JP6034107B2 - 幹細胞から褐色脂肪細胞への分化促進剤 - Google Patents

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Description

本発明はカテキン類を有効成分として含有する幹細胞から褐色脂肪細胞への分化促進剤、及び該分化促進剤を含有し、肥満の改善及び予防を目的とする医薬品、医薬部外品、化粧品及び飲食品などの各種組成物に関する。
脂肪組織は、生体に存在する重要な臓器の一つであり、白色脂肪組織と褐色脂肪組織の2つのタイプに大別される。白色脂肪組織は、エネルギーを中性脂質として細胞内に貯蓄する白色脂肪細胞から構成されており、生体内の余剰エネルギーを蓄える働きがある。また、この細胞は、運動や飢餓時等、生体がエネルギーを必要とする際に、蓄積した中性脂質を遊離脂肪酸へと分解し、ミトコンドリアに存在する電子伝達系を介してアデノシン3リン酸(ATP)を合成することで、エネルギーを生体へ補給する役割を担っている。
一方、褐色脂肪細胞も、白色脂肪細胞と同様に細胞内に中性脂質を貯蓄するが、脱共役タンパク質1(uncoupling protein−1:以降、「UCP1」と略す)の働きにより、電子伝達系におけるATP合成を経ずに、中性脂質を熱へと変換し、直接的にエネルギーを消費させる役割を担っている。
したがって、生体内において、白色脂肪細胞がエネルギーを貯蔵及び必要時に補給し、これに対して、褐色脂肪細胞が、熱産生によりエネルギーを消費することで、バランスを調節していることになる(非特許文献1〜3)。
近年の研究成果から、これら白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の役割のバランス異常によって生じる脂肪の蓄積が、肥満やメタボリックシンドロームの発症に密接に関与していることが明らかとなっている(非特許文献4、5)。特に、過剰に摂取したエネルギーが白色脂肪組織に貯蓄されることによって肥満が生じ、これがメタボリックシンドローム発症の主な原因と考えられており、これを解消するにはエネルギーを効率的に消費する必要がある。
したがって、このような肥満やメタボリックシンドロームなどの疾患の予防や治療には、生体内でエネルギーを過剰に貯蔵する白色脂肪細胞を減らし、エネルギーの消費を行う褐色脂肪細胞を増加させることが必要であり、これら細胞のバランスをいかに制御するかが課題である。特に、褐色脂肪細胞の働きは重要であり、この細胞を生体内で効率よく増加させる技術の開発は、今後の肥満やメタボリックシンドロームの改善において、直接的に応用できる可能性がある。
現在までに、褐色脂肪細胞に着目した肥満の防止方法として、ジェニパー油や共役リノール酸による褐色脂肪組織の重量増加や(特許文献1、2)、わさび含有成分による褐色脂肪細胞におけるUCP1の発現亢進(特許文献3)などが知られているが、未だ十分な効果はなく、褐色脂肪細胞を増加させる薬剤の開発が望まれていた。
一方、緑茶の渋み成分であるカテキン類は、抗酸化作用、抗アレルギー作用、血圧上昇抑制作用、動脈硬化抑制作用等の様々な生理作用があることが知られており、生活習慣病の改善若しくは予防効果が期待されている。また、カテキン類には蓄積体脂肪燃焼作用又は食事性脂肪燃焼作用があることが報告されているが(特許文献4)、幹細胞から褐色脂肪細胞への分化促進作用については記載がない。
特許第3951271号 特許第3207823号 特開2006−328056 特開2005−95186
審良 静男,医学のあゆみ,1998,184,513−517 斉藤 昌之,肥満の科学,第124回日本医学会シンポジウム,62−70 香川 靖雄,医学のあゆみ,1998,184,529−533 青木茂久ら、日本臨床、2006、64巻、増刊9、175−179 小川佳宏ら、実験医学、2007、25、増刊15、54−60
本発明は、褐色脂肪細胞を増加させ、肥満やメタボリックシンドロームを改善及び予防することのできる幹細胞から褐色脂肪細胞への分化促進剤を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、カテキン類が、幹細胞から褐色脂肪細胞への優れた分化促進活性を有することを見い出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) カテキン類を有効成分として含有する幹細胞から褐色脂肪細胞への分化促進剤。
(2) 脱共役タンパク質1(UCP1)の発現を亢進する、(1)に記載の分化促進剤。
(3) (1)または(2)に記載の分化促進剤を含む医薬品または医薬部外品。
(4) (1)または(2)に記載の分化促進剤を含む化粧品。
(5) (1)または(2)に記載の分化促進剤を含む飲食品。
(6) 飲食品が、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、または栄養補助食品である、(5)に記載の飲食品。
(7) (1)または(2)に記載の分化促進剤の存在下で幹細胞を培養して褐色脂肪細胞への分化誘導を促進することを特徴とする、幹細胞から褐色脂肪細胞への分化促進方法。
(8) (1)または(2)に記載の分化促進剤の存在下で幹細胞を培養して褐色脂肪細胞へ分化誘導する工程を含む、褐色脂肪細胞の製造方法。
