JP6030579B2 - 使用済み色素溶液からのRu錯体色素の回収方法 - Google Patents
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Description
本発明は、色素増感型太陽電池の製造工程で排出されるRu錯体色素を含む使用済み色素溶液から、Ru錯体色素を再使用可能な状態で回収することのできる方法に関する。
色素増感型太陽電池(Dye Sensitized Solar Cell:以下、DSCと称する。)は、既に実用化されているシリコン太陽電池(単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池等)に対して、効率の高さと製造コストの低さを兼ね備えていることから第3世代の太陽電池として期待されているものである。このDSCにおいて、電力変換効率の向上のための重要な要素の一つは色素材料の開発・選定にある。この色素材料として、近年注目されているものとして、Ru(ルテニウム)系の錯体であるポリピリジンRu錯体が知られている(例えば、特許文献1等のポリピリジンRu錯体色素が知られている。)。
DSCの製造工程は、透明導電性基板上にナノサイズのTiO2粒子を含むペーストを塗布して焼結してTiO2層を形成し、基板を色素溶液に浸漬してTiO2層の空孔に色素を吸着させた後、対向電極及び電解質層を設けて作成されている。
ところで、DSCの製造コストに対しては、その中心的構成である色素のコストの占める割合が多い。この点、DSC用の色素として好適な性能を発揮し得るRu錯体は高価なものが多い。Ru錯体色素は、複雑な構造のものが多く、配位子の合成から錯体色素を合成するまでに多数の工程を要し、最終的な精製工程までを含めるとその製造コストが上昇することとなるからである。
本発明者等は、DSCの製造コスト低減の観点から、DSC製造工程から排出される使用済み色素溶液から錯体色素の回収を行うことを試みた。従来、DSC製造工程から排出される使用済みの色素溶液は、廃棄処分されるのが一般的であり、その再利用は検討されていなかった。一方、本発明者等の検討によると、DSC製造工程における色素溶液の利用率(錯体色素の使用量)は低く、1回当たりの浸漬では溶液中の数%の錯体色素しか基板に吸着していないことが確認されている。即ち、従来のDSC製造工程では、殆どの錯体色素を含む使用済み溶液を廃液として単純に処分していることになる。そして、使用済み溶液から錯体色素を回収することができれば、錯体色素の提供コストを低減することができるといえる。
しかしながら、使用済み色素溶液から錯体色素を回収するとしても、それは必ずしも容易なことではない。錯体色素の提供コスト低減のためには、回収された錯体色素はそのままDSCの原料として利用可能であること、即ち、劣化の無い高純度の錯体色素であることが要求される。
この点、DSC製造用の色素溶液の構成としては、最も単純な形態としては錯体色素のみを溶媒に溶解させたものも適用されるが、DSCの性能向上のため複数の添加剤を加える場合も多い。そして、使用済み色素溶液からRu錯体を再利用可能な状態で回収する場合、その使用環境、添加剤の影響におけるRu錯体色素の変質の有無を考慮する必要がある。
また、使用済みの色素溶液の処理に際しては、その構成に配慮した回収プロセスの検討が必要となるが、上記のように色素溶液の構成は錯体色素と溶媒以外に各種添加剤が含まれている場合もあり多様なものである。従って、使用済み色素溶液からRu錯体色素を回収するためには、溶媒や各種添加剤についてそれぞれの物性を考慮しながら適宜の分離手段を組み合わせることが必要と予測される。しかし、対象毎に異なる分離手段を複数組み合わせると、Ru錯体色素の回収工程を複雑なものとし回収コストを増大させこととなる。
