精製によって精製、濃縮することができる。例えば、上述した手順で加熱処理したウロン酸含有酸性溶液をアルカリ剤で中和した後、限外濾過等で分子量を分画する。次いで、得られた画分の溶液に酸を添加する。酸の添加により生成した沈降物を回収することにより、Id遺伝子発現抑制活性のある成分を取得することができる。酸を添加する画分の分子量は、分子量1,000以上が好ましい。例えば、分子量3,000〜10,000の画分から得た酸性沈降物と、分子量1,000〜3,000の画分から得た酸性沈降物では、重量あたりのId遺伝子発現抑制活性に違いはなく、また分子量10,000以上の画分からもId遺伝子発現抑制活性のある酸性沈降物を得ることができるが、分子量1,000未満の画分には酸性沈降物は得られない。添加する酸の種類は特に限定されず、塩酸、硫酸などが挙げられるが、塩酸が好ましい。添加する酸の濃度は0.05N以上であればよく、0.1N程度が好ましい。一方、酸の濃度を0.1Nより上げても沈降物の生成効率は向上しないため、添加する酸の濃度は0.05〜0.5N程度が好ましい。得られた沈降物は、遠心分離等の操作により容易に回収することができる。回収した沈降物を減圧乾燥させれば、Id遺伝子発現抑制剤を固形化することができる。この固形物を精製水に加え、少量の水酸化ナトリウム等で液性を中和(pH6.0以上に)すると、固形物は水中に再度溶解し、酸性沈降物の再溶解溶液を得ることができる。この再溶解溶液は、酸性沈降させる前の溶液と同等のId遺伝子発現抑制活性を有する。
上記加熱処理したウロン酸含有酸性溶液は、溶液の中和後、0.22μm以下の孔径を有する膜を使用したろ過による滅菌が可能である。さらに上記溶液の加熱処理後の操作を無菌的に行うことにより、Id遺伝子発現抑制剤を無菌的に作製することも可能である。
上述したように、ウロン酸含有酸性溶液を加熱処理して生成した本発明のId遺伝子発現抑制剤は、細胞において強いId遺伝子発現抑制作用を発揮する。例えば、本発明のId遺伝子発現抑制剤を5%(w/v)ガラクツロン酸の1N塩酸溶液から作製した場合、加熱処理した酸性溶液の中和液は、原液を50〜200倍以上希釈してもなお強いId遺伝子発現抑制作用を有する。また、2%(w/v)ペクチン溶液の1N塩酸溶液から作製した場合でも、加熱処理した酸性溶液の中和液は、原液を50〜100倍以上希釈してもなお強いId遺伝子抑制作用を有する。本発明のId遺伝子発現抑制剤のId遺伝子発現抑制作用は、例えば、本発明のId遺伝子発現抑制剤を添加した細胞のId遺伝子発現量と、添加前の同一細胞あるいは別途培養した本発明のId遺伝子発現抑制剤無添加細胞の遺伝子発現量とを比較することにより評価できる。Id遺伝子発現量は、各細胞からRNAを抽出し、これから作製したcDNAを鋳型として、定量的PCRを行うことにより測定できる。あるいは、ウェスタンブロッティング、ELISA、ラジオイムノアッセイ等の公知の方法で、細胞中のId蛋白を定量することにより、Id遺伝子発現量を評価することができる。
例えば、定量的PCRでは、各細胞群についてId-1遺伝子、Id-2遺伝子、Id-3遺伝子、およびハウスキーピング遺伝子(細胞が生存するために一定量の発現が見られる遺伝子)であるGAPDH遺伝子の4遺伝子についてmRNA発現レベルを測定し、測定したId-1遺伝子、Id-2遺伝子、およびId-3遺伝子のmRNA発現レベルをGAPDH遺伝子のmRNA発現レベルの相対値として求めることにより、細胞あたりのId-1、Id-2およびId-3遺伝子の発現量を評価することができる。
一実施形態において、本発明のId遺伝子発現抑制剤は、Id-1遺伝子、Id-2遺伝子、Id-3遺伝子を発現している細胞に添加して培養した場合、少なくとも6時間後、好ましくは少なくとも24時間後まで継続的に当該細胞のId-1遺伝子、Id-2遺伝子、Id-3遺伝子のそれぞれのmRNAレベルをいずれも低下させることができる。別の実施形態において、本発明のId遺伝子発現抑制剤は、Id-2遺伝子を発現している細胞に添加して培養した場合、少なくとも6時間後まで継続的に当該細胞のId-2遺伝子のmRNAレベルを低下させることができる。
