従来、酸化物バルク単結晶の結晶成長方法として、溶融した融液表面に種子結晶を浸して引き上げながら結晶を育成するチョクラルスキー法(CZ法)が代表的であり、Si、GaAs、LiNbO3単結晶などの結晶成長法として知られている。また、結晶の引き上げを行わずに成長させるカイロポーラス法、原料溶融体に溶媒成分を付加した溶液成長法の1種である溶液引き上げ(TSSG:Top-Seeded Solution-Growth)法も知られている。その他に、固形原料を光学的に溶融し、溶融部分を移動させながら試料の精製、結晶の成長を行う浮遊帯域溶融(FZ:Floating Zone)法や、溶融した原料の融液または溶液をるつぼの中で固化させる、ブリッジマン法、温度勾配凝固法などが知られている(例えば、特許文献1参照)。
図1に、従来のCZ法またはTSSG法による抵抗加熱型結晶成長装置を示す。結晶製造装置は、ヒータ4によって温度制御可能な電気炉5を有し、電気炉5内のるつぼ台2に原料溶融体8を入れたるつぼ1を設置している。電気炉5は、炉体ふた10により密閉され、内面に設置された均熱管3により、炉内の温度が一定に保たれるようになっている。このような構成において、引き上げ軸6の先端に取り付けられた種子結晶7を、溶融した原料溶融体8に浸して、成長結晶9を育成する。
原料は、素原料である単元素、酸化物、炭酸塩を所望の組成比となるよう秤量し、るつぼ1に充填する。溶媒として、結晶の構成成分である元素、酸化物、炭酸塩を過剰に追加したり、結晶の構成成分と異なる元素、酸化物、炭酸塩を追加して充填することもある。秤量した素原料が充填されたるつぼ1を、電気炉5内に設置されたるつぼ台2上に設置する。ヒータ4を加熱することで、原料を昇温溶融し、原料溶融体8を準備する。種子結晶7が先端に取り付けられた引き上げ軸6を電気炉5に導入し、原料溶融体8に接触させ、結晶育成を開始する。
種子結晶7を原料溶融体8の表面に接触させる、すなわち種子付け過程では、原料溶融体8の温度を調整し、種子結晶7が溶融せずかつ結晶成長も生じない状態を実現する。その後、引き上げ軸6を回転しながら引き上げると同時に、加熱量の調整により原料溶融体8を冷却して行く。この冷却により、原料溶融体8は、過冷却または過飽和状態となる。結晶成長に十分な過冷却または過飽和状態が原料溶融体8に実現すると、種子結晶7の先端に結晶が析出し始め、結晶成長が始まる。そして、種子付け、肩拡げ、定径部と順に成長過程を進行させる。成長中は、結晶の成長状態を形状センサまたは重量センサを用いて検出し、成長速度が早い場合には昇温、成長速度が遅い場合には冷却の微調整を加えて、成長結晶9の直径制御を行う。成長速度を調整するために、昇温・冷却の微調整を加えずに、引き上げ軸6の引き上げ速度を微調整することにより、成長結晶9の直径制御を行ってもよい。また、引き上げ軸6を引き上げずに、成長結晶9を原料溶融体8の中で成長させてもよい。さらに、るつぼ台2に回転機構を追加し、るつぼを回転させても良い。
溶液原料溶融体を用いた結晶成長においては、溶液原料内の溶質組成と成長結晶の組成が異なる固溶体性や、溶融した原料の組成と成長結晶の組成が異なる不一致溶融性により、成長の進行につれて溶液原料の組成が変化するので、結晶の組成が変化していくことが知られている。また、溶液原料または融液原料のいずれを用いた結晶成長においても、ドーパントを添加した場合、ドーパント原料が結晶に取り込まれる偏析係数が1でないことが多く、成長につれて結晶中のドーパント添加量が変化していく。
そこで、結晶組成の変化、ドーパント添加量の変化を抑制する従来技術として、結晶成長中に粉末もしくは液滴状態で追加原料を補充する原料チャージ法が知られている(例えば、特許文献2参照)。追加原料として粉末で補充する場合、その粉末原料の温度は、投入時には室温であり、るつぼ中の原料溶融体の温度より著しく低いので、粉末の供給時や原料溶融体への溶融時に原料溶融体の温度を下げてしまう。一方、追加原料として液滴で補充する場合でも、その液滴を原料溶融体の温度と一致させることは極めて困難であり、液滴原料と原料溶融体の温度差によって、原料溶融体の温度を変化させてしまう。従って、従来の原料チャージ法は、結晶成長中に原料溶融体の温度を変化させ、成長結晶の成長速度に影響を及ぼすという問題があった。成長結晶の組成やドーパント添加量は、成長速度と相関しているので、成長速度の変化は、成長結晶の組成やドーパント添加量の変動を誘起してしまう。