本発明は以上の背景のもとなされたものであり、Ru錯体色素を利用するDSC製造の際に廃液として排出される使用済みの色素溶液について、Ru錯体色素を再使用可能な状態で回収することのできる方法を提供する。特に、色素溶液の構成に配慮しつつも、回収工程が簡素化された方法を提供する。
上記課題を解決すべく、本発明者等は、DSC製造用のRu錯体色素溶液について使用前後の構成及びその変化の有無を詳細に検討した。ここで、色素溶液の最も簡易な構成は、錯体色素を溶媒に溶解させたものである。この溶媒とは、アルコール類(エタノール、ブタノール等)と必要に応じてアセトニトリル等の有機溶媒を混合したものである。
そして、上記の通り、色素溶液には各種の添加剤が添加されることも多い。添加剤として使用例が多いものとしては共吸着剤が挙げられる。共吸着剤は、錯体色素と共にTiO2層に吸着し色素分子の会合を抑制するために添加され使用するRu錯体色素の種類によりその必要性が判断される。共吸着剤は、DINHOP(ビス−(3,3−ジメチル−ブチル)−ホスフィン酸)の他、CDCA(ケノデオキシコール酸)、GBA(γ-グアニジノ酪酸)、DPA(デシルホスホン酸)等の有機物が使用される。また、更なる添加剤として、Ru錯体色素とは別の色素(カクテル色素)が添加されることもある。カクテル色素は、DSCの対応波長領域を拡張する必要がある場合に添加される。このカクテル色素としては、D35色素、D131色素、D149色素、D205色素等の有機物が使用される。これらの添加剤は、錯体色素と共に溶媒に溶解するため、色素溶液は単相溶液である。
ここで、上記構成の使用前の色素溶液について、その成分の変質の可能性について考察すると、DSC製造工程における基板への色素溶液の吸着工程は、温度や湿分の制御下で行われるのが通常である。よって、色素溶液中のRu錯体色素には加熱分解、加水分解等による変質は生じ難いと推定され、使用済みの色素溶液においては錯体色素等の消費はあってもその組成に大きな変化はないものと考えられる。この点は、本発明者等の実際の分析試験によって確認されている。
もっとも、DSC製造工程で使用された色素溶液において生じる変化もある。この変化とは浸漬した基板からの固形分の混入である。この固形分は、基板(導電性透明基板)を構成するガラス、ITOの微粉末や基板上のTiO2層から脱離したTiO2の微粉末である。
上記から、使用済みの色素溶液からのRu錯体色素の回収のためには、使用前と同じ組成である溶媒及び各種添加剤を除去すること、及び、固形分を除去することが必要であることが確認された。これらの処理について、固形分の除去に関しては、一般的な固液分離手段である濾過により対応可能である。
一方、溶媒及びこれに溶存する各種添加剤の分離除去についてみれば、溶媒はRu錯体色素と物性が相違するため蒸留による分離が可能であるが、共吸着剤やカクテル色素といった添加剤は、錯体色素と物性が近いものが多いため、蒸留により分離除去することは困難である。従って、蒸留を主体とする場合、これに添加剤に応じた分離手段を組み合わせることが必要となり、工程数を増加させることになる。
そこで、本発明者等は、溶媒と添加剤とを同時に除去可能な分離方法について検討した。この検討において着目したのは、色素溶液における添加剤は溶媒に溶存している点である。つまり、溶媒及び各種添加剤に対しては親和性(溶解性)が高い一方で、Ru錯体色素に対しては親和性が低い溶媒を使用すれば、この溶媒に溶解しないRu錯体色素を分離することができる。この分離溶媒について、本発明者等は鋭意検討を行い、エーテル系溶媒又はアルカン系溶媒がこの要求を具備することを見出し本発明に想到した。
即ち、本発明は、色素増感型太陽電池の製造工程より排出され、Ru錯体としてポリピリジンRu錯体を含む使用済み色素溶液から、前記Ru錯体色素を回収する方法であって、下記工程を含むものである。
(a)工程:前記使用済み色素溶液を濾過して固形分を分離除去する工程。