本発明のId遺伝子発現抑制剤は、細胞に作用してそのId遺伝子発現を抑え、Id蛋白の生成を阻害することができる。Id蛋白は、細胞周期制御蛋白などに影響を与えることで細胞増殖に関与し、また血管新生などに影響を与えることで腫瘍周囲の新生血管増生にも関わっている(非特許文献4〜5)。近年では、Id蛋白は、癌の治療のターゲット分子として認識されるようになった(非特許文献6)。後述の実施例に示すとおり、本発明のId遺伝子発現抑制剤は、Id蛋白を発現する細胞の増殖を抑制し、細胞死を誘導し、または細胞形態変化の誘導(分化誘導)を引き起こす(図12〜14)。
また、免疫機能に関連する分野では、Id蛋白が炎症に強い影響を与えることや、自己免疫疾患などの関連が注目されているTh17リンパ球の発生分化を制御していることが知られている(非特許文献7)。さらに、Id蛋白は、様々な血液系炎症細胞の分化や機能に影響を与え、免疫系疾患に関わる細胞分化にも関係していることが知られている(非特許文献8〜9)。後述の実施例に示すとおり、本発明のId遺伝子発現抑制剤は、白血球細胞からの、免疫や炎症などのメディエーターとして機能するTNF-α(腫瘍壊死因子α:Tumor necrosis factor α)やIL-8(インターロイキン-8:interleukin-8)などのサイトカインの産生分泌を抑制する作用を有する(図15)。本発明のId遺伝子発現抑制剤は、ヒトや動物の末梢血細胞のサイトカイン産生抑制作用を介して、生体の免疫を調節し、炎症反応を抑制することができる。
したがって、本発明のId遺伝子発現抑制剤は、腫瘍細胞のId遺伝子発現を抑制することにより、細胞増殖を抑えて、抗腫瘍または抗癌作用を発揮することができる。また本発明のId遺伝子発現抑制剤は、末梢白血球などの免疫担当細胞のサイトカイン産生抑制を抑えて、炎症抑制、免疫調節、各種免疫疾患の治療や改善等の効果を発揮することができる。さらに、本発明のId遺伝子発現抑制剤は、Id遺伝子発現抑制を介して細胞の分化を誘導することにより、細胞分化異常疾患や未分化がん細胞(脱分化したがん細胞)の治療や改善に効果を発揮することができる。すなわち、本発明のId遺伝子発現抑制剤は、各種医薬の有効成分として有用である。本発明のId遺伝子発現抑制剤の適用対象としては、ヒトおよびId遺伝子を保有している非ヒト脊椎動物を挙げることができる。例えば、Id遺伝子が現時点で確認されている非ヒト脊椎動物としては、サケ(Salmo salar)、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)、ニワトリ(Gallus gallus)、ラット(Rattus norvegicus)、マウス(Mus musculus)、ネコ(Felis catus)、ブタ(Sus scrofa)、ウシ(Bos taurus)、ヒツジ(Ovis aries)、チンパンジー(Pan troglodytes)や各種サル(ピグミーチンパンジー、ゴリラ、テナガザル、ボリビアリスザル、オリーブヒヒ等)などが挙げられる。これらの動物の保有しているId遺伝子は、いずれもヒトId遺伝子のホモログである。このようにId遺伝子は、魚類から高等哺乳類まで、脊椎動物に広く保有される遺伝子である。
本発明のId遺伝子発現抑制剤を上述した各種疾患や状態の治療や改善に用いる場合、本発明のId遺伝子発現抑制剤を投与しようとする患者または投与している患者におけるId遺伝子の発現状態を観察することができる。発現状態の観察は、上述した定量PCR等の方法で細胞または臓器におけるId遺伝子またはId蛋白の発現量を測定すればよい。測定結果に基づいて、Id遺伝子発現抑制剤の適用に最適な疾患および患者を選択したり、患者に本発明のId遺伝子発現抑制剤を投与する最適なタイミングおよび用量を決定したりすることができる。あるいは、測定結果に基づいて、患者における本発明のId遺伝子発現抑制剤を投与した効果を評価することができる。
参考例1 HepG2細胞ならびにHL-60細胞のId遺伝子発現量の測定
