〔反射防止積層体〕
本発明の反射防止積層体は、基材の表面に前面反射防止層が積層され、基材の裏面に後面反射防止層が積層されたものである。
[前面反射防止層]
前面反射防止層は、基材の表面に対して、高屈折率膜(1H)及び低屈折率膜(1L)がこの順で積層されたものである。高屈折率膜(1H)と基材との間に、接着層を設けることが好ましい。また、高屈折率膜(1H)と接着層又は基材との屈折率差が大きいと、これらの界面で光が反射して干渉模様が顕著に見えることから、高屈折率膜(1H)と接着層又は基材との間に中屈折率膜(1M)を配置することがより好ましい。その場合、中屈折率膜の屈折率N1Mは、N1Lより大きくN1Hより小さいことが好ましい。
高屈折率膜(1H)の膜厚(T1H)は、式(1)を満たすものである。この範囲内の膜厚とすることで、耐擦傷性が良好となり、画像表示装置の最表層に好適である。耐擦傷性評価の具体的手法としては、#0000のスチールウールを装着した直径25.4mmの円形パッドを反射防止積層体の表面上に置き、2.0kgの荷重下で、20mmの距離を20回往復擦傷し、この擦傷によるヘイズ値の増分を測定する方法が挙げられる。本発明の反射防止積層体は、耐擦傷性評価における、ヘイズ値の増分が0.3%以下であることが好ましい。
低屈折率膜(1L)の膜厚(T1L)は、式(2)を満たすものである。高屈折率膜(1H)の屈折率(N1H)は、式(5)を満たすものである。高屈折率膜(1H)の屈折率(N1H)としては、中屈折率膜を積層する場合、中屈折率膜の屈折率(N1M)及び接着層の屈折率(n1A)より高く、且つ式(5)及び式(9)を満たすことが干渉模様を抑制する観点から好ましい。低屈折率膜(1)の屈折率(N1L)は、式(6)を満たすものである。
中屈折率膜の膜厚(T1M)としては、反射防止積層体の表面の干渉模様を抑制する点で、式(10)を満たすことが好ましい。この膜厚(T1M)は、30nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましい。また、90nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましい。
中屈折率膜の屈折率(N1M)は、式(9)を満たすことが、反射防止積層体の表面の干渉模様を抑制する点で好ましい。また、中屈折率膜の屈折率(N1M)は、好ましくは1.5以上1.65以下である。
前面反射防止層が上記条件を満たすことで、後面反射防止層と組み合わせた際に、反射防止積層体として、反射色が薄く、映りこみが十分抑制される。
[後面反射防止層]
後面反射防止層は、基材の表面に対して、高屈折率膜(2H)及び低屈折率膜(2L)がこの順で積層されたものである。高屈折率膜(2H)と基材との間に、接着層を設けることが好ましい。高屈折率膜(2)の膜厚(T2H)は、式(3)を満たすものである。低屈折率膜(2)の膜厚(T2L)は、式(4)を満たすものである。高屈折率膜(2)の屈折率(N2H)は、式(7)を満たすものである。低屈折率膜(2)の屈折率(N2L)は、式(8)を満たすものである。
後面反射防止層が上記条件を満たすことで、前面反射防止層と組み合わせた際に、反射防止積層体として、反射色が薄く、映りこみが十分抑制される。
前述の前面反射防止層と後面反射防止層とを表裏に積層することで反射防止積層体は、波長380〜780nmの範囲でJIS R3106に示される測定法に準拠して測定される反射率曲線において、波長500nm〜640nmの範囲に最小反射率が存在し、且つこの最小反射率の値が1%〜3%となり、映りこみが十分抑制されかつ、反射色が薄い反射防止積層体を得ることが可能である。
反射色は背面に白板を設置してJIS Z 8722に準拠して測定した際、反射色を抑制する観点で、「a*」の値が−1.8〜―3.0が好ましく、「b*」の値が3.9〜5.5であることが好ましい。なお、白板は、JIS Z 8722に記載の常用標準白色面を有するものである。また、暗室で測定を行うことが好ましい。
反射防止積層体の厚みとしては、機械的強度の点で、0.2mm以上が好ましく、生産性の点で、10mm以下が好ましい。
本発明においては、反射防止積層体としては、低屈折率膜(1L)の表面の水接触角を90度以上とし、トリオレイン接触角を55度以上とする低屈折率膜(1L)で積層されたものが好ましい。上記の低屈折率膜(1L)とすることにより、指紋、皮脂、ファンデーション等の汚れが目立たない反射防止積層体を得ることができる傾向にある。
また、汚れ付着時の、反射色の際立った変色及び画像表示部材の視認性低下が抑制された反射防止積層体を得る観点から、反射防止積層体の表面の水接触角を95度以上とし、トリオレイン接触角を60度以上とすることが好ましい。
また、低屈折率膜(2L)の表面の水接触角は80度以下、より好ましくは70度以下、トリオレインの接触角は、40度以下、より好ましくは25度以下が、好ましい。後面反射防止層は画像表示装置の画像表示装置側に設置され、印刷などが施される。従って、前述の接触角とすることで、印刷時のインクのハジキなどがなく印刷性が良好である。
以下、本発明の反射防止積層体を構成する反射防止層及びそれらの製造方法等を詳細に説明する。尚、本発明において、「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」の少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の少なくとも一方を意味する。また、各組成物中の固形分とは組成物中の希釈溶媒を除く成分をいう。
〔低屈折率膜(1L)〕
本発明において、低屈折率膜(1L)は反射防止積層体の表面に形成されている層であり、反射防止機能を発現させるためのものである。低屈折率膜(1L)の厚みは90nm以上110nm以下であり、屈折率は1.35以上1.45以下である。低屈折率膜(1L)としては、例えば、パーフルオロポリエーテル基と窒素原子を含有するモノマー(A)単位を有する有機重合体と無機微粒子(B)を含有する材料から形成される膜が挙げられる。
低屈折率膜(1L)を製造するための組成物としては、例えば、熱硬化性組成物及び活性エネルギー線硬化性組成物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。低屈折率膜(1L)の屈折率が前記条件を満たすために、これらの組成物はフッ素原子含有硬化性モノマーを含有することが好ましい。
[モノマー(A)]
モノマー(A)としては、例えば、ジイソシアネートを3量体化させたトリイソシアネート(c)(以下、「トリイソシアネート(c)」という。)と活性水素含有化合物(d)とを反応させることにより得られるパーフルオロポリエーテル基と窒素原子を含有するモノマー(A−1)(以下、「モノマー(A−1)」という。)が挙げられる。
トリイソシアネート(c)を得るために使用されるジイソシアネートとしては、例えば以下のものが挙げられる。イソシアネート基が脂肪族骨格に結合したジイソシアネート(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等)、及び、イソシアネート基が芳香族骨格に結合したジイソシアネート(例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等)等。
活性水素含有化合物(d)としては、例えば、水酸基等の活性水素を含む化合物が挙げられる。活性水素含有化合物(d)の具体例としては、1つの活性水素を有するパーフルオロポリエーテル(d−1)及び活性水素と炭素−炭素二重結合を有するモノマー(d−2)が挙げられる。パーフルオロポリエーテル(d−1)としては、例えば、パーフルオロポリエーテル基及び1つの分子末端に1つの水酸基を有する化合物が挙げられる。パーフルオロポリエーテル(d−1)の具体例としては、以下の化学式(1)に示される化合物が挙げられる。
但し、化学式(1)中、Xはフッ素原子、Y及びZはそれぞれフッ素原子又はトリフルオロメチル基を示す。aは1〜16の整数、cは0〜5の整数、b、d、e、f及びgは0〜200の整数、並びにhは0〜16の整数である。
化学式(1)において、a〜hの数値が小さいほど分子量が小さくなり、希釈溶媒等への溶解性が良好となる傾向がある。一方、前記数値が大きいほど反射防止積層体の防汚性が良好となる傾向がある。モノマー(d−2)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
モノマー(A−1)の合成は、例えば、トリイソシアネート(c)の一つのイソシアネート基にパーフルオロポリエーテル(d−1)を反応させ、残りの二つのイソシアネート基にモノマー(d−2)を反応させることにより行うことができる。反応方法としては、トリイソシアネート(c)に対して、パーフルオロポリエーテル(d−1)及びモノマー(d−2)を同時に反応させてもよいし、順次反応させてもよい。
モノマー(A−1)の具体例としては、以下の化学式(2)に示される化合物が挙げられる。この化合物は撥水性及び撥油性が良好である観点から好ましい。
但し、化学式(2)中、Xはパーフルオロポリエーテル基を表す。
モノマー(A)の他の例としては、イソシアネート基と1個又は2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物(e)と、分子末端に少なくとも一つの活性水素を有するパーフルオロポリエーテル(f)とを反応させて得られるモノマー(A−2)が挙げられる。パーフルオロポリエーテル(f)としては、例えば、以下の市販品を用いることができる。ソルベイソレクシス社製のFLUOROLINK D10H、FLUOROLINK D、FLUOROLINK D4000(いずれも商品名)等のパーフルオロポリエーテルジオール。化合物(e)としては、例えば、以下の市販品を用いることができる。昭和電工(株)製のカレンズBEI(1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート)、カレンズAOI(2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート)及びカレンズMOI(2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート)(いずれも商品名)。
化合物(A−2)としては、例えば、化合物(e)のイソシアネート基とパーフルオロポリエーテル(f)の水酸基とが結合して得られる、一分子内に一つのパーフルオロポリエーテル基と一つ又は二つの(好ましくは二つの)ビニル基(又は(メタ)アクリロイルオキシ基)を独立に有する化合物が挙げられる。ここで「独立に」とは、パーフルオロポリエーテル基と(メタ)アクリロイルオキシ基が直接結合していないことを意味する。