原料溶融体の温度を変化させないで追加原料を補充する原料チャージ方法として、成長した結晶の組成と同一組成の原料棒を原料溶融体表面に接触させ、原料棒と原料溶融体との熱接触状態を維持し、単位時間あたりの成長結晶の成長量に一致する単位時間あたりの供給量で、原料棒を溶融することにより、追加原料を原料溶融体に補充供給する方法も開示されている(例えば、特許文献3参照)。
原料棒は、単結晶で作製したものが望ましい。しかしながら、棒全体に渡って組成が均一な単結晶を製造することは困難であり、また、均一性を向上させるための製造コストが増大してしまう。そこで、粒径を調整した結晶粒の焼結体から作製した原料棒を用いることが開示されている(例えば、特許文献4参照)。
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について詳細に説明する。これら実施例は、一例であり、発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の改良を行いうることは言うまでもない。
図2に、本発明の実施例1にかかる結晶成長装置の構成を示す。結晶成長装置は、ヒータ14によって温度制御可能な電気炉15を有し、電気炉15内のるつぼ台12に原料溶融体18を入れたるつぼ11を設置している。電気炉15は、炉体ふた20により密閉され、内面に設置された均熱管13により、炉内の温度が一定に保たれるようになっている。電気炉15内の温度分布を、より精密に調整するために、ヒータ14として、多段の抵抗加熱式ヒータを用いることもある。このような構成において、引き上げ軸16の先端に取り付けられた種子結晶17を、溶融した原料溶融体18に浸して、成長結晶19を育成する。るつぼの回転により、原料溶融体18に強制対流を誘起するために、るつぼ台12に回転機構を追加することもある。また、原料搬送具22に原料棒21が挿入されており、原料搬送具22の先端を溶融した原料溶融体18に浸して、原料の補充を行う。
TSSG法によるKTaxNb1−xO3単結晶の製造法の実施例を、図2を用いて説明する。KTaxNb1−xO3溶質原料は、素原料であるK2CO3とTa2O5とNb2O5とを所望の組成比となるように秤量し、るつぼ11に充填する。溶媒としてKを選択し過剰のK2CO3も併せてるつぼ11に充填する。KTaxNb1−xO3溶質原料と過剰Kが投入されたるつぼ11を、電気炉15内に設置されたるつぼ台12上に設置する。ヒータ14を加熱することで、原料を昇温溶融し、原料溶融体18を準備する。種子結晶17が先端に取り付けられた引き上げ軸16を電気炉15に導入し、原料溶融体18の表面に接触させ、結晶育成を開始する。なお、あらかじめ充填した原料は、昇温溶融中に、不要な炭酸基を脱ガスするため、結晶育成を開始する温度より高いソーキング(過加熱)過程を施す。
種子結晶17を原料溶融体18に接触させる際、すなわち種子付け過程では、原料溶融体18の温度を調整し、種子結晶17が溶融せずかつ結晶成長も生じない状態を実現する。その後、引き上げ軸16を回転させながら、加熱量の調整により原料溶融体18を冷却して行く。この冷却により、原料溶融体18は過飽和状態となり、脱熱されている引き上げ軸16により冷却され原料溶融体18中で最も温度の低い種子結晶17の先端に結晶が析出し始め、結晶成長が始まる。その後、引き上げ軸16を上方に0.05mm/hrの速度で上昇させることで、引き上げを開始する。加熱量の調整による原料溶融体18の冷却を継続することで、成長結晶19の直径が増加し、成長結晶19の肩拡げ工程を行う。
