以下、この発明の好適な実施形態を図1〜図13を参照しながら、詳細に説明する(同一部分については同じ符号を付す)。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限られるものではない。
本発明の半導体発光装置は、種々のパッケージに対して適応できるものであるが、そのなかで表面実装型の半導体発光装置を一実施形態として説明する。
図1は実施形態の縦断面説明図である。
半導体発光装置1は凹部2を有する樹脂パッケージ3の凹部2底面に、互いに分離独立した一対のリード電極4、5の一端部が露出してボンディング部(ダイボンディング部4a及びワイヤボンディング部5a)を形成すると共に、リード電極4、5の夫々の他端部が樹脂パッケージ3の裏面に回り込んで外部からの電力を受電する電力受電部4b、5bを形成している。
凹部2底面に露出したリード電極4のダイボンディング部4a上には、導電性接着剤6を介してLEDチップ7がダイボンディングされてLEDチップ7の下部電極(図示せず)とダイボンディング部4aが電気的に接続されている。LEDチップ7の上部電極(図示せず)と凹部2底面に露出したリード電極5のワイヤボンディング部5aには、ボンディングワイヤ8の両端部の夫々がワイヤボンディングされてLEDチップ7の上部電極とワイヤボンディング部5aがボンディングワイヤ8を介して電気的に接続されている。
凹部2内には、透光性樹脂9が充填されて、LEDチップ7及び後述する蛍光体シート10を水分、塵埃及びガス等の外部環境から保護し、且つLEDチップ7、ボンディングワイヤ8及び蛍光体シート10を振動及び衝撃等の機械的応力から保護している。透光性樹脂9はレンズ状に形成することにより出射光の配光制御に用いられる場合もある。透光性樹脂9は必ずしも必要とされるものではないが、使用する場合は、例えばエポキシ樹脂あるいはシリコーン樹脂等の透光性を有する熱硬化性樹脂が用いられる。
LEDチップ7は、厚みが100μm程度のSiあるいはGe等の半導体材料で形成された半導体基板からなる支持基板7a上に、例えばAuSnはんだを含む複数の金属膜が積層されて構成された金属層(図示せず)を介して、内部に発光層を有する半導体エピタキシャル層(以下、「エピタキシャル層」と略称する)7bが接合されている。
エピタキシャル層7bと支持基板7aを接合する金属層は、接合部材としての役割以外に、エピタキシャル層7b内の発光層から放射された光の光反射層としての役割も担っている。
エピタキシャル層7bは、n型半導体層、発光層(活性層)及びp型半導体層が順次積層された矩形状の多層積層構造を有している。そのうち、n型半導体層は例えばSiドープのGaN層で構成され、発光層はInGaN/GaNからなる多重量子井戸構造によりピーク波長が約460nmの青色光を発光し、p型半導体層は例えばMgドープのGaN層で構成されている。
エピタキシャル層7bの最上部には、例えばAu、AgあるいはAl等の金属材料からなる電極パッドが設けられていると共に、支持基板7aの裏面には例えばAu等からなる裏面電極が設けられている。そして、電極パッドと裏面電極の間に所定の電圧を印加してLEDチップ7に給電することにより、エピタキシャル層7b内の発光層で発光が生じて青色光が放射される。
このとき、発光層からエピタキシャル層7bの上面(主光出射面)7c方向に放射された光は、n型半導体層内を導光されてそのまま主光出射面7cからLEDチップ7外に出射される。一方、発光層から支持基板7a方向に放射された光は、p型半導体層内を導光され金属層で反射されて再度p型半導体層内に戻り、更にp型半導体層、発光層及びn型半導体層の各層内を順次導光されて主光出射面7cからLEDチップ7外に出射される。
LEDチップ7を構成するエピタキシャル層7b、金属層及び支持基板7aはいずれも、LEDチップ7の直上から見た上面視において約1〜2mm□の矩形状を呈しており、エピタキシャル層7bは支持基板7aよりも小さい面積を有すると共に支持基板7aから突出することなく支持基板7aの外縁の内側に収まるように形成されている。
LEDチップ7には、エピタキシャル層7bの光出射部となる上面(主光出射面)7c及び側面(副光出射面)7dを被覆するように、透光性樹脂に蛍光体を分散してなるシート状の蛍光体分散樹脂(以下、「蛍光体シート」と呼称する)10が設けられている。