本発明の幹細胞から褐色脂肪細胞への分化促進剤は、幹細胞から褐色脂肪細胞への分化を促進し、褐色脂肪細胞を増加させることができる。その結果、褐色脂肪細胞によるエネルギー消費が亢進され、過剰なエネルギー摂取による肥満やメタボリックシンドロームを改善及び予防することができる。また、本発明の分化促進剤の有効成分であるカテキン類は日常的に飲食される緑茶等に含有される成分であるため副作用がなく安全性が高い。よって、本剤を含む医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品は安心して服用もしくは摂取、使用できる。
以下に、本発明について詳細に述べる。
本発明の幹細胞から褐色脂肪細胞への分化促進剤(以下、「褐色脂肪細胞分化促進剤」という)は、カテキン類を有効成分とする。
本発明における「幹細胞から褐色脂肪細胞への分化促進」とは、生体レベルでまたは培養レベルで幹細胞から褐色脂肪細胞の分化を誘導及び促進し、褐色脂肪細胞を増加させ、UCP1の発現を亢進させることをいう。ここで、幹細胞とは、胚性の幹細胞(ES細胞)、もしくは、骨髄、血液、筋肉、皮膚、脂肪、脳、肝臓、膵臓、腎臓等、その他の組織に存在する未分化な状態の細胞(総称して、体性幹細胞という)、さらには遺伝子導入などにより人工的に作成された幹細胞を含む。
上記有効成分であるカテキン類は、エピ型カテキン類または非エピ型カテキン類のいずれであってもよいが、エピ型カテキン類が好ましい。エピ型カテキン類には、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレートが包含され、非エピ型カテキン類にはカテキン、カテキンガレート、ガロカテキン、ガロカテキンガレートが包含される。また、上記の非重合体カテキン類のほか、重合体カテキン類であってもよい。これらのカテキン類は、単独で含有させてもよいし、複数種を組み合わせて含有させてもよい。本発明に用いるカテキン類は、化学的に合成されたもの、茶葉等から単離精製されたもの等、特に制限はなく、商業的に入手可能である。また、上記のカテキン類を含む茶葉からの抽出物を用いることもできる。茶葉としては、ツバキ科の常緑樹であるチャ(学名:Camellia sinensis(L)O.Kuntze)から得られる茶葉から製茶された煎茶、番茶、ほうじ茶、玉露、てん茶、釜入り茶などの不発酵茶である緑茶、前記茶葉から半発酵又は発酵工程を経て製茶された半発酵茶である烏龍茶(鉄観音、黄金桂、武夷岩茶等)又は発酵茶である紅茶(ダージリン、アッサム、ジャワティー等)などが挙げられる。茶葉の抽出物を用いる場合は、エピ型カテキン類を多く含む緑茶の抽出物が好ましい。
茶葉からカテキン類の抽出は、水もしくは熱水、または水と有機溶媒の混合溶媒によって攪拌またはカラム抽出する方法により行うことができる。有機溶媒としては、アルコール類、エーテル類、エステル類などを用いることができるが、エタノール、メタノール、アセトン等の水溶性有機溶媒が好ましい。溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば茶葉(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行なったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類によるが、例えば、10〜100℃、好ましくは30〜90℃で、30分〜24時間、好ましくは1〜10時間を例示することができる。また、茶葉抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で更に、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理をして用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
上記のカテキン類は、幹細胞の褐色脂肪細胞への分化を促進する作用、UCP1の発現亢進作用、中性脂質蓄積抑制作用を有する。したがって、上記のカテキン類は、褐色脂肪細胞分化促進剤として使用できる。
本発明の褐色脂肪細胞分化促進剤は、そのまま投与することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品などの組成物に配合することができる。
本発明の褐色脂肪細胞分化促進剤を医薬品として提供する場合は、カテキン類に、医薬上許容され、かつ剤型に応じて適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
本発明の医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、軟膏剤、ローション剤、噴霧剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤などが挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。なお、本発明の医薬品には、動物に用いる薬剤、即ち獣医薬も包含されるものとする。
上記製剤中のカテキン類の含有量は特に限定されないが、製剤全重量に対して、固形分換算して、0.001〜30.0重量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.01〜10重量%である。0.001重量%以下では効果が低く、また30重量%を超えても効果に大きな増強はみられにくい。又、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
