以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
図1〜図8を参照して、本発明による炭化珪素インゴットおよび炭化珪素基板の製造方法を説明する。
図1に示すように、本発明による炭化珪素インゴット(以下、インゴットとも呼ぶ)の製造方法では、まず準備工程(S10)を実施する。具体的には、インゴットを形成するための結晶成長装置の処理容器内において、図3に示すような支持部材2を配置し、当該支持部材2上にインゴットを形成するための種基板であるベース基板1を搭載する。ベース基板1の平面形状は円形状である。ここで、ベース基板1の主表面は、(0001)面に対するオフ角が0.1°以上10°以下、より好ましくは0.5°以上8°以下に設定された炭化珪素(SiC)基板である。なお、本明細書中においては、個別の面方位を(hkil)で表わし、(hkil)およびそれに結晶幾何学的に等価な面方位を含む総称的な面方位を{hkil}で表わす。また、個別の方向を[hkil]で表わし、[hkil]およびそれに結晶幾何学的に等価な方向を含む方向を<hkil>で表わす。また、負の指数については、結晶幾何学上は「−」(バー)を指数を表す数字の上に付けて表わすのが一般的であるが、本明細書中では指数を表す数字の前に負の符号(−)を付けて表わす。
次に、成膜工程(S20)を実施する。具体的には、結晶成長装置の処理容器内部の圧力および雰囲気を所定の条件に設定した後、ベース基板1を加熱しながらベース基板1の表面4上に昇華再析出法などを用いて炭化珪素単結晶を成長させる。このようにして、図3〜図5に示すような炭化珪素のインゴット10を形成する。また、この成膜工程(S20)においては、インゴット10の表面に(0001)ファセット面5(以下、ファセット面5とも呼ぶ)が形成されている。当該ファセット面5が、図4に示すようにインゴット10の上部表面から見た場合の一方の外周端部に配置されるように、成膜工程(S20)のプロセス条件は設定されている。なお、当該プロセス条件については後述する。
また、ファセット面5の下に連なる領域は、当該ファセット面5からの窒素の取り込み量が他の領域での窒素の取り込み量より多いことに起因して、窒素濃度が他の領域よりも相対的に高くなっている高濃度窒素領域6となっている。すなわち、インゴット10を構成する炭化珪素の成長時に、成長した炭化珪素の表面におけるファセット面5から他の領域より相対的に多くの窒素が炭化珪素中に取り込まれることから、高濃度窒素領域6における窒素濃度は、他の領域である低濃度窒素領域7における窒素濃度よりも相対的に高くなっている。
このファセット面5は、矢印26で示すオフ角方向における端部に位置している。このようにファセット面5をインゴット10の端部に配置する方法(プロセス条件)としては、任意の方法を用いることができる。たとえば、図7に示すように、坩堝11と加熱用のコイル12とを備える結晶成長装置において、ベース基板1の表面に成長するインゴット10の成長最表面(図7のインゴット10においてベース基板1が位置する側と反対側の表面、あるいは図7の矢印13で示される原料ガスの供給方向に対向するインゴット10の表面)が常に平坦になる(ベース基板1の表面とインゴット10の成長最表面が平行になる)ように、インゴット10を成長させる。また、種基板であるベース基板1については、その主表面(インゴット10となる結晶が成長する面)が、(0001)面に対し、<11−20>方向または、<1−100>方向に、1°以上10°以下傾いていることが好ましい。なお、上記主表面の傾斜角度は、0.1°以上10°以下であってもよい。このようなベース基板1を使うことによって、図7に示すようにインゴット10の端部にわずかだけ、(0001)ファセット面5が発生する。なお、図7に示した結晶成長装置では、図3に示した支持部材2は記載されておらず、坩堝11の内壁上に直接ベース基板1が配置されているが、図3に示したようにベース基板1に支持部材2を配置し、当該支持部材2を介してベース基板1を坩堝11の内壁上に固定してもよい。
ここで、インゴット10の成長最表面をできるだけ平坦にする(たとえば、結晶の成長方向に対して当該成長最表面が垂直な方向に延びるように形成されている)ことが、(0001)ファセット面5をインゴット10の端部に、且つ極小にする条件となる。このように成長最表面を平坦にするためには、図7に示したインゴット10の成長最表面における中央部14、端部15、最外周部16という各点の温度が重要となる。ここで、端部15は、インゴット10の端部域にあり、坩堝11の内壁からインゴット10の直径の10%以内の距離である位置とする。中央部14の温度をTa、端部15の温度をTb、最外周部16の温度をTcとすると、その関係はTc>Tb≧Taという関係式を満足し、かつ温度Tbと温度Taとについては、温度勾配((温度Taと温度Tbとの差の絶対値)/(中央部14と端部15との間の距離))が10℃/cm以下という関係を満足することが好ましい。
このような温度条件を実現するためには、ベース基板1の裏面側(つまり図7の坩堝11上面側)での温度分布を小さくする(温度のばらつきを小さくする)必要がある。具体的には、たとえば坩堝11の上面側に形成する放熱穴の直径をインゴット10の径より大きくする、といった構成を採用することがこのましい。これにより、インゴット10の表面における中央部14と端部15との間の曲率半径を、インゴット11の半径の3倍以上とすることができる。ここで、曲率半径は、たとえば以下のようにして算出する。まず、中央部14と端部15との間において5mmピッチでインゴット10の高さ(ベース基板1の表面からインゴット10の表面までの距離)を測定する。そして、各ピッチ間における上記高さの差から、当該ピッチ間でのインゴット10の表面に対応する円弧の半径を算出する。そして、中央部14と端部15との間の各ピッチ間について算出された円弧の半径のうち最小の半径を、上記曲率半径とする。
また、上記インゴット10の表面の平坦性については、以下のような測定方法により測定してもよい。すなわち、インゴット10の表面の中心から5mmピッチで十字方向(好ましくは、5mmピッチのマトリクス状)に配置された複数の位置(測定点)で、基準面からのインゴット10の表面の高さを測定する。そして、隣り合う測定点間で、当該高さの差を測定する。さらに、当該高さの差と測定点間の距離とから決定できる正接(tan)から、隣り合う測定点間でのインゴット10の表面の傾斜に対応する角度を求める。このようにして求めた複数の角度について、その角度の平均が10°以下であることが好ましい。さらに、測定した角度がすべて10°以下であることが好ましい。ただし、測定点としては、インゴット10の最外周部から当該インゴット10の直径の10%以内の距離となる領域は除く。
また、温度Tcと温度Tbとの関係については、温度Tbと温度Tcとの差の絶対値が1℃以上50℃以下であること(より具体的には温度Tbに対して温度Tcの方が高温であり、温度Tbと温度Tcとの差が1℃以上50℃以下であること)が好ましい。ここで、当該差の絶対値が1℃未満の場合は、グラファイトからなる坩堝11の内周表面上に炭化珪素の多結晶が付着・成長しやすくなり、結果的に単結晶インゴットの成長の妨げになる。また、当該差が50℃越えである場合は、坩堝11側からの輻射熱等の影響により、インゴット10の端面部の温度も上昇する。この結果、中央部14と端部15との間の温度差が大きくなり、インゴット10の表面における平坦性が保てなくなる。
上記のような条件で成長することにより、インゴット10の表面が平坦になり、(0001)ファセット面5はインゴット10の端部にだけ発生するようになる。また、(0001)ファセット面5の幅(ベース基板1のオフ方向における幅)はインゴット10の直径の10%以下であることが好ましい。