低屈折率膜(1L)用の組成物中に含まれるモノマー(A)の含有量としては、希釈溶媒を除く全成分100質量部中に10質量部以上が好ましく、12質量部以上がより好ましい。また、モノマー(A)の含有量としては、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。上記の範囲内であれば、反射防止積層体の表面の撥水性、撥油性及び硬度が良好となる傾向にある。即ち、反射防止積層体の表面に存在する低屈折率膜(1L)の水接触角が90度以上でトリオレイン接触角が55度以上となる傾向にある。
[無機微粒子(B)]
本発明の低屈折率膜(1L)は、反射防止積層体の表面の撥水性、撥油性及び硬度が良好となる点並びに良好な反射防止性能を得る点で、無機微粒子(B)を含有することが好ましい。低屈折率膜(1)100質量部中の無機微粒子(B)の含有量としては、25〜90質量部が好ましい。尚、無機微粒子(B)の「微粒子」とは、平均粒子径が1〜200nmの粒子を示す。平均粒子径は粒度分布測定装置SALD−7100(島津製作所(株)製)を用いて測定することができる。
無機微粒子(B)の具体例としては、コロイダルシリカ、多孔質シリカ、中空シリカ、フッ化マグネシウム、氷晶石等の低屈折率微粒子が挙げられる。これらの無機微粒子の屈折率は1.5以下であることが好ましい。また、後述するように、無機微粒子(B)の表面の加水分解処理が容易に行える点でシリカ微粒子が好ましく、屈折率が低く、反射率を低下させやすい点、さらには、反射防止積層体の表面の撥水性、撥油性が良好となる観点から、中空シリカがより好ましい。中空シリカの屈折率は1.20〜1.40であり、通常のシリカの屈折率1.45〜1.47に比較して低い。従って、本発明において低屈折率膜(1L)の屈折率を低下させるためには、中空シリカを使用することが好ましい。尚、屈折率はプリズムカプラー(メトリコン(株)製、モデル2010)を用いて594nmレーザーにより測定することができる。
無機微粒子(B)としては、反射防止積層体の表面の撥水性及び撥油性が良好となる点、並びに低屈折率膜(1L)の強度を向上できる点で、粒子表面を加水分解性シラン化合物等の表面処理剤で個別に処理したものが好ましい。「個別に処理」とは、無機微粒子(B)と、加水分解性シラン化合物などの表面処理剤のみで反応させることを意味し、酸、塩基などの加水分解、縮合反応に寄与する触媒以外の化合物を含んでいない状態で無機微粒子(B)の表面を処理することを意味する。
無機微粒子(B)の表面を加水分解性シラン化合物で処理する際のこれらの材料の使用比率としては、両材料の合計量を基準として無機微粒子が30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。また、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。この範囲内であれば、低屈折率膜(1L)の表面の撥水性、撥油性、耐擦傷性及び耐汗性が良好である。
加水分解性シラン化合物としては、例えば以下のものが挙げられる。3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及び3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン。
表面処理剤としては、加水分解性シラン化合物以外の他の化合物も併用できる。例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等の公知の界面活性剤が挙げられる。不飽和結合を有する加水分解性シラン化合物を使用した場合、反射防止積層体の表面の低屈折率膜(1L)の撥水性及び撥油性が良好となるので、不飽和結合を有する加水分解性シラン化合物が好ましい。低屈折率膜(1L)用の組成物中には、必要に応じて分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を添加してもよい。
[架橋成分]
反射防止積層体の表面の耐擦傷性を良好にする観点から、低屈折率膜(1L)用の組成物の固形分100質量部中に占める架橋成分の含有量は0〜30質量部が好ましい。架橋成分としては、例えば、1モルの多価アルコールと2モル以上の(メタ)アクリル酸もしくはその誘導体とから得られるエステル化物、及び、多価カルボン酸もしくはその無水物と多価アルコールと(メタ)アクリル酸もしくはその誘導体とから得られるエステル化物が挙げられる。
1モルの多価アルコールと2モル以上の(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステル化物の具体例としては、以下のものが挙げられる。ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等のアルキルジオールジ(メタ)アクリレート;並びに、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等の3官能以上のポリオールポリ(メタ)アクリレート。
多価カルボン酸もしくはその無水物と多価アルコールと(メタ)アクリル酸もしくはその誘導体とから得られるエステル化物において、多価カルボン酸もしくはその無水物と多価アルコールと(メタ)アクリル酸の組合せ(多価カルボン酸もしくはその無水物/多価アルコール/(メタ)アクリル酸)としては、例えば、以下のものが挙げられる。マロン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸及び無水マレイン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸。
架橋成分のその他の例としては、以下のものが挙げられる。ジイソシアネート(例えば、トリメチロールプロパントルイレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等)の3量化により得られるポリイソシアネート1モルに対して活性水素を有するアクリル系モノマー(例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、15,3−プロパントリオール−1,3−ジ(メタ)アクリレート、3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等)3モル以上を反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート又はトリ(メタ)アクリレート等のポリ[(メタ)アクリロイルオキシエチレン]イソシアヌレート;エポキシポリ(メタ)アクリレート;及びウレタンポリ(メタ)アクリレート。これらの架橋成分は単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
[光開始剤]
低屈折率膜(1L)用の組成物が活性エネルギー線硬化性組成物である場合、低屈折率膜(1L)用の組成物中には光開始剤を配合することができる。光開始剤としては、例えば以下のものが挙げられる。ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;並びに、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド等のリン化合物。
低屈折率膜(1L)用の組成物の紫外線照射による硬化性を良好にする観点から、低屈折率膜(1L)用の組成物の固形分100質量部中に占める光開始剤の配合量は0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましい。また、低屈折率膜(1L)の色調を良好とする観点から、光開始剤の配合量は10質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましい。
[熱硬化剤]
低屈折率膜(1L)用の組成物が熱硬化性組成物である場合、低屈折率膜(1L)用の組成物中には熱硬化剤を配合することができる。熱硬化剤としては、例えば以下のものが挙げられる。2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤;並びに、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等の有機過酸化物系重合開始剤。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
[各種添加剤]
本発明においては、低屈折率膜(1L)用の組成物には、必要に応じて、スリップ性向上剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、HALS等の光安定剤等の各種添加剤を配合することができる。低屈折率膜(1L)の透明性を良好とする観点から、低屈折率膜(1L)用組成物の固形分100質量部中に占める添加剤の配合量は10質量部以下が好ましい。
[希釈溶媒]
本発明においては、低屈折率膜(1L)用の組成物の固形分濃度を調整するために、この組成物中に希釈溶媒を添加することができる。希釈溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロパノール、エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、及び、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールが挙げられる。
低屈折率膜(1L)用の組成物の固形分濃度としては0.1〜20質量%が好ましい。固形分濃度をこの範囲内とすることにより、組成物の貯蔵安定性を良好とすることができ、低屈折率膜(1L)の膜厚を所望の値にコントロールし易くなる傾向にある。
[低屈折率膜(1L)の形成方法]
低屈折率膜(1L)の形成方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。まず、低屈折率膜(1L)用組成物を剥離用フィルム(1P)の表面に塗付した後に乾燥して塗膜を形成する。次いで、得られた塗膜を硬化させて低屈折率膜(1L)を得る。
低屈折率膜(1L)用組成物を剥離用フィルム(1P)の表面に塗付する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。流延法、グラビアコート法、リバースグラビアコート法、バキュームスロットダイコート法、ローラーコート法、バーコート法、噴霧コート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、フローコート法、カーテンコート法、フィルムカバー法、及び、ディッピング法。