蛍光体シート10は、例えばエポキシ樹脂あるいはシリコーン樹脂等の透光性を有する熱硬化性樹脂(以下、「透光性樹脂」と略称する)が熱硬化前の液状状態のときに蛍光体を分散して蛍光体分散樹脂を形成し、この液状の蛍光体分散樹脂を加熱硬化してシート状に成形したものである。
透光性樹脂に分散される蛍光体は、例えばYAG蛍光体(Y3Al5O12:Ce等)やケイ酸塩系蛍光体(Sr2SiO4:Eu等)の粉末が用いられ、LEDチップ7のエピタキシャル層7b内の発光層から放射された、ピーク波長が約460nmの青色光に励起されて560nm前後にピーク波長を有する黄色光を放出する。
そこで、LEDチップ7のエピタキシャル層7b内の発光層から放射されてエピタキシャル層7bの主・副光出射面7c、7dからLEDチップ7外に出射した青色光は、エピタキシャル層7bを被覆する蛍光体シート10に入射する。蛍光体シート10に入射した青色光は、蛍光体シート10内を蛍光体を励起することなく導光された非波長変換光(青色光)と、蛍光体シート10内を導光中に蛍光体(黄色蛍光体)を励起することにより黄色蛍光体から放出された波長変換光(黄色光)とを構成し、この青色光と黄色光の加法混色により白色光が得られる。
次に、蛍光体シート10の詳細形状及びその作製方法を図2〜図4を参照して説明する。
まず、例えばエポキシ樹脂あるいはシリコーン樹脂等の透光性樹脂に、例えばYAG蛍光体(Y3Al5O12:Ce等)やケイ酸塩系蛍光体(Sr2SiO4:Eu等)の粉末を混入して攪拌・脱法して蛍光体分散樹脂を作製し、この蛍光体分散樹脂を、該蛍光体分散樹脂を完全硬化(本硬化)させるための本加熱の加熱条件で加熱して、全面に亘って均一な厚みの平板状の蛍光体シート10を作製する。
蛍光体シート10の厚みは、50〜200μmの範囲にあるのが好ましいが、必ずしもこれに限られるものではない。但し、厚みが50μmよりも薄くなると、蛍光体シート10自体の製造工程中及び半導体発光装置としての組立工程中のハンドリングが困難となると共に所望する色相の光を得るために蛍光体濃度を高めることにより蛍光体シート10の機械的強度が損なわれることになる。また、厚みが200μmよりも厚くなると、蛍光体シート10の柔軟性が損なわれてLEDチップ7のエピタキシャル層7bに対する被覆作業の作業性が悪くなる。
次に、図2(蛍光体シートの断面説明図)にあるように、完全硬化した平板状の蛍光体シート10に、一方の面から厚み方向に所定の深さを有すると共に直線状に延びる所定幅の溝11を、縦横夫々所定のピッチで格子状に形成する。
溝11の深さ(d)は、蛍光体シート10の厚み(t)の10%以上100%未満の深さ(ハーフカット)が好ましいが、基本的には、蛍光体シート10自体の製造工程中及び半導体発光装置としての組立工程中のハンドリングにおいて、簡単に損傷することがない程度の最低限の強度を確保できる深さが必要である。ハーフカットの深さが、蛍光体シート10の厚みの10%よりも浅くなると、後述する、視認角度による色相変化を抑制する抑制効果が小さくなってしまう。
また、縦横格子状に形成された溝11の縦横の夫々のピッチは、10〜100μm程度が好ましい。但し、溝11のピッチの最小は10μm程度が好ましいが、製造上10μm未満のピッチでの形成が可能であれば10μm未満のピッチであってもかまわない。溝11のピッチが100μmよりも大きくなると、後述する、視認角度による色相変化を抑制する抑制効果が小さくなってしまうと同時に新たな色相ムラの原因となってしまう。
なお、溝11の深さ及び溝11のピッチの夫々は、蛍光体シート10の全面に亘って均一に設けられても良いし、規則性なくランダムに形成されてもよい。
上記蛍光体シート10は、LEDチップ7のエピタキシャル層7bを被覆するように設けられるものであるが、それには2通りの方法が考えられる。
その一つは、蛍光体分散樹脂を本加熱することにより完全硬化(本硬化)した蛍光体シート10の全面に、一方の面から厚み方向に所定の深さを有すると共に直線状に延びる所定幅の溝11(ハーフカットの溝11)を、縦横夫々所定のピッチで格子状に形成し、その後、LEDチップ7のエピタキシャル層7bに被覆する大きさに切断、分割する。そして、図3(蛍光体シートの配置方法の説明図)にあるように、分割された複数の蛍光体シート10の夫々を、LEDチップ7のエピタキシャル層7bの上面(主光出射面)7cにワイヤボンディングされたボンディングワイヤ8を避けながらエピタキシャル層7bの光出射部となる上面(主光出射面)7c及び側面(副光出射面)7dに沿って、例えばシリコーン樹脂等の接着剤を介して配置して該接着剤を加熱硬化することにより固着するものである。