HepG2細胞(ヒト肝癌細胞株)ならびにHL-60細胞(ヒト骨髄性白血病細胞株)を通常培養した細胞(未処理細胞)について、Id-1遺伝子、Id-2遺伝子、Id-3遺伝子のmRNA発現量を定量的PCRにより測定した(表1)。尚、Id-1遺伝子、Id-2遺伝子、Id-3遺伝子のmRNA発現量は、同時に測定したGAPDH遺伝子(GenBank accession number NM_002046)の発現量の相対量として評価した。HepG2細胞においては、Id-1遺伝子、Id-2遺伝子、Id-3遺伝子の発現量がいずれも高い値を示した。この細胞は、Id蛋白の高発現細胞例として使用した。HL-60細胞はId-1遺伝子およびId-3遺伝子の発現はほとんどなく、Id-2遺伝子のみを選択的に発現している細胞株であった。この細胞は、血球系に多いId-2発現細胞例として使用した。
実施例1 ガラクツロン酸含有塩酸溶液の加熱処理液のId遺伝子発現抑制作用
(1)加熱処理液の作製
ガラクツロン酸1水和物(和光純薬工業)を精製水で溶解し、ガラクツロン酸濃度が1%、2%、5%(w/v)となるように調整し、さらにそれぞれに塩酸を添加して水溶液の塩酸濃度が0.5Nまたは1.0Nとなるように調整して、6種類のガラクツロン酸(塩酸酸性)溶液を作製した。それぞれを密栓試験管に入れ、121℃で60分間加熱(加圧条件下)した。加熱後、室温となるまで放置冷却し、それぞれを水酸化ナトリウム水溶液(8N)で中和し、pH6.8とした。これらの溶液を0.22μm孔径の滅菌用フィルターを通過させ、不溶性炭化物を取り除くとともに滅菌して、中和した加熱処理液を作製した。
(2)Id遺伝子発現抑制作用に対するウロン酸濃度の影響
上記(1)で作製した1%、2%および5%(w/v)ガラクツロン酸の1N塩酸溶液の加熱処理液を、それぞれ10μL/mL(作製した加熱処理液の100倍希釈)の濃度でHepG2細胞(ヒト肝癌細胞株)の培養液中に添加し、6時間後、24時間後に細胞を回収して、それぞれのId-1、Id-2およびId-3各遺伝子の発現量を定量的PCRにより測定した。測定値は、同時に測定したGAPDH遺伝子の発現量の相対値として求めた。Negative Controlとして加熱処理液を無添加で培養した細胞を用いた。添加した溶液のガラクツロン酸の濃度に依存してHepG2細胞のId-1、Id-2およびId-3各遺伝子の発現量がそれぞれ低下した。このId遺伝子の濃度依存的発現低下は、添加後6時間、添加後24時間ともに観察された(図1)。
(3)Id遺伝子発現抑制作用に対するウロン酸濃度の影響
上記(1)と同様の手順で、5%、8%、10%、15%、20%(w/v)ガラクツロン酸の1N塩酸溶液を加熱、中和、フィルター滅菌して加熱処理液を作製した。上記(2)と同様の手順により、加熱処理液をHepG2細胞に添加し、6時間後の細胞のId遺伝子発現量を測定した。その結果、5%(w/v)ガラクツロン酸溶液で強いId遺伝子の発現抑制作用がみられ、それ以上ガラクツロン酸濃度を上げてもId遺伝子の発現抑制作用のさらなる増強はほとんど観察されなかった(図2)。
(4)Id遺伝子発現抑制作用に対する塩酸濃度の影響
上記(1)で作製した1%、2%および5%(w/v)ガラクツロン酸の0.5Nおよび1N塩酸溶液の加熱処理液で、同様にHepG2細胞のId遺伝子発現量を定量的PCRにより調べた。その結果、5%ガラクツロン酸では、0.5Nおよび1N塩酸溶液の加熱処理液のいずれからも、Id-1、Id-2およびId-3各遺伝子の発現量低下を確認したが、その効果は1N塩酸溶液の加熱処理液においてより高かった(図3)。一方、1%(w/v)ガラクツロン酸および2%(w/v)ガラクツロン酸溶液では0.5N塩酸を添加した条件で加熱処理した場合には、無添加培養した細胞とのId遺伝子発現レベルの差は比較的小さかった。これらの結果により、加熱処理ウロン酸溶液のId遺伝子発現抑制効果は、溶液のウロン酸濃度と添加した酸の濃度とに依存することが示された。
(5)HL-60細胞への影響
さらに、上記(1)で作製した加熱処理液をHL-60細胞に作用させた場合には、HL-60細胞のId2遺伝子発現が抑制されることを確認した。
実施例2 加熱処理液画分のId遺伝子発現抑制作用