(b)工程:前記使用済み色素溶液に、化学式CxH(2x+1)−O−CyH(2y+1)(x=1〜4、y=1〜4 但し、x+y≧4)で示されるエーテル系溶媒、又は、化学式CxH(2x+2)(x=5〜7)で示されるアルカン系溶媒からなる分離溶媒を接触させ、前記Ru錯体色素を分離させる工程。
(b)工程:前記使用済み色素溶液に、化学式CxH(2x+1)−O−CyH(2y+1)(x=1〜4、y=1〜4 但し、x+y≧4)で示されるエーテル系溶媒、又は、化学式CxH(2x+2)(x=5〜7)で示されるアルカン系溶媒からなる分離溶媒を接触させ、前記Ru錯体色素を分離させる工程。
上記の通り、本発明は、DSC製造工程からの使用済み色素溶液について、濾過による固形分の分離、及び、所定の分離溶媒によるRu錯体色素の分離を行い、未使用状態のRu錯体色素を回収するものである。
このリサイクルプロセスにおいて、濾過工程は、使用済み色素溶液中の固形分の除去を行う。固形分とは、TiO2層が形成された基板を色素溶液に浸漬する工程において、基板から微量脱離する基板の構成材料であるガラス、ITO、TiO2である。この固形分は微粉末状であることが多いことから、濾過工程における条件としては、メンブレンフィルター(空孔径0.45μm以下)を適用する減圧濾過によるのが好ましい。減圧濾過は、0.04MPa以下で行うのが好ましい。この濾過工程は、分離溶媒による分離工程前に行うのが好ましい。
そして、分離溶媒と使用済み色素溶液とを接触させてRu錯体を分離する。分離溶媒として適用されるエーテル系溶媒又はアルカン系溶媒は、色素溶液の溶媒及び添加剤(共吸着剤、カクテル色素)として使用される有機物を溶解させることができる一方、Ru錯体色素は不溶であるからである。そのため、この処理により溶媒等が分離されたRu錯体色素を析出させることができる。
分離溶媒について説明すると、まず、エーテル系溶媒は、CxH(2x+1)−O−CyH(2y+1)(x=1〜4、y=1〜4 但し、x+y≧4)の化学式を有するエーテルからなる。ここで、酸素原子に結合するアルキル基の炭素数(x、y)を1〜4に制限するのは、色素溶液の有機物の溶解性を確保するためである。本発明者等の検討によると、エーテル系溶媒の炭素数の増加と共に色素溶液の有機物の溶解性が低下する。有機物が溶解し難い分離溶媒は、Ru錯体色素と有機物との分離が困難となることから、x、yの範囲は制限される。そして、xとyとの和である炭素数を4以上とするのは、炭素数3以下のエーテルは常温常圧で気体であり、溶媒として使用するのが極めて困難だからである。
また、分離溶媒としてのエーテル系溶媒は、酸素に結合するアルキル基は同じものであっても良いが、相違するものでも良い(即ち、x、yは同じでも相違しても良い)。x、yが相違する場合、骨格が非対称性を有し有機物に対する溶解性がより良好となる場合がある。また、アルキル基は直鎖でも良いが分枝のものでも良い。以上から、本発明で適用されるエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル等が挙げられる。特に好ましいエーテル系溶媒は、ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテルである。これらは、広範囲の有機物を溶解できることに加え、引火点の低い低炭素数のエーテルよりも大量使用する際の安全性が確保できるからである。
一方、アルカン系溶媒としては、CxH(2x+2)(x=5〜7)の化学式を有するアルカンが適用できる。炭素数を制限するのは、常温常圧で液体であること、及び、色素溶液中の有機物の溶解性を考慮するものである。アルカン系溶媒として適用される溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンである。