その場合、ハーフカットの溝11が格子状に形成されてなる蛍光体シート10は、LEDチップ7のエピタキシャル層7bの光出射部に沿って配置される前にすでに完全硬化の状態にある。そのため、蛍光体シート10の配置後の接着剤硬化時の加熱によって蛍光体シート10の形状が崩れるようなことはなく、ハーフカットの溝11の形状も崩れることなく配置時の形状がそのまま維持される。
もう一つは図示しないが、蛍光体分散樹脂の本加熱による本硬化ではなく仮加熱による仮硬化の蛍光体シートを形成し、仮硬化の蛍光体シートの全面に、一方の面から厚み方向に所定の深さを有すると共に直線状に延びる所定幅の溝(ハーフカットの溝)を、縦横夫々所定のピッチで格子状に形成し、その後、LEDチップのエピタキシャル層に被覆する大きさに切断、分割する。そして、分割された複数の蛍光体シートの夫々を、エピタキシャル層の光出射部となる上面(主光出射面)及び側面(副光出射面)に沿って配置してその状態で本加熱の熱処理を行うことにより、蛍光体シートを本硬化させると共に本硬化時の加熱処理によって蛍光体シートがLEDチップの光出射部に沿って直接固着する。
この場合、ハーフカットの溝が設けられた蛍光体シートは、LEDチップのエピタキシャル層の光出射部に沿って配置された時点では仮硬化の状態にあり、その後の本加熱によって本硬化(完全硬化)される。そのため、エピタキシャル層の光出射部に沿って配置された仮硬化状態の蛍光体シートは、仮硬化から本硬化に至る加熱処理によって形状が崩れて変形してしまい、ハーフカットの溝の形状も同様に崩れて変形してしまう。
各ハーフカットの溝11の、本硬化の加熱処理による変形後の形状は図4(蛍光体シートの断面説明図)にあるように、蛍光体シート10の内部において、蛍光体シート10の厚み方向と蛍光体シート10の面内方向に拡がる面状の空洞12の形をなすものである。このような、内部に複数の面状の空洞12を有する蛍光体シート10は、後述する、視認角度による色相変化を抑制する抑制効果に対して悪影響を及ぼすものではなく、かえって、ハーフカットの溝11が形成された蛍光体シート10よりも視認角度による色相変化を効果的に抑制することができる。
なお、上述の仮硬化とは、蛍光体分散樹脂が完全には硬化していない状態を指すものであり、蛍光体シート10を、蛍光体シート10自体の製造工程中及び半導体発光装置としての組立工程中のハンドリングにおいて、簡単に損傷することなく少なくともその形状を維持できる最低限の強度が確保できる程度に硬化させた状態を指すものである。具体的には、例えば、硬化時の加熱温度を本硬化時の加熱温度よりもやや低い温度としたり、加熱時間を本硬化時の加熱時間よりもやや短い時間とするなど、熱処理条件を適宜設定することにより不完全な硬化状態を作り出すものである。
一方、本硬化(完全硬化)とは、仮硬化状態の蛍光体シート10に対して、透光性樹脂の硬化反応が完全に終了するような、本加熱の加熱条件に基づく高温長時間の加熱処理を施した状態を指すものである。
次に、半導体発光装置において上記ハーフカットの溝を施した蛍光体シート及び該ハーフカットの溝の変形による空洞を設けた蛍光体シートの夫々が果たす光学的効果について、従来構成の半導体発光装置とともに、試料作製及び光学特性測定・検証を行ったので以下に説明する。
測定・検証試料は、従来構成の半導体発光装置を比較例として比較例1及び比較例2の2種類の半導体発光装置を作製し、上記蛍光体シートを備えた半導体発光装置を実施例として実施例1及び実施例2の2種類の半導体発光装置を作製した。
そのうち、比較例1の半導体発光装置は図14と同様の構成とし、比較例2の半導体発光装置は図15と同様の構成とした。
LEDチップ(比較例1においてはLED素子83、比較例2においてはLEDチップ94)は、厚みが150μmのSi基板からなる支持基板上に、AuSnはんだを含む複数の金属膜が積層されて構成された金属層を介して、内部に発光層を有するエピタキシャル層が接合されている。エピタキシャル層は、n型半導体層、発光層(活性層)及びp型半導体層が順次積層された多層積層構造を有している。エピタキシャル層の最上部にはAu等の金属材料からなる電極パッドが設けられると共に支持基板の裏面には例えばAu等の金属材料からなる裏面電極が設けられており、電極パッドと裏面電極の間に所定の電圧を印加してLEDチップに給電することにより、エピタキシャル層内の発光層で発光が生じてピーク波長が約455nmの青色発光が放射される。LEDチップを構成するエピタキシャル層、金属層及び支持基板は、いずれも上面視において1.1mm□の矩形状を呈している。