低屈折率膜(1L)用組成物の塗膜を硬化させる方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。低屈折率膜(1L)用組成物が、熱硬化性組成物の場合には加熱硬化法が挙げられ、活性エネルギー線硬化性組成物の場合には活性エネルギー線硬化法が挙げられる。活性エネルギー線としては、例えば、電子線、放射線、及び紫外線が挙げられる。
活性エネルギー線として紫外線を照射する場合の光源としては、例えば、高圧水銀灯、メタルハライドランプ及び蛍光紫外線ランプが挙げられる。窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で紫外線照射することが、表面硬化性が向上し工程通過性が向上することから好ましい。酸素濃度としては1,000ppm以下が好ましく、500ppm以下がより好ましく、300ppm以下がさらに好ましい。また、低屈折率膜(1L)用組成物を硬化するための活性エネルギー線の照射条件としては、例えば、ピーク照度100〜1,200mW/cm2及び積算光量100〜1,200mJ/cm2が挙げられる。この範囲内であれば、反射防止性能と耐擦傷性のバランスが良好となる傾向にある。
本発明においては、剥離用フィルムの表面に低屈折率膜(1L)を形成した後に後述する高屈折率膜(1H)が形成されるが、高屈折率膜(1H)が形成される時点の低屈折率膜(1L)は低屈折率膜(1L)用組成物の完全硬化物であることが好ましいが、必要に応じてこの組成物の一部が反応して硬化した部分硬化物であってもよい。
〔高屈折率膜(1H)〕
本発明において、高屈折率膜(1H)は、低屈折率膜(1L)との積層体として、前面反射防止層を構成するものである。高屈折率膜(1H)の厚みは600nm以上であり、屈折率は1.55以上1.68以下である。高屈折率膜(1H)としては、例えば、多官能(メタ)アクリレートとアミノシランとの反応生成物である有機重合体と高屈折率金属酸化物微粒子を含有する材料から形成される膜が挙げられる。また、光開始剤の反応物なども含まれる。高屈折率金属酸化物微粒子の代わりに高屈折率有機化合物を用いることもできる。レベリング剤、着色剤などの添加剤を用いることもできる。
高屈折率膜(1H)を製造するための組成物としては、例えば、熱硬化性組成物及び活性エネルギー線硬化性組成物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。耐擦傷性に優れた反射防止積層体を得るため、高屈折率膜(1H)用の組成物として、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するモノマー、アミノシラン、高屈折率金属酸化物微粒子、光開始剤及び希釈溶媒を含有する組成物が好ましい。高屈折率膜用の架橋成分としては低屈折率膜用の架橋成分と同様のものが挙げられる。
[アミノシラン]
高屈折率膜(1H)用組成物は、耐擦傷性に優れた反射防止積層体を得るために、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシランを含有することが好ましい。
反射防止積層体に良好な耐擦傷性を付与する観点から、高屈折率膜(1H)用の組成物の固形分100質量部中に占めるアミノシランの含有量は、1質量部以上が好ましい。また、良好な反射防止機能を得るために、この含有量は、30質量部以下が好ましい。
[高屈折率金属酸化物微粒子]
高屈折率膜(1H)用組成物は、高屈折率膜(1H)の強度を向上させるため及び高屈折率膜(1H)の屈折率を高めるために、高屈折率金属酸化物微粒子を含有することができる。高屈折率金属酸化物微粒子としては、屈折率が1.55〜2.0程度のものが好ましく、例えば以下のものが挙げられる。酸化錫、アンチモンをドープした酸化錫(ATO)、酸化インジウム、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛、アルミニウムをドープした酸化亜鉛、アンチモン酸亜鉛、五酸化アンチモン等。屈折率が高く透明性が良好な観点から、酸化ジルコニウムがより好ましい。
反射防止積層体に良好な耐擦傷性や反射防止機能を付与する観点から、高屈折率膜(1H)用の組成物の固形分100質量部中に占める高屈折率金属酸化物微粒子の含有量は20質量部以上が好ましい。また、反射防止積層体に良好な反射防止機能を付与する観点から、この含有量は80質量部以下が好ましい。
また、高屈折率金属酸化物微粒子については、前記の無機微粒子(B)の表面を処理する際に使用される加水分解性シラン化合物と同様の化合物で表面処理することが好ましい。反射防止積層体の表面の耐擦傷性や反射防止性能の点で、表面処理の際の高屈折率金属酸化物微粒子と加水分解性シラン化合物の合計量中に占める高屈折率金属酸化物微粒子の使用量は20〜80質量%が好ましい。
高屈折率膜(1H)の屈折率を調整する手法としては、例えば、架橋成分と高屈折率金属酸化物微粒子の含有比率を変化させる方法が挙げられる。即ち、高屈折率金属酸化物微粒子の含有量が多くなれば、高屈折率膜(1H)の屈折率が上昇し、一方で、高屈折率金属酸化物微粒子の含有量が少なくなれば、高屈折率膜(1H)の屈折率が低下する。
[高屈折率有機化合物]
また、高屈折率金属酸化物微粒子の代わりに、「高屈折率有機化合物」を添加して高屈折率膜(1H)の屈折率を所望の値に調節しても良い。高屈折率有機化合物としては、例えば、分子中に硫黄原子、臭素原子、芳香族骨格、又はフルオレン骨格を有する化合物が挙げられる。
フルオレン骨格を有する化合物としては、例えば、大阪ガスケミカル(株)製のオグソールEA200、EA1000、EA−F5003、EA−F5503及びEA−F5510(いずれも商品名)が挙げられる。芳香族骨格を有する化合物としては、例えば、新中村化学工業(株)製のNKエステルA−LEN−10及びNKエステルABE−300(いずれも商品名)が挙げられる。
[添加剤]
本発明においては、必要に応じて高屈折率膜(1H)用組成物に帯電防止成分を添加して高屈折率膜(1H)に帯電防止機能を付与することができる。その場合、反射防止積層体の表層の表面抵抗値は1010Ω/□以下が好ましく、108Ω/□以下がより好ましい。
高屈折率膜(1H)用組成物が活性エネルギー線硬化性組成物である場合、高屈折率膜(1H)用組成物中には光開始剤を配合することができる。光開始剤の種類及び配合量については低屈折率膜(1L)用組成物中に配合する場合と同様の化合物及び配合量とすることができる。
また、高屈折率膜(1H)用組成物が熱硬化性組成物である場合、高屈折率膜(1H)用組成物中には熱硬化剤を配合することができる。熱硬化剤の種類及び配合量については低屈折率膜(1L)用組成物中に配合する場合と同様の化合物及び配合量とすることができる。
本発明においては、高屈折率膜(1H)用組成物には、必要に応じて、スリップ性向上剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、HALS等の光安定剤等の各種添加剤を配合することができる。高屈折率膜(1H)の透明性を良好にする観点から、高屈折率膜(1H)用組成物の固形分100質量部中に占める添加剤の配合量は10質量部以下が好ましい。
[希釈溶媒]
本発明においては、高屈折率膜(1H)用組成物の固形分濃度を調整するために、希釈溶媒を添加することができる。希釈溶媒は単独でも良いし、複数組み合わせても良い。高屈折率膜(1H)用組成物の貯蔵安定性を良好とする観点から、希釈溶媒の25℃における誘電率は10.0以下であることが好ましい。誘電率を10.0以下とすることで、室温で長時間放置(例えば24時間以上)した高屈折率膜(1H)用組成物を用いても、耐擦傷性に優れた反射防止積層体を得ることが可能となる傾向にある。
希釈溶媒の誘電率を10.0以下とするためには、単独の希釈溶媒で誘電率10.0以下としても良いし、複数の希釈溶媒を混合して誘電率10.0以下としても良い。単独で誘電率が10.0以下の希釈溶媒としては、例えば、トルエン(2.38)、キシレン(2.41)、酢酸ブチル(5.02)及びクロロフォルム(4.9)が挙げられる。また、誘電率が10.0以下の希釈溶媒と10.0以上の希釈溶媒を組み合わせて混合希釈溶媒としたときの希釈溶媒の誘電率が10.0以下となる例として、トルエンの含有量が45質量%以上のトルエンとi−プロパノールの混合溶媒が挙げられる。
高屈折率膜(1H)用組成物の固形分濃度としては1〜50質量%が好ましい。固形分濃度をこの範囲内とすることにより、高屈折率膜(1H)用組成物の貯蔵安定性を良好とすることができ、高屈折率膜(1H)の厚みを所望の値にコントロールし易くなる傾向にある。
[高屈折率膜(1H)の形成方法]
高屈折率膜(1H)の形成方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、高屈折率膜(1H)用の組成物を、剥離用フィルム(1P)の表面に積層された低屈折率膜(1L)の表面に塗付して高屈折率組成物の塗膜を形成する。高屈折率膜(1H)用組成物中に希釈溶媒が含有されている場合には希釈溶媒を揮発させて高屈折率膜(1H)用組成物の塗膜を形成することができる。次いで、得られた塗膜を硬化させて高屈折率膜(1H)を得る。
高屈折率膜(1H)用組成物を低屈折率膜(1L)の表面に塗付する方法としては、剥離用フィルム(1P)の表面に低屈折率膜(1L)用組成物を塗付する方法の場合と同様の方法が挙げられる。
塗膜を硬化させる方法としては、例えば、高屈折率膜(1H)用組成物が熱硬化性組成物の場合には加熱硬化法が挙げられ、高屈折率膜(1H)用組成物が活性エネルギー線硬化性組成物の場合には活性エネルギー線硬化法が挙げられる。活性エネルギー線としては、紫外線が挙げられる。紫外線源としては、例えば、高圧水銀灯、メタルハライドランプ及び蛍光紫外線ランプが挙げられる。活性エネルギー線の照射条件としては、例えば、空気存在下で、ピーク照度200〜1,000mW/cm2及び積算光量400〜1,200mJ/cm2が挙げられる。この範囲内であれば、密着性、耐擦傷性及び耐湿試験後の外観のバランスが良好となる。高屈折率膜(1H)用組成物を硬化する際の活性エネルギー線のエネルギーが低すぎると、高温多湿な環境、例えば、温度80℃、相対湿度85%の環境下で24時間以上放置するような耐湿試験を実施すると、反射防止積層体の表面に粉噴きのような白いブリード物が発生し、外観が悪化することがある。