図3に、本発明の実施例1にかかる原料棒の構成を示す。原料棒21は、直径10mm、長さ50mmの丸棒であり、肩拡げ工程終了時点での成長結晶19の組成と等しい組成の単結晶を用いる。原料棒搬送具22は、先端を封止した内径12mmの円筒状の中空パイプであり、所望の定径部結晶重量と同等以上の重量分の原料棒21を、内部に挿入設置できる長さを有する。定径部結晶重量を400gとした場合、必要となる直径10mmの原料棒21の長さは、900mmとなる。原料棒搬送具22の長さは、電気炉15外の大気中から原料溶融体表面まで届く長さとしてもよい。原料棒搬送具22の先端封止部分であって、原料溶融体18に浸漬する領域には、中空パイプの側面と底面のいずれかには、原料溶融体出入り穴23を設けてある。この原料溶融体出入り穴23を通して、原料溶融体18が流入したり、原料棒21の溶融によって組成が変化した原料溶融体18が流出できるようにする。原料棒21は、所望の結晶重量になるまで、原料棒搬送具22の中に18個積み重ねる。
原料棒搬送具に備わる原料溶融体出入り穴の数、位置は、上述した構成に限るものではない。原料棒搬送具の底面と側面の両方に原料溶融体出入り穴を設けることは必須ではない。原料棒の材料として結晶粒集合体を用いる場合には、底面に原料溶融体出入り穴を設けないほうが望ましい。結晶を成長する際、原料棒搬送具の先端部分が原料溶融体に浸漬するが、その浸漬する先端部分のいずれかに、原料溶融体出入り穴の少なくとも1つが設けられていればよい。このような構成により、原料棒が溶融し、液化した原料棒が原料溶融体に流出することができる。
原料棒搬送具は、結晶成長に要する長期間にわたって原料溶融体に接触する。このため、原料棒搬送具は、長期間にわたって、原料溶融体と接触した状態で、形状を安定に保つことが必要である。従って、原料棒搬送具に用いる材料は、結晶成長中の温度よりも融点が高いことが必須であり、さらに、この温度において、原料溶融体と化学反応を起こさないことも要求される。このような材料としては、KTax’Nb1−x’O3単結晶、LiNbO3単結晶の育成のためには、白金や、他の金属と白金との合金を好適に用いることができる。また、LiTaO3単結晶の育成のためには、白金では融点が結晶成長中の温度よりも低いため、イリジウムを用いることが好適である。
成長結晶19の直径が所望の径に達した時点で、ヒータ14の加熱量を一定にすると同時に、原料棒搬送具22を昇降させる手段(図示しない)により、原料棒搬送具22内に挿入した原料棒21を原料溶融体18に浸漬させる。以後、結晶径が一定な定径部工程を行う。結晶の引き上げ方向、速度を、それぞれ{001}、0.1mm/hrとし、40mm角の定径部を成長させる場合、原料棒21より1時間あたり1.8gの補充が必要である。特許文献4に開示されているように、結晶成長温度からの過加熱量によって単結晶の溶融量を調整することができるので、原料溶融体18表面において、結晶成長部分と原料棒搬送具部分の温度差を12℃に調整する。
さらに、原料棒搬送具22の原料溶融体18への浸漬深さにより、原料棒18の原料溶融体18との接触面積を調整できる。原料棒18の原料溶融体18との接触面積は、溶融量と比例するので、原料棒搬送具22の原料溶融体18への浸漬深さを溶融量の微調整に用いる。原料棒搬送具22の先端封止部分には、底面より2mmの高さの側面に1.5mmの原料溶融体出入り穴23を、円筒の円周部分に90°ごとに4個作製してある。また、原料棒搬送具22の先端封止部分の底面にも1.5mmの原料溶融体出入り穴23を5個作製してある。計9個の原料溶融体出入り穴23全てが原料溶融体に浸る様に、原料棒搬送具22を原料溶融体18に浸漬する。
原料溶融体18は、原料溶融体出入り穴23を通過して、原料棒搬送具22内に挿入してある原料棒21に接触する。この原料棒21と原料溶融体18の接触により原料棒21の原料溶融体18への溶融供給が行われる。原料棒21の原料溶融体18への溶融により、原料溶融体18に接触した原料棒部分は消失するが、複数個積み重ねてある上部の原料棒が重力により下降するので、原料棒21の原料溶融体18への接触状態は保持される。原料棒搬送具22を原料溶融体18から引き上げた場合、原料棒搬送具22内に入った原料溶融体18は、原料棒搬送具22の先端が閉じられた底面にある原料溶融体出入り穴23より排出できる。
原料棒搬送具22の原料溶融体18への浸漬深さを4mmに設定する。原料棒搬送具22の中の原料棒21の上端位置を計測することにより、残留した原料棒21の全長が分かるので、原料棒21の消費量を知ることができる。所望の1時間あたり1.8gより少ない場合は、浸漬深さを増大させ、多い場合は、浸漬深さを減少させる。