比較例1は、蛍光体86を分散した透明樹脂87はシリコーン樹脂、蛍光体86は材料がY3Al5O12:Ceであり、蛍光体86を分散してなる透明樹脂87中の蛍光体濃度は20wt%である。
比較例2は、無機蛍光層93に替えて、溝を有しない平板状の蛍光体シートを設けた。この蛍光体シートは、シリコーン樹脂からなる透光性樹脂にY3Al5O12:Ceからなる蛍光体を混入して攪拌・脱泡して蛍光体分散樹脂を形成し、これを完全硬化する加熱条件(160℃、1時間)で加熱して厚さ100μmのシート状にした。そして、この蛍光体シートをLEDチップ94のチップサイズと同等の大きさの1.1mm□に切断、分割し、分割された複数の蛍光体シートの夫々を、LEDチップ94の光出射面上にボンディングワイヤ(導電性ワイヤー96)を避けながらシリコーン樹脂を介して貼り付けて該シリコーン樹脂を160℃、1時間加熱硬化することにより固定したものである。蛍光体シート中の蛍光体濃度は56wt%である。
実施例1及び実施例2は、いずれも図1の半導体発光装置と同様の構成とする。
LEDチップ7は、実施例1及び実施例2ともに、比較例1及び比較2に使用したものと同一である。蛍光体シート10は、実施例1及び実施例2ともに、厚みが100μmで、蛍光体シート10を構成する透光性樹脂はシリコーン樹脂、蛍光体は材料がY3Al5O12:Ceであり、蛍光体シート10中の蛍光体濃度は56wt%である。
実施例1の蛍光体シート10は、蛍光体分散樹脂を加熱硬化することにより完全硬化した厚さ100μmの板状にし、これに全面に亘って一方の面から縦横夫々100μmの間隔で格子状に深さ50μmのハーフカットの長溝を形成し、同時にLEDチップ7のチップサイズと同等の大きさの1.1mm□に切断、分割した。そして、分割された蛍光体シート10を、ハーフカットが施された面を上にしてLEDチップ7のエピタキシャル層7bの光出射部となる上面(主光出射面)7c及び側面(副光出射面)7dを被覆するようにボンディングワイヤ8を避けながらシリコーン樹脂の接着剤を介して貼り付け、該接着剤を加熱硬化することにより固定した。
一方、実施例2の蛍光体シート10は、蛍光体分散樹脂を仮硬化の加熱条件(120℃ 30分)で加熱硬化して厚さ100μmの仮硬化の蛍光体シートを形成し、これに全面に亘って一方の面から縦横夫々100μmの間隔で格子状に深さ50μmのハーフカットの長溝を形成し、同時にLEDチップのチップサイズと同等の大きさの1.1mm□に切断、分割した。そして、分割された蛍光体シートを、ハーフカットが施された面を上にしてLEDチップ7のエピタキシャル層7bの光出射部となる上面(主光出射面)7c及び側面(副光出射面)7dを被覆するようにボンディングワイヤ8を避けながら直接覆って加熱することにより蛍光体シート10を完全硬化させると共に、完全硬化時の熱によって蛍光体シート10をLEDチップに直接固着させた。
そして、上記試料に対して、比較例1及び比較例2、実施例1及び実施例2の各半導体発光装置について、正面視における色ムラ及びLEDチップの直上方向(0°の方向)と直上方向から60°傾いた方向(60°方向)の両方から見た時の色度差を測定した。図5の表はその測定結果をまとめたものである。
なお、正面視における色ムラの測定は、夫々の出射光をレンズを介してスクリーンに投影して確認した。
図5の表より、正面視における色ムラについては、比較例1において、スクリーン上に、LEDパッケージ81の凹部82であって蛍光体86が分散してなる透明樹脂87の充填部分である円形の発光像が投影され、そのなかで、中央のLED素子83の主光出射面に対応する部分は白色発光が確認されたが、周囲は黄色みがかった白色光が認められた。
それに対し、比較例2、実施例1及び実施例2については、比較例1で見られた投影像の中央部分の白色発光のみが確認され、黄色みがかった白色光は認められなかった。これは、LEDチップ7のエピタキシャル層7bの光出射部となる上面(主光出射面)7c及び側面(副光出射面)7dのみに蛍光体シート10を配置した光学的効果と考えられる。LEDチップ7の光出射面領域(発光面中心)及び光出射面領域以外の領域(発光面中心の周辺)からなる全面に亘って色相の違い(色ムラ)はほとんど認められなかった。