エーテル系溶媒又はアルカン系溶媒からなる分離溶媒は、ポリピリジンRu錯体色素にとっては貧溶媒である。そして、これを色素溶液に過剰量接触させることにより色素溶液に溶解していた錯体色素を析出させることができる。この分離溶媒の使用量は、色素溶液に対して3倍量以上とするのが好ましい。溶媒使用量の上限は特に限定されるものではないが、溶媒のコスト等を考慮して色素溶液に対して100倍量以下とするのが好ましい。
以上の濾過工程及び分離工程における処理温度は、40℃以下にするのが好ましい。DSC用のRu錯体は、高温で容易に劣化(分解)し、処理温度を40℃以上とするとRu錯体が変質し、再使用できなくなる可能性があるからである。そのため、使用済み色素溶液と分離溶媒との接触時の液温が40℃を超えないように、双方の温度管理を行うことが好ましい。また、これらの処理は、遮光環境下で行うのが好ましい。Ru錯体は、光に対する感受性も高いからである。その具体的手段としては、処理自体を暗所で行う、或いは、内部が暗所となる処理装置を使用する等である。更に、処理装置は十分乾燥され、不活性ガスにより置換されていることが好ましい。Ru錯体の水、酸素による変質を防止するためである。
以上の通り、本発明では分離溶媒による接触処理のみで使用済み色素溶液の溶媒と添加剤を同時に分離除去するものである。但し、この工程に補完的な工程を追加しても良い。
本発明における補完的工程としては、まず蒸留工程が挙げられる。蒸留は、共吸着剤等の添加剤の除去は困難であるが、溶媒の除去には有効である。そこで、分離溶媒による分離工程前に蒸留を行うことで、溶媒を減量し分離工程における分離溶媒の使用量を低減することができる。
但し、熱的分離手段である蒸留工程の条件については厳密な条件設定が必要である。上記の通り、Ru錯体色素は熱、酸素、光により容易に劣化するおそれがあるからである。この蒸留工程については、減圧蒸留を適用する。減圧条件とすることで、蒸留温度を極力低下させて熱によるRu錯体色素の劣化を抑制するためである。具体的には、圧力150〜1000Paとし温度40℃以下とする。
また、この蒸留処理は不活性ガス雰囲気で行うことを要し、更に遮光状態で行うことが必要である。Ru錯体色素の酸素及び光による劣化を防止するためである。よって、蒸留装置内部が暗所となるようにし、装置内部を不活性ガスで置換しておく必要がある。尚、不活性ガスとしては、アルゴン、窒素等が挙げられる。
蒸留処理はその条件を変更した処理を複数回行っても良い。この多段の蒸留処理は、色素溶液中に高沸点の添加剤が含まれている場合の溶媒除去に有用である。例えば、色素溶液の溶媒としては、t−ブタノールやt−ブタノールとアセトニトリルとの混合溶媒が用いられることが多いが、これに添加剤としてジメチルスルフォキド(DMSO)等の錯体色素の溶解助剤を添加することがある。この溶解助剤は溶媒より高沸点のものが多く、これを含む色素溶液について蒸留を行うと、その初期段階では溶媒は蒸発するものの、液量が少なくなり溶解助剤の濃度が上昇すると溶媒の蒸発が困難となる。そこで、圧力を低下させて蒸留条件を変更することで溶媒を除去することが可能となる。このように、処理対象となる色素溶液の構成が複雑である場合、蒸留条件を変更する多段処理は有効である。
尚、蒸留工程は溶媒の除去には有効であるが、蒸留工程を行うとしても溶媒の全量を除去しなければならないわけではない。溶媒の種類によっては、色素溶液中の添加剤の挙動を制御することができるものもあり、そのために溶媒の一部を残留させることも有効だからである(詳細には後述の実施例7を参照)。そして、溶媒を残存させても、本発明の必須工程である分離溶媒による分離工程で溶媒の除去が可能だからである。