なお、上記のように(0001)ファセット面5をインゴット10の端部に配置するためには、インゴット10の成長開始から終了まで、常に上記のようにインゴット10の径方向に温度分布がないような環境(径方向における温度差が小さい状態)にすることが好ましい。そのために、成長初期とは別に昇温工程、成長中後期のそれぞれにおいて、温度管理について以下のように注意が必要である。
たとえば、一般的な高周波加熱炉を坩堝11の加熱に用いる場合、坩堝11の側面が加熱されるため、昇温工程では、インゴット10の径方向に温度分布が発生しやすい。したがって、常温から坩堝11の底面温度が2000℃以上になるまでの時間が1時間以下の場合は、40kPa以上100kPa以下の雰囲気圧力で、成長予定温度にて5分以上保持して、温度分布を均一化した後、雰囲気圧力を成長予定圧力まで減圧するのが好ましい。
また、成長中後期になると、インゴット10が1cm以上の高さまで成長するため、成長最表面の温度が成長初期よりも上昇する。この結果、インゴット10の成長最表面と原料との温度勾配が小さくなる。そのため、端部15や最外周部16における温度環境が、成長初期の状態から変化し、場合によっては端部15の温度Tbと最外周部16の温度Tcとの大小関係が逆転する場合も考えられる。このような状態になると、インゴット10の形状が凹型になり、(0001)ファセット面5がインゴット10の端部から中央部側に移動する。
したがって、成長中後期では、坩堝11の側面温度を成長初期より上げる、または、坩堝11の上部側からの放熱量を増加させることにより、常に温度Tc>温度Tbという条件を満足する環境を保持する必要がある。また、インゴット10の表面形状が凹型になるとクラック発生の可能性が高くなることから、インゴット10の表面形状は平坦から、やや凸形状になっていることが好ましい。さらに、インゴット10を形成するための原料の最表面は予め平坦にすることで、原料の装填深さにばらつきがないようにすることが好ましい。
上述のような方法で形成された本発明によるインゴット10では、(0001)ファセット面5のサイズも小さく、かつ、インゴット10の表面の平坦性が高い。このため、転位発生確率はインゴット10の全面でほぼ均一であり、またインゴット10の成長に従って均一に減少していく。つまり、本発明に従ったインゴット10では、実質的に全領域において転位を低減することができる。
また、インゴット10においてファセットを端部にだけ発生させる方法としては、ファセットを発生させる部分の温度を、他の部分の温度より高くする、という方法を用いることもできる。つまり、図7のファセット側端部17の温度Tdとファセット側最外周部18の温度Teとの関係はTe>Tdとし、且つファセット側端部17とファセット側最外周部18との温度差(つまりTe−Td)を20℃以上100℃以下にすることが好ましい。また、中央部14と端部15との間の温度差が大きいと、ファセット領域が広がるため、中央部14と端部15との間については、温度勾配を20℃/cm以下とすることが好ましい。
また、ファセット側端部17とファセット側最外周部18との間だけに相対的に大きな温度差を形成し、インゴット10の外周部の他の部分では、端部15と最外周部16との間の温度差を20℃以下にすることが好ましい。このようにするためには、たとえばファセット面5を形成する箇所だけ加熱することができる。当該加熱の方法として、例えば、坩堝11の加熱方法が誘導加熱方式の場合、坩堝11の中心線を、加熱に用いるコイル12の中心線から、(0001)ファセット面5を形成する側に所定の距離だけ(たとえば1mm以上5mm以下程度)ずらす方法がある。また、加熱方式に問わず、坩堝11の周りにある断熱材の厚みを、ファセット面5が形成される領域付近だけ、他より厚く(たとえば他の部分の断熱材の厚みより2mm以上10cm以下程度厚く)してもよい。あるいは、坩堝11上部において、放熱のために形成される穴(放熱穴)をファセット面5が形成される部分と対向する領域においては塞ぐ、という方法を用いることができる。
また、たとえば図3に示すように支持部材2の内部に温度調節部材3を配置しておき、ファセット面5を形成したい領域(ベース基板1の端部)の加熱温度を他の部分の温度と比べて変化させる(たとえば他の部分の温度よりも高くする)といった方法により、ファセット面5の位置をインゴット10の端部に配置させてもよい。このような温度調節部材3としては、たとえば電熱ヒータなどの加熱部材を用いることができる。また、ファセット面5をインゴット10の端部に配置する方法としては、たとえばベース基板1上に炭化珪素を成長させるための原料ガスを、当該ファセット面5が形成されるべき領域に集中的に供給する、あるいは炭化珪素の成長に用いられた原料ガスを処理容器内部から排出するときの排出部の配置を調整し、ファセット面5が形成されるべき領域での炭化珪素の成長速度を他の領域より高める、といった方法を用いてもよい。
次に後処理工程(S30)を実施する。具体的には、形成されたインゴット10を処理容器の内部から取出し、表面層を研削する、インゴット10の結晶方位を示すマークをインゴット10に形成する、さらにはインゴット10からベース基板1を分離する、といった必要な後処理を行なう。
ここで、得られたインゴット10において炭化珪素が結晶成長した部分の最表面9(図5参照)について、図5に示した断面における最大曲率半径は、図4に示したインゴット10の平面形状の外接円(図4に示したように平面形状が円形のインゴット10である場合には、インゴット10の平面形状の外周を構成する円)の半径の3倍以上となっていることが好ましい。
また、高濃度窒素領域6は、矢印26に示したオフ角方向の上流側に配置されている。ここで、オフ角方向とは、ベース基板1におけるオフ角を設定した方向であって、たとえば<11−20>方向または<1−100>方向のいずれかである。また、ベース基板1における<0001>方向軸とベース基板1の表面4とが交差している状態において、<0001>方向軸が表面4の垂線に対して傾斜している方向を上流側とし、当該上流側と反対方向を下流側と規定している。また、高濃度窒素領域6における窒素濃度は低濃度窒素領域7の窒素領域に対して1.1倍以上となっている。なお、当該窒素濃度はたとえばSIMSによって評価することができる。
また、高濃度窒素領域6における単位厚さ当たりの、波長が450nm以上500nm以下である光の透過率は、インゴット10の高濃度窒素領域6以外の部分である低濃度窒素領域7における単位厚さ当りの、上記光の透過率より低くなっている。当該光の透過率は、たとえばFTIR(フーリエ変換型赤外分光装置)を用いて測定することができる。
たとえば、基板20の厚みを400μmとし、当該基板20の高濃度窒素領域6における基板20の厚さ方向における上記波長の光の透過率と、当該基板20の低濃度窒素領域7における基板20の厚さ方向での上記波長の光の透過率を可視光の分光器を用いて測定する、といった方法を用いることができる。
このようなインゴット10によれば、相対的に窒素濃度の高い高濃度窒素領域6をインゴット10の端部に配置しているので、相対的に窒素濃度の低い領域である低濃度窒素領域7を、インゴット10の中心部を含むまとまった領域として形成できる。このため、当該インゴット10から炭化珪素基板20を切り出すときに、相対的に低濃度窒素領域7が基板中央部を含む広い領域に形成された炭化珪素基板20を容易に得ることができる。
次に、上述のようにして得られたインゴット10を用い、図2に示したプロセスを用いて図6に示す炭化珪素基板20を製造する。炭化珪素基板20の製造方法を、図2を参照しながら具体的に説明する。