実施例1(1)で作製した5%(w/v)ガラクツロン酸1N塩酸溶液の加熱処理液の一部を、分画分子量10,000の遠心型限外濾過装置(Merck-Millipore)を使用して分子量10,000以上の画分と、10,000未満の画分に分離した。これを実施例1(2)と同様の手順でHepG2細胞に添加して培養し、Id遺伝子発現量を評価した。
その結果、分子量分画前の溶液と同様に、分子量10,000以上の画分にも、HepG2細胞の Id-1、Id-2およびId-3各遺伝子の発現量を低下させる作用を確認した(図4)。この結果は、分子量212.15であるガラクツロン酸1水和物より作製した溶液に分子量10,000以上の高分子物質が生成され、この高分子化した物質にId遺伝子の発現抑制作用があることを示す。またこの結果は、本発明が提供するId遺伝子発現抑制剤が、限外濾過装置を使って、製造過程で添加された塩類や未反応のガラクツロン酸と分離でき、精製することが可能であることを示す。同様に、分子量3,000〜10,000に分画した成分にもId遺伝子の発現抑制作用があることが示されたため、本発明により生成されるId遺伝子発現抑制剤は低分子であるガラクツロン酸に由来して生成され、様々な大きさの分子量に重合化する性質のある物質であることが分かった。
実施例3 加熱処理液の酸性沈降物のId遺伝子発現抑制作用
(1)高分子量画分の酸性沈降物
5%(w/v)ガラクツロン酸1N塩酸水溶液を121℃、60分間加熱処理(121℃、60分間)して作製した溶液を、水酸化ナトリウムでpH7.0に中和後、フィルター滅菌し、得られた溶液を限外ろ過膜を用いて、分画分子量10,000以上に分画し、脱塩、精製した。この精製溶液に0.1N塩酸を加え酸性にすると直ちに溶液中に沈降物が得られた。沈降物は、塩酸濃度がより高い場合にも生成されたが、0.1N塩酸で十分な量が生成された。遠心操作によりこの沈降物を分離し、減圧乾燥させて固形化させた。この固形物を精製水に加え、少量の水酸化ナトリウムで液性を中和(pH6.0以上)すると、固形物は水中に再度溶解した。この再溶解溶液は、酸性沈降させる前の溶液と同等のId遺伝子発現抑制活性を有していた。
(2)低分子量画分の酸性沈降物
5%(w/v)ガラクツロン酸1N塩酸水溶液を121℃、60分間加熱処理(121℃、60分間)して作製した溶液を、水酸化ナトリウムでpH7.0に中和後、フィルター滅菌し、溶液を得た。この溶液を分画分子量3,000の限外ろ過膜(Merck Millipore, PLBC06210、再生セルロース膜)を通過させ、分子量3,000未満に分画した溶液を得た。この分子量3,000未満の画分の溶液に0.1Nの塩酸酸性となる様に塩酸を加えると、溶液中に沈降物が析出した。遠心操作(室温、3,000rpm)によりこの酸性沈降物を分離し、沈降物を0.1N塩酸溶液で洗浄し、再度遠心沈降する洗浄操作をおこなった後、沈降物を減圧乾燥させて、乾燥固形物を得た。分子量3,000未満の画分から得られた酸性沈降物(乾燥固形)を秤量し、11mg/mLとなるように精製水に加え、少量の水酸化ナトリウム溶液を加えて中和すると、pH6.0の液性から沈降物が溶解した。この溶液をpH7.0となるように調整し、酸性沈降物の溶液濃度が10mg/mL(固形重量として)となる中性溶液を得た。この溶液を使用して、実施例1(2)と同様の手順でHepG2細胞に添加して6時間培養し、Id遺伝子の発現抑制活性を測定した。具体的には、培養皿に播種したHepG2細胞の培養液に、0.01μg/mL〜1000μg/mLの濃度になるように上記の溶液を添加して、6時間の添加培養を行なった後に、細胞を回収して、Id-1、Id-2、Id-3各遺伝子の発現量を定量的PCRにより測定した。その結果、酸性沈降物の溶液は、酸性沈降物の濃度に依存したId遺伝子の発現抑制作用を有していた(図5)。
さらに、同様に分画分子量1,000の限外ろ過膜(Merck Millipore, PLAC06210、再生セルロース膜)を通過させ、分子量1,000未満に分画した溶液を得た。この溶液では、0.1Nの塩酸酸性となる様に塩酸を加えても酸性沈降物は得られず、またId遺伝子発現抑制活性を有する物質はほとんど存在していなかった。
実施例4 Id遺伝子発現抑制作用に対する加熱条件の影響