本発明においては、高屈折率膜(1H)用組成物の塗膜を硬化させる際には、必要に応じて、低屈折率膜(1L)用組成物の部分硬化物を併せて硬化させることができる。本発明においては、低屈折率膜(1L)の表面に高屈折率膜(1H)を形成した後に、任意選択で、後述する中屈折率膜が形成されるが、中屈折率膜が形成される時点において、高屈折率膜(1H)用の塗膜は完全硬化されていることが好ましいが、部分硬化物であってもよい。
[表面処理]
本発明においては、低屈折率膜(1L)の表面に高屈折率膜(1H)用組成物の塗膜を形成する際に、低屈折率膜(1L)と高屈折率膜(1H)との界面強度を向上させ、かつ、反射防止積層体の耐擦傷性を良好とするために、低屈折率膜(1L)の表面を紫外線照射、電子線照射、加熱処理、酸化材塗布、コロナ放電処理、プラズマ処理などの親水化処理を行ってから高屈折率膜(1H)用組成物を塗布して塗膜を形成することが好ましい。親水化処理としては、反射防止積層体の耐擦傷性が良好となる観点から、コロナ放電処理や、プラズマ処理がより好ましい。
コロナ放電処理の方法としては、例えば、通常のコロナ放電処理装置を使用して処理する方法が挙げられる。コロナ放電処理の一例を以下に示す。電気絶縁されたベルトとベルト上方に近接させて配置した電極からなるコロナ放電処理装置を用い、低屈折率膜(1L)が形成された剥離用フィルムを、低屈折率膜(1L)面を上面としてベルト上に配置する。この状態でベルトを走行させて剥離用フィルムを電極下を通すことにより低屈折率膜(1L)面にコロナ放電処理を施す。
この時の低屈折率膜(1L)が形成された剥離用フィルムに対する照射エネルギーは10〜200W・分/mが好ましい。照射エネルギーを10W・分/m以上とすることにより低屈折率膜(1L)と高屈折率膜(1H)の接着性を良好とすることができる傾向にある。また、照射エネルギーを200W・分/m以下とすることにより低屈折率膜(1L)の外観を良好とすることができる傾向にある。また、低屈折率膜(1L)が形成された剥離用フィルムと電極とのクリアランスはコロナ放電を安定に発生させるために5mm以下が好ましい。
プラズマ処理は通常のプラズマ処理装置を使用して行うことができるが、大気圧プラズマ処理装置が操作上、簡便であることから好ましい。プラズマ処理法としては、例えば、リモート法及びダイレクト法が挙げられるが、均一な処理が得られる点でダイレクト法が好ましい。大気圧プラズマ処理装置の一例としては、処理用のチャンバー内に上部電極と下部電極からなる一対の対向電極を備え、少なくとも一方の電極の対向面が誘電体で被覆されたものが挙げられる。
上記の装置において、プラズマが発生する部位は、対向電極のいずれか一方のみに誘電体が被覆された場合には誘電体と電極の間であり、対向電極の両方に誘電体が被覆された場合には誘電体間である。このようなプラズマ処理装置の対向電極間に低屈折率膜(1L)が形成されたフィルムを配置し、電源部に高周波電力を印加して対向電極間にプラズマを発生させ、低屈折率膜(1L)の表面をプラズマ処理する。
対向電極の対向面間の距離(最短距離)は、処理される低屈折率膜(1L)が積層された剥離用フィルム(1P)の厚さ、被覆された誘電体の厚さ、印加される電圧の大きさ等を考慮して決定されるが、対向電極の一方のみに誘電体が被覆された場合又は対向電極の両方に誘電体が被覆された場合のいずれにおいても、50mm以下であることが好ましい。最短距離が50mm以下であると、均一な放電プラズマを発生させることができる傾向にある。
対向電極間に印加する高周波電力の周波数は、1kHz以上が好ましい。また、この周波数は、10MHz以下が好ましく、500kHz以下がより好ましい。電力面密度としては2.0〜30.0W/cm2が好ましい。周波数が1〜500kHzの範囲内であれば、低屈折率膜(1L)が積層された剥離用フィルムのプラズマ処理時の変形や劣化が抑制される傾向にある。また、電力面密度が30.0W/cm2以下であれば、低屈折率膜が積層された剥離用フィルムのプラズマ照射熱による変形を抑制することができる傾向にある。尚、電力面密度とは、一対の対向電極間に投入する電力をプラズマと接している一方の電極の表面積で割った値をいう。
〔中屈折率膜〕
本発明において、中屈折率膜(1M)は、基材と高屈折率膜(1H)との間において、任意選択で配置されるものであって、反射防止積層体の使用に際して干渉模様の発生を抑制する役割を有するものである。中屈折率膜の屈折率(N1M)は1.5〜1.65が好ましい。
中屈折率膜の原料となる組成物としては、例えば、熱硬化性組成物及び活性エネルギー線硬化性組成物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。中屈折率膜用組成物の具体例としては、少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物を含有する組成物が挙げられる。架橋成分としては低屈折率(1L)用の架橋成分と同様のものが挙げられる。中屈折率膜用の組成物中には、中屈折率膜の強度を向上させるため及び中屈折率膜の屈折率を調整するために金属酸化物微粒子を添加することができる。金属酸化物微粒子としては、高屈折率膜(1H)用組成物中に含有される金属酸化物微粒子と同様のものが挙げられる。
中屈折率膜の屈折率が前記の式(9)を満たす範囲内において、中屈折率膜用組成物の固形分100質量部中に占める金属酸化物微粒子の含有量は15質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましい。また、良好な透明性を有する反射防止積層体を得る観点から、金属酸化物微粒子の含有量は60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましい。
また、この金属酸化物微粒子は、前述の無機微粒子(B)の表面処理に使用される加水分解性シラン化合物と同様の化合物を用いて表面処理することが好ましい。反射防止積層体の表面の耐擦傷性や反射防止性能を良好にする観点から、さらには、中屈折率膜中に膜表層領域(s1)、膜中央領域及び膜表層領域(s2)を有する偏在層構造を形成する観点から、表面処理の際の加水分解性シラン化合物と中屈折率用金属酸化物微粒子の合計量中に占める金属酸化物微粒子の含有量は50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。また、良好な透明性を有する反射防止積層体を得る観点から、金属酸化物微粒子の含有量は80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。
中屈折率膜の屈折率を調整する手法としては、前述の高屈折率膜(1H)の屈折率の調整手法と同様の方法が挙げられる。即ち、必要に応じて前述の「高屈折率有機化合物」を添加して中屈折率膜の屈折率を所望の値に調節することができる。
中屈折率膜用組成物の製膜性を良好とする観点から、高屈折率有機化合物としては、例えば、分子中に硫黄原子、臭素原子、芳香族骨格又はフルオレン骨格を有する化合物が好ましい。フルオレン骨格等を有する化合物としては、例えば、大阪ガスケミカル(株)製のオグソールEA200、EA1000、EA−F5003、EA−F5503及びEA−F5510(いずれも商品名)が挙げられる。
中屈折率膜の屈折率が前式(9)を満たす範囲内において、中屈折率膜用組成物の固形分100質量部に占める高屈折率有機化合物の含有量は30質量部以上が好ましく、40質量部以上がより好ましい。また、良好な透明性を有する反射防止積層体を得る観点から、高屈折率有機化合物の含有量は80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましい。
中屈折率膜用組成物として、高屈折率有機化合物を用いて屈折率を調整する場合、ハジキ欠陥を抑制する観点から、レベリング剤を添加することが好ましい。レベリング剤としては、シリコーン系、フッ素系、アクリル系のレベリング剤が挙げられるが、後に形成される接着層をハジキなく製膜できる観点から、アクリル系のレベリング剤が好ましい。アクリル系のレベリング剤としては、例えば、BYK(株)製のBYK361N、BYK350、BYK352、BYK354、BYK355、BYK356、BYK358N、BYK380N、BYK381、BYK392及びBYK394が挙げられる。
本発明においては、必要に応じて中屈折率膜用組成物に帯電防止成分を添加して中屈折率膜に帯電防止機能を付与することができる。この場合、反射防止積層体の表層の表面抵抗値は1010Ω/□以下が好ましく、108Ω/□以下がより好ましい。
中屈折率膜用組成物が活性エネルギー線硬化性組成物である場合、中屈折率膜用組成物中には光開始剤を配合することができる。光開始剤の種類及び配合量については低屈折率膜(1L)用組成物中に添加する光開始剤と同様の化合物及び配合量とすることができる。また、中屈折率膜用組成物が熱硬化性組成物である場合、中屈折率膜用組成物中には熱硬化剤を配合することができる。熱硬化剤の種類及び配合量については低屈折率膜(1L)用組成物中に配合する熱硬化剤と同様の化合物及び配合量とすることができる。
本発明においては、中屈折率膜用組成物には、必要に応じて、スリップ性向上剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、HALS等の光安定剤等の各種添加剤を配合することができる。中屈折率膜の透明性を良好にする観点から、中屈折率組成物の固形分100質量部に占める添加剤の配合量は10質量部以下が好ましい。中屈折率膜用組成物には、耐擦傷性に優れた反射防止積層体を得る観点から、必要に応じて高屈折率膜(1H)用組成物に添加することができるアミノシランと同様の化合物を添加しても良い。
中屈折率膜用組成物の固形分濃度を調整するために、中屈折率膜用組成物中に希釈溶媒を添加することができる。希釈溶媒としては、中屈折率膜用組成物に金属酸化物微粒子を用いた場合、例えば、トルエン(揮発速度:240)、酢酸ブチル(揮発速度:100)、メチルイソブチルケトン(揮発速度:165)、1−メトキシ−2−プロパノール(揮発速度:66)及びイソプロパノール(揮発速度:150)が挙げられる。中屈折率膜中に膜表層領域(s1)、膜中央領域(m3)及び膜表層領域(s2)を有する偏在層構造を形成する観点から、希釈溶媒全体中に占める揮発速度100以下の希釈溶媒は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。また、短時間で乾燥するために、即ち、生産効率を上げる観点から、この含有量は90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。尚、揮発速度は、酢酸ブチルを100とした場合の常温での相対蒸発速度である。