本発明における補完的工程としては、再結晶工程も適用できる。再結晶工程は、分離工程により回収されるRu錯体色素に同伴して含まれる有機物の除去に有用である。再結晶工程の適用が好ましいのは、色素溶液の溶媒に対して溶解助剤を使用している場合である。この溶解助剤としての有機物は、上記したDMSOの他、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、メトキシエタノール、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。溶解助剤は、t−ブタノール等に対するRu錯体色素の溶解性を確保するための添加剤である。この溶解助剤も、使用済み色素溶液に残存する。そして、溶解助剤は、Ru錯体色素の溶解性を補助するという作用上、錯体色素に吸着し易いため、分離工程後のRu錯体色素中に残存することがある。また、蒸留による分離除去も困難である。
再結晶工程は、所定溶媒に対するRu錯体色素と溶解助剤の溶解度差を利用して温度操作やpH操作によりRu錯体色素を析出・精製する工程である。本発明で好ましい再結晶工程は、分離工程により回収されるRu錯体色素をpH10以上のアルカリ溶液に溶解し、ここに酸を添加して中性〜弱酸性領域までpHを下げることでRu錯体色素を析出させる。この方法で好ましいアルカリ溶液は、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのいずれかのアルカリ溶液である。アルカリ溶液は、前記アルカリ塩の水溶液に適宜にメタノールを添加する混合溶液が好ましい。また、pH操作のために添加する酸は硝酸が好ましい。
以上の通り、使用済み色素溶液の構成に合わせて、濾過及び蒸留工程を軸として、適宜に洗浄工程、再結晶工程を組み合わせることで、Ru錯体色素を再使用可能な状態で回収することができる。
本発明に係る使用済み色素溶液からのRu錯体色素回収方法について、その対象となるRu錯体色素はポリピリジンRu錯体である。ポリピリジンRu錯体は、中心金属であるRuに複数のピリジン誘導体が配位するものである。例えば、下記のポリピリジンRu錯体からなる色素に有用である。
以上説明したように、本発明は、色素増感型太陽電池の製造過程で排出される使用済み色素溶液からRu錯体色素を回収する方法である。本発明は、濾過工程及び最適化された分離工程を基本としつつ、適宜に蒸留工程、再結晶工程を組み合わせることで、広範な構成を有する使用済み色素溶液に対応することができ、効率的にRu錯体色素を回収する。
本発明により回収されるRu錯体色素は、不純物のない極めて高い品質を有し、そのまま色素増感型太陽電池の製造に供することができる。本発明は、従来は廃液として処理されてきた使用済み色素溶液を有効に活用するものであり、本来、高価なRu錯体色素のコストダウンを図ることができる上に、錯体の新規合成による環境負荷を軽減することができ、太陽電池というその本来の目的にも即した発明である。
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本実施形態では、まず、予備試験として、各種のエーテル系溶媒、アルカン系溶媒について、Ru錯体色素と色素溶液中の有機物との分離性能を評価した。その後、各種のRu錯体色素を含む使用済み色素溶液を処理対象として、Ru錯体色素の回収を行った。図1は、各実施例におけるRu錯体色素の回収工程を概略説明するものである。
予備試験:各種のエーテル系溶媒、アルカン系溶媒について、色素溶液中の各種成分(Ru錯体、溶媒、共吸着剤、カクテル色素)の溶解挙動を検討した。この試験では、各種のエーテル系溶媒、アルカン系溶媒1mL(温度25度)を用意し、これにRu錯体(N719、N749、Z907、Z991、CYC−B11)、共吸着剤(DINHOP、CDCA)、カクテル色素(D35)を1mg混合し溶解度から溶解性を評価した。同様に、各種のエーテル系溶媒、アルカン系溶媒1mL(温度25度)に、色素溶液用の溶媒(エタノール、アセトニトリル、t−ブタノール)を1mL混合し溶解性を評価した。溶解性の評価は、5g/L以上溶解するもの、色素溶液用溶媒と十分混和するものについて溶解性最良「◎」とし、溶解度が0.05g/L以上〜5g/L未満及び色素溶液用溶媒と混和するものになるものを溶解性良「○」とした。また、溶解度が0.05g/L未満のものを溶解性可「△」とし、全く溶解しないものを溶解性なし「×」と判定した。この評価結果を表2に示す。表2には参考のため、水に対する溶解性評価の結果も併せて示している。