原料溶融体18には原料棒21の溶融により結晶成長で消費した成分が補充され、原料溶融体18を冷却することなく、言い換えればヒータ14の加熱量が一定でも、成長結晶19の成長は継続する。所望の長さの成長結晶19を引き上げた時点で、引き上げ軸16を高速で引き上げ、成長結晶19と原料棒搬送具22とを原料溶融体18から切り離し、結晶成長を停止する。結晶成長後、ヒータ14の加熱量を下げ、電気炉15を室温まで冷却する。成長した結晶の定径部には、形状変動がない鏡面状のファセット面が表出した。成長条件の変化による外形変化、欠陥発生も認められない。目視による観察で、色調均一でかつ欠陥の介在も認められないKTax’Nb1−x’O3単結晶が得られる。
この結晶を引き上げ方向に沿って切断し、研磨することでウエハを作製する。作製したウエハを化学分析により組成分析したところ、定径部工程で成長した成長結晶19の組成x’は、引き上げ方向に対して一定であった。また、透過顕微鏡下でウエハを観察したが、結晶欠陥は認められなかった。原料棒を挿入せずに定径部を冷却により成長させた従来の製法の場合には、KTaxNb1−xO3は固溶体であるから、定径部工程で成長した成長結晶の組成xは、引き上げるにつれて減少する。従って、原料棒21を用いた連続チャージにより原料を補充した定径部工程において、成長結晶19の組成を一定に保つことができる。
溶質原料や原料棒に、元素置換やドーパント添加を行うことも可能である。例えば、溶質原料の炭酸カリウムに代えて炭酸カリウムと、炭酸リチウムまたは炭酸ナトリウムとの混合物とし、原料棒もその溶質原料から成長する結晶の組成比と同じ比率のカリウムと、リチウムまたはナトリウムを含んだ単結晶にすることによって、KyM1−yTaxNb1−xO3の置換型単結晶(M=Li、Na)を製造することができる。また、溶質原料にIIa族のMg、Ca、Sr、Baを添加し、かつ原料棒を、その溶質原料から成長する結晶の組成比と同じ比率のカリウムとIIa族元素を含んだ組成にすることによって、KTaxNb1−xO3のIIa族ドープ単結晶を製造することもできる。
CZ法によるMgドープLiNbO3単結晶の製造法の実施例を、図2を用いて説明する。LiNbO3原料は、素原料であるLi2CO3とNb2O5とを1対1の組成比となるように秤量し、るつぼ11に充填する。ドーパントのMgは、MgO素原料より秤量し、同時に充填する。Mg:LiNbO3原料が投入されたるつぼ11を、電気炉15内に設置されたるつぼ台12上に設置する。ヒータ14を加熱することで、原料を昇温溶融し、原料溶融体18を準備する。種子結晶17が先端に取り付けられた引き上げ軸16を電気炉15に導入し、原料溶融体18に接触させ、結晶育成を開始する。なお、あらかじめ充填した原料は、昇温溶融中に、不要な炭酸基を脱ガスするため、結晶育成を開始する温度より高いソーキング過程を施す。
リチウムアルコキシド、ニオブアルコキシドを出発原料として、結晶粒を作製する。リチウム、ニオブ比率が1対1になるように出発原料を秤量する。ドーパントのMgは、マグネシウムアルコキシドより秤量する。ドーパントの添加量は種子結晶に混入している添加組成とする。秤量した出発原料を、リチウムアルコキシド1モルに対して100リットルの割合で、エタノールと混合し溶解させる。これに30%の過酸化水素水を含んだ純水を、エタノール100リットルに対して3リットルの割合で、混合することでコロイド化させる。その後、100℃に昇温することでエタノールを蒸発させながら、蒸発分だけ純水を補充し、引き続き混合する。出来上がった混合物に、脱水処理、およびアニール処理を行うことにより、粉末状の結晶粒を生成する。
生成物は、粉末X線回折法によりLiNbO3と同じ結晶構造で、単相であることを確認した。また、SEMにより直径サブミクロンの結晶粒であることも確認した。生成した粉末状の結晶粒を金型に充填し、プレス機で2トンの圧力を印加し、直径20mm、長さ500mmの丸棒状に成型する。これに1000℃、10時間の焼成を行うことで、結晶粒の粒径は1ミクロンとなった。以上のプロセスで、粒径1ミクロンの結晶粒集合体である原料棒を作製する。作製した原料棒を化学分析により組成分析したところ、長さ方向のMg混入量は一定であり、従来のMg:LiNbO3単結晶のようにMg混入量が変化していなかった。