中屈折率膜用組成物の固形分濃度は0.4〜2質量%が好ましい。中屈折率膜用組成物の固形分濃度をこの範囲内とすることにより、中屈折率膜用組成物の貯蔵安定性を良好とすることができ、中屈折率膜の厚みを所望の値にコントロールし易くなる傾向にある。
[金属酸化物微粒子含有膜]
中屈折率膜としては、例えば、金属酸化物微粒子が存在する2つの膜表層領域(s1)及び(s2)、並びに金属酸化物微粒子が存在しない膜中央領域(m3)が形成されている金属酸化物微粒子含有膜が挙げられる。反射防止積層体の干渉模様の発生を抑制させる観点から、金属酸化物微粒子含有膜としては、図1に示すように、膜中央領域(m3)の厚み(Tbi及びTci)並びに膜表層領域(s1)の厚み(Tai)及び膜表層領域(s2)の厚み(Tdi)が下記の式(11)〜(14)を満足し、且つ、膜厚方向に直交する方向1200nmの長さ当たりの膜中央領域の長さ(Li)の合計の長さ(L)が240nm以上、好ましくは480nm以上であるものが好ましい。
尚、金属酸化物微粒子含有膜の厚み方向断面の構造は、反射防止積層体の厚み方向断面を無作為に切り出して得られる断面について透過型電子顕微鏡を用いて観察することができる。この写真に写っている膜の厚み方向に直交する任意の方向の長さ1200nmの部分について金属酸化物微粒子が存在しない膜中央領域の合計の長さを算出することができる。また、金属酸化物微粒子含有膜の厚み方向の中心から、膜表層領域(s1)及び膜表層領域(s2)と膜中央領域(m3)との界面までの距離(Tbi及びTci)並びに膜表層領域(s1)の厚み(Tai)及び膜表層領域(s2)の厚み(Tdi)の範囲を測定することができる。
[金属酸化物微粒子]
金属酸化物微粒子としては、例えば、酸化錫、アンチモンをドープした酸化錫(ATO)、酸化インジウム、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛、アルミニウムをドープした酸化亜鉛、アンチモン酸亜鉛及び五酸化アンチモンが挙げられる。また、金属酸化物微粒子については、無機微粒子(B)の場合と同様にして、目的に応じて粒子表面を加水分解性シラン化合物等の表面処理剤で「個別に処理」したものを使用することができる。金属酸化物微粒子の表面に、加水分解性シラン化合物を反応させる際のこれらの材料の使用比率としては、反射防止積層体の表面の耐擦傷性や反射防止性能を良好にする観点から、金属酸化物微粒子と加水分解性シラン化合物の合計100質量部中に占める金属酸化物微粒子の含有量は20〜80質量部が好ましい。
[膜表層領域(s1)及び膜表層領域(s2)]
膜表層領域(s1)及び膜表層領域(s2)は、膜中央領域(m3)の両側に形成されている領域で、金属酸化物微粒子が存在する領域である。
膜表層領域(s1)としては、図1におけるTa1、Ta2で示される領域のように粒子が密に充填されている状態、及び、Taiで示される領域のように粒子が充填されていない空間を有する状態が挙げられる。同様に、膜表層領域(s2)としては、図1におけるTd1、Tdiで示される領域のように粒子が密に充填されている状態、及び、Td2で示される領域のように粒子が充填されていない空間を有する状態が挙げられる。尚、Tai(Ta1、Ta2、・・・)は、膜表層領域(s1)の厚みを示し、Tdi(Td1、Td2、・・・)は、膜表層領域(s2)の厚みを示す。
[膜中央領域(m3)]
膜中央領域は、図1に示すように、金属酸化物微粒子が存在しない領域であって、TbiとTciを併せた領域である。尚、Tbi(Tb1、Tb2、・・・)は、金属酸化物微粒子含有膜の厚み方向の中心から膜表層領域(s1)と膜中央領域(m3)との界面までの膜中央領域の厚みを示す。また、Tci(Tc1、Tc2、・・・)は、金属酸化物微粒子含有膜の厚み方向の中心から膜表層領域(s2)と膜中央領域(m3)との界面までの膜中央領域の厚みを示す。
[中屈折率膜の形成方法]
中屈折率膜(1M)の形成方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、剥離用フィルム(1P)の表面に積層された高屈折率膜(1H)の表面に、中屈折率膜用組成物を塗付して塗膜を形成する。また、中屈折率膜用組成物中に希釈溶媒が含有されている場合には希釈溶媒を揮発させて塗膜を形成することができる。希釈溶媒を乾燥させる温度としては、中屈折率膜中に膜表層領域(s1)、膜中央領域(m3)、及び膜表層領域(s2)を有する偏在層構造を形成させる観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。また、希釈溶媒を乾燥させる温度としては140℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。希釈溶媒を乾燥させる時間としては、中屈折率膜中に偏在層構造を形成し、残存希釈溶媒を除去する観点から、30秒間以上が好ましく、1分間以上がより好ましく、1分30秒間以上がさらに好ましい。また、希釈溶媒を乾燥させる時間としては、転写フィルムの生産性の観点から、5分間以下が好ましく、3分間以下がより好ましい。次いで、中屈折率膜用組成物の塗膜を硬化させて中屈折率膜を得ることによって、転写フィルム(1P)が製造される。
本発明においては、高屈折率膜(1H)の表面に中屈折率膜(1M)用組成物の塗膜を形成する際に、高屈折率膜(1H)と中屈折率膜(1M)との界面強度を向上させ、反射防止積層体の耐擦傷性を良好とするために、高屈折率膜(1H)の表面をコロナ放電処理、プラズマ処理等の放電処理を実施することができる。これらのコロナ放電処理、プラズマ処理の方法及び条件としては、前述の低屈折率膜(1L)の表面処理(親水化処理)の場合と同様の方法及び条件が挙げられる。
中屈折率膜用組成物を高屈折率膜(1H)の表面に塗付する方法としては、剥離用フィルム(1P)の表面に低屈折率膜(1L)用組成物を塗付する方法と同様の方法が挙げられる。
中屈折率膜用組成物の塗膜を硬化させる方法としては、例えば、中屈折率膜用組成物が熱硬化性組成物の場合には加熱硬化法が挙げられ、中屈折率膜用組成物が活性エネルギー線硬化性組成物の場合には活性エネルギー線硬化法が挙げられる。活性エネルギー線硬化の方法及び硬化条件としては高屈折率膜(1H)用組成物の活性エネルギー線による硬化の方法及び硬化条件と同様の方法及び条件が挙げられる。中屈折率膜用組成物の塗膜を硬化させる際に、剥離用フィルムの表面に形成された低屈折率膜(1L)用の塗膜及びまたは高屈折率膜(1H)用の塗膜が部分硬化物である場合、これらの塗膜を併せて硬化させることができる。
本発明においては、転写フィルム(1T)の高屈折率膜(1H)の表面に中屈折率膜(1M)を形成した後に、必要に応じて、後述する接着層が形成されるが、中屈折率膜の表面に接着層が形成される際、中屈折率膜は中屈折率膜用組成物を完全硬化させたものだけでなく、必要に応じて中屈折率膜用組成物の一部が反応して硬化した部分硬化物であってもよい。
〔低屈折率膜(2L)〕
本発明において、低屈折率膜(2L)は反射防止積層体の裏面の最表層に形成されている層であり、反射防止機能を発現させるためのものである。
低屈折率膜(2L)の形成方法は、低屈折率膜(1L)の場合と同様の手法が挙げられる。低屈折率膜(2L)を形成するための、低屈折率膜(2L)用組成物としては、低屈折率膜(1L)用の架橋成分と無機微粒子(B)を含有するものが挙げられる。低屈折率膜(2L)の表面の水接触角を80度以下、トリオレインの接触角を40度以下とするため、低屈折率膜(2L)用組成物は、低屈折率膜(1L)用組成物に使用されるモノマー(A)やシリコーン化合物を、含有しないことが好ましい。
〔高屈折率膜(2H)〕
本発明において、高屈折率膜(2H)を構成する材料としては、例えば、高屈折率膜(1H)を構成する材料と同様のものが挙げられる。また、高屈折率膜(2H)は高屈折率膜(1H)の場合と同様の方法で製造することができる。
〔基材〕
本発明で使用される基材としては、例えば、有機樹脂基材及び無機基材が挙げられる。有機樹脂基材の具体例としては、ポリメチルメタクリレート、メタクリル酸メチル単位を主構成成分とする共重合体、メタクリル酸アルキル単位を主構成成分とする共重合体等のメタクリル樹脂;ポリスチレン、スチレン−メチルメタクリレート共重合体等の芳香族ビニル単量体単位含有樹脂;環状ポリオレフィン等のオレフィン樹脂;ポリカーボネート等のポリカーボネート樹脂(以下、「PC樹脂」という);並びに、PC樹脂とメタクリル樹脂、スチレン−メチルメタクリレート共重合体等の芳香族ビニル単量体単位含有樹脂、水素添加されたスチレン−メチルメタクリレート共重合体等の芳香族ビニル単量体単位含有樹脂との複層材;が挙げられる。無機基材の具体例としては、ガラスが挙げられる。
基材には、必要に応じて着色剤、光拡散剤等の添加剤を含有することができる。また、基材は透明でも不透明でも良いが、基材側から紫外線照射を行える観点で透明であることが好ましい。基材の厚みは、特に限定されず、例えば0.2〜20mmである。目的に応じた厚みのフィルム状物又はシート状物を選択することができる。
〔転写フィルム〕
転写フィルム(1T)は、剥離用フィルムの少なくとも片面に低屈折率膜(1L)、高屈折率膜(1H)がこの順に積層された積層フィルムであり、高屈折率膜(1H)の上に中屈折率膜(1M)が積層されている構成であっても良い。転写フィルム(2T)は、剥離用フィルムの少なくとも片面に低屈折率膜(2L)、高屈折率膜(2H)がこの順に積層された積層フィルムであり、高屈折率膜(2H)の上に中屈折率膜(2M)が積層されている構成であっても良い。転写フィルムの剥離用フィルムと接していない面には、必要に応じて公知の保護フィルムを積層することができる。
転写フィルムの製造方法としては、例えば、剥離用フィルムの片面に低屈折率膜及び高屈折率膜、または更に中屈折率膜をこの順に積層する方法が挙げられる。中屈折率膜を含む転写フィルムの製造方法の例として、剥離用フィルムの片面に低屈折率膜を積層した後に高屈折率膜を積層し、次いで高屈折率膜の表面に、金属酸化物微粒子及び揮発速度が100以下の溶媒を20質量%以上含む溶媒を含有する組成物を塗布した後に140℃以下の温度で溶媒を乾燥させる方法が挙げられる。