本発明に従った炭化珪素基板の製造方法では、まず図2に示すように、インゴット準備工程(S40)を実施する。当該工程(S40)においては、図1に示した工程を実施することにより得られた炭化珪素からなるインゴット10を準備する。
次に、スライス工程(S50)を実施する。具体的には、工程(S50)においては、インゴット10を任意の方法でスライスする。スライスする方法としては、たとえばワイヤソーを用いる方法、あるいはダイヤモンドなどの硬質の砥粒が表面に配置された切断部材(たとえば内周刃ブレード)を用いる方法などを用いることができる。インゴット10をスライスする方向としては、任意の方向を採用できるが、たとえばベース基板1の表面4に沿った方向(図5に示した直線8に沿った方向)にインゴット10をスライスしてもよい。この場合、切り出された炭化珪素基板20において高濃度窒素領域6を炭化珪素基板20の端部に配置することができる。あるいは、ベース基板1のオフ角方向とベース基板1の表面4に対する垂線とにより規定される平面に沿って(つまり図5に示すインゴット10の断面が炭化珪素基板20の主表面となるように)インゴット10をスライスしてもよい。
次に、後処理工程(S60)を実施する。具体的には、スライスした基板の表面および/または裏面を研削・研磨することにより、鏡面状態は任意の表面状態に仕上げ加工する。このようにして、図6に示すような炭化珪素基板20を得る。炭化珪素基板20においては、主表面の中央部を含む大部分が低濃度窒素領域7となっており、端部に高濃度窒素領域6が配置されている。また、図8に示すように、高濃度窒素領域6を研削加工などによって除去することにより、炭化珪素基板20の外周に凹部21が形成された状態としてもよい。この場合、炭化珪素基板20のほぼ全面が低濃度窒素領域7となり、特性の均一な炭化珪素基板20を得ることができる。
また、このような炭化珪素基板20によれば、当該炭化珪素基板20の表面上に特性の均一性に優れた炭化珪素エピタキシャル層を容易に形成することができる。
なお、図1に示した後処理工程(S30)において、インゴット10から高濃度窒素領域6を研削などの方法により除去した上で、図2に示した炭化珪素基板の製造方法を実施すれば、図8に示すように高濃度窒素領域の無い、つまり全面が低濃度窒素領域となっている炭化珪素基板20を得ることができる。図8に示した炭化珪素基板20は、基本的には図6に示した炭化珪素基板20と同様の構成を備えるが、図6に示した高濃度窒素領域6が除去されている。そのため、図8に示した炭化珪素基板20では、高濃度窒素領域6が位置していた領域である外周端部の一部に凹部21が形成されている。当該炭化珪素基板20が、図5の直線8に沿った方向にインゴット10をスライスして得られている場合、当該凹部21は、炭化珪素基板20のオフ角方向における端部に位置する。
また、上述したインゴット10および炭化珪素基板20の製造方法では、ベース基板1として平面形状が円形状の基板を用いたが、他の任意の形状の基板をベース基板1として用いることができる。たとえば、ベース基板1として平面形状が四角形状の基板を用いた場合には、図9に示したように平面形状が実質的に四角形状のインゴット10を得ることができる。この場合も、図1に示した成膜工程(S20)におけるプロセス条件を制御することにより、インゴット10を平面視したときの端部にファセット面5を配置することができる。なお、図9の線分V−Vにおける断面は、図5に示した断面と同様である。そして、得られたインゴット10の最表面における最大曲率半径(図5の最表面9の最大曲率半径)は、図9に示したインゴット10の平面形状の外接円25の半径の3倍以上となっていることが好ましい。
そして、この場合もベース基板1の表面4と平行な方向(すなわち図5の直線8に示す方向)に沿ってインゴット10をスライスすることにより、図10に示すような平面形状の炭化珪素基板20を得ることができる。図10に示した炭化珪素基板20においても、端部に高濃度窒素領域6が配置され、他の領域は低濃度窒素領域7となっている。このような炭化珪素基板20によっても、図6に示した炭化珪素基板20と同様の効果を得ることができる。
また、図10に示した炭化珪素基板20から、高濃度窒素領域6を研削などにより除去することによって、図11に示すようにその全面が低濃度窒素領域7となった炭化珪素基板20を得ることもできる。なお、高濃度窒素領域6は、インゴット10を形成する工程(具体的には図1に示した後処理工程(S30))において、インゴット10からあらかじめ除去しておいてもよい。このような炭化珪素基板20によっても、図8に示した炭化珪素基板20と同様の効果を得ることができる。
また、インゴット10を形成するためのベース基板1として、図12に示すような長方形状の平面形状を有し、炭化珪素単結晶からなる基板を用いることもできる。この場合も、図1に示したインゴットの製造方法を用いて、図12に示すような平面形状のインゴット10を形成することができる。なお、当該インゴット10の図12に示す線分V−Vにおける断面形状は、基本的に図5に示したインゴット10の断面形状と同様である。図12に示したインゴット10において、その最表面9(図5参照)の最大曲率半径は、図12に示すインゴット10の平面形状の外接円25の半径の3倍以上となっていることが好ましい。
そして、図2に示した方法により、図12に示したインゴット10をスライスして後処理することにより、図13に示すような平面形状が長方形状の炭化珪素基板20を得ることができる。なお、スライスの方向は図12の紙面に平行な方向(ベース基板の表面に沿った方向)としている。当該炭化珪素基板20においても、端部に高濃度窒素領域6が形成される一方で、他の大部分の領域は低濃度窒素領域7となっている。このような炭化珪素基板20によっても、図6に示した基板と同様の効果を得ることができる。
さらに、図13に示した炭化珪素基板20のうち、高濃度窒素領域6を除去することで、図14に示すようにその全面が低濃度窒素領域7となった炭化珪素基板20を得ることもできる。なお、この場合、図12に示すインゴット10を形成した段階で当該高濃度窒素領域6をインゴット10から除去し、その後インゴット10をスライスすることで図14に示す炭化珪素基板20を得てもよい。
また、ベース基板1として、平面形状が六角形状の基板を用いることもできる。このような基板をベース基板1として用いた場合には、図15に示すように平面形状が六角形状のインゴット10を得ることができる。当該インゴット10においても、インゴット10の結晶成長部の最表面9(図5参照)における端部に(0001)ファセット面5を配置することができる。なお、図15に示したインゴット10について、線分V−Vにおける断面図は図5に示した断面図と同様である。そして、得られたインゴット10の最表面9における最大曲率半径(図5の最表面9の最大曲率半径)は、図15に示したインゴット10の平面形状の外接円25の半径の3倍以上となっていることが好ましい。
そして、図15に示したインゴット10を図2に示した方法によりスライス、加工することによって、図16に示すような平面形状が六角形状の炭化珪素基板20を得ることができる。なお、スライスの方向は図15の紙面に平行な方向(ベース基板1の表面に沿った方向)としている。当該炭化珪素基板20においても、端部に高濃度窒素領域6が配置される一方で、残りの領域は低濃度窒素領域7となっている。この場合も、図6に示した基板と同様の効果を得ることができる。
さらに、図16に示した炭化珪素基板20から、研削加工などを用いて高濃度窒素領域6を除去することにより、図17に示すようにその全面が低濃度窒素領域7となった炭化珪素基板20を得ることもできる。なお、この場合、図15に示すインゴット10を形成した段階で当該高濃度窒素領域6をインゴット10から除去し、その後インゴット10をスライスすることで図17に示す炭化珪素基板20を得てもよい。