5%(w/v)ガラクツロン酸の1N塩酸溶液を作製し、密栓試験管に入れ、加圧条件下で、121℃で1分、5分、20分、60分、120分または180分間、または80℃60分、90℃60分、95℃120分または105℃60分間加熱し、室温となるまで放置冷却した。得られた溶液を実施例1(1)と同様の手順で中和、フィルター滅菌して加熱処理液を作製した。これを実施例1(2)と同様の手順でHepG2細胞に添加して6時間培養し、Id遺伝子発現量を評価した。
その結果、加熱処理温度が121℃の場合は、加熱処理液のId遺伝子発現抑制作用は加熱時間1分から見られ、20分でほぼ抑制作用が最大に達した(図6左)。また、加熱時間を一定(60分間、一部120分間)とした場合、加熱温度は95℃以上でId遺伝子の発現抑制作用が見られたが、温度が高いほど発現抑制作用が増大し、100℃以上の加熱条件とした方が短時間で効率的にId遺伝子発現抑制作用が得られることが分かった(図6右)。水や沸点の低い液体を加熱媒体にした場合、圧力容器でなければ100℃以上の条件を満たすことは難しいが、オートクレーブ等の加圧加熱機器を用いることで比較的容易に高温下で溶液を加熱することができ、また短時間で十分な加熱処理をすることができる。
実施例5 ガラクツロン酸含有クエン酸溶液の加熱処理液のId遺伝子発現抑制作用
5%、10%、15%(w/v)ガラクツロン酸溶液にクエン酸をそれぞれ8%、10%、15%(w/v)となるように添加し、得られた各溶液を加熱、中和、フィルター滅菌して加熱処理液を作製した。これらを実施例1(2)と同様の手順でHepG2細胞に添加して6時間培養し、Id遺伝子発現量を評価した。Positive controlとして、5%ガラクツロン酸1N塩酸溶液の加熱処理液で培養した細胞を用い、Negative controlとして加熱処理液無添加で培養した細胞を用いた。
その結果、8%(w/v)以上のクエン酸濃度条件では、ガラクツロン酸の濃度に依存して、Id遺伝子の発現抑制作用が観察された(図7)。なお、溶液のクエン酸濃度が5%(w/v)以下の場合、十分なId遺伝子発現抑制作用は得られなかった。一方、ガラクツロン酸15%(w/v)以上およびクエン酸10%(w/v)以上の溶液を加熱処理した場合、より効率よくId遺伝子発現抑制剤を作製することができた。ガラクツロン酸含有クエン酸溶液からId遺伝子発現抑制剤を作製する場合は、ガラクツロン酸5%(w/v)以上およびクエン酸8%(w/v)以上とすることが好ましい。
実施例6 ガラクツロン酸含有硫酸溶液の加熱処理液のId遺伝子発現抑制作用
5%(w/v)ガラクツロン酸溶液に硫酸をそれぞれ0.1N、0.25N、0.5N、1.0Nとなるように添加し、得られた各溶液を加熱、中和、フィルター滅菌して加熱処理液を作製した。これらを、これらを実施例1(2)と同様の手順でHepG2細胞に添加して6時間培養し、Id遺伝子発現量を評価した。Positive controlとして、5%ガラクツロン酸1N塩酸溶液の加熱処理液で培養した細胞を用い、Negative controlとして加熱処理液無添加で培養した細胞を用いた。
その結果、硫酸濃度0.1N以上からId遺伝子発現抑制作用が観察され、0.5N以上では明らかな作用が認められた(図8)。なお、同様の条件で硫酸の代わりに硝酸を用いた場合、Id遺伝子発現抑制作用は観察されなかった。さらに硝酸濃度をより薄く(0.01N、0.025N、0.05N)した場合でも、やはりId遺伝子の発現抑制作用は観察されなかった。
実施例7 ペクチン含有塩酸溶液の加熱処理液のId遺伝子発現抑制作用
リンゴ由来ペクチン(和光純薬工業)を精製水に可能なかぎり溶解し、2%(w/v)ペクチン溶液を作製した。この溶液を2つに分け、それぞれ0.5Nおよび1.0Nとなるように塩酸を加えた。それぞれを密栓試験管に入れ、121℃で60分間加熱(加圧条件下)した。加熱後、室温となるまで放置冷却し、それぞれを水酸化ナトリウム水溶液(8N)で中和し、pH6.8とした。この溶液を0.22μm孔径の滅菌用フィルターを通過させ、沈降物を取り除くとともに滅菌し、加熱処理液を作製した。さらに、その一部は、分画分子量10,000の遠心型限外濾過装置(Merck-Millipore)を使用して、分子量10,000以上の画分と、10,000未満の画分に分離した。さらに分子量10,000未満の画分の一部を、分画分子量3,000の遠心型限外濾過装置を使用して、分子量3,000〜10,000未満の画分と、分子量3,000未満の画分に分画した。