一方、0°の方向から見た時の色度と60°の方向から見た時の色度の差はxy色度座標において、x座標値の差及びy座標値のいずれも比較例1が最も大きく、次いで比較例2及び実施例1の順に大きく、実施例2が最も小さい。つまり、実施例2、実施例1、比較例2及び比較例1の順に視認角度による色相変化の変化量が少なく、色相の視認角依存性が少ないことがわかる。
この要因としては、以下のことが考えられる(図6〜図8の光路説明図参照)。図6はハーフカットの溝を設けない蛍光体シート10aをLEDチップ7のエピタキシャル層7bの光出射部を被覆するように配設した比較例2の構成を示し、図7は完全硬化の蛍光体シートにハーフカットの溝11を設けた蛍光体シート10bをLEDチップ7のエピタキシャル層7bの光出射部を被覆するように配設することにより溝11の形状がそのまま維持された状態にある実施例1の構成を示し、図8は仮硬化の蛍光体シートにハーフカットの溝を設けてLEDチップ7のエピタキシャル層7bの光出射部を被覆するように配設し、それを加熱によって完全硬化すると共にその時の熱によってハーフカットの溝の形状が崩れて空洞12となった状態にある蛍光体シート10cを備えた実施例2の構成を示している。
図6〜図8において、L1、L2a〜L2b、L3はLEDチップ7の主光出射面(GaN層)7cから蛍光体シート10a、10b、10cに入射して該蛍光体シート10a、10b、10c内を導光されて外部に出射された光の光路を示し、符号15a〜15hは媒質の変化する点(媒質変化点)を示す。
ところで、光散乱現象は、光が進行中に媒質の光学的特性の変化点を通ったときに生じるものである。したがって、図6(比較例2)のような、LEDチップ7の主光出射面7cから、全面に亘って厚みが均一な蛍光体シート10aに入射した光L1は、蛍光体シート10a内を導光されて外部に出射するまでの間に、蛍光体シート10aの光出射面10aaのみが媒質の光学的特性の変化点15aとなるものである。そのため、光L1が大きく散乱されるのは蛍光体シート10aの光出射面10aaにおける1箇所のみである。
これに対し、図7(実施例1)のような、LEDチップ7の主光出射面7cから、全面に一方の面から縦横格子状にハーフカットの長溝11が形成された蛍光体シート10bに入射した光のうち、LEDチップ7の主光出射面7cのある位置からある方向に入射して溝11に向かう光L2aは、蛍光体シート10b内を導光されて外部に出射するまでの間に、溝11の光出射面11a及び光入射面10bの2箇所と蛍光体シート10bの光出射面10baの1箇所の合計3箇所の媒質の光学的特性の変化点15b、15c、15dを通り、LEDチップ7の主光出射面7cのある位置からある方向に入射して溝11に向かう光L2bは、蛍光体シート10b内を導光されて外部に出射するまでの間に、溝11の光出射面10baの1箇所のみの媒質の光学的特性の変化点15eを通る。
更に、図8(実施例2)のような、LEDチップ7の主光出射面7cから、内部に空洞12が形成された蛍光体シート10cに入射した光のうち、LEDチップ7の主光出射面7cのある位置からある方向に入射て空洞12に向かう光L3はすべて、蛍光体シート10c内を導光されて外部に出射するまでの間に、空洞12の光入射面12a及び光出射面12bの2箇所と蛍光体シート10cの光出射面10caの1箇所の合計3箇所の媒質の光学的特性の変化点15f、15g、15hを通ることになる。
したがって、LEDチップの主光出射面から蛍光体シートに入射して該蛍光体シート内を導光されて外部に出射される光が、媒質の光学的特性の変化点を通る確率が最も高いのは実施例2の構成であり、次に実施例1の順となる。その結果、蛍光体シート内を導光中の光が散乱することにより視認角度による色相変化の変化量が抑制されると考えると、散乱確率の最も高い実施例2が最も色相の視認角依存性が少なく、次に実施例1が色相の視認角依存性が少ないことは明らかである。
ところで、特許文献1のLED80は、蛍光体86を分散した透明樹脂87をディスペンサ(液体定量吐出装置)のシリンジに充填し、LEDパッケージ81の凹部82内にシリンジから定量の、蛍光体86を分散した透明樹脂87を注入することにより得られるものである。したがって、その際、シリンジ内に充填された、蛍光体86を分散した透明樹脂87は、注入工程中に時間の経過とともに蛍光体がシリンジ内で沈降して蛍光体濃度の均一性が損なわれる。そのため、LEDパッケージ81の凹部82内に注入される、蛍光体86を分散した透明樹脂87も時間の経過とともに蛍光体濃度に違いが生じ、個々のLED80間で出射光の色相にバラツキを生じることになる。