ここで、上述した実施の形態と一部重複する部分もあるが、本発明の特徴的な構成を列挙する。
本発明に従った炭化珪素インゴット10の製造方法は、図1に示すように、(0001)面に対して<11−20>方向または<1−100>方向のいずれかであるオフ角方向におけるオフ角が0.1°以上10°以下、より好ましくは1°以上10°以下であり、単結晶炭化珪素からなるベース基板1を準備する工程(準備工程(S10))と、ベース基板1の表面上に炭化珪素層を成長させる工程(成膜工程(S20))とを備える。成膜工程(S20)では、オフ角方向においてベース基板1の<0001>方向軸がベース基板1の表面4に対して交差する交差角度を考えたときに当該交差角度が鋭角となる側である上流側の端部において、成長した炭化珪素層の表面に(0001)ファセット面5を有する領域を形成する。
このようにすれば、窒素が取り込まれ易い(0001)ファセット面5をインゴット10の端部に形成することで、相対的に窒素濃度の高い領域((0001)ファセット面下に位置する高濃度窒素領域6)を炭化珪素インゴット10の端部に配置することができる。そのため、相対的に窒素濃度の低い領域(高濃度窒素領域以外の領域である低濃度窒素領域7)を、炭化珪素インゴット10の中心部を含むまとまった領域として形成できる。このため、当該インゴット10から炭化珪素基板20を切り出すときに、低濃度窒素領域7が基板中央部を含む広い領域に形成された炭化珪素基板20を容易に得ることができる。このように基板中央部を含む広い領域に、低濃度窒素領域7(つまり窒素の取り込みなどがあまりなく窒素濃度の安定した領域)を形成できるので、炭化珪素基板20の表面に半導体素子を形成する場合に、基板の利用効率を高めて効率的に半導体素子を形成することができる。
上記炭化珪素インゴットの製造方法では、炭化珪素層を成長させる工程(成膜工程(S20))後の炭化珪素層において、(0001)ファセット面を有する領域下に位置する部分は、炭化珪素層において(0001)ファセット面を有する領域下に位置する前記部分以外の部分(低濃度窒素領域7)より窒素濃度が高くなっている高濃度窒素領域6であってもよい。
この場合、(0001)ファセット面5を有する領域下に高濃度窒素領域6が形成され、他のインゴット中央部を含む部分は当該高濃度窒素領域6より窒素濃度の低い低濃度窒素領域7となるので、当該炭化珪素インゴット10をスライスすることで、表面の中央部を含む広い領域が低濃度窒素領域7となっている炭化珪素基板20を容易に得ることができる。
上記炭化珪素インゴットの製造方法では、高濃度窒素領域6のオフ角方向(図6に示す矢印26に沿った方向)における幅は、ベース基板1の当該オフ角方向における幅の1/10以下であってもよい。この場合、高濃度窒素領域6のサイズが炭化珪素インゴット10全体に対して十分小さくなっているので、炭化珪素インゴット10から得られる炭化珪素基板20の表面(主表面)において高濃度窒素領域6の占有面積を小さくできる。この結果、炭化珪素基板20の表面における(窒素濃度の安定した)低濃度窒素領域7の広さを十分広くすることができる。また、高濃度窒素領域6を炭化珪素インゴット10の外周研削成型工程において容易に除去することができるので、当該炭化珪素インゴット10の加工に要する時間が長くなることを抑制できる。
上記炭化珪素インゴットの製造方法は、高濃度窒素領域を除去する工程(図1の後処理工程(S30))をさらに備えていてもよい。この場合、炭化珪素インゴット10の大部分を低濃度窒素領域7により構成することができる。このため、当該炭化珪素インゴット10から切り出した炭化珪素基板20の表面は低濃度窒素領域7のみにより構成できるので、窒素濃度の安定した、均質性に優れた炭化珪素基板20を得ることができる。
上記炭化珪素インゴットの製造方法において、高濃度窒素領域6における単位厚さ当たりの、波長が450nm以上500nm以下である光の透過率は、炭化珪素層(ベース基板1上に成長した炭化珪素層)における高濃度窒素領域以外の部分(低濃度窒素領域7)における単位厚さ当りの、上記光の透過率より低くてもよい。
ここで、炭化珪素インゴット10における上記光の透過率は、窒素濃度が高いほど低下する傾向がある。したがって、上記光の透過率という特性についても、高濃度窒素領域6と高濃度窒素領域以外の領域(低濃度窒素領域7)とでは異なる値となる。したがって、本発明によれば、上記光の透過率が相対的に低くなっている領域(高濃度窒素領域6)を炭化珪素インゴット10の端部に配置することになるので、当該光の透過率という特性についても、上記光の透過率が相対的に高い領域(低濃度窒素領域7)を、炭化珪素インゴット10の中心部を含むまとまった領域として形成できる。このため、当該炭化珪素インゴット10から炭化珪素基板20を切り出すときに、相対的に当該光の透過率の高い領域が基板中央部を含む広い領域に形成された炭化珪素基板20を容易に得ることができる。
上記炭化珪素インゴット10の製造方法において、(0001)ファセット面を有する領域下に位置する部分(高濃度窒素領域6)のマイクロパイプ密度は、炭化珪素層において(0001)ファセット面を有する領域下に位置する上記部分以外の部分(低濃度窒素領域7)におけるマイクロパイプ密度より高くてもよい。この場合、マイクロパイプ密度が相対的に高くなっている高濃度窒素領域6を炭化珪素インゴット10の端部に配置するので、当該マイクロパイプ密度という特性についても、上記マイクロパイプ密度が相対的に低い領域(低濃度窒素領域7)を、炭化珪素インゴット10の中心部を含むまとまった領域として形成できる。このため、当該炭化珪素インゴット10から炭化珪素基板20を切り出すときに、相対的に当該マイクロパイプ密度の低い領域(低濃度窒素領域7)が基板中央部を含む広い領域に形成された炭化珪素基板20を容易に得ることができる。
上記炭化珪素インゴット10の製造方法において、炭化珪素層を成長させる工程(成膜工程(S20))の後での炭化珪素層の表面(図5に示す最表面9)における最大曲率半径は、ベース基板1の平面形状に関する外接円25の半径の3倍以上であってもよい。また、上記炭化珪素層の表面(図5の最表面9)における最大曲率半径は、炭化珪素層においてベース基板1の表面から最も離れた部分を含む領域(最表面)での最大曲率半径であることが好ましい。
この場合、ベース基板1上に形成される炭化珪素層の体積を十分大きくできるので、結果的に炭化珪素インゴット10の体積を十分大きくできる。そのため、炭化珪素インゴット10から炭化珪素基板20を切り出す場合に、効率的に大きな面積の炭化珪素基板20を得ることができる。なお、上記炭化珪素層(高濃度窒素領域6と低濃度窒素領域7とからなる炭化珪素エピタキシャル成長層)の平面形状が、ベース基板1の平面形状より大きくなるように(たとえば、ベース基板1から離れるにしたがって平面形状が大きくなるように、あるいはベース基板1から離れるに従って外側に向かうように傾斜した側壁を有するように)当該炭化珪素層は形成されていてもよい。
この発明に従った炭化珪素インゴット10は、上記炭化珪素インゴット10の製造方法を用いて製造されている。この場合、相対的に窒素濃度の低い領域(低濃度窒素領域7)を、炭化珪素インゴット10の中心部を含むまとまった領域として形成できる。そのため、当該炭化珪素インゴット10から炭化珪素基板20を切り出すことにより、相対的に窒素濃度の低い低濃度窒素領域7が基板中央部を含む広い領域に形成された炭化珪素基板20を容易に得ることができる。