本発明の褐色脂肪細胞分化促進剤は、有効成分であるカテキン類が幹細胞から褐色脂肪細胞への分化を促進する作用、UCP1の発現亢進作用、中性脂質蓄積抑制作用を有するので、肥満(例えば内臓脂肪蓄積、皮下脂肪蓄積)やメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を改善及び予防するための、あるいは、肥満やメタボリックシンドロームに起因する疾患の治療及び/又は予防のための医薬として有効である。
「肥満やメタボリックシンドロームに起因する疾患」としては、例えば、動脈硬化症、高脂血症(高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症等)、脂肪肝、高血圧症、糖尿病、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞等)、脳血管障害(脳梗塞、脳出血等)などが挙げられる。本発明の医薬品は上記疾患の発症を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。
本発明の医薬品の有効成分は、天然物由来であるため、非常に安全性が高く副作用がないため、前述の疾患の予防及び/又は治療用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的にまたは非経口的に投与することができる。
本発明の医薬品の投与量は、疾患の種類、投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度法などに応じて適宜決定することができる。例えば、成人に経口投与する場合には、一日の投与量は、カテキン類として1〜3000mg、好ましくは100〜1000mgである。
また、本発明の褐色脂肪細胞分化促進剤は、医薬品のみならず、痩身効果を得ることを目的とする医薬部外品や化粧品にも配合できる。医薬部外品や化粧品としては、皮膚外用組成物が好ましく、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水−油二層系、または水−油−粉末三層系等のいずれの剤型でもよい。皮膚外用組成物の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、浴用剤、ボディローション、ボディシャンプー等が挙げられるが、これらに限定はされない。
上記医薬部外品や化粧品は、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。配合成分としては、例えば、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等のロウ類、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
本発明の医薬部外品または化粧品におけるカテキン類の配合量は、幹細胞から褐色脂肪細胞への分化促進作用が発揮できる量であればよいが、対象製品の一般的な使用量、製品の形態、効能・効果、及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。
また、本発明の褐色脂肪細胞分化促進剤は、飲食品にも配合できる。本発明において、飲食品とは、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、または特定保健用食品を含む意味で用いられる。さらに、本発明の飲食品をヒト以外の哺乳動物を対象として使用される場合には、ペットフード、飼料を含む意味で用いることができる。
飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。
飲食品の種類としては、具体的には、食パン、菓子パン等のパン類;そば、うどん、パスタ、中華麺、即席麺等の麺類;キャンディー、チューインガム、チョコレート、ビスケット・クッキー等の焼き菓子、ゼリー等の菓子類;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;加工乳、発酵乳、ヨーグルト、バター、チーズ等の乳製品;かまぼこ、ちくわ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;しょうゆ、ソース、酢、みりん等の調味料;清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料などの飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む)等が挙げられるが、これらに限定はされない。
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、澱粉等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
本発明の飲食品におけるカテキン類の配合量は、幹細胞から褐色脂肪細胞への分化促進作用が発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。
本発明によればまた、上記褐色脂肪細胞分化促進剤を用いて、哺乳動物の骨髄、血液、脂肪または皮膚組織をはじめとする生体組織における幹細胞、胚性の幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を、培養レベルで褐色脂肪細胞へと分化促進する方法及び褐色脂肪細胞の製造方法を提供することができる。本発明の褐色脂肪細胞の製造方法は、幹細胞から褐色脂肪細胞を分化誘導・促進することにより褐色脂肪細胞を製造する方法であって、幹細胞を、上記褐色脂肪細胞分化促進剤の存在下で分化誘導する工程を含む。当該工程は、具体的には、分化誘導時に、上記褐色脂肪細胞分化促進剤の存在下で、幹細胞を培養する工程であることが好ましい。