それに対し、本発明の半導体発光装置は、LEDチップの光出射部となる上面(主光出射面)及び側面(副光出射面)のみに蛍光体シートを配置すると共にその蛍光体シートを大量に均一な蛍光体濃度で作製することができる。そのため、蛍光体シートをLEDチップの光出射部に配置してなる個々の半導体発光装置間における出射光の色相バラツキを抑制することができる。
それと同時に、蛍光体シートをLEDチップの光出射部となる上面(主光出射面)及び側面(副光出射面)のみに配置したことにより半導体発光装置の直上方向からの観視(正面視)において照射光に色相の違い(色ムラ)を抑制することができる。
また、LEDチップの光出射部となる上面(主光出射面)及び側面(副光出射面)に配置する蛍光体シートに、一方の面から厚み方向に所定の深さを有すると共に直線状に延びる幅狭の溝(ハーフカットの溝)を、縦横夫々所定の間隔で格子状に形成した。これにより、視認角度による色相変化の変化量を少なくすることができ、色相の視認角依存性を少なくすることが可能となった。
更に、LEDチップの光出射部となる上面(主光出射面)及び側面(副光出射面)に配置する蛍光体シートに、上記ハーフカットの溝に代わって該ハーフカットの溝を変形させた空洞を設けることにより、蛍光体シートにハーフカットの溝を有するときよりも更に視認角度による色相変化の変化量を少なくすることができ、色相の視認角依存性をより少なくすることが可能となった。
なお、蛍光体シートにハーフカットの溝を設けることは、粘着シート等の裁断に用いられる裁断機をそのまま活用することができる。そのため、溝の深さや溝のピッチの設定及び裁断を非常に簡単に行うことができる。
また、蛍光体シートに設ける空洞は、ハーフカットの溝が設けられた仮硬化の蛍光体シートに完全硬化のための熱処理を施すのみで、非常に簡便に形成することができる。
また、蛍光体シートはLEDチップの光出射部となる上面(主光出射面)及び側面(副光出射面)に配置する前に、その蛍光体濃度を正確に把握することができる。そのため、個々のLEDチップの発光の波長バラツキに対応した蛍光体濃度の蛍光体シートを選定して配置することにより、個々のLEDチップの発光の波長バラツキを補正して個々の半導体発光装置において色相バラツキの抑制された出射光を得ることができる。
なお、ハーフカットの溝が形成された蛍光体シート或いは空洞が形成された蛍光体シートを配置したLEDチップは、上記表面実装型以外の半導体発光装置に用いても光学的に優れた効果を発揮することができる。
具体的には、例えば、LEDチップを凸ドーム状の樹脂で樹脂封止した構成の半導体発光装置を挙げることができる。
図9(半導体発光装置の縦断面説明図)の半導体発光装置は20、発光層(活性層)を含む多層積層構造からなるエピタキシャル層7bが金属層を介して、発光層から放射された光を透過しない半導体基板からなる支持基板7a上に形成されてなるLEDチップ7において、該LEDチップ7のエピタキシャル層7bの光出射部となる上面(主光出射面)及び側面(副光出射面)を覆うように支持基板7a上全面に亘って、透光性樹脂に蛍光体21を分散してなる蛍光体分散樹脂22を所定量滴下することにより凸ドーム状に樹脂封止したものである。符号16はLEDチップ7の実装基板である。
その後、蛍光体分散樹脂22内の蛍光体21が加熱硬化前及び加熱硬化中に自身の自重によって沈降し、LEDチップ7のエピタキシャル層7bの光出射部となる上面(主光出射面)及び側面(副光出射面)に沿って且つ支持基板7a上に堆積して蛍光体層23を形成したものである。
このような構成の半導体発光装置20における光学特性は、矩形状のLEDチップ7の正面視において、蛍光体分散樹脂を22通して中央部からは白色光が視認され四隅からは青色強度の強い白色光が視認された。これは、矩形状の支持基板7aの四隅が他の部分よりも蛍光体層23の厚みが薄くなっていることに起因するものである。
その理由は、蛍光体分散樹脂22が矩形状の支持基板7a上全面に亘って凸ドーム状に形成されるため、蛍光体分散樹脂22の厚みは、支持基板7aの中央部が最も厚く、中央部から離れるに従って徐々に薄くなり、外縁部近傍が最も薄くなる。また、外縁部近傍においても、四隅の部分が最も蛍光体分散樹脂22が薄い部分となる。また、四隅の部分は、蛍光体分散樹脂22を滴下した際に、蛍光体分散樹脂22がそこまで濡れ広がり難い傾向にあり、十分な厚みを確保できない恐れがある。