この発明に従った炭化珪素基板20の製造方法は、図2に示すように、上記炭化珪素インゴット10の製造方法を用いて、炭化珪素インゴットを準備する工程(インゴット準備工程(S40))と、当該炭化珪素インゴット10をスライスする工程(スライス工程(S50)とを備える。
この場合、炭化珪素インゴット10では、相対的に窒素濃度の低い領域(高濃度窒素領域以外の領域である低濃度窒素領域7)が、当該炭化珪素インゴット10の中心部を含むまとまった領域として形成される。そのため、上記スライス工程(S50)において、当該炭化珪素インゴット10から炭化珪素基板20を切り出すことにより、相対的に窒素濃度の低い低濃度窒素領域7が基板中央部を含む広い領域に形成された炭化珪素基板20を容易に得ることができる。
上記炭化珪素基板の製造方法において、炭化珪素インゴットを準備する工程(インゴット準備工程(S40))では、炭化珪素層を成長させる工程(成膜工程(S20))後の炭化珪素層において、(0001)ファセット面を有する領域下に位置する部分が、炭化珪素層において(0001)ファセット面を有する領域下に位置する前記部分以外の部分(低濃度窒素領域7)より窒素濃度が高くなっている高濃度窒素領域6となっていてもよい。上記炭化珪素基板の製造方法は、炭化珪素インゴット10をスライスするスライス工程(S50)の前に、炭化珪素インゴット10から高濃度窒素領域6を除去する工程(たとえば、図1の後処理工程(S30)に含まれる高濃度窒素領域6を研削によって除去する工程)をさらに備えていてもよい。
また、異なる観点から言えば、この発明に従った炭化珪素基板20の製造方法は、図2に示すように、上記炭化珪素インゴット10の製造方法を用いて、炭化珪素インゴットを準備する工程(インゴット準備工程(S40))を備え、炭化珪素インゴットを準備する工程(インゴット準備工程(S40))では、炭化珪素層を成長させる工程(成膜工程(S20))後の炭化珪素層において、(0001)ファセット面を有する領域下に位置する部分が、炭化珪素層において(0001)ファセット面を有する領域下に位置する前記部分以外の部分(低濃度窒素領域7)より窒素濃度が高くなっている高濃度窒素領域6となっており、さらに、炭化珪素インゴット10から高濃度窒素領域6を除去する工程(たとえば、図1の後処理工程(S30)に含まれる高濃度窒素領域6を研削によって除去する工程)と、前記高濃度窒素領域6を除去する工程を実施した後、当該炭化珪素インゴット10をスライスする工程(スライス工程(S50))とを備える。
この場合、炭化珪素基板20を切り出す炭化珪素インゴット10から、高濃度窒素領域6を除去することで、炭化珪素インゴット10における窒素濃度や透過率などの均一性を向上させることができる。
この発明に従った炭化珪素基板20は、上記炭化珪素基板の製造方法を用いて製造されている。このようにすれば、相対的に窒素濃度の低い低濃度窒素領域7が基板中央部を含む広い領域に形成された炭化珪素基板20を容易に実現できる。
この発明に従った炭化珪素インゴットの製造方法は、(0001)面に対して<11−20>方向または<1−100>方向のいずれかであるオフ角方向(図3における矢印26に示す方向)におけるオフ角が0.1°以上10°以下、より好ましくは1°以上10°以下であり、単結晶炭化珪素からなるベース基板1を準備する工程(準備工程(S10))と、ベース基板1の表面上に炭化珪素層を成長させる工程(成膜工程(S20))とを備え、成膜工程(S20)では、オフ角方向においてベース基板1の<0001>方向軸がベース基板1の表面4に対して交差する交差角度を考えたときに当該交差角度が鋭角となる側である上流側の端部において、成長した炭化珪素層の表面に(0001)ファセット面5を有する領域を形成する。成膜工程(S20)後の炭化珪素層において、(0001)ファセット面5を有する領域下に位置する部分(高濃度窒素領域6)は、炭化珪素層において(0001)ファセット面5を有する領域下に位置する部分以外の部分(低濃度窒素領域7)より波長が450nm以上500nm以下である光の単位厚さ当たりの透過率が低くなっている。
このようにすれば、窒素が取り込まれ易い(0001)ファセット面5を炭化珪素インゴット10の端部に形成することで、炭化珪素層の成長時に当該(0001)ファセット面5から取り込まれた窒素に起因して光の透過率が低下した領域(高濃度窒素領域6)が炭化珪素インゴット10の端部((0001)ファセット面5の下の部分)に配置されるので、炭化珪素インゴット10の中心部を含む他の部分(低濃度窒素領域7)については光の透過率が相対的に高い領域とすることができる。このため、当該炭化珪素インゴット10から炭化珪素基板20を切り出すときに、相対的に光の透過率が高くなった領域(低濃度窒素領域7)が基板中央部を含む広い領域に形成された炭化珪素基板20を容易に得ることができる。このように基板中央部を含む広い領域に、相対的に光の透過率の高い領域(窒素の取り込みなどがあまりなく窒素濃度および透過率の安定した領域)を形成できるので、基板表面に半導体素子を形成する場合に、効率的に半導体素子を形成することができる。
この発明に従った炭化珪素インゴット10は、(0001)面に対して<11−20>方向または<1−100>方向のいずれかであるオフ角方向におけるオフ角が0.1°以上10°以下、より好ましくは1°以上10°以下であり、単結晶炭化珪素からなるベース基板1と、当該ベース基板1の表面上に形成された炭化珪素層とを備える。オフ角方向においてベース基板の<0001>方向軸がベース基板1の表面4に対して交差する交差角度を考えたときに交差角度が鋭角となる側である上流側の端部において、成長した炭化珪素層の表面に(0001)ファセット面5を有する領域が形成されている。
上記炭化珪素インゴット10では、炭化珪素層において、(0001)ファセット面5を有する領域下に位置する部分は、炭化珪素層において(0001)ファセット面を有する領域下に位置する上記部分以外の部分(低濃度窒素領域7)より窒素濃度が高くなっている高濃度窒素領域6であってもよい。
このようにすれば、窒素が取り込まれ易い(0001)ファセット面5をインゴット10の端部に形成することで、相対的に窒素濃度の高い領域((0001)ファセット面5下に位置する高濃度窒素領域6)を炭化珪素インゴット10の端部に配置することができる。そのため、相対的に窒素濃度の低い領域(低濃度窒素領域7)を、炭化珪素インゴット10の中心部を含むまとまった領域として形成できる。このため、当該インゴット10から炭化珪素基板20を切り出すときに、低濃度窒素領域7が基板中央部を含む広い領域に形成された炭化珪素基板20を容易に得ることができる。
上記炭化珪素インゴット10において、高濃度窒素領域6の窒素濃度は、(0001)ファセット面5を有する領域下に位置する部分以外の部分(低濃度窒素領域7)における窒素濃度の1.1倍以上になっていてもよい。
この場合、高濃度窒素領域6と低濃度窒素領域7とを、窒素濃度や光の透過率などにより容易に判別することができる。このため、炭化珪素インゴット10より高濃度窒素領域6を研削により除去する、あるいは炭化珪素インゴット10から炭化珪素基板20を切り出し、当該炭化珪素基板20の表面にデバイスを形成するときに当該高濃度窒素領域6を避けるように(あるいは高濃度窒素領域6と低濃度窒素領域7との境界部をまたがないように)デバイスを形成する、といった作業を容易に行なうことができる。
上記炭化珪素インゴット10において、高濃度窒素領域6のオフ角方向における幅は、ベース基板1のオフ角方向における幅の1/10以下であってもよい。この場合、高濃度窒素領域6のサイズを小さくしているので、高濃度窒素領域6以外の領域(低濃度窒素領域7)のサイズを十分大きく確保することができる。