本発明においては、転写フィルム(1T)中の高屈折率膜(1H)の厚み(T1H)、中屈折率膜の厚み(T1M)、及び接着層の屈折率(n1A)は、前述の式(1)、式(9)及び式(10)を満たすことが好ましい。これらの条件を満たすことにより、干渉模様が抑制され、表面が耐擦傷性に優れた反射防止積層体とすることができる。
[剥離用フィルム]
本発明で使用される剥離用フィルムは、転写フィルムを基材の表面に積層した後に剥離して除去されるものであって、従来より転写用剥離フィルムとして使用されているもの、例えば、活性エネルギー線透過性フィルムを使用することができる。
剥離用フィルムとしては、剥離用フィルム又は剥離層の表面の臨界表面張力が40mN/m以上である活性エネルギー線透過性フィルムが好ましい。この特性を備えたフィルムであれば、低屈折率膜(1L)用組成物または低屈折率膜(2L)用組成物を剥離用フィルムの上に塗付して低屈折率膜(1L)または低屈折率膜(2L)を形成する際にハジキ欠陥(塗膜の一部に下地が露出する現象)等がなく、良好な製膜性が得られる。またこの特性を備えたフィルムであれば、剥離用フィルムの表面に沸点が200℃以下の有機溶媒を塗布する際にハジキ欠陥等がなく、良好な製膜性が得られる。
尚、本発明において、臨界表面張力は以下のZismanプロットにより算出することができる。即ち、表面張力が異なる数種の標準液を調製し、これらの標準液をフィルムの表面に滴下して標準液とフィルム表面との接触角(θ)を測定する。得られた接触角(θ)からcosθ値を算出し、cosθ値と表面張力をXY座標とするグラフ上に、このcosθ値と標準液の表面張力の値とをプロットする。得られたプロット(Zismanプロット)を結ぶ直線とcosθ=1で示される直線との交点における表面張力の値を臨界表面張力とする。
剥離用フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレタレートフィルム(以下、「PETフィルム」という。)、ポリカーボネートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム等の合成樹脂フィルム、これらの複合フィルム状物又は複合シート状物及びそれらに剥離層を積層したものが挙げられる。
これらの中で、PETフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム(以下、「PENフィルム」という。)、ポリブチレンテレフタレートフィルム(以下、「PBTフィルム」という。)、ポリブチレンナフタレート(以下、「PBNフィルム」という。)、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、「PTTフィルム」という。)等で代表される芳香族ポリエステルフィルムが好ましく、PETフィルム及びPENフィルムがより好ましい。これらの剥離用フィルムの表面に直接、低屈折率膜(1L)を形成することにより、低屈折率膜(1L)用組成物としてモノマー(A)の含有量が少ないものを使用しても、剥離用フィルムの剥離後に露出する低屈折率膜(1L)の表面の水接触角やトリオレイン接触角を高くすることが可能である。その結果、低屈折率膜(1L)用組成物中に耐擦傷性を向上させる成分を多量に添加でき、前面反射防止層の耐擦傷性を良好とすることができる。
剥離用フィルムの厚みは、特に制限されないが、しわ、亀裂等のない転写フィルムを製造する観点から、4μm以上が好ましく、12μm以上がより好ましく、30μm以上が更に好ましい。また、剥離用フィルムの厚みは、コストや紫外線透過率の点で500μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、120μm以下が更に好ましい。
剥離用フィルムと低屈折率膜(1L)、低屈折率膜(2L)との間の剥離性が低い場合には、剥離用フィルムの表面に剥離層を設けても良い。特に、低屈折率膜(2L)を形成する面には、剥離層を設けることが好ましい。剥離用フィルムの表面に形成される剥離層用の材料としては、公知の剥離層形成用のポリマーやワックス等を使用できる。
剥離層の形成方法としては、例えば、メラミン系、尿素系、尿素−メラミン系、ベンゾグアナミン系等の樹脂及び界面活性剤を有機希釈溶媒又は水に溶解させた塗料を、グラビア印刷法、スクリ−ン印刷法、オフセット印刷法等の公知の印刷法で剥離用フィルムの表面に塗付し、次いで乾燥又は硬化させる方法が挙げられる。
剥離層の厚みは、通常0.1〜3μm程度である。剥離層が適度の厚みを有する場合は、剥離用フィルムを低屈折率膜から剥離し易くなる傾向にある。剥離層が薄い場合は、転写前に剥離用フィルムから低屈折率膜(1L)、低屈折率膜(2L)が脱離しにくい傾向にある。
低屈折率膜(1L)を形成する前に、剥離用フィルムの表面を親水化処理することで、転写後の反射防止積層体の外観が良好となる。親水化処理としては、前述した低屈折率膜(1L)の表面に対する親水化処理の場合と同様の手法が挙げられるが、外観をより良好とする観点で、コロナ放電処理や、紫外線照射処理が好ましい。また、これらの処理を組み合わせてもよい。
また、低屈折率膜(1L)を形成する前に、剥離用フィルム表面へ沸点が200℃以下の有機溶媒を塗布して乾燥させる工程を経ることで、転写後の反射防止積層体の外観が良好となる。親水化処理と、沸点が200℃以下の有機溶媒を塗布して乾燥させる工程とを組み合わせても良い。即ち、親水化処理工程の後に、沸点が200℃以下の有機溶媒を塗布して乾燥させる工程を経ても良いし、沸点が200℃以下の有機溶媒を塗布して乾燥させる工程を経た後、親水化処理を行っても良い。
沸点が200℃以下の有機溶媒としては、1−メトキシ−2−プロパノール、トルエン、キシレン、酢酸ブチル、クロロフォルム、メチルイソブチルケトン、イソプロパノール、エタノールなどが挙げられる。1−メトキシ−2−プロパノール、トルエン、キシレンが濡れ性が良好である観点から好ましい。
沸点が200℃以下の有機溶媒の塗布方法としては、前述した低屈折率膜(1L)用組成物の剥離用フィルムへの塗布方法と同様の方法などが挙げられる。沸点が200℃以下の有機溶媒の乾燥温度は、80℃〜130℃が好ましい。この温度範囲内であれば、十分乾燥が行われかつ乾燥に伴うフィルム皺の発生も少ない。
〔基材と転写フィルムの積層体〕
前面反射防止層と基材との積層体(1)、または、後面反射防止層と基材との積層体(2)は、基材と転写フィルム(1T)または転写フィルム(2T)とを積層することによって得ることができる。また、積層体(1)と後面反射防止層との積層体は、積層体(1)の基材と転写フィルム(2T)とを積層することによって得ることができる。同様に、積層体(2)と前面反射防止層との積層体は、積層体(2)の基材と転写フィルム(1T)とを積層することによって得ることができる。
基材に対する転写フィルムの積層の順序は特に限定されない。基材と転写フィルム(1)を先に積層しても良く、基材と転写フィルム(2)を先に積層しても良く、また、基材に対して転写フィルム(1)と転写フィルム(2)を同時に積層しても良い。
基材と転写フィルムとの積層は、例えば、接着用の塗膜を介して行うことができる。即ち、接着用の塗膜を、基材と転写フィルムの少なくとも一方の表面上に形成し、この塗膜を介して基材と転写フィルムを貼り合せ、塗膜を硬化させて接着層を形成することによって、基材と転写フィルムとの積層体を製造することができる。尚、基材と転写フィルムとを貼り合せる際の空気の巻き込みを防ぐために、過剰量の塗膜形成材料を使用して塗膜を形成することが好ましい。
[積層方法]
基材の表面及び裏面への反射防止層の積層は、例えば、走行する基材に対して反射防止層を含む転写フィルムを、転写法によって積層することによって行うことができる。具体的には、基材を走行させつつ、下記の第1の工程と第2の工程を順次、連続的に行うことができる。
第1の工程:
剥離用フィルム(1P)、低屈折率膜(1L)及び高屈折率膜(1H)がこの順に積層された転写フィルム(1T)の前記高屈折率膜(1H)と、基材とを接着用の塗膜を介して貼り合わせる工程、該塗膜を硬化させて接着層を形成する工程、及び前記転写フィルム(1T)から剥離用フィルム(1P)を剥がして前面反射防止層と基材との積層体を形成する工程である。
第2の工程:
剥離用フィルム(2P)、低屈折率膜(2L)及び高屈折率膜(2H)がこの順に積層された転写フィルム(2T)の前記高屈折率膜(2H)と、前記積層体中の基材の裏面とを接着用の塗膜を介して貼り合わせる工程、該塗膜を硬化させて接着層を形成する工程、及び前記転写フィルム(2T)から剥離用フィルム(2P)を剥がして、後面反射防止層と前記積層体との積層体を形成する工程である。
基材と転写フィルムとを積層する方法としては、例えば、ゴムロールで圧着する方法が挙げられる。圧着の際の圧力としては、例えば、5〜15MPaとすることができる。また、積層する基材の表面を40〜125℃に加温しておくことが好ましい。この温度範囲内に加温することにより、転写フィルムと基材との密着性を良好とすることができ、基材の過度の溶解による基材の硬度低下を抑制し、接着層の黄変も抑制できる傾向にある。基材を加温する際の基材の表面温度は加熱部の設定温度、加熱時間等により調整することができる。また、基材の温度の測定方法としては、例えば、非接触型表面温度計による方法が挙げられる。
[接着用の材料]
接着層を形成するための塗膜としては、例えば、熱可塑性樹脂を含有する塗膜及び活性エネルギー線硬化性組成物を含有する塗膜が挙げられる。
熱可塑性樹脂を含有する塗膜用の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂を希釈溶媒に溶解させた熱可塑性樹脂溶液を使用することができる。希釈溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロパノール、エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール及びトルエンが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば以下のものが挙げられる。アクリル系樹脂、塩素化オレフィン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系樹脂、塩化ゴム系樹脂、環化ゴム系樹脂、ポリアミド系樹脂、クマロンインデン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、ブチラール樹脂、ロジン系樹脂、及びエポキシ系樹脂。
活性エネルギー線硬化性組成物を含有する塗膜用の材料としては、例えば、低屈折率膜(1L)用の架橋成分と同様の化合物を使用することができる。活性エネルギー線硬化性組成物は単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