上記加熱処理液およびその画分を用いて、実施例1(2)と同様の手順でHepG2細胞のId-1、Id-2、Id-3各遺伝子の発現抑制作用を評価した。その結果、ペクチン含有塩酸溶液の加熱処理液およびその画分は、いずれもId遺伝子発現抑制作用を有していた。Id遺伝子発現抑制作用は、分子量10,000以上の画分および分子量3000〜10,000未満の画分で高かったが、分子量3,000未満の低分子量の画分でも確認された(図9)。
実施例8 加熱処理時の溶液pHのId遺伝子発現抑制作用
5%(w/v)ガラクツロン酸溶液に塩酸をそれぞれ0.1N、0.25N、0.5N、1.0Nとなるように添加し、得られた各溶液を実施例1(1)と同様の手順で加熱、中和、フィルター滅菌して加熱処理液を作製した。これらの加熱処理液を実施例1(2)と同様の手順でHepG2細胞に添加して6時間培養し、Id遺伝子発現量を評価した。
5%(w/v)ガラクツロン酸溶液(pH2.0)に水酸化ナトリウム(NaOH)を加えて、pHを3.9〜12.7に調整した各溶液を作製し、各溶液を実施例1(1)と同様の手順で加熱、中和、フィルター滅菌して加熱処理液を作製した。これらの加熱処理液を実施例1(2)と同様の手順でHepG2細胞に添加して6時間培養し、Id遺伝子発現量を評価した。
その結果、塩酸を添加した場合、塩酸濃度に依存してId遺伝子の発現抑制作用が観察された一方、pH3.9〜12.7の各溶液では、明らかなId遺伝子の発現抑制作用は観察されなかった(図10)。また、2%ガラクツロン水溶液(pH2.2)に酸を添加せずにそのまま加熱しても、同様にId遺伝子の発現抑制作用はなかった。以上により、塩酸存在下での加熱処理よりId遺伝子発現抑制剤が生成されるが、ウロン酸のみを含む酸性溶液(pH2.2)や、中性領域やアルカリ領域の溶液を加熱処理しても、Id遺伝子発現抑制剤は生成されないことが分かった。
実施例9 各種糖含有酸性溶液の加熱処理物によるId遺伝子発現抑制作用。
5%(w/v)グルクロン酸、ガラクトースまたはグルコースを含有する溶液に1Nとなるように塩酸を添加し、得られた各溶液を実施例1(1)と同様の手順で加熱、中和、フィルター滅菌して加熱処理液を作製した。これらの加熱処理液を実施例1(2)と同様の手順でHepG2細胞に添加して6時間培養し、Id遺伝子発現量を評価した。Positive controlとして、5%ガラクツロン酸1N塩酸溶液の加熱処理液で培養した細胞を用い、Negative controlとして加熱処理液を無添加で培養した細胞を用いた。その結果、5%グルクロン酸の塩酸溶液の加熱処理液では、5%ガラクツロン酸の塩酸溶液の場合と同様のId遺伝子発現抑制作用が認められたが、ガラクトースやグルコースの塩酸溶液の加熱処理液では明らかなId遺伝子発現抑制作用は観察されなかった(図11)。したがって、Id遺伝子発現抑制剤は、ガラクツロン酸やグルクロン酸などのウロン酸を含む溶液を塩酸等の酸存在下で加熱することで効率的に生成されるが、同じく単糖類であるグルコースやガラクトースの溶液からはほとんど生成されないことが分かった。
実施例10 Id遺伝子発現抑制剤による細胞増殖抑制作用
上記実施例2および実施例7でId遺伝子発現抑制作用が確認された(1)5%ガラクツロン酸1N塩酸溶液の加熱処理液(以下5%GUA-1N HCl)、(2)その分子量10,000以上の画分の溶液(以下5%GUA-1N HCl High MW)、(3)2%ペクチン含有1N塩酸溶液の加熱処理液(以下2%Pectin-1N HCl)の3つについて、HepG2細胞およびHL-60細胞に対する細胞増殖抑制作用を検討した。