種子結晶17を原料溶融体18に接触させる際、すなわち種子付け過程では、原料溶融体18の温度を調整し、種子結晶17が溶融せずかつ結晶成長も生じない状態、すなわち固液平衡状態を実現する。その後、引き上げ軸16を回転させながら、加熱量の調整により原料溶融体18を冷却して行く。この冷却により、原料溶融体18は過飽和状態となり、脱熱されている引き上げ軸16により局所的に冷却され原料溶融体18中で最も低い温度となった種子結晶17の先端に結晶が析出し始め、結晶成長が始まる。その後、引き上げ軸16を上方に0.5mm/hrの速度で上昇させることで、引き上げを開始する。ヒータ14の加熱量調整により原料溶融体18の冷却を継続することで、成長結晶19の直径が増加し、成長結晶の肩拡げ工程を行う。
原料棒21は、直径20mm、長さ500mmの丸棒であり、肩拡げ工程終了時点での成長結晶19の組成と等しい組成の原料棒を用いた。原料棒搬送具22は先端を封止した内径22mmの円筒状の中空パイプであり、所望の定径部結晶重量と同等以上の重量分の原料棒21を挿入設置できる長さを有する。定径部結晶重量を1000gとした場合、必要となる直径20mmの原料棒21の長さは、690mmとなった。原料棒搬送具22の長さは、電気炉15外の大気中から原料溶融体表面まで届く長さとしてもよい。原料棒搬送具22の先端封止部分であって、原料溶融体18に浸漬する領域には、中空パイプの側面と底面のいずれかには、原料溶融体出入り穴23を設けてある。この原料溶融体出入り穴23を通して、原料溶融体18が流入したり、原料棒21の溶融によって組成が変化した原料溶融体18が流出できる原料溶融体出入り穴23を設けてある。原料棒21は、所望の総重量になるまで2個積み重ねる。
成長結晶19の直径が所望の径に達した時点で、ヒータ14の加熱量を一定にすると同時に、原料棒搬送具22内に挿入した原料棒21を原料溶融体18に浸漬させる。以後、結晶径が一定な定径部工程を行う。結晶の引き上げ方向、速度を、それぞれ{001}、0.5mm/hrとし、76mm径の定径部を成長する場合、原料棒21より1時間あたり10.6gの補充が必要である。特許文献4に開示されているように、結晶成長温度からの過加熱量によって単結晶の溶融量を調整することができるので、原料溶融体表面24において結晶成長部分と原料棒搬送具部分の温度差を20℃に調整した。
さらに、原料棒搬送具22の原料溶融体18への浸漬深さにより、原料棒18の原料溶融体18との接触面積を調整できる。原料棒18の原料溶融体18との接触面積は、溶融量と比例するので、原料棒搬送具22の原料溶融体18への浸漬深さを溶融量の微調整に用いた。原料棒搬送具22の先端封止部分には、底面より2mmの高さの側面に1.5mmの原料溶融体出入り穴23を、円筒の円周部分に120°ごとに3個作製してある。また、原料棒搬送具22の先端封止部分の底面中心にも1.5mmの原料溶融体出入り穴23を1個作製してある。計4個の原料溶融体出入り穴23全てが原料溶融体に浸る様に、原料棒搬送具22を原料溶融体18に浸漬する。
原料溶融体18は、原料溶融体出入り穴23を通過して、原料棒搬送具22内に挿入してある原料棒21に接触する。この原料棒21と原料溶融体18の接触により原料棒21の原料溶融体18への溶融供給が行われる。原料棒21の原料溶融体18への溶融により、原料溶融体18に接触した原料棒部分は消失するが、複数個積み重ねてある上部の原料棒が重力により下降するので、原料棒21の原料溶融体18への接触状態は保持される。原料棒搬送具22を原料溶融体18から引き上げた場合、原料棒搬送具22内に入った原料溶融体18は、原料棒搬送具22の先端が閉じられた底面中心にある原料溶融体出入り穴23より排出できる。
原料棒搬送具22の原料溶融体表面24からの浸漬深さを4mmに設定する。原料棒搬送具22の中の原料棒21の上端位置を計測することにより、残留した原料棒21の全長が分かるので、原料棒21の消費量を知ることができる。所望の1時間あたり10.6gより少ない場合は、浸漬深さを増大させ、多い場合は、浸漬深さを減少させる。