上記の活性エネルギー線硬化性組成物に添加される光重合開始剤としては、例えば、低屈折率膜(1L)用組成物中に配合する場合に使用される光開始剤と同様のものが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
熱可塑性樹脂又は活性エネルギー線硬化性組成物を含有する塗膜の形成は、例えば、転写フィルム(1T)の表面に存在する中屈折率膜(1M)もしくは高屈折率膜(1H)の表面、又は、転写フィルム(2T)の表面に存在する高屈折率膜(2H)の表面、あるいは基材の表面に、これらの組成物を塗付し、必要に応じて希釈溶媒を除去することにより行うことができる。この様にして得られた塗膜を介して基材と中屈折率膜(1M)もしくは高屈折率膜(1H)が積層される。あるいは、この様にして得られた塗膜を介して基材と高屈折率膜(2H)が積層される。
次いでこの塗膜を、乾燥、加熱、又は活性エネルギー線照射して硬化させることによって接着層が形成され、その結果として、基材と前面反射防止層との積層体、又は、基材と後面反射防止層との積層体が得られる。加熱硬化法としては公知の方法が挙げられる。活性エネルギー線の照射は、転写フィルムを介して行うことができる。あるいは、基材の形状に応じて、必要に応じて基材側から活性エネルギー線を照射することができる。活性エネルギー線の照射条件としては、例えば、空気存在下で、ピーク照度200〜1,000mW/cm2及び積算光量400〜1,200mJ/cm2とすることができる。
尚、この塗膜硬化の開始時点において、低屈折率膜(1L)、高屈折率膜(1H)及び中屈折率膜(1M)中に未硬化物が存在する場合、当該硬化工程においてこれらの未硬化物を併せて硬化させることができる。また、必要に応じて、前述の加熱又は活性エネルギー線照射の条件を強化することによって、低屈折率膜(1L)、高屈折率膜(1H)及び中屈折率膜(1M)、低屈折率膜(2L)、高屈折率膜(2H)の硬化を更に促進させることができる。
この様にして形成された接着層の屈折率n1Aは、反射防止積層体の干渉模様を抑制する観点から、前記の式(9)の条件を満たすことが好ましい。屈折率n1Aは、1.45以上1.56以下であることがより好ましい。また、基材と接着層との屈折率差が大きくなり、基材と接着層との界面で光の反射が発生し、これが新たな干渉模様を引き起こす。従って、接着層を基材へ十分浸透させるか、基材と接着層との屈折率差を0.03以下に抑制することが好ましい。
[剥離用フィルムの剥離]
以上のようにして製造された、転写フィルム(1T)と基材と転写フィルム(2T)の積層体から剥離用フィルムを剥がすことによって本発明の反射防止積層体を得ることができる。この剥離操作は、例えば、室温にて公知の方法により行うことができる。
〔画像表示装置〕
本発明の反射防止積層体は、その前面反射防止層が画像表示装置の最表層に配置される画像表示装置の部品として使用することができる。画像表示装置としては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、電子ペーパーディスプレイなどが挙げられる。
以下、実施例により本発明を説明する。尚、実施例及び比較例で使用した化合物の略称は表1に示す通りである。また、以下において、「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。測定及び評価方法(1)〜(13)を以下に示す。
(1)基材の温度
非接触型表面温度計((株)チノー製、ハンディ型放射温度計IR−TA(商品名))を用いて基材の表面温度を測定した。
(2)全光線透過率及びヘイズ値
日本電色工業(株)製HAZE METER NDH2000(商品名)を用いてJIS K7361−1に示される測定法に準拠して、反射防止積層体の全光線透過率を測定し、JIS K7136に示される測定法に準拠してヘイズ値を測定した。
(3)耐擦傷性
#0000のスチールウールを装着した直径25.4mmの円形パッドを反射防止積層体の低屈折率膜(1L)及び低屈折率膜(2L)のそれぞれの表面上に置き、2.0kgの荷重下で、20mmの距離を20回往復擦傷し、擦傷前と擦傷後のヘイズ値の差(△ヘイズ)を下式より求めた。また、試験後のサンプル表面の傷の本数を数えて耐擦傷性を評価した。
[△ヘイズ(%)]=[擦傷後のヘイズ値(%)]−[擦傷前のヘイズ値(%)]
(4)反射防止性
分光光度計((株)日立製作所製、商品名:U−4000)を用いて、入射角5°及び波長380〜780nmの範囲でJIS R3106に示される測定法に準拠して反射防止積層体の反射率を測定し、得られる反射率曲線の最も反射率の低い波長(ボトムの波長)及びボトムの波長における反射率(ボトムの波長反射率)を求めた。
また、反射防止積層体の低屈折率膜(1L)及び低屈折率膜(2L)のそれぞれの表面に指紋を付着させたときの反射色の変化の有無を以下の基準で評価した。
◎:反射色の変化は認められなかった。
○:反射色の変化がわずかに認められた。
×:反射色の変化が認められた。
(5)防汚性
反射防止積層体の表面の低屈折率膜の防汚性を、下記の水接触角、トリオレイン接触角及び油性インキ拭き取り性により評価した。
(5−1)水接触角
温度23℃及び相対湿度50%の環境下において、低屈折率膜(1L)及び低屈折率膜(2L)のそれぞれの表面上に脱イオン水を1滴(0.2μL)滴下し、携帯型接触角計(FIBRO System AB 社製、商品名:PG−X)を用いて、水の接触角を測定し、水接触角を求めた。
(5−2)トリオレイン接触角
脱イオン水の代わりにトリオレインを使用したこと以外は水接触角の測定の場合と同様にして、トリオレイン接触角を求めた。
(5−3)油性インキの拭き取り性
反射防止積層体の低屈折率膜(1L)及び低屈折率膜(2L)のそれぞれの表面上に、油性インキとして「マイネーム」(黒色)((株)サクラクレパス製、商品名)で線を書き、3分後に「キムタオル」(日本製紙クレシア(株)製、商品名)で拭き取り、その際の油性インキの拭き取れ具合を目視により以下の基準で評価した。
◎:5回の拭き取りで、完全に拭き取れる。
○:5回の拭き取りで、わずかに線の跡が残る。
×:5回の拭き取りで、一部又は全部の油性インキが付着したままである。
(6)密着性
JIS K5600−5−6に準拠して、25マスの碁盤目の剥離評価を4箇所で実施し、合計100マスの中で剥離せずに残ったマスの数で反射防止積層体の低屈折率膜(1L)及び低屈折率膜(2L)のそれぞれの密着性を評価した。
(7)各層の膜厚
反射防止積層体の厚み方向にミクロトームで幅100nmのサンプルを切り出し、透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製JEM−1010(商品名))で反射防止積層体の断面を観察し、各層の膜厚を測定した。
(8)耐汗性
JIS L0848の汗に対する染色堅ろう度試験のA法に準じて人工汗液を調製した。反射防止積層体を縦横各50mmの大きさにカットして評価用サンプルとした。次いで、脱脂綿を縦横各30mmの大きさにカットし、評価用サンプルの上に乗せ、注射器を使用して前記人工汗液を脱脂綿に垂らして、脱脂綿を湿らせた。そのサンプルを温度45℃及び相対湿度95%の恒温恒湿機中に96時間放置した後に取り出し、反射防止積層体の表面を水洗浄した後に、目視評価により以下の基準で耐汗性を評価した。
○:変色は認められなかった。
×:変色が認められた。
(9)屈折率
プリズムカプラー(メトリコン社製、モデル2010)を用いて594nmレーザーにおける各層の屈折率を測定した。
(10)干渉模様
反射防止積層体の表面を3波長蛍光管((株)東芝製、商品名:メロウ5、40W)の下で、5名による目視により、干渉模様の有無を下記基準で評価した。
◎:角度を変えても干渉模様は見えない。
○:角度を変えると干渉模様が薄く見える。
△:角度を変えると干渉模様が顕著に見える。
×:角度を変えなくとも干渉模様が顕著に見える。
(11)中屈折率膜中の各領域の厚み及び長さ
反射防止積層体(厚みTnm)の厚み方向にミクロトームで幅100nmのサンプルを切り出した。このサンプルの厚み方向断面を透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製JEM−1010(商品名))を使用して、金属酸化物微粒子の分布状態を写真撮影した。得られた写真に基づいて作成した、金属酸化物微粒子の分布状態の模式図を図1に示す。写真の中で、中屈折率膜の膜厚に対して、垂直方向の1200nmの長さにおける膜中央領域(m3)の長さ(Li)の合計の長さ(L)を算出した。
この測定は、具体的には以下のように実施される。図1において、前記1200nmの長さの部分において、式(11)及び式(13)を満足する、膜中央領域(m3)の厚み(Tbi及びTci)並びに膜表層領域(s1)の厚み(Tai)及び膜表層領域(s2)の厚み(Tdi)を測定する。また、それらの各測定場所におけるLiの長さの合計(図1中のD1、D2、D3及びD4の部分を除外した長さ)を測定して、この長さを膜中央領域(m3)の長さ(Li)の合計の長さ(L)とするものである。
(12)外観
暗室にて、エッジライトで反射防止積層体のエッジから光を照射し外観を観察した。
◎:エッジライトを照射した際、白黒の濃淡が見えない。
○:エッジライトを照射した際、白黒の濃淡が極僅か見える。
△:エッジライトを照射した際、白黒の濃淡が薄く見える。
▲:△と×の中間レベルに見える。
×:エッジライトを照射した際、白黒の濃淡が著しく見える。
(13)反射色
白板を背面に設置して日本電色工業製 NF−333分光色差計を用いてJIS Z 8722に準拠して反射防止積層体の反射色を測定した。白板は、JIS Z 8722に記載の常用標準白色面を有するものを用いた。
[製造例1]シリカゾル(1)の製造
以下のように、中空シリカを個別処理した。撹拌機及び冷却管を備えた4ツ口フラスコ(反応容器)にスルーリアSを63g仕込み、次いでKBM503を12g添加した。その後、攪拌しながら水4.4g及び0.01mol/l塩酸水溶液0.1gを順次添加し、80℃で2時間加熱を行った。次いで、反応系を減圧状態にして固形分濃度が40%となるまで揮発分を留出させた後、トルエン38gを添加して80℃で2時間加熱した。その後、反応系を減圧状態にして固形分濃度が60%となるまで揮発分を留出させ、更に80℃で2時間加熱し、加水分解処理及び縮合反応処理された、シリカゾル(1)を製造した。