HepG2細胞は、2×105cells/wellで12well培養プレートに播種し、上記3種類の溶液のそれぞれを、5μL/mL、10μL/mLまたは20μL/mLの濃度で培養液に添加し、24時間および72時間培養した。培養後、細胞をトリパンブルー染色で染色し、細胞数をカウントした。同時に培養した加熱処理液無添加培養細胞の細胞数を100として、各培地における細胞数の抑制率を計算し、triplet assayの平均値を求めた。得られた抑制率をもとに、各溶液の細胞増殖抑制作用を評価した。その結果、HepG2細胞の細胞増殖は、いずれの溶液を添加した場合でも抑制された。その抑制作用は添加濃度が高い場合に強かった(図12)。
HL-60細胞は、1×105cells/wellで24well培養プレートに播種し、上記3種類の溶液のそれぞれを、5μL/mL、10μL/mLまたは20μL/mLの濃度で培養液に添加し、24時間および72時間培養し、細胞数をカウントした。同時に培養した加熱処理液無添加培養細胞の細胞数を100として、各培地における細胞数の抑制率を計算し、triplet assayの平均値を求めた。得られた抑制率をもとに、各溶液の細胞増殖抑制作用を評価した。その結果、HL-60細胞の細胞増殖は、いずれの溶液を添加した場合でも抑制された。その抑制作用は添加濃度依存的であった(図13)。
HL-60細胞は細胞増殖抑制作用の感受性が高く、上記溶液の添加はHL-60細胞の生存率にも大きな影響を与えた。図14に示すとおり、最も細胞への作用の強かった5%GUA-1N HClを10μL/mLの濃度で加えた場合には、細胞形態に明らかな変化が起こり、多核な巨細胞へと分化する傾向が観察された(図14中央図、矢印は多核巨細胞)。また、5%GUA-1N HClを20μL/mLの濃度で加えた場合には、多核な巨細胞を伴いながら細胞がほとんど死滅した(図14右図、矢印は多核巨細胞)。
これらの結果より、本発明のId遺伝子発現抑制剤は、Id蛋白を高発現した腫瘍細胞に作用させた場合、細胞機能に影響を与えて細胞の増殖抑制や細胞死の誘導、細胞形態変化の誘導(分化誘導)などを引き起こし、抗腫瘍効果を発揮することができることが確認された。
実施例11 Id遺伝子発現抑制剤によるサイトカイン産生抑制作用
動物の末梢血に存在する白血球は、サイトカインを分泌して免疫および炎症に関わる免疫担当細胞である。健常者の末梢血から分離したPBMC(末梢血単核球細胞:peripheral blood mononuclear cell)にphorbol 12-myristate 13-acetate(PMA)(50ng/mL)およびionomycin(1μg/mL)を添加して刺激培養すると、TNF-α(腫瘍壊死因子α:Tumor necrosis factor α)やIL-8(インターロイキン-8:interleukin-8)の産生が亢進し、培養液中のTNF-αやIL-8濃度が上昇する。Id遺伝子発現抑制剤は、このPBMCからのPMA/ionomycin刺激によるサイトカイン産生を抑制する。
ヘパリンまたはクエン酸ナトリウムを抗凝固剤として健常人末梢血を採取し、それぞれから常法により比重分離液(H-SMF JIMRO社製)を用いてPBMCを分離した。分離したPBMCを10%牛胎児血清含有RPMI-1640培地(SIGMA)に2x106cells/mLの細胞濃度で再懸濁し、培養皿に播種した。播種したPBMCに、上記実施例3でId遺伝子発現抑制作用が確認された、分子量3,000未満の画分から得た酸性沈降物の溶液を必要量添加し、5% CO2、37℃の培養条件で2時間培養(前処理培養)した。前処理培養の陰性対照(Negative control)として上記酸性沈降物溶液の代りに同量の培養液を添加し、同様に処理した。前処理培養に続いて、さらにPBMCの刺激剤としてphorbol 12-myristate 13-acetate(PMA;SIGMA)(最終50ng/mL)とStreptomyces conglobatus由来ionomycin(ionomycin calcium salt;SIGMA)(最終1μg/mL)を添加し、同様の条件で4時間培養(刺激培養)した。培養終了後、これらの培養上清を回収し、使用まで-80℃で保存した。