原料溶融体18には原料棒21の溶融により結晶成長で消費した成分が補充され、原料溶融体18を冷却することなく、言い換えればヒータ14の加熱量が一定でも、成長結晶19の成長は継続する。所望の長さの成長結晶19を引き上げた時点で、引き上げ軸16を高速で引き上げ、成長結晶19と原料棒搬送具22とを原料溶融体18から切り離し、結晶成長を停止する。結晶成長後、ヒータ14の加熱量を下げ、電気炉15を室温まで冷却する。成長条件の変化による外形変化、欠陥発生も認められない。目視による観察で、色調均一でかつ欠陥の介在も認められないLiNbO3単結晶が得られる。
この結晶を引き上げ方向に沿って切断し、研磨することでウエハを作製する。作製したウエハを化学分析により組成分析したところ、定径部工程で成長した成長結晶19のMg混入量は一定であった。また、成長結晶19のLi/(Li+Nb)比は、引き上げ方向に対して0.49であり、一定であった。従来の製法により、原料棒を挿入せずに定径部を冷却により成長させた場合には、Mg混入量は、偏析係数が1より小さいので、引き上げ方向に対して増加する。また、LiNbO3は不一致溶融性であるから、定径部工程で成長した成長結晶のLi/(Li+Nb)比は、引き上げるにつれて0.49より増大し、変化する。従って、実施例2によれば、原料棒21を用いた連続チャージにより、従来の製法ではなしえなかった、成長結晶19のドーパント添加量とLi/(Li+Nb)比を一定に保つことができる。
NbをTaに代えたLiTaO3単結晶に同様な効果があることは言うまでもない。また、SiやGaAsに代表される半導体結晶においても、ドーパント添加量を一定にすることは課題であり、粒径を調整した結晶粒の集合体を原料棒に用いて連続チャージを行うことにより、同様の効果を奏することは言うまでもない。
温度勾配凝固法によるKTaxNb1-xO3単結晶の製造方法を説明する。図4に、実施例3にかかる結晶成長装置の構成を示す。結晶成長装置は、ヒータ34によって温度制御可能な電気炉35を有し、電気炉35内のるつぼ台32にるつぼ31を設置している。るつぼ31の底部に種子結晶37を配置し、投入された原料を加熱溶融させて原料溶融体38とする。電気炉35は、炉体ふた40により密閉され、内面に設置された均熱管33とヒータ34とにより、鉛直方向に沿って予め決められた軸方向温度分布に従って保持されている。ヒータ34の設定により、原料溶融体38を冷却すると、結晶の成長温度に達した結晶は、種子結晶37と同じ結晶方位を有する結晶に成長し、増径部成長過程と定径部成長過程とを経て成長結晶39となる。
KTaxNb1−xO3溶質原料は、素原料であるK2CO3とTa2O5とNb2O5とを所望の組成比となるように秤量し、るつぼ31に充填する。溶媒としてKを選択し過剰のK2CO3も併せてるつぼ31に充填する。また、るつぼ31の底には種子結晶37が設置してある。KTaxNb1−xO3溶質原料と過剰K2CO3が投入されたるつぼ31を、電気炉35内に設置されたるつぼ台32上に設置する。ヒータ34を加熱することで、原料を昇温溶融し、原料溶融体38を準備する。軸方向温度分布形状を一定にしたまま、ヒータ34を徐々に冷却することで、結晶育成を開始する。
カリウムアルコキシド、タンタルアルコキシド、ニオブアルコキシドを出発原料として、結晶粒を作製する。KTaxNb1−xO3溶質原料から結晶成長し、増径部の結晶成長が終了した時点で、成長する結晶組成KTax’Nb1−x’O3と同じカリウム、タンタル、ニオブ比率になるように出発原料を秤量する。秤量した出発原料を、カリウムアルコキシド1モルに対して100リットルの割合で、エタノールと混合し溶解させる。これに30%の過酸化水素水を含んだ純水を、エタノール100リットルに対して3リットルの割合で、混合することによりコロイド化させる。その後、100℃に昇温することでエタノールを蒸発させながら、蒸発分だけ純水を補充し、引き続き混合する。出来上がった混合物に、脱水処理、およびアニール処理を行うことにより、粉末状の結晶粒を生成する。
生成物は、粉末X線回折法によりKTax’Nb1−x’O3と同じ結晶構造で、単相であることを確認した。また、SEMにより直径サブミクロンの立方体形状の結晶粒であることも確認した。生成した粉末状の結晶粒を金型に充填し、プレス機で2トンの圧力を印加し、15mm角、長さ200mmの角棒状に成型する。これに1200℃、100時間の焼成を行うことで、結晶粒の粒径は固相反応により100ミクロンに増大した。以上のプロセスで、粒径100ミクロンの結晶粒集合体である原料棒を作製する。作製した原料棒を化学分析により組成分析したところ、長さ方向の組成x’は一定で、単結晶のように変化していなかった。