本発明において、分離溶媒として要求される特性は、色素溶液中の有機物(溶媒、共吸着剤、カクテル色素)は可溶である一方、Ru錯体色素は不溶となることである。表2をみると、各エーテル系溶媒はいずれもRu錯体色素は不溶であり、それらの多くが分離溶媒として適用可能であることがわかる。但し、イソアミルエーテル(C5H11−O−C5H11)は、一部の共吸着材(CDCA)及びカクテル色素の溶解性がやや劣る。従って、広範な組成を有する色素溶液に対処するための分離溶媒としては、炭素数4以下のアルキル基を有するエーテル溶媒を適用すべきである。
また、アルカン系溶媒についてみると、エーテル系溶媒と同様に、Ru錯体色素は不溶であり、共吸着剤は十分な溶解性を有する。但し、エーテル系溶媒と対比するとカクテル色素の溶解性に不足がある。もっとも、DSC製造のための色素溶液において、カクテル色素は共吸着剤よりも使用頻度が低い添加剤であることを考慮すれば、適宜に色素溶液回収への適用が可能といえる。尚、炭素数が8となるオクタンではCDCAの溶解性が劣ることから、アルカン系溶媒として適用すべきはペンタン、ヘキサン、ヘプタンまでである。
以上の予備試験から、エーテル系溶媒、アルカン系溶媒を好適な分離溶媒として利用できることを確認した。以下の実施例では、各種の色素溶液から分離溶媒を適宜に選択しつつRu錯体の回収を行った。
実施例1:最も簡易な構成の色素溶液として、Ru錯体色素と溶媒とからなる使用済み色素溶液の処理を行った。ここで処理対象とした使用済み色素溶液は、250mLであり、その構成は以下の通りである。
・Ru錯体色素:N749(0.3mM)
・溶媒:エタノール
・Ru錯体色素:N749(0.3mM)
・溶媒:エタノール
上記使用済み色素溶液について、まず、濾過工程の処理をした。濾過工程は、0.1μmの空孔を持つメンブレンフィルターを用い、0.04MPaに減圧して減圧濾過を行った。これにより固形分が除去された。固形分は、TiO2、ガラスからなる微粉末であった。
次に、分離工程の処理を行った。分離溶媒としてジイソプロピルエーテル1000mLを色素溶液に添加した。分離溶媒の添加により、Ru錯体色素の析出が見られた。このRu錯体色素を濾別し、ジエチルエーテルで洗浄した。以上により、Ru錯体色素(N749)を回収した。
実施例2〜4:ここでは、実施例1と同様の使用済み色素溶液について、各種の分離溶媒を適用したRu錯体色素(N749)の回収を行った(図1)。回収工程、分離溶媒使用量等の条件は実施例1と同様である。
実施例1〜実施例4で回収したRu錯体色素について、1H−NMR分析を行った。図2に実施例1、実施例3で回収したRu錯体色素の結果を示す。図2からわかるように、実施例1、実施例3で回収したRu錯体色素は、新品のN749と同じスペクトルを示し、これらの実施例で高純度のRu錯体色素(N749)が回収できることが確認された。尚、実施例2、4でも同様に、高純度のRu錯体色素が回収されたことを確認している。
実施例5:ここでは、実施例1と同様の使用済み色素溶液について、蒸留工程を追加してRu錯体色素(N749)を回収した。
濾過工程は実施例1と同様である。そして、蒸留工程では、圧力1000Pa、温度40℃の条件で減圧蒸留した。蒸留は、不活性ガス(アルゴン)循環型の蒸留装置にて、暗所で行った。この蒸留工程では、溶媒であるエタノールの約半量を除去した。
蒸留工程後、分離溶媒としてジイソプロピルエーテルを400mLを色素溶液に添加した。これによりRu錯体色素の析出が見られた。このRu錯体色素を濾別し、ジエチルエーテルで洗浄した。回収したRu錯体色素について1H−NMR分析を行ったところ、実施例1と同様、新品(合成直後)のN749と同じスペクトルを示し、高純度のRu錯体色素(N749)を回収できたことが確認された。