上記炭化珪素インゴット10では、高濃度窒素領域6における単位厚さ当たりの、波長が450nm以上500nm以下である光の透過率は、炭化珪素層における高濃度窒素領域以外の部分(低濃度窒素領域7)における単位厚さ当りの、上記光の透過率より低くてもよい。
この場合、高濃度窒素領域6と低濃度窒素領域7とを、光の透過率により容易に判別することができる。このため、炭化珪素インゴット10より高濃度窒素領域6を研削により除去するなどの作業を容易に行なうことができる。
上記炭化珪素インゴット10では、高濃度窒素領域6における上記透過率は、炭化珪素層における高濃度窒素領域以外の部分である低濃度窒素領域7における上記透過率より5%以上低くなっていてもよい。この場合、高濃度窒素領域6と低濃度窒素領域7とを、透過率の差から容易に判別することができる。
上記炭化珪素インゴット10では、(0001)ファセット面を有する領域下に位置する部分(高濃度窒素領域6)のマイクロパイプ密度は、炭化珪素層において(0001)ファセット面5を有する領域下に位置する部分以外の部分(低濃度窒素領域7)におけるマイクロパイプ密度より高くてもよい。この場合、(0001)ファセット面5を有する領域下に位置する部分以外の部分(マイクロパイプ密度が相対的に低い部分である低濃度窒素領域7)が、炭化珪素インゴット10の中心部を含むまとまった領域として形成される。このため、当該インゴット10から炭化珪素基板20を切り出すときに、相対的にマイクロパイプ密度の低い領域が基板中央部を含む広い領域に形成された炭化珪素基板20を容易に得ることができる。
上記炭化珪素インゴット10において、(0001)ファセット面5を有する領域下に位置する部分(高濃度窒素領域6)のマイクロパイプ密度は、炭化珪素層において(0001)ファセット面5を有する領域下に位置する当該部分以外の部分(低濃度窒素領域7)におけるマイクロパイプ密度の1.2倍以上であってもよい。
この場合、(0001)ファセット面5を有する領域下に位置する部分以外の部分である低濃度窒素領域7では結果的にマイクロパイプ密度が相対的に低くなっているので、中心部を含むまとまった領域についてマイクロパイプ密度が低減された炭化珪素インゴット10を得ることができる。
上記炭化珪素インゴット10において、炭化珪素層の表面(図5に示す最表面9)における最大曲率半径は、ベース基板1の平面形状に関する外接円25の半径の3倍以上であってもよい。この場合、ベース基板1上に形成される炭化珪素層の体積を十分大きくできるので、結果的に炭化珪素インゴット10の体積を十分大きくできる。
この発明に従った炭化珪素基板20は、上記炭化珪素インゴット10をスライスして得られたものである。このようにすれば、相対的に窒素濃度の低い低濃度窒素領域7(または光の透過率が高い領域)が基板中央部を含む広い領域に形成された炭化珪素基板20を容易に得ることができる。
この発明に従った炭化珪素基板20は、上記炭化珪素インゴット10から、高濃度窒素領域6を除去した後、当該炭化珪素インゴット10をスライスして得られたものであってもよい。このようにすれば、高濃度窒素領域6(光の透過率が低い領域)があらかじめ除去されることにより、高濃度窒素領域6より窒素濃度の低い低濃度窒素領域7(光の透過率が高濃度窒素領域より高い領域)が大部分となった(あるいは低濃度窒素領域7のみにより構成される)炭化珪素インゴット10を用いて炭化珪素基板20が形成される。このため、窒素濃度や光の透過率の変動が低減された炭化珪素基板20を得ることができる。
上記炭化珪素基板20においては、窒素濃度の平均値に対するばらつきが10%以下であってもよい。この場合、窒素濃度のばらつきが炭化珪素基板20の特性に悪影響を与えない程度に十分小さくなっているので、特性の均一な炭化珪素基板20を確実に得ることができる。
上記炭化珪素基板20においては、転位密度の平均値に対するばらつきが80%以下であってもよい。また、低濃度窒素領域7における転位密度の平均値に対するばらつきが80%以下であってもよい。この場合、上記のような転位密度のばらつきであれば炭化珪素基板20の主表面内での特性の変化を実用上問題ない程度に抑制できる。
この発明に従った炭化珪素基板20では、<11−20>方向または<1−100>方向のいずれかの方向における一方の端部に、窒素濃度が他の部分より相対的に高くなっている高濃度窒素領域6が形成されている。また、高濃度窒素領域6は、<11−20>方向または<1−100>方向のいずれかの方向(オフ角方向)において炭化珪素基板20の<0001>方向軸が当該炭化珪素基板20の表面に対して交差する交差角度を考えたときに当該交差角度が鋭角となる側である上流側の端部に形成されていてもよい。このようにすれば、炭化珪素基板20を形成するために用いる炭化珪素インゴット10を成長させるときに、(0001)ファセット面5の配置を制御することで高濃度窒素領域6を容易に炭化珪素基板20の端部に配置させることができる。
上記炭化珪素基板20のサイズ(たとえば平面視における最大幅)は4インチ以上であってもよい。本発明は、4インチ以上のサイズの炭化珪素基板20に対して適用すれば、とくにデバイスの製造効率といった点から顕著な効果を得ることができる。
上記炭化珪素基板20において、高濃度窒素領域6の窒素濃度は他の部分における窒素濃度の1.1倍以上であってもよい。この場合、高濃度窒素領域6と当該高濃度窒素領域以外の他の部分(低濃度窒素領域7)とを、光の透過率などにより容易に判別することができる。
また、上記炭化珪素基板20において、<11−20>方向または<1−100>方向のいずれかの方向における高濃度窒素領域6の幅は、炭化珪素基板20の上記方向における幅の1/10以下であってもよい。この場合、高濃度窒素領域6のサイズを小さくしているので、高濃度窒素領域6以外の領域(低濃度窒素領域7)のサイズを十分大きく確保することができる。
また、上記炭化珪素基板20では、高濃度窒素領域6における単位厚さ当たりの、波長が450nm以上500nm以下である光の透過率は、高濃度窒素領域以外の部分(低濃度窒素領域7)における単位厚さ当りの、波長が450nm以上500nm以下である光の透過率より低くてもよい。また、高濃度窒素領域6における上記透過率は、高濃度窒素領域以外の部分(低濃度窒素領域7)における上記透過率より5%以上低くなっていてもよい。
この場合、高濃度窒素領域6と低濃度窒素領域7とを、光の透過率により容易に判別することができる。このため、当該炭化珪素基板20の表面にデバイスを形成するときに当該高濃度窒素領域6を避けるように(あるいは高濃度窒素領域6と他の領域との境界部をまたがないように)デバイスを形成する、といった作業を容易に行なうことができる。
また、上記炭化珪素基板20においては、高濃度窒素領域6のマイクロパイプ密度は、高濃度窒素領域以外の部分(低濃度窒素領域7)におけるマイクロパイプ密度より高くてもよい。さらに、上記炭化珪素基板20において、高濃度窒素領域6のマイクロパイプ密度は、高濃度窒素領域以外の部分(低濃度窒素領域7)におけるマイクロパイプ密度の1.2倍以上であってもよい。
この場合、炭化珪素基板の大部分を占める領域である、低濃度窒素領域7についてマイクロパイプ密度を低減しているので、炭化珪素基板20の表面上に炭化珪素エピタキシャル層を形成する場合に、当該炭化珪素エピタキシャル層において炭化珪素基板20側のマイクロパイプに起因する欠陥の発生を抑制できる。
上記炭化珪素基板においては、窒素濃度の平均値に対するばらつきが10%以下であってもよい。この場合、窒素濃度のばらつきが炭化珪素基板の特性に悪影響を与えない程度に十分小さくなっているので、特性の均一な炭化珪素基板を確実に得ることができる。