そこで、沈降・堆積する蛍光体21の厚み(蛍光体層23の厚み)は蛍光体分散樹脂22の厚みに比例するため、蛍光体層23の厚みも支持基板7aの中央部が最も厚く、中央部から離れるに従って徐々に薄くなり、外縁部近傍が最も薄くなる。また、外縁部近傍においても、四隅の部分が特に蛍光体層23が薄い部分となる。
その結果、上述したような、中央部からは白色光が視認されるが四隅からは青色成分の強い白色光が視認されるといった、色ムラを生じることになる。
一方、この半導体発光装置20を、視認角度を変えて種々の方向から観視すると、LEDチップ7の直上方向から見たときの白色光に対して直上方向から離れるに従って白色光に黄色成分が多くなる。
これはLEDチップ7の直上方向から見た場合と、直上方向に対して傾斜方向から見た場合とでは、LEDチップ7からの出射光が蛍光体層23を通過するときの蛍光体層23中の光路長が異なることに起因するものである。
つまり、蛍光体層23中における光路長が長くなるに従ってLEDチップ7から出射された光が蛍光体21を励起する割合(確率)が高くなり、蛍光体層23を透過した白色光に黄色成分が多くなる。
具体的には、図10(光路説明図)に示すように、LEDチップ7から該LEDチップ7の直上方向に放射された光Lαが蛍光体層23を通過する距離をd1とし、LEDチップ7から該LEDチップ7の直上方向に対して傾斜方向に放射された光Lβが蛍光体層23を通過する距離をd2とすると、Lαの光路を辿る光よりもLβの光路を辿る光の方が蛍光体層23を通過するまでの距離が長くなり、d2−d1の光路差が生じる。
その結果、LEDチップ7の直上方向においては相対的に蛍光体層23中の光路長が短いためにLEDチップ7から出射して蛍光体21を励起することなくそのまま蛍光体層23から出射する青色光の光量が相対的に多くなり、LEDチップ7の直上方向に対する斜め方向においては相対的に蛍光体層23中の光路長が長いためにLEDチップ7から出射した青色光によって蛍光体層23中の蛍光体21が励起されて波長変換された黄色光の光量が相対的に多くなるためである。
このような、視認角度により白色光の色相に変化を生じるような、色相の視認角依存性の現象は、従来の、LEDチップを覆う蛍光体分散樹脂の外形形状が平坦状に形成された半導体発光装置においても見られる現象であるが、LEDチップを覆う蛍光体分散樹脂の外形形状が凸曲面形状に形成された従来の半導体発光装置においては顕著に現れる現象である。
特に、蛍光体分散樹脂を凸曲面形状に形成した半導体発光装置は、例えば、車両用前照灯、街路灯、一般照明等の、照射光の正面輝度分布が急峻で明暗の境界が明確な配光特性が要求される照明灯具に用いられる。また、それ以外の用途として、照射光をレンズを通して直接対象物を照射するような照明灯具にも用いられる。その場合、上記正面視による色ムラや視認角度による色相変化(色相の視認角依存性)は、レンズを通した照射光が照射対象物に対して顕著な色ムラをもたらすことになり、照明灯具としては不適切なものとなる。
そこで、正面視による色ムラの問題を解決するために、図11(半導体発光装置の正面視説明図)及び図12(半導体発光装置の縦断面説明図)にあるような構成による半導体発光装置30が考えられる。それは、支持基板7a上のエピタキシャル層7bの四隅のうち少なくとも1隅に、発光層から放射された光を出射しないように非光出射手段31を施し、その上に蛍光体21による蛍光体層23を形成したものである。
非光出射手段31の具体的な方法は、エピタキシャル層7bの隅に発光層から放射された光を遮蔽する遮光部を形成するか、或いはエピタキシャル層7bの隅を部分的に除去することが考えられる。これにより、正面視による色ムラの問題は解決できる。
但し、発光層から放射されて外部に出射される光の一部をエピタキシャル層7bの一部によって部分的に遮ることは、光取り出し効率の低下を招くものであり、半導体発光装置30の照射光量の低下に繋がる。また、エピタキシャル層7bを部分的に除去する方法は、発光面積が実質的に小さくなるため、高電流領域での光出力の増加率が鈍化するといった弊害を伴うものとなる。