ヘパリンを用いて採取した血液から得られたPBMCを前処理培養および刺激培養して回収した培養上清では、TNF-αの濃度を市販のELISA kit(Human TNF-α ELISA Kit, Gen-Probe Diaclone SAS)を用いて測定した。クエン酸ナトリウムを用いて採取した血液から得られたPBMCを前処理培養および刺激培養して回収した培養上清では、IL-8の濃度を市販のELISA kit(Human IL-8 ELISA Kit, Gen-Probe Diaclone SAS)を用いて測定した。
その結果、酸性沈降物を添加して前処理培養したPBMCの培養上清では、Negative control(酸性沈降物無添加+刺激培養群)に比べて、培養上清中のTNF-αおよびIL-8の濃度が低下した(図15)。この結果は、本発明のId遺伝子発現抑制剤と接触したPBMCでは、PMAおよびionomycinの刺激により誘導されるTNF-αやIL-8の産生が抑制されることを示している。本発明のId遺伝子発現抑制剤は、動物末梢血由来のPBMCとの接触により、免疫や炎症などのメディエーターとして機能するTNF-αやIL-8の産生を抑制する作用を有し、さらにこれらの調節作用を介して、生体の免疫反応や炎症反応を抑制または調節することができる。

Claims (13)

  1. ウロン酸含有溶液を、塩酸、硫酸およびクエン酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸とともに加熱することと、該加熱したウロン酸含有溶液を分画して分子量1,000以上の画分を取得することとを含み、
    該加熱されるウロン酸含有溶液が、ガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、イズロン酸またはそれらの塩の、オリゴマーまたはポリマーを含有する、Id蛋白をコードする遺伝子の発現抑制剤の製造方法。
  2. Id蛋白をコードする遺伝子が、Id-1蛋白、Id-2蛋白またはId-3蛋白をコードする遺伝子である、請求項1記載の方法。
  3. 加熱が、95〜121℃で20〜180分間の加熱である、請求項1又は2記載の方法。
  4. ウロン酸含有溶液を、0.5〜1N塩酸もしくは硫酸、または8〜15%(w/v)クエン酸とともに加熱することを含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  5. 分子量1000以上の画分を含む溶液に0.05〜0.5N塩酸を添加し、生成された沈降物を取得することをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
  6. 加熱されるウロン酸含有溶液が、1〜20%(w/v)ガラクツロン酸もしくはその塩を含む水溶液、1〜20%(w/v)グルクロン酸もしくはその塩を含む水溶液、またはガラクツロン酸、グルクロン酸およびそれらの塩を合計で1〜20%(w/v)含む水溶液である、請求項1〜のいずれか1項記載の方法。
  7. 加熱されるウロン酸含有溶液が、1〜2%(w/v)ペクチン水溶液である、請求項1〜のいずれか1項記載の方法。
  8. 請求項1〜のいずれか1項記載の方法により製造されたId蛋白をコードする遺伝子の発現抑制剤を用いることを特徴とするサイトカイン産生抑制剤の製造方法
  9. 請求項1〜のいずれか1項記載の方法により製造されたId蛋白をコードする遺伝子の発現抑制剤を用いることを特徴とする抗炎症剤の製造方法
  10. 請求項1〜のいずれか1項記載の方法により製造されたId蛋白をコードする遺伝子の発現抑制剤を用いることを特徴とする抗腫瘍剤の製造方法
  11. 請求項1〜のいずれか1項記載の方法により製造されたId蛋白をコードする遺伝子の発現抑制剤を用いることを特徴とする免疫調節剤の製造方法
  12. 請求項1〜のいずれか1項記載の方法により製造されたId蛋白をコードする遺伝子の発現抑制剤を用いることを特徴とする細胞の分化誘導剤の製造方法
  13. 請求項1〜のいずれか1項記載の方法により製造されたId蛋白をコードする遺伝子の発現抑制剤を用いることを特徴とする医薬の製造方法
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