ヒータ34の設定によりるつぼ31内の原料溶融体38は、鉛直方向に上部の温度が高く、下部の温度が低い(上高下低)軸方向温度分布が実現されている。種子付け過程では、原料溶融体38の温度を調整し、種子結晶37が溶融せずかつ結晶成長も生じない状態、すなわち固液平衡状態を実現する。その後、ヒータ34の加熱量の調整により原料溶融体38を冷却して行く。この冷却により、原料溶融体38は過飽和状態となり、原料溶融体38中で最も温度の低い種子結晶37から結晶が析出し始め、結晶成長が始まる。その後、ヒータ34の加熱量調整により原料溶融体38の冷却を継続することにより、成長結晶39の直径が増加し、成長結晶39の肩拡げ工程をるつぼ31内で行う。
図5に、本発明の実施例3にかかる原料棒の構成を示す。原料棒41は、一辺15mm、長さ200mmの角棒であり、増径部成長工程終了時点での成長結晶39の組成と等しい組成の単結晶を用いる。原料棒搬送具42は、先端を封止した内径25mmの円筒状の中空パイプであり、所望の定径部結晶重量と同等以上の重量分の原料棒41を、内部に挿入設置できる長さを有する。定径部結晶重量を600gとした場合、必要となる15mm角の原料棒21の長さは、460mmとなった。原料棒搬送具42の長さは、電気炉35外の大気中から原料溶融体表面まで届く長さとしてもよい。原料棒搬送具42の先端封止部分であって、原料溶融体38に浸漬する領域には、中空パイプ側面と底面のいずれかには、原料溶融体出入り穴43を設けてある。この原料溶融体出入り穴43を通して、原料溶融体38が流入したり、原料棒41の溶融によって組成が変化した原料溶融体38が流出できるようにする。原料棒41は、所望の総重量になるまで、原料棒搬送具42の中に3個積み重ねる。
実施例1および2で説明した原料棒搬送具22(図3)を用いて、結晶粒集合体を原料棒41として供給した場合、底面の原料溶融体出入り穴から、原料溶融体38へ結晶粒が未溶融のまま供給され、鉛直下方にある結晶成長界面へ到達し、成長を妨げることがある。そこで、図5に示したように、液溜め部45を、原料棒搬送具42の先端封止部分の底面に設けられた原料溶融体出入り穴43の下方に設ける。原料溶融体出入り穴43から、未溶融の結晶粒が落下し、液溜め部45に滞留する。液溜め部45に結晶粒を滞留させることにより、結晶粒の溶融時間を長時間化して、結晶粒を十分に溶融させる。溶融した原料は、液溜め部45の側面に設けられた原料溶融体出入り穴から原料溶融体38に流出する。これにより、未溶融の結晶粒が結晶成長界面へ到達することを防ぐ。
原料棒搬送具に備わる原料溶融体出入り穴の数、位置は、上述した構成に限るものではない。結晶を成長する際、原料棒搬送具の先端部分が原料溶融体に浸漬するが、その浸漬する先端部分のいずれかに、原料溶融体出入り穴の少なくとも1つが設けられていればよい。このような構成により、原料棒が溶融し、液化した原料棒が原料溶融体に流出することができる。
原料棒搬送具は、結晶成長に要する長期間にわたって原料溶融体に接触する。このため、原料棒搬送具は、長期間にわたって、原料溶融体と接触した状態で、形状を安定に保つことが必要である。従って、原料棒搬送具に用いる材料は、結晶成長中の温度よりも融点が高いことが必須であり、さらに、この温度において、原料溶融体と化学反応を起こさないことも要求される。このような材料としては、KTax’Nb1−x’O3単結晶、LiNbO3単結晶の育成のためには、白金や、他の金属と白金との合金を好適に用いることができる。また、LiTaO3単結晶の育成のためには、白金では融点が結晶成長中の温度よりも低いため、イリジウムを用いることが好適である。
成長結晶39の直径が所望の径に達した時点で、原料棒搬送具42を昇降させる手段(図示しない)により、原料棒搬送具42内に挿入した原料棒41を原料溶融体38に浸漬させる。以後、結晶径が一定な定径部工程をるつぼ31内で行う。結晶の引き上げ方向、速度を、それぞれ{001}、0.1mm/hrとし、直径50mmの定径部を成長する場合、原料棒より1時間あたり1.1gの補充が必要である。特許文献4で開示されているように、結晶成長温度からの過加熱量によって単結晶の溶融量を調整することができるので、原料溶融体表面44において、結晶成長界面と原料棒搬送具部分の温度差を12℃に調整する。