上記の方法に用いる幹細胞は、初代培養細胞、継代培養細胞、凍結細胞いずれであってもよい。また、哺乳動物における、分化の方向性、および、分化の過程等について同等の特性を持っていれば、全ての哺乳動物に応用が可能である。例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の哺乳動物から得られた当該細胞を用いることができる。
これら哺乳動物から得られた幹細胞を培養する場合、褐色脂肪細胞分化誘導培地に上記褐色脂肪細胞分化促進剤を添加する以外は、培養方法の条件及び操作は、当該技術分野で常套的な条件及び操作に従って行うことができる。褐色脂肪細胞分化誘導培地は、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)を含む基本培地(例えば、Dulbecco's modified Eagle's medium(D-MEM)、Minimum Essential Medium (MEM)、RPMI1640、Basal Medium Eagle (BME)、Dulbecco's modified Eagle's medium:Nutrient Mixture F-12 (D-MEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Meidum (Glasgow MEM))に、脂肪細胞分化誘導因子として、デキサメタゾン(DEX)、イソブチルメチルキサンチン(IBMX)、インドメタシン(IDM)、インスリン(Ins)、ビオチンの1種以上を添加し、さらに、上記褐色脂肪細胞分化促進剤を添加する。また、必要に応じて、抗生物質を添加してもよい。
また、上記培養液には、1〜20%の含有率で血清が含まれることが好ましい。しかし、血清はロットの違いにより成分が異なり、その効果にバラツキがあるため、ロットチェックを行った後に使用することが好ましい。
培養は、上記培地にて37℃、5%炭酸ガスの環境下で行い、1〜3日毎の培地交換を行うことが好ましい。この方法により、効率よく幹細胞から褐色脂肪細胞への分化を促進させることができる。
また、本発明の製造方法によって得られた褐色脂肪細胞を細胞治療に用いる場合には、レシピエントと同種の動物由来の幹細胞を用いることが好ましい。本発明の製造方法によって得られた褐色脂肪細胞の成体への移植方法は、例えば、生理食塩水や培養液に褐色脂肪細胞を1×10〜1×10個/mLとなるように調整し、腹腔内や皮下などへ注射やカテーテルなどにより局所注入することにより行うことできる。
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
(製造例1)カテキン類の製造
市販の緑茶10gに、精製水100mLを加え、95℃〜100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、分取用高速液体クロマトグラフィーにてエピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートを分取した。
(実施例1)カテキン類のマウス脂肪組織由来幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導効率の評価
カテキン、カテキンガレート(以上Sigma Aldrich製)、ガロカテキン、ガロカテキンガレート(以上Santa Cruz Biotechnology製)、エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート(以上LKT Laboratories製)を試料として用い、それらの脂肪組織由来幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導効率を、褐色脂肪細胞特異的マーカーであるUCP1の発現を指標として評価した。
(1) 培養液1(細胞増殖用培地)の調製
細胞増殖用培養液として、D−MEM(Gibco製)に、ウシ胎児血清(FBS、10%)、10UのESGRO(CHEMICON製)、100unit/mLのペニシリン(Sigma Aldrich製)と100μg/mLのストレプトマイシン(Boehringer Mannheim製)を添加した培養液(以降、培養液1と記す)を調製した。
(2) 培養液2(褐色脂肪細胞分化誘導培地1)の調製
褐色脂肪細胞分化誘導培地として、D−MEMに、ウシ胎児血清(FBS、10%)、100unit/mLのペニシリンと100μg/mLのストレプトマイシン、1μMのDEX(Sigma Aldrich製)、0.5mMのIBMX(Sigma Aldrich製)、0.2mMのIDM(Sigma Aldrich製)、10μg/mLのIns(Sigma Aldrich製)、33μMのビオチン(Sigma Aldrich製)を添加した培養液(以降、培養液2と記す)を調製した。
(3) 培養液3(褐色脂肪細胞分化誘導培地2)の調製
褐色脂肪細胞分化促進培地として、D−MEMに、ウシ胎児血清(FBS、10%)、100unit/mLのペニシリンと100μg/mLのストレプトマイシン、10μg/mLのIns、33μMのビオチンを添加した培養液(以降、培養液3と記す)を調製した。
(4) 脂肪組織由来幹細胞の準備