実施例6:使用済み色素溶液として、共吸着剤等を含む複雑なものを処理対象とし、蒸留工程に更に再結晶工程を行いつつRu錯体色素の回収を行った。処理対象とした使用済み色素溶液は、250mLであり、その構成は以下の通りである。
・Ru錯体色素:CYC−B11(0.3mM)
・溶媒:アセトニトリル+t−ブタノール+10%DMSO(アセトニトリル:t−ブタノール=1:1)
・共吸着剤:DINHOP(0.075mM)
・Ru錯体色素:CYC−B11(0.3mM)
・溶媒:アセトニトリル+t−ブタノール+10%DMSO(アセトニトリル:t−ブタノール=1:1)
・共吸着剤:DINHOP(0.075mM)
濾過工程は実施例1と同様である。また、蒸留工程では、第1、第2の2段階の蒸留を行った。各蒸留条件は、第1段を圧力1000Pa、温度40℃とし、アセトニトリルとt−ブタノールを除去した。そして、第2段は、圧力150Pa、温度40℃とし、第1段の蒸留で除去しきることができなかったアセトニトリルとt−ブタノールを略全量を除去した。これらの蒸留は、不活性ガス(アルゴン)循環型の蒸留装置にて、暗所で行った。
蒸留工程後、分離溶媒として、ジエチルエーテルとエタノールの混合溶媒(ジエチルエーテル:400mL、エタノール:30mL)を色素溶液に添加した。ここで、エタノールは色素溶液中のDMSOがジエチルエーテルに混合・溶解し難いことを考慮して添加されるつなぎ溶媒である。この分離溶媒によりRu錯体色素を含む粗結晶の析出が見られた。
次に、回収した粗結晶について、再結晶によるRu錯体色素の回収を行った。再結晶工程では、まず、粗結晶にテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)、メタノール、水を添加して粗結晶を溶解した。このときのpHは12であった。そして、この粗結晶溶液に溶液pHが5.7になるまで0.02Nの硝酸を20分かけて滴下した。このpH操作によりRu錯体色素が析出した。このRu錯体色素を濾別回収し、ジエチルエーテルで洗浄した。
図3は、回収したRu錯体色素について行った1H−NMR分析の結果である。図3からわかるように、再結晶工程前の粗結晶については、DMSO由来のピーク(高磁場側スペクトルの2.5ppm付近のピーク)が見られるが、再結晶を経たものはこれが消失している。従って、再結晶工程の的確な付加によりより高純度のCYC−B11が回収できたことが確認された。
実施例7:実施例6の色素溶液にカクテル色素が添加された、最も複雑な構成の使用済み色素溶液についてRu錯体色素の回収を行った。処理対象とした使用済み色素溶液は、250mLであり、その構成は以下の通りである。
・Ru錯体色素:CYC−B11(0.3mM)
・溶媒:アセトニトリル+t−ブタノール+10%DMSO(アセトニトリル:t−ブタノール=1:1)
・共吸着剤:DINHOP(0.075mM)
・カクテル色素:D35色素(0.038mM)
・Ru錯体色素:CYC−B11(0.3mM)
・溶媒:アセトニトリル+t−ブタノール+10%DMSO(アセトニトリル:t−ブタノール=1:1)
・共吸着剤:DINHOP(0.075mM)
・カクテル色素:D35色素(0.038mM)
濾過工程は実施例1と同様である。また、この実施例では蒸留工程を1段階とした。蒸留条件は、圧力1000Pa、温度40℃とし、アセトニトリルとt−ブタノールをそれぞれ半量除去した。
この実施例で蒸留工程後の処理溶液にt−ブタノールを半量残存させたのは、DMSOに対する挙動を考慮したものである。本発明者等によると、DMSOはエーテル類(ジエチルエーテル)には混合・溶解し難いが、実施例6で添加したエタノール(つなぎ溶媒)のようにアルコール類には混合・溶解する傾向がある。そこで、色素溶液にt−ブタノールを一部残存させることで、つなぎ溶媒を用いることなくその後の分離工程を行うことができる。尚、この実施例の場合、処理溶液にt−ブタノールと共にアセトニトリルも半量残存しているが、これは分離工程で分離可能であるので特段の問題は無い。