さらに、原料棒搬送具42の原料溶融体38への浸漬深さにより、原料棒41の原料溶融体38との接触面積を調整できる。原料棒41の原料溶融体38との接触面積は溶融量と比例するので、原料棒搬送具42の原料溶融体38への浸漬深さを溶融量の微調整に用いる。原料棒搬送具42の先端封止部分には、底面より2mmの高さの側面に1.5mmの原料溶融体出入り穴43を、円筒の円周部分に180°ごとに2個作製してある。また、原料棒搬送具42の先端封止部分の底面にも1.5mmの原料溶融体出入り穴43を1個作製してある。計3個の原料溶融体出入り穴43全てが原料溶融体に浸る様に、原料棒搬送具42を原料溶融体38に浸漬する。
原料溶融体38は、原料溶融体出入り穴43を通過して、原料棒搬送具42内に挿入してある原料棒41に接触する。この原料棒41と原料溶融体38の接触により原料棒41の原料溶融体38への溶融供給が行われる。原料棒41の原料溶融体38への溶融により、原料溶融体38に接触した原料棒部分は消失するが、複数個積み重ねてある上部の原料棒が重力により下降するので、原料棒41の原料溶融体38への接触状態は保持される。
原料棒搬送具42の原料溶融体表面44からの浸漬深さを4mmに設定する。原料棒搬送具42の中の原料棒41の上端位置を計測することにより、原料棒41消費量を計測することができる。所望の1時間あたり1.1gより少ない場合は、浸漬深さを増大させ、多い場合は、浸漬深さを減少させる。
原料溶融体38には原料棒41の溶融により結晶成長で消費した成分が補充され、原料溶融体38を冷却することなく、言い換えればヒータ34の加熱量が一定でも、成長結晶39の成長は継続する。所望の長さの成長結晶39が成長した時点で、原料棒搬送具42を原料溶融体38から切り離し、結晶成長を停止する。結晶成長後、ヒータ34の加熱量を下げ、電気炉35を室温まで冷却する。目視による観察で、色調均一でかつ欠陥の介在も認められないKTaxNb1-xO3単結晶が得られる。
この結晶を成長方向に沿って切断し、研磨することでウエハを作製する。作製したウエハを化学分析により組成分析したところ、定径部工程で成長した成長結晶39の組成x’は成長方向に対して一定であった。原料棒41の挿入により原料を補充せず定径部を冷却により成長した従来作製法の場合、KTaxNb1-xO3は固溶体であるから、定径部工程で成長した成長結晶の組成xは成長するにつれて減少する。従って、原料棒41を用いた連続チャージにより原料を補充した定径部工程において、成長結晶39の組成を一定に保つことができる。
溶質原料や原料棒に、元素置換やドーパント添加を行うことも可能である。例えば、溶質原料の炭酸カリウムに代えて、炭酸カリウムと炭酸リチウムまたは炭酸ナトリウムとの混合物とし、原料棒のカリウムアルコキシドに代えて、その溶質原料から成長する結晶の組成比と同じ比率のカリウムアルコキシドとリチウムアルコキシドまたはナトリウムアルコキシドとの混合物にすることによって、KyM1-yTaxNb1-xO3の置換型単結晶(M=Li、Na)を製造することができる。また、溶質原料にIIa族のMg、Ca、Sr、Baを添加し、かつ原料棒をその溶質原料から成長する結晶の組成比と同じ比率のカリウムアルコキシドと、IIa族アルコキシドとの混合物にすることによって、KTaxNb1-xO3のIIa族ドープ単結晶を製造することもできる。
本実施例では温度勾配凝固法によるKTaxNb1-xO3単結晶の成長を説明したが、ヒータ34を冷却することに代えて、るつぼ31を下方に移動すれば垂直ブリッジマン法によるKTaxNb1-xO3単結晶の成長となる。垂直ブリッジマン法によるKTaxNb1-xO3単結晶の製造法に適用できる。さらに、実施例1および実施例2では、それぞれTSSG法によるKTaxNb1-xO3単結晶、Cz法によるMg:LiNbO3、LiTaO3単結晶の製造法を説明したが、本実施例を組み合わせて、温度勾配凝固法や垂直ブリッジマン法によるMg:LiNbO3、LiTaO3単結晶の製造法にも適用できる。