上記炭化珪素基板においては、転位密度の平均値に対するばらつきが80%以下であってもよい。また、低濃度窒素領域における転位密度の平均値に対するばらつきが80%以下であってもよい。この場合、上記のような転位密度のばらつきであれば炭化珪素基板の主表面内での特性の変化を実用上問題ない程度に抑制できる。
上述のように、本発明による炭化珪素インゴットの製造方法によれば、炭化珪素のインゴット10においてファセットを端部に寄せることができる。この場合、インゴット10の端部のみを研削してインゴット10をスライスすることにより、全面ファセットなしの基板20を得ることができる。ここで、ファセットとファセット以外の領域とでは、窒素ドープ量や、主となる転位が異なる。そして、基板20のサイズが4インチ未満の場合はその影響は大きくはないが、当該基板サイズが4インチ以上になると、その影響が強くなることから、本発明の効果が特に顕著である。
また、基板20に対する研磨工程を行う場合、たとえば炭化珪素基板の窒素ドープ量はCMP研磨レートに影響を及ぼす。このため、基板20の窒素ドープ量は均一であることが好ましい。また、基板サイズが4インチ以上である場合、基板20の反りやTTVも基板サイズが大きくなることに付随して大きくなる。また、窒素ドープ量の影響も顕著になる。つまり、反りやTTVも、窒素ドープ量の基板面ないばらつきが小さくなると、窒素などの不純物による内部応力分布のばらつきが小さくなり、改善する。
また、デバイスを形成する工程(たとえば熱処理工程)にも、上述した窒素ドープ量などの影響が出る。すなわち、窒素ドープ量が異なると基板における光の吸収率が変わるため、当該基板を加熱したときに、局所的な温度差が生じる。基板20のサイズが小さい場合は、熱伝導の効果で当該温度差の影響は大きくなかったが、基板サイズが4インチ以上と大口径になると、高温になるほど、熱伝導の効果が小さくなる分、基板20における温度分布が発生しやすくなる。その結果、温度条件が基板の面内でばらつくため、基板表面における均一な膜の形成ができないといった問題が発生するが、本発明に従ったインゴット10から得られる基板においては窒素ドープ量の均一性が高いため、上記のような問題の発生を抑制できる。
なお、上述した窒素ドープ量(窒素濃度)は、SIMSで測定することができる。たとえば、本発明に従った炭化珪素からなるインゴット10では、窒素ドープ量が高い部分の窒素濃度は、その他の領域における窒素濃度の1.5倍以上となっている。
また、本発明によるインゴット10から切出した基板20について、波長が400nm以上500nm以下の光の透過率は、基板20の厚みを400μmとした場合、以下のような条件を満足することが好ましい。すなわち、可視光分光器を用いて当該基板20の複数箇所(たとえば中央部を含む10箇所)について上記光の透過率を測定した場合、平均透過率が20%以上65%以下であることが好ましい。また、当該基板の主表面の大部分(面積比で70%以上の領域)について、上記平均透過率に対して局所的な透過率が上記平均透過率の±20%以内となっていることが好ましい。また、基板20の屈折率は、2.5以上2.8以下であることが好ましい。
また、上記基板の転位密度については、溶融塩KOHをエッチング液として用いたエッチングで、基板表面を処理すること転位を可視化し計測した。具体的には、上記溶融塩KOHを500℃に加熱し、当該溶融した溶融塩KOH溶液の中に、基板20を1分から10分程度浸漬する。この結果、基板20の表面には転位の存在に対応してピットが形成される。そして、ノマルスキー微分干渉顕微鏡にて、当該ピットの数をカウントし、測定範囲の面積で割ることで、単位面積当たりのピット数(つまり単位面積あたりの転位数)を計算した。
ここで、ベース基板1の転位密度がマイクロパイプ密度(MPD):10〜100/cm-2、エッチピット密度(EPD):1〜5E4cm-2の時、本発明に従ったインゴット10においてベース基板1から20mmの距離にある位置でスライスして得られた基板20について転位数を測定すると、ベース基板1に対し、1/2〜1/20程度までマイクロパイプ密度およびエッチピット密度は低減する。
(実施例)
本発明の効果を確認するため、以下のような方法によりインゴットおよび基板の製造、および特性の測定を行なった。
(試料)
以下のように炭化珪素インゴットおよび当該炭化珪素インゴットをスライスして炭化珪素基板について、本発明の実施例および比較例の試料を準備した。
<本発明の実施例および比較例の試料用のベース基板>
炭化珪素インゴットを製造するため、ベース基板として以下のような条件の炭化珪素単結晶基板を準備した。具体的には、本発明に従ったインゴットを製造するため、ベース基板1として、4H型のSiC単結晶基板を6枚(実施例用3枚および比較例用3枚)用意した。当該ベース基板1の直径は、50〜180mm、厚みは100〜2000μmの範囲とすることができる。ここでは、ベース基板1の厚みを800μmとした。また、ベース基板1の主表面は、(0001)面に対する<11−20>方向におけるオフ角を4°とした。ベース基板1の表面に関しては、少なくとも結晶を成長させる面側を鏡面研磨した。ベース基板1の転位密度は、マイクロパイプ密度(MPD)が10〜100cm-2、エッチピット密度(EPD)が1〜5E4cm-2であった。なお、これらの転位密度は、以下のようにして計測した。すなわち、500℃に加熱して溶融させたKOHにベース基板1を1〜10分浸漬した後、ノマルスキー微分干渉顕微鏡でベース基板の表面を観察し、ピットの数をカウントした。そして、観察した領域の面積と当該カウント数とから単位面積当たりのピット数を計算した。
(実験方法)
インゴットの製造:
<実施例のインゴット>
上述した実施例用のベース基板の表面上に、炭化珪素エピタキシャル層を形成することで、実施例の炭化珪素インゴットを製造した。具体的には、ベース基板1と原料となる粉末状のSiCとをグラファイト製の坩堝に導入した。原料とベース基板との間の距離は、10mm〜100mmの範囲とした。成長方法は、一般に昇華法、または改良レイリー法と言われている方法で製造する。具体的には、この坩堝を加熱炉の内部に設置し、昇温した。昇温時は、雰囲気圧力を50kPaから大気圧の範囲とした。結晶成長時の温度は、坩堝下部温度を2200℃以上2500℃以下、坩堝上部温度を2000℃以上2350℃以下の範囲とした。また、坩堝上部温度より坩堝下部の温度を高くした。なお、雰囲気圧力は結晶成長時の温度に昇温した後、0.1〜20kPaの範囲で制御する。また、雰囲気ガスとしては、He、Ar、N2のうちいずれか1つ、または複数の混合ガスを用いた。なお、ここではAr+N2ガスを雰囲気ガスとして用いた。また、冷却時には、まず雰囲気圧力を50kPa〜大気圧の範囲に上げてから、加熱炉の温度を下げるようにした。
また、上述した結晶成長時には、ベース基板1の表面に成長するインゴット10の成長最表面(図7のインゴット10においてベース基板1が位置する側と反対側の表面、あるいは図7の矢印13で示される原料ガスの供給方向に対向するインゴット10の表面)が、図7に示すように常に平坦になるように、インゴット10を成長させた。具体的には、図7で説明したように、図7のインゴット10の中央部14の温度をTa、端部15の温度をTb、最外周部16の温度をTcとすると、その関係はTc>Tb≧Taという関係式を満足し、かつ温度Tbと温度Taとについては、温度勾配((温度Taと温度Tbとの差の絶対値)/(中央部14と端部15との間の距離))が10℃/cm以下という関係を満足するように、結晶成長を行なった。具体的には、坩堝の上面側に位置するフェルトの放熱穴の直径をインゴット10の径より大きくした。この方法でベース基板上に炭化珪素が成長したインゴットを取出した。