ICRマウス(雄性、4週齢)を刈毛処理した後、腹部皮下脂肪組織をそれぞれ別々に無菌的に摘出し、PBS(−)で3回洗浄した後、直径6cmの組織培養ディッシュ(Falcon製)に移した。それぞれの組織を、尖刃刀により約2mm角に細切し、0.2%コラゲナーゼ溶液(新田ゼラチン製)を加え、プラスチックディッシュを上下左右に揺らして溶液中に拡散させた。これらを、37℃で30分間インキュベートすることで細胞外マトリックスを消化した後、穏やかにピペッティングし細胞を分散させた。この細胞分散液を50mL容の遠沈管(Falcon製)にセルストレーナー(Falcon製)を通しながら移した。さらに、培養液1を適量添加し、よくピペッティングした後、5分間遠心分離した。遠心後、上清画分を除去し、新たに培養液1を加えて細胞を分散させ洗浄した。この洗浄操作を2回繰り返した。洗浄後、遠心分離法により幹細胞を分離し、褐色脂肪細胞への分化誘導に用いた。
(5)褐色脂肪細胞への分化誘導方法
上記の方法にて脂肪組織から得られた幹細胞を、培養液1を用いて培養した。具体的には、まず、培養液1に各細胞を懸濁し、組織培養用24穴プレートに播種し、5%CO、37℃のインキュベーター内でコンフルエントになるまで培養した。コンフルエントな状態を確認後、次に、培養液1を培養液2に交換し、3日間培養後、さらに新しい培養液2に交換して3日間培養した。次に、培養液2を培養液3に交換し、2日間培養後、さらに新しい培養液3に交換して2日間培養した。この時、試料として、上記のカテキン類を100μMの濃度で添加した。また、陰性対照には、何も添加せず、比較対照には、カフェインを100μMの濃度で添加した。
(6) UCP1遺伝子発現を指標とした幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導効率の評価方法
各試料による脂肪組織由来幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導効率を、褐色脂肪細胞の特異的マーカーであるUCP1の発現を指標に評価した。具体的には、前記(5)の方法にて幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導を完了した細胞を、PBS(−)にて2回洗浄し、Trizol Reagent(Invitrogen製)によって細胞からRNAを抽出した。2−STEPリアルタイムPCRキット(Applied Biosystems製)を用いて、RNAをcDNAに逆転写後、下記のプライマーセットを用いてABI7300(Applied Biosystems製)により、リアルタイムPCR(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40cycles)を実施した。その他の操作は定められた方法に従って実施した。
UCP1用のプライマーセット
5’GCAGCCTACAGAGGTCGTGAA3’(配列番号1)
5’GGGTTTGATCCCATGCAGAT3’(配列番号2)
GAPDH用のプライマーセット
5’TGCACCACCAACTGCTTAGC3’(配列番号3)
5’TCTTCTGGGTGGCAGTGATG3’(配列番号4)
分化誘導効率は、試料を添加せずに分化誘導した細胞におけるUCP1 mRNAの発現量を内部標準であるGAPDH mRNAの発現量に対する割合として算出したUCP1遺伝子相対発現量(UCP1遺伝子の発現量/GAPDH遺伝子の発現量)の値を1.0とし、これに対し、試料を添加して分化誘導した細胞におけるUCP1遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。その結果を表1に示す。
Figure 0006034107
表1の結果に示されるように、カテキン類を添加することによって、UCP1遺伝子相対発現量を亢進し、褐色脂肪細胞への分化が促進されることが確認できた。一方、カフェインを添加した場合、UCP1遺伝子相対発現量はわずかに増加するのみであった。
(実施例2)中性脂質蓄積量の評価
実施例1と同様の方法にて分化誘導した褐色脂肪細胞について、中性脂質の蓄積量を評価した。具体的には、各試料により脂肪組織由来幹細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導を完了した細胞を、PBS(−)にて2回洗浄し、0.2%Triton−X 100溶液に溶解した。細胞溶解溶液について、トリグリセライド E−テストワコー(和光純薬工業製)を用いて中性脂質量を、BCA Protein Assay Reagent kit(Thermo Scientific社製)を用いてタンパク質量を測定し、タンパク質当たりの細胞内中性脂質蓄積量(mg/mgタンパク質)を算出した。さらに、試料を添加せずに分化誘導した細胞における細胞内中性脂質蓄積量を100とし、これに対し、試料を添加して分化誘導した細胞における細胞内中性脂質蓄積量の値を算出し、評価した。その結果を表2に示した。
Figure 0006034107
表2の結果に示されるように、カテキン類を添加することによって、細胞内中性脂質蓄積量が抑制されることが確認できた。
(実施例3)製品の処方例および使用試験
(1) 製品の処方例
カテキン類を用い、以下の処方と方法により各製品を調製した。
(処方例1)ローション
処方 配合量(重量%)
1.エピカテキン(製造例1) 0.1
2.1,3−ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.クエン酸 0.01