そして、蒸留工程後、分離溶媒として、ジイソプロピルエーテル400mLを色素溶液に添加した。これによりRu錯体色素を含む粗結晶の析出が見られ、これを回収した。回収した粗結晶について、実施例6と同様に再結晶によるRu錯体色素の回収を行った。回収したRu錯体色素について1H−NMR分析を行ったところ、実施例6と同様に、再結晶工程後のRu錯体色素は新品のCYC−B11と同じスペクトルが見られた。
次に、実施例6で回収したRu錯体色素(CYC−B11)を用いてDSCを作製・評価し、回収物の再利用可能性を確認することとした。この評価試験でのDSC作製では、まず、回収したCYC−B11を実施例6と同じ組成の色素溶液に調整し、これにTiO2層が形成された基板を浸漬した。基板は、ガラス基板(寸法15×25mm 厚さ1.8mm)にFTO膜(シート抵抗15Ω/□)を形成した導電性透明基板である。また、TiO2層は、TiO2ペーストを基板に塗布し、450℃で焼成して形成した(厚さ14μm)。TiO2層に色素溶液を含浸させた後、対向電極として白金板を張り合わせ、両電極間に電解液であるヨウ素を含むアセトニトリル溶液を充填させDSCとした。
作製したDSCの特性評価は、J−V特性評価を、ソーラーシミュレータ(山下電装製)を用いて擬似太陽光(100mW/cm2)を照射して行った。また、分光感度特性(外部量子効率)測定は、を分光計器製のSM−250を用いて、300nm〜1100nmの範囲で評価した。尚、この評価は新品のCYC−B11を原料として作製したDSCについての測定も行っている。図4はその結果を示すものである。
図4から、実施例6で回収したCYC−B11を原料として作製したDSCは、新品から製造されるものと全くといって良いほど特性に差が無いものであった。従って、本発明で回収されるRu錯体色素は、DSCの原料として問題なく再使用可能なものであることが確認された。
以上説明したように本発明によれば、色素増感型太陽電池の製造過程で排出され、廃液として扱われてきた使用済み色素溶液から、高品質のRu錯体色素を回収することができる。本発明により回収されるRu錯体色素は、そのまま色素増感型太陽電池の製造に供することができ、高価なRu錯体色素のコストダウンを図ることができる。本発明には、色素増感型太陽電池のコストダウンを通してその普及に資することができる。
Claims (4)
- 色素増感型太陽電池の製造工程より排出され、Ru錯体としてポリピリジンRu錯体を含む使用済み色素溶液から、前記Ru錯体色素を回収する方法であって、下記工程を含む方法。
(a)工程:前記使用済み色素溶液を濾過して固形分を分離除去する工程。
(b)工程:前記使用済み色素溶液に、化学式CxH(2x+1)−O−CyH(2y+1)(x=1〜4、y=1〜4 但し、x+y≧4)で示されるエーテル系溶媒、又は、化学式CxH(2x+2)(x=5〜7)で示されるアルカン系溶媒からなる分離溶媒を接触させ、前記Ru錯体色素を分離させる工程。 - (a)工程、(b)工程の双方について、処理温度40℃以下とし、遮光条件下で処理を行う請求項1記載の使用済み色素溶液からのRu錯体色素の回収方法。
- (b)工程の前に、使用済み色素溶液を蒸留する蒸留工程を含み、
前記蒸留工程は、圧力1000Pa以下、温度40℃以下、不活性ガス雰囲気下で行う減圧蒸留である請求項1又は請求項2に記載の使用済み色素溶液からのRu錯体色素の回収方法。 - (b)工程で回収したRu錯体色素について再結晶処理を行う請求項1〜請求項3のいずれかに記載の使用済み色素溶液からのRu錯体色素の回収方法。
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