<比較例のインゴット>
また、比較例用のベース基板の表面上に、炭化珪素エピタキシャル層を形成することで、比較例の炭化珪素インゴットを製造した。ここで、基本的に、上述した実施例のインゴットの製造方法と同様の方法により比較例のインゴットを製造したが、坩堝の上面上にフェルトを直接配置し、当該フェルトの中心部に直径20mmの放熱穴を形成した。このようにすることで、当該放熱穴の近傍のみで放熱効果が大きくなるため、形成されるインゴットの中央部14と端部15との温度勾配が10℃/cm以上となった。このようにして炭化珪素が成長した比較例のインゴットを取出した。
インゴットにおける最表面の平坦性の測定:
上述した実施例および比較例のインゴットについて、表面の平坦性を測定した。インゴットの平坦性は、インゴットの径に対し、外周側においてインゴットの直径に対して10%の範囲を除外した(中央部の)領域で、インゴットの高さ(ベース基板の表面からインゴットの表面までの距離)を測定して求めた。なお、インゴット全面での高さ分布を取ることが好ましいが、インゴット中心から十字方向に、1〜5mmピッチでインゴットの高さを測るだけでもよい。
このように十字方向に測定する場合は、以下のように平坦性を測定する。すなわち、インゴットの表面の中心から5mmピッチで十字方向(好ましくは、5mmピッチのマトリクス状)に配置された複数の位置(測定点)で、インゴット10の表面の上記高さを測定する。そして、隣り合う測定点間で、当該高さの差を算出する。さらに、当該高さの差と測定点間の距離とから決定できる正接(tan)から、隣り合う測定点間でのインゴットの表面の傾斜に対応する角度(傾斜角度)を求める。
基板の製造:
上述した実施例および比較例のインゴットを、上記のように表面形状の測定を行なった後、円柱状に成形加工した。そして、ワイヤソーを用いてベース基板の表面に沿った方向において当該インゴットをスライスすることで、炭化珪素基板を製造した。基板の厚みは400μm〜500μmとした。さらに、スライス後は、当該炭化珪素基板に対して両面鏡面研磨処理を施した。その結果、炭化珪素基板の厚みは350μm〜420μmの範囲となった。
窒素濃度の測定:
作成した基板について、インゴットの(0001)ファセット面下に位置する領域であって窒素濃度の相対的に高い領域(高濃度窒素領域)と、その他の領域とについて、窒素濃度を測定した。測定方法としては、SIMS(二次イオン質量分析法)を用いた。なお、測定ばらつきを抑制するため、測定厚みは10μmとした。
透過率の測定:
作成した基板について、上記高濃度窒素領域と、その他の領域とについて、光の透過率を測定した。測定方法としては、可視光分光器を用いて、波長が400nmから500nmという範囲の光の透過率を測定した。
転位密度の測定:
作成した基板について、表面における転位密度の測定を行なった。具体的には以下のような方法を用いた。まず、500℃に加熱した溶融塩KOH溶液に炭化珪素基板を1〜10分浸漬した。その後、ノマルスキー微分干渉顕微鏡で炭化珪素基板の表面を観察し、形成されたピットの個数をカウントした。個数のカウントは、全面マッピング写真を取ったのち、ピットの全数をカウントし、単位面積当たりの平均密度を計算するのが好ましい。しかし、たとえば直径が2インチの炭化珪素基板の場合は、基板の中央部とそこから十字方向に18mm程度離れた位置の計5点について、単位面積当たりのピット数をカウントし、その平均を取る、といったように、5点以上の測定箇所におけるピットの平均密度をピットの密度としてもよい。また、評価した炭化珪素基板は、作製したインゴットのベース基板最表面から20mm離れた位置の基板を選択し、ベース基板のデータと比較した。
(結果)
インゴットについて:
実施例のインゴットでは、ベース基板のオフ角方向における端部(上流側の端部)における最表面に(0001)ファセット面が配置されていた。平面視における当該(0001)ファセット面のオフ角方向における幅は、インゴット径163mmの時:12.5mm、インゴット径115mmの時:11mm、インゴット径63mmの時:5.5mm、となっていた。また、インゴット高さも平均値でインゴット径163mmの時:13mm、インゴット径115mmの時:8mm、インゴット径63mmの時:4mmであった。そして、表面の平坦性を示す傾斜角度はいずれも平均で10°以下であり、十分な平坦性があった。
一方、比較例のインゴットでは、インゴットの最表面の中央部に(0001)ファセット面が発生していた。当該(0001)ファセット面のオフ角方向における幅はインゴット径の12%から45%の範囲となっていた。また、表面の平坦性を示す傾斜角度は平均で10°を超えていた。
基板について:
実施例のインゴットから切り出した基板について、(0001)ファセット面の下に位置する領域(基板の端部に位置する領域)には相対的に窒素濃度の高い高濃度窒素領域が形成されていた。高濃度窒素領域の配置は、ファセットの位置とほぼ一致していた。また、インゴットの高さ方向において分布はあるが、高濃度窒素領域の幅は概してインゴット径に対して3〜9.5%の範囲であった。
一方、比較例のインゴットから切り出した基板についても、(0001)ファセット面の下に位置する領域(基板の中央部に位置する領域)には高濃度窒素領域が形成されていた。比較例の高濃度窒素領域もファセットの位置とほぼ一致はしていた。また、インゴットの高さ方向において、高濃度窒素領域のサイズの分布は存在しており、高濃度窒素領域の幅はインゴット径に対し5〜45%の範囲であった。比較例でも高濃度領域の幅(サイズ)がインゴット径に対し10%以下となった部分があったが、これは、ベース基板の表面位置から5mm以下の領域であった。これは、当該範囲では、まだ炭化珪素の成長総量が小さいために成長した炭化珪素の表面における平坦性が比較的保たれているからであり、結晶成長中において常に平坦性が保たれている実施例とは異なる結果である。
窒素濃度について:
実施例の基板について、高濃度窒素領域における窒素濃度は1.2E19cm-3であり、他の領域の窒素濃度は8E18〜1E19cm−3であった。また高濃度窒素領域以外の領域の任意の5点の窒素濃度は、当該5点での平均濃度に対し、20%の範囲に入っていた。
比較例の基板について、高濃度窒素領域における窒素濃度は1.2E19cm−3であり、他の領域の窒素濃度は8E18〜1E19cm−3であった。
透過率について:
実施例及び比較例の基板について、波長が400〜500nmである光の透過率は、高濃度窒素領域では、10〜20%であった。また、当該基板におけるその他の領域では、上記透過率は25〜35%であった。また、本実験とは違う低窒素ドープのインゴットから切り出した炭化珪素基板に関しては、高濃度窒素領域での上記透過率は35〜45%、その他の領域では上記透過率が45〜65%であった。また、上記透過率の波長特性から計算して得られる、炭化珪素基板の屈折率はいずれも2.5〜2.8であった。
転位密度について:
インゴットにおいてベース基板から20mmの距離にある位置でスライスして得られた基板について測定を行なった。ここで、ベース基板の転位密度について、マイクロパイプ密度(MPD):10〜100/cm−2、エッチピット密度(EPD):1〜5E4cm−2である時、実施例の基板において、高濃度窒素領域以外では、ベース基板に対し、1/2〜1/20までMPD、EPDともに減少させることができた。
一方、比較例の基板の場合はベース基板に対し、上記MPD,EPDが1/2〜2.5と、減少したものもあるが、逆に増加した場合もあった。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。