6.クエン酸ナトリウム 0.1
7.エタノール 5.0
8.パントテン酸エチルアルコール 0.1
9.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
10.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
11.香料 0.1
12.精製水 84.37
上記成分1〜6および12と、成分7〜11をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過してローションを調製した。
(比較処方例1)従来のローション
処方例1において、エピカテキンを精製水に置き換える以外は処方例1と同じ手順にて従来のローションを調製した。
(処方例2)クリーム
処方 配合量(重量%)
1.エピガロカテキン(製造例1) 0.1
2.スクワラン 5.5
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
12.パラオキシ安息香酸エチル 0.05
13.1,3−ブチレングリコール 8.5
14.精製水 68.05
上記成分2〜9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1および成分11〜14を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分10を加え、さらに30℃まで冷却してクリームを調製した。
(比較処方例2)従来のクリーム
処方例2において、エピガロカテキンを精製水に置き換える以外は処方例2と同じ手順にて従来のクリームを調製した。
(処方例3)錠剤
処方 配合量(重量%)
1.エピカテキンガレート(製造例1) 5
2.乾燥コーンスターチ 25
3.カルボキシメチルセルロースカルシウム 20
4.微結晶セルロース 40
5.ポリビニルピロリドン 7
6.タルク 3
成分1〜5を混合し、次いで10%の水を結合剤として加えて、押出し造粒後乾燥する。成形した顆粒に成分6を加えて混合し打錠し、錠剤(1錠0.52g)を調製した。
(比較処方例3)従来の錠剤
処方例3において、エピカテキンガレートを精製水に置き換える以外は処方例3と同じ手順にて従来の錠剤を調製した。
(処方例4)飲料
処方 配合量(重量%)
1.エピガロカテキン(製造例1) 0.5
2.ステビア 0.05
3.リンゴ酸 5.0
4.香料 0.1
5.水 94.35
成分1〜4を成分5の一部の水に撹拌溶解する。次いで、成分5の残りの水を加えて混合し、飲料を調製した。
(比較処方例4)従来の飲料
処方例4において、エピガロカテキンを水に置き換える以外は処方例4と同じ手順にて従来の飲料を調製した。
(2) 製品の使用試験1
処方例1のローション、処方例2のクリーム、比較処方例1の従来のローションおよび比較処方例2の従来のクリームを用いて、女性30人(21〜46才)を対象に1ヶ月間の使用試験を行った。使用後、肌の引き締め感、肌の張り、肌の弾力感に関する痩身効果をアンケートにより判定した。これらの試験結果を表3に示した。
Figure 0006034107
表3の結果に示されるように、カテキン類を含む処方例1のローションおよび処方例2のクリームは、従来のローションおよび従来のクリームに比べて優れた痩身作用を示した。なお、試験期間中、皮膚トラブルは一人もなく、安全性においても問題なかった。また、処方成分の劣化についても問題なかった。
(2) 製品の使用試験2
処方例3の錠剤、処方例4の飲料、比較処方例3の従来の錠剤および比較処方例4の従来の飲料を用いて、軽度肥満の男性20人(35〜55才)を対象に1ヶ月間の使用試験を行った。使用前後に、体重、皮下脂肪厚および胴囲を測定し、痩身効果を判定した。これらの試験結果を表4に示した。
Figure 0006034107
表4の結果に示されるように、カテキン類を含む処方例3の錠剤および処方例4の飲料は、従来の錠剤および従来の飲料に比べて優れた痩身効果を示した。なお、試験期間中、体調を崩した被験者は一人もなく、安全性においても問題なかった。また、処方成分の劣化についても問題なかった。
本発明は、肥満やメタボリックシンドロームの改善及び予防を目的とした医薬品、医薬部外品や化粧品、機能性食品やサプリメントなどの飲食品の製造分野において利用できる。

Claims (3)

  1. エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、及びエピガロカテキンガレートから成る群より選択される1種または2種以上のエピ型カテキン類を有効成分として含有する幹細胞から褐色脂肪細胞への分化促進剤。
  2. エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、及びエピガロカテキンガレートから成る群より選択される1種または2種以上のエピ型カテキン類の存在下で幹細胞を培養して褐色脂肪細胞への分化誘導を促進することを特徴とする、幹細胞から褐色脂肪細胞への分化促進方法。
  3. エピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、及びエピガロカテキンガレートから成る群より選択される1種または2種以上のエピ型カテキン類の存在下で幹細胞を培養して褐色脂肪細胞へ分化誘導する工程を含む、褐色脂肪細胞の製造方法。
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