そこで、半導体発光装置40を図13(半導体発光装置の縦断面説明図)のような構成とすることにより、上述のような、光取り出し効率の低下や高電流領域での光出力の増加率の鈍化等の弊害を伴うことなく、正面視による色ムラや視認角度による色相変化(色相の視認角依存性)を生じることのない半導体発光装置を実現することができる。
それは、上記図9の、沈降・堆積により形成された蛍光体層23の替わりに、LEDチップ7のエピタキシャル層7bの光出射部となる上面(主光出射面)及び側面(副光出射面)を被覆するように、一方の面から厚み方向に所定の深さを有すると共に直線状に延びる幅狭の溝を、縦横夫々所定の間隔で格子状に形成された完全硬化の蛍光体シート10bを配置し、蛍光体シート10bの上面及び側面を覆うように支持基板7a上全面に亘って、透光性樹脂35を所定量滴下することにより凸ドーム状に樹脂封止したものである。
あるいは、図示しないが、LEDチップ7のエピタキシャル層の光出射部となる上面(主光出射面)及び側面(副光出射面)を被覆するように、一方の面から厚み方向に所定の深さを有すると共に直線状に延びる幅狭のハーフカットの長溝を、縦横夫々所定の間隔で格子状に形成された仮硬化の蛍光体シートを配置し、その後、完全硬化のための熱処理を施すことによりハーフカットの溝を変形させて空洞とし、その蛍光体シートの上面及び側面を覆うように支持基板上全面に亘って、透光性樹脂を所定量滴下することにより凸ドーム状に樹脂封止したものである。
なお、上記の透光性樹脂35と蛍光体シート10bを構成する樹脂とは、屈折率が同一であっても良いし、相違してもよい。
ハーフカットの溝又は空洞を有する蛍光体シートをLEDチップ上に配置し、それを凸ドーム状の透光性樹脂で樹脂封止した上記構成の半導体発光装置は、照射光の正面輝度分布が急峻で明暗の境界が明確な配光特性を得ることができる。
また、LEDチップのエピタキシャル層の光出射部となる上面(主光出射面)及び側面(副光出射面)に沿って且つ支持基板上に堆積した蛍光体層を有すると共に支持基板上全面に亘って凸ドーム状に蛍光体分散樹脂が設けられた上記従来の半導体発光装置に見られた、正面視における色ムラ(中央部からは白色光が視認されるが四隅からは青色強度の強い白色光が視認されるといった、色ムラ)の発生を抑制することが可能となり、光出射面全面に亘って均一な色相の白色光を照射する半導体発光装置が実現できる。
また、エピタキシャル層の一部に非光出射手段を施した上記従来の半導体発光装置に見られた照射光量の低下を生じることなく、正面視における色ムラを改善することができる。
更に、これら従来の半導体発光装置に見られた、視認角度による色相変化(色相の視認角依存性)を抑制することができる。
以上の結果より、車両用前照灯、街路灯、一般照明等の、照射光の正面輝度分布が急峻で明暗の境界が明確な配光特性が要求される照明灯具に用いることができると共に、照射光をレンズを通して直接対象物を照射するような照明灯具に用いても、レンズを通した照射光が照射対象物に対して色ムラのない照射光を照射することができる。
なお、上記実施形態で用いた、ハーフカットの溝が設けられた蛍光体シートは、溝の深さ及び溝の間隔の夫々は、蛍光体シートの全面に亘って均一に設けられても良いし、規則性なくランダムに形成されてもよい。
蛍光体シートに設けられるハーフカットの溝は、必ずしも上述の格子状に且つ深さ方向が全て蛍光体シートの厚み方向に限られるものではなく、例えば、格子状の縦横いずれか一方向のみの溝の深さ方向を、蛍光体シートの厚み方向に対して斜め方向とするなど、適宜に設定することも可能である。
また、上述のLEDチップは、支持基板をSi或いはGe等の発光に対して不透明な半導体材料で形成したが、サファイア基板等の透明な基板を用いてもよい。その場合、サファイア基板の側面から、発光層から放射された青色光が出射されて色ムラの原因となる。しかしながら、サファイア基板の厚みを薄くしたり、或いはサファイア基板の側面を高反射部材や遮光部材で覆うことにより青色光の出射を抑制することができる。
また、支持基板に透明基板を用いることにより、n型半導体層とP型半導体層を同一面側に表出させることができ、LEDチップの一対のチップ電極(アノード電極及びカソード電極)をLEDチップの一方の面に形成したフリップチップ実装が可能なチップ構造とすることができる。
その結果、ワイヤボンディングが不要となるために、LEDチップの光出射面上にハーフカットの溝が形成された蛍光体シートを載設する際に、ボンディングワイヤを避けて載設する必要がなく、載設作業の作業性が向上する。