シリカゾル(1)は白濁した液体であり、固形分濃度は60%であった。尚、固形分濃度は、シリカゾル(1)を3日間80℃の環境にて加熱乾燥し、乾燥前後の質量差から計算により求めた。また、シリカゾル(1)中の無機微粒子の割合(%)は、使用した加水分解性シラン化合物と無機微粒子との合計100部に対する無機微粒子の質量割合から求めた。
[調合例1〜4]低屈折率膜用組成物の調合
25℃の環境で、表2に示す低屈折率膜用組成物(1)〜(4)を調合した。
[調合例5〜8]高屈折率膜用組成物の調合
25℃の環境で、表3に示す高屈折率膜用組成物(1)〜(4)を調合した。
[調合例9〜11]中屈折率膜用組成物の調合
25℃の環境で、表4に示す中屈折率組成物(1)〜(3)を調合した。
[実施例1]
1.転写フィルム(1T−1)の作成
コロナ放電処理装置として、電気絶縁された搬送ベルトとその上方に近接配置された電極(厚さ1mm、長さ260mm、SUS製)を備えたナビタス(株)製コロナ放電処理装置POLYDYNE(商品名)を用いた。厚さ100μmのPETフィルム(東洋紡績(株)、商品名:A4100)を搬送ベルト上に載せ、PETフィルムと電極間のギャップが3mmとなるように、速度2.0m/分で搬送ベルトを走行させながら、印加電圧を11.6kVとしてPETフィルムに対してコロナ放電処理を行った。PETフィルムに対する照射エネルギーは100W・分/mであった。
次いで、このPETフィルムのコロナ放電処理面上に、25℃の環境で調合し、25℃の環境で30分放置した後の低屈折率膜用組成物(1)を、10号バーコーターを用いて塗付し、100℃で1.5分間及び150℃で1分間乾燥させて塗膜を形成した。
次いで、この塗膜が積層されたPETフィルムを、窒素気流下にて、9.6kWの高圧水銀ランプ(出力設定100%)の下方20cmの位置の走行ラインを、4.5m/分の速度で通過させて塗膜を硬化させ、低屈折率膜(1L)とPETフィルム(剥離用フィルム)との積層フィルムを得た。このときの積算光量は400mJ/cm2で、ピーク照度は260mW/cm2であった。
次いで、上記PETフィルムの表面に施したコロナ放電修理と同様にして、低屈折率膜(1L)の表面に対してコロナ放電処理を行った。コロナ放電処理を行った低屈折率膜(1L)の表面に、25℃の環境で調合し、25℃の環境で30分放置した後の高屈折率膜用組成物(1)を、10号バーコーターを用いて塗付し、100℃で1.5分間及び150℃で1分間乾燥させて塗膜を形成した。次いで空気気流下で9.6kWの高圧水銀ランプ(出力設定100%)の下方20cmの位置の走行ラインを、4.5m/分の速度で通過させて塗膜を硬化させた。このようにして高屈折率膜(1H)と低屈折率膜(1L)とPETフィルム(剥離用フィルム)との積層フィルムを得た。なお、高圧水銀ランプは2灯点灯させた。このときの積算光量は800mJ/cm2で、ピーク照度は260mW/cm2であった。
次いで、高屈折率膜(1H)の表面に、25℃の環境で調合し、25℃の環境で30分放置した後の中屈折率膜用組成物(1)を、10号バーコーターを用いて塗付し、80℃で1.5分間及び120℃で1分間乾燥させて塗膜を形成した。次いで空気気流下で9.6kWの高圧水銀ランプ(出力設定100%)の下方20cmの位置の走行ラインを、4.5m/分の速度で通過させて塗膜を硬化させた。このようにして中屈折率膜(1M)、高屈折率膜(1H)、低屈折率膜(1L)及びPETフィルム(剥離用フィルム)が積層された積層フィルムを得た。このときの積算光量は400mJ/cm2で、ピーク照度は260mW/cm2であった。上記手法により、転写フィルム(1T−1)を得た。
2.転写フィルム(2T−1)の作成
厚さ100μmの剥離層付PETフィルム((株)尾池工業、商品名:100PET/RC)の剥離層の表面に、25℃の環境で調合し、25℃の環境で30分放置した後の低屈折率膜用組成物(2)を、10号バーコーターを用いて塗付し、100℃で1.5分間及び150℃で1分間乾燥させて塗膜を形成した。
次いで、この塗膜が積層されたPETフィルムを、窒素気流下にて、9.6kWの高圧水銀ランプ(出力設定100%)の下方20cmの位置の走行ラインを、4.5m/分の速度で通過させて塗膜を硬化させて低屈折率膜(2L)と剥離層付PETフィルム(剥離用フィルム)との積層フィルムを得た。このときの積算光量は400mJ/cm2で、ピーク照度は260mW/cm2であった。
次いで、低屈折率膜(2L)の表面に、25℃の環境で調合し、25℃の環境で30分放置した後の高屈折率膜用組成物(2)を、10号バーコーターを用いて塗付し、100℃で1.5分間及び150℃で1分間乾燥させて塗膜を形成し、空気気流下で9.6kWの高圧水銀ランプ(出力設定100%)の下方20cmの位置の走行ラインを、4.5m/分の速度で通過させて塗膜を硬化させた。このようにして高屈折率膜(2H)、低屈折率膜(2L)及び剥離層付PETフィルム(剥離用フィルム)が積層された積層フィルムを得た。なお、高圧水銀ランプは2灯点灯させた。このときの積算光量は800mJ/cm2で、ピーク照度は260mW/cm2であった。上記手法により、転写フィルム(2T−1)を得た。
3.反射防止積層体の作成
接着層形成材料としてU6HAを10部、C6DAを30部、M305を30部、M400を30部及びDAROCUR TPOを混合して得られる活性エネルギー線硬化性組成物を用いた。この接着層形成材料を、10号バーコーターを用いて、転写フィルム(1T−1)の中屈折率膜の表面に塗付して塗膜を形成した。
基材として板厚が2mmのアクリル樹脂板(三菱レイヨン(株)製、アクリライトEX001)を使用し、コンベアで搬送させながら60℃に基材を加温し、前記の塗膜付きの転写フィルムを、その塗膜を介して基材に積層した。
このようにして得られた60℃に加温した積層体を、そのPETフィルム面を上にした状態で、出力9.6kWのメタルハライドランプの下方20cmの位置の走行ラインを2.5m/分の速度で通過させて、塗膜を硬化させて接着層を形成し、転写フィルムと基材との積層体を得た。硬化条件としては、積算光量は570mJ/cm2で、ピーク照度は220mW/cm2であった。その後、この積層体の転写フィルムからPETフィルムを剥離して前面反射防止層と基材との積層体(1)を得た。なお、接着層の屈折率は1.54であった。
一方、前記接着層形成材料を、10号バーコーターを用いて転写フィルム(2T−1)の高屈折率膜の表面に塗付して塗膜を形成した。前記積層体(1)をコンベアで搬送させながら基材の表面を60℃に加温し、上記の塗膜付きの転写フィルムを、その塗膜を介して基材に積層した。加温条件、走行速度、硬化条件を、前記積層体の製造時と同様の条件として、前記積層体(1)と転写フィルム(2T−1)を積層した。その後、PETフィルムを剥離して前面反射防止層、基材及び後面反射防止層が積層された積層体(即ち反射防止積層体)を得た。基材に対する前面反射防止層の転写から、後面反射防止層の転写を終えるまでの作業は工程を停止させることなく、連続して行った。
得られた反射防止積層体中の各接着層の膜厚は共に13μmであった。評価結果を表4に示す。この反射防止積層体の低屈折率膜(1L)、低屈折率膜(2L)、高屈折率膜(1H)、高屈折率膜(2H)及び中屈折率膜(1M)の膜厚は、それぞれ100nm、54nm、1,400nm、92nm及び60nmであった。また、低屈折率膜(1L)、低屈折率膜(2L)、高屈折率膜(1H)、高屈折率膜(2H)及び中屈折率膜(1M)の屈折率は、それぞれ1.4、1.49、1.6、1.7及び1.57であった。反射防止積層体の全光線透過率は96.9%、ヘイズ値は0.21%であり、透明性に優れていた。
低屈折率膜(1L)の表面の擦傷性試験後のΔヘイズは0.05%であり、傷の本数は1本であった。また、基材と前面反射防止層との密着性は良好であった。低屈折率膜(2L)の表面の擦傷性試験後のΔヘイズは1.5%であり、傷の本数は10本であった。また、基材と後面反射防止層との密着性は良好であった。低屈折率膜(1L)の表面の耐汗性については、変色は認められなかった。低屈折率膜(2L)の表面の耐汗性については、変色が認められた。
また、反射防止積層体のボトムの波長は590nmであり、ボトムの波長反射率は2.0%であった。干渉模様の評価では角度を変えても干渉模様は確認されなかった。反射色を測定した結果、「L*」は93.8であり、「a*」は−2.53であり、「b*」は4.21であった。
更に、低屈折率膜(1L)の表面に指紋を付着しても反射色の変化は見られなかった。低屈折率膜(1L)の表面の水接触角は110度であり、トリオレイン接触角は66度であった。また、低屈折率膜(1L)の表面の油性インキ拭き取り性は、5回の拭き取りで完全に拭き取れるレベルであった。低屈折率膜(2L)の表面の水接触角は68度であり、トリオレイン接触角は22度であった。
中屈折率膜(1M)中の金属酸化物微粒子の存在状態を観察したところ、膜中央領域(m3)の割合は540nm(1200nmの45%)であった。暗室にて外観を観察した結果、極僅かエッジライトを照射した際、白黒の濃淡のムラが見える状態であった。
[実施例2〜13]
各組成物の種類、膜厚、屈折率を表4に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして反射防止積層体を製造した。評価結果を表5又は表6に示す。
[比較例1]
実施例1と同様にして製造した転写フィルム(1T−1)を製造した。また転写フィルム(2T−1)の代わりに転写フィルム(1T−1)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前面反射防止層と後面反射防止層が同じ構成の反射防止積層体を製造した。
この反射防止積層体は、前面反射防止層と後面反射防止層が共に転写フィルム(1T−1)を転写して得られた3層型の反射防止層であったため、反射防止性能が不足していた。また、後面反射防止層には防汚成分としてフッ素原子含有硬化性モノマーが含有されていたので、インクがはじかれて塗布できなかった。評価結果を表7に示す。
[比較例2]
実施例1と同様にして製造した転写フィルム(2T−1)を製造した。また転写フィルム(1T−1)の代わりに転写フィルム(2T−1)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前面反射防止層と後面反射防止層が同じ構成の反射防止積層体を製造した。
この反射防止積層体は、前面反射防止層と後面反射防止層が共に転写フィルム(2T−1)を転写して得られる2層型の反射防止層であったため、反射色が強く、表層の耐擦傷性、耐汗性が不足していた。評価結果を表7に示す。